(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】燃料噴射制御装置及び燃料噴射制御装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20231011BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
F02D45/00
F02D41/04
(21)【出願番号】P 2019175337
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大橋 友和
【審査官】池田 匡利
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-074369(JP,A)
【文献】特開2018-150825(JP,A)
【文献】特開2017-201156(JP,A)
【文献】特開2012-102682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め記憶された開弁時間と基準噴射量との関係を示す基準噴射特性の情報を用いて目標噴射量に応じた開弁時間を求めて燃料噴射弁の噴射制御を行う燃料噴射制御装置において、
前記基準噴射量と実噴射量との差分情報に基づき算出される基本補正量を前記目標噴射量に加算することにより、前記燃料噴射弁の噴射量の補正が実行可能である基本噴射量補正部と、
エンジンの出力検査点に対応する
、前記基準噴射特性に基づく指示噴射量
に前記基本補正量を加算することにより算出される第1指示噴射量を取得する第1指示噴射量取得部と、
前記基本噴射量補正部による補正の非実行時において、前記エンジンの出力検査点におけるエンジン出力が目標値となる指示噴射量である第2指示噴射量を取得する第2指示噴射量取得部と、
前記第2指示噴射量と、前記第1指示噴射量との差である第1差分を算出する第1差分算出部と、
前記第1差分に基づき、前記基本補正量を補正する、追加補正噴射量算出部と、
を含む、燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記差分情報は、燃料噴射弁の製造時に、所定の複数の運転条件において取得されるものであり、
前記基本噴射量補正部は、
前記所定の複数の運転条件の領域に対して、各運転条件における前記差分情報に基づき前記基本補正量を算出し、
前記所定の複数の運転条件以外の領域に対しては、前記所定の複数の運転条件のいずれか1つの運転条件における前記差分情報に基づき前記基本補正量を算出する、請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記所定の複数の運転条件は、少なくともアクセル開度が全開である箇所を含む、請求項2に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記追加補正噴射量算出部による補正は、前記アクセル開度が全開である運転条件において算出された前記差分情報に基づき前記基本補正量が算出される運転領域に対し実行される、請求項3に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
予め記憶された開弁時間と基準噴射量との関係を示す基準噴射特性の情報を用いて目標噴射量に応じた開弁時間を求めて燃料噴射弁の噴射制御を行う燃料噴射制御装置の制御方法であって、
基本噴射量補正部が、前記基準噴射量と実噴射量との差分情報に基づき算出される基本補正量を前記目標噴射量に加算することにより、前記燃料噴射弁の噴射量の補正を実行するステップと、
第1指示噴射量取得部が
、エンジンの出力検査点に対応する
、前記基準噴射特性に基づく指示噴射量
に前記基本補正量を加算することにより算出される第1指示噴射量を取得するステップと、
第2指示噴射量取得部が、前記基本噴射量補正部による補正の非実行時において、前記エンジンの出力検査点におけるエンジン出力が目標値となる指示噴射量である第2指示噴射量を取得するステップと、
第1差分算出部が、前記第2指示噴射量と、前記第1指示噴射量との差である第1差分を算出するステップと、
追加補正噴射量算出部が、前記第1差分に基づき、前記基本補正量を補正するステップと、
を含む、燃料噴射制御装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の気筒内に燃料噴射を行うための燃料噴射制御装置及び燃料噴射制御装置の制御方法に関する。特に、エンジン製造時の出力検査時における出力調整を容易化し、かつ、燃料噴射量の補正精度を向上させる、燃料噴射制御装置及び燃料噴射制御装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の圧力で燃料が供給され、通電制御により噴射孔を開くことで、内燃機関の気筒内へ燃料の噴射が行われるように構成された燃料噴射弁が用いられている。この燃料噴射弁において、開弁時間は、燃料噴射弁に供給される燃料の圧力と目標噴射量とに基づいて決定される。具体的に、燃料噴射弁の開弁時間は、燃料の供給圧力ごとにあらかじめ用意された、基準噴射量と開弁時間との関係を示す基準噴射特性の情報を用いて、目標噴射量に応じて求められる。
【0003】
この様な燃料噴射弁を用いた燃料噴射装置においては、要求される噴射量に対して過不足なく燃料が噴射されることが望まれる。例えば、上述した内燃機関に備えられる燃料噴射弁の場合、目標噴射量に対する実噴射量の過不足が生じると、排気エミッションや車両の運転性の悪化等を招くおそれがある。
【0004】
ところで、燃料噴射弁は、製造時の加工精度のばらつき等に起因して、上述した噴射特性が燃料噴射弁ごとにばらつくことが一般的である。そのため、この噴射特性のばらつきを補正するシステムが提案されている。具体的には、燃料噴射弁の製造段階において、複数の検査点における、基準噴射量と実噴射量との差分を取得し、各検査点における実噴射量が基準噴射量となる様、目標噴射量を補正する(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された技術によれば、基準噴射量と実噴射量との比較により、燃料噴射弁の実噴射量が補正されるが、基準噴射量と実噴射量との比較は、通常は4点程度の検査点において行われる。すなわち、各検査点における、予め定められた燃料圧力、及び燃料噴射弁の開弁時間での基準噴射量と実噴射量との比較により、実噴射量が補正される。そして、当該検査点以外の運転領域においては、各検査点での基準噴射量と実噴射量との差分に基づき、統計的手法により補正量が算出される。よって、検査点以外の運転領域においては、補正後であっても基準噴射量と実噴射量と間に若干のずれが残ることがある。
【0007】
この様な理由により、燃料噴射弁をエンジンに搭載した後、エンジンの検査段階において、主に定格点での出力が目標値となるように、燃料噴射弁の噴射量の再補正が行われることがある。当該再補正は、個々のエンジンに対して手動で行う必要があるため効率的ではなかった。また、当該再補正は、アクセル開度が全開(フルロード)の状態において一律に噴射量の増減が行われるため、フルロード以外の領域においては補正されていなかった。
【0008】
本発明はこの様な状況に鑑みなされたもので、エンジン製造時の出力検査時における出力調整を容易化し、かつ、燃料噴射量の補正精度を向上させる、燃料噴射制御装置及び燃料噴射制御装置の制御方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、
予め記憶された開弁時間と基準噴射量との関係を示す基準噴射特性の情報を用いて目標噴射量に応じた開弁時間を求めて燃料噴射弁の噴射制御を行う燃料噴射制御装置において、
前記基準噴射量と実噴射量との差分情報に基づき算出される基本補正量を前記目標噴射量に加算することにより、前記燃料噴射弁の噴射量の補正が実行可能である基本噴射量補正部と、
予め定められた、エンジンの出力検査点に対応する指示噴射量である第1指示噴射量を取得する第1指示噴射量取得部と、
前記基本噴射量補正部による補正の非実行時において、前記エンジンの出力検査点におけるエンジン出力が目標値となる指示噴射量である第2指示噴射量を取得する第2指示噴射量取得部と、
前記第2指示噴射量と、前記第1指示噴射量との差である第1差分を算出する第1差分算出部と、
前記第1差分に基づき、前記基本補正量を補正する、追加補正噴射量算出部と、
を含む、燃料噴射制御装置が提供される。
【0010】
また、上記課題を解決するために、
予め記憶された開弁時間と基準噴射量との関係を示す基準噴射特性の情報を用いて目標噴射量に応じた開弁時間を求めて燃料噴射弁の噴射制御を行う燃料噴射制御装置の制御方法であって、
基本噴射量補正部が、前記基準噴射量と実噴射量との差分情報に基づき算出される基本補正量を前記目標噴射量に加算することにより、前記燃料噴射弁の噴射量の補正を実行するステップと、
第1指示噴射量取得部が、予め定められた、エンジンの出力検査点に対応する指示噴射量である第1指示噴射量を取得するステップと、
第2指示噴射量取得部が、前記基本噴射量補正部による補正の非実行時において、前記エンジンの出力検査点におけるエンジン出力が目標値となる指示噴射量である第2指示噴射量を取得するステップと、
第1差分算出部が、前記第2指示噴射量と、前記第1指示噴射量との差である第1差分を算出するステップと、
追加補正噴射量算出部が、前記第1差分に基づき、前記基本補正量を補正するステップと、
を含む、燃料噴射制御装置の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エンジン製造時の出力検査時における出力調整を容易化し、かつ、燃料噴射量の補正精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態における燃料噴射制御装置の構成例を示す図である。
【
図2】燃料噴射制御装置を構成する電子制御ユニットのうち、本発明の実施に係る部分の構成を示すブロック図である。
【
図3】エンジンの出力検査点における補正量を説明するための図である。
【
図4】本発明の実施に係る噴射量補正を示すサブルーチンフローチャートである。
【
図5】本発明の実施前における、エンジン回転数Neと燃料噴射量Qの関係を示す図である。
【
図6】本発明の実施後における、エンジン回転数Neと燃料噴射量Qの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しつつ説明する。尚、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。また、それぞれの図中、同じ符号が付されているものは同一の要素を示しており、適宜説明が省略されている。
【0014】
図1は、本実施形態に係る燃料噴射制御装置10の全体構成を示している。本実施形態に係る燃料噴射制御装置10は、蓄圧式燃料噴射制御装置である。燃料噴射制御装置10は、車両に搭載された図示されないエンジンの気筒内に燃料を噴射するための装置であって、燃料タンク1と、低圧ポンプ11と、燃料フィルタ12と、高圧ポンプ13と、流量制御弁19と、コモンレール15と、圧力制御弁23と、燃料噴射弁17と、電子制御ユニット50(ECU)等を主たる要素として備えている。
【0015】
低圧ポンプ11と高圧ポンプ13とは低圧燃料通路31で接続され、高圧ポンプ13とコモンレール15、およびコモンレール15と燃料噴射弁17はそれぞれ高圧燃料通路33、35で接続されている。また、高圧ポンプ13、コモンレール15、燃料噴射弁17には、燃料噴射弁17から噴射されない余剰燃料を燃料タンク1に戻すためのリターン通路37、38、39がそれぞれ接続されている。
【0016】
低圧ポンプ11は、燃料タンク1内の燃料を吸い上げて圧送し、低圧燃料通路31を介して高圧ポンプ13に燃料を供給する。この低圧ポンプ11は燃料タンク1内に備えられたインタンク式の電動ポンプであって、バッテリから供給される電流によって作動する。ただし、低圧ポンプ11は、燃料タンク1の外部に設けられるものであってもよく、また、高圧ポンプ13と一体に設けられるものであってもよい。
【0017】
高圧ポンプ13における、低圧燃料の入り口部分には、高圧ポンプの吐出量を調節するための流量制御弁19が備えられている。流量制御弁19には、例えば供給電流値によって弁部材のストローク量が可変とされ、燃料通過路の面積が調節可能な電磁比例式の制御弁が用いられる。
【0018】
高圧ポンプ13は、低圧ポンプ11によって、流量制御弁19を介して導入される燃料を加圧し、高圧燃料通路33を介してコモンレール15に圧送する。
【0019】
コモンレール15は、高圧ポンプ13によって加圧された高圧状態の燃料を蓄積し、高圧燃料通路35を介して接続された各燃料噴射弁17に燃料を供給する。このコモンレール15には、レール圧センサ25、及び圧力制御弁23が取り付けられている。
【0020】
レール圧センサ25は、コモンレール15内の圧力(レール圧)を検出する。レール圧センサ25のセンサ信号は電子制御ユニット50へ送られる。
【0021】
圧力制御弁23は、コモンレール15から燃料タンク1へと戻す高圧の燃料の流量を調節することにより、レール圧を調節するために用いられる。圧力制御弁23には、例えば供給電量値によって燃料の通路を開閉するための弁部材のストローク量が可変とされ、燃料通過路の面積が調節可能な電磁比例式の制御弁が用いられる。また、圧力制御弁23の
代わりに、所定の圧力に達すると開弁する、機械式の安全弁を用いてもよい。
【0022】
燃料噴射弁17は、噴射孔が設けられたノズルボディと、進退移動により噴射孔を開閉するノズルニードルとを備えている。燃料噴射弁17は、ノズルニードルの後端側に背圧を負荷することで噴射孔が閉じられる一方、負荷された背圧が逃されることで噴射孔が開かれる。燃料噴射弁17の背圧制御手段としては、ピエゾ素子が備えられた電歪型のアクチュエータや、電磁ソレノイド式のアクチュエータが用いられる。
【0023】
電子制御ユニット50は、公知の構成のマイクロコンピュータを中心に、RAMやROM等の記憶素子を有し、燃料噴射弁17を駆動するための駆動回路や、流量制御弁19や圧力制御弁23への通電を行うための通電回路を備える。また、電子制御ユニット50には、レール圧センサ25の検出信号が入力される他、エンジンの回転数やアクセル開度、燃料温度などの各種の検出信号が、エンジンの動作制御や燃料噴射制御に供するために入力されるようになっている。
【0024】
また、電子制御ユニット50は、テスターなどを介しての作業者からの要求に基づき、本発明の実施に係る、エンジン製造時の出力検査時における出力調整を実行する。詳細は後述。
【0025】
次に、本発明を実施するための、電子制御ユニット50の構成例について、
図2を参照しつつ説明する。
図2は、電子制御ユニット50のうち、本発明の実施に係る部分の構成を概略的に示すブロック図である。
【0026】
電子制御ユニット50は、受信部500と、エンジン回転数取得部510と、基本噴射量補正部520と、第1指示噴射量取得部530と、第2指示噴射量取得部540と、第1差分算出部550と、追加補正噴射量算出部560とを備える。
【0027】
受信部500は、エンジン製造時において、出力検査段階に入った際に、電子制御ユニット50に接続されたテスター等を介して作業者からその情報を受信する。電子制御ユニット50は、出力検査段階に入ったとの情報を受信すると、エンジンの出力調整及び燃料噴射量の追加補正を実行する。
【0028】
エンジン回転数取得部510は、図示しないセンサにより検出されたエンジン回転数を取得する。
【0029】
基本噴射量補正部520は、燃料噴射弁17に対し、製造段階において設定された補正量に基づき、燃料噴射量の補正を行う。具体的には、エンジンの各運転状況に対する指示噴射量に対し、後述する基本補正量を加算した値を目標噴射量とする。基本噴射量補正部520における燃料噴射量の補正は、従来から実施されているものである。以下、基本噴射量補正部520により実行される燃料噴射量の補正を、基本噴射量補正と称する。また、基本噴射量補正における燃料噴射量の補正量を、基本補正量Q_iqaと称する。
【0030】
基本補正量Q_iqaの算出について、以下に詳述する。まず、燃料噴射弁17の製造段階において、予め定められた複数の検査点における、基準噴射量と実噴射量との差分を取得する。当該差分が、上記複数の検査点における基本補正量Q_iqaとなる。
【0031】
上記複数の検査点は、パイロット噴射時に相当する噴射状態(以下、「PI点」とも称する)、アイドリング時に相当する噴射状態(以下、「ID点」とも称する)、部分負荷での噴射状態(以下、「EM点」とも称する)、及び、フルロード時に相当する噴射状態(以下、「FL点」とも称する)とすることができる。
【0032】
また、上記検査点以外の領域における基本補正量Q_iqaは、上記PI点、ID点、EM点、FL点のうち、いずれかの検査点における基本補正量Q_iqaに関連付けられ、開発段階で統計的手法により算出される。具体的には、燃料噴射弁17の開発段階において、複数の燃料噴射弁17に対し、数十ポイントに及ぶ、所定のレール圧及び所定の開弁時間に対し、基準噴射量と実噴射量との差分を算出し、当該数十ポイントにおける基本補正量Q_iqaを算出する。そして、各燃料噴射弁17に対する、当該数十ポイントにおける基本補正量Q_iqaと、上記複数の検査点のいずれか(PI点、ID点、EM点、FL点)における基本補正量Q_iqaとの相関を把握し、係数を算出する。これにより、当該数十ポイントにおける基本補正量Q_iqaは、上記PI点、ID点、EM点、FL点のうち、いずれかの検査点における基本補正量Q_iqaに上記係数を乗算することにより算出される。尚、便宜上、以降の説明において、FL点における基本補正量をQ_iqa_Fと称することがある。
【0033】
また、上記数十ポイント以外の噴射ポイントにおいては、補間計算等により基本補正量Q_iqaを算出することができる。これにより、上記複数の検査点(PI点、ID点、EM点、FL点)のうち、いずれかの検査点における基本補正量Q_iqaから、他の噴射ポイントにおける基本補正量Q_iqaを算出することができる。尚、どの噴射ポイントをどの検査点と関連付けるかは、燃料噴射弁17の開発段階で予め決めておくことができる。また、基本補正量Q_iqaは、基準噴射量と実噴射量との差分に基づき算出されることから、正及び負、双方の値をとりうる。
【0034】
各噴射ポイントにおける基本補正量Q_iqaの情報は、バーコードに変換され、各燃料噴射弁に記載される。そして燃料噴射弁17がエンジンに搭載された後、バーコードが読み取られ、各燃料噴射弁17に対する基本補正量Q_iqaが、電子制御ユニット50の適宜の領域に保存される。すなわち、電子制御ユニット50は、バーコードを介し、各燃料噴射弁17の噴射性能(ばらつき)及びそれに対応した基本補正量Q_iqaを保存する。
【0035】
第1指示噴射量取得部530は、エンジンの出力検査点に対応する指示噴射量である第1指示噴射量Q_tar_1を取得する。第1指示噴射量Q_tar_1は、基準噴射特性に基づき燃料噴射制御装置の開発段階において定められたエンジンの出力検査点に対応する指示噴射量に、各燃料噴射弁17に対して算出された基本補正量Q_iqaが加算されたものとなっている。以降の説明において、エンジンの出力検査点における基本補正量をQ_iqa_1と称することがある。
【0036】
尚、エンジンの出力検査点及びその周辺の運転領域における基本補正量Q_iqaは、FL点における基本補正量Q_iqa_Fと関連づけられている。よって、エンジンの出力検査点における基本補正量である第1基本補正量Q_iqa_1は、各燃料噴射弁17のFL点における基本補正量Q_iqa_Fに、所定の係数を乗算することにより算出されている。
【0037】
第2指示噴射量取得部540は、上述した基本噴射量補正を実行しない状態で、エンジン出力が目標値となった時の指示噴射量である第2指示噴射量Qaを取得する。具体的には、燃料噴射弁17がエンジンに搭載された後、エンジンの出力検査段階において、基本噴射量補正を実行しない状態で、エンジン回転数を出力検査点の条件まで上げた時、すなわち、エンジンの出力が目標値となった時の指示噴射量を第2指示噴射量Qaとして取得する。第2指示噴射量Qaは、同一のエンジンに搭載されている各燃料噴射弁17において同じ値となる。
【0038】
第1差分算出部550は、第2指示噴射量取得部540において取得された第2指示噴射量Qaと、第1指示噴射量取得部530において取得された第1指示噴射量Q_tar_1との差である第1差分Q_corを算出する。第1差分Q_corは、各燃料噴射弁17に対し算出され、正及び負、双方の値をとりうる。
【0039】
上述の様に、エンジンの出力検査点における基本補正量である第1基本補正量Q_iqa_1は、FL点の基本補正量Q_iqa_Fに基づき統計的手法により算出されるため、本来必要とされる補正量からずれることがある。Q_corは、当該ずれ分に相当する。すなわち、上記第1差分Q_corと第1基本補正量Q_iqa_1との和が、エンジンの出力検査点における、各燃料噴射弁17に対し本来必要とされる基本補正量Q_iqaに相当する。
【0040】
上述した、エンジンの出力検査点における補正量について、
図3を参照しつつ説明する。
図3に示される例は、エンジンの出力検査点における燃料噴射弁17の燃料噴射量が基準噴射特性よりも小さく、かつ、基本補正量Q_iqaも本来あるべき値よりも小さい場合に相当する。
【0041】
Qzは、基本噴射量補正が実行されない状態において、予め定められたエンジンの出力検査点に対応する指示噴射量が与えられた際の実噴射量に相当する。Q_iqa_1は、エンジンの出力検査点に対応する噴射ポイントにおける基本補正量である第1基本補正量を示す。
【0042】
第1差分Q_corは、第2指示噴射量Qaと第1指示噴射量Q_tar_1との差であり、第1基本補正量Q_iqa_1の本来あるべき値からのずれ分に相当する。本発明は、エンジンの出力検査点における、第1基本補正量Q_iqa_1と第1差分Q_corを利用して、このずれ分を補正しようとするものである。また、本発明によりFL点での基本補正量Q_iqa_Fに関連付けられて基本補正量Q_iqaが算出される領域における噴射量も補正される。
【0043】
追加補正噴射量算出部560は、各燃料噴射弁17に対し、基本噴射量補正において、FL点での基本補正量Q_iqa_Fに関連付けられて基本補正量Q_iqaが算出される領域に対し、これまで使用されていたFL点の基本補正量Q_iqa_Fに代えて、新たに算出されたFL点追加補正量Q_iqa_F2を使用して、基本補正量をQ_iqaに代わる新たな補正噴射量である追加補正噴射量Q_iqa2を算出する。
【0044】
追加補正噴射量算出部560において実行される処理の詳細を以下に示す。まず、FL点での基本補正量Q_iqa_Fに関連付けられて基本補正量Q_iqaが算出される領域においては、FL点での基本補正量Q_iqa_Fに対し、各噴射ポイントにおいて統計的処理を用いて算出された所定の係数を乗算することにより、各噴射ポイントにおける基本補正量Q_iqaが算出されることは上述した通りである。追加補正噴射量算出部560は、このFL点での基本補正量Q_iqa_Fをさらに補正した値である、FL点追加補正量Q_iqa_F2を使用して追加補正噴射量Q_iqa2を算出する。具体的には、FL点追加補正量Q_iqa_F2に対し、上記係数を乗算することにより、追加補正噴射量Q_iqa2が算出される。すなわち、
(追加補正噴射量Q_iqa2)=(Q_iqa_F2)×(各噴射ポイントにおける所定の係数)
ここで、FL点追加補正量Q_iqa_F2は、各燃料噴射弁17の製造段階において算出されるエンジンの出力検査点における基本補正量である第1基本補正量Q_iqa_1と、第1差分Q_corとの和を、上記係数で除することにより算出される。
【0045】
以下、具体的な数値を用いて説明する。尚、以下の数値は、説明のための仮の値であり、理解を容易とするため、できるだけ単純な数値を用いている。まず、エンジンの出力検査点において必要な基本補正量Q_iqa(すなわち第1差分Q_corと第1基本補正量Q_iqa_1との和)を「6(mg)」とする。また、燃料噴射弁17の製造段階において算出された、FL点での基本補正量Q_iqa_Fを「2(mg)」とする。同じく燃料噴射弁17の製造段階において算出された、エンジンの出力検査点における第1基本補正量Q_iqa_1を算出するための係数を「1.2」とする。
【0046】
上記より、燃料噴射弁17の製造段階において算出された、エンジンの出力検査点における基本補正量である第1基本補正量Q_iqa_1は、
(Q_iqa_F)×1.2=2×1.2=2.4(mg)
であった。本来必要とされる基本補正量は「(6mg)」であるので、本例においては、エンジンの出力検査点における基本補正量は、6-2.4=3.6(mg)だけ不足していた。
【0047】
これを補正するため、追加補正噴射量算出部560は、上述の様に、エンジンの出力検査点における、基本補正量である第1基本補正量Q_iqa_1と第1差分Q_corとの和を、上記係数で除することにより、FL点追加補正量Q_iqa_F2を算出する。具体的には、Q_iqa_F2は、
((Q_iqa_1)+(Q_cor))/1.2=6/1.2=5(mg)
と算出される。
【0048】
さらに追加補正噴射量算出部560は、FL点での基本補正量Q_iqa_Fに関連付けられて基本補正量Q_iqaが算出される領域において、Q_iqa_Fに代えて、上述のFL点追加補正量Q_iqa_F2を用いて、追加補正噴射量Q_iqa2を算出する。すなわち、追加補正噴射量算出部560は、エンジンの出力検査点において算出されたFL点追加補正量Q_iqa_F2に対し、予め定められた係数を乗算して、当該領域における追加補正噴射量Q_iqa2を算出する。
【0049】
尚、上述の計算例は、燃料噴射弁17の、エンジンの出力検査点における燃料噴射量が基準噴射特性よりも小さく、かつ、基本補正量Q_iqaも本来あるべき値よりも小さい場合に相当するが、本実施形態における追加補正は、これ以外の場合においても有効である。すなわち、エンジンの出力検査点における燃料噴射量が基準噴射特性よりも小さく、かつ、基本補正量Q_iqaが過大な場合や、エンジンの出力検査点における燃料噴射量が基準噴射特性よりも大きく、かつ、基本補正量Q_iqaが過少な場合、あるいは、エンジンの出力検査点における燃料噴射量が基準噴射特性よりも大きく、かつ、基本補正量Q_iqaが過大な場合にも、本実施形態における追加補正は有効である。
【0050】
次に、本発明の実施の手順について、
図4に示されるサブルーチンフローチャートを参照しつつ説明する。
【0051】
まず、ステップS102においては、エンジン製造時に、出力検査段階に入ったことを電子制御ユニット50が認識する。具体的には、作業者がテスター等を使用し、電子制御ユニット50に対し、出力検査段階に入ったことを通知する。
【0052】
続くステップS104においては、第1指示噴射量取得部530が、エンジンの出力検査点に対応する指示噴射量である第1指示噴射量Q_tar_1を取得する。第1指示噴射量Q_tar_1は、基準噴射特性に基づき予め定められたエンジンの出力検査点に対応する指示噴射量に、各燃料噴射弁17に対し算出された基本補正量Q_iqaが加算されたものとなっている。
【0053】
ステップS106においては、第2指示噴射量取得部540が、基本噴射量補正を実行しない状態で、エンジンの出力検査点におけるエンジン出力が目標値となった時の指示噴射量である第2指示噴射量Qaを取得する。
【0054】
ステップS108においては、第1差分算出部550が、ステップS106において取得された第2指示噴射量Qaと、ステップS104において取得された第1指示噴射量Q_tar_1との差である第1差分Q_corを算出する。Q_corは、エンジンの出力検査点における基本補正量Q_iqaの不足分、あるいは超過分に相当する。
【0055】
ステップS110においては、追加補正噴射量算出部560が、エンジンの出力検査点における情報から、上述した手法により、FL点追加補正量Q_iqa_F2を算出する。
【0056】
ステップS112においては、追加補正噴射量算出部560が、エンジンの出力検査点において算出されたFL点追加補正量Q_iqa_F2を用いて、これまでFL点での基本補正量Q_iqa_Fに関連付けられて基本補正量Q_iqaが算出されていた領域に対し追加補正噴射量Q_iqa2を算出する。
【0057】
本処理が終了した後は、FL点での基本補正量Q_iqa_Fに関連付けられて基本補正量Q_iqaが算出されていた領域において、基準噴射量に対して追加補正噴射量Q_iqa2を加算した値を目標噴射量として、燃料噴射制御が電子制御ユニット50により行われる。
【0058】
図5及び
図6は、本発明の実施における、エンジン回転数と燃料噴射量について説明するための線図である。
図5及び
図6において、横軸はエンジン回転数Ne、縦軸は燃料噴射量Qを示す。
【0059】
図5は、本発明の実施前における、エンジン回転数Neと燃料噴射量Qを示しており、実線で示されるa1~a6は、複数のアクセル開度における、エンジン回転数Neに対する燃料噴射量Qを示す。アクセル開度はa1からa6に向けて大きくなる。また、一点鎖線で示されるH1は、フルQリミットと称される線である。フルQリミットとは、エンジンの破損等を防ぐために設定される、指示噴射量の上限値である。フルQリミットは、エンジンの仕様毎に設定される。また、エンジンの出力検査点は、通常フルQリミット上に設定される。
【0060】
図6は、本発明の実施後における、エンジン回転数Neと燃料噴射量Qについて説明するための線図である。
図6においては、本発明の実施により補正された噴射量が太い実線で示されている。尚、
図6は、追加補正噴射量算出部560に対する説明において具体例を挙げた、エンジンの出力検査点における燃料噴射量が基準噴射特性よりも小さく、かつ、基本補正量Q_iqaも本来あるべき値よりも小さい燃料噴射弁17に本発明を実施した場合を示す。
【0061】
Q_tar_1は、本発明の実施前における、エンジンの出力検査点に対応する指示噴射量である第1指示噴射量である。Qaは、エンジンの出力検査点における出力が目標値となる指示噴射量である。本発明の実施により、エンジンの出力検査点における指示噴射量がQ_tar_1からQaとなる。
【0062】
また、FL点での基本補正量Q_iqa_Fに関連付けられて基本補正量Q_iqaが算出される他の領域においても、追加補正噴射量Q_iqa2が算出されることにより、フルQリミットはH1からH2へと上昇している。換言すれば、本来のフルQリミットはH2であったにもかかわらず、本発明の実施前においては、電子制御ユニット50は、フルQリミットはH1であると認識していた。これは基本補正量Q_iqaのずれに起因するものである。
【0063】
また、フルQリミットよりも燃料噴射量が低い領域においても追加補正噴射量Q_iqa_2が算出される領域があり、a3、a4、a5につながる太い実線により示されている。すなわち、本発明の実施により、アクセル開度a3、a4、a5における噴射量の比較的高い領域においても追加補正噴射量Q_iqa2が算出され、指示噴射量が増加していることを示している。
【0064】
以上、説明した様に、本発明によれば、エンジン製造時の出力検査時における出力調整を容易化し、また、エンジンの出力検査点周囲の領域における噴射量の補正精度も向上させることができる。
【符号の説明】
【0065】
10:燃料噴射制御装置、13:高圧ポンプ、15:コモンレール、17:燃料噴射弁、50:電子制御ユニット、510:エンジン回転数取得部、520:基本噴射量補正部、530:第1指示噴射量取得部、540:第2指示噴射量取得部、550:第1差分算出部、560:追加補正噴射量算出部