(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工機およびワイヤ放電加工方法
(51)【国際特許分類】
B23H 7/20 20060101AFI20231011BHJP
B23H 7/02 20060101ALI20231011BHJP
B23Q 15/00 20060101ALI20231011BHJP
G05B 19/4093 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B23H7/20
B23H7/02 S
B23Q15/00 301H
G05B19/4093 H
(21)【出願番号】P 2019094681
(22)【出願日】2019-05-20
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 大輝
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-201120(JP,A)
【文献】特開2006-130657(JP,A)
【文献】特開2003-165030(JP,A)
【文献】特開平05-138443(JP,A)
【文献】特開平01-264718(JP,A)
【文献】特開平05-220626(JP,A)
【文献】特開2006-015478(JP,A)
【文献】特開2007-069330(JP,A)
【文献】特開平05-134722(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0101627(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 1/00 - 11/00
B23Q 15/00
G05B 19/4093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象物に対してワイヤ電極を相対移動させつつ前記ワイヤ電極と前記加工対象物との間の極間に電圧を印加して放電をさせることで、前記加工対象物を放電加工するワイヤ放電加工機であって、
加工プログラムおよび加工条件に従って、前記加工対象物に対して前記ワイヤ電極を相対移動させつつ前記極間に電圧を印加して放電加工を行う放電加工制御部と、
前記加工プログラムに基づいて、前記加工対象物に対する前記ワイヤ電極の加工経路のアプローチ区間を認識するアプローチ区間認識部と、
前記加工条件を予め設定された調整割合に基づいて調整する調整部と、
を備え、
前記放電加工制御部は、
オフセットが加わった前記加工経路に沿って前記加工対象物が加工される前の前記アプローチ区間において
のみ、前記調整割合に基づいて調整された前記加工条件を用いて放電加工制御を行う、ワイヤ放電加工機。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤ放電加工機であって、
オペレータが指定する割合を入力するための第1操作部と、
前記割合を前記調整割合に設定する第1設定部と、
を備える、ワイヤ放電加工機。
【請求項3】
請求項1または2に記載のワイヤ放電加工機であって、
前記放電加工制御部は、前記アプローチ区間の切込み開始から予め設定された調整距離において調整された前記加工条件を用いて放電加工制御を行う、ワイヤ放電加工機。
【請求項4】
請求項3に記載のワイヤ放電加工機であって、
オペレータが指定する距離を入力するための第2操作部と、
前記距離を前記調整距離に設定する第2設定部と、
を備える、ワイヤ放電加工機。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工機であって、
前記加工条件は、電圧印加の休止時間および前記加工対象物に対する前記ワイヤ電極の相対速度を含む、ワイヤ放電加工機。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工機であって、
前記アプローチ区間認識部は、前記加工プログラムに含まれる、前記加工経路に
前記オフセットを加えることを指令するコードに基づいて、前記アプローチ区間を認識する、ワイヤ放電加工機。
【請求項7】
加工対象物に対してワイヤ電極を相対移動させつつ前記ワイヤ電極と前記加工対象物との間の極間に電圧を印加して放電をさせることで、前記加工対象物を放電加工するワイヤ放電加工機のワイヤ放電加工方法であって、
加工プログラムおよび加工条件に従って、前記加工対象物に対して前記ワイヤ電極を相対移動させつつ前記極間に電圧を印加して放電加工を行う放電加工制御ステップと、
前記加工プログラムに基づいて、前記加工対象物に対する前記ワイヤ電極の加工経路のアプローチ区間を認識するアプローチ区間認識ステップと、
前記加工条件を予め設定された調整割合に基づいて調整する調整ステップと、
を含み、
前記放電加工制御ステップは、
オフセットが加わった前記加工経路に沿って前記加工対象物が加工される前の前記アプローチ区間において
のみ、前記調整割合に基づいて調整された前記加工条件を用いて放電加工制御を行う、ワイヤ放電加工方法。
【請求項8】
請求項7に記載のワイヤ放電加工方法であって、
前記ワイヤ放電加工機は、オペレータが指定する割合を入力するための第1操作部を備え、
前記割合を前記調整割合に設定する第1設定ステップを含む、ワイヤ放電加工方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載のワイヤ放電加工方法であって、
前記放電加工制御ステップは、前記アプローチ区間の切込み開始から予め設定された調整距離において調整された前記加工条件を用いて放電加工制御を行う、ワイヤ放電加工方法。
【請求項10】
請求項9に記載のワイヤ放電加工方法であって、
前記ワイヤ放電加工機は、オペレータが指定する距離を入力するための第2操作部を備え、
前記距離を前記調整距離に設定する第2設定ステップを含む、ワイヤ放電加工方法。
【請求項11】
請求項7~10のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工方法であって、
前記加工条件は、電圧印加の休止時間および前記加工対象物に対する前記ワイヤ電極の相対速度を含む、ワイヤ放電加工方法。
【請求項12】
請求項7~11のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工方法であって、
前記アプローチ区間認識ステップは、前記加工プログラムに含まれる、前記加工経路に
前記オフセットを加えることを指令するコードに基づいて、前記アプローチ区間を認識する、ワイヤ放電加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工条件を調整するワイヤ放電加工機およびワイヤ放電加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記に示す特許文献1に記載されているように、ワイヤ放電加工機においては、スイッチまたはボリュウムをオペレータが操作することにより適切に加工条件を調整することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワイヤ放電加工の荒加工等における切込み開始時の加工においては、未加工状態から加工状態に状態が変化する際に放電が集中し、ワイヤ電極の断線が発生しやすい。しかし、特許文献1のようにオペレータが手動で加工条件を調整する場合は、切込み開始時の加工条件の調整に工数がかかるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、切込み開始時の加工条件を自動的に調整することができるワイヤ放電加工機およびワイヤ放電加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、加工対象物に対してワイヤ電極を相対移動させつつ前記ワイヤ電極と前記加工対象物との間の極間に電圧を印加して放電をさせることで、前記加工対象物を放電加工するワイヤ放電加工機であって、加工プログラムおよび加工条件に従って、前記加工対象物に対して前記ワイヤ電極を相対移動させつつ前記極間に電圧を印加して放電加工を行う放電加工制御部と、前記加工プログラムに基づいて、前記加工対象物に対する前記ワイヤ電極の加工経路のアプローチ区間を認識するアプローチ区間認識部と、前記加工条件を予め設定された調整割合に基づいて調整する調整部と、を備え、前記放電加工制御部は、前記アプローチ区間において調整された前記加工条件を用いて放電加工制御を行う。
【0007】
本発明の第2の態様は、加工対象物に対してワイヤ電極を相対移動させつつワイヤ電極と加工対象物との間の極間に電圧を印加して放電をさせることで、加工対象物を放電加工するワイヤ放電加工機のワイヤ放電加工方法であって、加工プログラムおよび加工条件に従って、加工対象物に対してワイヤ電極を相対移動させつつ極間に電圧を印加して放電加工を行う放電加工制御ステップと、加工プログラムに基づいて、加工対象物に対するワイヤ電極の加工経路のアプローチ区間を認識するアプローチ区間認識ステップと、加工条件を予め設定された調整割合に基づいて調整する調整ステップと、を含み、放電加工制御ステップは、アプローチ区間において調整された加工条件を用いて放電加工制御を行う。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、切込み開始時の加工条件を自動的に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態におけるワイヤ放電加工機の概略構成図である。
【
図3】オフセット指令のコードの指令内容について説明する図である。
【
図4】
図2の加工プログラムに基づいたワイヤ電極の経路を示した図である。
【
図5】実施の形態におけるワイヤ放電加工方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係るワイヤ放電加工機およびワイヤ放電加工方法について、好適な実施の形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下、詳細に説明する。
【0011】
[実施の形態]
図1は、実施の形態におけるワイヤ放電加工機10の概略構成図である。ワイヤ放電加工機10は、所定の加工プログラムで指定された経路に沿ってテーブル12に搭載された加工対象物Wに対してワイヤ電極14を相対移動させつつ、ワイヤ電極14と加工対象物Wとで形成される極間に電圧を印加して放電をさせることで、加工対象物Wを放電加工する。
図1に示したX方向、Y方向およびZ方向は互いに直交しており、-Z方向が重力方向である。
【0012】
ワイヤ放電加工機10は、加工対象物Wを搭載するテーブル12と、加工対象物Wの上方側(+Z方向側)で、ワイヤ電極14を支持する上ワイヤガイド16aと、加工対象物Wの下方側(-Z方向側)で、ワイヤ電極14を支持する下ワイヤガイド16bと、上ワイヤガイド16aが設置される上ガイドブロック18aと、下ワイヤガイド16bが設置される下ガイドブロック18bと、を備える。上ワイヤガイド16aおよび下ワイヤガイド16bを、以下では上下ワイヤガイド16と呼ぶ。上ガイドブロック18aおよび下ガイドブロック18bを、以下では上下ガイドブロック18と呼ぶ。ワイヤ放電加工機10は、駆動部22と、加工電源24と、操作部26と、数値制御装置30と、をさらに備える。
【0013】
駆動部22は、加工対象物Wに対してワイヤ電極14および上下ワイヤガイド16をX方向およびY方向に相対移動させるために上下ガイドブロック18を駆動する。駆動部22は、モータ(図示せず)、モータのエンコーダ(図示せず)、および駆動伝達機構(図示せず)を備える。駆動伝達機構は、X方向用およびY方向用のモータのそれぞれの回転運動を上下ガイドブロック18のX方向およびY方向の直線運動に変換するためのボールねじおよび上下ガイドブロック18に設置されたナット等により構成される。
【0014】
なお、加工対象物Wに対してワイヤ電極14を相対移動させることができればよいので、駆動部22は、上下ガイドブロック18の代りにテーブル12を駆動してもよい。また、駆動部22は、上下ガイドブロック18およびテーブル12の両方を駆動してもよい。
【0015】
加工電源24は、ワイヤ電極14およびテーブル12に接続されており、ワイヤ電極14と加工対象物Wとの間の極間に電圧を供給する。
【0016】
操作部26は、オペレータが指定する割合を入力するための第1操作部26aと、オペレータが指定する距離を入力するための第2操作部26bと、を備える。第1操作部26aおよび第2操作部26bは一体化した操作部であってもよい。また、操作部26は数値制御装置30に備えられていてもよい。
【0017】
数値制御装置30は、CPU等のプロセッサとメモリとを有し、メモリに記憶されたプログラムを実行することで、本実施の形態の数値制御装置30として機能する。数値制御装置30は、放電加工制御部32と、アプローチ区間認識部34と、調整部36と、第1設定部38aと、第2設定部38bと、記憶部40と、を備える。
【0018】
放電加工制御部32は、記憶部40に保持されている加工プログラムおよび加工条件に従って、駆動部22を制御して上下ガイドブロック18を移動することにより、加工対象物Wとワイヤ電極14とを相対移動させて、加工対象物Wに対するワイヤ電極14の位置をX方向およびY方向に制御する。そして、放電加工制御部32は、上記のように加工対象物Wに対してワイヤ電極14を相対移動させつつ、加工条件に従って加工電源24を制御して、極間にパルス電圧を印加して放電加工を行う。
【0019】
アプローチ区間認識部34は、加工プログラム(数値制御プログラム)に基づいて、加工対象物Wに対するワイヤ電極14の加工経路のアプローチ区間を認識する。アプローチ区間は、切込み開始(加工開始点)からの一定の距離の区間である。アプローチ区間認識部34がアプローチ区間を認識する方法を説明するために、以下では、加工プログラムについて説明する。
図2は、加工プログラムの一例を示す図である。
【0020】
図2の1行目の「S1」は、加工電圧、パルス電圧を印加しない電圧印加の休止時間(オフ時間)、加工対象物Wに対するワイヤ電極14の相対速度(設定送り速度)、加工液量、ワイヤ張力といった、具体的な加工条件の組み合わせを指定するコードである。S1が指定する具体的な加工条件の値の組み合わせは、記憶部40に記憶されている。
図2の1行目の「D1」は、後述するオフセット量を指定するコードである。D1が指定する具体的なオフセット量の値は、例えば、0.2mm、0.25mm等といった値であり、記憶部40に記憶されている。
【0021】
図2の2行目の「G92」は座標系を設定するコードであり、「X0.0000 Y0.0000」は、加工開始点の座標を示している。なお、この加工プログラムにおける座標の単位はmmであるとする。
【0022】
図2の3行目の「G91」は、現在位置からの移動量を指令(相対指令)するコードである。
図2の3行目の「G01」は、直線補間を指令するコードである。
図2の3行目の「G41」はオフセット指令のコードであり、座標「X0.Y-6.」以降にプログラムされた経路に対してワイヤ電極14の進行方向の左側にオフセット量だけオフセットを加えることを指令している。
【0023】
図3は、オフセット指令のコードの指令内容について説明する図である。「G41」は、プログラムされた経路に対してワイヤ電極14の進行方向の左側へオフセット量だけオフセットを加えることを指令するコードである。「G42」は、プログラムされた経路に対してワイヤ電極14の進行方向の右側へオフセット量だけオフセットを加えることを指令するコードである。なお、「G41」および「G42」のオフセット量には、
図2の1行目の「D1」により指定された値を用いる。「G40」は、オフセットをキャンセルしてワイヤ電極14の経路をプログラムされた経路とすることを指令するコードであり、「G41」および「G42」によるオフセットを加える指令をキャンセルする機能を有している。
【0024】
したがって、
図2の3行目の「G41」から
図2の9行目の「G40」までに指令されるワイヤ電極14の経路は、プログラムされた経路に対してワイヤ電極14の進行方向の左側へオフセット量だけオフセットが加わった経路になっている。したがって、アプローチ区間は、
図2の2行目の「X0.0000 Y0.0000」(加工開始点)からアプローチ終了点までとなる。アプローチ終了点は、
図2の3行目の座標「X0.Y-6.」の点がオフセット量だけY軸方向にずれた点である。したがって、アプローチ区間認識部34は、加工プログラムの「G41」および「G42」といったコードに基づいて、加工経路に含まれるアプローチ区間を認識することができる。
【0025】
図4は、
図2の加工プログラムに基づいたワイヤ電極14の経路を示した図である。加工プログラムによってプログラムされた経路を実線で示し、オフセットが加わっている経路は破線で示されている。ワイヤ電極14は、アプローチ終了点からオフセットが加わった破線の経路に沿って進む。アプローチ区間認識部34によって、切込み開始点である加工開始点(0,0)からアプローチ終了点までが、アプローチ区間として認識される。
【0026】
第1設定部38aは、第1操作部26aを介してオペレータが入力した割合を調整部36が使用する調整割合に設定する。そして、調整部36は、記憶部40に記憶されている加工条件を第1設定部38aによって予め設定された調整割合に基づいて調整する。ここでは、記憶部40に記憶されている加工条件を100%の値だとして、その加工条件の値が調整割合(%)に基づいて調整される。これにより、オペレータが入力した割合で加工条件を調整することができる。
【0027】
そして、放電加工制御部32は、アプローチ区間認識部34が認識したアプローチ区間において、調整部36により調整割合に基づいて調整された加工条件を用いて放電加工制御を行う。
【0028】
調整部36が使用する調整割合が、例えば80%に設定されているとすると、加工対象物Wに対するワイヤ電極14の相対速度が初期設定値の80%となるように調整される。それと共に、放電パワーも調整割合に基づいて定められる放電パワー調整割合で調整される。放電パワー調整割合は、調整割合と同じ値の場合も、調整割合より大きい場合または小さい場合もある。
【0029】
加工溝の幅を維持したまま、加工条件を変更するには、加工対象物Wに対するワイヤ電極14の相対速度および放電パワーを共に下げるか、相対速度および放電パワーを共に上げる必要がある。したがって、ワイヤ電極14の断線を防ぐためには、放電パワーと共に相対速度を下げることになる。例えば、調整部36は、調整割合が80%の場合は、加工条件の相対速度を80%にすると共に、80%の調整割合に応じた放電パワー調整割合で放電パワーを下げる。調整部36は、放電パワーを下げるために、加工条件のうち、電圧印加の休止時間、または、加工電圧の少なくとも一方を調整する。休止時間が長くなるほど放電パワーは小さくなり、加工電圧が小さくなるほど放電パワーは小さくなる。いずれにせよ、放電パワーを下げると共に加工対象物Wに対するワイヤ電極14の相対速度も遅くしているので、切込み開始時のワイヤ電極14の断線を防ぎつつ、加工溝幅を加工条件の調整前と同様の幅に維持することが可能になる。なお、ワイヤ電極14がアプローチ区間を経た後は、放電加工制御部32は、調整割合に基づいて調整されていない元の加工条件を用いて放電加工制御を行う。
【0030】
なお、上記では、アプローチ区間の全体において、調整された加工条件を用いて放電加工制御部32が放電加工制御を行うとして説明した。しかし、アプローチ区間の切込み開始から予め設定された調整距離において、予め設定された調整割合に基づいて調整された加工条件を用いて放電加工制御を行ってもよい。具体的には、第2設定部38bが、第2操作部26bを介してオペレータが入力した距離を放電加工制御部32が使用する調整距離に設定する。アプローチ区間の切込み開始からの調整距離は
図4に示されている。放電加工制御部32は、切込み開始から第2設定部38bにより設定された調整距離において調整された加工条件を用いて放電加工制御を行う。ワイヤ電極14が切込み開始から調整距離を超えた後は、放電加工制御部32は、調整されていない元の加工条件を用いて放電加工制御を行う。切込み開始から調整距離の間、調整された加工条件を用いて放電加工制御を行うことにより、アプローチ区間における調整された加工条件による加工範囲を、加工形状等を考慮してオペレータが任意に設定することができる。
【0031】
図5は、実施の形態におけるワイヤ放電加工方法を説明するフローチャートである。
【0032】
まず、第1設定部38aが、第1操作部26aを介してオペレータが入力した割合を調整部36が使用する調整割合に設定する(ステップS1)。
【0033】
次に、第2設定部38bが、第2操作部26bを介してオペレータが入力した距離を放電加工制御部32が使用する調整距離に設定する(ステップS2)。
【0034】
そして、アプローチ区間認識部34が、加工プログラムに基づいて、加工対象物Wに対するワイヤ電極14の加工経路のアプローチ区間を認識する(ステップS3)。
【0035】
さらに、調整部36が、記憶部40に記憶されている加工条件をステップS1で設定された調整割合に基づいて調整する(ステップS4)。
【0036】
ステップS4の後、放電加工制御部32は、アプローチ区間認識部34が認識したアプローチ区間において、ステップS4で調整された加工条件を用いて放電加工制御を行う(ステップS5)。
【0037】
ステップS5の後、放電加工制御部32は、ワイヤ電極14が切込み開始からステップS2で設定された調整距離を超えたか否かを判定する(ステップS6)。調整距離を超えていない場合(ステップS6:NO)はステップS5に戻り、調整距離を超えた場合(ステップS6:YES)はステップS7に進む。
【0038】
ステップS7において、放電加工制御部32は、調整されていない元の加工条件を用いて放電加工制御を行う。
【0039】
以上説明したように、ワイヤ放電加工機10によれば、切込み開始時の加工条件を自動的に調整することができる。すなわち、切込み開始時の放電パワーを自動的に小さくすることができるので、切込み開始時のワイヤ電極14の断線を防ぐことが可能になる。それと共に、加工対象物Wに対するワイヤ電極14の相対速度を自動的に遅くすることにより、加工条件の調整前と同様の幅に加工溝幅を維持することが可能になる。
【0040】
[実施の形態から得られる発明]
上記実施の形態から把握しうる発明について、以下に記載する。
【0041】
(第1の発明)
ワイヤ放電加工機(10)は、加工対象物(W)に対してワイヤ電極(14)を相対移動させつつワイヤ電極(14)と加工対象物(W)との間の極間に電圧を印加して放電をさせることで、加工対象物(W)を放電加工する。ワイヤ放電加工機(10)は、加工プログラムおよび加工条件に従って、加工対象物(W)に対してワイヤ電極(14)を相対移動させつつ極間に電圧を印加して放電加工を行う放電加工制御部(32)と、加工プログラムに基づいて、加工対象物(W)に対するワイヤ電極(14)の加工経路のアプローチ区間を認識するアプローチ区間認識部(34)と、加工条件を予め設定された調整割合に基づいて調整する調整部(36)と、を備え、放電加工制御部(32)は、アプローチ区間において調整された加工条件を用いて放電加工制御を行う。
【0042】
これにより、切込み開始時の加工条件を自動的に調整してワイヤ電極(14)の断線を防ぐことができる。
【0043】
ワイヤ放電加工機(10)は、オペレータが指定する割合を入力するための第1操作部(26a)と、割合を調整割合に設定する第1設定部(28a)と、を備えてもよい。これにより、オペレータが入力した割合で加工条件を調整することができる。
【0044】
放電加工制御部(32)は、アプローチ区間の切込み開始から予め設定された調整距離において調整された加工条件を用いて放電加工制御を行ってもよい。これにより、アプローチ区間における調整された加工条件による加工範囲を限定することができる。
【0045】
ワイヤ放電加工機(10)は、オペレータが指定する距離を入力するための第2操作部(26b)と、距離を調整距離に設定する第2設定部(28b)と、を備えてもよい。これにより、アプローチ区間における調整された加工条件による加工範囲を、加工形状等を考慮してオペレータが任意に設定することができる。
【0046】
加工条件は、電圧印加の休止時間および加工対象物(W)に対するワイヤ電極(14)の相対速度を含んでもよい。これにより、ワイヤ電極(14)の断線を防ぎつつ、加工溝幅を加工条件の調整前と同様の幅に維持することが可能になる。
【0047】
(第2の発明)
ワイヤ放電加工方法は、加工対象物(W)に対してワイヤ電極(14)を相対移動させつつワイヤ電極(14)と加工対象物(W)との間の極間に電圧を印加して放電をさせることで、加工対象物(W)を放電加工するワイヤ放電加工機(10)のワイヤ放電加工方法である。ワイヤ放電加工方法は、加工プログラムおよび加工条件に従って、加工対象物(W)に対してワイヤ電極(14)を相対移動させつつ極間に電圧を印加して放電加工を行う放電加工制御ステップと、加工プログラムに基づいて、加工対象物(W)に対するワイヤ電極(14)の加工経路のアプローチ区間を認識するアプローチ区間認識ステップと、加工条件を予め設定された調整割合に基づいて調整する調整ステップと、を含み、放電加工制御ステップは、アプローチ区間において調整された加工条件を用いて放電加工制御を行う。
【0048】
これにより、切込み開始時の加工条件を自動的に調整してワイヤ電極(14)の断線を防ぐことができる。
【0049】
ワイヤ放電加工機(10)は、オペレータが指定する割合を入力するための第1操作部(26a)を備えてもよい。ワイヤ放電加工方法は、割合を調整割合に設定する第1設定ステップを含んでもよい。これにより、オペレータが入力した割合で加工条件を調整することができる。
【0050】
放電加工制御ステップは、アプローチ区間の切込み開始から予め設定された調整距離において調整された加工条件を用いて放電加工制御を行ってもよい。これにより、アプローチ区間における調整された加工条件による加工範囲を限定することができる。
【0051】
ワイヤ放電加工機(10)は、オペレータが指定する距離を入力するための第2操作部(26b)を備えてもよい。ワイヤ放電加工方法は、距離を調整距離に設定する第2設定ステップを含んでもよい。これにより、アプローチ区間における調整された加工条件による加工範囲を、加工形状等を考慮してオペレータが任意に設定することができる。
【0052】
加工条件は、電圧印加の休止時間および加工対象物(W)に対するワイヤ電極(14)の相対速度を含んでもよい。これにより、ワイヤ電極(14)の断線を防ぎつつ、加工溝幅を加工条件の調整前と同様の幅に維持することが可能になる。
【符号の説明】
【0053】
10…ワイヤ放電加工機 12…テーブル
14…ワイヤ電極 16…上下ワイヤガイド
16a…上ワイヤガイド 16b…下ワイヤガイド
18…上下ガイドブロック 18a…上ガイドブロック
18b…下ガイドブロック 22…駆動部
24…加工電源 26…操作部
26a…第1操作部 26b…第2操作部
30…数値制御装置 32…放電加工制御部
34…アプローチ区間認識部 36…調整部
38a…第1設定部 38b…第2設定部
40…記憶部