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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】全固体電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20231011BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231011BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20231011BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20231011BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20231011BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20231011BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M10/058
H01M4/13
H01M4/139
H01M10/052
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019099704
(22)【出願日】2019-05-28
(65)【公開番号】P2020194706
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】大浦 慶
(72)【発明者】
【氏名】長澤 善幸
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 充康
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/097903(WO,A1)
【文献】特開2012-256446(JP,A)
【文献】特開2012-094410(JP,A)
【文献】特開2017-135094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 4/62
H01M 10/058
H01M 4/13
H01M 4/139
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層を含む正極と、負極層を含む負極と、当該正極層及び当該負極層の間に配置される固体電解質層と、を有する全固体電池であって、
前記正極層、前記負極層、及び前記固体電解質層からなる群より選ばれる少なくとも一種の層が、粒子状の第1のバインダーと非粒子状の第2のバインダーとを含み、
前記第1のバインダーは、フッ素系樹脂であり、
前記第1のバインダーの平均粒径が0.6~90.0μmであり、
前記第1のバインダー及び第2のバインダーを含む層の総質量を100質量%としたとき、前記層中に前記第1のバインダーが0.2~7.0質量%含まれることを特徴とする全固体電池。
【請求項2】
前記第1のバインダー及び第2のバインダーを含む層の総質量を100質量%としたとき、前記層中に前記第2のバインダーが0質量%を超え1.0質量%以下含まれる、請求項に記載の全固体電池。
【請求項3】
正極層を含む正極と、負極層を含む負極と、当該正極層及び当該負極層の間に配置される固体電解質層と、を有する全固体電池の製造方法であって、
第1のバインダーの分散液と第2のバインダーの溶解液を用いて、前記正極層、前記負極層、及び前記固体電解質層からなる群より選ばれる少なくとも一種の層を準備する工程を含み、
前記第1のバインダーは、フッ素系樹脂であり、
前記第1のバインダーの平均粒径が0.6~90.0μmであり、
前記正極層、前記負極層、及び前記固体電解質層からなる群より選ばれる少なくとも一種の層が、粒子状の前記第1のバインダーと非粒子状の前記第2のバインダーとを含み、
前記第1のバインダー及び第2のバインダーを含む層の総質量を100質量%としたとき、前記層中に前記第1のバインダーが0.2~7.0質量%含まれる、ことを特徴とする全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラおよび携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。また、自動車産業界等においても、電気自動車用あるいはハイブリッド自動車用の高出力かつ高容量の電池の開発が進められている。
全固体電池の中でも全固体リチウムイオン電池は、リチウムイオンの移動を伴う電池反応を利用するためエネルギー密度が高いという点、また、正極と負極の間に介在する電解質として、有機溶媒を含む電解液に替えて固体電解質を用いるという点で注目されている。
【0003】
特許文献1には、固体電解質層の構成材料として、平均粒子径0.1μm~1μmであるポリマーを含むバインダーが記載されている。
【0004】
特許文献2には、ポリマーバインダーの熱膨張率が、全固体電池のその周縁に配置されている周縁部材の熱膨張率よりも大きいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/152262号
【文献】特開2016-081635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のバインダーは、溶媒に溶解させて活物質などと混合して用いるため、当該バインダーが活物質の表面や固体電解質の表面の全面を覆いやすいため、全固体電池のイオン伝導性が低くなる場合がある。そのため、従来のバインダーを用いた全固体電池は、その抵抗が高く、全固体電池のサイクル特性が悪いという問題がある。
本開示は、上記実情に鑑み、サイクル特性が良好な全固体電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、正極層を含む正極と、負極層を含む負極と、当該正極層及び当該負極層の間に配置される固体電解質層と、を有する全固体電池であって、
前記正極層、前記負極層、及び前記固体電解質層からなる群より選ばれる少なくとも一種の層が、粒子状の第1のバインダーと非粒子状の第2のバインダーとを含むことを特徴とする全固体電池を提供する。
【0008】
本開示の全固体電池においては、前記第1のバインダー及び第2のバインダーを含む層の総質量を100質量%としたとき、前記層中に前記第1のバインダーが0.2~7.0質量%含まれていてもよい。
【0009】
本開示の全固体電池においては、前記第1のバインダーの平均粒径が0.1~130.0μmであってもよい。
【0010】
本開示の全固体電池においては、前記第1のバインダーが、フッ素系樹脂及びポリオレフィン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂であってもよい。
【0011】
本開示の全固体電池においては、前記層中に前記第2のバインダーが0質量%を超え1.0質量%以下含まれていてもよい。
【0012】
本開示は、正極層を含む正極と、負極層を含む負極と、当該正極層及び当該負極層の間に配置される固体電解質層と、を有する全固体電池の製造方法であって、
第1のバインダーの分散液と第2のバインダーの溶解液を少なくとも用いて、前記正極層、前記負極層、及び前記固体電解質層からなる群より選ばれる少なくとも一種の層を準備する工程を含む、ことを特徴とする全固体電池の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本開示は、サイクル特性が良好な全固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】非粒子状の第2のバインダーを用いた場合の活物質粒子の状態の一例を示す模式図である。
図2】粒子状の第1のバインダーを用いた場合の活物質粒子の状態の一例を示す模式図である。
図3】本開示の全固体電池の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.全固体電池
本開示は、正極層を含む正極と、負極層を含む負極と、当該正極層及び当該負極層の間に配置される固体電解質層と、を有する全固体電池であって、
前記正極層、前記負極層、及び前記固体電解質層からなる群より選ばれる少なくとも一種の層が、粒子状の第1のバインダーと非粒子状の第2のバインダーとを含むことを特徴とする全固体電池を提供する。
【0016】
従来、全固体電池に用いられるバインダーは、有機溶媒に完全に溶解させた溶解型バインダーを使用していたが、この場合、バインダーとしてのポリマーが、固体電解質や活物質の表面を一様に被覆するために、固体電解質と活物質との界面にバインダーが配置され、イオン伝導がバインダーにより妨げられ、全固体電池の抵抗が上昇し、サイクル特性が低下するという問題がある。
図1は、非粒子状の第2のバインダーを用いた場合の活物質粒子の状態の一例を示す模式図である。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
図1に示すように、非粒子状の第2のバインダー2は斜線部分に示すように活物質粒子1を一様に被覆することにより、活物質と固体電解質との間のイオン伝導を妨げ、全固体電池が高抵抗となる。
【0017】
本研究者らは、全固体電池のバインダーとして、溶媒中で粒子として分散する所定の量の粒子状の第1のバインダー(分散型バインダー)と所定の量の非粒子状の第2のバインダー(溶解型バインダー)を併用することにより、全固体電池のサイクル特性が良好となることを見出した。
これは、粒子状の第1のバインダーと非粒子状の第2のバインダーを併用することにより、活物質粒子や固体電解質粒子等と点結着を形成しやすくなるため、固体電解質粒子と活物質粒子との界面の全面ではなく部分的に被覆しやすくなり、固体電解質粒子と活物質粒子との界面が低抵抗となり且つ固体電解質粒子と活物質粒子の接着性が高くなり、サイクル特性が良好な全固体電池を製造することが可能となると考えられる。
図2は、粒子状の第1のバインダーを用いた場合の活物質粒子の状態の一例を示す模式図である。
図2に示すように、粒子状の第1のバインダー3は斜線部分に示すように活物質粒子1の表面を部分的に被覆することにより、活物質粒子1の表面に粒子状の第1のバインダー3で覆われていない露出部が存在し、固体電解質粒子と活物質粒子1との界面が低抵抗となり且つ固体電解質粒子と活物質粒子の接着性が高くなり、全固体電池のサイクル特性が良好となる。
【0018】
[バインダー]
バインダーとしては、粒子状の第1のバインダー(分散型バインダー)と、樹脂を溶媒に溶解して形成された非粒子状の第2のバインダー(溶解型バインダー)が挙げられる。
本開示においては、少なくとも、粒子状の第1のバインダー(分散型バインダー)と非粒子状の第2のバインダー(溶解型バインダー)が層中に含まれていればよい。層形成時に、分散型バインダーに加え、溶解型バインダーを使用することにより、層形成用のスラリーの安定性が向上し、結果的に層の均一性を向上させることができる。
【0019】
バインダーは、後述する正極層、負極層、及び固体電解質層からなる群より選ばれる少なくとも一種の層の中に含まれていればよく、正極層、及び負極層に含まれていることが好ましく、正極層、負極層、及び固体電解質層に含まれていることがより好ましい。
正極層中及び負極層中では、固体電解質以外に活物質、導電材、その他の添加剤が存在するため、正極層中、及び負極層中では、特に活物質と固体電解質との接触性を良好にすることがイオン伝導パスを確保する観点で非常に重要である。
溶解型バインダーのみでは、当該バインダーが活物質粒子と固体電解質粒子との界面を一様に被覆するため、当該バインダーがイオン伝導を阻害し、全固体電池の抵抗が高くなり、電池特性が悪化する。
一方、粒子状の分散型バインダーと非粒子状の溶解型バインダーを併用することにより、活物質粒子と固体電解質粒子の界面を全面ではなく部分的に被覆しやすいため、所望のイオン伝導パスを確保することができ、全固体電池の抵抗を低減し、電池特性が良好となる。
また、正極層中及び負極層中において活物質が存在し、当該活物質が全固体電池の充放電の際に膨張収縮する場合、同じ添加量で溶解型バインダーと分散型バインダーとを比較したとき、分散型バインダーの方が、活物質粒子と固体電解質粒子との界面が低抵抗であり且つ活物質粒子と固体電解質粒子との接着性が高くなり、活物質の膨張収縮後も膨張収縮前と同程度の構造を活物質が維持しやすくなり、サイクル特性が良好な全固体電池が得られると考えられる。なお、本開示においては、活物質種によらずサイクル特性の向上効果を発現することができる。
【0020】
層中の粒子状の第1のバインダーの含有量は、特に限定されないが、当該粒子状の第1のバインダーの接着効果と全固体電池の抵抗低減効果とのバランスを良好にする観点から、層の総質量を100質量%としたとき、層中に下限が0.1質量%以上、特に0.2質量%以上、さらに0.3質量%以上、よりさらに3.0質量%以上含まれていてもよく、上限が、8.0質量%以下、特に7.0質量%以下、さらに5.0質量%以下含まれていてもよい。
【0021】
粒子状の第1のバインダーは、特に限定されないが、フッ素系樹脂及びポリオレフィン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂であってもよい。フッ素系樹脂、またはポリオレフィン系樹脂の少なくともいずれか一方の樹脂を使用することでバインダーの耐電圧性を確保しつつ、良好な接着性を担保できる。
フッ素系樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(PVDF-HFP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)等が挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、並びに、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリメチルアクリレート、ポリブチルアクリレート(PBA)、及びポリアクリロニトリル(PAN)等の(メタ)アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0022】
粒子状の第1のバインダーの平均粒径は、特に限定されないが、下限が、0.03μm以上、特に0.06μm以上、さらに0.1μm以上であってもよく、上限が、154.5μm以下、特に136.8μm以下、さらに130.0μm以下、よりさらに94.2μm以下であってもよい。粒子状の第1のバインダーの粒径が小さすぎる場合、活物質粒子や固体電解質粒子の表面を一様に被覆しやすくなり、当該第1のバインダーがイオン伝導を妨げ、全固体電池が高抵抗となる。一方、粒径が大きすぎる場合は、粒子状の第1のバインダーの活物質粒子や固体電解質粒子の表面への接着点数が少なくなり過ぎるために活物質粒子と固体電解質粒子の接着性が低くなり、全固体電池の構造を維持し難くなる。
粒子状の第1のバインダーは、層中に粒子として存在するが、層形成時には、粒子状の第1のバインダーを溶媒に分散させた状態で用いてもよいし、溶媒中で粒子状に重合させた状態のバインダーを用いてもよい。
【0023】
粒子状の第1のバインダーを分散させるために用いる溶媒としては、粒子状の第1のバインダーを安定して分散させることが可能な溶媒であれば特に限定されず、トルエン、及びメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられ、これらの混合溶媒であってもよい。
【0024】
層中に存在する第2のバインダー(溶解型バインダー)の形状は、非粒子状であれば特に限定されない。
本開示において非粒子状とは、粒子ではないことを意味する。具体的には、SEM(走査型電子顕微鏡)又はTEM(透過型電子顕微鏡)により数万倍の倍率で観察しても、粒子が確認されない状態であることを意味する。
なお、本開示においては、形成された層中に存在する第2のバインダーの形状が非粒子状であれば、層を形成する際に用いる、溶媒に溶解させる前の第2のバインダーの材料の形状は、粒子状であってもよい。
非粒子状の第2のバインダー(溶解型バインダー)の材料として用いられる樹脂としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられる。具体的な樹脂としては、有機溶媒への溶解性が高い観点から、エチルセルロース(EC)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等が挙げられる。なお、粒子状の第1のバインダーとして用いられる材料を、当該材料を溶解させることが可能な溶媒を用いて当該材料を溶解させることにより非粒子状の第2のバインダーとしてもよい。
樹脂を溶解する溶媒としては、樹脂の種類によって適宜選択することができ、樹脂がエチルセルロース(EC)の場合は、N-メチルピロリドン(NMP)、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。また、樹脂がPVDFの場合は、溶媒としてN-メチルピロリドン(NMP)等を用いることができる。
層中の非粒子状の第2のバインダーの含有量は特に限定されないが、層中に存在する活物質粒子、固体電解質粒子等の粒子の分散性を向上させる観点から、層の総質量を100質量%としたとき、層中に0質量%を超え1.0質量%以下含まれていてもよく、0質量%を超え0.5質量%以下含まれていてもよい。
【0025】
[全固体電池]
図3は、本開示の全固体電池の一例を示す断面模式図である。
図3に示すように、全固体電池100は、正極層12及び正極集電体14を含む正極16と、負極層13及び負極集電体15を含む負極17と、正極16と負極17の間に配置される固体電解質層11を備える。
【0026】
[正極]
正極は、少なくとも正極層を有し、必要に応じて正極集電体を有する。
正極層は、正極活物質を含み、任意成分として、固体電解質、導電材、及びバインダー等が含まれていてもよい。
【0027】
正極活物質の種類については特に制限はなく、例えば、一般式Li(Mは遷移金属元素であり、x=0.02~2.2、y=1~2、z=1.4~4)で表される正極活物質を挙げることができる。上記一般式において、Mは、Co、Mn、Ni、V、FeおよびSiからなる群から選択される少なくとも一種が挙げられ、Co、NiおよびMnからなる群から選択される少なくとも一種であってよい。このような正極活物質としては、具体的には、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMn、Li(Ni0.5Mn1.5)O、LiFeSiO、LiMnSiO等を挙げることができる。
また、上記一般式Li以外の正極活物質としては、チタン酸リチウム(例えばLiTi12)、リン酸金属リチウム(LiFePO、LiMnPO、LiCoPO、LiNiPO)、遷移金属酸化物(V、MoO)、TiS、LiCoN、Si、SiO、LiSiO、LiSiO、及びリチウム貯蔵性金属間化合物(例えばMgSn、MgGe、MgSb、CuSb)等を挙げることができる。
正極活物質の形状は特に限定されるものではないが、例えば粒子状、薄膜状とすることができ、取扱い性が良いという観点から、粒子状であってもよい。
正極活物質が粒子である場合の当該粒子の平均粒径(D50)は、例えば1nm以上100μm以下であることが好ましく、10nm以上30μm以下であることがより好ましい。
正極活物質の表面には、Liイオン伝導性酸化物を含有するコート層が形成されていても良い。正極活物質と、固体電解質との反応を抑制できるからである。
Liイオン伝導性酸化物としては、例えば、LiNbO、LiTi12、及びLiPO等が挙げられる。コート層の厚さは、下限が例えば、0.1nm以上であり、1nm以上であっても良い。一方、コート層の厚さは、上限が例えば、100nm以下であり、20nm以下であっても良い。
正極層における正極活物質の含有量は、特に限定されないが、例えば10質量%~98.2質量%の範囲内であってもよい。
正極層に用いられる固体電解質は、後述する固体電解質層に用いられる固体電解質と同様のものが挙げられる。
正極層における固体電解質の含有量は、特に限定されないが、例えば1質量%~80質量%の範囲内であってもよい。
【0028】
導電材としては、公知のものを用いることができ、例えば、炭素材料、及び金属粒子等が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラックやファーネスブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種を挙げることができ、中でも、電子伝導性の観点から、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。当該カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーはVGCF(気相法炭素繊維)であってもよい。金属粒子としては、Ni、Cu、Fe、及びSUS等の粒子が挙げられる。
正極層における導電材の含有量は特に限定されるものではない。
【0029】
正極層に用いられるバインダーとしては、上記した粒子状の第1のバインダー、及び非粒子状の第2のバインダーが挙げられる。
正極層における粒子状の第1のバインダーの含有量は特に限定されるものではないが下限が0.1質量%以上、特に0.2質量%以上、さらに0.3質量%以上、よりさらに3.0質量%以上含まれていてもよく、上限が、8.0質量%以下、特に7.0質量%以下、さらに5.0質量%以下含まれていてもよい。
正極層における非粒子状の第2のバインダーの含有量は特に限定されるものではないが0質量%を超え1.0質量%以下含まれていてもよく、0質量%を超え0.5質量%以下含まれていてもよい。
【0030】
正極層の厚さは、特に限定されないが、例えば、10~250μm、中でも20~200μmであってもよい。
【0031】
正極層は、従来公知の方法で形成することができる。
例えば、正極活物質、及びバインダーを溶媒中に投入し、撹拌することにより、正極層用スラリーを作製し、当該スラリーを正極集電体等の基板の一面上に塗布して乾燥させることにより、正極層が得られる。
溶媒は、例えばトルエン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。
正極集電体等の基板の一面上に正極層用スラリーを塗布する方法は、特に限定されず、ドクターブレード法、メタルマスク印刷法、静電塗布法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、及びスクリーン印刷法等が挙げられる。
また、正極層の形成方法の別の方法として、正極活物質及び必要に応じ他の成分を含む正極合剤の粉末を加圧成形することにより正極層を形成してもよい。
【0032】
正極集電体としては、全固体電池の集電体として使用可能な公知の金属を用いることができる。そのような金属としては、Cu、Ni、Al、V、Au、Pt、Mg、Fe、Ti、Co、Cr、Zn、Ge、及びInからなる群から選択される一又は二以上の元素を含む金属材料を例示することができる。
正極集電体の形態は特に限定されるものではなく、箔状、メッシュ状等、種々の形態とすることができる。
【0033】
正極の全体としての形状は特に限定されるものではないが、シート状であってもよい。この場合、正極の全体としての厚みは特に限定されるものではなく、目的とする性能に応じて、適宜決定すればよい。
【0034】
[負極]
負極は、少なくとも負極層を有し、必要に応じて負極集電体を有する。
負極層は、負極活物質を含み、任意成分として、固体電解質、導電材、及びバインダー等が含まれていてもよい。
【0035】
負極活物質としては、従来公知の材料を用いることができ、例えば、Li単体、リチウム合金、炭素、Si単体、Si合金、及びLiTi12(LTO)等が挙げられる。
リチウム合金としては、LiSn、LiSi、LiAl、LiGe、LiSb、LiP、及びLiIn等が挙げられる。
Si合金としては、Li等の金属との合金等が挙げられ、その他、Sn、Ge、及びAlからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属との合金であってもよい。
負極活物質の形状については、特に限定されるものではないが、例えば粒子状、薄膜状とすることができ、取扱い性が良いという観点から、粒子状であってもよい。
負極活物質が粒子である場合の当該粒子の平均粒径(D50)は、例えば1nm以上100μm以下であることが好ましく、10nm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0036】
負極層に含まれる導電材、バインダー、固体電解質は、上述した正極層に含まれるものと同様のものが挙げられる。
負極層における粒子状の第1のバインダー及び非粒子状の第2のバインダーの含有量は、正極層における含有量と同様の含有量であってもよい。
【0037】
負極層を形成する方法としては、特に限定されないが、負極活物質及び必要に応じ導電材、バインダー等の他の成分を含む負極合剤の粉末を加圧成形する方法が挙げられる。また、負極層を形成する方法の別の例としては、負極活物質、溶媒及び必要に応じ導電材、バインダー等の他の成分を含む負極層用スラリーを用意し、当該負極層用スラリーを負極集電体又は固体電解質層の一面上に塗布し、当該負極層用スラリーを乾燥する方法等が挙げられる。負極層用スラリーに用いられる溶媒は、正極層用スラリーに用いられる溶媒と同様のものが挙げられる。負極集電体又は固体電解質層の一面上に負極層用スラリーを塗布する方法は、正極層用スラリーを塗布する方法と同様の方法が挙げられる。
【0038】
負極集電体としては、上記正極集電体として用いられる金属と同様の金属を用いることができる。
負極集電体の形態は特に限定されるものではなく、上記正極集電体と同様の形態とすることができる。
【0039】
負極の全体としての形状は特に限定されるものではないが、シート状であってもよい。この場合、負極の全体としての厚みは特に限定されるものではなく、目的とする性能に応じて、適宜決定すればよい。
【0040】
[固体電解質層]
固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含む。
【0041】
固体電解質は、硫化物系固体電解質、及び酸化物系固体電解質等が挙げられる。
硫化物系固体電解質としては、例えば、LiS-P、LiS-SiS、LiX-LiS-SiS、LiX-LiS-P、LiX-LiO-LiS-P、LiX-LiS-P、LiX-LiPO-P、及びLiPS等が挙げられる。なお、上記「LiS-P」の記載は、LiSおよびPを含む原料組成物を用いてなる材料を意味し、他の記載についても同様である。また、上記LiXの「X」は、ハロゲン元素を示す。上記LiXを含む原料組成物中にLiXは1種又は2種以上含まれていてもよい。LiXが2種以上含まれる場合、2種以上の混合比率は特に限定されるものではない。
硫化物系固体電解質における各元素のモル比は、原料における各元素の含有量を調製することにより制御できる。また、硫化物系固体電解質における各元素のモル比や組成は、例えば、ICP発光分析法で測定することができる。
【0042】
硫化物系固体電解質は、ガラスであってもよく、結晶材料であってもよく、結晶性を有するガラスセラミックスであってもよい。
硫化物系固体電解質の結晶状態は、例えば、硫化物系固体電解質に対してCuKα線を使用した粉末X線回折測定を行うことにより確認することができる。
【0043】
ガラスは、原料組成物(例えばLiSおよびPの混合物)を非晶質処理することにより得ることができる。非晶質処理としては、例えば、メカニカルミリングが挙げられる。メカニカルミリングは、乾式メカニカルミリングであっても良く、湿式メカニカルミリングであっても良いが、後者が好ましい。容器等の壁面に原料組成物が固着することを防止できるからである。
ガラスセラミックスは、例えば、ガラスを熱処理することにより得ることができる。
また、結晶材料は、例えば、ガラスを熱処理すること、原料組成物に対して固相反応処理すること等により得ることができる。
【0044】
酸化物系固体電解質としては、例えばLi6.25LaZrAl0.2512、LiPO、Li3+xPO4-x(LiPON)等が挙げられる。
【0045】
固体電解質の形状は、取扱い性が良いという観点から粒子状であることが好ましい。
また、固体電解質の粒子の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、下限が0.5μm以上であってもよく、上限が2μm以下であってもよい。
固体電解質は、1種単独で、又は2種以上のものを用いることができる。また、2種以上の固体電解質を用いる場合、2種以上の固体電解質を混合してもよい。
【0046】
本開示において、粒子の平均粒径は、特記しない限り、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定により測定される体積基準のメディアン径(D50)の値である。また、本開示においてメディアン径(D50)とは、粒径の小さい粒子から順に粒子を並べた場合に、粒子の累積体積が全体の体積の半分(50%)となる径(体積平均径)である。
【0047】
固体電解質層中の固体電解質の含有割合は、特に限定されるものではないが、固体電解質層の総質量を100質量%としたとき、下限は例えば、50.0質量%以上であり、好ましくは60.0質量%以上であり、上限は好ましくは99.2質量%以下である。
【0048】
固体電解質層には、可塑性を発現させる等の観点から、固体電解質粒子同士を結着させるバインダーを含有させることもできる。そのようなバインダーとしては、上記した粒子状の第1のバインダー、非粒子状の第2のバインダー等を例示することができる。ただし、電池の高出力化を図り易くするために、固体電解質粒子の過度の凝集を防止し且つ均一に分散された固体電解質粒子を有する固体電解質層を形成可能にする等の観点から、固体電解質層には粒子状の第1のバインダーが、下限が0.1質量%以上、特に0.2質量%以上、さらに0.3質量%以上、よりさらに3.0質量%以上含まれていてもよく、上限が、8.0質量%以下、特に7.0質量%以下、さらに5.0質量%以下含まれていてもよく、非粒子状の第2のバインダーが0質量%を超え1.0質量%以下含まれていてもよく、0質量%を超え0.5質量%以下含まれていてもよい。
【0049】
固体電解質層の厚みは、電池の構成によって適宜調整され、特に限定されるものではなく、通常0.1μm以上1mm以下である。
固体電解質層の形成方法は、例えば、固体電解質、及び必要に応じ他の成分を含む固体電解質層の材料の粉末を加圧成形することにより固体電解質層を形成してもよく、また、他の方法として、支持体上にバインダーを含む固体電解質層用スラリーを塗布し、当該固体電解質層用スラリーを乾燥させ、支持体を剥がすことにより固体電解質層を形成してもよい。
【0050】
全固体電池は、必要に応じ、正極、負極、及び、固体電解質層を収容する外装体を備える。
外装体の形状としては、特に限定されないが、ラミネート型等を挙げることができる。
外装体の材質は、電解質に安定なものであれば特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリエチレン、及び、アクリル樹脂等の樹脂等が挙げられる。
【0051】
全固体電池としては、負極の反応として金属リチウムの析出-溶解反応を利用した全固体リチウム電池、正負極間をリチウムイオンが移動する全固体リチウムイオン電池、全固体ナトリウム電池、全固体マグネシウム電池及び全固体カルシウム電池等を挙げることができ、全固体リチウムイオン電池であってもよい。また、全固体電池は、一次電池であってもよく二次電池であってもよい。
全固体電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、及び角型等を挙げることができる。
【0052】
2.全固体電池
本開示は、正極層を含む正極と、負極層を含む負極と、当該正極層及び当該負極層の間に配置される固体電解質層と、を有する全固体電池の製造方法であって、
第1のバインダーの分散液と第2のバインダーの溶解液を少なくとも用いて、前記正極層、前記負極層、及び前記固体電解質層からなる群より選ばれる少なくとも一種の層を準備する工程を含む、ことを特徴とする全固体電池の製造方法を提供する。
【0053】
正極、負極、固体電解質層に関しては、上記1.全固体電池に記載の内容と同様のためここでの記載は省略する。
準備工程で用いる分散液に含まれる第1のバインダーと溶媒、溶解液に含まれる第2のバインダーと溶媒については、上記1.全固体電池で挙げたものと同様のものを用いることができる。
第1のバインダーの分散方法は特に限定されず、例えば、超音波ホモジナイザー等を用いて第1のバインダーを溶媒中に分散させる方法等が挙げられる。
準備工程においては、正極層、負極層、及び固体電解質層からなる群より選ばれる少なくとも一種の層を準備する際に第1のバインダーの分散液と第2のバインダーの溶解液を用いていればよいが、正極層、負極層、及び固体電解質層の全ての層を準備する際に第1のバインダーの分散液と第2のバインダーの溶解液を用いてもよい。
準備工程で用いる粒子状の第1のバインダーの分散液の量は特に限定されないが、得られる正極層、負極層、又は固体電解質層のいずれかの層の総質量を100質量%としたとき、当該層中に含まれる第1のバインダーの含有量の下限が0.1質量%以上、特に0.2質量%以上、さらに0.3質量%以上、よりさらに3.0質量%以上であってもよく、上限が、8.0質量%以下、特に7.0質量%以下、さらに5.0質量%以下であってもよい。
準備工程で用いる第2のバインダーの溶解液の量は特に限定されないが、得られる正極層、負極層、又は固体電解質層のいずれかの層の総質量を100質量%としたとき、当該層中に含まれる第2のバインダーの含有量の下限が0質量%を超え1.0質量%以下であってもよく、0質量%を超え0.5質量%以下であってもよい。
【0054】
本開示の全固体電池の製造方法としては、例えば、まず、支持体上に第1のバインダーの分散液と第2のバインダーの溶解液と固体電解質を少なくとも含む固体電解質層用スラリーを塗布し、当該固体電解質層用スラリーを乾燥させ、支持体を剥がすことにより固体電解質層を形成する。そして、正極集電体の一面上に第1のバインダーの分散液と第2のバインダーの溶解液と正極活物質を少なくとも含む正極層用スラリーを塗布し、当該正極層用スラリーを乾燥させることにより正極層を含む正極を得る。その後、負極集電体の一面上に第1のバインダーの分散液と第2のバインダーの溶解液と負極活物質を少なくとも含む負極層用スラリーを塗布し、当該負極層用スラリーを乾燥させることにより負極層を含む負極を得る。そして、正極集電体、正極層、固体電解質層、負極層、負極集電体の順となるように固体電解質層を正極層と負極層の間に配置することにより全固体電池を得ることができる。
全固体電池の製造は、系内の水分をできるだけ除去した状態で行うとよい。例えば、各製造工程において、系内を減圧すること、系内を不活性ガス等の水分を実質的に含まないガスで置換すること等が有効と考えられる。
【実施例
【0055】
(実施例1)
・粒子状の第1のバインダー分散液の作製
溶媒である脱水トルエンと、粒子状の第1のバインダーとしてのPVDF粉末(粒径1.5μm)をそれぞれ90:10の質量割合で混合した。この時、脱水トルエンを30℃以下の液温に保ち、撹拌しながらPVDF粉末を添加し、1時間以上マグネティックスターラーで撹拌することにより、粒子が溶媒に分散した状態の第1のバインダー分散液を作製した。
【0056】
・正極の作製
正極活物質(Li(NiMnCo)1/3)及び硫化物系固体電解質(LiI-LiO-LiS-P、自社合成品)の質量比率が正極活物質:硫化物系固体電解質=75:25となるように混合し、得られた混合物が正極層の総質量を100質量%としたとき正極層中に93.5質量%含まれるように秤量した。
次に、正極層の総質量を100質量%としたとき正極層中にPVDFのバインダー分散液(PVDF粉末:粒径1.5μm)が固形分で3.0質量%、及び、正極層の総質量を100質量%としたとき正極層中に導電材(気相成長炭素繊維、昭和電工株式会社製)が3.0質量%含まれるように秤量した。
さらに、溶媒であるトルエン(脱水グレード)を添加し、超音波ホモジナイザー(株式会社エスエムテー製、UH-50)を用いて1分間に亘って混練した。
最後にエチルセルロース(EC、ナカライテクス製)をトルエンに溶解させた第2のバインダー溶解液を、ECが正極層の総質量を100質量%としたとき正極層中に0.5質量%含まれるように添加し、正極合剤を得た。正極合剤中の固形分率が60質量%となるようにトルエンを添加し、超音波ホモジナイザーで1分間に亘って混練することにより正極層用スラリーを作製した。
その後、アルミニウム箔(昭和電工株式会社製)の表面に、アプリケータを用いて、正極層用スラリーを塗工し、5分間に亘って自然乾燥させたのち、100℃で30分間に亘って加熱乾燥させる過程を経て正極層を形成し、正極集電体及び正極層を有する正極を作製した。
【0057】
・負極の作製
負極活物質(天然黒鉛、粒径15.0μm)、及び、硫化物系固体電解質(LiI-LiO-LiS-P、自社合成品)の質量比率が負極活物質:硫化物系固体電解質=60:40となるように混合し、得られた混合物が負極層の総質量を100質量%としたとき負極層中に96.5質量%含まれるように秤量した。
また、PVDF(粒径1.5μm)を用いた第1のバインダー分散液をPVDFが負極層の総質量を100質量%としたとき負極層中に固形分で3.0質量%含まれるように秤量した。
さらに、溶媒であるトルエン(脱水グレード)を添加し、超音波ホモジナイザー(株式会社エスエムテー製、UH-50)を用いて1分間に亘って混練した。
最後にエチルセルロース(EC、ナカライテクス製)をトルエンに溶解させた第2のバインダー溶解液をECが負極層の総質量を100質量%としたとき負極層中に0.5質量%含まれるように添加し、負極合剤を得た。そして、負極合剤中の固形分率が55質量%となるようにトルエンを添加し、超音波ホモジナイザーで1分間に亘って混練することにより負極層用スラリーを作製した。
その後、負極集電体(銅箔)の表面に、アプリケータを用いて、負極層用スラリーを塗工し、5分間に亘って自然乾燥させたのち、100℃で30分間に亘って加熱乾燥させる過程を経て負極層を形成し、負極集電体及び負極層を有する負極を作製した。
【0058】
・固体電解質層の作製
不活性ガス中で、硫化物系固体電解質材料96.5質量部に、PVDF(粒径1.5μm)を用いた第1のバインダー分散液をPVDFが固形分で3.0質量部となるように添加し、エチルセルロース(EC、ナカライテクス製)をトルエンに溶解させた第2のバインダー溶解液をECが固形分で0.5質量部となるように添加し、混合物を得た。
さらに、溶媒であるトルエンを添加し、固形分が35質量%となるように加えたものを、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて混練することにより、固体電解質層用スラリーを得た。
アルミニウム箔にアプリケータを用いて固体電解質層用スラリーを塗工して乾燥させることにより固体電解質層を得た。
【0059】
・全固体電池の作製
アルミニウム箔および固体電解質層を1cmに打ち抜き、アルミニウム箔をはがし、正極の正極層と負極の負極層との間に固体電解質層を挟んで重ねた後、4.3tonでプレスすることにより、全固体電池を得た。
【0060】
(実施例2)
PVDF粉末の粒径を0.1μmに変更したこと以外は実施例1と同様に全固体電池を作製した。
【0061】
(実施例3)
PVDF粉末の粒径を90.0μmに変更したこと以外は実施例1と同様に全固体電池を作製した。
【0062】
(実施例4)
PVDF粉末の粒径を0.6μmに変更したこと以外は実施例1と同様に全固体電池を作製した。
【0063】
(実施例5)
PVDF粉末の粒径を15.3μmに変更したこと以外は実施例1と同様に全固体電池を作製した。
【0064】
(実施例6)
以下のこと以外は実施例1と同様に全固体電池を作製した。
粒子状の第1のバインダーをSBRに変更した。SBR粉末の粒径は0.1μmである。
また、溶媒をトルエンから脱水メチルエチルケトン(MEK)へ変更した。
【0065】
(実施例7)
以下のこと以外は実施例1と同様に全固体電池を作製した。
粒子状の第1のバインダーをSBRへ変更した。SBR粉末の粒径は1.0μmである。
また、溶媒をトルエンから脱水メチルエチルケトン(MEK)へ変更した。
【0066】
(実施例8)
以下のこと以外は実施例1と同様に全固体電池を作製した。
粒子状の第1のバインダーをSBRへ変更した、SBR粉末の粒径は94.2μmである。
また、溶媒をトルエンから脱水メチルエチルケトン(MEK)へ変更した。
【0067】
(実施例9)
以下のこと以外は実施例1と同様に全固体電池を作製した。
PVDF粉末の含有割合を0.3質量%に変更し、正極層については正極活物質と固体電解質の混合物の含有割合を96.2質量%に変更し、負極層については負極活物質と固体電解質の混合物の含有割合を99.2質量%に変更し、固体電解質層については固体電解質の含有割合を99.2質量%に変更した。
【0068】
(実施例10)
以下のこと以外は実施例1と同様に全固体電池を作製した。
PVDF粉末の含有割合を5.0質量%に変更し、正極層については正極活物質と固体電解質の混合物の含有割合を91.5質量%に変更し、負極層については負極活物質と固体電解質の混合物の含有割合を94.5質量%に変更し、固体電解質層については固体電解質の含有割合を94.5質量%に変更した。
【0069】
(実施例11)
PVDF粉末の粒径を0.06μmに変更したこと以外は実施例1と同様に全固体電池を作製した。
【0070】
(実施例12)
PVDF粉末の粒径を136.8μmに変更したこと以外は実施例1と同様に全固体電池を作製した。
【0071】
(実施例13)
以下のこと以外は実施例1と同様に全固体電池を作製した。
粒子状の第1のバインダーをSBRへ変更した。SBR粉末の粒径は0.03μmである。
また、溶媒をトルエンから脱水メチルエチルケトン(MEK)へ変更した。
【0072】
(実施例14)
以下のこと以外は実施例1と同様に全固体電池を作製した。
粒子状の第1のバインダーをSBRへ変更した。SBR粉末の粒径は154.5μmである。
また、溶媒をトルエンから脱水メチルエチルケトン(MEK)へ変更した。
【0073】
(比較例1)
以下のこと以外は実施例1と同様に全固体電池を作製した。
溶媒として脱水N-メチルピロリドン(NMP)を用いてPVDF(粒径1.5μm)を溶解させ、PVDFを用いた第2のバインダー溶解液とし、エチルセルロース(EC、ナカライテクス製)をトルエンに溶解させた第2のバインダー溶解液と併用し、スラリー作製用の溶媒を脱水N-メチルピロリドン(NMP)に変更した。すなわち、比較例1においては、粒子状の第1のバインダーを含まない全固体電池を作製した。
【0074】
(比較例2)
以下のこと以外は実施例1と同様に全固体電池を作製した。
ECを用いた第2のバインダー溶解液を添加せず、正極層については正極活物質と固体電解質の混合物の含有割合を94.0質量%に変更し、負極層については負極活物質と固体電解質の混合物の含有割合を97.0質量%に変更し、固体電解質層については固体電解質の含有割合を97.0質量%に変更した。すなわち、比較例2においては、非粒子状の第2のバインダーを含まない全固体電池を作製した。
【0075】
(実施例15)
以下のこと以外は実施例1と同様に全固体電池を作製した。
PVDF粉末の含有割合を0.1質量%へ変更し、正極層については正極活物質と固体電解質の混合物の含有割合を96.4質量%に変更し、負極層については負極活物質と固体電解質の混合物の含有割合を99.4質量%に変更し、固体電解質層については固体電解質の含有割合を99.4質量%に変更した。
【0076】
(実施例16)
以下のこと以外は実施例1と同様に全固体電池を作製した。
PVDF粉末の含有割合を8.0質量%へ変更し、正極層については正極活物質と固体電解質の混合物の含有割合を88.5質量%に変更し、負極層については負極活物質と固体電解質の混合物の含有割合を91.5質量%に変更し、固体電解質層については固体電解質の含有割合を91.5質量%に変更した。
【0077】
・剥離強度測定
実施例、および比較例で用いた正極層及び負極層の各電極層についてそれぞれ剥離強度を測定した。なお、以下の方法は一例であり、剥離強度測定方法は、以下の方法に限定されない。
両面テープの一面を電極層の表面側に、もう一面を金属板に貼った。金属板を固定し、金属板のうち、両面テープを介して電極層と接着されている箇所以外の箇所をロードセルと接続させ、金属板を鉛直方向に50mm/分の速度で移動させた。このときのロードセルにかかる平均荷重を電極層の幅(2cm)で除することで、電極層の剥離強度を算出した。結果を表1~2に示す。表1~2において、Li(NiMnCo)1/3は、NMC111と表記した。
【0078】
・Liイオン伝導度(イオン伝導性)測定
実施例、および比較例で得られた各全固体電池について交流インピーダンス法による常温におけるLiイオン伝導度の測定を行った。測定にはソーラトロン1260を用い、測定条件は印加電圧10mV、測定周波数域0.01MHz~1MHzとした。結果を表1~2に示す。
なお、実施例、および比較例で得られた全固体電池の各試験セルは以下の方法で作成した。
まず、充電前の全固体電池に対し、25℃±4℃の環境下で0.1Cの電流値で全固体電池1つ当たりの端子電圧が設定電圧になるまで定電流充電を行い、その後、設定電圧に保持する定電圧充電を行う定電流定電圧充電によって、1時間、充電を行った。初回充電の後、0.2Cで3.0Vまで10時間、定電流定電圧放電を行った。
その後、25℃±4℃の環境下で0.2Cの電流値にて4.0Vまで定電流充電した。
これにより、Liイオン伝導度の測定に使用する試験セルを作製した。
【0079】
・サイクル試験
全固体電池の試験セルに対し、40℃の環境下で、1Cの電流値での4.2Vまでの2.5時間の定電流定電圧充電と、1Cの電流値にて3.0Vまで定電流放電とを1サイクルとし、当該サイクルを300サイクル実行した。そして、300サイクル目の放電容量Aを5サイクル目の放電容量Bで除算し100を掛けることによって、サイクル特性(容量維持率(%))を算出した。
なお、実施例、及び比較例の各容量維持率(%)は、実施例、及び比較例の各全固体電池の試験セルを3個ずつ作製し、3個の試験セルのサイクル試験結果の平均値とした。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
実施例1~16、および比較例1~2の結果から、粒子状の第1のバインダーと非粒子状の第2のバインダーを併用することにより、いずれか一方のみを用いた場合と比較して、全固体電池のサイクル特性が向上することがわかる。
【0083】
粒子状の第1のバインダーの平均粒径に関しては、実施例1~5と実施例12との比較から、粒子状の第1のバインダーの平均粒径が136.8μm未満である場合は電極層の剥離強度が向上することがわかる。その結果、充放電に伴う電極層の膨張収縮に伴い、電極構造の維持が容易となり、全固体電池のサイクル特性が向上することがわかる。
また、実施例1~5と実施例11との比較から、平均粒径が0.06μmを超える粒子状の第1のバインダーを使用した場合、活物質粒子と固体電解質粒子の接着性(電極層の剥離強度)は若干低下するが、バインダーが活物質粒子と固体電解質粒子の界面の全面ではなく部分的に被覆しやすくなり、全固体電池のイオン伝導性が向上する。
そして、粒子状の第1のバインダーの平均粒径が0.1~94.2μmの範囲であれば、粒子状の第1のバインダーの接着効果と全固体電池の抵抗低減効果とのバランスが良好になり、全固体電池のサイクル特性がさらに向上することがわかる。
【0084】
粒子状の第1のバインダーの添加量(実施例9、10、15、16)に関しては、粒子状の第1のバインダーの添加量が多ければ接着性が向上し、粒子状の第1のバインダーの添加量が少なければその逆の現象が起こり、粒子状の第1のバインダーと非粒子状の第2のバインダーを併用し、層中に粒子状の第1のバインダーが0.1~8.0質量%含まれることにより全固体電池のサイクル特性が向上し、0.3~5.0質量%含まれることにより全固体電池のサイクル特性がさらに向上することがわかる。
【符号の説明】
【0085】
1 活物質粒子
2 非粒子状の第2のバインダー
3 粒子状の第1のバインダー
11 固体電解質層
12 正極層
13 負極層
14 正極集電体
15 負極集電体
16 正極
17 負極
100 全固体電池
図1
図2
図3