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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】鉄道用ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 63/00 20060101AFI20231011BHJP
   F16D 65/16 20060101ALI20231011BHJP
   B61H 5/00 20060101ALI20231011BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20231011BHJP
   B60T 17/18 20060101ALI20231011BHJP
   F16D 121/24 20120101ALN20231011BHJP
   F16D 121/22 20120101ALN20231011BHJP
   F16D 121/04 20120101ALN20231011BHJP
   F16D 125/66 20120101ALN20231011BHJP
   F16D 125/40 20120101ALN20231011BHJP
【FI】
F16D63/00 A
F16D65/16
B61H5/00
B60T13/74 A
B60T13/74 G
B60T17/18
F16D121:24
F16D121:22
F16D121:04
F16D125:66
F16D125:40
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019196355
(22)【出願日】2019-10-29
(65)【公開番号】P2021071133
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】吉川 和宏
(72)【発明者】
【氏名】岩波 健
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-070409(JP,A)
【文献】特開2017-036827(JP,A)
【文献】特開2012-006423(JP,A)
【文献】特開2007-064433(JP,A)
【文献】特開平11-287270(JP,A)
【文献】特開2009-115313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 63/00
F16D 65/16
B61H 5/00
B60T 13/74
B60T 17/18
F16D 121/24
F16D 121/22
F16D 121/04
F16D 125/66
F16D 125/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車側に固定されるボディに中間部がそれぞれ軸支された一対のブレーキアームの各開放端に装着されて車輪側の被制動部に接離される制動部材と、
電動モータが前記制動部材を駆動する電動ブレーキ機構と、
流体圧シリンダが前記制動部材を駆動する流体圧ブレーキ機構と、を備え
前記ボディ内に配置された前記電動ブレーキ機構は、前記電動モータの回転駆動力を軸方向に沿う駆動シャフトの移動力に変換し、前記駆動シャフトの軸方向の移動力によって前記一対のブレーキアームの基端部を拡開揺動させることで、前記被制動部に対して前記制動部材を接離方向に駆動する駆動方向変換機構を有し、
前記駆動方向変換機構は、前記電動モータにおける円筒状のモータ軸の中央開口に挿入固定されて前記電動モータにより回転駆動されるボールナットと、前記ボールナットの回転駆動力により軸方向に沿って移動されるボールスクリューが前記モータ軸と同軸に配置されて一体に設けられた前記駆動シャフトと、軸方向に移動する前記駆動シャフトに対して相対移動不能に固定され、ウェッジカムのカム作用により前記駆動シャフトの軸方向の移動力によって前記一対のブレーキアームの基端部を拡開揺動させることで、前記被制動部に対して前記制動部材を接離方向に駆動する伝達部材と、を有し、
前記ボディ内に配置された前記流体圧ブレーキ機構は、前記駆動方向変換機構を挟んで反対側に配置された前記電動モータのモータ軸に対して同一直線上に位置するように前記駆動シャフトの端部に配置された前記流体圧シリンダが、前記制動部材が前記被制動部に接近する方向へ前記駆動シャフトを移動させる
ことを特徴とする鉄道用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記流体圧ブレーキ機構が、
緊急停車時、停電時及び前記電動モータの電気失陥時の少なくともいずれかの場合でブレーキを駆動される
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道用ブレーキ装置。
【請求項3】
前記伝達部材は、軸方向に移動する前記駆動シャフトに対して螺合されており、当該伝達部材の回転が規制された状態で前記駆動シャフトが回転されることにより前記駆動シャフトに対して軸方向へ相対移動する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄道用ブレーキ装置。
【請求項4】
前記駆動シャフトを回転させるための治具が係合する治具係合部が、前記駆動シャフトにおける前記電動モータ側の端部に設けられる
ことを特徴とする請求項3に記載の鉄道用ブレーキ装置。
【請求項5】
前記流体圧シリンダのピストンと前記駆動シャフトの端部との間に介装されたばね部材が、前記ピストンから離れる方向へ前記駆動シャフトを押圧付勢する
ことを特徴とする請求項4に記載の鉄道用ブレーキ装置。
【請求項6】
前記ピストンから離れる方向へ前記駆動シャフトを押圧付勢できるように前記ばね部材を蓄勢状態に保持するばね保持機構を有する
ことを特徴とする請求項5に記載の鉄道用ブレーキ装置。
【請求項7】
前記ばね保持機構が、常用ブレーキ時及び前記常用ブレーキ以外のブレーキ動作時の少なくともいずれかに開放されて前記ばね部材の蓄勢状態を解除する
ことを特徴とする請求項6に記載の鉄道用ブレーキ装置。
【請求項8】
前記常用ブレーキ時に前記ばね保持機構が開放されると共に前記電動モータが駆動され、
前記常用ブレーキ以外のブレーキ動作時に前記ばね保持機構が開放されると共に前記流体圧シリンダが駆動される
ことを特徴とする請求項7に記載の鉄道用ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特に強力な制動力が要求される鉄道車両用の鉄道用ブレーキ装置では、ブレーキの動力源として油圧や空気圧等の流体圧シリンダが制動部材を駆動する流体圧ブレーキ機構が用いられている。
また、ブレーキの動力源として油圧や空気圧等の流体圧ではなく、電力を用いた電動ブレーキ機構を用いた鉄道用ブレーキ装置が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-020014号公報
【文献】特開2008-019893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記電動ブレーキ機構を用いた鉄道用ブレーキ装置は、電動モータのトルクを回転直動変換機構と直動機構に設けられた溝形状を使ってライニング(制動部材)の押し付け力に変換している。
このため、十分な押し付け力を得るためには、回転直動変換機構と溝形状からなる倍力比を大きくしなければならない。更に、ブレーキの作動を開始し、ライニングの押し付け力を発生するまでの間には電動モータの出力のみでブレーキを作動させるため、可動部分の慣性モーメントの影響がある。したがって、従来の電動ブレーキ機構を用いた鉄道用ブレーキ装置は応答性を上げることが難しく、さらなる応答性の向上が望まれる。
また、従来の電動ブレーキ機構を用いた鉄道用ブレーキ装置は、停電時には電動モータの通電が停止され、電動モータのトルクがゼロとなる。そこで、電動モータはライニングの押し付け力を発生することができなくなり、ブレーキの信頼性が低下する虞がある。
【0005】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、応答性がよく信頼性の高い鉄道用ブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 台車側に支持されて車輪側の被制動部に接離される制動部材と、
電動モータが前記制動部材を駆動する電動ブレーキ機構と、
流体圧シリンダが前記制動部材を駆動する流体圧ブレーキ機構と、を備える
ことを特徴とする鉄道用ブレーキ装置。
【0007】
上記(1)の構成の鉄道用ブレーキ装置によれば、例えば電動ブレーキ機構と流体圧ブレーキ機構とを併用することで、電動モータだけで制動部材の押し付け力を得る必要がなくなり、小出力の電動モータを用いると共に電動ブレーキ機構を小型化することができる。そこで、鉄道用ブレーキ装置の可動部分の慣性モーメントを小さくして電動モータの応答性の向上を図ることができる。
また、流体圧ブレーキ機構は、停電時にも制動部材の押し付け力を発生することができる空圧や油圧等の信頼性が高い流体圧シリンダを用いることによって、ブレーキの高い信頼性を維持することができる。即ち、電動ブレーキ機構を備えた本構成の鉄道用ブレーキ装置は、停電や電動モータの電気失陥が発生したときの失陥保障(フェイルセーフ;FAIL SAFE)を可能とすることができる。さらに、流体圧シリンダの流体圧を適切に変化させることにより、ブレーキ力を変化させることができる。
【0008】
(2) 前記流体圧ブレーキ機構が、
緊急停車時、停電時及び前記電動モータの電気失陥時の少なくともいずれかの場合でブレーキを駆動される
ことを特徴とする上記(1)に記載の鉄道用ブレーキ装置。
【0009】
上記(2)の構成の鉄道用ブレーキ装置によれば、常用ブレーキ時には、電動ブレーキ機構における応答性が良い電動モータのトルクを調節することで、ブレーキ力を任意にコントロールすることができる。一方、常用ブレーキ以外のブレーキ動作時には、流体圧ブレーキ機構における信頼性が高い流体圧シリンダの流体圧によって、電動モータの通電状態に係わらず強力なブレーキ力を発生することができる。
【0010】
(3) 前記電動ブレーキ機構は、前記電動モータの回転駆動力を駆動シャフトの軸方向に沿う移動力に変換し、前記駆動シャフトの軸方向の移動力を前記被制動部に対する前記制動部材の接離方向の駆動力に変換する駆動方向変換機構を有し、
前記流体圧シリンダは、前記駆動方向変換機構を挟んで反対側に配置された前記電動モータに対して同一直線上に配置され、前記制動部材が前記被制動部に接近する方向へ前記駆動シャフトを移動させる
ことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の鉄道用ブレーキ装置。
【0011】
上記(3)の構成の鉄道用ブレーキ装置によれば、制動部材が被制動部に接近する方向へ駆動シャフトを移動させる流体圧シリンダは、駆動方向変換機構を挟んで反対側に配置された電動モータに対して同一直線上に配置される。そこで、流体圧シリンダと電動モータとをコンパクトにレイアウトすることができ、鉄道用ブレーキ装置の車両搭載性が向上する。
【0012】
(4) 前記駆動方向変換機構が、
前記電動モータにより回転駆動されるボールナットと、
前記ボールナットの回転駆動力により軸方向に沿って移動される前記駆動シャフトと、
軸方向に移動する前記駆動シャフトに対して相対移動不能に固定され、ウェッジカムのカム作用により前記駆動シャフトの軸方向の移動力を前記被制動部に対する前記制動部材の接離方向の駆動力に変換する伝達部材と、を備え、
前記流体圧シリンダが、前記ボールナット及び前記駆動シャフトに対して同一直線上に配置されている
ことを特徴とする上記(3)に記載の鉄道用ブレーキ装置。
【0013】
上記(4)の構成の鉄道用ブレーキ装置によれば、電動モータの回転駆動により、ボールナットが回転される。ボールナットは、回転が規制される一方、軸方向への移動が可能な駆動シャフトに螺合している。そこで、駆動シャフトは、ボールナットの回転駆動力により軸方向に沿って移動される。この駆動シャフトの軸方向の移動力は、駆動シャフトに対して相対移動不能に固定された伝達部材によって、被制動部に対する制動部材の接離方向の駆動力に変換される。
そして、制動部材が被制動部に接近する方向へ駆動シャフトを移動させる流体圧シリンダは、ボールナット及び駆動シャフトに対して同一直線上に配置される。そこで、流体圧シリンダと駆動方向変換機構とをコンパクトにレイアウトすることができ、鉄道用ブレーキ装置の車両搭載性がさらに向上する。
【0014】
(5) 前記伝達部材は、軸方向に移動する前記駆動シャフトに対して螺合することにより相対移動不能に固定されており、前記駆動シャフトが回転されることにより前記駆動シャフトに対して軸方向へ相対移動する
ことを特徴とする上記(4)に記載の鉄道用ブレーキ装置。
【0015】
上記(5)の構成の鉄道用ブレーキ装置によれば、駆動シャフトを回転することで、制動部材が被制動部から離間する方向へ伝達部材を移動させることができる。そこで、電気失陥時にブレーキが作動した際は、伝達部材が非制動位置へ戻るように駆動シャフトを回転させることで、手動によりブレーキを開放させることができる。
【0016】
(6) 前記駆動シャフトを回転させるための治具が係合する治具係合部が、前記駆動シャフトにおける前記電動モータ側の端部に設けられる
ことを特徴とする上記(5)に記載の鉄道用ブレーキ装置。
【0017】
上記(6)の構成の鉄道用ブレーキ装置によれば、駆動シャフトにおける電動モータ側の端部に設けられた治具係合部(六角穴等)に六角レンチ等の治具を係合させることで、モータケースの外から駆動シャフトを容易に回転させることができる。
【0018】
(7) 前記流体圧シリンダが、前記駆動シャフトの端部に配置されている
ことを特徴とする上記(3)~(6)の何れか1つに記載の鉄道用ブレーキ装置。
【0019】
上記(7)の構成の鉄道用ブレーキ装置によれば、流体圧シリンダは、制動部材が被制動部に接近する方向へ駆動方向変換機構の駆動シャフトをダイレクトに移動させることができる。そこで、流体圧シリンダと駆動シャフトとをコンパクトにレイアウトすることができ、流体圧シリンダの流体圧によって駆動シャフトを効率的に駆動することができる。
【0020】
(8) 前記流体圧シリンダのピストンと前記駆動シャフトの端部との間に介装されたばね部材が、前記ピストンから離れる方向へ前記駆動シャフトを押圧付勢する
ことを特徴とする上記(7)に記載の鉄道用ブレーキ装置。
【0021】
上記(8)の構成の鉄道用ブレーキ装置によれば、ばね部材が駆動シャフトを押圧付勢することで、伝達部材が制動位置に向けて押圧される。そこで、流体圧シリンダや電動モータのみでブレーキを作動させるよりも応答性良くブレーキを作動させることができる。
【0022】
(9) 前記ピストンから離れる方向へ前記駆動シャフトを押圧付勢できるように前記ばね部材を蓄勢状態に保持するばね保持機構を有する
ことを特徴とする上記(8)に記載の鉄道用ブレーキ装置。
【0023】
上記(9)の構成の鉄道用ブレーキ装置によれば、ばね部材の押圧付勢力は、ばね保持機構により蓄勢状態に保持される。ばね保持機構は、蓄勢状態の保持が解除されることにより、ばね部材の押圧付勢力で、伝達部材を非制動位置から制動位置へ動作させる。
ばね保持機構は、例えば電磁ロック機構を有する。電磁ロック機構は、非制動位置が通電状態となる。つまり、電磁ロック機構は、通電状態において、ばね部材を蓄勢状態に保持する。従って、電磁ロック機構は、通電が遮断されると、蓄勢状態のばね部材の保持を解除し、ばね部材により伝達部材を制動位置に向けて押圧させる。これにより、ばね保持機構は、電気が遮断されたときの失陥保障を可能とすることができる。更に、通電遮断時、ばね部材により伝達部材を制動位置へ動作させることで、パーキングブレーキを作動させることができる。
【0024】
(10) 前記ばね保持機構が、常用ブレーキ時及び前記常用ブレーキ以外のブレーキ動作時の少なくともいずれかに開放されて前記ばね部材の蓄勢状態を解除する
ことを特徴とする上記(9)に記載の鉄道用ブレーキ装置。
【0025】
上記(10)の構成の鉄道用ブレーキ装置によれば、ばね保持機構が常用ブレーキ時に開放される場合には、ばね部材が駆動シャフトを押圧付勢することで、応答性良く常用ブレーキを作動させることができる。また、ばね保持機構が常用ブレーキ以外のブレーキ動作時に開放される場合には、ばね部材が駆動シャフトを押圧付勢することで、応答性良く常用ブレーキ力を作動させることができる。
【0026】
(11) 前記常用ブレーキ時に前記ばね保持機構が開放されると共に前記電動モータが駆動され、
前記常用ブレーキ以外のブレーキ動作時に前記ばね保持機構が開放されると共に前記流体圧シリンダが駆動される
ことを特徴とする上記(10)に記載の鉄道用ブレーキ装置。
【0027】
上記(11)の構成の鉄道用ブレーキ装置によれば、常用ブレーキ時には、電動モータの回転トルクのみで常用ブレーキを作動させるよりも応答性良く常用ブレーキを作動させることができる。また、常用ブレーキ以外のブレーキ動作時には、流体圧シリンダの流体圧のみで常用ブレーキ以外のブレーキ力を作動させるよりも応答性良くブレーキ力を作動させることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る鉄道用ブレーキ装置によれば、応答性がよく信頼性の高い鉄道用ブレーキ装置を提供することができる。
【0029】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施形態に係る鉄道用ブレーキ装置の側面図である。
図2図1に示した鉄道用ブレーキ装置の縦断面図である。
図3図2に示した鉄道用ブレーキ装置の要部拡大断面図である。
図4図2に示した鉄道用ブレーキ装置のA-A断面図である。
図5】モータユニットと駆動ピストンの分解斜視図である。
図6図5に示した駆動ピストンの分解斜視図である。
図7図5に示したモータユニットの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る鉄道用ブレーキ装置1の側面図、図2図1に示した鉄道用ブレーキ装置1の縦断面図、図3図2に示した鉄道用ブレーキ装置1の要部拡大断面図、図4図2に示した鉄道用ブレーキ装置1のA-A断面図である。
本実施形態に係る鉄道用ブレーキ装置1は、例えば鉄道車両用ディスクブレーキに好適に用いることができる。
【0032】
図1及び図2に示すように、鉄道用ブレーキ装置1は、略筒状のボディ13がサポート15を介して台車側に固定される。ボディ13は、サポート15の反対側に、ブレーキアーム軸17によって、一対のブレーキアーム19のそれぞれの中間部を軸支している。
ブレーキアーム19の各開放端(サポート15の反対側)には、パッドホルダ23を介して制動部材であるパッドアッセンブリ25が装着されている。一対のパッドアッセンブリ25は、車輪側の被制動部であるブレーキロータ100の両面側から接近されてブレーキロータ100を挟圧する。
【0033】
本実施形態に係る鉄道用ブレーキ装置1は、ボディ13のサポート側の上端に設けられた流体圧ブレーキ機構3と、ボディ13のサポート側の下端に設けられた電動ブレーキ機構5と、を主要な構成として備える。流体圧ブレーキ機構3は、流体圧シリンダであるエアシリンダ14が一対のパッドアッセンブリ25を駆動してブレーキロータ100を制動する。電動ブレーキ機構5は、電動モータ43を有するモータユニット21が一対のパッドアッセンブリ25を駆動してブレーキロータ100を制動する。
【0034】
ボディ13は、図3及び図4に示すように、電動ブレーキ機構5における電動モータ43のモータ軸27(回転子)と同軸に配置された駆動シャフト37を有する。
本実施形態に係る駆動シャフト37は、ボールスクリュー91と、ボールスクリュー91の一端側(上端側)に同軸上で固定されるウェッジロッド29とを有し、モータユニット21に対して回転が規制されると共に軸方向への移動が可能とされている。ウェッジロッド29は、外周面に形成された雄ねじ29aの下端をボールスクリュー91の上端に形成した雌ねじ穴91bに螺合した後、ロックナット66を締め付けることでボールスクリュー91と一体に固定されている。
【0035】
図5はモータユニット21とエアーピストン(駆動ピストン)85の分解斜視図、図6図5に示したエアーピストン85の分解斜視図、図7図5に示したモータユニット21の分解斜視図である。
本実施形態に係る電動ブレーキ機構5は、モータユニット21と、駆動方向変換機構39と、を主要な構成として有する。
【0036】
モータユニット21は、電動モータ43が収容されるモータカバー133と、電動モータ43の下面側に配置される電磁ロック機構89が収容されるモータケース113と、モータケース113の下部開口を覆うアンダーカバー121と、を有する。モータカバー133は、複数のカバー固定ボルト141によりモータケース113に固定される。アンダーカバー121は、複数のカバー固定ボルト145によりモータケース113の下面に固定される。
【0037】
モータカバー133の内周壁には、電動モータ43の固定子28が固定されている。電動モータ43のモータ軸27は、モータカバー133に固定されたベアリング131と、モータケース113に固定されたベアリング132とによって、固定子28に対して回転自在に保持される。モータ軸27を回転自在に保持するベアリング131及びベアリング132は、固定ネジ142でモータケース113に固定されたベアリング固定板134により固定される。
【0038】
円筒状のモータ軸27の中央開口には、ボールナット35が挿入される。ボールナット35は、下部フランジがモータ軸27の底面にボルト固定されて、モータ軸27に対する相対回転及び軸方向の移動が規制される。モータ軸27と一体回転するボールナット35の上端は、モータカバー133の軸穴135から突出する。
【0039】
ボールナット35の雌ねじ35aには、ボールスクリュー91の雄ねじ91aが螺合する。ボールスクリュー91の雄ねじ91aは、一体に固定されたウェッジロッド29の雄ねじ29aとは異なるピッチ(リード角)を有しており、ウェッジロッド29の雄ねじ29aは伝達部材47の雌ねじ47aに螺合している。伝達部材47は、後述するガイドスプリング(ばね座板)73の開口83に嵌挿されており、回転が規制されている。
【0040】
そこで、ボールナット35が回転された際、ボールスクリュー91はボールナット35と共に回転することができず、軸方向に移動する。このボールスクリュー91の移動は、ボールスクリュー91に固定されたウェッジロッド29を軸方向に駆動する。
【0041】
モータケース113の下面側には、ばね保持機構である電磁ロック機構89が収容される。電磁ロック機構89は、モータ軸27の底面に固定ネジ143で固定される回転子115と、アンダーカバー121の内面に固定ネジ144で固定される固定子114と、を有する。
【0042】
電磁ロック機構89は、伝達部材47を非制動位置から制動位置へ押圧付勢できるように圧縮コイルスプリング31を蓄勢状態に保持する。即ち、電磁ロック機構89は、通電時に、モータ軸27及びボールナット35の回転を制止し、駆動シャフト37(ボールスクリュー91及びウェッジロッド29)が軸方向下側(図4の矢印a側)へ移動するのを阻止することにより、圧縮コイルスプリング31を蓄勢状態に保持する。
【0043】
そして、電磁ロック機構89は、通電が遮断されることで、電磁ロック機構89によるモータ軸27及びボールナット35の回転制止が解除される。これにより、圧縮コイルスプリング31の復元力が、ガイドスプリング73及びウェッジロッド29を介して伝達部材47を制動位置へ押圧付勢する。
【0044】
駆動方向変換機構39は、電動モータ43の回転駆動力を駆動シャフト37の軸方向に沿う移動力に変換し、駆動シャフト37の軸方向の移動力をブレーキロータ100に対するパッドアッセンブリ25の接離方向の駆動力に変換する。
【0045】
本実施形態に係る駆動方向変換機構39は、電動モータ43のモータ軸27により回転駆動されるボールナット35と、ボールナット35の回転駆動力により軸方向に沿って移動される駆動シャフト37と、軸方向に移動する駆動シャフト37に対して相対移動不能に固定され、ウェッジカム51のカム作用により駆動シャフト37の軸方向の移動力をブレーキロータ100に対するパッドアッセンブリ25の接離方向の駆動力に変換する伝達部材47と、伝達部材47の作用力を一対のブレーキアーム19の基端部18が拡開揺動される方向に変換するリンク式倍力装置49と、を備える。
【0046】
ボールナット35は、モータ軸27に固定されており、電動モータ43により回転駆動される。駆動シャフト37は、ボールナット35と共に回転することが規制される一方、軸方向への移動が可能とされており、ボールナット35の回転駆動力により軸方向に沿って移動される。鉄道用ブレーキ装置1は、ボールナット35及び駆動シャフト37が、モータ軸27側に配置されている。
【0047】
伝達部材47は、ウェッジロッド29の雄ねじ29aに雌ねじ47aが螺合して他端である上端に同軸に配置される。この伝達部材47には、ウェッジカム51が設けられている。
リンク式倍力装置49は、図4に示すように、伝達部材47のウェッジカム51のカム作用により、一対のブレーキアーム19の基端部18を拡開揺動する。ブレーキアーム19の各基端部18には、出力軸となるリンクロッド53,54の外側端が球面ブッシュ55により支持される。リンクロッド53,54の内側端は、球面ブッシュ57により、ローラアーム59に連結、支持される。リンクロッド54には、パッドアッセンブリ25の押し付け力を検出するための圧力センサ45が取り付けられている。ローラアーム59の下端は、ベアリング61を介してストラット63の両端部に軸支される。リンク式倍力装置49は、これらリンクロッド53,54、ローラアーム59、ストラット63により構成されている。
【0048】
駆動シャフト37のボールスクリュー91は、ボディ13に固定されたガイドレール65のブッシュ67(図5参照)に対して軸方向に移動可能に支持されている。
ローラアーム59のそれぞれの上端には、カムローラ69が設けられる。一対のカムローラ69の間には、ウェッジカム51が対向するように伝達部材47が挿入される。カムローラ69は、駆動シャフト37の軸方向下側(図4の矢印a方向)への移動に伴い、ウェッジロッド29に取り付けられた伝達部材47におけるウェッジカム51の傾斜面に乗り上げることになる。
【0049】
一対のローラアーム59は、カムローラ69がウェッジカム51の傾斜面へ乗上げることによって、拡開方向(図4の矢印b方向)に揺動する。ローラアーム59は、略中間部に球面ブッシュ57により連結・支持されたリンクロッド53,54を梃子の原理によって倍力して外方(図4の矢印c方向)へ軸動させる。これによって、ブレーキアーム19の各基端部18がブレーキアーム軸17を揺動中心として拡開方向に移動され、ブレーキアーム19の開放端部に配設されたパッドアッセンブリ25がディスクロータ(図2参照)を挟圧してブレーキ動作が行われる。
【0050】
図3及び図4に示すように、本実施形態に係る流体圧ブレーキ機構3は、駆動方向変換機構39を挟んで反対側に配置されたモータユニット21に対して同一直線上に配置される。
流体圧ブレーキ機構3は、エアシリンダ14が駆動シャフト37の上方に配設されており、ブレーキを作動させるため、エアーを供給口16から導入して、エアシリンダ14内部の空圧室に充填させると、エアーピストン(駆動ピストン)85が下側に作動する。
【0051】
エアシリンダ14は、ボディ13の上方に空圧室を区画形成する円筒形のシリンダーライナー86と、シリンダーライナー86内に収容されるエアーピストン85と、を主要な構成として有する。
エアーピストン85は、シリンダーライナー86の内周面との間を気密シールするリップシール88を有する。さらに、ボディ13とシリンダーライナー86との間は、Oリング90により液密シールされている。
【0052】
エアーピストン85の下面には、ガイドスプリング73を介して駆動シャフト37におけるウェッジロッド29の基端部(図中、上端部)が配置される。そこで、下側に作動するエアーピストン85の駆動力は、ウェッジロッド29に作用する。
ウェッジロッド29の軸方向下側(図4の矢印a方向)への移動に伴い、ローラアーム59の上端に取り付けられたカムローラ69は、ウェッジロッド29に取り付けられた伝達部材47におけるウェッジカム51の傾斜面に乗り上げることになる。
【0053】
ウェッジカム51の傾斜面へのカムローラ69の乗上げによって、一対のローラアーム59は拡開方向に揺動する。ローラアーム59は、略中間部に球面ブッシュ57により連結・支持されたリンクロッド53,54を梃子の原理によって倍力して外方(図4の矢印c方向)へ軸動させる。これによって、ブレーキアーム19の各基端部18がブレーキアーム軸17を揺動中心として拡開方向に移動され、ブレーキアーム19の開放端部に配設されたパッドアッセンブリ25がブレーキロータ100(図2参照)を挟圧してブレーキ動作が行われる。
【0054】
ウェッジロッド29の上端の周囲には、円周方向等間隔に複数(本実施形態では4つ)のばね部材である圧縮コイルスプリング31が設けられている。圧縮コイルスプリング31は、復元力が制動力の一部として作用する。鉄道用ブレーキ装置1では、パーキング力と応答性向上のための圧縮コイルスプリング31が、エアーピストン85とウェッジロッド29の基端部との間に介装されている。
【0055】
図5及び図6に示すように、駆動シャフト37におけるウェッジロッド29の上端側には、圧縮コイルスプリング31が接続される。また、駆動シャフト37におけるボールスクリュー91の下端側には、モータユニット21が接続される。
【0056】
鉄道用ブレーキ装置1は、一対のブレーキアーム19の基端部18を拡開させるために制動位置に向けて伝達部材47を押圧するためのばね部材である圧縮コイルスプリング31を備える。圧縮コイルスプリング31のばね付勢力は、パッドアッセンブリ25に対してパーキング制動力(例えば、通常制動力の約半分の制動力)が得られる程度に伝達部材47を非制動位置から制動位置へ押圧付勢できるように設定されている。
【0057】
ウェッジロッド29の上端のフランジ部71には、図3及び図4に示すように、円形のガイドスプリング73が載置される。図6に示すように、ガイドスプリング73の外周上面には、上記した4つの圧縮コイルスプリング31が円周方向に等間隔で載置される。ガイドスプリング73の上方には、略同一外径のエアーピストン85が配置される。
【0058】
エアーピストン85の下面には、圧縮コイルスプリング31と同一ピッチで配置された円柱状の保持部材79が立設される。保持部材79は、エアーピストン85の取付穴87を下方より貫通した上端がワッシャ84及び止めボルト81によりエアーピストン85固定される。圧縮コイルスプリング31に挿通されてガイドスプリング73の下端部は、パッキン77が装着されたガイドスプリング73の貫通穴74に挿通される。
【0059】
ガイドスプリング73は、上面の中央部に凸部82を有する。凸部82の矩形状の開口83には、伝達部材47が嵌挿される。ガイドスプリング73は、ブッシュ97が嵌装されて下面がフランジ部71に当接するリテーナ101と、リテーナ101に螺着される固定ねじ95とによって、開口83に挿入されたウェッジロッド29の上端に固定される。
圧縮コイルスプリング31は、ガイドスプリング73における凸部82の上面がエアーピストン85の下面に当接した状態で、ガイドスプリング73とエアーピストン85との間で圧縮された状態となる。即ち、圧縮コイルスプリング31は、蓄勢状態となる。
【0060】
次に、上述した鉄道用ブレーキ装置1の動作を説明する。
[ブレーキ開放状態]
ブレーキ開放状態(図4に示す非制動位置)では、エアシリンダ14は無加圧、且つ圧縮コイルスプリング31が圧縮(蓄勢)された状態にあり、電磁ロック機構89は通電されている。電磁ロック機構89の回転子115は固定子114に固定されるため、一体のモータ軸27及びボールナット35の回転が制止され、駆動シャフト37(ボールスクリュー91及びウェッジロッド29)が軸方向下側(図4の矢印a側)へ移動するのが阻止され、伝達部材47も固定されている。
【0061】
[常用ブレーキ作動状態]
常用ブレーキ作動状態では、エアシリンダ14は無加圧の状態で、電磁ロック機構89の通電を停止し、電動モータ43に通電する。電磁ロック機構89の回転子115は自由に回転でき、電動モータ43のモータ軸27の回転トルクはボールナット35の回転を介してボールスクリュー91の下方への引き力となる。また、圧縮コイルスプリング31のばね力はガイドスプリング73及びウェッジロッド29を介し、伝達部材47を下方に押す力となる。よって、電動モータ43のモータ軸27の回転トルクと圧縮コイルスプリング31のばね力とにより、伝達部材47は下方の制動位置へ移動する。そこで、ウェッジカム51のカム作用により伝達部材47の作用力を一対のブレーキアーム19の基端部18が拡開揺動される方向に変換し、一対のパッドアッセンブリ25がブレーキロータ100の両側を通常制動力で挟圧してブレーキが作動する。
【0062】
この際に、電磁ロック機構89の通電を停止した瞬間から圧縮コイルスプリング31のばね力が伝達部材47に作用するため、電動モータ43のモータ軸27の回転トルクのみでブレーキを作動させるよりも応答性よくブレーキを作動させることができる。
ブレーキ力は、圧力センサ45によりパッドアッセンブリ25の押し付け力を検出することで検出でき、電動モータ43のトルクを調節することで、任意にコントロールできる。
【0063】
ブレーキを作動状態から開放状態にする際は、電動モータ43のトルクを伝達部材47が上方に動く向きに発生させる。伝達部材47は、電動モータ43のトルクにより上方向に押され、ウェッジロッド29及びガイドスプリング73を介し圧縮コイルスプリング31を圧縮しながら上方の非制動位置に移動する。従って、一対のパッドアッセンブリ25がブレーキロータ100の両側から離れ、ブレーキは開放される。
これと同時に、圧縮コイルスプリング31の付勢力に抗してガイドスプリング73がウェッジロッド29により押し上げられ、圧縮コイルスプリング31は初期位置である蓄勢状態に戻される(図4の位置)。そして、伝達部材47が上端まで移動したところで電磁ロック機構89に通電し、電磁ロック機構89の回転子115を固定し、ブレーキ開放状態となる。
【0064】
[電気失陥時のブレーキ]
電気が失陥した場合には、電磁ロック機構89に通電がなくなり、同時に電動モータ43が発生するトルクもゼロとなり、自由に回転する。このため、圧縮コイルスプリング31のばね力が伝達部材47を下方に押し下げる力として作用し、ブレーキが作動する。
さらに、エアシリンダ14内部の空圧室にエア圧を加え、エア圧を適切に変化させることにより、ブレーキ力を変化させることができる。
【0065】
[パーキングブレーキ]
パーキングブレーキ時には、電磁ロック機構89と電動モータ43の通電を停止する。すると、電気失陥時と同様に圧縮コイルスプリング31のばね力によりパーキングブレーキが作動する。
【0066】
[手動によるブレーキ開放]
電気失陥時にブレーキが作動した際、必要に応じて手動によりブレーキを開放させる。
先ず、モータユニット21のアンダーカバー121を外す。この際に、電磁ロック機構89の固定子114はアンダーカバー121に固定されているため、同時に外れる。
駆動シャフト37における電動モータ43側の端部であるボールスクリュー91の下端には、駆動シャフト37を回転させるための六角レンチ(治具)が係合する治具係合部である六角穴92が設けられている。そこで、ボールスクリュー91の下端の六角穴92に六角レンチを入れ、伝達部材47を上方にさせる向きにボールスクリュー91を回転させる。すると、駆動シャフト37(ボールスクリュー91及びウェッジロッド29)が回転するため、ウェッジロッド29と螺合している伝達部材47が上方の非制動位置に上がり、ブレーキが開放される。
【0067】
次に、上記した構成の作用を説明する。
本実施形態に係る鉄道用ブレーキ装置1によれば、電動ブレーキ機構5と流体圧ブレーキ機構3とを併用することで、電動モータ43だけでパッドアッセンブリ25の押し付け力を得る必要がなくなり、小出力の電動モータ43を用いると共に電動ブレーキ機構5を小型化することができる。そこで、鉄道用ブレーキ装置1の可動部分の慣性モーメントを小さくして電動モータ43の応答性の向上を図ることができる。
【0068】
また、流体圧ブレーキ機構3は、停電時にもパッドアッセンブリ25の押し付け力を発生することができる信頼性が高いエアシリンダ14を用いることによって、ブレーキの高い信頼性を維持することができる。即ち、電動ブレーキ機構5を備えた本実施形態の鉄道用ブレーキ装置1は、停電や電動モータ43の電気失陥が発生したときの失陥保障(フェイルセーフ;FAIL SAFE)を可能とすることができる。さらに、エアシリンダ14のエア圧を適切に変化させることにより、ブレーキ力を変化させることができる。なお、流体圧ブレーキ機構3は、エアシリンダ14に限らず、油圧シリンダ等の他の流体圧シリンダを用いることもできる。
【0069】
また、本実施形態に係る鉄道用ブレーキ装置1では、流体圧ブレーキ機構3が、緊急停車時、停電時及び電動モータ43の電気失陥時の少なくともいずれかの場合でブレーキを駆動されることが望ましい。
この場合、常用ブレーキ時には、電動ブレーキ機構5における応答性が良い電動モータ43のトルクを調節することで、ブレーキ力を任意にコントロールすることができる。一方、常用ブレーキ以外のブレーキ動作時には、流体圧ブレーキ機構3における信頼性が高いエアシリンダ14のエア圧によって、電動モータ43の通電状態に係わらず強力なブレーキ力を発生することができる。
【0070】
また、本実施形態に係る鉄道用ブレーキ装置1では、パッドアッセンブリ25がブレーキロータ100に接近する方向へ駆動シャフト37を移動させるエアシリンダ14が、駆動方向変換機構39を挟んで反対側に配置された電動モータ43に対して同一直線上に配置される。そこで、エアシリンダ14と電動モータ43とをコンパクトにレイアウトすることができ、鉄道用ブレーキ装置1の車両搭載性が向上する。
【0071】
また、本実施形態に係る鉄道用ブレーキ装置1では、電動モータ43の回転駆動により、ボールナット35が回転される。ボールナット35は、回転が規制される一方、軸方向への移動が可能な駆動シャフト37のボールスクリュー91に螺合している。そこで、駆動シャフト37は、ボールナット35の回転駆動力により軸方向に沿って移動される。この駆動シャフト37の軸方向の移動力は、駆動シャフト37に対して相対移動不能に固定された伝達部材47によって、ブレーキロータ100に対するパッドアッセンブリ25の接離方向の駆動力に変換される。
そして、パッドアッセンブリ25がブレーキロータ100に接近する方向へ駆動シャフト37を移動させるエアシリンダ14は、ボールナット35及び駆動シャフト37に対して同一直線上に配置される。そこで、エアシリンダ14と駆動方向変換機構39とをコンパクトにレイアウトすることができ、鉄道用ブレーキ装置1の車両搭載性がさらに向上する。
【0072】
また、本実施形態に係る鉄道用ブレーキ装置1では、伝達部材47は、軸方向に移動する駆動シャフト37に対して螺合することにより相対移動不能に固定されており、駆動シャフト37を回転することで、パッドアッセンブリ25がブレーキロータ100から離間する方向へ伝達部材47を相対移動させることができる。そこで、電気失陥時にブレーキが作動した際は、伝達部材47が非制動位置へ戻るように駆動シャフト37を回転させることで、手動によりブレーキを開放させることができる。
【0073】
更に、駆動シャフト37における電動モータ43側の端部に設けられた六角穴92に六角レンチを係合させることで、モータケース113の外から駆動シャフト37を容易に回転させることができる。
【0074】
また、本実施形態に係る鉄道用ブレーキ装置1では、エアシリンダ14が、駆動シャフト37の端部であるウェッジロッド29の上端部に配置されている。従って、エアシリンダ14は、パッドアッセンブリ25がブレーキロータ100に接近する方向へ駆動方向変換機構39の駆動シャフト37をダイレクトに移動させることができる。そこで、エアシリンダ14と駆動シャフト37とをコンパクトにレイアウトすることができ、エアシリンダ14のエア圧によって駆動シャフト37を効率的に駆動することができる。
【0075】
また、本実施形態に係る鉄道用ブレーキ装置1では、圧縮コイルスプリング31が駆動シャフト37を押圧付勢することで、伝達部材47が制動位置に向けて押圧される。そこで、エアシリンダ14や電動モータ43のみでブレーキを作動させるよりも応答性良くブレーキを作動させることができる。
【0076】
また、本実施形態に係る鉄道用ブレーキ装置1では、圧縮コイルスプリング31の押圧付勢力は、電磁ロック機構89により蓄勢状態に保持される。電磁ロック機構89は、蓄勢状態の保持が解除されることにより、圧縮コイルスプリング31の押圧付勢力で、伝達部材47を非制動位置から制動位置へ動作させる。
電磁ロック機構89は、非制動位置が通電状態となる。つまり、電磁ロック機構89は、通電状態において、圧縮コイルスプリング31を蓄勢状態に保持する。従って、電磁ロック機構89は、通電が遮断されると、蓄勢状態の圧縮コイルスプリング31の保持を解除し、圧縮コイルスプリング31により伝達部材47を制動位置に向けて押圧させる。これにより、電磁ロック機構89は、電気が遮断されたときの失陥保障を可能とすることができる。更に、通電遮断時、圧縮コイルスプリング31により伝達部材47を制動位置へ動作させることで、パーキングブレーキを作動させることができる。
【0077】
また、本実施形態に係る鉄道用ブレーキ装置1では、電磁ロック機構89が、常用ブレーキ時及び常用ブレーキ以外のブレーキ動作時の少なくともいずれかに開放されて圧縮コイルスプリング31の蓄勢状態を解除することが望ましい。
そこで、電磁ロック機構89が常用ブレーキ時に開放される場合には、圧縮コイルスプリング31が駆動シャフト37を押圧付勢することで、応答性良く常用ブレーキを作動させることができる。また、電磁ロック機構89が常用ブレーキ以外のブレーキ動作時に開放される場合には、圧縮コイルスプリング31が駆動シャフト37を押圧付勢することで、応答性良くブレーキ力を作動させることができる。
【0078】
また、本実施形態に係る鉄道用ブレーキ装置1では、常用ブレーキ時に電磁ロック機構89が開放されると共に電動モータ43が駆動され、常用ブレーキ以外のブレーキ動作時に電磁ロック機構89が開放されると共にエアシリンダ14が駆動されることが望ましい。
この場合、常用ブレーキ時には、電動モータ43の回転トルクのみで常用ブレーキを作動させるよりも応答性良く常用ブレーキを作動させることができる。また、常用ブレーキ以外のブレーキ動作時には、エアシリンダ14のエア圧のみで常用ブレーキ以外のブレーキ力を作動させるよりも応答性良くブレーキ力を作動させることができる。
【0079】
また、本実施形態に係る鉄道用ブレーキ装置1では、電磁ロック機構89の電源供給が遮断されることで、電磁ロック機構89によるモータ軸27及びボールナット35の回転制止が解除される。これにより、圧縮コイルスプリング31の復元力が、ガイドスプリング73及びウェッジロッド29を介して伝達部材47を制動位置へ押圧付勢し、制動、停車できるので、失陥保障でき、安全性の向上が図れる。
【0080】
従って、上記実施形態に係る鉄道用ブレーキ装置1によれば、応答性がよく信頼性の高い鉄道用ブレーキ装置を提供することができる。
【0081】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0082】
1…鉄道用ブレーキ装置
19…ブレーキアーム
25…パッドアッセンブリ
27…モータ軸
29…ウェッジロッド
31…圧縮コイルスプリング(ばね部材)
35…ボールナット
37…駆動シャフト
39…駆動方向変換機構
43…電動モータ
18…基端部
47…伝達部材
49…リンク式倍力装置
51…ウェッジカム
89…電磁ロック機構(ばね保持機構)
91…ボールスクリュー
100…ブレーキロータ(被制動部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7