(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】光吸収性組成物、光吸収膜、及び光学フィルタ
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20231011BHJP
【FI】
G02B5/22
(21)【出願番号】P 2020016993
(22)【出願日】2020-02-04
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】久保 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】今井 寿雄
【審査官】小久保 州洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-067824(JP,A)
【文献】特開2017-165941(JP,A)
【文献】特開2019-008934(JP,A)
【文献】特開2020-003650(JP,A)
【文献】特開2019-066746(JP,A)
【文献】国際公開第2019/138976(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/173386(WO,A1)
【文献】特開2016-081056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光吸収性組成物であって、
ホスホン酸及び銅成分を含む化合物と、
紫外線吸収性化合物と、を含有しており、
当該光吸収性組成物を硬化させて得られる光吸収膜の、0度の入射角度での透過スペクトルにおいて、波長400nmにおける透過率T
400、波長550nmにおける透過率T
550、及び波長800nmにおける透過率T
800は、
32≦T
550/T
400及び16≦T
550/T
800の条件を満た
し、
前記紫外線吸収性化合物の含有量に対する前記ホスホン酸の含有量の比は質量基準で10~300である、
光吸収性組成物。
【請求項2】
前記紫外線吸収性化合物は、330nm以上430nm以下の吸収極大波長を有する、請求項1に記載の光吸収性組成物。
【請求項3】
前記透過スペクトルは、下記(I)、(II)、(III)、及び(IV)の条件を満たす、
請求項1又は2に記載の光吸収性組成物。
(I)波長300nm~380nmの範囲における透過率の最大値が1%以下である。
(II)波長400nmにおける透過率が5%以下である。
(III)波長480nm~580nmの範囲における透過率の平均値が78%以上である
。
(IV)波長700nm~750nmの範囲における透過率の平均値が10%以下である。
【請求項4】
前記透過スペクトルは、下記(V)の条件を満たす、請求項3に記載の光吸収性組成物。
(V)波長700nm~1000nmの範囲における透過率の最大値が10%以下である。
【請求項5】
前記透過スペクトルは、405nm以上480nm以下の第一カットオフ波長を有し、
前記第一カットオフ波長は、前記透過スペクトルにおいて波長300nm~450nmの範囲で50%の透過率を示す波長である、請求項1~4のいずれか1項に記載の光吸収性組成物。
【請求項6】
前記透過スペクトルは、580nm以上720nm以下の第二カットオフ波長を有し、
前記第二カットオフ波長は、前記透過スペクトルにおいて波長550nm~750nmの範囲で50%の透過率を示す波長である、請求項1~5のいずれか1項に記載の光吸収性組成物。
【請求項7】
前記透過スペクトルは、下記(VI)、(VII)、及び(VIII)の条件の少なくとも1つを満たす、請求項1~6のいずれか1項に記載の光吸収性組成物。
(VI)波長800nm~950nmの範囲における透過率の最大値が3%以下である。
(VII)波長700nm~1100nmの範囲における透過率の最大値が15%以下である。
(VIII)波長700nm~1200nmの範囲における透過率の最大値が20%以下である。
【請求項8】
光吸収膜であって、
ホスホン酸及び銅成分を含む化合物と、
紫外線吸収性化合物と、を含有しており、
当該光吸収膜の、0度の入射角度での透過スペクトルにおいて、波長400nmにおける透過率T
400、波長550nmにおける透過率T
550、及び波長800nmにおける透過率T
800は、
32≦T
550/T
400及び16≦T
550/T
800の条件を満た
し、
前記紫外線吸収性化合物の含有量に対する前記ホスホン酸の含有量の比は質量基準で10~300である、
光吸収膜。
【請求項9】
前記紫外線吸収性化合物は、330nm以上430nm以下の吸収極大波長を有する、請求項8に記載の光吸収膜。
【請求項10】
前記透過スペクトルは、下記(I)、(II)、(III)、及び(IV)の条件を満たす、
請求項8又は9に記載の光吸収膜。
(I)波長300nm~380nmの範囲における透過率の最大値が1%以下である。
(II)波長400nmにおける透過率が5%以下である。
(III)波長480nm~580nmの範囲における透過率の平均値が78%以上である。
(IV)波長700nm~750nmの範囲における透過率の平均値が10%以下である。
【請求項11】
前記透過スペクトルは、下記(V)の条件を満たす、請求項10に記載の光吸収膜。
(V)波長700nm~1000nmの範囲における透過率の最大値が10%以下である。
【請求項12】
前記透過スペクトルは、405nm以上480nm以下の第一カットオフ波長を有し、
前記第一カットオフ波長は、前記透過スペクトルにおいて波長300nm~450nmの範囲で50%の透過率を示す波長である、請求項8~11のいずれか1項に記載の光吸収膜。
【請求項13】
前記透過スペクトルは、580nm以上720nm以下の第二カットオフ波長を有し、
前記第二カットオフ波長は、前記透過スペクトルにおいて波長550nm~750nmの範囲で50%の透過率を示す波長である、請求項8~12のいずれか1項に記載の光吸収膜。
【請求項14】
前記透過スペクトルは、下記(VI)、(VII)、及び(VIII)の条件の少なくとも1つを満たす、請求項8~13のいずれか1項に記載の光吸収膜。
(VI)波長800nm~950nmの範囲における透過率の最大値が3%以下である。
(VII)波長700nm~1100nmの範囲における透過率の最大値が15%以下である。
(VIII)波長700nm~1200nmの範囲における透過率の最大値が20%以下である。
【請求項15】
請求項8~14のいずれか1項に記載の光吸収膜を備えた、光学フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収性組成物、光吸収膜、及び光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
CCD(Charge Coupled Device)又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の固体撮像素子を用いた撮像装置において、良好な色再現性を有する画像を得るために様々な光学フィルタが固体撮像素子の前面に配置されている。一般的に、固体撮像素子は紫外線領域から赤外線領域に至る広い波長範囲で分光感度を有する。一方、人間の視感度は可視光の領域にのみに存在する。このため、撮像装置における固体撮像素子の分光感度を人間の視感度に近づけるために、固体撮像素子の前面に赤外線又は紫外線の一部の光を遮蔽する光学フィルタを配置する技術が知られている。
【0003】
従来、そのような光学フィルタとしては、誘電体多層膜による光反射を利用して赤外線又は紫外線を遮蔽するものが一般的であった。一方、近年、光吸収剤を含有する膜を備えた光学フィルタが注目されている。光吸収剤を含有する膜を備えた光学フィルタの透過率特性は入射角の影響を受けにくいので、撮像装置において光学フィルタに斜めに光が入射する場合でも色味の変化が少ない良好な画像を得ることができる。また、光反射膜を用いない光吸収型光学フィルタは、光反射膜による多重反射を原因とするゴーストやフレアの発生を抑制することができるので、逆光状態や夜景の撮影において良好な画像を得やすい。加えて、光吸収剤を含有する膜を備えた光学フィルタは、撮像装置の小型化及び薄型化の点でも有利である。
【0004】
そのような光吸収剤として、ホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤が知られている。例えば、特許文献1には、フェニル基又はハロゲン化フェニル基を有するホスホン酸(フェニル系ホスホン酸)と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含有する光吸収層を備えた、光学フィルタが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、赤外線及び紫外線を吸収可能なUV‐IR吸収層を備えた光学フィルタが記載されている。UV‐IR吸収層は、ホスホン酸と銅イオンとによって形成されたUV‐IR吸収剤を含んでいる。光学フィルタが所定の光学特性を満たすように、UV‐IR吸収性組成物は、例えば、フェニル系ホスホン酸と、アルキル基又はハロゲン化アルキル基を有するホスホン酸(アルキル系ホスホン酸)とを含有している。
【0006】
また、特許文献3には、所定の有機色素を含有している有機色素含有層と、ホスホン酸銅含有層とを備えた赤外線カットフィルタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2018/088561号
【文献】特許第6232161号公報
【文献】国際公開第2017/006571号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光吸収膜において、人間の視感度に対応した透過スペクトルにさらに近しい分光特性を得るために、波長400nm付近の光を十分に吸収して遮蔽することが求められる。このような観点から、上記の特許文献に記載の光学フィルタの波長400nm付近における透過スペクトルには改良が求められることが想定される。
【0009】
このような事情に鑑み、本発明は、人間の視感度に対応した透過スペクトルに近しい分光特性を得るために波長400nm付近の光を遮蔽するのに有利な光吸収性組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
光吸収性組成物であって、
ホスホン酸及び銅成分を含む化合物と、
紫外線吸収性化合物と、を含有しており、
当該光吸収性組成物を硬化させて得られる光吸収膜の、0度の入射角度での透過スペクトルにおいて、波長400nmにおける透過率T400、波長550nmにおける透過率T550、及び波長800nmにおける透過率T800は、16≦T550/T400及び16≦T550/T800の条件を満たす、
光吸収性組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、
光吸収膜であって、
ホスホン酸及び銅成分を含む化合物と、
紫外線吸収性化合物と、を含有しており、
当該光吸収膜の、0度の入射角度での透過スペクトルにおいて、波長400nmにおける透過率T400、波長550nmにおける透過率T550、及び波長800nmにおける透過率T800は、16≦T550/T400及び16≦T550/T800の条件を満たす、
光吸収膜を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記の光吸収膜を備えた、光学フィルタを提供する。
【発明の効果】
【0013】
上記の光吸収性組成物は、人間の視感度に対応した透過スペクトルに近しい分光特性を得るために波長400nm付近の光を遮蔽するのに有利である。加えて、上記の光吸収膜及び上記の光学フィルタは、人間の視感度に対応した透過スペクトルに近しい分光特性を得るために波長400nm付近の光を遮蔽する観点から有利である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明に係る光吸収膜の一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る光学フィルタの一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施例1に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
【
図4】
図4は、実施例2に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
【
図5】
図5は、実施例3に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
【
図6】
図6は、実施例4に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
【
図7】
図7は、実施例5に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
【
図8】
図8は、比較例1に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
【
図9】
図9は、比較例2に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
【
図10】
図10は、比較例3に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
【
図11】
図11は、紫外線吸収性化合物の透過スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明は、本発明の例示に関するものであり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明に係る光吸収性組成物は、ホスホン酸及び銅成分を含む化合物と、紫外線吸収性化合物とを含有している。ホスホン酸及び銅成分を含む化合物は、典型的には、所定の光吸収特性を有する。ホスホン酸及び銅成分を含む化合物をホスホン酸含有化合物とも呼ぶ。光吸収性組成物を硬化させて光吸収膜を得ることができる。この光吸収膜の、0度の入射角度での透過スペクトルにおいて、波長400nmにおける透過率T400、波長550nmにおける透過率T550、及び波長800nmにおける透過率T800は、16≦T550/T400及び16≦T550/T800の条件を満たす。これらの条件が満たされるように、光吸収性組成物がホスホン酸含有化合物及び紫外線吸収性化合物を含有している。これにより、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタが波長400nm付近の光を十分に吸収して遮蔽しやすい。加えて、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタが紫外線域に属する光及び赤外線域に属する光を遮蔽しやすい。さらに、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタにおいて可視光域に属する光の透過率が高くなりやすい。その結果、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタは、人間の視感度に対応した透過スペクトルに近しい分光特性を有しやすい。
【0017】
透過率T400及び透過率T550は、望ましくは32≦T550/T400の条件を満たし、より望ましくは80≦T550/T400の条件を満たし、さらに望ましくは90≦T550/T400の条件を満たす。これにより、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタが波長400nm付近の光を十分に吸収して遮蔽しやすい。加えて、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタが紫外線域に属する光を遮蔽しやすい。さらに、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタにおいて可視光域に属する光の透過率が高くなりやすい。
【0018】
透過率T550及び透過率T800は、望ましくは32≦T550/T800の条件を満たし、より望ましくは80≦T550/T800の条件を満たし、さらに望ましくは200≦T550/T800の条件を満たし、特に好ましくは300≦T550/T800の条件を満たす。これにより、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタがより確実に赤外線域に属する光を遮蔽しやすい。加えて、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタにおいて可視光域に属する光の透過率がより確実に高くなりやすい。
【0019】
上記の透過スペクトルにおいて、例えば、下記(I)、(II)、(III)、及び(IV)の条件を満たされる。これにより、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタがより確実に波長400nm付近の光を十分に吸収して遮蔽しやすく、紫外線域に属する光及び赤外線域に属する光をより確実に遮蔽しやすい。加えて、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタにおいて可視光域に属する光の透過率がより確実に高くなりやすい。その結果、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタは、人間の視感度に対応した透過スペクトルに近しい分光特性を有しやすい。
(I)波長300nm~380nmの範囲における透過率の最大値TM
300-380が1%以下である。
(II)波長400nmにおける透過率T400が5%以下である。
(III)波長480nm~580nmの範囲における透過率の平均値TA
480-580が78%以上である。
(IV)波長700nm~750nmの範囲における透過率の平均値TA
700-750が10%以下である。
【0020】
(I)の条件に関し、上記の透過スペクトルにおいて、望ましくは、波長300nm~385nmの範囲における透過率の最大値TM
300-385が1%以下であり、より望ましくは、波長300nm~390nmの範囲における透過率の最大値TM
300-390が1%以下である。これにより、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタにおいて、紫外線域に属する光をより確実に遮蔽しやすい。
【0021】
(II)の条件に関し、上記の透過スペクトルにおいて、透過率T400は、望ましくは3%以下であり、より望ましくは1%以下である。これにより、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタがより確実に波長400nm付近の光を十分に吸収して遮蔽しやすい。
【0022】
(III)の条件に関し、上記の透過スペクトルにおいて、平均値TA
480-580は、望ましくは80%以上であり、より望ましくは82%以上である。これにより、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタにおいて可視光域に属する光の透過率がより確実に高くなりやすい。
【0023】
(IV)の条件に関し、上記の透過スペクトルにおいて、平均値TA
700-750は、望ましくは5%以下であり、より望ましくは3%以下である。これにより、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタにおいて赤外線域に属する光をより確実に遮蔽しやすい。
【0024】
上記の透過スペクトルにおいて、例えば、下記の(V)の条件が満たされる。これにより、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタにおいて赤外線域に属する光をより確実に遮蔽しやすい。
(V)波長700nm~1000nmの範囲における透過率の最大値TM
700-1000が10%以下である。
【0025】
(V)の条件に関し、最大値TM
700-1000は、望ましくは7%以下であり、より望ましくは5%以下である。
【0026】
上記の透過スペクトルは、例えば、405nm以上480nm以下の第一カットオフ波長λ50%
Fを有する。第一カットオフ波長λ50%
Fは、上記の透過スペクトルにおいて波長300nm~450nmの範囲で50%の透過率を示す波長である。これにより、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタがより確実に波長400nm付近の光を十分に吸収して遮蔽しやすい。
【0027】
第一カットオフ波長λ50%
Fは、望ましくは405nm以上465nm以下であり、より望ましくは405nm以上450nm以下である。
【0028】
上記の透過スペクトルは、例えば、580nm以上720nm以下の第二カットオフ波長λ50%
Sを有する。第二カットオフ波長λ50%
Sは、上記の透過スペクトルにおいて波長550nm~750nmの範囲で50%の透過率を示す波長である。これにより、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタがより確実に赤外線域に属する光を遮蔽しやすい。
【0029】
第二カットオフ波長λ50%
Sは、望ましくは590nm以上700nm以下であり、より望ましくは600nm以上680nm以下である。
【0030】
上記の透過スペクトルは、例えば、下記(VI)、(VII)、及び(VIII)の条件の少なくとも1つを満たす。これにより、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタがより確実に赤外線域に属する光を遮蔽しやすい。
(VI)波長800nm~950nmの範囲における透過率の最大値TM
800-950が3%以下である。
(VII)波長700nm~1100nmの範囲における透過率の最大値TM
700-1100が15%以下である。
(VIII)波長700nm~1200nmの範囲における透過率の最大値TM
700-1200が20%以下である。
【0031】
(VI)の条件に関し、最大値TM
800-950は、望ましくは1.5%以下であり、より望ましくは1%以下である。
【0032】
(VII)の条件に関し、最大値TM
700-1100は、望ましくは10%以下であり、より望ましくは5%以下である。
【0033】
(VIII)の条件に関し、最大値TM
700-1200は、望ましくは15%以下であり、より望ましくは10%以下である。
【0034】
ホスホン酸含有化合物に含まれるホスホン酸は、特定のホスホン酸に限定されない。ホスホン酸は、例えば、下記式(a)で表される。
【0035】
【0036】
式(a)において、R1は、アルキル基、アルキル基における少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子に置換されたハロゲン化アルキル基、アリール基、ニトロアリール基、ヒドロキシアリール基、又はアリール基における少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子に置換されているハロゲン化アリール基である。アリール基は、例えば、フェニル基、ベンジル基、又はトルイル基である。
【0037】
ホスホン酸含有化合物に含まれるホスホン酸は、アリール基、ニトロアリール基、ヒドロキシアリール基、又はハロゲン化アリール基を有するアリール系ホスホン酸であってもよい。アリール系ホスホン酸は特定のホスホン酸に限定されない。アリール系ホスホン酸は、例えば、フェニルホスホン酸、ニトロフェニルホスホン酸、ヒドロキシフェニルホスホン酸、ブロモフェニルホスホン酸、又はヨードフェニルホスホン酸である。
【0038】
ホスホン酸含有化合物に含まれるホスホン酸は、アルキル基又はハロゲン化アルキル基を有するアルキル系ホスホン酸であってもよい。アルキル系ホスホン酸は特定のホスホン酸に限定されない。アルキル系ホスホン酸は、例えば、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、ノルマル(n-)プロピルホスホン酸、イソプロピルホスホン酸、ノルマル(n-)ブチルホスホン酸、イソブチルホスホン酸、secブチルホスホン酸、又はtertブチルホスホン酸、又はブロモメチルホスホン酸である。
【0039】
ホスホン酸含有化合物に含まれるホスホン酸がアリール系ホスホン酸である場合、アリール系ホスホン酸と銅成分とによってホスホン酸含有化合物が形成されることにより、赤外線域に属する光の波長域のうち比較的短い波長の光が効果的に吸収されやすい。一方、ホスホン酸含有化合物に含まれるホスホン酸がアルキル系ホスホン酸である場合、アルキル系ホスホン酸と銅成分とによってホスホン酸含有化合物が形成されることにより、赤外線域に属する光の波長域のうち比較的長い波長の光が効果的に吸収されやすい。このため、光吸収性組成物は、望ましくは、ホスホン酸として、アリール系ホスホン酸及びアルキル系ホスホン酸の双方を含む。
【0040】
光吸収性組成物がアリール系ホスホン酸及びアルキル系ホスホン酸を含む場合、アリール系ホスホン酸の含有量とアルキル系ホスホン酸の含有量との関係は、特定の関係に限定されない。光吸収性組成物において、アルキル系ホスホン酸の含有量に対するアリール系ホスホン酸の含有量の比RAAは、例えば、物質量基準で1.0~3.0である。これにより、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタの透過スペクトルが撮像素子とともに用いられる用途に適しやすい。光吸収性組成物において、比RAAは、望ましくは1.3~2.7である。
【0041】
ホスホン酸含有化合物に含まれるホスホン酸は、ハロゲン原子を含む基を置換基として有しないホスホン酸であってもよい。この場合、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタは、良好な耐環境性を有しやすく、又は、変色しにくい。
【0042】
光吸収性組成物において、銅成分の少なくとも一部は、ホスホン酸と反応して、ホスホン酸及び銅成分を含む錯体等の化合物を形成する。ホスホン酸及び銅成分を含む化合物は赤外線域に属する一部の光を効果的に吸収しやすく、さらに可視光域に属する光に対して高い透過率を示す。
【0043】
光吸収性組成物の調製における銅成分の供給の態様は特定の態様に限定されない。光吸収性組成物の調製において、銅成分は、例えば、銅塩として供給される。銅塩は、塩化銅、蟻酸銅、ステアリン酸銅、安息香酸銅、ピロリン酸銅、ナフテン酸銅、及びクエン酸銅の無水物又は水和物であってもよい。例えば、酢酸銅一水和物は、Cu(CH3COO)2・H2Oと表され、1モルの酢酸銅一水和物によって1モルの銅イオンが供給される。
【0044】
光吸収性組成物に含有されている紫外線吸収性化合物は、上記の透過スペクトルにおいて16≦T550/T400及び16≦T550/T800の条件が満たされる限り、特定の化合物に限定されない。紫外線吸収性化合物は、例えば、330nm以上430nm以下の吸収極大波長λM
UV-Cを有する。これにより、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタによれば、上記ホスホン酸と銅成分とを含む化合物と組み合わせて使用した場合に、波長400nmから450nmにおける透過特性が、人間の視感度に対応した透過スペクトルに近しい分光特性を有しやすい。なお、紫外線吸収性化合物の透過スペクトル及び吸収スペクトル等の光学特性は、紫外線吸収性化合物を所定の溶媒に分散させた分散液を試料として用いた測定によって決定できる。特に説明する場合を除き、紫外線吸収性化合物の透過スペクトル及び吸収スペクトルは、このような測定によって決定されたものを意味する。
【0045】
紫外線吸収性化合物の吸収極大波長λM
UV-Cは、望ましくは、350nm以上400nm以下である。
【0046】
波長300nm~450nmの範囲の紫外線吸収性化合物の透過スペクトルにおいて50%の透過率を示す最大の波長λ50%-L
UV-C及び最小の波長λ50%-S
UV-Cは、特定の値に限定されない。波長λ50%-L
UV-Cは、例えば、400nm以上470nm以下である。これにより、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタによれば、上記ホスホン酸と銅成分とを含む化合物と組み合わせて使用した場合に、吸収極大波長λM
UV-Cの条件を満たすことによって得られる上記の効果に加えて、波長400nm付近の透過率を小さく制御しやすく、可視光域に属する光の透過率がより確実に高くなりやすい。その結果、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタが人間の視感度に対応した透過スペクトルに近しい分光特性を有しやすい。なお、波長λ50%-L
UV-C及び波長λ50%-S
UV-Cを決定するための紫外線吸収性化合物の透過スペクトルの測定で使用される試料における紫外線吸収性化合物の濃度は、吸収極大波長λM
UV-Cにおける透過率が8~12%になるように調整される。
【0047】
波長λ50%-L
UV-Cは、望ましくは、415nm以上450nm以下である。
【0048】
波長λ50%-S
UV-C及び波長λ50%-L
UV-Cは、例えば、75nm≦λ50%-L
UV-C-λ50%-S
UV-C≦105nmの条件を満たす。光吸収性を備える上記ホスホン酸と銅成分とを含む化合物の透過スペクトルの波長300nm~450nmにおける透過率が50%となる波長λ50%-S
IRが、λ50%-L
UV-Cとλ50%-S
UV-Cの間に含まれやすく、ホスホン酸と銅成分とを含む化合物と組み合わせて使用した場合に、波長400nmから450nmにおける透過特性が、人間の視感度に対応した透過スペクトルに近しい分光特性を有しやすいというメリットをさらに得られる。波長λ50%-S
UV-C及び波長λ50%-L
UV-Cは、望ましくは、80nm≦λ50%-L
UV-C-λ50%-S
UV-C≦100nmの条件を満たす。
【0049】
紫外線吸収性化合物の透過スペクトルにおいて、吸収極大波長λM
UV-Cより長く、かつ、80%の透過率を示す波長λ80%
UV-Cは、例えば、1.8[%/nm]≦30/(λ80%
UV-C-λ50%-L
UV-C)≦2.6[%/nm]の条件を満たす。30/(λ80%
UV-C-λ50%-L
UV-C)の値は、波長λ50%-L
UV-Cと波長λ80%
UV-Cと間の範囲における紫外線吸収性化合物の透過スペクトルの平均的な傾きを表しており、この値をΔλ80/50
UV-C[%/nm]とも表す。Δλ80/50
UV-Cがこれらの範囲に含まれることにより、光吸収性を備える上記ホスホン酸と銅成分とを含む化合物の透過スペクトルにおける同様の傾きの値との整合性がよくなり、ホスホン酸と銅成分とを含む化合物と組み合わせて使用した場合に、波長400nmから450nmにおける透過特性が、人間の視感度に対応した透過スペクトルに近しい分光特性を有しやすいというメリットをさらに得られる。望ましくは1.9[%/nm]≦Δλ80/50
UV-C≦2.4[%/nm]の条件が満たされ、より望ましくは1.9[%/nm]≦Δλ80/50
UV-C≦2.3[%/nm]である。
【0050】
波長500nm~700nmの範囲の紫外線吸収性化合物の透過スペクトルにおける透過率の最小値Tm
500-700は、特定の値に限定されない。最小値Tm
500-700は、例えば、80%以上である。これにより、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタにおいて、可視光域に属する光の透過率がより確実に高くなりやすい。最小値Tm
500-700は、望ましくは85%以上であり、より望ましくは90%以上である。
【0051】
上記の通り、光吸収性組成物を硬化させて得られる光吸収膜に関する透過スペクトルにおいて、16≦T550/T400及び16≦T550/T800の条件が満たされる限り、紫外線吸収性化合物は、特定の化合物に限定されない。一方、紫外線吸収性化合物は、望ましくは、光吸収性組成物に含有されているホスホン酸含有化合物等の他の成分との相性が良く、他の成分によってその性能が大きく低下しない化合物である。加えて、紫外線吸収性化合物は、望ましくは、著しく劣る耐湿性又は耐光性を有しない化合物である。
【0052】
紫外線吸収性化合物は、例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾエート系化合物、シアノクリレート系化合物、又はトリアジン系化合物等の化合物である。
【0053】
ベンゾトリアゾール系化合物として、例えば、以下の化合物が挙げられる。
2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール
2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール
2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール
2-(2’-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール
2-(2’-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール
2-[2’-ヒドロキシ-3’-(3’’,4’’,5’’,6’’-テトラヒドロフタリミドメチル)-5’-メチルフェニル]ベンゾトリアゾール
2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール
2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α-ジメトキシベンゾイル)フェニル]ベンゾトリアゾール
2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2N-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]
2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロイルオキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール
2-(2’-ヒドロキシ-3’-ドデシル-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
【0054】
トリアジン系化合物として、例えば、以下の化合物が挙げられる。
2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン
2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシナフチル)-1,3,5-トリアジン
2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシスチリル)-1,3,5-トリアジン
2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(5-メチルフラン-2-イル)エテニル〕-1,3,5-トリアジン
2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(フラン-2-イル)エテニル〕-1,3,5-トリアジン
2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)エテニル〕-1,3,5-トリアジン
2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(3,4-ジメトキシフェニル)エテニル〕-1,3,5-トリアジン
2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール
【0055】
光吸収性組成物における紫外線吸収性化合物の含有量は特定の値に限定されない。光吸収性組成物における紫外線吸収性化合物の含有量に対するホスホン酸の含有量の比RPUは、例えば、質量基準で、10~300である。これにより、紫外線吸収性化合物が光吸収性組成物の特性に不利な影響を及ぼしにくく、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタがより確実に波長400nm付近の光を十分に吸収して遮蔽しやすい。比RPUは、望ましくは30~100である。
【0056】
光吸収性組成物における紫外線吸収性化合物の含有量に対するアリール系ホスホン酸の含有量の比RURは、特定の値に限定されない。比RURは、例えば、質量基準で7~180であり、望ましくは20~60である。光吸収性組成物における紫外線吸収性化合物の含有量に対するアルキル系ホスホン酸の含有量の比RULは、特定の値に限定されない。比RULは、例えば、質量基準で3~120であり、望ましくは10~40である。これらにより、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタがより確実に人間の視感度に対応した透過スペクトルに近しい分光特性を有しやすい。
【0057】
光吸収性組成物は、例えば、マトリクスをさらに含有している。ホスホン酸含有化合物及び紫外線吸収性化合物は、典型的には、マトリクス中に分散している。このマトリクスは、光吸収性組成物を硬化させて得られる光吸収膜に関する透過スペクトルにおいて、16≦T550/T400及び16≦T550/T800の条件が満たされる限り、特定の材料に限定されない。光吸収性組成物に含まれるマトリクスは、典型的には、波長400nm~600nmにおいて高い透過性を有する材料である。例えば、0.1mmの厚みの層をその材料のみで形成したときに、波長400nm~600nmにおけるその層の透過率は、例えば70%以上であり、望ましくは75%以上であり、より望ましくは80%以上であり、さらに望ましくは85%以上である。
【0058】
光吸収性組成物に含まれるマトリクスの材料は、例えば、樹脂である。光吸収性組成物に含まれる樹脂の種類は、特定の種類に限定されない。その樹脂は、例えば、環状ポリオレフィン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、変性アクリル樹脂、シリコーン樹脂、又はPVB等のポリビニル系樹脂である。樹脂は、熱又は光等のエネルギー照射によって硬化しうる硬化性樹脂であってもよい。なお、光吸収性組成物に含まれるマトリクスは、金属成分を含むアルコキシドをゾルゲル法に従って加水分解及び縮重合させることによって形成される有機無機ハイブリッド材料又は無機材料であってもよい。
【0059】
光吸収性組成物は、必要に応じて、リン酸エステルを含んでいてもよい。リン酸エステルの働きにより、光吸収性組成物及び光吸収性組成物を硬化させて光吸収膜において、ホスホン酸含有化合物が適切に分散しやすい。リン酸エステルは、ホスホン酸含有化合物の分散剤として機能していてもよく、その一部が金属成分と反応して化合物を形成していてもよい。例えば、リン酸エステルは、銅成分及びホスホン酸を含むホスホン酸含有化合物に配位し、又は、その化合物と反応していてもよい。ホスホン酸含有化合物には、これらの化合物又はこれらの銅塩の成分が含まれていてもよい。
【0060】
リン酸エステルは、特定のリン酸エステルに限定されない。リン酸エステルは、例えば、ポリオキシアルキル基を有する。このようなリン酸エステルとしては、プライサーフA208N:ポリオキシエチレンアルキル(C12、C13)エーテルリン酸エステル、プライサーフA208F:ポリオキシエチレンアルキル(C8)エーテルリン酸エステル、プライサーフA208B:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、プライサーフA219B:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、プライサーフAL:ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル、プライサーフA212C:ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル、又はプライサーフA215C:ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステルが挙げられる。これらはいずれも第一工業製薬社製の製品である。加えて、リン酸エステルとして、NIKKOL DDP-2:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、NIKKOL DDP-4:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、又はNIKKOL DDP-6:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルが挙げられる。これらは、いずれも日光ケミカルズ社製の製品である。
【0061】
光吸収性組成物におけるリン酸エステルの含有量は、特定の値に限定されない。光吸収性組成物におけるリン酸エステルの含有量に対するホスホン酸の含有量の比RPEは、例えば、質量基準で1.0以上である。これにより、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタが水蒸気と接触してもリン酸エステルの加水分解が抑制され光吸収膜及び光学フィルタが良好な耐候性を有しやすい。比RPEは、望ましくは、1.5以上である。比RPEは、1.0~3.0であってもよい。比RPEが3.0以下であることにより、ホスホン酸含有化合物の凝集を防止でき、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタにおいて可視光域に属する光の透過率がより確実に高くなりやすい。良好な耐候性及び良好な光学特性の観点から、比RPEは、望ましくは1.5~2.0である。
【0062】
光吸収性組成物は、例えば、必要に応じて、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解縮合物、シリコンアルコキシド、及びシリコンアルコキシドの加水分解縮合物からなる群より選ばれる少なくとも1つをさらに含んでいてもよい。これにより、光吸収性組成物、又は、光吸収性組成物を用いて提供される光吸収膜及び光学フィルタにおいて、ホスホン酸含有化合物が均一に分散しやすい。光吸収性組成物において、この群から選ばれる少なくとも2つが混合された状態で含まれていてもよい。例えば、リン酸エステル、金属アルコキシド、又はシリコンアルコキシドは、光吸収性組成物の調製において、銅成分及びホスホン酸等の成分とともに混合される。この場合、金属アルコキシド、及びシリコンアルコキシドの一部は、光吸収性組成物の調製において、銅成分またはホスホン酸等の成分やこれらを含む化合物との相互作用により、ホスホン酸含有化合物を含む微粒子に含有されていてもよい。
【0063】
金属アルコキシド又は金属アルコキシドの加水分解縮合物を形成する金属アルコキシドは、例えば、Li、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Ge、Sn、Pb、Al、Ga、In、Tl、Zn、Cd、Cu、Ag、Au、Ni、Pd、Pt、Co、Rh、Ir、Fe、Mn、Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Ti、及びZrからなる群より選択される少なくとも1つの金属のアルコキシドである。
【0064】
光吸収性組成物を用いて、例えば、
図1に示す光吸収膜10を提供できる。光吸収膜10は、例えば、光吸収性組成物の塗膜を硬化させることによって得られる。このため、光吸収膜10は、ホスホン酸及び銅成分を含む化合物と、紫外線吸収性化合物とを含有している。
【0065】
光吸収膜10の厚みは特定の値に限定されない。例えば、光吸収膜が所望の光吸収性を発揮しつつ、光吸収性膜の厚みを薄くするために、光吸収性組成物に含有されるホスホン酸含有化合物及び紫外線吸収性化合物の濃度を高めることが考えられる。この場合、各化合物の分散性を所望の状態に保てない可能性がある。一方、例えば、撮像装置等の光吸収膜を備える機器の低背位化の要請に応えるためには、光吸収性膜の厚みが小さいことが有利である。このような観点から、光吸収膜10の厚みは、例えば25μm~500μmであり、望ましくは50μm~300μmであり、より望ましくは75μm~250μmである。
【0066】
図1に示す通り、光学フィルタ1aは、光吸収膜10を備えている。これにより、光学フィルタ1aは、波長400nm付近の光を十分に吸収して遮蔽しやすく、紫外線域に属する光を遮蔽しやすい。さらに、光学フィルタ1aにおいて可視光域に属する光の透過率が高くなりやすい。
【0067】
光学フィルタ1aは、例えば、光吸収膜10単体で構成されている。光学フィルタ1aが光吸収膜10単体で構成されている場合、その形態を鑑みて光吸収性フィルム又は光吸収性シートと称してもよい。光学フィルタ1aは、例えば、撮像素子又は光学部品とは別体で使用されうる。この場合、光学フィルタ1aは、光学フィルタに関する公知の方法に従って作製できる。例えば、基板上に光吸収性組成物を塗布して塗膜を形成し、その塗膜を硬化させて光吸収膜10を形成する。その後、光吸収膜10を基板から剥離してフィルム又はシート状とする。これにより、フィルム又はシート状の光学フィルタ1aを作製できる。この場合、基板の材料は、ガラスであってもよく、樹脂であってもよく、金属であってもよい。基板の表面には、フッ素含有化合物を用いたコーティング等の表面処理が施されていてもよい。例えば、光学フィルタ1aを備えた撮像装置を提供できる。
【0068】
光学フィルタ1aは、撮像素子及び光学部品に対して接して形成されていてもよい。一方、上記の光吸収性組成物を撮像素子又は光学部品に塗布して、光吸収性組成物を硬化させることによって、光吸収膜10が構成されていてもよい。これにより、光吸収膜付撮像素子又は光吸収膜付光学部品を作製できる。光学部品は、例えば、レンズ又はカバーガラスなどである。例えば、光吸収膜付撮像素子又は光吸収膜付光学部品を備えた撮像装置を提供できる。
【0069】
光学フィルタ1aは、例えば、
図2に示す光学フィルタ1bのように変更されてもよい。光学フィルタ1bは、特に説明する部分を除き、光学フィルタ1aと同様に構成されている。光学フィルタ1aの構成要素と同一又は対応する光学フィルタ1bの構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。光学フィルタ1aに関する説明は技術的に矛盾しない限り光学フィルタ1bにも当てはまる。
【0070】
図2に示す通り、光学フィルタ1bは、光吸収膜10と、透明誘電体基板20とを備えている。光吸収膜10は、透明誘電体基板20の一方の主面と平行に形成されている。光吸収膜10は、例えば、透明誘電体基板20の一方の主面に接触していてもよい。この場合、例えば、透明誘電体基板20の一方の主面に上記の光吸収性組成物を塗布して光吸収性組成物を硬化させることによって光吸収膜10が形成されうる。
【0071】
透明誘電体基板20の種類は、特定の種類に限定されない。透明誘電体基板20は、赤外線領域に吸収能を有していてもよい。透明誘電体基板20は、例えば波長350nm~900nmにおいて90%以上の平均分光透過率を有していてもよい。透明誘電体基板20の材料は、特定の材料に制限されないが、例えば、所定のガラス又は樹脂である。透明誘電体基板20の材料がガラスである場合、透明誘電体基板20は、例えば、ソーダ石灰ガラス及びホウケイ酸ガラスなどのケイ酸塩ガラスでできた透明なガラス又はCu及びCo等の着色性の成分を含有するリン酸塩ガラス及び弗リン酸塩ガラスでありうる。着色性の成分を含有するリン酸塩ガラス及び弗リン酸塩ガラスは、例えば赤外線吸収性ガラスであり、それ自体が光吸収性を有する。光吸収膜10を、赤外線吸収性ガラスの透明誘電体基板20とともに用いる場合には、双方の光吸収性及び透過スペクトルを調整して、所望の光学特性を有する光学フィルタを作製でき、光学フィルタの設計の自由度が高い。
【0072】
透明誘電体基板20の材料が樹脂である場合、その樹脂は、例えば、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、又はシリコーン樹脂である。
【0073】
光学フィルタ1a及び1bのそれぞれは、赤外線反射膜及び反射防止膜等の他の機能膜をさらに備えるように変更されてもよい。このような機能膜は、光吸収膜10又は透明誘電体基板20の上に形成されうる。例えば、光学フィルタが反射防止膜を備えることにより、所定の波長の範囲(例えば可視光域)の透過率を高めることができる。反射防止膜は、MgF2及びSiO2等の低屈折率材料の層として構成されていてもよく、このような低屈折率材料の層とTiO2等の高屈折率材料の層との積層体として構成されていてもよく、誘電体多層膜として構成されていてもよい。このような反射防止膜は、真空蒸着及びスパッタ法等の物理的な反応を伴う方法、又は、CVD法及びゾルゲル法等の化学的な反応を伴う方法によって形成されうる。
【0074】
光学フィルタは、例えば、二枚の板状のガラスの間に光吸収膜10が配置された状態で構成されていてもよい。これにより、光学フィルタの剛性及び機械的強度が向上する。加えて、光学フィルタの主面が硬質となり、キズ防止等の観点から有利である。特に、光吸収膜10におけるバインダー又はマトリクスとして比較的柔軟性の高い樹脂を用いた場合に、このような利点が重要である。
【実施例】
【0075】
実施例により、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。まず、各実施例及び各比較例に係る光学フィルタの評価方法について説明する。
【0076】
(透過スペクトル測定)
日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計V-670を用いて、各実施例及び各比較例に係る光学フィルタの0°の入射角における透過スペクトルを測定した。
【0077】
(厚み測定)
マイクロメータを用いて各実施例及び各比較例に係る光学フィルタの厚みを測定した。その結果を表4に示す。
【0078】
<実施例1>
酢酸銅一水和物4.500gとテトラヒドロフラン(THF)240gとを混合して、3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られたこの酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208N(第一工業製薬社製)を1.444gの分量で加えて30分間撹拌し、1-A液を得た。フェニルホスホン酸3.576gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、1-B液を得た。次に、1-B液に、メチルトリエトキシシラン(MTES)(信越化学工業社製、製品名:KBE-13)8.664gと、テトラエトキシシラン(TEOS)(キシダ化学社製 特級)2.840gとを加えて、さらに1分間撹拌し、1-C液を得た。1-A液を撹拌しながら1-A液に1-C液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン140gを加えた後、室温で1分間撹拌し、1-D液を得た。1-D液をフラスコに入れてオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB-2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N-1110SF)によって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の液を取り出し、1-E液を得た。1-E液は、アリール系ホスホン酸及び銅成分を含む化合物の分散液であった。
【0079】
酢酸銅一水和物3.600gと、THF200gとを混合して3時間撹拌し、酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208Nを2.058gの分量で加えて30分間撹拌し、1-F液を得た。また、n‐ブチルホスホン酸2.309gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、1-G液を得た。1-F液を撹拌しながら1-F液に1-G液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエンを80g加えた後、室温で1分間撹拌し、1-H液を得た。この1-H液をフラスコに入れてオイルバスで加温しながら、ロータリーエバポレータによって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の液を取り出し、1-I液を得た。1-I液は、ブチルホスホン酸及び銅成分を含む化合物の分散液であった。
【0080】
トリアジン系紫外線吸収性化合物0.3gとトルエン99.7gとを混合して紫外線吸収性化合物の分散液である1-J液を得た。0.1mmの光路長を有する日本分光社製の石英セル(型番J/20/C/CD)に1-J液を入れて試料を作製し、この試料を用いてトリアジン系紫外線吸収性化合物の透過スペクトルを測定した。測定された透過スペクトルを
図11に示す。この透過スペクトルによれば、トリアジン系紫外線吸収性化合物の吸収極大波長λ
M
UV-C=378nmであり、吸収極大波長λ
M
UV-Cにおける透過率は9.90%であった。また、λ
50%-S
UV-C=329nm、λ
50%-L
UV-C=419nm、λ
50%-L
UV-C-λ
50%-S
UV-C=90nmであった。さらに、λ
80%
UV-C=433nmであり、Δλ
80/50
UV-C=2.14であった。
【0081】
1-E液、1-I液、20.00gの1-J液、8.80gの信越化学工業社製のシリコーン樹脂KR-300、及び0.09gの信越化学工業社製のアルミニウムアルコキシド化合物CAT-ACを混合して、30分間撹拌し、実施例1に係る光吸収性組成物を得た。
【0082】
表面防汚コーティング剤(ダイキン工業社製、製品名:オプツールDSX、有効成分の濃度:20質量%)0.1gと、ハイドロフルオロエーテル含有液(3M社製、製品名:ノベック7100)19.9gとを混合し、5分間撹拌して、フッ素処理剤(有効成分の濃度:0.1質量%)を調製した。このフッ素処理剤を、76mm×76mm×0.21mの寸法を有するホウケイ酸ガラス(SCHOTT社製、製品名:D263 T eco)の基板にかけ流して塗布した。その後、そのガラス基板を室温で24時間放置してフッ素処理剤の塗膜を乾燥させ、その後、ノベック7100を含んだ無塵布で軽くガラス基板の表面を拭きあげて余分なフッ素処理剤を取り除いた。このようにしてフッ素処理基板を作製した。フッ素処理基板の一方の主面の中心部の40mm×40mmの範囲にディスペンサを用いて実施例1に係る光吸収性組成物を塗布して塗膜を形成した。得られた塗膜を室温で十分に乾燥させた後、オーブンに入れて45℃で2時間、85℃で6時間の熱処理行い、溶媒を揮発させて硬化させた。その後フッ素処理基板から塗膜を引き剥がし、実施例1に係る光学フィルタを得た。実施例1に係る光学フィルタの透過スペクトルを
図3に示し、この透過スペクトルから看取できる特性値を表3及び4に示す。
【0083】
<実施例2~5>
原材料の添加量を表1に示す通りに調整した以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る光吸収性組成物、実施例3に係る光吸収性組成物、実施例4に係る光吸収性組成物、及び実施例5に係る光吸収性組成物のそれぞれを調製した。実施例1に係る光吸収性組成物の代わりに、実施例2に係る光吸収性組成物、実施例3に係る光吸収性組成物、実施例4に係る光吸収性組成物、又は実施例5に係る光吸収性組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、それぞれ、実施例2に係る光学フィルタ、実施例3に係る光学フィルタ、実施例4に係る光学フィルタ、及び実施例5に係る光学フィルタを作製した。
【0084】
実施例2に係る光学フィルタ、実施例3に係る光学フィルタ、実施例4に係る光学フィルタ、及び実施例5に係る光学フィルタの透過スペクトルをそれぞれ
図4、
図5、
図6、及び
図7に示す。また、これらの透過スペクトルから看取できる各実施例に係る光学フィルタの特性値を表3及び4に示す。
【0085】
<比較例1>
1-J液を用いず、他の原材料の添加量を表1に示す通りに調整した以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る光吸収性組成物を調整した。実施例1に係る光吸収性組成物の代わりに、比較例1に係る光吸収性組成物を用いた以外は実施例1と同様にして比較例1に係る光学フィルタを作製した。比較例1に係る光学フィルタの透過スペクトルを
図8に示す。また、この透過スペクトルから看取できる比較例1に係る光学フィルタの特性値を表3及び4に示す。
【0086】
<比較例2>
フェニルホスホン酸に加えて4-ブロモフェニルホスホン酸を用い、1-J液を用いず、他の原材料の添加量を表1に示す通りに調整した以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係る光吸収性組成物を調整した。実施例1に係る光吸収性組成物の代わりに、比較例2に係る光吸収性組成物を用いた以外は実施例1と同様にして比較例2に係る光学フィルタを作製した。比較例2に係る光学フィルタの透過スペクトルを
図9に示す。また、この透過スペクトルから看取できる比較例2に係る光学フィルタの特性値を表3及び4に示す。
【0087】
<比較例3>
光学フィルタの厚みが500μmを超えるように光学フィルタの作製条件を調整した以外は、比較例2と同様にして比較例3に係る光学フィルタを作製した。比較例3に係る光学フィルタの透過スペクトルを
図10に示す。また、この透過スペクトルから看取できる比較例3に係る光学フィルタの特性値を表3及び4に示す。
【0088】
表3に示す通り、各実施例に係る光学フィルタの透過スペクトルにおいて、16≦T550/T400及び16≦T550/T800の条件が満たされており、各実施例に係る光学フィルタは、波長400nm付近の光を十分に吸収して遮蔽することが示唆された。一方、各比較例に係る光学フィルタの透過スペクトルにおいて、16≦T550/T800の条件は満たされていたものの、16≦T550/T400の条件は満たされておらず、各比較例に係る光学フィルタは、波長400nm付近の光を十分に吸収して遮蔽するとは言い難かった。表4に示す通り、各実施例に係る光学フィルタは、上記の(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)、及び(VIII)の条件を満たしていた。加えて、各比較例に係る光学フィルタにおける第一カットオフ波長λ50%
F及び第二カットオフ波長λ50%
Sは、それぞれ、405nm以上480nm以下の範囲及び580nm以上720nm以下の範囲に存在していた。一方、比較例1及び2に係る光学フィルタは(I)の条件を満たしておらず、各比較例に係る光学フィルタは(II)の条件を満たしていなかった。加えて、比較例1に係る光学フィルタの第一カットオフ波長λ50%
Fは、405nm未満であった。
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【符号の説明】
【0093】
1a、1b 光学フィルタ
10 光吸収膜
20 透明誘電体基板