IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋紡株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】液晶表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1335 20060101AFI20231011BHJP
   G02F 1/13357 20060101ALI20231011BHJP
   G02F 1/13363 20060101ALI20231011BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
G02F1/1335 510
G02F1/13357
G02F1/13363
G02B5/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022150709
(22)【出願日】2022-09-21
(62)【分割の表示】P 2019502994の分割
【原出願日】2018-02-27
(65)【公開番号】P2022180530
(43)【公開日】2022-12-06
【審査請求日】2022-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2017037204
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018011670
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 洋平
(72)【発明者】
【氏名】早川 章太
(72)【発明者】
【氏名】村田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 靖
(72)【発明者】
【氏名】向山 幸伸
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-044389(JP,A)
【文献】国際公開第2017/010444(WO,A1)
【文献】特開2007-199522(JP,A)
【文献】特開2007-233114(JP,A)
【文献】特表2008-537803(JP,A)
【文献】特開2010-008863(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0135935(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1335 - 1/13363
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックライト光源、2つの偏光板、及び前記2つの偏光板の間に配置された液晶セルを有する液晶表示装置であって、
前記バックライト光源は、400nm以上495nm未満、495nm以上600nm未満及び600nm以上780nm以下の各波長領域にそれぞれ発光スペクトルのピークトップを有し、かつ、600nm以上780nm以下の波長領域における最もピーク強度の高いピークの半値幅が5nm未満である発光スペクトルを有する白色光源であり、
前記偏光板のうち少なくとも一方の偏光板は、偏光子の少なくとも一方の面にポリエステルフィルムが積層されたものであり、
前記ポリエステルフィルムは、1500nm以上30000nm以下の面内リタデーションを有し、
前記ポリエステルフィルムは、少なくとも一方の面に反射防止層及び/又は低反射層が積層されており、
前記600nm以上780nm以下の波長領域における最もピーク強度の高いピークのピークトップの波長における、反射防止層及び/又は低反射層が積層された側から測定した、反射防止層及び/又は低反射層が積層されたポリエステルフィルムの反射率が2%以下であることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
前記バックライト光源の発光スペクトルは、
400nm以上495nm未満の波長領域における最もピーク強度の高いピークの半値幅が5nm以上であり、
495nm以上600nm未満の波長領域における最もピーク強度の高いピークの半値幅が5nm以上である、
請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記600nm以上780nm以下の波長領域における最もピーク強度の高いピークのピークトップの波長が、620nm以上640nm以下の領域にある、請求項1または2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記600nm以上780nm以下の波長領域における最もピーク強度の高いピークのピークトップの波長が630nmである、請求項1~3のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項5】
バックライト光源、2つの偏光板、及び前記2つの偏光板の間に配置された液晶セルを有する液晶表示装置であって、
前記バックライト光源は、Mn4+付活フッ化物錯体蛍光体を含む白色光源であり、
前記偏光板のうち少なくとも一方の偏光板は、偏光子の少なくとも一方の面にポリエステルフィルムが積層されたものであり、
前記ポリエステルフィルムは、1500nm以上30000nm以下の面内リタデーションを有し、
前記ポリエステルフィルムは、少なくとも一方の面に反射防止層及び/又は低反射層が積層されており、
前記Mn 4+ 付活フッ化物錯体蛍光体を含む白色光源が発する発光スペクトルの600nm以上780nm以下の波長領域における最もピーク強度の高いピークのピークトップの波長における、反射防止層及び/又は低反射層が積層された側から測定した、反射防止層及び/又は低反射層が積層されたポリエステルフィルムの反射率が2%以下であることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項6】
前記ポリエステルフィルムの面内リタデーション(Re)と厚み方向のリタデーション(Rth)との比(Re/Rth)が0.2~2.0である、請求項1~5のいずれかに記載の液晶表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子保護フィルム、偏光板、及び液晶表示装置に関する。詳しくは、虹状の色斑の発生が改善された液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)に使用される偏光板は、通常ポリビニルアルコール(PVA)などにヨウ素を染着させた偏光子を2枚の偏光子保護フィルムで挟んだ構成であり、偏光子保護フィルムとしては通常トリアセチルセルロース(TAC)フィルムが用いられている。近年、LCDの薄型化に伴い、偏光板の薄層化が求められるようになっている。しかし、このために保護フィルムとして用いられているTACフィルムの厚みを薄くすると、充分な機械強度を得ることが出来ず、また透湿性が悪化するという問題が発生する。また、TACフィルムは非常に高価であり、安価な代替素材としてポリエステルフィルムが提案されているが(特許文献1~3)、虹状の色斑が発生する問題があった。
【0003】
偏光子の片側に複屈折性を有する配向ポリエステルフィルムを配した場合、バックライトユニット、または、偏光子から出射した直線偏光はポリエステルフィルムを通過する際に偏光状態が変化する。透過した光は配向ポリエステルフィルムの複屈折と厚さの積であるリタデーションに特有の干渉色を示す。そのため、光源として冷陰極管や熱陰極管など不連続な発光スペクトルを用いると、波長によって異なる透過光強度を示し、虹状の色斑となる(参照:第15回マイクロオプティカルカンファレンス予稿集、第30~31項)。
【0004】
上記の問題を解決する手段として、バックライト光源として白色発光ダイオードのような連続的で幅広い発光スペクトルを有する白色光源を用い、更に偏光子保護フィルムとして一定のリタデーションを有する配向ポリエステルフィルムを用いることが提案されている(特許文献4)。白色発光ダイオードでは、可視光領域において連続的で幅広い発光スペクトルを有する。そのため、複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状に着目すると、配向ポリエステルフィルムのレタデーションを制御することで、光源の発光スペクトルと相似なスペクトルを得ることが可能となり、これにより虹斑を抑制することが可能となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-116320号公報
【文献】特開2004-219620号公報
【文献】特開2004-205773号公報
【文献】WO2011/162198
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の液晶表示装置の色域拡大要求の高まりから、青色領域(400nm以上495nm未満)、緑色領域(495nm以上600nm未満)及び赤色領域(600nm以上780nm以下)の各波長領域にそれぞれ発光スペクトルのピークトップを有し、赤色領域(600nm以上780nm以下)におけるピークの半値幅が比較的狭い(5nm未満)発光スペクトルを有する白色発光ダイオード(例えば、青色発光ダイオードと、蛍光体として少なくとも KSiF:Mn4+等のフッ化物蛍光体とを有する白色発光ダイオード等)からなるバックライト光源を使用した液晶表示装置が開発されている。
【0007】
偏光子保護フィルムとしてポリエステルフィルムを用いた偏光板を用いて液晶表示装置を工業的に生産する場合、偏光子の透過軸とポリエステルフィルムの進相軸の方向は、通常互いに垂直になるように配置される。これは、偏光子であるポリビニルアルコールフィルムは、縦一軸延伸をして製造されるところ、その保護フィルムであるポリエステルフィルムは、縦延伸した後、横延伸をして製造されるため、ポリエステルフィルム配向主軸方向は横方向となり、これらの長尺物を貼り合わせて偏光板が製造されると、ポリエステルフィルムの進相軸と偏光子の透過軸は通常垂直方向となるためである。この場合、ポリエステルフィルムとして特定のリタデーションを有する配向ポリエステルフィルムを用い、バックライト光源として例えば、青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色LEDに代表される、連続的で幅広い発光スペクトルを有する光源を用いることにより、虹状の色斑は大幅に改善されるものの、赤色領域(600nm以上780nm以下)におけるピークの半値幅が比較的狭い(5nm未満)発光スペクトルを有する白色発光ダイオードからなるバックライト光源を用いた場合、依然として虹斑が生じるという新たな課題が存在することを発見した。
【0008】
すなわち、本発明の課題は、青色領域(400nm以上495nm未満)、緑色領域(495nm以上600nm未満)及び赤色領域(600nm以上780nm以下)の各波長領域にそれぞれ発光スペクトルのピークトップを有し、赤色領域(600nm以上780nm以下)におけるピークの半値幅が比較的狭い(5nm未満)発光スペクトルを有する白色発光ダイオードからなるバックライト光源を有する液晶表示装置において、偏光子保護フィルムとしてポリエステルフィルムを用いた場合にも、虹斑が抑制された液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
代表的な本発明は、以下の通りである。
項1.
バックライト光源、2つの偏光板、及び前記2つの偏光板の間に配置された液晶セルを有する液晶表示装置であって、
前記バックライト光源は、400nm以上495nm未満、495nm以上600nm未満及び600nm以上780nm以下の各波長領域にそれぞれ発光スペクトルのピークトップを有し、かつ、600nm以上780nm以下の波長領域における最もピーク強度の高いピーク(600nm以上780nm以下の波長領域におけるピークトップが最も高いピーク)の半値幅が5nm未満である発光スペクトルを有する白色発光ダイオードであり、
前記偏光板のうち少なくとも一方の偏光板は、偏光子の少なくとも一方の面にポリエステルフィルムが積層されたものであり、
前記ポリエステルフィルムは、1500nm以上30000nm以下のリタデーションを有し、
前記ポリエステルフィルムは、少なくとも一方の面に反射防止層及び/又は低反射層が積層されており、
前記600nm以上780nm以下の波長領域における最もピーク強度の高いピークのピークトップの波長における、反射防止層及び/又は低反射層が積層された側から測定した、反射防止層及び/又は低反射層が積層されたポリエステルフィルムの反射率が2%以下であることを特徴とする液晶表示装置。
項2.
前記バックライト光源の発光スペクトルは、
400nm以上495nm未満の波長領域における最もピーク強度の高いピークの半値幅が5nm以上であり、
495nm以上600nm未満の波長領域における最もピーク強度の高いピークの半値幅が5nm以上である、
項1に記載の液晶表示装置。
項3.
前記600nm以上780nm以下の波長領域における最もピーク強度の高いピークのピークトップの波長が、620nm以上640nm以下にある、項1又は2に記載の液晶表示装置。
項4.
前記600nm以上780nm以下の波長領域における最もピーク強度の高いピークのピークトップの波長が630nmである、項1又は2に記載の液晶表示装置。
項5.
1500nm以上30000nm以下のリタデーションを有し、少なくとも一方の面に反射防止層及び/又は低反射層が積層されたポリエステルフィルムからなる偏光子保護フィルムであって、
波長600nm以上780nm以下の波長領域のいずれかの波長における、反射防止層及び/又は低反射層が積層された側から測定した反射率が2%以下である、偏光子保護フィルム。
項6.
前記いずれかの波長が620nm以上640nm以下にある、項5に記載の偏光子保護フィルム。
項7.
前記いずれかの波長が630nmである、項5に記載の偏光子保護フィルム。
項8.
偏光子の少なくとも一方の面に項5~7のいずれかに記載の偏光子保護フィルムが積層された偏光板。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液晶表示装置、偏光板、及び偏光子保護フィルムは、いずれの観察角度においても虹状の色斑の発生が有意に抑制された良好な視認性を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一般に、液晶表示装置は、バックライト光源側から画像を表示する側(視認側)に向かう順に、後面モジュール、液晶セルおよび前面モジュールから構成されている。後面モジュールおよび前面モジュールは、一般に、透明基板と、その液晶セル側表面に形成された透明導電膜と、その反対側に配置された偏光板とから構成されている。ここで、偏光板は、後面モジュールでは、バックライト光源側に配置され、前面モジュールでは、画像を表示する側(視認側)に配置されている。
【0012】
本発明の液晶表示装置は少なくとも、バックライト光源と、2つの偏光板の間に配され
た液晶セルとを構成部材とする。
【0013】
また、液晶表示装置は、バックライト光源、偏光板、液晶セル以外に他の構成、例えばカラーフィルター、レンズフィルム、拡散シート、反射防止フィルムなどを適宜有しても構わない。光源側偏光板とバックライト光源の間に、輝度向上フィルムを設けてもよい。輝度向上フィルムとしては、例えば、一方の直線偏光を透過し、それと直交する直線偏光を反射する反射型偏光板が挙げられる。反射型偏光板としては、例えば、住友スリーエム株式会社製のDBEF(登録商標)(Dual Brightness Enhancement Film)シリーズの輝度向上フィルムが好適に用いられる。なお、反射型偏光板は、通常、反射型偏光板の吸収軸と光源側偏光板の吸収軸とが平行になるように配置される。
【0014】
液晶表示装置内に配置される2つの偏光板のうち、少なくとも一方の偏光板は、ポリビニルアルコール(PVA)などにヨウ素を染着させた偏光子の少なくとも一方の面にポリエステルフィルムが積層されたものである。本発明においては、虹状の色斑を抑制する観点から、ポリエステルフィルムは特定のリタデーションを有し、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に、反射防止層及び/又は低反射層が積層されたものである。反射防止層及び/又は低反射層は、ポリエステルフィルムの偏光子を積層する面とは反対側の面に設けてもよいし、ポリエステルフィルムの偏光子を積層する面に設けてもよいし、その両方であっても構わない。ポリエステルフィルムの偏光子を積層する面とは反対側の面に反射防止層及び/又は低反射層を設けることが好ましい。また、反射防止層及び/又は低反射層と、ポリエステルフィルムとの間には、他の層(例えば易接着層、ハードコート層、防眩層、帯電防止層、防汚層等)が存在してもよい。より虹状の色斑を抑制する観点から、偏光子の透過軸と平行な方向の、前記ポリエステルフィルムの屈折率は、1.53~1.62であることが好ましい。偏光子の他方の面には、TACフィルムやアクリルフィルム、ノルボルネン系フィルムに代表されるような複屈折が実質的に無い(リタデーションの低い)フィルムが積層されることが好ましいが(3層構成の偏光板)、必ずしも偏光子の他方の面にフィルムが積層される必要はない(2層構成の偏光板)。なお、偏光子の両側の保護フィルムとしてポリエステルフィルムが用いられる場合、両方のポリエステルフィルムの遅相軸は互いに略平行であることが好ましい。ここで略平行であるとは、二軸によって形成される角が、-15°~15°、好ましくは-10°~10°、より好ましく-5°~5°、更に好ましくは-3°~3°、より更に好ましくは-2°~2°、一層好ましくは-1°~1°であることを意味する。
【0015】
偏光子は、当該技術分野において使用される任意の偏光子(偏光フィルム)を適宜選択して使用することができる。代表的な偏光子としては、ポリビニルアルコールフィルム等にヨウ素等の二色性材料を染着させたものを挙げることができるが、これに限定されるものではなく、公知及び今後開発され得る偏光子を適宜選択して用いることができる。
【0016】
PVAフィルムは、市販品を用いることができ、例えば、「クラレビニロン((株)クラレ製)」、「トーセロビニロン(東セロ(株)製)]、「日合ビニロン(日本合成化学(株)製)]等を用いることができる。二色性材料としてはヨウ素、ジアゾ化合物、ポリメチン染料等を挙げることができる。
【0017】
偏光子は、任意の手法で得ることができ、例えば、PVAフィルムを二色性材料で染着させたものをホウ酸水溶液中で一軸延伸し、延伸状態を保ったまま洗浄及び乾燥を行うことにより得ることができる。一軸延伸の延伸倍率は、通常4~8倍程度であるが特に制限されない。他の製造条件等は公知の手法に従って適宜設定することができる。
【0018】
バックライトの構成としては、導光板や反射板などを構成部材とするエッジライト方式であっても、直下型方式であっても構わないが、本発明では、液晶表示装置のバックライト光源として、400nm以上495nm未満、495nm以上600nm未満、及び600nm以上750nm以下の各波長領域にそれぞれ発光スペクトルのピークトップを有し、かつ、600nm以上780nm以下の波長領域における最もピーク強度の高いピークの半値幅が5nm未満である発光スペクトルを有する白色発光ダイオードからなるバックライト光源が好ましい。600nm以上780nm以下の波長領域における最も高いピーク強度を有するピークの半値幅の上限は5nm未満が好ましく、より好ましくは4nm未満、さらに好ましくは3.5nm未満である。下限は1nm以上が好ましく、より好ましくは1.5nm以上である。ピークの半値幅が5nm未満であると、液晶表示装置の色域が広がるため好ましい。また、ピークの半値幅の下限は特に無いが、1nmと設定することができる。ピーク半値幅が1nm未満であると、発光効率が悪くなるおそれがある。要求される色域と発光効率のバランスから発光スペクトルの形状が設計される。なお、ここで、半値幅とは、ピークトップの波長におけるピーク強度の、1/2の強度におけるピーク幅(nm)のことである。
【0019】
上述した特徴を持つ発光スペクトルを有するバックライト光源のLCDへの適用は、近年の色域拡大要求の高まりから注目されている技術である。従来から使用されている白色LED(例えば、青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子)をバックライト光源として使用するLEDでは、人間の目が認識可能なスペクトルの20%程度しか色を再現することが出来ない。これに対し上述した特徴を持つ発光スペクトルを有するバックライト光源を用いた場合、60%以上の色を再現することが可能になると言われている。
【0020】
前記400nm以上495nm未満の波長領域は、より好ましくは430nm以上470nm以下である。前記495nm以上600nm未満の波長領域は、より好ましくは510nm以上560nm以下である。前記600nm以上780nm以下の波長領域は、より好ましくは600nm以上700nm以下であり、さらにより好ましくは610nm以上680mn以下である。前記600nm以上780nm以下の波長領域の好ましい一態様としては、620nm以上640nm以下であり、特に好ましくは630nmである。
【0021】
発光スペクトルの400nm以上495nm未満、495nm以上600nm未満の各波長領域のピークトップにおけるピーク半値幅(各波長領域における最も高いピーク強度を有するピークの半値幅)は、特に限定されないが、400nm以上495nm未満の波長領域における最も高いピーク強度を有するピークの半値幅が5nm以上であることが好ましく、495nm以上600nm未満の波長領域における最も高いピーク強度を有するピークの半値幅が5nm以上であることが好ましい。適正な色域を確保する観点から、400nm以上495nm未満、495nm以上600nm未満の各波長領域のピークトップにおけるピーク半値幅(各波長領域における最も高いピーク強度を有するピークの半値幅)の上限は、好ましくは140nm以下であり、好ましくは120nm以下であり、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは80nm以下であり、さらに好ましくは60nm以下であり、よりさらに好ましくは50nm以下である。
【0022】
上述した特徴を持つ発光スペクトルを有する白色光源として、具体的には、例えば、青色発光ダイオードと蛍光体を組み合わせた蛍光体方式の白色発光ダイオードが挙げられる。前記蛍光体のうち赤色蛍光体としては、例えば組成式がKSiF:Mn4+であるフッ化物蛍光体(「KSF」ともいう)、その他が例示される。Mn4+付活フッ化物錯体蛍光体は、Mn4+を付活剤、アルカリ金属、アミンまたはアルカリ土類金属のフッ化物錯体塩を母体結晶とする蛍光体である。母体結晶を形成するフッ化物錯体には、配位中心が3価金属(B、Al、Ga、In、Y、Sc、ランタノイド)のもの、4価金属(Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Re、Hf)のもの、5価金属(V、P、Nb、Ta)のものがあり、その周りに配位するフッ素原子の数は5~7である。
【0023】
Mn4+付活フッ化物錯体蛍光体の好適例としては、A[MF]:Mn(AはLi、Na、K、Rb、Cs、及びNHから選ばれる一種以上;MはGe、Si、Sn、Ti、及びZrから選ばれる一種以上)、E[MF]:Mn(EはMg、Ca、Sr、Ba、及びZnから選ばれる一種以上;MはGe、Si、Sn、Ti、及びZrから選ばれる一種以上)、Ba0.65、Zr0.352.70:Mn、A[ZrF]:Mn(AはLi、Na、K、Rb、Cs、及びNHから選ばれる一種以上)、A[MF]:Mn(AはLi、Na、K、Rb、Cs、及びNHから選ばれる一種以上;MはAl、Ga、及びInから選ばれる一種以上)、A[MF]:Mn(AはLi、Na、K、Rb、Cs、及びNHから選ばれる一種以上;MはAl、Ga、及びInから選ばれる一種以上)、Zn[MF]:Mn(MはAl、Ga、及びInから選ばれる一種以上)、A[In]:Mn(AはLi、Na、K、Rb、Cs、及びNHから選ばれる一種以上)などがある。
【0024】
好ましいMn4+付活フッ化物錯体蛍光体のひとつは、アルカリ金属のヘキサフルオロ錯体塩を母体結晶とするAMF:Mn(AはLi、Na、K、Rb、Cs、及びNHから選ばれる一種以上;MはGe、Si、Sn、Ti、及びZrから選ばれる一種以上)である。中でも好ましいのは、AがK(カリウム)及びNa(ナトリウム)から選ばれる1種以上、MがSi(ケイ素)またはTi(チタン)であるものである。その中でも特に、AがKであり(A全量に占めるKの比率が99モル%以上)、MがSiであるものが好ましい。付活元素はMn(マンガン)が100%であることが望ましいが、付活元素の全量に対し10モル%未満の範囲でTi、Zr、Ge、Sn、Al、Ga、B、In、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、Ru、Ag、Zn、及びMgなどが含まれていてもよい。MがSiの場合、SiとMnとの合計におけるMnの割合は、0.5モル%~10モル%の範囲内であることが望ましい。他の好ましいMn4+付活フッ化物錯体蛍光体として、化学式A2+xMn(AはNaおよびK;MはSiおよびAl;-1≦x≦1かつ0.9≦y+z≦1.1かつ0.001≦z≦0.4かつ5≦n≦7)で表されるものが挙げられる。
【0025】
バックライト光源には、青色発光ダイオードと蛍光体として少なくともフッ化物蛍光体とを有する白色発光ダイオードが好ましく、特に好ましくは、青色発光ダイオードと蛍光体として少なくともKSiF:Mn4+であるフッ化物蛍光体とを有する白色発光ダイオードである。例えば、日亜化学工業株式会社製の白色LEDであるNSSW306FT等の市販品を用いることができる。
【0026】
また、前記蛍光体のうち緑色蛍光体としては、例えばβ-SiAlON:Eu等を基本組成とするサイアロン系蛍光体、(Ba,Sr)SiO:Eu等を基本組成とするシリケート系蛍光体、その他が例示される。
【0027】
なお、400nm以上495nm未満の波長領域、495nm以上600nm未満の波長領域、又は600nm以上780nm以下の波長領域のいずれかの波長領域において、複数のピークが存在する場合は以下の様に考える。
複数のピークが、それぞれ独立したピークである場合、最もピーク強度の高いピークの半値幅が上記範囲であることが好ましい。さらに、最も高いピーク強度の70%以上の強度を有する他のピークについても、同様に半値幅が上記範囲になることがより好ましい態様である。
複数のピークが重なった形状を有する一個の独立したピークについては、複数のピークのうち最もピーク強度の高いピークの半値幅をそのまま測定できる場合には、その半値幅を用いる。ここで、独立したピークとは、ピークの短波長側、長波長側の両方にピーク強度の1/2になる強度の領域を有するものである。すなわち、複数のピークが重なり、個々のピークがその両側にピーク強度の1/2になる強度の領域を有さない場合は、その複数のピークを全体として一個のピークと見なす。この様な、複数のピークが重なった形状を有する一個のピークは、その中の最も高いピーク強度の、1/2の強度におけるピークの幅(nm)を半値幅とする。
なお、複数のピークのうち、最もピーク強度の高い点をピークトップとする。
なお、400nm以上495nm未満の波長領域、495nm以上600nm未満の波長領域、又は600nm以上780nm以下の波長領域のそれぞれの波長領域における最も高いピーク強度を持つピークは他の波長領域のピークとはお互い独立した関係にあることが好ましい。特に、495nm以上600nm未満の波長領域で最も高いピーク強度を持つピークと、600nm以上780nm以下の領域で最も高いピーク強度を持つピークとの間の波長領域には、強度が600nm以上780nm以下の波長領域の最も高いピーク強度を持つピークのピーク強度の1/3以下になる領域が存在することが色彩の鮮明性の面で好ましい。
【0028】
バックライト光源の発光スペクトルは、浜松ホトニクス製 マルチチャンネル分光器 PMA-12等の分光器を用いることにより測定が可能である。
【0029】
本発明者らは鋭意検討した結果、上述したバックライト光源のように、青色領域(400nm以上495nm未満)、緑色領域(495nm以上600nm未満)及び赤色領域(600nm以上780nm以下)の各波長領域にそれぞれ発光スペクトルのピークトップを有し、赤色領域(600nm以上780nm以下)におけるピークの半値幅が比較的狭い白色発光ダイオードからなるバックライト光源を有する液晶表示装置において、偏光子保護フィルムとして、特定の波長における反射率の低い反射防止層及び/又は低反射層を有し、特定のリタデーションを有するポリエステルフィルムを用いれば虹斑の抑制に効果があることを見出した。ここで、特定の波長とは、バックライト光源の発光スペクトルにおいて、600nm以上780nm以下の波長領域における最もピーク強度の高いピークに対応する波長(最もピーク強度の高いピークのピークトップの波長)である。すなわち、本発明者らは、バックライト光源の発光スペクトルにおいて600nm以上780nm以下の波長領域における最もピーク強度の高いピークのピークトップの波長において、反射防止層及び/又は低反射層が積層された側から測定した、反射防止層及び/又は低反射層が積層されたポリエステルフィルムの反射率が2%以下であると、特に、虹斑抑制に効果があることを見出した。
【0030】
偏光子の片側に配向ポリエステルフィルムを配した場合、バックライトユニット、または、偏光子から出射した直線偏光はポリエステルフィルムを通過する際に偏光状態が変化する。偏光状態が変化する要因の一つに、空気層と配向ポリエステルフィルムとの界面の屈折率差、または偏光子と配向ポリエステルフィルムとの界面の屈折率差が影響している可能性が考えられる。配向ポリエステルフィルムに入射した直線偏光が、各界面を通過する際に、界面間の屈折率差により光の一部が反射される。
偏光子を通過し、配向ポリエステルフィルムに入射する光は直線偏光であり、直線偏光の状態では波長に対する透過率依存性は無いと考えられる。直線偏光の入射光は配向ポリエステルフィルムを通過することで楕円偏光や円偏光に変化する。位相差δは、δ=2π×Re/λ(Re:レタデーション,λ:波長)で表され、波長λにより位相差δが異なる。つまり光の波長λによって、直線偏光、楕円偏光、円偏光の変化サイクルが異なるため、配向ポリエステルフィルムを出射する際の偏光状態が波長によって異なると考えられる。配向ポリエステルフィルムから視認側に出射される際は、入射面に対して平行なP偏光成分よりも垂直なS偏光成分が反射されやすく、法線からの視認角度が大きくなるにつれてこの差(P偏光成分とS偏光成分の差)は大きくなる傾向がある。偏光度が異なる各波長の光は、反射されやすいS偏光の影響がそれぞれ異なるため、界面を通過する際に各透過率が変化する。界面を通過する際にS偏光成分が多い波長帯の透過率が低下することとなり、これが虹状の色斑が発生する要因の一つとなっていると考えられる。特に600nm以上780nm以下の赤色領域で急峻なピークを持つ場合、波長による透過率変化が大きいため、色斑が出やすくなる。薄膜干渉を利用すると任意の波長の界面反射を抑えることができるため、急峻なピークにおける反射率の低い反射防止層及び/又は低反射層を形成することで赤色領域の透過率を向上(すなわちS偏光成分の反射を抑えること)が可能になると考えられる。急峻なピークを有する赤色領域において、S偏光成分の透過率が向上するため、偏光子を通過した入射光に対して配向ポリエステルフィルムの出射光の透過率変化が少なくなることで、虹状の色斑を抑えることができる。
【0031】
以上のように、本発明では青色領域(400nm以上495nm未満)、緑色領域(495nm以上600nm未満)及び赤色領域(600nm以上780nm以下)の各波長領域にそれぞれ発光スペクトルのピークトップを有し、赤色領域(600nm以上780nm以下)におけるピークの半値幅が比較的狭い白色発光ダイオードからなるバックライト光源を有する液晶表示装置において、偏光子保護フィルムとしてポリエステルフィルムを使用した偏光板を用いても、虹状の色斑が発生せずに、良好な視認性を有することが可能となる。
【0032】
本発明の偏光板には、偏光子の少なくとも一方の面に、ポリエステルフィルムからなる偏光子保護フィルムを積層する。偏光子保護フィルムに用いられるポリエステルフィルムは1500nm以上30000nm以下のリタデーションを有することが好ましい。リタデーションが上記範囲にあれば、より虹斑が低減しやすくなる傾向にあり好ましい。好ましいリタデーションの下限値は3000nm、次に好ましい下限値は3500nm、より好ましい下限値は4000nm又は5000nm、更に好ましい下限値は6000nm又は7000nm、より更に好ましい下限値は8000nmである。好ましい上限は30000nmであり、これ以上のリタデーションを有するポリエステルフィルムでは厚みが相当大きくなり、工業材料としての取り扱い性が低下する傾向にある。より好ましい上限は15000nmであり、さらに好ましくは12000nm、より更に好ましくは11000nmである。
【0033】
なお、本発明のリタデーションは、2軸方向の屈折率と厚みを測定して求めることもできるし、KOBRA-21ADH(王子計測機器株式会社)といった市販の自動複屈折測定装置を用いて求めることもできる。なお、屈折率は、アッベの屈折率計(測定波長589nm)によって求めることができる。
【0034】
ポリエステルフィルムのリタデーション(Re:面内リタデーション)と厚さ方向のリタデーション(Rth)との比(Re/Rth)は、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.6以上である。上記リタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)が大きいほど、複屈折の作用は等方性を増し、観察角度による虹状の色斑の発生が生じ難くなる傾向にある。完全な1軸性(1軸対称)フィルムでは上記リタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)は2.0となることから、上記リタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)の上限は2.0が好ましい。なお、厚さ方向位相差は、フィルムを厚さ方向断面から見たときの2つの複屈折△Nxz、△Nyzにそれぞれフィルム厚さdを掛けて得られる位相差の平均を意味する。
【0035】
より虹状の色斑を抑制する観点から、ポリエステルフィルムのNZ係数が2.5以下であることが好ましく、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.8以下、よりさらに好ましくは1.6以下である。そして、完全な一軸性(一軸対称)フィルムではNZ係数は1.0となるため、NZ係数の下限は1.0である。しかし、完全な一軸性(一軸対称)フィルムに近づくにつれ配向方向と直行する方向の機械的強度が著しく低下する傾向があるため留意する必用がある。
【0036】
NZ係数は、|Ny-Nz|/|Ny-Nx|で表され、ここでNyは遅相軸方向の屈折率、Nxは遅相軸と直交する方向の屈折率(進相軸方向の屈折率)、Nzは厚み方向の屈折率を表す。分子配向計(王子計測器株式会社製、MOA-6004型分子配向計)を用いてフィルムの配向軸を求め、配向軸方向とこれに直交する方向の二軸の屈折率(Ny、Nx、但しNy>Nx)、及び厚み方向の屈折率(Nz)をアッベの屈折率計(アタゴ社製、NAR-4T、測定波長589nm)によって求める。こうして求めた値を、|Ny-Nz|/|Ny-Nx|に代入してNZ係数を求めることができる。
【0037】
また、より虹状の色斑を抑制する観点から、ポリエステルフィルムのNy-Nxの値は、0.05以上が好ましく、より好ましくは0.07以上、さらに好ましくは0.08以上、よりさらに好ましくは0.09以上、最も好ましくは0.1以上である。上限は特に定めないが、ポリエチレンテレフタレート系フィルムの場合には上限は1.5程度が好ましい。
【0038】
本発明においてより好ましい態様としては、偏光板を構成する偏光子の透過軸方向と平行な方向の、ポリエステルフィルムの屈折率を、1.53以上1.62以下の範囲とすることが好ましい。これにより、偏光子とポリエステルフィルムとの界面における反射を抑制し、虹状の色斑をより抑制することが可能となる。好ましくは1.61以下であり、より好ましくは1.60以下であり、更に好ましくは1.59以下であり、より更に好ましくは1.58以下である。
【0039】
一方、屈折率の下限値は1.53が好ましい。屈折率が1.53未満になると、ポリエステルフィルムの結晶化が不十分となり、寸法安定性、力学強度、耐薬品性等の延伸により得られる特性が不十分となるおそれがある。好ましくは1.56以上、より好ましくは1.57以上である。
【0040】
偏光子の透過軸方向と平行な方向の、ポリエステルフィルムの屈折率を1.53以上1.62以下の範囲に設定するには、偏光板は、偏光子の透過軸とポリエステルフィルムの進相軸(遅相軸と垂直方法)とが略平行であることが好ましい。ポリエステルフィルムは後述する製膜工程における延伸処理により、遅相軸と垂直な方向である進相軸方向の屈折率を1.53~1.62程度と低く調節することができる。ポリエステルフィルムの進相軸方向と偏光子の透過軸方向を略平行とすることで、偏光子の透過軸方向と平行な方向のポリエステルフィルムの屈折率を1.53~1.62に設定することができる。ここで略平行であるとは、偏光子の透過軸と偏光子保護フィルムの進相軸とがなす角が、-15°~15°、好ましくは-10°~10°、より好ましく-5°~5°、更に好ましくは-3°~3°、より更に好ましくは-2°~2°、一層好ましくは-1°~1°であることを意味する。好ましい一実施形態において、略平行とは実質的に平行である。ここで実質的に平行であるとは、偏光子と保護フィルムとを張り合わせる際に不可避的に生じるずれを許容する程度に透過軸と進相軸とが平行であることを意味する。遅相軸の方向は、分子配向計(例えば、王子計測器株式会社製、MOA-6004型分子配向計)で測定して求めることができる。
【0041】
すなわち、ポリエステルフィルムの進相軸方向の屈折率は1.53以上1.62以下が好ましく、偏光子の透過軸とポリエステルフィルムの進相軸とを略平行となるように積層することで、偏光子の透過軸と平行な方向の、ポリエステルフィルムの屈折率を1.53以上1.62以下とすることができる。
【0042】
本発明に用いられるポリエステルフィルムからなる偏光子保護フィルムは、入射光側(光源側)と出射光側(視認側)の両方の偏光板に用いることができるが、少なくとも出射光側(視認側)の偏光板の保護フィルムに用いることが好ましい。
出射光側に配置される偏光板については、上記ポリエステルフィルムからなる偏光子保護フィルムは、その偏光子を起点として液晶側に配置されても、出射光側に配置されていても、両側に配置されていてもよいが、少なくとも出射光側に配置されていることが好ましい。
入射光側に配される偏光板においても、上記ポリエステルフィルムからなる偏光子保護フィルムは、その偏光子を起点として入射光側に配置していても、液晶セル側に配置していても、両側に配置されていても良いが、少なくとも入射光側に配置されていることが好ましい態様である。また、入射光側に配される偏光板は、ポリエステルフィルムからなる偏光子保護フィルムは使用せず、トリアセチルセルロースフィルム等の複屈折が実質的にない(リタデーションの低い)偏光子保護フィルムを使用したものであってもよい。
【0043】
ポリエステルフィルムに用いられるポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートを用いることができるが、他の共重合成分を含んでも構わない。これらの樹脂は透明性に優れるとともに、熱的、機械的特性にも優れており、延伸加工によって容易にリタデーションを制御することができる。特に、ポリエチレンテレフタレートは固有複屈折が大きく、フィルムを延伸することで進相軸(遅相軸方向と垂直)方向の屈折率を低く抑えることができること、及びフィルムの厚みが薄くても比較的容易に大きなリタデーションが得られることから、最も好適な素材である。
【0044】
また、ヨウ素色素などの光学機能性色素の劣化を抑制することを目的として、ポリエステルフィルムは、波長380nmの光線透過率が20%以下であることが望ましい。380nmの光線透過率は15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、5%以下が特に好ましい。前記光線透過率が20%以下であれば、光学機能性色素の紫外線による変質を抑制することができる。なお、透過率は、フィルムの平面に対して垂直方法に測定したものであり、分光光度計(例えば、日立U-3500型)を用いて測定することができる。
【0045】
ポリエステルフィルムの波長380nmの透過率を20%以下にするためには、紫外線吸収剤の種類、濃度、及びフィルムの厚みを適宜調節することが望ましい。本発明で使用される紫外線吸収剤は公知の物質である。紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤と無機系紫外線吸収剤が挙げられるが、透明性の観点から有機系紫外線吸収剤が好ましい。有機系紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、環状イミノエステル系等、及びその組み合わせが挙げられるが本発明の規定する吸光度の範囲であれば特に限定されない。耐久性の観点からはベンゾトリアゾール系、環状イミノエステル系が特に好ましい。2種以上の紫外線吸収剤を併用した場合には、別々の波長の紫外線を同時に吸収させることができるので、より紫外線吸収効果を改善することができる。
【0046】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系紫外線吸収剤としては例えば2-[2’-ヒドロキシ-5’ -(メタクリロイルオキシメチル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2’ -ヒドロキシ-5’ -(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2’ -ヒドロキシ-5’ -(メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,4-ジ-tert-ブチル-6-(5-クロロベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(5-クロロ(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチル-6-(tert-ブチル)フェノール、2,2’-メチレンビス(4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノールなどが挙げられる。環状イミノエステル系紫外線吸収剤としては例えば2,2’-(1,4-フェニレン)ビス(4H-3,1-ベンズオキサジノン-4-オン)、2-メチル-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン、2-ブチル-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン、2-フェニル-3,1-ベンゾオキサジン-4-オンなどが挙げられる。しかし特にこれらに限定されるものではない。
【0047】
また、紫外線吸収剤以外に、本発明の効果を妨げない範囲で、触媒以外の各種の添加剤を含有させることも好ましい様態である。添加剤として、例えば、無機粒子、耐熱性高分子粒子、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、リン化合物、帯電防止剤、耐光剤、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、ゲル化防止剤、界面活性剤等が挙げられる。また、高い透明性を奏するためにはポリエステルフィルムに実質的に粒子を含有しないことも好ましい。「粒子を実質的に含有させない」とは、例えば無機粒子の場合、ケイ光X線分析で無機元素を定量した場合に50ppm以下、好ましくは10ppm以下、特に好ましくは検出限界以下となる含有量を意味する。
【0048】
本発明に用いられる偏光子保護フィルムであるポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面には、反射防止層及び/又は低反射層を設けることが好ましい。
前記バックライト光源の発光スペクトルの600nm以上780nm以下の波長領域における最もピーク強度の高いピークのピークトップの波長における、反射防止層及び/又は低反射層が積層されたポリエステルフィルムの反射率が2%以下であることが好ましい。なお、反射率は、反射防止層及び/又は低反射層が積層された側から測定したものである。反射率が2%を超えると、虹状の色斑が視認されやすくなることから好ましくない。反射率は、より好ましくは1.6%以下であり、更に好ましくは1.2%以下、特に好ましくは1%以下である。反射率の下限は特に設定されないが、例えば、0.01%である。反射率0%が最も好ましい。反射防止層を積層する場合、前記反射率の上限は1%未満が好ましい。低反射層を積層する場合、前記反射率の上限は2%以下が好ましく、より好ましくは2%未満であり、下限は1%程度が好ましい。反射率の測定は、後述する実施例に記載の方法で行うことができる。
【0049】
反射防止層は単層であっても多層であっても良く、単層の場合にはポリエステルフィルムより低屈折率の材料からなる低屈折率層の厚さを光波長の1/4波長あるいはその奇数倍になるように形成すれば、反射防止効果が得られる。また、反射防止層が多層の場合には、低屈折率層と高屈折率層を交互に2層以上にし、かつ各層の厚さを適宜制御して積層すれば、反射防止効果が得られる。また、必要に応じて反射防止層の間にハードコート層を積層すること、及びハードコート層の上に防汚層を形成することもできる。
【0050】
反射防止層としては、他にもモスアイ構造を利用したものが挙げられる。モスアイ構造とは、表面に形成された波長より小さなピッチの凹凸構造であり、この構造により、空気との境界部における急激で不連続な屈折率変化を、連続的で漸次推移する屈折率変化に変えることを可能とするものである。これにより、モスアイ構造を表面に形成することで、フィルムの表面における光反射が減少する。例えば、特表2001-517319号公報を参照することができる。
【0051】
反射防止膜を形成する方法としては、基材表面に蒸着やスパッタリング法により反射防止層を形成するドライコーティング法、基材表面に反射防止用塗布液を塗布し乾燥させて反射防止層を形成するウェットコーティング法、あるいは両方を併用する方法が挙げられる。本発明においては、反射防止層の組成やその形成方法については、上記特性を満足すれば特に限定されない。
【0052】
低反射層は、従来公知のものを使用することができる。例えば、金属または酸化物の薄膜を、蒸着法やスパッタ法によって少なくとも1層以上積層する方法や、有機薄膜を一層あるいは複数層コーティングする方法等によって形成される。低反射層としては、ポリエステルフィルム若しくはポリエステルフィルム上に積層するハードコート層等よりも低屈折率である有機薄膜を一層コーティングしたものが好ましく用いられる。
【0053】
反射防止層及び/又は低反射層には、さらに防眩機能が付与されていてもよい。これにより、さらに虹斑を抑制することができる。すなわち、反射防止層と防眩層の組合せ、低反射層と防眩層の組合せ、反射防止層と低反射層と防眩層の組合せであってもよい。特に好ましくは、低反射層と防眩層の組合せである。防眩層としては、従来公知の防眩層を用いることができる。例えば、フィルムの表面反射を抑える観点からは、ポリエステルフィルムに防眩層を積層した後、反射防止層又は低反射層を積層する態様が好ましい。
【0054】
バックライト光源の発光スペクトルにおいて600nm以上780nm以下の波長領域における最もピーク強度の高いピーク位置における、反射防止層及び/又は低反射層が積層されたポリエステルフィルムの反射率を小さくする一つの方法として、例えば、反射防止層及び/又は低反射層が積層されたポリエステルフィルムの反射スペクトルのボトム波長が600nm以上780nm以下の波長領域となるように、反射防止層、低反射層を設計することが挙げられる。
【0055】
反射防止層及び/又は低反射層の反射スペクトルのボトム波長を600nm以上780nm以下にするには、例えば、反射防止層や低反射層が単層の場合には、2nd=λb/4の式を満たすように、反射防止層、低反射層の厚みを調整すればよい。ここで、nは反射防止層の屈折率又は低反射層の屈折率、dは反射防止層の厚み又は低反射層の厚み、λbは反射スペクトルのボトム波長を示す。
【0056】
反射防止層、低反射層が多層の場合も薄膜干渉の原理から次のように計算できる。例えば5層(第1層、第2層、第3層、第4層、第5層の5層構成。第1層の第2層と接する側とは反対側には入射媒質層(in)が存在する。また、第5層の第4層と接する側とは反対側には出射媒質層(out)が存在する)を例にとると、屈折率をnとし、反射率をr、厚みをd、屈折角をθ、波長をλ、位相差をΔとすると、最下層(第5層)の反射率は薄膜干渉の式から次式で示される。添え数字は各層を示す。また反射率の連続する添え数字は各層間の反射率を示す。
(第5層)
【0057】
【数1】
【0058】
Δxは、各層xの薄膜内を屈折角θxでV字型に往復した時の位相差となり、[数2]の式で計算される。
【数2】
【0059】
θxはスネルの法則を連続的に用いることで、[数3]の式で計算される。
【数3】
【0060】
一般に多層膜反射を計算する場合は、複数ある境界面からの反射光を位相を考慮しながら足し合わせることで計算できるため、各層の反射率は次式から得られる。
(第5層~第4層)
【0061】
【数4】
【0062】
(第5層~第3層)
【0063】
【数5】
【0064】
(第5層~第2層)
【0065】
【数6】
【0066】
(第5層~第1層)
5層全体での反射率は以下の式で得られる。
【0067】
【数7】
【0068】
反射率の添え数字の足し算は各層間の合算の反射率を示す。上式から各層の屈折率nや厚みdを調整することで目的の波長にボトム波長を設計することができる。
【0069】
バックライト光源の発光スペクトルにおいて600nm以上780nm以下の波長領域における最もピーク強度の高いピークのピークトップの波長λpと、前記反射防止層及び/又は低反射層が積層されたポリエステルフィルムの反射スペクトルのボトム波長λbは、λpとλbとの差の絶対値が、30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることが好ましい。なお、反射スペクトルのボトム波長とは、400nm~780nmの反射スペクトルにおいて反射率が最小となる波長である。
【0070】
反射防止層又は低反射層を設けるに際して、ポリエステルフィルムはその表面に易接着層を有することが好ましい。その際、反射光による干渉を抑える観点から、易接着層の屈折率を、反射防止層又は低反射層の屈折率とポリエステルフィルムの屈折率の相乗平均近傍になるように調整することが好ましい。易接着層の屈折率の調整は、公知の方法を採用することができ、例えば、バインダー樹脂に、チタンやゲルマニウム、その他の金属種を含有させることで容易に調整することができる。
【0071】
ポリエステルフィルムには、偏光子との接着性を良好にするためにコロナ処理、コーティング処理や火炎処理等を施したりすることも可能である。
【0072】
本発明においては、偏光子との接着性を改良のために、本発明のフィルムの少なくとも片面に、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂またはポリアクリル樹脂の少なくとも1種類を主成分とする易接着層を有することが好ましい。ここで、「主成分」とは易接着層を構成する固形成分のうち50質量%以上である成分をいう。本発明の易接着層の形成に用いる塗布液は、水溶性又は水分散性の共重合ポリエステル樹脂、アクリル樹脂及びポリウレタン樹脂の内、少なくとも1種を含む水性塗布液が好ましい。これらの塗布液としては、例えば、特許第3567927号公報、特許第3589232号公報、特許第3589233号公報、特許第3900191号公報、特許第4150982号公報等に開示された水溶性又は水分散性共重合ポリエステル樹脂溶液、アクリル樹脂溶液、ポリウレタン樹脂溶液等が挙げられる。
【0073】
易接着層は、前記塗布液を未延伸フィルム又は縦方向の1軸延伸フィルムの片面または両面に塗布した後、100~150℃で乾燥し、さらに横方向に延伸して得ることができる。最終的な易接着層の塗布量は、0.05~0.2g/mに管理することが好ましい。塗布量が0.05g/m未満であると、得られる偏光子との接着性が不十分となる場合がある。一方、塗布量が0.2g/mを超えると、耐ブロッキング性が低下する場合がある。ポリエステルフィルムの両面に易接着層を設ける場合は、両面の易接着層の塗布量は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立して上記範囲内で設定することができる。
【0074】
易接着層には易滑性を付与するために粒子を添加することが好ましい。微粒子の平均粒径は2μm以下の粒子を用いることが好ましい。粒子の平均粒径が2μmを超えると、粒子が被覆層から脱落しやすくなる。易接着層に含有させる粒子としては、例えば、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、シリカ、アルミナ、タルク、カオリン、クレー、リン酸カルシウム、雲母、ヘクトライト、ジルコニア、酸化タングステン、フッ化リチウム、フッ化カルシウム等の無機粒子や、スチレン系、アクリル系、メラミン系、ベンゾグアナミン系、シリコーン系等の有機ポリマー系粒子等が挙げられる。これらは、単独で易接着層に添加されてもよく、2種以上を組合せて添加することもできる。
【0075】
また、塗布液を塗布する方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、リバースロール・コート法、グラビア・コート法、キス・コート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーコート法、パイプドクター法、などが挙げられ、これらの方法を単独であるいは組み合わせて行うことができる。
【0076】
なお、上記の粒子の平均粒径の測定は下記方法により行う。粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で写真を撮り、最も小さい粒子1個の大きさが2~5mmとなるような倍率で、300~500個の粒子の最大径(最も離れた2点間の距離)を測定し、その平均値を平均粒径とする。
【0077】
偏光子保護フィルムとして使用するポリエステルフィルムは、一般的なポリエステルフィルムの製造方法に従って製造することができる。例えば、ポリエステル樹脂を溶融し、シート状に押出し成形された無配向ポリエステルをガラス転移温度以上の温度において、ロールの速度差を利用して縦方向に延伸した後、テンターにより横方向に延伸し、熱処理を施す方法が挙げられる。
【0078】
本発明で使用するポリエステルフィルムは一軸延伸フィルムであっても、二軸延伸フィルムであってもかまわないが、二軸延伸フィルムを偏光子保護フィルムとして用いた場合、フィルム面の真上から観察しても虹状の色斑が見られないが、斜め方向から観察した時に虹状の色斑が観察される場合があるので注意が必要である。
【0079】
ポリエステルフィルムの製膜条件を具体的に説明すると、縦延伸温度、横延伸温度は80~130℃が好ましく、特に好ましくは90~120℃である。遅相軸がTD方向になるようにフィルムを配向させるには、縦延伸倍率は1.0~3.5倍が好ましく、特に好ましくは1.0倍~3.0倍である。また、横延伸倍率は2.5~6.0倍が好ましく、特に好ましくは3.0~5.5倍である。遅相軸がMD方向となるようにフィルムを配向させるには、縦延伸倍率は2.5倍~6.0倍が好ましく、特に好ましくは3.0~5.5倍である。また、横延伸倍率は1.0倍~3.5倍が好ましく、特に好ましくは1.0倍~3.0倍である。
ポリエステルフィルムの進相軸方向の屈折率やリタデーションを上記範囲に制御するためには、縦延伸倍率と横延伸倍率の比率を制御することが好ましい。リタデーションを高くするためには、縦横の延伸倍率の差を大きくすることが好ましい。また、延伸温度を低く設定することも、ポリエステルフィルムの進相軸方向の屈折率を低くし、リタデーションを高くする上では好ましい対応である。続く熱処理においては、処理温度は100~250℃が好ましく、特に好ましくは180~245℃である。
【0080】
フィルム内でのリタデーションの変動を抑制する為には、フィルムの厚み斑が小さいことが好ましい。延伸温度、延伸倍率はフィルムの厚み斑に大きな影響を与えることから、厚み斑の観点からも製膜条件の最適化を行うことが好ましい。特にリタデーションを高くするために縦延伸倍率を低くすると、縦厚み斑が悪くなることがある。縦厚み斑は延伸倍率のある特定の範囲で非常に悪くなる領域があることから、この範囲を外したところで製膜条件を設定することが望ましい。
【0081】
ポリエステルフィルムの厚み斑は5%以下であることが好ましく、4.5%以下であることがさらに好ましく、4%以下であることがよりさらに好ましく、3%以下であることが特に好ましい。
【0082】
前述のように、ポリエステルフィルムのリタデーションを特定範囲に制御する為には、延伸倍率や延伸温度、フィルムの厚みを適宜設定することにより行なうことができる。例えば、延伸倍率が高いほど、延伸温度が低いほど、フィルムの厚みが厚いほど高いリタデーションを得やすくなる。逆に、延伸倍率が低いほど、延伸温度が高いほど、フィルムの厚みが薄いほど低いリタデーションを得やすくなる。但し、フィルムの厚みを厚くすると、厚さ方向位相差が大きくなりやすい。そのため、フィルム厚みは後述の範囲に適宜設定することが望ましい。また、リタデーションの制御に加えて、加工に必要な物性等を勘案して最終的な製膜条件を設定することが望ましい。
【0083】
ポリエステルフィルムの厚みは任意であるが、15~300μmの範囲が好ましく、より好ましくは15~200μmの範囲である。15μmを下回る厚みのフィルムでも、原理的には1500nm以上のリタデーションを得ることは可能である。しかし、その場合にはフィルムの力学特性の異方性が顕著となり、裂け、破れ等を生じやすくなり、工業材料としての実用性が著しく低下する。特に好ましい厚みの下限は25μmである。一方、偏光子保護フィルムの厚みの上限は、300μmを超えると偏光板の厚みが厚くなりすぎてしまい好ましくない。偏光子保護フィルムとしての実用性の観点からは厚みの上限は200μmが好ましい。特に好ましい厚みの上限は一般的なTACフィルムと同等程度の100μmである。上記厚み範囲においてもリタデーションを本発明の範囲に制御するために、フィルム基材として用いるポリエステルはポリエチレンテレフタレートが好適である。
【0084】
また、ポリエステルフィルムに紫外線吸収剤を配合する方法としては、公知の方法を組み合わせて採用し得るが、例えば予め混練押出機を用い、乾燥させた紫外線吸収剤とポリマー原料とをブレンドしマスターバッチを作製しておき、フィルム製膜時に所定の該マスターバッチとポリマー原料を混合する方法などによって配合することができる。
【0085】
この時マスターバッチの紫外線吸収剤濃度は紫外線吸収剤を均一に分散させ、且つ経済的に配合するために5~30質量%の濃度にするのが好ましい。マスターバッチを作製する条件としては混練押出機を用い、押し出し温度はポリエステル原料の融点以上、290℃以下の温度で1~15分間で押し出すのが好ましい。290℃以上では紫外線吸収剤の減量が大きく、また、マスターバッチの粘度低下が大きくなる。押し出し温度1分以下では紫外線吸収剤の均一な混合が困難となる。この時、必要に応じて安定剤、色調調整剤、帯電防止剤を添加しても良い。
【0086】
また、ポリエステルフィルムを少なくとも3層以上の多層構造とし、フィルムの中間層に紫外線吸収剤を添加することが好ましい。中間層に紫外線吸収剤を含む3層構造のフィルムは、具体的には次のように作製することができる。外層用としてポリエステルのペレット単独、中間層用として紫外線吸収剤を含有したマスターバッチとポリエステルのペレットを所定の割合で混合し、乾燥したのち、公知の溶融積層用押出機に供給し、スリット状のダイからシート状に押出し、キャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸フィルムを作る。すなわち、2台以上の押出機、3層のマニホールドまたは合流ブロック(例えば角型合流部を有する合流ブロック)を用いて、両外層を構成するフィルム層、中間層を構成するフィルム層を積層し、口金から3層のシートを押し出し、キャスティングロールで冷却して未延伸フィルムを作る。なお、本発明では、光学欠点の原因となる、原料のポリエステル中に含まれている異物を除去するため、溶融押し出しの際に高精度濾過を行うことが好ましい。溶融樹脂の高精度濾過に用いる濾材の濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)は、15μm以下が好ましい。濾材の濾過粒子サイズが15μmを超えると、20μm以上の異物の除去が不十分となりやすい。
【実施例
【0087】
以下、実施例を参照して本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0088】
(1)ポリエステルフィルムの屈折率
分子配向計(王子計測器株式会社製、MOA-6004型分子配向計)を用いて、フィルムの遅相軸方向を求め、遅相軸方向が測定用サンプル長辺と平行になるように、4cm×2cmの長方形を切り出し、測定用サンプルとした。このサンプルについて、直交する二軸の屈折率(遅相軸方向の屈折率:Ny,進相軸(遅相軸方向と直交する方向の屈折率):Nx)、及び厚さ方向の屈折率(Nz)をアッベ屈折率計(アタゴ社製、NAR-4T、測定波長589nm)によって求めた。
【0089】
(2)リタデーション(Re)
リタデーションとは、フィルム上の直交する二軸の屈折率の異方性(△Nxy=|Nx-Ny|)とフィルム厚みd(nm)との積(△Nxy×d)で定義されるパラメーターであり、光学的等方性、異方性を示す尺度である。二軸の屈折率の異方性(△Nxy)は、以下の方法により求めた。分子配向計(王子計測器株式会社製、MOA-6004型分子配向計)を用いて、フィルムの遅相軸方向を求め、遅相軸方向が測定用サンプル長辺と平行になるように、4cm×2cmの長方形を切り出し、測定用サンプルとした。このサンプルについて、直交する二軸の屈折率(遅相軸方向の屈折率:Ny,遅相軸方向と直交する方向の屈折率:Nx)、及び厚さ方向の屈折率(Nz)をアッベ屈折率計(アタゴ社製、NAR-4T、測定波長589nm)によって求め、前記二軸の屈折率差の絶対値(|Nx-Ny|)を屈折率の異方性(△Nxy)とした。フィルムの厚みd(nm)は電気マイクロメータ(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定し、単位をnmに換算した。屈折率の異方性(△Nxy)とフィルムの厚みd(nm)の積(△Nxy×d)より、リタデーション(Re)を求めた。
【0090】
(3)厚さ方向リタデーション(Rth)
厚さ方向リタデーションとは、フィルム厚さ方向断面から見たときの2つの複屈折△Nxz(=|Nx-Nz|)、△Nyz(=|Ny-Nz|)にそれぞれフィルム厚さdを掛けて得られるリタデーションの平均を示すパラメーターである。リタデーションの測定と同様の方法でNx、Ny、Nzとフィルム厚みd(nm)を求め、(△Nxz×d)と(△Nyz×d)との平均値を算出して厚さ方向リタデーション(Rth)を求めた。
【0091】
(4)NZ係数
上記(1)により得られた、Ny、Nx、Nzの値を式:NZ=|Ny-Nz|/|Ny-Nx|に代入してNZ係数を求めた。
【0092】
(5)バックライト光源の発光スペクトルの測定
各実施例で使用する液晶表示装置には、東芝社製のREGZA 43J10Xを用いた。この液晶表示装置のバックライト光源(白色発光ダイオード)の発光スペクトルを、浜松ホトニクス製 マルチチャンネル分光器 PMA-12を用いて測定したところ、450nm、535nm、630nm付近にピークトップを有する発光スペクトルが観察された。各ピークトップの半値幅(各波長領域における最も高いピーク強度を有するピークの半値幅)は、それぞれ450nmのピークが17nm、535nmのピークが45nm、630nmのピークが2nmであった。なお、この光源では600nm以上780nm以下の波長領域に複数のピークを有したが、この領域で最もピーク強度の高い630nm付近のピークで半値幅を評価した。また、スペクトル測定の際の露光時間は20msecとした。
【0093】
(6)反射スペクトルの測定(反射率の評価)
得られた偏光子保護フィルムから任意の位置でA4サイズに切り出し、低反射層(又は反射防止層)を積層した面とは反対の基材面に耐水サンドペーパーで均一にキズをつけた後、黒マジックインキ(登録商標)を塗り、さらに黒テープ(日東電工製ビニルテープNo.21黒)を貼ることで低反射層(又は反射防止層)の反対面の反射を無くしたサンプルを作製した。作製したサンプルは島津製作所(株)製の分光光度計UV-3150を用いて低反射層(又は反射防止層)の400~800nmにおける反射スペクトルを測定した。反射スペクトル測定条件は、鏡面反射測定装置(島津製作所(株)製 部品番号206-14064)に標準で添付されたAl蒸着ミラー(部品番号202-35988-05)を基準ミラーとし、全光束5°の入射角で相対鏡面反射で実施した。その他、サンプリングピッチ:1nm、試料マスクの開口寸法::5mmφの条件で測定した。(5)バックライト光源の発光スペクトルの測定結果より、発光スペクトルの600nm以上780nm以下の波長領域における最もピーク強度の高いピークのピークトップの波長は630nmであったので、得られた反射スペクトルから630nmにおける反射率を求めた。また、偏光子保護フィルム1についてはボトム波長も求めた。
【0094】
(製造例1-ポリエステルA)
エステル化反応缶を昇温し200℃に到達した時点で、テレフタル酸を86.4質量部およびエチレングリコール64.6質量部を仕込み、撹拌しながら触媒として三酸化アンチモンを0.017質量部、酢酸マグネシウム4水和物を0.064質量部、及びトリエチルアミン0.16質量部を仕込んだ。ついで、加圧昇温を行いゲージ圧0.34MPa、240℃の条件で加圧エステル化反応を行った後、エステル化反応缶を常圧に戻し、リン酸0.014質量部を添加した。さらに、15分かけて260℃に昇温し、リン酸トリメチル0.012質量部を添加した。次いで15分後に、高圧分散機で分散処理を行い、15分後、得られたエステル化反応生成物を重縮合反応缶に移送し、280℃で減圧下重縮合反応を行った。
【0095】
重縮合反応終了後、95%カット径が5μmのナスロン製フィルターで濾過処理を行い、ノズルからストランド状に押出し、予め濾過処理(孔径:1μm以下)を行った冷却水を用いて冷却、固化させ、ペレット状にカットした。得られたポリエチレンテレフタレート樹脂(A)の固有粘度は0.62dl/gであり、不活性粒子及び内部析出粒子は実質上含有していなかった。(以後、PET(A)と略す。)
【0096】
(製造例2-ポリエステルB)
乾燥させた紫外線吸収剤(2,2’-(1,4-フェニレン)ビス(4H-3,1-ベンズオキサジノン-4-オン)10質量部、及び粒子を含有しないPET(A)(固有粘度が0.62dl/g)90質量部を混合し、混練押出機を用い、紫外線吸収剤含有するポリエチレンテレフタレート樹脂(B)を得た。(以後、PET(B)と略す。)
【0097】
(製造例3-接着性改質塗布液の調整)
常法によりエステル交換反応および重縮合反応を行って、ジカルボン酸成分として(ジカルボン酸成分全体に対して)テレフタル酸46モル%、イソフタル酸46モル%および5-スルホナトイソフタル酸ナトリウム8モル%、グリコール成分として(グリコール成分全体に対して)エチレングリコール50モル%およびネオペンチルグリコール50モル%の組成の水分散性スルホン酸金属塩基含有共重合ポリエステル樹脂を調製した。次いで、水51.4質量部、イソプロピルアルコール38質量部、n-ブチルセルソルブ5質量部、及びノニオン系界面活性剤0.06質量部を混合した後、加熱撹拌し、77℃に達したら、上記水分散性スルホン酸金属塩基含有共重合ポリエステル樹脂5質量部を加え、樹脂の固まりが無くなるまで撹拌し続けた後、樹脂水分散液を常温まで冷却して、固形分濃度5.0質量%の均一な水分散性共重合ポリエステル樹脂液を得た。さらに、凝集体シリカ粒子(富士シリシア(株)社製、サイリシア310)3質量部を水50質量部に分散させた後、上記水分散性共重合ポリエステル樹脂液99.46質量部にサイリシア310の水分散液0.54質量部を加えて、撹拌しながら水20質量部を加えて、接着性改質塗布液を得た。
【0098】
(製造例4-低反射層塗布液の調整)
2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート(45質量部)、パーフルオロオクチルエチルアクリレート(45質量部)、アクリル酸(10質量部)、アゾイソブチロニトリル(1.5質量部)、及びメチルエチルケトン(200質量部)を反応容器に仕込み、窒素雰囲気下80℃で7時間反応させて、重量平均分子量20000のポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。得られたポリマー溶液を、メチルエチルケトンで固形分濃度5質量%まで希釈し、フッ素ポリマー溶液Cを得た。得られたフッ素ポリマー溶液Cを、以下のように混合して、低反射層塗布液を得た。
【0099】
・フッ素ポリマー溶液C 44質量部
・1,10-ビス(2,3-エポキシプロポキシ)
- 2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7 ,
8,8,9,9 - ヘキサデカフルオロデカン
(共栄社化学製、フルオライトFE-16) 1質量部
・トリフェニルホスフィン 0.1質量部
・メチルエチルケトン 19質量部
【0100】
(製造例5-低反射層塗布液の調整)
ビニリデンフルオライド系重合体粒子として、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(=72.1/14.9/13(モル%))の粒子の水性分散液(固形分濃度45.5質量%)571.4gを2Lガラス製セパラブルフラスコに入れ、乳化剤としてニューコール707SF(日本乳化剤(株)製)37.1gと、水59.3gを加えて十分に混合して水性分散液を調整した。
【0101】
つぎに1Lガラス製フラスコに、メチルメタクリレート208.1g、n-ブチルアクリレート44.9g、及びアクリル酸7.0gを加え、モノマー溶液を調整した。
【0102】
セパラブルフラスコの内温を80℃まで昇温し、モノマー溶液の全量を前記ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体粒子の水分散液に3時間かけて添加した。また、モノマー溶液の添加と同時に1質量%の過硫酸アンモニウム41.1gを30分ごとに7回に分けて添加しながら重合を進めた。重合開始から5時間後に反応溶液を室温まで冷却して反応を終了し、アクリル-フッ素複合重合体粒子の水性分散体を得た(固形分濃度52.0質量%)。得られたアクリル―フッ素複合重合体粒子におけるフッ素重合体部分とアクリル重合体部分の質量比は50/50であった。
【0103】
前記アクリル-フッ素複合重合体粒子水分散液を8.08質量部、水61.47質量部、イソプロピルアルコール20.00質量部、オキサゾリン架橋剤WS-700を8.40質量部(日本触媒製エポクロス製)、コロイダルシリカ粒子スノーテックスST-ZLを1.75質量部(日産化学工業製)、及びシリコン系界面活性剤を0.30質量部加えて撹拌し、低反射層塗布液を得た。
【0104】
(製造例6- 低反射層塗布液の調整)
ビニリデンフルオライド系重合体粒子として、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(=72.1/14.9/13(モル%))の粒子の水性分散液(固形分濃度45.5質量%)571.4gを2Lガラス製セパラブルフラスコに入れ、乳化剤としてニューコール707SF(日本乳化剤(株)製)37.1gと、水59.3gを加えて十分に混合して水性分散液を調整した。
【0105】
つぎに1Lガラス製フラスコに、メチルメタクリレート208.1g、n-ブチルアクリレート44.9g、及びアクリル酸7.0gを加え、モノマー溶液を調整した。
【0106】
セパラブルフラスコの内温を80℃まで昇温し、モノマー溶液の全量を前記ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体粒子の水分散液に3時間かけて添加した。また、モノマー溶液の添加と同時に1質量%の過硫酸アンモニウム41.1gを30分ごとに7回に分けて添加しながら重合を進めた。重合開始から5時間後に反応溶液を室温まで冷却して反応を終了し、アクリル-フッ素複合重合体粒子の水性分散体を得た(固形分濃度52.0質量%)。得られたアクリル―フッ素複合重合体粒子におけるフッ素重合体部分とアクリル重合体部分の質量比は50/50であった。
【0107】
前記アクリル-フッ素複合重合体粒子水分散液を12.12質量部、水61.47質量部、イソプロピルアルコール20.00質量部、オキサゾリン架橋剤WS-700を2.80質量部(日本触媒製エポクロス製)、コロイダルシリカ粒子スノーテックスST-ZLを1.75質量部(日産化学工業製)、及びシリコン系界面活性剤を0.30質量部加えて撹拌し、低反射層塗布液を得た。
【0108】
(偏光子保護フィルム1)
基材フィルム中間層用原料として粒子を含有しないPET(A)樹脂ペレット90質量部と紫外線吸収剤を含有したPET(B)樹脂ペレット10質量部を135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機2(中間層II層用)に供給し、また、PET(A)を常法により乾燥して押出機1(外層I層および外層III用)にそれぞれ供給し、285℃で溶解した。この2種のポリマーを、それぞれステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し、2種3層合流ブロックにて、積層し、口金よりシート状にして押し出した後、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作った。この時、I層、II層、III層の厚さの比は10:80:10となるように各押し出し機の吐出量を調整した。
【0109】
次いで、リバースロール法によりこの未延伸PETフィルムの、後に低反射層を形成する面とは反対側に製造例3の接着性改質塗布液を0.08g/mになるように塗布した後、80℃で20秒間乾燥した。
【0110】
この塗布層を形成した未延伸フィルムをテンター延伸機に導き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度125℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に4.0倍に延伸した。次に、幅方向に延伸された幅を保ったまま、温度225℃、10秒間で処理し、さらに幅方向に3.0%の緩和処理を行い、フィルム厚み約100μmのPETフィルムを得た。
【0111】
前記PETフィルムの低反射層を形成する側の塗布面に、製造例4の塗布液を塗布し、150℃で2分間乾燥し、膜厚0.1μmの低反射層を形成し、偏光子保護フィルム1を得た。
【0112】
偏光子保護フィルム1の反射スペクトルを測定したところ、波長630nmにおける反射率は1.00%であった。なお、反射スペクトルのボトム波長も630nmであった。また、偏光子保護フィルム1のリタデーション(Re)は10300nm、厚さ方向のリタデーション(Rth)は12350nm、Re/Rthは0.834、NZ係数は1.699であった。
【0113】
(偏光子保護フィルム2)
基材フィルム中間層用原料として粒子を含有しないPET(A)樹脂ペレット90質量部と紫外線吸収剤を含有したPET(B)樹脂ペレット10質量部を135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機2(中間層II層用)に供給し、また、PET(A)を常法により乾燥して押出機1(外層I層および外層III用)にそれぞれ供給し、285℃で溶解した。この2種のポリマーを、それぞれステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し、2種3層合流ブロックにて、積層し、口金よりシート状にして押し出した後、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作った。この時、I層、II層、III層の厚さの比は10:80:10となるように各押し出し機の吐出量を調整した。
【0114】
次いで、リバースロール法によりこの未延伸PETフィルムの低反射層を形成する側に製造例5の塗布液を乾燥後の塗布量が0.09g/mになるように、低反射層を積層した面とは反対側に製造例3の接着性改質塗布液を0.08g/mになるように塗布した後、80℃で20秒間乾燥した。
【0115】
この塗布層を形成した未延伸フィルムをテンター延伸機に導き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度125℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に4.0倍に延伸した。次に、幅方向に延伸された幅を保ったまま、温度225℃、10秒間で処理し、さらに幅方向に3.0%の緩和処理を行い、フィルム厚み約100μmの偏光子保護フィルム2を得た。
【0116】
偏光子保護フィルム2のリタデーション(Re)、厚さ方向のリタデーション(Rth)、Re/Rth、NZ係数は、偏光子保護フィルム1と同じであった。
偏光子保護フィルム2の反射スペクトルを測定したところ、波長630nmにおける反射率は2.11%であった。波長550nmにおける反射率は1.96%であった。
【0117】
(偏光子保護フィルム3)
基材フィルム中間層用原料として粒子を含有しないPET(A)樹脂ペレット90質量部と紫外線吸収剤を含有したPET(B)樹脂ペレット10質量部を135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機2(中間層II層用)に供給し、また、PET(A)を常法により乾燥して押出機1(外層I層および外層III用)にそれぞれ供給し、285℃で溶解した。この2種のポリマーを、それぞれステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し、2種3層合流ブロックにて、積層し、口金よりシート状にして押し出した後、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作った。この時、I層、II層、III層の厚さの比は10:80:10となるように各押し出し機の吐出量を調整した。
【0118】
次いで、リバースロール法によりこの未延伸PETフィルムの低反射層を形成する側に製造例6の低反射層塗布液を乾燥後の塗布量が0.108g/mになるように、低反射層を積層した面とは反対側に製造例3の接着性改質塗布液を0.080g/mになるように塗布した後、80℃で20秒間乾燥した。
【0119】
この塗布層を形成した未延伸フィルムをテンター延伸機に導き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度125℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に4.0倍に延伸した。次に、幅方向に延伸された幅を保ったまま、温度225℃、10秒間で処理し、さらに幅方向に3.0%の緩和処理を行い、フィルム厚み約100μmの偏光子保護フィルム3を得た。
偏光子保護フィルム3は、リタデーション(Re)が10300nm、厚さ方向のリタデーション(Rth)が12350nm、Re/Rthが0.834、NZ係数が1.699であった。
また、偏光子保護フィルム3の反射スペクトルは、ボトム波長が630nmであり、波長630nmにおける反射率は1.71%であった。
【0120】
(実施例1)
PVAとヨウ素からなる偏光子の片側に偏光子保護フィルム1を偏光子の透過軸とフィルムの進相軸が垂直になるように貼り付け、その反対の面にTACフィルム(富士フイルム(株)社製、厚み80μm)を貼り付けて偏光板を作成した。なお、偏光子保護フィルムの低反射層が積層されていない面に、偏光子を積層して偏光板を作成した。
東芝社製のREGZA 43J10Xの視認側の偏光板を、ポリエステルフィルムが液晶とは反対側(遠位)となるように上記で作成した偏光板に置き換えて、液晶表示装置を作成した。なお、偏光板の透過軸の方向が、置き換え前の偏光板の透過軸の方向と同一となるよう置き換えた。
【0121】
(比較例1)
実施例1において、偏光子保護フィルム1の代わりに、偏光子保護フィルム2を用いた以外は同様にして、液晶表示装置を作成した。
【0122】
(実施例2)
実施例1において、偏光子保護フィルム1の代わりに、偏光子保護フィルム3を用いた以外は同様にして、液晶表示装置を作成した。
【0123】
実施例1、及び2、並びに比較例1の液晶表示装置を並べて、正面及び斜め方向から暗所で画面を目視観察したところ、実施例1や2のほうが、比較例1よりも、虹斑の発生が抑制されていた。また、実施例1と2では、実施例1の液晶表示装置がほうが虹斑の発生が抑制されていた。なお、ここでいう虹斑とは、フィルムを斜め方向から、視認者が頭を動かしながら観察したときに(フィルム法線方向からの角度を変えながら観察したときに)、画面上に観察される靄状の虹斑のことである。
【0124】
実施例1、及び2、並びに比較例1は全てポリエステルフィルムの厚みが100μmであったが、これを80μmのフィルム(リタデーション(Re)は8080nm、厚さ方向のリタデーション(Rth)は9960nm、Re/Rthは0.811、NZ係数は1.733)に置き換えて実施例1’、 実施例2’、比較例1’の液晶表示装置を製造したところ、同様に比較例1’よりも実施例1’ や 実施例2’の液晶表示装置のほうが虹斑の発生が抑制されていた。実施例1’と 実施例2’では、実施例1’ のほうがより虹斑が抑制されていた。なお、ここでいう虹斑とは、フィルムを斜め方向から、頭を動かしながら観察したときに(フィルム法線方向からの角度を変えながら観察したときに)、画面上に観察される靄状の虹斑のことである。
【0125】
また、実施例1、及び2、並びに比較例1は、全てポリエステルフィルムの厚みが100μmであったが、これを60μmのフィルム(リタデーション(Re)は6060nm、厚さ方向のリタデーション(Rth)は7470nm、Re/Rthは0.811、NZ係数は1.733)に置き換えた実施例1’’、 実施例2’’、比較例1’’の液晶表示装置を製造したところ、同様に比較例1’’よりも実施例1’’ や 実施例2’’の液晶表示装置のほうが虹斑の発生が抑制されていた。実施例1’’と 実施例2’’では、実施例1’’ のほうがより虹斑が抑制されていた。なお、ここでいう虹斑とは、フィルムを斜め方向から、頭を動かしながら観察したときに(フィルム法線方向からの角度を変えながら観察したときに)、画面上に観察される靄状の虹斑のことである。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の液晶表示装置及び偏光板は、いずれの角度においても虹状の色斑の発生が有意に抑制された良好な視認性を確保することができ、産業界への寄与は大きい。