(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、モジュール
(51)【国際特許分類】
H03H 9/145 20060101AFI20231011BHJP
H03H 9/25 20060101ALI20231011BHJP
H03H 9/72 20060101ALI20231011BHJP
H03H 9/64 20060101ALI20231011BHJP
H03H 9/17 20060101ALI20231011BHJP
H03H 9/54 20060101ALI20231011BHJP
H03H 9/70 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
H03H9/145 D
H03H9/25 A
H03H9/25 C
H03H9/72
H03H9/64 Z
H03H9/145 C
H03H9/17
H03H9/54 Z
H03H9/70
(21)【出願番号】P 2021155157
(22)【出願日】2021-09-24
【審査請求日】2023-08-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518453730
【氏名又は名称】三安ジャパンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100171077
【氏名又は名称】佐々木 健
(72)【発明者】
【氏名】桑原 英司
【審査官】竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/131360(WO,A1)
【文献】特開2009-290374(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063738(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/131454(WO,A1)
【文献】特開2020-109957(JP,A)
【文献】特許第6940085(JP,B1)
【文献】特開2008-172711(JP,A)
【文献】特開2011-211460(JP,A)
【文献】特開2011-176585(JP,A)
【文献】特開2017-157944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00-9/76
H03H 3/007-3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線基板と、
共振器と、前記共振器に電気的に接続された配線パターンとを有し、前記配線基板と電気的に接続されたデバイスチップと、
前記デバイスチップを封止する封止部と、を備え、
前記配線パターンは、
第1配線層と、
前記第1配線層の上面に接した下層金属層と、前記下層金属層の上面に接した金属層であるパーティション層と、前記パーティション層の上面に接した上層金属層とを有する、第2配線層と、を備え、
前記パーティション層は、前記下層金属層および前記上層金属層よりも電気伝導率が低い金属であ
り、
前記第1配線層の上面の一部を覆う第1絶縁層を備え、
前記下層金属層は、前記第1配線層の上面に接する部分と、前記第1絶縁層を介して前記第1配線層の上面に接する部分と、を有し、
前記第1絶縁層の上面と、前記第2配線層の側面を覆う第2絶縁層を備えた弾性波デバイス。
【請求項2】
前記下層金属層と前記上層金属層の合計の厚みは、前記第1配線層の厚みの6~70倍である請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記第2配線層は階段状部分を有し、前記第2絶縁層は前記階段状部分を覆う
請求項1又は2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記第1配線層は前記第2絶縁層と直接接していない
請求項1から3のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記第2配線層は、前記第1配線層、前記第1絶縁層及び前記第2絶縁層に直接接する
請求項1から3のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記第1絶縁層は、前記第1配線層、前記第2配線層および前記第2絶縁層に直接接する
請求項1から3のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記第1絶縁層の熱膨張係数は、前記第2絶縁層の熱膨張係数より小さい
請求項1から6のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記第2配線層の幅は前記第1配線層の幅より小さい
請求項1から7のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記デバイスチップは、
上面に前記共振器と前記配線パターンとが形成された圧電性基板と、
サファイア、シリコン、アルミナ、スピネル、水晶またはガラスからなり、前記圧電性基板の下面に接する基板と、を備えた
請求項1から8のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
前記デバイスチップは、前記共振器を複数有し、複数の前記共振器が弾性表面波共振器であり、バンドパスフィルタ又はデュプレクサとして機能する、
請求項1から9のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項11】
前記デバイスチップは、前記共振器を複数有し、複数の前記共振器が音響薄膜共振器であり、バンドパスフィルタ又はデュプレクサとして機能する、
請求項1から9のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項12】
前記第1配線層は下からTi、AlCu、Tiが積層した構造であり、
前記下層金属層は下からTi、Alが積層した構造であり、
前記パーティション層はTiであり、
前記上層金属層はAlである、
請求項1から11のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項13】
前記パーティション層は電気伝導率が10×10
6S/m以下の金属であり、
前記下層金属層及び前記上層金属層は、電気伝導率が20×10
6S/m以上の金属を含む、
請求項1から11のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の弾性波デバイスを備えたモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、弾性波デバイスと、その弾性波デバイスを備えるモジュールに関連する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には弾性波装置が開示されている。この弾性波装置は、数十MHz~数GHzの範囲を通過帯域周波数とする高周波フィルタとして提供され得るものである。この弾性波装置は、圧電基板と、圧電基板の上面上に設けられた櫛形電極と、圧電基板の上面上に設けられた第1の配線と、第1の配線の少なくとも一部を覆う有機絶縁体と、有機絶縁体の上面の第1の部分上に設けられた第2の配線と、有機絶縁体の上面の少なくとも第2の部分を覆う無機絶縁体とを備える。櫛形電極の上方に圧電基板を励振するための励振空間が形成され、有機絶縁体の上面の第2の部分は無機絶縁体を介して励振空間に対向する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
配線構造の品質向上が望まれている。例えば、低損失で、信頼性と耐久性が高い配線構造が求められている。
【0005】
本開示は、上述の課題を解決するためになされた。本開示の目的は、品質を高めた配線構造を備える弾性波デバイスと、その弾性波デバイスを有するモジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる弾性波デバイスは、
配線基板と、
共振器と、前記共振器に電気的に接続された配線パターンとを有し、前記配線基板と電気的に接続されたデバイスチップと、
前記デバイスチップを封止する封止部と、を備え、
前記配線パターンは、
第1配線層と、
前記第1配線層の上面に接した下層金属層と、前記下層金属層の上面に接した金属層であるパーティション層と、前記パーティション層の上面に接した上層金属層とを有する、第2配線層と、を備え、
前記パーティション層は、前記下層金属層および前記上層金属層よりも電気伝導率が低い金属であり、
前記第1配線層の上面の一部を覆う第1絶縁層を備え、
前記下層金属層は、前記第1配線層の上面に接する部分と、前記第1絶縁層を介して前記第1配線層の上面に接する部分と、を有し、
前記第1絶縁層の上面と、前記第2配線層の側面を覆う第2絶縁層を備えた弾性波デバイスとした。
【0007】
前記下層金属層と前記上層金属層の合計の厚みは、前記第1配線層の厚みの6~70倍であることが、本開示の一形態とされる。
【0010】
前記第2配線層は階段状部分を有し、前記第2絶縁層は前記階段状部分を覆うことが、本発明の一形態とされる。
【0011】
前記第1配線層は前記第2絶縁層と直接接していないことが、本発明の一形態とされる。
【0012】
前記第2配線層は、前記第1配線層、前記第1絶縁層及び前記第2絶縁層に直接接することが、本開示の一形態とされる。
【0013】
前記第1絶縁層は、前記第1配線層、前記第2配線層および前記第2絶縁層に直接接することが、本開示の一形態とされる。
【0014】
前記第1絶縁層の熱膨張係数は、前記第2絶縁層の熱膨張係数より小さいことが、本開示の一形態とされる。
【0015】
前記第2配線層の幅は前記第1配線層の幅より小さいことが、本開示の一形態とされる。
【0016】
前記デバイスチップは、
上面に前記共振器と前記配線パターンとが形成された圧電性基板と、
サファイア、シリコン、アルミナ、スピネル、水晶またはガラスからなり、前記圧電性基板の下面に接する基板と、を備えたことが、本開示の一形態とされる。
【0017】
前記デバイスチップは、前記共振器を複数有し、複数の前記共振器が弾性表面波共振器であり、バンドパスフィルタ又はデュプレクサとして機能することが、本開示の一形態とされる。
【0018】
前記デバイスチップは、前記共振器を複数有し、複数の前記共振器が音響薄膜共振器であり、バンドパスフィルタ又はデュプレクサとして機能することが、本開示の一形態とされる。
【0019】
前記第1配線層は下からTi、AlCu、Tiが積層した構造であり、
前記下層金属層は下からTi、Alが積層した構造であり、
前記パーティション層はTiであり、
前記上層金属層はAlである、ことが、本開示の一形態とされる。
前記パーティション層は電気伝導率が10×106S/m以下の金属であり、
前記下層金属層及び前記上層金属層は、電気伝導率が20×106S/m以上の金属を含む、ことが、本開示の一形態とされる。
【0020】
前記弾性波デバイスを備えるモジュールが、本開示の一形態とされる。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、配線構造の品質を高めた弾性波デバイスおよびその弾性波デバイスを備えるモジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】弾性波デバイスの構成例を示す断面図である。
【
図6】
図6Aは実施例の配線パターンを示す図である。
図6Bは比較例の配線パターンを示す図である。
【
図8】高周波抵抗値のシミュレーション結果を示す図である。
【
図9】送信信号の減衰量を実測した結果を示す図である。
【
図10】送信信号の減衰量の周波数依存を示す図である。
【
図11】受信信号の減衰量を実測した結果を示す図である。
【
図12】受信信号の減衰量の周波数依存を示す図である。
【
図13】バンプシェア強度の測定結果を示す図である。
【
図14】配線パターンの構成例を示す断面図である。
【
図21】弾性波デバイスの構成例を示す断面図である。
【
図23】弾性波デバイスを有するモジュールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施の形態について添付の図面を参照しつつ説明する。各図中、同一または対応する部分には同一の符号が付され、当該部分の重複説明は適宜に簡略化又は省略される。
【0024】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る弾性波デバイスのうち配線パターン部分の断面図である。圧電体10の上に、第1配線層12と第2配線層19を有する配線パターンが形成されている。第1配線層12は単層又は複層の金属層を有する。第2配線層19は、第1配線層12の上面に接した下層金属層14と、下層金属層14の上面に接した金属層であるパーティション層16と、パーティション層16の上面に接した上層金属層18とを有する。一例によれば、下層金属層14は単層又は複層の金属層を有し、上層金属層18も単層又は複層の金属層を有する。
図1の例では、第2配線層19の幅は第1配線層12の幅より小さくなっている。一例によれば、下層金属層14と上層金属層18の合計の厚みは、第1配線層12の厚みの6~70倍とすることができる。
【0025】
パーティション層16は、下層金属層14と上層金属層18の間に形成される金属層である。一例によれば、パーティション層16は下層金属層14および上層金属層18よりも電気伝導率が低い金属である。別の例によれば、パーティション層16は、第1配線層12、下層金属層14および上層金属層18よりも電気伝導率が低い金属である。例えば、パーティション層16は、Ti、Mn、Pd、Cr、Pt、Snのいずれか1つ、又は複数の材料で形成される。そして、下層金属層14及び上層金属層18は、例えばAg、Cu、Au、Al、Be、Wのいずれか1つ、又は複数の材料を含む。別の例によれば、パーティション層16は電気伝導率が10×106S/m以下の金属であり、下層金属層14及び上層金属層18は、電気伝導率が20×106S/m以上の金属を含む。一例によれば、パーティション層16は、下層金属層14及び上層金属層18のうち電気伝導率が20×106S/m以上の金属部分に接する。なお、第1配線層12についても、電気伝導率が20×106S/m以上の金属を含むものとすることができる。
【0026】
一例によれば、配線パターンを隣接する導体と電気的に絶縁するために、絶縁層20が形成されている。絶縁層20は絶縁体である。
図1の例では、絶縁層20は圧電体10の上と、第1配線層12の側面と、第1配線層12の上面の一部とに形成されている。
【0027】
図2は、弾性波デバイスの構成例を示す断面図である。弾性波デバイス1は配線基板2を備えている。一例によれば、配線基板2は樹脂を含む多層基板である。別の例によれば、配線基板2は複数の誘電体層からなる低温同時焼成セラミックス(Low Temperature Co-fired Ceramics:LTCC)多層基板である。配線基板2の内部にコンデンサ又はインダクタ等の受動素子を形成してもよい。
【0028】
図2の例では、配線基板2は部品実装面である上面に複数の導電性パッド2bを備えている。配線基板2の下面は例えばマザー基板への取り付け面である。配線基板2の下面には複数の導電性パッド2cが設けられている。導電性パッド2bと導電性パッド2cは対応するものどうしが内部導体2a又はビアホール導体で接続される。
【0029】
配線基板2の上には、配線基板2と電気的に接続されたデバイスチップ3がある。デバイスチップ3は例えば表面弾性波デバイスチップである。デバイスチップ3は、圧電材料で形成された圧電基板3aを備えている。前述の圧電体10は圧電基板3aの一部である。一例によれば、圧電基板3aは、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウムまたは水晶などの圧電単結晶で形成された基板である。別の例によれば、圧電基板3aは、圧電セラミックスで形成された基板である。さらに別の例によれば、圧電基板3aは、圧電基板と支持基板とが接合された基板である。支持基板は、例えば、サファイア、シリコン、アルミナ、スピネル、水晶またはガラスで形成された基板である。
【0030】
一例によれば、圧電基板3aは機能素子が形成される基板である。例えば、デバイスチップ3の配線基板2に対向する面である主面(下面)において、受信フィルタと送信フィルタとが形成される。
【0031】
受信フィルタは、所望の周波数帯域の電気信号が通過し得るように形成される。例えば、受信フィルタは、複数の直列共振器と複数の並列共振器からなるラダー型フィルタである。
【0032】
送信フィルタは、所望の周波数帯域の電気信号が通過し得るように形成される。例えば、送信フィルタは、複数の直列共振器と複数の並列共振器からなるラダー型フィルタである。
【0033】
図2には、デバイスチップ3の主面に、配線パターン3bと、周期的に形成された複数の電極3cとが形成された例が示されている。一例によれば複数の電極3cは櫛歯状の電極指であるInterdigital Transducer(IDT)電極である。給電側のリード端子から配線パターンを介してIDT電極に高周波電界を印加することで弾性表面波を励起し、弾性表面波を圧電作用によって高周波電界に変換することによってフィルタ特性を得ることができる。
【0034】
配線パターン3bと導電性パッド2bはバンプ4によって電気的に接続されている。バンプ4は、例えばAu、導電性接着剤又は半田である。
【0035】
弾性波デバイス1は封止部5を備えている。一例によれば、封止部5は、配線基板2とデバイスチップ3の間に空間6を残しつつ、デバイスチップ3を封止する樹脂である。一例によれば、配線基板2にデバイスチップ3を実装し、その後デバイスチップ3の上にデバイスチップ3にまたがるように樹脂シートをのせる。樹脂シートは例えば液状のエポキシ樹脂をシート化したものである。別の例によれば、樹脂シートは、エポキシ樹脂とは異なるポリイミドなどの合成樹脂とすることができる。樹脂シートの上面にポリエチレンテレフタレート(PET)を材料とする保護フィルムを設けたり、樹脂シートの下面にポリエステルを材料とするベースフィルムを設けたりすることができる。デバイスチップ3の上に樹脂シートをのせることで、樹脂シートがデバイスチップ3に仮固定される。その後、樹脂シートを軟化温度まで加熱して樹脂シートをデバイスチップ3の側面と配線基板2の上面に充填する。これは熱ローララミネート法と呼ばれる。その後、樹脂シートを樹脂の硬化温度まで加熱して完全に硬化させる。
【0036】
一例によれば、デバイスチップ3は、共振器を複数有し、その複数の共振器は弾性表面波共振器とすることができる。この場合、デバイスチップ3を、バンドパスフィルタ又はデュプレクサとして機能させることができる。
【0037】
図3は、デバイスチップ3と配線基板2の構成例を示す平面図である。
図3に示されるように、複数の弾性波素子30と配線パターン32が、デバイスチップ3の主面に形成されている。複数の弾性波素子30は、複数の直列共振器S1、S2、S3、S4、S5と複数の並列共振器P1、P2、P3、P4とを含む。
【0038】
一例によれば、複数の直列共振器S1、S2、S3、S4、S5と複数の並列共振器P1、P2、P3、P4とは、送信フィルタとして機能し得るように形成される。その他の直列共振器とその他の並列共振器とをデバイスチップ3に形成し、これらを受信フィルタとして機能させることができる。
【0039】
配線パターン32は、例えば銀、アルミニウム、銅、チタン、パラジウムなどの適宜の金属又は合金により形成される。一例によれば、配線パターン32の少なくとも一部は、
図1の配線パターン構造を有する。別の例によれば、配線パターン32のすべてが、
図1の配線パターン構造を有する。配線パターン32の厚みは、例えば1500nmから4500nmである。
【0040】
配線パターン32は、弾性波素子30と電気的に接続される。配線パターン32は、アンテナ用バンプパッドANTと送信用バンプパッドTxと受信用バンプパッドRxと4つのグランドバンプパッドGNDとを含む。これらのバンプパッドは、実装された際にバンプと電気的に接続する部分である。配線パターン32は、これらのバンプパットだけでなく、バンプパッドと弾性波素子30をつなぐ配線部分をも含む。
【0041】
図4は、弾性波素子30の例を示す図である。
図4に示されるように、IDT31と一対の反射器39とは、デバイスチップ3の第一主面に形成される。IDT31と一対の反射器39とは、弾性表面波を励振し得るように設けられる。
【0042】
一例によれば、IDT31と一対の反射器39とは、アルミニウムと銅の合金で形成される。別の例によれば、IDT31と一対の反射器39とは、チタン、パラジウム、銀などの適宜の金属又はこれらの合金で形成される。さらに別の例によれば、IDT31と一対の反射器39とは、複数の金属層が積層した積層金属膜により形成される。IDT31と一対の反射器39の材料は上述のものに限定されず、例えば、上述の材料の上面と下面にTiを加えることもできる。一例によれば、IDT31と一対の反射器39との厚みは、150nmから400nmである。
【0043】
IDT31は、一対の櫛形電極31aを備える。一対の櫛形電極31aは互いに対向する。櫛形電極31aは、複数の電極指31bとバスバー31cとを備える。複数の電極指31bは、長手方向を合わせて配置される。バスバー31cは、複数の電極指31bを接続する。平面視するとIDT31は一対の反射器39に挟まれている。一例によれば、IDT31と一対の反射器39は、
図1の第1配線層12と同じ材料とすることができる。その場合、IDT31、一対の反射器39及び第1配線層12は、同一プロセスで成膜及びパターニングされる。
【0044】
一例によれれば、このようなSAW(Surface Acoustic Wave)共振器が、配線パターンと電気的に接続される。そして、デバイスチップは配線基板と電気的に接続され、配線基板からの入力信号がデバイスチップでフィルタリングされて配線基板に出力される。
【0045】
図5は、配線パターンの一例を示す断面図である。第1配線層12は、下からTi層12a、AlCu層12b、Ti層12cが積層した構造を有する。下層金属層14は下からTi層14a、Al層14bが積層した構造を有する。パーティション層16はTiである。上層金属層18はAlである。
【0046】
一例によれば、圧電性基板10aと、圧電性基板10aの下面に接する基板10bとを有する基板の上に、配線パターンを形成することができる。一例によれば、圧電性基板10aの上面には、共振器と配線パターンとが形成される。基板10bは、例えば、サファイア、シリコン、アルミナ、スピネル、水晶またはガラスからなる。
図5の例の場合、デバイスチップは、圧電性基板10aと、基板10bと、を備える。
【0047】
図6-13を参照して、実施例と比較例について説明する。
図6Aは実施例の配線パターンの断面図であり、
図6Bは比較例の配線パターン構造の断面図である。
図6Aの配線パターンは、第1配線層12、Ti層、Al層、Ti層、Al層を有する。これらのTi層、Al層、Ti層、Al層が第1配線層12の上にこの順に形成されている。
図6Bの配線パターン構造は、第1配線層12、Ti層、Al層を有する。Ti層とAl層が第1配線層12の上にこの順に形成されている。実施例と比較例のどちらにおいても第1配線層12は、圧電基板の上にTi層、AlCu層、Ti層がこの順に形成された構造を有する。言いかえると、実施例と比較例のどちらにおいても、第1配線層12は、IDTと同じ層構造を有する。
【0048】
図7は、実施例と比較例の各層の層厚を示すテーブルである。比較例1は最表面のAl層が1500nmなのに対し、比較例2は最表面のAl層が4000nmとなっている。実施例1-4については、パーティション層16の厚みが相違している。パーティション層16は、実施例1では110nmであり、実施例2では115nmであり、実施例3では120nmであり、実施例4では150nmである。
【0049】
図8は、実施例1と比較例2の高周波抵抗値のシミュレーション結果を示す図である。
図8から、0.5GHzから8GHzまでのどの周波数においても、実施例1の高周波抵抗値が、比較例2の高周波抵抗値より低くなったことが分かる。したがって、実施例1の配線構造は、比較例2に比べて、配線ロスが少なく、高周波デバイスの配線として好適である。
【0050】
図9は、比較例と実施例について送信信号の減衰量を実測した結果を示す図である。比較例1、2、実施例1-4の各配線構造の各構造について、21個のサンプルを用意し、送信信号の減衰を測定した結果が
図9に示されている。
図9から、比較例1よりも比較例2の方が信号ロスを抑制できることから、下層金属層14のAlを厚膜化することが信号ロスを抑制することが分かる。さらに、比較例1、2よりも、実施例1-4の配線構造の方が信号ロスが少ないことが分かる。したがって、比較例2のように単に下層金属層14のAlを厚膜化することよりも、パーティション層16と上層金属層18を提供することによる厚膜化の方が、送信信号の減衰抑制に効果的であった。また、実施例1、2、3、4について比較すると、実施例1が最も信号ロスが小さく、実施例2は実施例1よりは信号ロスが大きく、実施例3は実施例2よりは信号ロスが大きく、実施例4は実施例3よりは信号ロスが大きくなる、という傾向がみられた。したがって、送信信号のロスを小さくするための配線パターンとして、パーティション層16を薄くすることが効果的であると考えられる。
【0051】
図10は、周波数と、送信信号の減衰量の関係を示す図である。
図10には、比較例1と実施例1について、送信信号の減衰量の周波数依存が図示されている。
図10から、どの周波数においても、実施例1の配線構造の方が、比較例1の配線構造よりも送信信号の減衰が少ないことが分かる。
【0052】
図11は、比較例と実施例について受信信号の減衰量を実測した結果を示す図である。比較例1、2、実施例1-4の各配線構造の各構造について、21個のサンプルを用意し、受信信号の減衰を測定した結果が
図11に示されている。
図11から、比較例1、2よりも、実施例1-4の配線構造の方が信号ロスが少ないことが分かる。さらに、比較例1よりも比較例2の方が信号ロスを抑制できることから、下層金属層14のAlを厚膜化することが信号ロスを抑制することが分かる。しかしながら、比較例2のように単に下層金属層14のAlを厚膜化することよりも、パーティション層16と上層金属層18を提供することによる厚膜化の方が、受信信号の減衰抑制に効果的であった。
【0053】
図12は、周波数と、受信信号の減衰量の関係を示す図である。
図12には、比較例1と実施例1について、受信信号の減衰量の周波数依存が図示されている。
図12から、どの周波数においても、実施例1の配線構造の方が、比較例1の配線構造よりも受信信号の減衰が少ないことが分かる。
【0054】
図13は、バンプのシェア強度試験の結果を示す図である。配線パターンを形成し、その配線パターンの上にバンプを形成し、バンプの接合性を試験するために、シェア試験を実施した。
図13の一番左側の結果を与えたサンプルは、ベースライン(BL:基準)サンプルである。BLサンプルは、1.5μmの厚みのAl層を配線パターンとして、その上にバンプを形成したサンプルである。
図13から、BLサンプルでは、配線パターンが薄いことで、シェア強度が比較的良好であることが分かる。
【0055】
比較例2の場合は、下層金属層14が4.0μmのAl層を含む。この場合、他のサンプルと比較してシェア強度が悪化した。比較例3は、
図7の実施例1の配線パターンと類似の配線パターンであるが、パーティション層16のうち下層金属層14に接する10nmのTiを省略した点で
図7の実施例1の配線構造と相違するものである。したがって、比較例3及び実施例1-4の配線パターンは、パーティション層16のTi層の厚みにおいて相違する。比較例3、第1-第4実施例の順に、パーティション層16が厚くなっていく。比較例3、実施例1-4の配線パターンはすべて十分なシェア強度を与える配線パターンであった。仮にシェア強度の要求値を14.2gとすると、
図13において挙げられたすべてのサンプルはこの要求値を満たす。しかしながら、比較例2は、比較例3、実施例1-4と比べて、シェア強度に明確な低下傾向がみられた。比較例2は、配線パターンを一層のAl層だけによって厚膜化した。この場合、Al層とAuバンプが厚いAl-Au化合物を構成し、ボイドや結晶粒粗大化が生じることが、シェア強度を低下させると考えられる。これに対し、比較例3、実施例1-4では、2つのAl層の間にパーティション層16を加えて配線パターンを厚膜化した。この場合、Al層とAuバンプの化合物の形成が、パーティション層によって抑制される。よって、良好なシェア強度が得られる。このことから、高いシェア強度を得るためには、配線パターンの中間層としてパーティション層を加えることが効果的であることが分かる。
【0056】
実施の形態2.
図14は、実施の形態2に係る配線パターンの構成例を示す断面図である。第1絶縁層40は、第1配線層12の上面の一部を覆っている。下層金属層14は、第1配線層12の上面に接する部分と、第1絶縁層40を介して第1配線層12の上面に接する部分と、を有する。第2絶縁層42は、第1絶縁層40の上面と、第2配線層19の側面を覆っている。一例によれば、第2絶縁層42は、上層金属層18の上面の少なくとも一部を露出させる。
【0057】
図14の第2配線層19は階段状に形成されている。第2絶縁層42はこの階段状部分を覆っている。
図14の例では、第1配線層12は第2絶縁層42と直接接していない。第2配線層19は、第1配線層12、第1絶縁層40及び第2絶縁層42に直接接している。また、第1絶縁層40は、第1配線層12、第2配線層19および第2絶縁層42に直接接している。このように、
図14の配線パターンは第1絶縁層40と第2絶縁層42によって覆われている。一例によれば、第1絶縁層40の熱膨張係数を、第2絶縁層42の熱膨張係数より小さくすることができる。これにより、第2絶縁層42が剥がれることを抑制できる。
【0058】
図14に示される幅X1は、第1配線層12と下層金属層14の幅の差である。幅X1は例えば1.5μmである。幅X2は、第1絶縁層40と下層金属層14の重なり幅である。幅X2は例えば2.0μmである。幅X3は、第2絶縁層42とパーティション層16の重なり幅である。幅X3は例えば2.0μmである。幅X4は、第2絶縁層42と上層金属層18の重なり幅である。幅X4は例えば2.0μmである。
【0059】
図15-20を参照して、実施形態2に係る配線パターンの製造方法を説明する。まず、第1配線層12をパターニングし、第1絶縁層40を形成する。次いで、
図15に示されるように、第1フォトレジストPR1を形成する。第1フォトレジストPR1は、第1配線層12の一部と第1絶縁層40の一部を露出させる。
【0060】
次いで、下層金属層14を形成する。
図16は、下層金属層14を形成したことを示す断面図である。一例によれば、下層金属層14は、厚さ100nmのTi層と、Ti層の上に形成された厚さ1500nmのAlCu層を含む。下層金属層14の形成に伴い、第1フォトレジストPR1の上にも金属層14eが形成される。
【0061】
次いで、1回目のリフトオフを行う。これにより、第1フォトレジストPR1と金属層14eが除去される。
図17は、1回目のリフトオフ後の断面図である。次いで、第2フォトレジストを形成する。
図18は、第2フォトレジストPR2を示す図である。第2フォトレジストPR2は下層金属層14の一部を露出させる。
【0062】
次いで、パーティション層16と上層金属層18を形成する。
図19は、パーティション層16と上層金属層18を形成したことを示す図である。一例によれば、パーティション層16は厚さ100nmのTi層であり、上層金属層18は厚さ1500nmのAlCu層である。パーティション層16と上層金属層18の形成に伴い、第2フォトレジストPR2の上に金属層17が形成される。
【0063】
次いで、2回目のリフトオフを行う。これにより、第2フォトレジストPR2と金属層17が除去される。
図20は、2回目のリフトオフ後の断面図である。次いで、必要に応じて第2絶縁層42を形成する。この製造方法によれば、パーティション層16の幅は上層金属層18の幅と一致する。別の例によれば、
図14に示されるように、パーティション層16の幅と下層金属層14の幅を一致させてもよい。
【0064】
実施の形態3.
図21は実施の形態3に係る弾性波デバイスの縦断面図である。
図21に示されるように、弾性波デバイス50は、第1デバイスチップ51と第2デバイスチップ52とを備える。一例によれば、第1デバイスチップ51と第2デバイスチップ52とは、バンドパスフィルタとして機能する。例えば、第1デバイスチップ51は、送信フィルタと受信フィルタとのうちの一方として機能する。第2デバイスチップ52は、送信フィルタと受信フィルタとのうちの他方として機能する。
【0065】
第1デバイスチップ51と第2デバイスチップ52は、実施の形態1のデバイスチップ3とほぼ同じ構成とすることができる。第1デバイスチップ51は、例えば、実施の形態1と同じ弾性波素子30を備える。具体的には、第1デバイスチップ51には、複数の弾性表面波共振器からなるバンドパスフィルタが形成される。第2デバイスチップ52は、例えば、実施の形態1と同じ弾性波素子30を備える。具体的には、第1デバイスチップ51には、複数の弾性表面波共振器からなるバンドパスフィルタが形成される。
【0066】
別の例によれば、第2デバイスチップ52は、実施の形態1と異なる弾性波素子を備える。具体的には、第2デバイスチップ52には、複数の音響薄膜共振器からなるバンドパスフィルタが形成される。
【0067】
図22には、第2デバイスチップ52の弾性波素子が音響薄膜共振器である例が示されている。
図22において、第2デバイスチップ52は、チップ基板60を備えている。チップ基板60は、例えばシリコン等の半導体基板、または、サファイア、アルミナ、スピネルもしくはガラス等の絶縁基板である。圧電膜62は、チップ基板60上に設けられている。圧電膜62は、例えば窒化アルミニウムで形成されている。下部電極64と上部電極66とが、圧電膜62を挟むように設けられている。下部電極64と上部電極66とは、例えばルテニウム等の金属で形成される。空隙68は、下部電極64とチップ基板60との間にある空間である。音響薄膜共振器において、下部電極64と上部電極66とは、圧電膜62の内部に厚み縦振動モードの弾性波を励振する。この場合、第2デバイスチップ52は、共振器を複数有し、複数の共振器が音響薄膜共振器として機能する。第2デバイスチップ52は、バンドパスフィルタ又はデュプレクサとして機能させることができる。
【0068】
以上で説明された実施の形態3によれば、第2デバイスチップ52には、複数の弾性表面波共振器からなるバンドパスフィルタが形成され得る。また、第2デバイスチップ52には、複数の音響薄膜共振器からなるバンドパスフィルタが形成され得る。第1デバイスチップ51と第2デバイスチップ52の両方において、前述の配線パターンを採用し得る。
【0069】
実施の形態4.
図23は、弾性波デバイスを有するモジュール100の縦断面図である。モジュール100は、配線基板130と、集積回路部品ICと、弾性波デバイス101と、インダクタ111と、封止部117とを備える。一例によれば、配線基板130は、実施の形態1で説明した配線基板2と同等とすることができる。集積回路部品ICは、配線基板130の内部に実装される。一例によれば、集積回路部品ICは、スイッチング回路とローノイズアンプとを含む。
【0070】
弾性波デバイス101は、配線基板130の主面に実装されている。弾性波デバイス101として、上述したいくつかの弾性波デバイスのうち、任意の弾性波デバイスを採用することができる。すなわち、弾性波デバイス101の配線パターンは、パーティション層16を有する。
【0071】
インダクタ111は、配線基板130の主面に実装されている。インダクタ111は、インピーダンスマッチングのために実装される。例えば、インダクタ111は、Integrated Passive Device(IPD)である。封止部117は弾性波デバイス101を含む複数の電子部品を封止する。
【0072】
少なくとも一つの実施形態のいくつかの側面が説明されたが、様々な改変、修正および改善が当業者にとって容易に想起されることを理解されたい。かかる改変、修正および改善は、本開示の一部となることが意図され、かつ、本開示の範囲内にあることが意図される。
【0073】
理解するべきことだが、ここで述べられた方法および装置の実施形態は、上記説明に記載され又は添付図面に例示された構成要素の構造および配列の詳細への適用に限られない。方法および装置は、他の実施形態で実装し、様々な態様で実施又は実行することができる。
【0074】
特定の実装例は、例示のみを目的としてここに与えられ、限定されることを意図しない。
【0075】
本開示で使用される表現および用語は、説明目的であって、限定としてみなすべきではない。ここでの「含む」、「備える」、「有する」、「包含する」およびこれらの変形の使用は、以降に列挙される項目およびその均等物並びに付加項目の包括を意味する。
【0076】
「又は(若しくは)」の言及は、「又は(若しくは)」を使用して記載される任意の用語が、当該記載の用語の一つの、一つを超える、およびすべてのものを示すように解釈され得る。
【0077】
前後左右、頂底上下、横縦、表裏への言及は、いずれも、記載の便宜を意図する。当該言及は、本開示の構成要素がいずれか一つの位置的又は空間的配向に限られるものではない。したがって、上記説明および図面は、例示にすぎない。
【符号の説明】
【0078】
1 弾性波デバイス、 2 配線基板、 3 デバイスチップ、 4 バンプ、 5 封止部、 12 第1配線層、 14 下層金属層、 16 パーティション層、 18 上層金属層、 19 第2配線層、 30 弾性波素子、 32 配線パターン