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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】回転電機及び回転電機の車載構造
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/20 20060101AFI20231011BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
H02K5/20
H02K9/19 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022501516
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2020006833
(87)【国際公開番号】W WO2021166171
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】城ノ戸 拓真
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-042661(JP,A)
【文献】特開2004-297936(JP,A)
【文献】特開平07-184350(JP,A)
【文献】特開2019-221054(JP,A)
【文献】特開2014-220960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K5/00-5/26
9/00-9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機であって、
円筒状のアウターハウジングと、
前記アウターハウジングの内部に設けられて、前記アウターハウジングとの間に冷却液流路を形成する、円筒状のインナーハウジングとを備えており、
前記インナーハウジングは、前記インナーハウジングに収納される回転軸の軸方向の一端で圧入又は焼き嵌めによって前記アウターハウジングと固定され、その前記軸方向の他端で複数のボルトによって前記アウターハウジングに締結されており、
前記アウターハウジングと前記インナーハウジングとの圧入又は焼き嵌めによる固定部において、前記アウターハウジングの内周面と前記インナーハウジングの外周面とが接触しない非接触部が周方向に一つ以上形成されている、回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記軸方向から見て、前記非接触部のそれぞれの中心角範囲内に、少なくとも一つの前記ボルトが配置されている、回転電機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の回転電機であって、
前記回転電機の出力を減速するギアユニットをさらに備えており、
前記ギアユニットのハウジングが前記アウターハウジングと一体的に結合されており、
前記ギアユニットの出力軸が、前記回転電機の前記回転軸と一致せずに平行であり、
前記軸方向から見て、前記回転軸の中心と前記出力軸の中心とを通る直線に直角な、前記回転軸の前記中心を通る第一平面によって、前記固定部を前記出力軸側の第一半周範囲と当該出力軸とは反対側の第二半周範囲とに分割した場合に、前記第一半周範囲内の前記非接触部の合計周長が前記第二半周範囲内の前記非接触部の合計周長よりも長い、回転電機。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の回転電機であって、
当該回転電機を制御する制御ユニットをさらに備えており、
前記制御ユニットが前記アウターハウジングに固定されており、
前記軸方向から見て、前記制御ユニットの取付基準面に平行な、前記回転軸の中心を通る第二平面によって、前記固定部を前記制御ユニット側の第三半周範囲と当該制御ユニットとは反対側の第四半周範囲とに分割した場合に、前記第三半周範囲内の前記非接触部の合計周長が前記第四半周範囲内の前記非接触部の合計周長よりも長い、回転電機。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の回転電機であって、
前記非接触部が、前記周方向に素数個設けられている、回転電機。
【請求項6】
請求項5に記載の回転電機であって、
前記非接触部が、五つ以上設けられている、回転電機。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の回転電機の車載構造であって、
車両に搭載された状態において、前記軸方向から見て、前記回転軸の中心を通る水平面及び垂直面を基準に、前記固定部をそれぞれ90度の中心角を有する上部四分の一周範囲、下部四分の一周範囲、前部四分の一周範囲及び後部四分の一周範囲に前記周方向に沿って分割した場合に、前記前部四分の一周範囲及び前記後部四分の一周範囲内の前記非接触部の合計周長が前記上部四分の一周範囲及び前記下部四分の一周範囲内の前記非接触部の合計周長よりも長い、回転電機の車載構造。
【請求項8】
請求項1~6の何れか一項に記載の回転電機の車載構造であって、
車両に搭載された状態において、前記軸方向から見て、前記固定部を周方向沿って車室に近い車室側範囲と車室とは反対側の反対側範囲とに分割した場合に、前記車室側範囲内の前記非接触部の合計周長が前記反対側範囲内の前記非接触部の合計周長よりも長い、回転電機の車載構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機[a rotating electric machine]、及び、回転電機の車載構造[an installation configuration of the rotating electric machine on a vehicle]に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、回転電機を開示している。この回転電機では、円筒状の[tube-shaped]ハウジングの内周面に円筒状のステータコアが焼き嵌めによって取り付けられており、当該ステータコアの内部にロータが回転可能に設けられている。回転電機は発熱するが、この熱を冷却するためにハウジング内部に冷却液が循環する冷却液流路が形成されている。ハウジングは、冷却液流路を形成するために、円筒状のアウターハウジングと、アウターハウジングの内部に挿入される円筒状のインナーハウジングとで構成されている。
【0003】
回転電機の大きさを大きくすることなく冷却液流路を形成するために、このような二重壁構造のハウジングが採用されている。具体的には、外周面上に螺旋状の溝が形成されたインナーハウジング全体がアウターハウジングの内部に圧入[press-fit]又は焼き嵌め[shrink-fit]される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特許6314158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回転電機では、そのロータの回転に起因してインナーハウジングが振動する。この振動は、インナーハウジングからアウターハウジングへと伝達され、ハウジングから外部に放射音を発生させる。上述した冷却液流路を形成するための二重筒構造が放射音を助長することがある。
【0006】
従って、本発明の目的は、騒音の放射を抑制することのできる、二重筒構造を有する回転電機を提供することにある。また、本発明の別の目的は、騒音の放射を効果的に抑制することのできる、回転電機の車載構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の特徴は、円筒状のアウターハウジングと、アウターハウジングとの間に冷却液流路を形成する円筒状のインナーハウジングとを備えている、回転電機を提供する。インナーハウジングは、軸方向の一端で圧入又は焼き嵌めによってアウターハウジングと固定され、その他端で複数のボルトによってアウターハウジングに締結されている。圧入又は焼き嵌めによる固定部に、アウターハウジングの内周面とインナーハウジングの外周面とが接触しない非接触部が周方向に一つ以上形成されている。
【0008】
本発明の第二の特徴は、上記第一の特徴の回転電機の車載構造を提供する。車載構造では、軸方向から見て、固定部が、上部四分の一周範囲、下部四分の一周範囲、前部四分の一周範囲及び後部四分の一周範囲に周方向に沿って分割される。ここで、前部四分の一周範囲及び後部四分の一周範囲内の非接触部の合計周長が、上部四分の一周範囲及び下部四分の一周範囲内の非接触部の合計周長よりも長い。
【0009】
本発明の第三の特徴は、上記第一の特徴の回転電機の車載構造を提供する。車載構造では、軸方向から見て、固定部が、周方向沿って車室に近い車室側範囲と車室とは反対側の反対側範囲とに分割される。ここで、車室側範囲内の非接触部の合計周長が反対側範囲内の非接触部の合計周長よりも長い。
【発明の効果】
【0010】
上記第一の特徴によれば、音の放射を抑制することのできる回転電機を提供できる。また、上記第二の特徴によれば、車載された回転電機の放射音をより効果的に抑制することができる。さらに、上記第三の特徴によれば、車載された回転電機の放射音が車室に向けて放射されるのをより効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態に係る回転電機(フロントMG)の分解斜視図である。
図2図2は、上記フロントMGの回転軸の中心Oを含む断面図である。
図3図3は、上記回転軸の方向に沿って見た上記フロントMGの側面図である。
図4図4は、図2中のIV-IV線断面図である。
図5A図5Aは、インナーハウジングの振動(逆位相振動)を示す模式的斜視図である。
図5B図5Bは、インナーハウジングの振動(同位相振動)を示す模式的斜視図である。
図6図6は、実施形態に係るもう一つの回転電機(リアMG)の斜視図である。
図7図7は、回転軸の方向に沿って見た上記リアMGの側面図である。
図8A図8Aは、インナーハウジングの円環0次振動モードを模式的に示す説明図である。
図8B図8Bは、インナーハウジングの円環1次振動モードを模式的に示す説明図である。
図8C図8Cは、インナーハウジングの円環2次振動モードを模式的に示す説明図である。
図8D図8Dは、インナーハウジングの円環3次振動モードを模式的に示す説明図である。
図8E図8Eは、インナーハウジングの円環4次振動モードを模式的に示す説明図である。
図8F図8Fは、インナーハウジングの円環5次振動モードを模式的に示す説明図である。
図9A図9Aは、上記フロントMGの車載構造を示す側面図である(第一例)。
図9B図9Bは、上記リアMGの車載構造を示す側面図である(第一例)。
図10図10は、上記フロントMG及び上記リアMGの車載構造を示す概略側面図である(第二A例)。
図11A図11Aは、上記第二A例のフロントMGの車載構造を示す側面図である。
図11B図11Bは、上記第二A例のリアMGの車載構造を示す側面図である。
図12図12は、上記フロントMG及び上記リアMGの車載構造を示す概略側面図である(第二B例)。
図13A図13Aは、上記第二B例のフロントMGの車載構造を示す側面図である。
図13B図13Bは、上記第二B例のリアMGの車載構造を示す側面図である。
図14図14は、上記フロントMG及び上記リアMGの車載構造を示す概略側面図である(第二C例)。
図15A図15Aは、上記第二C例のフロントMGの車載構造を示す側面図である。
図15B図15Bは、上記第二C例のリアMGの車載構造を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ実施形態に係る回転電機について説明する。
【0013】
本実施形態の回転電機は、車両に搭載されるモータジェネレータ(MG)であり、モータとしても機能し得るし、発電機としても機能し得る。本実施形態では、回転電機として、車両Vの前部に搭載されて前輪FWを駆動するフロントMG100Fと車両Vの後部に搭載されて後輪RWを駆動するリアMG100Rとが設けられている(図10参照)。フロントMG100F及びリアMG100Rは、車両Vの減速時に回生発電することもできる。
【0014】
まず、フロントMG100Fについて説明する。図1は、フロントMG100Fのハウジング1の分解斜視図である。ハウジング1は、アウターハウジング1o及びインナーハウジング1iからなる二重管構造を有している。ハウジング1については追って詳しく説明する。なお、本実施形態のフロントMG100Fは、フロントギアユニット101Fも一体的に備えている。フロントギアユニット101Fは、内部に減速ギアセット及びディファレンシャルギアを備えている。フロントMG100Fの後述するロータ3の回転軸[rotary shaft]は、減速ギアセット及びディファレンシャルギアを介して、前輪FWのドライブシャフトDSと機械的に接続されている。なお、図中のドライブシャフトDSは、等速ジョイントなどを省略して概略的に示されている。フロントギアユニット101Fのハウジングの一部は上述したアウターハウジング1oと一体的に結合されている。
【0015】
図2は、フロントMG100Fの回転軸の中心Oを含む断面図である。フロントMG100Fは、ハウジング1内にステータ2及びロータ3を備えている。ステータ2は、インナーハウジング1iの内部に焼き嵌めされており、通常のモータと同様に、ステータコア2s及びコイル2cとを備えている。ステータコア2sは、多数の金属積層板(電磁鋼板)を回転軸の方向(即ち、軸方向[axial direction])に積層して構成されている。ステータコア2sの内周面上には、多数のスロット2aが等間隔に形成されている。スロット2aの内部にはコイル2cが巻回されている。巻回状態のコイル2cの両端は、軸方向にステータコア2sの両端からそれぞれ突出してコイルエンドを形成している。図2では、コイルエンドは簡略化して示されている。
【0016】
ロータ3は、その両端で、ボールベアリング3aを介してハウジング1に回転可能に支持されている。なお、図2では、ロータ3はその一部が省略されて示されており、上述したステータコア2sが見えるように回転軸のみが示されている。
【0017】
ハウジング1を構成するアウターハウジング1o及びインナーハウジング1iは、アルミ合金によって形成されている。図1に示されるように、インナーハウジング1iは円筒状に形成され、その外周面上にはフロントMG100Fを冷却するための冷却液流路となる螺旋溝1gが形成されている。インナーハウジング1iの外周面上には、この冷却液流路の液密を確保するためのOリング6a及び6b(図2参照)を収納するためのシール溝1a及び1bも形成されている。シール溝1aは、インナーハウジング1iの一端(図2中の右端)側に形成されており、シール溝1bは、当該一端とは反対側の他端(図2中の左端)側に形成されている。
【0018】
インナーハウジング1iの一端は、アウターハウジング1oに圧入によって固定される固定内周部[inner circumferential fixed portion]1cとして機能する。インナーハウジング1iの固定内周部1cのみがアウターハウジング1oの固定外周部[outer circumferential fixed portion]1nに圧入によって固定される。圧入長さ(固定範囲Xの軸方向長さ)は短い。軸方向において、インナーハウジング1iとアウターハウジング1oとが圧入によって固定されている固定範囲[fixation area]Xが図中に示されている。なお、インナーハウジング1i(固定内周部1c)とアウターハウジング1o(固定外周部1n)とは固定範囲Xで焼き嵌めによって互いに固定されてもよい。
【0019】
また、上述したようにインナーハウジング1iにはステータコア2sが焼き嵌めされており、軸方向におけるインナーハウジング1iとステータコア2sとの焼嵌範囲[shrink-fit area]Yも図2中に示されている。ステータコア2sの外径はインナーハウジング1iの内径よりも僅かに大きく設定されている。径の差は「締め代[interference]」と呼ばれる(焼き嵌めはinterference-fitとも呼ばれる)。そして、二つの部材の一方を熱膨張や熱収縮させて締め代以上の熱変形を生じさせた状態で、二つの部材を嵌め合わせる。熱変形が戻ると二つの部材は締め代によって互いにしっかり固定とされる。本実施形態では、ステータコア2sが多数の金属積層板によって構成されている(かつ、コイル2cも巻回されている)ので、インナーハウジング1iを熱膨張させて焼き嵌めが行われる。一般に、圧入より焼き嵌めの方がより強固な固定が可能であるが、焼き嵌め後の応力はより大きい。また、締め代が大きいほど、焼き嵌め後の応力は大きい。
【0020】
図1に示されるように、アウターハウジング1oの他端には、軸方向に対して垂直に外方に延出されたフランジ1dが形成されている。フランジ1dには複数のボルト孔1eが形成されている。図1及び図3に示されるように、インナーハウジング1iの他端にも、軸方向に対して垂直に外方に延出されたフランジ1fが形成されている。フランジ1fにはボルト挿通孔1hが形成されている。なお、図3は、車両Vの左側から軸方向に沿って見た、ハウジング1(アウターハウジング1o及びインナーハウジング1i)の側面図である。ただし、図3には、ステータ2、ロータ3及びカバー1tは示されていない。
【0021】
インナーハウジング1iの他端は、ボルト5(図2参照)によってボルト挿通孔1hを介してアウターハウジング1oに固定される。即ち、インナーハウジング1iの一端は圧入(又は焼き嵌め)によってアウターハウジング1oに固定され、インナーハウジング1iの他端はボルト締結によってアウターハウジング1oに固定される。なお、アウターハウジング1oのフランジ1d及びインナーハウジング1iのフランジ1fには、両者の位置決めを行うロケートピンが挿入されるロケート孔1jも形成されている(図3参照)。また、本実施形態では、インナーハウジング1iのアウターハウジング1oへのボルト締結では、図2に示されるように、ハウジング1の他端を塞ぐカバー1tも共締めされる。
【0022】
図1に示されるように、アウターハウジング1oは円筒状に形成され、その外周面上には強度及び剛性を確保するための複数のリブが形成されている。また、アウターハウジング1oには、上述したインナーハウジング1iの螺旋溝1gによって形成される冷却液流路に冷却液を供給する供給ポート1kと、冷却液流路から冷却液を排出する排出ポート1mも形成されている。なお、アウターハウジング1oは円筒状に形成されるが、アウターハウジング1oと一体的に設けられるフロントギアユニット101Fは、アウターハウジング1oの円筒部から側方に延出されている。
【0023】
アウターハウジング1oのインナーハウジング1iの収納室の一端(図2中の右端)は壁部によって閉塞されている。ただし、当該壁部の中央には、ボールベアリング3aが取り付けられてロータ3の一端を保持する保持部1qが形成されている。なお、保持部1qの中央には、ロータ3の回転軸を導出する孔が形成されている。一方、上述した収納室の他端(図2中の左端)は、ステータコア2sが焼き嵌めされたインナーハウジング1iを挿入するために開放されている。収納室の他端は、インナーハウジング1iが挿入されてさらにその内部にロータ3が組み付けられた後、カバー1tによって閉塞される。カバー1tにもボールベアリング3aが取り付けられており、ロータ3の他端が保持される。
【0024】
上述した二重管構造によれば、スペース効率よく、かつ、容易に冷却液流路を形成することができる。また、インナーハウジング1iの一端は圧入(又は焼き嵌め)によってアウターハウジング1oと固定され、インナーハウジング1iの他端はボルト5による締結によってアウターハウジング1oと固定される。即ち、インナーハウジング1iは、その両端でアウターハウジング1oと固定される(片持ち状の固定ではない)。従って、フロントMG100Fの回転トルクの反力がインナーハウジング1iに作用しても、インナーハウジング1iに捩じれなどは生じることはなく、フロントMG100Fの強度及び剛性を低下させたり、音振特性を悪化させたりすることがない。
【0025】
さらに、インナーハウジング1i(固定内周部1c)とアウターハウジング1o(固定外周部1n)との圧入長さが短いので、圧入のための設備が大規模になることもない。また、圧入長さが短く、かつ、圧入力が小さくて済むため、固定内周部1cの厚さを薄く(内径を大きく)することができ、コイル2cのコイルエンドとのクリアランスを大きくすることができる。この結果、回転電機の組み立て時にインナーハウジング1iとコイルエンド(コイル2c)との干渉を防止できる。なお、インナーハウジング1iとアウターハウジング1oとを焼き嵌めによって固定する場合でも、アウターハウジング1o(固定外周部1n)を部分的に熱膨張又は熱収縮させるだけでよく、焼き嵌めのための設備が大規模になることはない。また、焼き嵌め長さが短いため、固定内周部1cの厚さを薄くでき、インナーハウジング1iとコイルエンド(コイル2c)との干渉も防止できる。
【0026】
図4は、軸方向から見た、インナーハウジング1iとアウターハウジング1oとの圧入(又は焼き嵌め)による固定部(固定範囲X)での軸方向に垂直な断面図である。なお、図4は、インナーハウジング1iがアウターハウジング1oに圧入(又は焼き嵌め)された状態を示しており、ステータ2、ロータ3及びカバー1tは示されていない。本実施形態では、フロントMG100Fからの放射音を抑制するために、固定部には、アウターハウジング1oの内周面とインナーハウジング1iの外周面とが接触しない非接触部1pが周方向に沿って五箇所形成されている。
【0027】
本実施形態では、基準円に対してアウターハウジング1oの内周面を外側に配置することで、非接触部1pを形成している。ただし、基準円に対してインナーハウジング1iの外周面を内側に配置することで非接触部1pを形成してもよい。また、アウターハウジング1oの内周面を外側に配置すると共にインナーハウジング1iの外周面を内側に配置して非接触部1pを形成してもよい。なお、本実施形態の非接触部1pは、単なる微小隙間であるが、その内部にゴムなどの弾性部材が充填されてもよい。
【0028】
フロントMG100Fの内部では、ステータ2と回転するロータ3との間に磁力が生じる。このため、フロントMG100Fの内部、特に、インナーハウジング1iの内部で発生した音は、外方に放射されると共に、アウターハウジング1oを介して伝達される。上述した非接触部1pが振動(音)の伝達を遮断又は緩和するので、インナーハウジング1i(及び、焼き嵌められて一体化されたステータ2)の振動自体を抑制できると共に、振動による音の外方への伝達及び放射を抑制することができる。この結果、回転電機(フロントMG100F)の騒音を抑制できる。また、非接触部1pは固定部での応力集中を緩和するので、固定部を強固にしなくても十分であり、インナーハウジング1iを軽量かつ安価に製造できる。
【0029】
なお、少なくとも一つの非接触部1pが設けられれば騒音抑制効果が得られるが、複数の非接触部1pが設けられる方が騒音抑制効果はより顕著に得られる。ただし、固定部は、インナーハウジング1iとアウターハウジング1oとを固定するための部分であるので、複数の非接触部1pの合計周長が長すぎれば両者をしっかりと固定できなくなる。また、非接触部1pの各周長にもよるが、複数の非接触部1pの配置が偏るとインナーハウジング1iとアウターハウジング1oとをしっかりと固定できなくなることもある。従って、非接触部1pの周長や配置は、インナーハウジング1iとアウターハウジング1oとの固定を阻害しないように決定される。
【0030】
また、本実施形態では、ハウジング1の一端側の非接触部1pの位置と他端側のボルト5の位置とが対応付けられている。より詳しくは、軸方向から見て、非接触部1pのそれぞれの中心角範囲内に、少なくとも一つのボルト5が配置されている。図4には、インナーハウジング1iのフランジ1f及びボルト挿通孔1h(アウターハウジング1oのフランジ1d及びボルト孔1e)が点線で示されている。図4に示されるように、非接触部1pの各中心角範囲内にはボルト5(ボルト挿通孔1h、ボルト孔1e)が配置されている。言い換えれば、ハウジング1の一端のボルト5による締結位置に対応させて、非接触部1pの位置が決められている。図4中右側及び左側上に位置する中心角範囲については二つのボルト5が配置されており、他の中心角範囲のそれぞれについては一つのボルト5が配置されている。
【0031】
以下、この理由について、図5A及び図5Bを参照しつつ説明する。図5A及び図5Bは、インナーハウジング1i及びこれに一体化されたステータ2の円環0次[annular 0th]の振動モードを模式的に示している。なお、円環n次の振動については後述する。筒状部材の径方向に拡張縮する振動を考慮すると、筒状部材の周全体が拡張又は収縮する振動モードが円環0次の振動モードである。そして、図5Aは、ハウジング1の軸方向の一端の振動の位相と他端の振動の位相とが異なる振動モード(逆位相振動[antiphase vibration])を示している。図5Bは、ハウジング1の一端の振動の位相と他端の振動の位相とが同じ振動モード(同位相振動[coordinate phase vibration])を示している。
【0032】
図5Aに示される逆位相振動では、一端が拡張すると共に他端が収縮するのでハウジング1の内部の圧力変動が相殺される[compensated]。一方、図5Bに示される同位相振動では、両端が同時に拡張(又は収縮)するのでハウジング1の内部の圧力変動は助長される[facilitated]。従って、後者の同位相振動モードの方が騒音は大きくなる。同位相振動を効果的に抑制できれば、騒音を効果的に抑制できる。このため、本実施形態では、ハウジング1の一端側に非接触部1pを形成して、非接触部1pの隙間によって振動の伝達を抑止する。ハウジング1の他端側のボルト5の締結部では振動のインナーハウジング1iからアウターハウジング1oへの伝達を抑制できないが、一端側の非接触部1pでは振動の伝達を抑制できる。この結果、上述した同位相振動モードにおいて騒音の伝達を効果的に抑制できる。即ち、ハウジング1からの放射音を低減できる。
【0033】
上述したように、フロントMG100Fはフロントギアユニット101Fをさらに備えている。フロントギアユニット101Fのハウジングは、軸方向における上述した固定部(固定範囲X)側で、アウターハウジング1oと一体的に結合されている(本実施形態では一体成形されている)。フロントギアユニット101Fの出力軸(ドライブシャフトDS)の中心O1は、フロントMG100Fの回転軸の中心Oと一致せずに平行である。(なお、後述するリアMG100Rでは、中心Oと中心O1とは一致する。)
【0034】
ここで、図3に示されるように、軸方向から見て、かつ、中心Oと中心O1通る直線L1に直角な、中心Oを通る第一平面P1によって、固定部(固定範囲X)を分割する。具体的には、固定部を、第一平面P1によって、フロントギアユニット101Fの出力軸(中心O1)側の第一半周範囲[first half circumferential range]R1と出力軸とは反対側の第二半周範囲R2とに分割する。この場合、第一半周範囲R1内の非接触部1pの合計周長は、第二半周範囲R2内の非接触部1pの合計周長よりも長くされている。なお、一つの非接触部1pが第一平面P1によって分割される場合は、それぞれの分割長さを第一半周範囲R1の周長と第二半周範囲R2の周長とに加える。
【0035】
図4に示される複数の非接触部1pもこの条件を満たしている。固定部の剛性は周方向に均一ではなく、フロントギアユニット101Fのハウジングが一体的に結合されている第一半周範囲R1の剛性の方が第二半周範囲R2の剛性よりも高くなる。従って、第一半周範囲R1内の非接触部1pの合計周長を第二半周範囲R2内の非接触部1pの合計周長よりも長くすることで、固定部の剛性を確保しつつ非接触部1pを十分に設けることができる。このように非接触部1pを配置することによって、固定部の剛性を確保しつつ騒音の放射を抑制することができる。
【0036】
また、上述したリアMG100Rも、基本的にフロントMG100Fと同様の構造を有している。同等の構成には同一の符号を付す。即ち、図6及び図7に示されるように、リアMG100Rも、アウターハウジング1o及びインナーハウジング1iからなる二重管構造のハウジング1を備えている。そして、アウターハウジング1o及びインナーハウジング1iの間に冷却液流路が形成されている。また、リアMG100Rにおいても、インナーハウジング1iの一端がアウターハウジング1oに圧入(又は焼き嵌め)によって固定され、インナーハウジング1iの他端がアウターハウジング1oにボルト締結によって固定されている。ボルト締結は、インナーハウジング1iのフランジ1fに形成されたボルト挿通孔1hとアウターハウジング1oのフランジ1dに形成されたボルト孔(1e)によって行われる。
【0037】
リアMG100Rも、リアギアユニット101Rを一体的に備えている。リアギアユニット101Rは、リアMG100Rの左側に位置している。リアMG100Rの回転軸(中心O)とリアギアユニット101Rの出力軸(中心O1)とは一致している。リアギアユニット101Rの内部には、減速ギアユニットとしてのプラネタリギアセットが収納されている。リアMG100Rの回転軸は中空軸であり、プラネタリギアセットの筒状のサンギアに直接接続されている。プラネタリギアセットのリングギアは、リアギアユニット101Rのハウジング内面に固定されている。
【0038】
サンギアに入力されたリアMG100Rの出力は、プラネタリギアキャリアから出力される。プラネタリギアキャリアには、ディファレンシャルギアも組み込まれている。プラネタリギアキャリアの出力軸は、筒状のサンギア及びリアMG100Rの中空の回転軸の内部を通って反対側にも導出されている。従って、リアMG100Rとリアギアユニット101Rとが同軸上に配置されても、リアギアユニット101Rの出力軸の両端はドライブシャフトDSを介して左右の後輪RWにそれぞれ機械的に接続される。
【0039】
リアMG100Rのハウジング1においても、インナーハウジング1iの一端はアウターハウジング1oに圧入(又は焼き嵌め)によって固定される。そして、その固定部には、同様に非接触部1pが形成されている。また、インナーハウジング1iの他端はアウターハウジング1oにボルト締結によって固定される。そして、軸方向から見て、非接触部1pのそれぞれの中心角範囲内に、少なくとも一つのボルト5が配置されている。ボルト締結のために、アウターハウジング1oの他端にフランジ1d(図6参照)が形成されると共に、インナーハウジング1iの他端にフランジ1f(図6及び図7参照)が形成されている。フランジ1fにはボルト挿通孔1hが形成されている。なお、図7は、車両Vの右側から回転軸の軸方向に沿って見た、ハウジング1(アウターハウジング1o及びインナーハウジング1i)の側面図である。ただし、図7には、ステータ2や、ロータ3及びカバー1tは示されていない。
【0040】
また、リアMG100Rにおいても、上述したフロントMG100Fと同様に、非接触部1pによる上述した効果がもたらされる。即ち、非接触部1pを形成することで、インナーハウジング1i(及び、焼き嵌められて一体化されたステータ2)の振動自体を抑制できると共に、振動による音の外方への伝達及び放射を抑制することができる。この結果、回転電機(リアMG100R)の騒音を抑制できる。また、ハウジング1の一端側の非接触部1pの位置と他端側のボルト5の位置とが対応付けられている。従って、同位相振動モードによる騒音の伝達を効果的に抑制できる。即ち、ハウジング1からの放射音を低減できる。
【0041】
図7に示されるように、リアMG100Rは、制御ユニット102Rもさらに備えている。制御ユニット102Rは、リアMG100Rの動作を制御する。制御ユニット102Rは、ハウジング1に形成された取付ボス1r(図6参照)を介して、ハウジング1に固定されている。なお、図7中に、インナーハウジング1iとアウターハウジング1oとの間の圧入又は焼き嵌めによる固定部(固定範囲X)に設けられる非接触部1pの位置を示す。リアMG100Rでは、固定部にアウターハウジング1oの内周面とインナーハウジング1iの外周面とが接触しない非接触部1pが周方向に沿って三箇所形成されている。
【0042】
ここで、軸方向から見て、制御ユニット102Rの取付基準面PSに平行な、回転軸の中心Oを通る第二平面P2によって、固定部(固定範囲X)を周方向に沿って分割する。具体的には、固定部を、制御ユニット102R側の第三半周範囲R3と当該制御ユニット102Rとは反対側の第四半周範囲R4とに分割する。この場合、第三半周範囲R3内の非接触部1pの合計周長が第四半周範囲R4内の非接触部1pの合計周長よりも長くされている。
【0043】
なお、制御ユニット102Rの取付基準面PSは上述した取付ボス1rの取付面から規定できる。固定部の剛性は周方向に均一ではなく、制御ユニット102Rが一体的に結合されている第三半周範囲R3の剛性の方が、第四半周範囲R4の剛性よりも高くなる。従って、第三半周範囲R3内の非接触部1pの合計周長を第四半周範囲R4内の非接触部1pの合計周長よりも長くすることで、固定部の剛性を確保しつつ、非接触部1pを十分に設けることで騒音の放射を抑制することができる。このように非接触部1pを配置することによって、固定部の剛性を確保しつつ騒音の放射を抑制することができる。
【0044】
なお、本実施形態では、制御ユニット102RがリアMG100Rのハウジング1に取り付けられたが、制御ユニット102Rのハウジングの一部がリアMG100Rのハウジング1と一体的に形成されてもよい。例えば、制御ユニット102Rのハウジングの下半分をリアMG100Rのハウジング1と一体的に形成し、制御ユニット102Rのハウジングの上半分をリッドとして形成してもよい。
【0045】
筒状部材の径方向に拡張縮する振動モードについては、図5A及び図5Bを参照して円環0次の振動モードについてはすでに説明した。ここでは、円環0次を含む円環n次(n≧0)の振動モードについて簡単に説明する。図8A図8Fに、円環0次~円環5次の振動モードを模式的に示す。各振動モードでは、基準円Sに対して、点線で示される変形と一点鎖線で示される変形とが交互に発生する。実際の円筒部材の円環振動では、このような円環n次の振動モードが複合して発生している。
【0046】
例えば、ハウジング1の軸方向の一端において、周方向に均等に四カ所に非接触部1pを設けると四カ所に接触部が形成される。この場合、接触部では円環振動が拘束され、図8Eに示される円環4次の振動モードが生じる。さらに、円環2次の振動モードも生じる(2は4の約数)。あるいは、ハウジング1の軸方向の一端において、周方向に均等に六カ所に非接触部1pを設けると六カ所に接触部が形成される。この場合、円環6次の振動モードが生じる。さらに、円環2次及び円環3次の振動モードも生じる(2及び3は6の約数)。
【0047】
なお、非接触部1p(接触部)を周方向に均等に設ける場合を例にして説明したが、非接触部1pが周方向に均等に設けられなくても、非接触部1pの数は振動次数に関係する。同時に生じる円環振動モードは互いに増幅を招く。従って、このような増幅を抑制するには、上述した非接触部1pの数を素数とすることが好ましい。素数は、1とそれ自身しか約数を持たないため、上述した増幅を抑制することができる。即ち、非接触部1pの数を素数とすることで、騒音の放射をより効果的に抑制することができる。本実施形態では、図4に示されるように、フロントMG100Fについては非接触部1pの数は五であり、図7に示されるように、リアMG100Rについては非接触部1pの数は三である(どちらの場合も素数)。
【0048】
また、上述した円環振動モードでも次数の低い振動は低周波数帯域で発生する。周波数が低い値から高い値になるにつれて、次の順序で円環n次の振動が生じる。円環1次、円環2次、円環3次、円環4次、円環0次、円環5次、円環6次…。図8A図8Eからも分かるように、低周波数帯域で生じる次数の低い振動(特に、円環2次及び円環4次)の振幅は大きく、その振動を抑制するのは難しい。従って、非接触部1pの数を五以上として、次数の低い円環振動を抑制することが好ましい。即ち、非接触部1pを五以上の素数個設けることが好ましい。非接触部1pの数を五以上の素数とすることで、騒音の放射をより一層効果的に抑制することができる。
【0049】
以下、上述した本実施形態に係る回転電機(フロントMG100F及びリアMG100R)の好ましい車載構造について説明する。まずは、車両Vの走行時の振動を考慮した車載構造(第一例)について、図9A(フロントMG100F:左側面図)及び図9B(リアMG100R:右側面図)を参照しつつ説明する。図9A及び図9Bは、それぞれ、車載されたフロントMG100F及びリアMG100Rの傾斜状態も示している。
【0050】
車両Vの走行時には垂直方向の振動が顕著に発生する。従って、回転電機(フロントMG100F及びリアMG100R)において、インナーハウジング1iとアウターハウジング1oとの圧入又は焼き嵌めによる固定部は、垂直方向に高い剛性を有していることが好ましい。ここで、図9A及び図9Bに示されるように、軸方向から見て、回転軸の中心Oを通る水平面PH及び垂直面PVを基準に、固定部(固定範囲X)を周方向に沿って四つに分割する。具体的には、上部四分の一周範囲[upper quarter circumferential range]RU、下部四分の一周範囲RL、前部四分の一周範囲RF及び後部四分の一周範囲RRに分割する。
【0051】
各範囲の中心角は90度であり、各範囲の中央を水平面PH又は垂直面PVが通る。この場合、前部四分の一周範囲RF及び後部四分の一周範囲RR内の非接触部1pの合計周長が上部四分の一周範囲RU及び下部四分の一周範囲RL内の非接触部1pの合計周長よりも長い。このように非接触部1pを配置することで、固定部ではその周上の上下部分により長い周長の接触部が配置されるので、車両Vの垂直方向の振動に対する固定部の剛性(強度)が向上される。この結果、騒音の放射を抑制することができる。
【0052】
上記の車載構造は、車両Vの走行時の振動を考慮した例である。次に、車両Vの乗員への騒音の放射を考慮した例について説明する(第二例)。乗員に向けて放射される騒音を低減できれば、乗員の快適性が向上する。ここで、軸方向から見て、固定部(固定範囲X)が周方向沿って車室[passenger compartment]PCに近い車室側範囲[passenger compartment side range]RPと車室PCとは反対側の反対側範囲[opposite side range]ROとに分割される。この場合、車室側範囲RP内の非接触部1pの合計周長が反対側範囲RO内の非接触部1pの合計周長よりも長い。このように非接触部1pを配置することで、車室PCに向けて放射される騒音を非接触部1pによって効果的に抑制できる。
【0053】
ここで、車室側範囲RP及び反対側範囲ROの設定例について以下に説明する。まず、図10(左側面図)、図11A(左側面図)及び図11B(右側面図)を参照して第二A例を説明する。図10に示されるように、車両Vの側面視において、車室PCの外形[outline]を確定する。車室PCは、その外殻を形成するパネル類によって規定される。具体的には、ルーフパネル、フロントウインドシールド、モータルーム(エンジンコンパートメント)との間を仕切る隔壁[bulkhead]、及び、フロアパネルによって、車室PCが規定される。ただし、車室PCの後部空間がラゲッジルームに連続している場合を考慮して、車室PCの後端は、最後列のシートアッセンブリの後端で垂直に仕切られる。
【0054】
このように規定された車室PCに対して、上方及び下方に対して、回転電機の回転軸の中心Oからそれぞれ接線が引かれる。フロントMG100Fについては、上方の接線LFUと下方の接線LFLとを引くことができる。リアMG100Rについては、上方の接線LRUと下方の接線LRLとを引くことができる。図11A(左側面図)に示されるように、フロントMG100Fについては、固定部(固定範囲X)が、周方向に沿って接線LFU及び下方の接線LFLによって車室側範囲RPと反対側範囲ROとに区分される。もちろん、車室PCに近い範囲が車室側範囲RPである。
【0055】
一方、図11B(右側面図)に示されるように、リアMG100Rについては、固定部(固定範囲X)が、周方向に沿って接線LRU及び下方の接線LRLによって車室側範囲RPと反対側範囲ROとに区分される。なお、図11A及び図11Bは、それぞれ、車載されたフロントMG100F及びリアMG100Rの傾斜状態を示している。このように、車室PCの空間を考慮して車室側範囲RP及び反対側範囲ROを設定して非接触部1pを配置することで、車室PCに向けて放射される騒音を効果的に抑制できる。
【0056】
次に、図12(左側面図)、図13A(左側面図)及び図13B(右側面図)を参照して第二B例を説明する。上記第二A例では、車室PCを空間として捉えたが、本例では、車室PCをその中心Cで代表する。第一例と同様に規定される車室PCから中心Cが求められる。図12に示されるように、車両Vの側面視において、車室PCの全長2Lの中央で垂直線を引くと共に、車室PCの全高2Hの中央で水平線を引く。これらの垂直線と水平線との交点が車室PCの中心Cである。
【0057】
このように規定された中心Cに対して、回転電機の回転軸の中心Oからそれぞれ方向線が引かれる。フロントMG100Fについては、中心C及びOを通る方向線LFDを引くことができる。また、方向線LFDに垂直な、中心Oを通る分割面PFDを規定できる。リアMG100Rについては、中心C及びOを通る方向線LRDを引くことができる。また、方向線LRDに垂直な、中心Oを通る分割面PRDを規定できる。
【0058】
図13A(左側面図)に示されるように、フロントMG100Fについては、固定部(固定範囲X)が、周方向に沿って分割面PFDによって車室側範囲RPと反対側範囲ROとに区分される。一方、図13B(右側面図)に示されるように、リアMG100Rについては、固定部(固定範囲X)が、周方向に沿って分割面PRDによって車室側範囲RPと反対側範囲ROとに区分される。なお、図13A及び図13Bは、それぞれ、車載されたフロントMG100F及びリアMG100Rの傾斜状態を示している。このように、車室PCの中心Cを考慮して車室側範囲RP及び反対側範囲ROを設定して非接触部1pを配置することで、車室PCに向けて放射される騒音を効果的に抑制できる。
【0059】
次に、図14(左側面図)、図15A(左側面図)及び図15B(右側面図)を参照して第二C例を説明する。本例では、車室PC内の乗員の耳の位置を考慮して車室側範囲RP及び反対側範囲ROを設定する。また、乗員の代表としての運転手の耳の位置を考慮する。ただし、運転手の耳の位置は一義的に決定できないため、シートアッセンブリの最上点[uppermost point]T、即ち、ヘッドレストS3の最上点Tを運転手の耳の位置の代わりに用いる。また、シートアッセンブリは、主として、シートクッションS1、シートバックS2及びヘッドレストS3を備えており、それらの高さや角度は調整可能である。ここに言う最上点Tとは、高さや角度を調整してヘッドレストS3が最も高く配置される状態でのヘッドレストS3の上端の位置である。
【0060】
運転席のシートアッセンブリの調整可能なスライド位置は、最後方位置に設定される。シートクッションS1のチルト角度や高さは、最上点Tを実現する位置に設定される。シートバックS2の角度も、上述した最上点を実現する位置に設定されるが、通常は、最も直立させた位置であると考えられる。ヘッドレストS3については、シートバックS2から最も引き出した位置に設定されると考えられ、その角度が調整可能な場合は上述した最上点Tを実現する角度に設定される。
【0061】
図14に示されるように、車両Vの側面視において、最上点Tに対して、回転電機の回転軸の中心Oからそれぞれ方向線が引かれる。フロントMG100Fについては、最上点T及び中心Oを通る方向線LFTを引くことができる。また、方向線LFTに垂直な、中心Oを通る分割面PFTを規定できる。リアMG100Rについては、最上点T及び中心Oを通る方向線LRTを引くことができる。また、方向線LRTに垂直な、中心Oを通る分割面PRTを規定できる。
【0062】
図15A(左側面図)に示されるように、フロントMG100Fについては、固定部(固定範囲X)が、周方向に沿って分割面PFTによって車室側範囲RPと反対側範囲ROとに区分される。一方、図15B(右側面図)に示されるように、リアMG100Rについては、固定部(固定範囲X)が、周方向に沿って分割面PRTによって車室側範囲RPと反対側範囲ROとに区分される。なお、図15A及び図15Bは、それぞれ、車載されたフロントMG100F及びリアMG100Rの傾斜状態を示している。このように、最上点Tを考慮して車室側範囲RP及び反対側範囲ROを設定して非接触部1pを配置することで、車室PC(内の乗員)に向けて放射される騒音を効果的に抑制できる。
【0063】
上記実施形態によれば、内部に冷却液流路を形成するために二重管構造とされたハウジング1を備えている。ここで、インナーハウジング1iとアウターハウジング1oとは、それらの一端で圧入又は焼き嵌めで互いに固定されると共に、それらの他端でボルト締結によって互いに固定されている。そして、圧入又は焼き嵌めでの固定部(固定範囲X)において、アウターハウジング1oの内周面と前記インナーハウジング1iの外周面とが接触しない非接触部1pが周方向に一つ以上形成されている。非接触部1pによって、回転電機(フロントMG100F又はリアMG100R)で発生する振動に起因する騒音の外方への伝達及び放射を抑制することができる。
【0064】
また、回転電機(フロントMG100F又はリアMG100R)の軸方向から見て、非接触部1pのそれぞれの中心角範囲内に、少なくとも一つのボルト5が配置されている。従って、ハウジング1の内部の圧力変動が大きい、軸方向の両端が同位相で円環振動する振動モードを抑制でき、より効果的騒音を抑制できる。
【0065】
また、図3に示されるように、回転電機(フロントMG100F)の回転軸の中心Oとフロントギアユニット101Fの出力軸の中心O1に基づいて、第一半周範囲R1及び第二半周範囲R2を規定する。この場合、第一半周範囲R1内の非接触部1pの合計周長が第二半周範囲R2内の非接触部1pの合計周長よりも長い。回転電機のハウジング1がフロントギアユニット101Fのハウジングによって補強されるので、第一半周範囲R1の方が第二半周範囲R2よりもハウジング1の剛性(強度)が高くなる。従って、第一半周範囲R1内の非接触部1pの合計周長を第二半周範囲R2内の非接触部1pの合計周長よりも長くすることで、固定部の剛性を確保しつつ、非接触部1pを十分に設けることで騒音の放射を抑制することができる。
【0066】
また、図7に示されるように、回転電機(リアMG100R)の回転軸の中心Oと制御ユニット102Rの位置に基づいて、第三半周範囲R3及び第四半周範囲R4を規定する。この場合、第三半周範囲R3内の非接触部1pの合計周長が第四半周範囲R4内の非接触部1pの合計周長よりも長い。回転電機のハウジング1が制御ユニット102Rのハウジングによって補強されるので、第三半周範囲R3の方が第四半周範囲R4よりもハウジング1の剛性(強度)が高くなる。従って、第三半周範囲R3内の非接触部1pの合計周長を第四半周範囲R4内の非接触部1pの合計周長よりも長くすることで、固定部の剛性を確保しつつ、非接触部1pを十分に設けることで騒音の放射を抑制することができる。
【0067】
また、非接触部1pは、ハウジング1の周方向に素数個設けられている。これにより、円環n次の振動モードの増幅を抑制することができる。その結果、騒音の放射をより効果的に抑制することができる。特に、非接触部1pは五以上の素数個設けられることが好ましく(図4参照)、振幅の大きな低次数の円環n次振動を抑制でき、騒音の放射をより一層効果的に抑制することができる。
【0068】
さらに、回転電機(フロントMG100F又はリアMG100R)を車載する際には、図9A及び図9Bに示されるように、上部四分の一周範囲RU、下部四分の一周範囲RL、前部四分の一周範囲RF及び後部四分の一周範囲RRを規定する。この場合、前部四分の一周範囲RF及び後部四分の一周範囲RR内の非接触部1pの合計周長が上部四分の一周範囲RU及び下部四分の一周範囲RL内の非接触部1pの合計周長よりも長い。このように非接触部1pを配置することで、固定部ではその周上の上下部分により長い周長の(非接触部1pでない)接触部が配置されるので、車両Vの垂直方向の振動に対する固定部の剛性(強度)が向上される。この結果、騒音の放射を抑制することができる。
【0069】
さらに、回転電機(フロントMG100F又はリアMG100R)を車載する際には、図11A及び図11B等に示されるように、回転電機の回転軸の中心Oの位置に基づいて、車室側範囲RP及び反対側範囲ROを規定する。この場合、車室側範囲RP内の非接触部1pの合計周長が反対側範囲RO内の非接触部1pの合計周長よりも長い。このように非接触部1pを配置することで、車室PCに向けて放射される騒音を非接触部1pによって効果的に抑制できる。
【0070】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されない。例えば、上記車両Vは、前輪FWがフロントMG100Fによって駆動され得ると共に後輪RWがリアMG100Rによって駆動され得る、四輪駆動が可能な車両であった。しかし、車両Vは一つの回転電機(フロントMG100F又はリアMG100R)のみを備えた車両でもよい。また、回転電機としては、車輪を駆動するモータでなくてもよいし、車両に搭載されていなくてもよい。
【符号の説明】
【0071】
100F フロントMG(回転電機)
101F フロントギアユニット
100R リアMG(回転電機)
101R リアギアユニット
102R 制御ユニット
1 ハウジング
1i インナーハウジング
1o アウターハウジング
1c 固定内周部(圧入又は焼き嵌めによる固定部)
1n 固定外周部(圧入又は焼き嵌めによる固定部)
1d フランジ(ボルト締結部)
1e ボルト孔(ボルト締結部)
1f フランジ(ボルト締結部)
1h ボルト挿通孔(ボルト締結部)
1p 非接触部
5 ボルト
O (回転電機の回転軸の)中心
O1 (ギアユニットの出力軸の)中心
L1 (中心Oと中心O1通る)直線
P1 第一平面
R1 第一半周範囲
R2 第二半周範囲
P2 第二平面
R3 第三半周範囲
R4 第四半周範囲
RU 上部四分の一周範囲
RL 下部四分の一周範囲
RF 前部四分の一周範囲
RR 後部四分の一周範囲
PC 車室
RC 車室側範囲
RO 反対側範囲
V 車両
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図12
図13A
図13B
図14
図15A
図15B