(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】積層型曲げセンサ及び機械電気変換装置
(51)【国際特許分類】
G01B 7/28 20060101AFI20231011BHJP
【FI】
G01B7/28 D
(21)【出願番号】P 2020036354
(22)【出願日】2020-03-04
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】鴻野 勝正
(72)【発明者】
【氏名】上田 耕右
(72)【発明者】
【氏名】栗原 健司
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04715235(US,A)
【文献】特開2009-20006(JP,A)
【文献】特開2019-11965(JP,A)
【文献】特開2015-219127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層型曲げセンサであって、
伸縮性を有し、収縮状態における伸縮方向長さをLBとする基材と、
前記基材の伸縮方向に沿った自由長さをLSとするとき、LB<LSの関係を有する可撓性のセンサ本体と、
を備え、
前記センサ本体は、表裏其々に配された一対の外側電極層と、前記外側電極層の間に配された内側電極層と、前記外側電極層と前記内側電極層との間の其々に配された一対の外側絶縁層と、を備えて構成され、
前記センサ本体は、前記基材に両端縁が重畳固定され中間部が前記基材から遊離するように取り付けられ、前記基材の伸長の程度にかかわらず前記センサ本体に前記基材の伸長方向への張力が作用しないように構成されている積層型曲げセンサ。
【請求項2】
前記基材の最大伸長状態における伸縮方向長さをLBmax、とするときに、LBmax≦LSに設定されている請求項1記載の積層型曲げセンサ。
【請求項3】
前記基材の最大伸長状態における伸縮方向長さLBmaxは、前記基材の伸長回復率が所定値以上となる長さに設定されている請求項2記載の積層型曲げセンサ。
【請求項4】
前記基材の伸長長さLBiを、LBi<LSに制限する伸長規制部材を備えている請求項1から3の何れかに記載の積層型曲げセンサ。
【請求項5】
前記センサ本体の前記中間部の一部を前記基材に近接するように位置規制する位置規制部材を備えている請求項1から4の何れかに記載の積層型曲げセンサ。
【請求項6】
前記センサ本体を前記基材に重畳固定した両端縁に、前記センサ本体の撓みを抑制する姿勢保持部材を備えている請求項1から5の何れかに記載の積層型曲げセンサ。
【請求項7】
前記内側電極層の外縁に前記外側絶縁層に被覆された縁部絶縁層が配されている請求項1から6の何れかに記載の積層型曲げセンサ。
【請求項8】
前記一対の外側絶縁層の間に可撓性の内側絶縁層が設けられ、前記内側絶縁層を挟むように前記内側電極層が一対設けられている請求項1から7の何れかに記載の積層型曲げセンサ。
【請求項9】
前記内側絶縁層は前記外側絶縁層より厚肉に形成されている請求項8記載の積層型曲げセンサ。
【請求項10】
前記内側絶縁層が前記外側電極層よりも幅方向両側に突出する突出部を備えて構成され、前記突出部を介して前記センサ本体が前記基材に固定されている請求項8または9記載の積層型曲げセンサ。
【請求項11】
前記外側電極層及び内側電極層は、絶縁性の弾性糸を地糸に用いて編成された絶縁性編地領域に、複数のコースにわたって導電糸が添え糸編み編成された平編地でなる導電性布帛、または、絶縁性の弾性糸を地糸に用いて編成された絶縁性編地領域を挟んで、導電糸を用いた帯状の導電性編地領域が編成された平編地でなる導電性布帛で構成されている請求項1から10の何れかに記載の積層型曲げセンサ。
【請求項12】
請求項1から11の何れかに記載の積層型曲げセンサと、前記積層型曲げセンサが姿勢計測対象部の姿勢変化に応じて伸縮するように前記姿勢計測対象部に取付ける取付け部材とを備えている機械電気変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型曲げセンサ及び機械電気変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
身に纏う衣服などの装具に機械電気変換装置を取り付けて、着用者の身体の姿勢の変化などの動きを計測することを目的とするセンサ付き衣服が注目されている。
【0003】
特許文献1には、編物又は織物の伸縮を静電容量の変化として検出することにより、検知システムとしての消費電力を抑制する引張変形検知布が提案されている。
【0004】
当該引張変形検知布は、複数の導電糸を含んで構成された編物又は織物を一方向に伸縮自在にすると共に、その伸縮に伴って前記導電糸の隣接するもの同士の間隔が変化し、その隣接する導電糸同士間は絶縁状態が維持されるように構成され、隣接する各導電糸の端部が静電容量を測定するための一対の電極とされていることを特徴とする。
【0005】
具体的に、導電性繊維を含む芯と、該芯の周りを絶縁性繊維で覆う鞘とから成る導電糸を複数本用いて天竺編みとした編物を、編み込まれた導電糸の両端を結ぶ方向が伸縮方向とされ、各導電糸の端部が静電容量を測定するための一対の電極とする構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した引張変形検知布は、絶縁性繊維で被覆された導電糸の其々に対して、端部の被覆部から導電糸を露出させて外部電極に接続するための工程が必要となり、非常に手間の掛かる作業が必要となる。
【0008】
また、例えば引張変形検知布を平面で伸縮する場合と曲面で伸縮する場合では、同じ伸縮の程度であっても隣接導電糸の間隔が異なるために出力値が異なり、被装着者の正確な動きを検出するのが困難であるという問題や、高い耐久性能が得られないという問題もあった。
【0009】
そこで、本願発明者らは、表裏其々に配された一対の可撓性の外側電極層と、前記外側電極層の間に配された可撓性の内側電極層と、前記外側電極層と前記内側電極層との間の其々に配された一対の可撓性の外側絶縁層と、を備え、前記内側電極層は前記外側絶縁層の端縁より内側に延在するように配置されている積層型曲げセンサを提案している(特願2019-206847号)。
【0010】
このような積層型曲げセンサにより、装着部の姿勢の変化を精度良く検出することができるようになる。
【0011】
しかし、上述した積層型曲げセンサであっても、装着部の姿勢の変化に伴って伸長状態と収縮状態が繰り返されると、検出精度の劣化を招く虞があり、センサ寿命に影響を及ぼすという問題があった。
【0012】
本発明の目的は、上述の事情に鑑み、繰り返し使用に対して十分な耐久性を確保可能な積層型曲げセンサ及び機械電気変換装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するため、本発明による積層型曲げセンサの第一の特徴構成は、積層型曲げセンサであって、伸縮性を有し、収縮状態における伸縮方向長さをLBとする基材と、前記基材の伸縮方向に沿った自由長さをLSとするとき、LB<LSの関係を有する可撓性のセンサ本体と、を備え、前記センサ本体は、表裏其々に配された一対の外側電極層と、前記外側電極層の間に配された内側電極層と、前記外側電極層と前記内側電極層との間の其々に配された一対の外側絶縁層と、を備えて構成され、前記センサ本体は、前記基材に両端縁が重畳固定され中間部が前記基材から遊離するように取り付けられ、前記基材の伸長の程度にかかわらず前記センサ本体に前記基材の伸長方向への張力が作用しないように構成されている点にある。
【0014】
内側電極層と一対の外側電極層との間の其々に外側絶縁層が配されることによって一対のコンデンサが厚み方向に重畳配置された可撓性を示すセンサ本体が構成される。当該センサ本体が湾曲変形すると、一方の外側電極層の表面が凸状に湾曲し、他方の外側電極層の表面が凹状に湾曲する。内側電極層を基準にすると、凸状に湾曲する一方の外側電極層側に配された外側絶縁層は湾曲頂部から周辺に向けて引っ張り力が作用して相対的に層厚が薄くなるように変形し、凹状に湾曲する他方の外側電極層側に配された外側絶縁層は周辺から湾曲底部に向けて圧縮力が作用して相対的に層厚が厚くなるように変形する。その結果、両端縁を基準に全体として一方の外側電極層側に位置するコンデンサの容量と他方の外側電極層側に位置するコンデンサの容量の変化が生じ、この容量の変化に基づいて曲げの角度が検出できる。
【0015】
収縮状態における伸縮方向長さLBの基材に、基材の伸縮方向に沿った自由長さLSがLB<LSとなるセンサ本体の両端縁が重畳固定され、中間部が基材から遊離するように取り付けられ、基材の伸長の程度にかかわらずセンサ本体に基材の伸長方向への張力が作用しないように構成されているので、基材の伸長に伴ったセンサ本体の伸長付勢を回避することができる。従って、センサ本体が伸長および収縮を繰り返すことによる検出精度の劣化や寿命の短縮化を招くことがない。
【0016】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記基材の最大伸長状態における伸縮方向長さをLBmax、とするときに、LBmax≦LSに設定されている点にある。
【0017】
センサ本体の基材の伸縮方向に沿った自由長さをLS、基材の最大伸長状態における伸縮方向長さをLBmax、とするときに、LBmax≦LSに設定されているので、基材が最大伸長状態となってもセンサ本体が伸長することが回避される。従って、センサ本体が伸長および収縮を繰り返すことによる検出精度の劣化や寿命の短縮化を招くことがない。
【0018】
同第三の特徴構成は、上述の第二の特徴構成に加えて、前記基材の最大伸長状態における伸縮方向長さLBmaxは、前記基材の伸長回復率が所定値以上となる長さに設定されている点にある。
【0019】
基材の最大伸長状態における伸縮方向長さLBmaxが、基材の伸長回復率が所定値以上となるように設定されていることが、基材の耐久性能を確保する点で好ましい。
【0020】
同第四の特徴構成は、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記基材の伸長長さLBiを、LBi<LSに制限する伸長規制部材を備えている点にある。
【0021】
伸長規制部材によって基材がLBi<LSとなる伸長長さLBiに制限されるので、センサ本体の伸長を確実に阻止しながらも基材の耐久性能を確保することができる。
【0022】
同第五の特徴構成は、上述の第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記センサ本体の前記中間部の一部を前記基材に近接するように位置規制する位置規制部材を備えている点にある。
【0023】
基材が最大伸長状態となってもセンサ本体が伸長することが無いように、センサ本体の中間部が基材から遊離するように基材に取り付けられているため、中間部が基材から大きく遊離することとなり、当該遊離部が様々な部位に引っ掛かるようなことが無いように積層型曲げセンサの取り扱いに注意を要するようになる。しかし、位置規制部材によってセンサ本体の中間部の一部が基材に近接するように位置規制されることにより、センサ本体の中間部の基材からの遊離状態が小さくなるように制限できるので、積層型曲げセンサの取り扱いが容易になる。
【0024】
同第六の特徴構成は、上述の第一から第五の何れかの特徴構成に加えて、前記センサ本体を前記基材に重畳固定した両端縁に、前記センサ本体の撓みを抑制する姿勢保持部材を備えている点にある。
【0025】
外部から作用する曲げ変形力に応じて積層型曲げセンサの両端縁より内側に設定される湾曲変形領域で生じる変形に応じて変化する静電容量に基づいて曲げの程度が検出される。湾曲変形領域では一方向に湾曲変形しても双方向に波打つように変形してもよい。しかし、当該湾曲変形領域を支持する両端縁に曲げ変形応力が集中して端縁が異常に屈曲変形すると、当該異常な屈曲変形による静電容量の変化の影響を受けて湾曲変形領域の変形状態を正確に検出することが困難になる虞がある。そのような場合に備えて両端縁の異常な屈曲変形を抑制する姿勢保持部材を備えると、姿勢保持部材が配された部位で無用な変形が抑制されるようになるので、積層型曲げセンサの変形状態を正確に検出することができるようになる。
【0026】
同第七の特徴構成は、上述の第一から第六の何れかの特徴構成に加えて、前記内側電極層の外縁に前記外側絶縁層に被覆された縁部絶縁層が配されている点にある。
【0027】
内側電極層の外縁に縁部絶縁層を配することにより、内側電極層の絶縁性が確保できるようになるとともに、積層型曲げセンサの形状的な安定性及び検出精度の信頼性が確保できるようになる。
【0028】
同第八の特徴構成は、上述の第一から第七の何れかの特徴構成に加えて、前記一対の外側絶縁層の間に可撓性の内側絶縁層が設けられ、前記内側絶縁層を挟むように前記内側電極層が一対設けられている点にある。
【0029】
内側絶縁層を挟んで両側に其々独立したコンデンサが厚み方向に重畳配置された可撓性を示すセンサ本体が構成される。当該センサ本体が湾曲変形すると、一方の外側電極層の表面が凸状に湾曲し、他方の外側電極層の表面が凹状に湾曲する。内側絶縁層を基準にすると、凸状に湾曲する一方の外側電極層側に配された外側絶縁層は湾曲頂部から周辺に向けて引っ張り力が作用して相対的に層厚が薄くなるように変形し、凹状に湾曲する他方の外側電極層側に配された外側絶縁層は周辺から湾曲底部に向けて圧縮力が作用して相対的に層厚が厚くなるように変形する。その結果、凸側に位置するコンデンサの容量が凹側に位置するコンデンサの容量よりも大きくなり、この容量の変化に基づいて曲げの程度が検出できる。内側絶縁層が介在することで、凸側に位置するコンデンサの容量と凹側に位置するコンデンサの容量の差が大きくなるため、感度が良くなる。
【0030】
同第九の特徴構成は、上述の第八の特徴構成に加えて、前記内側絶縁層は前記外側絶縁層より厚肉に形成されている点にある。
【0031】
内側絶縁層を外側絶縁層より厚肉に形成することにより、凸状に湾曲する一方の外側電極層側に配された外側絶縁層では湾曲頂部から周辺に向けて作用する引っ張り力がより大きくなり、凹状に湾曲する他方の外側電極層側に配された外側絶縁層では周辺から湾曲底部に向けて作用する圧縮力がより大きくなる。その結果、凸側に位置するコンデンサの容量と凹側に位置するコンデンサの容量の差がより大きくなって感度が一層良くなる。
【0032】
同第十の特徴構成は、上述の第八または第九の特徴構成に加えて、前記内側絶縁層が前記外側電極層よりも幅方向両側に突出する突出部を備えて構成され、前記突出部を介して前記センサ本体が前記基材に固定されている点にある。
【0033】
センサ本体を基材に固定する際の固定代として利用することで、センサ本体を基材に取り付ける際の取り回しが容易になる。
【0034】
同第十一の特徴構成は、上述の第一から第十の何れかの特徴構成に加えて、前記外側電極層及び内側電極層は、絶縁性の弾性糸を地糸に用いて編成された絶縁性編地領域に、複数のコースにわたって導電糸が添え糸編み編成された平編地でなる導電性布帛、または、絶縁性の弾性糸を地糸に用いて編成された絶縁性編地領域を挟んで、導電糸を用いた帯状の導電性編地領域が編成された平編地でなる導電性布帛で構成されている点にある。
【0035】
平編地で構成される一対の伸縮性の導電性布帛が、各絶縁層の両面に積層されることにより、伸縮性を備えた導電性布帛が一対の対向電極となる耐久性の高いセンサ本体が形成される。
【0036】
本発明による機械電気変換装置の第一の特徴構成は、上述した第一から第十一の何れかの特徴構成を備えた積層型曲げセンサと、前記積層型曲げセンサが姿勢計測対象部の姿勢変化に応じて伸縮するように前記姿勢計測対象部に取付ける取付け部材とを備えている点にある。
【0037】
例えばロボットアームや人体の関節部など曲げ検出対象となる姿勢計測対象部に、取付け部材を介して積層型曲げセンサが取付けられる。そして関節部の曲げ伸ばし運動に伴って積層型曲げセンサの湾曲変形領域が湾曲し、或いは元に復帰することによりその状態が検出できる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、繰り返し使用に対して十分な耐久性を確保可能な積層型曲げセンサ及び機械電気変換装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】(a)は本発明による積層型曲げセンサの側面視の説明図、(b)は積層型曲げセンサを構成するセンサ本体と基材の長さ関係の説明図、(c)は伸長回復率の説明図
【
図2】(a)は伸長規制部材を備えた積層型曲げセンサの側面視の説明図、(b)は積層型曲げセンサを構成するセンサ本体と基材と伸長規制部材の長さ関係の説明図
【
図3】(a)は積層型曲げセンサを構成するセンサ本体の基材からの遊離高さの説明図、(b)は位置規制部材を備えた積層型曲げセンサの説明図、(c)は位置規制部材を備えた積層型曲げセンサの他の例の説明図、(d),(e)は位置規制部材の要部の説明図
【
図4】(a)は積層型曲げセンサの角度検出領域の説明図、(b)は積層型曲げセンサで検出する曲げ角度の説明図、(c)は積層型曲げセンサが外力により不適切に曲げ変形した状態の説明図、(d),(e)は姿勢保持部材を備えた積層型曲げセンサの説明図
【
図5】(a)はセンサ本体の通常姿勢の説明図、(b)は曲げ姿勢の説明図、(c)はセンサ本体の信号処理回路の説明図
【
図6】(a)はセンサ本体に対する外乱である浮遊容量の影響説明図、(b)は外乱を抑制したセンサ本体の説明図
【
図7】(a)センサ本体の第1の態様の説明図、(b)はセンサ本体の第2の態様の説明図
【
図8】(a)センサ本体の第3の態様の説明図、(b)はセンサ本体の第4の態様の説明図
【
図11】(a)平編地のループの表出面とは反対の面(表面)の収縮状態(左図)と伸長状態(右図)の対比説明図、(b)は平編地のループの表出面(裏面)の収縮状態(左図)と伸長状態(右図)の対比説明図
【
図12】(a),(b)は機械電気変換装置の説明図
【
図13】(a)から(d)は人体の背部の曲がりを計測するための機械電気変換装置の例で、人体に装着した状態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明による積層型曲げセンサ及び機械電気変換装置を、図面に基づいて説明する。
[積層型曲げセンサの構成]
図1(a)に示すように、積層型曲げセンサ100は、伸縮性を有する基材8と、基材8に両端縁1A,1Bが重畳するように固定され中間部1Mが基材8から遊離するように取り付けられた可撓性のセンサ本体1と、を備えている。
【0041】
センサ本体1は、後に
図5(a)に基づいて詳述するが、表裏其々に配された一対の外側電極層2A,2Bと、外側電極層2A,2Bの間に配された内側電極層4と、外側電極層2A,2Bと内側電極層4との間の其々に配された一対の外側絶縁層3A,3Bと、を備えて構成されている。また、基材8として織ゴムなどの伸縮性布帛が用いられる。
【0042】
内側電極層4と一対の外側電極層2A,2Bとの間の其々に外側絶縁層3A,3Bが配されることによって一対のコンデンサが厚み方向に重畳配置された可撓性を示すセンサ本体1が構成される。
【0043】
当該センサ本体1が湾曲変形すると、一方の外側電極層2Aの表面が凸状に湾曲し、他方の外側電極層2Bの表面が凹状に湾曲する。内側電極層4を基準にすると、凸状に湾曲する一方の外側電極層側2Aに配された外側絶縁層3Aは湾曲頂部から周辺に向けて引っ張り力が作用して相対的に層厚が薄くなるように変形し、凹状に湾曲する他方の外側電極層側2Bに配された外側絶縁層3Bは周辺から湾曲底部に向けて圧縮力が作用して相対的に層厚が厚くなるように変形する。その結果、両端縁を基準に全体として一方の外側電極層側2Aに位置するコンデンサの容量と他方の外側電極層側2Bに位置するコンデンサの容量の変化が生じ、この容量の変化に基づいて曲げの角度が検出できる。
【0044】
図1(b)に示すように、センサ本体1の基材8の伸縮方向に沿った自由長さをLS、基材8の最大伸長状態における伸縮方向長さをLBmax、とするときに、LBmax≦LSに設定されている。なお、基材8の収縮状態における伸縮方向長さをLBとすると、LB<LBmax≦LSとなる。基材8の収縮状態とは基材8が伸長することなく最小長さに収縮した状態をいう。
【0045】
このように、基材8が最大伸長状態となってもセンサ本体1の伸長が回避されるため、センサ本体1が伸長および収縮を繰り返すことによる検出精度の劣化や寿命の短縮化を招くことがない。なおセンサ本体1に撓みが生じたときに外側絶縁層3A,3Bの厚みが変動するような特性を備えていればよく、センサ本体1は十分な伸特性を備えていてもよいし、僅かな伸縮特性を備えていてもよいし、非伸縮性であってもよい。
【0046】
基材8の最大伸長状態における伸縮方向長さLBmaxは、基材8の伸長回復率が所定値以上となる長さに設定されていることが基材8の耐久性能を確保する点で好ましい。なお、伸長回復率は特に限定される値ではなく85%から95%の間で適宜設定されることが好ましい。本実施形態では伸長回復率は95%に設定されている。
【0047】
図1(c)に示すように、伸長回復率は伸長弾性率ともいい、JIS L 1096のB-1法(定加重法)で求まる値である。具体的に幅50mm、長さ300mmの試験片を縦方向および横方向に3枚ずつ調整し、全幅をつかむように引張試験機またはこれと同等の性能を持つ装置にセットした後、200mm間隔(L0)に印を付けて、14.7Nの荷重を加える。1時間保持後の印間の長さ(L1)を測定した後、荷重を取り除き、30秒後または1時間後に初荷重を加えて印間の長さ(L2)を測定することにより、次式により伸長回復率(%)が求まる。
伸長回復率(%)={(L1-L2)/(L1-L0)}×100
【0048】
また、
図2(a),(b)に示すように、積層型曲げセンサ100は、基材8の伸長長さLBiを、LBi<LSに制限する伸長規制部材9を備えていることが好ましい。伸長規制部材9として非伸縮性の織地や編地で構成される布帛を好適に用いることができる。なお、LBi<LSに規制可能であれば、伸縮特性を備えた伸縮性の織地や編地、ポリウレタンなどのフィルムを伸長規制部材9として採用することも可能である。
【0049】
伸長規制部材9によって基材がLBi<LSとなる伸長長さLBiに制限されるので、センサ本体1の伸長を確実に阻止しながらも基材8の耐久性能を確保することができる。
【0050】
つまり、積層型曲げセンサ100は、伸縮性を有し、収縮状態における伸縮方向長さをLBとする基材8と、基材8の伸縮方向に沿った自由長さをLSとするとき、LB<LSの関係を有する可撓性のセンサ本体1と、を備え、センサ本体1は基材8に両端縁が重畳固定され中間部1Mが基材8から遊離するように取り付けられ、基材8の伸長の程度にかかわらずセンサ本体1に基材8の伸長方向への張力が作用しないように構成されている。
【0051】
なお、上述の例では基材8が所定幅の帯状部材で構成される例を説明したが、基材8の形状は帯状部材に限るものではなく、例えば衣服を構成する伸縮性生地の一部または全部が基材8として機能するように構成してもよい。
【0052】
さらに、
図3(b)に示すように、センサ本体1の中間部1Mの一部を基材8に近接するように位置規制する位置規制部材1Fを備えていることが好ましい。
【0053】
基材8が最大伸長状態となってもセンサ本体1が伸長することが無いように、センサ本体1の中間部1Mが基材8から遊離するように基材に取り付けられているため、中間部1Mが基材8から大きく遊離することとなり、当該遊離部が様々な部位に引っ掛かるようなことが無いように積層型曲げセンサ100の取り扱いに注意を要するようになる。
【0054】
しかし、位置規制部材1Fによってセンサ本体1の中間部1Mの一部が基材8に近接するように位置規制されることにより、センサ本体1の中間部1Mの基材8からの遊離状態が小さくなるように制限できるので、積層型曲げセンサの取り扱いが容易になる。
【0055】
例えば、
図3(a)に示すように、位置規制部材1Fを備えていない場合には、センサ本体1の基材8からの遊離高さがh1となるのに対して、
図3(b)に示すように、位置規制部材1Fを備えていれば、センサ本体1の基材8からの遊離高さがh2(h2<h1)となる。
【0056】
位置規制部材1Fは、センサ本体1の中間部1Mの一部を基材8に近接するように位置規制可能なものであれば、特にその態様が制限されるものではない。例えば、
図3(b)では、センサ本体1の中間部1Mの一部が基材8に接触するように縫着する縫い糸が位置規制部材1Fとして用いられている。しかし、センサ本体1の中間部1Mの一部が基材8と接触するように規制する態様には限定されることはなく近接していればよい。
【0057】
図3(c)に示すように、位置規制部材1Fはセンサ本体1の中間部1Mの一部を基材8に近接するように保持する筒状部材で構成されていてもよい。
図3(d)のように、センサ本体1の中間部1Mの一部を基材8に接触するように保持する筒状部材であってもよいし、
図3(
e)に示すように、センサ本体1の中間部1Mの一部を間隙を隔てて基材8に近接するように保持する筒状部材であってもよい。
【0058】
図4(d)に示すように、センサ本体1を基材8に重畳固定した両端縁1A,1Bに、センサ本体1の撓みを抑制する姿勢保持部材6を備えていることが好ましい。
【0059】
図4(a),(b)に示すように、センサ本体1は外部から作用する曲げ変形力に応じてセンサ本体1の両端
縁1A,1Bを基準にそれより内側に設定される湾曲変形領域Rで生じる変形に応じて変化する静電容量に基づいて曲げの角度θが検出される。湾曲変形領域Rでは一方向に湾曲変形しても双方向に波打つように変形してもよい。
【0060】
しかし、
図4(c)に示すように、当該湾曲変形領域Rを支持する両端
縁1A,1Bに曲げ変形応力が集中して端
縁1A,1Bが異常に屈曲変形すると、当該異常な屈曲変形による静電容量の変化の影響を受けて、誤った曲げの角度θ´が検知され、湾曲変形領域Rの変形状態を正確に検出することが困難になる虞がある。
【0061】
そのような場合に備えて両端縁1A,1Bの異常な屈曲変形を抑制する姿勢保持部材6を備えると、姿勢保持部材6が配された部位で無用な変形が抑制されるようになるので、センサ本体1の変形状態を常に正確に検出することができるようになる。
【0062】
姿勢保持部材6としてセンサ本体1及び基材8の弾性よりも強い弾性を備えたアルミなどの金属製の板状体、またはアクリルやポリカーボネートなどの樹脂製の板状体を選択して基材8の裏面に接着固定することができる。板状体の厚さは0.2~1.0mmが好ましく、0.4~0.7mmがさらに好ましい。0.2mmより薄いと不都合な撓みを抑制する効果が得られず、1.0mmより厚いと逆に不都合な撓みを発生する原因となる。
【0063】
図4(d),(e)には、姿勢保持部材6が基材8の裏面に接着固定された状態を示している。なお、姿勢保持部材6はセンサ本体1の上面側に配置してもよい。
【0064】
[センサ本体の構成]
図5(a)に示すように、センサ本体1は、平面視で細幅の帯状に形成され、表裏其々に配された一対の可撓性の外側電極層2A,2Bと、外側電極層2A,2Bの間に配された可撓性の内側電極層4と、外側電極層2A,2Bと内側電極層4との間の其々に配された一対の可撓性の外側絶縁層3A,3Bとを備えている。外力が付与されていない自由状態で外側電極層2A,2Bの厚みは互いに等しくなるように構成されている。
【0065】
外側電極層2A、外側絶縁層3A、内側電極層4により一つの静電容量センサ(コンデンサ)1Aが形成され、外側電極層2B、外側絶縁層3B、内側電極層4により他の一つの静電容量センサ(コンデンサ)1Bが形成されている。つまり、静電容量センサ(コンデンサ)1A,1Bが厚み方向に重畳するように配されている。
【0066】
図5(b)に示すように、一対の外側電極層2A,2Bの何れか一方の面、例えば外側電極層2Aが凸となるようにセンサ本体1が湾曲変形すると、一方の外側電極層2Aの表面が凸状に湾曲し、他方の外側電極層2Bの表面が凹状に湾曲する。内側電極層4を基準にすると、凸状に湾曲する一方の外側電極層2A側に配された外側絶縁層3Aは湾曲頂部から周辺に向けて引っ張り力が作用して相対的に層厚が薄くなるように変形し、凹状に湾曲する他方の外側電極層2B側に配された外側絶縁層3Bは周辺から湾曲底部に向けて圧縮力が作用して相対的に層厚が厚くなるように変形する。その結果、凸側に位置するコンデンサの容量が凹側に位置するコンデンサの容量よりも大きくなり、この容量の変化に基づいて曲げの角度が検出できる。
【0067】
具体的には、厚み方向に重畳配置された一対のコンデンサの湾曲変形時に変化する容量(C1,C2)の差(ΔC=C1-C2)に基づいて曲げ角度を算出することができる。容量の差ΔCを変数とする所定の関数に基づいて曲げ角度を算出し、或いは容量の差ΔCに対応して予め設定した角度テーブルに基づいて曲げ角度を求めることができる。所定の関数として線形関数を好適に用いることができる。容量の差以外に容量の比率C1/C2を用い、或いは(C1-C2)/(C1+C2)を用いることも可能である。この場合も、容量の比率C1/C2や(C1-C2)/(C1+C2)を変数とする所定の関数に基づいて曲げ角度を算出し、或いは容量の比率C1/C2や(C1-C2)/(C1+C2)に対応して予め設定した角度テーブルに基づいて曲げ角度を求めることができる。
なお、電極の面積S、電極間距離d、絶縁層の誘電率εとすると、静電容量C=ε・(S/d)の関係があり、電極間の距離dが短くなると静電容量は増大し、電極間の距離dが長くなると静電容量は減少する。また、電極の面積Sが大きくなると静電容量は増大し、電極の面積Sが小さくなると静電容量は減少する。
【0068】
図5(c)には、センサ本体1に対する信号処理回路10の構成が示されている。信号処理回路10は、クロック発振回路を備え、1kHzから100kHz程度の矩形波信号を基準信号として出力する基準信号生成部11、ダイオードブリッジで構成される整流回路12A,12B、抵抗とコンデンサが信号端子とグランド端子間に並列接続されたローパスフィルタ13A,13B、オペアンプを備えた増幅器14A,14B、ADコンバータ15、論理演算回路を備えた信号処理部16の各機能ブロックを備えて構成されている。
【0069】
基準信号生成部11から出力された基準信号が内側電極層4に印加されると、対向電極である外側絶縁層3A,3Bからそれぞれの時定数に応じた参照信号が出力される。各外側絶縁層3A,3Bから出力された参照信号が整流回路12A,12Bで整流され、ローパスフィルタ13A,13Bでノイズが除去された直流成分が増幅器14A,14Bで増幅された後にADコンバータ15に入力される。
【0070】
外側電極層2A,2B及び内側電極層4と信号処理回路10とを電気的に接続するために、外側電極層2A,2B及び内側電極層4の其々に端子を形成し、端子と信号処理回路10とがリード線で接続される。例えば、端子として凹側ボタンに凸側ボタンを嵌め込み固定する金属製のスナップボタンが好適に用いられる。凹側ボタンに凸側ボタンの何れか一方を外側電極層2A,2B及び内側電極層4に取り付け、他方を信号処理回路10に接続されるリード線の端部に固定すればよい。
【0071】
図6(a)には、人体と接触する可能性のある電極層2の面積が絶縁層3の面積より小さく、絶縁層3の一部が露出するように構成された静電容量センサが例示されている。このような静電容量センサでは、人体などとの間で生じる浮遊容量の影響を受けると見掛け上の容量が大きくなり、参照信号のレベルが大きくなるため、静電容量センサに固有の静電容量の変化を正確に検出できなくなる虞がある。
【0072】
図6(b)に示すように、人体と接触する可能性のある電極層2の面積が絶縁層3の面積とほぼ等しく、絶縁層3の一部が露出することが無いように構成された静電容量センサが例示されている。このような静電容量センサでは、人体などとの間で生じる浮遊容量の影響を受けることがないため、参照信号に基づいて静電容量センサに固有の静電容量の変化を正確に検出できるようになる。
【0073】
各外側絶縁層3A,3Bは外側電極層2A,2Bによって外部と接触することが無いように被覆されているため、人体の一部が接近し、或いは接触しても外側電極層2A,2Bによる遮蔽効果が得られ、人体との間に生じる浮遊容量の影響を受けることなく精度良く曲げ状態が検出できる。
【0074】
また、
図5(a)
,(b)に示したセンサ本体1のように、外側電極層2A,2Bと内側電極層4の其々が外側絶縁層3A,3Bと同一のサイズに形成されていると、各電極層2A,2B,4を構成する素材によっては、内側電極層4が外側電極層2A,2Bの何れかと電気的に接触する虞があり、そのような場合には適切に曲げを検出できなくなる。
【0075】
そのため、
図7(a)に示すように、本発明によるセンサ本体1は、少なくとも外部と接触することが無いように、一対の可撓性の外側絶縁層3A,3Bの其々は全面が外側電極層2A,2Bに被覆され、静電シールドされるように構成され、内側電極層4は外側
電極層2A,2Bの端縁より内側に延在するように配置されている。この例では、基準信号が内側電極層4に印加され、外側電極層2A,2Bの其々から参照信号が検出される。
【0076】
そして、内側電極層4の外縁に外側絶縁層3A,3Bに被覆された縁部絶縁層4Cが配されていることが好ましく、内側電極層4の外縁に縁部絶縁層4Cを配することにより、内側電極層4の絶縁性が十分に確保できるようになるとともに、センサ本体1の形状的な安定性が確保できるようになる。
【0077】
即ち、各外側絶縁層3A,3Bは外側電極層2A,2Bによって全面が被覆されているため、人体の一部が接近し、或いは接触しても外側電極層2A,2Bによる遮蔽効果が得られ、人体との間に生じる浮遊容量の影響を受けることなく精度良く曲げ状態が検出できる。また、内側電極層4は外側電極層2A,2Bの端縁より内側に延在するように配置されているため、センサ本体1が曲げ変形されるような場合でも、内側電極層4と外側電極層2A,2Bとが電気的に接触する短絡状態に到るようなことが極力回避できるようになる。
【0078】
図7(a)に示したセンサ本体1は、一層の内側電極層4が一対の外側電極層2A,2Bの対向電極として機能する例を説明したが、本発明によるセンサ本体1の態様はこの様な一層の内側電極層4に限るものではない。
【0079】
例えば、
図7(b)に示すように、一対の外側絶縁層3A,3Bの間に可撓性の内側絶縁層5が設けられ、内側絶縁層5を挟むように内側電極層4A,4Bが一対設けられているような構成を採用することも可能になる。この場合も、内側電極層4A,4Bの外縁に其々縁部絶縁層4C,4Dを配することにより、内側電極層4A,4Bの絶縁性が十分に確保できるようになるとともに、センサ本体1の形状的な安定性が確保できるようになる。この例では、基準信号が外側電極層2A,2Bに印加され、内側電極層4A,4Bの其々から参照信号が検出される。
【0080】
このような構成を採用すると、内側絶縁層5の両側に其々独立したコンデンサCA,CBが形成され、内側絶縁層5が介在することで、一対の外側電極層2A,2Bの何れか一方の面が凸となるようにセンサ本体1を湾曲させた場合に、内側絶縁層5が無い場合に比べて凸側に位置するコンデンサの容量と凹側に位置するコンデンサの容量の差が大きくなるため、感度の向上が見込めるようになる。
【0081】
また、
図8(a)に示すように、内側絶縁層5は外側絶縁層3A,3Bより厚肉に形成されていることが好ましい。
【0082】
一対の外側電極層2A,2Bの何れか一方の面が凸となるようにセンサ本体1を湾曲させた場合に、厚肉に形成された内側絶縁層5を境にして凸状に湾曲する一方の外側電極層2A側に配された外側絶縁層3Aは湾曲頂部から周辺に向けてより大きな引っ張り力が作用して相対的に層厚が薄くなるように変形し、凹状に湾曲する他方の外側電極層2B側に配された外側絶縁層3Bは周辺から湾曲底部に向けてより大きな圧縮力が作用して相対的に層厚が厚くなるように変形する。その結果、凸側に位置するコンデンサの容量が凹側に位置するコンデンサの容量よりも大きくなり、感度が一層良くなる。
【0083】
また、内側絶縁層5は外側絶縁層3A,3Bよりヤング率が大きな素材で構成されていることが好ましい。この場合、内側絶縁層5の厚さは外側絶縁層3A,3Bと等しい厚さであってもよい。
【0084】
一対の外側電極層2A,2Bの何れか一方の面が凸となるようにセンサ本体1を湾曲させた場合に、内側絶縁層5の変形が抑制され、内側絶縁層5を外側絶縁層3A,3Bよりヤング率が大きな素材で構成することにより、当該積層型曲げセンサが湾曲変形したときに、内側絶縁層5の厚み方向の変形が抑制され、凸状に湾曲する一方の外側電極層2A側に配された外側絶縁層3Aでは湾曲頂部から周辺に向けて作用する引っ張り力がより大きくなり、凹状に湾曲する他方の外側電極層2B側に配された外側絶縁層3Bでは周辺から湾曲底部に向けて作用する圧縮力がより大きくなる。その結果、凸側に位置するコンデンサCAの容量と凹側に位置するコンデンサCBの容量の差がより大きくなって感度が一層良くなる。
【0085】
図8(b)に示すように、内側絶縁層5が外側電極層2A,2Bよりも幅方向両側に突出するように構成することが好ましく、センサ本体1を湾曲させた場合に外側電極層
2A,2B同士が電気的に接触するような異常な事態の発生を極力回避できるようになる。
【0086】
本発明のセンサ本体1は、上述した何れの態様であってもよく、何れの態様を組み合わせてもよい。また、上述したセンサ本体1は、平面視で帯状に構成された例を説明したが、帯状に限るものではなく平面視で任意の方形に形成し、或いは円形に形成されていてもよい。
【0087】
[センサ本体の素材]
上述したセンサ本体1を構成する外側電極層2A,2B、外側絶縁層3A,3B、内側電極層4,4A,4B、内側絶縁層5は、何れも可撓性材料で構成されていればよく、伸縮性を備えていることがさらに好ましい。
【0088】
各電極層は各種の金属や導電性樹脂を用いて形成した薄膜、金属繊維或いは導電性繊維を用いて編成または織成した布帛などを用いることができる。
【0089】
各絶縁層はポリウレタンフィルム、PETフィルム、2軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)などの樹脂フィルムを好適に用いることができる。また、絶縁糸を用いて編成または織成した布帛などを用いることも可能である。内側絶縁層5として織ゴムなどの伸縮性布帛を用いることも可能である。外側絶縁層3A,3Bの層厚は数十μmから数百μmの範囲に調整するのが好ましい。
【0090】
また、外側電極層2A,2Bと外側絶縁層3A,3Bとの間、外側絶縁層3A,3Bと内側電極層4、4A,4Bとの間、及び、内側電極層4A,4Bと内側絶縁層5との間は、其々接着剤を用いた接着層を介して接合されていることが好ましい。
【0091】
図9には、外側電極層2A,2B及び内側電極層4,4A,4Bとして選択することが可能な伸縮性の導電性布帛20の組織図が例示されている。当該導電性布帛20は、絶縁性の弾性糸y1を地糸に用いて編成された絶縁性編地領域に、複数のコースにわたって導電糸y2が添え糸編み編成された帯状の平編地で構成されている。編地のコース方向が導電性布帛20の伸縮方向となる。
【0092】
導電性布帛20を、コース方向が長手方向に沿うように配された帯状の平編地で構成すれば、表面に大きな凹凸が形成されるリブ編地などと異なり、平坦な編地面となるため、外側絶縁層3A,3Bまたは内側絶縁層5との間での十分な接着面積が確保されて強力な接着力が得られるようになる。そのため、接着部の剥離などに起因する経時的な感度の低下が抑制され、長期にわたり安定した特性が得られるようになる。
【0093】
例えば、導電糸y2が添え糸編み編成された帯状の平編地の領域で内側電極層4A,4Bを構成し、その外側に延在する絶縁性編地領域で
縁部絶縁層4C,4Dを構成することができる(
図7(b)参照。)。
【0094】
例えば、絶縁糸y1としてポリウレタン弾性糸が好適に用いられ、導電糸y2として、ナイロンなどの樹脂繊維や綿糸などの天然繊維、或いは金属線などを芯として、この芯に湿式や乾式のコーティング、メッキ、真空成膜、その他の適宜被着法を用いて金属成分を被着させた金属被着線(メッキ線)を使用するのが好適に用いられる。芯には、モノフィラメントを採用することも可能ではあるが、モノフィラメントよりもマルチフィラメントや紡績糸のほうが好ましい。
【0095】
芯に被着させる金属成分には、例えばアルミ、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、錫、亜鉛、鉄、銀、金、白金、バナジウム、モリブデン、タングステン、コバルトなどの純金属やそれらの合金、ステンレス、真鍮などを使用することができる。本実施形態ではナイロンやポリエステルで構成されるマルチフィラメントに銀メッキした糸が用いられている。導電糸の繊度は33dtex~400dtexが好ましい。特には70dtex~300dtexが好ましい。導電糸2yとして芯糸に金属成分を被着させた金属メッキ糸を用いる例を説明したが、例えば、日本新素材株式会社製のシルベルンZAG(登録商標)などにように、天然繊維や合成繊維に銀イオンを付着させた銀イオン糸を用いることも可能である。
【0096】
また、導電糸とポリウレタン糸を添え糸編み編成し、編み立て後にヒートセット加工することによりポリウレタン糸が熱変形して銀メッキ糸の交編部に融着することにより解れ止め加工された編地を用いることができる。その場合、当該編地から所望の電極幅に対応した帯状領域を切り出せばよく、切断部から解れが生じることもない保形性が安定した導電性布帛20が得られる。
【0097】
図10には、外側電極層2A,2B及び内側電極層4,4A,4Bを構成する伸縮性の導電性布帛20の組織図の他の例が示されている。導電性布帛20は、絶縁性の弾性糸y1を地糸に用いて編成された絶縁性編地領域を挟んで、導電糸y2を用いた帯状の導電性編地領域が複数コース編成された平編地で構成されている。図
10では、導電性編地領域が3コース編成された例を示しているが、導電性編地領域は十数コースから数十コース編成されることが好ましい。
【0098】
さらに、導電性編地領域の端部でコース方向に編成された導電糸y2に絶縁糸y1が添え糸編み編成され、絶縁糸y1が交絡部で熱融着または熱合着されていることが好ましい。絶縁糸y1として低融点ポリウレタン糸が好適に用いられ、ヒートセット処理により絶縁糸y1が交絡部で熱融着または熱合着されることにより、隣接配置された帯状の導電性編地領域の両端側の絶縁性編地領域が切断された場合でも、絶縁糸y1が交絡部で熱融着または熱合着されていれば、切断エッジで解れが生じることがない。その場合、帯状の導電性編地領域で構成される所望の電極幅に加えて、その両端側に添え糸編み編成された絶縁性編地領域を含めて幅広となるように切り出すことで、導電性編地領域の両端を絶縁性編地領域で保護できるようになる。
【0099】
なお、解れ止め機能を実現するための熱融着材料または熱合着材料としてポリウレタン弾性糸を好適に用いることができる。熱融着材料と熱合着材料との差異は、半溶融状態からの冷却により生じる結合力の強弱によって区別すればよく、結合力が強い(熱融着)ものは熱融着材料とし、これよりも結合力が弱い(合着)ものは熱合着材料とする。この区別は明確とは言えず曖昧模糊とした部分を含むが、要はヒートセットによって導電糸の交差部を含めて結合できる材料であればよい。
【0100】
具体的には、熱融着材料の代表例として、融点が90℃~180℃の範囲の低融点のポリウレタン糸で20dtex~300dtexの繊度のモノフィラメントまたはマルチフィラメントを用いることが好ましい。中でも40dtex~150dtexの繊度とするのが特に好ましい。絶縁糸としてポリウレタンを単独で用いてもよいし、「芯糸」にポリウレタンを用い「カバー」にナイロンやポリエステルを用いたカバリング糸などを採用することができる。このようなカバリング糸を採用することで、シート状ハーネス生地に撥水性、耐食・防食性、カラーリングなどの機能を付与させることができる。また触感(肌触り)の向上や伸びの制御にも有用である。なお、ポリウレタン弾性糸に代えて熱可塑性のエラストマー材料で構成される繊維糸を採用することも可能である。
【0101】
熱合着材料として、ポリウレタンウレア弾性繊維のような圧縮変形特性を備えた弾性糸を用いることが可能である。ヒートセット加工などの加熱によりポリウレタンウレア弾性繊維同士またはポリウレタンウレア弾性繊維と相手糸との接触点でポリウレタンウレア弾性繊維の圧縮変形が発生し、ポリウレタンウレア弾性繊維同士またはポリウレタンウレア弾性繊維への相手糸の固着が生じるため、編地からのポリウレタンウレア弾性繊維や相手糸が抜けにくくなり、カールやほつれが抑制された編地を得ることができる。
【0102】
このような地組織に対して、導電糸y2の混用方法として、既に説明した添え糸編(プレーティング編)以外に、インレイ、引き揃え、フロート編、交編、又は複合糸の少なくとも一つから選択される形態を採用することができる。少なくとも、導電性編地領域の端部でコース方向に編成された導電糸2yに絶縁糸3yが添え糸編み編成されていればよく、導電性編地領域と絶縁性編地領域3とが交互に編成される編地であってもよい。
【0103】
外側絶縁層3A,3B及び内側絶縁層5として、伸縮性を備えたエラストマシートを用いることができ、例えば融点が200℃程度、厚さが80μm程度の高融点ポリウレタンシートを好適に用いることができる。絶縁層5としてポリウレタンシートの両面にホットメルト接着剤層を形成し、導電性布帛20を両側に重畳した状態で熱圧着することによりコンデンサCA,CBを構成することができる。ホットメルト接着剤層が接着層となる。
【0104】
ホットメルト接着剤として、例えば、ポリウレタン系ホットメルト樹脂、ポリエステル系ホットメルト樹脂、ポリアミド系ホットメルト樹脂、EVA系ホットメルト樹脂、ポリオレフィン系ホットメルト樹脂、スチレン系エラストマー樹脂、湿気硬化型ウレタン系ホットメルト樹脂、反応型ホットメルト樹脂などが挙げられる。中でも反応型ホットメルト樹脂は、接着強度が高く、しかも短時間での接着が可能な点で特に好ましい。
【0105】
外側電極層2A,2Bとして導電性布帛20である平編地を採用する場合、表裏何れの面が外側絶縁層3A,3Bと接合される構成であってもよいが、ループが表出した裏面が外側絶縁層3A,3Bに対向するように絶縁層と接合されることが好ましい。
【0106】
図11(a)には、
図9で説明した平編地の表面、つまり、シンカーループ及びニードルループ双方のループの表出面とは反対の面の収縮状態(左図)と伸長状態(右図)の写真画像が示され、
図11(b)には、上述した平編地の裏面、つまり、シンカーループ及びニードルループ双方のループの表出面の収縮状態(左図)と伸長状態(右図)の写真画像が示されている。
【0107】
平編地の表面ではウエール方向に連なる糸に遊びが無く、伸長時にウエール方向に沿って部分的に凹状の空隙が形成される。この空隙が接着層に対して剥離力として作用し、多数回の深救を繰り返すうちに、接着力が低下することになる。
【0108】
平編地で構成される導電性布帛のシンカーループ及びニードルループの双方のループが表出した裏面は、糸に十分な遊びが有り、伸長時及び収縮時の何れであっても表面に比べて平坦度合いが高く、しかも伸縮方向に沿って其々のループが直線状に配列されるため、当該裏面が絶縁層に接合されることでより強固な接着力が得られる。
【0109】
また、添え糸編み編成される場合に、弾性糸y1としてポリウレタン糸を用いた地組織に導電糸を添え糸編み編成する場合に、ループが表出した裏面側に主にポリウレタン糸が露出するため、ポリウレタン系などホットメルト接着剤との相性がよく、強固に接着できる点でも好ましい。
【0110】
[機械電気変換装置の構成]
図12(a),(b),(c)には、上述した積層型曲げセンサ100を組み込んだ機械電気変換装置200が例示されている。機械電気変換装置
200は積層型曲げセンサ100と、積層型曲げセンサ100を支持し姿勢計測対象部に取付ける取付け部材80とを備えている。姿勢計測対象部として人体の手足の関節部、背骨の屈曲姿勢、腰部の屈曲姿勢などが想定される。
【0111】
積層型曲げセンサ100は、姿勢保持部材6が重畳配置された領域を介して取付け部材80に縫着により取り付けられている。姿勢保持部材6は取付け部材80と接触する側に配されていてもよいし、その反対側に配されていてもよい。なお、姿勢保持部材6の全域を取付け部材80と重畳させる必要はなく、正常な湾曲領域以外の部位で異常な屈曲や湾曲が生じなければ、姿勢保持部材6の一部が取付け部材80と重畳しているだけでもよい。
【0112】
図12(a)の例では、取付け部材80は姿勢計測対象部を挟んで両側から巻き付けるように取り付けるバックルタイプのベルトで構成されている。取付け部材80としてベルトの一端側に縫着されたパイル部80aとベルトの他端側に縫着されたフック部80bで構成される面ファスナーを用いている。ベルトとして織ゴムなどを用いた伸縮性ベルトを用いることが好ましい。
【0113】
例えば人体の関節部など曲げ検出対象となる姿勢計測対象部に、取付け部材80を介して積層型曲げセンサ100が取付けられる。そして関節部の曲げ伸ばし運動に伴って積層型曲げセンサ100が湾曲または湾曲から復帰することによりその状態が把握できる。
【0114】
図12(b)には、機械電気変換装置200が伸長状態の膝関節部に取り付けられ、積層型曲げセンサ100の基材8が収縮状態となった様子が示され、
図12(c)には、膝関節部が屈曲変形し、基材8が伸長状態となるとともに屈曲した状態が示されている。この例では、積層型曲げセンサ100の長手方向にそう2ケ所に位置規制部材1Fが設けられている。
【0115】
図13(a)から(d)には、背中の曲がり姿勢を検知するための機械電気変換装置200が示されている。着用者の背面側で背骨に沿って積層型曲げセンサ100が位置するように取り付ける取付け部材80が構成されている。
【0116】
取付け部材80は、一端が積層型曲げセンサ100の上端部に固定され、他端が積層型曲げセンサ100の下端側に固定された一対のベルト81,82と、一端が積層型曲げセンサ100の下端部に固定され、他端がズボンの胴部に固定するバックル84を備えた胴部固定ベルト83で構成されている。
【0117】
着用者が前屈み姿勢となった場合でも積層型曲げセンサ100が上方にずれ上がることが無いように、ベルト81,82は着用者の左右の肩部から胸部に向けて積層型曲げセンサ100を牽引し、脇部を通って積層型曲げセンサ100の下端側に連結されている。左右のベルト81,82が胸部で交差するように配されていてもよい。そして、胴部固定ベルト83によって積層型曲げセンサ100の下端が下方に牽引される。積層型曲げセンサ100の上端に設けられた箱体
90は、
図5(c)で説明した信号処理回路
10である。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明による積層型曲げセンサが組み込まれた機械電気変換装置は、人の身体の動きをモニタするウェアラブルデバイスとして広く活用される。
【符号の説明】
【0119】
1:センサ本体
1M:中間部
1F:位置規制部材
2A,2B:外側電極層
3A,3B:外側絶縁層
4,4A,4B:内側電極層
5:内側絶縁層
6:姿勢保持部材
8:基材
9:伸長規制部材
10:信号処理回路
80:取付け部材
100:積層型曲げセンサ
200:機械電気変換装置