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特許7364339皮膚有効成分の皮膚浸透性を向上した化粧料又は皮膚外用剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】皮膚有効成分の皮膚浸透性を向上した化粧料又は皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/67 20060101AFI20231011BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20231011BHJP
   A61K 8/55 20060101ALI20231011BHJP
   A61K 31/455 20060101ALI20231011BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20231011BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20231011BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20231011BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20231011BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231011BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
A61K8/67
A61K8/34
A61K8/55
A61K31/455
A61K47/10
A61K47/24
A61K47/28
A61P17/00
A61P43/00 105
A61Q19/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019015573
(22)【出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2019131552
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2018016000
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大成 宏樹
【審査官】松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-315931(JP,A)
【文献】特開2007-176810(JP,A)
【文献】特開2016-183152(JP,A)
【文献】特開2017-178789(JP,A)
【文献】特開2003-104867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/67
A61K 8/34
A61K 8/55
A61K 31/455
A61K 47/10
A61K 47/24
A61K 47/28
A61P 17/00
A61P 43/00
A61Q 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)~(C)、(E):
成分(A)ニコチン酸アミド 2~6質量%
成分(B)水 60~95質量%
成分(C)リン脂質 0.5~6質量%
成分(E)オクチルドデカノール 0.2~1質量%を含有し、
前記成分(E)と前記成分(C)の含有質量割合:(E)/(C)が0.01~0.5であり、かつ、
25℃におけるpHが3~7の化粧料又は皮膚外用剤。
【請求項2】
さらに、成分(D)コレステロールを含有する、請求項1に記載の化粧料又は皮膚外用剤。
【請求項3】
前記成分(D)と前記成分(C)の含有質量割合:(D)/(C)が0.15以下である、請求項1または2に記載の化粧料又は皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、25℃におけるpKaが3~4.5、かつ、25℃における分配係数logP値が2以下、かつ、分子量が1000以下の皮膚有効成分、水、リン脂質を含有し、
さらに、リン脂質の含有量が0.5質量%以上であり、かつ、25℃におけるpHが3~7の化粧料又は皮膚外用剤に関するものである。さらに、本発明の化粧料又は皮膚外用剤は、細胞間脂質充填構造の液晶化に優れ、さらに、浸透感、肌のハリ・弾力感、べたつき感の無さに優れる。
【背景技術】
【0002】
水溶性の皮膚有効成分は油溶性の皮膚有効成分と比較し、皮膚浸透性が低いことが知られている。具体的には、25℃における分配係数logP値(オクタノール-水-分配係数)が2より大きく3より小さい皮膚有効成分の皮膚浸透性は高いが、25℃におけるlogP値が2以下の皮膚有効成分は皮膚浸透性が低く、皮膚浸透を促進することが求められる。
水溶性の皮膚有効成分は水溶液のpHの影響によりイオン解離の程度が異なり、皮膚有効成分のpKaと同じpHの値にて、分子型とイオン型の存在比率が等しくなることが知られており、イオン解離していない分子ほど、皮膚浸透されやすいことが知られている(例えば、特許文献1参照)。例えば、親水性軟膏製剤に含有されたサリチル酸の経皮吸収性が製剤のpHにより異なることが報告されている。また、浸透促進剤としてDMSOが機能している可能性が記載されている(例えば、非特許文献1参照)。
皮膚有効成分の角層透過経路として、細胞間脂質経路、角層細胞経路、毛包経路が知られている。中でも、細胞間脂質は皮膚バリア機能において重要な役割を果たしており、皮膚有効成分の透過障壁として重要な存在である。角層細胞間脂質は、主にセラミド類、コレステロール、コレステロールエステル、脂肪酸類から構成され、ラメラ構造を形成しており、それら脂質の炭化水素鎖は側方配列として直方晶および六方晶の水和結晶構造を形成しているドメインとさらに無秩序な液晶を形成しているドメインがあることが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。従来着目されてきた、細胞間脂質の特徴的な充填構造である直方晶および六方晶は、安息香酸を用いた浸透実験において、充填構造の変化が浸透性に大きな影響を及ぼさず、充填構造よりもラメラ構造がより重要であると報告されており、細胞間脂質の充填構造と皮膚有効成分の経皮吸収性の関係は未だに明らかになっていない(例えば、非特許文献3参照)。
一方、皮膚有効成分の浸透促進において、細胞間脂質が形成している液晶ドメインが重要な役割を果たすと考えられるが、これまでのところ文献ではほとんど注目されておらず、液晶ドメインの細胞間脂質の充填構造における存在率が50~80%と非常に高い可能性が報告されている(例えば、非特許文献4参照)。
角層細胞間脂質の充填構造と作用する薬剤のpHの関係という観点では、洗浄剤(ドデシル硫酸ナトリウム、以下SDS)により細胞間脂質の充填構造が乱れること、さらには、SDSのpHを、中性を中心にアルカリ側あるいは酸性側にすることで、ヒト角層の細胞間脂質の充填構造へ与える影響が大きくなることが報告されている(例えば、非特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2017-500322号公報
【文献】F. Marcus, J. L. Colaizzi, H. Barry: J. Pharm.Sci., 59, 1616 (1970)
【文献】Janssens, M., Gooris, G. S., Bouwstra, J. A.: Biochim. Biophys. Acta., 1788 (3), 732-742 (2009)
【文献】Groen, D.,Poole, D.S.,Gooris, G.S.,Bouwstra, J.A.: Biochim. Biophys. Acta., 1808 (6), 1529-37 (2011)
【文献】Ichiro Hatta,Noboru Ohta,and Hiromitsu Nakazawa:Pharmaceutics, 9 (3), 26 (2017)
【文献】SPring-8利用課題報告書:化粧品製剤における液性による角層細胞間脂質の構造変化(課題番号:2010A1700)
【文献】Mila Boncheva, Fabienne Damien, Valery Normand,: Biochimica et Biophysica Acta, 1778, 1344-1355 (2008)
【文献】Yoshida S, Obata Y, Onuki Y, Utsumi S, Ohta N, Takahashi H, Takayama K.: Chem Pharm Bull., 65(2), 134-142 (2017)
【文献】Obata Y, Otake Y, Takayama K.: Biol. Pharm. Bull., 33(8), 1454-1457 (2010).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、水溶液のpHにより水溶性の皮膚有効成分のイオン解離をコントロールする特許文献1の技術においては、浸透促進の効果が不十分である場合があった。
また、浸透促進剤により皮膚有効成分の経皮吸収性を高めようとした特許文献2の技術では浸透促進剤として、グリセリンおよびエステル油を高含有するため、べたつき感に優れず、使用性が悪い場合があった。非特許文献1の技術ではpHの変化と特定の浸透促進剤の併用による浸透促進技術であり、細胞間脂質の充填構造の液晶化という点では不十分であった。
また、非特許文献2、4では細胞間脂質の液晶化を促進する薬剤が見出されているわけではなかった。
また、非特許文献5は、SDSがヒト角層の細胞間脂質の充填構造へ影響を与えることを示す一方、浸透促進に関する記載は無かった。
【0005】
以上のことから、皮膚有効成分の皮膚浸透性の向上に関する知見は十分ではなかった。
よって、本願における重要な課題は、皮膚有効成分の皮膚浸透性を良好とすることである。その上で、浸透感、肌のハリ・弾力、べたつき感の無さといった製剤設計上の課題も存在した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
細胞間脂質充填構造の液晶化に優れることは、皮膚有効成分の皮膚浸透性の向上に役立つといえる。例えば、細胞間脂質の充填構造の液晶化をL-メントールが促進することが報告されており、(例えば、非特許文献7参照)、ヒドロゲル中のL-メントール濃度の上昇により、プロクロルペラジンの皮膚浸透性が向上することが報告されている(例えば、非特許文献8参照)。
そこで、本発明者は、かかる実情を鑑み、鋭意研究を重ねた結果、成分(A)25℃におけるpKaが3~4.5、かつ、25℃における分配係数logP値が2以下、かつ、分子量が1000以下の皮膚有効成分、成分(B)水、成分(C)リン脂質を含有し、前記成分(C)の含有量が0.5質量%以上であり、かつ、25℃におけるpHを3~7である組成物が、成分(A)のイオン解離状態をコントロールしつつ、細胞間脂質充填構造の液晶化に優れることを見出し、さらに、浸透感、肌のハリ・弾力、べたつき感の無さに優れることを見出した。
【発明の効果】
【0007】
本発明の化粧料又は皮膚外用剤は、細胞間脂質充填構造の液晶化に優れる。さらに、浸透感、肌のハリ・弾力、べたつき感の無さに優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において、「~」はその前後の数値を含む範囲を意味するものとする。また、%で表記する数値は、特に記載した場合を除き、質量を基準にした値である。
【0009】
成分(A)25℃におけるpKaが3~4.5、かつ、25℃における分配係数logP値が2以下、かつ、分子量が1000以下の皮膚有効成分
本発明で使用される成分(A)は、25℃におけるpKaが3~4.5かつ25℃における分配係数logP値が2以下かつ分子量が1000以下の皮膚有効成分である。本発明における成分(A)の25℃におけるpKaは3~4.5である。25℃における分配係数logP値が2以下、かつ、分子量が1000以下であったとしても、25℃におけるpKaが3未満、もしくは、4.5を超える皮膚有効成分は、成分(C)のもたらす浸透促進効果が十分に発揮されず、浸透感に優れない場合がある。本成分(A)の25℃におけるpKaは、3~4.5であれば特に限定されないが、成分(C)のもたらす浸透促進効果を向上する点から、3~4が好ましい。
【0010】
本発明における25℃におけるpKaは、化学便覧基礎編(改訂5版、日本化学会編、丸善株式会社発行)II334~343頁に記載されている他、水酸化カリウム滴定により算出する方法、pKa1BASE(CompuDrug社製)により算出する方法、“Critical Stability Constants”(A. E. Martellhokacho. Vol. 1,2,3,5,Plenum Press(1974,1975,1977,1982)に記載の方法等により決定できる。
【0011】
本発明における成分(A)の25℃における分配係数logP値(オクタノール-水-分配係数)は、2以下である。25℃におけるpKaが3~4.5、かつ、分子量が1000以下であったとしても、25℃における分配係数logP値が2を超える皮膚有効成分は、油溶性が高くなり、成分(C)のもたらす浸透促進効果が十分に発揮されず、浸透感に優れない場合がある。本発明における成分(A)の25℃における分配係数logP値は、2以下であれば特に限定されないが、成分(C)のもたらす浸透促進効果をさらに向上する点で、-2~0.5が好ましく、-1~0.5がより好ましい。
本発明における25℃における分配係数logP値は、オクタノール相と水相の間での物質の分配を表す尺度であって下記(式1)で定義されるものをいい、ケミカルレビューズ,71巻,6号(1971)にその計算値の例が記載されている。なお、本発明では、25℃において、化審法化学物質改訂第4版 「化学物質の分配係数(1-オクタノール/水)測定法について<その1>」(化学工業日報社刊)記載の方法で測定した値をいう。
【0012】
logP値=log([物質]Octanol/[物質]Water]・・・(式1)
〔(式1)中、[物質]Octanolは1-オクタノール相中の物質のモル濃度を、[物質]Waterは水相中の物質のモル濃度を示す。〕
【0013】
本発明における成分(A)の分子量は、1000以下である。25℃におけるpKaが3~4.5、かつ、25℃における分配係数logP値が2以下であったとしても、分子量が1000を超える皮膚有効成分は、本発明における成分(C)のもたらす浸透促進効果が十分に発揮されず、浸透感に優れない場合がある。本発明における成分(A)の分子量は、1000以下であれば特に限定されないが、成分(C)のもたらす浸透促進効果をさらに向上する点で、100~1000が好ましく、100~500がより好ましく、100~300がさらにより好ましい。
【0014】
さらに、本発明における成分(A)は、25℃におけるpKaが3~4.5、かつ、25℃における分配係数logP値が2以下、かつ、分子量が1000以下であれば、限定されないが、成分(C)のもたらす浸透促進効果をさらに向上する点で、pKaが3~4、かつ、25℃における分配係数logP値が-2~0.5、かつ、分子量が100~500であることがより好ましい。
【0015】
本発明の成分(A)における「皮膚有効成分」とは、皮膚に投与した際に有効な効果が期待される成分をいう。成分(A)としては、特に限定されないが、例示すると、ハイドロキノン配糖体及び誘導体、アスコルビン酸及びその誘導体、トラネキサム酸およびその誘導体、サリチル酸誘導体、パントテン酸誘導体、ニコチン酸誘導体等が挙げられるが、成分(C)のもたらす浸透促進効果をさらに向上し、浸透感に優れ、さらにハリ・弾力感のような肌効果に優れる点で、ニコチン酸誘導体が好ましく、ニコチン酸アミドがより好ましい。
【0016】
ニコチン酸アミドは、ニコチン酸(ビタミンB3/ナイアシン)のアミドである。ニコチン酸アミドは水溶性ビタミンで、ビタミンB群の一つである公知の物質であり、天然物(米ぬかなど)から抽出されたり、あるいは公知の方法によって合成することができる。具体的には、第15改正日本薬局方2008に収載されているものを用いることが出来る。
【0017】
本発明で使用される成分(A)の含有量は、特に限定されないが、成分(C)のもたらす浸透促進効果をさらに向上し、浸透感に優れ、ハリ・弾力感などの肌効果に優れる点で、2~6質量%(以下、「質量%」を単に「%」と略す)が好ましく、3~6%がより好ましい。
【0018】
成分(B)水
本発明に用いる成分(B)水は、特に限定されず、精製水、脱イオン水、蒸留水、温泉水や、ローズ水、ラベンダー水等の植物由来の水蒸気蒸留水等のいわゆる水を用いることができる。本発明において、成分(B)の含有量は、特に限定されないが、ハリ・弾力感、べたつき感の無さに優れる点で、60~95%が好ましい。
【0019】
成分(C)リン脂質
本発明に用いる成分(C)リン脂質は、構造中にリン酸エステル部位をもつ脂質を指す。リン脂質は、大きく分けてグリセリンを骨格とするグリセロリン脂質と、スフィンゴシンを骨格とするスフィンゴリン脂質の2つが存在するがいずれのものも好適に使用できる。
本発明に用いる成分(C)のリン脂質は、具体的には大豆や卵黄から抽出した大豆レシチン、卵黄レシチン及び/又はこれらを水素添加した水素添加大豆レシチン、水素添加卵黄レシチンや合成リン脂質など、一般にリン脂質として知られるものや、アシル化リン脂質、糖やポリエチレングリコールなどで修飾したリン脂質誘導体などが使用できる。グリセリンと結合する脂肪酸が1本であるリゾリン脂質も使用可能である。
リン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、およびホスファチジルイノシトールなどが好ましく、これらを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。リン脂質を構成する脂肪酸としては、炭素数7~22の飽和あるいは不飽和カルボン酸が挙げられる。
【0020】
本発明に係る化粧料又は皮膚外用剤の成分(C)の含有量は、0.5%以上である。成分(C)の含有量は、0.5%未満であると、細胞間脂質充填構造の液晶化に優れない場合や、成分(C)のもたらす浸透促進効果に優れず、浸透感が良好でない場合がある。成分(C)の含有量は、0.5%以上であれば、特に限定されないが、細胞間脂質充填構造の液晶化、ハリ・弾力感、べたつき感の無さに優れる点で、0.5~6%が好ましく、1~3%が特に好ましい。
【0021】
本発明における化粧料又は皮膚外用剤の25℃におけるpHは、3~7である。本発明における化粧料又は皮膚外用剤の25℃におけるpHが3未満である場合は、刺激感が出て、使用性に優れない場合があり、25℃におけるpHが7を超える場合は、細胞間脂質充填構造の液晶化に優れない場合や、成分(C)のもたらす浸透促進効果を不足し、浸透感に優れない場合がある。細胞間脂質充填構造の液晶化に優れる点や、成分(C)のもたらす浸透促進効果を良好とし、浸透感に優れる点で、本発明における化粧料又は皮膚外用剤の25℃におけるpHは3~6が好ましく、3~5がより好ましい。
【0022】
成分(D)コレステロール
成分(D)は、コレステロールであり、本発明においては必須成分ではない25℃における固形油である。成分(D)は、べたつきの無さに優れる点では、含有されることが好ましい。成分(C)のもたらす浸透促進効果を大きくし、ハリ・弾力感に優れる点で、成分(D)と成分(C)の含有質量割合:(D)/(C)は、0.01~0.15が好ましく、0.01~0.12がより好ましく、0.03~0.1がさらにより好ましい。
一方、細胞間脂質充填構造の液晶化に優れる点においては、成分(D)が実質的に含まれないことが好ましく、成分(D)の含有量は0.3%以下であることが好ましく、0.1%未満であることがより好ましく、0.05%以下であることがさらにより好ましい。また、細胞間脂質充填構造の液晶化に優れる点において、成分(D)と成分(C)の含有質量割合:(D)/(C)は、0.15以下であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましく、0.05未満であることがさらにより好ましく、0.025以下であることがさらに特に好ましい。
【0023】
成分(E)分子量が500以下の25℃における液体油
成分(E)は、分子量が500以下の25℃における液体油であり、本発明においては必須成分ではないが、成分(C)のもたらす浸透促進効果をさらに良好とし、浸透感に優れる点で、含有させることが好ましい。
成分(E)は、特に限定されないが、具体的には、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、ミリスチン酸イソプロピル、イソノナン酸イソトリデシル、ネオペンタン酸オクチルドデシル、ネオペンタン酸イソステアリル、パルミチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、エチルヘキサン酸ヘキシルデシル、イソノナン酸イソトリデシル、イソステアリン酸イソプロピル、イソステアリン酸エチル、パルミチン酸エチルヘキシル、ネオデカン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソセチル、オクチルドデカノール、デシルテトラデカノール、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、アジピン酸ジイソプロピル、ジネオペンタン酸トリプロピレングリコール、イソデシルベンゾエート、ジカプリン酸プロピレングリコール、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸エチルヘキシル、セバシン酸ジエチルヘキシル、ネオペンタン酸イソデシル、エチルヘキサン酸エチルヘキシル、エチルヘキサン酸セチル、コハク酸ジエチルヘキシル等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を用いることができる。
【0024】
成分(E)の化学構造は、特に限定されないが、浸透感に優れる点で、分岐構造を有し、かつ、分子量が400以下であるものが好ましく、ミリスチン酸イソプロピル、イソノナン酸イソトリデシル、ネオペンタン酸イソステアリル、パルミチン酸イソプロピル、イソノナン酸イソトリデシル、イソステアリン酸イソプロピル、イソステアリン酸エチル、オクチルドデカノール、2-エチルヘキサン酸セチル、トリエチルヘキサン酸グリセリル、コハク酸ジエチルヘキシルから選ばれる一種または二種以上がより好ましく、イソノナン酸イソトリデシル、オクチルドデカノール、2-エチルヘキサン酸セチルから選ばれる一種または二種以上がさらに好ましく、オクチルドデカノールがさらに特により好ましい。
【0025】
成分(E)と成分(C)は、特に限定なく含有させることができるが、成分(E)と成分(C)の含有質量割合:(E)/(C)は、細胞間脂質充填構造の液晶化に優れ、成分(C)のもたらす浸透促進効果をさらに良好とし、ハリ・弾力感に優れ、べたつき感の無さに優れる点で、0.01~0.5が好ましく、0.05~0.3がより好ましく、0.1~0.3がさらにより好ましい。
【0026】
本発明における化粧料又は皮膚外用剤は、上記成分の他に、本発明の効果を妨げない範囲で通常の化粧料に含有される成分(A)~(C)以外の任意成分、すなわち、成分(A)~(C)以外の、低級アルコールや多価アルコール、さらにそれら以外の水性成分、油剤(成分(D)、(E)も含む)、粉体、水溶性高分子、皮膜形成剤、界面活性剤、油溶性ゲル化剤、有機変性粘土鉱物、樹脂、着色剤、紫外線吸収剤、防腐剤、抗菌剤、香料、酸化防止剤、25℃におけるpH調整剤、キレート剤等を含有することができる。
【0027】
本発明における化粧料又は皮膚外用剤において、本発明の効果を妨げない範囲で、成分(A)~(C)以外の油剤(成分(D)、(E)も含む)を含有することができる。油剤としては、極性、非極性を問わず、25℃における液体油、ペースト油、固形油等を用いることができる。
【0028】
本発明における油剤は、本発明の効果を妨げない範囲で、含有量は特に限定なく、含有することができるが、細胞間脂質充填構造の液晶化に優れる点や、成分(C)のもたらす浸透促進効果が大きくなり、浸透感に優れる点で、本発明における化粧料又は皮膚外用剤全量中に、総量として5%以下であることが好ましく、1%以下が好ましく、0.2~0.8%が好ましい。
【0029】
本発明の皮膚外用剤又は化粧料としては、特に限定されないが、具体的には、医薬品等の皮膚外用剤や化粧料等を挙げることができ、例えば、外用固形剤、外用液剤、スプレー剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤等や、乳液、化粧水、パック化粧料、洗顔料、マッサージ用化粧料、ヘア用化粧料、日焼け止め料、ボディパウダー、ボディクリーム等のボディ用化粧料、日中用美容液等の美容液、アイクリーム等の目周り用化粧料、リップエッセンス、リップクリーム等の口唇ケア用化粧料、ファンデーション、下地、コンシーラー、白粉、アイシャドウ、頬紅、口紅、マスカラ、アイブロウ等のメーキャップ製剤等が挙げられる。一方、本発明の皮膚外用剤又は化粧料の剤型としては、特に限定されないが、具体的には、水系、O/W乳化系、W/O乳化系、油性系、粉体系が挙げられ、特に、成分(C)のもたらす浸透促進効果をさらに良好とする点で、水系、O/W乳化系が好適に用いられる。
【0030】
本発明の皮膚外用剤又は化粧料の製造方法は、公知の方法であれば特に限定されることなく製造可能である。具体的には、分散乳化法、転送乳化法、ゲル乳化法、転相温度乳化法等である。
【実施例
【0031】
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれにより限定されるものではない。含有量は特記しない限り、その成分が含有される系に対する質量%で示す。
【0032】
実施例及び比較例1~7:美容液
下記表1、2に示す処方の美容組成物を調製し、浸透感、肌のハリ・弾力、べたつき感の無さ、について下記の方法により評価した。その結果も併せて表1に示す。
なお、表1、2の成分である、ニコチン酸アミドは、25℃におけるpKaが3.47 、25℃における分配係数logP値が0.45、分子量が122.12であり、ニコチン酸は、25℃におけるpKaが4.85、25℃における分配係数logP値が0.4、分子量が123.11である。
【0033】
【表1】
【0034】
(製造方法)
A:成分1~5を70℃で均一に溶解混合する。
B:成分8~11を70℃で均一に溶解混合する。
C:Bに成分7を添加し70℃でゲル乳化する。
D:CにAを添加混合した後、40℃まで冷却して成分6を添加し、美容液を得た。
【0035】
(評価項目)
イ.浸透感
ロ.肌のハリ・弾力
ハ.べたつき感の無さ
ニ.細胞間脂質充填構造の液晶化
【0036】
(評価方法)
[イ、ロ、ハについて(官能評価)]
20代~40代の女性で官能評価の訓練を受け、一定の基準で評価が可能な専門パネルを10名選定した。各試料について専門パネルが皮膚に塗布した時に感じる、浸透感、7週間の連用使用による肌のハリ・弾力、皮膚に塗布した時に感じるべたつき感の無さを下記絶対評価にて5段階に評価し評点を付け、各試料ごとにパネル全員の評点合計から、その平均値を算出し、下記4段階判定基準により判定した。
【0037】
(イ.浸透感の評価)
絶対評価基準
(評点):(評価)
5点:非常に浸透感があると感じる
4点:浸透感があると感じる
3点:やや浸透感があると感じる
2点:あまり浸透感があると感じない
1点:浸透感を感じない
4段階判定基準
(判定):(評点の平均点)
◎ :4点を超える :非常に良好
○ :3点を超える4点以下 :良好
△ :2点を超える3点以下 :やや不良
× :2点以下 :不良
【0038】
(ロ.肌のハリ・弾力の評価)
絶対評価基準
(評点):(評価)
5点:非常に肌のハリ・弾力があると感じる
4点:肌のハリ・弾力があると感じる
3点:やや肌のハリ・弾力があると感じる
2点:あまり肌のハリ・弾力があると感じない
1点:肌のハリ・弾力があると感じない
4段階判定基準
(判定):(評点の平均点)
◎ :4点を超える :非常に良好
○ :3点を超える4点以下 :良好
△ :2点を超える3点以下 :やや不良
× :2点以下 :不良
【0039】
(ハ.べたつき感の無さの評価)
絶対評価基準
(評点):(評価)
5点:べたつきを感じない
4点:ほとんどべたつきを感じない
3点:ややべたつきを感じる
2点:べたつきを感じる
1点:非常にべたつきを感じる
4段階判定基準
【0040】
(判定):(評点の平均点)
◎ :4点を超える :非常に良好
○ :3点を超える4点以下 :良好
△ :2点を超える3点以下 :やや不良
× :2点以下 :不良
【0041】
[ニ.細胞間脂質充填構造の液晶化の評価について]
角層細胞間脂質の充填構造はフーリエ変換赤外分光法(以下、FT-IR)測定により評価することが可能であり、CH対称伸縮振動の波数が充填構造を反映するが報告されている。充填構造の液晶比率が高い程、CH対称伸縮振動由来のピークは2852cm-1付近に観察され、液晶比率が低い程CH対称伸縮振動由来のピークは2850cm-1付近に観察される。非特許文献6を参考とし、下記測定方法に従い、測定を実施した。
(測定方法)
測定機器:FTIR-6200(日本分光株式会社製)
測定法:全反射測定法
パネルの上腕内側部位に各試料を塗布し、1時間経過後、製剤と皮脂の影響を避けるため、洗顔料にて洗浄後、最上層の角層をテープストリッピングにより1回剥離後、2回目のストリッピングしたテープに付着した角層細胞間脂質をサンプル試料として充填構造をFT-IR測定により評価した。
その実測値に対し、下記6段階判定基準にて6段階に評価し評点を付け、各試料の細胞間脂質充填構造の液晶化の程度を評価した。さらに、FT-IR測定による実測値を表1、2中に、細胞間脂質充填構造の液晶化(実測値)として示した。
【0042】
6段階判定基準
(評点):(評価)
A:充填構造の液晶比率が非常に高い(CH対称伸縮振動の波数が2852.5cm-1以上)
B:充填構造の液晶比率がやや高い(CH対称伸縮振動の波数が2852cm-1以上2852.5cm-1未満)
C:充填構造の液晶比率が高い(CH対称伸縮振動の波数が2851.5cm-1以上2852cm-1未満)
D:充填構造の液晶比率が低い(CH対称伸縮振動の波数が2851cm-1以上2851.5cm-1未満)
E:充填構造の液晶比率がやや低い(CH対称伸縮振動の波数が2850.5cm-1以上2851cm-1未満)
F:充填構造の液晶比率が非常に低い(CH対称伸縮振動の波数が2850.5cm-1未満)
【0043】
表1、2の結果から明らかなように、実施例1~9は、比較例1~7に比べ、浸透感、肌のハリ・弾力、べたつき感の無さ、細胞間脂質充填構造の液晶化の全てにおいて優れたものであった。
これに対して、25℃におけるpHが7を超える比較例1では浸透感、肌のハリ・弾力、細胞間脂質充填構造の液晶化に優れなかった。
成分(C)の含有量が0.5%未満である比較例2~5は、浸透感、肌のハリ・弾力、細胞間脂質充填構造の液晶化に優れなかった。
成分(A)を含有せず、pKaが4.5を超えるニコチン酸を含有した比較例6は、浸透感、肌のハリ・弾力、べたつきの無さに優れなかった。
成分(A)を含有しない比較例6は、肌のハリ・弾力、べたつきの無さに優れなかった。
【0044】
実施例10:乳液
(成分) (%)
1.1,3-ブチレングリコール 5.0
2.プロピレングリコール 5.0
3.精製水 残量
4.ニコチン酸アミド 8.0
5.グリセリンモノカプリン酸エステル 0.1
6.リン脂質 2.0
7.カルボマー (注1) 0.15
8.(アクリル酸Na/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー
(注2) 0.1
9.水酸化ナトリウム2%溶液 0.2
10.ヒアルロン酸ナトリウム 0.01
11.加水分解ヒアルロン酸 0.01
12.加水分解コラーゲン 0.01
13.香料 適量
14.コハク酸 適量
15.コハク酸ソーダ 適量
16.クエン酸 適量
注1:CARBOPOL 980(LUBRIZOL ADVANCED MATERIALS 社製)
注2:SIMULGEL EG(SEPIC社製)
【0045】
(製造方法)
A:成分1、2、5、6を70℃で均一に溶解混合する。
B:成分3、4、7~12を80℃で均一に溶解混合する。
C:AにBを添加し70℃で乳化する。
D:Cを40℃まで冷却して、成分13を添加混合し、成分14~16を適量添加混合することで、25℃におけるpHを5.0とし、乳液を得た。
【0046】
実施例10の乳液は、細胞間脂質充填構造の液晶化、浸透感、肌のハリ・弾力、べたつき感の無さにおいて優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、皮膚外用剤や化粧料等に適用できる。