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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 7/04 20060101AFI20231011BHJP
   B23Q 11/08 20060101ALI20231011BHJP
   B23B 15/00 20060101ALI20231011BHJP
   B25J 9/06 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B23Q7/04 M
B23Q11/08 Z
B23B15/00 A
B25J9/06 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020009516
(22)【出願日】2020-01-23
(65)【公開番号】P2021115652
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森村 章一
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-098479(JP,A)
【文献】特開昭61-136782(JP,A)
【文献】実開昭60-017902(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 7/00- 7/18
B23Q 3/155
B25J 1/00-21/02
B23B15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工室内に配置され、ワークを、水平方向に平行なワーク回転軸周りに回転可能に保持する主軸台と、
前記加工室内に配置され、前記ワーク回転軸に平行な第一軸方向および前記第一軸に直交する第二軸方向に移動可能で、工具を保持する刃物台と、
前記加工室内に配置されるロボットと、
前記加工室の周囲を囲むカバーと、
前記カバーに設けられ、前記加工室の内外を連通する開口部と、
前記開口部を開閉可能に覆うドアと、
を備え、前記ロボットは、前記加工室内に固定される根本関節と、前記根本関節より先端側に位置するとともに互いに関節連結された複数のリンクを有するリンクユニットと、を備え、
前記根本関節は、前記ワーク回転軸に直交する方向に伸縮可能な直動関節であり、前記リンクユニット全体を前記加工室内に位置させる長さと、前記リンクユニット全体を加工室外に位置させる長さと、の間で伸縮可能な直動関節である、
ことを特徴とする工作機械。
【請求項2】
請求項1に記載の工作機械であって、
前記複数のリンクは、いずれも、前記根本関節の伸縮方向と平行な軸回りに回転可能である、ことを特徴とする工作機械。
【請求項3】
請求項2に記載の工作機械であって、
前記リンクユニットは、
根本関節に連結された第一リンクと、
第二関節を介して前記第一リンクに連結された第二リンクと、
第三関節を介して前記第二リンクに連結された第三リンクと、
第四関節を介して前記第三リンクに連結されたエンドエフェクタと、
を含み、第二関節、第三関節、および第四関節は、いずれも、前記根本関節の伸縮方向と平行な軸回りに回転する回転関節である、
ことを特徴とする工作機械。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の工作機械であって、
前記第二軸は、前記回転軸に近づくにつれて下方に進むように、水平面に対して角度θだけ傾斜しており、
前記根本関節の伸縮方向と前記第二軸とが成す角度は、θ/2未満である、
ことを特徴とする工作機械。
【請求項5】
請求項4に記載の工作機械であって、
前記根本関節の伸縮方向は、前記第二軸と平行方向である、ことを特徴とする工作機械。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の工作機械であって、
前記工作機械が、横形旋盤である、ことを特徴とする工作機械。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の工作機械であって、
前記工作機械が、円筒研削盤である、ことを特徴とする工作機械。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の工作機械であって、
前記根本関節は、前記開口部と対向する面に取り付けられている、ことを特徴とする工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、水平方向に平行なワーク回転軸周りに回転可能にワークを保持する主軸台と、工具を保持する刃物台と、を有した工作機械を開示する。
【背景技術】
【0002】
近年、工作機械の自動化に対する要求が高くなっている。こうした要求に応えるために、従来から、ロボットの利用が提案されている。例えば、特許文献1には、工作機械の側部に、ワークの供給・排出場所であるパレットを設けた加工装置が開始されている。特許文献1では、さらに、この工作機械およびパレットの上部に配置されたガントリーレールと、当該ガントリーレールに沿って走行する多関節ロボットと、を設けている。そして、この多関節ロボットを利用して、パレットと工作機械の内部との間で、ワークを搬送する。また、特許文献2には、工作機械、具体的には、横形旋盤の加工室内にロボットを配置し、当該ロボットを用いて、加工の補助やワークの搬送等の作業を行う技術が開示されている。特許文献2において、ロボットは、主軸台のワーク回転軸と平行な軸回りに回転可能な基礎関節と、基礎関節の回転軸に直交する軸回りに回転する三つの平行関節と、を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-64158号公報
【文献】特開2019-098479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、工作機械およびパレットに跨って延びるガントリーレールを設ける必要があるため、加工装置全体のサイズが大きくなり、また、コストが高くなる。また、特許文献1では、ロボットは、ワークの搬送にのみ利用されており、ロボットを、加工室の内部において加工の補助や加工情報の取得といった作業に利用することは、想定されていない。
【0005】
また、特許文献2の技術では、特許文献1の技術に比べて、ロボットを含む工作機械全体を、比較的、小型に構成できる。しかし、加工室の外部に設けられたワークストッカと、主軸台と、の間でワークを搬送するには、特許文献2の技術は、更なる改善の余地があった。すなわち、特許文献2のロボットの場合、当該ロボットで保持されるワークの軸方向は、常に水平方向と平行となる。そのため、ワークは、その軸方向が水平方向と平行となる横置きの姿勢で、ワークストッカに載置されることとなる。横置きの場合、ワークの軸方向が鉛直方向となる縦置きに比べて、ワークストッカに載置できるワークの個数が限定される。そのため、特許文献2では、多数のワークを自動で交換可能にするためには、ワークストッカの周辺に、ワークを駆動するための何らかの駆動部を設ける必要がある。結果として、特許文献2でも、コストアップの問題が残る。
【0006】
そこで、本明細書では、コストを抑えつつ、加工室の内外で様々な作業が可能なロボットを有した工作機械を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示する工作機械は、加工室内に配置され、ワークを、水平方向に平行なワーク回転軸周りに回転可能に保持する主軸台と、前記加工室内に配置され、前記ワーク回転軸に平行な第一軸方向および前記第一軸に直交する第二軸方向に移動可能で、工具を保持する刃物台と、前記加工室内に配置されるロボットと、前記加工室の周囲を囲むカバーと、前記カバーに設けられ、前記加工室の内外を連通する開口部と、前記開口部を開閉可能に覆うドアと、を備え、前記ロボットは、前記加工室内に固定される根本関節と、前記根本関節より先端側に位置するとともに互いに関節連結された複数のリンクを有するリンクユニットと、を備え、前記根本関節は、前記ワーク回転軸に直交する方向に伸縮可能な直動関節であり、前記リンクユニット全体を前記加工室内に位置させる長さと、前記リンクユニット全体を加工室外に位置させる長さと、の間で伸縮可能な直動関節である、ことを特徴とする。
【0008】
この場合、前記複数のリンクは、いずれも、前記根本関節の伸縮方向と平行な軸回りに回転可能であってもよい。
【0009】
また、前記リンクユニットは、根本関節に連結された第一リンクと、第二関節を介して前記第一リンクに連結された第二リンクと、第三関節を介して前記第二リンクに連結された第三リンクと、第四関節を介して前記第三リンクに連結されたエンドエフェクタと、を含み、第二関節、第三関節、および第四関節は、いずれも、前記根本関節の伸縮方向と平行な軸回りに回転する回転関節であってもよい。
【0010】
また、前記第二軸は、前記回転軸に近づくにつれて下方に進むように、水平面に対して角度θだけ傾斜しており、前記根本関節の伸縮方向と前記第二軸とが成す角度は、θ/2未満であってもよい。この場合、前記根本関節の伸縮方向は、前記第二軸と平行方向でもよい。
【0011】
また、前記工作機械は、横形旋盤でもよいし、円筒研削盤でもよい。
【発明の効果】
【0012】
本明細書に開示の工作機械によれば、ロボットの根本関節を伸縮させることで、リンクユニットを加工室の内外に移動できる。そして、これにより、コストを抑えつつ、加工室の内外でロボットが様々な作業を行える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】工作機械の斜視図である。
図2】一部のカバーを取り外した工作機械の斜視図である。
図3】機内ロボットでワークを交換する様子を示す斜視図である。
図4】機内ロボットによるワーク交換の様子を示す模式図である。
図5】機内ロボットによるワーク交換の様子を示す模式図である。
図6】機内ロボットによるワーク交換の様子を示す模式図である。
図7】機内ロボットによるワーク交換の様子を示す模式図である。
図8】機内ロボットでワークを交換する様子を示す斜視図である。
図9】機内ロボットでワークを交換する様子を示す斜視図である。
図10】機内ロボットでワークを交換する様子を示す斜視図である。
図11】エンドエフェクタ周辺の拡大斜視図である。
図12】第三軸が水平な機内ロボットの動きの一例を示す図である。
図13】第三軸が水平な機内ロボットの動きの一例を示す図である。
図14】第三軸が傾斜した機内ロボットの動きの一例を示す図である。
図15】第三軸が傾斜した機内ロボットの動きの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、工作機械10について図面を参照して説明する。図1は、工作機械10の斜視図である。また、図2は、一部のカバー14の図示を省略した工作機械10の斜視図である。以下の説明では、主軸台20の回転軸と平行な方向をZ軸、刃物台30のZ軸と直交する移動方向と平行な方向をX軸、X軸およびZ軸に直交する方向をY軸と呼ぶ。また、Z軸においては、主軸台20から心押台36に近づく向きをプラス方向、X軸においては、ワーク回転軸Rwから刃物台30に近づく向きをプラス方向、Y軸においては、主軸台20から上に向かう向きをプラス方向とする。
【0015】
この工作機械10は、ワーク100を水平軸回りに回転保持する主軸台20を有した横形旋盤である。より具体的には、本例の工作機械10は、複数種類の工具110を保持するタレット32を有したターニングセンタである。
【0016】
工作機械10の加工室12の周囲は、カバー14で覆われている。加工室12の前面には、大きな開口部16が形成されており、この開口部16は、ドア18により開閉される。本例では、ドア18は、左右方向にスライド移動することで開口部16を開閉するスライドドアである。もちろん、ドア18は、スライドドアに替えて、他の形態のドア、例えば、開き戸や、折れ戸タイプのドアでもよい。オペレータは、この開口部16を介して、加工室12内の各部にアクセスする。加工中、開口部16に設けられたドア18は、閉鎖される。これは、安全性や環境性等を担保するためである。
【0017】
工作機械10は、ワーク100の一端を自転可能に保持する主軸台20と、工具を保持する刃物台30と、ワーク100の他端を支える心押台36と、を備えている。主軸台20は、駆動源としてモータ(図示せず)を有しており、主軸台20の端面(主軸端21)には、ワーク100を着脱自在に保持するチャック26が設けられている。モータが駆動することで、ワーク100は、チャック26とともに、水平方向に平行なワーク回転軸Rwを中心として自転する。
【0018】
心押台36は、主軸台20とZ軸方向に対向して配置されており、主軸台20で保持されたワーク100の他端を支える。心押台36は、ワーク100に対して接離できるように、Z軸方向に移動可能となっている。
【0019】
刃物台30は、工具を保持する。この刃物台30は、Z軸、すなわち、主軸台20で保持されたワーク100の軸と平行な軸である第一軸A1方向に移動可能となっている。また、刃物台30は、X軸と平行な第二軸A2、換言すれば、ワーク100の径方向に平行な第二軸A2方向にも進退できるようになっている。なお、図から明らかな通り、第二軸A2(X軸)は、加工室12の前面からみて、奥側に進むにつれ上方に進むように、水平方向に対して傾いている。
【0020】
刃物台30のZ方向端面には、複数の工具を保持可能なタレット32が設けられている。タレット32は、Z軸方向視で多角形をしており、Z軸に平行な軸を中心として回転可能となっている。このタレット32の周面には、工具が装着できる工具装着部(図示せず)が複数設けられている。そして、タレット32を回転させることで、加工に使用する工具を変更できるようになっている。
【0021】
加工室12内には、さらに、機内ロボット40が設けられている。機内ロボット40は、加工室12の内外において様々な作業を実行する。この機内ロボット40は、関節で連結された複数のリンクを有した多関節ロボットである。より具体的には、機内ロボット40は、加工室12内に固定された根本関節42と、根本関節42に連結された第一リンク50と、第二関節44を介して第一リンク50に連結された第二リンク52と、第三関節46を介して第二リンク52に連結された第三リンク54と、第四関節48を介して第三リンク54に連結されたエンドエフェクタ56と、を有する。以下では、根本関節42よりも先端側に位置する第二リンク52からエンドエフェクタ56までの部分をリンクユニット58と呼ぶ。
【0022】
根本関節42は、加工室12の壁面のうち、開口部16との対向面に固着されている。この根本関節42は、特定の方向に伸縮可能な直動関節である。本例では、根本関節42は、水平方向に平行かつワーク回転軸Rwに直交する方向に伸縮する。以下では、この根本関節42の伸縮方向の軸を第三軸A3と呼ぶ。根本関節42が最も収縮した状態では、当該根本関節42の末端は、加工室12内に位置しており、リンクユニット58全体も加工室12内に位置する。一方、根本関節42が、最大限まで伸長した状態では、当該根本関節42の末端は、加工室12の外部に位置しており、リンクユニット58全体も加工室12の外部に位置する。図3は、根本関節42を伸長させて、リンクユニット58を加工室12の外部に位置させた様子を示す斜視図である。
【0023】
第二~第四関節44,46,48は、いずれも、第三軸A3と平行な軸周りに回転可能な回転関節である。第二~第四関節44,46,48を全て、互いに平行な軸回りに回転する回転関節とすることで、エンドエフェクタ56の位置演算を簡易化できる。すなわち、かかる構成とした場合、エンドエフェクタ56は、第三軸A3に直交する面内でのみ移動する。この直交する面の第三軸A3方向の位置は、根本関節42の伸長量から容易に算出できる。また、当該直交する面内でのエンドエフェクタ56の位置演算は、二次元的な位置演算となるため、三次元的な位置演算をする場合に比べて、演算量を低減できる。
【0024】
エンドエフェクタ56は、対象物にアクセスして何らかの作用を発揮するものであれば特に限定されない。エンドエフェクタ56は、機内ロボット40のうち、関節の駆動に伴い変位する位置であれば、どこに取り付けられてもよい。ただし、他部材との干渉を避けつつ対象物にアクセスするためには、エンドエフェクタ56は、機内ロボット40の先端(第三リンク54の先端)に取り付けられてもよい。
【0025】
また、エンドエフェクタ56は、機内ロボット40に分離不能に取り付けられてもよいが、機内ロボット40の汎用性を向上するため、エンドエフェクタ56は、機内ロボット40に着脱自在に取り付けられてもよい。したがって、機内ロボット40の一部(図示例では、第三リンク54の先端)には、エンドエフェクタ56を着脱自在に保持するツールチェンジャが設けられてもよい。また、機内ロボット40に取り付けられるエンドエフェクタ56の個数は、一つに限らず、複数でもよい。
【0026】
また、エンドエフェクタ56は、上述したとおり、何らかの作用を発揮するものであれば、特に限定されない。したがって、エンドエフェクタ56は、例えば、対象物を保持する保持装置であってもよい。保持装置における保持の形式は、一対の部材で対象物を把持するハンド形式でもよいし、対象物を吸引保持する形式でもよいし、磁力等を利用して保持する形式等でもよい。図1図2の図示例では、エンドエフェクタ56は、一対のアームでワーク100を挟持可能なグリッパである。
【0027】
また、別の形態として、エンドエフェクタ56は、例えば、対象物や対象物の周辺環境に関する情報をセンシングするセンサでもよい。センサとしては、例えば、対象物への接触の有無を検知する接触センサや、対象物までの距離を検知する距離センサ、対象物の振動を検知する振動センサ、対象物から付加される圧力を検知する圧力センサ、対象物の温度を検知する温度センサ等とすることができる。これらセンサでの検知結果は、関節の駆動量から算出されるエンドエフェクタ56の位置情報と関連付けて記憶され、解析される。例えば、エンドエフェクタ56が、接触センサの場合、コントローラ59は、対象物への接触を検知したタイミングと、そのときの位置情報と、に基づいて、対象物の位置や形状、動きを解析する。
【0028】
また、別の形態として、例えば、エンドエフェクタ56は、対象物を押圧する押圧機構としてもよい。具体的には、例えば、エンドエフェクタ56は、ワーク100に押し当てられて、当該ワーク100の振動を抑制するローラ等でもよい。また、別の形態として、エンドエフェクタ56は、加工を補助するための流体を出力する装置でもよい。具体的には、エンドエフェクタ56は、切粉を吹き飛ばすためのエアや、工具またはワーク100を冷却するための冷却用流体(切削油や切削水等)を放出する装置でもよい。また、エンドエフェクタ56は、ワーク造形のためエネルギまたは材料を放出する装置でもよい。したがって、エンドエフェクタ56は、例えば、レーザやアークを放出する装置でもよいし、積層造形のために材料を放出する装置でもよい。さらに別の形態として、エンドエフェクタ56は、対象物を撮影するカメラでもよい。この場合、カメラで得た映像を操作パネル等に表示してもよい。
【0029】
ここで、このエンドエフェクタ56は、回転関節である第四関節48を介して第三リンク54に連結されている。そのため、エンドエフェクタ56の姿勢は、適宜、変更可能である。したがって、例えば、エンドエフェクタ56が、ワーク100を保持するグリッパの場合、エンドエフェクタ56で保持されたワーク100の姿勢を、ワーク100の軸方向が水平となる横置き姿勢と、ワーク100の軸方向が鉛直となる縦置き姿勢と、に変更可能となる。
【0030】
工作機械10には、さらに、コントローラ59が設けられている。コントローラ59は、オペレータからの指示に応じて、工作機械10の各部の駆動を制御する。このコントローラ59は、例えば、各種演算を行うプロセッサと、各種制御プログラムや制御パラメータを記憶するメモリと、で構成される。また、コントローラ59は、通信機能を有しており、他の装置との間で各種データ、例えば、NCプログラムデータ等を授受できる。このコントローラ59は、例えば、工具やワーク100の位置を随時演算する数値制御装置を含んでもよい。また、コントローラ59は、単一の装置でもよいし、複数の演算装置を組み合わせて構成されてもよい。
【0031】
次に、こうした工作機械10での機内ロボット40の動きについて説明する。機内ロボット40は、上述した通り、その末端が加工室12内に位置する状態と、その末端が加工室12の外部に位置する状態とに伸縮可能な直動関節である根本関節42を有する。かかる構成とすることで、機内ロボット40は、加工室12の内部および外部の双方において、様々な作業を行える。例えば、エンドエフェクタ56が、ワーク100を保持可能なグリッパの場合、機内ロボット40は、ワーク100の交換作業を実行できる。
【0032】
機内ロボット40を用いてワーク100を交換する場合、図3に示すように、工作機械10の外部かつ開口部16の近傍に、ワークストッカ60を配置する。ワークストッカ60は、複数の円柱状のワーク100が、収容可能であれば、その構成は限定されない。したがって、ワークストッカ60は、円柱状のワーク100を横置き姿勢で載置可能な、普通のテーブルでもよい。ただし、横置き姿勢の場合、円柱状のワーク100の安定性が悪く、載置されたワーク100が転がりやすい。また、横置き姿勢の場合、ワーク100の平面スペースが大きくなりやすいため、一定の面積内に載置できるワーク100の個数が少ない。そこで、ワークストッカ60は、図3に示すように、円柱状のワーク100を縦置き姿勢で載置する構成でもよい。具体的には、図3のワークストッカ60は、階段状に複数の載置面が形成されており、各載置面には、円柱状のワーク100の下端が挿し込まれる支持穴が複数形成されている。このワークストッカ60は、縦置き姿勢での自立が困難な小径長軸のワーク100の載置に適している。
【0033】
図4図7は、主軸台20で保持された加工済みのワーク100をワークストッカ60に載置する場合の機内ロボット40の動きの模式図である。主軸台20で保持された加工済みのワーク100をワークストッカ60に載置する場合、コントローラ59は、図4に示すように、エンドエフェクタ56が、ワーク100の第三軸A3方向開口部16側に位置するように根本関節42および第二、第三関節44,46を駆動する。また、コントローラ59は、グリッパを構成する一対のアーム57が、鉛直方向に並ぶように第四関節48を駆動する。
【0034】
図5に示す状態になれば、続いて、コントローラ59は、ワーク100の上下両側にアーム57が位置するまで、根本関節42を収縮させ、エンドエフェクタ56を第三軸A3方向奥側に移動させる。その後、コントローラ59は、アーム57の間隔を狭めて、図5に示すように、一対のアーム57でワーク100を挟持させる。また、コントローラ59は、チャック26を解除する。この状態になれば、コントローラ59は、機内ロボット40を駆動して、ワーク100が、チャック26および主軸台20と干渉しない位置まで搬送する。
【0035】
次に、コントローラ59は、図6に示すように、第四関節48を90度回転させる。これにより、エンドエフェクタ56で保持されているワーク100の姿勢が横置き姿勢から縦置き姿勢に変化する。続いて、コントローラ59は、図7に示すように、リンクユニット58全体が加工室12の外部に位置するまで、根本関節42を伸長させる。その後、コントローラ59は、第二関節44、第三関節46を駆動して、ワーク100を、ワークストッカ60の支持穴に差し込ませる。これで、加工済みのワーク100の搬送作業は完了となる。ワークストッカ60に載置されている加工前のワーク100を主軸台20に搬送する場合は、逆の手順で行う。
【0036】
このように、本例では、リンクユニット58が、加工室12の内部および外部の双方に移動できるため、ワーク100を加工室12の内外に容易に搬送できる。また、本例では、エンドエフェクタ56で保持したワークの姿勢を、横置き姿勢から縦置き姿勢に変更できる。これにより、ワークストッカ60側に複雑な機構を設けなくても、ワーク100を縦置き姿勢で載置することができる。
【0037】
なお、ワークストッカ60の形態は、取り扱うワーク100の形状や、エンドエフェクタ56の向き等に応じて、適宜変更されてもよい。例えば、ワーク100の中には、縦置き姿勢でも自立可能な程度に大径短軸のものもある。この場合、図8に示すように、複数のワーク100を、その軸方向に積み重ねてもよい。また、積み重ねられたワーク100の落下を防止するために、ワークストッカ60には、ワーク100の周囲を取り囲む複数の支柱62を設けてもよい。
【0038】
また、これまでの説明では、エンドエフェクタ56は、そのアーム57が、第三軸A3と平行となる姿勢で第三リンク54に取り付けられており、ワークストッカ60の段差面は、第三軸A3と平行な方向に並んでいる。しかし、エンドエフェクタ56の取り付けの向きは適宜変更されてもよい。例えば、図9に示すように、そのアームの向きが、第三軸A3に直交する姿勢で、エンドエフェクタ56が第三リンク54に取り付けられてもよい。この場合、ワークストッカ60の段差面は、第三軸A3に直交する方向、すなわち、アームの軸方向と平行な方向に並んでもよい。また、ワークストッカ60は、図10に示すように、段差面を有さないものでもよい。また、これまでの説明では、いずれもワークを縦置き姿勢で載置していたが、横置き姿勢や斜めの姿勢で載置してもよい。
【0039】
また、機内ロボット40は、加工室12の内外に跨る作業に限らず、加工室12の内部で完結する作業も実行可能である。例えば、図11に示すように、グリッパの横に、追加のエンドエフェクタ70として、切削水ノズルを設けた場合を考える。この場合、機内ロボット40の姿勢を適宜変更することで、加工室12内部の様々な箇所に切削水を噴射できる。
【0040】
ここで、これまでの説明で明らかな通り、機内ロボット40は、根本関節42の伸縮量によっては、その全体が加工室12の内部に納まる。そのため、ワーク100の加工を行う期間中、すなわち、ドア18が閉鎖されている期間中も、機内ロボット40は、加工室12内に留まることができる。そのため、機内ロボット40は、主軸台20および刃物台30で実行される加工の補助作業や、加工に関する情報取得作業等も実行できる。例えば、旋削加工の際には、長く連なった流れ型の切粉が発生し、当該切粉がワーク等に絡みつく場合がある。この場合には、機内ロボット40に取り付けられた切削水ノズルを用いて、加工点、すなわち工具の先端を狙って切削水を噴射してもよい。かかる構成とすることで、切粉の動きを抑制し、絡みつきを防止できる。なお、加工点の位置は、加工の進行に応じて徐々に変化するが、機内ロボット40に取り付けられたエンドエフェクタ56,70は、四つの関節42~48を駆動することで3次元的に変位可能であるため、加工点の移動に追従できる。
【0041】
また、グリッパに替えて、または、加えて、ローラ等をエンドエフェクタ56として設け、当該ローラ等を旋削加工中のワーク100に接触させてもよい。かかる構成とすることで、ワーク100のビビリ振動を抑制できる。また、グリッパに替えて、または、加えて、エンドエフェクタ56として温度センサを設け、旋削加工中のワーク100の温度を測定してもよい。
【0042】
なお、これまでの説明では、根本関節42の伸縮方向(すなわち第三軸A3)を、刃物台30の移動方向である第二軸A2に対して非平行としている。しかし、第三軸A3が、第二軸A2と平行になるようにしてもよい。かかる構成とすることで、機内ロボット40を小型化でき、また、エンドエフェクタ56を工具に容易に追従させることができる。これについて、図12図15を参照して説明する。図12図15は、刃物台30および機内ロボット40の概略的な側面図である。これまで説明した通り、第二軸A2および第三軸A3はいずれも、ワーク回転軸Rwに直交する方向である。ここで、図12図13に示すように、第二軸A2が、開口部16に近づくにつれて下方に進むように傾斜しており、第三軸A3が、水平方向と平行な場合を考える。この場合、リンクユニット58の姿勢が一定の場合、刃物台30が、Z軸マイナス側に進むにつれて、エンドエフェクタ56と工具との距離が広がる。そのため、エンドエフェクタ56を工具の近傍に保つためには、根本関節42の伸長と並行して、リンクユニット58の姿勢を変更して、エンドエフェクタ56を下方に移動させる必要がある。こうした制御は、複雑であり、演算量の増加を招く。
【0043】
また、刃物台30が、X方向マイナス側の端部に到達した際も、エンドエフェクタ56を工具の近傍に位置させるためには、各リンク50,52,54を充分に長くする必要があり、機内ロボット40全体が大型化しやすい。
【0044】
一方、図14図15に示すように、第三軸A3が、第二軸A2と平行になるように傾いている場合、刃物台30の第二軸A2に沿った移動に連動して、根本関節42を伸長させれば、エンドエフェクタ56を工具の近傍に保つことができる。その結果、エンドエフェクタ56を容易に、工具に追従させることができる。また、刃物台30が、X方向マイナス側の端部に到達した際も、機内ロボット40と刃物台30との距離を短く抑えることができるため、各リンク50,52,54を比較的短くすることができ、機内ロボット40全体を小型化できる。なお、根本関節42の伸縮方向(すなわち第三軸A3)は、第二軸A2に完全に平行でなくてもよい。例えば、図15に示すように、第二軸A2と水平面との成す角度がθであったとする。この場合、第三軸A3と第二軸A2との成す角度をθ/2未満に抑えれば、第三軸A3を水平とする場合に比べて、機内ロボット40全体を小型化できる。
【0045】
また、これまで説明した構成は、いずれも、一例であり、少なくとも、水平な軸回り回転可能にワーク100を保持する主軸台20と、工具を保持する刃物台30と、加工室12内に設けられた機内ロボット40と、を備え、機内ロボット40がリンクユニット58と、当該リンクユニット58を加工室12の内外に移動させる直動関節(すなわち根本関節42)と、を有するのであれば、その他の構成は、適宜、変更されてもよい。したがって、リンクユニット58は、上記の構成に限らず、適宜、変更されてもよい。また、本明細書で開示の技術は、ワーク100を回転保持する主軸台20と、工具(図示せず)を保持する刃物台30と、を有するのであれば、他の形態の工作機械に適用されてもよい。例えば、本明細書で開示する技術は、旋盤とフライス盤を組み合わせた複合加工機に適用されてもよいし、円筒研削盤に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0046】
10 工作機械、12 加工室、14 カバー、16 開口部、18 ドア、20 主軸台、21 主軸端、26 チャック、30 刃物台、32 タレット、36 心押台、40 機内ロボット、42 根本関節、44 第二関節、46 第三関節、48 第四関節、50 第一リンク、52 第二リンク、54 第三リンク、56 エンドエフェクタ、57 アーム、58 リンクユニット、59 コントローラ、60 ワークストッカ、62 支柱、70 追加のエンドエフェクタ、100 ワーク、110 工具、A1 第一軸、A2 第二軸、A3 第三軸、Rw ワーク回転軸。
図1
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