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特許7364164排尿検知装置、排尿検知システムおよび排尿検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】排尿検知装置、排尿検知システムおよび排尿検知方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/42 20060101AFI20231011BHJP
   A61F 5/44 20060101ALI20231011BHJP
   A01K 29/00 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
A61F13/42 F
A61F5/44 S
A01K29/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019014269
(22)【出願日】2019-01-30
(65)【公開番号】P2020120911
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】518288730
【氏名又は名称】アルセンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002712
【氏名又は名称】弁理士法人みなみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 一樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】滝口 收
【審査官】岡崎 克彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-501864(JP,A)
【文献】特開昭60-213857(JP,A)
【文献】特開2002-022688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/42
A61F 5/44
A01K 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オムツの尿吸収部の外側に配置されるものであってオムツ側から順に、内側電極、内側中間絶縁体、グランド電極、外側中間絶縁体および外側電極を積層したシート状のセンサ部と、該センサ部に接続された測定部を備え、
前記グランド電極は、グランドに接続されたものであり、
前記内側電極および前記外側電極は、前記グランド電極の外縁の内周側に納まるものであり、
前記測定部は、前記内側電極の静電容量と前記外側電極の静電容量を測定するものであり、
前記内側電極が複数設けてあって、前記の各内側電極は互いに離隔しており、前記測定部が、前記内側電極間の相互容量を測定するものであることを特徴とする排尿検知装置。
【請求項2】
請求項1記載の排尿検知装置と、前記排尿検知装置と通信する端末を備え、
前記端末は、
前記測定部により測定された前記内側電極の静電容量と前記外側電極の静電容量の測定データを取得し、
前記内側電極の静電容量が減少したときに、前記外側電極の静電容量が変化していなければ、排尿によるものと判断し、前記外側電極の静電容量が増加していれば、外乱によるものと判断し、
排尿によるものと判断した前記内側電極の静電容量の減少量に基づいて、排尿量を検知するものであることを特徴とする排尿検知システム。
【請求項3】
請求項1記載の排尿検知装置の前記測定部により測定された前記内側電極の静電容量と前記外側電極の静電容量に基づいて、
前記内側電極の静電容量が減少したときに、前記外側電極の静電容量が変化していなければ、排尿によるものと判断し、前記外側電極の静電容量が増加していれば、外乱によるものと判断し、
排尿によるものと判断した前記内側電極の静電容量の減少量に基づいて、排尿量を検知するものであることを特徴とする排尿検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オムツ内の排尿量を検知できる排尿検知装置、排尿検知システムおよび排尿検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、要介護高齢者の増加に伴い、オムツの着用者も増加している。介護施設等において、オムツの交換は、介護者と被介護者の双方にとって負担となるため、排尿量を検知して適切なオムツ交換時期を把握し、できるだけオムツ交換の頻度を減らすことが求められている。
【0003】
また、近年、犬や猫等の愛玩動物に、オムツを着用させる機会が増えている。それは、室内飼育される割合が増えていることや、長寿化により、高齢になって運動機能が低下してトイレに辿り着けない、認知症でトイレの場所を忘れてしまう、といった原因でトイレ以外の場所で失禁してしまう場合が増えていることが理由である。オムツの交換は飼い主にとって手間であり、また交換回数が増えればそれだけ経済的負担も大きくなるため、排尿量を検知して適切なオムツ交換時期を把握し、できるだけオムツ交換の頻度を減らすことが求められている。さらに、愛玩動物の排尿量は、健康状態を把握するための重要な指標となるので、その観点からも、排尿量の検知が求められている。
【0004】
このように、人を対象とする場合と動物を対象とする場合の何れにおいても、オムツ内の排尿量を適宜検知することが求められており、たとえば特許文献1に示す発明が提案されている。特許文献1の発明は、吸収性物品(オムツ)に取り付けられたセンサ素子によって排尿時のインピーダンス変化を測定するものである。ただし、このような電気的特性の測定値は、オムツの着用者の姿勢によって変化するものであることが知られている。そこで、特許文献1の発明では、オムツに三軸加速度センサを設けてあり、これによりオムツの着用者の姿勢を判定し、判定された姿勢に対応する尿量計算式を用いて、インピーダンス変化の測定値に基づき尿吸収量を算出しており、このようにすることで、着用者の姿勢変化による測定誤差を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-207317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の発明は、インピーダンスと三軸加速度という複数の物理量を測定するものであったため、測定のためのセンサの構成や測定値のデータ処理が複雑なものとなり、コストが高くなってしまう点が問題であった。
【0007】
本発明は、このような事情を鑑みたものであり、簡易な構成でありながら、オムツ内の排尿量を検知し、かつオムツの着用者の姿勢変化等の外乱の影響を排除できる排尿検知装置、排尿検知システムおよび排尿検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の排尿検知装置は、オムツの尿吸収部の外側に配置されるものであってオムツ側から順に、内側電極、内側中間絶縁体、グランド電極、外側中間絶縁体および外側電極を積層したシート状のセンサ部と、該センサ部に接続された測定部を備え、前記グランド電極は、グランドに接続されたものであり、前記内側電極および前記外側電極は、前記グランド電極の外縁の内周側に納まるものであり、前記測定部は、前記内側電極の静電容量と前記外側電極の静電容量を測定するものであり、前記内側電極が複数設けてあって、前記の各内側電極は互いに離隔しており、前記測定部が、前記内側電極間の相互容量を測定するものであることを特徴とする。なお、グランドに接続するとは、測定部の筐体、基板や電池の負極など、電位の基準となる点に接続することをいう。
【0010】
また、本発明の排尿検知システムは、上記の排尿検知装置と、前記排尿検知装置と通信する端末を備え、前記端末は、前記測定部により測定された前記内側電極の静電容量と前記外側電極の静電容量の測定データを取得し、前記内側電極の静電容量が減少したときに、前記外側電極の静電容量が変化していなければ、排尿によるものと判断し、前記外側電極の静電容量が増加していれば、外乱によるものと判断し、排尿によるものと判断した前記内側電極の静電容量の減少量に基づいて、排尿量を検知するものであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の排尿検知方法は、上記の排尿検知装置の前記測定部により測定された前記内側電極の静電容量と前記外側電極の静電容量に基づいて、前記内側電極の静電容量が減少したときに、前記外側電極の静電容量が変化していなければ、排尿によるものと判断し、前記外側電極の静電容量が増加していれば、外乱によるものと判断し、排尿によるものと判断した前記内側電極の静電容量の減少量に基づいて、排尿量を検知するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の排尿検知装置によれば、内側電極と外側電極のそれぞれにおいて静電容量を測定するものであって、それらの測定値を比較することにより、排尿による静電容量の変化と、外乱による静電容量の変化を判別し、外乱の影響を排除して、オムツ内の排尿量を検知できる。その理由は、以下のとおりである。内側電極と外側電極のそれぞれの静電容量は、この排尿検知装置の内側(オムツ側)における排尿と、外側におけるオムツの着用者の姿勢変化等の外乱、すなわち床面や他者の体等の接地(アース)されたとみなせるもの(以下、接地体という)の接近による影響を受ける。内側電極と外側電極における、排尿と外乱のそれぞれから受ける影響の差異に基づき、外乱の影響を排除することができ、かつ静電容量の変化量から排尿量を検知できるものである。
【0013】
また、内側電極において相互容量を測定するので、オムツ内の排尿量を特に精度よく検知できる。その理由は、以下のとおりである。まず、オムツ内で排尿があった場合、内側電極においては、電極間の電気力線の一部が排尿されたオムツの尿吸収部を介して着用者の体と結合するため、静電容量(相互容量)が減少する。そして、事前の実験により注水量と静電容量の減少量との線形的な相関関係を導出することで、本発明による測定データから、実際の排尿量を精度よく検知できるものである。
【0014】
また、本発明の排尿検知システムまたは排尿検知方法によれば、排尿検知装置により測定された内側電極と外側電極のそれぞれ静電容量に基づいて、排尿量を精度よく検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の排尿検知装置の説明図であり、(a)は上面図、(b)は側面図、(c)は下面図を示す。
図2】排尿検知装置のセンサ部の分解斜視図である。
図3】排尿検知装置を備えるオムツカバーの説明図である。
図4】オムツカバーを犬に着用させた状態を示す説明図である。
図5】予備実験用の電極の説明図である。
図6】電極幅ごとの、オムツによる静電容量の変化量を示すグラフである。
図7】電極間隔ごとの、オムツによる静電容量の変化量を示すグラフである。
図8】排尿による内側電極の静電容量への影響の説明図であり、(a)は排尿前、(b)は排尿後を示す。
図9】排尿による外側電極の静電容量への影響の説明図であり、(a)は排尿前、(b)は排尿後を示す。
図10】接地体の接近による内側電極の静電容量への影響の説明図であり、(a)は接近前、(b)は接近後を示す。
図11】接地体の接近による外側電極の静電容量への影響の説明図であり、(a)は接近前、(b)は接近後を示す。
図12】排尿検知装置の効果を確認するための実験の説明図である。
図13】測定実験結果を示すグラフである(床面が接近した場合)。
図14】測定実験結果を示すグラフである(人の手が接近した場合)。
図15】排尿と外乱が同時に生じた場合の排尿検知方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の排尿検知装置の具体的な内容について説明する。本発明は、人と、犬や猫等の動物の、何れも対象とすることができるものであるが、ここでは雄犬を対象とする場合を例として挙げる。図3および図4に示すように、この排尿検知装置100は、犬Dに着用させたオムツNを覆うオムツカバー200と一体になったものである。なお、以下において前後方向とは、オムツカバー200を犬に着用させた状態における胴体の前後方向とし、図3および図4における右側が前側、左側が後側となる。また、左右方向とは、オムツカバー200を犬に着用させた状態における体の左右方向とする。さらに、上下方向とは、前後方向および左右方向に直交する方向であって、オムツカバー200を犬に着用させた状態におけるオムツN側(犬D側)を上側、その反対側を下側とする。
【0018】
オムツカバー200は、布製のものであって、図3に示すように、平面視して、前後方向に延びかつ前端部と後端部が外周側に膨らむ略円弧状であるカバー部201と、カバー部201の前部と後部からそれぞれ左右方向に延びる4本のベルト部202からなる。左右のベルト部202には、それぞれ対応する面ファスナー(図示省略)を設けてあり、図4に示すように、カバー部201を犬Dの胴体に下側から当ててオムツNを覆い、前後それぞれにおいて左右のベルト部202を胴体に回し、相互に面ファスナーで固定する。
【0019】
続いて、このオムツカバー200に取り付けられた排尿検知装置100について説明する。図1および図2に示すように、この排尿検知装置100は、センサ部10と、測定部20を備える。センサ部10は、シート状のものであって、図3に示すように、オムツカバー200のカバー部201の内側の面(オムツN側の面)の略中央に、縫い付けて取り付けてある。このセンサ部10は、オムツカバー200によりオムツNを覆った際に、オムツNの尿吸収部の外側に配置される。また、測定部20は、回路基板をプラスチック製のケースに納めたものであり、オムツカバー200のカバー部201の内側の面の前端部に、面ファスナーを用いて着脱自在に取り付けてある。なお、オムツカバー200に対する測定部20の取付方法としては、面ファスナーを用いる以外に、オムツカバー200にポケットを設けてその中に収納するようにしてもよい。そして、センサ部10と測定部20とが、配線30により電気的に接続されている。
【0020】
次に、センサ部10についてより詳しく説明する。図1および図2に示すように、センサ部10は、オムツN側(上側)から順に、内側表面絶縁体6、内側電極1a,1b、内側中間絶縁体2、グランド電極3、外側中間絶縁体4、外側電極5および外側表面絶縁体7を積層したものである。内側表面絶縁体6、内側中間絶縁体2、外側中間絶縁体4および外側表面絶縁体7は、PET(ポリエチレンテレフタレート)製フィルムからなるものである。グランド電極3は、銅製メッシュからなるものである。内側電極1a,1bおよび外側電極5は、銅製テープからなるものである。そして、各層が接着されていて、1枚のシート状になっている。なお、各絶縁体は透明なものであり、図1および図2においても透過させて図示してある。また、実際には各層は極めて薄いものであるが、図1(b)では実際のものよりも厚く図示してある。さらに、図1(a)と(c)において、一方に図示した配線30は、他方において省略してある。
【0021】
内側表面絶縁体6、内側中間絶縁体2、外側中間絶縁体4および外側表面絶縁体7について、より詳しくは、すべて同じ大きさの矩形のものであって、上記の各電極間および各電極とその他の外部物体との間の絶縁を維持するためのものである。
【0022】
グランド電極3について、より詳しくは、上記の各絶縁体よりも一回り小さい矩形のものであって、平面視して、各絶縁体の内周側に納まるように配置されている。そして、グランド電極3は、配線30により、後述の測定部20のグランド端子23に接続されている。
【0023】
内側電極1a,1bについて、より詳しくは、2つ設けてあるものであって、各内側電極1a,1bは互いに離隔している。また、各内側電極1a,1bは、前後方向に延びる基部11a,11bを有しており、基部11a,11b同士は左右に位置し、互いに平行である。さらに、各内側電極1a,1bは、各基部11a,11bから対向する基部11b,11aへ向けて延びる複数本(本実施例では3本)の櫛歯部12a,12bを有しており、両基部11a,11b間において、一方の内側電極1aの櫛歯部12aと他方の内側電極1bの櫛歯部12bが交互に並んで配置されている。そして、2つの内側電極1a,1bは、配線30により、それぞれ後述の測定部20の相互容量測定端子21に接続されている。
【0024】
外側電極5について、より詳しくは、1つだけ設けてあるものであって、前後方向、すなわち、犬Dの胴体の延びる方向に延びる長尺状のものである。そして、外側電極5は、配線30により、後述の測定部20の自己容量測定端子22に接続されている。
【0025】
次に、測定部20についてより詳しく説明する。測定部20は、回路基板上に実装されたマイコン(図示省略)を備えるものである。このマイコンは、相互容量方式と自己容量方式の2つの方式で静電容量を測定できるものであり、相互容量を測定するための相互容量測定端子21と、自己容量を測定するための自己容量測定端子22と、測定部20の筐体、基板や電池の負極など、電位の基準となる点に接続されたグランド端子23を有している。前述のように、内側電極1a,1bが、相互容量測定端子21に接続されているので、測定部20は、内側電極1a,1b間の相互容量を測定するものであり、また、外側電極5が自己容量測定端子22に接続されており、グランド電極3がグランド端子23に接続されているので、測定部20は、外側電極5の自己容量(外側電極5とグランド電極3との間の寄生容量)を測定するものである。さらに、このマイコンは、測定した静電容量のデータを、外部の端末(パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレットなど)へ送信するための、無線通信部(図示省略)を有している。
【0026】
なお、本実施例のセンサ部10の大きさについては、犬用のオムツNおよびオムツカバー200の大きさに合わせて、矩形のグランド電極3の大きさを、前後幅150mm、左右幅135mmとしてある。また、各絶縁体は、このグランド電極3よりも一回り大きいものとしてある。さらに、前後に延びる、内側電極1a,1bの基部11a,11bおよび外側電極5の長さは、グランド電極3の前後幅よりも一回り短い140mmとしてある。また、内側電極1a,1bの基部11a,11bの幅は10mm、櫛歯部12a,12bの幅は15mmとしてあり、一方の内側電極1aと他方の内側電極1bとの間隔は、すべての箇所で10mmとしてある。さらに、外側電極5の幅は、10mmとしてある。なお、内側電極1a,1bおよび外側電極5の幅と、一方の内側電極1aと他方の内側電極1bとの間隔については、以下のような予備実験に基づいて値を決定した。
【0027】
予備実験には、図5に示すように、絶縁体302の上に2本の電極301を平行に並べた実験用電極300を用いる。電極301の長さは140mmとし、電極301の幅をw、両電極301の間隔をdとする。そして、電極間隔dを5mmで一定にして、電極幅wを5,10,15mmとした実験用電極300と、電極幅wを10mmで一定にして、電極間隔dを5,10,15mmとした実験用電極300を用意した。
【0028】
このような実験用電極300を机上に載置し、その上に水を含まず乾燥した状態のオムツ(以下、乾オムツという)を重ねて載置した場合と、水を吸水した状態のオムツ(以下、濡オムツという)を重ねて載置した場合の、載置前後における電極301間の静電容量の変化量を測定した(それぞれ5回ずつ測定した)。測定には、本発明の排尿検知装置100の測定部20と同じものを用いた。
【0029】
図6に示すのは、電極幅が異なる場合における、乾オムツおよび濡オムツの載置前後の静電容量の変化量を示すグラフである。ただし、変化量として示す数値は、測定部20から出力されるローデータであり、実際の静電容量を表すものではない(以下のすべてのグラフにおいて同様である)。これによれば、乾オムツを載置した場合、電極幅によらず、載置前後で静電容量はほとんど変化しなかった。一方、濡オムツを載置した場合、何れの電極幅でも静電容量が減少した。これは、電極301間の電気力線の一部が吸水したオムツを介して机(接地体)と結合するためである。そして、電極幅が大きいほど、載置前後における静電容量の変化量も大きくなった。この静電容量の変化量が大きいほど、排尿量を精度よく検知できることになる。よって、本実施例では、電極幅を10mmまたは15mmとすることにした。なお、それ以上電極幅を大きくすると、センサ部10自体が大型化してしまうため、好ましくない。
【0030】
図7に示すのは、電極間隔が異なる場合における、乾オムツおよび濡オムツの載置前後の静電容量の変化量を示すグラフである。これによれば、乾オムツを載置した場合、電極間隔によらず、載置前後で静電容量はほとんど変化しなかった。一方、濡オムツを載置した場合、何れの電極間隔でも静電容量が減少しており、電極間隔が10mmのときが、載置前後における静電容量の変化量が最大となった。よって、本実施例では、電極間隔を10mmとすることにした。
【0031】
次に、このように構成したセンサ部10および測定部20からなる排尿検知装置100により、どのようにして外乱(接地体の接近)の影響を排除しつつオムツ内の排尿量を検知するのかについて、説明する。そのためには、排尿があった場合と外乱があった場合のそれぞれにおいて、内側電極1a,1bと外側電極5の静電容量がどのように変化するのかを示す。図4に示すように、排尿検知装置100を備えるオムツカバー200を犬Dに着用させると、センサ部10がオムツNの尿吸収部の外側に配置される。
【0032】
図8に示すのは、排尿による内側電極1a,1bの静電容量の変化についての説明図である。(a)に示す排尿前においては、センサ部10と犬Dの胴体は離隔しており、2つの内側電極1a,1b間の電気力線Fは、電極間で結合されている。そして、(b)に示す排尿後においては、オムツNの尿吸収部Naが尿(水分)で満たされ、電極間で結合していた電気力線Fの一部が、オムツNの尿吸収部Naを介して犬Dの胴体(接地(アース)されているものとみなせる)と結合する。すると、電極間の電気力線Fが減少するため、静電容量(相互容量)が減少する。なお、2つの電極間の誘電体が空気から尿(水)に置き換わり、誘電率が増加することになるが、それによる静電容量の増加量は、電気力線Fが減少することによる静電容量の減少量と比べて十分に小さいものである。
【0033】
図9に示すのは、排尿による外側電極5の静電容量の変化についての説明図である。外側電極5においては、グランド電極3との間の寄生容量(仮想的なコンデンサCの容量)を測定している。これは、(a)に示す排尿前と、(b)に示す排尿後とで、ほとんど変化しない。
【0034】
図10に示すのは、外乱(接地体Eの接近)による内側電極1a,1bの静電容量の変化についての説明図である。(a)に示す接地体Eの接近前においては、2つの内側電極1a,1b間の電気力線Fは、電極間で結合されている。そして、(b)に示す接地体Eの接近後においては、電極間で結合していた電気力線Fの一部が、接地体Eと結合する。すると、電極間の電気力線Fが減少するため、静電容量(相互容量)が減少する。
【0035】
図11に示すのは、外乱(接地体Eの接近)による外側電極5の静電容量の変化についての説明図である。(a)に示す接地体Eの接近前においては、外側電極5とグランド電極3との間の寄生容量(仮想的なコンデンサCi1の容量)のみが測定される。そして、(b)に示す接地体Eの接近後においては、新たに外側電極5と接地体Eとの間の寄生容量(仮想的なコンデンサCi2の容量)が並列に接続されることになるため、静電容量(自己容量)が増加する。
【0036】
以上によれば、排尿により、内側電極1a,1bの静電容量は減少し、外側電極5の静電容量は変化しない。また、外乱により、内側電極1a,1bの静電容量は減少し、外側電極5の静電容量は増加する。このように、排尿があった場合と外乱があった場合において、内側電極1a,1bと外側電極5のそれぞれの静電容量の変化の挙動が明確に異なるため、外乱の影響が確実に排除される。すなわち、内側電極1a,1bの静電容量が減少したときに、外側電極5の静電容量が変化していなければ、内側電極1a,1bの静電容量の減少は排尿によるものと判断することができ、外側電極5の静電容量が増加していれば、内側電極1a,1bの静電容量の減少は外乱によるものと判断することができる。このようにして、外乱の影響が排除され、その上で、排尿があったと判断されたときには、内側電極1a,1bの静電容量の減少量に基づいて、排尿量を精度よく検知できる。
【0037】
次に、本発明の排尿検知装置により、犬の排尿を検知する実験を行った結果を示す。第一の実験は、図12に示すように、犬の人形400を用いて行った。人形400は、生体を模擬するために、胴体と脚の内部を生理食塩水で満たしてあり、ピペットチップ(図示省略)で陰茎を模擬したものを形成し、チューブ401でピペットチップと漏斗402を接続して、漏斗から水(疑似尿)を注水できるようにした。そして、この人形400に、腹巻型のオムツNを着用させ、さらにオムツNを覆うようにして、図1および図2に示す本発明の排尿検知装置100を備えたオムツカバー200を着用させた。そして、漏斗402から1回に20mlずつ、時間を空けて5回の注水を行った。健康な犬の1日の排尿量は20~45ml/kgとされており、本実験では体重3.5kg程度の小型犬を想定していることから、1日の排尿回数を4回とすると、1回の排尿量は17.5~40mlとなるので、これに基づき、1回の注水量を20mlとした。また、注水は、立位(前脚と後脚で立った状態)で行われ、注水から5分ごとに、姿勢を変化させた。姿勢変化は、立位から、犬座位(後脚を曲げて臀部を床面に付けた状態)、腹臥位(前脚と後脚を曲げて胴体を床面に付けた状態)、立位の順に行い、立位に戻してから5分後に次の注水を行った。なお、各姿勢については、図13の上部に図示した。そして、この一連の工程において、測定部20により、センサ部10の内側電極1a,1bと外側電極5の静電容量を測定し、測定部20の無線通信部から送信された測定データをパーソナルコンピュータで受信して記録した。
【0038】
図13に示すのは、第一の実験の結果として、内側電極1a,1bと外側電極5のそれぞれの静電容量の時間変化を表したグラフである。グラフの上部に、注水のタイミング(三角印)と、姿勢の変化を示してある。この結果によれば、内側電極1a,1bの静電容量(相互容量)については、以下の挙動を示した。すなわち、注水によって減少した。また、注水前においては、姿勢を変化させてもほとんど変化しなかった。注水後においては、立位から犬座位したときにはほとんど変化しなかったが、犬座位から腹臥位にすると減少し、腹臥位から立位に戻すと増加した。ただし、腹臥位にする前の値よりも小さい値となった。一方、外側電極5の静電容量(自己容量)については、以下の挙動を示した。すなわち、注水によっては変化せず、姿勢を腹臥位にしたときにだけ増加し、腹臥位から立位に戻すと元の値に戻った。よって、内側電極1a,1bの静電容量が減少した場合において、同時に外側電極5の静電容量が増加していれば、排尿ではなく姿勢の変化(接地体の接近)によるものと判断できる。一方、内側電極1a,1bの静電容量が減少した場合において、同時に外側電極5の静電容量が変化していなければ、排尿によるものと判断できる。
【0039】
次に、第二の実験について説明する。第二の実験も、第一の実験と同じ犬の人形400を用いて行われるものであり、着用させるオムツNおよび本発明の排尿検知装置100を備えたオムツカバー200も同じである。そして、第二の実験では、人形の姿勢は立位のままであり、1回に20mlずつ、5分間隔で5回の注水を行い、注水後に2分間、センサ部10付近をオムツカバー200の外側から人の手で触れた。そして、この一連の工程において、測定部20により、センサ部10の内側電極1a,1bと外側電極5の静電容量を測定し、測定部20の無線通信部から送信された測定データをパーソナルコンピュータで受信して記録した。
【0040】
図14に示すのは、第二の実験の結果として、内側電極1a,1bと外側電極5のそれぞれの静電容量の時間変化を表したグラフである。グラフの上部に、注水のタイミング(三角印)と、人の手で触れたタイミングを示してある。この結果によれば、内側電極1a,1bの静電容量(相互容量)については、以下の挙動を示した。すなわち、注水によって減少した。また、注水前においては、手で触れてもほとんど変化しなかった。注水後においては、手で触れると減少し、手を離すと増加した。ただし、手で触れる前の値よりも小さい値となった。一方、外側電極5の静電容量(自己容量)については、以下の挙動を示した。すなわち、注水によっては変化せず、手で触れたときにだけ増加し、手を離すと元の値に戻った。よって、内側電極1a,1bの静電容量が減少した場合において、同時に外側電極5の静電容量が増加していれば、排尿ではなく人の手が触れたこと(接地体の接近)によるものと判断できる。一方、内側電極1a,1bの静電容量が減少した場合において、同時に外側電極5の静電容量が変化していなければ、排尿によるものと判断できる。
【0041】
このようにして、姿勢が変化して床面等が接近したり、人の手が触れたりする外乱が排除できる。すなわち、内側電極1a、bの静電容量の変化の測定データの内、外乱によるもの判断された測定データについては排除すればよい。そして、これらの実験では注水量が既知であるから、注水量と静電容量の減少量(測定部20から出力されるローデータ)との線形的な相関関係を導出することで、本発明の排尿検知装置による測定データから、実際の排尿量を推定することができるようになる。なお、内側電極1a,1bの静電容量について、第一の実験においては腹臥位から立位に戻した際に姿勢変化前よりも減少しており、第二の実験においては人の手を離した際に触れる前よりも減少したので、その減少量について補正をするようにしてもよい。
【0042】
また、第一の実験では、姿勢が立位のときに注水しており、第二の実験では人の手が触れていないときに注水しているが、実際には、腹臥位のときや人の手が触れているときに排尿することもあり得る。その場合、図15に示すように、内側電極1a,1bの静電容量については、姿勢変化等の外乱による減少と排尿による減少が積み重なることになるが、単に外側電極5の静電容量が増加している場合における内側電極1a,1bの静電容量の変化の測定データを排除することとしていると、排尿による減少も排除されてしまう。そこで、外側電極5の静電容量の変化に基づき、外乱がある状態(腹臥位の状態や人の手が触れている状態)の前後の時点における内側電極1a,1bの静電容量を測定して比較し、差ΔCがあったときにそれを排尿によるものとみなせばよい。これにより、排尿と外乱が同時に生じた場合でも、外乱の影響を排除して、排尿量を検知できる。
【0043】
このように構成した本発明の排尿検知装置100によれば、上記のとおり、内側電極1a,1bにおいて相互容量を測定し、外側電極5において自己容量を測定しているので、外乱の影響が確実に排除され、オムツN内の排尿量を特に精度よく検知できる。また、2つの内側電極1a,1bがそれぞれ基部11a,11bと櫛歯部12a,12bを有しており、一方の内側電極1aの櫛歯部12aと他方の内側電極1bの櫛歯部12bが交互に並んで配置されているので、2つの電極が対向する部分が前後左右の広範囲にわたる形状となり、より広い範囲で排尿を検知できるので、検知の確実性が高い。さらに、外側電極5が長尺状のものであって犬Dの胴体の延びる方向に延びているので、特に犬Dが床面等に寝た状態(腹臥位)において、接地体(床面等)に対向する電極の面積が広くなり、外乱の影響が確実に排除され、排尿量を精度よく検知できる。また、グランド電極3が銅製メッシュからなるので、実質的な面積が小さく、外側電極5とグランド電極3の間の寄生容量(自己容量)も小さくなる。これにより、接地体Eが接近して新たに接地体Eとの間の寄生容量が並列に接続された際の、静電容量の増加量が相対的に大きくなるため、接地体Eの接近(外乱)を確実に検知できる。
【0044】
なお、上記の実験では、排尿検知装置の測定部の無線通信部から送信されたデータを、パーソナルコンピュータにより受信したが、その他の外部の端末、たとえばスマートフォンやタブレットなどにより受信するものであってもよい。また、データを受信した際には、排尿があったことを、音を鳴らしたり画面に表示したり照明色を変化させたりして知らせるようにしてもよい。さらに、排尿量を表やグラフで画面に表示するようにしてもよい。また、過去のデータを記憶装置に保存して、自由に閲覧できるようにしてもよい。さらに、人を対象とする場合において、オムツの着用者が寝るベッドに、データを受信する端末を設けたものであってもよい。
【0045】
なお、上記の実施例は、雄犬を対象とする場合であるが、雌犬を対象とする場合、排泄器官の相違に基づき、オムツカバーの形状や、センサ部の位置が異なるものとなる。しかしながら、測定原理や作用効果については、上記と同じである。そして、犬以外の動物や、人を対象とする場合についても、適宜変形されるが、同様の測定原理に基づき、同様の作用効果が得られる。
【0046】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨の範囲内で適宜変更できる。たとえば、内側電極は、上記のような櫛形のものに限られず、図5に示した予備実験用の電極のように、2本の直線状の電極を平行に並べたものであってもよい。また、内側電極が1つだけ設けてあって、測定部が内側電極の自己容量を測定するものであってもよい。その場合でも、内側電極と外側電極における、排尿と外乱のそれぞれから受ける影響の差異に基づき、外乱の影響を排除することができ、かつ静電容量の変化量から排尿量を検知できる。また、外側電極は、前後方向に延びるものに限られず、想定される姿勢変化や他者の接触の態様に基づき、より精度よく検知できるように延びる方向を変更してもよい。たとえば、オムツの着用者の体の向きが変わるなどして、センサ部に対する接地体の接近する場所が変わることが想定される場合に、外側電極をその方向に延びる向きとすることで、外側電極が接地体に対向する状態が維持されるので、外乱の影響が確実に排除され、排尿量を精度よく検知できる。さらに、センサ部は、オムツの尿吸収部の外側に配置されるものであれば、オムツカバーと一体のものに限られず、オムツカバーに対して面ファスナーなどにより着脱自在に取り付けられるものであってもよいし、オムツカバーに固定されずオムツとオムツカバーに挟まれるものであってもよいし、オムツカバーではなくオムツに対して粘着テープなどにより着脱自在に取り付けられるものであってもよい。また、センサ部の各構成要素の素材は、上記において示したものに限られない。たとえば、グランド電極は、銅製メッシュからなるものに限られず、導電性布や炭素繊維からなるものであってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1a,1b 内側電極
11a,11b 基部
12a,12b 櫛歯部
2 内側中間絶縁体
3 グランド電極
4 外側中間絶縁体
5 外側電極
10 センサ部
20 測定部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15