IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リンカーン グローバル,インコーポレイテッドの特許一覧

特許7364357アルカリ土類金属を有する溶接電極ワイヤ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】アルカリ土類金属を有する溶接電極ワイヤ
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/095 20060101AFI20231011BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20231011BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20231011BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20231011BHJP
   B23K 35/36 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B23K9/095 501C
B23K35/30 320A
B23K35/30 320B
B23K35/28
B23K9/173 A
B23K35/36 Z
【請求項の数】 21
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019091284
(22)【出願日】2019-05-14
(65)【公開番号】P2019198894
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】15/981,788
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510202156
【氏名又は名称】リンカーン グローバル,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ベンジャミン シェーファー
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴン アール.ピーターズ
(72)【発明者】
【氏名】バドリ ケー.ナラヤナン
(72)【発明者】
【氏名】イェン‐チー リャオ
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03493713(US,A)
【文献】特開平03-077783(JP,A)
【文献】再公表特許第2013/132855(JP,A1)
【文献】特開2008-055509(JP,A)
【文献】特開昭56-160895(JP,A)
【文献】特開昭56-160878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/095
B23K 35/30
B23K 35/28
B23K 9/173
B23K 35/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク溶接の方法であって、
1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む溶接ワイヤを提供するステップと、
前記溶接ワイヤを溶かすのに十分なプラズマアークを発生させるために前記溶接ワイヤに電力を印加するステップと、
前記プラズマアークに供給される実質的に一定の電力を維持するように調整しつつ、30ポンド毎時を超える溶着速度でワークピース上に、前記溶接ワイヤを溶かすことによって形成された溶融液滴を溶着させるステップと
を含み、
前記溶接ワイヤは、シースと前記シースによって囲まれるコアとを含む金属コア溶接ワイヤであり、前記コアは、前記1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む、方法。
【請求項2】
前記溶接ワイヤ中の前記1つまたは複数のアルカリ土類金属元素の濃度は、前記溶接ワイヤの総重量を基準として0.005%~10%の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コアは、前記1つまたは複数のアルカリ土類金属元素と合金化されている第1のベース金属組成物を有する粒子を含む、請求項に記載の方法。
【請求項4】
存在する場合、前記コア中の非金属原子が前記溶接ワイヤの総重量を基準として5%を超えない濃度で存在する、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記方法は、ガス金属アーク溶接(GMAW)であり、前記コアは、フルオロポリマーをさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記1つまたは複数のアルカリ土類金属元素は、BaまたはCaのうちの1つまたは複数を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
アーク溶接の方法であって、
1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む溶接ワイヤを提供するステップと、
溶接ワイヤを溶かすのに十分なプラズマアークを発生させるために前記溶接ワイヤに電力を印加するステップと、
30ポンド(13.6078kg)毎時を超える溶着速度でワークピース上に、前記溶接ワイヤを溶かすことによって形成された溶融液滴を溶着させるステップであって、溶着させるステップは、前記プラズマアークに供給される電力の標準偏差が前記プラズマアークに供給される平均電力の2%未満であるように前記プラズマアークに供給される前記電力を調整しつつ行われる、ステップと
を含み、
前記溶接ワイヤは、シースと前記シースによって囲まれるコアとを含む金属コア溶接ワイヤであり、前記コアは、前記1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む、方法。
【請求項8】
前記電力の前記標準偏差は、少なくとも200ミリ秒の期間にわたって、500ワット(W)未満である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記電力を調整することは、20kWを超えて調整することを含む、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記電力を調整することは、約500アンペア(A)を超える平均電流および約40ボルト(V)を超える平均電圧を前記プラズマアークに供給することを含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記電力を調整することは、プラズマ不安定性事象の平均数が約10事象毎秒未満であるようなものである、請求項に記載の方法。
【請求項12】
前記アーク溶接は、ガス金属アーク溶接(GMAW)である、請求項に記載の方法。
【請求項13】
前記溶接ワイヤは、前記溶接ワイヤの総重量を基準として0.005%~10%の間の濃度の1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む、請求項に記載の方法。
【請求項14】
前記電力を調整することは、前記プラズマアークから測定された電流または電圧のフィードバックに基づいて前記溶接ワイヤの送給速度またはコンタクトチップ母材間距離(CTWD)を能動的に調節することを含む、請求項に記載の方法。
【請求項15】
アーク溶接の方法であって、
1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む溶接ワイヤを提供するステップと、
溶接ワイヤを溶かすのに十分なプラズマアークを発生させるために前記溶接ワイヤに電力を印加するステップと、
30ポンド(13.6078kg)毎時を超える溶着速度でワークピース上に、前記溶接ワイヤを溶かすことによって形成された溶融液滴を溶着させるステップであって、溶着させるステップは、前記プラズマアークに供給される電力を調整しつつ行われる、ステップと
を含み、
電力を調整することは、電流の変化量を限定するステップを含み、
前記溶接ワイヤは、シースと前記シースによって囲まれるコアとを含む金属コア溶接ワイヤであり、前記コアは、前記1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む、方法。
【請求項16】
電力を調整することは、電流の前記変化量を限定する前に、所定値を超える電圧の瞬間的な変化(dV/dt)を検出するステップを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記dV/dtは、0.1V/マイクロ秒を超える、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
電流の前記変化量を限定するステップは、約200アンペア未満に限定するステップを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
電流の前記変化量を限定するステップは、1ミリ秒未満の所定の持続時間にわたって限定するステップを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
電力を調整することは、電力の標準偏差が前記プラズマアークに供給される平均電力の2%未満であるように前記プラズマアークに供給される電力を調整することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記溶接ワイヤは、前記溶接ワイヤの総重量を基準として0.005%~10%の間の濃度の1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示される技術は、一般に溶接に関し、より詳細には、金属アーク溶接用の消耗電極ワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
金属アーク溶接技術で、ワークピースに向かって進む1つの電極として機能する消耗溶接電極ワイヤと、別の電極として機能するワークピースとの間に、電気アークが生成される。アークは金属ワイヤのチップを溶かし、それにより、ワークピース上に溶着して溶接ビードを形成する、溶融金属ワイヤの液滴を作り出す。
【0003】
溶接要件の複雑さが増大し続けるにつれて、ますます複雑な要件に対処するためのさまざまな技術的手法が提案されている。例えば、競合する要求は、外観において、ならびに降伏強度、延性および破壊靭性などの機械的性質において、高品質溶接ビードを同時に達成しつつ、生産性のために高い溶着速度を達成することを含む。
【0004】
特に、大量に製造を行う使用者は、非常に高い溶着速度、例えばオープンアーク溶接の場合に約30lbs/hr以上の溶着速度を望むことが多い。いくつかの溶接技術は、消耗材料を改善することによって、例えば、電極ワイヤの物理的設計および組成を改善することによって、この要件および他の要件に対処することを目指す。しかしながら、従来技術の電極で、このような高い溶着速度での溶着は、プラズマアークの不安定性をもたらすことが多く、それは次に溶接ビードの許容できない品質をもたらす。したがって、高品質溶接部を作り出しつつ、高い溶着速度において使用することが可能な消耗溶接電極ワイヤの必要性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
1つの態様で、溶接中に電極として機能するように構成された消耗溶接ワイヤ、例えば金属コア消耗溶接ワイヤは、第1のベース金属組成物を有するシースを含む。溶接ワイヤは、シースによって囲まれ、溶接ワイヤの総重量を基準として0.005%~10%の間の濃度の1つまたは複数のアルカリ土類金属元素と混合された第2のベース金属組成物を有する粒子を含む、コアをさらに含む。
【0006】
別の態様で、金属アーク溶接の方法は、電極として機能するように構成された消耗溶接ワイヤ、例えば、金属コア消耗溶接ワイヤを提供するステップを含み、溶接ワイヤは、金属コアワイヤの総重量を基準として0.005%~10%の間の濃度の1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含み、ここで1つまたは複数のアルカリ土類金属元素の原子は、ベース金属組成物と合金化されている。方法は、溶接ワイヤの材料で形成された溶融液滴の安定した流れを作り出すのに十分なプラズマアークを発生させるために電流を印加するステップをさらに含み、それによって、30ポンド毎時を超える溶着速度でワークピース上に溶融液滴を溶着させる。
【0007】
別の態様で、金属アーク溶接のためのシステムは、電極として機能するように構成された消耗溶接ワイヤ、例えば、金属コア消耗溶接ワイヤを含み、ここで溶接ワイヤは、溶接ワイヤの総重量を基準として0.005%~10%の間の濃度の1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含み、ここで1つまたは複数のアルカリ土類金属元素の原子は、ベース金属組成物と合金化されている。システムは、溶接ワイヤの材料で形成された溶融液滴の安定した流れを作り出すのに十分なプラズマアークを発生させるために電流を印加するように構成された電源をさらに含む。システムは、30ポンド毎時を超える溶着速度でワークピース上に溶融液滴を溶着させるように構成された溶接ガンをさらに含む。
【0008】
別の態様で、アーク溶接の方法は、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む溶接ワイヤを提供するステップを含む。方法は、溶接ワイヤを溶かすのに十分なプラズマアークを発生させるために溶接ワイヤに電力を印加するステップをさらに含む。方法は、プラズマアークに供給される実質的に一定の電力を維持するように調整しつつ、30ポンド毎時を超える溶着速度でワークピース上に、溶接ワイヤを溶かすことによって形成された溶融液滴を溶着させるステップをさらに含む。
【0009】
別の態様で、アーク溶接の方法は、溶接ワイヤを溶かすのに十分なプラズマアークを発生させるために溶接ワイヤに電力を印加するステップを含む。方法は、30ポンド毎時を超える溶着速度でワークピース上に、溶接ワイヤを溶かすことによって形成された溶融液滴を溶着させるステップをさらに含む。溶着させるステップは、プラズマアークに供給される電力の標準偏差がプラズマアークに供給される平均電力の2%未満であるようにプラズマアークに供給される電力を調整しつつ行われる。
【0010】
別の態様で、アーク溶接の方法は、溶接ワイヤを溶かすのに十分なプラズマアークを発生させるために溶接ワイヤに電力を印加するステップを含む。方法は、30ポンド毎時を超える溶着速度でワークピース上に、溶接ワイヤを溶かすことによって形成された溶融液滴を溶着させるステップをさらに含み、溶着させるステップは、プラズマアークに供給される電力を調整しつつ行われる。電力を調整することは、電流の変化量を限定するステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】金属アーク溶接工程における電極の構成の略図である。
図2A】実施形態による、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む電極ワイヤの略図である。
図2B】実施形態による、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む電極ワイヤを使用する溶接ビード形成の略図である。
図2C図2Bの溶接中心線AA’に沿った1つまたは複数のアルカリ土類金属元素の濃度プロファイルの略図である。
図3A】実施形態による、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含むコアを有する金属コア電極ワイヤの略図である。
図3B】実施形態による、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含むコアを有する金属コア電極ワイヤの略図である。
図4】実施形態による、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素およびフッ素含有粒子を含むコアを有する金属コア電極ワイヤの略図である。
図5】実施形態による、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む電極ワイヤを使用する高い溶着速度のために構成された金属アーク溶接システムの略図である。
図6】実施形態による、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む電極ワイヤを使用する金属アーク溶接の方法のフローチャートである。
図7】実施形態による、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む電極ワイヤの実験アーク不安定性監視結果を例示するグラフである。
図8】実施形態による電力調整アーク溶接中および定電圧アーク溶接中に発生する実験波形の比較を例示する。
図9】さまざまな実施形態による、電力調整アーク溶接の方法を例示する。
図10A】実施形態による電力調整アーク溶接中に発生する実験波形を例示する。
図10B】定電圧アーク溶接中に発生する比較実験波形を例示する。
図11A】実施形態による、電力調整アーク溶接中に発生する実験波形を例示する。
図11B】実施形態による、電流の変化量を限定するステップを含む電力調整アーク溶接の方法例を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、金属アーク溶接工程における電極の構成の略図である。金属アーク溶接、例えば、ガス金属アーク溶接(GMAW)で、1つの電極4(例えば、アノード(+))に電気的に接続される、消耗金属ワイヤ6と、別の電極(例えば、カソード(-))として機能する、ワークピース2との間に電気アークが生成される。その後、プラズマ8が持続し、それは、アークによって気化した金属ワイヤ6の材料の中性のおよび荷電したクラスタまたは液滴と同様に、中性のおよびイオン化したガス分子を含有する。消耗金属ワイヤ6は、ワークピース2に向かって進み、金属ワイヤ6の溶融液滴がワークピース上に溶着し、それにより溶接ビードが形成される。
【0013】
広く使用されるアーク溶接工程は、とりわけ、ソリッド電極ワイヤ(GMAW)または金属コアワイヤ(GMAW-C)のいずれかを使うことができるガス金属アーク溶接工程、ガスシールドフラックス入りアーク溶接(FCAW-G)またはセルフシールドフラックス入りアーク溶接(FCAW-S)とし得るフラックス入りアーク溶接工程(FCAW)、シールド金属アーク溶接(SMAW)およびサブマージアーク溶接(SAW)を含む。
【0014】
本明細書に記載される場合、金属コア電極(GMAW-C)は、成分が主に金属であるコアを有する電極を意味する。存在する場合、コア中の非金属成分の合計濃度は、各電極の総重量を基準として5%未満、3%未満または1%未満である。GMAW-C電極は、スプレーアークおよび優れたビード性能を特徴とする。
【0015】
ソリッド電極(GMAW)または金属コア電極(GMAW-C)を使用するガス金属アーク溶接で、溶接中の大気汚染から溶融池および溶接ビードを保護するためにシールドガスが使用される。ソリッド電極が使用されるとき、それらは、シールドガスと組み合わせて、結果として生じる溶接ビードの望ましい物理的および機械的性質を持つポロシティのない溶接部を提供するように設計される、有効成分と適切に合金化される。金属コア電極が使用されるとき、有効成分の一部は、金属製外側シースのコアに添加されて、ソリッド電極の場合と類似の機能を提供するように設計される。
【0016】
ソリッド電極および金属コア電極は、適切なガスシールド下で、最終的な用途で満足に機能するための降伏強度、引張強度、延性および衝撃強度を持つ、中実で実質的にポロシティのない溶接部を提供するように設計される。これらの電極は同様に、溶接中に発生するスラグの量を最小化するように設計される。いくつかの用途の場合、生産性を向上させるためにソリッドワイヤに対する代替として金属コア電極を使用することができる。金属コア電極は、少なくとも部分的に充填され金属製外側シースによって囲まれたコアを有する複合電極である。コアは、金属粉末と、アーク安定性、溶接部のぬれおよび外観、ならびに望ましい物理的および機械的性質に役立つ有効成分とを含むことができる。金属コア電極は、コア材料の成分を混合し、それらを形成されたストリップの内側に堆積し、それから、ストリップを閉じて最終的な直径まで引き伸ばすことによって製造される。いくつかの用途の場合、コア電極は、ソリッド電極と比較して、溶着速度の増加と、より幅広く、より一貫性のある溶込みプロファイルとを提供することができる。本明細書に記載される場合、金属コア電極(GMAW-C)は、成分が主に金属であるコアを有する電極を意味する。存在する場合、コア中の非金属成分の合計濃度は、各電極の総重量を基準として、5%未満、3%未満または1%未満である。さらに、いくつかの用途の場合、コア電極は、ソリッド電極と比較して、改善されたアーク作用を提供し、煙霧およびスパッタの発生をより少なくし、より良好なぬれを持つ溶着物を提供することができる。
【0017】
フラックス入りアーク溶接(FCAW、FCAW-S、FCAW-G)で、コア電極が使用される。フラックス入りアーク溶接で使用されるコア電極は、上述の金属コア電極と同じように、少なくとも部分的に充填され金属製外側シースによって囲まれたコアを有する。しかしながら、フラックス入りアーク溶接で使用されるコア電極は、少なくとも部分的にシールドガスの代わりに、溶接中の大気汚染から溶融池および溶接ビードを保護するように設計されたフラックス剤をさらに含む。フラックス入りアークに使用されるコア電極は、アーク安定性、溶接部のぬれおよび外観、ならびに望ましい物理的および機械的性質に役立つ他の有効成分をさらに含むことができる。アーク安定性を制御するため、溶接金属組成物を修正するため、および大気汚染から保護するために、多数のフラックス剤の組成物が開発されている。アーク安定性は、一般にフラックスの組成を修正することによって制御される。それゆえ、フラックス混合物中にプラズマ電荷キャリアとして十分に機能する物質を有することがしばしば望ましい。いくつかの用途で、フラックスは、金属中の不純物をより容易に可溶化し、これらの不純物が結合し得る物質を提供することによって、溶接金属組成物を同様に修正することができる。他の材料は、スラグ融点を下げるため、スラグ流動性を改善するため、およびフラックス粒子に対する結合剤として機能するために、ときどき添加される。
【0018】
本明細書に開示されるさまざまな実施形態は、上述のさまざまな溶接工程における高い溶着速度のますます複雑な要件に対処することを目指す。有利には、本明細書に開示される実施形態は、比較的大量のアルカリ土類金属元素を含む電極に関する。いくつかの実施形態で、電極は、比較的大量のアルカリ土類金属元素を含有するソリッド電極である。いくつかの他の実施形態で、従来型スティック溶接で達成することが難しいまたは不可能な場合がある広範囲の冶金学的および物理的特性を提供するために、電極は、コア電極、例えば、金属コア電極またはフラックス入り電極である。本明細書に記載される場合、高い溶着速度は、ほとんどのオープンアーク溶接工程で実用的に達成可能な速度よりもずっと高い、約30lbs/hrを超える溶着速度を意味する。本明細書に開示される電極の実施形態は、比較的小さい直径の電極でさえも、過大な電気抵抗加熱を起こすことなくこのような高い溶着速度を可能にする。加えて、結果として生じる溶接ビードは、80,000psiを超える降伏強度などの、望ましい機械的性質を有する。
【0019】
アルカリ土類金属元素を含む溶接ワイヤ
図2Aは、実施形態による、ベース金属組成物および1つまたは複数のアルカリ土類金属元素(Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra)を含む溶接電極ワイヤ20、例えば金属コア溶接電極ワイヤの略図である。
【0020】
図2Aの例示された実施形態を含む本明細書に記載のさまざまな実施形態で、ベース金属組成物は、鋼組成物またはアルミニウム組成物を含む。いくつかの実施形態で、ベース金属組成物は炭素鋼組成物とすることができる。いくつかの非限定的な組成物の例を提供するために、炭素鋼組成物は、Feと、約0.01重量%~約0.5重量%の間の濃度のC、約0.1重量%~約1.5重量%の間の濃度のSi、約0.5重量%~約5重量%の間の濃度のMn、約0.001重量%~約0.05重量%の間の濃度のS、約0.001重量%~約0.05重量%の間の濃度のP、約0.01重量%~約0.5重量%の間の濃度のTi、約0.01重量%~約0.5重量%の間の濃度のZr、約0.01重量%~約0.5重量%の間の濃度のAlおよび約0.1重量%~約1重量%の間の濃度のCuのうちの1つまたは複数とを含む。
【0021】
いくつかの他の実施形態で、ベース金属組成物は低炭素鋼組成物とすることができる。いくつかの非限定的な実施例は、約0.10重量%未満の濃度のCおよび最大約0.4重量%までの濃度のMnを有する組成物、ならびに約0.30重量%未満の濃度のCおよび最大約1.5重量%までの濃度のMnを有する組成物を含む。
【0022】
いくつかの他の実施形態で、ベース金属組成物は低合金鋼組成物とすることができる。いくつかの非限定的な組成物例を提供するために、低合金鋼組成物は、Feと、約0.01重量%~約0.5重量%の間の濃度のC、約0.1重量%~約1.0重量%の間の濃度のSi、約0.5重量%~約5重量%の間の濃度のMn、約0.001重量%~約0.05重量%の間の濃度のS、約0.001重量%~約0.05重量%の間の濃度のP、約0.01重量%~約5重量%の間の濃度のNi、約0.1重量%~約0.5重量%の間の濃度のCr、約0.1重量%~約1重量%の間の濃度のMo、約0.001重量%~約0.1重量%の間の濃度のV、約0.01重量%~約0.5重量%の間の濃度のTi、約0.01重量%~約0.5重量%の間の濃度のZr、約0.01重量%~約0.5重量%の間の濃度のAlおよび約0.1重量%~約1重量%の間の濃度のCuのうちの1つまたは複数とを含む。
【0023】
いくつかの他の実施形態で、ベース金属組成物はステンレス鋼組成物とすることができる。いくつかの非限定的な組成物例を提供するために、ステンレス鋼組成物は、典型的には、Feと、約0.01重量%~約1重量%の間の濃度のC、約0.1重量%~約5.0重量%の間の濃度のSi、約10重量%~約30重量%の間の濃度のCr、約0.1重量%~約40重量%の間の濃度のNi、約0.1重量%~約10重量%の間の濃度のMn、約0.001重量%~約0.05重量%の間の濃度のSおよび約0.001重量%~約0.05重量%の間の濃度のPのうちの1つまたは複数とを含む。
【0024】
いずれの理論にも束縛されることなく、上に論じた各元素は、鋼溶接において特定の利点を提供することができる。炭素は、溶接物における強度および延性を提供することができる。マンガンは、溶接部に強度を付加することができる別の元素であり、溶接部から酸素を除去し溶接金属のポロシティを低減させる脱酸剤として同様に機能することができる。ケイ素は、溶接部から酸素を除去する、脱酸剤として機能し、溶接金属のポロシティの可能性を低減させることができる。一般に、金属中のケイ素のレベルが高いほど、溶接パドルは流動的になる。ケイ素の添加は、同様に、引張強度および降伏強度を向上させることができる。リンは、溶接割れの一因となり得るので、一般に溶着物に望ましくない。硫黄は同様に、溶接性のため一般に望ましくなく、溶接割れの一因となり得る。しかしながら、限定された量で、硫黄またはリンは、溶接パドルの流動性およびぬれを改善することができる。銅は、(銅被覆の場合)導電性の改善、したがって、より良好なアーク開始のためのワイヤ電極の被覆の結果として存在することができる。チタンは、ケイ素およびマンガンに加えて、脱酸剤として機能することができる。いくつかの脱酸剤は、溶接部から酸素および窒素の両方を除去するのを助け、それによって、溶接金属のポロシティの発生を低減させる。ジルコニウム、アルミニウム、およびニッケルは、脱酸剤として機能することができる。モリブデンは、溶接部が応力除去溶接後熱処理を受けるときでさえも、強度を付加し衝撃性質を改善することができる。クロムは、耐腐食性を改善することができる。
【0025】
鋼組成物以外のベース金属組成物が可能である。いくつかの実施形態で、ベース金属組成物はアルミニウム組成物とすることができる。いくつかの非限定的な組成物例を提供するために、アルミニウム組成物は、Alと、約0.01重量%~約5%の間の濃度のMn、約0.1重量%~20重量%の間の濃度のSi、約0.1重量%~約1.0重量%の間の濃度のFe、約0.01重量%~約10重量%の間の濃度のMg、約0.01重量%~約1.0重量%の間の濃度のCr、約0.01重量%~10重量%の間の濃度のCu、約0.01重量%~約1.0重量%の間の濃度のTiおよび約0.01重量%~約1.0重量%の間の濃度のZnのうちの1つまたは複数とを含む。これらのおよび他のアルミニウム組成物は、実施形態による、溶接電極ワイヤ20のベース金属の一部として含むことができる。
【0026】
図2Aの例示された実施形態を含む本明細書に記載のさまざまな実施形態で、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素(Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra)は、電極ワイヤの総重量を基準として、約0.005%、0.050%または0.1%の最小濃度から約0.5%、5%または10%の最大濃度の間の濃度範囲で存在する。
【0027】
2つ以上のアルカリ土類金属元素が存在するとき、前述の濃度は、合計濃度または個別濃度を表す。
【0028】
1つの特定の実施形態で、Baは、約0.05%~5%の間または約0.1%~約10%の間、例えば約0.12%の濃度で存在する。
【0029】
別の実施形態で、Caは、約0.05%~5%の間または約0.1%~約10%の間、例えば約0.12%の濃度で存在する。
【0030】
さらに別の実施形態で、BaおよびCaは、それぞれ、約0.05%~5%の間または約0.1%~約10%の間、例えば約0.12%の濃度で両方とも存在する。
【0031】
いくつかの実施形態で、アルカリ土類金属の原子は、ベース金属組成物と合金化されている。すなわち、アルカリ土類金属の原子は、ベース金属組成物の原子と金属結合を形成する。いくつかの他の実施形態で、アルカリ土類金属の原子は、ベース金属組成物のマトリクス内で、例えば、析出物の形で、クラスタ化される。アルカリ土類金属元素が、ベース金属組成物と混合物を形成する化合物、例えば、ケイ酸塩、チタン酸塩、炭酸塩、ハロゲン化物、リン酸塩、硫化物、水酸化物、フッ化物および酸化物の形である、さらに他の実施形態が可能である。
【0032】
発明者らは、本明細書に記載の濃度のアルカリ土類金属を有することが、利点の中でも特に、(例えば、30lbs/hrを超える)高い溶着速度を達成するための(例えば、200アンペアを超える、または400アンペアを超える)高電流におけるアークに安定性を提供するという利点を提供し得ることを見いだした。加えて、ある状況下では、本明細書に記載の濃度のアルカリ土類金属は、脱酸剤として有利に機能することができる。
【0033】
実施形態によれば、上述の特徴は、溶接金属電極20を0.045インチ~3/32インチ(1.1mm~2.4mm)の直径範囲を有するように構成することによって少なくとも部分的に達成することができる。
【0034】
以下に、図2Bおよび2Cに関して、いずれの理論にも束縛されることなく、実施形態による溶接電極ワイヤが使用されるとき、アルカリ土類金属元素の展開が、溶接ビードが形成されるにつれて説明される。以下の説明は、図3A~3Bおよび4に関して後述する実施形態と同様に、図2Aに関して上述した溶接電極ワイヤに適用可能であることを理解されたい。さらに、説明は、鋼ベース金属組成物に適用されるが、類似した概念がアルミニウムベース金属組成物に適用される。
【0035】
Fe-C系の平衡相図(図示されない)によれば、約910℃未満で安定している体心立方フェライト(α-Feとしても知られる)、約730℃を超えて安定している面心立方オーステナイト(γ-Feとしても知られる)、および約1,390℃を超えて約1,539℃の融点まで安定しているデルタフェライト(δ-Fe)を含む、鉄のいくつかの相が存在する。溶接中に、ベース鋼組成物に応じて、液化した電極組成物は、いくつかの経路を介して急冷されて固体溶接ビードを形成することができる。例えば、炭素鋼および低合金鋼組成物の場合、経路は、L→δ+L、その後に続くδ+L→δ+γ+L、その後に続くδ+γ+L→γ+δ+L→γを含むことができる。あるいは、炭素鋼および低炭素鋼組成物の場合の経路は、包晶組成物の場合、L→δ+L、その後に続くδ+L→δを含むことができる。ステンレス鋼組成物の場合、経路は、L→δ+L、その後に続くδ+L→δ+γとすることができる。上述のアルカリ土類金属の濃度で、溶解アルカリ土類金属元素を含む、液化した溶接金属電極が上述の経路のうちの1つに従って溶接ビードに凝固するとき、アルカリ土類金属元素の比較的少量の原子が、鋼組成物の格子(例えば、鋼組成物の体心立方格子または面心立方格子)に置換型および/または侵入型で取り込まれるようになる。結果として、アルカリ土類金属原子の大部分は、実施形態によれば、偏析または析出して、結果として生じるスラグに取り込まれるようになる。結果として、アルカリ土類金属原子の大部分は、結果として生じるビードに実質的に取り込まれないので、結果として生じる溶接ビードには、アルカリ土類金属原子が比較的含まれない。
【0036】
図2Bは、実施形態による、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む電極ワイヤを使用する溶接ビード形成22の略図である。図2Bで、溶接ビードの溶接金属結晶24は、溶接パドル28などの、前の溶接パドル中の電極溶接金属の液相から結晶化した。溶接ビードがx方向に形成し続けるにつれて、溶接パドル28は、電極溶接金属の液相を表す。溶接ビード形成22は、例えば、溶着速度が約30lbs/hrを超えるときの、比較的高い溶着速度下でのビード形成を表す。このような状況下で、溶接パドル28の形状は、梨状の形で、溶接中心線AA’に沿った方向に長くなる(例えば長さ(l)/幅(w)>1.5)ことがある。
【0037】
実施形態によれば、アルカリ土類金属元素の濃度が比較的高いとき、例えば、溶解限度よりも高いとき、溶接パドルは鋼またはアルミニウム組成物の1つまたは複数の固相に凝固するので、溶接ビードが成長するにつれて、例えば、アルカリ土類金属原子の量が溶接金属結晶24の結晶粒および粒界によって収容され得る量を超えるとき、不純物原子は、液固界面26、またはビードの表面に偏析し得る。加えて、溶融池28は、アルカリ土類金属元素の濃度を濃縮し続けることができ、最終的に、偏析したアルカリ土類金属元素を含有するスラグをもたらす。
【0038】
図2Cは、図2Bの溶接中心線AA’に沿った1つまたは複数のアルカリ土類金属元素の濃度プロファイルを概略的に例示するグラフ29を示す。いくつかの実施形態によれば、アルカリ土類金属元素の濃度は、図2Cに例示されるように、ベース金属組成物が鋼組成物である実施形態の場合、アルカリ土類金属原子の相当量、例えば本質的にすべてが、γ-Feおよび/またはδ-Fe結晶粒を含み得る溶接金属結晶24の結晶粒および/または粒界から偏析するように選択される。グラフ29は、図2Bの溶接中心線AA’の断面に沿った溶接中心線方向(x方向)におけるアルカリ土類金属の濃度を例示する。図2Cに例示されるように、いくつかの実施形態で、溶解限度以下で固体溶接ビードに取り込まれる、比較的少量、例えば微量のアルカリ土類金属の濃度29aは、x方向に沿ってCで比較的一定である。加えて、溶接パドル28中のCのアルカリ土類金属の濃度29bがCの濃度を実質的に超えるように、アルカリ土類金属の実質的にすべてが液固界面26および/または表面に偏析する。溶接パドル28は、アルカリ土類金属元素の濃度を濃縮し続けることができ、最終的にスラグをもたらす。
【0039】
翼状に濃縮される溶接パドルが冷却されて溶接ビードを形成するとき、アルカリ土類金属のほぼすべてが溶接ビードの表面に、例えばスラグの一部として偏析する。さまざまな実施形態で、有利には、電極ワイヤ中のアルカリ土類金属の初期濃度の約80%超、約90%超、または約99%超がビードの表面および/または液固界面に偏析し、それによって、容易に除去することができるスラグを形成する。
【0040】
図2A図2Cに関して上述したさまざまな技術的特徴は、特定のタイプの電極、例えば、ソリッド電極ワイヤ(GMAW)、金属コアワイヤ(GMAW-C)、フラックス入りアーク溶接工程(FCAW)、ガスシールドフラックス入りアーク溶接(FCAW-G)、セルフシールドフラックス入りアーク溶接(FCAW-S)、シールド金属アーク溶接(SMAW)またはサブマージアーク溶接(SAW)の中に限定されるものではない。以下に、アルカリ土類金属元素を含むコア電極の特定の実施形態を詳細に説明する。
【0041】
一般に、コア電極は、粒子または粉末のコアを持つ、連続的に送給される管状金属シースである。コアは、靱性および強度を向上させ、耐腐食性を改善し、アークを安定化させる元素と同様に、フラックス元素、脱酸剤および脱窒剤、ならびに合金材料を含むことができる。上述のように、コア電極は、以下、すなわち、金属コア電極(GMAW-C)、セルフシールドフラックス入り電極(FCAW-S)およびガスシールドフラックス入り電極(FCAW-G)のうちの1つとして分類することができる。本明細書に記載の実施形態で、アルカリ土類金属元素を含有する金属コア電極中の粒子は、一般に、酸化物またはフッ化物などの化合物よりむしろ、金属および合金粒子であり、溶接部の表面にスラグの小さい島だけを作り出すことを理解されたい。対照的に、溶接中に広範囲にわたるスラグ被覆を作り出し、それがビードを支持し成形する、フラックス入り電極は、酸化物およびフッ化物などの化合物の形でアルカリ土類金属元素を含有する粒子を有し得る。以下に説明するように、本明細書に開示されるさまざまな実施形態は、金属コア電極、セルフシールドフラックス入り電極およびガスシールドフラックス入り電極のうちのいずれか1つのために最適化することができる。
【0042】
上述のように、金属コア電極は、具体的に選択された鉄および他の金属粉末および合金を有する粒子のコアを持つ、例えば軟鋼で形成されたシースを有する複合電極である。安定剤およびアーク増進剤などの添加物は、容易に添加することができ、それによって溶接工により広い作業ウィンドウを提供することができる。金属コア電極(GMAW-C)は、ソリッド合金電極(GMAW)の代替となるガスシールドタイプである。
【0043】
製造の柔軟性のために、業務が特別な電極を必要とするとき、金属コア電極は、ソリッド電極よりも経済的であり得る。製造工程は、鋼の特別な溶解液を生成する代わりに金属粉末を混合することを伴うので、少量生産がより容易であり、最小注文数量がはるかに少なくなる。結果として、金属コア電極は、特別注文されたソリッド電極よりも、短いターンアラウンド時間かつ低コストで生産することができる。
【0044】
図3Aおよび3Bは、実施形態による、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素(Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra)を含むコアを有する金属コア電極ワイヤ30a/30bの略図である。各金属コア電極ワイヤ30a/30bは、第1のベース金属組成物を含むシース34とシース34によって囲まれるコア38a/38bとを含む。コア38a/38bは、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素と第2のベース金属組成物とを含む粒子で少なくとも部分的に充填される。
【0045】
金属コア電極ワイヤ30a/30bで、シース34の第1のベース金属およびコア中の粒子の第2のベース金属は、図2Aの電極20に関して上述した鋼組成物またはアルミニウム組成物のいずれか1つを含むことができる。いくつかの実施形態で、第1のベース金属と第2のベース金属は同じであるのに対して、他の実施形態では、第1のベース金属と第2のベース金属は異なる。加えて、粉末成分は、以下に説明するように、さまざまな構成のアルカリ土類金属を含む。
【0046】
図3Aの金属コア電極30aを参照すると、粒子32は、実施形態によれば、第2のベース金属組成物およびアルカリ土類金属の合金で形成される。上の図1に関して上述した実施形態と同じように、図3Aの例示された実施形態で、アルカリ土類金属元素の原子は、第2のベース金属組成物の格子(例えば、鋼組成物の体心立方格子または面心立方格子)に、例えば、置換型および/または侵入型で、固溶させ、または直接取り込むことができる。アルカリ土類金属元素の原子は、同様に、第2のベース金属組成物のマトリクス内で、クラスタ化され、例えば、析出物を形成することができる。あるいは、アルカリ土類金属元素が、化合物、例えば、ケイ酸塩、チタン酸塩、炭酸塩、ハロゲン化物、リン酸塩、硫化物、水酸化物、フッ化物および酸化物の形である、実施形態が可能である。
【0047】
図3Aの例示された実施形態で、粒子32は、組成が実質的に均一であり、類似または本質的に同じ量のアルカリ土類金属を含有する。例えば、粒子32が同じまたは異なる合金インゴットから作り出されるとき、このようなことが当てはまり得る。
【0048】
しかしながら、次に、図3Bの金属コア電極30bを参照すると、他の実施形態が可能である。図3Bの電極30bで、粒子36a、36bは、異なる組成を有する。いくつかの実施形態で、粒子36a、36bは異なる元素を含有する。他の実施形態で、粒子36a、36bは、構成不純物の1つまたは複数を異なる濃度で同じ元素を含有する。
【0049】
いくつかの実装で、すべての粒子36a、36bは、第2のベース金属組成物(例えば、鋼またはアルミニウム組成物)および1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含むが、第2のベース金属組成物および1つまたは複数のアルカリ土類金属元素の一方または両方を異なる濃度で含む。いくつかの他の実装で、いくつかの粒子36aは、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含まずに第2のベース金属組成物を含み、一方、他の粒子36bは、第2のベース金属組成物および1つまたは複数のアルカリ土類金属元素をともに含む。いくつかの他の実装で、いくつかの粒子36aは、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含んで第2のベース金属組成物を含まず、一方、他の粒子36bは、第2のベース金属組成物および1つまたは複数のアルカリ土類金属元素をともに含む。いくつかの他の実装で、いくつかの粒子36aは、1つまたは複数のアルカリ土類金属を含んで第2のベース金属組成物を含み、一方、他の粒子36bは、1つまたは複数のアルカリ土類金属を含んで第2のベース金属組成物を含まない。いくつかの他の実装で、いくつかの粒子36aは、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含んで第2のベース金属組成物を含まず、一方、他の粒子36bは、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含まず第2のベース金属組成物を含む。いくつかの他の実装で、すべての粒子36a、36bが1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を異なる濃度で含む一方、第2のベース金属組成物を含む粒子はない。
【0050】
図3A~3Bの例示された実施形態を含む本明細書に記載のさまざまな実施形態で、ベース金属組成物は、図2Aに関して上述したものと類似の組成を有する鋼組成物またはアルミニウム組成物を含む。
【0051】
図3A~3Bの例示された実施形態に関して本明細書に記載されたさまざまな実施形態で、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素(Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra)は、図2Aに関して上述した濃度で存在する。
【0052】
実施形態によれば、上述の濃度は、0.045インチ(1.1mm)~0.068インチ(1.7mm)の間、0.045インチ(1.1mm)~3/32インチ(2.4mm)の間、または0.052インチ(1.4mm)~0.068インチ(1.7mm)の間の外径(OD)を有するように金属コア電極30a/30bを構成することによって少なくとも部分的に達成することができる。
【0053】
実施形態によれば、上述の濃度は、金属コア電極ワイヤ30a/30bの総重量を基準として、コアの内容物が約1重量%~約80重量%の間、約10重量%~約50重量%の間、または約15重量%~約30重量%の間を占めるように、コア38a/38bおよびシース34の内容物を構成することによって少なくとも部分的に達成することができる。
【0054】
本明細書に記載の特定の濃度および構成のアルカリ土類金属を有することは、多くの利点を有し得る。いずれの理論にも従うことなく、アルカリ土類金属は、ある特定のプラズマ特性を修正し、例えばイオン化ポテンシャルを増加させると考えられている。プラズマのイオン化ポテンシャルの増加は次に、より高い電流でより高いプラズマ安定性をもたらすことができ、その結果、より高い溶着速度、例えば30ポンド毎時を超える溶着速度を持続させることができる。加えて、他の箇所に記載のように、アルカリ土類金属原子は、結果として生じる溶接ビードに実質的に取り込まれないので、結果として生じる溶接物の機械的性質の劣化を防止することができる。いずれの理論にも従うことなく、粒界中のアルカリ土類金属の新しい相の形成および/または過度の蓄積を防止することができる。
【0055】
図3A~3Bの金属コア電極に関して上述した、いくつかの実施形態によれば、金属コア電極(GMAW-C)は、シールドガスによってシールドが提供される、ガス金属アーク溶接のために構成される。上述のように、ガス金属アーク溶接は、管状電極内に含有されるフラックスがシールドを作り出す、フラックス入りアーク溶接(FCAW)と区別可能である。フラックス剤は、フラックス入りアーク溶接(FCAW)用のスラグを形成する。FCAWでは、フラックスの材料が最終的な溶接ビードに取り込まれるように意図されない。その代わりに、フラックスは、溶接の完了後に除去される、スラグを形成する。したがって、本明細書に記載の金属コア電極のさまざまな実施形態で、コアは追加のフラックス剤を含有しない。
【0056】
金属コア電極およびフラックス入り電極は結果として生じるビード特性に基づいてさらに区別可能であることを理解されたい。さまざまな実施形態によれば、本明細書に記載の金属コア電極は、結果として生じる溶接ビードの表面にスラグの島を作り出す。対照的に、フラックス入り電極は、結果として生じる溶接ビードの表面の広範囲にわたるスラグ被覆を作り出す。例えば、金属コア電極によって作り出されるスラグの島は、溶接ビードの表面積の50%未満、30%未満、または10%未満を覆うことができる。電極中のアルカリ土類金属の量および配置は、高速溶接用の金属コア電極のコアに存在するとき、より有利であり得るが、実施形態はそのように限定されず、本明細書に記載の概念は、他の電極構成、例えば、フラックス入り電極で使用することができる。
【0057】
図4は、実施形態による、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素(Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra)を含むコアを有する金属コア電極ワイヤ40の略図である。金属コア電極ワイヤ40は、第1のベース金属で形成されたシース44を含む。シース44の第1のベース金属組成物は、図2Aの電極20に関して上述した鋼組成物またはアルミニウム組成物のいずれか1つを含むことができる。金属コア電極40は、図3Aの粒子32または図3Bの粒子36a、36bに関して上述した構成のいずれか1つまたは組み合わせによる、第2のベース金属組成物および/または1つもしくは複数のアルカリ土類金属元素を含む粒子40aを含むコア48をさらに含む。金属コア電極40のコア48は、実施形態による、1つまたは複数のフッ素含有粒子40bをさらに含む。いくつかの他の実施形態で、コア48は、1つまたは複数の非フッ素含有粒子40cをさらに含む。
【0058】
いずれの理論にも束縛されることなく、フッ素含有粒子40bを有するフッ素含有化合物を含み得る1つまたは複数の非金属粒子36cは、スラグの性質を修正してビードの形状を改善するために、例えば、形成された溶接ビード上のガストラッキングの傾向を低減させるために使用される。例えば、芋虫に似たクレータが溶接ビードの表面に観察される場合に観察される現象である、ガストラッキングは、フッ素含有化合物が存在するとき低減され得る。いずれの理論にも束縛されることなく、例えば、スラグが溶融池よりもはるかに速く凝固する高速凝固スラグ系(ルチル系)で、ガストラッキングが観察されることがある。スラグの急速な凝固に起因して、溶融溶接部から発生するガスは、部分的に捕捉され、したがって溶接ビード表面にクレータを形成する。
【0059】
いずれの理論にも束縛されることなく、フッ素含有粒子40bを有するフッ素含有化合物は、同様に、スラグの融点を引き下げることができる。スラグの融点がより低いことによって、スラグをより長時間溶融したままにすることが可能になり、それによりガスが溶融溶接部から発生しスラグに溶けるための時間をより長くすることが可能になる。スラグ中にフッ素を含むことによって、HFの形成を同様に促進することができ、それにより溶接部からの水素が低減し、それによって溶接システム中の水素の分圧が減少し、ガストラッキングの発生が低減する。
【0060】
フッ素含有粒子40bは、いくつかの実施形態によれば、フルオロポリマーを含むことができる。フッ素含有化合物がフルオロポリマーを含むとき、フルオロポリマーは、各モノマーが少なくとも1つのフッ素原子で置換される、2~約10個の炭素原子を含有する炭化水素モノマーのホモポリマーとすることができる。例えば、フルオロポリマーは、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリテトラフルオロエチレンおよびポリヘキサフルオロプロピレンなどのフルオロカーボンポリマー、ならびにフッ化ビニリデンおよびテトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマーなどのコポリマーで形成することができる。
【0061】
実施形態で、フルオロポリマーポリマーは、微粒子の形でコア48に取り込まれて電極の形成および引き伸ばし中にその組成を維持することができるように、約1,000°F未満の融点を有する。ソリッドワイヤを作り出すために使用される溶融または合金化工程中にポリマーが分解する場合があるので、図2Aに関して上述したようなソリッド金属ワイヤ電極中にフルオロポリマーを使うことは、より実用的でない場合があることを理解されたい。
【0062】
本明細書に開示されるさまざまな実施形態で、電極ワイヤ中のフッ素(F)の濃度は、電極ワイヤの総重量を基準として、約0.02重量%~約2重量%の間、約0.1重量%~約1.5重量%の間、または約0.5重量%~約1.0重量%の間、例えば約0.7重量%である。
【0063】
フッ素含有粒子40bが、フッ化アルミニウム、フッ化バリウム、フッ化ビスマス、フッ化カルシウム、フッ化マンガン、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化ストロンチウム、ポリ四フッ化エチレン(Teflon(登録商標)など)、NaSiF、KSiF、NaAlFおよび/またはKAlFなどの、非重合体または無機のフッ素含有化合物を含む、他の実施形態が可能である。しかしながら、他のまたはさらなるフッ素含有化合物が使用され得ることを理解されたい。
【0064】
非フッ素含有粒子40cは、実施形態によれば、遷移金属酸化物、例えば、酸化チタン(例えば、ルチルなど)および/または遷移金属含有化合物(例えば、カリウムシリコ-チタネート、ナトリウムシリコ-チタネートなど)を含む。一般に、非フッ素含有粒子の重量パーセントは、例えば、約0.5~10:1、典型的には約0.5~5:1、およびより典型的には約0.7~4:1の間の比率で、フッ素含有化合物の重量パーセントよりも大きい。
【0065】
高い溶着速度に適合したアーク溶接システム
図5は、実施形態による、オープンアーク溶接の場合に約30lbs/hrまたはより高い速度で溶接金属を溶着させるための上に論じた溶接電極とともに使用するために構成された溶接システム50を例示する。特に、アーク溶接システム50は、実施形態によれば、GMAW、FCAW、FCAW-G、GTAW、SAW、SMAW、またはアルカリ土類金属を含む溶接電極を使用可能な類似のアーク溶接工程のために構成される。アーク溶接システム50は、溶接電源52、溶接ワイヤドライブ54、シールドガス供給部58、および溶接ガン59を含む。溶接電源52は、溶接システム50に電力を供給するように構成され、図1に詳細に描写されるように、溶接電極ワイヤが第1の電極として機能するように溶接ワイヤドライブ54に電気的に結合され、第2の電極として機能するワークピース57にさらに電気的に結合される。溶接ワイヤドライブは、溶接ガン59に結合され、溶接システム50の動作中に溶接電極ワイヤを電極供給部56から溶接ガン59まで供給するように構成される。いくつかの実装で、溶接電源52は、同様に、溶接ガン59に結合して電力を直接供給することができる。
【0066】
例示的な目的で、図5は、オペレータが溶接トーチを操作する半自動溶接構成を示していることを理解されたい。しかしながら、本明細書に記載の金属コア電極は、ロボット機械が溶接トーチを操作するロボット溶接セルで有利に使用することができる。
【0067】
溶接電源52は、交流電源(例えば、AC送電網、エンジン/発電機セット、またはそれらの組み合わせ)から入力電力を受け取り、入力電力を整え、DCまたはAC出力電力を溶接システム50に供給する電力変換回路を含む。溶接電源52は、溶接ワイヤドライブ54に給電することができ、それは次に、溶接ガン59に給電する。溶接電源52は、AC入力電力をDC正もしくはDC負出力、DC可変極性、パルスDC、または可変平衡(例えば、平衡または不平衡)AC出力に変換するように構成された、回路素子(例えば、変圧器、整流器、スイッチなど)を含み得る。約30lbs/hrを超える速度での溶接金属溶着を達成することができるように、溶接電源52は、約100アンペア~約1000アンペアの間、または約400アンペア~約800アンペアの間の出力電流を提供するように構成されることを理解されたい。
【0068】
シールドガス供給部58は、実施形態によれば、シールドガスまたはシールドガス混合物を1つまたは複数のシールドガス源から溶接ガン59まで供給するように構成される。本明細書で使用される場合、シールドガスは、(例えば、アークのシールド、アーク安定性の改善、金属酸化物の形成の限定、金属表面のぬれの改善、溶着物の化学的性質の改変などのために)特定の局所雰囲気を提供するためにアークおよび/または溶融池に供給され得る任意のガスまたはガスの混合物を意味することができる。ある特定の実施形態で、シールドガス流は、シールドガスまたはシールドガス混合物(例えば、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、窒素(N)、類似の適切なシールドガス、またはそれらの任意の混合物)とすることができる。例えば、シールドガス流は、いくつか例を挙げると、Ar、Ar/CO混合物、Ar/CO/O混合物、Ar/He混合物を含み得る。
【0069】
ワイヤドライブ54は、ワイヤ送給の開始、停止、および速度について良好に制御するための永久磁石モータを含み得る。約30lbs/hrを超える高い溶接金属溶着速度を可能にするために、ワイヤドライブ54は、約50インチ毎分(ipm)~約2000ipmの間、約400ipm~約1200ipmの間、または約600ipm~約1200ipmの間のワイヤ送給速度を提供するように構成される。
【0070】
動作中、溶接ガン59は、ワイヤドライブ54からの溶接電極、溶接ワイヤドライブ54からの電力、およびシールドガス供給部58からのシールドガス流を受け取って、ワークピース57上でアーク溶接を行う。溶接ガン59は、図1に関して上述したように、消耗溶接電極とワークピース57との間にアークが形成されるように、ワークピース57に十分に近づけられる。上に論じたように、溶接電極の組成を制御することによって、アークおよび/または結果として生じる溶接部の化学的性質(例えば、組成および物理的特性)を変化させることができる。
【0071】
高溶着速度アーク溶接
図6を参照すると、金属アーク溶接の方法60について説明されている。方法60は、電極として機能するように構成された消耗溶接ワイヤを提供するステップ62を含み、ここで導電性ワイヤは、金属コアワイヤの総重量を基準として0.005%~10%の間の濃度の1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む。1つまたは複数のアルカリ土類金属元素の原子は、ベース金属組成物と合金化されている。方法60は、溶接ワイヤの材料で形成された溶融液滴の安定した流れを作り出すのに十分なプラズマアークを発生させるために電流を印加するステップ64をさらに含む。方法60は、25ポンド毎時を超える溶着速度でワークピース上に溶融液滴を溶着させるステップ66をさらに含む。
【0072】
方法60で、消耗溶接ワイヤを提供するステップ62は、例えば、図2A、3A、3Bおよび4に関して上述した任意の溶接ワイヤを提供するステップを含む。
【0073】
方法60で、電流を印加するステップ64は、いくつかの実施形態によれば、プラズマ不安定性事象の平均数が約10事象毎秒未満に維持されるように、約300アンペア~約600アンペアの間、約400アンペア~約700アンペアの間、または約500アンペア~約800アンペアの間の平均電流を印加するステップを含む。いくつかの他の実施形態によれば、電流を印加するステップ64は、約400アンペア~約700アンペアの間、約500アンペア~約800アンペアの間、または約600アンペア~約900アンペアの間のピーク電流を印加するステップを含む。
【0074】
方法60で、溶着させるステップ66は、いくつかの実施形態によれば、約20lbs/hr、30lbs/hr、40lbs/hrまたは50lbs/hrを超える溶着速度で溶着させるステップを含む。いくつかの他の実施形態で、溶着させるステップ66は、実施形態によれば、約20lbs/hr~約70lbs/hrの間、約30lbs/hr~約80lbs/hrの間、約40lbs/hr~約90lbs/hrの間、または約50lbs/hr~約100lbs/hrの間の溶着速度で溶着させるステップを含む。このような溶着速度は、実施形態によれば、約200m/min~約400m/minの間、約300m/min~約500m/minの間、または約400m/min~約600m/minの間のワイヤ送給速度と連動して上述した電流レベルを印加することによって達成することができる。
【0075】
図7は、実施形態による、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む電極ワイヤの実験アーク不安定性監視結果を例示するグラフ70である。x軸が溶接電極を通過する平均電流を表す一方、y軸は毎秒の不安定性事象の数を表す。本明細書に記載される場合、アーク不安定性事象は、消耗電極とワークピースとの間で測定される溶着電流が、平均値の約3標準偏差を超えて急速に変化する、持続的溶着アーク中の事象として定義される。実際に、このような不安定性事象は、溶接ビードの外観および機械的性質に悪影響を与え、溶接は、このような事象が可能な限り少ない頻度で起こる電流値で行われる。
【0076】
さらに図7を参照すると、監視結果74は、一実施形態によるアーク溶接電極の監視結果である。特に、使用された溶接電極は、アルカリ土類金属元素と鋼組成物に基づくベース金属組成物とを含むコア溶接ワイヤであった。監視結果74を生み出すために使用された溶接電極は、1つの実施形態によれば、鋼組成物と合金化された0.12重量%のCaと、鋼組成物と合金化された0.12重量%のBaと、ポリテトラフルオロエチレンの形の0.7%のフッ素とを含有する、直径1.4mmの電極であった。比較として、監視結果72を生み出すために使用された溶接電極は、制御電極がCa、Baまたはポリテトラフルオロエチレンの形のフッ素を含有しないことを除いては、監視結果74を生み出すために使用された溶接電極と類似の組成を有する、直径1.4mmの電極であった。
【0077】
両方の監視結果74および72の場合に、溶接電極は、同じ軟鋼T継手(水平隅肉)および同じ溶接パラメータのセットを使用して、約24V~約37Vの間の定電圧(CV)モードを使用してロボット制御で溶接された。すべての個別の溶接部に対して、瞬間的な溶接電圧および電流が20kHz周波数(20,000サンプル毎秒)で記録された。本明細書に記載される場合、アーク不安定性事象(または電圧不安定性事象)は、(設定点電圧から)約10ボルト未満の値への溶接電圧の瞬間的な低下を意味する。いずれの理論にも束縛されることなく、このようなアーク不安定性事象は、金属移行の「スプレー移行」モードと一般に呼ばれるものから逸脱した事例に対応し得る。例示されるように、監視結果72で、アーク不安定性事象の数は、約300アンペアの平均電流で約20未満まで、約500アンペアの平均電流で約0まで、劇的に低減する。対照的に、制御電極の監視結果74で、アーク不安定性事象の数は、約200アンペアの平均電流で約10未満まで、約250アンペアの平均電流で約0まで、劇的に低減する。すなわち、実施形態によるアルカリ土類金属元素を有する電極に対する最適動作領域は、アルカリ土類金属元素を有さない制御電極と比較して、より高い溶着速度およびより高い電流値となることを理解されたい。特に、実施形態による電極を使用して高い溶着速度を達成するための最適動作電流値は、アルカリ土類金属元素を有さない制御電極を使用する場合の最適動作電流値より少なくとも100~200アンペア高い。
【0078】
電力調整高溶着速度アーク溶接
上述のように、オープンアーク溶接において非常に高い溶着速度、例えば約30lbs/hr以上の溶着速度での溶接に関連した多くの課題がある。発明者らは、このような高い溶着速度を達成するために従来の溶接ワイヤが使用されるとき、例えば、許容できないレベルのポロシティ、貧弱な外観ならびに劣った機械的性質、例えば、低い降伏強度、延性および破壊靱性に起因して、結果として生じる溶接ビードの品質が許容できないことに気づいた。溶接ビードの低品質は、オープンアーク溶接中にプラズマアークで観察される不安定性と相関関係があることが多い。上述のように、さまざまな実施形態によれば、例えば、溶接ワイヤ中にアルカリ土類金属元素を取り込むことによって、電極ワイヤの物理的設計および組成を改善することによって、これらの非常に高い溶着速度で高品質溶接ビードを作り出すことができる。実施形態によるアルカリ土類金属元素を含む溶接ワイヤを使用することによって、高品質溶接ビードを同様に作り出しつつ高い溶着速度を達成することができる。発明者らは、ビードの高品質がアーク溶接中のプラズマアークの安定性と相関関係があることに気づいた。
【0079】
消耗材料の物理的設計および組成を改善することに加えて、発明者らは、プラズマアークの変動および不安定性を低減させるように能動的に制御することによって、プラズマ安定性および結果として生じる溶接ビードの品質のさらなる改善が達成され得ることを発見した。特に、発明者らは、プラズマアークに供給される電力の変動を低減させることが溶接ビードの品質を改善するのに特に有効であり得ることを発見した。電力変動は次に、プラズマアークに供給される実質的に一定の電力を維持するように電力を調整することによって低減させることができる。
【0080】
さまざまなオープンアーク溶接技術で、電力は、定電流(CC)モードまたは定電圧(CV)モードを使用してプラズマアークに供給される。CCモード下で、電力供給回路は、比較的一定の電流を維持するようにその出力電圧を変更する。CVモード下で、電力供給回路は、比較的一定の電圧を維持するようにその出力電流を変更する。CVモードは、例えば、アーク距離が容易に制御可能でない場合がある技法において有利であり得る。CCモードは、例えば、アーク距離にかかわらず溶接される材料に到達する固定アンペア数が必要とされる技法において有利であり得る。例えば、いくつかのシールド金属アーク溶接およびガスタングステンアーク溶接技法は、CCモードを使用し、一方、いくつかのガス金属アーク溶接およびフラックス入りアーク溶接技法は、CVモードを使用する。
【0081】
発明者らは、CVまたはCCモードを使用する代わりに、プラズマアークに供給される電力が溶着中に比較的一定になるように能動的に調整されるとき、プラズマ安定性および/または溶接ビードの品質のさらなる改善が、高い溶着速度、例えば約30lbs/hrを超える速度で達成され得ることを発見した。実施形態による溶着中に電力が調整されるとき、電力の標準偏差を著しく低減させることができる。発明者らは、アーク溶接中の電力の標準偏差の大きさが、電流または電圧の標準偏差の大きさと比較して、貧弱なビード品質につながるプラズマ不安定性とのより強い相関関係を呈することを発見した。したがって、以下に、アルカリ土類金属含有溶接電極の使用の有無にかかわらず、プラズマ安定性および/または溶接ビードの品質を有利に改善し得る、電力調整アーク溶接の方法およびシステムについて説明する。
【0082】
図8は、定電圧アーク溶接中に発生する波形に対する、実施形態による電力調整アーク溶接中に発生する実験波形の比較を例示する。上段、中段および下段のグラフは、それぞれ、電圧(V)、電流(A)および電力(W)波形を時間の関数として例示する。例示的な目的で、調整のモードは、連続溶接ワイヤを使用した連続溶接セッション中に切り替えられた。使用された溶接ワイヤは、図7の実験結果を生み出すのに使用されたものと同じように、アルカリ土類金属元素と鋼組成物に基づくベース金属組成物とを含む金属コア溶接ワイヤであった。32kWの目標電力がプラズマアークに供給されている間に溶接ワイヤは850インチ毎分の速度で送給され、38lbs/hrの溶着速度がもたらされた。左の波形領域810は、アーク溶接が実施形態による電力調整モード下で行われた領域を例示し、右の波形領域820は、アーク溶接が定電圧(CV)モード下で行われた領域を例示する。波形領域810によって例示されるように、電力調整モード下で、電圧および電流は比較的高い振幅で変動し、一方、電力は比較的低い振幅で変動する。対照的に、波形領域820によって例示されるように、従来のCVモード下で、電圧は比較的低い振幅で変動し、一方、電力は比較的高い振幅で変動する。電力調整波形領域810およびCVモード領域820で観察された電力の標準偏差は、それぞれ、約250Wおよび1000Wである。発明者らは、電圧、電流および電力の変動の中でも特に、電力の変動が、ビード品質劣化につながるプラズマ不安定性に最も強い相関関係を有することを発見した。したがって、有利には、本明細書に記載のさまざまな実施形態によれば、アーク溶接の方法は、電力の標準偏差がCVおよびCCモードと比較して比較的低く保たれるように、電力を調整する。
【0083】
図9は、さまざまな実施形態による、電力を調整することによるアーク溶接の方法900を例示する。方法900は、高い溶着速度でのアーク溶接に適合した溶接ワイヤを提供するステップ910を含む。実施形態はそのように限定されないが、溶接ワイヤは、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む。方法900は、溶接ワイヤを溶かすのに十分なプラズマアークを発生させるために溶接ワイヤに電力を印加するステップ920をさらに含む。方法900は、高い溶着速度でワークピース上に、溶接ワイヤを溶かすことによって形成された溶融液滴を溶着させるステップ930をさらに含む。溶着は、プラズマアークに供給される実質的に一定の電力を維持するように調整しつつ実行される。
【0084】
本明細書に記載される場合、電力調整アーク溶接との関連における高い溶着速度は、いくつかの実施形態によれば、約20lbs/hr、30lbs/hr、40lbs/hrもしくは50lbs/hrを超える溶着速度、または本出願の任意の場所に開示された溶着速度、またはこれらの値のいずれかで規定された範囲内の溶着速度を意味する。いくつかの他の実施形態で、溶着させるステップ66は、実施形態によれば、約20lbs/hr~約70lbs/hrの間、約30lbs/hr~約80lbs/hrの間、約40lbs/hr~約90lbs/hrの間、または約50lbs/hr~約100lbs/hrの間の溶着速度で溶着させるステップを含む。
【0085】
高い溶着速度は、アーク溶接中にプラズマアークに供給される電力を調整することによって達成することができ、この電力は、実施形態によれば、10kW、15kW、20kW、25kW、30kW、35kW、40kW、45kW、50kW、55kWもしくは60kWを超える平均値を有することができ、または本出願の任意の場所に開示された任意の他の値を有することができ、またはこれらの値のいずれかで規定された範囲内の値を有することができる。
【0086】
電力を調整するために、適切な量の電流がプラズマアークに供給され、および/またはプラズマアークから測定され、この電流は、実施形態によれば、約200アンペア、300アンペア、400アンペア、500アンペア、600アンペア、700アンペア、800アンペア、900アンペアもしくは1000アンペアを超える平均値を有することができ、または本出願の任意の場所に開示された任意の他の値を有することができ、またはこれらの値のいずれかで規定された範囲内の平均値を有することができる。
【0087】
電力を調整するために、適切な電圧がプラズマアークに供給され、および/またはプラズマアークから測定され、この電圧は、実施形態によれば、約20V、25V、30V、35V、40V、45V、50V、55V、60V、65V、70V、75Vもしくは80Vを超える平均値を有することができ、または本出願の任意の場所に開示された任意の他の値を有することができ、またはこれらの値のいずれかで規定された範囲内の値を有することができる。
【0088】
目標溶着速度は、実施形態によれば、約200m/min~約400m/minの間、約300m/min~約500m/minの間、約400m/min~約600m/minの間の速度で、または本出願の任意の場所に開示された速度で、またはこれらの値のいずれかで規定された範囲内の値を有する速度で、溶接ワイヤを連続的に送給しつつ、前述の値で電力を調整することによって達成することができる。
【0089】
いくつかの実施形態で、溶接電極(ワイヤまたはスティック)の送給速度は、電力の調整と組み合わせてアーク溶接セッション中に能動的に変更または調節することができる。ワイヤ送給装置が電流または電圧のいずれかの能動的フィードバックを介してワイヤ送給速度を調節することを可能にすることによって、電力の低い標準偏差を維持しつつ電流または電圧を比較的一定に維持することができる。関連した方式で、いくつかの実施形態で、コンタクトチップ母材間距離(CTWD)は、電力の調整と組み合わせてアーク溶接セッション中に能動的に変更または調節することができる。送給速度調節と同じように、CTWDは、電流または電圧のいずれかのフィードバックを介して調節することができ、それにより、電力の低い標準偏差を維持しつつ電流または電圧を比較的一定に維持することが可能になる。
【0090】
発明者らは、電力を調整することは、電圧または電流を調整することと比較して、電力の標準偏差の著しい改善をもたらし得ることを見いだした。結果として生じる比較的低い標準偏差は次に、プラズマアークの安定性およびビード品質の著しい改善をもたらすことができる。図8に関して上に例示したように、類似の公称電力レベルに対して、電力を調整することにより、電力の標準偏差が実質的により小さくなる。
【0091】
発明者らは、実施形態によれば、目標平均電力でプラズマアークに供給される電力の標準偏差が約600W、550W、500W、450W、400W、350W、300W、250W、200W、150Wもしくは100W未満の値、またはこれらの値のいずれかで規定された範囲内の値を有し得ることを見いだした。電力の標準偏差は、約2%、1.5%、1%、もしくは0.5%未満である目標平均電力のパーセンテージ、またはこれらの値のいずれかで規定された範囲内の値を同様に有し得る。本明細書に記載される場合、プラズマアークに供給される電力は、標準偏差がこれらの値のいずれかを有するとき、実質的に一定であると呼ばれる。これらの標準偏差値は、本明細書に記載の方法によれば、100ミリ秒、200ミリ秒、500ミリ秒もしくは1秒を超える持続時間にわたって、またはこれらの値のいずれかで規定された範囲内の持続時間、例えば電力調整アーク溶接セッションの持続時間全体にわたって維持することができる。
【0092】
電力調整アーク溶接の方法およびシステムのさまざまな実施形態によれば、本明細書に記載の任意の溶接ワイヤを使用することができる。1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む任意の溶接ワイヤは、本明細書に記載の電力調整アーク溶接に特に適し得る。しかしながら、実施形態はそのように限定されず、本明細書に開示される高い溶着速度での溶接に適した任意の溶接ワイヤを使用することができる。
【0093】
実施形態による電力調整アーク溶接の方法は、適切なアーク溶接システム、例えば、GMAW、FCAW、FCAW-G、GTAW、SAW、SMAW、または類似のアーク溶接工程のために構成され得る、図5に関して上に例示したアーク溶接システム50と類似のものを使用して実装することができる。特に、溶接システム50に電力を供給するように構成され、溶接電極ワイヤが第1の電極として機能するように溶接ワイヤドライブ54に電気的に結合される、溶接電源52は、高い溶着速度のために比較的高い電力を供給するように、および、例えば、電力調整に適合する電源52を提供することによって、さまざまな実施形態によるアーク溶接中に電力を調整するように構成される。システム50は、高い溶着速度が達成されるように十分な電力を供給しつつ十分な速度で適切な溶接ワイヤ、例えば、アルカリ土類金属を含む溶接電極ワイヤを送給することによって、アーク溶接にさらに適合し得る。
【0094】
図10Aおよび10Bは、実施形態による電力調整アーク溶接(図10A)および定電圧アーク溶接(図10B)中に発生する実験波形の比較を例示する。図10Aおよび10Bのそれぞれの上段、中段および下段のグラフは、それぞれ、x軸における時間の関数として、y軸における電圧(V)、電流(A)および電力(W)を例示する。波形は、カーソル間で240ミリ秒に及ぶ。図10Aの結果を得るために使用された実験条件および溶接ワイヤは、実施形態による電力調整モード下で測定された、図8の波形領域810を得るために使用されたものと類似であった。図10Bの結果を得るために使用された実験条件および溶接ワイヤは、定電圧(CV)モード下で測定された、図8の波形領域820を得るために使用されたものと類似であった。図8に関して例示した波形領域810と同じように、図10Aは、電力調整モード下で、電圧および電流が比較的高い振幅で変動し、一方、電力が比較的低い振幅で変動することを例示する。対照的に、図8に関して例示した波形領域820と同じように、定電圧モード下で、電圧は比較的低い振幅で変動し、一方、電力は比較的高い振幅で変動する。図10Aに関して例示した電力調整モードに対応する波形および図10Bに関して例示したCVモードに対応する波形において観察された電力の標準偏差は、それぞれ、約60および1060Wであった。
【0095】
高溶着速度アーク溶接中のサージ限定電力調整
上記で、アーク溶接中の電力調整について説明してきた。それは、プラズマアークに供給される電力の標準偏差の低減を含む、プラズマアーク特性のさまざまな改善をもたらし、それは次に、ポロシティの低減を含めてビード品質のさまざまな側面を改善する。電力のベースライン標準偏差に加えて、発明者らは、プラズマアークに供給される電流、電圧および/または電力における瞬間的なスパイクまたはサージを低減させることが、同様に、プラズマアーク特性および結果として生じるビード品質を大幅に改善し得ることをさらに発見した。
【0096】
図11Aは、実施形態による、電力調整アーク溶接中に発生する実験波形を例示する。図11Aの上段、中段および下段のグラフは、それぞれ、x軸における時間の関数として、y軸における電圧(V)、電流(A)および電力(W)を例示する。プラズマアークは、32Kワットの目標電力で電力調整された。上段のグラフを参照すると、電圧波形は、約250マイクロ秒の短い期間内に約50Vから75Vへの電圧のスパイクを示す。電圧スパイクに応答して、中段のグラフを参照すると、電力供給装置は、150アンペアを超えて電流値を急速に減少させることによって供給電力の瞬間的な低下を補償しようとした。電圧の急速な変化に応答するための電力供給装置の回路の応答時間が限定されることに部分的に起因して、プラズマアークに供給される電力の範囲は、目標または平均電力に対して約+/-3000ワットに及んだ。
【0097】
図11Bは、実施形態による、電力のサージおよびスパイクを制御するために電流の変化量を限定するステップを含む、電力調整アーク溶接方法1100の実施形態例を例示した。アーク溶接の実施形態は、本明細書に記載のさまざまな実施形態による溶接ワイヤを溶かすのに十分なプラズマアークを発生させるために溶接ワイヤに電力を印加するステップと、例えば30ポンド毎時を超える高い溶着速度でワークピース上に、溶接ワイヤを溶かすことによって形成された溶融液滴を溶着させるステップとを含む。例示された実施形態によれば、アーク溶接の方法1100は、事前設定電力で電力の調整を開始するステップ1110を含む。溶着は、本明細書に開示されるさまざまな実施形態に従って、プラズマアークに供給される電力を調整しつつ行われる。方法は、経時的な電圧の変化、例えば、電圧の瞬間的な変化(dV/dt)を検出するステップ1120をさらに含み、検出するステップは、所定値を超えるdV/dtを検出するステップを含む。方法は、dV/dtが所定値を超えると判定したときに、電流の変化量を所定値に限定するステップ1130をさらに含む。
【0098】
さらに図11Bを参照すると、dV/dtを検出するステップ1120は、0.05V/マイクロ秒、0.1V/マイクロ秒、0.2V/マイクロ秒、0.4V/マイクロ秒、0.6V/マイクロ秒、0.8V/マイクロ秒、もしくは1.0V/マイクロ秒、またはこれらの値のいずれかで規定された範囲内の値を超える、単位時間毎の電圧変化を検出するステップを含む。あるいは、dV/dtを検出するステップ1120は、実施形態によれば、0.2%/マイクロ秒、0.4%/マイクロ秒、0.8%/マイクロ秒、1.2%/マイクロ秒、1.6%/マイクロ秒、もしくは2.0%/マイクロ秒、またはこれらの値のいずれかで規定された範囲内の値を超える、平均電力のパーセンテージを検出するステップを同様に含み得る。
【0099】
さらに図11Bを参照すると、急速な変化、例えば、電流のスパイクまたはディップを限定するステップ1130は、実施形態によれば、約400アンペア、350アンペア、300アンペア、250アンペア、200アンペア、150アンペア、100アンペア、50アンペア、もしくは約0アンペア、またはこれらの値のいずれかで規定された範囲内の値未満に変化を限定するステップを含む。あるいは、電流の変化またはスパイクを限定するステップ1130は、実施形態によれば、約100%、80%、60%、40%、20%、10%、もしくは約0%、またはこれらの値のいずれかで規定された範囲内のパーセンテージ未満に変化を限定するステップを含む。
【0100】
さらに図11Bを参照すると、電流の変化またはスパイクを限定するステップ1130は、実施形態によれば、1000μs、800μs、600μs、400μs、200μs、もしくは100μs、またはこれらの値のいずれかで規定された範囲内の値未満の持続時間にわたって限定を実施するステップを含む。
【0101】
実施形態
1. 金属アーク溶接中に電極として機能するように構成された消耗金属コア溶接ワイヤであって、溶接ワイヤは、
第1のベース金属組成物を有するシースと、
シースによって囲まれ、溶接ワイヤの総重量を基準として0.005%~10%の間の濃度の1つまたは複数のアルカリ土類金属元素と合金化された第2のベース金属組成物を有する粒子を含むコアと
を含む、消耗金属コア溶接ワイヤ。
2. 存在する場合、コア中の非金属原子が溶接ワイヤの総重量を基準として5%を超えない濃度で存在する、実施形態1に記載の溶接ワイヤ。
3. 1つまたは複数のアルカリ土類金属元素の濃度は、溶接ワイヤの総重量を基準として0.005%~0.5%の間である、実施形態1に記載の溶接ワイヤ。
4. 第1のベース金属組成物および第2のベース金属組成物は、異なる金属または金属合金組成物を含む、実施形態2に記載の溶接ワイヤ。
5. 第1のベース金属組成物および第2のベース金属組成物は、同じ金属または金属合金組成物を含む、実施形態2に記載の溶接ワイヤ。
6. 1つまたは複数のアルカリ土類金属元素は、Baを含む、実施形態2に記載の溶接ワイヤ。
7. 1つまたは複数のアルカリ土類金属元素は、Caをさらに含む、実施形態6に記載の溶接ワイヤ。
8. 溶接ワイヤは、ガス金属アーク溶接(GMAW)のために構成され、コアは、追加のフラックス剤を含まない、実施形態2に記載の溶接ワイヤ。
9. 金属コア溶接ワイヤは、ガス金属アーク溶接(GMAW)のために構成され、コアは、溶接ワイヤの総重量を基準として2%を超えない濃度のフルオロポリマーをさらに含む、実施形態2に記載の溶接ワイヤ。
10. フラックス剤は、遷移金属酸化物をさらに含む、実施形態8に記載の溶接ワイヤ。
11. 金属アーク溶接の方法であって、
電極として機能するように構成された消耗コア溶接ワイヤを提供するステップであって、溶接ワイヤは、溶接ワイヤの総重量を基準として0.005%~10%の間の濃度の1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含み、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素の原子は、ベース金属組成物と合金化されている、ステップと、
溶接ワイヤの溶融液滴の安定した流れを作り出すのに十分なプラズマアークを発生させるために電流を印加するステップと、
30ポンド毎時を超える溶着速度でワークピース上に溶融液滴を溶着させるステップと
を含む方法。
12. 消耗溶接ワイヤは、シースによって囲まれるコアを有する金属コア溶接ワイヤであり、コアは、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素と合金化されているベース金属組成物を有する粒子を含む、実施形態11に記載の方法。
13. 方法は、ガス金属アーク溶接(GMAW)であり、コアは、追加のフックス剤を含まず、存在する場合、溶接ワイヤの総重量を基準として5%を超えない濃度の非金属原子を含む、実施形態12に記載の方法。
14. 非金属原子は、ワークピース上に溶融液滴を溶着させるステップが、結果として生じる溶接ビードの表面全体を実質的に覆うことなく、結果として生じる溶接ビードの表面にスラグの島を形成することを含むような濃度で存在する、実施形態13に記載の方法。
15. 方法は、ガス金属アーク溶接(GMAW)であり、コアは、フルオロポリマーをさらに含む、実施形態12に記載の方法。
16. フルオロポリマーは、溶接ワイヤの総重量を基準として2%を超えない濃度で存在する、実施形態15に記載の方法。
17. 電流を印加するステップは、プラズマ不安定性事象の平均数を約10事象毎秒未満に維持するように、約400アンペア~約700アンペアの間の平均電流を印加するステップを含む、実施形態11に記載の方法。
18. 金属アーク溶接のためのシステムであって、
電極として機能するように構成された消耗コア溶接ワイヤであって、溶接ワイヤは、溶接ワイヤの総重量を基準として0.005%~10%の間の濃度の1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含み、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素の原子は、ベース金属組成物と合金化されている、消耗コア溶接ワイヤと、
溶接ワイヤの溶融液滴の安定した流れを作り出すのに十分なプラズマアークを発生させるために電流を印加するように構成された電源と、
30ポンド毎時を超える溶着速度でワークピース上に溶融液滴を溶着させるように構成された溶接ガンと
を含む、システム。
19. 消耗溶接ワイヤは、シースによって囲まれるコアを有する金属コア溶接ワイヤであり、コアは、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素と合金化されているベース金属組成物を有する粒子を含む、実施形態18に記載のシステム。
20. 電源は、溶接中のプラズマ不安定性事象の平均数を約10事象毎秒未満に維持するように、約400アンペア~約700アンペアの間の平均電流を印加するように構成される、実施形態19に記載のシステム。
21. アーク溶接の方法であって、
1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む溶接ワイヤを提供するステップと、
溶接ワイヤを溶かすのに十分なプラズマアークを発生させるために溶接ワイヤに電力を印加するステップと、
プラズマアークに供給される実質的に一定の電力を維持するように調整しつつ、30ポンド毎時を超える溶着速度でワークピース上に、溶接ワイヤを溶かすことによって形成された溶融液滴を溶着させるステップと
を含む、方法。
22. 溶接ワイヤ中の1つまたは複数のアルカリ土類金属元素の濃度は、溶接ワイヤの総重量を基準として0.005%~10%の間である、実施形態21に記載の方法。
23. 溶接ワイヤは、シースとシースによって囲まれるコアとを含む金属コア溶接ワイヤであり、コアは、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む、実施形態21または22に記載の方法。
24. コアは、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素と合金化されている第1のベース金属組成物を有する粒子を含む、実施形態21~23のいずれか一項に記載の方法。
25. 存在する場合、コア中の非金属原子が溶接ワイヤの総重量を基準として5%を超えない濃度で存在する、実施形態21~23のいずれか一項に記載の方法。
26. 方法は、ガス金属アーク溶接(GMAW)であり、コアは、フルオロポリマーをさらに含む、実施形態21~25のいずれか一項に記載の方法。
27. アルカリ土類金属は、BaまたはCaのうちの1つまたは複数を含む、実施形態21~26のいずれか一項に記載の方法。
28. 溶接ワイヤは、実施形態1~10のいずれか一項によるものである、実施形態21~27のいずれか一項に記載の方法。
29. 方法は、実施形態11~17のいずれか一項によるものである、実施形態21~27のいずれか一項に記載の方法。
30. 方法は、実施形態18~20のいずれか一項によるシステムを使用して行われる、実施形態21~27のいずれか一項に記載の方法。
31. アーク溶接の方法であって、
溶接ワイヤを溶かすのに十分なプラズマアークを発生させるために溶接ワイヤに電力を印加するステップと、
30ポンド毎時を超える溶着速度でワークピース上に、溶接ワイヤを溶かすことによって形成された溶融液滴を溶着させるステップであって、溶着させるステップは、プラズマアークに供給される電力の標準偏差がプラズマアークに供給される平均電力の2%未満であるようにプラズマアークに供給される電力を調整しつつ行われる、ステップと
を含む、方法。
32. 電力の標準偏差は、少なくとも200ミリ秒の期間にわたって、500ワット(W)未満である、実施形態31に記載の方法。
33. 電力を調整することは、20kWを超えて調整することを含む、実施形態31~32に記載の方法。
34. 電力を調整することは、約500アンペア(A)を超える平均電流および約40ボルト(V)を超える平均電圧をプラズマアークに供給することを含む、実施形態31~33に記載の方法。
35. 電力を調整することは、プラズマ不安定性事象の平均数が約10事象毎秒未満であるようなものである、実施形態31~34に記載の方法。
36. アーク溶接は、ガス金属アーク溶接(GMAW)である、実施形態31~35に記載の方法。
37. 溶接ワイヤは、溶接ワイヤの総重量を基準として0.005%~10%の間の濃度の1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む、実施形態31~36に記載の方法。
38. 溶接ワイヤは、シースとシースによって囲まれるコアとを含む金属コア溶接ワイヤであり、コアは、1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む、実施形態31~37に記載の方法。
39. 電力を調整することは、プラズマアークから測定された電流または電圧のフィードバックに基づいて溶接ワイヤの送給速度またはコンタクトチップ母材間距離(CTWD)を能動的に調節することを含む、実施形態31~38に記載の方法。
40. 溶接ワイヤは、実施形態1~10のいずれか一項によるものである、実施形態31~39のいずれか一項に記載の方法。
41. 方法は、実施形態11~17のいずれか一項によるものである、実施形態31~39のいずれか一項に記載の方法。
42. 方法は、実施形態18~20のいずれか一項によるシステムを使用して行われる、実施形態31~39のいずれか一項に記載の方法。
43. アーク溶接の方法であって、
溶接ワイヤを溶かすのに十分なプラズマアークを発生させるために溶接ワイヤに電力を印加するステップと、
30ポンド毎時を超える溶着速度でワークピース上に、溶接ワイヤを溶かすことによって形成された溶融液滴を溶着させるステップであって、溶着させるステップは、プラズマアークに供給される電力を調整しつつ行われる、ステップと
を含み、
電力を調整することは、電流の変化量を限定するステップを含む、
方法。
44. 電力を調整することは、電流の変化量を限定する前に、所定値を超える電圧の瞬間的な変化(dV/dt)を検出するステップを含む、実施形態43に記載の方法。
45. dV/dtは、0.1V/マイクロ秒を超える、実施形態43~44に記載の方法。
46. 電流の変化量を限定するステップは、約200アンペア未満に限定するステップを含む、実施形態43~45に記載の方法。
47. 電流の変化量を限定するステップは、1ミリ秒未満の所定の持続時間にわたって限定するステップを含む、実施形態43~46に記載の方法。
48. 電力を調整することは、電力の標準偏差がプラズマアークに供給される平均電力の2%未満であるようにプラズマアークに供給される電力を調整することを含む、実施形態43~47に記載の方法。
49. 溶接ワイヤは、溶接ワイヤの総重量を基準として0.005%~10%の間の濃度の1つまたは複数のアルカリ土類金属元素を含む、実施形態43~48に記載の方法。
50. 溶接ワイヤは、実施形態1~10のいずれか一項によるものである、実施形態43~48のいずれか一項に記載の方法。
51. 方法は、実施形態11~17のいずれか一項によるものである、実施形態43~48のいずれか一項に記載の方法。
52. 方法は、実施形態18~20のいずれか一項によるシステムを使用して行われる、実施形態43~48のいずれか一項に記載の方法。
【0102】
上述の実施形態で、高溶着速度アーク溶接のための装置、システム、および方法が特定の実施形態に関連して説明されている。しかしながら、高溶着速度アーク溶接を必要とする任意の他のシステム、装置、または方法のために実施形態の原理および利点を使用してもよいことが分かるであろう。上記で、実施形態のうちの任意の1つの任意の特徴は、実施形態のうちの任意の他の1つの任意の他の特徴と組み合わせおよび/または置換してもよいことを理解されたい。
【0103】
文脈上明らかに他の意味に解釈すべき場合を除いて、明細書および特許請求の範囲全体を通して、単語「含む(comprise)」、「含む(comprising)」、「含む(include)」、「含む(including)」などは、排他的または網羅的な意味と対照的な、包括的な意味で、すなわち、「含むが、これに限定されない」という意味で解釈するべきである。本明細書で一般に使用される場合、単語「結合される(coupled)」は、直接接続されても、1つまたは複数の中間要素を通して接続されてもよい2つ以上の要素を意味する。同じく、本明細書で一般に使用される場合、単語「接続される(connected)」は、直接接続されても、1つまたは複数の中間要素を通して接続されてもよい2つ以上の要素を意味する。さらに、本出願で使用されるとき、単語「ここに(herein)」、「上に(above)」、「下に(below)」、「下に(infra)」、「上に(supra)」および類似の趣旨の単語は、本出願全体を意味するものとし、本出願のいかなる特定の部分も意味しないものとする。文脈が許す場合、単数形または複数形の数を使用する、上の発明を実施するための形態中の単語は、それぞれ、複数形または単数形の数を同様に含み得る。2つ以上の項目のリストを参照する単語「または(or)」は、単語の以下の解釈、すなわち、リスト中の項目のいずれか、リスト中の項目のすべて、およびリスト中の項目の任意の組み合わせをすべて網羅する。
【0104】
さらに、とりわけ、「できる(can)」、「できる(could)」、「場合がある(might)」、「できる(may)」、「例えば(e.g.)」、「例えば(for example)」、「などの(such as)」などの、本明細書で使用される条件付き言語は、具体的に他の意味で明記されるか、または使用される文脈内で他の意味に解釈されない限り、一般に、他の実施形態は含まないが、ある特定の実施形態は、ある特定の特徴、要素および/または状態を含むことを伝えるように意図される。したがって、このような条件付き言語は、一般に、特徴、要素および/または状態が1つまたは複数の実施形態のために何らかの形で必要とされること、または、これらの特徴、要素および/または状態が特定の実施形態に含まれるかどうか、もしくは特定の実施形態で行われるべきであるかどうかを暗示するように意図されない。
【0105】
ある特定の実施形態について説明してきたが、これらの実施形態は、ただ例として提示されたものであり、本開示の適用範囲を限定するように意図されるものではない。実際に、本明細書に記載の新規な装置、方法、およびシステムは、さまざまな他の形態で実施することができ、さらに、本開示の趣旨から逸脱することなく、本明細書に記載の方法およびシステムの形態においてさまざまな省略、置換、変更を行うことができる。例えば、ブロックは所与の配置で提示されるが、代替実施形態は、異なる構成要素および/または回路トポロジを用いて類似の機能性を行うことができ、いくつかのブロックは、削除、移動、追加、細分化、結合、および/または修正され得る。これらのブロックのそれぞれは、さまざまな異なるやり方で実装することができる。上述のさまざまな実施形態の元素および作用の任意の適切な組み合わせを組み合わせてさらなる実施形態を提供することができる。上述のさまざまな特徴および工程は、互いに独立して実装することができ、またはさまざまなやり方で組み合わせることができる。本開示の特徴のすべての適切な組み合わせおよび部分的組み合わせは、本開示の適用範囲に含まれるように意図される。
【符号の説明】
【0106】
2 ワークピース
8 プラズマ
20 溶接電極ワイヤ
22 溶接ビード形成
24 溶接金属結晶
26 液固界面
28 溶接パドル
29、70 グラフ
29a、29b 濃度
30a、30b、40 金属コア電極ワイヤ
32、36a、36b、40a 粒子
40b フッ素含有粒子
40c 非フッ素含有粒子
34、44 シース
38a、38b、48 コア
50 溶接システム
52 溶接電源
54 溶接ワイヤドライブ
60 金属アーク溶接の方法
62 消耗溶接ワイヤを提供するステップ
64 電流を印加するステップ
66、930 溶着させるステップ
72、74 監視結果
810、820 波形領域
900、1100 アーク溶接の方法
910 溶接ワイヤを提供するステップ
920 電力を印加するステップ
1110 電力の調整を開始するステップ
1120 電圧の変化を検出するステップ
1130 電流の変化量を限定するステップ
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B