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特許7364393旋回レールを支持するガーダフランジの更新方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】旋回レールを支持するガーダフランジの更新方法
(51)【国際特許分類】
   B65G 67/60 20060101AFI20231011BHJP
   B66C 19/00 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B65G67/60 B
B66C19/00 G
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019155786
(22)【出願日】2019-08-28
(65)【公開番号】P2021031273
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000198363
【氏名又は名称】IHI運搬機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川口 敦史
(72)【発明者】
【氏名】田中 伸治
(72)【発明者】
【氏名】飯田 克己
(72)【発明者】
【氏名】田畑 宏明
【審査官】板澤 敏明
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-001940(JP,A)
【文献】特開2002-256592(JP,A)
【文献】特開2009-061901(JP,A)
【文献】特開2014-084916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 67/60-67/62
B66C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回設備の旋回車輪を走行させる旋回レールを上面において支持する環状のガーダフランジにつき、そのガーダフランジの一部または全部を更新する方法であって、
前記ガーダフランジの更新を、前記旋回設備を旋回レールに上架した状態で行ない、
前記ガーダフランジを、旋回車輪が走行する向きに沿い複数領域に区画分けし、区画分けされた領域のうち、更新すべき領域に隣接する部位が既存部位である場合に該既存部位の境界端縁に補強部材を設置して該既存部位を補強するとともに更新すべき領域を切断除去し、その切断除去された領域に補強部材により補強された更新部材を設置、固定する作業を少なくとも1回行うことによりガーダフランジの一部を更新すること、または、前記作業を繰り返してガーダフランジの全部を更新することを特徴とする旋回レールを支持するガーダフランジの更新方法。
【請求項2】
前記補強部材は、前記ガーダフランジの下面に配置、固定されその内端から外端に向けて伸延する少なくとも1枚の板状体を用いることを特徴とする請求項1に記載した旋回レールを支持するガーダフランジの更新方法。
【請求項3】
FEM解析を実施することによりガーダフランジの区画分けを行うとともに既存部位の補強に使用する補強部材を設計し、ガーダフランジの更新を実施するにあたっては、歪ゲージで測定されたガーダフランジの切断部位の歪量と、FEM解析によって求められたガーダフランジの切断部位の計算歪量とを比較して測定歪量と計算歪量との比が設計に用いられた安全率よりも大きい場合には補強部材を追加することを特徴とする請求項またはに記載した旋回レールを支持するガーダフランジの更新方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、港湾荷役設備等の大型構造物の旋回車輪を走行させる旋回レールを支持するガーダフランジの更新方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
旋回車輪を備えた大型構造物としては、例えば、港湾荷役設備のアンローダ(貨物船から地上へ荷役する設備)が挙げられる。アンローダは、図5、6に示すように、一般に、地面に施設された直線レール上を走行可能なポータルフレーム(portal frame)1と、バケットやクレーン、コンベア等の荷役装置等を備え、ポータルフレーム1の上面に円形に施設された旋回レール2上に旋回可能に上架された旋回部3から構成されている。
【0003】
ポータルフレーム1は、一般に、旋回部の高さを抑えて旋回レール2に加わる荷重を軽減したり、地面の間に通路や荷を輸送するコンベアを設置するために、上面の高さを高くすることが多いことから門型(portal)の形状が採用されている。
【0004】
また、旋回部3を旋回可能に上架する旋回レール2は、環状をなすガーダフランジ4によって支持されるものであるが、旋回レール2を支持するガーダフランジ4は、旋回部3の荷重を直接受ける過酷な環境下に設置されるものであり、亀裂の発生や変形、腐食減肉等の劣化が進んだ場合には更新が必要になる。
【0005】
一般に、大型構造物のガーダフランジ4を更新するにあたっては、該ガーダフランジ4を部分的に切除、除去した場合には耐荷重が低下することから旋回部3を旋回レール2の上から除荷した状態で行われている。旋回レール2の上から旋回部3を除荷するとは、該旋回部3を吊り上げたり、押し上げたりして旋回レール2ならびに旋回レール2を支持するガーダフランジにかかる旋回部3の荷重を軽減乃至は取り除くことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、大型のアンローダ等の旋回部の重量は数百トンから数千トンにも及ぶものであり、旋回レールから旋回部を除荷するためには数千トン以上のクレーン船やクローラクレーン等で旋回部を吊り上げたり、地上に旋回部の荷重に耐える基礎を施工したのち旋回部を支持しつつ持ち上げるという方法がとられるのが普通であるところ、かかる方法では、いずれの場合も、工期が長期間にわたるとともに膨大な費用がかかるのが避けられないうえ、クレーンを立地させるための場所の確保に困難を伴うという不具合があった。このような不具合は、ポータルフレームを備えた設備に限らず、旋回レールを備えた大型構造物において、該旋回部を旋回レールから除荷して行うガーダフランジの更新に共通した課題となっている。
【0007】
本発明の目的は、旋回フレーム上に旋回部が上架されている大型構造物において、旋回レール上から旋回部を除荷することなしにガーダフランジの一部または全部を更新することができる新規な更新方法を提案するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、旋回設備の旋回車輪を走行させる旋回レールを上面において支持する環状のガーダフランジにつき、そのガーダフランジの一部または全部を更新する方法であって、前記ガーダフランジの更新を、前記旋回設備を旋回レールに上架した状態で行なうことを特徴とする旋回レールを支持するガーダフランジの更新方法である。
【0009】
上記の方法において、前記ガーダフランジは、旋回車輪が走行する向きに沿い複数領域に区画分けし、区画分けされた領域のうち、更新すべき領域に隣接する部位が既存部位である場合に該既存部位の境界端縁に補強部材を設置して該既存部位を補強するとともに更新すべき領域を切断除去し、その切断除去された領域に補強部材により補強された更新部材を設置、固定する作業を少なくとも1回行うことによりガーダフランジの一部または全部を更新すること、また、前記補強部材は、前記ガーダフランジの下面に配置、固定され、その内端から外端に向けて伸延する少なくとも1枚の板状体を用いること、さらに、FEM解析を実施することによりガーダフランジの区画分けを行うとともに既存部位の補強に使用する補強部材を設計し、ガーダフランジの更新を実施するにあたっては、歪ゲージで測定されたガーダフランジの切断部位の歪量と、FEM解析によって求められたガーダフランジの切断部位の計算歪量とを比較して測定歪量と計算歪量との比が設計に用いられた安全率よりも大きい場合には補強部材を追加すること、が課題解決のための具体的手段として好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、旋回レール上から旋回部を除荷することなしガーダフランジの一部または全部を更新することが可能であり、旋回部を吊り上げるクレーン船やクローラクレーン等の使用が不要となる。また、旋回部の荷重に耐える基礎の施工、クレーンを立地させるためのスペースの確保も不要であり、工期の短縮によりガーダフランジの更新にかかる費用を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ガーダフランジの垂直断面を旋回レールとともに示した図である。
図2】(a)~(g)は、ガーダフランジの更新要領を示した図である。
図3】ガーダフランジの既存部位の補強状況を示した外観斜視図である。
図4】ガーダフランジの既存部位の補強状況を示した外観斜視図である。
図5】港湾荷役設備のアンローダを模式的に示した図である。
図6図3に示したアンローダの要部を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、旋回レールを備えた大型構造物の代表例として、港湾荷役設備のアンローダを例に、旋回フレームを支持するガーダフランジの更新手順について説明する。
【0013】
図1は、ガーダフランジ4の垂直断面を旋回レール2ととも示した図である。ガーダフランジ4は、その下面に位置して該ガーダフランジ4を保持する円筒形状をなすT字補強接手5と、このT字補強接手5の下部につながる円筒形状をなす腹板(ウエブ)6を備えたもので構成されている。
【0014】
ガーダフランジ4を更新するには、図2(a)に示すように、まず、ガーダフランジ4を、旋回車輪3aが走行する向きに沿い複数領域に区画分けする(図示のものは4つに区画分けした例を示す)。そして区画分された領域のうち、更新すべき領域に隣接する部位が既存部位である場合には該既存部位の境界端縁に図2(b)に示すように補強部材7を設置、固定して既存部位を補強するとともに図2(c)に示すように更新すべき領域を溶断等により切断除去する。そして、その切断除去された領域に図2(d)、図2(e)に示すように補強部材を備えた更新部材8を設置、溶接等で接合して固定する。図2(a)~(g)において旋回レール2は省略してある。
【0015】
更新すべき領域は、T字補強接手5の一部分とともに切断除去される。補強部材7としては、ガーダフランジ4の内端から外端に向けて伸延する幅をもち、上端面がT字補強接手5の上端面を超えない高さを有する少なくとも1枚の板状体が用いられ、該ガーダフランジ4の下面に配置、溶接等によって接合、固定することで既存部位を補強する。更新部材8の補強部材も基本的には、補強部材7と同様のものが用いられる。更新作業は、旋回部の上部、下部に形成される空間を利用して行われる。
【0016】
ガーダフランジ4の既存部位を、さらに更新するには、ガーダフランジ4を図(f)に示すように区画分けするとともに旋回部3の旋回車輪3aを移動させ、図(g)に示すように、補強部材7を設置して既存部位を補強するとともに更新すべき領域を切断除去し、上記した場合と同様の要領でガーダフランジ4の更新を実施すればよい。なお、ガーダフランジ4の全部を更新するには、既存部位をすべて取り除き、その取り除いた部位に更新部材を配置すればよい。
【0017】
本発明は、旋回部3を旋回レール2の上に残したまま、上記の作業を少なくとも1回行うことによりガーダフランジの一部または全部を更新するものである。
【0018】
ガーダフランジの更新手順と補強部材の設計は、具体的にはFEM解析を実施して決定することができる。ガーダフランジの更新手順と補強部材の設計に用いる許容応力は、施工後(更新後)の残留歪(永久歪)の軽減を目的として引張強度ではなく、降伏点を基準に設定するのが望ましい。
【0019】
降伏点に対する許容応力の安全率(降伏点/許容応力)は、荷重が静的であることと、更新にかかる時間が短時間ですむことから、比較的小さな値でよく、例えば、2程度とすることができる。
【0020】
この安全率は、更新施工時に歪みゲージを用いて歪監視を合わせて実施する場合には、さらに小さな値、例えば1.15程度とすることができる。
【0021】
ガーダフランジを切断除去する位置と範囲は、ガーダフランジを切断除去した状態で発生するミーゼス応力(Mises stress)を計算し、ミーゼス応力が最も大きい部位でも許容応力以下となるように決定する。
【0022】
ガーダフランジの更新を実施するにあたっては、素材の欠陥等、予期せぬ要因によりFEM解析と異なる応力や歪が発生する可能性があるため、予期せぬ要因により部材の変形が起きたとしてもその変形を許容範囲内に収めるため、安全率を高く設定するのがよいが、現地での部分更新工事において、高い安全率に基づく施工を行うには、空間的にも、時間的にも困難な場合がある。
【0023】
一般に、静荷重環境下における鋼構造体の安全率は3程度に設計されるが、工事期間が数十日程度の場合に限っては安全率を2程度とすることができる。
【0024】
本発明では、ガーダフランジを更新するにあたり、該ガーダフランジの応力や歪量を測定、監視することにより、予期せぬ要因によって発生する、FEM解析とは異なる応力や歪の発生を早期に検知し、例えば、FEM解析により求められた応力や歪量の1.1倍よりも大きな値となった場合には、ガーダフランジの更新を停止して補強部材の追加を行いガーダフランジの既存部位をさらに補強するという対応をとることにより安全率を2未満に下げることを可能としたものである。
【0025】
補強部材7は、図3に示すようなフラットな面を有する板状体を用いることができるが、図4に示すように幅方向の中央部分をθ=20~45°の範囲で屈曲させた少なくとも1つの屈曲部を有するものを用いることも可能であり、この場合、補強効果を高めることができるため補強部材7を薄肉化できる利点がある。なお、補強部材7は、T字補強接手5に溶接等によって固定される。
【実施例
【0026】
鉱石等を船から荷卸しする、荷卸し能力が3000t/hのアンローダにつき、そのアンローダの旋回レールを支持するガーダフランジを全周にわたって更新する工事を実施した。アンローダは、全高49m、ポータルフレームの高さ15m、旋回部の高さ34m、旋回部の重量2000tであり、旋回レールは、旋回直径が12m、ガーダフランジは、厚さ40mm、幅(内端から外端に至るまでの寸法)600mmである。
【実施例1】
【0027】
許容応力を、ガーダフランジの材質SM490の降伏点(厚さ≦16mmで324MPa、16<厚さ≦40mmで314MPa、厚さ>40mmで294MPa)/2、すなわち、安全率を2としてFEM解析を実施した結果、ガーダフランジの全周を20区画に区画分けし、補強として、材質がSM490で厚さが32mmのフラットな面を有する板状体を36枚設置すればよいことが判明した。
【0028】
かかる解析結果にしたがい上掲図2に示すような要領でガーダフランジの更新を行ったところ、許容応力を超えることなしに80日ガーダフランジを更新できることが確認された。
【実施例2】
【0029】
許容応力を、ガーダフランジの材質SM490の降伏点/1.15、すなわち、安全率を1.15としてFEM解析を実施した結果、ガーダフランジの全周を16区画に区画分けし、既存部材の補強としては、材質がSM490で厚さが32mmのフラットな面を有する板状体を28枚設置すればよいことが判明した。
【0030】
この実施例では、予期せぬ要因による残留歪(永久歪)を低減しガーダフランジの変形、破断を回避することを目的に、施工時には、切断部位の近傍域に歪ゲージを取り付けて歪を測定し、歪みの実測値がFEM解析による計算値の1.15倍を超えた場合には、ガーダフランジの更新作業を停止して補強を行うという対策をとりつつ、FEM解析による解析結果にしたがい上掲図2に示す要領でガーダフランジの更新を行った。その結果、何らの不具合なしに73日でガーダフランジを更新できることが確認された。
【実施例3】
【0031】
実施例2において、補強部材として長手方向の中央部を軸芯に対してθ=30°の角度で屈曲させた屈曲部を有するものを用いてガーダフランの更新を行うべく、FEM解析を実施したところ、材質がSM490で、厚さが25mmの板状体を28枚使用すればよいことが判明した。
【0032】
この実施例においても、予期せぬ要因による残留歪(永久歪)を低減しガーダフランジの変形や破断を回避することを目的に、施工時には、切断部位の近傍域に歪ゲージを取り付けて歪を測定し、歪みの実測値がFEM解析による計算値の1.15倍を超えた場合には、ガーダフランジの更新作業を停止して補強を行うという対策をとりつつ、FEM解析による解析結果にしたがい上掲図2に示す要領でガーダフランジの更新を行った。この場合も何らの不具合なしに69日でガーダフランジを更新できることが確認された。
【比較例1】
【0033】
吊り能力3000tのクレーン船で旋回部を吊り上げ、旋回レールならびにガータフランジ上から旋回部を除荷したうえでガーダフランジを更新する方法を計画したところ。吊り能力3000t以上のクレーン船は日本国内に6隻しかなく、工事時期の計画の変更が必要であった。また、この更新方法では、工事費が実施例3に比べて約1割上昇することが明らかとなった。
【比較例2】
【0034】
アンローダに隣接する地面に、旋回部の荷重に耐える基礎を施工し、その基礎で旋回部の荷重を支持してジャッキアップする方法を計画したところ、基礎の施工中アンローダを停止する必要があるうえ、アンローダーは岸壁に立地していることから、海中にも基礎杭の設置が必要であり操業停止の期間が約6ヶ月長くなると見積もられた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、旋回レールから旋回部を除荷することなしにガーダフランジの一部または全部の更新が可能な更新方法が提供できる。
【符号の説明】
【0036】
1 ポータルフレーム
2 旋回レール
3 旋回部
3a 旋回車輪
4 ガーダフランジ
5 T字補強接手
6 腹板
7 補強部材
8 更新部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6