(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】半導体モジュール及び半導体デバイス収容体
(51)【国際特許分類】
H01L 23/04 20060101AFI20231011BHJP
H01L 23/02 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
H01L23/04 E
H01L23/02 H
(21)【出願番号】P 2020018745
(22)【出願日】2020-02-06
【審査請求日】2022-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2019022410
(32)【優先日】2019-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000154325
【氏名又は名称】住友電工デバイス・イノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100183438
【氏名又は名称】内藤 泰史
(72)【発明者】
【氏名】大野 智基
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/026975(WO,A1)
【文献】特表2007-528590(JP,A)
【文献】特開2003-282751(JP,A)
【文献】特開2014-132651(JP,A)
【文献】特開2000-236034(JP,A)
【文献】特開2015-204426(JP,A)
【文献】特開平04-087354(JP,A)
【文献】特開2014-154636(JP,A)
【文献】特開2017-092389(JP,A)
【文献】特開2003-218252(JP,A)
【文献】特開2011-176089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/04
H01L 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のベースと、
前記ベースの周縁部上に設けられた絶縁性のフレームと、
前記フレーム上に設けられた金属製のリードと、
前記フレームに囲まれた空間の前記ベース上に搭載された半導体チップと、を備え、 前記フレームは、銀を含む接合材によって前記ベースに固着されており、
前記フレームは、前記ベースに対向する面の、前記空間側の角部である内側部分、及び、前記内側部分の反対側の角部である外側部分において、凹部が形成されており、
前記外側部分及び前記内側部分の前記凹部内の少なくとも一方には、保護材が充填されている、半導体モジュール。
【請求項2】
前記保護材は、熱可塑性の樹脂である、請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項3】
前記保護材は、150℃以上230℃以下の温度で硬化する樹脂である、請求項2に記載の半導体モジュール。
【請求項4】
前記保護材は、シクロオレフィンポリマー樹脂である、請求項2又は請求項3に記載の半導体モジュール。
【請求項5】
前記保護材の誘電率は、3.4以上4.0以下である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の半導体モジュール。
【請求項6】
前記凹部は、前記内側部分及び前記外側部分のうち、積層方向において前記リードと重なる部分にのみ形成されている、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の半導体モジュール。
【請求項7】
前記凹部の奥行き及び高さは、0.05mm以上0.5mm以下とされている、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の半導体モジュール。
【請求項8】
前記フレームは、セラミック製である、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の半導体モジュール。
【請求項9】
前記セラミックは、酸化アルミニウムを含む材料である、請求項8に記載の半導体モジュール。
【請求項10】
前記フレームは、樹脂製である、請求項1から請求項
7のいずれか一項に記載の半導体モジュール。
【請求項11】
前記樹脂は、ポリイミド系樹脂である、請求項10に記載の半導体モジュール。
【請求項12】
前記半導体チップは、窒化物半導体を含んで構成されている、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の半導体モジュール。
【請求項13】
前記フレームは少なくとも2層を含む多層基板を含み、前記リードは前記多層基板のうちの1層上に設けられた金属製配線であり、前記1層の基板が前記空間の外部に引き出されている、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の半導体モジュール。
【請求項14】
金属製のベースと、
前記ベースの周縁部上に設けられた絶縁性のフレームと、
前記フレーム上に設けられた金属製のリードとを備え、
前記フレームは、銀を含む接合材によって前記ベースに固着されており、
前記フレームは、前記ベースに対向する面の、前記フレームに囲まれた空間側の角部である内側部分、及び、前記内側部分の反対側の角部である外側部分において、凹部が形成されており、
前記外側部分及び前記内側部分の前記凹部内の少なくとも一方には、保護材が充填されている、半導体デバイス収容体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体モジュール及び半導体デバイス収容体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体モジュールとして、金属製のベースと、該ベース上に設けられた絶縁性のフレームと、該フレーム上に設けられたリード端子とを備え、フレームの開口部分に半導体デバイスがマウントされる構成が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような半導体モジュールでは、フレームは例えば銀を含む半田によってベースに固着される。このような構成において、リードとベースとの間に電界が存在すると、特に高多湿化において、イオン化した金属が電界間の物質の表面を移動するイオンマイグレーションが発生する。イオンマイグレーションが発生した場合には、電界に引かれて移動した金属イオンが何らかの理由でイオン化状態から金属に戻ると、このような金属が蓄積してデンドライト(樹枝状の結晶)が生成される場合がある。デンドライトが成長することによって、電極間がショートし、最終的に回路や半導体が破壊されるおそれがある。
【0005】
そこで、本開示の一態様は、イオンマイグレーションの発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る半導体モジュールは、金属製のベースと、該ベースの周縁部上に設けられた絶縁性のフレームと、該フレーム上に設けられた金属製のリードと、フレームに囲まれた空間のベース上に搭載された半導体チップと、を備え、フレームは、銀を含む接合材によってベースに固着されており、フレームは、ベースに対向する面の、空間側の角部である内側部分、及び、内側部分の反対側の角部である外側部分において、凹部が形成されており、外側部分及び内側部分の凹部内の少なくとも一方には、保護材が充填されている。
【発明の効果】
【0007】
上記によれば、イオンマイグレーションの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一態様に係る半導体モジュールを示す平面図である。
【
図2】
図1に示す半導体モジュールの断面図である。
【
図3】コーティング材充填前の半導体モジュールの断面図である。
【
図4】フレームにおける凹部の形成領域を模式的に示す図である。
【
図5】比較例に係る半導体モジュールの断面図である。
【
図6】他の比較例に係る半導体モジュールの断面図である。
【
図7】変形例に係る半導体モジュールにおける凹部の形成領域を模式的に示す図である。
【
図8】別の形態のフレームを有する半導体モジュールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係る半導体モジュールの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。本発明は以下の例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意図及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0010】
図1は、本実施形態に係る半導体モジュール1を示す平面図である。なお、
図1においては、半導体モジュール1に含まれる半導体デバイス14(
図2等参照)の図示を省略している。半導体モジュール1は、窒化物半導体からなる半導体デバイス14を含んで構成された、高出力高周波半導体パッケージである。
図1に示されるように、半導体モジュール1は、ベースプレート11(ベース)と、フレーム12と、リード13と、半導体デバイス14(
図2参照)とを備えている。ベースプレート11と、フレーム12と、リード13とを含む構成は、半導体デバイス14の収容体(半導体デバイス収容体)である。
【0011】
ベースプレート11は、銅や銅合金、もしくはそれらの積層構造を有する金属板材であり、平面視矩形状に形成されている。ベースプレート11は、
図2に示されるように、例えば、銅11a、モリブテン11b、銅11aが積層された積層構造である。銅11a、モリブテン11b、銅11aの各層の厚さは、それぞれ、例えば0.2mm、0.3mm、0.2mm程度である。ベースプレート11は、全体が金メッキされており、半導体デバイス14を例えば金とすず(AuSn)又は金とシリコン(AuSi)の合金等でダイボンドする。金メッキの厚さは、例えば0.2μm程度である。ベースプレート11は、電気的にはグランド電位である。
【0012】
フレーム12は、ベースプレート11の周縁部上に設けられた絶縁性の部材である。フレーム12は、
図1に示されるように、矩形状のベースプレート11の縁に沿って設けられており、ベースプレート11の中央部分上には設けられていない。ベースプレート11におけるフレーム12が設けられていない領域(中央部分)には、半導体デバイス14が設けられる(
図2参照)。すなわち、フレーム12は、半導体デバイス14を囲んでいる。フレーム12は、ベースプレート11と絶縁してリード13を保持する。
【0013】
フレーム12は、例えばセラミックで構成されている。具体的には、酸化アルミニウム、窒化アルミなどがあげられる。フレーム12の厚さは例えば0.5mm程度であり、幅は例えば1.5mm程度である。なお、フレーム12の幅とは、リード13を接合する部分(
図1の例では4か所の部分)における、リード13の延在方向の長さである。フレーム12における表面側のリード13を接合する部分と裏面側の全面は、タングステンをメタライズした後にニッケルメッキが施されている。なお、フレーム12の裏面側は、全面ではなく間欠的にニッケルメッキが施されていてもよい。フレーム12の裏面(下面)は、銀を含む接合材51(銀系接合材)によってベースプレート11に固着されている(
図2参照)。また、フレーム12の表面(上面)には、銀を含む接合材51(銀系接合材)を介してリード13が固着されている(
図2参照)。接合材51,52は、例えばAgCu半田等である。
【0014】
図3は、コーティング材60(後述)充填前の半導体モジュール1の断面図である。
図3に示されるように、フレーム12は、ベースプレート11に対向する面(裏面)の角部に凹部12a,12bが形成されている。フレーム12は、凹部12a,12bが形成されていることによって、ベースプレート11に対向する面が段差状に形成されている。角部は、フレーム12の幅方向の両端部であり、半導体デバイス14を囲う空間側の角部である内側部分、及び、内側部分の反対側の角部である外側部分である。凹部12aは、内側部分に形成された凹形状である。凹部12bは、外側部分に形成された凹形状である。凹部12a,12bは、互いに同様の形状及び大きさ(ディメンジョン)とされている。凹部12a,12bの奥行き(フレーム12の幅方向の中央に向かう長さ)は、例えば0.05mm以上0.5mm以下とされている。凹部12a,12bの高さ(ベースプレート11に対向する面からの凹み長)は、例えば0.05mm以上0.5mm以下とされている。
図4は、フレーム12における凹部12a,12bの形成領域を模式的に示す図である。
図4において二点鎖線で囲われた領域が凹部12a,12bの形成領域を示している。
図4に示されるように、凹部12a,12bは、フレーム12の長手方向に沿って、フレーム12の長手方向略全域に形成されている。すなわち、本実施形態では、凹部12a,12bは、積層方向においてリード13と重なる部分に限られず、フレーム12の長手方向略全域に形成されている。
【0015】
なお、フレーム12は、セラミックではなく、例えば樹脂を含んで構成されていて(樹脂製であって)もよい。具体的には、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂があげられる。すなわち、フレーム12は、例えば樹脂基板(プリント配線板)で構成されていてもよい。樹脂基板で構成されたフレーム12の厚さは例えば0.5mm程度であり、幅は例えば0.15mm程度であり、詳細な材質は例えばガラスエポキシ基板である。このようなフレーム12の上下面(表面及び裏面)にはプリント配線パターンが設けられている。表面(上面)のプリント配線パターンは、リード13に接合される。裏面(下面)のプリント配線パターンはベースプレート11に接合される。樹脂基板で構成されたフレーム12においても、接合に用いられる接合材51,52としては銀系接合材が用いられる。例えば鉛フリー半田で接合した場合、本半導体モジュール1を実装基板等に実装する際のリフロー工程で半田が溶融し、端子が乖離してしまうおそれがある。また、例えば樹脂接着剤は、接合面との科学的結合が主であるため、ベースプレート11の金メッキとの接着性が極めて悪い。このため、接合信頼性の観点から銀系接合材が用いられる。銀系接合材は、例えば粒径の極めて小さい銀フィラーと溶剤からなるペースト(焼結型ナノ銀ペースト)である。これは微細な銀フィラーが活性化し低温で溶融する現象を生じさせるものであり、金と銀の金属的結合となるため、強度及び長期信頼性に優れている。
【0016】
図2は、
図1に示す半導体モジュール1の断面図である。
図2に示されるように、上述した凹部12a,12b(
図3参照)には、コーティング材60(保護材)が充填されている。なお、凹部12a,12bの双方にコーティング材60が充填されていなくてもよく、凹部12a,12bの少なくとも一方にコーティング材60が充填されていればよい。コーティング材60は、凹部12a,12bに溜め込まれている。コーティング材60は、凹部12a,12bに充填されることにより、銀系接合材である接合材51の表面を物理的に押さえつけ、イオンマイグレーション(詳細は後述)の発生を抑制する。コーティング材60は、凹部12a,12bの段差形状に沿って塗布され、毛細管現象によって凹部12a,12bの奥にまで流れ込み、凹部12a、12b内を覆う。なお、コーティング材60は、接合材51を露出させないことが好ましいが、例えば接合材51の一部が露出した状態で凹部12a,12bに充填されるものであってもよい。
【0017】
コーティング材60は、例えば熱可塑性の絶縁材の樹脂である。具体的には、シクロオレフィンポリマー系樹脂、エポキシ系樹脂などがあげられる。コーティング材60として熱可塑性のものを用いることにより、フレーム12の周辺において容易にコーティング材60の塗布及び硬化を行うことができる。また、コーティング材60は、高周波用半導体デバイスのパッケージに使用することを考慮して低誘電率のものが望ましい。例えば誘電率(ε)が3.4以上4.0以下のコーティング材60が用いられることにより、高周波特性への影響を適切に抑制することができる。また、コーティング材60は、硬化温度が150℃以上230℃以下のものを用いることにより、硬化を容易に行うことができる。
【0018】
半導体デバイス14(半導体チップ)は、例えばLDMOS、GaN-HEMT、又はGaAs-FET等の半導体デバイスである。半導体デバイス14は、フレーム12に囲まれた空間のベースプレート11上に搭載されている。半導体デバイス14は、
図2に示されるように、表面(上面)にゲート電極14a及びドレイン電極14bを有している。また、半導体デバイス14は、裏面(下面)にソース電極14cを有している。ゲート電極14aは、ボンディングワイヤ15a(
図2参照)を介してリード13のゲートリード13aに接続されている。ドレイン電極14bは、ボンディングワイヤ15b(
図2参照)を介してリード13のドレインリード13b(
図1参照)に接続されている。半導体デバイス14は、その裏面にダイボンド材14xが塗布され、ダイボンド材14xによってベースプレート11に接合されている。ダイボンド材14xは、例えば金とすず又はシリコンの合金(AuSn、AuSi)等である。なお、半導体デバイス14は、例えばベース電極及びコレクタ電極を有するバイポーラトランジスタ等の半導体デバイスであってもよい。
【0019】
リード13は、フレーム12上に設けられた金属製の部材である。リード13は、例えば銅、銅合金、及び鉄合金を含む金属薄板である。リード13の厚さは例えば0.1mm程度であり、リード13の長さ(延在方向の長さ)は例えば3mm程度である。リード13は、高周波信号の入力又は出力となる電極であり、パッケージ内部において半導体デバイス14の入力又は出力につながっている。リード13は、半導体デバイス14の入力にバイアス電圧を加えること、又は、出力に電源電圧を与えること等を行う。
図1に示されるように、リード13は、2つのゲートリード13a,13aと、2つのドレインリード13b,13bと、を有している。ゲートリード13a,13aとドレインリード13b,13bとは、リード13の延在方向において互いに対向している。すなわち、ゲートリード13a,13aとドレインリード13b,13bとは、フレーム12に囲まれた空間に設けられた半導体デバイス14を挟み、互いに対向している。
図2に示されるように、ゲートリード13aは、ボンディングワイヤ15aを介して半導体デバイス14のゲート電極14aに接続されている。また、ドレインリード13bは、ボンディングワイヤ15bを介して半導体デバイス14のドレイン電極14bに接続されている。
【0020】
リード13の別の形態とし、
図8に示す半導体モジュール1Aでは、フレーム12を多層基板で構成し、この多層基板の最上層のみをパッケージ外方に引出し、かつ、この最上層の表面(ベースとは反対の面)上に形成した金属製の配線パターン130aを設けることができる。最上層のみであるため可撓性を備えることになり、このパッケージ外方に引き出した部位は、その表面に配線パターン130aを有する、所謂フレキシブルプリント基板とすることができる。この外方部位において最上層の裏面にも金属製パターン13cを設け、外方部位に設けたビアホール13dを介して、表面と裏面側の金属製パターン13cを導通させ、外部実装基板に対して裏面側の金属製パターン13cをソルダリングすることができる。この場合、最上層の裏面に設けた金属製パターン13cと接合材51との距離を離すことができるため、フレーム12の外方に設けた凹部12bを省略することもできる。
【0021】
次に、本実施形態に係る半導体モジュール1の作用効果について、比較例と対比しながら説明する。
【0022】
図5は、比較例に係る半導体モジュール501の断面図である。比較例に係る半導体モジュール501は、ベースプレート11と、フレーム512と、リード13と、半導体デバイス14とを備えている。ベースプレート11、リード13、及び半導体デバイス14については、上述した本実施形態に係る半導体モジュール1におけるそれらの構成と同様である。半導体モジュール501のフレーム512は、半導体モジュール1のフレーム12と異なり、角部の凹部(段差形状)を有していない。また、半導体モジュール501では、コーティング材が用いられていない。
【0023】
ここで、半導体モジュール501では、フレーム512が銀を含む接合材551(銀系接合材)によってベースプレート11に固着されている。このような構成において、リード13とベースプレート11との間に電界が存在すると、特に高多湿化において、イオン化した金属が電界間の物質の表面を移動するイオンマイグレーションが発生する。イオンマイグレーションが発生した場合には、電界に引かれて移動した金属イオンが何らかの理由でイオン化状態から金属に戻ると、このような金属が蓄積してデンドライト(樹枝状の結晶)が生成される場合がある。デンドライトが成長することによって、電極間がショートし、最終的に回路や半導体が破壊されるおそれがある。銀のイオンマイグレーションは電位の高い側から低い側にデンドライトが成長する。例えば、半導体モジュール501に含まれる半導体デバイスがGan-HEMTである場合、リード13がゲート電極に電気的に接続されている場合には、リード13の電位は負であるため、ベースプレート11側の接合材551の銀がリード13側に向かって成長していく。反対に、リード13がドレイン電極に電気的に接続されている場合には、リード13の電位は正であるため、リード13側の接合材の銀がベースプレート11側に向かって成長していく。このように、銀系接合材によってフレーム512をベースプレート11に固着している半導体モジュール501においては、イオンマイグレーションが発生することによって半導体が故障するおそれがある。なお、近年、GanやSiC、Ga2O3等のワイドギャップ半導体の開発が進み実用化が図れている。ワイドギャップ半導体は、耐電圧が高いことから、電源電圧を高めて移動度を上げたり、電極間寄生容量を減らしたりすることによって半導体の性能を上げることができる。一方で、ワイドギャップ半導体は、電界が強くなるため、上述したイオンマイグレーションが起きやすくなっている。このように、ワイドギャップ半導体の実用化が進むことによって、上述したイオンマイグレーションに起因した問題はより顕著となる可能性がある。
【0024】
この点、本実施形態に係る半導体モジュール1は、
図1~
図3に示されるように、金属製のベースプレート11と、該ベースプレート11の周縁部上に設けられた絶縁性のフレーム12と、該フレーム12上に設けられた金属製のリード13とを備え、フレーム12に囲まれた空間のベースプレート11上に半導体デバイス14を搭載した半導体モジュールであって、フレーム12は、銀を含む接合材51によってベースプレート11に固着されており、フレーム12は、ベースプレート11に対向する面の、上述した空間側の角部である内側部分、及び、内側部分の反対側の角部である外側部分において、凹部12a,12bが形成されており、凹部12a,12b内にコーティング材60が充填されている。
【0025】
本実施形態に係る半導体モジュール1では、フレーム12におけるベースに対向する面(銀を含む接合材51が塗布される面)の角部(内側部分及び外側部分)に凹部12a,12bが形成されており、該凹部12a,12b内にコーティング材60が充填されている。接合材51が塗布される面にコーティング材60が塗布されることにより、接合材51に含まれる銀の表面を物理的に押さえつけることができ、イオンマイグレーションの発生を抑制することができる。
【0026】
ここで、コーティング材を塗布する構成としては、
図6に示される比較例に係る半導体モジュール601の構成も考えられる。
図6に示されるように、半導体モジュール601では、半導体モジュール1のような凹部を設けておらず、単にフレーム612の平坦な面に対してコーティング材660を塗布している。このような構成においては、コーティング材660を十分に溜め込むスペースがなく、接合材651とフレーム612との境界面に対して隙間なくコーティング材660を塗布できない場合があり、当該隙間においてイオンマイグレーションが発生してしまうおそれがある。
【0027】
この点、本実施形態に係る半導体モジュール1では、上述したコーティング材60を溜め込む(充填する)凹部12a,12bが形成されていることによって、コーティング材60が流れ込みやすくなり、接合材51とフレーム12との境界面に対してコーティング材60を隙間なく塗布することができる。これにより、接合材51の表面がコーティング材60で覆われ、イオンマイグレーションの発生をより効果的に抑制することができる。なお、凹部12a,12bが設けられることによって、接合材51とリード13との距離を長くすることができ、このことによって、イオンマイグレーションが発生した場合においてもデンドライトの発生を抑制することができる。
【0028】
本実施形態に係る半導体モジュール1において、コーティング材60は、熱可塑性の低誘電率のコーティング材である。熱可塑性のコーティング材60が用いられることにより、フレーム12周辺におけるコーティング材60の塗布及び硬化を容易に行うことができる。また、低誘電率のコーティング材60が用いられることにより、本実施形態の構成が高周波用半導体デバイスのパッケージに使用された場合において、コーティング材60が高周波特性に影響を及ぼすことを抑制できる。
【0029】
本実施形態に係る半導体モジュール1において、凹部12a,12bの奥行き及び高さは、0.05mm以上0.5mm以下とされている。これにより、コーティング材60を充填する凹部12a,12bを適切にディメンジョンで形成することができる。
【0030】
本実施形態に係る半導体モジュール1において、フレーム12は、セラミック製であってもよい。これにより、絶縁性のフレーム12を簡易な構成で確実に形成することができる。
【0031】
本実施形態に係る半導体モジュール1において、フレーム12は、樹脂製であってもよい。これにより、絶縁性のフレームを簡易な構成で確実に形成することができる。
【0032】
本実施形態に係る半導体モジュール1において、半導体デバイスは、窒化物半導体を含んで構成されていてもよい。
【0033】
以上、本実施形態に係る半導体モジュールについて説明してきたが、本発明はこれらに限定されるものではなく、種々の変形を適用することができる。また、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、上述した半導体モジュール1では、凹部12a,12bがフレーム12の長手方向の略全域に形成されている(
図4参照)として説明したがこれに限定されず、例えば
図7に示されるように、凹部120a,120bがフレーム12の長手方向の一部の領域に形成されていてもよい。具体的には、
図7に示される例では、凹部120a,120bは、フレーム120の内側部分及び外側部分のうち、積層方向においてリードと重なる部分にのみ形成されている。イオンマイグレーションはリードが設けられている領域で生じるところ、リードと重なる部分にのみ凹部120a,120bが形成されることにより、凹部の形成領域を必要最小限とすることができる。
【符号の説明】
【0034】
1…半導体モジュール、11…ベースプレート(ベース)、12,120…フレーム、12a,12b,120a,120b…凹部、13…リード、14…半導体デバイス、51…接合材、60…コーティング材。