(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】弾性波フィルタ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/64 20060101AFI20231011BHJP
H03H 9/145 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
H03H9/64 Z
H03H9/145 Z
(21)【出願番号】P 2022048902
(22)【出願日】2022-03-24
(62)【分割の表示】P 2020537424の分割
【原出願日】2019-08-06
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2018152203
(32)【優先日】2018-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100189430
【氏名又は名称】吉川 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100190805
【氏名又は名称】傍島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】高田 俊明
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/167755(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/131170(WO,A1)
【文献】特開平08-330897(JP,A)
【文献】特開2013-247569(JP,A)
【文献】特開平11-163664(JP,A)
【文献】特開2000-315932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-3/10
H03H9/00-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通過帯域、ならびに、当該通過帯域よりも低周波側および高周波側の少なくとも一方に減衰帯域を有する帯域通過型の弾性波フィルタであって、
第1入出力端子および第2入出力端子と、
前記第1入出力端子と前記第2入出力端子とを結ぶ経路上に配置された1以上の直列腕共振回路と、
前記経路上のノードおよびグランドの間に配置された1以上の並列腕共振回路と、を備え、
前記1以上の直列腕共振回路のそれぞれは、前記経路上に配置された直列腕共振子を有し、
前記1以上の並列腕共振回路のそれぞれは、前記ノードとグランドとの間に配置された並列腕共振子を有し、
前記直列腕共振子および前記並列腕共振子のそれぞれは、圧電性を有する基板上に形成されたIDT(InterDigital Transducer)電極を有する弾性波共振子であり、
前記IDT電極は、弾性波伝搬方向と交差する方向に延伸し、互いに平行に配置された複数の電極指と、当該複数の電極指を構成する電極指の一方端同士を接続するバスバー電極とで構成された櫛形電極を一対有し、
前記複数の電極指のうち、前記一対の櫛形電極を構成するいずれの前記バスバー電極とも接続されていない電極指を第1間引き電極と定義し、
前記複数の電極指のうち、最大の電極指幅を有する電極指であって、当該電極指を除く電極指における平均電極指幅の2倍以上の電極指幅を有する電極指を第2間引き電極と定義し、
前記一対の櫛形電極を構成する全ての電極指のうち、両隣の電極指が接続されたバスバー電極と同じバスバー電極に接続された電極指を第3間引き電極と定義した場合、
前記1以上の並列腕共振回路のうちの第1の並列腕共振回路が有する並列腕共振子は、前記第1間引き電極、前記第2間引き電極、および前記第3間引き電極のいずれかを含み、
前記
1以上の並列腕共振回路のうちの全ての並列腕共振回路で規定される全ての反共振周波数は、前記通過帯域よりも高周波側に位置し、
前記1以上の直列腕共振回路のうちの第1の直列腕共振回路の共振周波数は、前記第1の並列腕共振回路で規定される全ての反共振周波数よりも低周波側に位置する、
弾性波フィルタ。
【請求項2】
前記1以上の並列腕共振回路のうちの第1の並列腕共振回路が有する並列腕共振子は、前記第1間引き電極を含む、
請求項1に記載の弾性波フィルタ。
【請求項3】
前記1以上の並列腕共振回路のうちの全ての並列腕共振回路が有する並列腕共振子は、前記第1間引き電極または前記第2間引き電極を含み
、
前記第1の直列腕共振回路の共振周波数は、前記全ての並列腕共振回路の反共振周波数よりも低周波側に位置する、
請求項1または2に記載の弾性波フィルタ。
【請求項4】
前記第1の並列腕共振回路の共振周波数は、前記通過帯域よりも低周波側に位置し、かつ、前記1以上の並列腕共振回路の共振周波数のうち前記第1の並列腕共振回路の共振周波数が前記通過帯域の低周波端部に最も近接している、
請求項1~3のいずれか1項に記載の弾性波フィルタ。
【請求項5】
通過帯域、ならびに、当該通過帯域よりも低周波側および高周波側の少なくとも一方に減衰帯域を有する帯域通過型の弾性波フィルタであって、
第1入出力端子および第2入出力端子と、
前記第1入出力端子と前記第2入出力端子とを結ぶ経路上に配置された1以上の直列腕共振回路と、
前記経路上のノードおよびグランドの間に配置された1以上の並列腕共振回路と、を備え、
前記1以上の直列腕共振回路のそれぞれは、前記経路上に配置された直列腕共振子を有し、
前記1以上の並列腕共振回路のそれぞれは、前記ノードとグランドとの間に配置された並列腕共振子を有し、
前記直列腕共振子および前記並列腕共振子のそれぞれは、圧電性を有する基板上に形成されたIDT電極を有する弾性波共振子であり、
前記IDT電極は、弾性波伝搬方向と交差する方向に延伸し、互いに平行に配置された複数の電極指と、当該複数の電極指を構成する電極指の一方端同士を接続するバスバー電極とで構成された櫛形電極を一対有し、
前記複数の電極指のうち、前記一対の櫛形電極を構成するいずれの前記バスバー電極とも接続されていない電極指を第1間引き電極と定義し、
前記複数の電極指のうち、最大の電極指幅を有する電極指であって、当該電極指を除く電極指における平均電極指幅の2倍以上の電極指幅を有する電極指を第2間引き電極と定義し、
前記一対の櫛形電極を構成する全ての電極指のうち、両隣の電極指が接続されたバスバー電極と同じバスバー電極に接続された電極指を第3間引き電極と定義した場合、
前記1以上の並列腕共振回路のうちの第1の並列腕共振回路が有する並列腕共振子は、前記第1間引き電極、前記第2間引き電極、および前記第3間引き電極のいずれかを含み、
前記第1の並列腕共振回路で規定される全ての反共振周波数は、前記通過帯域よりも高周波側に位置し、
前記1以上の直列腕共振回路のうちの第1の直列腕共振回路の共振周波数は、前記第1の並列腕共振回路で規定される全ての反共振周波数よりも低周波側に位置し、
前記1以上の直列腕共振回路のうちの第2の直列腕共振回路の共振周波数は、前記通過帯域よりも高周波側に位置し、
前記第2の直列腕共振回路の前記通過帯域におけるインピーダンスは、容量性である
、
弾性波フィルタ。
【請求項6】
通過帯域、ならびに、当該通過帯域よりも低周波側および高周波側の少なくとも一方に減衰帯域を有する帯域通過型の弾性波フィルタであって、
第1入出力端子および第2入出力端子と、
前記第1入出力端子と前記第2入出力端子とを結ぶ経路上に配置された1以上の直列腕共振回路と、
前記経路上のノードおよびグランドの間に配置された1以上の並列腕共振回路と、を備え、
前記1以上の直列腕共振回路のそれぞれは、前記経路上に配置された直列腕共振子を有し、
前記1以上の並列腕共振回路のそれぞれは、前記ノードとグランドとの間に配置された並列腕共振子を有し、
前記直列腕共振子および前記並列腕共振子のそれぞれは、圧電性を有する基板上に形成されたIDT電極を有する弾性波共振子であり、
前記IDT電極は、弾性波伝搬方向と交差する方向に延伸し、互いに平行に配置された複数の電極指と、当該複数の電極指を構成する電極指の一方端同士を接続するバスバー電極とで構成された櫛形電極を一対有し、
前記複数の電極指のうち、前記一対の櫛形電極を構成するいずれの前記バスバー電極とも接続されていない電極指を第1間引き電極と定義し、
前記複数の電極指のうち、最大の電極指幅を有する電極指であって、当該電極指を除く電極指における平均電極指幅の2倍以上の電極指幅を有する電極指を第2間引き電極と定義し、
前記一対の櫛形電極を構成する全ての電極指のうち、両隣の電極指が接続されたバスバー電極と同じバスバー電極に接続された電極指を第3間引き電極と定義した場合、
前記1以上の並列腕共振回路のうちの第1の並列腕共振回路が有する並列腕共振子は、前記第1間引き電極、前記第2間引き電極、および前記第3間引き電極のいずれかを含み、
前記第1の並列腕共振回路で規定される全ての反共振周波数は、前記通過帯域よりも高周波側に位置し、
前記1以上の直列腕共振回路のうちの第1の直列腕共振回路の共振周波数は、前記第1の並列腕共振回路で規定される全ての反共振周波数よりも低周波側に位置し、
前記1以上の直列腕共振回路のうちの第3の直列腕共振回路は、
弾性波共振子と、
前記弾性波共振子に並列接続された橋絡容量素子と、を有し、
前記第3の直列腕共振回路の共振周波数は、前記通過帯域よりも低周波側に位置し、
前記第3の直列腕共振回路の反共振周波数は、前記通過帯域よりも高周波側に位置する
、
弾性波フィルタ。
【請求項7】
通過帯域、ならびに、当該通過帯域よりも低周波側および高周波側の少なくとも一方に減衰帯域を有する帯域通過型の弾性波フィルタであって、
第1入出力端子および第2入出力端子と、
前記第1入出力端子と前記第2入出力端子とを結ぶ経路上に配置された1以上の直列腕共振回路と、
前記経路上のノードおよびグランドの間に配置された1以上の並列腕共振回路と、を備え、
前記1以上の直列腕共振回路のそれぞれは、前記経路上に配置された直列腕共振子を有し、
前記1以上の並列腕共振回路のそれぞれは、前記ノードとグランドとの間に配置された並列腕共振子を有し、
前記直列腕共振子および前記並列腕共振子のそれぞれは、圧電性を有する基板上に形成されたIDT電極を有する弾性波共振子であり、
前記IDT電極は、弾性波伝搬方向と交差する方向に延伸し、互いに平行に配置された複数の電極指と、当該複数の電極指を構成する電極指の一方端同士を接続するバスバー電極とで構成された櫛形電極を一対有し、
前記複数の電極指のうち、前記一対の櫛形電極を構成するいずれの前記バスバー電極とも接続されていない電極指を第1間引き電極と定義し、
前記複数の電極指のうち、最大の電極指幅を有する電極指であって、当該電極指を除く電極指における平均電極指幅の2倍以上の電極指幅を有する電極指を第2間引き電極と定義し、
前記一対の櫛形電極を構成する全ての電極指のうち、両隣の電極指が接続されたバスバー電極と同じバスバー電極に接続された電極指を第3間引き電極と定義した場合、
前記1以上の並列腕共振回路のうちの第1の並列腕共振回路が有する並列腕共振子は、前記第1間引き電極、前記第2間引き電極、および前記第3間引き電極のいずれかを含み、
前記第1の並列腕共振回路で規定される全ての反共振周波数は、前記通過帯域よりも高周波側に位置し、
前記1以上の直列腕共振回路のうちの第1の直列腕共振回路の共振周波数は、前記第1の並列腕共振回路で規定される全ての反共振周波数よりも低周波側に位置し、
前記1以上の直列腕共振回路のうちの第3の直列腕共振回路は、圧電性を有する基板上に形成されたIDT電極を有する弾性波共振子であり、
前記IDT電極は、弾性波伝搬方向と交差する方向に延伸し、互いに平行に配置された複数の電極指と、当該複数の電極指を構成する電極指の一方端同士を接続するバスバー電極とで構成された櫛形電極を一対有し、
前記複数の電極指のうち、前記一対の櫛形電極を構成するいずれの前記バスバー電極とも接続されていない電極指を第1間引き電極と定義し、
前記複数の電極指のうち、最大の電極指幅を有する電極指であって、当該電極指を除く電極指における平均電極指幅の2倍以上の電極指幅を有する電極指を第2間引き電極と定義し、
前記一対の櫛形電極を構成する全ての電極指のうち、両隣の電極指が接続されたバスバー電極と同じバスバー電極に接続された電極指を第3間引き電極と定義した場合、
前記第3の直列腕共振回路は、前記第1間引き電極、前記第2間引き電極、および前記第3間引き電極のいずれかを含み、
前記第3の直列腕共振回路の共振周波数は、前記通過帯域よりも低周波側に位置し、
前記第3の直列腕共振回路の反共振周波数は、前記通過帯域よりも高周波側に位置する
、
弾性波フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
通信機器などのRF(Radio Frequency)回路に使用される帯域フィルタとして、弾性波フィルタが実用化されている。無線通信のための周波数資源を有効活用するという観点から、携帯電話などの通信帯域として多くの周波数帯域が割り当てられるため、隣接する周波数帯域の間隔は狭くなっている。この周波数帯域の割り当て状況に鑑み、弾性波フィルタにおいては、通過帯域端部における通過帯域から減衰帯域への挿入損失の変化率(以降、急峻性と記す)が重要な性能指標となっている。
【0003】
特許文献1には、通過帯域端部における急峻性を改善すべく、共振比帯域(反共振周波数と共振周波数との周波数差を反共振周波数および共振周波数の中心周波数で除した値)の小さい弾性波共振子で構成されたラダー型の弾性波フィルタが開示されている。弾性波共振子の共振比帯域を小さくする手法として、例えば、弾性波共振子に橋絡容量素子を付加する、または、間引き重み付けが施されたIDT(InterDigital Transducer)電極で弾性波共振子を構成することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、並列腕共振子に橋絡容量素子を接続したり、並列腕共振子を間引き重み付け電極で構成したりする場合、当該並列腕共振子の反共振周波数付近の反射損失が悪化する。ラダー型の弾性波フィルタにおいて、並列腕共振子の反共振周波数は、通常、通過帯域内に配置されるので、反共振周波数における反射損失が悪化すると、弾性波フィルタの通過帯域の挿入損失が悪化するという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、通過帯域端部の急峻性および通過帯域の低損失性を両立するラダー型の弾性波フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る弾性波フィルタは、通過帯域、ならびに、当該通過帯域よりも低周波側および高周波側の少なくとも一方に減衰帯域を有する帯域通過型の弾性波フィルタであって、第1入出力端子および第2入出力端子と、第1入出力端子と第2入出力端子とを結ぶ経路上に配置された1以上の直列腕共振回路と、経路上のノードおよびグランドの間に配置された1以上の並列腕共振回路と、を備え、上記1以上の直列腕共振回路のそれぞれは、上記経路上に配置された直列腕共振子を有し、上記1以上の並列腕共振回路のそれぞれは、上記ノードとグランドとの間に配置された並列腕共振子を有し、上記直列腕共振子および上記並列腕共振子のそれぞれは、圧電性を有する基板上に形成されたIDT電極を有する弾性波共振子であり、IDT電極は、弾性波伝搬方向と交差する方向に延伸し、互いに平行に配置された複数の電極指と、当該複数の電極指を構成する電極指の一方端同士を接続するバスバー電極とで構成された櫛形電極を一対有し、上記複数の電極指のうち、上記一対の櫛形電極を構成するいずれのバスバー電極とも接続されていない電極指を第1間引き電極と定義し、上記複数の電極指のうち、最大の電極指幅を有する電極指であって、当該電極指を除く電極指における平均電極指幅の2倍以上の電極指幅を有する電極指を第2間引き電極と定義し、上記一対の櫛形電極を構成する全ての電極指のうち、両隣の電極指が接続されたバスバー電極と同じバスバー電極に接続された電極指を第3間引き電極と定義した場合、上記1以上の並列腕共振回路のうちの第1の並列腕共振回路が有する並列腕共振子は、第1間引き電極、第2間引き電極、および第3間引き電極のいずれかを含み、上記第1の並列腕共振回路で規定される全ての反共振周波数は、通過帯域よりも高周波側に位置し、上記1以上の直列腕共振回路のうちの第1の直列腕共振回路の共振周波数は、上記第1の並列腕共振回路で規定される全ての反共振周波数よりも低周波側に位置する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、通過帯域端部の急峻性および通過帯域の低損失性を両立するラダー型の弾性波フィルタを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係る弾性波フィルタの回路構成図である。
【
図2A】
図2Aは、実施の形態1に係る弾性波共振子の一例を模式的に表す平面図および断面図である。
【
図2B】
図2Bは、実施の形態1の変形例に係る弾性波共振子を模式的に表す断面図である。
【
図3】
図3は、ラダー型の弾性波フィルタの基本的な動作原理を説明する回路構成図および周波数特性を表すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例1に係る弾性波フィルタを構成する各弾性波共振子のインピーダンス特性を示すグラフである。
【
図5】
図5は、比較例に係る弾性波フィルタを構成する各弾性波共振子のインピーダンス特性を示すグラフである。
【
図6A】
図6Aは、橋絡容量素子の有無による弾性波共振回路のインピーダンス特性を比較したグラフである。
【
図6B】
図6Bは、橋絡容量素子の有無による弾性波共振回路の反射特性を比較したグラフである。
【
図7】
図7は、実施例1および比較例に係る弾性波フィルタの通過特性を比較したグラフである。
【
図8】
図8は、実施の形態2に係る弾性波フィルタの回路構成図である。
【
図9A】
図9Aは、実施の形態2に係る弾性波フィルタを構成する並列腕共振子のIDT電極の構成の第1例を示す概略平面図である。
【
図9B】
図9Bは、実施の形態2に係る弾性波フィルタを構成する並列腕共振子のIDT電極の構成の第2例を示す概略平面図である。
【
図9C】
図9Cは、実施の形態2に係る弾性波フィルタを構成する並列腕共振子のIDT電極の構成の第3例を示す概略平面図である。
【
図10A】
図10Aは、浮き間引き電極および橋絡容量素子の有無による共振回路のインピーダンス特性を比較したグラフである。
【
図10B】
図10Bは、浮き間引き電極および橋絡容量素子の有無による共振回路の反射特性を比較したグラフである。
【
図11】
図11は、実施例1および実施例2に係る弾性波フィルタの通過特性を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、実施例および図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置および接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面に示される構成要素の大きさまたは大きさの比は、必ずしも厳密ではない。
【0011】
(実施の形態1)
[1.1 弾性波フィルタの回路構成]
図1は、実施の形態1に係る弾性波フィルタ10の回路構成図である。同図に示すように、弾性波フィルタ10は、直列腕共振子101、102、103および104と、並列腕共振子201、202および203と、橋絡容量Cs2およびCs4と、インダクタL1と、入出力端子310および320と、を備える。
【0012】
直列腕共振子101~104は、入出力端子310(第1入出力端子)と入出力端子320(第2入出力端子)とを結ぶ経路上に配置され、互いに直列接続されている。また、並列腕共振子201~203は、上記経路上のノードとグランド端子との間に配置されている。直列腕共振子101~104および並列腕共振子201~203の上記接続構成により、弾性波フィルタ10は、ラダー型のバンドパスフィルタを構成している。
【0013】
直列腕共振子102には、直列腕共振子102の入出力端に並列接続された橋絡容量Cs2が付加されている。また、直列腕共振子104には、直列腕共振子104の入出力端に並列接続された橋絡容量Cs4が付加されている。
【0014】
並列腕共振子201には、並列腕共振子201の入出力端に並列接続された橋絡容量Cp1が付加されている。並列腕共振子202には、並列腕共振子202の入出力端に並列接続された橋絡容量Cp2が付加されている。並列腕共振子203には、並列腕共振子203の入出力端に並列接続された橋絡容量Cp3が付加されている。
【0015】
入出力端子310と入出力端子320とを結ぶ経路上に、1以上の直列腕共振回路が配置される。(1)直列腕共振子101、(2)直列腕共振子102と橋絡容量Cs2とが並列接続された回路、(3)直列腕共振子103、および(4)直列腕共振子104と橋絡容量Cs4とが並列接続された回路は、それぞれ、直列腕共振回路を構成している。直列腕共振回路は、直列腕共振子を有する。
【0016】
また、(1)並列腕共振子201と橋絡容量Cp1とが並列接続された回路、(2)並列腕共振子202と橋絡容量Cp2とが並列接続された回路、および(3)並列腕共振子203と橋絡容量Cp3とが並列接続された回路は、それぞれ、上記経路上のノードおよびグランドの間に配置された並列腕共振回路を構成している。並列腕共振回路は、並列腕共振子を有する。
【0017】
インダクタL1は、入出力端子310と直列腕共振子101との間に直列配置されたインピーダンス整合用のインダクタンス素子である。
【0018】
上記構成により、弾性波フィルタ10は、通過帯域、ならびに、当該通過帯域よりも低周波側および高周波側の少なくとも一方に減衰帯域を有するバンドパスフィルタとして機能する。
【0019】
なお、並列腕共振子201~203が接続されたグランド端子は、並列腕共振子201~203が形成された基板上において共通化されていれもよく、また、当該基板上において個別化されていてもよく、弾性波フィルタ10の減衰極を調整するという観点から、任意に設定される。
【0020】
橋絡容量Cs2、Cs4、Cp1~Cp3は、後述する
図2Aで示されたような一対の櫛形電極で形成された容量素子であってもよく、また、チップコンデンサのような容量素子であってもよく、さらには、弾性波共振子を接続する配線と基板のような誘電材料とで形成された容量素子であってもよい。
【0021】
また、橋絡容量Cs2およびCs4は、なくてもよい。また、橋絡容量Cp1~Cp3のうち少なくとも1つが配置されていればよい。
【0022】
また、弾性波フィルタ10を構成する直列腕共振子の数は、
図1に示された4つに限定されず、1以上であればよい。また、弾性波フィルタ10を構成する並列腕共振子の数は、
図1に示された3つに限定されず、1以上であればよい。また、インダクタL1は、なくてもよい。
【0023】
また、直列腕共振子101~104、並列腕共振子201~203、ならびに、入出力端子310および320の間に、インダクタおよびキャパシタなどの回路素子ならびに、縦結合型共振器などが挿入されていてもよい。
【0024】
以下では、弾性波フィルタ10を構成する直列腕共振子および並列腕共振子の基本構造について説明する。
【0025】
[1.2 弾性波共振子の構造]
図2Aは、実施の形態1に係る弾性波共振子の一例を模式的に表す概略図であり、(a)は平面図、(b)および(c)は、(a)に示した一点鎖線における断面図である。
図2Aには、弾性波フィルタ10を構成する直列腕共振子101~104および並列腕共振子201~203の基本構造を有する弾性波共振子100が例示されている。なお、
図2Aに示された弾性波共振子100は、弾性波共振子の典型的な構造を説明するためのものであって、電極を構成する電極指の本数および長さなどは、これに限定されない。
【0026】
弾性波共振子100は、圧電性を有する基板5と、櫛形電極100aおよび100bとで構成されている。
【0027】
図2Aの(a)に示すように、基板5の上には、互いに対向する一対の櫛形電極100aおよび100bが形成されている。櫛形電極100aは、互いに平行な複数の電極指150aと、複数の電極指150aを接続するバスバー電極160aとで構成されている。また、櫛形電極100bは、互いに平行な複数の電極指150bと、複数の電極指150bを接続するバスバー電極160bとで構成されている。複数の電極指150aおよび150bは、弾性波伝搬方向(X軸方向)と直交する方向に沿って形成されている。
【0028】
また、複数の電極指150aおよび150b、ならびに、バスバー電極160aおよび160bで構成されるIDT(InterDigital Transducer)電極54は、
図2Aの(b)に示すように、密着層541と主電極層542との積層構造となっている。
【0029】
密着層541は、基板5と主電極層542との密着性を向上させるための層であり、材料として、例えば、Tiが用いられる。密着層541の膜厚は、例えば、12nmである。
【0030】
主電極層542は、材料として、例えば、Cuを1%含有したAlが用いられる。主電極層542の膜厚は、例えば162nmである。
【0031】
保護層55は、櫛形電極100aおよび100bを覆うように形成されている。保護層55は、主電極層542を外部環境から保護する、周波数温度特性を調整する、および、耐湿性を高めるなどを目的とする層であり、例えば、二酸化ケイ素を主成分とする誘電体膜である。保護層55の厚さは、例えば25nmである。
【0032】
なお、密着層541、主電極層542および保護層55を構成する材料は、上述した材料に限定されない。さらに、IDT電極54は、上記積層構造でなくてもよい。IDT電極54は、例えば、Ti、Al、Cu、Pt、Au、Ag、Pdなどの金属または合金から構成されてもよく、また、上記の金属または合金から構成される複数の積層体から構成されてもよい。また、保護層55は、形成されていなくてもよい。
【0033】
次に、基板5の積層構造について説明する。
【0034】
図2Aの(c)に示すように、基板5は、高音速支持基板51と、低音速膜52と、圧電膜53とを備え、高音速支持基板51、低音速膜52および圧電膜53がこの順で積層された構造を有している。
【0035】
圧電膜53は、50°YカットX伝搬LiTaO3圧電単結晶または圧電セラミックス(X軸を中心軸としてY軸から50°回転した軸を法線とする面で切断したリチウムタンタレート単結晶、またはセラミックスであって、X軸方向に弾性表面波が伝搬する単結晶またはセラミックス)からなる。圧電膜53は、例えば、厚みが600nmである。なお、各フィルタの要求仕様により、圧電膜53として使用される圧電単結晶の材料およびカット角が適宜選択される。
【0036】
高音速支持基板51は、低音速膜52、圧電膜53ならびにIDT電極54を支持する基板である。高音速支持基板51は、さらに、圧電膜53を伝搬する表面波および境界波などの弾性波よりも、高音速支持基板51中のバルク波の音速が高速となる基板であり、弾性表面波を圧電膜53および低音速膜52が積層されている部分に閉じ込め、高音速支持基板51より下方に漏れないように機能する。高音速支持基板51は、例えば、シリコン基板であり、厚みは、例えば200μmである。
【0037】
低音速膜52は、圧電膜53を伝搬するバルク波よりも、低音速膜52中のバルク波の音速が低速となる膜であり、圧電膜53と高音速支持基板51との間に配置される。この構造と、弾性波が本質的に低音速な媒質にエネルギーが集中するという性質とにより、弾性表面波エネルギーのIDT電極外への漏れが抑制される。低音速膜52は、例えば、二酸化ケイ素を主成分とする膜であり、厚みは、例えば670nmである。
【0038】
なお、基板5の上記積層構造によれば、圧電基板を単層で使用している従来の構造と比較して、共振周波数および反共振周波数におけるQ値を大幅に高めることが可能となる。すなわち、Q値が高い弾性波共振子を構成し得るので、当該弾性波共振子を用いて、挿入損失が小さいフィルタを構成することが可能となる。
【0039】
また、弾性波フィルタ10の通過帯域低周波側端部および高周波側端部の急峻性を改善すべく、弾性波共振子に橋絡容量が接続され、または、後述するように、弾性波共振子に間引き電極が適用されると、弾性波共振回路(または弾性波共振子)のQ値が等価的に小さくなる場合が想定される。これに対して、上記基板の積層構造によれば、弾性波共振子100のQ値を高い値に維持できる。よって、通過帯域内の低損失が維持された弾性波フィルタ10を形成することが可能となる。
【0040】
なお、高音速支持基板51は、支持基板と、圧電膜53を伝搬する表面波および境界波などの弾性波よりも、伝搬するバルク波の音速が高速となる高音速膜とが積層された構造を有していてもよい。この場合、支持基板には、サファイア、リチウムタンタレート、リチウムニオベイト、および水晶等の圧電体、アルミナ、マグネシア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、およびフォルステライト等の各種セラミック、ガラス等の誘電体、シリコンおよび窒化ガリウム等の半導体、ならびに樹脂基板等を用いることができる。また、高音速膜には、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、DLC膜、ダイヤモンド、これらの材料を主成分とする媒質、これらの材料の混合物を主成分とする媒質等、様々な高音速材料を用いることができる。
【0041】
また、
図2Bは、実施の形態の変形例に係る弾性波共振子を模式的に表す断面図である。
図2Aに示した弾性波共振子100では、IDT電極54が、圧電膜53を有する基板5上に形成された例を示したが、当該IDT電極54が形成される基板は、
図2Bに示すように、圧電体層の単層からなる圧電単結晶基板57であってもよい。圧電単結晶基板57は、例えば、LiNbO
3の圧電単結晶で構成されている。本変形例に係る弾性波共振子100は、LiNbO
3の圧電単結晶基板57と、IDT電極54と、圧電単結晶基板57上およびIDT電極54上に形成された保護層55と、で構成されている。
【0042】
上述した圧電膜53および圧電単結晶基板57は、弾性波フィルタ装置の要求通過特性などに応じて、適宜、積層構造、材料、カット角、および、厚みを変更してもよい。上述したカット角以外のカット角を有するLiTaO3圧電基板などを用いた弾性波共振子100であっても、上述した圧電膜53を用いた弾性波共振子100と同様の効果を奏することができる。
【0043】
また、IDT電極54が形成される基板は、支持基板と、エネルギー閉じ込め層と、圧電膜がこの順で積層された構造を有していてもよい。圧電膜上にIDT電極54が形成される。圧電膜は、例えば、LiTaO3圧電単結晶または圧電セラミックスが用いられる。支持基板は、圧電膜、エネルギー閉じ込め層、およびIDT電極54を支持する基板である。
【0044】
エネルギー閉じ込め層は1層または複数の層からなり、その少なくとも1つの層を伝搬する弾性バルク波の速度は、圧電膜近傍を伝搬する弾性波の速度よりも大きい。例えば、低音速層と、高音速層との積層構造となっていてもよい。低音速層は、圧電膜を伝搬する弾性波の音速よりも、低音速層中のバルク波の音速が低速となる膜である。高音速層は、圧電膜を伝搬する弾性波の音速よりも、高音速層中のバルク波の音速が高速となる膜である。なお、支持基板を高音速層としてもよい。
【0045】
また、エネルギー閉じ込め層は、音響インピーダンスが相対的に低い低音響インピーダンス層と、音響インピーダンスが相対的に高い高音響インピーダンス層とが、交互に積層された構成を有する音響インピーダンス層であってもよい。
【0046】
ここで、弾性波共振子100を構成するIDT電極の電極パラメータの一例(実施例)について説明する。
【0047】
弾性波共振子の波長とは、
図2Aの(b)に示すIDT電極54を構成する複数の電極指150aまたは150bの繰り返し周期である波長λで規定される。また、電極ピッチは、波長λの1/2であり、櫛形電極100aおよび100bを構成する電極指150aおよび150bのライン幅をWとし、隣り合う電極指150aと電極指150bとの間のスペース幅をSとした場合、(W+S)で定義される。また、一対の櫛形電極100aおよび100bの交叉幅Lは、
図2Aの(a)に示すように、電極指150aと電極指150bとの弾性波伝搬方向(X軸方向)から見た場合の重複する電極指の長さである。また、各弾性波共振子の電極デューティーは、複数の電極指150aおよび150bのライン幅占有率であり、複数の電極指150aおよび150bのライン幅とスペース幅との加算値に対する当該ライン幅の割合であり、W/(W+S)で定義される。また、櫛形電極100aおよび100bの高さをhとしている。以降では、波長λ、交叉幅L、電極デューティー、IDT電極54の高さh等、弾性波共振子のIDT電極の形状に関するパラメータを、電極パラメータという。
【0048】
[1.3 弾性波フィルタの動作原理]
次に、本実施の形態に係るラダー型の弾性波フィルタの動作原理について説明する。
【0049】
図3は、ラダー型の弾性波フィルタの基本的な動作原理を説明する回路構成図および周波数特性を表すグラフである。
【0050】
図3の(a)に示された弾性波フィルタは、1つの直列腕共振子301および1つの並列腕共振子302で構成された基本的なラダー型フィルタである。
図3の(b)に示すように、並列腕共振子302は、共振特性において共振周波数frpおよび反共振周波数fap(>frp)を有している。また、直列腕共振子301は、共振特性において共振周波数frsおよび反共振周波数fas(>frs>frp)を有している。
【0051】
ラダー型の弾性波共振子を用いてバンドパスフィルタを構成するにあたり、一般的には、並列腕共振子302の反共振周波数fapと直列腕共振子301の共振周波数frsとを近接させる。これにより、並列腕共振子302のインピーダンスが0に近づく共振周波数frp近傍は、低周波側阻止域となる。また、これより周波数が増加すると、反共振周波数fap近傍で並列腕共振子302のインピーダンスが高くなり、かつ、共振周波数frs近傍で直列腕共振子301のインピーダンスが0に近づく。これにより、反共振周波数fap~共振周波数frsの近傍では、入出力端子310から入出力端子320への信号経路において信号通過域となる。これにより、弾性波共振子の電極パラメータおよび電気機械結合係数を反映した通過帯域を形成することが可能となる。さらに、周波数が高くなり、反共振周波数fas近傍になると、直列腕共振子301のインピーダンスが高くなり、高周波側阻止域となる。
【0052】
上述した基本的な動作原理に対して、本実施の形態に係る弾性波フィルタ10では、少なくとも一部の直列腕共振回路の共振周波数Frsを、橋絡容量が付加された一部の並列腕共振回路の反共振周波数Fapよりも低くしている。これにより、弾性波フィルタ10の通過帯域を、狭帯域化することが可能となる。
【0053】
なお、並列腕共振子および直列腕共振子で構成される共振段の段数は、要求仕様に応じて、適宜最適化される。一般的に、複数の共振段で弾性波フィルタが構成される場合には、複数の並列腕共振子の反共振周波数fapを略一致させ、複数の直列腕共振子の反共振周波数fasを略一致させる。
【0054】
上記動作原理を有する弾性波フィルタにおいて、入出力端子310から高周波信号が入力されると、入出力端子310と基準端子との間で電位差が生じ、これにより、圧電体層が歪むことでX軸方向に伝搬する弾性表面波が発生する。ここで、IDT電極54の波長λと、通過帯域の波長とを略一致させておくことにより、通過させたい周波数成分を有する高周波信号のみが当該弾性波フィルタを通過する。
【0055】
[1.4 弾性波フィルタの通過特性]
次に、本実施の形態に係る弾性波共振子のインピーダンス特性および反射特性、ならびに、弾性波フィルタ10の通過特性について説明する。
【0056】
図4は、実施例1に係る弾性波フィルタ10を構成する各弾性波共振子のインピーダンス特性を示すグラフである。また、
図5は、比較例に係る弾性波フィルタを構成する各弾性波共振子のインピーダンス特性を示すグラフである。
【0057】
ここで、実施例1に係る弾性波フィルタ10は、
図1に示された実施の形態1に係る弾性波フィルタ10の回路構成を有しており、並列腕共振回路の反共振周波数および直列腕共振回路の共振周波数、ならびに橋絡容量の具体的数値は、表1に示す通りである。なお、表1には記載されていないが、インダクタL1のインダクタンス値は、4.0nHである。
【0058】
実施例1に係る弾性波フィルタ10は、例えば、LTE(Long Term Evolution)のBand30(受信帯域:2350-2360MHz)の受信用フィルタとして適用される。Band30は、受信帯域の帯域幅が10MHzであり、また、通過帯域よりも低周波側にSDARS帯(Satellite Digital Audio Radio Service:2336.2-2341.3MHz)の減衰帯域があり、狭帯域かつ通過帯域低周波側端部における高い急峻性が要求される。
【0059】
また、比較例に係る弾性波フィルタは、
図1に示された弾性波フィルタ10の回路構成を有しているが、並列腕共振回路の反共振周波数および直列腕共振回路の共振周波数、ならびに橋絡容量の具体的数値は、表1に示すように、実施例1に係る弾性波フィルタ10と異なる。
【0060】
【0061】
比較例に係る弾性波フィルタでは、
図5に示すように、並列腕共振子201と橋絡容量Cp1とが並列接続された並列腕共振回路(共振周波数Frp1、反共振周波数Fap1)の反共振周波数Fap1、並列腕共振子202と橋絡容量Cp2とが並列接続された並列腕共振回路(共振周波数Frp2、反共振周波数Fap2)の反共振周波数Fap2、並列腕共振子203と橋絡容量Cp3とが並列接続された並列腕共振回路(共振周波数Frp3、反共振周波数Fap3)の反共振周波数Fap3は、全て、通過帯域内に位置している。加えて、直列腕共振子101で構成された直列腕共振回路(共振周波数frs1、反共振周波数fas1)の共振周波数frs1は、上記並列腕共振回路の反共振周波数Fap1、Fap2およびFap3よりも低周波側に位置している。
【0062】
比較例に係る弾性波フィルタの上記構成によれば、並列腕共振子201、202および203に対して、それぞれ、橋絡容量Cp1、Cp2およびCp3が付加されていることにより、共振比帯域の小さい並列腕共振回路を構成している。これにより、ラダー型の弾性波フィルタの通過帯域低周波側端部における急峻性を改善できる。
【0063】
図6Aは、橋絡容量の有無による弾性波共振回路のインピーダンス特性を比較したグラフである。同図には、弾性波共振子単体のインピーダンス(
図6Aの破線)、および、弾性波共振子に橋絡容量が付加された弾性波共振回路のインピーダンス(
図6Aの実線)が示されている。同図に示すように、橋絡容量が付加された弾性波共振回路の反共振周波数Faは、弾性波共振子単体の反共振周波数faに対して低周波側にシフトするので共振比帯域を小さくできるが、反共振周波数Faのインピーダンスは、反共振周波数faのインピーダンスよりも小さくなる。
【0064】
図6Bは、橋絡容量の有無による弾性波共振回路の反射特性を比較したグラフである。
図6Aに示したインピーダンス特性の変化に対応して、弾性波共振子に橋絡容量が付加された弾性波共振回路の反共振周波数Fa付近の反射損失は、弾性波共振子単体の反共振周波数fa付近の反射損失よりも大きくなっている。
【0065】
比較例に係る弾性波フィルタでは、橋絡容量が並列付加された並列腕共振回路の反共振周波数Fapは、
図6Aを参照すれば、並列腕共振子単体の反共振周波数fapに対して低周波側にシフトするので共振比帯域を小さくできる。しかしながら、
図6Bを参照すれば、反共振周波数Fap付近の反射損失は、反共振周波数Fap付近のインピーダンス低下に対応して大きくなる。比較例に係る弾性波フィルタでは、反射損失が大きい反共振周波数Fap1~Fap3の全てが通過帯域内に位置しているため、反共振周波数Fap1~Fap3近傍の反射損失増加に起因して通過帯域の挿入損失が悪化する。
【0066】
これに対して、実施例1に係る弾性波フィルタ10では、並列腕共振子201と橋絡容量Cp1とが並列接続された並列腕共振回路の反共振周波数Fap1、並列腕共振子202と橋絡容量Cp2とが並列接続された並列腕共振回路の反共振周波数Fap2、並列腕共振子203と橋絡容量Cp3とが並列接続された並列腕共振回路(第1の並列腕共振回路)の反共振周波数Fap3は、全て、通過帯域よりも高周波側に位置している。加えて、直列腕共振子101で構成された直列腕共振回路(第1の直列腕共振回路)の共振周波数frs1は、上記並列腕共振回路の反共振周波数Fap1、Fap2およびFap3よりも低周波側に位置している。
【0067】
図7は、実施例1および比較例に係る弾性波フィルタの通過特性を比較したグラフである。
図7に示すように、実施例1に係る弾性波フィルタ10によれば、並列腕共振子201、202および203に対して、それぞれ、橋絡容量Cp1、Cp2およびCp3が付加されていることにより、共振比帯域の小さい並列腕共振回路を構成している。これにより、ラダー型の弾性波フィルタ10の通過帯域低周波側端部における急峻性を改善できる。また、橋絡容量が付加された、反射損失の大きい並列腕共振回路の反共振周波数Fap1~Fap3を、通過帯域よりも高周波側に位置させているので、通過帯域における挿入損失の悪化を低減できる。さらに、直列腕共振子101の共振周波数frs1を、並列腕共振回路の反共振周波数Fap1~Fap3よりも低周波側に位置させているので、通過帯域を狭帯域化できる。つまり、本実施例に係る弾性波フィルタ10によれば、通過帯域端部の急峻性および通過帯域の低損失性を両立させることが可能となる。
【0068】
また、実施例1に係る弾性波フィルタ10では、
図4に示すように、並列腕共振子203と橋絡容量Cp3とで構成された並列腕共振回路の共振周波数Frp3は、通過帯域よりも低周波側に位置している。また、共振周波数Frp3は、3つの並列腕共振回路の共振周波数Frp1~Frp3のなかで、通過帯域の低周波側端部に最も近接している。
【0069】
これにより、共振周波数Frp3により低周波側の減衰極が規定されるので、共振比帯域の小さい並列腕共振回路により、弾性波フィルタ10の通過帯域低周波側端部における急峻性を向上できる。
【0070】
また、実施例1に係る弾性波フィルタ10では、
図4に示すように、直列腕共振子102と橋絡容量Cs2とが並列接続された直列腕共振回路(第2の直列腕共振回路)の共振周波数Frs2、および、直列腕共振子103(第2の直列腕共振回路)の共振周波数frs3は、通過帯域よりも高周波側に位置している。弾性波共振子において、共振周波数から反共振周波数までの周波数帯域では、弾性波共振子のインピーダンスは誘導性を示す。一方、共振周波数よりも低周波側、および、反共振周波数よりも高周波側では、弾性波共振子のインピーダンスは容量性を示す。つまり、直列腕共振子102と橋絡容量Cs2とが並列接続された直列腕共振回路(第2の直列腕共振回路)、および、直列腕共振子103(第2の直列腕共振回路)は、ともに、共振周波数よりも低周波側に位置する通過帯域において、容量性のインピーダンスを有する。
【0071】
本実施例のように、並列腕共振回路の反共振周波数を通過帯域の高周波側に位置させると、当該並列腕共振回路の共振周波数と反共振周波数との間の誘導性領域が通過帯域内に位置することとなる。このため、実施例に係る弾性波フィルタ10において、並列腕共振回路のインピーダンスに着目すれば、並列腕共振回路の反共振周波数が通過帯域内にある従来のラダー型弾性波フィルタと比較して、通過帯域内のインピーダンスが誘導性にシフトすることとなる。これに対して、本実施例における直列腕共振回路の上記構成によれば、第2の直列腕共振回路の通過帯域におけるインピーダンスが容量性となっている。よって、弾性波フィルタ10の通過帯域におけるインピーダンスを低リアクタンス領域に位置させることができるので、外部回路との整合損が低減された低損失な弾性波フィルタ10を実現できる。
【0072】
なお、本実施例では、弾性波フィルタ10を構成する4つの直列腕共振回路(直列腕共振子)のうち、2つの直列腕共振回路(直列腕共振子)の共振周波数が通過帯域よりも高周波側に位置している。しかしながら、共振周波数が通過帯域よりも高周波側に位置する直列腕共振回路の数は、反共振周波数が通過帯域よりも高周波側に位置する並列腕共振回路の誘導性インピーダンスに応じて任意に設定される。
【0073】
また、直列腕共振回路の容量性インピーダンスを通過帯域に合わせる手法としては、当該直列腕共振回路の反共振周波数を通過帯域よりも低周波側に配置させてもよい。ただし、反共振周波数より高周波側には、バルク波放射やストップバンドリップルが存在するため、通過帯域に悪影響を与えないように、反共振周波数の位置を設定する必要がある。
【0074】
また、実施例1に係る弾性波フィルタ10では、
図1に示すように、直列腕共振子104には、橋絡容量Cs4が並列接続されている。ここで、
図4に示すように、直列腕共振子104と橋絡容量Cs4とが並列接続された直列腕共振回路(第3の直列腕共振回路)の共振周波数Frs4は、通過帯域よりも低周波側に位置し、反共振周波数Fas4は、通過帯域よりも高周波側に位置している。
【0075】
これにより、上記第3の直列腕共振回路の反共振周波数により高周波側の減衰極が規定されるので、共振比帯域の小さい第3の直列腕共振回路により、弾性波フィルタ10の通過帯域高周波側端部の急峻性を向上できる。さらに、第3の直列腕共振回路の共振周波数を通過帯域よりも低周波側に位置させることで通過帯域を狭帯域化できる。
【0076】
なお、共振比帯域の小さい第3の直列腕共振回路を形成するにあたり、本実施例では、直列腕共振子に橋絡容量を接続する構成をとったが、後述の実施の形態2で示しているように、直列腕共振子に橋絡容量を接続する代わりに、当該直列腕共振子のIDT電極に第1間引き電極、第2間引き電極、または第3間引き電極を含ませてもよい。
【0077】
この構成によっても、弾性波フィルタ10の通過帯域高周波側端部の急峻性を向上できる。さらに、第3の直列腕共振回路の共振周波数を通過帯域よりも低周波側に位置させることで通過帯域を狭帯域化できる。
【0078】
実施例1および比較例に係る弾性波フィルタを、
図7に示すようにBand30における受信用フィルタに適用した場合、実施例1における通過帯域内の挿入損失は2.02dBであり、比較例における通過帯域内の挿入損失は2.42dBである。また、実施例1におけるSDARS帯の減衰量は7.8dBであり、比較例におけるSDARS帯の減衰量は7.3dBである。つまり、実施例1に係る弾性波フィルタ10は、比較例に係る弾性波フィルタと比較して、通過帯域内の挿入損失の低損失性、および、通過帯域の低周波側減衰帯域の高減衰性の双方において優れている。
【0079】
なお、本実施例に係る弾性波フィルタ10では、ラダー型フィルタを構成する3つの並列腕共振子201~203の全てに対して橋絡容量を付加し、当該橋絡容量が付加された3つの並列腕共振回路の反共振周波数Fap1~Fap3の全てが、通過帯域よりも高周波側に位置している構成とした。しかしながら、本実施の形態に係る弾性波フィルタ10は、ラダー型フィルタを構成する3つの並列腕共振子のうちの少なくとも1つに橋絡容量が付加され、当該橋絡容量が付加された少なくとも1つの並列腕共振回路(第1並列腕共振回路)の反共振周波数が通過帯域よりも高周波側に位置していればよい。また、このとき、1以上の直列腕共振回路のうちの第1の直列腕共振回路の共振周波数が、上記少なくとも1つの並列腕共振回路(第1の並列腕共振回路)の反共振周波数よりも低周波側に位置していればよい。つまり、本実施の形態に係る弾性波フィルタでは、共振比帯域が小さくなるが反射損失が大きくなる並列腕共振回路の反共振周波数付近を通過帯域から外すことで、橋絡容量による挿入損失悪化を抑制し、低損失かつ高い急峻性を有するフィルタ特性を実現するものである。
【0080】
これによれば、反射損失が大きい第1の並列腕共振回路の反共振周波数を通過帯域よりも高周波側に位置させることで、共振比帯域を小さくして通過帯域低周波側端部における急峻性を確保しつつ、通過帯域における挿入損失を低減することが可能となる。さらに、直列腕共振回路の共振周波数を第1の並列腕共振回路の反共振周波数よりも低周波側に位置させることで通過帯域を狭帯域化できる。
【0081】
なお、本実施の形態に係る弾性波フィルタ10のように、全ての並列腕共振回路の反共振周波数Fap1~Fap3が通過帯域よりも高周波側に位置し、第1の直列腕共振子回路の共振周波数を反共振周波数Fap1~Fap3よりも低周波側に位置させることにより、各並列腕共振回路の共振比帯域を小さくして通過帯域低周波側端部における急峻性、および、通過帯域における低損失化を最適化することが可能となる。
【0082】
(実施の形態2)
実施の形態1では、並列腕共振回路の共振比帯域を小さくする構成として、並列腕共振子に橋絡容量が付加された構成を示したが、本実施の形態では、並列腕共振回路の共振比帯域を小さくする構成として、並列腕共振子のIDT電極が、いわゆる間引き電極を有する構成を示す。
【0083】
[2.1 弾性波フィルタの回路構成]
図8は、実施の形態2に係る弾性波フィルタ20の回路構成図である。同図に示すように、弾性波フィルタ20は、直列腕共振子101、102、103および104と、並列腕共振子251、252および253と、橋絡容量Cs2およびCs4と、インダクタL1と、入出力端子310および320と、を備える。
【0084】
本実施の形態に係る弾性波フィルタ20は、実施の形態1に係る弾性波フィルタ10と比較して、並列腕共振子(並列腕共振回路)の構成が異なる。以下、本実施の形態に係る弾性波フィルタ20について、実施の形態1に係る弾性波フィルタ10と同じ構成については説明を省略し、異なる構成を中心に説明する。
【0085】
並列腕共振子251~253は、直列腕共振子101~104が配置された経路上のノードとグランド端子との間に配置されている。直列腕共振子101~104および並列腕共振子251~253の上記接続構成により、弾性波フィルタ20は、ラダー型のバンドパスフィルタを構成している。
【0086】
直列腕共振子102には、直列腕共振子102の入出力端に並列接続された橋絡容量Cs2が付加されている。また、直列腕共振子104には、直列腕共振子104の入出力端に並列接続された橋絡容量Cs4が付加されている。
【0087】
並列腕共振子251は、第1間引き電極、第2間引き電極および第3間引き電極のいずれかを含んでいる。また、並列腕共振子252は、第1間引き電極、第2間引き電極および第3間引き電極のいずれかを含んでいる。また、並列腕共振子253は、第1間引き電極、第2間引き電極および第3間引き電極のいずれかを含んでいる。第1間引き電極、第2間引き電極および第3間引き電極の構成については、それぞれ、
図9A、
図9Cおよび
図9Bを用いて説明する。
【0088】
(1)直列腕共振子101、(2)直列腕共振子102と橋絡容量Cs2とが並列接続された回路、(3)直列腕共振子103、および(4)直列腕共振子104と橋絡容量Cs4とが並列接続された回路は、それぞれ、入出力端子310と入出力端子320とを結ぶ経路上に配置された直列腕共振回路を構成している。
【0089】
また、並列腕共振子251、252、および253は、それぞれ、上記経路上のノードおよびグランドの間に配置された並列腕共振回路を構成している。
【0090】
上記構成により、弾性波フィルタ20は、通過帯域、ならびに、当該通過帯域よりも低周波側および高周波側の少なくとも一方に減衰帯域を有するバンドパスフィルタとして機能する。
【0091】
なお、並列腕共振子251~253が接続されたグランド端子は、並列腕共振子251~253が形成された基板上において共通化されていてもよく、また、当該基板上において個別化されていてもよく、弾性波フィルタ20の減衰極を調整するという観点から、任意に設定される。
【0092】
また、橋絡容量Cs2およびCs4は、なくてもよい。
【0093】
また、並列腕共振子251、252、および253のうちの少なくとも1つが、第1間引き電極、第2間引き電極および第3間引き電極のいずれかを含んでいればよい。
【0094】
また、弾性波フィルタ20を構成する直列腕共振子の数は、
図8に示された4つに限定されず、1以上であればよい。また、弾性波フィルタ20を構成する並列腕共振子の数は、
図8に示された3つに限定されず、1以上であればよい。また、インダクタL1は、なくてもよい。
【0095】
また、直列腕共振子101~104、並列腕共振子251~253、ならびに、入出力端子310および320の間に、インダクタおよびキャパシタなどの回路素子ならびに、縦結合型共振器などが挿入されていてもよい。
【0096】
以下では、並列腕共振子251~253が有する第1間引き電極、第2間引き電極および第3間引き電極の構造について説明する。
【0097】
[2.2 並列腕共振子の電極構造]
図9Aは、実施の形態2に係る弾性波フィルタ20を構成する並列腕共振子251~253のIDT電極の構成の第1例を示す概略平面図である。
図9Bは、実施の形態2に係る弾性波フィルタ20を構成する並列腕共振子251~253のIDT電極の構成の第2例を示す概略平面図である。
図9Cは、実施の形態2に係る弾性波フィルタ20を構成する並列腕共振子251~253のIDT電極の構成の第3例を示す概略平面図である。
【0098】
図9Aに示された並列腕共振子251Aは、並列腕共振子251~253の電極構成の第1例を示したものであり、並列腕共振子251~253のIDT電極構造を表す平面摸式図が例示されている。なお、
図9Aに示された並列腕共振子251Aは、並列腕共振子251~253の典型的な構造を説明するためのものであって、電極を構成する電極指の本数および長さなどは、これに限定されない。
【0099】
並列腕共振子251Aは、圧電性を有する基板5と、基板5上に形成された櫛形電極101aおよび101bと、反射器141とで構成されている。
【0100】
図9Aに示すように、櫛形電極101aは、互いに平行な複数の電極指151aと、複数の電極指151aの一方端同士を接続するバスバー電極161aとで構成されている。また、櫛形電極101bは、互いに平行な複数の電極指151bと、複数の電極指151bの一方端同士を接続するバスバー電極161bとで構成されている。複数の電極指151aおよび151bは、弾性表面波伝搬方向(X軸方向)と直交する方向に沿って形成されている。櫛形電極101aおよび101bは、複数の電極指151aと151bとが互いに間挿し合うように対向配置されている。つまり、並列腕共振子251AのIDT電極は、一対の櫛形電極101aおよび101bを有している。
【0101】
なお、櫛形電極101aは、複数の電極指151bの長手方向に対向して配置されたダミー電極を有しているが、当該ダミー電極はなくてもよい。また、櫛形電極101bは、複数の電極指151aの長手方向に対向して配置されたダミー電極を有しているが、当該ダミー電極はなくてもよい。
【0102】
反射器141は、互いに平行な複数の電極指と、当該複数の電極指を接続するバスバー電極とで構成され、一対の櫛形電極101aおよび101bの両端に配置されている。
【0103】
なお、一対の櫛形電極101aおよび101bで構成されるIDT電極は、
図2Aの(b)に示すように、密着層541と主電極層542との積層構造となっているが、当該積層構造に限定されない。
【0104】
ここで、並列腕共振子251AのIDT電極には、電極指152が離散的に形成されている。電極指152は、バスバー電極161aおよび161bのいずれとも接続されておらず、複数の電極指151aおよび151bと平行かつ同ピッチで配置された第1間引き
電極(浮き間引き電極)である。また、隣り合う2つの電極指152の間には、複数の電極指151aおよび151bが配置されている。つまり、電極指152のピッチは、複数の電極指151aおよび151bのピッチよりも大きい。
【0105】
図9Bに示された並列腕共振子251Bは、並列腕共振子251~253の電極構成の第2例を示したものであり、並列腕共振子251~253のIDT電極構造を表す平面摸式図が例示されている。なお、
図9Bに示された並列腕共振子251Bは、並列腕共振子251~253の典型的な構造を説明するためのものであって、電極を構成する電極指の本数および長さなどは、これに限定されない。
【0106】
並列腕共振子251Bは、圧電性を有する基板5と、基板5上に形成された櫛形電極301aおよび301bと、反射器341とで構成されている。
【0107】
図9Bに示すように、櫛形電極301aは、互いに平行な複数の電極指351aと、複数の電極指351aの一方端同士を接続するバスバー電極361aとで構成されている。また、櫛形電極301bは、互いに平行な複数の電極指351bと、複数の電極指351bの一方端同士を接続するバスバー電極361bとで構成されている。複数の電極指351aおよび351bは、弾性波伝搬方向(X軸方向)と直交する方向に沿って形成されている。櫛形電極301aおよび301bは、複数の電極指351aと351bとが互いに間挿し合うように対向配置されている。つまり、並列腕共振子251BのIDT電極は、一対の櫛形電極301aおよび301bを有している。
【0108】
なお、櫛形電極301aは、複数の電極指351bの長手方向に対向して配置されたダミー電極を有しているが、当該ダミー電極はなくてもよい。また、櫛形電極301bは、複数の電極指351aの長手方向に対向して配置されたダミー電極を有しているが、当該ダミー電極はなくてもよい。
【0109】
反射器341は、互いに平行な複数の電極指と、当該複数の電極指を接続するバスバー電極とで構成され、一対の櫛形電極301aおよび301bの両端に配置されている。
【0110】
なお、一対の櫛形電極301aおよび301bで構成されるIDT電極は、
図2Aの(b)に示すように、密着層541と主電極層542との積層構造となっているが、当該積層構造に限定されない。
【0111】
ここで、並列腕共振子251BのIDT電極には、電極指352が離散的に形成されている。電極指352は、一対の櫛形電極301aおよび301bを構成する全ての電極指のうち、両隣の電極指が接続されたバスバー電極と同じバスバー電極に接続された第3間引き電極(反転間引き電極)である。また、隣り合う2つの電極指352の間には、複数の電極指351aおよび351bが配置されている。つまり、電極指352のピッチは、複数の電極指351aおよび351bのピッチよりも大きい。
【0112】
図9Cに示された並列腕共振子251Cは、並列腕共振子251~253の電極構成の第2例を示したものであり、並列腕共振子251~253のIDT電極構造を表す平面摸式図が例示されている。なお、
図9Bに示された並列腕共振子251Cは、並列腕共振子251~253の典型的な構造を説明するためのものであって、電極を構成する電極指の本数および長さなどは、これに限定されない。
【0113】
並列腕共振子251Cは、圧電性を有する基板5と、基板5上に形成された櫛形電極201aおよび201bと、反射器241とで構成されている。
【0114】
図9Bに示すように、櫛形電極201aは、互いに平行な複数の電極指251aと、複数の電極指251aの一方端同士を接続するバスバー電極261aとで構成されている。また、櫛形電極201bは、互いに平行な複数の電極指251bと、複数の電極指251bの一方端同士を接続するバスバー電極261bとで構成されている。複数の電極指251aおよび251bは、弾性表面波伝搬方向(X軸方向)と直交する方向に沿って形成されている。櫛形電極201aおよび201bは、複数の電極指251aと251bとが互いに間挿し合うように対向配置されている。つまり、並列腕共振子251CのIDT電極は、一対の櫛形電極201aおよび201bを有している。
【0115】
なお、櫛形電極201aは、複数の電極指251bの長手方向に対向して配置されたダミー電極を有しているが、当該ダミー電極はなくてもよい。また、櫛形電極201bは、複数の電極指251aの長手方向に対向して配置されたダミー電極を有しているが、当該ダミー電極はなくてもよい。
【0116】
反射器241は、互いに平行な複数の電極指と、当該複数の電極指を接続するバスバー電極とで構成され、一対の櫛形電極201aおよび201bの両端に配置されている。
【0117】
なお、一対の櫛形電極201aおよび201bで構成されるIDT電極は、
図2Aの(b)に示すように、密着層541と主電極層542との積層構造となっているが、当該積層構造に限定されない。
【0118】
ここで、並列腕共振子251CのIDT電極には、電極指254が離散的に形成されている。電極指254は、並列腕共振子251CのIDT電極において最大の電極指幅を有する電極指であって、電極指254を除く電極指における平均電極指幅の2倍以上の電極指幅を有する第2間引き電極(塗りつぶし電極)である。言い換えると、電極指254は、隣り合う電極指251aおよび251bと、当該隣り合う電極指251aおよび251bの間のスペースとが、まとめられて1本の電極指となり、バスバー電極261aおよび261bのいずれかに接続され、複数の電極指251aおよび251bよりも電極指幅の広い第2間引き電極(塗りつぶし電極)である。また、隣り合う2つの電極指254の間には、複数の電極指251aおよび251bが配置されている。つまり、電極指254のピッチは、複数の電極指251aおよび251bのピッチよりも大きい。
【0119】
本実施の形態に係る弾性波フィルタ20において、並列腕共振子251、252、および253のうちの少なくとも1つは、第1間引き電極、第2間引き電極、および第3間引き電極のいずれかを含んでいる。言い換えると、並列腕共振子251、252、および253のうちの少なくとも1つは、並列腕共振子251A、251Bおよび251Cのいずれかである。
【0120】
なお、並列腕共振子251、252、および253のうちの少なくとも1つが第1間引き電極を含んでいる、とは、並列腕共振子251、252、および253のうちの少なくとも1つが、
図9Aに示された電極指152(第1間引き電極(浮き間引き電極))を少なくとも1つ有していればよい。また、並列腕共振子251、252、および253のうちの少なくとも1つが第3間引き電極を含んでいる、とは、並列腕共振子251、252、および253のうちの少なくとも1つが、
図9Bに示された電極指352(第3間引き電極(反転間引き電極))を少なくとも1つ有していればよい。また、並列腕共振子251、252、および253のうちの少なくとも1つが第2間引き電極を含んでいる、とは、並列腕共振子251、252、および253のうちの少なくとも1つが、
図9Cに示された電極指254(第2間引き電極(塗りつぶし電極))を少なくとも1つ有していればよい。
【0121】
[2.3 弾性波フィルタの通過特性]
図10Aは、第1間引き電極(浮き間引き電極)および橋絡容量の付加による共振回路のインピーダンス特性を比較したグラフである。同図には、実施の形態1の並列腕共振回路の構造である、橋絡容量が付加された弾性波共振回路のインピーダンス(
図10Aの破線)、および、実施の形態2の並列腕共振子の構造である、IDT電極に第1間引き電極(浮き間引き電極)を含む弾性波共振子のインピーダンス(
図10Aの実線)が示されている。
【0122】
橋絡容量が付加された弾性波共振回路の反共振周波数Fa、および、IDT電極に第1間引き電極(浮き間引き電極)を含む弾性波共振子の反共振周波数fa2は、ともに、橋絡容量が付加されず第1間引き電極(浮き間引き電極)を含まない弾性波共振子単体の反共振周波数fa(
図10Aには図示せず)に対して低周波側にシフトするので共振比帯域を小さくできる。ただし、反共振周波数Faおよびfa2のインピーダンスは、反共振周波数faのインピーダンスよりも小さくなる。
【0123】
図10Bは、第1間引き電極(浮き間引き電極)および橋絡容量の付加による共振回路の反射特性を比較したグラフである。
【0124】
図10Aに示したインピーダンス特性の変化に対応して、橋絡容量が付加された弾性波共振回路の反共振周波数Fa、および、IDT電極に第1間引き電極(浮き間引き電極)を含む弾性波共振子の反共振周波数fa2付近の反射損失は、弾性波共振子単体の反共振周波数fa付近の反射損失(
図10Bには図示せず)よりも大きくなる。
【0125】
これに対して、本実施の形態に係る弾性波フィルタ20では、並列腕共振子251で構成された並列腕共振回路(第1の並列腕共振回路)の反共振周波数Fap1、並列腕共振子252で構成された並列腕共振回路(第1の並列腕共振回路)の反共振周波数Fap2、並列腕共振子253で構成された並列腕共振回路(第1の並列腕共振回路)の反共振周波数Fap3は、全て、通過帯域よりも高周波側に位置している。加えて、直列腕共振子101で構成された直列腕共振回路(第1の直列腕共振回路)の共振周波数frs1は、上記並列腕共振回路の反共振周波数Fap1、Fap2およびFap3よりも低周波側に位置している。
【0126】
図11は、実施例1および実施例2に係る弾性波フィルタの通過特性を比較したグラフである。
【0127】
ここで、実施例2に係る弾性波フィルタ20は、
図8に示された実施の形態2に係る弾性波フィルタ20の回路構成を有しており、並列腕共振子251、252および253のそれぞれは、第1間引き電極を有している。また、弾性波フィルタ20の各弾性波共振子の共振周波数および反共振周波数、ならびに直列腕共振子102および104に付加された橋絡容量Cs2およびCs4の具体的数値は、実施例1に係る弾性波フィルタ10と、略同じである。実施例1および実施例2に係る弾性波フィルタは、例えば、LTEのBand30(受信帯域:2350-2360MHz)の受信用フィルタとして適用される。Band30は、受信帯域の帯域幅が10MHzであり、また、通過帯域よりも低周波側にSDARS帯(2336.2-2341.3MHz)の減衰帯域があり、狭帯域かつ低周波側端部における高い急峻性が要求される。
【0128】
図11に示すように、実施例2に係る弾性波フィルタ20によれば、並列腕共振子251、252および253が、それぞれ、第1間引き電極を含んでいることにより、共振比帯域の小さい並列腕共振回路を構成している。これにより、ラダー型の弾性波フィルタ20の通過帯域低周波側端部における急峻性を改善できる。また、第1間引き電極を含む、反射損失が大きい並列腕共振回路の反共振周波数Fap1~Fap3を、通過帯域よりも高周波側に位置させているので、通過帯域における挿入損失の悪化を低減できる。さらに、直列腕共振子101の共振周波数frs1を、並列腕共振回路の反共振周波数Fap1~Fap3よりも低周波側に位置させているので、通過帯域を狭帯域化できる。つまり、本実施例に係る弾性波フィルタ20によれば、通過帯域端部の急峻性および通過帯域の低損失性を両立させることが可能となる。
【0129】
本実施例に係る弾性波フィルタ20を、Band30における受信用フィルタに適用した場合、通過帯域内の挿入損失は1.91dBであり、実施例1における通過帯域内の挿入損失は2.02dBである。つまり、実施例2に係る弾性波フィルタ20は、実施例1に係る弾性波フィルタ10よりも、通過帯域内の挿入損失を低減することが可能である。
【0130】
これは、
図10Aに示すように、IDT電極に第1間引き電極を含む弾性波共振子の反共振周波数fa2付近のインピーダンスが、橋絡容量が付加された弾性波共振回路の反共振周波数Fa付近のインピーダンスよりも大きいことに起因するものである。このため、
図10Bに示すように、反共振周波数fa2付近における反射損失が、反共振周波数Fa付近における反射損失よりも小さくなる。これにより、並列腕共振回路の共振周波数から反共振周波数の領域で通過帯域が形成されるラダー型フィルタでは、反共振周波数fa2付近における反射損失が小さい実施例2の弾性波フィルタ20のほうが、挿入損失を低減できる。
【0131】
なお、実施例2に係る弾性波フィルタ20では、並列腕共振子251~253のIDT電極が第1間引き電極を含む構成であるのに対して、並列腕共振子251~253のIDT電極が第2間引き電極または第3間引き電極を含む構成であってもよい。この場合であっても、実施例2に係る弾性波フィルタ20と同様の効果を奏することが可能である。さらに、並列腕共振子251~253のIDT電極が、第1間引き電極、第2間引き電極および第3間引き電極以外の間引き電極を含む構成であっても、通過帯域端部の急峻性および通過帯域の低損失性を両立させることが可能となる。ただし、間引き電極のうち第1間引き電極(浮き間引き電極)が、弾性波フィルタの急峻性および低損失性を最適化することが可能となる。
【0132】
なお、本実施の形態に係る弾性波フィルタ20では、ラダー型フィルタを構成する3つの並列腕共振子251~253の全てが第1間引き電極、第2間引き電極および第3間引き電極のいずれかを含み、当該3つの並列腕共振回路の反共振周波数Fap1~Fap3の全てが、通過帯域よりも高周波側に位置している構成とした。しかしながら、本実施の形態に係る弾性波フィルタ20は、ラダー型フィルタを構成する3つの並列腕共振子のうちの少なくとも1つが第1間引き電極、第2間引き電極および第3間引き電極のいずれかを含み、第1間引き電極、第2間引き電極および第3間引き電極のいずれかを含む少なくとも1つの並列腕共振回路(第1並列腕共振回路)の反共振周波数が通過帯域よりも高周波側に位置していればよい。また、このとき、1以上の直列腕共振回路のうちの第1の直列腕共振回路の共振周波数が、上記少なくとも1つの並列腕共振回路(第1の並列腕共振回路)の反共振周波数よりも低周波側に位置していればよい。つまり、本実施の形態に係る弾性波フィルタでは、共振比帯域が小さくなるが反射損失が大きくなった並列腕共振回路の反共振周波数付近を通過帯域から外すことで、間引き電極による挿入損失悪化を抑制し、低損失かつ高い急峻性を有するフィルタ特性を実現するものである。
【0133】
なお、本実施の形態に係る弾性波フィルタ20のように、全ての並列腕共振回路の反共振周波数Fap1~Fap3が通過帯域よりも高周波側に位置し、第1の直列腕共振子回路の共振周波数を反共振周波数Fap1~Fap3よりも低周波側に位置させることにより、各並列腕共振回路の共振比帯域を小さくして通過帯域両端における急峻性、および、通過帯域における低損失化を最適化することが可能となる。
【0134】
(その他の変形例など)
以上、上記実施の形態に係る弾性波フィルタ10および20について、実施の形態を挙げて説明したが、本発明の弾性波フィルタは、上記実施の形態に限定されるものではない。上記実施の形態における任意の構成要素を組み合わせて実現される別の実施の形態や、上記実施の形態に対して本発明の主旨を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例や、上記実施の形態に係る弾性波フィルタ10および20を内蔵した各種機器も本発明に含まれる。
【0135】
上記実施の形態に係る弾性波フィルタ10および20を構成する弾性波共振子は、例えば、上述した弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)共振子であってもよいし、または、BAW(Bulk Acoustic Wave)デバイス、もしくは、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)等であってもよい。なお、SAWには、表面波だけでなく境界波も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明は、マルチバンド化およびマルチモード化された周波数規格に適用できる急峻性の高い弾性波フィルタとして、携帯電話などの通信機器に広く利用できる。
【符号の説明】
【0137】
5 基板
10、20 弾性波フィルタ
51 高音速支持基板
52 低音速膜
53 圧電膜
54 IDT電極
55 保護層
57 圧電単結晶基板
100 弾性波共振子
100a、100b、101a、101b、201a、201b、301a、301b 櫛形電極
101、102、103、104、301 直列腕共振子
141、241、341 反射器
150a、150b、151a、151b、152、251a、251b、254、351a、351b、352 電極指
160a、160b、161a、161b、261a、261b、361a、361b バスバー電極
201、202、203、251、251A、251B、251C、252、253、302 並列腕共振子
310、320 入出力端子
541 密着層
542 主電極層
Cp1、Cp2、Cp3、Cs2、Cs4 橋絡容量
L1 インダクタ