IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DOWAホールディングス株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人 岡山大学の特許一覧

特許7364190中和シュベルトマナイトの固化体およびその製造方法、並びに中和シュベルトマナイトの固化体を用いた浄化方法
<>
  • 特許-中和シュベルトマナイトの固化体およびその製造方法、並びに中和シュベルトマナイトの固化体を用いた浄化方法 図1
  • 特許-中和シュベルトマナイトの固化体およびその製造方法、並びに中和シュベルトマナイトの固化体を用いた浄化方法 図2
  • 特許-中和シュベルトマナイトの固化体およびその製造方法、並びに中和シュベルトマナイトの固化体を用いた浄化方法 図3
  • 特許-中和シュベルトマナイトの固化体およびその製造方法、並びに中和シュベルトマナイトの固化体を用いた浄化方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】中和シュベルトマナイトの固化体およびその製造方法、並びに中和シュベルトマナイトの固化体を用いた浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/06 20060101AFI20231011BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20231011BHJP
   C04B 14/30 20060101ALI20231011BHJP
   C04B 28/14 20060101ALI20231011BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B01J20/06 C
C02F1/28 B
C04B14/30
C04B28/14
B01J20/30
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020020355
(22)【出願日】2020-02-10
(65)【公開番号】P2020132515
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2019022591
(32)【優先日】2019-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】亀島 欣一
(72)【発明者】
【氏名】石川 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】福田 健作
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-204294(JP,A)
【文献】石川彰彦,機能性物質シュベルトマナイトの用途開発 ~有害物質対策、農業用資材等,JST 岡山大学新技術説明会資料,2016年12月15日,https://shingi.jst.go.jp/list/list_2016/2016_okayama-u.html,発表1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B
B01J 20/00
C02F 1/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中和シュベルトマナイトと石膏とを含む固化体であって、
100質量部の中和シュベルトマナイトに対して、50質量部以上150質量部以下の石膏を含み、
水中で崩壊しない、固化体。
【請求項2】
窒素吸着法によるBET多点法で求めた比表面積が、9.18cm /g以上11.8cm /g以下である、請求項1に記載の固化体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の固化体の製造方法であって、
中和シュベルトマナイトと半水石膏とを混合して混合物を得る工程と、
前記混合物へ水を添加した後、混合してスラリーを得る工程と、
前記スラリーを固化させて、中和シュベルトマナイトと石膏とを含む固化体を得る工程と、を有する固化体の製造方法であり、
100質量部の中和シュベルトマナイトに対して、50質量部以上150質量部以下の半水石膏を混合し、
半水石膏100質量部に対して、200質量部を超え400質量部以下の水を添加する、固化体の製造方法。
【請求項4】
重金属を含有する処理対象の水中へ、請求項1または2に記載の固化体を投入して前記重金属を吸着させた後に、前記水中から前記固化体を分離する浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境中における砒素を初めとする重金属やリンの回収に用いられる吸着材として最適な中和シュベルトマナイトの固化体およびその製造方法、並びに当該中和シュベルトマナイトの固化体を用いた環境の浄化方法に係る。
尚、本発明において固化体とは、大きさが概ね1cm以上で塊状または粒状を有し、水に不溶、且つ、水中で崩壊しない固形物の状態となっていることをいう。
【背景技術】
【0002】
環境中における砒素を初めとする重金属等による汚染は世界的な問題であり、様々な浄化技術や浄化方法が検討され提案されている。
例えば特許文献1には、人工ゼオライトと鉄酸化物とをバインダーにて結合した水質浄化剤が提案されている。
また、本出願人も鉄酸化物であるシュベルトマナイトに注目し、これを中和して化学的安定性を増加させた中和シュベルトマナイトに想到した。そして、特許文献2において当該中和シュベルトマナイトを用いた重金属の固定化方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-168182号公報
【文献】特開2018-47397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
環境の浄化方法は、確かな浄化効果を挙げられる方法であることは勿論であるが、マテリアルコストや施工コストも低廉であることが強く求められる。当該観点から従来技術を検討した本発明者らは、以下の課題に想到した。
【0005】
例えば、特許文献1に記載された水質浄化剤は製造工程が長く複雑である。また、原料にマテリアルコストの高いものを用いていると考えられる。この結果、当該水質浄化剤のマテリアルコストはかなり高価なものになることが懸念される。
【0006】
一方、特許文献2に記載された中和シュベルトマナイトは低廉な原料を用い、比較的単純な工程で製造可能でありながら、化学的にも安定である。従って、低廉なマテリアルコストを実現できると考えられる。
しかし、中和シュベルトマナイトは微細な粒子である。従って、処理対象物(例えば、汚染水)に含まれる砒素を初めとする重金属を吸着し固定した後、当該処理対象物から重金属を吸着固定した中和シュベルトマナイトを分離する工程迄を考える場合は、処理コストが嵩むことが考えられる。
【0007】
本発明は上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、処理対象物中の重金属を固定した後、当該処理対象物から容易に分離出来、且つ、製造も容易な重金属の吸着材とその製造方法、並びに当該吸着材を用いた処理対象物の浄化方法、とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決する為、本発明者らは研究をおこなった。そして、中和シュベルトマナイトは良好な吸着性能を発揮すると共に化学的に安定である上、マテリアルコストも低廉であって、砒素を初めとする重金属等の吸着物質として優れていることを認識した。
ここで、本発明者らは、重金属を固定した中和シュベルトマナイトを処理対象物から容易に分離する手法について、さらに研究をおこなった。そして、石膏を固化材として用いた中和シュベルトマナイトの固化体に想到し本発明を完成した。
【0009】
即ち、上述の課題を解決する第1の発明は、
中和シュベルトマナイトと石膏とを含む固化体である。
第2の発明は、
100質量部の中和シュベルトマナイトに対して、50質量部以上150質量部以下の石膏を含む第1の発明に記載の固化体である。
第3の発明は、
中和シュベルトマナイトと半水石膏とを混合して混合物を得る工程と、
前記混合物へ水を添加した後、混合してスラリーを得る工程と、
前記スラリーを固化させて、中和シュベルトマナイトと石膏とを含む固化体を得る工程
と、を有する固化体の製造方法である。
第4の発明は、
100質量部の中和シュベルトマナイトに対して、50質量部以上150質量部以下の半水石膏を混合する、第3の発明に記載の固化体の製造方法である。
第5の発明は、
半水石膏100質量部に対して、200質量部を超え400質量部以下の水を添加する、第3または第4の発明に記載の固化体の製造方法である。
第6の発明は、
重金属を含有する処理対象の水中へ、第1または第2の発明に記載の固化体を投入して前記重金属を吸着させた後に、前記水中から前記固化体を分離する浄化方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る中和シュベルトマナイトと石膏とを含む固化体は、処理対象物中の重金属を吸着固定した後、当該処理対象物から容易に分離出来た。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1に係る固化体の外観である。
図2】水中における実施例1に係る固化体の外観である。
図3】実施例2に係る固化体の外観である。
図4】水中における実施例2に係る固化体の外観である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、環境中における砒素を初めとする重金属やリンの回収に用いられる吸着材として最適な中和シュベルトマナイトの固化体およびその製造方法、並びに当該中和シュベルトマナイトの固化体を用いた環境の浄化方法に係るものである。
以下、本発明について[1]中和シュベルトマナイト、[2]中和シュベルトマナイトの固化材、[3]中和シュベルトマナイトの固化体、[4]中和シュベルトマナイトの固化体の製造方法、[5]中和シュベルトマナイトの固化体を用いた処理対象物の浄化方法、の順に説明する。
【0013】
[1]中和シュベルトマナイト
本発明に係る中和シュベルトマナイトは、Fe(OH)8-2x(SO(但し、xは1≦x≦1.75である。)構造を示すシュベルトマナイトへ、カルシウム化合物(CaSO、CaCO、CaO、およびCa(OH)から選択されるいずれか1種以上)を反応させて、当該シュベルトマナイトの分子構造中に存在する硫酸イオンの少なくとも一部をカルシウムイオンに置換したものである。
以下、(1)シュベルトマナイトおよび中和シュベルトマナイト、(2)中和シュベルトマナイトの製造方法例、(3)重金属の固定化剤としての中和シュベルトマナイト、の順に説明する。
【0014】
(1)シュベルトマナイトおよび中和シュベルトマナイト
シュベルトマナイトは、砒素を初めとする重金属に対して高い吸着能を有する。しかし、当該シュベルトマナイトは水等に溶解し易く、溶解そして再析出を経ることによりゲータイトへ変異し易い。この結果、当該シュベルトマナイトを、処理対象物である例えば重金属を含有する汚染水へ添加した場合、または、長期間の保存又は輸送を行った場合には、ゲータイトへの変異が起こり、重金属に対する吸着能を発揮できないことがあった。
【0015】
これに対し、本発明に係る中和シュベルトマナイトは、酸性化合物であるシュベルトマナイトを上述したカルシウム化合物で中和し、シュベルトマナイトのカルシウム塩とすることで水との反応性を抑制し耐水性を付与したものである。当該中和反応は容易に進み、生産効率面、コスト面といった観点から実施が容易である。さらに、シュベルトマナイトのカルシウム塩は中性である。この結果、環境へ与える負荷が殆ど無く、好ましい。
【0016】
(2)中和シュベルトマナイトの製造方法例
中和シュベルトマナイトの製造方法例について説明する。
硫化鉄鉱床の鉱山から得られる排水へ第二鉄塩を添加し、さらにアルカリを添加してpHを3~4の範囲とする。そして水酸化第二鉄の沈殿を形成させた後、当該排水を殿物スラリーと上澄水とに分離する(除去工程)。
前記除去工程で得られた上澄水へ鉄酸化細菌を添加し、前記上澄水に含まれる2価鉄を3価鉄へ酸化して処理液を得る(酸化工程)。
前記酸化工程後の処理液をバクテリア酸化殿物スラリーと上澄水とに分離し、得られた酸化工程後の上澄水へ炭酸カルシウムを添加して中和し、pHを4~5の範囲とする(第一の中和工程)。そして、前記第一の中和工程後の液へ消石灰:2水石膏(CaSO・2HO)および/または半水石膏(CaSO・1/2HO)を添加して中和し、pHを7~9の範囲とすることで(第二の中和工程)、本発明に係る中和シュベルトマナイトが得られる。
【0017】
(3)重金属の固定化剤としての中和シュベルトマナイト
本発明に係る中和シュベルトマナイトは、砒素を初めとする重金属を十分に固定化、不溶化出来るものであった。
このメカニズムは現在確認中であるが、シュベルトマナイトの重金属吸着能とカルシウム塩との相乗効果の発現、添加されたカルシウム塩による中和シュベルトマナイトのさらなる安定化効果の発揮、等によるものではないかと推察できる。
【0018】
[2]中和シュベルトマナイトの固化材
上述したように本発明に係る中和シュベルトマナイトは、砒素を初めとする重金属に対する優れた固定化剤である。さらに、未中和のシュベルトマナイトに較べ耐水性も有している。しかしながら、中和シュベルトマナイトは粉体形状を有している為、重金属を含有する処理対象の水中へ当該中和シュベルトマナイトを添加し、重金属を吸着させた後、被処理水と重金属を吸着した中和シュベルトマナイトとを分離する操作を求められた場合に課題がある。
【0019】
当該分離操作としては、自然沈降による分離、遠心分離、さらには、フィルターを用いた濾過分離等が考えられる。しかし、いずれの分離方法を採るにしても、時間や処理コストが嵩むことが考えられる。
【0020】
ここで本発明者らは、適宜な固化材により中和シュベルトマナイトを固体成型して固化体とすることが出来れば、重金属を含有する処理対象の水中へ当該中和シュベルトマナイトの固化体を適用した後、重金属を吸着した当該固化体を容易に、被処理水から分離可能となることに想到した。
【0021】
中和シュベルトマナイトを固体成型する為の固化材として、例えば特許文献1:(0053)~(0054)段落に記載されているような有機高分子系バインダーが考えられる。しかし有機高分子系バインダーを使用した場合、当該固形材のマテリアルコストが高い為、結局、製造される固体成型中和シュベルトマナイトの製造コストが上昇してしまうこととなる。
【0022】
ここで、本発明者らは研究を進め、中和シュベルトマナイトの固化剤として半水石膏(CaSO・1/2HO)を使用する構成に想到した。
半水石膏は水と混合されることにより、数10%以上の気孔率を含んだ状態で固化することから,本手法により中和シュベルトマナイトを内包し、浄化径路を内部に含む中和シュベルトマナイトの固化体を比較的簡便に得ることができるからである。また,原料石膏に廃石膏を活用することで、従来技術よりも安価なマテリアルコストで、環境負荷の低い中和シュベルトマナイトの固化体を用いた、砒素を初めとする重金属やリンの回収技術への応用が期待できることによる。
【0023】
[3]中和シュベルトマナイトの固化体
特許文献1は、(0053)段落の1箇所においてバインダーとしての石膏について、文言的に触れている。しかしながら、特許文献1では、処理水への投入後のpH変化を考慮した為に、石膏の使用には消極的な記載がされている。これは、特許文献1では重金属の固定化剤として、本発明とは異なり未中和のシュベルトマナイトを使用している為、当該未中和のシュベルトマナイトおよび固化材の双方がpHへ与える影響を考慮しなければならない為であると考えられる。
これに対し、本発明においては重金属の固定化剤として中和シュベルトマナイトを用いる構成である為、固化材として半水石膏を用いても、環境への負荷は殆ど無いものである。
当該観点からも、本発明に係る中和シュベルトマナイトを、適宜量の半水石膏を用いて固化させた中和シュベルトマナイトの固化体、および、当該中和シュベルトマナイトの固化体を用いた被処理対象物からの、砒素を初めとする重金属やリンの回収方法は優れたものであると考えられる。
【0024】
[4]中和シュベルトマナイトの固化体の製造方法
中和シュベルトマナイトの固化体の製造方法について、1例を挙げながら説明する。
中和シュベルトマナイトを乳鉢等にて解砕した後、篩にて篩分けして、中和シュベルトマナイト粉体を得る。得られた中和シュベルトマナイト粉体へ半水石膏を加え、十分に混合した後、所定量の脱イオン水を加えて攪拌する。
【0025】
中和シュベルトマナイト粉体へ半水石膏を加える際、中和シュベルトマナイト粉体と、半水石膏との混合比率は100:50~100:150であることが好ましい。
また、中和シュベルトマナイト粉体と半水石膏との混合物へ、脱イオン水を加える際、中和シュベルトマナイト粉体と半水石膏との混合物と、脱イオン水との混合比率は100:200~100:400であることが好ましい。
【0026】
中和シュベルトマナイト粉体と半水石膏と脱イオン水とを攪拌し、好ましくは脱泡してスラリーを得る。得られたスラリーを所望の内寸を有する適宜な型に流し込み、室温にて12時間程度静置して硬化させて固化体を得る。当該固化体を型から離型し、好ましくは50℃程度の雰囲気下で12時間程度乾燥させて、本発明に係る中和シュベルトマナイトの固化体を得る。
【0027】
[5]中和シュベルトマナイトの固化体を用いた処理対象物の浄化方法
本発明に係る中和シュベルトマナイトの固化体を用いた浄化方法の処理対象物としては、まず、砒素を初めとする重金属やリンを含む水が考えられる。そこで、以下、処理対象物が当該砒素等を含む水である場合を例として、中和シュベルトマナイトの固化体を用いた処理対象物の浄化方法について説明する。
【0028】
上述したように、本発明に係る中和シュベルトマナイトの固化体は、固化材として半水石膏を用い数10%以上の気孔率を有し、環境への負荷は殆ど無いものである。
そこで、処理対象物の水へ、本発明に係る中和シュベルトマナイトの固化体の適宜量を直接投入し、当該固化体の内部に含まれる浄化径路において砒素等を吸着させる。当該吸着過程において、中和シュベルトマナイトの固化体は崩壊しない。そこで、当該吸着過程が完了したと考えられる時点で、適宜な目開きを有するメッシュ等を用いて、浄化された処理対象物の水と固化体とを容易に分離することが出来る。
また、中和シュベルトマナイトの固化体の集積体中へ処理対象物の水を通過させて、当該処理対象物の水を浄化することも可能である。
【実施例
【0029】
以下、実施例を参照しながら、本発明をより具体的に説明する。
【0030】
(実施例1)
実施例1について、〈1〉中和シュベルトマナイトの固化体の製造、〈2〉中和シュベルトマナイトのリン酸イオン除去率測定による固化体の特性評価、〈3〉中和シュベルトマナイトの固化体のリン酸イオン除去率測定による特性評価についての説明、〈4〉中和シュベルトマナイトの固化体の砒素除去率測定による特性評価、の順で説明する。
【0031】
〈1〉中和シュベルトマナイトの固化体の製造
「[1]中和シュベルトマナイト、(2)中和シュベルトマナイトの製造方法例」にて説明した製造方法により、中和シュベルトマナイトを製造した。
製造した中和シュベルトマナイトをアルミナ製の乳鉢で解砕し、目開き180μmのステンレス製篩にて篩分けして得た、中和シュベルトマナイト粉体10gを準備した。
一方、半水石膏として市販の半水石膏(A級、吉野石膏(株)製)10gを準備した。
当該中和シュベルトマナイト粉体10gと、半水石膏10gとを100mlのプラスチックカップ内で十分に混合し、そこへ30gの脱イオン水を加えた。
【0032】
当該カップの内容物を、自転公転ミキサー(ARE-310、シンキー(株)製)を用いて2000rpmで30秒間攪拌した。次に、2200rpmで30秒間攪拌して脱泡した。その後、プラスチック棒を用い、60秒間手混ぜ攪拌して、実施例1に係るスラリーとした。
当該スラリーをシリコン製またはプラスチック製の型(内形状:12×12×12mm)に流し込み、25℃にて12時間静置して硬化させて硬化物とした。得られた硬化物を型から離型し、50℃の高温槽にて12時間乾燥させて、実施例1に係る中和シュベルトマナイト固化体(外形状:12×12×12mm)を得た。
当該固化体の外観を図1、水中における固化体の外観を図2、物性値を表1に示す。
【0033】
尚、嵩密度(外形)は、固化体試料の乾燥重量を、当該試料の外寸法から求めた体積で割ることで求めた。
比表面積は窒素吸着法によるBET多点法で求めた。具体的には、比表面積/細孔分布測定装置(マイクロトラックベル製BELSORP-miniII)を使用した。そして、100℃で10時間の真空脱気を施し、液体窒素温度で窒素を低圧から飽和吸着させ、相対圧0.10~0.35の7点におけるBET多点法による解析を行った。
見かけ密度、嵩密度、気孔率はJIS規格Z8807(固体の密度及び比重の測定方法)の「8:液中ひょう量法による密度及び比重の測定方法」に準拠して求めた。
以下、実施例2~5も同様である。
【0034】
〈2〉中和シュベルトマナイトの固化体のリン酸イオン除去率測定による特性評価
リン酸塩としてリン酸二水素カリウム(KHPO)を用い、所定濃度200ppmを有するリン酸溶液を得た。
実施例1に係る中和シュベルトマナイト固化体0.1gと、前記リン酸溶液(所定濃度200ppm)100mlとを混合し、25℃の下、中和シュベルトマナイト固化体とリン酸溶液とを24時間反応させ、リン酸を、十分にシュベルトマナイト固化体へ飽和吸着させた。
【0035】
当該吸着反応の後、反応後の溶液を10ml分取し、25mlのメスフラスコへ移した。このとき、実施例1に係る中和シュベルトマナイト固化体は、溶液中でも崩壊しなかったので、反応後の溶液と中和シュベルトマナイト固化体とは容易に分離が出来た。
【0036】
当該メスフラスコへMo(v)-Mo(vi)試薬を1.0ml加え、標線付近まで脱イオン水を入れた。そして、沸騰水の入ったビーカーに当該メスフラスコを入れ、30分間程度浸漬して試薬を発色させた。
当該メスフラスコを冷却後、脱イオン水を加えて正確に標線合わせを行い試料溶液とした。当該試料溶液の波長830nmの吸光度を吸光光度計(UV-2450、島津製作所(株)製)で測定した。一方、リン酸の標準溶液から得られた検量線から、当該試料溶液のリン酸濃度を求め、実施例1に係る中和シュベルトマナイト固化体のリン酸イオン除去率(1gの固化体が除去するリン酸イオン量(mg))を算出した。当該算出結果を表1に示す。
【0037】
〈3〉中和シュベルトマナイトの固化体のリン酸イオン除去率測定による特性評価についての説明
実施例1において、中和シュベルトマナイト固化体の吸着性能を評価するにあたり、リン酸イオンを砒酸イオンの代替として用いた測定を行った。
良く知られているように、砒素や砒酸は生物への毒性が高い物質であり、取り扱いには格段の配慮が必要である。この為、一般的な設備を有する実験室や研究所では砒素や砒酸の使用が制限されることも多い。一方、砒素の水中形態である砒酸イオン(AsO 3-)は正四面体構造を有するオキソニウムイオンであり、リンの水中形態であるリン酸イオン(PO 3-)と同様の構造を有している。また、砒酸はリン酸と同様の3段階の解離性を示す。
この為、砒酸イオンと同型であり挙動もよく似ているリン酸イオンを用いた。
【0038】
〈4〉中和シュベルトマナイトの固化体の砒素除去率測定による特性評価
本発明に係る中和シュベルトマナイトの固化体の特性評価を、さらに確認する為、上述した中和シュベルトマナイトの固化体のリン酸イオン除去率測定による特性評価に続けて、砒素除去率測定による特性評価を実施した。
【0039】
砒素溶液として、市販のひ素標準液(As1000)[富士フィルム和光純薬(株)製]を用いて、砒素濃度200ppmを有する砒素水溶液を調製した。
実施例1に係る中和シュベルトマナイト固化体0.1gと、前記砒素水溶液(砒素濃度200ppm)100mlとを混合し、25℃の下、中和シュベルトマナイト固化体とリン酸溶液とを24時間反応させ、砒素を、十分にシュベルトマナイト固化体へ飽和吸着させた。
【0040】
当該吸着反応の後、反応後の溶液を分取した。このとき、実施例1に係る中和シュベルトマナイト固化体は、溶液中でも崩壊しなかったので、反応後の溶液と中和シュベルトマナイト固化体とは容易に分離が出来た。
分取された反応後の溶液中の砒素濃度を、誘導結合プラズマ(ICP)質量分析装置(アジレントテクノロジー社製、Agilent 7900 ICP-MS)を用いて分析し、実施例1に係る中和シュベルトマナイト固化体の砒素除去率(1gの固化体が除去する砒素量(mg))を算出した。当該算出結果を表1に示す。
【0041】
(実施例2)
シリコン製またはプラスチック製の型として(内形状:10×10×10mm)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例2に係る中和シュベルトマナイト固化体(外形状:10×10×10mm)を得た。
当該固化体は、水中でも崩壊しなかった。
当該固化体の外観を図3、水中における固化体の外観を図4、物性値を表1に示す。
【0042】
そして実施例1と同様に、当該固化体のリン酸イオン除去率および砒素除去率を測定した。当該測定結果を表1に示す。
【0043】
(実施例3)
自転公転ミキサーを用いた攪拌および脱泡しない以外は実施例2と同様の条件にて、実施例3に係る中和シュベルトマナイト固化体(形状:10×10×10mm)を得た。
当該固化体は、水中でも崩壊しなかった。物性値を表1に示す。
【0044】
そして実施例1と同様に、当該固化体のリン酸イオン除去率および砒素除去率を測定した。当該測定結果を表1に示す。
【0045】
(実施例4)
中和シュベルトマナイト粉体12.5gと、半水石膏10gとを100mlのプラスチックカップ内で十分に混合し、そこへ30gの脱イオン水を加えた。そして、自転公転ミキサーを用いた攪拌および脱泡しない以外は、実施例2と同様の条件にて、実施例4に係る中和シュベルトマナイト固化体(形状:10×10×10mm)を得た。
当該固化体は、水中でも崩壊しなかった。物性値を表1に示す。
【0046】
そして実施例1と同様に、当該固化体のリン酸イオン除去率および砒素除去率を測定した。当該測定結果を表1に示す。
【0047】
(実施例5)
中和シュベルトマナイト粉体15gと、半水石膏10gとを100mlのプラスチックカップ内で十分に混合し、そこへ30gの脱イオン水を加えた。そして、自転公転ミキサーを用いた攪拌および脱泡しない以外は、実施例2と同様の条件にて、実施例5に係る中和シュベルトマナイト固化体(形状:10×10×10mm)を得た。
当該固化体は、水中でも崩壊しなかった。物性値を表1に示す。
【0048】
そして実施例1と同様に、当該固化体のリン酸イオン除去率および砒素除去率を測定した。当該測定結果を表1に示す。
【0049】
(参考例1)
実施例において中和シュベルトマナイト固化体の作成時に用いた、市販の半水石膏自体のリン酸イオン除去率および砒素除去率を測定した。
半水石膏として市販の半水石膏(A級、吉野石膏(株)製)210gを準備した。
当該半水石膏20gを100mlのプラスチックカップ内へ入れ、中和シュベルトマナイト粉体を加えることなく、30gの脱イオン水を加えた以外は、実施例1と同様の操作を実施した。
得られた固化体の物性値を表1に示す。
【0050】
そして実施例1と同様に、当該固化体のリン酸イオン除去率および砒素除去率を測定した。当該測定結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
図1
図2
図3
図4