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特許7364418熱膨張抑制フィラー、その製造方法及びそれを含む複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】熱膨張抑制フィラー、その製造方法及びそれを含む複合材料
(51)【国際特許分類】
   C01G 31/00 20060101AFI20231011BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20231011BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C01G31/00
C01B25/45 H
C01B33/18 C
C01B33/18 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019189428
(22)【出願日】2019-10-16
(65)【公開番号】P2021062994
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深沢 純也
(72)【発明者】
【氏名】畠 透
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓馬
【審査官】小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-082466(JP,A)
【文献】米国特許第09359248(US,B1)
【文献】特開2018-002577(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0139133(US,A1)
【文献】特開2015-010006(JP,A)
【文献】Microstructural effects on negative thermal expansion extending over a wide temperature range in β-Cu1.8Zn0.2V2O7,APPLIED PHYSICS LETTERS 113, 181902 (2018),2018年11月01日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00 -47/00
C01G 49/10 -99/00
C01B 33/00 -33/193
C04B 35/00 -35/047
C04B 35/053-35/106
C04B 35/109-35/22
C04B 35/45 -35/457
C04B 35/547-35/553
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるバナジウム化合物と、無機粒子との複合体を含む熱膨張抑制フィラーの製造方法であって、
(Cu 2-x Zn )V (1)
式中、xは、0<x<2である。)
Cu源、Zn源及びV源を含む、前記バナジウム化合物の反応前駆体と、前記無機粒子とを含む混合物を焼成する熱膨張抑制フィラーの製造方法。
【請求項2】
下記の第A工程~第C工程を含む請求項に記載の熱膨張抑制フィラーの製造方法。
第A工程:Cu源、Zn源及びV源を含む、前記バナジウム化合物の反応前駆体を調製する工程。
第B工程:前記バナジウム化合物の反応前駆体と前記無機粒子とを混合する工程。
第C工程:第B工程で得られた混合物を焼成する工程。
【請求項3】
前記第A工程が、下記の第A1工程及び第A2工程を含む請求項に記載の熱膨張抑制フィラーの製造方法。
第A1工程:五酸化バナジウム、有機酸及び水溶媒を混合して、五酸化バナジウムを水溶媒に溶解させた溶解液を調製し、該溶解液にZn源及びCu源を添加して原料混合スラリーを調製する工程。
第A2工程:前記原料混合スラリーを乾燥して前記バナジウム化合物の反応前駆体を調製する工程。
【請求項4】
下記の第a工程及び第b工程を含む請求項に記載の熱膨張抑制フィラーの製造方法。
第a工程:Cu源、Zn源及びV源を水溶媒に溶解した原料混合液に前記無機粒子を添加して混合し、溶媒を除去して前記バナジウム化合物の反応前駆体と前記無機粒子とを含む混合物を調製する工程。
第b工程:第a工程で得られた混合物を焼成する工程。
【請求項5】
V源が、バナジン酸アンモニウムである請求項に記載の熱膨張抑制フィラーの製造方法。
【請求項6】
混合物を焼成する工程の後に、粉砕工程を設ける請求項ないしのいずれか1項に記載の熱膨張抑制フィラーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨張抑制フィラー、その製造方法及び該熱膨張抑制フィラーを含む複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの物質は、温度が上昇すると熱膨張によって長さや体積が増大する。これに対して、温度が上昇すると長さや体積が小さくなる負の熱膨張を示す材料(以下「負熱膨張材」ということがある。)も知られている。負の熱膨張を示す材料は、他の材料とともに用いることによって、温度変化による材料の熱膨張を抑制できることが知られている。
【0003】
負の熱膨張を示す材料としては、例えば、β-ユークリプタイト、タングステン酸ジルコニウム(ZrW)、リン酸タングステン酸ジルコニウム(ZrWO(PO)、ZnCd1-x(CN)、マンガン窒化物、ビスマス・ニッケル・鉄酸化物等が知られている。
【0004】
リン酸タングステン酸ジルコニウムの線膨張係数は、0~400℃の温度範囲で-3.4~-3.0ppm/℃であり、負熱膨張性が大きいことが知られている。このリン酸タングステン酸ジルコニウムと、正の熱膨張を示す材料(以下「正熱膨張材」ということがある。)とを併用することで、低熱膨張の材料を製造することができる(特許文献1~2等参照)。また、正熱膨張材である樹脂等の高分子化合物と負熱膨張材とを併用することも提案されている(特許文献3等参照)。
【0005】
また、非特許文献1には、Cu1.8Zn0.2が、200~700Kの温度範囲で-14.4ppm/Kの大きな線膨張係数を有することが開示されており、このCu1.8Zn0.2の製造方法として、CuO、ZnO及びVを原料とした混合物を得た後、該混合物を焼成する方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、非特許文献1の方法では、焼成後のバナジウム化合物は、焼結体となって反応容器に付着した状態で得られるため、目的物を回収すること自体が困難であり、工業的に粉体を製造することが難しいという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-35840号公報
【文献】特開2015-10006号公報
【文献】特開2018-2577号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Appl.Phys.Lett.113(2018)181902
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
負熱膨張性のフィラーや低熱膨張性のフィラーは、熱膨張抑制フィラーとして正熱膨張材と併用して用いられるが、併用する正熱膨張材との相性や用途等から、種々の熱膨張係数を有する熱膨張抑制フィラーの開発が要望されている。
したがって、本発明の目的は、正熱膨張材と均一混合が可能である、種々の熱膨張係数を有する熱膨張抑制フィラーを提供すること、また、該熱膨張抑制フィラーを工業的に有利な方法で提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明が提供しようとする第1の発明は、下記一般式(1)で表されるバナジウム化合物と、無機粒子との複合体を含む熱膨張抑制フィラーである。
(Cu2-xZn)V (1)
(式中、xは、0<x<2である。)
【0011】
本発明が提供しようとする第2の発明は、前記第1の発明の熱膨張抑制フィラーの製造方法であって、
Cu源、Zn源及びV源を含む、前記バナジウム化合物の反応前駆体と、前記無機粒子とを含む混合物を焼成する熱膨張抑制フィラーの製造方法である。
【0012】
本発明が提供しようとする第3の発明は、前記第1の発明の熱膨張性フィラーと正熱膨張材とを含む複合材料である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、正熱膨張材と均一混合が可能である、種々の熱膨張係数を有する熱膨張抑制フィラーを提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、バナジウム化合物の合成と、バナジウム化合物と無機粒子との複合化を同時に行うことが可能であり、本発明の熱膨張抑制フィラーを工業的に有利な方法で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】製造例1で得られたZWP粒子1のSEM写真である。
図2】実施例1で得られた焼成品1のX線回折図である。
図3】実施例1で得られた熱膨張抑制フィラー1のSEM写真である。
図4】実施例1で得られた熱膨張抑制フィラー1のSEM-EDX分析結果である。
図5】実施例2で得られた焼成品2のX線回折図である。
図6】実施例2で得られた熱膨張抑制フィラー2のSEM写真である。
図7】実施例2で得られた熱膨張抑制フィラー2のSEM-EDX分析結果である。
図8】実施例3で得られた焼成品3のX線回折図である。
図9】実施例3で得られた熱膨張抑制フィラー3のSEM写真である。
図10】実施例3で得られた熱膨張抑制フィラー3のSEM-EDX分析結果である。
図11】実施例4で得られた焼成品4のX線回折図である。
図12】実施例4で得られた熱膨張抑制フィラー4のSEM写真である。
図13】実施例4で得られた熱膨張抑制フィラー4のSEM-EDX分析結果である。
図14】比較例1で得られた焼結体のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づいて説明する。
本発明の熱膨張抑制フィラーは、負の熱膨張係数を有する(以下、「負熱膨張性」ということがある。)バナジウム化合物と、無機粒子との複合体を含むことを特徴とするものである。負熱膨張性のバナジウム化合物と、無機粒子とを複合化することで、種々の熱膨張係数を有する熱膨張抑制フィラーを提供することができる。
【0016】
前記複合体としては、無機粒子の表面の一部又は全部をバナジウム化合物で被覆した複合体、バナジウム化合物粒子の表面の一部又は全部を、バナジウム化合物粒子より小さい粒子径の無機粒子で被覆した複合体、及びバナジウム化合物の粒子と同様の粒子径の無機粒子とが結合して一体化した複合体等が挙げられる。本発明の熱膨張抑制フィラーは、これらの複合体のうち1種のみを含んでいてもよく、2種以上含んでいいてもよい。
なお、本発明の熱膨張抑制フィラーには、前記複合体以外に、バナジウム化合物の粒子及び/又は無機粒子が単独で存在することもあるが、本発明の効果を損なわない範囲、具体的には、熱膨張抑制フィラー中に1質量%未満であれば、これらの粒子が含有されていても差し支えない。
【0017】
本発明で用いるバナジウム化合物は、下記一般式(1)で表されるものである。
(Cu2-xZn)V (1)
(式中、xは、0<x<2である。)
【0018】
一般式(1)の式中のxは0<x<2であり、好ましくは0.05≦x≦1.5である。この理由は、一般式(1)の式中のxが0では熱膨張係数が大きすぎるため、得られる熱膨張抑制フィラーの熱膨張抑制効果が不足するからである。
【0019】
上記バナジウム化合物の熱膨張係数は、種々の熱膨張係数を有する熱膨張抑制フィラーを得る観点から、-5×10-6/K以下であることが好ましく、-10×10-6/K以下であることがより好ましい。なお、上述のように前記一般式(1)の式中のxが0.2の場合、すなわち、バナジウム化合物がCu1.8Zn0.2である場合に、最も線膨張係数が低くなる。Cu1.8Zn0.2の線膨張係数は、好ましくは-15~-12×10-6/Kである。
【0020】
本発明で用いる無機粒子は、負熱膨張性又は低い熱膨張係数を有する無機粒子であることが好ましく、熱膨張係数が3×10-6/K以下、好ましくは1×10-6/K以下であることが、熱膨張抑制効果に優れた熱膨張抑制フィラーとなる観点から好ましい。無機粒子の熱膨張係数の下限は、特に制限されないが、-4×10-6/K以上であることが、得られる熱膨張抑制フィラーの熱膨張係数を制御しやすい点から好ましい。
【0021】
前記無機粒子は、負熱膨張性又は低い熱膨張係数を有することに加えて、480~700℃、好ましくは600~680℃の温度範囲で溶融及び/又は分解することがなく、また、該温度範囲で前記バナジウム化合物との反応性を有しない材料からなることが好ましい。このような材料としては、例えば、リン酸タングステン酸ジルコニウム、シリカ、β-ユークリプタイト、リン酸ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、コージェライト、及びゼオライト等が挙げられ、これらのうち、リン酸タングステン酸ジルコニウム及びシリカが、複合体の粒径制御が容易であり、熱膨張抑制効果に優れた熱膨張抑制フィラーが得られる観点から好ましい。
【0022】
リン酸タングステン酸ジルコニウム(以下、「ZWP」ということがある。)は、下記一般式(2)で表されるものである。
Zr(WO(PO (2)
(式中、aは、1.7≦a≦2.3、好ましくは1.8≦a≦2.2であり、bは、0.85≦b≦1.15、好ましくは0.90≦b≦1.10であり、cは、1.7≦c≦2.3、好ましくは1.8≦c≦2.2である。)
【0023】
本発明においては、前記無機粒子が、単相のZr(WO)(POからなることが好ましい。この場合の熱膨張係数は、好ましくは-3.4~-3.0×10-6/Kである。
【0024】
前記シリカとしては、非晶質のものであっても、結晶質のものであってもよいが、後述する本発明の熱膨張抑制フィラーの製造方法において耐熱性が必要とされる観点から、非晶質のものが好ましい。
【0025】
本発明で用いる無機粒子の平均粒子径は、得られる熱膨張抑制フィラーの正熱膨張材への分散性の観点から、0.001~20μmであることが好ましく、0.01~10μmであることがより好ましい。
なお、平均粒子径は、走査型電子顕微鏡観察(SEM)において任意に抽出した粒子50個以上の平均値であり、粒子形状が球でない場合の粒子径は、各粒子の最大横断長さを粒子径としたものである。
【0026】
また、前記無機粒子のBET比表面積は、得られる熱膨張抑制フィラーの正熱膨張材への分散性の観点から、0.1~50m/gであることが好ましく、0.1~20m/gであることがより好ましい。
【0027】
前記バナジウム化合物自体は導電体であるが、前記無機粒子の材料としてリン酸タングステン酸ジルコニウム、シリカ等の絶縁体を選択して用い、複合化することで、得られる複合体を絶縁体とすることができる。前記複合体における前記無機粒子の含有量は、前記複合体100質量部に対して10~90質量部であることが好ましく、20~80質量部であることが、得られる複合体の熱膨張抑制効果を向上させ、また、熱膨張抑制フィラーの絶縁性を担保し、電気絶縁性が要求される材料として広く用いることができる観点から好ましい。
【0028】
上記観点から、本発明の熱膨張抑制フィラーは、25℃における電気抵抗率が1×10Ωm以上、好ましくは5×10~1×10Ωmであることが好ましい。
【0029】
前記バナジウム化合物と無機粒子との複合化は、例えば、前記バナジウム化合物の粒子と無機粒子とを混合して焼成することで行うことができるが、従来の製造方法で前記バナジウム化合物を製造した場合、目的物を坩堝等から容易に取り出すことができないため、前記バナジウム化合物を粉体として得ることが難しい。
そのため、前記バナジウム化合物の反応前駆体と無機粒子との混合物を調製し、これを焼成することで前記バナジウム化合物の生成と無機粒子との複合化を同時に行うことが好ましい。このような方法によれば、目的物を坩堝等から容易に取り出せるため、本発明の熱膨張抑制フィラーを得ることが容易になる。詳細な製造方法については後述する。
【0030】
上述のようにして得られた本発明の熱膨張抑制フィラーは、更に粉砕等を行うことにより、粒子径が30μmを超える粗粒子を実質的に含有させなくすることができる。
即ち、本発明の熱膨張抑制フィラーは、粒子径が30μm以上の粗粒子の含有率が2個数%以下、好ましくは1個数%以下であることも特徴の一つである。
【0031】
本発明の熱膨張抑制フィラーは、粒子径が30μmを超える粗粒子分の含有率が上記範囲であることにより、熱膨張抑制フィラーの粒度制御が厳しく要求される分野への適用が可能になる。
なお、本発明において粒子径が30μmを超える粒子の含有率は、任意に抽出したサンプル粒子200個について走査型電子顕微鏡観察(SEM)から求めた値である。
【0032】
また、本発明の熱膨張抑制フィラーの平均粒子径は、正熱膨張材への分散性の観点から、0.1~10μmであることが好ましい。
なお、平均粒子径は、走査型電子顕微鏡観察(SEM)において任意に抽出した粒子50個以上の平均値であり、粒子形状が球でない場合の粒子径は、各粒子の最大横断長さを粒子径としたものである。
【0033】
本発明の熱膨張抑制フィラーは、BET比表面積が0.1~50m/gであることが好ましく、特に0.1~20m/gであることが好ましい。BET比表面積が上記範囲にあることにより、熱膨張抑制フィラーを樹脂やガラス等のフィラーとして用いる際に取扱いが容易になる点で好ましい。
【0034】
本発明の熱膨張抑制フィラーの熱膨張係数は、-10×10-6~-0.1×10-6/K、好ましくは-10×10-6~-1×10-6/K、特に好ましくは-10×10-6~-3×10-6/Kである。用いるバナジウム化合物及び無機粒子の種類、並びにバナジウム化合物と無機粒子の配合比を調整することで、種々の熱膨張係数を有する熱膨張抑制フィラーを提供することができる。
【0035】
本発明の熱膨張抑制フィラーは、粉体又はペーストとして用いられる。ペーストとして用いる場合には、粘性の低い液状樹脂と混合し、ペーストの状態で用いることができる。また、本発明の熱膨張抑制フィラーを、粘性の低い液状樹脂に分散させ、更に必要により、バインダー、フラックス材及び分散剤等を含有させて、ペーストの状態で用いてもよい。
【0036】
また、本発明の熱膨張抑制フィラーの樹脂やゴム等への分散性を改良する目的で、本発明の熱膨張抑制フィラーをシランカップリン剤で表面処理して用いることができる。
【0037】
本発明の熱膨張抑制フィラーを、各種有機化合物又は無機化合物と併用して、複合材料として用いることができる。有機化合物としては、特に限定されないが、例えば、ゴム、ポリオレフィン、ポリシクロオレフィン、ポリスチレン、ABS、ポリアクリレート、ポリフェニレンスルファイド、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂(PET樹脂)及びポリ塩化ビニル樹脂などが挙げられる。また、無機化合物としては、例えば、二酸化ケイ素、グラファイト、サファイア、各種のガラス材料、コンクリート材料、各種のセラミック材料などが挙げられる。
【0038】
これらのうち、正熱膨張材は、金属、合金、ガラス、セラミックス、ゴム及び樹脂から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。本発明に係る複合材料において、本発明の熱膨張抑制フィラーの添加量は、当該分野において、一般的な添加量を採用することができる。
【0039】
上記複合材料においては、本発明の熱膨張抑制フィラーと他の化合物との配合比率を適宜選択することによって、負熱膨張率、零熱膨張率又は低熱膨張率を実現することが可能である。
本発明の複合材料は、特に、封着材料、電子部品の封止材料等として好適に用いることができる。
【0040】
本発明の熱膨張抑制フィラーは、Cu源、Zn源及びV源を含む、前記バナジウム化合物の反応前駆体(以下、単に「バナジウム化合物の反応前駆体」ということがある。)と、前記無機粒子とを含む混合物を焼成することにより製造することができる。
【0041】
製造しようとする熱膨張抑制フィラーの粒径に対して、無機粒子の粒子径が同程度であれば、無機粒子の表面の一部又は全部をバナジウム化合物で被覆した複合体が生成しやすくなり、無機粒子の粒子径が半分程度であれば、バナジウム化合物の粒子と同程度の粒子径の無機粒子とが結合して一体化した複合体が生成しやすくなる。
また、製造しようとする熱膨張抑制フィラーの粒径に対して、無機粒子の粒子径が十分に小さい場合、バナジウム化合物粒子の表面の一部又は全部を、バナジウム化合物粒子より小さい粒子径の無機粒子で被覆した複合体が生成しやすくなる。
通常、無機粒子は粒子径分布を有しているものであるため、得られる熱膨張抑制フィラーには複数種の形態の複合体が含まれる。
【0042】
本発明の熱膨張抑制フィラーは、例えば、下記の2つの方法により製造することができる。
第1の製造方法は、下記の第A工程~第C工程を順次行う方法である。
第A工程:Cu源、Zn源及びV源を含む、バナジウム化合物の反応前駆体を調製する工程。
第B工程:前記バナジウム化合物の反応前駆体と無機粒子とを混合する工程。
第C工程:第B工程で得られた混合物を焼成する工程。
【0043】
第2の製造方法は、下記の第a工程~第b工程を順次行う方法である。
第a工程:Cu源、Zn源及びV源を水溶媒に溶解させた原料混合液に無機粒子を添加して混合し、溶媒を除去して前記バナジウム化合物の反応前駆体と無機粒子とを含む混合物を調製する工程。
第b工程:第a工程で得られた混合物を焼成する工程。
【0044】
(第1の製造方法)
<第A工程>
第A工程は、Cu源、Zn源及びV源を含む、バナジウム化合物の反応前駆体を調製する工程である。
【0045】
前記バナジウム化合物の反応前駆体は、Cu源、Zn源及びV源を混合処理することにより得られる。
【0046】
前記Cu源としては、例えば、銅の水酸化物、酸化物、塩化物、硫酸塩、有機酸塩等が挙げられる。
【0047】
前記Zn源としては、例えば、亜鉛の水酸化物、塩化物、硫酸塩、有機酸塩等が挙げられる。
【0048】
前記V源としては、例えば、五酸化バナジウム、三酸化バナジウム、バナジン酸アンモニウム、オキシシュウ酸バナジウム等が挙げられる。
【0049】
第A工程に係る混合処理は、乾式でも湿式でも行うことができるが、原料の均一混合物を得る観点から、湿式で行うことが好ましい。湿式混合により得られるCu源、Zn源及びV源を含有する原料混合液は、溶液であってもスラリーであってもよい。また、乾式で混合処理を行う場合は、反応性に優れたバナジウム化合物の反応前駆体を得るため、混合物中の各原料のレーザー回折・散乱法により求められるD50が、1μm以下、好ましくは0.1~0.7μmである、微細な各原料の混合物となるように調製することが好ましい。
【0050】
各原料の混合割合は、前記一般式(1)の組成であるバナジウム化合物が得られるように適宜調整すればよい。
【0051】
湿式混合によりスラリーを調製する場合、混合と粉砕を同時に行うことができるメディアミルを用いた機械的手段により行うことが好ましい。
【0052】
スラリーの濃度は10~50質量%、好ましくは20~40質量%とすることが、操作性と取扱いが容易な粘度のスラリーとなる観点から好ましい。
【0053】
メディアミルとしては、ビーズミル、ボールミル、ペイントシェーカー、アトライタ及びサンドミル等を用いることができる。特にビーズミルを用いることが好ましい。その場合、運転条件やビーズの種類及び大きさは、装置のサイズや処理量に応じて適切に選択すればよい。
【0054】
メディアミルを用いた処理を一層効率的に行う観点から、スラリーに分散剤を加えてもよい。使用する分散剤は、分散媒の種類に応じて適切なものを選択すればよい。分散媒が例えば水である場合には、分散剤として各種の界面活性剤及びポリカルボン酸アンモニウム塩等を用いることができる。スラリーにおける分散剤の濃度は、分散効果が高くなる観点から、0.01質量%以上10質量%以下、特に0.1質量%以上5質量%以下とすることが好ましい。
【0055】
メディアミルを用いた処理は、反応性に一層優れたバナジウム化合物の反応前駆体を得ることができる観点から、レーザー回折・散乱法により求められる固形分のD50が、好ましくは1μm以下、更に好ましくは0.8μm以下、特に好ましくは0.1μm以上0.7μm以下となるまで行うことが好ましい。
【0056】
以上の操作によって、Cu源、Zn源及びV源の各原料成分が均一分散した原料混合スラリーを調製することができる。
【0057】
湿式混合されたCu源、Zn源及びV源を含有する原料混合液は、全量乾燥することで、バナジウム化合物の反応前駆体を得ることができる。なお、前記原料混合液を全量乾燥する方法としては、特に制限はなく、噴霧乾燥法を用いてもよい。
【0058】
また、本製造方法においては、無機粒子と均一混合が可能であり、熱膨張抑制フィラーとしたときの粉体特性に優れ、更に熱膨張抑制効果にも優れたバナジウム化合物の反応前駆体が得られる観点から、前記A工程が、下記の第A1工程及び第A2工程を含むことが特に好ましい。
第A1工程:五酸化バナジウム、有機酸及び水溶媒を混合して、五酸化バナジウムを水溶媒に溶解させた溶解液を調製し、該溶解液にZn源及びCu源を添加して原料混合スラリーを調製する工程。
第A2工程:前記原料混合スラリーを乾燥してバナジウム化合物の反応前駆体を調製する工程。
【0059】
第A1工程は、五酸化バナジウム、有機酸及び水溶媒を混合して、五酸化バナジウムを水溶媒に溶解させた溶解液を調製し、次いで該溶解液にZn源及びCu源を添加して原料混合スラリーを調製する工程である。
五酸化バナジウムを溶解した溶解液を用いることで、バナジウム化合物の反応前駆体中にV源を均一に含有させることができるので、一層反応性に優れたバナジウム化合物の反応前駆体とすることができる。
前記水溶媒とは、水を50質量%超含む溶媒を指し、水のみからなるものでもよく、水と親水性有機溶媒との混合溶媒であってもよい。親水性有機溶媒とは、任意の割合で水に溶解する有機溶媒のことである。
【0060】
第A1工程に係る有機酸は、五酸化バナジウムを水溶媒に溶解させるために添加される成分である。用いることができる有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、グリコール酸、乳酸、グルコン酸等のモノカルボン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸等のジカルボン酸、カルボキシル基の数が3であるクエン酸等のトリカルボン酸が挙げられる。
【0061】
水溶媒に対する五酸化バナジウムの添加量は、水溶媒100質量部に対して10~50質量部、好ましくは10~40質量部とすることが五酸化バナジウムを全て溶解させる観点から好ましい。
【0062】
有機酸の添加量は、五酸化バナジウム中のバナジウム原子に対する有機酸の炭素原子のモル比(C/V)で、2.0以上であることが好ましいが、経済的観点から2.0~2.4とすることがより好ましい。
【0063】
第A1工程において、五酸化バナジウムを溶解する温度は15~100℃であることが好ましく、20~60℃とすることが工業的に有利となる観点からより好ましい。
【0064】
次いで、五酸化バナジウムを溶解した溶解液に、Zn源及びCu源を添加して原料混合スラリーを調製する。
【0065】
Zn源及びCu源は、上述したものを使用することができ、また、Zn源及びCu源の添加量は、各原料の混合割合は、前記一般式(1)の組成であるバナジウム化合物が得られるように適宜調整すればよい。
【0066】
このようにして原料混合スラリーを得ることができるが、第A1工程において、更に原料混合スラリーをメディアミルにより粉砕処理する工程を含むことにより、一層反応性に優れたバナジウム化合物の反応前駆体を得ることができる。
【0067】
前記粉砕処理に用いることができるメディアミル、その条件及び粉砕処理後の好ましいスラリーの諸物性は上述した通りである。
【0068】
第A2工程は、前記原料混合スラリーを乾燥してバナジウム化合物の反応前駆体を得る工程であり、なお、原料混合スラリーを乾燥する方法としては、特に制限はなく、噴霧乾燥法を用いてもよい。
乾燥温度等の条件は、溶媒が除去できる温度であれば特に制限されるものではないが、通常は100~270℃、好ましくは150~230℃である。
【0069】
<第B工程>
第B工程は、第A工程で得られたバナジウム化合物の反応前駆体と無機粒子とを混合し、バナジウム化合物の反応前駆体と無機粒子との混合物を調製する工程である。
【0070】
前記無機粒子としては、上述したものを用いることができる。
バナジウム化合物の反応前駆体と無機粒子の混合割合は、バナジウム化合物の反応前駆体100重量部に対して、無機粒子が20~95質量部であることが好ましく、30~90質量部であることがより好ましい。この理由は、無機粒子の添加量が20質量部より小さくなると、得られる熱膨張抑制フィラーが数十μmの粗粒子を含むものとなり、一方、添加量が90質量部より大きくなると、所望の熱膨張係数に調整するのが難しくなる傾向があるからである。
【0071】
第B工程に係る混合処理は、乾式あるいは湿式で行うことができるが、操作が容易であり、工業的に有利になる観点から乾式で行うことが好ましい。乾式で混合する方法としては、例えば、リボンミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、ナウターミキサー等を用いる混合方法が挙げられる。なお、実験室レベルの混合方法としては、家庭用ミキサーで十分である。
【0072】
なお、無機粒子とバナジウム化合物の反応前駆体との混合物は、前記第A1工程で調製した原料混合スラリーに無機粒子を添加し、これを乾燥して得ることもできる。
【0073】
<第C工程>
第C工程は、第B工程で得られる混合物を焼成して、本発明の熱膨張抑制フィラーを製造する工程である。
【0074】
本工程における焼成温度は、580~700℃とすることが好ましく、600~680℃とすることがより好ましい。この理由は、焼成温度が580℃より低くなると前記一般式(1)で表されるバナジウム化合物の生成が不十分となる傾向があり、また、700℃より高くなると酸化バナジウム成分の揮発により組成が変動する傾向があるからである。
【0075】
本工程における焼成時間は、特に制限されず、前記一般式(1)で表されるバナジウム化合物が生成するまで十分な時間反応を行う。前記バナジウム化合物の生成は、例えばX線回折分析で確認することができる。多くの場合、焼成時間が1時間以上、好ましくは2~20時間で、バナジウム化合物の反応前駆体のほぼ全てが前記バナジウム化合物となる。また、焼成雰囲気は、特に制限されず、不活性ガス雰囲気下、真空雰囲気下、酸化性ガス雰囲気下、大気中のいずれであってもよい。
【0076】
本工程では、焼成は1回でもよいし、所望により複数回行ってもよい。例えば、粉体特性を均一にする目的で、一度焼成したものを粉砕し、粉砕物について更に焼成を行ってもよい。
【0077】
焼成後、適宜冷却し、必要に応じ粉砕、解砕、分級等を行い、目的とするバナジウム化合物と無機粒子との複合体を含む熱膨張抑制フィラーを得る。
【0078】
(第2の製造方法)
<第a工程>
第a工程は、Cu源、Zn源及びV源を水溶媒に溶解した原料混合液に無機粒子を添加して混合し、溶媒を除去してバナジウム化合物の反応前駆体と無機粒子とを含む混合物を調製する工程である。
【0079】
第a工程に係るCu源としては、水溶媒に溶解できるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、グルコン酸銅、クエン酸銅、硫酸銅、酢酸銅、乳酸銅等の有機カルボン酸や鉱酸の銅塩が挙げられる。
【0080】
Zn源としては、水溶媒に溶解できるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、グルコン酸亜鉛、塩化亜鉛、乳酸亜鉛等の有機カルボン酸の亜鉛塩やハロゲン化物が挙げられる。
【0081】
V源としては、水溶媒に溶解できるものであれば特に制限されるものではないが、バナジン酸及びこれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、並びにカルボン酸のバナジウム塩等が挙げられる。
カルボン酸のバナジウム塩としては、ギ酸、酢酸、グリコール酸、乳酸、グルコン酸等のモノカルボン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸等のジカルボン酸、カルボキシル基の数が3であるクエン酸等のカルボン酸が挙がられる。
これらのうち、バナジン酸アンモニウム、グルコン酸バナジウムが、不純物の少ない目的物を得るという観点から好ましい。
【0082】
また、V源としてカルボン酸のバナジウム塩を用いる場合、水溶媒に五酸化バナジウム、還元剤及びカルボン酸を添加し、60~100℃で加熱処理してカルボン酸のバナジウム塩を生成させ、この反応液をそのまま原料混合液の調製に用いてもよい。
還元剤としては、還元糖が好ましく、還元糖としては、例えば、グルコース、フルクトース、ラクトース、マルトース、スクロース等が挙げられ、このうち、ラクトース、スクロースが、優れた反応性を有するという観点から特に好ましい。
還元糖の添加量は、五酸化バナジウム中のVに対する還元糖中のCのモル比(C/V)で0.7~3.0とすることが好ましく、0.8~2.0とすることが、効率的に還元反応を行うという観点から、より好ましい。
カルボン酸の添加量は、五酸化バナジウムに対するモル比で0.1~4.0とすることが好ましく、0.2~3.0とすることが、効率的に透明なバナジウム溶解液を得るという観点から、より好ましい。
【0083】
第a工程に係る水溶媒は、上述の第A1工程における水溶媒と同様ものを使用できる。
【0084】
第a工程に係る原料混合液の調製において、Cu源、Zn源及びV源の水溶媒への添加量は、原料混合液中のCu源、Zn源及びV源が前記一般式(1)で表されるバナジウム化合物の組成に合わせて適宜調整することが好ましい。
【0085】
水溶媒へのCu源、Zn源及びV源の添加順序は特に制限されるものではないが、V源を溶解した溶解液Aと、Cu源とZn源とを溶解した溶解液Bを調製し、溶解液Bを溶解液Aに添加することが、均一溶液を得るという観点から好ましい。
【0086】
溶解液AにおけるV源の濃度は、1~40質量%とすることが好ましく、2~30質量%とすることが、均一溶液作製及び次工程における水溶媒を除去する効率の観点から、より好ましい。
【0087】
溶解液BにおけるCu源及びZn源のトータルの濃度は、1~40質量%とすることが好ましく、2~30質量%とすることが、均一溶液作製及び次工程における水溶媒を除去する効率の観点から、より好ましい。
【0088】
溶解液Bを溶解液Aに添加して原料混合液を得た後、該原料混合液に無機粒子を添加して撹拌等により混合を行い、原料混合液に無機フィラーを分散させる。次に、攪拌しながら加熱することにより、ペースト状又は固体になるまで水溶媒を除去してバナジウム化合物の反応前駆体と無機粒子とを含む混合物を得る。
【0089】
本製造方法において、無機フィラーを原料混合液に添加する際、又は溶解液Bを溶解液Aに添加する際に加熱処理を行っていてもよい。
【0090】
本製造方法においては、全ての水溶媒を除去して前記混合物を固体で得る必要はなく、少量の水溶媒を含んだペースト状であってもよい。なお、ペースト状とは粘性をかなり有する状態を指す。
【0091】
第a工程に係る加熱温度は、水溶媒が除去できる温度であれば特に制限はないが、沸騰状態を維持できる温度が好ましく、通常は90~120℃が好ましく、100~120℃がより好ましい。
【0092】
このようにして、Cu源、Zn源及びV源を含む、バナジウム化合物の反応前駆体と、無機粒子とを含む混合物を得ることができる。
【0093】
<第b工程>
第b工程は、第a工程で得られた混合物を焼成して、本発明の熱膨張抑制フィラーを製造する工程である。
【0094】
本工程における焼成条件は、上述の「第1の製造方法」における「第C工程」の焼成条件と同様である。
【0095】
なお、第2の製造方法で本発明の熱膨張抑制フィラーを製造した場合、製造方法に起因して、前記バナジウム化合物とZWPとの複合体を含む熱膨張抑制フィラーにタングステン酸亜鉛等が含有されることがあるが、本発明の効果を損なわない範囲で、これら不純物が含有されていても差し支えない。
【0096】
本発明においては、粒子径が30μmを超える粗粒子を実質的に含有しない熱膨張抑制フィラーとするため、前記第1の製造方法の第C工程後又は前記第2の製造方法の第b工程後に、粉砕処理を行う粉砕工程を設けることが好ましい。
【0097】
粉砕処理は、乾式の粉砕処理であっても、湿式の粉砕処理であってもよい。湿式粉砕装置としては、例えば、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。乾式粉砕装置としては、例えば、ジェットミル、ピンミル、ロールミル、ボールミル、ビーズミル等の公知の粉砕装置が挙げられる。
【0098】
粉砕処理は、粒子径が30μmを超える粗粒子の含有率が2個数%以下、好ましくは1個数%以下となる条件で行うことが好ましい。
【0099】
このようにして、本発明の熱膨張抑制フィラーを製造することができる。
【実施例
【0100】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0101】
{製造例1}
<リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子(ZWP粒子1)の調製>
市販の三酸化タングステン(WO;平均粒子径1.2μm)15質量部をビーカーに入れ、純水84質量部、及び分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を1質量部添加し、分散液とした。この分散液を室温(25℃)でスリーワンモーター攪拌機を用いて120分間撹拌して、三酸化タングステンを含む15質量%スラリーを調製した。レーザー回折・散乱法で求めたスラリー中の固形分のD50は1.2μmであった。
次いで、スラリー中のZr:W:Pのモル比が2.00:1.00:2.00となるように、水酸化ジルコニウムと85質量%リン酸水溶液とを室温(25℃)でスラリーに添加し、反応液とした。この反応液を用いて、室温(25℃)で2時間、撹拌下で反応させた。反応終了後の反応液の全量を、200℃で24時間、大気下で乾燥を行って、ZWPの反応前駆体を得た。得られたZWPの反応前駆体についてX線回折分析を行った結果、三酸化タングステンの回折ピークのみが観察された。
続いて、得られたZWPの反応前駆体を坩堝中、大気下で、950℃で2時間焼成して白色のZWP粒子1を得た。得られたZWP粒子1についてX線回折分析を行ったところ、単相のZr(WO)(POであった。ZWP粒子の平均粒子径及びBET比表面積を表1に示す。また、ZWP粒子1のSEM写真を図1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
{実施例1}
<ZWP-Cu1.8Zn0.2複合体の調製>
(第a工程)
バナジン酸アンモニウム(NHVO)5gとアンモニア水10ml、純水50mlをビーカーに入れ、攪拌しながら60℃に加熱して溶解液Aを得た。また、グルコン酸銅(扶桑化学工業製)17.5gとグルコン酸亜鉛(扶桑化学工業製)2.2gを純水50mlに加えて攪拌して溶解液Bを得た。溶解液Bを溶解液Aに加えて均一溶液である原料混合液を得た。
続いてCu1.8Zn0.2との重量比が50:50になるようにZWP粒子1を原料混合液に加え、攪拌しながら沸騰状態を維持する温度に加熱して水を除去し、ペースト状の混合物を得た。
(第b工程)
第a工程で得たペースト状の混合物を坩堝中、大気下で、650℃で4時間焼成して焼成品1を得た。なお、焼成後、坩堝を反転させることで目的物を容易に回収することができた。
得られた焼成品1をX線回折分析したところ、ZWP、Cu1.8Zn0.27及びZnWOの回折ピークが検出された。焼成品1のX線回折図を図2に示す。
次いで、焼成品1をA-Oジェットミル(セイシン企業製)で粉砕処理し、熱膨張抑制フィラー1を得た。熱膨張抑制フィラー1のSEM写真を図3に示す。また、SEM-EDX分析をした結果、熱膨張抑制フィラー1は、Zr(WO)(PO(ZWP粒子1)の表面の一部又は全部をCu1.8Zn0.2で被覆した複合体であることが観察された(図4参照)。
【0104】
{実施例2}
<SiO-Cu1.8Zn0.2複合体の調製>
(第a工程)
バナジン酸アンモニウム(NHVO)5gとアンモニア水10ml、純水50mlをビーカーに入れ、攪拌しながら60℃に加熱して溶解液Aを得た。また、グルコン酸銅(扶桑化学工業製)17.5gとグルコン酸亜鉛(扶桑化学工業製)2.2gを純水50mlに加えて攪拌して溶解液Bを得た。溶解液Bを溶解液Aに加えて均一溶液である原料混合液を得た。
続いてCu1.8Zn0.2との重量比が50:50になるようにシリカ粒子(アドマファインSO-E5、平均粒径1.6μm、BET比表面積3.9m/g、アドマテックス製)を原料混合液に加え、攪拌しながら沸騰状態を維持する温度に加熱して水を除去し、ペースト状の混合物を得た。
(第b工程)
第a工程で得たペースト状の混合物を坩堝中、大気下で、650℃で4時間焼成して焼成品2を得た。なお、焼成後、坩堝を反転させることで目的物を容易に回収することができた。
得られた焼成品2をX線回折分析したところ、SiOとCu1.8Zn0.2の回析ピークが検出された。焼成品2のX線回折図を図5に示す。
次いで、焼成品2をA-Oジェットミル(セイシン企業製)で粉砕処理し、熱膨張抑制フィラー2を得た。熱膨張抑制フィラー2のSEM写真を図6に示す。また、SEM-EDX分析をした結果、熱膨張抑制フィラー2は、SiO(シリカ粒子)の表面の一部又は全部をCu1.8Zn0.2で被覆した複合体であることが観察された(図7参照)。
【0105】
{実施例3}
<SiO-Cu1.8Zn0.2複合体の調製>
(第a工程、第b工程)
シリカ粒子としてアエロジル50(BET比表面積53m/g、平均粒径55nm、日本アエロジル製)を用いた以外は、実施例2と同様の方法で焼成品3を得た。なお、焼成後、坩堝を反転させることで目的物を容易に回収することができた。
得られた焼成3品をX線回折分析したところ、SiOとCu1.8Zn0.2の回析ピークが検出された。焼成品3のX線回折図を図8に示す。
次いで、焼成品をA-Oジェットミル(セイシン企業製)で粉砕処理し、熱膨張抑制フィラー3を得た。熱膨張抑制フィラー3のSEM写真を図9に示す。また、SEM-EDX分析をした結果、熱膨張抑制フィラー3は、Cu1.8Zn0.27(バナジウム化合物粒子)の表面の一部又は全部をSiO(シリカ粒子)で被覆した複合体であることが観察された(図10参照)。
【0106】
{実施例4}
<ZWP-Cu1.8Zn0.2複合体の調製>
<第A工程>
五酸化バナジウム(V)10gとシュウ酸二水和物30gをビーカーに入れ、純水200mlを加えて攪拌して溶解液Aを得た。溶解液Aに、グルコン酸亜鉛5.6gを純水100mlに加えて攪拌して得た溶解液Bを加えた。さらに、水酸化銅9.7g及び分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を0.1g加えて直径5mmのジルコニアボールを媒体としたボールミルを用いて、12時間粉砕混合を行って原料混合スラリーを得た。レーザー回折・散乱法により求めた原料混合スラリー中の固形分のD50は1μm以下であった。
得られた原料混合スラリー全量を、大気下、200℃で24時間乾燥を行って、バナジウム化合物(Cu1.8Zn0.27)の反応前駆体を得た。
<第B工程・第C工程>
ZWP粒子1とCu1.8Zn0.2の重量比が66:34になるようにZWP粒子1とバナジウム化合物(Cu1.8Zn0.27)の反応前駆体を20000rpmで1分間、混合機(ラボ用ミキサー:Labo Milser)で混合して混合粉を得た。次にこの混合粉を坩堝中、大気下で、650℃で4時間焼成して焼成品4を得た。なお、焼成後、坩堝を反転させることで目的物を容易に回収することができた。
得られた焼成品4をX線回折分析したところ、Zr(WO)(PO及びCu1.8Zn0.2の回折ピークが検出された。焼成品4のX線回折図を図11に示す。
次いで、焼成品4をA-Oジェットミル(セイシン企業製)で粉砕処理し、熱膨張抑制フィラー4を得た。熱膨張抑制フィラー4のSEM写真を図12に示す。また、SEM-EDX分析をした結果、熱膨張抑制フィラー4は、Zr(WO)(PO(ZWP粒子1)の表面の一部又は全部をCu1.8Zn0.2で被覆した複合体であることが観察された(図13参照)。
【0107】
{実施例5}
<ZWP-Cu1.8Zn0.2複合体の調製>
<第A工程>
実施例4と同様にして、バナジウム化合物(Cu1.8Zn0.2)の反応前駆体を得た。
<第B工程・第C工程>
ZWP粒子1とCu1.8Zn0.2の重量比が33:67になるようにZWP粒子とバナジウム化合物(Cu1.8Zn0.2)の反応前駆体を20000rpmで1分間、混合機(ラボ用ミキサー:Labo Milser)で混合して混合粉を得た。次にこの混合粉を坩堝中、大気下で、650℃で4時間焼成して焼成品5を得た。なお、焼成後、坩堝を反転させることで目的物を容易に回収することができた。
得られた焼成品5をX線回折分析したところ、Zr(WO)(PO及びCu1.8Zn0.27の回折ピークが検出された。
次いで、焼成品5をA-Oジェットミル(セイシン企業製)で粉砕処理し、熱膨張抑制フィラー5を得た。また、SEM-EDX分析をした結果、熱膨張抑制フィラー5は、Zr(WO)(PO(ZWP粒子1)とCu1.8Zn0.2とが複合体となって粒子を形成しているものであることを確認した。
【0108】
{実施例6}
<ZWP-Cu1.8Zn0.2複合体の調製>
<第A工程>
実施例4と同様にして、バナジウム化合物(Cu1.8Zn0.2)の反応前駆体を得た。
<第B工程・第C工程>
ZWP粒子1とCu1.8Zn0.2の重量比が50:50になるようにZWP粒子1とバナジウム化合物(Cu1.8Zn0.27)の反応前駆体を20000rpmで1分間、混合機(ラボ用ミキサー:Labo Milser)で混合して混合粉を得た。次にこの混合粉を坩堝中、大気下で、650℃で4時間焼成して焼成品6を得た。なお、焼成後、坩堝を反転させることで目的物を容易に回収することができた。
得られた焼成品6をX線回折分析したところ、Zr(WO)(PO及びCu1.8Zn0.2の回折ピークが検出された。
次いで、焼成品6をA-Oジェットミル(セイシン企業製)で粉砕処理し、熱膨張抑制フィラー6を得た。SEM-EDX分析をした結果、熱膨張抑制フィラー6は、Zr(WO)(PO(ZWP粒子1)とCu1.8Zn0.2とが複合体となって粒子を形成しているものであることを確認した。
【0109】
{比較例1}
<Cu1.8Zn0.27の調製>
五酸化バナジウム(V)10gとシュウ酸二水和物30gをビーカーに入れ、純水200mlを加えて攪拌して溶解液1を得た。溶解液1に、グルコン酸亜鉛5.6gを純水100mlに加えて攪拌して得た溶解液2を加え、更に水酸化銅9.7g及び分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を0.1g加えて原料混合物を調製した。次いで直径5mmのジルコニアボールを媒体としたボールミルを用いて、12時間粉砕混合を行って原料混合スラリーを得た。レーザー回折・散乱法により求めた原料混合スラリー中の固形分のD50は1μm以下であった。
得られた原料混合スラリー全量を、大気下、200℃で24時間乾燥を行って、バナジウム化合物(Cu1.8Zn0.2)の反応前駆体を得た。
次いで、反応前駆体を坩堝中、大気下で、650℃で4時間焼成したところ、坩堝に強固に付着した焼結体となり、坩堝を反転させても目的物が強固に付着しており、容易に回収することができなかった。
焼結体をスパチュラで剥がしてX線回折分析したところ、単相のCu1.8Zn0.2であった(図14参照)。
【0110】
<物性評価>
実施例1~6で得られた熱膨張抑制フィラー1~6及び製造例1で得られたZWP粒子1について、粒子径が30μmを超える粗粒子の含有率、BET比表面積、熱膨張係数及び電気抵抗率を測定した。また、比較例1で得られた焼結体(Cu1.8Zn0.2)について、熱膨張係数及び電気抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
測定方法は以下の通りである。
【0111】
[粒子径が30μmを超える粗粒子の含有率]
走査型電子顕微鏡観察において倍率1000倍で任意に抽出した粒子200個について、粒子径が30μmを超える粗粒子の割合を算出した。
【0112】
[BET比表面積]
マウンテック製比表面積測定装置Macsorbを用いてBET比表面積を測定した。
【0113】
[熱膨張係数の測定]
(成型体の作製)
試料0.15gを乳鉢で3分間粉砕し、φ6mmの金型に全量充填した。次いで、ハンドプレスを用いて1tの圧力で成型して粉末成型体を作製した。得られた粉末成型体を電気炉にて600℃で2時間焼成してセラミック成型体を作製した。
(熱膨張係数の測定)
作製したセラミック成形体について、熱機械測定装置(NETZSCH JAPAN製 TMA4000SE)を用いて熱膨張係数を測定した。測定条件は、窒素雰囲気、荷重10g、温度範囲50℃~250℃とした。
【0114】
(電気抵抗率の測定)
上述のようにして作製したセラミック成型体の両面に、20nmの白金蒸着を行って電極を形成し、デジタルマルチメーター(横河電機製 TY530)で電気抵抗率を測定した。
【0115】
【表2】
【0116】
(エポキシ樹脂複合体)
実施例で得られた熱膨張抑制フィラー1~6を5.8gと、エポキシ樹脂(三菱化学製 jER807、エポキシ当量160~175)4.2gを計量し、真空ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎ARV-310)にて、回転速度2000rpmで混合して、30体積%のペーストを作製した。
次いで、ペーストに硬化剤(四国化成製 キュアゾール)を100μL加えて、真空ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎ARV-310)にて、回転速度1500rpmで混合した後、150℃で1時間硬化させて、高分子組成物試料を得た。
次いで、この高分子組成物試料の断面を走査型電子顕微鏡像で観察したところ、いずれの高分子組成物試料においても、熱膨張抑制フィラーが高分子組成物中に均一に分散していることが確認できた。
【0117】
実施例に示したように、本発明の熱膨張抑制フィラーは、バナジウム化合物と無機粒子との配合比、又は無機粒子の種類を選択することで線膨張係数を制御することができるものであり、エポキシ樹脂中に均一に分散させることも可能であった。また、本発明の熱膨張抑制フィラーは電気抵抗率が低く、電気絶縁性が要求される材料として用いることが可能であることも確認できた。


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14