(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】会計監査支援装置、会計監査支援方法及び会計監査支援プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 40/12 20230101AFI20231011BHJP
【FI】
G06Q40/12
(21)【出願番号】P 2019166911
(22)【出願日】2019-09-13
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】519333538
【氏名又は名称】仰星監査法人
(73)【特許権者】
【識別番号】515326767
【氏名又は名称】ZECOOパートナーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】南 成人
(72)【発明者】
【氏名】金子 彰良
(72)【発明者】
【氏名】岩田 悦之
(72)【発明者】
【氏名】小原 淳
(72)【発明者】
【氏名】呉 ▲イ▼
【審査官】田川 泰宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-067086(JP,A)
【文献】特開2012-252696(JP,A)
【文献】特開2018-116566(JP,A)
【文献】細尾 忠敬,財務情報,統計情報等を利用した監査リスク分析手法に関する研究,SIG-BI 人工知能学会:経営課題にAIを!ビジネス・インフォマティクス研究会 第11回研究会 [online],日本,人工知能学会,2019年01月19日,p.1-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
会計に関して不正が行われる際の不正会計データと、会計に関して不正が行われていない正常会計データとを学習することにより生成された検定モデルを記憶
し、会計データの複数の勘定科目と、会計データの科目名の基準となる基準勘定科目とを学習することより、勘定科目に関する科目教師データを記憶する記憶部と、
被監査企業の会計に関する対象会計データを取得する取得部と、
前記対象会計データと前記検定モデルとに基づいて、前記被監査企業の会計において不正が行われている可能性を推定する推定部と、
前記推定部によって推定された結果を表示する表示部と、を備
え、
前記取得部は、前記対象会計データと前記科目教師データとに基づいて、前記対象会計データに記載される前記勘定科目を前記基準勘定科目に割り当てる
会計監査支援装置。
【請求項2】
予想される不正の内容に応じた仮想不正会計データを生成する生成部を備え、
前記記憶部は、前記不正会計データ、前記仮想不正会計データ及び前記正常会計データに基づいて学習を行うことにより生成された検定モデルを記憶する
請求項1に記載の会計監査支援装置。
【請求項3】
コンピュータ
が、
会計に関して不正が行われる際の不正会計データと、会計に関して不正が行われていない正常会計データとを学習することにより生成された検定モデルを記憶部に記憶
し、会計データの複数の勘定科目と、会計データの科目名の基準となる基準勘定科目とを学習することより、勘定科目に関する科目教師データを前記記憶部に記憶する記憶ステップと、
被監査企業の会計に関する対象会計データを取得する取得ステップと、
前記対象会計データと前記検定モデルとに基づいて、前記被監査企業の会計において不正が行われている可能性を推定する推定ステップと、
前記推定ステップによって推定された結果を表示部に表示する表示ステップと、を
実行し、
前記取得ステップは、前記対象会計データと前記科目教師データとに基づいて、前記対象会計データに記載される前記勘定科目を前記基準勘定科目に割り当てる
会計監査支援方法。
【請求項4】
コンピュータ
に、
会計に関して不正が行われる際の不正会計データと、会計に関して不正が行われていない正常会計データとを学習することにより生成された検定モデルを記憶
し、会計データの複数の勘定科目と、会計データの科目名の基準となる基準勘定科目とを学習することより、勘定科目に関する科目教師データを記憶する記憶機能と、
被監査企業の会計に関する対象会計データを取得する取得機能と、
前記対象会計データと前記検定モデルとに基づいて、前記被監査企業の会計において不正が行われている可能性を推定する推定機能と、
前記推定機能によって推定された結果を表示する表示機能と、を実現
させ、
前記取得機能は、前記対象会計データと前記科目教師データとに基づいて、前記対象会計データに記載される前記勘定科目を前記基準勘定科目に割り当てる
会計監査支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、会計監査支援装置、会計監査支援方法及び会計監査支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、会計の分野では財務分析を行う装置が提案されている。特許文献1に記載された装置は、会計データに含まれる異常を検知する財務分析装置である。すなわち、特許文献1に記載された装置は、会計データの複数の勘定科目の変動値に基づいて第1ベクトルを生成し、その第1ベクトルに基づいて複数の勘定科目の変動値を推定する。特許文献1に記載された装置は、推定した変動値と、実際の変動値の残差を検出し、その残差に相関する値が閾値を超える勘定科目を特定する。さらに、特許文献1に記載された装置は、会計データの仕訳を特定し、各仕訳についての複数の勘定科目の変動値に基づいて第2ベクトルを生成し、第2ベクトルの中から残差に相関する値が閾値を超える勘定科目を含む仕訳を抽出する。特許文献1に記載された装置は、抽出された仕訳に含まれる少なくとも1つの勘定科目に以上がある場合、その仕訳を抽出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、会計データに異常があることを推定する一手法を提示する会計監査支援装置、会計監査支援方法及び会計監査支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様の会計監査支援装置は、会計に関して不正が行われる際の不正会計データと、会計に関して不正が行われていない正常会計データとを学習することにより生成された検定モデルを記憶する記憶部と、被監査企業の会計に関する対象会計データを取得する取得部と、対象会計データと検定モデルとに基づいて、被監査企業の会計において不正が行われている可能性を推定する推定部と、推定部によって推定された結果を表示する表示部と、を備える。推定部は、「不正が行われている可能性」及び「不正が行われる要因(改ざん内容)」を推定する。
【0006】
一態様の会計監査支援装置は、予想される不正の内容に応じた仮想不正会計データを生成する生成部を備え、記憶部は、不正会計データ、仮想不正会計データ及び正常会計データに基づいて学習を行うことにより生成された検定モデルを記憶することとしてもよい。
【0007】
一態様の会計監査支援装置では、記憶部は、会計データの複数の勘定科目と、会計データの科目名の基準となる基準勘定科目とを学習することより、勘定科目に関する科目教師データを記憶し、取得部は、対象会計データと科目教師データとに基づいて、対象会計データに記載される勘定科目を基準勘定科目に割り当てることとしてもよい。
【0008】
一態様の会計監査支援方法は、コンピュータに、会計に関して不正が行われる際の不正会計データと、会計に関して不正が行われていない正常会計データとを学習することにより生成された検定モデルを記憶部に記憶する記憶ステップと、被監査企業の会計に関する対象会計データを取得する取得ステップと、対象会計データと検定モデルとに基づいて、被監査企業の会計において不正が行われている可能性を推定する推定ステップと、推定ステップによって推定された結果を表示部に表示する表示ステップと、を実行する。
【0009】
一態様の会計監査支援プログラムでは、コンピュータが、会計に関して不正が行われる際の不正会計データと、会計に関して不正が行われていない正常会計データとを学習することにより生成された検定モデルを記憶する記憶機能と、被監査企業の会計に関する対象会計データを取得する取得機能と、対象会計データと検定モデルとに基づいて、被監査企業の会計において不正が行われている可能性を推定する推定機能と、推定機能によって推定された結果を表示する表示機能と、を実現させる。
【発明の効果】
【0010】
一態様の会計監査支援装置は、対象会計データと検定モデルとに基づいて、被監査企業の会計において不正が行われている可能性を推定し、推定した結果を表示部に表示するので、会計データに異常があることを推定する一手法を提示することができる。
また、一態様の会計監査支援方法及び会計監査支援プログラムは、上述した一態様の会計監査支援装置と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る会計監査支援装置について説明するためのブロック図である。
【
図2】表示部に表示される、不正会計の可能性の高さの画像の一例について説明する図である。
【
図3】表示部に表示される、会計監査の支援に利用されるグラフ(図)の一例について説明するための図である。
【
図4】検定モデルを生成する方法の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図5】科目教師データを生成する方法の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図6】会計監査を支援する方法の一例について説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、一実施形態に係る会計監査支援装置1について説明するためのブロック図である。
【0013】
会計監査支援装置1は、会計監査を行う監査担当者の業務を支援する装置である。ここでいう会計監査には、監査法人・公認会計士による外部監査人監査の他、監査役監査、内部監査人による内部監査が含まれる。会計監査支援装置1は、会計データを予め学習して検定モデルを生成し、監査担当者が企業の会計について監査を行う際に、検定モデルを被監査企業の対象会計データに適用し、その適用した結果、すなわち、被監査企業の会計に関する不正(例えば、会計データの改ざん等)の可能性、及び、推定された不正が行われる要因(改ざん内容)を出力する。会計監査支援装置1は、検定モデルを生成する際に、会計データとして、企業が不正を行うことなく作成した会計データ(不正のない正常会計データ)、及び、企業が会計に関して不正を行った際の会計データ(不正会計データ)を学習する。会計データを不正会計データへ分類するのは人による判断を伴うが、会計基準違反など実際に顕在化した不正だけでなく、会計データの利益の質を分析した結果、利益調整行動があったりする判断等をもとに不正会計データへ分類しても良い。また、会計監査支援装置1は、機械学習により会計監査を支援するためには、種々の不正会計データが必要となる。しかし、一般的に、企業が会計に関して不正を行う場合は相対的に少なく、会計監査支援装置1が、企業が実際に行った会計に関する不正の内容(不正会計データ)を多数取得することは困難な場合もある。このような場合のために、会計監査支援装置1は、企業が会計に関して不正を行う際を想定した仮想的な会計データ(仮想不正会計データ)を生成し、その不正会計データを学習して検定モデルを生成する。
【0014】
以下、会計監査支援装置1について詳細に説明する。
会計監査支援装置1は、取得部11、生成部12、推定部13、記憶部14及び表示部15を備える。
なお本実施形態では、取得部11、生成部12、推定部13、記憶部14及び表示部15が会計監査支援装置1に配される例について説明するが、例えば、生成部12は会計監査支援装置1から独立した構成であってもよい。すなわち、外部の情報処理装置等に備えられた生成部12は検定モデルを生成して会計監査支援装置1に出力し、会計監査支援装置1はその検定モデルを記憶部14に記憶することとしてもよい。
【0015】
生成部12は、検定モデルを生成するために、教師データである会計データとして、企業が会計に関して不正を行うことなく正常に作成した会計データ(正常会計データ)、及び、企業が会計に関して改ざん等の不正を行った際の会計データ(不正会計データ)を取得する。正常会計データ及び不正会計データは、例えば、不図示のサーバ等に記憶されていてもよい。
【0016】
生成部12は、正常会計データのデータ数と不正会計データのデータ数との比率が予め設定された閾値以下の場合、予想される不正の内容に応じた仮想不正会計データを生成する。会計監査支援装置1は、機械学習により検定モデルを生成し、その検定モデルを監査対象の会計データ(対象会計データ)に適用して、対象会計データに会計に関する不正がある可能性を出力する。正常会計データのデータ数に対して不正会計データのデータ数が相対的に少なければ、生成部12は、適切な検定モデルを生成することができず、これに応じて会計監査支援装置1は、企業の会計に関する不正を推定することができない可能性がある。このため、生成部12は、正常会計データのデータ数に対して不正会計データのデータ数の比率が閾値以下の場合には、会計に関して企業が行う可能性のある改ざん方法(不正の内容)を推定し、その推定した不正の内容に基づく不正会計データ(仮想不正会計データ)を生成する。例えば、監査を行う監査担当者、検定モデルの生成のための会計データの取得及び管理担当となるデータ管理者、及び、検定モデルを管理及び調整する処理担当となるデータ分析者等は、会計に関する不正の内容を検討し、その検討結果に応じて会計監査支援装置1の入力部(図示せず)を操作することに基づいて、生成部12によって仮想不正会計データを生成させる。
【0017】
生成部12は、正常会計データ及び不正会計データを教師データとして機械学習を行い、検定モデルを生成する。又は、生成部12は、正常会計データ、不正会計データ及び仮想不正会計データを教師データとして機械学習を行い、検定モデルを生成する。したがって、検定モデルは、会計データを入力として、その会計データが正常であるか、不正が存在する可能性及び不正が行われる要因(改ざん内容)を推定できるモデルとなる。
ここで、共通点のある会計データをグループ化して管理するための会計データのグループを「データセット」という。一例として、不正種別でグループ化すると「正常会計データ」、「不正会計データ」のようなデータセットが作成できる。また、他の例として、業種で会計データをグループ化すると、「建設」又は「建設業」のようなデータセットが作成できる。また、データセットは、階層化された構成を持ち、より詳細なデータセットを持っていてもよい。これにより、生成部12は、階層に応じた(業種に応じた)検定モデルを生成することが可能となる。例えば、データセットは、「全業種」、「建設」、「総合建設」の順に階層化され、さらに「総合建設」は「ゼネコンA社」、「ゼネコンB社」及び「ゼネコンC社」それぞれの正常会計データ(又は不正会計データ)と、業種が「総合建設」の場合に推定される会計に関する不正の内容(仮想不正会計データ)とに階層化されていてもよい。
【0018】
生成部12は、例えば、複数の検定モデルを生成することとしてもよい。例えば、生成部12は、複数の正常会計データ、複数の不正会計データ及び複数の仮想不正会計データのうち、それぞれから適宜選択したデータに基づいて複数の検定モデルを生成してもよい。また、生成部12は、例えば、業種毎に、1又は複数の検定モデルを生成することとしてもよい。
【0019】
また、生成部12は、検定モデル(検定モデル1)を生成した後、生成した検定モデル(検定モデル1)とその検定モデル(検定モデル1)を生成する際の計算値とを利用して、1又は複数の新たな検定モデル(検定モデル2)を生成し、さらに1又は複数の新たな検定モデル(検定モデル3)を生成することとしてもよい。すなわち、生成部12は、多段階の学習モデルを生成することとしてもよい。
【0020】
生成部12は、機械学習を行う際、その変数として検定指標を登録することとしてもよい。検定指標は、不正会計の可能性を算出する際に使用する変数である。例えば、生成部12は、複数のデータ間の各検定指標の有意差、及び、同一データセット内の検定指標の相関を計算し、計算の結果に基づいて検定指標を登録する。例えば、生成部12は、データセット間で計算した検定指標を比較し、統計上有意な差があるもの(より差が大きいもの)、及び、データセット内で検定指標を相互に比較したときに相関関係がより低いもものが、検定指標として登録される。検定指標は、例えば平均総資産に占める運転資本の割合等、種々のものであってよい。生成部12は、「有意差」及び「相関」を一般的に知らせている統計理論により計算することができる。
なお、生成部12は、上述したように検定指標を登録する場合、検定指標を標準化することとしてもよい。例えば、生成部12は、正常会計データ、不正会計データ及び仮想不正会計データの値範囲の正準化、分散の標準化、並びに、平均の標準化のうち少なくとも1つを行うことにより、検定指標の標準化を行ってもよい。
生成部12は、検定モデルを生成すると、生成した検定モデルを記憶部14に記憶する。
【0021】
また、生成部12は、勘定科目(科目名)に関する科目教師データを生成することとしてもよい。勘定科目の具体的な一例は、「資産」、「負債」、「純資産」、「収益」及び「費用」等であってよい。科目教師データは、会計データの複数の勘定科目(科目名)と、会計データの科目名の基準となる基準勘定科目(科目名)とに基づいて学習を行うことにより生成される。企業の会計データは、業種及び企業毎に科目名(勘定科目)が異なる場合がある。検定モデルの勘定科目(基準勘定科目)と、被監査企業の会計に関する対象会計データの勘定科目とが異なる場合には、検定モデルを対象会計データに適用できず、不正会計の可能性について推定できない可能性がある。このため、生成部12は、対象会計データの勘定科目を検定モデルの勘定科目(基準勘定科目)に合わせるために、科目教師データを生成する。生成部12は、複数の勘定科目を取得して、それらの勘定科目がどの基準勘定科目に対応するかを学習することにより、科目教師データを生成する。生成部12は、科目教師データを生成すると、生成した科目教師データを記憶部14に記憶する。基準勘定科目は、検定モデルで使用される勘定科目である。
【0022】
又は、生成部12は、対象会計データの勘定科目を検定モデルの勘定科目に間接的に関連付けることができる場合、その関連付けを記憶部14に記憶することとしてもよい。例えば、勘定科目の「長期有利子負債」が「負債合計」、「流動負債」及び「固定負債」から算出できる場合(「長期有利子負債」=「負債合計」-「流動負債」-「固定負債」)には、その計算式等を記憶部14に記憶することとしてもよい。
又は、生成部12は、予め設定された類似度に基づいて、対象会計データの勘定科目と、検定モデルの勘定科目とを関連連付け、その関連付けた結果を記憶部14に記憶することとしてもよい。
【0023】
記憶部14は、検定モデルを記憶する。記憶部14は、例えば、ハードディスク又はメモリ等の記憶装置であってよい。検定モデルは、上述したように、会計に関して不正が行われる際の不正会計データと、会計に関して不正が行われていない正常会計データとを学習することにより生成されたモデルである。又は、検定モデルは、不正会計データ、仮想不正会計データ及び正常会計データを学習することにより生成されたモデルである。検定モデルは、会計に関する監査が行われる被監査企業の会計データ(対象データ)に改ざん等の不正が行われている可能性を取得するためのモデルである。
【0024】
また、記憶部14は、勘定科目に関する科目教師データを記憶する。科目教師データは、上述したように、会計データの複数の勘定科目と、会計データの科目名の基準となる基準勘定科目とを学習することにより生成されたデータである。科目教師データは、対象会計データの勘定科目が検定モデルのどの勘定科目に該当するのかを推定するためのモデルである。
【0025】
取得部11は、被監査企業の会計に関する対象会計データを取得する。取得部11は、例えば、通信ネットワークを介して対象会計データを取得し、又は、外部メモリに記憶された対象会計データを読み出すことによりその対象会計データを取得する。
【0026】
取得部11は、対象会計データと科目教師データとに基づいて、対象会計データに記載される勘定科目を基準勘定科目に割り当てる。すなわち、取得部11は、対象会計データを取得すると、科目教師データに基づいて、対象会計データに記載される勘定科目を検定モデルの勘定科目(基準勘定科目)に割り当てる。又は、取得部11は、対象会計データを取得すると、対象会計データの勘定科目と検定モデルの勘定科目とを予め関連付けた結果に基づいて、勘定科目(基準勘定科目)を対象会計データの勘定科目から算出する。すなわち、推定部13は、対象会計データの勘定科目を検定データの勘定科目に割り当てる、又は、対象会計データの勘定科目を検定モデルの勘定科目に名称を変更(リネーム)する。
また、取得部11は、科目教師データに基づいて対象会計データの勘定科目から基準勘定科目を算出できない場合には、対象会計データのその勘定科目を基準勘定科目として設定してもよく、その勘定科目が適宜修正等の変更が行われたのち基準勘定科目として設定されてもよい。
【0027】
推定部13は、対象会計データと検定モデルとに基づいて、被監査企業の会計に不正の可能性を推定する。すなわち、推定部13は、検定モデルを被監査企業の対象会計データに適用し、その不正会計の可能性の高さ(一例として数値)を取得する。推定部13は、不正の可能性の高さとして、「無条件確率」、「不正実施確率」及び「Fスコア」を取得する。無条件確率は、推定部13によって取得される数値の中央値である。不正実施確率は、推定部13によって推定された結果を示す。不正実施確率が無条件確率よりも高い場合には、被監査企業の会計に関して不正が行われている可能性が高いことを示す。Fスコアは、無条件確率と不正実施確率との比率である。
ここで、推定部13は、生成部12において複数の検定モデルが生成されている場合、複数の検定モデルの中から選択した複数の検定モデルそれぞれに対象会計データを提供し、その不正会計の可能性の高さを取得することとしてもよい。
この場合、推定部13は、複数の検定モデルそれぞれを対象会計データに適用して得られた結果(数値)のうち、最大値(又は最小値)に基づいて、不正会計の可能性の高さを取得することとしてもよい。
又は、推定部13は、複数の検定モデルそれぞれを対象会計データに適用して得られた結果(数値)の平均値に基づいて、不正会計の可能性の高さを取得することとしてもよい。
本発明の「推定部」による「不正が行われている可能性」の推定には、「不正が行われる要因(改ざん内容)」を推定することも含まれる。
【0028】
表示部15は、推定部13によって推定された結果を表示する。すなわち、表示部15は、推定部13によって取得された不正会計の可能性の高さを表示する。
【0029】
図2は、表示部15に表示される、不正会計の可能性の高さの画像の一例について説明する図である。
表示部15は、不正会計の可能性の高さの画像として、
図2に例示するような画像を表示する。表示部15が、被監査企業の名称、監査対象となる決算期、監査方法(検定指標の種類)等が含まれ画像を表示する。また、表示部15は、その画像において、不正の可能性の高さを数値で表示する。具体的な一例として、表示部15は、不正の可能性の高さとして、「無条件確率」、「不正実施確率」及び「Fスコア」を表示する。
無条件確率は、推定部13によって推定された結果(数値)の中央の値である。
図2に例示する場合では、無条件確率は0.004であり、この数値が会計に関して不正が行われているか否かを判断する際の中央値である。
不正実施確率は、推定部13によって推定された結果を示す。不正実施確率が無条件確率よりも高い場合には、被監査企業の会計に関して不正が行われている可能性が高いことを示す。換言すると、不正実施確率が無条件確率よりも低い場合には、被監査企業の会計に関して不正が行われている可能性が低いことを示す。
Fスコアは、無条件確率と不正実施確率との比率である。Fスコアの数値が1よりも高い場合には、被監査企業の会計に関して不正が行われている可能性が高いことを示す。
【0030】
図3は、表示部15に表示される、会計監査の支援に利用されるグラフ(図)の一例について説明するための図である。
表示部15は、
図2に例示する数値の他にも、
図3に例示するような、対象会計データの複数の勘定科目のうちのいずれかの数値と、基準となる数値との比較したグラフを表示することとしてもよい。
図3に示す実線は、対象会計データの複数の勘定科目A~Eの数値を示す。
図3に示す破線は、対象会計データを作成した企業が属する業種の平均値等の、勘定科目A~Eの基準となる数値である。このように、表示部15は、監査担当者に対して、例えば、被監査企業の勘定科目A~Eと、勘定科目A~Eの基準値とを示すことができる。監査担当者は、
図3を参照し、破線の内部に実線があれば、被監査企業の対象会計データの勘定科目が基準内であるとして、対象会計データに不正が行われている可能性が低いと判断することができる。一方、監査担当者は、
図3を参照し、破線の外側に実線があれば、被監査企業の勘定科目が基準内ではないとして、基準外の勘定科目について不正が行われている可能性があると判断することができる。
【0031】
なお、表示部15が表示するグラフ(図)は、
図3に示す例に限らず、種々のグラフ(図)を表示することとしてもよい。例えば、表示部15は、
図3のような2次元表示のグラフ(図)に限らず、3次元表示のグラフ(図)を表示することとしてもよい。
また、表示部15は、例えば、被監査企業から複数年の対象会計データを取得している場合、対象会計データに記録される自己資本利益率(ROE:Return On Equity)と、自己資本利益率から取得される当期純利益及び自己資本等との複数年の推移を表示することとしてもよい。
【0032】
次に、一実施形態に係る会計監査支援方法について説明する。
会計監査支援方法では、例えば、企業の会計に改ざん等の不正が行われている可能性を推定するための検定モデルを生成するステップ、勘定科目(科目名)を統一するための科目教師データを生成するステップ、被監査企業の対象会計データの会計監査を支援するステップが行われる。
【0033】
まず、検定モデルを生成する方法の一例について説明する。
図4は、検定モデルを生成する方法の一例について説明するためのフローチャートである。
【0034】
ステップST101において、生成部12は、複数の正常会計データを取得する。例えば、生成部12は、サーバ(図示せず)等に記憶される正常会計データを取得することとしてもよい。正常会計データは、企業が会計に関して不正を行うことなく正常に作成した会計データである。
【0035】
ステップST102において、生成部12は、複数の不正会計データを取得する。例えば、生成部12は、サーバ(図示せず)等に記憶される不正会計データを取得することとしてもよい。不正会計データは、企業が会計に関して改ざん等の不正を行った際の会計データである。
【0036】
ステップST103において、生成部12は、ステップST101で取得した正常会計データのデータ数と、ステップST102で取得された不正会計データのデータ数との比率が閾値以下かを判断する。閾値は、例えば、監査担当者等によって適宜設定される。不正会計データのデータ数が相対的に少なければ、生成部12は、適切な検定モデルを生成することができない可能性がある。このため、生成部12は、不正会計データのデータ数が閾値以下の場合には、後述するステップST104において、会計に関して企業が行う可能性のある改ざん方法(不正の内容)を推定し、その推定した不正の内容に基づく不正会計データ(仮想不正会計データ)を生成する。
【0037】
ステップST104において、生成部12は、仮想会計データを生成する。生成部12は、例えば、データ分析者等によって企業が会計に関して不正を行う際の改ざん内容を推定された場合、データ分析者等の操作に基づいて、推定した内容を仮想会計データとして生成する。
【0038】
ステップST105において、生成部12は、ステップST101で取得した正常会計データ、ステップST102で取得した不正会計データ、及び、ステップST104で生成した仮想不正会計データを学習することに基づいて、検定モデルを生成する。例えば、生成部12は、「正常」のラベルを付した正常会計データと、「不正」のラベルを付した不正会計データ及び仮想会計データとを機械学習することにより、1又は複数の検定モデルを生成する。
生成部12は、生成した検定モデルを記憶部14に記憶することとしてもよい。
【0039】
次に、科目教師データを生成する方法の一例について説明する。
図5は、科目教師データを生成する方法の一例について説明するためのフローチャートである。
【0040】
企業の会計データは、業種及び企業毎に科目名(勘定科目)が異なる場合がある。検定モデルの勘定科目(基準勘定科目)と、被監査企業の会計に関する対象会計データの勘定科目とが異なる場合には、検定モデルを対象会計データに適用できず、不正会計の可能性について推定できない可能性がある。このため、生成部12は、対象会計データの勘定科目を検定モデルの勘定科目(基準勘定科目)に合わせるために、科目教師データを生成する。
【0041】
ステップST201において、生成部12は、複数の勘定科目(科目名)を取得する。例えば、生成部12は、複数の会計データを取得し、その会計データに記載される勘定科目を取得することとしてもよい。
【0042】
ステップST202において、生成部12は、基準勘定科目(科目名)を取得する。基準勘定科目は、例えば、検定モデルにおいて使用される勘定科目(科目名)である。基準勘定科目は、予め設定されて、例えば、記憶部14等に記憶されている。
【0043】
ステップST203において、生成部12は、ステップST201で取得した勘定科目と、ステップST202で取得した基準勘定科目とを学習することにより、科目教師データを生成する。例えば、生成部12は、複数の勘定科目を取得どの基準勘定科目に対応するかについて機械学習を行うことにより、科目教師データを生成する。生成部12は、生成した科目教師データを記憶部14に記憶することとしてもよい。
【0044】
次に、会計監査を支援する方法の一例について説明する。
図6は、会計監査を支援する方法の一例について説明するためのフローチャートである。
【0045】
ステップST301において、取得部11は、被監査企業の会計に関する対象会計データを取得する。取得部11は、例えば、通信ネットワークを介して対象会計データを取得し、又は、外部メモリに記憶された対象会計データを読み出すことによりその対象会計データを取得する。
【0046】
ステップST302において、取得部11は、ステップST203で生成した科目教師データを、ステップST301で取得した対象会計データに適用して、対象会計データの勘定科目(科目名)を基準勘定科目(科目名)に割り当てる。
【0047】
ステップST303において、推定部13は、ステップST105で生成した検定モデルを、ステップST302で割り当てた基準勘定科目に応じた対象会計データに適用し、対象会計データに改ざん等の不正が行われている可能性の高さを取得する。すなわち、推定部13は、会計に関する不正の可能性を推定する。
【0048】
ステップST304において、表示部15は、ステップST303で取得された不正の可能性の高さを表示する。不正の可能性の高さは、例えば、数値で示される。一例として、数値が相対的に高ければ、対象会計データに不正が行われている可能性が高い。換言すると、数値が相対的に低ければ、対象会計データに不正が行われている可能性が低い。
また、表示部15は、上述した数値の他にも、対象会計データの複数の勘定科目のうちのいずれかの数値と、基準となる数値との比較したグラフを表示することとしてもよい。基準となる数値は、例えば、対象会計データを作成した企業が属する業種の平均値等であってよい。
また、表示部15は、例えば、被監査企業から複数年の対象会計データを取得している場合、対象会計データに記録される自己資本利益率(ROE:Return On Equity)と、自己資本利益率から取得される当期純利益及び自己資本等との複数年の推移を表示することとしてもよい。
監査担当者は、表示部15に表示される不正の可能性の高さ、グラフ及びROE等の推移を参照することにより、監査対象企業の会計に関する不正の有無と、どの勘定科目に不正の可能性があるのかを判断することができる。
このステップST304は、ステップST303で推定された結果に基づいて、会計データに対する不正操作の要因分析を支援する不正要因分析ステップと言うこととしてもよい。
【0049】
本実施形態の効果を以下に説明する。
会計監査支援装置1は、会計監査に用いられる検定モデルを記憶する記憶部14と、被監査企業の会計に関する対象会計データを取得する取得部11と、対象会計データと検定モデルとに基づいて、被監査企業の会計において不正が行われている可能性を推定する推定部13と、推定部13によって推定された結果を表示する表示部15と、を備える。
これにより、会計監査支援装置1は、機械学習に基づいて対象会計データに改ざん等の会計に関する不正が行われている可能性を監査担当者に提示し、その不正の可能性を推定することができる。
また、会計監査支援装置1は、検定モデルを生成する際に、例えば、「不正」のラベルを付した不正会計データ及び仮想不正会計データと、「正常」のラベルを付した正常会計データとに基づいて学習を行うので、学習した不正の内容に着目して、対象会計データに改ざん等の会計に関する不正が行われているか否かを推定することができる。よって、会計監査支援装置1は、対象会計データに不正が行われている場合には、検定モデルの監査判定ルートを逆に辿ることにより、改ざん箇所(改ざん内容)を推定することができる。
【0050】
また、会計監査支援装置1は、正常会計データのデータ数と不正会計データのデータ数との比率が予め設定された閾値以下の場合、予想される不正の内容に応じた仮想不正会計データを生成する生成部12を備えることしてもよい。
これにより、会計監査支援装置1は、実際に企業が会計に関して不正を行った際の不正会計データが相対的に少ない場合でも、企業が会計に関して不正を行う際の改ざん手法を推定して仮想不定会計データを生成することができる。なお、会計監査支援装置1は、例えば、監査を行う監査担当者、検定モデルの生成のための会計データの取得及び管理担当となるデータ管理者、及び、検定モデルを管理及び調整する処理担当となるデータ分析者等の操作に基づいて、生成部12において仮想不正会計データを生成することができる。よって、会計監査支援装置1は、仮想不正会計データ等を学習することに基づいて生成した検定データを、実際の対象会計データに適用することにより、その対象会計データに不正が行われている可能性を推定することができる。
【0051】
また、会計監査支援装置1は、会計データの複数の勘定科目と、会計データの科目名の基準となる基準勘定科目とを学習することより生成された科目教師データと、対象会計データとに基づいて、対象会計データに記載される勘定科目を基準勘定科目に割り当てることとしてもよい。
これにより、会計監査支援装置1は、対象会計データの勘定科目(科目名)と、検定データの勘定科目(科目名)とが同一でない場合でも、予め学習された科目教師データに基づいて、対象会計データの勘定科目(科目名)を対応する検定データの勘定科目(科目名)に変更することができる。よって、会計監査支援装置1は、勘定科目(科目名)を変更した後の対象会計データに検定データを提供することができ、対象会計データに会計に関する不正が行われている可能性を推定することができ、また、会計に関する不正が行われている箇所(改ざん内容)も推定することができる。
【0052】
会計監査支援方法は、コンピュータに、会計監査に用いられる検定モデルを記憶部14に記憶する記憶ステップと、被監査企業の会計に関する対象会計データを取得する取得ステップと、対象会計データと検定モデルとに基づいて、被監査企業の会計において不正が行われている可能性を推定する推定ステップと、推定ステップによって推定された結果を表示部15に表示する表示ステップと、を実行する。
これにより、会計監査支援方法は、機械学習に基づいて対象会計データに改ざん等の会計に関する不正が行われている可能性を監査担当者に提示し、その不正の可能性を推定することができる。
また、会計監査支援方法は、検定モデルを生成する際に、例えば、「不正」のラベルを付した不正会計データ及び仮想不正会計データと、「正常」のラベルを付した正常会計データとに基づいて学習を行うので、学習した不正の内容に着目して、対象会計データに改ざん等の会計に関する不正が行われているか否かを推定することができる。よって、会計監査支援方法は、対象会計データに不正が行われている場合には、検定モデルの監査判定ルートを逆に辿ることにより、改ざん箇所(改ざん内容)を推定することができる。
【0053】
会計監査支援プログラムでは、コンピュータが、会計監査に用いられる検定モデルを記憶する記憶機能と、被監査企業の会計に関する対象会計データを取得する取得機能と、対象会計データと検定モデルとに基づいて、被監査企業の会計において不正が行われている可能性を推定する推定機能と、推定機能によって推定された結果を表示する表示機能と、を実現させる。
これにより、会計監査支援プログラムは、機械学習に基づいて対象会計データに改ざん等の会計に関する不正が行われている可能性を監査担当者に提示し、その不正の可能性を推定することができる。
また、会計監査支援プログラムは、検定モデルを生成する際に、例えば、「不正」のラベルを付した不正会計データ及び仮想不正会計データと、「正常」のラベルを付した正常会計データとに基づいて学習を行うので、学習した不正の内容に着目して、対象会計データに改ざん等の会計に関する不正が行われているか否かを推定することができる。よって、会計監査支援プログラムは、対象会計データに不正が行われている場合には、検定モデルの監査判定ルートを逆に辿ることにより、改ざん箇所(改ざん内容)を推定することができる。
【0054】
上述した会計監査支援装置1の各部は、コンピュータの演算処理装置等の機能として実現されてもよい。すなわち、会計監査支援装置1の生成部12、取得部11及び推定部13は、コンピュータの演算処理装置等による、生成機能、取得機能及び推定機能としてそれぞれ実現されてもよい。
会計監査支援プログラムは、上述した各機能をコンピュータに実現させることができる。会計監査支援プログラムは、外部メモリ又は光ディスク等の、コンピュータで読み取り可能な非一時的な記録媒体に記録されていてもよい。
また、上述したように、会計監査支援装置1の各部は、コンピュータの演算処理装置等で実現されてもよい。その演算処理装置等は、例えば、集積回路等によって構成される。このため、会計監査支援装置1の各部は、演算処理装置等を構成する回路として実現されてもよい。すなわち、会計監査支援装置1の生成部12、取得部11及び推定部13は、コンピュータの演算処理装置等を構成する、生成回路、取得回路及び推定回路として実現されてもよい。
また、会計監査支援装置1の記憶部14及び表示部15は、例えば、集積回路等によって構成されることにより、記憶回路及び表示回路として実現されてもよい。また、会計監査支援装置1の記憶部14及び表示部15は、例えば、記憶機能及び表示機能として実現されてもよい。また、会計監査支援装置1の記憶部14及び表示部15は、例えば、複数のデバイスによって構成されることにより、記憶装置及び表示装置として構成されてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 会計監査支援装置
11 取得部
12 生成部
13 推定部
14 記憶部
15 表示部