IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-赤外線遮蔽膜及び赤外線遮蔽材 図1
  • 特許-赤外線遮蔽膜及び赤外線遮蔽材 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】赤外線遮蔽膜及び赤外線遮蔽材
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/26 20060101AFI20231011BHJP
【FI】
G02B5/26
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022501608
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2020029291
(87)【国際公開番号】W WO2021166283
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2020024160
(32)【優先日】2020-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】庄司 美穂
(72)【発明者】
【氏名】日向野 怜子
(72)【発明者】
【氏名】赤池 寛人
【審査官】越河 勉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/061279(WO,A1)
【文献】特開2019-066839(JP,A)
【文献】特開平9-140275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20-5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機バインダと、前記有機バインダに分散された複数個のスズドープ酸化インジウム粒子とからなる赤外線遮蔽膜であって、
前記スズドープ酸化インジウム粒子は、表面が有機保護基で被覆され、一次粒子の状態で分散されており、
前記スズドープ酸化インジウム粒子は、隣接する粒子間の平均中心間距離が9nm以上36nm以下の範囲内にあり、
前記スズドープ酸化インジウム粒子の平均一次粒子径に対する前記隣接する粒子間の平均中心間距離の比は、1.05以上1.20以下の範囲内にあって、
膜表面のラフネスRaが4nm以上50nm以下の範囲内にある赤外線遮蔽膜。
【請求項2】
前記スズドープ酸化インジウム粒子の平均一次粒子径が、8nm以上30nm以下の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の赤外線遮蔽膜。
【請求項3】
請求項1または2に記載の赤外線遮蔽膜を有する赤外線遮蔽材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線遮蔽膜と、この赤外線遮蔽膜を有する赤外線遮蔽材に関する。
本願は、2020年2月17日に、日本に出願された特願2020-024160号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
自動車や建築物で使用されている窓ガラスなどの透明基体は、一般に熱源となる赤外線を透過しやすい。このため、自動車や建築物では、透明基体に赤外線遮蔽材を配置し、透明基体に照射される光中の赤外線を遮蔽して、自動車や建築物の内部の温度上昇と、その温度上昇に伴う冷房負荷を軽減することが検討されている。
【0003】
赤外線遮蔽膜として、ITO粒子をコアとした単一のコアシェル粒子が複数凝集した凝集粒子と、前記凝集粒子同士を結着するバインダ硬化物と、を含有する赤外線遮蔽膜が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2019-066839号公報(A)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている赤外線遮蔽膜では、コアシェル粒子が凝集粒子を形成しているので、コアであるITO粒子同士の間にシェルによる所定の間隔が形成される。この間隔が形成されることにより、赤外線で励起されることによって生成したITO粒子の表面プラズモンの電場が近接場効果により増強される。このため、特許文献1に開示されている赤外線遮蔽膜は、照射された赤外線を、ITO粒子の表面プラズモンの共鳴によって効率よく反射させることができる。
【0006】
一方、自動車や建築物で使用されている窓ガラスで使用される赤外線遮蔽膜は、可視光の透過性に優れることが好ましい。しかしながら、特許文献1に記載されている赤外線遮蔽膜は、コアシェル粒子の凝集粒子とバインダ硬化物との屈折率の差によって、可視光が散乱することにより、ヘーズが大きくなり、可視光透過性が低くなる傾向がある。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、ヘーズが小さく、赤外線に対する反射率が高い赤外線遮蔽膜及び赤外線遮蔽材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様の赤外線遮蔽膜(以下、「本発明の赤外線遮蔽膜」と称する)は、有機バインダと、前記有機バインダに分散された複数個のスズドープ酸化インジウム粒子とからなる赤外線遮蔽膜であって、前記スズドープ酸化インジウム粒子は、表面が有機保護基で被覆され、一次粒子の状態で分散されており、前記スズドープ酸化インジウム粒子は、隣接する粒子間の平均中心間距離が9nm以上36nm以下の範囲内にあり、 前記スズドープ酸化インジウム粒子の平均一次粒子径に対する前記隣接する粒子間の平均中心間距離の比は、1.05以上1.20以下の範囲内にあって、 膜表面のラフネスRaが4nm以上50nm以下の範囲内にあることを特徴としている。
【0009】
本発明の赤外線遮蔽膜によれば、隣接するITO粒子間の平均中心間距離が9nm以上36nm以下の範囲内にあり、ITO粒子の平均一次粒子径に対する隣接するITO粒子間の平均中心間距離の比が1.05以上1.20以下の範囲内となるように、ITO粒子が間隔をあけて分散されているので、赤外線に対する反射率が高くなる。また、膜表面のラフネスRaが4nm以上とされていて、膜表面の近傍に多数個のITO粒子が分散されているので、赤外線の反射率が高くなる。さらに、膜表面のラフネスRaが50nm以下とされているので、膜表面での可視光の散乱が起こりにくく、ヘーズが小さくなる。
【0010】
ここで、本発明の赤外線遮蔽膜においては、前記ITO粒子の平均一次粒子径が、8nm以上30nm以下の範囲内にあることが好ましい。
この場合、ITO粒子の平均一次粒子径が上記の範囲にあり微細であるので、可視光の散乱がより起こりにくくなり、赤外線遮蔽膜のヘーズがより小さくなる。さらに、ITO粒子の表面に表面プラズモンが生成しやすくなるので、赤外線遮蔽膜の赤外線に対する反射率がより向上する。
【0011】
本発明の他態様の赤外線遮蔽材(以下、「本発明の赤外線遮蔽材」と称する)は、上述の赤外線遮蔽膜を有する。
本発明の赤外線遮蔽材によれば、上述の赤外線遮蔽膜を有するので、ヘーズを小さくすることができ、かつ赤外線に対して高い反射率を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ヘーズが小さく、赤外線に対する反射率が高い赤外線遮蔽膜及び赤外線遮蔽材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る赤外線遮蔽膜の概略断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る赤外線遮蔽材の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について添付した図面を参照して説明する。
【0015】
<赤外線遮蔽膜>
図1は、本発明の一実施形態に係る赤外線遮蔽膜の概略断面図である。
図1に示すように、赤外線遮蔽膜10は、有機バインダ11と、有機バインダ11に分散された複数個のITO粒子12とからなる。ITO粒子12は、主として一次粒子の状態で分散されている。
【0016】
有機バインダ11は、ITO粒子12に対して親和性を有する基を備えた有機化合物であることが好ましい。有機バインダ11は、親和性を有する基を介してITO粒子12と接触していることが好ましい。ITO粒子12は、有機バインダ11で被覆されていることが好ましい。有機バインダ11で被覆されることによって、ITO粒子12の粒子間距離が一定の間隔となりやすくなる。ITO粒子12に対して親和性を有する基としては、ニトリル基(-CN)、エステル基(-CO-OR)を挙げることができる。エステル基のRは、水素原子、炭素数が1~20の範囲内にあるアルキル基、炭素数が6~20の範囲内にあるアリール基、炭素数が7~20の範囲内にあるアラルキル基を表す。ITO粒子12に対して親和性を有する基はニトリル基であることが好ましい。
【0017】
有機バインダ11は、末端にITO粒子12に対して親和性を有する基を備えた炭化水素化合物であることが好ましい。炭化水素化合物は、不飽和炭化水素化合物であってもよいし、飽和炭化水素化合物であってもよい。また、炭化水素化合物は、鎖状炭化水素化合物であってもよいし、環状炭化水素化合物であってもよい。鎖状炭化水素化合物としては、アルカン(C2n+2)、アルケン(C2n)、アルキン(C2n-2)を用いることができる。環状炭化水素化合物としては、シクロアルカン(C2n)、シクロアルケン(C2n-2)、シクロアルキン(C2n-4)、芳香族炭化水素化合物(ベンゼン、ナフタレン)を用いることができる。炭化水素化合物は、炭素数が8~20の範囲内にあることが好ましい。炭化水素化合物はアルカン、アルケンであることが好ましい。
【0018】
有機バインダ11は、沸点が120℃以上であることが好ましい。
【0019】
ニトリル基を有する有機バインダ11の例としては、(Z)-4-オクテンニトリル、(Z)-5-オクテンニトリル、(Z)-5-ノネンニトリル、(Z)-6-ウンデセンニトリル、(Z)-9-ウンデセンニトリル、(Z)-9-オクタデセンニトリル、(Z)-9-デセンニトリル、(Z)-9-デセンニトリル、(Z)-11-ドデセンニトリル、(Z)-2-トリデセンニトリル、(Z)-9-テトラデセンニトリル、(Z)-2-ペンタデセンニトリル、(E)-8-ヘプタデセンニトリル、(Z)-9-ヘキサデセンニトリル、(Z)-11-ノナデセンニトリル、(Z)-11-エイコセンニトリル、オクタンニトリル、ノナンニトリル、デカンニトリル、ウンデカンニトリル、ドデシルニトリル、トリデシルニトリル、テトラデシルニトリル、ペンタデシルニトリル、ヘキサデシルニトリル、へプタデシルニトリル、オクタデカンニトリル、ノナデカンニトリル、エイコサンニトリルを挙げることができる。エステル基を有する有機バインダ11の例としては、オクタン酸、オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、パルミチン酸、ステアリン酸を挙げることができる。有機バインダ11は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
ITO粒子12は、隣接するITO粒子間の平均中心間距離が9nm以上36nm以下の範囲内となるように分散されている。平均中心間距離は、図1に示すように、測定対象のITO粒子12の中心と、そのITO粒子12に最も近い位置にあるITO粒子12の中心との距離Lの平均である。ITO粒子間の距離Lは、赤外線遮蔽膜10の断面(イオンミリング装置(日立ハイテク社製IM4000PLUSやArBlade5000(登録商標))を用いて断面出しを行った断面写真)の拡大写真(走査型電子顕微鏡を用いた赤外線遮蔽膜10の断面の観察(倍率:200000~400000倍、(粒子が1視野に50個以上入るような)画像の拡大像)を用いて測定することができる。距離Lの平均は、50個のITO粒子12について測定されたITO粒子間の距離の平均である。
【0021】
ITO粒子12は、平均一次粒子径Xに対する隣接するITO粒子間の平均中心間距離Yの比Y/Xが1.05以上1.20以下の範囲内とされている。隣接するITO粒子間の平均中心間距離及び比Y/Xが上記の範囲内となるように、ITO粒子12を分散させることにより、ITO粒子12が赤外線で励起されることによって生成する表面プラズモンの電場が近接場効果により増強される。このため、赤外線遮蔽膜10の赤外線反射率が高くなる。隣接するITO粒子間の平均中心間距離が9nm未満あるいは比Y/Xが1.05未満となると、ITO粒子12間の間隔が狭くなりすぎて、表面プラズモンの電場が増強されにくくなり、赤外線遮蔽膜10の赤外線反射率が低下するおそれがある。また、ITO粒子12間の間隔が狭くなりすぎると、赤外線遮蔽膜10の表面ラフネスRaが大きくなりすぎる傾向がある。一方、隣接するITO粒子間の平均中心間距離が36nmを超えるあるいは比Y/Xが1.20を超えると、ITO粒子12間の間隔が広くなりすぎて、表面プラズモンが生成しにくくなり、赤外線遮蔽膜10の赤外線反射率が低下するおそれがある。また、ITO粒子12間の間隔が広くなりすぎると、赤外線遮蔽膜10の表面ラフネスRaが小さくなりすぎる傾向がある。
特に限定されないが、上述の比Y/Xの上限値を1.15以下としてもよい。また、隣接するITO粒子間の平均中心間距離を34.5nm以下としてもよい。
【0022】
ITO粒子12の平均一次粒子径は、8nm以上30nm以下の範囲内にあることが好ましい。ITO粒子12の平均一次粒子径が上記の範囲にあると、ITO粒子12の分散性が高く、有機バインダ11にITO粒子12を均一に分散させることが可能となる。このため、赤外線遮蔽膜10の赤外線反射率がより向上する。
特に限定されないが、ITO粒子12の平均一次粒子径は、10nm以上25nm以下の範囲内にあってもよい。その際のITO粒子間の平均中心間距離は10.5nm以上30nm以下が好ましい。
【0023】
赤外線遮蔽膜10は、膜表面のラフネスRaが4nm以上50nm以下の範囲内とされている。膜表面のラフネスRaは、赤外線遮蔽膜10が自立膜の場合、両側表面のラフネスRaの平均値である。赤外線遮蔽膜10が基板の上に成膜されている場合、基板側とは反対側の膜表面のラフネスRaである。膜表面のラフネスRaは、赤外線遮蔽膜10の膜表面側におけるITO粒子12の量を減らすことによって低減することができる。膜表面のラフネスRaが4nm未満とすると、ITO粒子12の量が少なくなりすぎて、表面プラズモンが生成しにくくなり、赤外線遮蔽膜10の赤外線反射率が低下するおそれがある。一方、膜表面のラフネスRaが50nmを超えると、ITO粒子12の量が多くなりすぎて、ヘーズが発生しやくなるおそれがある。
特に限定されないが、赤外線遮蔽膜10の膜表面のラフネスRaは、5nm以上40nm以下の範囲内とされてもよい。
赤外線遮蔽膜10の膜表面のラフネスRaは、上述の膜の切断面画像を画像解析ソフトウェアを用いて解析し、膜のガラス基板とは反対側の表面の表面粗さ線を抽出し、得られた表面粗さ線について、画像処理ソフトウェアを用いて画像解析を行い、表面粗さ線の最も高い山頂から5番目までの山高さの絶対値の平均値と、最も低い谷底から5番目までの谷底の絶対値の平均値との和を算出することによって得ることができる。
【0024】
赤外線遮蔽膜10の有機バインダ11とITO粒子12の含有量の割合は、特に制限はないが、ITO粒子12を100質量部としたときの有機バインダ11の含有量が5質量部以上30質量部以下の範囲内となる量であることが好ましい。
【0025】
次に、本実施形態の赤外線遮蔽膜の成膜方法について説明する。
本実施形態の赤外線遮蔽膜は、例えば、有機バインダ付きITO粒子を含む塗布液を調製し、次いで、得られた塗布液を基板の上に塗布し、乾燥することによって成膜することができる。
【0026】
ITO粒子は、例えば、Inの脂肪酸塩とSnの脂肪酸塩とを、有機溶媒の存在下で、撹拌しながら加熱して、Inの脂肪酸塩とSnの脂肪酸塩とを反応させる方法を用いて作製することができる。Inの脂肪酸塩とSnの脂肪酸塩とを用いて作製したITO粒子は、表面が脂肪酸塩由来の有機保護基で被覆されるので、凝集粒子を形成しにくい。このため、ITO粒子が一次粒子の状態で分散した赤外線遮蔽膜が得られやすくなる。
【0027】
Inの脂肪酸塩及びSnの脂肪酸塩の脂肪酸は、飽和脂肪酸であることが好ましい。脂肪酸は、直鎖脂肪酸もしくは分枝脂肪酸であることが好ましい。脂肪酸は、炭素数が5~18の範囲内にあることが好ましい。脂肪酸塩の例としては、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ネオデカン酸、2-エチルヘキサン酸を挙げることができる。Inの脂肪酸塩とSnの脂肪酸塩は、同じ脂肪酸の塩であってもよいし、異なる脂肪酸の塩であってもよい。
【0028】
有機溶媒は、炭化水素化合物であることが好ましい。炭化水素化合物は、不飽和炭化水素化合物であってもよいし、飽和炭化水素化合物であってもよい。また、炭化水素化合物は、鎖状炭化水素化合物であってもよいし、環状炭化水素化合物であってもよい。炭化水素化合物は、炭素数が5~22の範囲内にあることが好ましい。有機溶媒としては、例えば、n-オクチルエーテル、オクタデセン、n-トリオクチルアミン、ドデシルアミンを用いることができる。
【0029】
Inの脂肪酸塩とSnの脂肪酸塩とを加熱する際の温度は、例えば、200℃以上350℃以下の範囲内である。また、加熱時間は、例えば、0.5時間以上8時間以下の範囲内である。
【0030】
有機バインダ付きITO粒子は、ITO粒子と有機バインダとを、有機溶媒中にて混合して有機バインダ付きITO粒子を生成させ、次いで有機溶媒中の有機バインダ付きITO粒子を回収することによって作製することができる。
【0031】
有機溶媒としては、特に制限はないが、アルコール、ケトンを用いることが好ましい。アルコールの例としては、メタノール、エタノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ヘキサノール、2-プロパノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、メトキシエタノール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールを挙げることができる。ケトンの例としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)を挙げることができる。これらの有機溶媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
有機バインダとITO粒子の含有量の配合割合は、ITO粒子を100質量部に対して、有機バインダの量が5質量部以上30質量部以下の範囲内となる割合である。有機バインダとITO粒子は、十分に撹拌して用いることが好ましい。
【0033】
有機溶媒中の有機バインダ付きITO粒子を回収する方法としては、デカンテーションやろ過などの公知の固液分離法を用いることができる。
【0034】
塗布液は、回収した有機バインダ付きITO粒子を、塗布液用の有機溶媒に投入して、分散させることによって調製することができる。
塗布液用の有機溶媒としては、アルコール、ケトン、グリコールエーテル、グリコールエーテルアセテート、炭化水素化合物を用いることができる。
【0035】
アルコールの例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール(IPA)を挙げることができる。ケトンの例としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)を挙げることができる。グリコールエーテルの例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルを挙げることができる。グリコールエーテルアセテートの例としては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートを挙げることができる。炭化水素化合物の例として、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、p-キシレン、シクロプロパン、シクロヘキサン、などの環状炭化水素化合物、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-へプタン、n-オクタン、n-テトラデカン、n-ヘキサデカン、n-オクタデカンなどの鎖状炭化水素化合物を挙げることができる。これらの有機溶媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。有機溶媒は、炭化水素化合物などの低極性有機溶媒、もしくは低極性有機溶媒とアルコールなどの高極性有機溶媒とを含む混合溶媒であることが好ましい。混合溶媒の場合、低極性有機溶媒と高極性有機溶媒との配合割合は、質量比99:1~90:10(前者:後者)の範囲内にあることが好ましい。
【0036】
塗布液は、有機溶媒中にITO粒子が、一次粒子もしくはそれに近い状態で分散されていることが好ましい。動的散乱光式粒度分布計によって測定される塗布液中のITO粒子の平均粒子径は、ITO粒子の平均一次粒子径に対して1.3倍以下であることが好ましく、1.2倍以下であることがより好ましい。塗布液中のITO粒子の平均粒子径が大きくなりすぎると、得られる赤外線遮蔽膜の膜表面のラフネスRaが大きくなりすぎるおそれがある。
【0037】
以上のようにして調製された塗布液を、基板に塗布する方法としては、例えば、スロットダイコーター、スピンコーター、アプリケータ―、バーコーターなど一般的な塗布方法を用いることができる。
【0038】
基板に塗布した塗布液を乾燥する際の乾燥温度は、塗布液の有機溶媒が揮発する温度であればよく、例えば、40℃以上120℃以下の範囲内である。乾燥時間は、乾燥温度によって異なるが、通常は5分間以上120分間以下の範囲内である。
【0039】
<赤外線遮蔽材>
図2は、本発明の一実施形態に係る赤外線遮蔽材の概略断面図である。
図2に示すように、赤外線遮蔽材20は、基板21と、赤外線遮蔽層22と、オーバーコート層23とを含む。なお、オーバーコート層23は必要に応じて設ければよく、必ずしも必要ではない。
【0040】
基板21の材料の例としては、ガラス、ガラス代替樹脂などが挙げられる。ガラス代替樹脂の例としては、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。基板21の形状には特に制限はなく、板状、シート状、フィルム状など任意の形状とすることができる。
【0041】
赤外線遮蔽層22は、赤外線を反射する層である。赤外線遮蔽層22は、上述の赤外線遮蔽膜10とされている。
【0042】
オーバーコート層23は、赤外線遮蔽層22を保護して、耐薬品性や耐摩耗性を向上させる機能を有する。オーバーコート層23の材料としては、例えば、ガラス、樹脂を用いることができる。樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂を用いることができる。
【0043】
オーバーコート層23の厚さは、1μm以上5μm以下の範囲にあることが好ましい。オーバーコート層23の厚さが1μm以上であると、耐薬品性が向上する。一方、オーバーコート層23の厚さが5μm以下であると、可視光の透過率の低下が抑えられる。
【0044】
以上のような構成とされた本実施形態の赤外線遮蔽膜10によれば、隣接するITO粒子間の平均中心間距離が9nm以上36nm以下の範囲内にあり、ITO粒子12の平均一次粒子径に対する隣接するITO粒子間の平均中心間距離の比が1.05以上1.20以下の範囲内となるように、ITO粒子12が間隔をあけて分散されているので、赤外線に対する反射率が高くなる。また、膜表面のラフネスRaが4nm以上とされていて、膜表面の近傍に多数個のITO粒子12が分散されているので、赤外線の反射率が高くなる。さらに、膜表面のラフネスRaが50nm以下とされているので、膜表面での可視光の散乱が起こりにくく、赤外線遮蔽膜10のヘーズが小さくなる。
【0045】
また、本実施形態の赤外線遮蔽膜10においては、ITO粒子12の平均一次粒子径が、8nm以上30nm以下の範囲内と微細である場合は、可視光の散乱がより起こりにくくなり、赤外線遮蔽膜10のヘーズがより小さくなる。さらに、ITO粒子の表面に表面プラズモンが生成しやすくなるので、赤外線遮蔽膜10の赤外線に対する反射率がより向上する。
【0046】
本実施形態の赤外線遮蔽材20によれば、赤外線遮蔽層22が上述の赤外線遮蔽膜10とされている。このため、本実施形態の赤外線遮蔽材20は、ヘーズが小さく、かつ赤外線に対する反射率が高くなる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例
【0048】
以下に、本発明の作用効果を実施例により説明する。
【0049】
[本発明例1]
In源としてオクタン酸インジウムを、Sn源としてオクタン酸スズを用意した。
ガラス容器に、オクタン酸インジウムをIn量換算で9.0質量部、オクタン酸スズをSn量換算で1.0質量部、1-オクタデセンを90質量部の配合量となるように投入し、混合した。得られた混合物を撹拌しながら、窒素雰囲気中で300℃まで加熱し、その温度で3時間保持して、粒子表面が有機保護基で修飾されたITO粒子を生成させた。
生成したITO粒子をデカンテーションにより回収した。回収したITO粒子を、エタノールを用いて数回洗浄した。
【0050】
洗浄後のITO粒子をエタノールに分散させてスラリーとした。得られたスラリーに、有機バインダとして、(Z)-9-オクタデセンニトリルをスラリー中のITO粒子100質量部に対して5質量部となる量で添加した後、撹拌した。その後、ろ過により、表面に(Z)-9-オクタデセンニトリルが吸着した(Z)-9-オクタデセンニトリル付きITO粒子を回収した。
【0051】
1-ブタノールとトルエンとを、質量比で5:95の割合(前者:後者)で含む有機溶媒を調製した。この有機溶媒中に、(Z)-9-オクタデセンニトリル付きITO粒子を分散させ、塗布液((Z)-9-オクタデセンニトリル付きITO粒子分散液)を得た。塗布液中の固形分濃度は10質量%とした。
【0052】
得られた塗布液を、ガラス基板(サイズ:縦50mm×横50mm×厚さ0.7mm)の上に、0.2mL滴下し、回転速度2000rpmの条件でスピンコーティングにより塗布した。次いで、ガラス基板を120℃で加熱して、乾燥することにより、ガラス基板の上にITO粒子膜を成膜した。
【0053】
[本発明例2~10及び比較例1~3]
In源及びSn源として、下記の表1に記載の脂肪酸塩を、下記の表1に示す配合割合で配合してITO粒子を作製したこと、有機バインダとして下記の表1に記載の化合物を、ITO粒子100質量部に対して下記の表1に示す割合量で添加したこと以外は、本発明例1と同様にして塗布液を調製した。なお、比較例1では、有機バインダを使用しなかった。そして、得られた塗布液を用いて、本発明例1と同様にして、ガラス基板の上にITO粒子膜を成膜した。
【0054】
[評価]
(1)塗布液中のITO粒子の平均粒子径
塗布液に、1-ブタノールとトルエンを質量比で5:95の割合(前者:後者)で含む有機溶媒を加えて希釈して、固形分濃度が1質量%の試料を調製した。次いで、得られた試料中のITO粒子の体積換算の粒度分布を、動的散乱光式粒度分布計(マルバーン社製、ZetasizerNano ZSP)を用いて測定し、ITO粒子の平均粒子径を算出した。その結果を、ITO粒子分散液の調製に使用した材料と共に、下記の表1に示す。
【0055】
(2)ITO粒子の平均一次粒子径X
ITO粒子膜をガラス基板から剥がし取り、剥がし取ったITO粒子膜を、1-ブタノールとトルエンを質量比で5:95の割合(前者:後者)で含む有機溶媒に投入し、超音波分散処理して、ITO粒子膜中のITO粒子を分散させた。溶媒に分散されたITO粒子を回収し、回収したITO粒子の拡大画像を、透過電子顕微鏡を用いて撮影した。得られた拡大画像について、画像処理ソフトウェア(ImageJ)を用いた画像解析を行って、10000個のITO粒子のフェレー径を計測し、その平均値をITO粒子の平均一次粒子径Xとした。その結果を、下記の表2に示す。
【0056】
(3)ITO粒子間の平均粒子間距離Y
下記(4)で得られる切断面画像について、画像処理ソフトウェア(ImageJ)を用いて、50個のITO粒子について、隣接するITO粒子の中心間の距離を計測し、その平均値を算出した。その結果を、ITO粒子の平均一次粒子径Xに対する隣接するITO粒子間の平均粒子間距離Yの比(Y/X)と共に、下記の表2に示す。
【0057】
(4)膜表面のラフネスRa
樹脂埋めしたITO粒子膜を膜表面に対して垂直方向に切断し、切断面を鏡面研磨した。次いで、切断面を、走査型電子顕微鏡(日立株式会社製、SU8000)を用いて撮影した。得られた切断面画像について、画像解析ソフトウェア(Thermo Scientific社、Avizo software)を用いて、ITO粒子膜のガラス基板とは反対側の表面の表面粗さ線を抽出した。得られた表面粗さ線について、画像処理ソフトウェア(ImageJ)を用いた画像解析を行って、表面粗さ線の最も高い山頂から5番目までの山高さの絶対値の平均値と、最も低い谷底から5番目までの谷底の絶対値の平均値との和を算出し、これをラフネスRaとした。その結果を、下記の表2に示す。
【0058】
(5)ヘーズ
ガラス基板上に成膜したITO粒子膜のヘーズを、JIS K 7136:2000(プラスチック-透明材料のヘーズの求め方)に規定された方法に従って測定した。測定装置は、ヘーズメーターHZ-2(スガ試験機株式会社製)を用いた。その結果を、下記の表2に示す。
【0059】
(6)赤外線反射率
ガラス基板上に成膜したITO粒子膜の表面に波長800~2500nmの領域の赤外線を照射し、その赤外線の最大反射率を、分光光度計(株式会社 日立ハイテクノロジーズ、製品名U-4100型)を用いて測定した。その結果を、下記の表2に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
ITO粒子間の平均中心間距離が9nm以上36nm以下の範囲内にあり、ITO粒子の平均一次粒子径Xに対する隣接するITO粒子間の平均中心間距離Yの比Y/Xが1.05以上1.20以下の範囲内にあって、膜表面のラフネスRaが4nm以上50nm以下の範囲内にある本発明例1~10のITO粒子膜は、ヘーズがいずれも0.35%以下と低く、かつ赤外線域最大反射率が45%以上と高いことから赤外線遮蔽膜として有用であることがわかる。
【0063】
これに対して、ITO粒子間の平均中心間距離は本発明の範囲内にあるが、比Y/Xが1.05未満である比較例1、2のITO粒子膜は、赤外線域最大反射率が低くなった。これは、ITO粒子の間隔が狭くなりすぎて、表面プラズモンの電場が増強されにくくなったためである。また、比較例1、2のITO粒子膜は、ヘーズが高くなった。これは、膜表面のラフネスRaが50nmを超えたためである。
【0064】
また、平均中心間距離が36nmを超え、比Y/Xが1.20以下を超え、膜表面のラフネスRaが4nm未満である比較例3のITO粒子膜は、赤外線域最大反射率がさらに低くなった。これは、ITO粒子間の間隔が広くなりすぎて、表面プラズモンが生成しにくくなったためである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の赤外線遮蔽膜及び赤外線遮蔽材は、自動車や建築物で使用されている窓ガラスのように、高い可視光透過性と赤外線遮蔽性とが求められる用途に有利に適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
10 赤外線遮蔽膜
11 有機バインダ
12 ITO粒子
20 赤外線遮蔽材
21 基板
22 赤外線遮蔽層
23 オーバーコート層
図1
図2