(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】黒色顔料分散体、黒色塗膜形成組成物、および塗工物
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20231011BHJP
C09B 67/20 20060101ALI20231011BHJP
C09B 67/22 20060101ALI20231011BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20231011BHJP
C09K 23/52 20220101ALI20231011BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20231011BHJP
C09D 7/41 20180101ALI20231011BHJP
C09B 47/04 20060101ALN20231011BHJP
C09B 57/04 20060101ALN20231011BHJP
C09B 57/00 20060101ALN20231011BHJP
【FI】
G02B5/22
C09B67/20 G
C09B67/20 J
C09B67/20 L
C09B67/22 Z
C09D17/00
C09K23/52
C09D201/00
C09D7/41
C09B47/04
C09B57/04
C09B57/00 Z
(21)【出願番号】P 2022091270
(22)【出願日】2022-06-06
【審査請求日】2022-08-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 寛
【審査官】中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-081108(JP,A)
【文献】特開2019-207303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20-5/28
C09B 67/20
C09B 67/22
C09D 17/00
C09K 23/52
C09D 201/00
C09D 7/41
C09B 47/04
C09B 57/04
C09B 57/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機顔料(A)、無水マレイン酸またはピロメリット酸無水物由来の構成単位を有する分散剤(X)、および有機溶剤を含有し、
有機顔料(A)は、フタロシアニン系青色顔料、ジケトピロロピロール系顔料、およびイソインドリン系顔料を含み、
ジケトピロロピロール系顔料がC.I.ピグメントレッド264であり、
分散剤(X)は、重量平均分子量1,000~100,000、かつ酸価10~200mgKOH/gであり、
前記有機溶剤100質量%中、イソホロンを70質量%以上含有する
黒色顔料分散体
と、
バインダー樹脂および重合性化合物の少なくともいずれかとを含む黒色塗膜形成組成物。
【請求項2】
フタロシアニン系青色顔料、ジケトピロロピロール系顔料、およびイソインドリン系顔料以外の、他の有機顔料の含有率は、有機顔料(A)の総量を基準として35質量%以下である、
請求項1記載の黒色
塗膜形成組成物。
【請求項3】
前記有機溶剤の含有率は、黒色顔料分散体を基準として、60質量%以上である、請求項1記載の黒色
塗膜形成組成物。
【請求項4】
さらに顔料誘導体を含有する、請求項1記載の黒色
塗膜形成組成物。
【請求項5】
前記顔料誘導体は、ベンズイミダゾロン系顔料を母体骨格として有する、請求項4記載の黒色
塗膜形成組成物。
【請求項6】
有機顔料(A)の平均一次粒子径が50nm以下である、請求項1記載の黒色
塗膜形成組成物。
【請求項7】
有機顔料(A)の総量を基準として、ジケトピロロピロール系顔料の含有率が30~35質量%である、請求項1記載の黒色
塗膜形成組成物。
【請求項8】
請求項1~7いずれか1項記載の
黒色塗膜形成組成物から形成された黒色塗膜を有する、塗工物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色顔料分散体、黒色塗膜形成組成物、および塗工物に関する。
【背景技術】
【0002】
人の目に見えない赤外線は、熱源、各種センサ、通信手段等として使用されている。これらのCCD等のセンサや通信手段用途の赤外線を発生する手段としては、例えば、中心波長850nmや940nmのLED(発光ダイオード)が使用されている。中心波長850nmのLEDは、一部可視光領域にも裾野が広がっている。そのため、見栄えをよくするため等の目的で、可視光を遮光し、赤外光を通過するインキ、フィルム、塗料等により、対象物をカバーするべく、様々な検討がされている。
【0003】
このうち、2種以上の顔料を混合した樹脂組成物を使用することにより、可視光領域においては透過率が低く(可視光を遮光し)、近赤外領域においては透過率が高くなる組成物を作製する方法がいくつか報告されている(例えば、特許文献1~3)
【0004】
特許文献1には、赤色顔料と、特定構造のアルミニウムフタロシアニンである青色顔料を、特定割合で混合した樹脂組成物が開示されている。
特許文献2には、アゾ系黄色顔料又はイソインドリン系黄色顔料と、ジオキサジン系紫色顔料を混合したカラーフィルタ用着色感放射線性組成物が開示されている。また特許文献3には、近赤外線透過性黒色アゾ顔料を用いた着色組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-063593号公報
【文献】特開2013-077009号公報
【文献】特開2015-110691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように各色の顔料組成や種類を調整することにより、可視光領域の遮光性を十分にすることはある程度可能であるものの、顔料は、近赤外領域にもわずかに吸収を持つため、特許文献1~3に開示されているような従来技術では、近赤外領域の透過率は必ずしも十分でなく、その結果、赤外線通過の妨げとなり、センサ等が十分に機能できない。そこで、可視光領域の遮光性が十分かつ近赤外領域の光の透過率が高く、さらに粘度および安定性に優れた黒色顔料分散体の開発が切望される。
【0007】
また、複数の有機顔料を混合して用いた黒色顔料分散体は安定性を保つことが難しく、保管後の粘度が高くなることがあり(以下、貯蔵安定性という)、これとバインダー樹脂および重合性化合物の少なくともいずれかを配合してなる黒色塗膜形成組成物を用いて形成した塗工物は耐光性やヘイズが悪くなる、といった問題がある。
【0008】
すなわち本発明は、粘度が低く、貯蔵安定性に優れる黒色顔料分散体を得ること。また、これとバインダー樹脂および重合性化合物の少なくともいずれかを配合してなる黒色塗膜形成組成物により形成された塗工物はヘイズが低く、耐光性に優れる。
さらに、可視光領域において光を透過せず、近赤外領域における透過率が大幅に改善された塗工物とすることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、有機顔料(A)、無水マレイン酸またはピロメリット酸無水物由来の構成単位を有する分散剤(X)、および有機溶剤を含有し、有機顔料(A)は、フタロシアニン系青色顔料、ジケトピロロピロール系顔料、およびイソインドリン系顔料を含み、分散剤(X)は、重量平均分子量1,000~100,000、かつ酸価10~200mgKOH/gであることを特徴とする黒色顔料分散体において、本発明の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、粘度が低く、貯蔵安定性に優れた黒色顔料分散体とすることができる。また、本発明の黒色顔料分散体とバインダー樹脂および重合性化合物の少なくともいずれかを配合してなる黒色塗膜形成組成物を用いて形成された塗工物はヘイズが低く、耐光性に優れる。
さらに、可視光領域においてほとんど光を透過せず、近赤外領域における透過率が大幅に改善されるため、赤外光透過型塗工物に好適に用いることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、任意に変更して実施することができる。
また、本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値の範囲として含むものとする。
また、以下に挙げる「C.I.」は、カラーインデックス(C.I.)を意味する。
また、本明細書では、「(メタ)アクリル」は、「アクリルまたはメタクリル」を表す。
モノマーとは、エチレン性不飽和基を有する化合物であり、単量体と同義である。
尚、本明細書では、「無水マレイン酸またはピロメリット酸無水物由来の構成単位を有する分散剤(X)」を、「分散剤(X)」と称することがある。
本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種単独でも二種以上を併用してもよい。
【0012】
本明細書において、分散剤(X)、バインダー樹脂、重合性化合物等の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定によって求めたポリスチレン換算の重量平均分子量である。これらは、[実施例]の項に記載の方法にて測定することができる。
【0013】
《黒色顔料分散体》
本発明の黒色顔料分散体は、有機顔料(A)、ピロメリット酸無水物または無水マレイン酸に由来する構造を有する分散剤(X)、および有機溶剤を含有する。本発明の黒色顔料分散体は、有機顔料(A)として、少なくともフタロシアニン系青色顔料、ジケトピロロピロール系顔料、およびイソインドリン系顔料を含有する。他に、本発明の効果を妨げない範囲で、他の有機顔料や無機顔料、染料を含有してもよい。
また、分散剤(X)は、重量平均分子量1,000~100,000、かつ酸価10~200mgKOH/gである。
黒色顔料分散体は、さらにバインダー樹脂等の塗膜形成成分を加え、黒色塗膜形成組成物として用いることもできる。
なお、本明細書では、分散時に熱可塑性樹脂等をさらに含む場合には、顔料分散体と定義し、顔料分散体にさらにバインダー樹脂として熱可塑性樹脂等を混合した顔料組成物は、黒色塗膜形成顔料組成物と定義する。
【0014】
<有機顔料(A)>
本発明の黒色顔料分散体は、有機顔料(A)として、フタロシアニン系青色顔料、ジケトピロロピロール系顔料、およびイソインドリン系顔料を含む。
これらの有機顔料(A)を用いることで、粘度が低く、貯蔵安定性に優れた黒色顔料分散体とすることができるだけでなく、得られた黒色塗膜はヘイズが低く、耐光性に優れる。さらに、可視光領域における透過率が小さく、近赤外領域における透過率も大幅に改善できる。
【0015】
それぞれの顔料の含有率は、可視光領域の遮光性の観点から、以下の範囲内であることが好ましい。
フタロシアニン系青色顔料の含有率は、有機顔料(A)の総量を基準として、25質量%以上が好ましく、34質量%以上がより好ましい。また、50質量%以下が好ましく、44質量%以下がより好ましい。
ジケトピロロピロール系顔料の含有率は、有機顔料(A)の総量を基準として、25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。また、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましい。
イソインドリン系顔料の含有率は、有機顔料(A)の総量を基準として、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましい。また、35質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0016】
また、有機顔料(A)は、低ヘイズ化および分光制御の観点から、平均一次粒子径が、1000nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることが特に好ましい。好ましくは、1nm以上である。
複数の有機顔料を有する黒色顔料分散体は、通常分散安定性を保つことが困難であるが、フタロシアニン系青色顔料、ジケトピロロピロール系顔料、およびイソインドリン系顔料のすべてがこの範囲にある本願の黒色顔料分散体は、分散剤(X)とともに用いることで、低粘度であり、また貯蔵安定性に優れたものとできる。
【0017】
なかでも、フタロシアニン系青色顔料がC.I.ピグメントブルー15:6、ジケトピロロピロール系顔料がC.I.ピグメントレッド264、イソインドリン系顔料がC.I.ピグメントイエロー139であることが、塗工物の可視光遮蔽性、および赤外光透過性に優れたものとできるために好ましい。
【0018】
平均一次粒子径の測定は、透過型電子顕微鏡(TEM)写真から一次粒子の大きさを直接計測することにより求められる。例えば、100個以上の顔料粒子について、個々の顔料の一次粒子の長軸径を計測し、その平均値をその顔料粒子の平均一次粒子径とすることができる。
【0019】
[フタロシアニン系青色顔料]
フタロシアニン系青色顔料は、分子内にフタロシアニン骨格を有する青色顔料であれば制限されない。
フタロシアニン系青色顔料は、金属フタロシアニン系青色顔料であることが好ましい。金属フタロシアニン系青色顔料は、公知の方法により製造することができる。
中心金属としては、Cu、Zn、Fe、Co、Ni、Ru、Pb、Rh、Pd、Pt、Mn、Sn、Pb、Ca、Mgなどの2価の金属原子等が挙げられる。
なかでも中心金属がCuである銅フタロシアニン顔料であることが好ましい。
【0020】
フタロシアニン系青色顔料としては例えば、C.I.ピグメントブルー15、ピグメントブルー15:1、ピグメントブルー15:2、ピグメントブルー15:3、ピグメントブルー15:4、ピグメントブルー15:5、ピグメントブルー15:6、及びピグメントブルー16等が挙げられる。
中でもC.I.ピグメントブルー15:6が分散安定性および分光制御の観点から好ましい。
【0021】
[ジケトピロロピロール系顔料]
ジケトピロロピロール系顔料は、分子内にジケトピロロピロール骨格を有する顔料であれば制限されない。また、可視光領域の遮光性の観点から、赤色顔料またはオレンジ色顔料であることが好ましい。
【0022】
ジケトピロロピロール系顔料としては例えば、C.I.ピグメントレッド254、ピグメントレッド255、ピグメントレッド264、ピグメントオレンジ71、及びピグメントオレンジ73等が挙げられる。
中でもC.I.ピグメントレッド264が分散安定性および分光制御の観点から好ましい。
【0023】
[イソインドリン系顔料]
イソインドリン系顔料は、分子内にイソインドリン骨格を有する顔料であれば制限されない。また、可視光領域の遮光性の観点から、黄色顔料またはオレンジ色顔料であることが好ましい。
【0024】
イソインドリン系顔料としては例えば、C.I.ピグメントイエロー139、ピグメントイエロー185、ピグメントオレンジ66、ピグメントオレンジ69、及びピグメントオレンジ260等が挙げられる。
中でもC.I.ピグメントイエロー139が分散安定性および分光制御の観点から好ましい。
【0025】
[その他有機顔料]
本発明の黒色顔料分散体は、フタロシアニン系青色顔料、ジケトピロロピロール系顔料、およびイソインドリン系顔料以外の、その他有機顔料を含有してもよい。
その他有機顔料としては、例えば、青色以外のフタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ペリレン系顔料、インダントロン系顔料などが挙げられる。
【0026】
その他有機顔料として具体的には例えば、C.I.ピグメントグリーン1、2、4、7、8、10、13、14、15、17、18、19、26、36、45、48、50、51、54、55、58、59等の緑色有機顔料、C.I.ピグメントバイオレット1、1:1、2、2:2、3、3:1、3:3,5,5:1、14、15、16、19、23、25、27、29、31、32、37、39、42、44、47、49、50等の紫色有機顔料等が挙げられる。
【0027】
他の有機顔料の含有率は、分散安定性および分光制御の観点から、少ない方が好ましく、有機顔料(A)の総量を基準(100質量%)として、35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下がより好ましく、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0028】
<顔料誘導体>
本発明の黒色顔料分散体には顔料誘導体を含有することが好ましい。
顔料誘導体とは、顔料分子に酸性基や塩基性基を導入した化合物である。顔料誘導体を含有することで、顔料表面を改質し、有機顔料の分散性、分散安定性、分散体の貯蔵安定性等を向上させることができる。
顔料誘導体の母体骨格となる顔料分子としては、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、アゾ系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キノフタロン系顔料、イソインドリン系顔料等が挙げられる。
これらの中でも、母体骨格としてフタロシアニン系顔料またはベンズイミダゾロン系顔料を有する顔料誘導体であることが好ましい。これらの母体骨格を有する顔料誘導体を使用することで、黒色顔料分散体の分散性および分散安定性を向上させることができ、さらに黒色塗膜形成組成物としたときの可視光遮蔽性と赤外光透過性をより優れたものとすることができる。
【0029】
本発明の黒色顔料分散体における、顔料誘導体の含有率は、特に限定されないが、本発明の有機顔料の組み合わせで発現する分光特性上の観点から、有機顔料(A)100質量部を基準として、0.1~30質量部であることが好ましく、0.5~20質量部であることがより好ましい。
【0030】
<分散剤(X)>
分散剤は、顔料の凝集を抑制し、分散安定性を向上させる機能を有する。
本発明の黒色顔料分散体は、分散剤(X)として、ピロメリット酸無水物または無水マレイン酸に由来する構造を有する共重合体である。
なお、分散剤(X)は、重量平均分子量1,000~100,000、かつ酸価10~200mgKOH/gである。
フタロシアニン系青色顔料、ジケトピロロピロール系顔料、およびイソインドリン系顔料と、分散剤(X)とを組み合わせて用いることにより、複数の有機顔料を含むにもかかわらず、低粘度であり、貯蔵安定性にも優れた黒色顔料分散体を得ることができる。さらに後述するバインダー樹脂を加えることで得られる黒色塗膜形成組成物により得られた塗工物は、ヘイズが低く、耐光性に優れる。
さらに、塗工物は、可視光領域の遮光性が十分であり、さらに近赤外領域における透過率が大幅に改善されるため、CCD等のセンサや通信手段に用いる場合に、赤外光透過型インキ、フィルム塗料等として好適に用いることができる。
【0031】
分散剤(X)のポリマー構造は、例えば、ランダム構造、ブロック構造、くし型構造、及び星型構造等が挙げられる。これらの中でも、分散安定性の観点から、ブロック構造、又はくし型構造が好ましい。
【0032】
分散剤(X)は、無水マレイン酸またはピロメリット酸無水物に由来する構成単位を有していればよく、無水マレイン酸もしくはピロメリット酸無水物単位、またはこれらが加水分解したマレイン酸もしくはピロメリット酸単位、または例えば、アルコールやアミノ基を有する化合物と反応し、エステル、アミド等を生成していてもよい。また、無水マレイン酸単位とマレイン酸単位やそのエステル化物、アミド化物、および、ピロメリット酸無水物とピロメリット酸単位やそのエステル化物、アミド化物は、それぞれ混在していてもよい。
【0033】
分散剤(X)を構成するモノマーは特に制限されず、無水マレイン酸またはピロメリット酸無水物以外に、分子内に(メタ)アクリロイル基、アリル基、ビニル基、ビニルエーテル基などの重合性基を有するその他モノマーを適宜用いることができる。
その他モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、α-オレフィン、その他ビニルモノマー等を使用することができる。
【0034】
モノマーとしては例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐(メタ)アクリル酸アルキルエステル;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレート等の環状(メタ)アクリル酸エステル;
テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、及び3-メチル-3-オキセタニル(メタ)アクリレート等の複素環を有する(メタ)アクリル酸エステル;
ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、及びフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等の芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステル;
2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、2-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノラウリルエーテル(メタ)アクリレート、及びポリエチレングリコールモノステアリルエーテル(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリル酸エステル;
平均炭素数5~50のα-オレフィン類;
エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、及びイソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;
酢酸ビニル、及びプロピオン酸ビニル等の脂肪酸ビニル類;
エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、ブチレンオキシ基等のアルキレンオキシ基を有する(ポリ)アルキレンオキシ基含有ビニルモノマー;
スチレン、及びα-メチルスチレン等のスチレン類;
などを用いることができる。
【0035】
分散剤(X)は、これらのモノマーの混合物を重合して合成できる。重合は、例えば、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等の、公知の方法で行うことができる。
重合には、重合開始剤を使用することが好ましい。重合開始剤としては、アゾ化合物、過酸化物等が挙げられる。
また、連鎖移動剤を使用してもよい。
重合には、例えば水や有機溶媒等の溶媒を使用することができる。
【0036】
分散剤(X)は、無水マレイン酸またはピロメリット酸無水物単位を主鎖に有する共重合体であってもよい。また、(メタ)アクリル酸エステル、またはビニルモノマー等からなる共重合体に、グラフト重合等により共重合体側鎖に無水マレイン酸またはピロメリット酸無水物由来の構成単位を導入してもよい。
【0037】
また、重合により得られた無水マレイン酸またはピロメリット酸無水物単位を有する共重合体を、必要に応じて、該共重合体の加水分解物や、その加水分解物の塩としてもよい。例えば、無水マレイン酸単位を有する場合、重合反応後に無水マレイン酸単位の一部又は全部を加水分解により開環して加水分解物を得ることができる。更に、共重合体の加水分解物のマレイン酸単位の一部又は全部をアルカリで中和することで、加水分解物の塩を得ることもできる。
これらの共重合体は、エチレンオキサイド、またはプロピレンオキサイド付加化合物等によりポリオキシアルキレン鎖を側鎖に導入した、くし型分散剤であってもよい。
【0038】
無水マレイン酸またはピロメリット酸無水物由来の構成単位の含有率は、分散剤(X)の酸価が10~200mgKOH/gとなる範囲であれば制限されないが、低粘度化、貯蔵安定性、および分光特性の観点から、共重合体を構成する全単量体100質量%を基準として、1質量%以上であることが好ましく、2~30質量%であることがより好ましく、3~20質量%であることがさらに好ましく、3~10質量%であることが特に好ましい。
なお、原料として、ピロメリット酸無水物および無水マレイン酸の両方を含む場合には、その合計量が、上記範囲内であることが好ましい。
【0039】
分散剤(X)の重量平均分子量は1,000~100,000である。低粘度化、および貯蔵安定性の観点から、3,000~90,000であることが好ましく、5,000~80,000であることがより好ましく、10,000~50,000であることが特に好ましい。
【0040】
分散剤(X)の酸価は10~200mgKOH/gである。低粘度化、貯蔵安定性、および分光特性の観点から、15~190mgKOH/gであることが好ましく、25~180mgKOH/gがより好ましく、50~160mgKOH/gであることが特に好ましい。
また、分散剤(X)のアミン価は、0mgKOH/gであることが好ましい。
【0041】
本発明の黒色顔料分散体における、分散剤(X)の含有率は、特に限定されないが、黒色顔料分散体100質量%を基準として、0.1~20質量%であることが好ましく、4~15質量%であることが好ましく、8~11質量%であることがより好ましい。
【0042】
分散剤(X)の含有量は、特に限定されないが、低粘度化、および貯蔵安定性の観点から、有機顔料(A)の総量100質量部に対して、5~100質量部であることが好ましく、20~90質量部であることが好ましく、30~55質量部であることがより好ましい。
【0043】
<有機溶剤>
本発明の黒色顔料分散体に含有される有機溶剤としては特に限定はなく、公知の有機溶剤を用いることができる。
具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のアルキレングリコールエーテル類、ジエチレングリコールモノメチルエーテルジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等のジアルキレングリコールエーテル類、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル等のトリアルキレングリコールエーテル類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のジアルキレングリコールモノアルキルアセテート類、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート類のトリアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルアミルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、メチルイソブチルケトン、イソホロン等のケトン類、2-ヒドロキシプロピオン酸エチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸メチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、3-メトキシ酢酸ブチル、3-メチル-3-メトキシ酢酸ブチル(3-メトキシ-3-メチル-1-ブチルアセテート)、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2-ヒドロキシ-2―メチルブタン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、2-ヒドロキシプロパン酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類、等が挙げられる。
【0044】
中でも、分散体の粘度、貯蔵安定性、および黒色塗膜形成組成物の塗工性や分光制御の観点から、ケトン類であるケトン系溶剤が好ましく、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ガンマブチロラクトン、イソホロン等の環状ケトン系溶剤がより好ましく、イソホロンがさらに好ましい。
【0045】
有機溶剤の含有率は、分散体の粘度、及び貯蔵安定性の観点から、黒色顔料分散体の総量を基準(100質量%)として、60質量%以上であること好ましく、61質量%以上であることがより好ましく、62質量%以上がさらに好ましく、65質量%以上が特に好ましい。また、80質量%以下であることが好ましい。
【0046】
黒色顔料分散体における環状ケトン系溶剤の含有率は、黒色顔料分散体の粘度、及び貯蔵安定性の観点から、有機溶剤の総量を基準(100質量%)として、70質量%以上であることが好ましく、75~100質量%であることが好ましく、80~100質量%であることがより好ましい。
【0047】
また、有機溶剤を添加するタイミングは、黒色顔料分散体を作製する際、あるいは黒色塗膜形成組成物を作製する際等、いずれの工程で使用しても構わない。
【0048】
<任意成分>
本実施形態の黒色顔料分散体は、用途に応じて、本発明の効果が低下しない範囲で、上記成分に加えて各種添加剤などのその他成分をさらに含んでよい。その他成分として、例えば、無機顔料、染料、ブロッキング防止剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、防腐剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、難燃剤、及び酸化防止剤等が挙げられる。
【0049】
無機顔料の具体例としては、カーボンブラック、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、亜鉛華、硫酸鉛、黄色鉛、亜鉛黄、べんがら(赤色酸化鉄(III))、カドミウム赤、群青、紺青、酸化クロム緑、コバルト緑、アンバー、チタンブラック、合成鉄黒、等が挙げられる。
【0050】
無機顔料の含有率は、分散安定性および分光制御の観点から、少ない方が好ましく、有機顔料(A)と無機顔料の総量を基準(100質量%)として、35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下がより好ましく、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0051】
<黒色顔料分散体の製造方法>
本発明の黒色顔料分散体は、有機顔料(A)、分散剤(X)、および有機溶剤と、必要に応じて顔料誘導体等を含む混合物を、例えば、二本ロールミル、三本ロールミル、サンドミル、ビーズミル、ニーダー、またはアトライター等の各種分散手段を用いて微細に分散して製造することができる。また、本発明の黒色顔料分散体は、フタロシアニン系青色顔料、ジケトピロロピロール系顔料、およびイソインドリン系顔料をそれぞれ別々に分散後、これらの分散体を混合して製造することもできる。
それぞれの顔料分散体を個別に作製した後で混合する場合、すべての顔料分散体の分散工程で分散剤(X)を用いる必要はなく、少なくとも1種の顔料分散体の製造に、分散剤(X)を用いていればよい。
本発明の黒色顔料分散体は、分散剤(X)を用いることで、フタロシアニン系青色顔料、ジケトピロロピロール系顔料、およびイソインドリン系顔料の全てを含む顔料混合物を、同時に一括で分散して分散体とする場合、及び、それぞれ個別に顔料分散体を作製した後で混合する場合のいずれであっても、低粘度かつ化および貯蔵安定性に優れた黒色顔料分散体を得ることができる。
なお、顔料分散体の製造時に、分散剤(X)以外の分散剤や、後述する熱可塑性樹脂等を必要に応じて添加してもよい。
【0052】
黒色顔料分散体を基準として、有機顔料(A)の総量は、低粘度化、および貯蔵安定性の観点から、5~30質量%であることが好ましく、10~25質量%であることがより好ましく、18~25質量%であることがさらに好ましい。
また、黒色顔料分散体の不揮発分は、低粘度化、および貯蔵安定性の観点から、6~45質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましい。
一般に、顔料を高濃度にするほど低粘度化や貯蔵安定性の確保は難しくなるが、本発明では高濃度であっても低粘度かつ貯蔵安定性良好な黒色顔料分散体を得ることができる。
【0053】
《黒色塗膜形成組成物》
本発明の黒色塗膜形成組成物の実施形態は、前述の黒色顔料分散体と、バインダー樹脂および重合性化合物の少なくともいずれかを含む。これにより、ヘイズが小さく、耐光性に優れる黒色塗膜とすることができる。さらに、可視光領域の遮光性と、近赤外領域の透過性に優れた黒色塗膜とすることができる。
また、光重合性開始剤、増感剤等を含んでいてもよい。
重合性化合物を用いる場合には、紫外線などの活性エネルギー線の照射により樹脂成分を生成する場合、光重合開始剤を用いることが好ましく、さらに増感剤を用いることがより好ましい。
【0054】
本発明の黒色塗膜形成組成物に含まれるバインダー樹脂および重合性化合物の少なくともいずれかの含有量は、特に限定されないが、黒色塗膜形成組成物を基準(100質量%)として、0.1~30質量%であることが好ましく、1~12質量%であることがより好ましい。
バインダー樹脂および重合性化合物の両方を含む場合には、合計量が上記範囲内であることが好ましい。
【0055】
[バインダー樹脂]
本発明において、黒色顔料分散体にバインダー樹脂を添加することで、黒色塗膜形成組成物とすることができる。バインダー樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エチレン性不飽和二重結合等を有する活性エネルギー線硬化性樹脂などが挙げられる。また、活性エネルギー線硬化性樹脂は、さらに熱硬化性を有することが好ましい。
【0056】
バインダー樹脂の重量平均分子量は、塗膜耐性の観点から、1,000~1,000,000が好ましく、2,000~500,000がより好ましい。
【0057】
熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ブチラール樹脂、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル樹脂、ビニル系樹脂、アルキッド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ゴム系樹脂、環化ゴム系樹脂、セルロース類、ポリエチレン(HDPE、LDPE)、ポリブタジエン、およびポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0058】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ロジン変性フマル酸樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、およびフェノール樹脂等が挙げられる。
【0059】
エチレン性不飽和二重結合を有する活性エネルギー線硬化性樹脂としては、水酸基を有する不飽和エチレン性単量体を用い、他のカルボキシル基を有する不飽和一塩基酸の単量体や、他の単量体とを共重合することによって得られた共重合体の側鎖水酸基に、イソシアネート基を有する不飽和エチレン性単量体のイソシアネート基を反応させる、など公知の方法で得られる、不飽和エチレン性二重結合を導入した樹脂が挙げられる。
【0060】
[重合性化合物]
重合性化合物は、重量平均分子量が10,000未満の化合物であり、活性エネルギー線の照射により樹脂成分を生成するモノマーもしくはオリゴマーである。
【0061】
重合性化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、エステルアクリレート、メチロール化メラミンの(メタ)アクリル酸エステル、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート等の各種アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ビニルホルムアミド、アクリロニトリル等が挙げられるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0062】
[光重合開始剤]
光重合開始剤は、例えば、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、4-t-ブチル-ジクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルフォリニル)フェニル]-1-ブタノン、または2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン等のアセトフェノン系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、またはベンジルジメチルケタール等のベンゾイン系化合物;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、または3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;チオキサントン、2-クロルチオキサントン、2-メチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、または2,4-ジエチルチオキサントン等のチオキサントン系化合物;2,4,6,-トリクロロ-s-トリアジン、2-フェニル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-トリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-ピペロニル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-スチリル-s-トリアジン、2-(ナフト-1-イル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-メトキシ-ナフト-1-イル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2,4-トリクロロメチル-(ピペロニル)-6-トリアジン、または2,4-トリクロロメチル-(4’-メトキシスチリル)-6-トリアジン等のトリアジン系化合物;1-(N-4-ベンゾイルフェニル-カルバゾール-3-イル)-ブタン-1,2-ジオン-2-オキシム-O-アセタート、1,2-オクタンジオン、1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-、1-(O-アセチルオキシム)、またはO-(アセチル)-N-(1-フェニル-2-オキソ-2-(4‘-メトキシ-ナフチル)エチリデン)ヒドロキシルアミン等のオキシムエステル系化合物;ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、または2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等のホスフィン系化合物;9,10-フェナンスレンキノン、カンファーキノン、エチルアントラキノン等のキノン系化合物;ボレート系化合物;カルバゾール系化合物;イミダゾール系化合物;あるいは、チタノセン系化合物等が用いられる。
【0063】
光重合開始剤の含有量は、有機顔料(A)100質量部に対して、5~200質量部が好ましく、10~150質量部がより好ましい。
【0064】
[増感剤]
増感剤は、例えば、カルコン誘導体、ジベンザルアセトン等に代表される不飽和ケトン類、ベンジルやカンファーキノン等に代表される1,2-ジケトン誘導体、ベンゾイン誘導体、フルオレン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、キサンテン誘導体、チオキサンテン誘導体、キサントン誘導体、チオキサントン誘導体、クマリン誘導体、ケトクマリン誘導体、シアニン誘導体、メロシアニン誘導体、オキソノール誘導体等のポリメチン色素、アクリジン誘導体、アジン誘導体、チアジン誘導体、オキサジン誘導体、α-アシロキシエステル、アシルフォスフィンオキサイド、メチルフェニルグリオキシレート、ベンジル、9,10-フェナンスレンキノン、カンファーキノン、エチルアンスラキノン、4,4‘-ジエチルイソフタロフェノン、3,3’または4,4‘-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4’4-ジエチルアミノベンゾフェノン等が挙げられる。
【0065】
増感剤の使用量は、光重合開始剤100質量部に対して、3~60重量部が好ましく、5~50質量部がより好ましい
【0066】
本発明の黒色塗膜形成組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で、さらに、例えば、濡れ性向上のための界面活性剤、レベリング剤、密着性向上のためのシランカップリング剤、密着促進剤、消包剤、ハジキ防止剤、酸化防止剤、凝集防止剤、紫外線吸収剤等を含有させることができる。
【0067】
黒色塗膜形成組成物は、従来公知の方法で製造できる。例えば、黒色顔料分散体と、バインダー樹脂および重合性化合物の少なくともいずれかと、必要に応じて下記任意成分を含む混合物を、ディスパー、二本ロール、三本ロール、サンドミル、ビーズミル、ニーダー等を用いて均一に混合、撹拌することにより製造できる。
【0068】
《塗工物》
塗工物は、黒色塗膜形成組成物から形成された黒色塗膜を有しており、基材と黒色塗膜を備える形態だけでなく、各種プラスチック素材に練りこみ成型加工の上、得られたフィルムや膜といった、黒色塗膜単体であってもよい。
黒色塗膜は、黒色塗膜形成組成物を塗布乾燥等することにより形成される。
【0069】
塗工物の製造方法は、特に限定されるものではなく、各種プラスチック基材、ガラス基材等の基材に黒色塗膜形成組成物を公知の方法で塗工し、乾燥することにより、基材上に黒色塗膜を形成して得られる。また、プラスチック素材へ練りこみ成型加工する方法等で作製することもできる。
基材上には、スリット塗工、インクジェット印刷、回転塗工、流延塗工、ロール塗工、スクリーン印刷等の各種塗工方法を適用して黒色塗膜を形成し、塗工物とすることができる。基材上に塗工された黒色塗膜の乾燥は、ホットプレート、オーブン等で適宜行い、塗工物が得られる。
【0070】
塗工物は、黒色塗膜を必要とする各種用途に用いることができ、例えば、自動車内外装品、建材、家具、家電製品、情報機器等に加飾を施す際に用いることができる。
【0071】
なかでも、可視光領域において光を透過せず、近赤外領域における透過率を大幅に改善することができることから、赤外光透過性が要求される用途に特に好適に用いることができる。
例えば、得られた塗工物をフォトダイオードと組み合わせることで、照度センサ、距離センサ、医療用センサ、ディスプレイ等のタッチセンサ、生体認証センサといった各種センサとして用いることができる。更に、本発明の黒色塗膜形成組成物を用いてフォトダイオード上にフォトリソグラフィー法を用いてパターニングすることで、固体撮像素子向け赤外線透過フィルタとして用いることができる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に特に限定されるものではない。尚、以下の記載において、「部」及び「%」とあるものは特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を表す。
また、表中の配合量は、質量部である。尚、表中の空欄は配合していないことを表す。
【0073】
〈有機顔料(A)の平均一次粒子径〉
有機顔料(A)の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)写真から一次粒子の大きさを直接計測する一般的な方法で測定した。具体的には、100個以上の顔料粒子について、個々の顔料の一次粒子の長軸径を計測し、その平均値をその顔料粒子の平均一次粒子径とした。
【0074】
〈重量平均分子量〉
重量平均分子量(Mw)は、RI検出器を装備したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定して求めた。装置としてHLC-8320GPC(東ソー社製)を用い、分離カラムを2本直列に繋ぎ、両方の充填剤には「TSK-GEL SUPER HZM-N」を2連でつなげて使用し、オーブン温度40℃、溶離液としてテトラヒドロフラン(THF)を用い、流速0.35mL/分で測定した。サンプルは1質量%となるようTHFに溶解し、20マイクロリットル注入した。分子量はいずれもポリスチレン換算値である。
【0075】
〈不揮発分)
不揮発分は、試料0.5gをアルミ容器に秤量し、電気オーブンで200℃雰囲気下10分後の乾燥前後の重量比から算出した。
不揮発分%=(乾燥後の重量)/(乾燥前の重量)×100
【0076】
〈分散剤および樹脂の酸価〉
分散剤溶液および樹脂溶液0.5~1.0部に、アセトン80mL及び水10mLを加えて攪拌して均一に溶解させ、0.1mol/Lの水酸化カリウム(KOH)水溶液を滴定液として、自動滴定装置(「COM-555」平沼産業社製)を用いて滴定し、分散剤溶液および樹脂溶液の酸価を測定した。そして、分散剤溶液および樹脂溶液の酸価と分散剤溶液および樹脂溶液の固形分濃度から、分散剤および樹脂の固形分あたりの酸価を算出した。
【0077】
分散剤(X)および樹脂の酸価は、有機溶剤を含まない、乾燥状態の分散剤および樹脂の値である。酸価(mgKOH/g)は次式により求めた。
酸価(mgKOH/g)={(5.611×α×F)/S}/(不揮発分濃度/100)
ただし、S:試料の採取量(g)
α:0.1mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液の消費量(ml)
F:0.1mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液の力価
【0078】
《微細化有機顔料(A)の製造例》
〈微細化フタロシアニン系青色顔料(A1-3)〉
フタロシアニン系青色顔料C.I.ピグメントブルー15:6(トーヨーカラー株式会社製リオノールブルーES)200部、塩化ナトリウム1400部、及びジエチレングリコール360部をステンレス製1ガロンニーダー(井上製作所製)に仕込み、80℃で6時間混練した。次にこの混練物を8000部の温水に投入し、80℃に加熱しながら2時間撹拌してスラリー状とし、濾過、水洗を繰り返して塩化ナトリウム及びジエチレングリコールを除いた後、85℃で一昼夜乾燥し、微細化フタロシアニン系青色顔料(A1-3)を得た。
【0079】
〈微細化ジケトピロロピロール系顔料(A2-4)〉
ジケトピロロピロール系顔C.I.ピグメントレッド264(BASF社製イルガジンルビンL4025)200部、塩化ナトリウム1200部、及びジエチレングリコール300部をステンレス製1ガロンニーダー(井上製作所製)に仕込み、80℃で6時間混練した。次にこの混練物を8000部の温水に投入し、80℃に加熱しながら2時間撹拌してスラリー状とし、濾過、水洗を繰り返して塩化ナトリウム及びジエチレングリコールを除いた後、85℃で一昼夜乾燥し、微細化ジケトピロロピロール系顔料(A2-4)を得た。
【0080】
〈微細化イソインドリン系顔料(A3-3)〉
イソインドリン系顔料C.I.ピグメントイエロー139(BASF社製パリオトールエローD1819)200部、塩化ナトリウム1400部、及びジエチレングリコール360部をステンレス製1ガロンニーダー(井上製作所製)に仕込み、80℃で6時間混練した。次にこの混練物を8000部の温水に投入し、80℃に加熱しながら2時間撹拌してスラリー状とし、濾過、水洗を繰り返して塩化ナトリウム及びジエチレングリコールを除いた後、85℃で一昼夜乾燥し、微細化イソインドリン系顔料(A3-3)を得た。
【0081】
《有機顔料(A)の平均一次粒子径》
実施例および比較例で用いた有機顔料(A)の平均一次粒子径を下記に示す。
【0082】
【0083】
《分散剤の製造例》
(分散剤(X-1))
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール8部、ピロメリット酸無水物12部、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート80部、触媒としてモノブチルスズオキシド0.2部を仕込み、窒素ガスで置換した後、120℃で5時間反応させた(第一工程)。酸価の測定で95%以上の酸無水物がハーフエステル化していることを確認した。次に、メチルメタクリレート15部、t-ブチルアクリレート10部、エチルアクリレート10部、メタクリル酸5部、ベンジルメタクリレート10部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート50部を仕込み、反応容器内を80℃に加熱して、2、2’-アゾビス(2、4-ジメチルバレロニトリル)1部を添加し、12時間反応した(第二工程)。不揮発分測定により95%が反応したことを確認した。次にフラスコ内を空気置換し、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート54.0部、ヒドロキノン0.1部を仕込み、70℃で4時間反応を行った(第三工程)。IRにてイソシアネート基に基づく2270cm-1のピーク消失を確認後、反応溶液を冷却して、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートで不揮発分調整することにより、不揮発分40%の分散剤(X-1)溶液を得た。得られた分散剤(X-1)の酸価は36mgKOH/g、重量平均分子量は12,000であった。
【0084】
(分散剤(X-2))
エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートをシクロヘキサノンに置き換えた以外は上記分散剤(X-1)と同様に合成し、不揮発分40%の分散剤(X-2)溶液を得た。得られた分散剤(X-2)の酸価は36mgKOH/g、重量平均分子量は12,000であった。
【0085】
(分散剤X-3)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、スチレンを1.4部(5モル%)、メトキシ-ポリエチレングリコール-アリルエーテル(日油株式会社製、ユニオックスPKA-5009、平均分子量550)83.6部(55モル%)、溶媒としてトルエンを5部仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を80℃に加熱して、開始剤としてtert-ブチル=2-エチルペルオキシヘキサノアート1.5部、無水マレイン酸12.2部(45モル%)を1時間で6分割して分けて投入した。その後、開始剤としてtert-ブチル=2-エチルペルオキシヘキサノアート1.3部を30分ごとに7回に分割して投入し、さらに3時間反応させた。次いで、減圧脱気によって、トルエンを除去し冷却し、さらに後、水を15.3部、触媒としてジアザビシクロウンデセンを0.05部加え、撹拌しながら80℃に加温し、4時間保持して反応を終了し、不揮発分100%の分散剤(X-3)を得た。分散剤(X-3)は、酸価166mgKOH/g、重量平均分子量25,000であった。
【0086】
(分散剤(X-4))
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、ブトキシ-ポリエチレングリコール-ポリプロピレングルコール-アリルエーテル(日油株式会社製、ユニオックスPKA-5016、平均分子量1600)93.2部(50モル%)、溶媒としてトルエンを5部仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を80℃に加熱して、開始剤としてtert-ブチル=2-エチルペルオキシヘキサノアート0.50部、無水マレイン酸5.7部を1時間で6分割して分けて投入した。その後、開始剤としてtert-ブチル=2-エチルペルオキシヘキサノアート0.5部を30分ごとに7回に分割して投入し、さらに3時間反応させた。次いで、減圧脱気によって、トルエンを除去し冷却し、さらに後、水を5.9部、触媒としてジアザビシクロウンデセンを0.05部加え、撹拌しながら80℃に加温し、4時間保持して反応を終了し、不揮発分100%の分散剤(X-4)を得た。分散剤(X-4)は、酸価65mgKOH/g、重量平均分子量36,000であった。
【0087】
(分散剤(X’-1))
ソルスパース41000(日本ルーブリゾール株式会社製)不揮発分100%
なお、ソルスパース41000はポリオキシエチレンアルキルエーテルをリン酸でエステル化した分散剤である。無水マレイン酸またはピロメリット酸無水物由来の構成単位を有さない。
【0088】
《バインダー樹脂溶液の製造例》
(アクリル樹脂(J-1)溶液)
セパラブル4口フラスコに温度計、冷却管、窒素ガス導入管、滴下管及び撹拌装置を取り付けた反応容器にエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート196部を仕込み、80℃に昇温し、反応容器内を窒素置換した後、滴下管より、ベンジルメタクリレート20.0部、n-ブチルメタクリレート17.2部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート12.9部、メタクリル酸12.0部、パラクミルフェノールエチレンオキサイド変性アクリレート(東亞合成株式会社製「アロニックスM110」)20.7部、2、2‘-アゾビスイソブチロニトリル1.1部の混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、更に3時間反応を継続し、アクリル樹脂の溶液を得た。
室温まで冷却した後、樹脂溶液約2部をサンプリングして180℃、20分加熱乾燥して不揮発分を測定し、先に合成した樹脂溶液に不揮発分が20重量%になるようにエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを添加して、アクリル樹脂(J-1)溶液を調製した。アクリル樹脂(J-1)の重量平均分子量(Mw)は26,000であった。
【0089】
(アクリル樹脂(J-2)溶液)
エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートをシクロヘキサノンに置き換えた以外は上記アクリル樹脂(J-1)溶液と同様に合成し、アクリル樹脂(J-2)溶液を調製した。アクリル樹脂(J-2)の重量平均分子量(Mw)は26,000であった。
【0090】
(アクリル樹脂(J-3)溶液)
エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートをガンマブチロラクトンに置き換えた以外は上記アクリル樹脂(J-1)溶液と同様に合成し、アクリル樹脂(J-3)溶液を調製した。アクリル樹脂(J-3)の重量平均分子量(Mw)は26,000であった。
【0091】
(アクリル樹脂(J-4)溶液)
エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートをイソホロンに置き換えた以外は上記アクリル樹脂(J-1)溶液と同様に合成し、アクリル樹脂(J-4)溶液を調製した。アクリル樹脂(J-4)の重量平均分子量(Mw)は26,000であった。
【0092】
《顔料誘導体》
顔料誘導体1;母体骨格フタロシアニン系顔料
【化1】
【0093】
【0094】
《有機溶剤》
S-1;エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート
S-2;シクロヘキサノン
S-3;ガンマブチロラクトン
S-4;イソホロン
【0095】
[実施例1]
下記混合物を均一になるように混合撹拌した後、直径1.25mmのジルコニアビーズ100部をマヨネーズビンに入れ、予備解砕としてペイントシェーカー(浅田鉄工株式会社製)にて1時間振とうした。その後、直径1.25mmのジルコニアビーズを取り出し、直径0.1mmのジルコニアビーズ150部を加えて、同様に、本分散としてペイントシェーカーにて4時間分散を行い、5μmのフィルタで濾過し、不揮発分が30質量%の黒色顔料分散体(P-1)を作製した。
[黒色顔料分散体(P-1)]
リオノールブルーFG-7400G(トーヨーカラー株式会社製) 8.0部
イルガジンレッド2030(BASF社製) 7.0部
パリオトールイエローD1155 6.0部
分散剤(X-1)溶液 22.5部
エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(S-1) 56.5部
【0096】
[実施例2~24、比較例1~4]
表2~4記載の組成、及び配合量(質量部)に変更した以外は、黒色顔料分散体(P-1)と同様にして、黒色顔料分散体(P-2~28)を得た。
なお、表2~4記載の配合量は、溶剤以外は不揮発分である。
【0097】
《黒色顔料分散体の評価》
本発明の黒色顔料分散体の粘度および貯蔵安定性を下記の方法で評価した。結果を表2~4に示す。
【0098】
<粘度測定>
得られた黒色顔料分散体について、回転式粘度計(アントンパール社製Visco QC 100)60rpmにて作製直後の粘度(初期粘度)と50℃1か月後の粘度(貯蔵安定性試験、以下促進粘度)を測定した。得られた粘度値を下記基準に従って判定した。尚、◎は非常に良好なレベル、○は良好なレベル、△は実用可能なレベル、×は実用には適さないレベルである。
[評価基準]
◎:100mPa・s未満
○:100mPa・s以上500mPa・s未満
△:500mPa・s以上1000mPa・s未満
×:1000mPa・s以上
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
顔料分散体(P-1~24)は、いずれも初期粘度が低く、また促進粘度も良好な結果を示した。
一方、顔料分散体(P-25~28)は、初期粘度は使用可能であるものの、促進粘度が大幅に悪化し、実用には適さない結果となった。
【0103】
[実施例25]
黒色顔料分散体(P-1)と、バインダー樹脂としてアクリル樹脂(J-1)溶液、および表面調整剤を下記の配合量で混合し、黒色塗膜形成組成物B-1を作製した。
[黒色塗膜形成組成物(B-1)]
黒色顔料分散体(P-1) 40.0部
アクリル樹脂(J-1)溶液 59.9部
表面調整剤(ビックケミージャパン株式会社製BYK-331) 0.1部
【0104】
[実施例26~50、比較例5~8]
表5に示すように、黒色顔料分散体、アクリル樹脂溶液の種類および配合量(質量部)に変更した以外は、黒色塗膜形成組成物B-1と同様にして、黒色塗膜形成組成物B-2~26、B-30~33を調製した。
【0105】
[実施例51]
黒色顔料分散体(P-1)と、下記化合物を均一に混合撹拌して、黒色塗膜形成組成物(B-27)を作製した。
[黒色塗膜形成組成物(B-27)]
黒色顔料分散体(P-1) 40.0部
重合性化合物(M-1) 11.9部
トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート
(東亞合成社製「アロニックスM310」)
光重合開始剤(K-1) 3.0部
2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン(IGM RESINS社製「Omnirad369」)
表面調整剤(ビックケミージャパン株式会社製BYK-331) 0.1部
エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(S-1) 45.0部
【0106】
[実施例52、53]
表5に示すように、黒色顔料分散体、重合性化合物、光重合開始剤、有機溶剤、表面調整剤の配合量(質量部)に変更した以外は、黒色塗膜形成組成物(B-27)と同様にして、黒色塗膜形成組成物(B-28、29)を調製した。
【0107】
《黒色塗膜形成組成物の評価》
黒色塗膜形成組成物のヘイズ、耐光性、可視光遮蔽性、赤外光透過性を下記の方法で評価した。結果を表5に示す。
【0108】
<塗工物1の作製>
得られた黒色塗膜形成組成物をガラス基板上に塗工し、実施例25~50、比較例5~8においては140℃30分加熱にて、実施例51~53ではスピンコーターを用いて塗布し、70℃20分乾燥後、高圧水銀ランプを用いて積算光量500mJ/cm2で紫外線露光することにより膜厚1.5μmの黒色塗膜を有する塗工物1を得た。
【0109】
<塗工物2の作製>
得られた黒色塗膜形成組成物をガラス基板上に塗工し、実施例25~50、比較例5~8においては140℃30分乾燥にて、実施例51~53ではスピンコーターを用いて塗布し、70℃20分乾燥後、高圧水銀ランプを用いて積算光量500mJ/cm2で紫外線露光することにより膜厚3μmの黒色塗膜を有する塗工物2を得た。
【0110】
<ヘイズ>
塗工物1について、ヘイズメーター(日本電色工業社製NDH7000II)で黒色塗膜のヘイズを測定した。尚、ヘイズが3未満は実用可能レベルであり、数値が小さい程、良好なレベルである。
【0111】
<耐光性>
塗工物1について、顕微分光光度計(オリンパス光学社製「OSP-SP100」)を用い、[L*(1)、a*(1)、b*(1)]を測定した。その後、耐光性試験機(TOYOSEIKI社製「SUNTEST CPS+」)に入れ、太陽光同等の分光分布となるキセノンランプを用いて、470W/m2で100時間の耐光性試験を実施した。試験後の色度[L*(2)、a*(2)、b*(2)]を測定し、下記式により、色差ΔE*a*b*を求め、下記基準に従って判定した。尚、◎は非常に良好なレベル、○は良好なレベル、×は実用には適さないレベルである。
ΔE*a*b*=[[L*(2)-L*(1)]2+[a*(2)-a*(1)]2+[b*(2)-b*(1)]2]1/2
[評価基準]
◎:ΔE*a*b*=3.0未満
○:ΔE*a*b*=3.0以上5.0未満
×:ΔE*a*b*=5.0以上
【0112】
<可視光遮蔽性>
塗工物2について、紫外可視近赤外分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製「UH4150」)を用い、可視光領域である波長400~700nmの透過率を測定し、下記基準に従って、可視光遮蔽性を判定した。尚、◎は非常に良好なレベル、○は良好なレベル、△は実用可能なレベル、×は実用には適さないレベルである。
[評価基準]
◎:最大透過率が3%未満
○:最大透過率が3%以上5%未満
△:最大透過率が5%以上10%未満
×:最大透過率が10%以上
【0113】
<赤外光透過性>
塗工物2について、紫外可視近赤外分光光度計を用い、赤外光領域である波長940nmの透過率を測定し、下記基準に従って、赤外光透過性を判定した。尚、◎は非常に良好なレベル、○は良好なレベル、×は実用には適さないレベルである。
[評価基準]
◎:最大透過率が90%以上
○:最大透過率が90%未満85%以上
×:最大透過率が85%未満
【0114】
【0115】
黒色顔料分散体P-1~24を用いて作製した黒色塗膜形成組成物B-1~29は、ヘイズが低く、耐光性が良好であり、様々な用途への黒色塗膜の適用が可能であるといえる。とくに、可視光遮蔽性および赤外光透過性に優れる結果であることから、センサ等への用途にも好適に用いることができる。
一方、P-25~28を用いて作製した黒色塗膜形成組成物B-30~33では、ヘイズが高く、耐光性も劣る。さらに、可視光を透過し、充分な遮光性が得られなかった。
【要約】
【課題】
粘度が低く、貯蔵安定性に優れる黒色顔料分散体を得ること。また、これとバインダー樹脂および重合性化合物の少なくともいずれかを配合してなる黒色塗膜形成組成物により、ヘイズが低く、耐光性に優れる塗工物を提供すること。
さらに、可視光領域において光を透過せず、近赤外領域における透過率が大幅に改善された塗工物を提供すること。
【解決手段】
有機顔料(A)、無水マレイン酸またはピロメリット酸無水物由来の構成単位を有する分散剤(X)、および有機溶剤を含有し、
有機顔料(A)は、フタロシアニン系青色顔料、ジケトピロロピロール系顔料、およびイソインドリン系顔料を含み、
分散剤(X)は、重量平均分子量1,000~100,000、かつ酸価10~200mgKOH/gであることを特徴とする黒色顔料分散体により解決される。
【選択図】なし