(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】防振ゴム組成物およびその製造方法、ならびに防振ゴム部材
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20231011BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20231011BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20231011BHJP
C08K 3/06 20060101ALI20231011BHJP
C08K 3/30 20060101ALI20231011BHJP
C08K 5/36 20060101ALI20231011BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20231011BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20231011BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20231011BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K3/36
C08K3/22
C08K3/06
C08K3/30
C08K5/36
C08K5/54
C08J3/20 B
F16F15/08 D
C09K3/00 P
(21)【出願番号】P 2020033224
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】矢島 高志
(72)【発明者】
【氏名】高松 成亮
(72)【発明者】
【氏名】岡久 正志
(72)【発明者】
【氏名】笠井 誠司
(72)【発明者】
【氏名】浅野 英亮
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-129708(JP,A)
【文献】国際公開第2013/065405(WO,A1)
【文献】特開2018-123225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分からなるポリマーとともに、下記の(B)~(E)成分を含有する防振ゴム組成物であって、上記防振ゴム組成物の加硫体に対してX線小角散乱測定により測定される硫化亜鉛結晶物の粒径が3.8nm以下であることを特徴とする防振ゴム組成物。
(A)ジエン系ゴム。
(B)シリカ。
(C)シランカップリング剤。
(D)酸化亜鉛。
(E)硫黄系加硫剤。
【請求項2】
上記酸化亜鉛(D)の含有割合が、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対して2~20重量部の範囲である、請求項1記載の防振ゴム組成物。
【請求項3】
上記シリカ(B)の含有割合が、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対して5~100重量部の範囲である、請求項1または2記載の防振ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の防振ゴム組成物の製造方法であって、下記の(A)~(C)成分を混練機で混練し、混練物を得る工程(I)と、
混練機から混練物を取り出し、再度混練機に投入して混練する工程(II)と
、混練物に対して下記の(D)成分を加えて混練する工程(III)と
、混練物に対して下記の(E)成分を加えて混練する工程(IV)とを
順に備えていることを特徴とする防振ゴム組成物の製造方法。
(A)ジエン系ゴム。
(B)シリカ。
(C)シランカップリング剤。
(D)酸化亜鉛。
(E)硫黄系加硫剤。
【請求項5】
上記工程(II)を複数回繰り返し行う、請求項4記載の防振ゴム組成物の製造方法。
【請求項6】
上記工程(II)を、
混練機から取り出した混練物が45℃以下になった時点で再度混練機に投入して混練する工程とする、請求項4または5記載の防振ゴム組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載の防振ゴム組成物の加硫体からなることを特徴とする防振ゴム部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車,電車等の車両等における防振用途に用いられる防振ゴム組成物およびその製造方法、ならびに防振ゴム部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
防振ゴムの技術分野においては、高耐久性や、静粛性を高めるために低動倍率化(動倍率〔動的ばね定数(Kd)/静的ばね定数(Ks)〕の値を小さくすること)等が要求される。
このため、従来より、防振ゴムの耐久性を改良するために、防振ゴム組成物にシリカとシランカップリング剤を添加する手法が用いられている(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2011/105284号
【文献】特開2010-77299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来の防振ゴムにおいては、シリカとシランカップリング剤との間の結合が不充分であることから、充分な耐久性が得られているとはいえず、この点において改善が求められている。なお、シリカとシランカップリング剤を添加することにより、シリカの分散性が向上するため、防振ゴムの動倍率が下がるが、その効果も不充分であるため、この点においても未だ改善の余地がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、耐久性等をより向上させることができる防振ゴム組成物およびその製造方法、ならびに防振ゴム部材の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、ジエン系ゴムからなるポリマーに対し、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、硫黄系加硫剤を含有させて防振ゴム組成物を調製することを検討した。上記各材料は、従来から防振ゴム組成物の材料に使用されているものであるが、上記の組み合わせで防振ゴム組成物の材料に用い、さらに、上記防振ゴム組成物の調製方法(製造方法)を従来とは異なるよう工夫して、上記防振ゴム組成物の加硫体に対してX線小角散乱測定により測定される硫化亜鉛結晶物の粒径が3.8nm以下となるようにしたところ、耐久性等をより向上させることができることを本発明者らは突き止めた。
上記硫化亜鉛結晶物は、防振ゴム組成物の加硫反応の際に余剰成分となった亜鉛成分(酸化亜鉛に起因するもの)と硫黄成分とが結合して生成された結晶物であり、上記加硫反応の際の副生成物(加硫残渣)である。従来の防振ゴム組成物では、たとえ本発明の防振ゴム組成物と同様の材料を含有させた場合であったとしても、その調製方法等に起因し、亜鉛成分や硫黄成分がシリカ表面に吸着して局所的に反応が進みやすくなる等のことから、硫化亜鉛結晶物が大きな結晶物となって析出しやすく、かつ上記結晶物が防振ゴム中で偏在しやすくなる。そして、本発明の課題を充分に解決することができないといった問題が生じる。これに対して、本発明の防振ゴム組成物では、先に述べたような材料の組み合わせで、かつその調製方法の工夫等により、従来では成し得ない加硫残渣(硫化亜鉛結晶物)の極小化に成功し、そして、上記防振ゴム組成物の加硫体に対してX線小角散乱測定により測定される硫化亜鉛結晶物の粒径が3.8nm以下であるときに、本発明の課題を充分に解決することができることを見いだしたのである。
上記のような硫化亜鉛結晶物の極小化により所望の物性が得られるようになる理由は、硫化亜鉛結晶物の極小化が、防振ゴム組成物の加硫反応が均一に進行していることを示しているとともに、上記硫化亜鉛結晶物の生成が抑えられるよう酸化亜鉛や硫黄系加硫剤が効率よく加硫反応に使われていることを示していると考えられるからである。また、上記のように硫化亜鉛結晶物が極小化していることは、シリカ表面に対するシランカップリング剤の被覆が良好になされ、亜鉛成分や硫黄成分がシリカ表面に吸着されるのを防いでいることを示していると考えられる。これらのことから、上記のような硫化亜鉛結晶物の極小化が、耐久性等の向上に寄与する結果につながったと推察される。
【0007】
しかるに、本発明は、以下の[1]~[7]を、その要旨とする。
[1]下記の(A)成分からなるポリマーとともに、下記の(B)~(E)成分を含有する防振ゴム組成物であって、上記防振ゴム組成物の加硫体に対してX線小角散乱測定により測定される硫化亜鉛結晶物の粒径が3.8nm以下であることを特徴とする防振ゴム組成物。
(A)ジエン系ゴム。
(B)シリカ。
(C)シランカップリング剤。
(D)酸化亜鉛。
(E)硫黄系加硫剤。
[2]上記酸化亜鉛(D)の含有割合が、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対して2~20重量部の範囲である、[1]に記載の防振ゴム組成物。
[3]上記シリカ(B)の含有割合が、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対して5~100重量部の範囲である、[1]または[2]に記載の防振ゴム組成物。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の防振ゴム組成物の製造方法であって、下記の(A)~(C)成分を混練機で混練し、混練物を得る工程(I)と、上記工程(I)を経た後の混練物を取り出し、再度混練機に投入して混練する工程(II)と、上記工程(I)および工程(II)を経た後の混練物に対して下記の(D)成分を加えて混練する工程(III)と、上記工程(I)~(III)を完了した後の混練物に対して下記の(E)成分を加えて混練する工程(IV)とを備えていることを特徴とする防振ゴム組成物の製造方法。
(A)ジエン系ゴム。
(B)シリカ。
(C)シランカップリング剤。
(D)酸化亜鉛。
(E)硫黄系加硫剤。
[5]上記工程(II)を複数回繰り返し行う、[4]に記載の防振ゴム組成物の製造方法。
[6]上記工程(II)を、上記工程(I)を経て取り出した混練物が45℃以下になった時点で再度混練機に投入して混練する工程とする、[4]または[5]に記載の防振ゴム組成物の製造方法。
[7][1]~[3]のいずれかに記載の防振ゴム組成物の加硫体からなることを特徴とする防振ゴム部材。
【発明の効果】
【0008】
以上のことから、本発明の防振ゴム組成物は、耐久性等をより向上させることができる。
また、本発明の防振ゴム組成物における「防振ゴム組成物の加硫体に対してX線小角散乱測定により測定される硫化亜鉛結晶物の粒径が3.8nm以下である」との要件は、ゴム組成物に含まれる各成分の組み合わせのみならず、本発明における上記ゴム組成物の特徴的な製造方法により実現可能となる部分が大きい。そのため、本発明の防振ゴム組成物の製造方法は、先に述べたような、耐久性等に優れた防振ゴム組成物を得るのに、大きく貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】防振ゴム組成物の加硫体試料に対し小角散乱(SAXS)測定を実施して得られた散乱プロファイルの一例を示すグラフ図である。
【
図2】上記グラフ図の一部を拡大して表記したグラフ図である。
【
図3】上記グラフ図における抽出後ゴム試料の散乱プロファイルの曲線に対するフィッティング曲線の一例を示すグラフ図である。
【0010】
本発明の防振ゴム組成物は、先に述べたように、下記の(A)成分からなるポリマーとともに、下記の(B)~(E)成分を含有する防振ゴム組成物である。そして、上記防振ゴム組成物の加硫体に対してX線小角散乱測定により測定される硫化亜鉛結晶物の粒径が3.8nm以下である。特に、上記粒径が3.0~3.8nmである場合、さらに上記粒径が3.5~3.8nmである場合、殊更に上記粒径が3.7~3.8nmである場合に、耐久性等により優れるようになる。
(A)ジエン系ゴム。
(B)シリカ。
(C)シランカップリング剤。
(D)酸化亜鉛。
(E)硫黄系加硫剤。
【0011】
ところで、上記防振ゴム組成物の加硫体に対するX線小角散乱測定は、つぎのようにして行われる。すなわち、上記X線小角散乱測定では、防振ゴム組成物の加硫体からなるシートから試料を切り出し、アセトンを溶媒として24時間ソックスレー抽出を実施し、ゴム中の可溶性加硫反応生成物、硫黄残渣を取り除いたうえで、溶媒に不溶な硫化亜鉛結晶物の粒径測定が行われる。
なお、上記加硫体中の硫化亜鉛結晶物には、硫黄成分や亜鉛成分の他、ゴム組成物中の他の成分が若干量含まれる場合もある。また、上記X線小角散乱測定により測定される結晶物が硫化亜鉛であることは、上記結晶物の成分を透過型電子顕微鏡(TEM)-エネルギー分散型X線分光(EDX)によって分析することにより確認することができる。
【0012】
上記X線小角散乱測定は、具体的には、上記のようにしてソックスレー抽出を実施し、アセトンに不溶の結晶成分のみとなった試料に対し、大型放射光施設であるSPring-8において、X線のエネルギーが18keV、カメラ長が2.04m、下記式(α-1)で表されるqが0.1~10nm-1の範囲で、小角散乱(SAXS)測定を実施することにより行われる。
【0013】
【0014】
上記のようにして、アセトンに不溶の結晶成分のみとなった試料(抽出後ゴム試料)に対しSAXS測定を実施すると、通常、
図1に示すような破線のグラフ図(散乱プロファイル)が得られる。なお、
図1に示される実線のグラフ図は、上記ソックスレー抽出前の試料(加硫ゴム)に対しSAXS測定を実施して得られたものである。
【0015】
図1では、ソックスレー抽出前後で散乱プロファイルを比較すると、アセトン可溶の加硫反応生成物、硫黄残渣が取り除かれているため、qが1.5nm
-1以上の領域の散乱プロファイル強度が低下している。
【0016】
図2は、
図1に示す散乱プロファイルの一部を拡大したものである。
図2より、qが1~2.5nm
-1の範囲をフィッティングすることにより、加硫反応生成物の粒径を算出する。すなわち、本発明においては、抽出後ゴム試料の散乱プロファイルにおいて、アセトンに不溶の加硫反応生成物(硫化亜鉛結晶物)の状態を示している前記式(α-1)で表されるqが1~2.5nm
-1の範囲をフィッティングし、硫化亜鉛結晶物の粒径を算出している。
【0017】
上記フィッティングは、つぎのようにして行われる。すなわち、抽出後ゴム試料で測定した散乱プロファイルを、下記の式(α-2)で表されるUnified-Guinier Power Law[G.Beaucage,J.Appl.Cryst.,28,717(1995)]を用いて、フィッティングを行う。
【0018】
【0019】
すなわち、抽出後ゴム試料で測定した散乱プロファイルの曲線に対し、
図3のように、上記フィッティングによる曲線が重なる様に、各フィッティングパラメーターを求める。なお、
図3に示される実線のグラフ図は、抽出後ゴム試料の散乱プロファイルであり、破線のグラフ図は、フィッティング曲線である。そして、本発明においては、抽出後ゴム試料の散乱プロファイルにおける前記式(α-1)で表されるqが1.3~1.8nm
-1の範囲でフィットするR
gの値を、硫化亜鉛結晶物の粒径を求める計算に用いる。フィッテング曲線は、2つの特徴的な波数q
1=R
g,i
-1、q
2=R
g,i+1
-1により特徴付けられる。フィッティングは、実際の散乱プロファイルとフィッティング曲線が重なる様に任意のq
1=R
g,i
-1、q
2=R
g,i+1
-1、および他のフィッティングパラメータを前記式(α-2)に代入する。
【0020】
実際の散乱プロファイルとフィッティング曲線を重ねることができた際のパラメータの内、Rg,iを粒子の慣性半径Rgとする。そして、下記の式(α-3)に示すRは、粒子が球状であることを仮定した場合の半径であり、Rgとは下記の式に示す関係がある。そして、RgおよびRは、各試料について行ったSAXS測定から得られる試料中の平均構造を代表する値である。
【0021】
R=Rg(5/3)0.5 ……(α-3)
【0022】
そして、加硫生成物の粒径(直径)となる2Rは、下記の式(α-4)により求められる。
【0023】
2R=2(Rg(5/3)0.5) ……(α-4)
【0024】
上記のようにして、フィッティング、Rgの導出、Rの計算を行うことにより、ゴム中の硫化亜鉛結晶物の粒径(2R)を求めることができる。
【0025】
なお、本発明の防振ゴム組成物における、前記耐久性の向上効果は、例えば、粘弾性原子間力顕微鏡(AFM)観察によりゴム全体が高弾性化していることを確認することにより、判断することができる。すなわち、アセトン抽出後のゴムを試料として、ゴム表面上の弾性率を粘弾性原子間力顕微鏡(AFM)によりマッピングする。上記マッピングに際し、曲率半径が20nmの探針を用いてタッピングモードで形状情報を取得するとともに、形状情報を取得した各ポイントにおいて探針を試料表面に30~40nm押し込み、探針全体のたわみ量からナノオーダーの力学特性を算出する。このようにして観察すると、従来の防振ゴム部材では、たとえ上記(A)~(E)成分を含有するものであっても、弾性率が低い領域が多く存在するが、本発明の防振ゴム部材では、弾性率の低い部分が減少し、ゴム全体が高弾性化していることを確認することができる。
【0026】
また、上記のように硫化亜鉛結晶物の粒径が極小であると、ゴム中における硫化亜鉛結晶物が均一に分布するようになり、フィラー(シリカ)の凝集塊も細かくなって均一に分布するようになるため、低動倍率化にも寄与する。上記のように、ゴム中における硫化亜鉛結晶物が均一に分布しており、フィラー(シリカ)の凝集塊が細かくなっていることは、防振ゴム組成物の加硫体で薄片化試料を作製し、アセトンを溶媒として抽出を実施した後、800000倍で透過型電子顕微鏡(TEM)観察することにより、確認することができる。
【0027】
つぎに、本発明の防振ゴム組成物における各材料について、詳しく説明する。
【0028】
〔ジエン系ゴム(A)〕
上記のように、本発明の防振ゴム組成物は、ジエン系ゴム(A)からなるポリマーを用いている。なお、本発明において、ジエン系ゴム(A)以外のポリマーは、使用しないことが望ましい。上記ジエン系ゴム(A)としては、好ましくは、天然ゴム(NR)を主成分とするジエン系ゴムが用いられる。ここで、「主成分」とは、上記ジエン系ゴム(A)の50重量%以上が天然ゴムであるものを示し、上記ジエン系ゴム(A)が天然ゴムのみからなるものも含める趣旨である。このように、天然ゴムを主成分とすることにより、強度や低動倍率化の点で優れるようになる。
また、天然ゴム以外のジエン系ゴムとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロプレンゴム(CR)等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なお、これらのジエン系ゴムは、天然ゴムと併用することが望ましい。
【0029】
〔シリカ(B)〕
上記シリカ(B)としては、例えば、湿式シリカ、乾式シリカ、コロイダルシリカ等が用いられる。そして、これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0030】
そして、より一層、高耐久性、低動倍率化等を達成する観点から、上記シリカ(B)のBET比表面積は、20~400m2/gであることが好ましく、70~230m2/gであることがより好ましい。
なお、上記シリカ(B)のBET比表面積は、例えば、試料を200℃で15分間脱気した後、吸着気体として混合ガス(N2:70%、He:30%)を用いて、BET比表面積測定装置(マイクロデータ社製、4232-II)により測定することができる。
【0031】
そして、上記シリカ(B)の含有量は、高耐久性、低動倍率化等を達成する観点から、前記ジエン系ゴム(A)100重量部に対し、5~100重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは10~80重量部の範囲、更に好ましくは15~75重量部、特に好ましくは20~60重量部の範囲である。
【0032】
〔シランカップリング剤(C)〕
上記シランカップリング剤(C)としては、例えば、メルカプト系シランカップリング剤、スルフィド系シランカップリング剤、アミン系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、ビニル系シランカップリング剤等が、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、上記シランカップリング剤(C)が、メルカプト系シランカップリング剤やスルフィド系シランカップリング剤であると、加硫密度が上がり、低動倍率、耐久性に特に効果があるため、好ましい。
【0033】
上記メルカプト系シランカップリング剤としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0034】
上記スルフィド系シランカップリング剤としては、例えば、ビス-(3-(トリエトキシシリル)-プロピル)-ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス-(3-(トリエトキシシリル)-プロピル)-テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリメトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0035】
上記アミン系シランカップリング剤としては、例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-(N-フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0036】
上記エポキシ系シランカップリング剤としては、例えば、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0037】
上記ビニル系シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニル・トリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルジメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニル・トリス(2-メトキシエトキシ)シラン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0038】
これらのシランカップリング剤(C)の含有量は、低動倍率、耐久性等に優れることから、前記ジエン系ゴム(A)100重量部に対し、0.5~20重量部であることが好ましく、より好ましくは1.0~10重量部、更に好ましくは1.5~8.5重量部、特に好ましくは2.0~7.5重量部の範囲である。
【0039】
〔酸化亜鉛(D)〕
上記酸化亜鉛(D)としては、例えば、酸化亜鉛一種、酸化亜鉛二種、酸化亜鉛三種、微細酸化亜鉛等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0040】
上記酸化亜鉛(D)の含有量は、加硫反応の促進効率等の観点から、前記ジエン系ゴム(A)100重量部に対し、2~20重量部であることが好ましく、より好ましくは3~15重量部、更に好ましくは3~10重量部、特に好ましくは3~7重量部の範囲である。
【0041】
〔硫黄系加硫剤(E)〕
上記硫黄系加硫剤(E)としては、例えば、硫黄(粉末硫黄,沈降硫黄,不溶性硫黄)、アルキルフェノールジスルフィド等の硫黄含有化合物等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0042】
上記硫黄系加硫剤(E)の含有量は、前記ジエン系ゴム(A)100重量部に対し、0.1~10重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.3~5重量部の範囲である。すなわち、上記硫黄系加硫剤(E)の含有量が少なすぎると、加硫反応性が悪くなる傾向がみられ、逆に上記硫黄系加硫剤(E)の含有量が多すぎると、ゴム物性(破断強度,破断伸び)が低下する傾向がみられるからである。
【0043】
なお、本発明の防振ゴム組成物においては、その必須成分である前記(A)~(E)成分とともに、加硫促進剤、加硫助剤、老化防止剤、プロセスオイル、カーボンブラック等を、必要に応じて適宜に含有させることも可能である。
【0044】
上記加硫促進剤としては、例えば、チアゾール系,スルフェンアミド系,チウラム系,アルデヒドアンモニア系,アルデヒドアミン系,グアニジン系,チオウレア系等の加硫促進剤があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、架橋反応性に優れる点で、スルフェンアミド系加硫促進剤が好ましい。
【0045】
また、上記加硫促進剤の含有量は、前記ジエン系ゴム(A)100重量部に対し、0.1~10重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.3~5重量部の範囲である。
【0046】
上記チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩(NaMBT)、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩(ZnMBT)等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0047】
上記スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(NOBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾイルスルフェンアミド(BBS)、N,N’-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾイルスルフェンアミド等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0048】
上記チウラム系加硫促進剤としては、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラムジスルフィド(TBTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0049】
上記加硫助剤としては、例えば、ステアリン酸、酸化マグネシウム等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0050】
また、上記加硫助剤の含有量は、前記ジエン系ゴム(A)100重量部に対し、0.1~10重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.3~7重量部の範囲である。
【0051】
上記老化防止剤としては、例えば、カルバメート系老化防止剤、フェニレンジアミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、ジフェニルアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、ワックス類等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0052】
また、上記老化防止剤の含有量は、前記ジエン系ゴム(A)100重量部に対し、0.5~15重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは1~10重量部の範囲である。
【0053】
上記プロセスオイルとしては、例えば、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、アロマ系オイル等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0054】
また、上記プロセスオイルの含有量は、前記ジエン系ゴム(A)100重量部に対し、1~35重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは3~30重量部の範囲である。
【0055】
上記カーボンブラックとしては、耐候性向上の観点から、例えば、SAF級,ISAF級,HAF級,MAF級,FEF級,GPF級,SRF級,FT級,MT級等の種々のグレードのカーボンブラックが用いられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0056】
そして、耐久性と低動倍率化の観点から、上記カーボンブラックは、ヨウ素吸着量10~110mg/g、DBP吸油量20~180ml/100gのカーボンブラックが好ましい。
なお、上記カーボンブラックのヨウ素吸着量は、JIS K 6217-1(A法)に準拠して測定された値である。また、上記カーボンブラックのDBP吸収量は、JIS K 6217-4に準拠して測定された値である。
【0057】
上記カーボンブラックの含有量は、より一層、耐久性と耐候性を両立させる観点から、前記ジエン系ゴム(A)100重量部に対し、0.1~5重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1~3重量部である。
【0058】
〔防振ゴム組成物の調製方法〕
ここで、本発明の防振ゴム組成物は、その必須成分である(A)~(E)成分、および必要に応じて上記列記したその他の材料を用いて調製されるが、「防振ゴム組成物の加硫体に対してX線小角散乱測定により測定される硫化亜鉛結晶物の粒径が3.8nm以下である」といった本願発明の特徴的構成を実現するには、従来の調製方法では実現が難しい。
本発明の防振ゴム組成物の製造方法では、上記の本願発明の特徴的構成を実現可能とするよう、以下に示すような特徴的な製造方法を採用している。
【0059】
すなわち、本発明の防振ゴム組成物の製造方法は、下記の(A)~(C)成分を混練機で混練し、混練物を得る工程(I)と、上記工程(I)を経た後の混練物を取り出し、再度混練機に投入して混練する工程(II)と、上記工程(I)および工程(II)を経た後の混練物に対して下記の(D)成分を加えて混練する工程(III)と、上記工程(I)~(III)を完了した後の混練物に対して下記の(E)成分を加えて混練する工程(IV)とを備えた製造方法である。
(A)ジエン系ゴム。
(B)シリカ。
(C)シランカップリング剤。
(D)酸化亜鉛。
(E)硫黄系加硫剤。
【0060】
上記工程(I)は、通常、バンバリーミキサー、ニーダー等の混練機により行われ、80~170℃で2~10分間、好ましくは100~150℃で3~7分間、上記混練機による混練が行われる。
なお、上記工程(I)では、(A)~(C)成分、必要に応じ(A)~(E)成分以外の任意成分が加えられて、混練されるが、これらの成分は、全て同時に配合して混練するのみならず、上記工程(I)の途中で段階的に加えてもよい。
【0061】
上記工程(II)は、通常、バンバリーミキサー、ニーダー等の混練機により行われ、80~170℃で2~10分間、好ましくは100~150℃で3~7分間、上記混練機による混練が行われる。上記工程(II)で使用される混練機は、上記工程(I)で使用される混練機と同じであっても異なっていてもよい。
なお、上記工程(II)は、上記工程(I)を経た後であるため、上記工程(II)において(A)~(C)成分を添加することはなく、(D)および(E)成分を添加することもない。但し、(A)~(E)成分以外の任意成分が上記工程(II)で加えられることを排除するものではない。
【0062】
また、上記工程(II)を複数回繰り返し行うと、ゴム組成物の加硫反応がより均一となり、所望の物性を示す防振ゴム組成物をより製造しやすくすることができる。上記工程(II)の繰り返し回数は、1~5回が好ましく、より好ましくは2~4回である。
さらに、上記工程(II)を、上記工程(I)を経て取り出した混練物が45℃以下(25~40℃であるとより好ましく、30~40℃であると更に好ましい。)になった時点で再度混練機に投入して混練する工程とすると、分散がより良好となる。
【0063】
上記工程(III)は、通常、バンバリーミキサー、ニーダー等の混練機により行われ、80~170℃で2~10分間、好ましくは100~150℃で3~7分間、上記混練機による混練が行われる。上記工程(III)で使用される混練機は、上記工程(I)や工程(II)で使用される混練機と同じであっても異なっていてもよい。
なお、上記工程(III)は、上記工程(I)および工程(II)を経た後であるため、上記工程(III)において(A)~(C)成分を添加することはなく、(E)成分を添加することもない。但し、(D)成分とともに、(A)~(E)成分以外の任意成分が上記工程(III)で加えられることを排除するものではない。
【0064】
上記工程(IV)は、通常、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダー等の混練機により行われ、30~110℃で1~10分間、好ましくは40~100℃で2~8分間、上記混練機による混練が行われる。
なお、上記工程(IV)は、工程(I)~(III)が完了した後に行われるため、上記工程(IV)において(A)~(D)成分を添加することはないが、上記工程(IV)で加えられる(E)成分の他、必要に応じ、加硫促進剤等の任意成分を加えることができる。
また、上記工程(IV)は、上記工程(I)~(III)を経て得られた混練物が45℃以下(25~45℃であるとより好ましく、30~40℃であると更に好ましい。)になった時点で行うと、急激に反応が進むことなく、加硫成形に際し、より均一な加硫を行うことができるようになる。
【0065】
このような特殊な製造方法により得られた本発明の防振ゴム組成物を、プレス成形や、射出成形等により、高温(150~170℃)で5~30分間加硫成形して、目的とする防振ゴム部材(加硫体)を製造することができる。
【0066】
そして、本発明の防振ゴム組成物の加硫体からなる防振ゴム部材は、自動車の車両等に用いられるエンジンマウント、スタビライザブッシュ、サスペンションブッシュ、モーターマウント、サブフレームマウント等の構成部材として好ましく用いられる。なかでも、低動倍率であるとともに耐熱性や耐久性にも優れることから、電動モーターを動力源とする電気自動車(電気自動車(EV)の他、燃料電池自動車(FCV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、ハイブリッド車(HV)等も含む)用の、モーターマウント、サスペンションブッシュ、サブフレームマウント等の構成部材(電気自動車用防振ゴム部材)の用途に、有利に用いることができる。
また、上記用途以外にも、コンピューターのハードディスクの制振ダンパー、洗濯機等の一般家電製品の制振ダンパー、建築・住宅分野における建築用制震壁,制震(制振)ダンパー等の制震(制振)装置および免震装置の用途にも用いることができる。
【実施例】
【0067】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0068】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
【0069】
[NR]
天然ゴム
【0070】
[酸化亜鉛]
酸化亜鉛二種、堺化学工業社製
【0071】
[ステアリン酸]
ビーズステアリン酸さくら、日本油脂社製
【0072】
[老化防止剤]
アンチゲン6C、住友化学社製
【0073】
[シリカ]
ニプシールVN3、東ソー・シリカ社製、BET比表面積200m2/g
【0074】
[プロセスオイル]
サンセン410、日本サン石油社製
【0075】
[シランカップリング剤]
NXT Z45、MOMENTIVE社製
【0076】
[加硫促進剤]
サンセラーCZ-G、三新化学社製
【0077】
[硫黄]
硫黄、軽井沢製錬所社製
【0078】
〔実施例1、比較例1,2〕
上記各材料を、後記の表1に示す割合で配合して混練することにより、防振ゴム組成物を調製した。なお、実施例1、比較例1,2は、後記の表1に示すように、同じ材料を、同じ割合で配合している。
実施例1、比較例2では、まず、酸化亜鉛、加硫剤(硫黄)、加硫促進剤以外の材料を、バンバリーミキサーを用いて140℃で5分間混練を行った。
比較例1では、まず、加硫剤(硫黄)、加硫促進剤以外の材料を、バンバリーミキサーを用いて140℃で5分間混練を行った。
【0079】
つぎに、実施例1、比較例2では、再混練工程として、上記のようにして得られた混練物をバンバリーミキサーから一旦取り出し、上記混練物が40℃になった時点で再度バンバリーミキサーに投入して140℃で5分間の混練を行った。なお、実施例1では上記再混練工程を3回繰り返し行い、比較例2では上記再混練工程を4回繰り返し行った。そして、実施例1のみ、上記再混練工程の後、酸化亜鉛を加えつつ上記再混練工程と同様の工程を1回行った。
比較例1では、上記のような再混練工程は行わなかった。
【0080】
その後、各実施例および比較例の混練物をオープンロールに移し、上記混練物(40℃)に、加硫剤(硫黄)と加硫促進剤(比較例2では、さらに酸化亜鉛)を配合し、オープンロールを用いて60℃で5分間混練することにより、各防振ゴム組成物を調製した。
【0081】
このようにして得られた実施例および比較例の防振ゴム組成物を用い、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、後記の表1に併せて示した。
【0082】
≪加硫残渣粒径≫
上記各防振ゴム組成物を、プレス成形により、プレス圧15MPaで、160℃×20分間成形して、厚み2mmの加硫体を得た後、10mm×10mm×2mmの大きさの試料として切り出した。そして、上記試料に、アセトンを溶媒として24時間ソックスレー抽出を実施し、ゴム中の可溶性加硫反応生成物、硫黄残渣を取り除いたうえで、溶媒に不溶な加硫残渣(硫化亜鉛結晶物)の粒径測定を行った。
すなわち、上記試料に対し、上記のようにソックスレー抽出を実施し、アセトンに不溶の結晶成分のみとなった試料に対し、大型放射光施設であるSPring-8において、X線のエネルギーが18keV、カメラ長が2.04m、前記式(α-1)で表されるqが0.1~10nm-1の範囲で、小角散乱(SAXS)測定を実施した後、前記に示す方法に従い、フィッティング、Rgの導出、Rの計算を行うことにより、ゴム中の加硫残渣(硫化亜鉛結晶物)の粒径(2R)を求めた。
【0083】
≪耐久性≫
各防振ゴム組成物を、160℃×20分の条件でプレス成形(加硫)し、10mm×10mm×2mmの大きさのテストピースを作製した。そして、アセトン抽出後の上記テストピースを試料として、試料表面上の弾性率を粘弾性原子間力顕微鏡(AFM)によりマッピングした。上記マッピングに際し、曲率半径が20nmの探針を用いてタッピングモードで形状情報を取得するとともに、形状情報を取得した各ポイントにおいて探針を試料表面に30~40nm押し込み、探針全体のたわみ量からナノオーダーの力学特性を算出した。
このようにして得られたデータから、試料表面上で測定された弾性率のヒストグラムを作成し、そのトップピークの弾性率(最頻出弾性率)を調べた。そして、比較例1における最頻出弾性率の測定値を1としたときの、各実施例および比較例における最頻出弾性率の測定値を指数換算したものを表記した。評価においては、その値が、比較例1における最頻出弾性率の、1よりも大きなものを「○」と評価し、1以下であるものを「×」と評価した。
【0084】
【0085】
上記表1の結果から、実施例1の防振ゴム組成物は、加硫残渣粒径が3.8nm以下であり、耐久性に優れる結果となった。
これに対し、比較例1および比較例2の防振ゴム組成物は、加硫残渣粒径が3.8nmを超えるものであり、実施例よりも耐久性に劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の防振ゴム組成物は、自動車の車両等に用いられるエンジンマウント、スタビライザブッシュ、サスペンションブッシュ、モーターマウント、サブフレームマウント等の構成部材(防振ゴム部材)の材料として好ましく用いられるが、それ以外にも、コンピューターのハードディスクの制振ダンパー、洗濯機等の一般家電製品の制振ダンパー、建築・住宅分野における建築用制震壁,制震(制振)ダンパー等の制震(制振)装置および免震装置の構成部材(防振ゴム部材)の材料にも用いることができる。