(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】コネクタ及びコネクタ対
(51)【国際特許分類】
H01R 13/03 20060101AFI20231011BHJP
C25D 9/08 20060101ALI20231011BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20231011BHJP
C23C 28/04 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
H01R13/03 D
C25D9/08
C23C26/00 C
C23C28/04
(21)【出願番号】P 2020010601
(22)【出願日】2020-01-27
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】久保 利隆
(72)【発明者】
【氏名】関 和彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 光博
(72)【発明者】
【氏名】畠山 一翔
(72)【発明者】
【氏名】古賀 健司
(72)【発明者】
【氏名】清水 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】葉 楠
(72)【発明者】
【氏名】川合 裕輝
【審査官】濱田 莉菜子
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第207572578(CN,U)
【文献】特開2021-057313(JP,A)
【文献】特開2018-056119(JP,A)
【文献】特開2009-026500(JP,A)
【文献】特開2003-178830(JP,A)
【文献】特開2018-092934(JP,A)
【文献】特開2001-291571(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0344125(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/03
C25D 9/08
C23C 26/00
C23C 28/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1コネクタと、該第1コネクタに電気的に接続される第2コネクタとを備えるコネクタ対であって、
前記第1コネクタが、金属基材上にグラフェン膜を設け
、さらに前記金属基材と前記グラフェン膜との間に導電性高分子膜を設けた電気接点材料を備え、
前記第2コネクタが、前記グラフェン膜を介して前記第1コネクタと電気的に接続される電気接点材料を備え、
前記第1コネクタ及び前記第2コネクタの電気接点材料同士の接触面積が、前記グラフェン膜が前記金属基材を被覆する面積よりも小さい
ことを特徴とする、コネクタ対。
【請求項2】
前記第1コネクタの電気接点材料における金属基材が、これを構成する金属の酸化物膜を表面に備える、請求項1に記載のコネクタ対。
【請求項3】
前記金属基材が銅であり、前記酸化物膜が亜酸化銅(Cu
2O)又は酸化銅(CuO)である、請求項2に記載のコネクタ対。
【請求項4】
前記グラフェン膜が、還元型酸化グラフェン(Reduced Graphene Oxide(rGO))である、請求項1~3のいずれか1項に記載のコネクタ対。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のコネクタ対の第1コネクタに用いるコネクタであって、金属基材上にグラフェン膜を設け
、さらに前記金属基材と前記グラフェン膜との間に導電性高分子膜を設けた電気接点材料を備えることを特徴とするコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ及びコネクタ対に関する。
【背景技術】
【0002】
電線同士、又は電線と電気機器とを接続するコネクタは、コネクタ端子の接点部分を保護するために、通常、金属メッキ等により表面が被覆されている。
【0003】
しかし、金以外の金属は、程度の差こそあれ、コネクタの使用環境下で酸化してしまうため、これを表面に被覆しても、使用環境や条件によっては酸化により電気抵抗の高い酸化物を生成し、接点部分の電気抵抗を上昇させることがある。
【0004】
こうした電気接点の劣化、特に導電性の低下は、コネクタの電力損失の増大や導通不良といった信頼性の低下につながるため、問題とされていた。
【0005】
他方、電気接点の接触面を金でメッキした場合、酸化に起因する劣化の可能性はほとんどないものの、高価な材質であるため製造コストが高くなることが問題であった。
【0006】
そこで、電気接点表面の酸化、及びこれによる導電性の低下を低コストで抑制するために、種々の対策が検討されてきた。
【0007】
例えば、特許文献1では、銅箔ないし銅基板上にグラフェンからなる層を積層して電気接点材料としている。特許文献1によれば、「上記電気接点材料においては、基材上に炭素材料層が設けられていることにより、該電気接点材料を用いて電気接点を作製した場合に、基材上での金属酸化物膜の生成が抑制できる。このため、本発明の電気接点においては、導通が阻害されることもなく、優れた接触信頼性を実現できる。」(段落[0020])とされている。
【0008】
また、特許文献2では、基材上にNi、Sn、Al、Zn、Cu、In又はこれらの合金からなる金属層を形成し、当該金属層の形成後に形成された酸化物層を除去した後、前記金属層の表面を酸化処理ないし水酸化処理して、導電性酸化物層ないし導電性水酸化物層を形成してコネクタ用電気接点材料としている([請求項1]、[請求項2])。特許文献2によれば、「安価でありながら、安定した接触抵抗を長期間に亘って維持して電気的信頼性および耐久性に優れる・・・コネクタ用電気接点材料を得ることができ、このようなコネクタ用電気接点材料を用いることにより、高温環境下や振動下で安定した接触抵抗のコネクタを提供することができる。」(段落[0071])とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-56119号公報
【文献】特開2012-237055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1、2に開示された技術はいずれも、基材上に、低抵抗とはいえ電気抵抗値を有する被覆を追加しているため、電気抵抗を直列接続した場合と等価な状態となっており、基材単独で電気接点材料を形成した場合に比べて、初期の(劣化が生じる前の)電気抵抗値が増加することが懸念される。特に、特許文献1で形成されているグラフェン層は、横(面内)方向の電気抵抗率は極めて小さいものの、縦(厚さ)方向の電気抵抗率は、一部の金属酸化物よりも大きいことから、前述の懸念は大きい。特許文献1、2にはそれぞれ、導電性被覆を形成した電気接点材料が、これを形成していないものと同程度の抵抗値を示した旨が記載されている(特許文献1:段落[0074]、[
図3]、[
図6]、特許文献2:段落[0123]~[0127]、[
図6])が、あらゆる形状、寸法及び接触態様のコネクタにおいて電気抵抗値が増加しないことを保証するものではない。
【0011】
そこで本発明は、酸化による導電性の低下が抑制された、電気抵抗値の低いコネクタ及びコネクタ対を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前述の目的を達成するための検討の過程で、表面をグラフェン膜で被覆した電気接点材料について、当該表面の一部分のみに測定用端子を当接して測定した厚み方向の電気抵抗値が、当該被覆を有さないものよりも有意に低くなることを見出した。そして、この現象が起こるメカニズムを検証した結果、この現象が、特定の接触態様のコネクタないしコネクタ対において電気抵抗値の低減に大きく寄与することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の一実施形態は、第1コネクタと、該第1コネクタに電気的に接続される第2コネクタとを備えるコネクタ対であって、前記第1コネクタが、金属基材上にグラフェン膜を設けた電気接点材料を備え、前記第2コネクタが、前記グラフェン膜を介して前記第1コネクタと電気的に接続される電気接点材料を備え、前記第1コネクタ及び前記第2コネクタの電気接点材料同士の接触面積が、前記グラフェン膜が前記金属基材を被覆する面積よりも小さいことを特徴とする、コネクタ対である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸化による導電性の低下が抑制された、電気抵抗値の低いコネクタ及びコネクタ対を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】金属基材上に一様な抵抗被膜(抵抗値:R
1)が形成された電気接点材料に、測定用端子を点接触させて電圧を印加した場合の回路モデルの説明図((a):抵抗被膜の上に導電性被覆がない場合、(b):抵抗被膜の上に導電性被覆(抵抗値:R
c)がある場合
【
図2】
図1の回路モデルにおける、R
1=1Ωとした場合の合成抵抗値の計算結果を示すグラフ((a):表面に導電性被覆の存在しないR
h=R
v=R
1の場合、(b):表面に導電性被覆を存在させてR
h=10
-1R
vとした場合、(c):R
h=10
-2R
vとした場合、(d):R
h=10
-3R
vとした場合、(e):R
h=10
-4R
vとした場合、(f):R
h=10
-5R
vとした場合)
【
図3】本発明の回路モデルにおける、R
1=1Ω、電圧を1Vとした場合の回路を流れる総電流値の計算結果を示すグラフ((a):表面に導電性被覆の存在しないR
h=R
v=R
1の場合、(b):表面に導電性被覆を存在させてR
h=10
-1R
vとした場合、(c):R
h=10
-2R
vとした場合、(d):R
h=10
-3R
vとした場合、(e):R
h=10
-4R
vとした場合、(f):R
h=10
-5R
vとした場合)
【
図4】
図1の回路モデルにおける、R
1=1Ω、電圧を1Vとした場合の各抵抗を流れる電流の分布の計算結果を示すグラフ((a):表面に導電性被覆の存在しないR
h=R
v=R
1の場合、(b):表面に導電性被覆を存在させてR
h=10
-1R
vとした場合、(c):R
h=10
-2R
vとした場合、(d):R
h=10
-3R
vとした場合、(e):R
h=10
-4R
vとした場合、(f):R
h=10
-5R
vとした場合)
【
図5】導電性被覆における電流の広がり効果の説明図
【
図6】本発明の一実施形態に係るコネクタ対の形状の例を示す説明図
【
図7】表面に亜酸化銅(Cu
2O)被膜を有する銅製の基材について、グラフェン膜被覆の有無による総電流値の変化の計算に用いたモデルの説明図
【
図8】
図7のモデルで計算された総電流値を示すグラフ
【
図9】表面に酸化銅(CuO)被膜を有する銅製の基材について、グラフェン膜被覆の有無による総電流値の変化の計算に用いたモデルの説明図
【
図10】
図9のモデルで計算された総電流値を示すグラフ
【
図11】銅基板の上に形成された、表面に酸化スズ(SnO
2)被膜を有するスズ製の基材について、グラフェン膜被覆の有無による総電流値の変化の計算に用いたモデルの説明図
【
図13】実施例1に係る電気接点材料についての、グラフェン膜の膜厚測定結果を示すグラフ
【
図14】実施例1に係る電気接点材料についての、厚さ方向に流れる電流の測定方法を示す説明図
【
図15】実施例1に係る電気接点材料についての、厚さ方向に流れる電流の測定結果を示すグラフ
【
図16】実施例2に係る電気接点材料についての、グラフェン膜の膜厚測定結果を示すグラフ
【
図17】実施例2に係る電気接点材料についての、厚さ方向に流れる電流の測定結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、一実施形態に基づいて詳細に説明するが、本発明は当該実施形態に限定されるものではない。
【0017】
[グラフェン膜形成による電気抵抗低下のメカニズム]
前述のとおり、本発明者は、表面をグラフェン膜で被覆した電気接点材料における厚み方向の電気抵抗値が、当該被覆を有さないものよりも有意に低くなることを見出した。このメカニズムは以下のように考えられる。
【0018】
一般的に、金属基材の表面は、大気中の酸素や水分の影響による酸化のため、いわゆる錆と呼ばれる、金属に比べて電気抵抗が高い、薄い抵抗被膜(抵抗値:R
1)で覆われている。この抵抗被膜(酸化膜)の厚みや電気抵抗値は、金属基材の置かれている環境や被曝時間によって変化するが、
図1(a)のモデルに示すように、抵抗被膜の縦(厚さ)方向の電気抵抗値R
vを、電気抵抗率から導出されたR
1に等しいと定義し、横(面内)方向については、縦方向と同じ長さ毎に抵抗値R
hの電気抵抗を直列接続したものと定義することで、縦方向の電気抵抗値R
vと横方向の電気抵抗値R
hとは、ともにR
1に等しいと考えることができる。ここで、抵抗被膜の表面の一部分のみに測定用端子を当接して電圧を印加した場合には、当該被覆が厚さ方向のみならず面内方向にも電気抵抗を有することに起因して、面内方向にも電位差が生じて電流が流れる。このとき、測定用端子の当接位置から数えてn+1番目に位置する厚さ方向の電気抵抗までの合成抵抗値(R
n+1)は、n番目までの合成抵抗値(R
n)を用いて下記式(1)で表される。
【0019】
【0020】
式(1)によれば、抵抗被膜の上に導電性被覆の存在しない
図1(a)の場合には、合成抵抗値はR
1から大きくは低下せず(
図2(a)参照)、総電流量はさほど増加しない(
図3(a)参照)。また、電流のほとんどは、測定端子の当接位置から数個分の抵抗からのみ流れ込んでおり(
図4(a)参照)、抵抗値の増加に起因して遠方からの電流を集めることはできない。なお、
図2~
図4では、R
1=1Ωとして合成抵抗値及び電流値を計算した結果を示している。
【0021】
他方、
図1(b)のモデルに示すように、抵抗被膜の上に、抵抗値が該被膜より低く、厚さが極めて薄い導電性被覆(抵抗値:R
c)を形成した場合には、抵抗被膜と導電性被覆とで構成される積層膜において、縦(厚さ)方向の電気抵抗値R
vは抵抗被膜のR
1に等しく、横(面内)方向の抵抗値R
hは、R
1とR
cとを並列につないだときの値に等しいと定義することができる。この場合の合成抵抗値R
n+1は、下記式(2)で表される。
【0022】
【0023】
この場合の合成抵抗値R
n+1は、R
hがR
v(=R
1)に比べて小さいほど、換言すればR
cがR
1に比べて小さいほど、R
1に比べて大きく低下する(
図2(b)~(f)参照)。例えば、R
1とR
cを並列につないだ抵抗値に等しいR
hが、R
v(=R
1)に比べて1桁小さい場合(
図2(b)参照)には、合成抵抗値はR
h=R
Vの場合の約半分となり、2桁小さい場合(
図2(c)参照)には、合成抵抗値はR
h=R
Vの場合の約1/6となる。そして、合成抵抗値の低下に伴い、導電性被覆を流れる総電流量が大きく増加する(
図3(b)~(f)参照)。また、測定端子の当接位置からより離れた位置の抵抗にも電流が流れるようになる(
図4(b)~(f)参照)。以下、本明細書では、この現象を「電流の広がり効果」と記載することがある。
【0024】
この電流の広がり効果は、導電性被膜の中でも、縦(厚さ)方向の電気抵抗率に比べて横(面内)方向の電気抵抗率が極端に小さい非等方性材料で形成された被膜において顕著である。
図5は、抵抗被膜の存在する金属基材に直接電圧を印加した場合(
図5(a))と、抵抗被膜の存在する金属基材の表面に形成した、面内方向の電気抵抗が厚さ方向に比べて小さい非等方性材料製の導電性被覆に電圧を印加した場合(
図5(b))とで生じる、電流の広がり効果の差異を説明する図である。図示されるように、非等方性材料の導電性被覆を形成した場合には、面内の横方向に流れる電流量が大きく増加するため、電流の広がり効果により、金属基材を流れる電流量が顕著に増加する。なお、
図5における符号(番号)は、後述する実施形態と同様に、110が金属基材を、130が酸化物膜を、120がグラフェン膜をそれぞれ示している。
【0025】
以上のメカニズムを実際の状況に当てはめて考えると、測定用端子を金属基材表面の一部分にのみ直接当接した場合には、金属基材の表面に等方性で電気抵抗の高い酸化物膜が形成されていることが多いため、当該酸化物膜の影響で電流の広がり効果が抑制され、電流が流れる領域が測定用端子の当接位置のごく近傍のみに限られることとなる。このため、流れる電流量が制限されて測定される抵抗値が大きくなる。
【0026】
これに対し、金属基材の表面に形成されたグラフェン膜に測定用端子を当接した場合には、グラフェンの構造上の特徴、すなわち炭素原子とその結合による六角形で構成される平面構造を有し、炭素原子同士がsp2結合していること、に起因して、面内方向の電気抵抗値Rcが、酸化物起因の抵抗被膜の電気抵抗値R1に比べて著しく小さいものとなる。したがって、電流の広がり効果が発現し、高抵抗の酸化物膜が介在する場合でも、総電流量が増加して測定される抵抗値が小さくなる。
【0027】
[コネクタ対]
前述のメカニズムを利用した本発明の一実施形態(以下、単に「本実施形態」と記載する。)に係るコネクタ対は、その一例を
図6に示すように、第1コネクタ10と、該第1コネクタに電気的に接続される第2コネクタ20とを備え、第1コネクタ10が、金属基材110上にグラフェン膜120を設けた電気接点材料100を備え、第2コネクタ20が、グラフェン膜120を介して第1コネクタ10と電気的に接続される電気接点材料200を備え、第1コネクタ10及び第2コネクタ20の電気接点材料同士の接触面積が、グラフェン膜120が金属基材110を被覆する面積よりも小さいことを特徴とする。
【0028】
第1コネクタ10の電気接点材料100における金属基材110は、導電性を有するものであればよく、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、若しくはスズ、又はこれらを含む合金等が使用できる。また、ステンレス鋼を使用してもよい。さらに、メッキや蒸着等により、表面に他の金属の層が形成されたものであってもよい。
金属基材110の形状や寸法は、要求される性能や規格等に応じて適宜決定すればよい。
【0029】
金属基材110は、これを構成する金属の酸化物膜130を表面に備えていてもよい。金属基材110が酸化物膜130を備える場合には、グラフェン膜120による電流の広がり効果に起因する電流の増加がより顕著になる。換言すれば、電気接点材料100の電気抵抗が顕著に減少する。特に、金属基材110が銅で、その表面に銅の酸化物である亜酸化銅(Cu2O)又は酸化銅(CuO)の膜130が形成されている場合には、銅酸化物の電気抵抗が高いため、電気抵抗の減少は格別のものとなる。
【0030】
第1コネクタ10の電気接点材料100は、金属基材110上にグラフェン膜120を備える。グラフェン膜120は、金属基材の表面全体を覆って形成されていてもよく、その一部のみを覆って形成されていてもよい。グラフェン膜120の厚みは限定されず、例えば0.335nm~1.0mmとすることができる。劣化因子(酸素、水分等)から金属基材110を保護する点からは、グラフェン膜120の厚みは1nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましい。他方、電気抵抗の増加を抑制する点からは、グラフェン膜120の厚みは100μm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0031】
金属基材110上にグラフェン膜120を形成する方法は限定されず、例えば、CVD法等の気相法や、酸化グラフェンを含む液を塗布・乾燥後に還元処理を行う方法等が採用できる。中でも、大掛かりな装置を必要とせず、種々の膜厚のグラフェン膜が簡便に得られる点で、酸化グラフェンの還元処理による方法が好ましい。また、この方法は、導電性に優れる還元型酸化グラフェン(Reduced Graphene Oxide(rGO))が得られる点でも好ましいものである。
【0032】
第1コネクタ10の電気接点材料100は、金属基材110とグラフェン膜120との間に、導電性高分子膜(図示せず)を備えていてもよい。このような構成とすることで、導電性高分子膜の柔軟性により、第2コネクタ20と接続した際に、電気接点材料100の表面が第2コネクタ20の電気接点材料200の表面形状に合わせて可逆的に変形し、より大きな接触面積が得られる。
【0033】
第2コネクタ20の電気接点材料200は、第1コネクタ10の電気接点材料100におけるグラフェン膜120と、当該グラフェン膜120が金属基材110を被覆している面積より小さな面積で接触するように構成される。このような電気接点材料200としては、板バネやすり割り端子等が例示される。
【0034】
本実施形態に係るコネクタ対1では、前述した電流の広がり効果により、電気接点材料100、200同士の接触面積が小さい場合でも、電気抵抗が低くなり、十分な電流を流すことができる。このため、電気接点材料同士の接触面積を増やすための大きな押圧力を加える機構を設ける必要がなくなり、コネクタを小型化することができる。また、電気接点材料同士の接触面積が小さいため、着脱時の摩擦抵抗が低減され、着脱を容易に行うことができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例に基づいて本発明の各実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0036】
本発明の効果を実験的に確認するに先立って、金属基材の表面にグラフェン膜を形成した電気接点材料がどの程度多くの電流を流せるのかを計算により見積もった。
【0037】
[計算例1]
表面に厚さ5nmの亜酸化銅(Cu
2O)被膜を有する銅製の基材、及び当該基材上に単層のグラフェン膜を形成した電気接点材料について、それぞれの端部に、一辺が5nmの正方形断面を有する銅製の電極を当接し、1Vの電圧を印加した場合を想定し、銅電極からの面内距離毎に流れる電流を計算し、面内距離に対する積算値としてプロットした。各材料の電気抵抗率は、Cu
2Oを1×10
6Ωm、グラフェン膜の面内方向を4×10
-7Ωmとした。なお、グラフェン膜は単層で厚みが非常に薄いことから、その面間(厚さ)方向の電気抵抗値はゼロとして計算した。また、基材における金属銅は、その電気抵抗率がCu
2Oに比べて非常に小さいため、その電気抵抗値もゼロとして計算した。計算に用いたモデル(グラフェン膜を形成したもの)を
図7に、計算結果を
図8に、それぞれ示す。
【0038】
計算の結果、基材上にグラフェン膜を形成することにより、約20万倍の電流を流せるようになることが判明した。
【0039】
[計算例2]
銅製の基材を、表面に厚さ20nmの酸化銅(CuO)被膜を有するものとし、銅製の電極を、一辺が20nmの正方形断面を有するものとした以外は計算例1と同様にして、電気接点材料に流れる電流を計算した。CuOの電気抵抗率は1Ωmとした。計算に用いたモデル(グラフェン膜を形成したもの)を
図9に、計算結果を
図10に、それぞれ示す。
【0040】
計算の結果、基材上にグラフェン膜を形成することにより、約130倍の電流を流せるようになることが判明した。
【0041】
[計算例3]
基材を、銅基板の上に形成された、厚さ10nmの酸化スズ(SnO
2)被膜を有するスズとし、電極を、一辺が10nmの正方形断面を有するスズ製のものとした以外は計算例1と同様にして、電気接点材料に流れる電流を計算した。スズの電気抵抗率は12.8×10
-8Ωm、SnO
2の電気抵抗率は4×10
-4Ωmとした。計算に用いたモデル(グラフェン膜を形成したもの)を
図11に、計算結果を
図12に、それぞれ示す。
【0042】
計算の結果、基材上にグラフェン膜を形成することにより、約4倍の電流を流せるようになることが判明した。
【0043】
[実施例1]
まず、金属基材として銅合金(NB109)製の端子材(20×30×0.25mm)を準備し、これを10%希硫酸で洗浄処理して自然酸化膜を除去した。次いで、この金属基材上に、電気泳動堆積(EPD)法にて酸化グラフェン(GO)を成膜した。成膜条件は表1のとおりである。次いで、生成したGO膜の約半分の上に粘着テープを貼り付けた後剥離して、GO膜の約半分を除去した。この操作は、最終的に形成されたグラフェン膜の膜厚の測定及びグラフェン膜の有無による電流値の比較を行うためのものである。最後に、GO膜を形成した金属基材を、Ar雰囲気下において、300℃で30分間熱処理して、GOを還元型酸化グラフェン(Reduced Graphene Oxide(rGO))に熱還元し、実施例1に係る第1コネクタ用の電気接点材料(以下、単に「実施例1に係る電気接点材料」と記載する。)を得た。
【0044】
【0045】
実施例1に係る電気接点材料について、グラフェン膜の膜厚を、原子間力顕微鏡(AFM)(Park systems社製、NX10型)を用いて測定した。結果を
図13に示す。この結果から、銅基材上に約9nmの厚みのrGO膜が形成されたことが判る。
【0046】
実施例1に係る電気接点材料について、一定電圧の下で厚さ方向に流れる電流の大きさを、Conductive AFMを用いて測定した。測定は、
図14に示すように、rGOが成膜されていない銅基板部からrGO膜部分へと向かう線分に沿って、測定位置を変更しながら行った。印加電圧は1Vとした。測定結果を
図15に示す。この結果から、rGO膜部分の電流値は、銅基板部の電流値より大きくなることが判る。
【0047】
[実施例2]
まず、金属基材として銅合金(NB109)製の端子材を準備し、その表面を化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing(CMP))した。これにより、銅合金の表面にCu2O層が生成すると言われている(馬淵,他3名,“化学機械研磨挙動と表面生成物の物性との相関性”,表面技術,Vol.63,No.4,2012,p.252-)。次いで、表面にCu2O層が生成した金属基材上に、実施例1と同様の方法でGOを成膜した。次いで、実施例1と同様に、生成したGO膜の約半分の上に粘着テープを貼り付けた後剥離して、GO膜の約半分を除去した。最後に、GO膜を形成した銅基材を、Ar雰囲気下において、200℃で5分間熱処理して、GOをrGOに熱還元し、実施例2に係る第1コネクタ用の電気接点材料(以下、単に「実施例2に係る電気接点材料」と記載する。)を得た。
【0048】
実施例2に係る電気接点材料について、グラフェン膜の膜厚を、実施例1と同様の方法で測定した。結果を
図16に示す。この結果から、銅基材上に約4nmの厚みのrGO膜が形成されたことが判る。
【0049】
実施例2に係る電気接点材料について、一定電圧の下で厚さ方向に流れる電流の大きさを、実施例1と同様の方法で測定した。測定結果を
図17に示す。この結果から、rGO膜部分の電流値は、銅基板部の電流値より大きくなることが判る。また、実施例1の結果(
図15参照)との対比からは、表面に絶縁性の酸化物膜を有する金属基材において、グラフェン膜形成による導電性の向上効果がより高まることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、酸化による導電性の低下が抑制された、電気抵抗値の低いコネクタを提供することができる。また、本発明に係るコネクタ対によれば、電流の広がり効果により、電気接点材料100、200同士の接触面積が小さい場合でも、電気抵抗が低くなり、十分な電流を流すことができる。このため、電気接点材料同士の接触面積を増やすための大きな押圧力を加える機構を設ける必要がなくなり、コネクタを小型化することができる。また、電気接点材料同士の接触面積が小さいため、着脱時の摩擦抵抗が低減され、着脱を容易に行うことができる。このため、本発明は、導電性が高く、小型で、小さな力で着脱できるコネクタ対ないしコネクタを提供できる点で有用なものである。
【符号の説明】
【0051】
1 コネクタ対
10 第1コネクタ
100 (第1コネクタの)電気接点材料
110 金属基材
120 グラフェン膜
130 酸化物膜
20 第2コネクタ
200 (第2コネクタの)電気接点材料
210 突起部