IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大成建設株式会社の特許一覧 ▶ 富士化学株式会社の特許一覧

特許7364188止水性能評価装置および止水性能評価方法
<>
  • 特許-止水性能評価装置および止水性能評価方法 図1
  • 特許-止水性能評価装置および止水性能評価方法 図2
  • 特許-止水性能評価装置および止水性能評価方法 図3
  • 特許-止水性能評価装置および止水性能評価方法 図4
  • 特許-止水性能評価装置および止水性能評価方法 図5
  • 特許-止水性能評価装置および止水性能評価方法 図6
  • 特許-止水性能評価装置および止水性能評価方法 図7
  • 特許-止水性能評価装置および止水性能評価方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】止水性能評価装置および止水性能評価方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20231011BHJP
【FI】
E02D3/12 101
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019184988
(22)【出願日】2019-10-08
(65)【公開番号】P2021059904
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391003598
【氏名又は名称】富士化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 裕泰
(72)【発明者】
【氏名】西田 与志雄
(72)【発明者】
【氏名】福井 学
(72)【発明者】
【氏名】笹原 茂生
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 大地
(72)【発明者】
【氏名】松山 雄司
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-204921(JP,A)
【文献】特開2014-005617(JP,A)
【文献】特開2003-121433(JP,A)
【文献】特開2007-051481(JP,A)
【文献】特開2010-133816(JP,A)
【文献】特開2013-119731(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状物が充填された筒状の容器と、
前記容器の一端から一定量の水を供給する給水手段と、
前記容器の他端から排出された液体の量を計測する排液計測手段と、
前記容器の前記一端と前記他端との間にある中間部に注入材を供給する注入手段と、を備えていることを特徴とする、止水性能評価装置。
【請求項2】
前記給水手段は、貯水槽と、前記貯水槽から前記容器に至る給水管とを備えており、
前記貯水槽は、当該貯水槽内の水位が前記容器よりも高くなるように配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の止水性能評価装置。
【請求項3】
前記容器を冷却または加熱する温度調整手段をさらに備えていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の止水性能評価装置。
【請求項4】
筒状の容器に粒状物が充填されてなる仮想地盤に対し、前記容器の一端から他端に向けて一定流速の水を通水するとともに、前記容器の前記一端と前記他端との間にある中間部から注入材を注入し、前記仮想地盤から排出された液体の量の経時変化を測定することを特徴とする、止水性能評価方法。
【請求項5】
前記水または前記注入材が冷却または加温されていることを特徴とする、請求項4に記載の止水性能評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良薬液の止水性能評価装置および評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下水位の影響を受ける建設工事では、工事を安全かつ効率的に進めるために適切な止水工を講じる必要がある。地下水の止水工としては、掘削域の周囲に鋼矢板等により止水壁を構築する方法、固化材により低透水性の改良固化体を形成する方法、薬液注入により同様の改良固化体を形成する方法、井戸等により地下水位を低下させる方法等がある。
鋼矢板による止水壁は、地上部からの施工になるため、止水可能な深さが限定されてしまう。また、セメントなどの固化材を利用した改良体は、固化材が硬化するまでに時間を要する。また、井戸などにより地下水位を低下させる方法も地下水位が低下するまでに時間を要する。薬液注入は、比較的短時間でゲル化(硬化)するものの、地下水の流れよってゲル化する前に流される場合があり、所望の位置に改良体を形成し難い場合がある。
そのため、特許文献1には、流速が大きい地下水域に対する地盤の止水方法として、地下水に流されない粒径で高比重の粒状材を地中に供給した後、粒状材が供給された領域に薬液注入を行い、粒状材の隙間でゲル化または固化させる方法が開示されている。
ところで、従来の地盤改良薬液の止水効果は、地盤改良薬液のゲルタイム(注入薬液が硬化して流動性がなくなるまでの時間)のみで判断されるのが一般的である。しかし、薬液注入による止水効果は、対象地盤の物理的特性、化学的特性、流水状況、流水速度や温度条件に大きく依存する。そのため、薬液注入により所望の止水性を確保するためには、現地の地山条件に応じた地盤改良薬液を選定する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-053589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、施工条件(地質、地下水位、地下水の流速等)に応じた地盤改良薬液の止水性能を確認することを可能とした止水性能評価装置および止水性能評価方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明の止水性能評価装置は、粒状物が充填された筒状の容器と、前記容器の一端から一定量の水を供給する給水手段と、前記容器の他端から排出された液体の量を計測する排液計測手段と、前記容器の前記一端と前記他端との間にある中間部に注入材を供給する注入手段とを備えるものである。
また、本発明の止水性能評価方法は、筒状の容器に粒状物が充填されてなる仮想地盤に対し、前記容器の一端から他端に向けて一定流速の水を通水するとともに、前記容器の前記一端と前記他端との間にある中間部から注入材を注入し、前記仮想地盤から排出された液体の量(流速)の経時変化を測定するものである。
かかる止水性能評価装置および止水性能評価方法によれば、一定の流速で流れる地下水中に地盤改良薬液(注入材)を注入した際の効果を、水の排出量(排出水の流速)により把握することができる。そのため、地山の状況(地質、地下水位、地下水の流速等)に応じた注入材を適切に選定することができる。
【0006】
なお、前記止水性能評価装置の前記給水手段が、貯水槽と、前記貯水槽から前記容器に至る給水管とを備えている場合において、貯水槽内の水位が前記容器よりも高くなるように前記貯水槽を配置すれば、一定の流速による水を自然流下により供給することができる。
また、前記容器(粒状物)、水または注入材を冷却または加温する温度調整手段を備えていれば、前記仮想地盤を冷却または加温することが可能となり、例えば、凍結工法等により周辺地盤が凍結している場合など、特別な条件下における地山に対する地盤改良薬液の性能を確認することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の止水性能評価装置および止水性能評価方法によれば、施工条件に応じた地盤改良薬液の性能を確認することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第一実施形態に係る評価装置の概略図である。
図2】第二実施形態に係る評価装置の概略図である。
図3】実験に使用した薬液の温度とゲルタイムの関係を示すグラフである。
図4】実証実験結果を示す図であって、ケース1の経過時間と排水速度の関係を示すグラフである。
図5】実証実験結果を示す図であって、ケース2の経過時間と排水速度の関係を示すグラフである。
図6】実証実験結果を示す図であって、ケース3の経過時間と排水速度の関係を示すグラフである。
図7】実証実験結果を示す図であって、ケース4の経過時間と排水速度の関係を示すグラフである。
図8】ケース1~4の経過時間と通水分排水速度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第一実施形態>
第一実施形態では、地盤改良薬液の性能を確認するための止水性能評価装置1について説明する。本実施形態の止水性能評価装置1は、図1に示すように、容器2と、給水手段3と、排液計測手段4と、注入手段5と、温度調整手段6とを備えている。
容器2は、円筒状を呈している。容器2には、砂や砂利などの粒状物20が仮想地盤として充填されている。本実施形態の容器2は、透明な塩化ビニル管からなる筒体21と、筒体21の両端を遮蔽する蓋材22と、筒体21の外周に沿って配設された複数の固定ボルト23とを備えている。すなわち、容器2は、内部を視認することが可能である。筒体21は、中心軸が縦向きになるように配設されている。筒体21の上下端に設けられた一対の蓋材22は、蓋材22同士をつなぐ固定ボルト23を締め付けることにより筒体21の端部に固定されている。なお、筒体21を構成する材料は限定されるものではなく、例えば、アクリル製の筒であってもよい。また、筒体21は、円筒状である必要はなく、例えば、角筒であってもよい。また、筒体21は、複数の筒状部材を連結することにより形成してもよい。また、筒体21は、中心軸が横向きになるように配設してもよい。さらに、蓋材22の固定方法は限定されるものではなく、筒体21の端部にフランジが形成されている場合には、蓋材22をフランジに固定してもよい。
【0010】
給水手段3は、容器2の一端(下端)から一定量の水を供給する。本実施形態の給水手段3は、貯水槽31と、貯水槽31から容器2に至る給水管32と、越流水計測槽33とを備えている。貯水槽31は、貯水槽31内の水位が容器2の上端よりも高くなるように配置されている。貯水槽31の内部は、仕切壁34により貯水部35と越流部36とに分離されている。貯水槽31には、連続して水を供給するものとし、貯水部35には所定量の水が常時貯留されている。貯水部35には給水管32が接続されている。本実施形態では、貯水部35(貯水槽31)の底面に給水管32の一端が接続されている。給水管32の他端は、容器2の下端(下側の蓋材22)に接続されている。越流部36は、貯水部35に供給された水のうち、仕切壁34を乗り越えた水が流れ込む。越流部36の底部には、越流水計測槽33に至る接続管37が接続されている。越流水計測槽33は、貯水槽31よりも低い位置に配設されている。越流部36に流れ込んだ越流水は、接続管37を介して越流水計測槽33に流下する。越流水計測槽33では、仕切壁34を乗り越えて流下した越流水の量を計測する。越流水計測槽33内の水量は、電子天秤38を利用して測定する。越流水の水量の経時変化を測定することにより、貯水槽31に供給する水の量を調整する。
【0011】
排液計測手段4は、容器2の他端(上端)から排出された液体の量を計測する。排液計測手段4は、容器2から排出された液体を貯留する排液槽41と、容器2から排液槽41に至る排水管42と、排液槽41の液体の量を測定する電子天秤43とを備えている。排水管42は、筒体21の上端に固定された蓋材22に接続されている。容器2の上端から排出された液体は、排水管42を通じて排液槽41に輸送される。排液槽41に貯留された液体の量は、電子天秤43により測定する。液体の測定方法は電子天秤43による測定に限定されるものではなく、例えば、排液槽41のメモリを読むことにより測定してもよい。
【0012】
注入手段5は、容器2に注入材を供給する。本実施形態では、注入材として、注入後、数秒~数十秒でゲル化する溶液型瞬結タイプのものを使用する。注入材は、二液混合タイプで、注入直前に混合する。注入手段5は、A液を貯留する第一タンク51と、B液を貯留する第二タンク52と、第一タンク51および第二タンク52からA液およびB液を同時に定量排出するための定量供給装置53と、容器2(筒体21)の高さ方向中間部に接続された注入部54と、第一タンク51または第二タンク52から注入部54に至る送液管55とを備えている。注入材供給箇所を筒体21の下端部にしなかった理由は、注入材の逆流により通水経路を閉塞し、模型地盤内での止水効果を適切に評価できなくなるのを回避するためである。なお、止水性能評価装置1による評価の対象となる注入材は、二液混合タイプに限定されるものではない。注入材として1液タイプのものを使用する場合には、タンクは一つのみとする。また、注入材は、必ずしも瞬結タイプに限定されるものではなく、例えばセメントミルクなどの懸濁型注入材であってもよい。
定量供給装置53は、第一タンク51および第二タンク52に接続されている。本実施形態の定量供給装置53は、第一タンク51内のA液と第二タンク52内のB液に対して同時に押出力を付与するピストンである。ピストンにはガスケットが装着されている。定量供給装置53が作動すると、ピストンによって第一タンク51内のA液および第二タンク52内のB液に押出力が付与される。定量供給装置53により押出力が付与されると、A液とB液がそれぞれ第一タンク51または第二タンク52から同時に排出されて、送液管55を介して容器2に供給される。
注入部54は、ラインミキサー(スタティックミキサー)を備えており、第一タンク51から供給されたA液と、第二タンク52から供給されたB液を混合して容器2に供給する。
【0013】
温度調整手段6は、容器2を冷却または加温する。本実施形態の温度調整手段6は、容器2が挿入された水槽(筒状部材)である。例えば、容器2を0℃近くに冷却する場合には、温度調整手段6に寒剤(氷が浸された食塩水、塩化カリウム水溶液、塩化カルシウム水溶液など)を貯留する。一方、常温で評価を行う場合には、温度調整手段6内を空にした状態あるいは常温の液体(水、食塩水など)を貯留した状態で試験を行う。さらに、容器2を加熱する場合には、温度調整手段6内に所定の温度の温水を貯留する。また、簡易な評価法として、容器2は常温としつつ、注入材を予め冷却または加温する方法も有効である。
【0014】
次に、本実施形態の止水性能評価装置1を利用した止水性能評価方法について説明する。
まず、容器2に砂が充填されてなる仮想地盤に一定流速の水を通水する。水は、貯水槽31から給水管32を介して筒体21の下端から注入され、筒体21の上端から排出される。貯水槽31には、常に水が供給され続けられているとともに、余分な水は仕切壁34を越流することにより、一定の水位が保たれている。そのため、容器2には、一定の圧力により水が供給される。
なお、容器2(仮想地盤)は、温度調整手段6により冷却または加温して温度を調整することができる。
水の流速が安定したら、容器2の中間部から注入材を注入する。注入材は、定量供給装置53を介して供給するものとし、一定量のA液とB液とが同時に供給される。A液およびB液は、注入部54のラインミキサーにより混合された状態で、筒体21内に注入される。筒体21内に注入された注入材は、容器2内の水の流れに沿って上方に流れながら硬化する。容器2から排出された液体は、排液計測手段4に流下する。本実施形態の止水性評価方法では、排液計測手段4に流下した排液の量に基づいて排液の流速(重量変化速度)の経時変化を算出し、注入材による止水性の評価を行う。また、筒体21内で注入材が硬化すると、筒体21内の通水性(透水係数)が低下するため、筒体21の通水量が低下する。その結果、貯水槽31の越流水が増加する。
【0015】
本実施形態の止水性能評価装置1および止水性能評価方法によれば、一定の流速で流れる地下水中に地盤改良薬液(注入材)を注入した際の効果を、排出液(水)の排出量(排出液の流速)により把握することができる。そのため、地山の状況(地質、地下水位、地下水の流速、温度等)に応じた注入材を適切に選定することができる。さらに給水手段3により、地下水の供給量(容器2内の水圧)や地下水の流速を調整することができ、また、温度調整手段6によって温度条件を変化させることができる。そのため、改良対象地盤の地山条件や施工条件に応じた止水性能を発現する注入材の選定を行うことができる。すなわち、地下水の流速が大きい場合や、周辺地盤が凍結している場合等において、注入後に所望の範囲内においてゲル化して止水性を発現する注入材を選定することができる。
また、貯水槽31内の水位が容器2よりも高くなるように貯水槽31を配置しているため、水を自然流下により一定の流速で供給することができる。そのため、水を供給するための動力等を必要としない。
また、温度調整手段6によって仮想地盤を冷却または加温することができるため、例えば、凍結工法等により周辺地盤が凍結している場合など、特別な条件下における地山に対する地盤改良薬液の性能を確認することができる。
【0016】
<第二実施形態>
第二実施形態では、第一実施形態と同様に、地盤改良薬液の性能を確認するための止水性能評価装置1について説明する。本実施形態では、注入材を冷却または加温した状態で仮想地盤に注入した場合における注入材による止水性の評価を行うことで、地山の温度状況による注入材の性能への影響の確認を行う。本実施形態の止水性能評価装置1は、図2に示すように、容器2と、給水手段3と、排液計測手段4と、注入手段5と、温度調整手段6とを備えている。なお、容器2、給水手段3、排液計測手段4および注入手段5の詳細は、第一実施形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0017】
温度調整手段6は、注入材を冷却または加温する。温度調整手段6は、第一タンク51と第二タンク52の両方を収納可能な水槽からなる。注入材を0℃近くに冷却する場合には、温度調整手段6に寒剤(氷が浸された食塩水、塩化カリウム水溶液、塩化カルシウム水溶液など)を貯留する。一方、常温で評価を行う場合には、温度調整手段6内に常温の液体などを貯留した状態あるいは温度調整内を空にした状態で試験を行う。さらに、注入材を加熱する場合には、温度調整手段6内に所定の温度の温水を貯留する。なお、温度調整手段6は、第一タンク51と第二タンク52をそれぞれ個別に収納する水槽や、第一タンク51または第二タンク52の周囲に周設された氷嚢や水槽等により構成することも可能である。
【0018】
次に、本実施形態の止水性能評価装置1を利用した止水性能評価方法について説明する。
まず、容器2に砂が充填されてなる仮想地盤に一定流速の水を通水する。水は、筒体21の下端から注入され、筒体21の上端から排出される。水の流速が安定したら、容器2の中間部から注入材を注入する。注入材は、定量供給装置53を介して供給するものとし、一定量のA液とB液とが同時に供給される。このとき、注入材は、温度調整手段6により冷却または加温してもよい。A液およびB液は、注入部54のラインミキサーにより混合された状態で、筒体21内に注入される。筒体21内に注入された注入材は、容器2内の水の流れに沿って上方に流れながら硬化する。容器2から排出された液体は、排液計測手段4に流下する。止水性評価方法では、排液計測手段4に流下した排液の量に基づいて排液の流速の経時変化を算出し、注入材による止水性の評価を行う。
本実施形態の止水性能評価装置1および止水性能評価方法によれば、第一実施形態の止水性能評価装置1および止水性能評価方法と同様の効果が得られる。
【0019】
以下、第二実施形態の止水性能評価方法による実験結果について説明する。
本実験では、注入対象の模型地盤(筒体21)は、直径50mm、長さ1000mmの円筒形の透明塩化ビニル管を使用した。容器2の下方から上方にはヘッド差hにより一定水流を確保した上で、排出水量を経時的に重量測定して止水性能の発揮度合を把握することとした。このとき、供給側でヘッドを固定するために設けた貯水槽31には、蛇口の開口は固定して直接水道水を供給し続け、実際の流入量の変化の把握、さらには浸透状況の理解につなげるべく越流水計測槽33に流下した水を重量測定した。注入材の供給箇所を筒体21の中心高さに設けた。注入材供給箇所を筒体21の下端部にしなかった理由は、注入材の逆流により通水経路を閉塞し、模型地盤内での止水効果を適切に評価できなくなるのを回避するためである。
注入材は二液を等量混合する瞬結タイプの溶液型配合を利用することから、A液を第一タンク51、B液を第二タンク52に個々に準備の上、注入材の供給速度に準じた変位制御にて定量供給装置53を押し出し等量供給した。送液管55を介して注入材を供給するにあたり、模型地盤への流入直前にラインミキサー(注入部54)で混合する。
【0020】
本試験は通水状況下で用いられる注入材が有する止水性能の検証を目的としていることから、模型地盤材料として、通水速度を通水ヘッドの調整で設定でき、比較的入手が容易である材料であるφ5~10mmの粗骨材を採用した。
注入材には、表1に示す2種類の溶液型薬液(薬液アおよび薬液イ)を使用した。薬液アおよび薬液イの構成材料の違いはあるが、硬化材の含有量や密度は概ね等価となっている。
【0021】
【表1】
【0022】
地盤注入材に関して一般的に提示される特性値として、薬液アおよび薬液イが備える温度とゲルタイムの関係を図3に示す。図3に示すように、5℃以下では2秒程度の差異が見られるものの、薬液アおよび薬液イの温度とゲルタイムの関係は概ね一致している。以上の基本特性に基づけば、薬液アと薬液イについては、ケイ酸ナトリウムの濃度や密度などの物理特性とゲルタイムが該当する化学特性については同等とみなされ、性能ベースでの明確な相違を見出すには至らない。
【0023】
止水目的で地盤凍結工法を用いる場合、地下水流が1m/dayを超えると凍土の成長が阻害されるため、流速を緩和させる補助工法として溶液型瞬結タイプを用いた薬液注入工法が採用される。そのため、通水条件の設定は、上記目安値を十分に超過した上で、実験条件として簡潔・明瞭さを備える条件として、全長1000mmの仮想地盤を3分かけて通過する速度とした。そのため、見かけの通水速度を1000mm/3mins=33cm/min(480m/day)と定め、通水排水量の設定値を291cm/min(=33cm/min×2.5cm×2.5cm×3.14×0.45(間隙比相当値))とした。また、仕切壁34と筒体21の上端とのヘッド差(水頭差)hを30cmとした(図2参照)。
注入材の注入は、表2に示すように、薬液アおよび薬液イについて、それぞれ20℃の室温状態と、0℃未満に冷却した状態との2ケースについて行った。後者(ケース3,4)については、地盤凍結工法との併用適用で注入材が冷却される場合を念頭に置く。また、注入材の供給速度は、実験条件としての簡潔・明瞭さのみを考慮して、上記通水と等量として、供給装置を制御した。
【0024】
【表2】
【0025】
実験では、まず、容器2に水を通水させる。通水が定常状態にあることが確認出来たら、注入材を一定速度で注入し、排液量の経時変化を計測する。一定速度で注入材を供給する間、通水排水量が徐々に減少する様子を目視観察し、排液量がなくなった時点、あるいは少量排水の定常状態に落ち着いたことを確認できた時点で注入材の供給を停止する。各ケース1~4における注入材の供給時間は、1分~1.5分程度であった。
図4にケース1、図5にケース2、図6にケース3、図7にケース4の経過時間と排水速度との関係を示す。なお、図中の「通水分」とは、排液計測手段4に排水された水であり、「越流分」とは、給水手段3の仕切壁34を超えて越流水計測槽33に排水された水のことである。
【0026】
ケース1~4のいずれの場合も、注入材の供給開始から数10秒程度で注入材が白濁してゲル化したことが確認できた。注入材の白濁は、供給口(注入手段5の接続部)から100mm程度の範囲で進展し、その後、供給口の下方50~100mmの領域に広がった。
また、図4図7に示すように、ケース1~4のいずれの場合においても、注入材の供給開始後、通水分の排水速度の増加が一時的に増加するものの、その後はゲル形成の効果として通水分の排水速度が低下する傾向となった。また、室温状態(常温条件)のケース1は、図4に示すように、注入材の供給開始から20秒程度後から急激に通水分の排水速度が低下した。図5に示すように、同じく室温状態(常温条件)のケース2も、ケース1と同様に、注入材の供給開始から20秒程度後から急激に通水分の排水速度が低下した。結果として注入材の供給を停止したタイミングは、常温条件であるケース1,2では、供給開始後1分となった。一方、低温状態のケース3では、図6に示すように、注入材の供給開始数秒後から徐々に通水分の排水速度が低下する結果となった。また、低温状態のケース4においても、図7に示すように、注入材の供給開始15秒程度後から徐々に通水分の排水速度が低下する結果となった。結果として、ケース1,2は、供給開始から1分後に注入材の供給を停止し(図4,5参照)、ケース3は1分30秒後(図6参照)、ケース4では1分20秒後(図7参照)にそれぞれ注入材の供給を停止した。
一方、越流分の排水速度の変化については、注入材の供給開始に先立ち、排水速度の水準や安定性が十分に保たれていないことを示している。
【0027】
ケース1~4の観察の結果、止水性能の評価指標として、通水分の排水速度の活用が有力視されることが確認できた。そのため、図8において、ケース1~4の通水分の排水速度を集約し、比較を行った。
図8に示すように、室温条件では、薬液ア(ケース1)と薬液イ(ケース2)は似たような軌跡を示した。一方、低温条件では、薬液ア(ケース3)は注入材供給後1分10秒過ぎ頃から急激に通水排水速度が低下するのに対し、薬液イ(ケース4)は、注入材供給開始後15秒程度から通水分の排水速度(重量変化速度)の減少が略一定であり、薬液アと薬液イとの間で通水分の排水速度の低下率に明らかな違いが見られた。
図8において確認できる排水速度の変化は、薬液性能を表す指標として活用性が見いだせるため、排水速度が線形的に減少する区間で近似線を描きその勾配を排水速度変化率として抽出した。抽出した排水速度変化率を表3に示す。表3に示すように、薬液アは、薬液イに比べて、常温で1.3倍程度、低温で1.8倍程度の効率で止水効果を発揮できると表現できる。
このように、ゲルタイムで比較した場合(図3参照)に性能が同等の薬材であったとしても、温度条件等の違いによって、止水性能に違いが生じることが確認できた。
【0028】
【表3】
【0029】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、給水手段3による水の供給量や流速を変化させることや、温度調整手段6により温度を変化させることで、地山条件および施工条件に応じた条件で地盤改良薬液(注入材)の評価を行うことができる。そのため、地下水が集中して流れ込むことにより流速および流量が大きい箇所に対して適切な注入材を選定する場合に、地山条件に応じた条件に設定して評価を行うことができる。
また、前記実施形態では、温度調整手段6により容器2または注入材の温度を調整したが、容器2に通水する水の温度を調整してもよい。
また、容器2への水の供給方法は自然流下に限定されるものではなく、例えば、ポンプ圧送してもよい。
容器2に充填する粒状物20は砂に限定されるものではなく、評価対象となる現地の地山に応じて設定をすることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 止水性能評価装置
2 容器
3 給水手段
31 貯水槽
32 給水管
4 排液計測手段
5 注入手段
6 温度調整手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8