(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20231011BHJP
F16C 3/08 20060101ALI20231011BHJP
F16C 9/02 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
F16H1/32 A
F16C3/08
F16C9/02
(21)【出願番号】P 2019193683
(22)【出願日】2019-10-24
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(72)【発明者】
【氏名】紀平 誠人
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-128128(JP,A)
【文献】特開2006-200557(JP,A)
【文献】特開2018-132181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16C 3/08
F16C 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内に配置された支持ブロックと、
外周面にインナレース面を構成する軸支持領域、及び、前記軸支持領域に隣接して配置された偏心領域を有するクランクシャフトと、
前記クランクシャフトの前記軸支持領域を前記支持ブロックに回転自在に支持させる転動体
である円筒ころと、
を備え
、
前記クランクシャフトの前記軸支持領域の外周面は、前記クランクシャフトの軸方向端部に向かって先細り状に傾斜したテーパ面によって構成されている動力伝達装置。
【請求項2】
前記クランクシャフトは、前記偏心領域の軸方向両側に配置された第1支持領域と第2支持領域を有し、
前記第1支持領域と前記第2支持領域のうちの少なくとも一方が前記軸支持領域を構成している請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記支持ブロックは、前記軸支持領域を支持する軸支持孔を有し、
前記軸支持孔の内周面の少なくとも一部は、前記転動体と当接するアウタレース面を構成している請求項1または2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記軸支持孔の内周面は、接触角が0°よりも大きく、かつ10°以下の角度である請求項3に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記軸支持孔の内周面と前記転動体の接触面は、同等の硬度である請求項3または4に記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記軸支持孔の内周には、前記転動体の軸方向外側の変位を規制する外側変位規制面が一体に形成されている請求項3~5のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項7】
前記インナレース面は、接触角が0°よりも大きく、かつ10°以下の角度である請求項1~6のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項8】
前記軸支持領域の外周面と前記転動体の接触面は、同等の硬度である請求項1~7のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項9】
前記軸支持領域は、前記円筒ころの軸方向内側への変位を規制する内側変位規制面を有する請求項1~8のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機等の動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットや工作機械等の回転機器では、回転駆動源の回転を伝達するために減速機等の動力伝達装置が用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の動力伝達装置は、偏心揺動型の歯車式の減速機であり、筒状のケースと、ケース内に回転可能に保持されたキャリア(支持ブロック)と、キャリアに回転可能に支持されたクランクシャフトと、クランクシャフトの偏心領域の回転を受けてケース内で旋回回転する揺動歯車と、ケースの内周面に回転可能に保持された複数の内歯ピンと、を備えている。この動力伝達装置の場合、クランクシャフトには、回転駆動源の回転が入力される。また、ケースの内周面には、複数のピン溝が軸方向に沿って形成され、各ピン溝に内歯ピンが回転可能に保持されている。揺動歯車の外周面には、複数の内歯ピンと噛み合う外歯が形成されている。外歯の歯数は、内歯ピンの個数よりも一つ分少ない数に設定されている。このため、揺動歯車は、クランクシャフトの回転を受けて旋回回転すると、内歯ピンと噛み合いつつ所定減速比に減速されて旋回方向と逆向きに自転する。揺動歯車の自転成分は、クランクシャフトを通してキャリアに伝達される。キャリアは、使用する回転機器に接続され、減速された回転駆動源の動力を回転機器に伝達する。
【0004】
上記の動力伝達装置のクランクシャフトは、揺動歯車に旋回力を伝達する偏心領域と、偏心領域の軸方向の両側に配置された一対の軸支持領域と、を有する。一対の軸支持領域は、軸方向の端部に向かって先細り状となるテーパ面によって構成されている。各軸支持領域は、キャリアに形成された軸支持孔に、円錐ころ軸受を介して回転自在に支持されている。円錐ころ軸受は、インナレース(内輪)とアウタレース(外輪)の間に複数の円錐ころが転動自在に配置されている。円錐ころ軸受は、クランクシャフトによる動力伝達時に、クランクシャフトに加わるラジアル荷重とアキシャル荷重をキャリアに支持させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の動力伝達装置は、構成部品の多い円錐ころ軸受を用いてクランクシャフトをキャリア(支持ブロック)に支持させている。このため、クランクシャフトの軸受周りの部品コストが高騰し、このことが動力伝達装置の製品コストの高騰の原因となり易い。
【0007】
本発明は、クランクシャフトの軸受周りの構成を簡素化して、製品コストの低減を図ることができる動力伝達装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る動力伝達装置は、ケース内に配置された支持ブロックと、外周面にインナレース面を構成する軸支持領域、及び、前記軸支持領域に隣接して配置された偏心領域を有するクランクシャフトと、前記クランクシャフトの前記軸支持領域を前記支持ブロックに回転自在に支持させる転動体である円筒ころと、を備え、前記クランクシャフトの前記軸支持領域の外周面は、前記クランクシャフトの軸方向端部に向かって先細り状に傾斜したテーパ面によって構成されている。
【0009】
本形態の動力伝達装置の場合、クランクシャフトの軸支持領域の外周面がインナレース面を構成しているため、軸受専用のインナレースを必要としない。このため、本形態の動力伝達装置では、部品点数を削減して、製品コストの低減を図ることができる。
【0010】
前記クランクシャフトは、前記偏心領域の軸方向両側に配置された第1支持領域と第2支持領域を有し、前記第1支持領域と前記第2支持領域のうちの少なくとも一方が前記軸支持領域を構成するようにしていも良い。
【0011】
前記支持ブロックは、前記軸支持領域を支持する軸支持孔を有し、前記軸支持孔の内周面の少なくとも一部は、前記転動体と当接するアウタレース面を構成するようにしても良い。
【0012】
この場合、支持ブロックの軸支持孔がアウタレース面を構成しているため、軸受専用のアウタレースを必要としない。このため、本構成を採用した場合には、部品点数をさらに削減して、製品コストのさらなる低減を図ることができる。
【0013】
前記軸支持孔の内周面は、接触角が0°よりも大きく、かつ10°以下の角度であることが望ましい。
【0014】
前記軸支持孔の内周面と前記転動体の接触面は、同等の硬度であることが望ましい。
【0015】
前記軸支持孔の内周には、前記転動体の軸方向外側の変位を規制する外側変位規制面が一体に形成されるようにしても良い。
【0016】
前記インナレース面は、接触角が0°よりも大きく、かつ10°以下の角度であることが望ましい。
【0017】
前記軸支持領域の外周面と前記転動体の接触面は、同等の硬度であることが望ましい。
【0018】
前記軸支持領域は、前記円筒ころの軸方向内側への変位を規制する内側変位規制面を有する構成であっても良い。
【発明の効果】
【0033】
上述の動力伝達装置は、部品点数の少ない簡素な構成によってクランクシャフトを支持ブロックに回転自在に支持させることができるため、製品コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図2】本発明の実施形態の減速機(動力伝達装置)の部分断面正面図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0036】
図1は、産業用ロボット1の側面図である。
本実施形態の産業用ロボット1は、回動可能な複数の関節を有する多関節ロボットである。産業用ロボット1は、設置面に設置される基台2に、アーム部3,4,5,6がこの順に回動可能に連結されている。先端側のアーム部6には、ナックル部7が回動可能に連結されている。ナックル部7には、動力伝達装置の一形態である減速機10が取り付けられている。ナックル部7には、図示しない駆動用モータが内蔵され、駆動用モータから減速機10の入力部に回転トルクが入力される。減速機10の出力側には、例えば、物品を把持する把持ヘッド(不図示)等が取り付けられる。
【0037】
図2は、減速機10を入力側から見た部分断面正面図である。
図3は、
図2のIII-III線に沿う断面図であり、
図4は、
図2のIV-IV線に沿う断面図である。なお、
図2の断面部分は、
図3のII-II線に沿う断面に対応する。
減速機10は、概略形状が筒状形状であるケース11と、ケース11の内周面に回転自在に保持された第1キャリアブロック13A、及び、第2キャリアブロック13Bと、第1キャリアブロック13A、及び、第2キャリアブロック13Bに回転自在に支持された複数(例えば、三つ)のクランクシャフト14と、各クランクシャフト14の二つの偏心領域14bとともに旋回回転する第1揺動歯車15A、及び、第2揺動歯車15Bと、を備えている。
本実施形態では、第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bが、クランクシャフト14を回転自在に支持する支持ブロックを構成している。また、第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bは、相互に締結固定される第1ブロックと第2ブロックを構成している。
【0038】
第1キャリアブロック13Aは、孔空き円板状の基板部13Aaと、当該基板部13Aaの端面から第2キャリアブロック13Bの方向に向かって延びる複数の支柱部13Abと、を有する。第2キャリアブロック13Bは、孔空き円板状に形成されている。第1キャリアブロック13Aは、支柱部13Abの端面が第2キャリアブロック13Bの端面に突き合わされ、各支柱部13Abが第2キャリアブロック13Bにボルト16によって締結固定されている。なお、図中の符号17は、ボルト16による締結前に第2キャリアブロック13Bを各支柱部13Abに位置決めするための位置決めピンである。
【0039】
第1キャリアブロック13Aの基板部13Aaと第2キャリアブロック13Bとの間には、軸方向の隙間が確保されている。この隙間には、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bが配置されている。
なお、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bには、第1キャリアブロック13Aの各支柱部13Abが貫通する逃げ孔19が形成されている。逃げ孔19は、各支柱部13Abが第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの旋回動作を妨げないように、支柱部13Abの外面形状よりも充分に大きく形成されている。
【0040】
ケース11は、円筒状のケース本体11aと、ケース本体11aの外周面から径方向外側に突出するフランジ11bと、を備えている。ケース本体11aとフランジ11bは、鋳造等によって一体に形成されている。
【0041】
ケース本体11aは、第1キャリアブロック13Aの基板部13Aaの外周面と、第2キャリアブロック13Bの外周面とに跨って配置されている。ケース本体11aの軸方向の両側端縁には、第1キャリアブロック13Aの基板部13Aaと、第2キャリアブロック13Bとが軸受12を介して回転可能に支持されている。また、ケース本体11aの軸方向の中央領域(第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの外周面に対向する領域)の内周面には、第1,第2キャリアブロック13A,13Bの回転中心軸線c1と平行に延びる複数のピン溝18が形成されている。各ピン溝18には、略円柱状の内歯ピン20が回転可能に収容されている。ケース本体11aの内周面に取り付けられた複数の内歯ピン20は、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの各外周面に対向している。
【0042】
第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bは、ケース本体11aの内径よりも若干小さい外径に形成されている。第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの各外周面には、ケース本体11aの内周面に配置された複数の内歯ピン20に噛み合い状態で接触する外歯15Aa,15Baが形成されている。第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの各外周面に形成された外歯15Aa,15Baの歯数は、内歯ピン20(ピン溝18)の数よりも僅かに少なく(例えば、一つ少なく)設定されている。
【0043】
複数のクランクシャフト14は、第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bの回転中心軸線c1を中心とした同一円周上に配置されている。各クランクシャフト14は、軸受21を介して第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bとに回転自在に支持されている。各クランクシャフト14は、軸方向に離間して一対の軸支持領域14aが配置され、一対の軸支持領域14aの間に二つの偏心領域14bが配置されている。
なお、本実施形態では、一方の軸支持領域14aが第1支持領域を構成し、他方の軸支持領域14aが第2支持領域を構成している。
【0044】
クランクシャフト14の軸方向の一方の端部には、軸支持領域14aに隣接して歯車取付部14cが形成されている。各軸支持領域14aの外周面S1は、クランクシャフト14の軸方向の端部に向かって先細り状に傾斜したテーパ面によって構成されている。また、各軸支持領域14aは、第1キャリアブロック13A(基板部13Aa)に形成された第1支持孔13Aa-1と、第2キャリアブロック13Bに形成された第2支持孔13Ba-1に挿通され、これらに軸受21を介して回転自在に支持されている。
なお、本実施形態では、第1支持孔13Aa-1と第2支持孔13Ba-1が軸支持孔を構成している。
【0045】
軸受21は、転動体として円筒ころ21aを持つアンギュラ軸受によって構成されている。第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bの第1,第2支持孔13Aa-1,13Ba-1の内周面S2は、軸方向外側に向かって先細り状に傾斜したテーパ面によって構成されている。第1,第2支持孔13Aa-1,13Ba-1の内周面S2は、クランクシャフト14の対応する軸支持領域14aの外周面S1と平行になるように形成されている。本実施形態の場合、クランクシャフト14の軸支持領域14aの外周面S1は、軸受21のインナレース面を構成し、第1,第2支持孔13Aa-1,13Ba-1の内周面S2は、軸受21のアウタレース面を構成している。
【0046】
クランクシャフト14は、軸支持領域14aの外周面S1を含む全域に浸炭焼き入れが施されている。また、第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bの第1,第2支持孔13Aa-1,13Ba-1の内周面S2には、高周波焼き入れが施されている。また、軸受21の複数の円筒ころ21aは、全体が截頭円錐形状を成して配置されるように、保持器27に回転可能に保持されている。軸支持領域14aの外周面S1と第1,第2支持孔13Aa-1,13Ba-1の内周面S2は、円筒ころ21aの外周面(接触面)と同等の硬度とされている。
【0047】
クランクシャフト14側のインナレース面(軸支持領域14aの外周面S1)の円筒ころ21aに対する接触角は、0°よりも大きく、かつ10°以下の角度とされている。第1,第2キャリアブロック13A,13B側のアウタレース面(第1支持孔13Aa-1と第2支持孔13Ba-1の内周面S2)の円筒ころ21aに対する接触角は、同様に、0°よりも大きく、かつ10°以下の角度とされている。
【0048】
クランクシャフト14の軸支持領域14aの軸方向内側部分には、軸支持領域14aの軸方向内側の端部から段差状に拡径して、円筒ころ21aの軸方向内側の端面に当接する内側変位規制面36が形成されている。内側変位規制面36は、クランクシャフト14の各軸支持領域14aに円筒ころ21aが組付けられるときに、円筒ころ21aの軸方向内側の端面と当接して当該円筒ころ21aの軸方向内側への変位を規制する。
【0049】
また、第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bの第1,第2支持孔13Aa-1,13Ba-1の内側領域には、内周面S2(アウタレース面)の軸方向外側の端部から段差状に縮径して円筒ころ21aの軸方向外側の端面に当接する外側変位規制面35が形成されている。外側変位規制面35は、クランクシャフト14を内部に組付けた状態で第1キャリアブロック13Aに第2キャリアブロック13Bをボルト締結することにより、対応する円筒ころ21aの軸方向外側の端面に押し付けられ、それによって円筒ころ21aに予圧を付与する。
【0050】
クランクシャフト14の二つの偏心領域14bは、これらの各中心軸線c3,c4が軸支持領域14aの中心軸線c2に対して偏心している。また、二つの偏心領域14bは、軸支持領域14aの中心軸線c2(クランクシャフト14の中心軸線)周りに位相が180°ずれるように偏心している。
【0051】
また、クランクシャフト14の各偏心領域14bは、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bを夫々貫通している。各偏心領域14bは、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bに夫々形成された支持孔22に偏心部軸受23(円筒ころ軸受)を介して回転自在に係合されている。
【0052】
本実施形態の減速機10は、複数のクランクシャフト14が外力を受けて一方向に回転すると、クランクシャフト14の各偏心領域14bが所定の半径で同方向に旋回し、それに伴って第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bが同じ半径で同方向に旋回(揺動)する。このとき、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの各外歯15Aa,15Baは、ケース本体11aの内周に保持された複数の内歯ピン20と噛み合うように接触する。
なお、各クランクシャフト14の歯車取付部14cは、第2キャリアブロック13Bの第2軸支持孔13Ba-1を貫通して第2キャリアブロック13Bの軸方向外側に突出している。第2キャリアブロック13Bから突出した歯車取付部14cには、クランクシャフト歯車28が取り付けられている。各クランクシャフト歯車28は、図示しない入力歯車に噛み合っている。入力歯車は、図示しない駆動用モータの駆動力を受けて回転する。
【0053】
本実施形態の減速機10では、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの各外歯15Aa,15Baの歯数が、ケース本体11a側の内歯ピン20の数よりも僅かに少なく設定されているため、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bが一旋回する間に、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bがケース本体11a側の内歯ピン20から回転方向の反力を受け、旋回方向と逆方向に所定のピッチ分だけ自転する。この結果、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bにクランクシャフト14を介して係合された第1,第2キャリアブロック13A,13Bが、第1,第2揺動歯車15A,15Bとともに同方向に同ピッチで回転する。この結果、クランクシャフト14の回転は減速されて第1,第2キャリアブロック13A,13Bの回転として出力される。
なお、本実施形態では、クランクシャフト14の二つの偏心領域14bが軸線回りに180°ずれるように偏心しているため、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの旋回位相は180°ずれることになる。
【0054】
ここで、ケース11の外周のフランジ11bは、
図2中の上下と左右の各部に相互に平行な平坦面が設けられている。これにより、フランジ11bには、4つの円弧形状部と、周方向で隣接する円弧形状部の端部同士を接続する4つの直接形状部が設けられている。本実施形態の場合、円弧形状部は、ケース本体11aの外周面からの突出高さが一定の高位領域11b-Hを構成し、直線形状部は、ケース本体11aの外周面からの突出高さが高位領域11b-Hよりも低い低位領域11b-Lを構成している。
【0055】
フランジ11bの各高位領域11b-Hには、フランジ11bをケース11の軸方向に沿って貫通する複数のボルト挿通孔29が形成されている。ボルト挿通孔29は、ケース本体11aの円周方向に沿って等間隔に形成されている。各ボルト挿通孔29には、減速機10を産業用ロボット1のナックル部7(
図1参照)に締結固定するための図示しないボルトが挿入される。減速機10は、ケース本体11aの一部(
図3,
図4中のフランジ11bよりも右側領域)がナックル部7の嵌合穴内に嵌入され、その状態でフランジ11bの高位領域11b-Hがボルトによってナックル部7の締結面に締結固定される。
【0056】
減速機10は、フランジ11bの低位領域11b-Lがナックル部7の回動方向を向くように、フランジ11bがナックル部7に締結固定される。フランジ11bの低位領域11b-Lは、ケース本体11aの外周面からの突出高さが低いため、ナックル部7がアーム部6に対して回動した際に、フランジ11bが周囲の他の部材と干渉しにくくなる。フランジ11bの低位領域11b-Lは、周囲の部材との干渉を避ける部位に配置されている。このため、ナックル部7の可動角度を充分に確保することができる。
【0057】
以上のように、本実施形態の減速機10(動力伝達装置)は、クランクシャフト14の軸支持領域14aの外周面S1が軸受21のインナレース面を構成している。このため、本実施形態の減速機10では、軸受21専用のインナレースを必要としない。したがって、本実施形態の減速機10は、部品点数の少ない簡素な構成によってクランクシャフト14を第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bとに支持させることができ、製品コストの高騰を抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態の減速機10では、第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bの第1,第2支持孔13Aa-1,13Ba-1の内周面S2が軸受21のアウタレース面を構成している。このため、本実施形態の減速機10では、軸受21専用のアウタレースも必要としない。したがって、本実施形態の減速機10を採用した場合には、部品点数をさらに削減して、製品コストのさらなる低減を図ることができる。
【0059】
また、本実施形態の減速機10は、軸受21の転動体として、円錐ころではなく製造の容易な円筒ころ21aを採用しているため、このことからも製品コストの低減を図ることができる。そして、本実施形態の減速機10では、軸支持領域14aの外周面S1(インナレース面)の円筒ころ21aに対する接触角が、0°よりも大きく、かつ10°以下の角度に設定されている。このため、本実施形態の減速機10を採用した場合には、クランクシャフト14による回転伝達時に円筒ころ21aと軸支持領域14aの外周面S1(インナレース面)との間に生じる差動滑りを、実用上問題とならない範囲とすることができる。
【0060】
さらに、本実施形態の減速機10では、同様に、第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bの第1,第2支持孔13Aa-1,13Ba-1の内周面S2(アウタレース)の円筒ころ21aに対する接触角が、0°よりも大きく、かつ10°以下の角度に設定されている。このため、本実施形態の減速機10では、クランクシャフト14による回転伝達時に円筒ころ21aと第1,第2支持孔13Aa-1,13Ba-1の内周面S2(アウタレース)との間に生じる差動滑りも、実用上問題とならない範囲とすることができる。
【0061】
また、本実施形態の減速機10は、クランクシャフト14の軸支持領域14aの軸方向内側部分に、円筒ころ21aの軸方向内側への変位を規制する内側変位規制面36が一体に形成されている。このため、円筒ころ21aの軸方向内側への変位を規制するために別体の止め輪をクランクシャフト14に取り付ける必要がない。したがって、本構成を採用した場合には、部品点数を削減して製品コストのさらなる低減を図ることができる。
【0062】
さらに、本実施形態の減速機10は、第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bの第1,第2支持孔13Aa-1,13Ba-1の内側領域に、円筒ころ21aの軸方向外側への変位を規制し円筒ころ21aに予圧を付与する外側変位規制面35が一体に形成されている。このため、円筒ころ21aに予圧を付与するために別体の止め輪を第1キャリアブロック13Aや第2キャリアブロック13Bに取り付ける必要がない。したがって、本構成を採用した場合には、部品点数をさらに削減して製品コストのさらなる低減を図ることができる。
【0063】
また、本実施形態の減速機10では、クランクシャフト14の軸支持領域14aの外周面S1の硬度と、第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bの第1,第2支持孔13Aa-1,13Ba-1の内周面S2の硬度が、円筒ころ21aの外周面(接触面)の硬度と同等に設定されている。このため、クランクシャフト14による動力伝達時に、軸支持領域14aの外周面S1と、円筒ころ21aの外周面(接触面)と、第1,第2支持孔13Aa-1,13Ba-1の内周面S2のいずれにも変形や傷付きが生じにくい。したがって、本実施形態の減速機10を採用した場合には、転動体である円筒コロ21aの安定した転動を長期に亘って維持することができる。
【0064】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
例えば、上記の実施形態では、減速機10が動力伝達装置を構成しているが、本発明に係る動力伝達装置は、必ずしも減速機に限定されるものでなく、減速機能を持たない動力伝達装置であっても良い。
【0065】
また、上記の実施形態では、クランクシャフト14の第1支持領域である一方の軸支持領域14aと、第2支持領域である他方の軸支持領域14aの両方にインナレース面が一体に形成されているが、二つの軸支持領域14aのうちのいずれか一方にのみインナレース面を一体に形成するようにしても良い。
同様に、上記の実施形態では、第1支持孔13Aa-1と第2支持孔13Ba-1の両方にアウタレース面が一体に形成されているが、第1支持孔13Aa-1と第2支持孔13Ba-1のいずれか一方にのみアウタレース面を一体に形成するようにしても良い。
さらに、上記実施形態のクランクシャフト14は、偏心領域14bの軸方向両側に一対の軸支持領域14aが配置されているが、クランクシャフトに設ける軸支持領域は二つに限らず、一つであっても、三つ以上であっても良い。
また、上記の実施形態では、軸支持孔(第1支持孔13Aa-1、及び、第2支持孔13Ba-1)の内周面のほぼ全域が、円筒ころ21aと当接するアウタレース面を構成しているが、アウタレース面は軸支持孔の一部によって構成されるようにしても良い。
【符号の説明】
【0066】
10…減速機
11…ケース
13A…第1キャリアブロック(第1ブロック,支持ブロック)
13Aa-1…第1支持孔(軸支持孔)
13B…第2キャリアブロック(第2ブロック,支持ブロック)
13Ba-1…第2支持孔(軸支持孔)
14…クランクシャフト
14a…軸支持領域(第1支持領域,第2支持領域)
14b…偏心領域
21…軸受
21a…円筒ころ(転動体)
35…外側変位規制面
36…内側変位規制面
S1…外周面(インナレース面)
S2…内周面(アウタレース面)