(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】マルチコア光ファイバ及び光ファイバケーブル
(51)【国際特許分類】
G02B 6/02 20060101AFI20231011BHJP
G02B 6/44 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
G02B6/02 481
G02B6/44 366
(21)【出願番号】P 2020115174
(22)【出願日】2020-07-02
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】坂本 泰志
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆
(72)【発明者】
【氏名】中島 和秀
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 晋聖
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/161825(WO,A1)
【文献】特開2017-009629(JP,A)
【文献】特開2020-046623(JP,A)
【文献】特開2017-167196(JP,A)
【文献】特開2014-010266(JP,A)
【文献】特開2011-197661(JP,A)
【文献】国際公開第2020/004230(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0039627(US,A1)
【文献】YAMADA Y. et al.,Spatial Mode Dispersion Control in a Coupled MCF using High Density Cabling Parameters,2020 Optical Fiber Communications Conference and Exhibition (OFC),2020年05月04日,M4C.5,pp.1-3
【文献】OHARA, T.et al.,Over-1000-channel ultradense WDM transmission with supercontinuum multicarrier source,JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY,2006年06月19日,Vol. 24, No. 6,p.2311-2317,DOI: 10.1109/JLT.2006.874548
【文献】SAKAMOTO, T et al.,Fiber Twisting- and Bending-Induced Adiabatic/Nonadiabatic Super-Mode Transition in Coupled Multicore Fiber,JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY,2016年02月15日,Vol. 34, No. 4,pp.1228-1237
【文献】SAKAMOTO, T et al.,Six-Mode Seven-Core Fiber for Repeated Dense Space-Division Multiplexing Transmission,JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY,2018年03月01日,Vol. 36, No. 5,pp.1226-1232
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02
G02B 6/04-6/08
G02B 6/44
IEEE Xplore
SPIE Digital Library
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア数が3以上であるマルチコア光ファイバであって、
前記コアは、使用波長で複数の伝搬モードを導波でき、
前記コアのうち、前記コアの中心間距離が最短である隣接コアとの間で同一の伝搬モードを結合し、前記隣接コア以外の非隣接コアとの間で異なる伝搬モードを結合すること
、及び
前記コアのそれぞれは、前記マルチコア光ファイバの全長または一部の区間において、数C1を満たす前記非隣接コアを少なくとも1つ持つこと
を特徴とするマルチコア光ファイバ。
【数C1】
ただし、
n
eff,K
は、前記コアを伝搬するK番目(Kは2以上且つ前記コアを伝搬できる伝搬モード数N以下)の伝搬モードの実効屈折率、
Λ
2
は、前記コアと前記非隣接コアとの間の距離、
Rは、実効的な曲げ半径
である。
【請求項2】
前記伝搬モードがLP01モード、LP11aモード、及びLP11bモードである
ことを特徴とする請求項1に記載のマルチコア光ファイバ。
【請求項3】
前記コアのそれぞれは、前記隣接コアとの間で同一の伝搬モードのクロストークが-10dB/km以上であり、
前記実効的な曲げ半径Rが30~140mmの範囲である
ことを特徴とする請求項
1又は2に記載のマルチコア光ファイバ。
【請求項4】
請求項
3に記載のマルチコア光ファイバを備える光ファイバケーブル。
【請求項5】
S撚りもしくはSZ撚り構造のケーブルスロットを有
し、前記マルチコア光ファイバが前記ケーブルスロットに沿って配置されていることを特徴とする請求項
4に記載の光ファイバケーブル。
【請求項6】
複数本の前記マルチコア光ファイバをバンドル材によって結束したファイバユニットが数C2を満たすように内挿される構造を有することを特徴とする請求項
4に記載の光ファイバケーブル。
【数C2】
ただし、
dは前記マルチコア光ファイバ1本当たりの被覆径、
yは前記バンドル材の撚りピッチ、
Duは前記ファイバユニットの外径、
である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つのコアに複数の伝搬モードが存在する結合型の数モードマルチコア光ファイバ及びそれを備える光ファイバケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信システムでは、光ファイバ中で発生する非線形効果やファイバヒューズにより伝送容量が制限される。これらの制限を緩和するために1本の光ファイバ中に複数のコアを有するマルチコアファイバを用いた並列伝送や、コア内に複数の伝搬モードが存在するマルチモードファイバを用いたモード多重伝送といった空間多重技術が検討されている(非特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】H. Takara et al., “1.01-Pb/s (12 SDM/222 WDM/456 Gb/s) Crosstalk-managed Transmission with 91.4-b/s/Hz Aggregate Spectral Efficiency,” in ECOC2012, paper Th.3.C.1 (2012)
【文献】T. Sakamoto et al., “Differential Mode Delay Managed Transmission Line for WDM-MIMO System Using Multi-Step Index Fiber,” J. Lightwave Technol. vol. 30, pp. 2783-2787 (2012).
【文献】Y. Sasaki et al., “Large-effective-area uncoupled few-mode multi-core fiber,” ECOC2012, paper Tu.1.F.3 (2012).
【文献】T. Ohara et al., “Over-1000-Channel Ultradense WDM Transmission With Supercontinuum Multicarrier Source,” IEEE J. Lightw. Technol., vol. 24, pp.2311-2317 (2006)
【文献】T. Sakamoto, T. Mori, M. Wada, T. Yamamoto, F. Yamamoto, and K. Nakajima, “Fiber Twisting- and Bending-Induced Adiabatic/Nonadiabatic Super-Mode Transition in Coupled Multicore Fiber,” J. Lightwave Technol. 34, 1228-1237 (2016).
【文献】T. Sakamoto, T. Mori, M. Wada, T. Yamamoto, F. Yamamoto and K. Nakajima, “Coupled Few-Mode Multicore Fiber With Low Differential Mode Delay Characteristics,” J. Lightwave Technol. 35, 1222-1227 (2017).
【文献】ITU-T Recommendation G.652 Characteristics of a single-mode optical fibre and cable
【文献】ITU-T Recommendation G.650.1 Definitions and test method for linear, deterministic attributes of single-mode fibre and cable
【文献】T. Fujisawa et al., “Group delay spread analysis of coupled-multicore fibers: A comparison between weak and tight bending conditions,” Opt. Commun., vol. 393, no. 9, pp. 232-237, 2017.
【文献】R. Ryf, N. K. Fontaine, B. Guan, R.-J. Essiambre, S. Randel, A. H. Gnauck, S. Chandrasekhar, A. Adamiecki, G.Raybon, B, Ercan, R.P. Scott, S. J. Ben Yoo, T. Hayashi, T. Nagashima, and T. Sasaki, “1705-km transmission over coupled-core fibre supporting 6 spatial modes,” ECOC, paper PD. 3.2 (2014).
【文献】岡本著,光導波路の基礎,コロナ社,ISBN 4-339-00602-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マルチコアファイバを用いた伝送においては、コア間のクロストークが生じると信号品質が劣化するため、クロストークを抑圧するためにコア間を一定以上離さなければならない。一般には、光通信システムで十分な伝送品質を担保するためには、パワーペナルティを1dB以下にすることが望ましく、そのためには非特許文献1または4に記載の通りクロストークは-26dB以下としなければならない。
【0005】
一方で、MIMO技術を用いると受信端においてクロストークを補償することが可能であり、コア間距離を小さくし、クロストークが-26dB以上であっても信号処理によりパワーペナルティを1dB未満とすることができ、空間利用効率を向上させることができる。しかしながら、MIMO技術を適用する場合、伝送路中で発生する複数の信号光間の群遅延差(DMD)に起因する群遅延広がり(GDS)が大きいと、伝送路のインパルス応答幅が大きくなり、信号処理の増大を招く。
【0006】
各コアの構造が単一のモードを伝搬する構造であるシングルモードマルチコアファイバにおいては、非特許文献5に記載の通り、モード間でランダムな結合を誘起させるようコア構造及びコア間距離が調整された結合型シングルモードMCFが検討されている。
【0007】
一般に、同種コアシングルモードMCFであっても、製造誤差により各コアの構造がわずかに異なり、各コアを伝搬するモードの群速度が異なることから、DMDは同種コア構造で設計しても0にはならないが、モード間でランダムな結合を誘起することで、GDSが距離の平方根に比例して大きくなるようになり、主に長距離伝送(100km以上)の伝送においては、GDSを大幅に低減することが可能である。
【0008】
一方で、各コアで複数のモードが伝搬するよう設計された数モードMCFは、限られた光ファイバ断面において多数の空間チャネルを実現することができ、高密度空間多重用ファイバとして期待されており、本ファイバ構造においてもモード間のランダムな結合を誘起する試みがなされている(例えば、非特許文献6)。ただし、当該文献においては、各コアでLP01モードとLP11モードが伝搬するようコア構造が設計され、隣接コア間の同LPモード間でランダムな結合が観測されているが、異なるLPモード間での結合は生じていない。
【0009】
ここで、非特許文献2に記載の通り、数モードMCFの同一コアを伝搬する異なるLPモード間のDMDは屈折率分布を制御することで低減することが可能である。しかし、そのためには屈折率分布の制御を精密に行う必要があり、製造誤差を考えるとDMDを0とすることは困難である。特に通信波長帯全域にわたってDMD=0とすることは極めて困難である。このため、数モードMCFは、伝送距離に比例してGDSが増加し、MIMOの信号処理負荷の増大することになる。
【0010】
一方、数モードMCFの同一コア内の異なるLPモード間について、MIMOの信号処理負荷を低減するための一般的にランダムな結合を誘起する技術はこれまで報告されていない。このため、数モードMCFには、伝送距離に比例してGDSが増大し、MIMOの信号処理負荷を低減することが困難であるという課題がある。
【0011】
そこで、本発明は、上記課題を解決するために、長距離伝送であってもGDSの増大を抑え、MIMOの信号処理負荷を低減することができるマルチコア光ファイバ及び光ファイバケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係るマルチコア光ファイバは、使用波長において単独で複数の伝搬モードを導波できるコアを3つ以上有し、隣接コア間でそれぞれのコアの同一モード間で結合を生じ、非隣接コア間でそれぞれのコアの異なるモード間で結合を生じる構造を備えることとした。
【0013】
具体的には、本発明に係るマルチコア光ファイバは、コア数が3以上であるマルチコア光ファイバであって、
前記コアは、使用波長で複数の伝搬モードを導波でき、
前記コアのうち、前記コアの中心間距離が最短である隣接コアとの間で同一の伝搬モードを結合し、前記隣接コア以外の非隣接コアとの間で異なる伝搬モードを結合する
ことを特徴とする。
【0014】
本マルチコア光ファイバは、複数のモードが伝搬可能なコアが、光ファイバ断面上に3個以上配置されており、曲げ半径、コア構造及びコア間距離を適切に設計することで、同LPモード間及び異なるLPモード間のランダムな結合を誘起することができる。このため、本マルチコア光ファイバはGDSを小さくできる。本マルチコア光ファイバはGDSが小さいため、インパルス応答幅を低減でき、MIMOの信号処理負荷を低減できる。
【0015】
従って、本発明は、長距離伝送であってもGDSの増大を抑え、MIMOの信号処理負荷を低減することができるマルチコア光ファイバを提供することができる。
【0016】
例えば、本発明に係るマルチコア光ファイバは、前記伝搬モードがLP01モード、LP11aモード、及びLP11bモードである。
【0017】
本発明に係るマルチコア光ファイバのコア構造及びコア間距離は次のように設計することが好ましい。
前記コアのそれぞれは、前記マルチコア光ファイバの全長または一部の区間において、数C1をゼロとする前記非隣接コアを少なくとも1つ持つことを特徴とする。
【数C1】
ただし、
n
eff,Kは、前記コアを伝搬するK番目(Kは2以上且つ前記コアを伝搬できる伝搬モード数N以下)の伝搬モードの実効屈折率、
Λ
2は、前記コアと前記非隣接コアとの間の距離、
Rは、実効的な曲げ半径
である。
【0018】
また、本発明に係るマルチコア光ファイバは、前記コアのそれぞれが、前記隣接コアとの間で同一の伝搬モードのクロストークが-10dB/km以上であり、前記実効的な曲げ半径Rが30~140mmの範囲であることが好ましい。
【0019】
一方、本発明に係る光ファイバケーブルは、前記マルチコア光ファイバを備える光ファイバケーブルである。
本光ファイバケーブルは、マルチコア光ファイバの実効的な曲げ半径をケーブル構造により制御する。当該構造によって、マルチコア光ファイバを内挿するだけで所望の曲げ半径を得ることができ、同LPモード間及び異なるLPモード間のランダムな結合を誘起できる。
【0020】
従って、本発明は、マルチコア光ファイバのインパルス応答幅を低減でき、長距離伝送であってもGDSの増大を抑え、MIMOの信号処理負荷を低減することができる光ファイバケーブルを提供することができる。
【0021】
本発明に係る光ファイバケーブルは、前記マルチコア光ファイバを前記ケーブルスロットに沿って配置する、S撚りもしくはSZ撚り構造のケーブルスロットを有することが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る光ファイバケーブルは、複数本の前記マルチコア光ファイバをバンドル材によって結束したファイバユニットが数C2を満たすように内挿される構造を有することが好ましい。
【数C2】
ただし、
dは前記マルチコア光ファイバ1本当たりの被覆径、
yは前記バンドル材の撚りピッチ、
Duは前記ファイバユニットの外径、
である。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、長距離伝送であってもGDSの増大を抑え、MIMOの信号処理負荷を低減することができるマルチコア光ファイバ及び光ファイバケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に関連するマルチコア光ファイバを説明する図である。
【
図2】本発明に関連するマルチコア光ファイバを説明する図である。
【
図3】本発明に係るマルチコア光ファイバの条件を説明する図である。
【
図4】本発明に係るマルチコア光ファイバの条件を説明する図である。
【
図5】本発明に係るマルチコア光ファイバの構造を説明する図である。
【
図6】本発明に係るマルチコア光ファイバの構造を説明する図である。(a)は3コア光ファイバ、(b)は4コア光ファイバ、(c)は5コア光ファイバ、(d)は6コア光ファイバ、(e)は8コア光ファイバである。
【
図7】本発明に係るマルチコア光ファイバの条件を説明する図である。
【
図8】本発明に係るマルチコア光ファイバの条件を説明する図である。
【
図9】本発明に係るマルチコア光ファイバの条件を説明する図である。
【
図10】本発明に係るマルチコア光ファイバの条件を説明する図である。
【
図11】本発明に係るマルチコア光ファイバの条件を説明する図である。
【
図12】本発明に係るマルチコア光ファイバの条件を説明する図である。
【
図13】本発明に係るマルチコア光ファイバの条件を説明する図である。
【
図14】本発明に係るマルチコア光ファイバの条件を説明する図である。
【
図15】マルチコア光ファイバの伝搬モードを説明する図である。
【
図16】本発明に係る光ファイバケーブルを説明する図である。(a)は光ファイバケーブル断面図、(b)はS撚り、(c)はSZ撚りを説明する図である。
【
図17】本発明に係る光ファイバケーブルを説明する図である。(a)は光ファイバケーブル断面図、(b)は光ファイバケーブルの構造、(c)はファイバユニットを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0026】
(発明の趣旨)
図1は、コア数が2であるマルチコア光ファイバ10の断面図である。各コアは、比屈折率差がΔ、コア半径がaである。マルチコア光ファイバ10は、屈折率n1であるコア領域11と、屈折率n2のクラッド領域12において、n1>n2が成り立ち、コア間距離はΛ
1(mm)である。なお、コア間距離とはコアの中心間距離のことである。
【0027】
ここで、n1>n2の条件は、各領域の材料を純石英ガラス、またはゲルマニウム(Ge)やアルミニウム(Al)、リン(P)などの屈折率を増加させる不純物や、フッ素(F)、ボロン(B)などの屈折率を低減させる不純物を添加した石英ガラスを用いることで実現できる。
【0028】
図2は、マルチコア光ファイバ10が曲がっていない状態又は、マルチコア光ファイバ10が曲がっている状態における、屈折率分布を説明する図である。横軸は、マルチコア光ファイバ10の直径方向の座標である。マルチコア光ファイバ10の中心をr=0としている。縦軸は、屈折率である。
【0029】
また、同図に、各伝搬モードの実効屈折率も示す。具体的には、各コアにLP01モード及びLP11モードが伝搬するときの実効屈折率をそれぞれ“n
effLP01”及び“n
effLP11”で示している。マルチコア光ファイバ10が曲がっていない状態(
図2(a))では、いずれの伝搬モードも実効屈折率のコア間差はない。つまり、LP01モードの実効屈折率はいずれのコアでも同じ値であり、LP11モードの実効屈折率もいずれのコアでも同じ値である。ここで、LPモード間の実効屈折率差を“Δ
neff”とする。
【0030】
一方、マルチコア光ファイバ10が曲がった状態(
図2(b))では、いずれの伝搬モードも曲り方向に対して外側のコアの実効屈折率が上昇し、内側のコアの実効屈折率が減少する(図では左側に曲がっている状態を示している)。このため、マルチコア光ファイバ10が曲がった状態では、
図2(b)で示すような傾斜を有する屈折率分布と等価とみなすことができる。
【0031】
図2(b)の右側のコアの実効屈折率は、曲げ半径をR(mm)とすると、
[数1]
n
eff(1+Λ
1/(2R))
となる。また、
図2(b)の左側のコアの実効屈折率は
[数2]
n
eff(1-Λ
1/(2R))
となる。ここで、n
effはLP01又はLP11モードの実効屈折率を示す。
【0032】
異なるLPモード間で結合を生じさせる場合、隣接コアの異なるLPモード間の実効屈折率差Δn
effが重要なパラメータとなる。一方のコアの実効屈折率を基準とした場合、実効屈折率差Δn
effは、
【数3】
となり、コア間距離Λ
1と曲げ半径Rによって決定される。ここで、“n
eff,K”はK番目のモードの実効屈折率である。なお、モードの順番は、LP01モードが1番目、LP11モードが2番目、LP21モードが3番目、LP02モードが4番目である。また、各モードにa,bモードが存在する場合、同じ屈折率なのでモードの順番は同じである(例えば、LP11a、LP11bの実効屈折率は同じなのでいずれも2番目とする。)。
【0033】
式(3)において、K番目及びK+1番目のモード間で“Δneff=0”を満たしていれば、LP01モード及びLP11モード間以外のモード結合にも同様に適用できる。つまり、コアを伝搬するモードは、例に挙げているLP01、LP11モードの場合以外にも、例えば、LP21、LP02モードが伝搬する場合や、それ以上の高次モードが伝搬する構造においても同じである。
【0034】
本発明は、このようなGDS低減効果が得られるようコア構造及びコア間距離が調整されていることを特徴とするマルチコア光ファイバであって、その条件を以降説明する。
【0035】
一般に、隣接コア間の異なる伝搬モード間で結合を生じさせるためには、式(3)に示すΔn
effがゼロとなるように光ファイバを設計する必要がある。
図3は、“異なる伝搬モード”がコア間で結合するための条件を説明する図である。横軸はコア間距離(
図1のマルチコア光ファイバであればΛ
1)、縦軸はΔn
effである。コア半径a=7.5μm、コアの比屈折率差Δ=0.30%として計算している。なお、本図においては、簡単のため式(3)のΔn
effの定義において絶対値を取らない場合の値を示している。
【0036】
ここで、ITU-Tの光ファイバ勧告において記載されているように、一般的な光ファイバの曲げ損失規格は曲げ半径30mm以上で規定されており、それ以下の曲げ半径では損失が増加することになる。また、同じくITU-Tの勧告に記載の遮断波長測定法において用いられている試験時の曲げ半径条件に記載されている通り、ケーブル内の光ファイバの曲げ半径を実効的に140mmとすることが広く知られている。従って、マルチコア光ファイバの曲げ半径Rの条件は、30~140mmとすることが妥当である。
【0037】
図3の結果より、曲げ半径が20mmであると、隣接コア間距離が25μmで異なるLPモード間で結合が生じる条件(“Δn
eff=0”)となる。しかし、先に述べた通り、30mm以下の曲げ半径は好ましくない。曲げ半径30mm以上の領域では、異なるLPモード間で結合が生じる条件(“Δn
eff=0”)となる隣接コア間距離Λ
1が36μm以上必要となる。
【0038】
一方、
図4は、“同じ伝搬モード”がコア間で結合するための条件を説明する図である。横軸はコア間距離(
図1のマルチコア光ファイバであればΛ
1)、縦軸は結合量としてのコア間クロストークである。
図4では伝搬モードとして基本モードのデータを示している。本図でも、コア半径a=7.5μm、コアの比屈折率差Δ=0.30%として計算している。
【0039】
ITU-Tの勧告の光ファイバ曲げ半径Rを30mm以上とすれば、
図3で説明したように“異なる伝搬モード”がコア間で結合するためにコア間距離が36μm以上が求められる。しかし、
図4で示す通り、コア間距離が36μm以上の領域では、コア間のクロストークが-25dB/km以下となる。これは、同じLPモード間の結合量が非常に小さくなる(例えば、-30dB/km以下)ことを意味する。
【0040】
つまり、コアが2つである数モードマルチコア光ファイバの場合、曲げ半径30mm以
上の領域では、異なるLPモード間で結合が生じる条件と同じLPモード間で結合が生じる条件とがトレードオフとなっており、全てのモードが結合する数モードマルチコアを実現することが困難という課題がある。
【0041】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためにコア数を3以上とし、隣接コア間で同一モード間で結合させ、非隣接コア間で異なるモード間で結合させることとした。つまり、本発明に係るマルチコア光ファイバは、コア数が3以上であるマルチコア光ファイバであって、
前記コアは、使用波長で複数の伝搬モードを導波でき、
前記コアのうち、前記コアの中心間距離が最短である隣接コアとの間で同一の伝搬モードを結合し、前記隣接コア以外の非隣接コアとの間で異なる伝搬モードを結合する
ことを特徴とする。
なお、高次モードについては、基本モードよりコア間クロストーク量が大きくなるため、本明細書では最悪条件となる基本モードのクロストークが所望の値以上となることだけを確認することとする。
【0042】
(実施形態1)
本実施形態のマルチコア光ファイバは、前記コアのそれぞれが、前記マルチコア光ファイバの全長または一部の区間において、実効的な曲げ半径Rが数4を満たす前記非隣接コアを少なくとも1つ持つことを特徴とする。
【0043】
ここで、隣接コアと非隣接コアの定義を説明する。
図5は、コア数が6であり、円環状にコアが配置されたマルチコア光ファイバ20の断面を説明する図である。コア半径a、コアの比屈折率差Δについては
図1で説明した定義と同じである。隣接コアとは、コア間距離が最も小さいΛ
1である2つのコアを意味する。そして、非隣接コアとは、隣接コア以外の組み合わせの2つのコアを意味する。Λ
2は非隣接コア間距離と定義する。当然であるが、Λ
2>Λ
1である。図中では例として、対角コア間距離をΛ
2としているが、非隣接コア間であればどのコアの組み合わせでもよい。
【0044】
図6は、マルチコア光ファイバのバリエーションを説明する図である。コア配置には三角格子状、円環上、正方格子上の配置方法があり、それぞれΛ
1とΛ
2の関係が異なる。例えば、6コア構造においては、非隣接コアを対角コアとした場合、Λ
2はΛ
1の2倍となる。
【0045】
本実施形態のマルチコア光ファイバ20は、隣接コアにおいて同一モード間(例えば、LP01モード同士、またはLP11モード同士など)が結合し、非隣接コア間においては、異なるモード間(例えば、LP01-LP11モード間など)で結合するように、Λ1及び、Λ2及びRを調整している。
【0046】
具体的には、次の条件を満たすようにマルチコア光ファイバのΛ
1及び、Λ
2及びRを調整する。
【数4】
ただし、
n
eff,Kは、前記コアを伝搬するK番目(Kは2以上且つ前記コアを伝搬できる伝搬モード数N以下)の伝搬モードの実効屈折率、
Λ
2は、前記コアと前記非隣接コアとの間の距離であって、Λ
1より大きい値、
である。
また、前記実効的な曲げ半径Rは30~140mmの範囲である。
【0047】
図7は、
図1及び
図6に記載の2~6コア光ファイバのコア間距離に対するGDSを説明する図である。横軸はコア間距離Λ
1、縦軸はGDSである。GDSは、当該光ファイバの曲げ半径Rを50mmとし、波長1550nmの信号を1000km伝搬させたときの出射端での群遅延広がりを計算したものである。なお、計算にはプリンシパルモード解析を用いている(例えば、非特許文献9を参照。)。また、各コアはステップ型屈折率分布を有しており、a=7.5μm、Δ=0.30%とした。本構造においては、各コアで1530~1565nmの波長帯でLP01及びLP11モードが伝搬する。
【0048】
ほとんどの構造において、コア間距離が大きくなるとGDSが増大するのに対し、6コア構造においては、コア間距離が30μmの時にGDSが小さくなっていることがわかる。つまり、コア間距離が30μmの6コア光ファイバにおいて、隣接コアとの間で同一の伝搬モードが結合し、非隣接コアとの間で異なる伝搬モードが結合し、ランダムな結合を実現できているといえる。
【0049】
図8は、曲げ半径Rに対するマルチコア光ファイバのコア間距離とGDSとの関係を説明する図である。マルチコア光ファイバとして6コア光ファイバ、曲げ半径Rを50,60,70mmとし、伝搬距離を10kmとしてGDSを計算している。曲げ半径が50mmの条件において、コア間距離が30~34μmの時にGDSが大幅に低減できていることがわかる。
【0050】
この時、円環上に配置された6コア構造においては、例えば、対角コアにおいてΔn
effが0となる条件は、式(4)から式変形を行い、次式で表すことができる。
【数5】
ただし、β
1、β
2は、LP01モード及びLP11モードの伝搬定数である。
なお、伝搬定数と実効屈折率の関係は、kを波数として、
【数6】
となる。
【0051】
つまり、隣接コア間の同一モード間結合条件(例えば
図4)によってΛ
1については上限が定められるのに対し、Λ
2については曲げ半径Rと波長で下限が定められる。Λ
2とΛ
1についてはコア配置によって関係が一意に定まるため、最終的にはΛ
1とΛ
2の上限と下限が定められることになる。
【0052】
式(3)から導出されるΔn
effを0とする隣接コア間距離Λ
1と曲げ半径Rとの関係を
図9に示す。例えば、曲げ半径Rを50mmと仮定した場合は、31μm以上のΛ
1で対角コアの異なるLPモード間で結合させることができ、その結果、
図8に示すようにGDSの低減効果が得られる。
[補足]
図9は、
図6(d)の円環状6コアを想定しているので、Λ
1が決まればΛ
2も一意に決まる。正確に説明すれば、
図9は、非隣接コア間でΔn
eff=0となるための隣接コア間距離Λ
1を示している。他のコア配列でも同様である。
[補足終]
【0053】
図10に、2~6コア構造の場合の隣接コア間距離とGDSの関係を計算したものを示す。伝搬距離は10km、曲げ半径は50mmである。2コアの場合は、非隣接コアが存在しないため、どのコア間距離を設計してもGDSの低減効果は観測されない。正方格子配置の4コア構造においては、式(4)を満たすためのΛ
2は44μmとなり、
図4で示すように隣接コア間の同一モード間クロストークを十分大きくすることができない。6コア構造においては、
図8で示すように特定のコア間距離でGDS低減効果が得られる。
【0054】
図11に6~8コア構造の場合の隣接コア間距離とGDSの関係を計算したものを示す。伝搬距離は10km、曲げ半径は50mmである。7コア構造は三角格子状(円環上に6コア、中央に1コアを配置)、8コア構造は円環上のコア配置である。6コア構造と比較して、コア数が多くなるとΛ
1が小さい領域においてもΛ
2を大きくすることができるため、一般的に設計領域が広くなる。
【0055】
次に、どの程度の結合量でGDSが低減できるかを示す。光増幅器で挟まれた中継区間が一般に40km以上であることを鑑み、伝送距離40kmである時に、コア間クロストーク(結合量)を変化させた時のインパルス応答形状を計算したものを
図12に示す。コア間の群遅延差DMDは仮に1ns/kmとしている。なお、
図12は、隣接コア間でも非隣接コア間でも同様のインパルス応答形状が得られる。
【0056】
ここで、パルス幅はインパルス応答に対して十分小さいものを入力しており(-20dB/kmの場合の両端に存在するピーク波形が入力パルス幅と同じとなる)、出力波形はすべてのコアからの出力光を加算したものを示している。
【0057】
-20dB/kmでは、両端に大きな強度を示すパルスが存在し、その幅は40nsと、累積DMD(1ns/km×40km)と同じ値となっている。-10dB/kmとした場合は、両端のパルス強度が低下しているものの、インパルス応答幅は累積DMDと同じである。
【0058】
一方で、-5dB/km以上の結合量では、インパルス応答形状がガウシアン形状となっている。コア間結合が強い場合はインパルス応答形状がガウス形状となることはよく知られている。-3dB/kmの場合は同様にガウス形状であるが、その幅がさらに小さくなっていることわかる。
【0059】
非特許文献10によるとインパルス応答形状がガウス形状となると、そのインパルス応答幅は距離の平方根に比例し、距離に比例する非結合型のファイバと比較すると、特に長距離伝送においてインパルス応答幅を低減できることが利点である。よって、結合量に対してインパルス応答幅がガウシアンとなる結合量を計算した。
【0060】
図13に、隣接コア間での同一の伝搬モードの結合量とインパルス応答形状をガウス波形でフィッティングした場合の相関係数を算出した結果を示す。
図13より、-10dB/km以上の結合量でインパルス応答は理想的なガウス波形と相関係数が95%以上の形状となる。
【0061】
図14に、結合量とインパルス応答波形のガウスフィッティングにより得られる標準偏差との関係を示す。結合量が大きくなればなるほどインパルス応答幅が小さくなることがわかる。
【0062】
これらの結果から、コア間で-10dB/km以上の結合が得られるとインパルス応答幅は大きく低減可能であり、隣接コア間距離Λ
1は-10dB/km以上の結合が得られるように設計すればよい。コア間クロストーク量XTについては、
【数7】
により計算することができる。つまり、-10dB/km以上のコア間クロストークを得るための隣接コア間距離Λ
1の条件は、
【数8】
となる。ここで、κ
L及びβ
LはL番目のモードの隣接コア間結合係数及び伝搬定数であり、XT=0.1km
-1(-10dB/kmに相当)を代入することで所望の隣接コア間距離Λ
1を求めることができる。曲げ半径Rについては、先に述べたケーブル内の実効的な曲げ半径である140mmとすれば、クロストークの最悪条件における値が算出できる。ただし、コア直径2aに対して隣接コアが接触しないために少なくとも
2a≦Λ
1
とする必要がある。
【0063】
ただし、非特許文献5に記載の通り、コアが近接することでインパルス応答幅が大きくなる現象があるため、経験的には
2a≦2Λ1
程度とすることが望ましい。
【0064】
隣接コア間結合係数κは非特許文献11に記載の通り、各モードの実効屈折率、電界分布から算出することが可能である。マルチコアファイバにおいてはコア間クロストーク量を算出するために一般的に用いられているパラメータである。
【0065】
なお、LP01は基本モード、LP11a及びLP11bモードはそれぞれ縮退した第一高次モードのことであり、
図15に示す電界分布を有している。
【0066】
(実施形態2)
本発明である光ファイバケーブルは、実施形態1で説明したマルチコア光ファイバを内挿する。ケーブル内に内挿されたマルチコア光ファイバは、非隣接コアを対象とした式(4)の条件を満たすように実効的な曲げ半径Rが付与される。
【0067】
例えば、
図16に示すケーブル30の、S撚りもしくはSZ撚り構造のケーブルスロット31にマルチコア光ファイバを配置することで、式(4)を満たす実効的な曲げ半径Rをマルチコア光ファイバに付与できる。
【0068】
また、
図17(a)のような光ファイバケーブルがスロットレス構造のケーブル構造であってもよい。
図17(b)に示すように、複数のマルチコア光ファイバ20をバンドル材41で結束すれば、バンドル材41の張力でマルチコア光ファイバ20に曲げを付与することができる(
図17(c))。
【0069】
図17の光ファイバケーブル40は、次の条件を満たす。マルチコア光ファイバ20の1本当たりの被覆径をd、複数心を結束するテープの撚りピッチをy、結束対象のファイバユニット25の外径をDuとしたとき、実効的な曲げ半径Rに対して
【数9】
を満たす。
【0070】
図16や
図17で説明した光ファイバケーブルによって、マルチコア光ファイバ内の全てのモードのランダム結合を誘起することが実現できる。
【0071】
(発明の効果)
本発明の光ファイバ及び光ファイバケーブルによれば、より小さな面積で多くのコアを配置することができることから、コアの多重度が向上し、伝送容量を拡大する効果を奏する。
【0072】
また、信号伝搬後の群遅延広がりが小さいため、受信端でモード間クロストークを補償するMIMO処理における計算負荷が小さくなるという効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、光伝送システムにおける伝送媒体として利用できる。
【符号の説明】
【0074】
10:マルチコア光ファイバ
11:コア
12:クラッド
20:マルチコア光ファイバ
25:ファイバユニット
30:ケーブル
31:ケーブルスロット
40:光ファイバケーブル
41:バンドル材