IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -蓄電池用薄膜集電体 図1
  • -蓄電池用薄膜集電体 図2
  • -蓄電池用薄膜集電体 図3
  • -蓄電池用薄膜集電体 図4
  • -蓄電池用薄膜集電体 図5
  • -蓄電池用薄膜集電体 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】蓄電池用薄膜集電体
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/20 20060101AFI20231011BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231011BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20231011BHJP
   C25D 5/10 20060101ALI20231011BHJP
   C25D 5/48 20060101ALI20231011BHJP
   C25D 5/56 20060101ALI20231011BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20231011BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C23C18/20 Z
C09D7/61
C09D201/00
C25D5/10
C25D5/48
C25D5/56 A
C25D7/00 G
H01M4/66 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023010753
(22)【出願日】2023-01-27
【審査請求日】2023-04-05
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】594014513
【氏名又は名称】帝国イオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 孝司
(72)【発明者】
【氏名】北條 将史
(72)【発明者】
【氏名】寺下 光彦
(72)【発明者】
【氏名】川脇 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】中村 綾佑
(72)【発明者】
【氏名】中辻 達也
(72)【発明者】
【氏名】中澤 悠人
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-103475(JP,A)
【文献】特開2013-209643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-18/54
C25D 5/00-7/12
H01M 4/64-4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池用薄膜集電体の製造方法であって、
(1)薄膜基材の上面及び下面に、無電解めっき用塗料組成物を塗布する事に依り、塗膜を形成する工程、及び
(2)工程(1)の後、前記塗膜に無電解めっきを施す事に依り、無電解めっき皮膜を形成する工程を含み、
前記無電解めっき用塗料組成物は、
(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、
(2)溶媒、及び
(3)バインダー樹脂を含有し、
更に、
(4)前記蓄電池用薄膜集電体に、
切断の圧力を掛ける事に依り、前記蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、切断面を介してめっきが繋がり、導電性を付与する工程を含む、製造方法。
【請求項2】
前記薄膜基材は、厚みが1μm~10μmである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記薄膜基材は、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリサルホン、ポリイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート、及び不織布から成る群から選ばれる少なくとも一種の薄膜基材である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
更に、(3)工程(2)の後、工程(4)の前に、前記無電解めっき皮膜に、電気めっきを施す事に依り、電気めっき皮膜を形成する工程
を含む、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池用薄膜集電体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、(2)溶媒、及び(3)バインダー樹脂を含有し、前記複合体は、分散剤の存在下、パラジウムイオンを還元する事に依って得られ、前記溶媒は、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミドからなる群から選ばれた少なくとも1種を含み、前記バインダー樹脂が、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂及びポリイミド樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種である、無電解めっき用塗料組成物を開示する。
【0003】
この無電解めっき用塗料組成物を用いると、簡便に、効率的に無電解めっき用塗膜を形成する事を可能とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5422812号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新たに、蓄電池用薄膜集電体を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討した結果、無電解めっき用塗料組成物を用いて、蓄電池用薄膜集電体を作成する事に依り、軽量で、容量が大きな蓄電池用薄膜集電体を作成する事が出来るという技術を開発した。
【0007】
即ち、本発明は、次の蓄電池用薄膜集電体を包含する。
【0008】
項1.
蓄電池用薄膜集電体の製造方法であって、
(1)薄膜基材の上面及び/又は下面に、無電解めっき用塗料組成物を塗布する事に依り、塗膜を形成する工程、及び
(2)工程(1)の後、前記塗膜に無電解めっきを施す事に依り、無電解めっき皮膜を形成する工程
を含み、
前記無電解めっき用塗料組成物は、
(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、
(2)溶媒、及び
(3)バインダー樹脂、
を含有する、製造方法。
【0009】
項2.
前記薄膜基材は、厚みが1μm~10μmである、前記項1に記載の製造方法。
【0010】
項3.
前記薄膜基材は、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリサルホン、ポリイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート、及び不織布から成る群から選ばれる少なくとも一種の薄膜基材である、前記項1に記載の製造方法。
【0011】
本発明の蓄電池用薄膜集電体は、薄膜基材、無電解めっき用塗料組成物の塗膜、及び無電解めっき皮膜(Niめっき、又はCuめっき)と成る3層構造であっても良い(図1)。
【0012】
項4.
更に、(3)工程(2)の後、前記無電解めっき皮膜に、電気めっきを施す事に依り、電気めっき皮膜を形成する工程
を含む、前記項1に記載の製造方法。
【0013】
本発明の蓄電池用薄膜集電体は、薄膜基材、無電解めっき用塗料組成物の塗膜、無電解めっき皮膜(Niめっき、又はCuめっき)、及び電気めっき皮膜(Niめっき、又はCuめっき)と成る4層構造であっても良い(図2)。
【0014】
項5.
更に、(4)工程(3)の後、前記電気めっき皮膜に、装飾電気めっきを施す事に依り、装飾電気めっき皮膜を形成する工程
を含む、前記項4に記載の製造方法。
【0015】
本発明の蓄電池用薄膜集電体は、薄膜基材、無電解めっき用塗料組成物の塗膜、無電解めっき皮膜(Niめっき、又はCuめっき)、電気めっき皮膜(Niめっき、又はCuめっき)、及び装飾電気めっき皮膜(クロムめっき、又は金めっき)と成る5層構造であっても良い(図3)。
【0016】
項6.
更に、(5)前記蓄電池用薄膜集電体の基材の厚み方向に、
貫通する孔、及び/又は溝、及び/又は、
貫通しない孔、及び/又は溝を形成する工程、
を含む、前記項1、4、又は5に記載の製造方法。
【0017】
蓄電池用薄膜集電体の基材の厚み方向に、貫通する孔、及び/又は溝を形成する事に依り、蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、貫通する孔、及び/又は溝を介してめっきが繋がり、導電性を付与する(図1~3)。
【0018】
項7.
更に、(6)前記蓄電池用薄膜集電体に、
切断の圧力を掛ける事に依り、前記蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、切断面を介してめっきが繋がり、導電性を付与する工程、
を含む、前記項1、4、又は5に記載の製造方法。
【0019】
蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、切断面を介してめっきが繋がり、導電性を付与する事が出来れば良く、その切断面の形状は、特に限定されない。
【0020】
項8.
更に、(7)前記蓄電池用薄膜集電体の端面に、
無電解めっき、及び/又は電気めっきを施す事に依り、前記薄膜蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、前記端面を介してめっきが繋がり、導電性を付与する工程、
を含む、前記項1、4、又は5に記載の製造方法。
【0021】
蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、端面を介してめっきが繋がり、導電性を付与する事が出来れば良く、その端面の形状は、特に限定されない。
【0022】
項9.
前記項1、4、又は5に記載の製造方法に依って製造される、蓄電池用薄膜集電体。
【0023】
項10.
前記項6に記載の製造方法に依って製造される、蓄電池用薄膜集電体。
【0024】
項11.
前記項7に記載の製造方法に依って製造される、蓄電池用薄膜集電体。
【0025】
項12.
前記項8に記載の製造方法に依って製造される、蓄電池用薄膜集電体。
【0026】
本発明の蓄電池用薄膜集電体を巻回構造とする事に依り、表面積が増え、より容量が大きな蓄電池用薄膜集電体を作成する事が出来る。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、新たに、蓄電池用薄膜集電体を提供する事が出来る。
【0028】
本発明は、無電解めっき用塗料組成物を用いて、蓄電池用薄膜集電体を作成する事に依り、軽量で、容量が大きな蓄電池用薄膜集電体を作成する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の蓄電池用薄膜集電体の使用態様を説明する図である。蓄電池用薄膜集電体は、薄膜基材、無電解めっき用塗料組成物の塗膜、及び無電解めっき皮膜(Niめっき、又はCuめっき)と成る3層構造である。蓄電池用薄膜集電体の基材の厚み方向に、貫通する孔を有し、蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、貫通する孔を介して、めっきが繋がり、導電性が付与された蓄電池用薄膜集電体である。
図2】本発明の蓄電池用薄膜集電体の使用態様を説明する図である。蓄電池用薄膜集電体は、薄膜基材、無電解めっき用塗料組成物の塗膜、無電解めっき皮膜(Niめっき、又はCuめっき)、及び電気めっき皮膜(Niめっき、Cuめっき)となる4層構造である。蓄電池用薄膜集電体の基材の厚み方向に、貫通する孔を有し、蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、貫通する孔を介して、めっきが繋がり、導電性が付与された蓄電池用薄膜集電体である。
図3】本発明の蓄電池用薄膜集電体の使用態様を説明する図である。蓄電池用薄膜集電体は、薄膜基材、無電解めっき用塗料組成物の塗膜、無電解めっき皮膜(Niめっき、又はCuめっき)、電気めっき皮膜(Niめっき、Cuめっき)、及び装飾電気めっき(クロムめっき,金めっき)となる5層構造である。蓄電池用薄膜集電体の基材の厚み方向に、貫通する孔を有し、蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、貫通する孔を介して、めっきが繋がり、導電性が付与された蓄電池用薄膜集電体である。
図4】本発明の蓄電池用薄膜集電体の使用態様を説明する図である。(蓄電池用薄膜集電体1の孔断面)電子顕微鏡を用いて、蓄電池用薄膜集電体1の基材の厚み方向に、貫通する孔を形成し、貫通する孔は、蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、貫通する孔の内壁を介して、めっきが繋がっている事を確認した。
図5】本発明の蓄電池用薄膜集電体の使用態様を説明する図である。(蓄電池用薄膜集電体3の切断面)電子顕微鏡を用いて、蓄電池用薄膜集電体3に、切断の圧力を掛ける事に依り、蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、切断面を介して、めっきが繋がっている事を確認した。
図6】本発明の蓄電池用薄膜集電体の使用態様を説明する図である。(蓄電池用薄膜集電体4の端面)電子顕微鏡を用いて、蓄電池用薄膜集電体4の端面に、無電解めっき、次いで電解めっきを施す事に依り、蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、端面を介して、めっきが繋がっている事を確認した。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0031】
本発明を表す実施の形態は、発明の趣旨がより良く理解出来る説明であり、特に指定のない限り、発明内容を限定するものではない。
【0032】
本明細書において、「含む」及び「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0033】
本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0034】
本明細書において、部、%等の表示を使用し、質量部又は質量%(wt%)を表す。
【0035】
[1]蓄電池用薄膜集電体の製造方法
本発明の蓄電池用薄膜集電体の製造方法は、
(1)薄膜基材の上面及び/又は下面に、無電解めっき用塗料組成物を塗布する事に依り、塗膜を形成する工程、及び
(2)工程(1)の後、前記塗膜に無電解めっきを施す事に依り、無電解めっき皮膜を形成する工程を含む。
【0036】
薄膜基材の上面及び/又は下面に塗布する無電解めっき用塗料組成物は、
(a)パラジウム粒子と分散剤との複合体、
(b)溶媒、及び
(c)バインダー樹脂を含有する。
【0037】
本発明の蓄電池用薄膜集電体の製造方法では、前記薄膜基材は、好ましくは、厚みが1μm~10μmである。
【0038】
本発明の蓄電池用薄膜集電体の製造方法では、前記薄膜基材は、好ましくは、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリサルホン、ポリイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、及び不織布から成る群から選ばれる少なくとも一種の薄膜基材である。
【0039】
本発明の蓄電池用薄膜集電体の製造方法は、好ましくは、更に、(3)前記薄膜基材、及び/又は蓄電池用薄膜集電体の基材の厚み方向に、
貫通する孔、及び/又は溝、及び/又は、
貫通しない孔、及び/又は溝を形成する工程を含む。
【0040】
本発明の蓄電池用薄膜集電体の製造方法は、好ましくは、更に、(4)前記薄膜基材、及び/又は蓄電池用薄膜集電体に、
切断の圧力を掛ける事に依り、前記薄膜基材、及び/又は蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、めっきが繋がり、導電性を付与する工程を含む。
【0041】
本発明の蓄電池用薄膜集電体の製造方法は、好ましくは、更に、(5)前記薄膜基材、及び/又は蓄電池用薄膜集電体の端面に、
無電解めっき、及び/又は電解めっきを施す事に依り、前記薄膜基材、及び/又は蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、めっきが繋がり、導電性を付与する工程を含む。
【0042】
本発明は、本発明の蓄電池用薄膜集電体の製造方法に依って製造される、蓄電池用薄膜集電体を包含する。
【0043】
本発明は、無電解めっき用塗料組成物を用いて、蓄電池用薄膜集電体を作成する事に依り、軽量で、容量が大きな蓄電池用薄膜集電体を作成する事が出来る。
【0044】
リチウムイオン電池の場合、従来、負極集電体として銅箔が用いられており、一般に、厚みが7μm~10μm程度の銅箔が使われている。従来、銅箔の厚みを薄くすると、集電体の強度を保持する事が出来ず、破損の可能性に繋がる。
【0045】
本発明は、薄膜基材(例えば、PET)の上面及び/又は下面に、無電解めっき用塗料組成物を塗布する事に依り、塗膜を形成し、蓄電池用薄膜集電体を作成する事から、従来の集電体の薄膜(厚みが7μm~10μm程度)に比べて、より薄く(基材の厚み+両面で2μm程度のめっき皮膜の厚み)、蓄電池用薄膜集電体を作成する事を可能とし、また、使用する銅の材料の使用量を削減する事にも繋がる。
【0046】
本発明の蓄電池用薄膜集電体を巻回構造とする事に依り、表面積が増え、より容量が大きな蓄電池用薄膜集電体を作成する事が出来る。
【0047】
(1)薄膜基材の上面及び/又は下面に、無電解めっき用塗料組成物を塗布する事に依り、塗膜を形成する工程
(A)無電解めっき用塗料組成物
無電解めっき用塗料組成物は、
(a)パラジウム粒子と分散剤との複合体、
(b)溶媒、及び
(c)バインダー樹脂を含有する。
【0048】
無電解めっき用塗料組成物は、無電解めっき用途で使用する場合、簡便に且つ効率的に無電解めっき用塗膜を形成する事が可能であり、しかも環境に対する悪影響が少なく、安全性が高い。無電解めっき用塗料組成物は、分散性に優れている。無電解めっき用塗料組成物を用いると、密着性及び外観皮膜に優れた無電解めっき皮膜を形成する事が出来、この無電解めっき皮膜の析出速度は優れる。
【0049】
(a)パラジウム粒子(Pd粒子)と分散剤との複合体(Pd複合体)
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、パラジウム粒子(Pd粒子)と、分散剤との複合体を含有する(Pd複合体)。
【0050】
Pd複合体は、例えば、溶媒中に分散剤及びパラジウムイオン(Pdイオン)を存在させた後、このPdイオンを還元する事に依り得る。
【0051】
分散剤は、好ましくは、Pd複合体の形状が、(i)分散剤が互いに絡み合った外観を呈し、(ii)少なくとも一部の分散剤同士の接点で両者が接合している、という条件を満たすものを用いる。分散剤は、市販品を使用しても良い。
【0052】
分散剤は、好ましくは、ポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸ナトリウム塩、ポリカルボン酸トリエチルアミン塩、ポリカルボン酸トリエタノールアミン塩等のポリカルボン酸系高分子分散剤を用いる。ポリカルボン酸系高分子分散剤は、好ましくは、サンノプコ(株)製ノプコサントK, R, RFA、ノプコスパース44-C、SNディスパーサント5020, 5027, 5029, 5034, 5045, 5468、花王(株)製デモールP, EP、ポイズ520, 521, 530, 532等を使用する。
【0053】
分散剤は、好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルヒドロキシエーテルカルボン酸塩等のヒドロキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤を用いる。カルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤は、好ましくは、ビックケミー・ジャパン(株)DISPERBYK180, 187, 191, 194、(株)日本触媒製アクアリックTL, GL, LSを使用する。
【0054】
分散剤は、好ましくは、アクリル酸-マレイン酸共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、アクリル酸-スルホン酸共重合体等のカルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤を使用する。ヒドロキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤は、好ましくは、ビックケミー・ジャパン(株)製DISPERBYK190, 2010を使用する。
【0055】
分散剤は、これらの分散剤を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0056】
分散剤の中でも、より好ましくは、ヒドロキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤、カルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤等を使用する。
【0057】
パラジウムイオンを供給する化合物(Pd化合物)は、好ましくは、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、安息香酸パラジウム、サリチル酸パラジウム、パラトルエンスルホン酸パラジウム、過塩素酸パラジウム、ベンゼンスルホン酸パラジウム等を使用する。
【0058】
Pd化合物は、これらのPd化合物を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0059】
Pdイオンを還元する方法は、好ましくは、溶媒中に分散剤及びPdイオンを存在させた後、還元剤を前記溶媒中に加える方法である。此れに依り、Pdイオンと還元剤とが接触し、反応する。還元剤は、好ましくは、ヒドラジンヒドラート(ヒドラジン1水和物)、水素化ホウ素ナトリウム、N,Nジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン等の2級又は3級アミン類を使用する。
【0060】
還元する際に使用される溶媒(分散剤及びPdイオンを存在させるための溶媒)は、好ましくは、次の溶媒(好ましくは、水、及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種の溶媒)を使用する
溶媒は、これらの溶媒を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0061】
Pd複合体の形状は、(i)分散剤が互いに絡み合った外観を呈し、(ii)少なくとも一部の分散剤同士の接点で両者が接合しており、(iii)前記分散剤にPd粒子が付着している、という構造である。Pd複合体の形状は、ランダムコイル状、密集した球状又は球形構造のである。
【0062】
Pd粒子の多くは、分散剤の外側に付着している。Pd複合体の形状(分散剤全体の形状)が密集した球状である場合、Pd粒子の多くはこの球状の表面側(外側)に付着している。
【0063】
Pd複合体中のPd粒子と分散剤との質量比は、好ましくは、Pd粒子:分散剤=50:50~95:5程度であり、より好ましくは、Pd粒子:分散剤=65:35~85:15である。
【0064】
Pd粒子単独の平均粒子径は、好ましくは、2nm~10nmである。
【0065】
Pd粒子の粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡を用いて、測定する。Pd粒子の平均粒子径は、Pd粒子をランダムに10点選択し、そのPd粒子の粒子径を上記透過型電子顕微鏡で測定して、個数平均する事で算出する(個数基準平均径)。
【0066】
Pd複合体の平均粒子径は、好ましくは、平均粒子径20nm~300nm程度の球形状の構造を有している。Pd複合体の平均粒子径は、粒径アナライザー(大塚電子株式会社、FPAR-1000)を用いて、測定する(質量基準平均径)。
【0067】
無電解めっき用塗膜は、密着性及び外観皮膜に優れた無電解めっき皮膜を形成する事が出来、この無電解めっき皮膜の析出速度は優れる。
【0068】
Pd複合体が形成する構造の内部は、溶媒を吸着する様に包含している。このPd複合体の内部の溶媒は、無電解めっき用塗料組成物中の溶媒よりも、乾燥速度が小さい。そのため、無電解めっき用塗料組成物を薄膜基板に塗布すると、先ず、無電解めっき用塗料組成物中の溶媒が乾燥する事に依り、塗膜全体が形成され、その後、塗膜中に存在するPd複合体の内部の溶媒が乾燥する事に依り、塗膜表面にクレーター状の凹凸を形成する。此れに依り、無電解めっき用塗膜(塗膜)が形成される。この凹凸表面には、Pd粒子が多く存在する。
【0069】
塗膜は、Pd粒子が塗膜表面に密集する様に多く存在し、この塗膜表面と無電解めっき液との反応性に優れる。
【0070】
塗膜は、塗膜表面に凹凸が形成されており、めっき皮膜と当該塗膜との間のアンカー効果に優れる。
【0071】
塗膜は、凹凸は非常に微細であり塗膜表面の平滑性が保持されており、光沢度の高い(外観皮膜に優れた)めっき皮膜と成る。
【0072】
(b)溶媒
無電解めっき用塗料組成物は、溶媒を含有する。溶媒は、(a)Pd複合体、及び(c)バインダー樹脂との親和性に優れており、(a)Pd複合体、及び(c)バインダー樹脂を分散させる溶媒(又は分散媒)としての機能を有する。
【0073】
溶媒は、好ましくは、水、及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種の溶媒を使用する。
【0074】
非プロトン性極性溶媒は、好ましくは、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等の>N-C(=O)-という原子団(又は基若しくは結合)を有する非プロトン性極性溶媒;ジメチルスルホキシド(DMSO);γ-ブチロラクトン(GBL)等を使用する。
【0075】
非プロトン性極性溶媒の中でも、より好ましくは、>N-C(=O)-原子団を有する非プロトン性極性溶媒が好ましく、NMP、DMF、及びDMAcからなる群から選ばれた少なくとも1種の非プロトン性極性溶を使用する。
【0076】
溶媒は、これらの溶媒を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0077】
溶媒は、パラジウムイオンの還元反応後に変換(例えば、溶媒を水からNMPに変換)する事が可能である。
【0078】
溶媒の使用量は、好ましくは、Pd複合体100質量部に対して、1×102質量部~1×106質量部程度と成る様に調整する。
【0079】
溶媒が水のみである場合、溶媒の使用量は、Pd複合体100質量部に対して、好ましくは、5×103質量部~3×105質量部程度、より好ましくは、1×104質量部~2×105質量部程度と成る様に調整する。
【0080】
溶媒が非プロトン性極性溶媒のみである場合、溶媒の使用量は、Pd複合体100質量部に対して、好ましくは、5×102質量部~5×103質量部程度、より好ましくは、1×103質量部~2×103質量部程度と成る様に調整する。
【0081】
Pd複合体の分散を目的として使用した溶媒の他に、更に、希釈溶媒(追加溶媒)を用いても良い。
【0082】
希釈溶媒は、好ましくは、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、tert-ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル、サリチル酸メチル等の芳香族カルボン酸エステル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、メチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等のグリコールエーテルエステル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のアルカノールエステル類等を使用する。
【0083】
希釈溶媒の中でも、より好ましくは、Pd複合体や樹脂との親和性、薄膜基材との溶着性、塗装性能等の観点から、ケトン類を使用する。
【0084】
希釈溶媒は、これらの希釈溶媒を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0085】
(c)バインダー樹脂
無電解めっき用塗料組成物は、バインダー樹脂を含有する。バインダー樹脂を使用する事に依り、薄膜基材上に無電解めっき用塗膜を、より強固に基材に密着させる事が出来る。バインダー樹脂は、無電解めっき用塗膜を構成する高分子母材(マトリックス樹脂)と成る。
【0086】
バインダー樹脂は、前記(b)溶媒に、分散又は溶解する樹脂を使用する。
【0087】
バインダー樹脂は、好ましくは、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、シェラック樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂等を使用する。
【0088】
アクリル樹脂は、アクリル酸エステルの重合体若しくはメタクリル酸エステルの重合体又はこれらをコモノマーとする共重合体を意味し、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体等である。
【0089】
ポリアミドイミド樹脂は、ポリイミド主鎖にアミド結合を導入した樹脂であり、無水トリメリット酸とジイソシアネートとの反応や無水トリメリット酸クロライドとジアミンとの反応等で得られる樹脂である。
【0090】
バインダー樹脂の中でも、より好ましくは、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種のバインダー樹脂、より好ましくは、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種のバインダー樹脂、更に好ましくは、ポリイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種のバインダー樹脂を使用する。
【0091】
バインダー樹脂は、これらのバインダー樹脂を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0092】
バインダー樹脂の使用量は、Pd複合体100質量部に対して、好ましくは、10質量部~1×104質量部、より好ましくは、50質量部~1,500質量部程度と成る様に調整する。
【0093】
(B)無電解めっき用塗料組成物の調製方法
無電解めっき用塗料組成物は、好ましくは、
(i)溶媒中に、Pdイオン及び分散剤を存在させる工程、
(ii)Pdイオンと還元剤とを反応させる事に依り、このPdイオンを還元する工程、及び
(iii)溶媒に、バインダー樹脂を混合する工程、
を含む製造方法に依り製造する。
【0094】
無電解めっき用塗膜を形成する事が可能な無電解めっき用塗料組成物を、環境に対する悪影響が少なく簡便に、且つ効率的に製造する事が出来る。
【0095】
得られる無電解めっき用塗料組成物は、分散性に優れ、且つ簡便で効率的に無電解めっき用塗膜を形成する事が可能であり、しかも環境に対する悪影響が少なく、安全性が高い。無電解めっき用塗膜は、密着性及び外観皮膜に優れた無電解めっき皮膜を形成する事が出来、この無電解めっき皮膜の析出速度は優れる。
【0096】
工程(i)において、Pdイオンと分散剤((a)のPd複合体)とを溶媒((b)の溶媒)中に存在させる。Pdイオンは、供給源は、前記Pdイオンを供給する化合物(Pd化合物)を使用する。分散剤としては、前記分散剤を使用する。
【0097】
工程(i)において、Pdイオンと分散剤の使用比率(質量比)は、好ましくは、Pdイオン100質量部に対して、分散剤を、10質量部~200質量部程度、より好ましくは、30質量部~150質量部程度、更に好ましくは、50質量部~100質量部程度と成る様に調整する。
【0098】
工程(i)において、溶媒の使用量は、Pdイオンと分散剤を均一に存在させる事が出来るという観点から、好ましくは、Pdイオン100質量部に対して、溶媒を、1×104質量部~3×105質量部程度、より好ましく、1×104質量部~1×105質量部程度と成る様に調整する。
【0099】
工程(ii)で、Pdイオンと還元剤とを反応させる事に依り、Pdイオンが還元剤に依って還元される。工程(ii)では、Pdイオンの還元反応が生じ、結果として(a)Pd複合体を得る事が出来る。
【0100】
工程(ii)において、還元剤の使用量は、Pdイオン100質量部に対して、好ましくは、100質量部~800質量部程度であり、より好ましくは、200質量部~600質量部程度と成る様に調整する。
【0101】
工程(ii)の反応温度は、好ましくは、35℃~45℃程度であり、50℃~60℃程度まで昇温する。反応時間は、好ましくは、1時間~5時間程度である。
【0102】
工程(ii)の反応圧力及び雰囲気は、好ましくは、大気圧下且つ大気(空気)雰囲気下で行う。反応は、好ましくは、ビーカー等の開放系で行う。反応は、好ましくは、Pdイオン、分散剤及び還元剤を含有する溶液を、羽根付き撹拌棒で撹拌する。
【0103】
工程(ii)の後、Pdイオンの還元反応後に溶媒を変換する事も可能である。例えば、工程(i)の溶媒として水を使用し、工程(ii)の後で前記水をNMPに変換する事に依り、NMPを溶媒とする無電解めっき塗料組成物とする事が出来る。
【0104】
工程(ii)の後、工程(ii)で得られたPd複合体含有液を限外濾過に依る分離を行う事が出来る。この操作に依り、Pd複合体含有液に含まれる無機塩や過剰の分散剤等を除去する事が出来る。例えば、Pd複合体含有液に対して濾過操作及び水、溶媒等(特に水)の補填操作を繰り返す事が出来る。
【0105】
工程(ii)で、溶媒に、バインダー樹脂を混合する。
【0106】
溶媒は、好ましくは、2-フェノキシエタノール、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン等の前記(b)溶媒を使用する。
【0107】
バインダーは、前記(3)バインダー樹脂を使用する。
【0108】
工程(iii)において、バインダーの使用量は、無電解めっき用塗料組成物の粘度、無電解めっき用塗料組成物と基材(ABS樹脂、ガラス板等)との密着性、硬化条件等の観点から、適宜調整する。
【0109】
工程(iii)の混合は、大気圧下又は大気(空気)雰囲気下で行う。混合は、好ましくは、ビーカー等の開放系で行う。混合は、好ましくは、溶媒、ナノ粒子及びバインダーを含有する混合物を、羽根付き撹拌棒で撹拌する。
【0110】
(C)薄膜基材
本発明の蓄電池用薄膜集電体の製造方法は、(1)薄膜基材の上面及び/又は下面に、無電解めっき用塗料組成物を塗布する事に依り、塗膜を形成する工程を含む。
【0111】
無電解めっき用塗料組成物は、無電解めっきを施したい薄膜基材に対して使用する。無電解めっき用塗料組成物の使用に依り、無電解めっきを行うのに適した塗膜を薄膜基材上に形成する事が出来る。
【0112】
薄膜基材の形状としては、好ましくは、板状(又はフィルム状)、不織布状(又は織布状)等である。
【0113】
薄膜基材は、好ましくは、樹脂、セラミックス等を使用する。
【0114】
樹脂は、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ乳酸エステル等のポリエステル樹脂;ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂;ポリカーボネート樹脂(PC);ポリスチレン樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;環状ポリオレフィン樹脂;ポリエチレン樹脂;ポリフェニレンスルファイド樹脂;液晶ポリマー;変性ポリフェニルエーテル樹脂;ポリスルホン樹脂;フェノール樹脂;ポリフタルアミド樹脂(PPA);ポリアリレート樹脂等を使用する。
【0115】
セラミックスは、好ましくは、ガラス、アルミナ等を使用する。
【0116】
基材として不織布を使用する場合、好ましくは、木質繊維、ガラス繊維、石綿、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、レーヨン繊維、ポリオレフィン繊維等の不織布を使用する。
【0117】
薄膜基材は、好ましくは、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリサルホン、ポリイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、及び不織布から成る群から選ばれる少なくとも一種の薄膜基材である。
【0118】
薄膜基材の厚みは、好ましくは、1μm~10μm程度あり、より好ましくは、2μm~8μm程度あり、更に好ましくは、4μm~6μm程度ある。
【0119】
本発明の蓄電池用薄膜集電体は、薄膜基材に使用する事に依り、強度を維持する事が出来る。
【0120】
薄膜基材に対して無電解めっき用塗料組成物を使用する方法は、好ましくは、塗布する。塗布の方法は、好ましくは、バーコーター、グラビア印刷機(グラビアオフセット)、フレキソ印刷機、インクジェット印刷機、ディッピング、スプレー、スピンコーター、ロールコーター、リバースコーター、スクリーン印刷機等を用いて塗布する。塗布の方法は、より好ましくは、グラビアオフセット印刷又はフレキソ印刷に依る塗布である。
【0121】
無電解めっき用塗料組成物を薄膜基材に対して使用(例:塗布)した後は、乾燥処理を行う。この乾燥工程に依って、無電解めっきを行う際に不必要な溶媒を効率的に除去すると共に、塗膜と薄膜基材との密着性及び塗膜の表面強度を向上させる事が出来る。
【0122】
乾燥処理の温度は、好ましくは、60℃~400℃程度、より好ましくは、80℃~150℃である。乾燥時間は、乾燥温度に合わせて適宜調整し、好ましくは、0.1分(6秒)~60分程度、より好ましくは、10分~30分程度である。
【0123】
無電解めっき用塗膜には、Pd複合体が含まれる。Pd複合体は、塗膜に対して均一に分散された状態で存在する。塗膜上に対して、より効率的に無電解めっきを行う事が出来る。
【0124】
乾燥前における塗膜の厚みは、使用用途に合わせて適宜調整し、好ましくは、1μm~30μm程度であり、より好ましくは、2μm~20μm程度である。
【0125】
乾燥後における塗膜の厚みは、好ましくは、0.05μm(50nm)~3μm程度であり、より好ましくは、0.1μm(100nm)~1μm程度である。乾燥後における塗膜の厚みを調整する事に依り、薄膜基材と塗膜との密着性、及び無電解めっき皮膜(金属皮膜)と塗膜との密着性において優れる。
【0126】
(2)工程(1)の後、前記塗膜に無電解めっきを施す事に依り、無電解めっき皮膜を形成する工程
無電解めっき用塗料組成物を薄膜基材に使用する事に依り、無電解めっき用の塗膜を形成した後、無電解めっきを行う事に依って、無電解めっき皮膜を形成する。この無電解めっき皮膜が形成された被めっき物は、めっき皮膜の密着性に優れる。
【0127】
塗膜が形成された薄膜基材は、金属を析出させるためのめっき液と接触し、此れに依り無電解めっき皮膜が形成される。無電解めっきは反応性が良く、得られた無電解めっき皮膜はむらが無く、密着性及び外観皮膜に優れる。
【0128】
めっき液は、一般に、無電解めっきに使用されるめっき液を使用する。めっき液は、好ましくは、銅(Cuめっき)、金、銀、ニッケル(Niめっき)等のめっき液である。無電解めっき用塗料組成物を用いて形成する塗膜との関係から、好ましくは、銅又はニッケルのめっき液を使用する。
【0129】
無電解めっき処理で、無電解銅めっき浴を用いる場合、その処理温度は、好ましくは、25℃~65℃程度であり、その処理時間は、好ましくは、10分~20分程度である。この無電解めっき処理に依り、0.3μm~1.0μm程度の析出膜厚を形成する。
【0130】
無電解めっき処理で、無電解ニッケルボロン浴を用いる場合、その処理温度は、好ましくは、55℃~70℃程度であり、その析出速度は、好ましくは、5μm/hr(60℃)程度である。
【0131】
無電解めっき処理で、無電解ニッケルりん浴を用いる場合、その処理温度は、好ましくは、30℃~95℃程度であり、その析出速度は、好ましくは、浴温30℃においては3μm/hr程度、90℃においては20μm/hr程度である。
【0132】
本発明の蓄電池用薄膜集電体は、薄膜基材、無電解めっき用塗料組成物の塗膜、及び無電解めっき皮膜(Niめっき、又はCuめっき)と成る3層構造であっても良い(図1)。
【0133】
(3)工程(2)の後、前記無電解めっき皮膜に、電気めっきを施す事に依り、電気めっき皮膜を形成する工程
本発明の蓄電池用薄膜集電体の製造方法は、更に、(3)工程(2)の後、前記無電解めっき皮膜に、電気めっきを施す事に依り、電気めっき皮膜を形成する工程を含む。
【0134】
本発明の蓄電池用薄膜集電体は、薄膜基材、無電解めっき用塗料組成物の塗膜、無電解めっき皮膜(Niめっき、又はCuめっき)、及び電気めっき皮膜(Niめっき、又はCuめっき)と成る4層構造であっても良い(図2)。
【0135】
(4)工程(3)の後、前記電気めっき皮膜に、装飾電気めっきを施す事に依り、装飾電気めっき皮膜を形成する工程
本発明の蓄電池用薄膜集電体の製造方法は、更に、(4)工程(3)の後、前記電気めっき皮膜に、装飾電気めっきを施す事に依り、装飾電気めっき皮膜を形成する工程を含む。
【0136】
本発明の蓄電池用薄膜集電体は、薄膜基材、無電解めっき用塗料組成物の塗膜、無電解めっき皮膜(Niめっき、又はCuめっき)、電気めっき皮膜(Niめっき、又はCuめっき)、及び装飾電気めっき皮膜(クロムめっき、又は金めっき)と成る5層構造であっても良い(図3)。
【0137】
本発明の蓄電池用薄膜集電体は、薄膜めっきシートとしてとして、意匠性を付与する事を目的とした装飾めっき(クロムめっきシート)に用いるシートに適用する事が可能である。
【0138】
(5)蓄電池用薄膜集電体の基材の厚み方向に、
貫通する孔、及び/又は溝、及び/又は、
貫通しない孔、及び/又は溝を形成する工程
本発明の蓄電池用薄膜集電体の製造方法は、好ましくは、更に、(3)蓄電池用薄膜集電体の基材の厚み方向に、貫通する孔、及び/又は溝、及び/又は、貫通しない孔、及び/又は溝を形成する工程を含む。
【0139】
蓄電池用薄膜集電体の基材の厚み方向に、貫通する孔、及び溝は、蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、その貫通する孔、及び溝の内壁を介してめっきが繋がり、導電性を付与する(図1~3)。
【0140】
貫通する孔、及び貫通しない孔の形状は、好ましくは、円形、三角形、四角形等、任意の形状である。
【0141】
蓄電池用薄膜集電体の基材に、複数の貫通する孔、及び溝、貫通しない孔、及び溝が形成されて良く、複数の貫通する孔、及び溝、貫通しない孔、及び溝は、整列して配置されていても、整列していなくても良い。
【0142】
(6)蓄電池用薄膜集電体に、
切断の圧力を掛ける事に依り、蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、切断面を介してめっきが繋がり、導電性を付与する工程
本発明の蓄電池用薄膜集電体の製造方法は、好ましくは、更に、(4)蓄電池用薄膜集電体に、切断の圧力を掛ける事に依り、蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、切断面を介してめっきが繋がり、導電性を付与する工程を含む。
【0143】
蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、切断面を介してめっきが繋がり、導電性を付与する事が出来れば良く、その切断面の形状は、特に限定されない。
【0144】
(7)蓄電池用薄膜集電体の端面に、
無電解めっき、及び/又は電気めっきを施す事に依り、蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、端面を介してめっきが繋がり、導電性を付与する工程
本発明の蓄電池用薄膜集電体の製造方法は、好ましくは、更に、(5)蓄電池用薄膜集電体の端面に、無電解めっき、及び/又は電気めっきを施す事に依り、蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、端面を介してめっきが繋がり、導電性を付与する工程を含む。
【0145】
蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、端面を介してめっきが繋がり、導電性を付与する事が出来れば良く、その端面の形状は、特に限定されない。
【0146】
[2]蓄電池用薄膜集電体
本発明は、本発明の蓄電池用薄膜集電体の製造方法に依って製造される、蓄電池用薄膜集電体を包含する。
【0147】
本発明は、無電解めっき用塗料組成物を用いて、蓄電池用薄膜集電体を作成する事に依り、軽量で、容量が大きな蓄電池用薄膜集電体を作成する事が出来る。
【0148】
本発明の蓄電池用薄膜集電体は、(1)薄膜基材の上面及び/又は下面に、無電解めっき用塗料組成物を塗布する事に依り、塗膜を形成し、次いで、(2)その塗膜に無電解めっきを施す事に依り、無電解めっき皮膜を形成する事から、集電体の厚みを薄くし、強度を保つ事が出来、破損しない。
【0149】
本発明の蓄電池用薄膜集電体は、薄膜基材に使用する事に依り、電気密度を大きくする事が出来、強度を維持する事が出来る。
【0150】
巻回構造
本発明の蓄電池用薄膜集電体を、特に、渦巻状に巻回して形成された巻回構造とする事に依り、表面積が増え、より容量が大きな蓄電池用薄膜集電体を作成する事が出来る。
【実施例
【0154】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。
【0155】
本発明は、以下の具体的な実施例に限定されない。
【0156】
[1]実施例
(1)Pd複合体含有液、及び無電解めっき用塗料組成物の作製
特許第5422812号の記載に従って、Pd複合体含有液、及び無電解めっき用塗料組成物を作製した。
【0157】
Pd複合体含有液
Pd複合体含有率:1.2wt%
Pd粒子の平均粒子径:2nm~10nm
Pd粒子:分散剤(Pd複合体中のPd粒子と分散剤との質量比)=75:25
無電解めっき用塗料組成物
Pd複合体含有液8.3wt%
ポリエステル樹脂水溶液4wt%
イオン交換水87.7wt%
(2)蓄電池用薄膜集電体1の作製(図1~3)
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(基材厚:5μm)上に、基材の厚み方向に貫通する穴を開けた。穴を開ける方法は、直径0.5mmの針を使い、10mm間隔で、穴を開けた。次に、バーコーター#4を用いて、無電解めっき用塗料組成物を塗布し、乾燥用オーブン内で105℃、5分間乾燥させた。
【0158】
穴が形成され、無電解めっき用塗膜(塗膜厚:50nm)が形成されたフィルムを作製した。
【0159】
更に、無電解銅めっき液を用いて、無電解Cuめっき0.1μm~1μmの膜厚でめっきを行った(3層構造)。更に、電解銅めっき液を用いて、電解Cuめっき0.5μm~1.5μmの膜厚でめっきを行った(4層構造、蓄電池用薄膜集電体1)。
【0160】
貫通する孔は、蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、貫通する孔の内壁を介して、めっきが繋がり、導電性が付与された蓄電池用薄膜集電体1を作製した。
【0161】
(3)蓄電池用薄膜集電体2、及び3の作製
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(基材厚:5μm)上に、バーコーター#4を用いて、無電解めっき用塗料組成物を塗布し、乾燥用オーブン内で105℃、5分間乾燥させた。
【0162】
無電解めっき用塗膜(塗膜厚:50nm)が形成されたフィルムを作製した。
【0163】
更に、無電解銅めっき液を用いて、無電解Cuめっき0.1μm~1μmの膜厚でめっきを行った(3層構造)。更に、電解銅めっき液を用いて、電解Cuめっき0.5μm~1.5μmの膜厚でめっきを行った(4層構造、蓄電池用薄膜集電体2)。
【0164】
この蓄電池用薄膜集電体2の周囲10mmをはさみで切断し、圧力を掛ける事に依り、蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、切断面を介して、めっきが繋がり、導電性が付与された蓄電池用薄膜集電体3を作製した。
【0165】
(4)蓄電池用薄膜集電体4の作製
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(基材厚:5μm)上に、フィルムの幅より10mm長いバーコーター#4を用いて、無電解めっき用塗料組成物を端面にも塗布し、乾燥用オーブン内で105℃、5分間乾燥させた。
【0166】
無電解めっき用塗膜(塗膜厚:50nm)が、フィルムの上面、下面、及び端面に形成されたフィルムを作製した。
【0167】
更に、無電解銅めっき液を用いて、無電解Cuめっき0.1μm~1μmの膜厚でめっきを行った(3層構造)。更に、電解銅めっき液を用いて、電解Cuめっき0.5μm~1.5μmの膜厚でめっきを行った(4層構造、蓄電池用薄膜集電体4)。
【0168】
この蓄電池用薄膜集電体4の端面には、無電解めっき、及び電気めっきが被覆されている事に依り、蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、端面を介して、めっきが繋がり、導電性が付与された蓄電池用薄膜集電体4を作製した。
【0169】
[2]評価試験
(1)めっき性の評価
塗膜含有物品(フィルム)を無電解めっき浴に浸漬させる事に依り、無電解めっきを行い、無電解めっき性(無電解銅めっき性及び無電解ニッケルめっき性)を評価した。
【0170】
無電解銅めっき、或は、無電解ニッケルめっきを、15分間行った。
【0171】
塗膜含有物品(フィルム)は、めっき液浸漬直後にめっき析出反応が開始し、即座に光沢のあるめっき皮膜が得られ(蓄電池用薄膜集電体1~4)、且つ、剥離が見られなかった。
【0172】
更に、無電解めっきを被覆した後、電解めっきを行い(蓄電池用薄膜集電体1~4)、電解めっき性を評価した。
【0173】
無電解銅めっきを下地に、電解銅めっきを被覆した。
【0174】
また、同じ方法で無電解ニッケルめっきを下地に、電解ニッケルめっきを被覆した。
【0175】
(2)密着性の評価(クロスカット試験)
塗膜含有物品(フィルム)に対して、前記めっき性試験と同様にして、銅又はニッケルめっき皮膜を得た(蓄電池用薄膜集電体1~4)。
【0176】
この銅又はニッケルめっきを被覆した蓄電池用薄膜集電体1~4を塩ビ板材に貼り付けそれを、JIS K 5600(クロスカット法)に基づいて1mm間隔で25マスの切込みを入れた。その上にセロハンテープ(セロテープ(登録商標)、ニチバン株式会社製)を貼り、テープを剥離した時の剥がれたマス目の数を測定した。
【0177】
蓄電池用薄膜集電体1~4は、剥がれたマス目の数が「0」であり、無電解めっき皮膜の密着性は良好であった。
【0178】
(3)導電性の付与の確認
電子顕微鏡:日本電子(株)社製JSM-6010PLUS/LA
テスター:三和電気計器(株)社製YX-361TR
蓄電池用薄膜集電体1(図4
電子顕微鏡を用いて、蓄電池用薄膜集電体1の基材の厚み方向に、貫通する孔を形成し、貫通する孔は、蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、貫通する孔の内壁を介して、めっきが繋がっている事を確認した(図4)。
【0179】
テスターを用いて、この蓄電池用薄膜集電体1は、導電性が付与された蓄電池用薄膜集電体である事を確認した。
【0180】
蓄電池用薄膜集電体3(図5
電子顕微鏡を用いて、蓄電池用薄膜集電体3に、切断の圧力を掛ける事に依り、蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、切断面を介して、めっきが繋がっている事を確認した(図5)。
【0181】
テスターを用いて、この蓄電池用薄膜集電体3は、導電性が付与された蓄電池用薄膜集電体である事を確認した。
【0182】
蓄電池用薄膜集電体4(図6
電子顕微鏡を用いて、蓄電池用薄膜集電体4の端面に、無電解めっき、次いで電解めっきを施す事に依り、蓄電池用薄膜集電体の上面と下面とで、端面を介して、めっきが繋がっている事を確認した(図6)。
【0183】
テスターを用いて、この蓄電池用薄膜集電体4は、導電性が付与された蓄電池用薄膜集電体である事を確認した。
【0184】
[3]産業上の利用可能性
本発明は、無電解めっき用塗料組成物を用いて、蓄電池用薄膜集電体を作成する事に依り、軽量で、容量が大きな蓄電池用薄膜集電体を作成する事が出来る。
【0185】
本発明は、薄膜基材(例えば、PET)の上面及び/又は下面に、無電解めっき用塗料組成物を塗布する事に依り、塗膜を形成し、蓄電池用薄膜集電体を作成する事から、従来の集電体の薄膜(厚みが7μm~10μm程度)に比べて、より薄く(基材の厚み+両面で2μm程度のめっき皮膜の厚み)、蓄電池用薄膜集電体を作成する事を可能とし、また、使用する銅の材料の使用量を削減する事にも繋がる。
【0186】
本発明の蓄電池用薄膜集電体を、特に、巻回構造とする事に依り、表面積が増え、より容量が大きな蓄電池用薄膜集電体を作成する事が出来る。
【要約】
【課題】本発明は、新たに、蓄電池用薄膜集電体を提供する事を目的とする。
【解決手段】(1)薄膜基材に、無電解めっき用塗料組成物を塗布する事に依り、塗膜を形成する工程、及び(2)工程(1)の後、前記塗膜に無電解めっきを施す事に依り、無電解めっき皮膜を形成する工程を含み、前記無電解めっき用塗料組成物は、(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、(2)溶媒、及び(3)バインダー樹脂、を含有する、蓄電池用薄膜集電体の製造方法。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4
図5
図6