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特許7364050車両用内燃機関の制御方法および制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】車両用内燃機関の制御方法および制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/14 20060101AFI20231011BHJP
   F02D 41/34 20060101ALI20231011BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20231011BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
F16H61/14 602H
F02D41/34
F02D29/00 G
F02D29/00 C
F02D45/00 364A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022513769
(86)(22)【出願日】2020-04-08
(86)【国際出願番号】 JP2020015822
(87)【国際公開番号】W WO2021205567
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】遠田 譲
(72)【発明者】
【氏名】神谷 光平
(72)【発明者】
【氏名】江尻 紀明
(72)【発明者】
【氏名】小林 智明
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-185732(JP,A)
【文献】特開2004-084830(JP,A)
【文献】特開2005-172078(JP,A)
【文献】特開2017-180693(JP,A)
【文献】特開平08-178056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/14
F02D 41/34
F02D 29/00
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料カット中はロックアップクラッチを締結し、燃料カットリカバリ条件が成立したときにロックアップ油圧を低下させてロックアップクラッチをスリップ締結とし、このスリップ締結状態の下で燃料カットリカバリを実行する車両用内燃機関の制御方法において、
燃料カットリカバリ条件が成立したときに、燃料カットリカバリにより生じる内燃機関のトルクを推定し、
このトルクが大きいほどロックアップ油圧の低下量を少なくする、車両用内燃機関の制御方法。
【請求項2】
燃料カットリカバリ条件が成立した後の燃料噴射再開実行タイミングが、上記トルクが大きいほど早期に設定される、請求項1に記載の車両用内燃機関の制御方法。
【請求項3】
上記トルクに基づいて目標のスリップ締結用油圧を設定し、
燃料カットリカバリ条件成立後、この目標のスリップ締結用油圧までロックアップ油圧を徐々に低下させる、
請求項1または2に記載の車両用内燃機関の制御方法。
【請求項4】
内燃機関の排気系に設けられた排気微粒子フィルタの再生処理を行っている間に燃料カットおよび燃料カットリカバリが実行される場合に、上記再生処理に伴うトルク上乗せ分を含めて上記トルクの推定を行う、請求項1~3のいずれかに記載の車両用内燃機関の制御方法。
【請求項5】
燃料カットリカバリ時のロックアップクラッチのスリップ締結制御を行う車両運転領域が、燃料カットリカバリ時のアクセル開度と車速とに基づいて予め設定されており、燃料カットリカバリにより生じる内燃機関のトルクが大きいときには、スリップ締結制御を行う車両運転領域を高車速側へ拡大する、請求項1~4のいずれかに記載の車両用内燃機関の制御方法。
【請求項6】
アクセル開度センサと、燃料噴射装置と、ロックアップクラッチに供給されるロックアップ油圧を制御する油圧制御部と、を備え、車両の走行中にアクセル開度が0となったときに燃料カットを実行するとともに、所定の燃料カットリカバリ条件が成立したときに燃料噴射を再開する車両用内燃機関の制御装置において、
燃料カット中はロックアップクラッチを締結状態とし、燃料カットリカバリ条件が成立したときに、燃料カットリカバリにより生じる内燃機関のトルクを推定し、このトルクが大きいほど少ない低下量でもってロックアップ油圧を低下させてロックアップクラッチをスリップ締結とし、このスリップ締結状態の下で燃料噴射再開を実行する、
車両用内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用内燃機関の燃料カットおよび燃料カットリカバリの制御に関し、特に、燃料カットリカバリの際にショック低減のためにロックアップクラッチをスリップ締結とする車両用内燃機関の制御方法および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用内燃機関の燃料消費の低減のために、走行中にアクセル開度が0となったときに所定の燃料カット許可条件に従って燃料供給の停止つまり燃料カットを行うことが知られている。燃料カット後は、アクセルペダルの踏込や機関回転速度の所定のリカバリ回転速度以下への低下、などの燃料カットリカバリ条件に従って燃料カットリカバリつまり燃料噴射の再開が行われる。
【0003】
燃料カットリカバリ時には、内燃機関から車両駆動系へ伝達されるトルクが負から正へ反転するので、車両にショックが発生する。特許文献1には、このようなショックを抑制するために、トルクコンバータが具備するロックアップクラッチを完全締結からスリップ締結へと制御し、ロックアップクラッチに滑りが生じている状態で燃料噴射再開を実行することが開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、燃料噴射再開実行前後での内燃機関のトルク段差の大きさが何ら考慮されていない。
【0005】
例えば、何らかの理由で内燃機関の発生トルクとして車両の走行に必要なトルクに余分なトルクが上乗せされているような場合には、燃料カットに続く燃料カットリカバリの際に、この比較的に大きなトルクを目標として燃料カットリカバリが実行されるので、トルク段差が大きく生じる。従って、仮にスリップ締結とするためのロックアップ油圧低下量が一定値に設定されていると、燃料噴射再開により大きなトルクが発生したときにロックアップクラッチの滑りが過大となり、内燃機関の回転速度がいわゆる吹け上がる現象が生じ、好ましくない。
【0006】
換言すれば、従来の技術では、燃料カットリカバリの際に比較的大きなトルクが発生する場合に、不必要に大きなロックアップクラッチの滑りが与えられてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-84830号公報
【発明の概要】
【0008】
この発明は、燃料カットリカバリ条件が成立したときに、燃料カットリカバリにより生じる内燃機関のトルクを推定し、このトルクが大きいほどロックアップ油圧の低下量を少なくする。
【0009】
ロックアップ油圧の低下量に応じてロックアップクラッチのトルク伝達容量が定まる。つまり、ロックアップ油圧を低下させると、トルク伝達容量が小さくなり、燃料カットリカバリに伴って発生するトルクによって滑りが生じる。このロックアップクラッチの滑りにより、燃料カットリカバリ時のショックが低減する。
【0010】
燃料カットリカバリにより生じる内燃機関のトルクが大きい場合には、ロックアップ油圧の低下量が小さくても滑りが生じ、ショック低減が図れる。従って、発生するトルクが大きいほどロックアップ油圧の低下量を少なくすることで、適切なトルク伝達容量となり、不要な内燃機関の回転速度の吹け上がりを抑制しつつショック低減が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施例の内燃機関のシステム構成を示す説明図。
図2】一実施例の燃料カットリカバリ制御の処理を示すフローチャート。
図3】燃料カットリカバリ時に発生するトルクが小さい場合および大きい場合におけるロックアップ油圧、内燃機関回転速度、変速機入力軸回転速度、の変化を示したタイムチャート。
図4】ロックアップクラッチのスリップ締結制御を行う車両の運転領域を示した変速線図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1は、一実施例の内燃機関1のシステム構成を概略的に示した説明図である。内燃機関1は、例えば直列3気筒の火花点火式内燃機関であって、吸気弁2と排気弁3とで囲まれた燃焼室中央部に点火プラグ4を有し、吸気弁2側には図示しない可変バルブタイミング機構が設けられている。吸気ポート6には、吸気弁2へ向けて燃料を噴射する燃料噴射弁5が配置されている。なお、内燃機関1は、筒内へ燃料を直接噴射する筒内直接噴射型内燃機関であってもよい。
【0014】
吸気ポート6に接続された吸気通路7は吸気コレクタ7aを備えており、該吸気コレクタ7aの上流側に、エアクリーナ8、エアフロメータ9、電子制御型スロットルバルブ10が上流側から順に配置されている。吸気コレクタ7aには、該吸気コレクタ7a内の圧力および吸気温を検出するT-MAPセンサ11が設けられている。
【0015】
排気ポート13に接続された排気通路14には、三元触媒からなる触媒装置15が設けられており、該触媒装置15の上流側に空燃比センサ16が、下流側にO2センサ17が、それぞれ配置されている。また、排気通路14のO2センサ17よりも下流側に、排気中の排気微粒子を捕集する排気微粒子フィルタ(以下、GPFと略記する)18が配置されている。GPF18は、例えば、目封じ型のセラミック製モノリスフィルタに三元触媒をコーティングした構成となっている。一つの例では、上流側の触媒装置15が車両のエンジンルーム内に位置し、GPF18は車両の床下に位置している。
【0016】
GPF18は、その入口側および出口側に、それぞれ温度センサ19,20を備えている。また、GPF18における圧力損失(つまり微粒子堆積状態)を検出するために、GPF18の入口側と出口側との間の圧力差に応答する差圧センサ21が設けられている。
【0017】
排気通路14と吸気通路7との間には排気還流通路23が設けられており、この排気還流通路23は、EGRガスクーラ24およびEGRバルブ25を備えている。
【0018】
また、内燃機関1は、冷却水温センサ27、潤滑油に関する油温センサ28および油圧センサ29、ノッキングセンサ30、機関回転速度を検出するクランク角センサ31、等を備えている。
【0019】
上述した種々のセンサ類の検出信号は、エンジンコントローラ35に入力される。エンジンコントローラ35には、さらに、運転者により操作されるアクセルペダルの踏込量を検出するアクセル開度センサ36の検出信号、トランスミッションコントローラ37が出力する変速機のギア比を示す信号、車速センサ38からの車速信号、などが入力される。また、内燃機関1は、補機として空調装置用コンプレッサ(図示せず)およびオルタネータ(図示せず)を駆動しており、これらの補機の駆動に要する負荷を検出するために、空調装置の冷媒圧力やオルタネータの電流を示す信号がエンジンコントローラ35に入力される。
【0020】
エンジンコントローラ35は、これらの検出信号に基づき、内燃機関1の全体的な制御を行っている。例えば、各気筒の燃料噴射弁5の燃料噴射量および噴射時期、点火プラグ4の点火時期、スロットルバルブ10の開度、等を最適に制御している。
【0021】
また、GPF18については、差圧センサ21によって所定レベル以上の微粒子堆積状態(いわゆる目詰まり状態)が検出されたときに、GPF18の温度など他の条件も考慮しながらエンジンコントローラ35がGPF18の強制的な再生を行うようになっている。具体的には、スロットルバルブ10の開度を増加して吸入空気量および燃料量を増量するとともに、点火時期を遅角させて排気温度を高めることで、堆積していた排気微粒子を燃焼させ、除去する。なお、一般に、高負荷運転などによりGPF18の温度が高いときにはGPF18は自然に再生可能であるので、GPF18の強制的な再生は、低負荷運転の継続などによりGPF18の温度が低いときに行われる。例えば、運転者がアクセルペダルを解放した状態であるアクセル開度が0であるときにも、GPF18の強制的な再生がなされる。
【0022】
上記内燃機関1は、図示しないトルクコンバータおよび自動変速機と組み合わされて車両に搭載されている。自動変速機としては、有段もしくは無段の自動変速機のいずれであってもよいが、一例としては、ベルト式無段変速機(いわゆるCVT)が用いられている。このベルト式無段変速機は、トランスミッションコントローラ37により、主にアクセル開度と車速とに基づいて変速比が連続的に制御される。内燃機関1の出力軸(クランクシャフト)は、図示しないトルクコンバータを介して変速機の入力軸に接続される。変速機の出力軸は、終減速装置およびドライブシャフトを介して車両の駆動輪を駆動する。トルクコンバータは、該トルクコンバータの入力側と出力側とを接続可能なロックアップクラッチ41を備えており、このロックアップクラッチ41は、油圧制御ユニット42を介して供給されるロックアップ油圧によって、締結(完全締結)とスリップ締結と解放との3つの状態に制御可能である。油圧制御ユニット42は、トランスミッションコントローラ37によって制御される。
【0023】
次に、本発明の要部である減速時の燃料カット制御および燃料カットリカバリ制御について説明する。実施例の内燃機関1は、車両走行中に運転者がアクセルペダルを解放した惰行走行時に、燃料消費の改善やいわゆるエンジンブレーキ作用の確保等のために、燃料カットを実行する。具体的には、アクセル開度が0となったら、アクセル開度以外のいくつかの燃料カット許可条件が成立しているかどうかを判定し、全ての条件が成立している場合に燃料カットが許可される。例えば、燃料カット許可条件として、冷却水温が所定温度以上であること、内燃機関1の回転速度が所定回転速度以上であること、車速が所定車速以上であること、などを条件として燃料カットが許可される。
【0024】
ここで、実際の燃料カット(噴射停止)の実行直前には、アクセル開度が0となっているが、例えばGPF18の強制的な再生を行っている場合には、燃料カット直前の内燃機関1のトルクは比較的大きくなっている。これは、アイドル運転に必要なトルクに、GPF18の強制的な再生のための余分なトルクつまり吸入空気量・燃料量が上乗せされているためである。つまり、運転者によって操作されるアクセル開度が0となっても、GPF18再生中は、スロットルバルブ10の開度が全閉ではなくある程度開いた状態となる。そのため、燃料カット直前の内燃機関1のトルクが高くなる。同様の現象は、空調装置用のコンプレッサや発電用のオルタネータなどの補機の負荷が大きいとき、キャニスタからのパージガスの流入量が大であるとき、フリクション等による損失が大きくそれだけ内燃機関1の発生トルクが大きく制御されているとき、などに生じうる。例えば、補機の負荷が大きく、かつ同時にGPF18の強制的な再生を行っているような条件下では、それだけ内燃機関1のトルクは大きくなる。燃料カット許可の判定後、実際に燃料カットが実行されると、内燃機関1のトルクは0となる。
【0025】
燃料カットを伴う惰行走行中は、ロックアップクラッチ41は締結状態に制御される。これにより、内燃機関1のいわゆるエンジンブレーキ作用が確実に得られる。
【0026】
燃料カットを伴う惰行走行中に、所定の燃料カットリカバリ条件が成立すると、燃料カットリカバリつまり燃料噴射が再開される。燃料カットリカバリ条件としては、例えば、アクセル開度が0でないこと(換言すればアクセルペダルの踏込)、内燃機関1の回転速度が所定回転速度以下となったこと、車速が所定車速以下となったこと、などであり、いずれか一つの条件が成立したときに燃料カットリカバリが実行される。
【0027】
この燃料カットリカバリに際しては、内燃機関1のトルクの立ち上がりに伴う車両のショックを抑制するために、実際の燃料噴射再開前にロックアップクラッチ41がスリップ締結状態に制御される。すなわち、燃料カットリカバリ条件が成立したと判定したら、ロックアップ油圧を低下させていき、ロックアップクラッチ41がスリップ締結となるタイミングまで待って燃料噴射再開を実行する。この燃料噴射再開によって内燃機関1のトルクが立ち上がるが、ロックアップクラッチ41の滑りによって振動が吸収され、車両駆動系を介して発生するショックが低減する。
【0028】
この燃料噴射再開の際の内燃機関1のトルクは、上述した燃料カット直前のトルクと同様に、アイドル運転に必要なトルクに、何らかの理由で必要な上乗せ分のトルクが付加されたものとなる。例えば、GPF18の強制的な再生が完了していない状態で燃料カットが実行された場合は、燃料カットリカバリ後にGPF18再生を継続するので、GPF18再生に必要なトルクつまり吸入空気量・燃料量を考慮して燃料カットリカバリ時の目標トルクが設定される。空調装置用のコンプレッサや発電用のオルタネータなどの補機の負荷などについても同様である。従って、燃料カットリカバリにより生じる内燃機関1のトルクは、一定ではなく、GPF18の再生中であるか否か等によって比較的大きく変化する。
【0029】
ロックアップクラッチ41がスリップ締結状態にあるときは、ロックアップ油圧により可変的に制御されるトルク伝達容量を実際のトルクが超えたときに滑りが生じる。そのため、燃料カットリカバリにより生じる内燃機関1のトルクが大きければ、ロックアップ油圧の低下量が少ない段階でロックアップクラッチ41の滑りを生じさせることができる。
【0030】
従って、上記実施例では、燃料カットリカバリにより生じるトルクが大きいほどロックアップ油圧の低下量を少なくする。また、それだけ早期に滑りが生じることとなるので、燃料カットリカバリにより生じるトルクが大きいほど燃料噴射再開の実行タイミングが早期に設定される。
【0031】
図2は、上記エンジンコントローラ35によって実行される燃料カットリカバリ制御の処理の流れを示すフローチャートである。ステップ1では、燃料カット中であるか否かを繰り返し判定する。燃料カット中でなければ、処理を終了する。
【0032】
燃料カット中であれば、ステップ2へ進み、燃料カットリカバリ条件が成立したか否かを判定する。燃料カットリカバリ条件が成立していなければ、燃料カットを継続する。燃料カットリカバリ条件は、前述したように、例えば、アイドルスイッチがオフである(アクセル開度が0でない)こと、内燃機関1の回転速度が所定回転速度以下であること、車速が所定車速以下であること、のOR条件である。
【0033】
燃料カットリカバリ条件が成立したら、ステップ2からステップ3へ進み、燃料カットリカバリによって生じる内燃機関1のトルクを推定する。燃料カットリカバリによって生じるトルクは、換言すれば、実際の燃料噴射再開時の目標トルクである。例えば、そのときのアクセル開度、内燃機関1の回転速度、GPF18の強制的な再生の継続中であるか否か、補機の負荷、等に基づいて目標とする燃料カットリカバリ時の内燃機関1のトルクが求められる。
【0034】
次にステップ4へ進み、ステップ3で推定したトルクに応じて、ロックアップ油圧低下量を決定する。つまり、推定した発生トルクに対応したトルク伝達容量となるように、目標のスリップ締結用油圧を設定する。ここでは、推定したトルクが大きいほど目標のスリップ締結用油圧が高く与えられる。
【0035】
また、推定したトルクに応じて、燃料噴射再開の実行タイミングを決定する。ここでは、ロックアップ油圧低下開始から目標のスリップ締結用油圧に低下するまでの所要時間に対応するように燃料噴射再開の実行タイミングが決定される。推定したトルクが大きいほど必要なロックアップ油圧低下量が小さくなるので、推定したトルクが大きいほど燃料噴射再開の実行タイミングは早期に設定される。
【0036】
次にステップ5へ進み、ステップ4での決定に従ってロックアップ油圧低下と燃料噴射再開とを実行する。詳しくは、ロックアップ油圧低下は、燃料カットリカバリ条件成立と実質的に同時に開始される。その後、ステップ4で決定したタイミングに達したときに、燃料噴射再開が実行される。
【0037】
図3は、燃料カットリカバリの際の内燃機関1のトルクと、ロックアップ油圧と、内燃機関1の回転速度および変速機入力軸回転速度と、の変化を示すタイムチャートである。図の上方から順に、特性aは、アイドルスイッチフラグを示し、特性bは、燃料カットリカバリ判定フラグを示している。次の破線Aで囲んだ部分の特性は、燃料カットリカバリの際の内燃機関1の発生トルクが比較的小さい場合の特性であって、特性c1は、内燃機関1のトルク、特性d1は、ロックアップ油圧、特性e1は、内燃機関1の回転速度、特性f1は、変速機入力軸回転速度、をそれぞれ示している。また、破線Bで囲んだ部分の特性は、燃料カットリカバリの際の内燃機関1の発生トルクが比較的大きい場合の特性であって、特性c2は、内燃機関1のトルク、特性d2は、ロックアップ油圧、特性e2は、内燃機関1の回転速度、特性f2は、変速機入力軸回転速度、をそれぞれ示している。なお、燃料カットリカバリ時の内燃機関1の発生トルクが大きくなる1つの要因として、GPF18の強制的な再生を行っている場合があり、例えば、破線Aで囲んだ部分の特性はGPF18の強制的な再生を行っていない場合、破線Bで囲んだ部分の特性はGPF18の強制的な再生を行っている場合、にそれぞれ相当する。
【0038】
特性aで示すアイドルスイッチフラグは、アクセル開度が0であることを示すフラグであり、アクセルペダルの踏込に応答するアクセル開度センサ36の出力信号が所定レベル未満である状態が比較的短い所定時間継続したときに、アクセルペダルが全閉であると判定してアイドルスイッチフラグがオンつまり「1」となる。そして、アクセル開度が0以外であれば、アイドルスイッチフラグは「0」となる。図示例では、時間t1においてアクセルペダルが僅かに踏み込まれ、アイドルスイッチフラグが「0」となる。
【0039】
このアイドルスイッチフラグが「0」となったことに伴い、実質的に同時に、燃料カットリカバリ条件が成立したことを示す燃料カットリカバリ判定フラグが「1」となる。
【0040】
この燃料カットリカバリ判定に伴い、ロックアップ油圧の低下が開始する。つまり実質的に時間t1からロックアップ油圧が低下する。詳しくは、前述したように燃料カットリカバリ条件成立時に燃料カットリカバリにより生じる内燃機関1のトルクが推定され、この推定したトルクに応じて目標のスリップ締結用油圧が決定される。そして、この目標のスリップ締結用油圧へ向けて一定の減少率でもってロックアップ油圧が徐々に低くされる。
【0041】
燃料カットリカバリの際の内燃機関1の発生トルクが比較的小さい場合は、特性d1に示すように、目標のスリップ締結用油圧は比較的低く設定される。ΔP1がロックアップ油圧の油圧低下量となる。図示例では、時間t3においてロックアップ油圧が目標のスリップ締結用油圧に到達する。
【0042】
実際の燃料噴射再開は、ロックアップクラッチ41に滑りが生じうる状態で行うため、ロックアップ油圧が目標のスリップ締結用油圧にまで低下するタイミングに合わせた燃料噴射再開実行タイミングで燃料噴射が再開される。図示例では、時間t3において燃料噴射が再開され、特性c1に示すように内燃機関1のトルクが立ち上がる(トルクT1)。これにより、内燃機関1の回転速度は特性e1で示すように上昇し、変速機入力軸回転速度も特性f1で示すように上昇する。スリップ締結状態にあるロックアップクラッチ41の滑りにより、変速機入力軸回転速度は内燃機関1の回転速度よりも低い形で上昇する。
【0043】
燃料カットリカバリ後、ロックアップ油圧は、徐々に高くなるように制御され、ロックアップクラッチ41は再び締結(完全締結)状態となる。図示例では、時間t5においてロックアップクラッチ41が完全締結となっている。
【0044】
燃料カットリカバリの際の内燃機関1の発生トルクが相対的に大きい場合は、特性d2に示すように、目標のスリップ締結用油圧は比較的高く設定される。ΔP2がロックアップ油圧の油圧低下量となる。そのため、時間t3よりも早いタイミングである時間t2においてロックアップ油圧が目標のスリップ締結用油圧に到達する。一方、燃料カットリカバリの際の内燃機関1のトルクが大きい場合は、ロックアップ油圧が目標のスリップ締結用油圧にまで低下するタイミングに合わせて、燃料噴射再開実行タイミングも早いタイミングに設定される。図示例では、ロックアップ油圧が目標のスリップ締結用油圧に到達する時間t2において燃料噴射再開が実行され、特性c2に示すように内燃機関1のトルクが立ち上がる(トルクT2)。これにより、内燃機関1の回転速度は特性e2で示すように上昇し、変速機入力軸回転速度も特性f2で示すように上昇する。スリップ締結状態にあるロックアップクラッチ41の滑りにより、変速機入力軸回転速度は内燃機関1の回転速度よりも低い形で上昇する。
【0045】
燃料カットリカバリ後、ロックアップ油圧は、一定の増加率でもって徐々に高くなるように制御され、ロックアップクラッチ41は再び締結(完全締結)状態となる。図示例では、内燃機関1のトルクが小さい場合の時間t5よりも早い時間t4においてロックアップクラッチ41が完全締結となっている。
【0046】
このように上記実施例では、燃料カットリカバリにより生じる内燃機関1のトルクの大きさに応じて目標のスリップ締結用油圧が設定されるので、燃料カットリカバリにより内燃機関1のトルクが立ち上がったときに過不足のない適切な滑りを生じさせることができる。例えば、内燃機関1の発生トルクが大きい場合にロックアップ油圧が過度に低くなっていると、過大な滑りが生じ、燃料カットリカバリ時に内燃機関1の回転速度が吹け上がるという好ましくない現象が生じる。他方、内燃機関1の発生トルクが小さい場合にロックアップ油圧が十分に低下していないと、燃料カットリカバリ時にロックアップクラッチ41の十分な滑りが得られず、ショック低減を十分に達成することができない。
【0047】
また、内燃機関1の発生トルクの大きさに応じて目標のスリップ締結用油圧を設定することで、結果的に、発生トルクが大きい場合には相対的に早期に燃料噴射再開を実行することが可能となる。つまり、目標のスリップ締結用油圧の設定に併せて燃料噴射再開実行タイミングを発生トルクに応じて設定することで、ロックアップクラッチ41の滑りによるショック低減を確保しつつ、燃料カットリカバリ判定から実際の燃料噴射再開の実行タイミングまでの遅れ(図3のD1,D2)を必要最小限のものとすることができる。
【0048】
また、燃料カットリカバリ後にロックアップクラッチ41が完全締結に復帰するタイミングも、発生トルクが大きい場合には相対的に早くなり、不必要に長くスリップ締結とすることがない。
【0049】
なお、図3のタイムチャートではアクセルペダルの踏込による燃料カットリカバリを例に説明したが、他の燃料カットリカバリ条件による燃料カットリカバリについても同様である。
【0050】
次に図4は、上述したロックアップクラッチ41のスリップ締結制御を行う車両の運転領域を示した変速線図である。内燃機関1に接続された図示しないベルト式無段変速機(CVT)の変速比は、車速とアクセル開度(アクセルペダル踏込量)とに応じて制御される。図4は、横軸を車速とし、縦軸を目標回転速度(変速機入力軸回転速度)として、代表的なアクセル開度に対する変速比を示した変速線図であって、図示するように、変速比は、CVTで実現可能な変速比範囲である最ロー線Lと最ハイ線Lとの間で変化し、アクセル開度が大きいほど図の左上寄りの特性線となる。つまり、アクセル開度が大きいほどロー側の変速比となることを示している。
【0051】
ここで、本実施例では、燃料カットリカバリ時の内燃機関1の発生トルクの大小に応じてスリップ締結制御を行う車両運転領域が異なるものとなっている。具体的には、燃料カットリカバリ時の内燃機関1の発生トルクが大きくなる1つの要因であるGPF18の強制的な再生を行っていない場合(前述した図3のAに相当)には、燃料カットリカバリ時のアクセル開度が比較的小さな所定開度(APO1)以下で、かつ車速が比較低い第1の車速(VSP1)以下の領域Cにおいてロックアップクラッチ41のスリップ締結制御が実行される。他の領域では、スリップ締結制御とせずにロックアップクラッチ41が速やかに締結される。これは、アクセル開度が大きいときは燃料カットリカバリ時のショック低減よりも加速応答性が要求されること、車速が高いと相対的に燃料カットリカバリ時のショックが顕在しにくいこと、などによる。
【0052】
これに対し、燃料カットリカバリ時の内燃機関1の発生トルクが大きくなる1つの要因であるGPF18の強制的な再生を行っている場合(前述した図3のBに相当)には、燃料カットリカバリ時のアクセル開度が同じく所定開度(APO1)以下で、かつ車速が第1の車速(VSP1)よりも高い第2の車速(VSP2)以下の領域Dにおいてロックアップクラッチ41のスリップ締結制御が実行される。領域Dは、領域Cを包含しており、換言すれば、スリップ締結制御を行う車速が、第1の車速(VSP1)から第2の車速(VSP2)までに拡大される。これにより、領域Dにおいても燃料カットリカバリ時のショックが効果的に抑制される。
【0053】
つまり、燃料カットリカバリ時の内燃機関1の発生トルクが大きいほど車両に生じるショックは大きいので、GPF18の強制的な再生により燃料カットリカバリ時の内燃機関1の発生トルクが大きくなる場合には、車速が高い領域でも燃料カットリカバリ時のショックが顕在しやすい。この実施例では、GPF18の強制的な再生により燃料カットリカバリ時の内燃機関1の発生トルクが大きくなる場合に、より高車速側までスリップ締結制御を行う領域を拡大することで、ショックの抑制が図れる。
【0054】
ロックアップクラッチ41のスリップ締結制御は、加速応答性の悪化や燃費の悪化などのデメリットを伴うので、必要最小限の領域で行うことが望ましい。仮に、従来技術のように、燃料カットリカバリ時の内燃機関1の発生トルクが大きいときに過大な滑りが生じてしまうと、燃費の悪化などのデメリットがより顕著となる。しかしながら、本発明によれば、前述したように、燃料カットリカバリにより生じる内燃機関1のトルクの大きさに応じて目標のスリップ締結用油圧が設定されるので、燃料カットリカバリにより内燃機関1のトルクが立ち上がったときに過不足のない適切な滑りを生じさせることができ、過大な滑りを回避できる。従って、燃費の悪化などを最小限にしつつ高車速側までスリップ締結制御領域を拡大することが可能である。
【0055】
なお、図4の例では、燃料カットリカバリ時のアクセル開度と車速とに基づいてスリップ締結制御を行うか否かを決定しているが、車速に拘わらず燃料カットリカバリ時のアクセル開度が所定のアクセル開度領域にあればロックアップクラッチ41のスリップ締結制御を行うようにしてもよい。
【0056】
また、図4の例では、スリップ締結制御をすべき運転領域を定める所定アクセル開度(APO1)が一定であるが、車速に応じてスリップ締結制御を実行する上限のアクセル開度を変更するようにしてもよい。
【0057】
その他、内燃機関1の圧縮比(例えば可変圧縮比機関である場合)や変速機のギヤ比(例えば有段変速機の場合)に応じて、スリップ締結制御をすべき運転領域を定めるアクセル開度や車速を変更するようにしてもよい。
【0058】
また、図4の例では、燃料カットリカバリ時の内燃機関1の発生トルクがGPF18の強制的な再生の実行・非実行による2段階のものとして説明したが、さらに多段階に発生トルクの大小を分別し、より細かく領域の拡大を行うようにしてもよい。
【0059】
燃料カットリカバリ時の内燃機関1の発生トルクの上昇は、上述したGPF18の強制的な再生のほか、例えば、排気還流(EGR)の停止などによっても生じる。
図1
図2
図3
図4