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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】炭素複合部材
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/87 20060101AFI20231011BHJP
   C04B 35/52 20060101ALI20231011BHJP
   C01B 32/00 20170101ALI20231011BHJP
   C23C 16/26 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C04B41/87 H
C04B35/52
C01B32/00
C23C16/26
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019130301
(22)【出願日】2019-07-12
(65)【公開番号】P2021014383
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-04-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 智也
(72)【発明者】
【氏名】北口 比呂
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-222456(JP,A)
【文献】特開2009-155203(JP,A)
【文献】特開2007-309668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/87
C04B 35/52
C01B 32/00
C23C 16/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛基材上に熱分解炭素層が形成された炭素複合部材であって、
前記熱分解炭素層における少なくとも一部の表面に、CVD法により得られた沈積物である熱分解炭素のクラスターが複数付着して一体化していることを特徴とする炭素複合部材。
【請求項2】
前記熱分解炭素層の厚さが5~200μmであることを特徴とする請求項1に記載の炭素複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛等の炭素材料は、化学的安定性、耐熱性、機械特性に優れていることから、半導体製造、化学工業、機械、原子力等、多くの分野にわたって使用されている。また、黒鉛自体は多孔体であるため、細孔の内部にガス、水分、不純物等を吸着しやすいため、細孔内部が汚染されやすい。そのため、これら汚染物質が細孔から再放出しないように熱分解炭素のコーティングを施すことで、黒鉛の悪影響を軽減する技術が知られている。
【0003】
熱分解炭素は、硬く、気体不浸透で緻密な膜を形成するため、特に高純度の環境下での使用に適している。また、近年、半導体製造装置が大型化し、装置用部品も大型化している。ここで特許文献1には、熱分解炭素を被覆した大型の黒鉛材料が取扱い時に落下しやすいことを課題とし、その対策として、炭素基材上に熱分解炭素層を形成し、更にその表面に、炭素系粉末を核としてその周りに熱分解炭素を結晶成長させた突起を複数形成することにより、滑り止め加工を施して落下を防止し、作業性を改善した炭素複合部材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-222456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された炭素複合部材は、炭素系粉末を核として熱分解炭素を結晶成長させた突起を形成しているので、炭素複合部材に衝撃が加わり突起が破損した場合、核となった炭素系粉末にまでクラックが到達しやすくなる。また、炭素系粉末は基材の上に載っているため、該クラックは熱分解炭素層を貫通し、リークの原因となる。
【0006】
本発明では、上記課題を鑑み、黒鉛基材上に熱分解炭素層が形成された炭素複合部材であって、滑り止め機能を備えるとともに、衝撃が加わってもクラックが熱分解炭素層を貫通しにくい炭素複合部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明に係る炭素複合部材は、以下の通りである。
【0008】
(1)黒鉛基材上に熱分解炭素層が形成された炭素複合部材であって、
前記熱分解炭素層における少なくとも一部の表面に、熱分解炭素のクラスターが複数形成されていることを特徴とする炭素複合部材。
【0009】
本発明に係る炭素複合部材によれば、熱分解炭素層における少なくとも一部の表面に、熱分解炭素のクラスターが複数形成されており、該クラスターの存在により熱分解炭素層の表面に突起が形成され、粗面となるため、高い滑り止め効果がある。また、熱分解炭素のクラスターは、熱分解炭素層の表面に付着しているだけであるため、クラスターが剥がれても熱分解炭素層を貫通するクラックが生じにくい。
また、本発明に係る炭素複合部材は、その使用時に他の部材と固着しても、固着するのは、熱分解炭素層表面における熱分解炭素のクラスターのみであるため、他の部材から容易に分離可能であり、熱分解炭素層へのダメージが小さくなる。
【0010】
また、本発明に係る炭素複合部材は、下記(2)~(5)の態様であることが好ましい。
【0011】
(2)前記クラスターは、CVD法により得られた沈積物である。
【0012】
熱分解炭素のクラスターがCVD法により得られた沈積物であることにより、熱分解炭素層と同質材料であるので内部応力が生じにくくクラックの発生源になりにくい。
【0013】
(3)前記クラスターは、最大径が10~50μmである。
【0014】
熱分解炭素のクラスターの最大径が上記範囲であることにより、炭素複合部材の寸法精度が高く、固着防止や滑り止め効果が良好に発揮される。
【0015】
(4)前記熱分解炭素層の表面における算術平均粗さRaが1~3μmである。
【0016】
熱分解炭素層の表面における算術表面粗さRaが上記範囲であることにより、クラスターが熱分解炭素層の中に埋没しにくく、固着の防止や滑り止め効果が発揮されやすい。また、炭素複合部材の寸法に与える影響が小さく、寸法精度の高い炭素複合部材として使用することができる。
【0017】
(5)前記熱分解炭素層の厚さが5~200μmである。
【0018】
熱分解炭素層の厚さが5μm以上であることにより、多孔体である黒鉛基材の凹凸を十分に覆うことができ、気体の不浸透性を確保することができる。また、熱分解炭素層の厚さが200μm以下であることにより、黒鉛基材と熱分解炭素層の熱歪みによる反りや剥がれを防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る炭素複合部材によれば、熱分解炭素層における少なくとも一部の表面に、熱分解炭素のクラスターが複数形成されており、該クラスターの存在により熱分解炭素層の表面に突起が形成され、粗面となるため、高い滑り止め効果がある。また、熱分解炭素のクラスターは、熱分解炭素層の表面に付着しているだけであるため、クラスターが剥がれても熱分解炭素層を貫通するクラックが生じにくい。
また、本発明に係る炭素複合部材は、その使用時に他の部材と固着しても、固着するのは、熱分解炭素層表面における熱分解炭素のクラスターのみであるため、他の部材から容易に分離可能であり、熱分解炭素層へのダメージが小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る炭素複合部材の断面模式図である。
図2図2は、実施例1で得られた炭素複合部材の表面を撮影した走査電子顕微鏡写真である。
図3図3は、比較例1で得られた炭素複合部材の表面を撮影した走査電子顕微鏡写真である。
【0021】
(発明の詳細な説明)
図1は、本発明の実施の形態に係る炭素複合部材の断面模式図である。本実施形態に係る炭素複合部材1は、黒鉛基材2上に熱分解炭素層3が形成され、更に、熱分解炭素層3における少なくとも一部の表面に、熱分解炭素のクラスター4、すなわち、熱分解炭素を原料とするパーティクルの沈積物が複数形成されている。
【0022】
そのため、本実施形態に係る炭素複合部材1の最表面は、熱分解炭素のクラスター4の存在により熱分解炭素層3の表面に突起が形成され、粗面となるため、高い滑り止め効果がある。また、熱分解炭素のクラスター4は、熱分解炭素層3の表面に付着しているだけであるため、クラスター4が剥がれても熱分解炭素層3を貫通するクラックが生じにくい。
更には、本実施形態に係る炭素複合部材1は、その使用時に他の部材と固着しても、固着するのは、熱分解炭素層3の表面における熱分解炭素のクラスター4のみであるため、他の部材から容易に分離可能であり、熱分解炭素層3へのダメージが小さくなる。
【0023】
熱分解炭素のクラスター4は、CVD法により得られた沈積物であることが好ましい。熱分解炭素のクラスター4がCVD法により得られた沈積物であることにより、熱分解炭素層3と同質材料であるので内部応力が生じにくくクラックの発生源になりにくい。
【0024】
熱分解炭素のクラスター4は、その最大径が10~50μmであることが好ましい。熱分解炭素のクラスター4の最大径が10μm以上であると、該クラスター4が熱分解炭素層3の中に埋没しにくくなり、固着の防止や滑り止め効果が発揮されやすい。一方、熱分解炭素のクラスター4の最大径が50μm以下であると、炭素複合部材1の寸法に与える影響が小さく、寸法精度の高い部材として使用することができる。
【0025】
このため、熱分解炭素のクラスター4の最大径が10~50μmであることにより、寸法精度が高く、固着防止や滑り止め効果を良好に発揮する炭素複合部材1を提供することができる。なお、これらの効果をより良好に発揮させるためには、熱分解炭素のクラスター4の最大径は20~40μmであることがより好ましい。
【0026】
なお、熱分解炭素のクラスター4の大きさ(サイズ)は、次のようにして測定することができる。
熱分解炭素のクラスター4の大きさは、熱分解炭素層3の表面に付着したクラスター4をそのまま測定してもよく、数が多く個々のクラスター4の判別がつかない場合には、クラスター4を剥ぎ取って確認する。クラスター4を剥ぎ取って確認する場合には、粘着テープの表面に固定して電子顕微鏡で拡大し、サイズを測定することができる。
【0027】
剥ぎ取ったクラスター4を粘着テープの表面に固定して測定する場合、導電性の両面テープを用いたり、金蒸着をするなどして試料の導電性を確保することにより、鮮明な画像を得ることができる。
【0028】
また、熱分解炭素のクラスター4は、平板状に成長するため、熱分解炭素層3の表面に面状に付着する。そのため、剥ぎ取った熱分解炭素のクラスター4は、導電テープの表面に面状に付着する。そして、熱分解炭素のクラスター4のサイズを測定する場合には、最も長い方向のサイズ、例えば楕円であれば長径を最大径とする。
【0029】
続いて、熱分解炭素のクラスター4が複数形成されている状態、すなわち該クラスター4が点在している状態を示す指標として、熱分解炭素層3の表面における算術平均粗さRaで表すことができる。本実施形態に係る炭素複合部材1においては、算術平均粗さRa=1~3μmであることが好ましい。
算術表面粗さRaが1μm以上であると、クラスター4が熱分解炭素層3の中に埋没しにくくなり、固着の防止や滑り止め効果が発揮されやすい。一方、算術平均粗さRaが3μm以下であると、炭素複合部材1の寸法に与える影響が小さく、寸法精度の高い部材として使用することができる。
【0030】
なお、算術平均粗さRaは、JIS B 0031に準拠して測定することができる。
また、本実施形態において、上記算術平均粗さRaを求めるにあたっては、基準長さを0.5mmとし、熱分解炭素層3の表面における任意の3箇所で測定した算術平均粗さRaの平均値でもって判断するものとする。
【0031】
熱分解炭素層3の厚さは、5~200μmであることが好ましい。熱分解炭素層3の厚さが5μm以上であると、多孔体である黒鉛基材2の凹凸を十分に覆うことができ、ガス、水分、不純物等を細孔内部に吸着しにくくなり、これら気体や不純物の不浸透性を確保することができる。一方、熱分解炭素層3の厚さが200μm以下であると、熱分解炭素層3の熱歪みよる反り、剥がれを防止することができる。
これらの効果をより良好に発揮させるためには、熱分解炭素層3の厚さは10~100μmがより好ましく、20~50μmが更に好ましい。
【0032】
なお、熱分解炭素層3の厚さは、偏光顕微鏡、走査電子顕微鏡等を用いて、標準スケールとの比較から測定することができる。走査電子顕微鏡などで既に標準スケールが表示されている場合、それを用いて厚さを算出することができる。
【0033】
なお、本実施形態に係る炭素複合部材1における黒鉛基材2としては、等方性黒鉛材であることが好ましい。等方性黒鉛は、特性の異方性が小さいため、熱分解炭素層3との熱膨張係数差が場所、方向による差異が小さくはがれにくくすることができる。
【0034】
続いて、本実施形態に係る炭素複合部材1は、例えば次のようにして得ることができる。
【0035】
まず、目的の形状の黒鉛基材2を準備する。黒鉛基材2に熱分解炭素層3を形成すると、厚さ分だけ大きくなるので、炭素複合部材1としての最終厚さや、形成する熱分解炭素層3の厚さに応じて薄めに加工することが好ましい。また、熱分解炭素層3との密着性を高めるために、黒鉛基材2の表面を粗面に加工してもよい。
【0036】
そして、黒鉛基材2をCVD炉の中に置き、成膜温度まで上昇させたのち、原料ガスを導入する。成膜温度は特に限定されないが、例えば800~2000℃とすることができる。熱分解炭素層3を得るための原料ガスは、炭化水素であれば特に限定されない。例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン等のアルカン、エチレン、プロピレンなどのアルケン、アセチレン等のアルキンの他、ベンゼン、トルエン等の芳香族系の原料ガスを用いてもよい。
そして、成膜温度を保持し、一定時間原料ガスを導入することで、熱分解炭素層3を黒鉛基材2の表面に成膜する。なお、キャリアガスとしては、Ar等の不活性ガスを用いることができる。
【0037】
続いて、熱分解炭素層3が所定の厚さになった段階で、該熱分解炭素層3の表面に熱分解炭素のクラスター4を生成させる。熱分解炭素のクラスター4は、空中で生成された熱分解炭素のパーティクル(細塊)が、熱分解炭素層3の表面に沈降して堆積すること(すなわち、沈積)で生成される。
【0038】
このクラスター4を生成させる方法は、特に限定されないが、例えば、CVD炉内の圧力を上昇させたり、温度を上昇させたり、炭化水素の分圧を高めたりすることで、一時的に熱分解反応のバランスを崩し、熱分解を促進させ、空中で熱分解炭素のパーティクルを生成させ、それらを沈積させることにより、熱分解炭素層3の表面に熱分解炭素のクラスター4を複数形成させることができる。
【0039】
また、熱分解炭素のパーティクルは、熱分解炭素層3の上部空間で生じるだけでなく、熱分解炭素層3の表面に落下した後も成長するため、熱分解炭素のパーティクルは熱分解炭素層3の表面に沈積するとともに熱分解炭素層3と一体化する。すなわち、熱分解炭素層3と、その表面に形成された熱分解炭素のクラスター4とは一体化される。
【0040】
この熱分解炭素のパーティクルを生成し、沈積させるための条件の一例としては、CVD炉内の圧力を10~10000Pa、温度を800~2000℃とすることが挙げられる。
【0041】
また、より多くの熱分解炭素のパーティクルを熱分解炭素層3の表面に沈積させるためには、CVD炉において、熱分解炭素層3の上部空間が広くなるようにする。上部空間が広いと、生成する熱分解炭素のパーティクルの量が多くなり、より多くの熱分解炭素のパーティクルを熱分解炭素層3の表面に沈積させ、一体化させることができる。
【0042】
更には、黒鉛基材2に電荷をかけたり、CVD炉内で黒鉛基材2を反転させたりすることにより、熱分解炭素層3の上面だけでなく、黒鉛基材2の側面や下面にも熱分解炭素層3を形成し、クラスター4を点在させることもできる。
【0043】
こうして得られた熱分解炭素層3の表面に付着し一体化したクラスター4は、熱分解炭素層3の成膜の最後に付着したものであるので、熱分解炭素層3の結晶方向の乱れはごく表面に限定され、内部の構造には大きな影響を与えない。そのため、熱分解炭素のクラスター4が剥離するような力が加わっても、熱分解炭素層3が受けるダメージが小さく、熱分解炭素層3による気密性が確保され、黒鉛基材2へのガスや不純物の吸着及び放出を防止することができる。
【0044】
(発明を実施するための形態)
以下、本発明に係る炭素複合部材の特徴が明確になるように、実施例及び比較例を挙げて更に説明する。
【0045】
(実施例1)
等方性黒鉛材料を、50×50×5mmのサイズとなるように加工し、黒鉛基材とした。得られた黒鉛基材をCVD炉内に置き、真空ポンプで減圧しながら1200℃以上に加熱し、炭化水素からなる原料ガスを、CVD炉内のガス圧が1kPa以下になるように供給して、熱分解炭素層の形成を開始させた。
続いて、熱分解炭素層の厚さが20μmに成長する時間に達した時点で、原料ガスの供給を急激に停止した。
【0046】
なお、原料ガスは炉内に供給する時点で、高圧のボンベから減圧の炉内に供給されるので急激に熱を奪って膨張し炉内を冷却する作用がある。このため、原料ガスの供給を急激に停止すると、冷却能力が低下し、減圧下で熱容量の小さい炉内雰囲気は、一時的に加熱され突起を形成するクラスターが発生しやすい環境となる。一時的に生じたクラスターが熱分解炭素層の上に沈積する。
このようにして、空中で形成された熱分解炭素のパーティクルを熱分解炭素層の表面に沈積させた。なお、このような希薄な雰囲気ガスの瞬間的な温度の変動の有無は、熱電対放射温度計で検出しにくく、熱分解炭素のクラスターの生成の有無で確認することができる。
【0047】
こうして得られた炭素複合部材の表面を、走査電子顕微鏡(SEM)により確認した。撮影した走査電子顕微鏡写真(倍率:500倍)を図2に示す。図2において、図中の細塊が熱分解炭素のクラスターであり、図中に大径の半球状に見える熱分解炭素層の表面に熱分解炭素のクラスターが点在して複数形成されていることがわかる。なお、この熱分解炭素のパーティクルは、前記の洗浄では除去されておらず、熱分解炭素層と一体化していることがわかる。また、同写真(左下のスケールを参照)より、該クラスターの最大径は10~50μmの範囲に入っていることが読み取れる。
【0048】
更に、JIS B 0031に準拠する表面粗さ計を用い、熱分解炭素層の表面における任意の3箇所で算術平均粗さRaを測定したところ、それぞれ1.438μm、1.642μm、1.770μmであり、その平均で1.62μmであった。
この炭素複合部材をラテックスからなる防塵手袋を着用し、表面の摩擦を確認したが、強い力が加わっても十分保持できることが確認できた。
【0049】
(比較例1)
実施例1と同様に炭素複合部材を形成した。ただし、熱分解炭素層の形成後、原料ガスの供給を10分間かけて徐々に絞った。このため、原料ガスの供給ストップによる急激な温度上昇は平準化され、クラスターの生成は起きなかったと考えられる。
【0050】
こうして得られた炭素複合部材の表面を、走査電子顕微鏡(SEM)により確認した。撮影した走査電子顕微鏡写真(倍率:500倍)を図3に示す。図3において、炭素複合部材の表面は基材側の核から扇状に成長した平滑な成長面が見られ、熱分解炭素のクラスターは観察されなかった、
【0051】
更に、JIS B 0031に準拠する表面粗さ計を用い、熱分解炭素層の表面における任意の3箇所で算術平均粗さRaを測定したところ、それぞれ0.795μm、1.049μm、0.753μmであり、その平均で0.87μmであった。
この炭素複合部材をラテックスからなる防塵手袋を着用し、熱分解炭素層が形成された面を掴んで持ち上げたが、表面の摩擦力だけでは滑りやすく強い力が加わると十分保持できないことが確認された。
【0052】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所等は、本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る炭素複合部材は、滑り止め機能を備えるため、大型の装置用部品にしても落下しにくく、取扱性が良好でなり、更には衝撃が加わってもクラックが熱分解炭素被膜を貫通しにくいため、半導体製造、化学工業、機械、原子力等、多くの分野にわたって有効である。
【符号の説明】
【0054】
1 炭素複合部材
2 黒鉛基材
3 熱分解炭素層
4 クラスター
図1
図2
図3