(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】マンガンスケール発生抑制剤及びマンガンスケール発生抑制方法
(51)【国際特許分類】
C02F 5/14 20230101AFI20231011BHJP
C11D 7/22 20060101ALI20231011BHJP
C02F 5/00 20230101ALI20231011BHJP
C23F 11/167 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C02F5/14 B
C11D7/22
C02F5/00 620A
C23F11/167
(21)【出願番号】P 2019023899
(22)【出願日】2019-02-13
【審査請求日】2021-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】505112048
【氏名又は名称】ナルコジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】田上 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】川口 敬司
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04997571(US,A)
【文献】特開2017-012989(JP,A)
【文献】特開2010-163488(JP,A)
【文献】特開2009-240904(JP,A)
【文献】特開2002-372396(JP,A)
【文献】Dickinson,Wayne H.and Christopher L.Wiatr.,Manganese-Related Corrosion and Fouling In Water Systems,the Analyst,2013年04月,20,2,21,23,25,27,28,31,32,34,35
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 5/00- 5/14
C11D 1/00-19/00
C23F 11/00-11/18
14/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄
鋼製造工程又は製錬マンガン製造工程の水系に、ホスフィノカルボン酸系ポリマーを含むマンガンスケール発生抑制剤を添加し、マンガンスケールの発生を抑制するものであり、前記水系は、冷却水系及び/又は集塵水系であり(ただし、地下水である場合を除く)、水と大気とを接触させるエアレーションステップを備え、前記水系にはマンガン析出物が含まれることを特徴とするマンガンスケール発生抑制方法。
【請求項2】
マンガン析出物を溶解及び/又は分散させる請求項1に記載のマンガンスケール発生抑制方法。
【請求項3】
ホスフィノカルボン酸系ポリマーが有効成分濃度として、水系への送水量に対して、1~1000mg/Lとなるように前記マンガンスケール発生抑制剤を添加する請求項1又は2に記載のマンガンスケール発生抑制方法。
【請求項4】
ホスフィノカルボン酸系ポリマーが有効成分濃度として、水系への送水量に対して、1.5~100mg/Lとなるように前記マンガンスケール発生抑制剤を添加する請求項1又は2に記載のマンガンスケール発生抑制方法。
【請求項5】
水系には、マンガンイオンが含まれている請求項1、2、3又は4に記載のマンガンスケール発生抑制方法。
【請求項6】
水系は、濾過器を有する冷却水系である請求項1、2、3、4又は5に記載のマンガンスケール発生抑制方法。
【請求項7】
水系に設置された濾過器に発生したマンガンスケールを抑制する請求項6に記載のマンガンスケール発生抑制方法。
【請求項8】
マンガンスケール発生抑制剤は濾過器に導入される冷却水に対し添加される請求項6又は7に記載のマンガンスケール発生抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガンスケール発生抑制剤及びマンガンスケール発生抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水系で用いられる冷却水やガス集塵水中に含まれる腐食成分及びスケール成分は、各種工場により異なり、各種工場の製造工程で生じる障害に適した対応が求められている。特に近年、水系に含まれるマンガンが原因となったマンガンスケールの発生が問題視されている。例えば、マンガンスケールは、鉄鋼製造工程の冷却水系、特に濾過器の濾材や冷却塔の充填材に付着する。マンガンスケールが発生すると、具体的に、濾過器の逆洗頻度の増加に伴う工業用水の使用量の増加、冷却塔の充填材の汚染による熱交換効率の低下、冷却塔での熱交換率の低下による冷却水温度の上昇、冷却水温度の上昇に伴う各種機器の処理能率の低下等、種々の問題が生じている。
また、マンガン鉱石から製錬マンガンを製造する工程でも排ガスの処理によりマンガンを含むガス集塵水が生成され、系内でマンガンスケールが発生する。
【0003】
従来、製鉄所の操業を停止させることなくマンガンスケールを抑制するための水処理薬剤に関しては、ほとんど提供されていないのが現状である。このため、従来は、上述の問題に対して、製鉄所の操業を停止し、マンガンスケールが付着した機器を洗浄する、又は、マンガンイオンを強制的に酸化させ除去する等の方法がとられている。マンガンイオンを強制的に酸化させて除去する方法としては、塩素、次亜塩素酸ソーダ又は過マンガン酸カリウムといった酸化剤を注入し、マンガンイオンを酸化させこれを濾過する方法などがあるが、この方法では、全残留塩素濃度1mg/L以上となるように酸化剤を添加すると金属の腐食が懸念され、また、対象水の水質の経時変化がある場合、残留塩素の管理は難しく設備腐食の危険性がある。
【0004】
このため、従来は、製鉄所の操業を停止して、濾過器や冷却塔等マンガンスケールが付着した機器の清掃が行われているが、操業を停止することは製鉄所の生産能率を低下させ、また、マンガンスケールが付着した機器の清掃は作業面での困難性が伴い、経済面及び労働環境面から解決策が望まれていた。
【0005】
なお、特許文献1及び2には、製鉄所の操業を停止することなくマンガンスケールを抑制するための水処理薬剤が開示されており、ホスホン酸塩を含む水処理薬剤を100~10000mg/Lの添加量で添加することで、既に析出しているマンガンスケールを溶解除去できること等が開示されている。しかしながら、このような水処理薬剤はリンを多く含んでおり、排水規制のリン濃度をはるかに超えた処理水となり、排水規制面から、できる限りの薬剤使用量の低減が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-163488号公報
【文献】特開2009-240904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、各種工場の操業を停止することなく、その操業中に水系に添加することでマンガンスケールの発生を抑制し、既に発生しているマンガンスケールを溶解及び/又は分散させることができるマンガンスケール発生抑制剤、及びこれを用いたマンガンスケール発生抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、水系のマンガンスケールの発生を抑制するマンガンスケール発生抑制剤であって、ホスフィノカルボン酸系ポリマーを含むことを特徴とするマンガンスケール発生抑制剤である。
上記水系には、マンガン析出物とマンガンイオンとが含まれていることが好ましい。
また、上記水系は、冷却水系及び/又は集塵水系であることが好ましい。
また、本発明のマンガンスケール発生抑制剤は、上記水系に設置された濾過器に発生するマンガンスケールを抑制するものであることが好ましい。
【0009】
また本発明は、水系に、ホスフィノカルボン酸系ポリマーを含むマンガンスケール発生抑制剤を添加し、マンガンスケールの発生を抑制することを特徴とするマンガンスケール発生抑制方法でもある。
上記水系には、マンガン析出物とマンガンイオンとが含まれていることが好ましい。
また、上記水系は、冷却水系及び/又は集塵水系であることが好ましい。
また、上記水系は、濾過器を有する冷却水系であることが好ましい。
また、本発明のマンガンスケール発生抑制方法は、上記水系に設置された濾過器に発生したマンガンスケールを抑制するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のマンガンスケール発生抑制剤、又は、マンガンスケール発生抑制方法によると、水処理薬剤の使用量及び/又は濃度が低い場合でも、マンガンスケールが発生する水系におけるマンガンスケールの発生を抑制し、さらに、上記水系に既に付着しているマンガンスケールを溶解及び/又は分散させ除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】鉄鉱製造工程における脱ガス装置を含む循環冷却水系の一例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明のマンガンスケール発生抑制剤は、水系のマンガンスケールの発生を抑制するマンガンスケール発生抑制剤であって、ホスフィノカルボン酸系ポリマーを含むことを特徴とする。なお、本発明において、マンガンスケール発生抑制は、水系に含まれるマンガンイオンがマンガンスケールとして析出することを抑制すること、並びに、既に析出しているマンガンスケールを溶解及び/又は分散させることによりマンガンスケールを除去することを意味する。
【0014】
上記ホスフィノカルボン酸系ポリマーは、アクリル酸-2-アクリロイルアミノ-2-メチル-1-プロパンスルホン酸・次亜リン酸付加重合物であり、下記一般式(I)で表され、一般式(I)中のホスフィノ基の(リン原子に結合する)ヒドロキシル基の水素原子の一部または全部がアルカリ金属原子で置き換えられた塩であってもよい。また、カルボキシル基の水素原子や置換基Zのスルホン酸基の水素原子の一部またはその全部がアルカリ金属原子で置き換えられていてもよい。なお、公知のスケール防止剤を用いることができ、市販のものとしては、例えば、BWA社製のBelclene(登録商標)400を好適に用いることができる。
【0015】
【0016】
[上記一般式(I)中、Xは
【0017】
【0018】
(式中、Zは-CONHC(CH3)2CH2SO3Na基である)で表される2つの繰り返し単位が規則的またはランダムに結合した基、Yは水素原子、-SO3H基または-HPONa基、Wは水素原子又は-X-Y基である]で表されるアクリル酸-2-アクリロイルアミノ-2-メチル-1-プロパンスルホン酸・次亜リン酸付加重合物およびその塩である。
【0019】
上記ホスフィノカルボン酸系ポリマーは、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0020】
上記ホスフィノカルボン酸系ポリマーは、1~90重量%の濃度の水溶液として用いられ、好適には1~60重量%濃度で用いられ、より好適には、1~50重量%濃度で用いられる。
【0021】
また、本発明は、水系に上述のホスフィノカルボン酸系ポリマーを含むマンガンスケール発生抑制剤を添加し、マンガンスケールを溶解するマンガンスケール発生抑制方法でもある。
【0022】
本発明のマンガンスケール発生抑制剤、及び、マンガンスケール発生抑制方法が用いられる水系には、マンガン析出物とマンガンイオンとが含まれていることが好ましい。このような水系は、マンガンスケールが発生しやすい為である。
【0023】
本発明のマンガンスケール発生抑制剤、及び、マンガンスケール発生抑制方法が用いられる水系は、冷却水系及び/又は集塵水系であることが好ましい。冷却水系では、マンガンを含む被冷却体から冷却水系へマンガンが混入し、冷却水が循環再利用されることにより、循環冷却水中のマンガンスケール成分が濃縮され、マンガンスケールが発生しやすい状況となっている。また、マンガン製錬工程で発生する排ガスを集塵水で処理することにより、集塵水へマンガンが混入し、集塵水系においてもマンガンスケールが発生する。
マンガンイオンは、pHや酸化度により溶解度を大幅に変える性質を持つが、マンガンスケールが問題となる上記水系では、水は大気とのエアレーションの影響を強く受け、炭酸平衡が影響するpH5~10、好ましくは6~9になる。また冷却水や集塵水系には、他の夾雑物が多く含まれる。例えば、鉄鋼製造過程の集塵水系では、マンガン以外に亜鉛や鉄のイオン及び析出粒子を多く含むことで、マンガンの溶解性をより悪化させる。
【0024】
本発明のマンガンスケール発生抑制方法が用いられる水系は、水と大気とを接触させるエアレーションステップを備えることが好ましい。マンガンスケールが発生しやすい為である。
【0025】
また、本発明のマンガンスケール発生抑制剤は、水系に設置された濾過器及び/又は冷却塔に発生するマンガンスケールの発生を抑制するために用いられることが好ましく、濾過器に発生するマンガンスケールの発生を抑制するために用いられることがより好ましい。ここで、本発明のマンガンスケール発生抑制剤は、既に析出しているマンガン析出物を溶解及び/又は分散させることで、マンガンスケールの発生を抑制するものであり、濾過器及び/又は冷却塔内で発生し、これらの機器内に付着しているスケールを溶解及び/又は分散し除去することができる。そのため、本発明のマンガンスケール発生抑制剤は、マンガンスケールの発生を抑制し、また、マンガンスケールを除去するものである。
【0026】
本発明の上記マンガンスケール発生抑制剤は、例えば、鉄鋼製造工程等のマンガンスケールの発生しやすい水系の適当な箇所に薬注ポンプで添加することにより、系内に既に析出しているマンガンスケールを溶解し、マンガンスケールの発生を抑制する。この場合、ホスフィノカルボン酸系ポリマーはその有効成分濃度として、洗浄対象とする設備への送水量に対して、1~1000mg/L、特に1.5~100mg/L程度の比較的低い濃度となるように、所定時間、例えば1分~2時間程度添加されることが好ましい。この添加濃度が1mg/L未満であると充分なマンガンスケール発生抑制効果が得られず、添加濃度が1000mg/Lを超えて高すぎることは排水規制面からも好ましくない。
【0027】
本発明のマンガンスケール発生抑制方法においては、ホスフィノカルボン酸系ポリマーを含むマンガンスケール発生抑制剤を、水系のうち、特に濾過器を有する冷却水系に添加し、濾過器を有する冷却水系におけるマンガンスケールの発生抑制を行うことが好ましい。また、この場合、本発明のマンガンスケール発生抑制剤は、上記濾過器に導入される冷却水に対し添加されることが好ましい。具体的に、本発明のマンガンスケール発生抑制剤を添加し得る水系の例を
図1に示す。なお、
図1は、本発明のマンガンスケール発生抑制方法を適用し得る水系の例でもある。なお、本発明はこの例により限定されるものではない。
【0028】
図1は、鉄鉱製造工程における脱ガス装置を含む循環冷却水系の一例を示す系統図である。なお、鉄鉱製造工程における脱ガス装置は、溶鋼中に溶存しているガス成分を除去する工程で用いられるが、脱ガス装置で用いられるコンデンサー冷却水には脱ガス時に同伴する溶鋼ダストが混入する。従って、
図1において、冷却水は、コンデンサー1において溶鋼ダストを含み水温が上昇した集塵水として、シールタンク2を経て集塵水槽3に一時的に収容される。次に、集塵水は沈殿池4や濾過器5に送られ、SS分(Suspension Solid 懸濁物質)が除去された後、冷却塔6において冷却され、再度冷却水としてコンデンサー1に供給される。
このような操業を継続することにより循環冷却水中のイオン状マンガン濃度が高まり、マンガンスケールが水槽や配管、特に集塵水を処理する濾過器5や冷却塔6に付着するようになる。
【0029】
従って、本発明のマンガンスケール発生抑制方法においては、ホスフィノカルボン酸系ポリマーを含むマンガンスケール発生抑制剤が、
図1の添加箇所Aにおいて、マンガンスケールが付着している冷却塔6に導入される水(冷却塔6への戻り水)に、この戻り水中のホスフィノカルボン酸系ポリマー濃度が1~1000mg/L、特に1.5~100mg/L程度となるように添加することが好ましい。
【0030】
また、同様に、
図1の添加箇所Bにおいて、マンガンスケールが付着している濾過器5に導入される水に、この導入水中のホスフィノカルボン酸系ポリマー濃度が1~1000mg/L、特に1.5~100mg/L程度となるように添加することが好ましい。
【0031】
更には、
図1の添加箇所Cにおいて、濾過器5の逆洗水に、この逆洗水中のホスフィノカルボン酸系ポリマー濃度が1~1000mg/L、特に1.5~100mg/L程度となるように添加することが好ましい。
【0032】
本発明のマンガンスケール発生抑制方法は、水系に設置された濾過器に発生したマンガンスケールを抑制するために用いられることが好ましい。
【0033】
このように、ホスフィノカルボン酸系ポリマーの添加が比較的低濃度でも、循環冷却水中に析出するマンガンスケールを溶解及び/又は分散させ、マンガンスケールの発生を抑制することができる。このような、スケール発生抑制機構は次の通りと考える。
【0034】
上述の通り、水系ではマンガンは、水のpHや酸化度、夾雑物などの影響を受けて、マンガン析出粒子とマンガンイオンの双方の形で存在する。多くの場合、マンガンイオンの溶解度はそれほど高くなく、水系に含まれるマンガンの多くは水中でマンガン析出粒子となっていく。マンガンのスケール化には、マンガン析出粒子の分散力が不充分で凝集固化する要因と、水中のマンガンイオンが水中でイオン化しきれず析出する要因との2つの要因が大きく関係する。本発明のマンガンスケール発生抑制剤に含まれるホスフィノカルボン酸系ポリマーは、その両方に効果を示すことで、これまでより低濃度短時間で、充分なスケール発生抑制効果が得られるものと考えられる。
なお、すでに析出しているマンガン析出粒子を分散させておくことで、濾過器の逆洗工程により容易に堆積物が除去され、さらに逆洗水に本発明のマンガンスケール発生抑制剤を加えることで、溶解効果及び/又は分散効果が得られる。また、逆洗に用いられるエネルギーが削減される効果も期待でき、さらに低濃度添加で効果が得られることは、排水でのリンやCODなどを処理する上での削減にもつながる。
【0035】
図1は、本発明を適用し得る鉄鋼製造工程の循環冷却水系の一例を示すものであって、本発明の適用対象は何ら
図1に示す循環冷却水系に限定されるものではない。本発明のマンガンスケール発生抑制剤及びマンガンスケール発生抑制方法は、マンガンスケールが発生する水系を対象にするものである。
【0036】
具体的には、マンガンスケールの発生が顕著な鉄鋼製造工程の高炉・転炉から発生する排ガス集塵冷却水や、鉄鋼に含まれる成分を調整するための各種の脱ガス装置に使用される冷却水等を対象にし、特に、
図1に示すような脱ガス装置を備える冷却水系の濾過器及び/又は冷却塔において、その付着による障害が問題となるマンガンスケールの発生抑制に有効である。
【0037】
なお、集塵水の懸濁物質が大きな粒子で沈降しやすい場合や、懸濁物質の濃度が高い場合には、沈殿池を設けて濾過器と組み合わせて用いることが好ましい。
沈殿池4としても、公知の任意のものが採用できるが、好ましくは凝集沈殿槽や加圧浮上槽に凝集剤を添加することにより行う方式のものが採用できる。この凝集剤に特に制限はなく、例えば、従来公知のアニオン性高分子凝集剤、ノニオン性高分子凝集剤、カチオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤、さらには無機凝集剤などを挙げることができる。無機凝集剤としては、例えばポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド、塩化第二鉄、ポリ硫酸鉄などがある
【0038】
本発明のマンガンスケール発生抑制剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、ホスフィノカルボン酸系ポリマーと共に、他の薬剤、例えば一般に添加される防食剤や殺菌剤・静菌剤、ホスフィノカルボン酸系ポリマー以外のスケール防止剤、消泡剤等を併用することができる。
【0039】
本発明のマンガンスケール発生抑制方法においては、本発明の効果を阻害しない範囲で、一般的に添加される公知の防食剤、殺菌・静菌剤、ホスフィノカルボン酸系ポリマー以外のスケール防止剤、消泡剤等を併用することができる。
【0040】
上記防食剤としては、リン酸塩、重合リン酸塩、リン酸エステル等のリン系化合物、亜鉛、アルミニウム、ニッケル、モリブデン及びタングステンなどの多価金属の塩類、及び、亜硝酸塩等が挙げられる。
【0041】
上記殺菌剤としては、例えば、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等の四級アンモニウム塩、クロルメチルトリチアゾリン、クロルメチルイソチアゾリン、メチルイソチアゾリン、次亜塩素酸塩、及びブロム化ヒダントイン等の等の塩素系、臭素系、及び有機窒素硫黄系薬剤等が挙げられる。なお、殺菌剤としては、機器により殺菌成分を発生させる方法でも良く、例えば、被処理液に食塩を加え、又は加えずにそのまま被処理液を電気分解する方法等も適用することができる。
【0042】
上記ホスフィノカルボン酸系ポリマー以外のスケール防止剤としては、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアミドとその部分加水分解物、マレイン酸系重合体、イタコン酸系重合体、メタクリル酸ヒドロキシエチル、ヒドロキシアリロキシプロパンスルホン酸、及び、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等を含むアクリル酸系の2成分系共重合体等が挙げられ、これらを単独又は2種以上を併用して用いることができる。
【実施例】
【0043】
本発明を以下の試験例により具体的に説明するが、この発明はこれらの試験例により限定されるものではない。
【0044】
試験例において用いた薬剤を以下に示す。
ホスフィノカルボン酸系ポリマー:Belclene(登録商標)400(BWA社製)
HEDP:1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(東京化成工業(株)社製)
【0045】
(試験水の評価)
某製鉄所脱ガス工程で得られた集塵水を取水し、これを試験水とした。試験水を1Lビーカーに1L取水し、この試験水と、これを5C濾紙で濾過したろ液の、マンガン濃度とpHを測定した。5C濾紙で濾過したろ液を目視で観察したところ濁りはなかった。
次に、試験水1Lを2時間エアバブリングした後に、試験水中の溶存マンガン濃度(すなわち、マンガンイオン濃度)とpHを測定した。結果は下記表1の通りであった。
【0046】
【0047】
(実施例1~5、比較例1~3及び参考例1)
下記試験を実施し、実施例及び比較例に係る上記各種薬剤の濃度別のマンガン再溶解化率を測定した。なお、薬剤を添加しなかった試験例を参考例1とした。
【0048】
(試験方法)
試験水1Lに、上記各種薬剤を下記表2に記載の濃度で添加したサンプルを作製し、各サンプルに対し2時間エアバブリングを行い、pHを8.4まで上昇させた。次にジャーテスト装置にエアバブリング後のサンプルを導入し、43℃、200rpmの条件で2時間加温撹拌した。加温撹拌終了後、サンプル水を5C濾紙で濾過し、ろ液の溶存マンガン濃度(マンガンイオン濃度)を測定した。また、上記加温撹拌が終了した各試験水を一晩静置した後の濁度を測定した。測定結果を下記表2に示す。
【0049】
次に、マンガンの再溶解化率を下記式に基づき算出した。
マンガン(Mn)再溶解化率=試験後Mnイオン濃度(mg/L)/試験前Mnイオン濃度(mg/L)×100
なお、試験前Mnイオン濃度(mg/L)としては、エアバブリング前の0.13mg/Lを用いて、再溶解化率を算出した。
下記表2では、算出されたマンガン再溶解化率が100以上である場合の評価を〇とし、100未満である場合を×とした。
また、下記表2では、試験により得られた濁度が50以上である場合の評価を〇とし、50未満の場合の評価を×とした。
【0050】
【0051】
表2の実施例1~5及び比較例1~3とを比べると、実施例1~5におけるマンガン再溶解化率が100%をはるかに上回り、水中に存在したマンガンイオンの析出が抑えられ、さらにマンガン析出粒子の溶解が進んでいることがわかる。よって、ホスフィノカルボン酸系ポリマーを添加することにより、マンガンスケールの発生を効果的に抑制できることが確認できた。さらに、実施例1~5では、静置後の濁度が50以上と高い値で維持されており、マンガン析出粒子及びその他の析出粒子の分散状態が維持されていることが分かる。これによって、マンガン析出粒子が分散され、マンガンスケールの発生が効果的に抑制されていることが確認できた。
なお、比較例3においては、添加濃度が50mg/Lにおいてマンガン再溶解化率が115%と100%以上の値を示しており、溶解化力が見られた。しかし、濁度の維持は見られず、マンガン析出粒子の分散効果は見られなかった。一方、実施例1では、添加濃度が5mg/Lの低濃度においてマンガン再溶解化率が200%を超え高い溶解化力を示し、また、濁度が50以上の高い値で維持され、マンガン析出粒子及びその他の析出粒子の高い分散性を示した。よって、本発明のマンガンスケール発生抑制剤及びマンガンスケール発生抑制方法では、薬剤の使用量を低減してもマンガンスケールの発生を効果的に抑制できることが確認できた。
【符号の説明】
【0052】
1 コンデンサー
2 シールタンク
3 集塵水槽
4 沈殿池
5 濾過器
6 冷却塔
7 給水タンク