(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】固液分離システム
(51)【国際特許分類】
B01D 21/02 20060101AFI20231011BHJP
C02F 11/00 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B01D21/02 J
C02F11/00 A ZAB
(21)【出願番号】P 2019212504
(22)【出願日】2019-11-25
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002451
【氏名又は名称】積水アクアシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】木曽 忠幸
(72)【発明者】
【氏名】石田 秀樹
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-127800(JP,A)
【文献】実開昭56-137704(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/02-21/34
C02F 11/00-11/20
E03F 5/14
F16F 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
沈殿池と、
前記沈殿池内に設置され、複数の傾斜板を有する傾斜板装置と、
平面視において、複数の前記傾斜板と一部が重なるように配置されている板状部材と、
前記沈殿池に被処理水が流入する流入部と、
前記沈殿池から処理水が流出する流出部と、
前記傾斜板装置の前記流入部側に配置された阻流板と、を備え、
前記板状部材は、前記傾斜板装置に接続されて
おり、
前記板状部材は、前記阻流板の前記流出部側に配置され、
前記板状部材は、最も前記阻流板側に配置された前記傾斜板と前記阻流板との間隔の少なくとも一部に対向し、前記流入部から前記流出部に向かう方向に沿って配置されており、前記傾斜板装置の前記流出部側の下側には、配置されていない、
固液分離システム。
【請求項2】
前記板状部材は、開口部を有する、
請求項1に記載の固液分離システム。
【請求項3】
前記開口部は、前記開口部が形成されていないと仮定した場合の前記板状部材の面積に対して5~90%の面積を有する、
請求項
2に記載の固液分離システム。
【請求項4】
前記板状部材は、前記傾斜板の下端部との間の距離が、0~1000mmの間で調整可能に前記傾斜板装置に接続されている、請求項1~
3のいずれか1項に記載の固液分離システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固液分離システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の上水処理仕様の沈殿池には沈降面積を向上させるため複数の傾斜板が用いられており、当該傾斜板によりフロック(微粒子が会合して、より大きな集合体を生成する集塊)が堆積し、水を浄化するシステムが開発されていた。
【0003】
これらの技術が下水処理に転用されているが、その背景として、近年、下水処理場では、環境負荷の軽減などの観点から既存施設の高度処理化が求められており、それに伴って最終沈殿池の能力増強が求められていることが挙げられる(特許文献1参照)。
【0004】
「下水道施設計画・設計指針と解説-2009年版-」(社団法人日本下水道協会)によれば、最終沈殿池の処理能力は、汚泥の沈降面積に対する1日当たりの流入水量(水面積負荷)で定められる。汚泥の沈降面積は、最終的に汚泥を捕捉する部分の面積であり、沈降した汚泥が行き着く最終沈殿池の底面の面積、通常は、最終沈殿池そのものの面積に相当する。
【0005】
従って、より大きな最終沈殿池を新設すれば、時間変動や日間変動などによる影響により流入水量が増加した場合でも処理水の水質への影響は小さくなると考えられるが、最終沈殿池は前述の設計指針により日最大水量に対して設計されるのが通常であるため、仮に流入変動におけるピークの水量に対して施設設計をすれば、過大な設備投資が必要になるという問題がある。そこで、既存の最終沈殿池の効率を向上させるために、小規模な設備投資で処理能力を向上させる傾斜板を用いる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献の従来の構成では、傾斜板装置の前段部よりも後段部において流速が遅くなるため、装置への流入水が前段部に集中する傾向がある。そのため、後段部の傾斜板の長さを短く調整したり、後段の配置ピッチが広くなるように傾斜板の配置を調整することにより、流動抵抗を減じることで、装置全体に均等な流量を配分する方法が示されている。
【0008】
しかしながら、いずれの方式においても傾斜板の有効沈降面積が減少するため傾斜板装置としての処理能力が低下していた。
【0009】
本発明は、有効沈降面積を低減させずに複数の傾斜板における流量の偏りを抑制することが可能な固液分離システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、第1の発明に係る固液分離システムは、沈殿池と、傾斜板装置と、板状部材と、を備える。傾斜板装置は、沈殿池内に配置され、複数の傾斜板を有する。板状部材は、平面視において、複数の傾斜板と一部が重なるように配置されている。
【0011】
このように配置した板状部材は水流の抵抗となるため、板状部材の上方に配置された傾斜板の間には水が流れ込み難くなる。このため、例えば、流入水が集中する傾斜板装置の前段部に板状部材を配置することにより、前段部に水が流れ込み難くなり後段部に流れ込む流量を増やすことができる。
【0012】
すなわち、流入水が他よりも多くなる傾向がある傾斜板の下方に板状部材を適宜配置することにより、より均等に流量を分配でき流量の偏りを抑制することができる。
また、後段部において傾斜板の間隔を広くする必要がなく、また傾斜板の長さを短くする必要がないため、有効沈降面積を減少させなくてもよく、処理能力の低下を防ぐことができる。
このように、有効沈降面積を低減させずに複数の傾斜板における流量の偏りを抑制することができる。
【0013】
第2の発明に係る固液分離システムは、第1の発明に係る固液分離システムであって、流入部と、流出部と、阻流板と、をさらに備える。流入部は、沈殿池に被処理水が流入する。流出部は、沈殿池から処理水が流出する。阻流板は、傾斜板装置の流入部側に配置されている。板状部材は、阻流板の流出部側に配置されている。板状部材は、最も阻流板側に配置された傾斜板と阻流板との間隔の少なくとも一部に対向している。
【0014】
これにより、傾斜板の間を流れずに、阻流板と傾斜板装置の間を通り傾斜板装置の上側を通って流出部に向かう短絡流を抑制することができる。
【0015】
第3の発明に係る固液分離システムは、第1の発明に係る固液分離システムであって、板状部材は、開口部を有する。
【0016】
これにより、開口部を水が通ることができ、水流に抵抗を与えることができる。従って、流入部側の傾斜板に流量の偏りが生じることを抑制できる。
【0017】
第4の発明に係る固液分離システムは、第3の発明に係る固液分離システムであって、開口部は、開口部が形成されていないと仮定した場合の板状部材の面積に対して5~90%の面積を有する。
これにより、水流に適切に抵抗を与えることができる。
【0018】
第5の発明に係る固液分離システムは、第1~4のいずれかの発明に係る固液分離システムであって、板状部材は、傾斜板の下端部との間の距離が、0~1000mmの間で調整可能に傾斜板装置に接続されている。
【0019】
これにより、適切な位置に板状部材を調整することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、有効沈降面積を低減させずに複数の傾斜板における流量の偏りを抑制することが可能な固液分離システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明にかかる実施の形態における固液分離システムを示す側面図。
【
図2】
図1の固液分離システムの傾斜板装置の構成を模式的に示す斜視図。
【
図4A】
図2の傾斜板装置の配置を矢印D方向に沿って見た正面図。
【
図4B】
図1の下水用傾斜板と短絡流防止板の位置関係を示す平面図。
【
図5】(a)
図3の下水用傾斜板の第2面側を示す平面図、(b)
図3の下水用傾斜板の第1面側を示す平面図。
【
図6】(a)、(b)
図3の短絡流防止板の他の例を示す平面図。
【
図7】(a)、(b)
図3の短絡流防止板の他の例を示す平面図。
【
図8】(a)、(b)
図3の短絡流防止板の他の例を示す平面図。
【
図9】(a)、(b)
図3の短絡流防止板の他の例を示す平面図。
【
図10】(a)
図3の取付部材を示す側面図、(b)
図3の取付部材を矢印D方向に沿って見た正面図。
【
図11】
図2の傾斜板装置において支持棒への下水用傾斜板の取り付けを示す斜視図。
【
図12】
図2の傾斜板装置において支持棒への下水用傾斜板の取り付けを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明による実施の形態の固液分離システムについて、図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
<構成>
(固液分離システム100)
図1は、本実施の形態の固液分離システム100を示す図である。本実施の形態の固液分離システム100は、下水処理場の最終沈殿池Pにおける被処理水Wの固液分離に適用される。
【0024】
図1に示すように、固液分離システム100は、最終沈殿池P(沈殿池の一例)と、傾斜板装置10と、阻流板11と、越流堰12と、水路13と、流入部14と、流出部15と、汚泥掻き寄せ機16と、汚泥ホッパー17と、短絡流防止板18(板状部材の一例)と、取付部材19と、を備える。
【0025】
流入部14は、原水(被処理水W)が最終沈殿池Pに流入する。流出部15は、最終沈殿池Pにおいて流入部14の反対側に設けられており、最終沈殿池Pから浄化された被処理水Wが流出する。
【0026】
傾斜板装置10は、最終沈殿池Pの略中央部から下流側(流出部15側)の部分に配置されている。傾斜板装置10は、複数の下水用傾斜板20を有している。複数の下水用傾斜板20は、水面側を流入部14側に傾けて、上流側から下流側に向かって並んで配置されている。
【0027】
傾斜板装置10は、被処理水Wの水面から所定の深さまで沈み、かつ、最終沈殿池Pの底面との間に所定の空間が確保されるように支持されている。この支持は、桁材などから吊り下げられてもよいし、たとえば図示しない支持体上に載置されてもよい。傾斜板装置10の詳細については後段にて詳述する。
【0028】
阻流板11は、傾斜板装置10の上流側(流入部14側)であって最終沈殿池Pの略中央部分に設けられている。阻流板11は、水面から所定の深さまでの領域内の被処理水Wの下流側(流出部15側)への流れを阻む。阻流板11は、流入部14から流入した水流方向に対して主面略垂直になるように配置されている。
【0029】
越流堰12は、阻流板11よりも下流側(流出部15側)の被処理水Wの水面付近に配置されている。越流堰12は、上流側から下流側に向かう方向に沿って形成されている。
【0030】
水路(トラフ)13は、越流堰12に囲まれて形成されており、流出部15に繋がっている。なお、越流堰12に限らず、管に穴が形成された構成であってもよい。
【0031】
流入部14から最終沈殿池Pに流入してきた被処理水Wは、阻流板11に水流方向(矢印D方向)を阻まれ、阻流板11の下端と最終沈殿池Pの底面との間の部分に向かって下降する。最終沈殿池Pの底面と阻流板11の下端との間を通り抜けた被処理水Wは、水路13に向かう上向流Jとなり、傾斜板装置10の下部10aから下水用傾斜板20の間に流入し上昇する。
【0032】
そして、被処理水Wの汚泥が、傾斜板装置10内を通過する間に沈降し、下水用傾斜板20の第1面20a上に沈殿することにより被処理水Wが浄化される。下水用傾斜板20の第1面20aに沈殿した汚泥は、堆積に伴って自重で落下する。
【0033】
汚泥掻き寄せ機16は、最終沈殿池Pの底面付近に配置されている。最終沈殿池Pの底面付近には沈降した汚泥Mが堆積している。堆積した汚泥Mは、汚泥掻き寄せ機16が、
図1上時計回りに回転することにより汚泥ホッパー17に集められ、排泥される。汚泥掻き寄せ機16は、阻流板11より上流側において、水面付近を通過し、浮遊物も掻き寄せる。
【0034】
汚泥ホッパー17は、最終沈殿池Pの流入部14付近の底面に形成されている。
短絡流防止板18は、傾斜板装置10の下側に配置されている。短絡流防止板18は、傾斜板装置10の前段部への流入水に抵抗を与えて、前段部と後段部における流入する水量の偏りを抑制する。また、短絡流防止板18は、被処理水が傾斜板装置10の下水用傾斜板20の間を通過せずに阻流板11と傾斜板装置10の間を通って傾斜板装置10を短絡することを防止する。
取付部材19は、短絡流防止板18を傾斜板装置10に取り付ける。
【0035】
(傾斜板装置10)
図2は、傾斜板装置10の一部の構成を模式的に示す斜視図である。
図3は、傾斜板装置10および阻流板11を示す側面図である。
図4Aは、傾斜板装置10の方向Dに対して垂直な断面における傾斜板装置10を示す図である。
図4Bは、短絡流防止板18と、下水用傾斜板20の配置関係を示す平面図である。
【0036】
図5(a)は、下水用傾斜板20の第2面20b側を示す平面図である。
図5(b)は、下水用傾斜板20の第1面20a側を示す平面図である。
図2に示すように、傾斜板装置10は、複数の下水用傾斜板20と、一対の上側フレーム21と、一対の下側フレーム22と、複数の支持棒23と、複数のフック24と、を有している。
【0037】
一対の上側フレーム21は、流入部14から流出部15に向かう方向D(所定方向の一例)に沿って配置されている。一対の上側フレーム21は、互いに平行に配置されている。
【0038】
一対の下側フレーム22は、流入部14から流出部15に向かう方向Dに沿って配置されている。一対の下側フレーム22は、互いに平行に配置されている。一対の上側フレーム21は、一対の下側フレーム22よりも水面側に配置される。
【0039】
複数の支持棒23は、一対の上側フレーム21の間に互いに平行に架設されており、一対の下側フレーム22の間にも互いに平行に架設されている。
【0040】
下水用傾斜板20は、一対の上側フレーム21および一対の下側フレーム22に対して傾斜して、上下一対の支持棒23に取り付けられている。
【0041】
下水用傾斜板20は、
図4Aおよび
図4Bに示すように、最終沈殿池Pの幅方向Fに沿って複数枚(図では3枚)配置されている。なお、この場合、例えば、
図4Aにおいて最も左側に配置されている下水用傾斜板20の右側に位置する上側フレーム21および下側フレーム22は、真ん中の下水用傾斜板20の左側に位置する上側フレーム21および下側フレーム22と兼ねられていてもよい。また、
図4Aにおいて最も右側に配置されている下水用傾斜板20の左側に位置する上側フレーム21および下側フレーム22は、真ん中の下水用傾斜板20の右側に位置する上側フレーム21および下側フレーム22と兼ねられていてもよい。
【0042】
上側フレーム21が、上方から吊りボルト31によって係止されて支持されており、吊りボルト31は、幅方向に沿って配置された桁材32に固定されている。また、桁材32は、最終沈殿池Pの対抗する壁面Psに固定されている。このような構成によって、傾斜板装置10は、被処理水Wの水面から所定の深さまで沈み、かつ、最終沈殿池Pの底面との間に所定の空間が確保されるように支持されている。
【0043】
(下水用傾斜板20)
下水用傾斜板20は、概ね長方形状の部材で形成されている。下水用傾斜板20の材質としては、硬質塩化ビニルが好ましいが、これに限るものではない。傾斜板の材質は、たとえば、熱可塑性樹脂、たとえばポリ塩化ビニル等のビニル系樹脂、ポリカーボネート等のカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリプロピレンやポリエチレン等のオレフィン系樹脂、ABS等のスチレン系樹脂あるいはこれらの共重合体や混合樹脂であってもよいし、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂であってもよく、金属、セラミック、木材、ゴム等であってもよい。
【0044】
下水用傾斜板20は、上側フレーム21側の第1面20aと、下側フレーム22側の第2面20bを有する。下水用傾斜板20は、上側フレーム21と下側フレーム22の長さ方向(方向D)に沿って傾斜して複数個並んで配置されている。傾斜板装置10は、下水処理場の最終沈殿池P内において、下側フレーム22を最終沈殿池Pの底面側に向けて設置される。下水用傾斜板20の第2面20bが最終沈殿池Pの底面側に向けられる。
【0045】
下水用傾斜板20は、複数のフック24によって、上下に配置されている支持棒23に係止されて取り付けられる。
下水用傾斜板20は、
図5(a)および
図5(b)に示すように、第1面20aと、第2面20bと、上端部20iと、下端部20jと、第1端部20cと、第2端部20dと、を有する。
【0046】
下水用傾斜板20が、上述した一対の上側フレーム21、一対の下側フレーム22、および支持棒23に取り付けられた際に、
図2に示すように、上端部20iおよび下端部20jは、支持棒23と略平行に配置される。また、上端部20iは、上側フレーム21よりも上方に配置され、下端部20jは、下側フレーム22よりも下方に配置される。
第1端部20cと第2端部20dは、上側フレーム21から下側フレーム22に向かって傾斜して配置される。
【0047】
複数の下水用傾斜板20は、流入部14から最終沈殿池Pに被処理水が流入する方向Dに沿って並んで配置されている。複数の下水用傾斜板20は、隣り合う下水用傾斜板20が互いに対向して平行になるように配置されている。
【0048】
詳細には、複数の下水用傾斜板20は、
図3に示すように、隣り合う下水用傾斜板20のうち一方の下水用傾斜板20の第1面20aと、他方の下水用傾斜板20の第2面20bが対向するように配置されている。
【0049】
各々の下水用傾斜板20は、
図1~
図3に示すように、上方に向かうに従って流入部14側に位置するように傾斜して、一対の上側フレーム21、一対の下側フレーム22、および複数の支持棒23に支持されている。下水用傾斜板20は、
図3に示すように上端部20iが下端部20jよりも流入部14側に位置するように、配置されている。
【0050】
また、側面視において下水用傾斜板20と矢印D方向(本実施の形態では水平方向と一致する)の成す角度θaは、10度以上70度以下であることが好ましく、60度が特に好ましい。下水用傾斜板20と鉛直方向Gのなす角度θbは、20度以上80度以下に設定されていることが好ましく、30度が特に好ましい。
【0051】
当該範囲内であることで、固液分離システムの有効沈降面積を確保できる。
図5(a)に示す下水用傾斜板20の第2面20bには、汚泥の捕捉処理が行われている。ここで、汚泥の捕捉処理とは、被処理水中の汚泥が最終沈殿池Pから流出しないように、下水用傾斜板20の第2面20bを汚泥の滞留し易い状態にする処理である。例えば、傾斜板の表面の粗さを強くすることや、表面に沿った汚泥の動きに沿った方向または直交する方向に凹凸を形成することにより傾斜板の表面に汚泥が付着し易い状態にすることができるが、これに限定されるものではない。表面の粗面化の方法は特に限定されるものではないが、たとえばサンドブラストなどで機械的に加工されていてもよく、或いは、所定の薬剤による微細なエッチング加工または所定の面粗度の型によるプレス加工などであってもよい。また、捕捉処理は、第2面20bの全体に施されていなくてもよい。
【0052】
第2面20bの反対側の第1面20aは、汚泥が滑落し易いように平坦な面であるほうが好ましい。
なお、下水用傾斜板20は、異形押出成形、射出成形などで作成することができるが、押出成形が好ましい。
【0053】
また、下水用傾斜板20の第2面20bには、第1端部20cと第2端部20dのそれぞれに沿って溝部33が設けられている。溝部33内には、フック孔33bが形成されており、フック孔33bには、上述したフック24が装着される。フック孔33bに装着されたフック24によって、傾斜板装置10の支持棒23に下水用傾斜板20が取り付けられる。また、第1面20aには、溝部33に対向する突条部33aが形成されている。
【0054】
(短絡流防止板18)
短絡流防止板18は、傾斜板装置10に流入する水量の偏りを抑制する。
短絡流防止板18は、板状の部材である。短絡流防止板18は、傾斜板装置10の下側に配置されている。
【0055】
短絡流防止板18の材質は、例えば、SUS304で形成する方が好ましいが、これに限られるものではない。短絡流防止板18の材質は、たとえば、熱可塑性樹脂などが好ましく具体的には、ポリ塩化ビニル等のビニル系樹脂、ポリカーボネート等のカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリプロピレンやポリエチレン等のオレフィン系樹脂、ABS等のスチレン系樹脂あるいはこれらの共重合体や混合樹脂であってもよいし、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂であってもよく、金属、セラミック、木材、ゴム等であってもよい。
【0056】
図6(a)は、短絡流防止板18の平面図である。短絡流防止板18の大きさは特に規定されるものではなく、流入水が集中する範囲を覆うように設置すればよい。なお、流入水の偏りを抑制するためには、流速が遅くなる傾斜板装置10の流出部15側(後段部)の下側には短絡流防止板18を設置しないほうが好ましい。短絡流防止板18は、複数の開口部18aを有する。開口部18aの形状および大きさは限定されるものではないが、短絡流防止板18における開口部18aの開口率(%)は、5~90%である方が好ましく、15~50%である方がさらに好ましい。ここで、開口率(%)は、下記数式(1)によって算出される。
開口率(%)=(開口部面積の総和/短絡流防止板の見かけ面積)×100・・・(1)
【0057】
なお、開口部面積の総和とは、開口部1か所あたりの平面積×開口部の数のことである。短絡流防止板の見かけ面積は、開口部が形成されていない場合の短絡流防止板の面積のことである。
【0058】
一例として、
図6(a)に示す短絡流防止板18は、複数の円形の開口部18aを有する。短絡流防止板18における開口部18aの開口率が40%であり、開口部18aが60度千鳥状に配置されている。なお、後述するが、短絡流防止板18は、対向する2辺の縁が下方に向かって折り曲げられた縁部18bを有する。短絡流防止板18の縁部18bは、後述する取付部材19に接触するため、詳細には、短絡流防止板の見かけの面積に、縁部18bは含まれない。
【0059】
短絡流防止板18は、
図3に示すように、矢印D方向に沿って配置されている。短絡流防止板18は、水平方向に沿って配置されているともいえる。また、短絡流防止板18は、複数の下水用傾斜板20の下端部20jに沿うように配置されているともいえる。
【0060】
また、短絡流防止板18は、
図3に示すように、阻流板11の流出部15側であって、阻流板11の下端11eよりも上側に配置されている。その他にも、11eと同じ高さであっても良く、短絡流を抑制できる位置であれば、いかような位置もとりうる。
【0061】
短絡流防止板18は、傾斜板装置10の流入水が集中する部分の範囲を含むように設置されており、例えば、阻流板11近傍に配置されている。
【0062】
図4Aに示すように、幅方向Fについては、傾斜板装置10の全域に対向するように短絡流防止板18は設けられている。短絡流防止板18は、幅方向Fにおいて傾斜板装置10の全体を下方から覆うように配置されているともいえる。なお、本実施の形態では、短絡流防止板18は幅方向Fに沿って複数枚配置されているが、複数枚に限らず1枚であってもよい。
【0063】
図4Bに示す例では、短絡流防止板18は、幅方向Fに沿って3枚配置されており、それぞれの短絡流防止板18の上方に下水用傾斜板20の列が配置されている。
本実施の形態では、
図4Bに示すように、短絡流防止板18は、その一部が平面視において複数の下水用傾斜板20と重なるように配置されている。
【0064】
これによって、短絡流防止板18の上方に配置された下水用傾斜板20の間には水が流れ込み難くなる。このため、例えば流入水が集中する傾向がある傾斜板装置10の前段部に短絡流防止板18を配置することにより、前段部に水が流れ込み難くなり後段部に流れ込む流量を増やすことができ、流量の偏りを抑制できる。
【0065】
また、本実施の形態では、例えば短絡流防止板18は、矢印D方向において、
図3に示すように、複数の下水用傾斜板20のうち一部の下水用傾斜板20を下方に延伸した場合に交差するように配置されている。なお、流入水の集中の緩和および短絡流の防止の観点からは、短絡流防止板18は、最も阻流板11側に配置されている下水用傾斜板20を下方に延伸した場合に交差するように配置されている方がより好ましい。
図3では、側面視において、下水用傾斜板20を下方に延伸した延伸線Lが示されている。
【0066】
本実施の形態では、延伸した場合に短絡流防止板18と交差する一部の下水用傾斜板20は、
図3に示すように、最も阻流板11側に位置する下水用傾斜板20から4番目までの4つ下水用傾斜板20に相当するが、4つに限られるものではなく、流入する水量が多い場所に配置できればよい。
【0067】
なお、短絡流防止板18は、一部の下水用傾斜板20で形成される流路(隣り合う下水用傾斜板20の間)を下側から塞ぐように配置されているともいえる。
【0068】
これにより、流入水が集中する箇所に短絡流防止板18を配置することができる。
また、阻流板11と最も阻流板11側に配置された下水用傾斜板20の下端部20jとの間隔をWとすると、短絡流防止板18は、間隔Wの少なくとも一部に対向するように配置されている方が好ましい。なお、短絡流防止板18が間隔Wの少なくとも一部に対向するとは、短絡流防止板18が平面視において間隔Wの少なくとも一部を塞ぐように配置されているともいえる。また、できるだけ間隔Wの全体に亘って対向するように短絡流防止板18が配置されている方がより好ましい。
【0069】
これにより、下水用傾斜板20の間を流れずに、間隔Wを通り傾斜板装置10の上側を通って流出部15に向かう短絡流を抑制することができる。
【0070】
他の短絡流防止板の例についても以下に示す。なお、
図6(b)~
図9(b)に示す例では、縁部は図示していない。
【0071】
図6(b)に示す短絡流防止板118は、複数の円形の開口部118aを有する。短絡流防止板118における開口部118aの開口率が40%である。短絡流防止板118において開口部118aは角千鳥状に配置されている。
【0072】
図7(a)に示す短絡流防止板218は、複数の円形の開口部218aを有する。短絡流防止板218における開口部218aの開口率が38%である。短絡流防止板218において開口部218aは並列状に配置されている。
【0073】
図7(b)に示す短絡流防止板318は、複数の円形の開口部318aを有する。短絡流防止板318における開口部318aの開口率が25%である。短絡流防止板218において開口部218aは60度千鳥状に配置されている。短絡流防止板318の開口部318aは、短絡流防止板18の開口部18aと比較して大きさは同じであるが開口部間のピッチが長くなっている。
【0074】
図8(a)に示す短絡流防止板418は、複数の長丸孔状の開口部418aを有する。短絡流防止板418における開口部418aの開口率が40%である。短絡流防止板418において開口部418aは千鳥状に配置されている。
【0075】
図8(b)に示す短絡流防止板518は、複数の長角孔状の開口部518aを有する。短絡流防止板518における開口部518aの開口率は44%である。短絡流防止板518において開口部518aは千鳥状に配置されている。
【0076】
図9(a)に示す短絡流防止板618は、複数の六角形状の開口部618aを有する。短絡流防止板618における開口部618aの開口率が40%である。短絡流防止板618において開口部618aは60度千鳥状に配置されている。
【0077】
図9(b)に示す短絡流防止板718は、複数の角孔状の開口部718aを有する。短絡流防止板718における開口部718aの開口率は40%である。短絡流防止板718において開口部718aは並列状に配置されている。
【0078】
(取付部材19)
取付部材19は、短絡流防止板18を傾斜板装置10に取り付ける。
図10(a)は、取付部材19の側面図であり、
図10(b)は、矢印D方向に沿って取付部材19を見た図である。
【0079】
取付部材19は、下側フレーム22に取り付けられる。取付部材19は、第1金具41と、第2金具42と、第3金具43と、を有する。第1金具41は、長板状の部材である。第2金具42は、長板状の部材であり、第1金具41よりも長く形成されている。
【0080】
第1金具41には、上下に配置された2つの貫通孔41aが形成されている。第2金具42には、上下に配置された2つの貫通孔42aと、2つの貫通孔42aよりも下方に配置され上下方向に長い長孔42bが形成されている。
【0081】
第1金具41と第2金具42は、幅方向Fに対向して、スペーサ50を介して下側フレーム22を挟むように下側フレーム22に取り付けられる。
【0082】
第1金具41と第2金具42は、2つの貫通孔41aと2つの貫通孔42aの各々が対向するように配置される。一方の貫通孔41a、42aは、下側フレーム22の上側に位置し、他方の貫通孔41a、42aは下側フレーム22の下側に配置される。スペーサ50は、第1金具41と第2金具42の間であって下側フレーム22の上側および下側に配置されている。スペーサ50には、貫通孔50aが形成されている。貫通孔50aは、貫通孔41aと貫通孔42aと対向するように配置されている。
【0083】
2組の貫通孔41a、42a、50aの各々にボルト44が挿通されており、ナット45がボルト44に嵌められている。このように、第1金具41と第2金具42で下側フレーム22を挟み込むことによって取付部材19が傾斜板装置10に接続されている。
【0084】
第3金具43は、第2金具42と接続される接続部431と、短絡流防止板18を配置する配置部432と、を有する。接続部431は、鉛直方向に長い板状であって、上下に貫通孔431a、431bと、を有する。貫通孔431aは、接続部431の上部に形成されている。ボルト46は、貫通孔431aと長孔42bを挿通し、その先端にナット47が嵌められている。
【0085】
配置部432は、板状であって、接続部431の下端に固定されている。配置部432は、接続部431に対して垂直に配置されている。第3金具43は、矢印D方向に沿って逆T字形状に形成されている。
【0086】
短絡流防止板18は、その縁部18bが下方に向かって折れ曲がっている。短絡流防止板18は、縁部18bが配置部432の上面に配置されるように取付部材19に配置される。縁部18bには貫通孔18cが形成されており、貫通孔18cと第3金具43の貫通孔431bを挿通してボルト48が配置されており、ボルト48の先端にナット49が嵌められている。これによって、短絡流防止板18が、第3金具43に固定されている。
【0087】
また、ナット47を緩めて長孔42b内において、貫通孔431aを挿通しているボルト46を上下方向(矢印参照)にスライド移動させることによって、第2金具42に対する第3金具43の鉛直方向の位置を調整することができる。これによって、短絡流防止板18の傾斜板装置10からの位置を調整することができる。これら第2金具42および第3金具43が、調整機構の一例に対応する。
【0088】
なお、取付部材19は、下水用傾斜板20の下端部20jと短絡流防止板18との間の距離H(
図3参照)が、0~1000mmの間で調整可能に構成されている。
【0089】
このように配置した短絡流防止板18は水流の抵抗となるため、短絡流防止板18の上方に配置された下水用傾斜板20の間には水が流れ込み難くなる。このため、例えば、流入水が集中する傾斜板装置10の前段部に短絡流防止板18を配置することにより、前段部に水が流れ込み難くなり後段部に流れ込む流量を増やすことができる。
【0090】
すなわち、流入水が他よりも多くなる下水用傾斜板20の下方に板状部材を適宜配置することにより、できるだけ均等に流量を分配でき流量の偏りを抑制することができる。
【0091】
また、阻流板11と最も阻流板11側に配置されている下水用傾斜板20の下端部20jとの間隔Wの少なくとも一部に対向するように短絡流防止板18を配置することによって、下水用傾斜板20の間を流れずに、間隔Wを通り傾斜板装置10の上側を通って流出部15に向かう短絡流を抑制することができる。
【0092】
<取り付け方法>
以下に、本発明にかかる実施の形態の下水用傾斜板20の支持棒23への取り付け方法について説明する。
【0093】
図11および
図12は、支持棒23への下水用傾斜板20の取り付けを示す斜視図である。
【0094】
下水用傾斜板20は、
図11に示すように、下側フレーム22の下方から支持棒23の間を通し、
図12に示すように、4つのフック24を支持棒23に係止することによって取り付けられる。
【0095】
このように下方から取り付けることによって、下水用傾斜板20を一対の上側フレーム21の間の支持棒23と一対の下側フレーム22の間の支持棒23に配置することができる。
【0096】
次に、
図10に示すように、下側フレーム22に取付部材19を取り付けた後に配置部432に短絡流防止板18が配置される。そして、ボルト48およびナット49で取付部材19に短絡流防止板18が固定される。なお、取付部材19は、予め下側フレーム22に取り付けられていてもよい。
【0097】
<他の実施の形態>
以上、本発明による実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0098】
(A)
上記実施の形態の下水用傾斜板20は、複数枚の傾斜板に分割されていてもよい。その場合、複数の下水用傾斜板20の間を接続する接続部材が設けられていてもよい。
【0099】
(B)
上記実施の形態では、フック24によって下水用傾斜板20を支持棒23に支持されているが、フックに限らなくてもよく、複数の下水用傾斜板20を並んで配置することができさえすれば支持方法は限定されるものではない。
【0100】
(C)
上記実施の形態では、間隔Wから阻流板11側の一部の下水用傾斜板20の間にわたって矢印D方向において一枚の短絡流防止板18で下方から覆っているが、これに限られるものではなく、複数の短絡流防止板18に分割されていてもよい。また、複数の短絡流防止板に隙間が設けられていてもよい。
【0101】
(D)
上記実施の形態では、短絡流防止板18に縁部18bが設けられているが、縁部18bが設けられていなくてもよく、その場合、例えば配置部432と短絡流防止板18の双方に上下方向に貫通孔を形成し、ボルトとナット等で固定すればよい。
【0102】
(E)
上記実施の形態では、間隔Wと、一部の下水用傾斜板20の間との双方に対向するように短絡流防止板18が配置されているが、間隔Wまたは一部の下水用傾斜板20の間のいずれか一方のみ対向するように配置されていてもよい。
【0103】
(F)
上記実施の形態では、短絡流防止板18は、取付部材19を介して傾斜板装置10に取り付けられているが、これに限られるものではなく、下水用傾斜板20の下端部20jに短絡流防止板18を接続してもよいし、阻流板11の下端に短絡流防止板18を接続してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の固液分離システムは、有効沈降面積を低減させずに複数の傾斜板における流量の偏りを抑制することが可能な効果を発揮し、下水処理施設の最終沈殿池などとして有用である。
【符号の説明】
【0105】
10 :傾斜板装置
11 :阻流板
12 :越流堰
13 :水路
14 :流入部
15 :流出部
16 :機
17 :汚泥ホッパー
18 :短絡流防止板
19 :取付部材
20 :下水用傾斜板
P :最終沈殿池