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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】ワインダ装置の運転制御方法
(51)【国際特許分類】
   B65H 26/02 20060101AFI20231011BHJP
【FI】
B65H26/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019111981
(22)【出願日】2019-06-17
(65)【公開番号】P2020203757
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-03-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第86回紙パルプ研究発表会講演要旨集(2019年6月14日発行)論文番号11で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】IAT弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤田 航平
(72)【発明者】
【氏名】山本 准司
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-139241(JP,A)
【文献】特開2016-160083(JP,A)
【文献】特公昭48-003323(JP,B1)
【文献】特開2001-031306(JP,A)
【文献】特開2002-316752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 18/00- 18/28
B65H 23/18- 23/198
B65H 26/00- 26/08
B21C 45/00- 49/00
B65H 16/00- 16/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄造された紙の巻取から小幅・小径の子巻取を形成するワインダ装置の運転制御方法において、
前記ワインダ装置の適宜位置に設置した振動センサによる振動データの取得後、即時に周波数解析を行い、
子巻取の固有振動数を含む複数の周期成分の共振点を確認して、前記複数の周期成分が共振して振動が増加する共振範囲を決定し、
前記共振範囲となる、共振時間と子巻取の共振巻径、共振巻長のいずれか一または二以上が前記共振範囲に含まれた際に、前記ワインダ装置の処理速度を低下させ、該共振範囲から離脱した際に上昇させることを特徴とするワインダ装置の運転制御方法。
【請求項2】
請求項に記載のワインダ装置の運転制御方法であって、
子巻取の固有振動数を含む複数の周期成分が予め設定された周波数帯の範囲内に進入した際に前記ワインダ装置の処理速度を減速させ、複数の周期成分のいずれかが該範囲内から離脱した際に前記ワインダ装置の処理速度を増速させることを特徴とするワインダ装置の運転制御方法。
【請求項3】
請求項に記載のワインダ装置の運転制御方法であって、
子巻取の固有振動数を含む複数の周期成分のうちのいずれか二つの周期成分の差が所定の範囲内に進入した際に前記ワインダ装置の処理速度を減速させ、該範囲内から離脱した際に前記ワインダ装置の処理速度を増速させることを特徴とするワインダ装置の運転制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、抄紙機で製造された紙の巻取を小幅・小径の巻取に巻き直すワインダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙機では、効率よく紙を製造するため、紙を紙シートとして製造し、該紙シートがマシンリールに巻き取られた状態で巻取として完成される。この巻取は、巻き取り長さが大きいために大径であり、また幅員も大きく、この巻取のままの状態では、例えば、新聞社や印刷工場において印刷機に供すること等、ユーザーにおいて使用することができない。このため、製紙工場では製造された巻取を親巻取として、その巻き取り長さを小さくして小径とし、印刷機等に供するのに適した小幅の子巻取に加工し直して出荷している。
【0003】
抄紙機によって紙シートが巻き取られて製造された巻取である親巻取を子巻取に加工し直すための装置として、ワインダ装置がある。ワインダ装置では、アンワインダに支持された親巻取から巻き解かれて走行する親紙シートを、スリッターナイフに通して、小幅に切断して子紙シートとする。そして、この小幅の子紙シートを、フロントドラムとリアドラムとに掛けて支持させた紙管に、所望の長さで巻き取らせて子巻取を形成する。
【0004】
ところで、ワインダ装置では、例えば、特許文献1に記載があるように、巻取の回転速度の同一領域内において振動のピークが発生するとされている。ワインダ装置にピークとなる強度の振動が発生した場合には、例えば、子巻取に偏芯が生じたり、断紙が発生したりするおそれがある。このため、ワインダ装置が強度に振動しないように、ワインダ装置の速度の制御が行われている。
この特許文献1には、振動領域の影響を除去したり最小としたりするために、ペーパウエブの巻取機の走行速度を巻取の回転速度に基づいて制御し、巻取の回転速度が強度の振動が発生する領域に近づいたときに、巻取の回転速度が振動領域の最低回転速度より低いレベルにまで低下するように、走行速度を迅速に低下させ、この後に、前記巻取機の元の走行速度に到達するまで前記ロールの回転速度を一定に保持するようにして前記巻取機の走行速度を増大させるようになされたペーパウエブの巻取方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、共振を生じないよう巻取径の増加に合わせて巻取速度を調整し、巻取時間を短縮するために、ドラム回転数を、巻取機の支持フレームの固有振動数と巻ロール径、ドラム径とから求められる上限回転数以下に維持しようとする巻取機の回転数制御装置が提案されている。
【0006】
また、特許文献3には、装置に固有の共振振動の影響を低く抑えて、断紙のない、安全で高効率の操業を可能にするために、ワインダの材料巻取量が機械の共振振動範囲の上限を超えたことを判別する巻取量判別手段と、許容される加速範囲に値の大きい第1の加速率と、この第1の加速率よりも値の小さい第2の加速率とを記憶し、巻取開始から巻取量判別手段によって共振振動範囲の上限を超えたと判別されるまで、第2の加速率で増大し、共振振動範囲の上限を超えたと判別されてから定常巻取速度に到達するまで、第1の加速率で増大する速度基準を発生する加減速率制御手段とを備えるワインダの速度制御装置が提案されている。
【0007】
また、特許文献4には、ワインダーの異常振動を検知し、機械事故を未然に防止するために、巻取り側に、振動感知センサーが取付けられており、該センサーの信号が振動計を介してアラーム設定器に入力されており、該アラーム設定器に予め記憶設定されている基準振動値と、前記振動の入力値とを演算器で演算し、入力信号値が予め記憶設定されている基準振動値以上になったとき、その差の信号が速度制御器に出力され、該速度制御器からドラムロールに該差の信号に見合う減速指令の信号を出力してワインダーの速度を調整するワインダーの振動制御方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献5には、巻戻ロールと巻取ロールの回転数とワインダ各部の固有振動数の関係により生じる、ワインダ性能上問題とすべき各部での振動をなくすため、ウエブ巻取装置各部に設置される振動振幅の検出装置と、その検出値と予め設定してある振動振幅許容値とを比較する比較装置と、同比較装置の比較結果に基づき巻取装置の巻取速度を自動制御する制御装置とを備えているウエブ巻取装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平10-139241号公報
【文献】実開平1-65250号の明細書
【文献】特開2001-31306号公報
【文献】特開平6-80289号公報
【文献】特開昭63-267650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示されたペーパウエブの巻取方法は、強度の振動が発生するロールの回転速度領域に近づいた場合に、ロールの回転速度を低下させるものである。すなわち、強度の振動が発生するロールの回転速度領域を、予め測定して設定し、この設定領域と比較するものとされている。
また、特許文献2に開示された巻取機の回転数制御装置は、巻取の支持フレームの固有振動数とドラム径、巻きロール径より求められる巻取ドラムの回転数を予め設定された上限回転数以下となるように、巻取ドラムの回転数を制御するものである。
また、特許文献3に開示されたワインダの速度制御装置は、ワインダ装置に固有の共振振動範囲の前後の加速率を異ならせたものである。
また、特許文献4に開示されたワインダーの振動制御方法は、異常振動を検知した場合に、ワインダーを減速させるものである。
そして、特許文献5に開示されたウエブ巻取装置は、ウエブ巻取装置各部に設置された振動振幅の検出装置による検出値に基づいて、巻取速度を制御するものである。
これらの特許文献に開示されているように、ワインダ装置に強度の振動を発生させないためには、強度の振動を発生する領域で、ワインダ装置による処理を減速したり増速したりするものであり、強度の振動を発生する領域を検出するための計測対象が異なるものである。
【0011】
発明者は、ワインダ装置に発生する強度の振動の原因として巻取の固有振動数に由来する周期成分の共振が一因であることを見出した。
そこで、この発明は、巻取の固有振動数等が原因で発生する共振による振動範囲で巻取速度を減速させることにより、巻取の偏芯を防ぎ、断紙もない高効率の操業を可能にするワインダの速度制御を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するための技術的手段として、この発明に係るワインダ装置の運転制御方法は、抄造された紙の巻取から小幅・小径の子巻取を形成するワインダ装置において、子巻取の固有振動数を含む複数の周期成分が共振して振動が増加する共振範囲となる、共振時間と子巻取の共振巻径、共振巻長のいずれか一または二以上が前記共振範囲に含まれた際に、ワインダ装置の処理速度を低下させ、該共振範囲から離脱した際に上昇させることを特徴としている。
【0013】
なお、共振時間は共振範囲におけるワインダ装置の運転時間であり、共振巻径は共振範囲における子巻取の径の範囲であり、共振巻長は共振範囲における子巻取の巻長さである。
すなわち、例えば、ワインダ装置の運転中に、子巻取の固有振動数と子巻取の回転周波数、ワインダ装置のドラムの回転周波数等の、子巻取の固有振動数を含む複数の周期成分が、共振時間と共振巻径、共振巻長のいずれか一の共振範囲内に進入した場合、あるいは二以上が重複している共振範囲に入った場合に、ワインダ装置の処理速度を減速して振動を極力減少するようにしたものである。
なお、子巻取の回転周波数は、子巻取の一回転毎に一回発生する振動の周期成分をいう。
【0014】
また、この発明の他の側面は、上述のワインダ装置の運転制御方法であって、ワインダ装置の適宜位置に設置した振動センサによる振動データの取得後、即時に周波数解析を行って、子巻取の固有振動数を含む複数の周期成分の共振点を確認して、前記共振範囲を決定することができる。
【0015】
ワインダ装置の、子巻取の紙管を保持させるコアチャックやライダーロール、リアドラム等に設置された振動センサによって、これらの位置における振動を計測して振動データを取得する。この取得された振動データに対してリアルタイムで周波数解析を行い、解析結果から子巻取の固有振動数を含む複数の周期成分の共振点を求めて、共振範囲を決定する。すなわち、ワインダ装置の運転中に、子巻取に起因する振動の計測を行って、振動データを周波数解析に供する。解析結果を基に子巻取の固有振動数を含む複数の周期成分の共通点を求めるものである。そして、これらの周期成分が共振範囲に進入する場合に減速し、離脱した場合に増速する。
【0016】
また、この発明の他の側面は、上述のワインダ装置の運転制御方法であって、子巻取の固有振動数を含む複数の周期成分が予め設定された周波数帯の範囲内に進入した際に減速させ、複数の周期成分のいずれかが該範囲内から離脱した際に増速させるようにすることができる。
【0017】
例えば、二つの周期成分に着目し、これら二つの周期成分のいずれもが予め設定された周波数帯の範囲内に進入した際に減速させ、いずれか一方の周期成分が当該範囲外へ離脱した際に増速させて、定常運転を行うようにしたものである。
【0018】
また、この発明の他の側面は、上述のワインダ装置の運転制御方法であって、子巻取の固有振動数を含む複数の周期成分のうちのいずれか二つの周期成分の差が所定の範囲内に進入した際に減速させ、該範囲内から離脱した際に増速させるものである。
【0019】
例えば、前記振動センサで取得した振動データに関して周波数解析をリアルタイムで行って、オンラインで得られた子巻取の固有振動数と子巻取の回転周波数との差が、予め設定された差の所定の範囲内に進入した際に減速させ、該範囲内から離脱した際に増速させるようにしたものである。この設定された差が前記共振範囲にあるこれら子巻取の固有振動数と回転周波数の差よりも大きくすることで、ワインダ装置が共振範囲に進入する前に減速させ、設定された差から離脱した後に増速させることができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明に係るワインダ装置の運転制御方法によれば、ワインダ装置に発生する振動が、巻取の固有振動数とワインダ装置各部の固有振動数との共振に起因していることに基づいて、計測した振動データに基づいて、リアルタイムで周波数解析を行って、巻取の固有振動数由来の周期成分による共振範囲において、ワインダ装置の減速を行うことにより、ワインダ装置に発生する振動を抑制して、巻取の偏芯や断紙を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】この発明に係るワインダ装置の運転制御方法を説明するための、ワインダ速度の一定時における周波数解析結果を模式的に示す線図である。
図2】ワインダ装置に設置された振動センサにより取得された振動のトレンドデータを示す線図で、(A)はライダーロールに設置した振動センサにより、(B)はコアチャックに設置した振動センサにより、(C)はリアドラムに設置した振動センサにより、それぞれ取得されたデータの線図である。
図3】この発明に係るワインダ装置の運転制御方法によるワインダ装置の運転状態の一例を説明する時間とワインダ速度との関係を示す線図で、一点鎖線で従来の運転制御の態様の一例を示している。
図4】この発明に係るワインダ装置の運転制御方法による制御態様を例示する線図であり、(A)は通常運転時を、(B)は二つの周期成分の差が一定の範囲に含まれた態様を、(C)は二つの周期成分が一定の範囲に進入して重なり合った態様を、(D)は二つの周期成分が一定の範囲から離脱した態様を示している。
図5】ワインダ装置の速度を示す線図で、(A)はワインダ装置の運転の始動から停止までを、(B)は共振範囲付近を拡大して示している。
図6】振動変位を図5に対応させて減速時間をシミュレーションして示す図で、ライダーロールに設置した振動センサで取得される振動データを示し、(A)は図5(A)に対応するワインダ装置の運転の開始から停止までを、(B)は図5(B)に対応する拡大図である。
図7】この発明に係る運転制御方法を実現する装置を具備したワインダ装置の概略の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図示した好ましい実施の形態に基づいて、この発明に係るワインダ装置の運転制御方法を説明する。
【0023】
図7は、この発明に係る運転制御方法を実現する装置を具備したワインダ装置の概略の構造を説明する図である。ワインダ装置1では、抄紙機によって製造された巻取を親巻取Wとしてアンワインダ1aに支持させる。この親巻取Wから紙シートSを巻き解きながら走行させ、スリッターナイフ11を通過させて所望の幅に切断した子紙シートSnを製造する。製造された子紙シートSnは、テンションロール15を経由してフロントドラム12に巻回される。このフロントドラム12に隣接してリアドラム13が支持されている。これらフロントドラム12とリアドラム13の軸方向に平行な方向を軸とした紙管(図示せず)が、コアチャック14に保持されている。この紙管はフロントドラム12とリアドラム13の上部に掛け渡された状態で支持されており、フロントドラム12とリアドラム13の外周面に接触している。フロントドラム12を巻回した子紙シートSnはこの紙管に巻回されて巻き取られて、巻径が徐々に大きくなり、子巻取Uが製造される。なお、子紙シートSnはテンションロール15により張力が付与されて、適宜に緊張されて走行する。また、紙管に巻き取られた子巻取Uの外周面には、ライダーロール16が接触して加圧されており、巻き強さが均一となるように調整されている。
【0024】
また、リアドラム13とコアチャック14、ライダーロール16のそれぞれには、振動センサ13aと振動センサ14a、振動センサ16aとが設置されており、これらリアドラム13とコアチャック14、ライダーロール16に生じる振動が計測されて振動データが取得されている。
そして、これら振動センサ13a、14a、16aにより取得された振動データは周波数解析機20に送出され、周波数解析機20はこれらの振動データに周波数解析を行って、子巻取Uの固有振動数に由来する三つの周期成分が算出される。
【0025】
なお、ワインダ装置の運転時における振動センサ13a、14a、16aによる振動データの取得のサンプリング間隔は、10msであれば好ましく、5msであればさらに好ましく、1msであればさらに好ましい。サンプリング間隔を短くすることで周波数解析をより詳細に行うことができ、より正確な共振範囲を決定することができる。
【0026】
以上により構成されたワインダ装置について、この発明に係る運転制御方法を、以下に説明する。
【0027】
図2にはワインダ装置1に設置された振動センサ13aと振動センサ14a、振動センサ16aにより計測された振動変位と経過時間とを示す振動のトレンドデータに関する線図である。なお、図2(A)は振動センサ16aにより取得されたデータ、図2(B)は振動センサ14aにより取得されたデータ、図2(C)は振動センサ13aにより取得されたデータである。また、図1図2に示す振動のトレンドデータに周波数解析機20によって周波数解析を行った固有振動数の変化を示している。図2において破線で示されているように、経過時間が420秒から480秒にかけて、このときの巻径が約860mmを中心として、子巻取Uの固有振動数由来の三つの周期成分による共振が発生している。
【0028】
すなわち、図1に示すように、子巻取Uの固有振動数とワインダ速度が一定時における子巻取Uの回転周波数、リアドラム13の回転周波数が共振発生部Pにおいて、共振している。このため、図3に示すように、ワインダ装置1の運転状態がこの共振発生部Pに至る前で、処理速度を低下させることにより、ワインダ装置1に強度の振動を発生させずに運転できる。子紙シートSnの巻取が進んでこの共振の発生領域(共振範囲)を通過した後には、ワインダ装置1の処理速度を上げて定常状態での運転に移行する。
【0029】
そして、予め振動データを取得し、この振動データの周波数解析により得られた共振点の周期成分の共振範囲を、ワインダ装置1の運転時間である共振時間と子巻取Uの巻径の範囲である共振巻径、巻き長さの範囲である共振巻長として設定する。
ワインダ装置1の運転状態が、これら共振時間と共振巻径、共振巻長のうちのいずれか一つ又は二つ以上の共振範囲が組み合わされて重複した範囲に進入した際に、処理速度を低下させる。そして、この共振範囲から離脱した後に、処理速度を上昇させる。なお、処理速度を低下させる範囲としては、共振発生部Pに至る以前とする。
【0030】
また、図3には、一点鎖線で従来の運転制御に関する線図を併記してあり、従来の運転制御では、共振発生部Pに至った後に、処理速度を減じて運転を継続している。この場合、処理速度の共振発生部Pに至った後に処理速度を減じることになるから、処理速度が減じられるまでの間に振動が子巻取Uに伝達されてしまう。このため、子巻取Uの偏芯や断紙が生じるおそれがあり、生産性の安定化を損なうおそれがある。
【0031】
図4は、二つの周期成分に着目して運転制御を行う場合を説明する図である。強度な振動の発生を伴わずに、すなわち共振範囲に進入することなくワインダ装置1を運転できる通常操業時には、図4(A)に示すように、周期成分Aと周期成分Bは共振範囲Cに進入することがなく、定常速度で支障なくワインダ装置1を運転することができる。また、周期成分Aと周期成分Bとが共振範囲Cに進入した場合には、図4(B)に示すように、これら周期成分Aと周期成分Bとの差|A-B|が共振範囲Cの周波数帯の差Fよりも小さくなる。また、これら周期成分Aと周期成分Bとが一致する周波数では、図4(C)に示すように、振幅が大きくなる。振幅が大きくなった場合には、既に共振が生じて、子巻取Uの偏芯等を発生させてしまうおそれが高くなる。
そこで、周期成分A、Bの差|A-B|の値ABが共振範囲Cの周波数帯の差Fよりも小さくならない時点で処理速度を減じることにより、振動の発生を回避できる。
【0032】
このため、周波数帯の差Fよりも大きい設定値Hを設定し、振動センサ13aと振動センサ14a、振動センサ16aとにより計測された振動データに基づく周波数解析より得られた周期成分A、Bの差|A-B|の値ABが、設定値Hよりも小さくなった時点で処理速度を低下する。これにより、振動を極力小さくできる。そして、周期成分A、Bの差|A-B|の値ABが設定値Hよりも大きくなった時点で処理速度を上げることができる。
【0033】
図5にはワインダ装置1の処理速度(ワインダ速度)の経時変化が示してあり、図5(A)には運転の開始から終了に至るまでを、図5(B)には共振範囲Cの近傍を拡大して示している。この図5においては、処理速度を下げることなく運転する場合(ブランク)を実線で示し、周期成分Aと周期成分Bの差の設定値Hが1.4Hzである場合を一点鎖線で示し、周期成分Aと周期成分Bの差の設定値Hが2Hzである場合を破線で示している。
すなわち、設定値Hが2Hzの場合には、ワインダ装置1の運転開始から約320秒経過後に減速し、約420秒経過後に増速する。このため、約100秒間を減速して運転する。また、設定値Hが1.4Hzの場合には、約330秒後に減速し、約390秒後に増速することで、約60秒間を減速して運転する。
【0034】
図6はライダーロール16に設置された振動センサ16aにより取得された振動の変位をもとに、図5に示す処理速度によって運転された際にどの程度の大きさの設定値Hが必要なのかをシミュレーションした結果の図である。図6において、符号Lで処理速度を下げずに運転する場合を、符号Mで設定値Hが1.4Hzの場合を、符号Nで設定値Hが2Hzである場合を示してある。すなわち、符号Lは実際に取得された振動の変位を、符号M、Nはシミュレーションした結果である。図5に示す減速後の処理速度によって運転された際に約50%の振動が抑制できたため、シミュレーションに際して、図5に示す処理速度によって運転された際に振動が50%抑制できると仮定して図6の振動変位を求めた。
また、図6(A)は図5(A)に相当して、運転の開始から終了に至るまでを、図6(B)は図5(B)に相当して、共振範囲Cの近傍を拡大して示している。
【0035】
図6において、符号Nで示すように、設定値Hを2Hzとした場合には、振動の変位が最も小さくなって、共振の発生が抑制されている。
これは、設定値Hを1.4Hzに設定する場合には、ライダーロール16の振動が共振範囲Cに進入してしまったと考えられる。したがって、設定値Hを2Hzに設定する場合の方が、確実に振動の発生を抑制できることになる。
一方、上述のように、設定値Hを大きく設定すると、ワインダ装置1の減速運転の時間が長くなるので、生産効率を低下させてしまうことになる。このため、生産効率の確保と共振により発生する振動の抑制とを考慮して、設定値Hを設定する。また、設定値Hの前後における処理速度を上げることができる場合、特に設定値Hから離脱した後の処理速度を上げることができる場合には、増速することによって、共振範囲Cを回避する際の減速時間を相殺することができる。
【0036】
また、周期成分Aと周期成分Bのいずれもが設定値Hの範囲内に進入した場合に、処理速度を低下させるようにすることもできる。この場合には、周期成分Aと周期成分Bの差の値ABが設定値Hの範囲内に進入した場合でも、周期成分Aと周期成分Bのいずれか一方が設定値Hの範囲外にある場合には、処理速度を低下させることなく、ワインダ装置1の運転を継続する。他方、これら周期成分Aと周期成分Bのいずれもが、設定値Hの範囲内に進入した場合に処理速度を低下させる。そして、いずれか一方の周期成分が設定値Hの範囲外に離脱したならば、処理速度を上昇させる。
すなわち、子巻取の固有振動数を含む複数の周期成分A、Bのいずれもが設定値Hの範囲内に進入した際には、処理速度を低下させるものである。
【0037】
以上に説明した運転制御方法により運転されるワインダ装置1のワインダ速度は、1000m/min以上とすることが好ましく、1500m/min以上とすることがより好ましく、2000m/minとすることがさらに好ましい。すなわち、ワインダ速度が大きいほど、共振による振動が大きくなり上述の運転制御方法が効果的に機能する。
【0038】
また、ワインダ装置1で巻き取る紙の静摩擦係数は、0.4以上であることが好ましく、0.5以上であればさらに好ましく、0.6以上であればさらに好ましい。紙の静摩擦係数が大きいほど、共振による振動が大きくなり上述の運転制御方法が効果的に機能する。
【0039】
また、ワインダ装置1の種類は特に限定されるものではない。ただし、この発明では、紙厚が幅方向で均一にならず子巻取ごとの回転数のバラつきが生じることで発生するドラムと巻取の間のスリップによる振動などが発生しやすいツードラムワインダが上述の運転制御方法が効果的に機能する。
【0040】
以上説明したように、この発明に係る運転制御方法では、巻取の固有振動数に由来の周期成分による共振に着目して、共振範囲となる共振時間、共振巻径、共振巻長でワインダ装置を減速運転し、共振の発生を防止したことにより、オンラインで制御することができる。このため、ワインダ装置に供される紙の種類に拘わらず、迅速に対応して、巻取の偏芯や断紙を抑制できる。
【符号の説明】
【0041】
1 ワインダ装置
1a アンワインダ
11 スリッターナイフ
12 フロントドラム
13 リアドラム
13a 振動センサ
14 コアチャック
14a 振動センサ
15 テンションロール
16 ライダーロール
16a 振動センサ
20 周波数解析機
A 周期成分
B 周期成分
C 共振範囲
P 共振発生部
S 紙シート
Sn 子紙シート
U 子巻取
W 親巻取
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7