IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社神戸製鋼所の特許一覧

<>
  • 特許-インペラ、及びインペラの製造方法 図1
  • 特許-インペラ、及びインペラの製造方法 図2
  • 特許-インペラ、及びインペラの製造方法 図3
  • 特許-インペラ、及びインペラの製造方法 図4
  • 特許-インペラ、及びインペラの製造方法 図5
  • 特許-インペラ、及びインペラの製造方法 図6
  • 特許-インペラ、及びインペラの製造方法 図7
  • 特許-インペラ、及びインペラの製造方法 図8
  • 特許-インペラ、及びインペラの製造方法 図9
  • 特許-インペラ、及びインペラの製造方法 図10
  • 特許-インペラ、及びインペラの製造方法 図11
  • 特許-インペラ、及びインペラの製造方法 図12
  • 特許-インペラ、及びインペラの製造方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】インペラ、及びインペラの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/28 20060101AFI20231011BHJP
【FI】
F04D29/28 C
F04D29/28 R
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020046774
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021148026
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 栄一
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-275513(JP,A)
【文献】特開2017-180177(JP,A)
【文献】特開2018-105298(JP,A)
【文献】特開2017-036484(JP,A)
【文献】特開2011-094578(JP,A)
【文献】特開2011-157867(JP,A)
【文献】特開2010-281256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/18-29/38
B33Y 10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心とした第1円盤部を有するハブと、
前記第1円盤部に放射状に延びて配置され、前記ハブの回転に伴って前記軸線に沿って流入する流体を、前記第1円盤部の径方向内側から径方向外側に案内する複数のブレードと、
前記ブレードを前記軸線の方向に挟んで、前記第1円盤部に対向して配置された第2円盤部を有するシュラウドと、
を備え、
前記ブレードは、前記軸線を中心とする周方向に互いに間隔を空けて湾曲して配置され、
前記第1円盤部と前記第2円盤部との間には、複数の前記ブレードにより区画された流体流路が形成され、
前記流体流路を囲む、前記ハブ、前記ブレード及び前記シュラウドのそれぞれの内壁面の一部に、前記流体流路の長手方向直交断面において、前記ブレードの肉厚よりも大きな曲率半径の曲面部が設けられ
前記流体流路を形成する部分に対応する前記シュラウド及び前記ハブのうち少なくとも一方の外表面は、前記内壁面に沿った曲面である、
インペラ。
【請求項2】
軸線を中心とした第1円盤部を有するハブと、
前記第1円盤部に放射状に延びて配置され、前記ハブの回転に伴って前記軸線に沿って流入する流体を、前記第1円盤部の径方向内側から径方向外側に案内する複数のブレードと、
前記ブレードを前記軸線の方向に挟んで、前記第1円盤部に対向して配置された第2円盤部を有するシュラウドと、
を備え、
前記ブレードは、前記軸線を中心とする周方向に互いに間隔を空けて湾曲して配置され、
前記第1円盤部と前記第2円盤部との間には、複数の前記ブレードにより区画された流体流路が形成され、
前記流体流路を囲む、前記ハブ、前記ブレード及び前記シュラウドのそれぞれの内壁面の一部に、前記流体流路の長手方向直交断面において、前記ブレードの肉厚よりも大きな曲率半径の曲面部が設けられ
前記流体流路を形成する部分に対応する前記シュラウド及び前記ハブの外表面は、それぞれ前記内壁面に沿った曲面である
インペラ。
【請求項3】
前記流体流路は、前記第1円盤部及び前記第2円盤部の内周縁に、前記軸線に沿った入口側流体流路と屈曲して接続される連結部が設けられている請求項1又は2に記載のインペラ。
【請求項4】
前記流体流路を形成する部分に対応する前記シュラウド及び前記ハブの肉厚は、前記ブレードの肉厚よりも薄い請求項1~のいずれか1項に記載のインペラ。
【請求項5】
前記シュラウド、前記ブレード及び前記ハブは、金属材料が積み重なって一体に形成されている請求項1~のいずれか1項に記載のインペラ。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載のインペラの製造方法であって、
金属粉末を所定の厚さでベース上に供給し、供給された前記金属粉末をレーザ光の照射により溶融、凝固させて肉盛層を形成する工程と、
形成された前記肉盛層の上に新たに前記金属粉末を所定に厚さに供給して、レーザ光の照射により前記金属粉末を溶融、凝固させる手順を繰り返し、複数の肉盛層を順次積層する工程と、
を有し、
前記肉盛層を前記インペラの形状に積層造形するインペラの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インペラ、及びインペラの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液体、気体等の流体用の遠心力ポンプ、発電機等に使用されるインペラが知られている(特許文献1、2)。
特許文献1には、図10に示すように、シュラウド(第一円盤部)101と、シュラウドの中心部を中心にして渦巻き放射状に形成された複数のブレード(羽根部)103と、シュラウド101と対向して配置され、複数のブレード103と当接するハブ(第二円盤部)102とを備えるインペラ100が開示されている。このインペラ100は、シュラウド101に形成された穴部104と、ブレード103に形成された凸部105とが嵌合して組み合わされる。
【0003】
特許文献2には、図11の(A)に示すように、回転軸を中心に回転するハブ201と、ハブ201に対向して設けられるシュラウド202と、ハブ201とシュラウド202との間に設けられた複数のブレード(羽根)203と、ハブ201、シュラウド202及び複数のブレード203により区画される複数の昇圧流路204と、を備えるインペラ200が開示されている。このインペラ200の昇圧流路204は、流入口204aから流出口204bまで直線状に貫通された貫通孔である。昇圧流路を貫通孔で形成するため、ハブ201、シュラウド202及び複数のブレード203は、分割して製造する必要がなく、これらを一体に形成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-190332号公報
【文献】特開2019-157710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インペラは、回転しながらインペラ内に流入する流体を、その流れ方向と直交する方向に圧縮して排出する構造を有する。代表的には、円盤部を有するハブと、ハブの円盤面に設けられる複数のブレードからなるオープンインペラ、あるいは、円盤部を有するハブと、ハブと所定間隔を持ってハブに対向して配置される他方の円盤部となるシュラウドと、ハブとシュラウド間に設けられる複数のブレードと、からなるクローズドインペラ等がある。
【0006】
クローズドインペラは、互いに対向するハブとシュラウドと、ハブとシュラウド間に設けられて互いに対向する一対のブレードで画定される空間に流体流路が形成される。流体流路の流体経路は、ハブ及びシュラウドの中心近傍から放射状に配置された複数のブレードにより決定される。
【0007】
このようなインペラの設計、製造には、以下の点が要望されている。
(1)クローズドインペラは、オープンインペラと異なり、天井を形成するシュラウドが必要であり、オープンインペラに比較して、より製造が複雑で困難となる。そのため、効率的に製造する手法が求められている。
(2)インペラは、高速で回転し、流体を圧縮して強制的にその流体方向を変えるため、強度が求められると共に応力負荷を低減する必要がある。そのため、特に流体流路の断面形状を柔軟に設計できる方法が求められている。
(3)インペラは、回転数を増加させるために軽量化できることが求められている。
【0008】
以上の要望を参酌しながら、特許文献1、2の構成をより詳細に説明する。
特許文献1のクローズドインペラの場合、シュラウド101と複数のブレード103とを溶接(ロウ付けも含む)をする必要がある。しかし、溶接箇所が多く形状も複雑であるため、溶接が難しく、溶接形状が不安定となる可能性がある。また、シュラウド101にも大きな応力が発生するため、溶接品質が保証されない場合、クローズトインペラの強度低下に繋がる可能性がある。更に、ブレード103とハブ102も同様に溶接接合となる。このような溶接箇所を曲面形状にして応力を緩和させる方法があるが、曲面の曲率半径を大きくしようとすると、溶接時間が長くなり、ブレード103及びハブ102へ大きな熱負荷を生じさせ、材料特性に影響を及ぼし、熱変形を生じさせる可能性がある。
【0009】
また、特許文献1の流体流路は、放射状にスパイラル曲線を描いており、高速回転するインペラに対し、引張応力、及び圧縮応力が集中し、インペラの破損を誘引する可能性がある。この点について、図12及び図13を用いて説明する。図12図10に示すクローズドインペラであり、図13は、図10に示すシュラウド101とブレード103とが溶接されたクローズドインペラを示している。
【0010】
図12の(A)に示すように、インペラ100の外部から軸方向にインペラ100内に流体Fが流入すると、領域P1において、回転するインペラ100によって強制的に流体Fの流れ方向が軸方向から径方向に曲げられる。そして、領域P1より下流側の領域P2において、流体流路111内の曲線形状に合わせて流れ方向が曲げられる。その際、ブレード103の内壁面103aには、流体Fからの押圧力を受けて圧力Pが負荷される。
【0011】
内壁面103aに負荷される圧力Pは、図12の(B)に示すように、ブレード103とハブ102との境界部113(破線で囲む部分)に集中し、大きな引張応力が発生する。
【0012】
上記の引張応力を緩和するためには、図12の(C)に示すように、境界部113に破線で示すような曲面部115を形成することが得策である。ところが溶接中に曲面部115を形成することは簡単ではない。実際には、ブレード103とハブ102とを溶接する際、溶接時の入熱によるブレード103の変形、及び金属組織の変化によって強度が維持できなくなることを防止するため、溶接による入熱量を必要最小限に抑えている。そのため、境界部113の曲面部115は、ブレード103の板厚BTより小さな曲率半径MRとなり、必要十分な応力緩和の効果が得られない。
【0013】
また、上述の引張応力は、シュラウドとブレードとが溶接された場合に、双方の接続部で同様に発生する。
インペラ100の模式的な軸断面を図13の(A)に示す。図13の(A)に示すように、流体Fが流体流路201内を高速で流れる際、流体流路111の領域P1では、軸方向(図13の(A)の下方向)に圧力が加わる。その際、シュラウド101とブレード103との繋がり部分である境界部117(破線で囲む部分:すなわち、ブレード103の延び方向における一方端の位置する境界部117)には大きな圧縮応力が加わる。また、図13の(B)に示すように、シュラウド101とブレード103との境界部119(破線で囲む部分:すなわち、ブレード103の全長方向に沿った境界部119)にも大きな圧縮応力が加わる。
【0014】
このような圧縮応力を緩和するためには、図13の(C)に示すように、境界部119(117も同様)に曲面部121を形成することが得策である。しかし、前述した引張応力の場合と同様に、曲面部121は、ブレード103の板厚BTより小さな曲率半径MRしか形成できず、必要十分な応力緩和の効果が得られない。
【0015】
一方、特許文献2のインペラは、昇圧流路204の断面形状が円形の長孔となっている。しかし、昇圧流路204は、ドリル加工等の切削加工によって直線状に形成されるものであり、スパイラル曲線等の湾曲した昇圧流路の形成は困難である。また、複数の直線状の流路同士を接続する構成も考えられるが、その場合には、溶接又はロウ付け等が必要になり、上述した応力集中の問題が生じることになる。
【0016】
また、特許文献1,2の構成では、いずれも機械的強度を高めつつ軽量化することが難しい構成となっている。
【0017】
そこで本発明は、高強度で形状の設計自由度が高く、容易に軽量化できるインペラ、及びインペラの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 軸線を中心とした第1円盤部を有するハブと、
前記第1円盤部に放射状に延びて配置され、前記ハブの回転に伴って前記軸線に沿って流入する流体を、前記第1円盤部の径方向内側から径方向外側に案内する複数のブレードと、
前記ブレードを前記軸線の方向に挟んで、前記第1円盤部に対向して配置された第2円盤部を有するシュラウドと、
を備え、
前記ブレードは、前記軸線を中心とする周方向に互いに間隔を空けて湾曲して配置され、
前記第1円盤部と前記第2円盤部との間には、複数の前記ブレードにより区画された流体流路が形成され、
前記流体流路を囲む、前記ハブ、前記ブレード及び前記シュラウドのそれぞれの内壁面の一部に、前記流体流路の長手方向直交断面において、前記ブレードの肉厚よりも大きな曲率半径の曲面部が設けられたインペラ。
(2) (1)に記載のインペラの製造方法であって、
金属粉末を所定の厚さでベース上に供給し、供給された前記金属粉末をレーザ光の照射により溶融、凝固させて肉盛層を形成する工程と、
形成された前記肉盛層の上に新たに前記金属粉末を所定に厚さに供給して、レーザ光の照射により前記金属粉末を溶融、凝固させる手順を繰り返し、複数の肉盛層を順次積層する工程と、
を有し、
前記肉盛層を前記インペラの形状に積層造形するインペラの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、インペラを、高強度で形状の設計自由度を高めて、しかも容易に軽量化できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明に係る第1実施形態のインペラを一部切り欠いて示す斜視図である。
図2図2は、図1に示すインペラの側面図である。
図3図3は、図2に示すインペラの一部拡大側面図である。
図4図4は、流体流路の第2実施形態を示すインペラの一部拡大側面図である。
図5図5は、流体流路の第3実施形態を示すインペラの一部拡大側面図である。
図6図6は、流体流路の第4実施形態を示すインペラの一部拡大側面図である。
図7図7の(A)、(B)は、流体流路の第5実施形態を示すインペラの一部拡大側面図である。
図8図8は、流体流路の第6実施形態を示すインペラの一部拡大側面図である。
図9図9の(A)、(B)は、流体流路の第7実施形態を示すインペラの一部拡大側面図である。
図10図10は、従来技術のインペラを示す分解斜視図である。
図11図11は、別の従来技術によるインペラを示し、(A)はインペラの子午断面を示す概略断面図、(B)はインペラの斜視図である。
図12図12は、従来技術の課題を示す図で、(A)はインペラの一部概略斜視図、(B)は(A)のXII-XII線断面図、(C)は曲面部を形成した(A)のXII-XII線面図である。
図13図13は、従来技術の課題を示す図で、(A)はインペラの模式的な軸断面図、(B)は(A)のXIII-XIII線断面図、(C)は曲面部を形成した(A)のXIII-XIII線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の構成例について、図面を参照して詳細に説明する。
ここでは、クローズドインペラのブレードに沿った流体流路の形状を、種々の形状に変更した各実施形態を説明する。
【0022】
<第1実施形態>
図1は、本発明に係る第1実施形態のインペラを一部切り欠いて示す概略斜視図である。図2は、図1に示すインペラの側面図である。
【0023】
インペラ1は、例えば、ガスタービン、エンジンの過給機、蒸気タービン等に使用され、鋼材等の金属材料により構成される。図1に示すインペラ1は、ハブ10と、複数のブレード20と、シュラウド30と、を備え、軸線Xを中心に回転駆動される。ハブ10は、軸線Xの近傍に設けられ、軸線Xに沿って延びる第1円筒部11と、第1円筒部11の軸方向と直交する方向に配置されて平面視で円形の第1円盤部12とを有する。ブレード20は、第1円盤部12に軸線X方向に沿って立ちあがるように形成され、かつ、軸線Xを中心とする周方向に互いに間隔を空けて、スパイラル曲線を描くように湾曲して、径方向外側へ放射状に延びて配置される。
【0024】
シュラウド30は、ブレード20を挟んでハブ10と対向して配置される。シュラウド30は、軸線Xの近傍に設けられ、軸線X方向に延びる第2円筒部31と、第2円筒部31の軸方向と直交する方向に配置されて平面視で円形の第2円盤部32とを有する。ハブ10、ブレード20及びシュラウド30は、金属粉末を用いた3次元積層成形法により一体に積層造形される。
【0025】
第1円筒部11と第2円筒部31とは、軸線Xの近傍において、径方向に所定の間隔を保って互いに対向して配置される。すなわち、第1円筒部11が内筒部、第2円筒部21が外筒部となる二重筒の配置関係になり、インペラ1の外部から流入する流体の入口側流体流路40を形成する。第1円盤部12と第2円盤部32とは、所定の間隔を保って互いに対向して平行に配置され、第1円盤部12と第2円盤部32との間に、複数のブレード20により区画された流体流路41が形成される。
【0026】
流体流路41は、ブレード20の湾曲形状に沿って放射状に形成され、軸線Xに近いブレード20の内周縁20aから外周縁20bに向かって径方向外側に流体を案内する。また、ブレード20の内周縁20aには、第1円盤部12の内周縁13と第2円盤部32の内周縁33が接続される。内周縁13は第1円筒部11に接続され、内周縁33は第2円筒部31に接続される。つまり、インペラ1の内周部には、流体流路41と、入口側流体流路40とが屈曲して接続される連結部42が設けられる。連結部42は、軸断面形状が略90度に折れ曲がる滑らかな曲線状となって流体の方向を変更する。
【0027】
図2に示すように、1つの流体流路41を形成する1対のブレード20は、互いの対向する側にそれぞれブレード内壁面51を有する。第1円盤部12及び第2円盤部32は、互いの対向する側にそれぞれ第1円盤部内壁面52、第2円盤部内壁面53を有する。即ち、流体流路41は、1対のブレード内壁面51、及び1対の第1円盤部内壁面52、第2円盤部内壁面53とで画定される空間として構成される。以降の説明では、それぞれの内壁面を総称して内壁面50(図3参照)とも言う。
【0028】
また、図2に示すブレード内壁面51と第1円盤部内壁面52との1対の繋がり部分を境界部60A、ブレード内壁面51と第2円盤部内壁面53との1対の繋がり部分を境界部60Bという。
【0029】
本構成のインペラ1を製造する金属粉末積層造形法は、概略的には、まず、造形用の材料である金属粉末を所定の厚さでベース上に供給し、金属粉末の表面にレーザ光を照射して、金属粉末を溶融、凝固させて肉盛層を形成する。この肉盛層の上に新たに金属粉末を所定の厚さで供給し、レーザ光の照射により金属粉末を溶融、凝固させて肉盛層上に新たに肉盛層を積層する、という工程を繰り返して、肉盛層を順次に積層して所望の形状の造形体を得る方法である。
【0030】
具体的には、まず、金属粉末の配置、金属粉末の溶融、凝固を繰り返しながら、ハブ10を積層し、ハブ10の第1円盤部12上に複数のブレード20を積層する。このとき、ブレード20を形成するにあたり、境界部60Aに曲面部70を形成する。また、ブレード20の上にシュラウド30の第2円盤部32を形成する。これと同時に、第1円筒部11及び第2円筒部21も形成する。上記工程により、インペラ1が積層造形される。
【0031】
つまり、金属粉末積層造形法によれば、所望の形状を3次元の形状データ(例えば、CADデータ)から自動的に製造でき、複雑な形状であっても簡便に製造が可能となる。
【0032】
次に、流体流路41の形状を詳細に説明する。
図3は、図2に示すインペラ1の一部拡大側面図である。
本構成のインペラ1では、境界部60Aに生じる応力の緩和のため、境界部60Aに曲面部70を形成している。曲面部70の曲率半径Rは、ブレード20の肉厚taよりも大きい。ここでいう肉厚taとは、1つのブレード20が有する1対のブレード内壁面51同士の最小距離となる肉厚であり、1つのブレード20の最小厚さもある。
【0033】
また、図3に示す第1円盤部内壁面52は、その全体が曲面に形成されているが、周方向両端の曲面部70を除く中間部分は平面であってもよい。
【0034】
境界部60Aに曲面部70が形成されることで、インペラの運転中に流体からの押圧力が作用した場合でも、境界部60Aに応力集中が生じにくくなり、インペラ1の強度が高くなる。なお、上記した曲面部70の曲率半径Rの長さは、以下に説明する各実施形態においても同様である。
【0035】
また、第1円盤部内壁面52の肉厚tbと、第2円盤部内壁面53の肉厚tcは、ブレード20の肉厚taよりも薄く形成される(ta>tb、ta>tc)。また、ハブ10の第1円盤部内壁面52には、周方向の中央の肉厚tbが両端より薄くなるように曲面状に形成されることが好ましい。このような薄肉化によってインペラ1全体の重量が軽減され、同じインペラ1の回転速度であっても発生する遠心力を小さくできる。よって、この点でもインペラ1の強度が相対的に向上し、より高速な回転駆動が可能となる。
【0036】
上記した形状のインペラ1は、金属粉末積層造形法により製造することで、曲面部70の曲率半径R、内壁面50の形状を自在に設定できる。そのため、加工が煩雑にならず、設計自由度が向上し、必要十分な強度が簡単に得られる。
【0037】
<第2実施形態>
図4は、流体流路41の第2実施形態を示すインペラ1Aの一部拡大側面図である。
本実施形態のインペラ1Aは、1対のブレード内壁面51とシュラウド30の第2円盤部内壁面53との境界部60Bに、ブレード20の肉厚taよりも大きな曲率半径Rを有する曲面部70がそれぞれ形成される。また、1対のブレード内壁面51と第1円盤部内壁面52との境界部60Aには、曲面部70が形成されていない。つまり、本実施形態のインペラ1Aは、第1実施形態の境界部60Aを曲面部70にする代わりに境界部60Bを曲面部70にしている。その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0038】
本実施形態のインペラ1Aによっても、第1実施形態と同様に応力集中が境界部60Bで生じにくくなり、インペラ1Aの強度が高くなる。また、第1円盤部内壁面52の肉厚tbと、第2円盤部内壁面53の肉厚tcは、ブレード20の肉厚taよりも薄く形成される(ta>tb、ta>tc)ことで、インペラ1A全体の重量が軽減され、同じインペラ1Aの回転速度であっても発生する遠心力を小さくできる。よって、この点でもインペラ1Aの強度が相対的に向上し、より高速な回転駆動が可能となる。
【0039】
<第3実施形態>
図5は、流体流路41の第3実施形態を示すインペラ1Bの一部拡大側面図である。
本実施形態のインペラ1Bは、境界部60Aと境界部60Bとの双方に曲面部70が形成されている。その他の構成は第1実施形態と同様である。つまり、第3実施形態は、第1実施形態の曲面部70と第2実施形態の曲面部70とを組み合わせた構成となっている。
【0040】
本構成のインペラ1Bによれば、全ての境界部60A,60Bが曲面部70を有することで、流体流路41の内壁面50の全体にわたり、応力集中が生じにくくなる。また、より軽量化が図れた構成となる。
【0041】
<第4実施形態>
図6は、流体流路41の第4実施形態を示すインペラ1Cの一部拡大側面図である。
本構成のインペラ1Cでは、ハブ10側の内壁面50が一対の斜面54,55を有しており、流体流路41の長手方向(流れ方向)直交断面における断面形状が三角状(略三角形で、図6では略二等辺三角形)を呈している。この三角状の各角部が、円弧(真円、楕円形の円弧を含む)、放物線等を含む任意の曲線で形成される(すなわち、角取りされている)。略二等辺三角形の底辺及び斜辺の位置関係は逆でも良く、第2円盤部32側に一対の斜辺が設けられていてもよい。
【0042】
本構成のインペラ1Cによれば、流体流路41の断面形状が三角状であり、各角部が曲面状に形成されているため、前述の曲面部70と同様に、応力集中が生じにくくなる。
【0043】
<第5実施形態>
図7の(A)、(B)は、流体流路41の第5実施形態を示すインペラ1D,1Eの一部拡大側面図である。
図7の(A)に示す本構成のインペラ1Dでは、ブレード内壁面51とハブ10の第1円盤部内壁面52との境界部60Aa,60Abのうち、一方の境界部60Aa(図7の左側)にのみ曲面部70が形成される。また、曲面部70は、図7の(B)に示すように、ブレード内壁面51とハブ10の第1円盤部内壁面52との他方の境界部60Ab(図7の右側)にのみ曲面部70が形成されてもよい。
【0044】
本構成のインペラ1D,1Eによれば、1対の境界部60Aa,60Abのうち、境界部60Aaにのみ曲面部70を形成することで、主に引張応力を緩和させることができる。また、境界部60Abにのみ曲面部70を形成することで、主に圧縮応力を緩和させることができる。さらに、ブレード内壁面51とシュラウド30の第2円盤部内壁面53との境界部60Ba,60Bbのうち、少なくとも一方の境界部にのみ曲面部70を形成してもよい。その場合も、引張応力、圧縮応力を選択的に緩和させることができる。
【0045】
上記によれば、必要最小限の部位に曲面部70を形成するだけで、高強度なインペラの構成にできる。
【0046】
<第6実施形態>
図8は、流体流路41の第6実施形態を示すインペラ1Fの一部拡大側面図である。
本構成のインペラ1Fでは、1対の境界部60Aと1対の境界部60Bとが曲面部70を形成し、第1円盤部内壁面52、第2円盤部内壁面53及び1対のブレード内壁面51が、それぞれ流体流路41の外側に向けて膨らむ曲面形状となっている。
【0047】
また、第1円盤部内壁面52の外側の第1円盤部外表面57は、第1円盤部内壁面52に沿った曲面形状であり、第1円盤部12側の肉厚tbが略一定で、ブレード20の肉厚taより薄く形成されている。同様に、第2円盤部内壁面53の外側の第2円盤部外表面58は、第2円盤部内壁面53に沿った曲面形状であり、第2円盤部32側の肉厚tcが略一定で、ブレード20の肉厚taより薄く形成されている。
【0048】
本構成のインペラ1Fによれば、第1円盤部外表面57及び第2円盤部外表面58が、内壁面50に沿った曲面形状であるため、ブレード20に重なった第1円盤部外表面57及び第2円盤部外表面58には、軸方向に窪む凹部80が形成される。凹部80は、ブレード20に沿って放射状に形成される。第1円盤部12の肉厚tbと第2円盤部32の肉厚tcが一定で、ブレード20の肉厚taより薄いことと、凹部80が形成されることによって、インペラ1Fの更なる薄肉化と軽量化が図れる。このようなインペラ1Fの形状は、切削や鋳造により形成する場合には工数が増大することになるが、金属粉末積層造形法によれば、簡便に且つ効率良く形成できる。
【0049】
<第7実施形態>
図9の(A)、(B)は、流体流路41の第7実施形態を示すインペラ1G,1Hの一部拡大側面図である。
前述の第6実施形態では、第1円盤部12と第2円盤部32との双方の外表面を曲面形状にし、ブレード20に沿って凹部80を設けたが、本構成のインペラ1Gでは、図9の(A)に示すように、第1円盤部12と第2円盤部32とのうち、第1円盤部12側のみの外表面を曲面形状に形成し、第1円盤部12側のみ凹部80を設けている。その他の構成は、第6実施形態と同様である。
【0050】
また、図9の(B)に示すように、第1円盤部12と第2円盤部32とのうち、第2円盤部32側のみの外表面を曲面形状に形成して凹部80を設けたインペラ1Hとしてもよい。
【0051】
本構成のインペラ1G,1Hによれば、第1円盤部12と第2円盤部32とのうち、いずれか一方の外表面を曲面形状にして、凹部80を設けることでも、インペラ1G,1Hの更なる薄肉化と軽量化が図れる。
【0052】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0053】
例えば、内壁面50によって画成される流体流路の長手方向(流れ方向)に直交する断面での断面形状は、角部の少なくとも1つが曲面部で形成された形状のほか、真円、楕円、三角形、台形、菱形等、種々の形状が選択可能であり、また、境界部における曲面部の形状は、一定の曲率半径の形状に限らず、ベジェ曲線、スプライン曲線等の任意の曲線を用いた形状が選択可能である。
【0054】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 軸線を中心とした第1円盤部を有するハブと、
前記第1円盤部に放射状に延びて配置され、前記ハブの回転に伴って前記軸線に沿って流入する流体を、前記第1円盤部の径方向内側から径方向外側に案内する複数のブレードと、
前記ブレードを前記軸線の方向に挟んで、前記第1円盤部に対向して配置された第2円盤部を有するシュラウドと、
を備え、
前記ブレードは、前記軸線を中心とする周方向に互いに間隔を空けて湾曲して配置され、
前記第1円盤部と前記第2円盤部との間には、複数の前記ブレードにより区画された流体流路が形成され、
前記流体流路を囲む、前記ハブ、前記ブレード及び前記シュラウドのそれぞれの内壁面の一部に、前記流体流路の長手方向直交断面において、前記ブレードの肉厚よりも大きな曲率半径の曲面部が設けられたインペラ。
このインペラによれば、応力が集中する箇所にブレードの肉厚よりも大きな曲率半径の曲面部を形成することで、応力集中を低減して強度を高められる。
【0055】
(2) 前記曲面部は、前記内壁面のうち、前記第1円盤部と前記ブレードとの境界部の少なくとも一部に形成されている(1)に記載のインペラ。
このインペラによれば、第1円盤部とブレードとの境界部に応力集中が生じにくくなる。
【0056】
(3) 前記曲面部は、前記内壁面のうち、前記第ハブ側の面と前記シュラウド側の面との少なくも一方に形成されている(1)又は(2)に記載のインペラ。
このインペラによれば、ハブ及びシュラウドの肉厚を薄くでき、軽量化が図れる。
【0057】
(4) 前記流体流路は、前記内壁面のうち、前記第2円盤部と前記ブレードとの境界部の少なくとも一部に形成されている(1)~(3)のいずれか1つに記載のインペラ。
このインペラによれば、シュラウドとブレードの境界部に応力集中が生じにくくなる。
【0058】
(5) 前記流体流路は、前記第1円盤部及び前記第2円盤部の内周縁に、前記軸線に沿った入口側流体流路と屈曲して接続される連結部が設けられている(1)~(4)のいずれか1つに記載のインペラ。
このインペラによれば、屈曲した連結部を流体が通過することで生じる応力を低減できる。
【0059】
(6) 前記流体流路の長手方向直交断面において、前記内壁面の断面形状は三角状であり、当該三角状の角部は曲線形状である(1)~(5)のいずれか1つに記載のインペラ。
このインペラによれば、流体流路の内壁面の角部における断面形状が曲線形状であることで、各角部での応力集中が緩和されて強度を高められる。
【0060】
(7) 前記流体流路を形成する部分に対応する前記シュラウド及び前記ハブのうち少なくとも一方の外表面は、前記内壁面に沿った曲面である(1)~(6)のいずれか1つに記載のインペラ。
このインペラによれば、シュラウド又はハブの肉厚が薄くなり、軽量化が図れる。
【0061】
(8) 前記流体流路を形成する部分に対応する前記シュラウド及び前記ハブの外表面は、それぞれ前記内壁面に沿った曲面である(1)~(6)のいずれか1つに記載のインペラ。
このインペラによれば、シュラウド及びハブの双方の肉厚が薄くなり、更に大きく軽量化できる。
【0062】
(9) 前記流体流路を形成する部分に対応する前記シュラウド及び前記ハブの肉厚は、前記ブレードの肉厚よりも薄い(1)~(8)のいずれか1つに記載のインペラ。
このインペラによれば、ブレードの強度を確保しつつ、全体として軽量化が図れる。
【0063】
(10) 前記シュラウド、前記ブレード及び前記ハブは、金属材料が積み重なって一体に形成されている(1)~(9)のいずれか1つに記載のインペラ。
このインペラによれば、金属材料の積層構造体であることで、設計自由度の高い高強度な構成にできる。
【0064】
(11) (1)~(10)のいずれか1つに記載のインペラの製造方法であって、
金属粉末を所定の厚さでベース上に供給し、供給された前記金属粉末をレーザ光の照射により溶融、凝固させて肉盛層を形成する工程と、
形成された前記肉盛層の上に新たに前記金属粉末を所定に厚さに供給して、レーザ光の照射により前記金属粉末を溶融、凝固させる手順を繰り返し、複数の肉盛層を順次積層する工程と、
を有し、
前記肉盛層を前記インペラの形状に積層造形するインペラの製造方法。
このインペラの製造方法によれば、所望の曲率半径を有する曲面部を適切な箇所に効率よく形成できるため、応力集中が生じにくい高強度のインペラを製造できる。
【符号の説明】
【0065】
1、1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G,1H インペラ
10 ハブ
11 第1円筒部
12 第1円盤部
20 ブレード
30 シュラウド
31 第2円筒部
32 第2円盤部
41 流体流路
42 連結部
50 内壁面
51 ブレード内壁面
52 第1円盤部内壁面
53 第2円盤部内壁面
54,55 斜面
57 第1円盤部外表面
58 第2円盤部外表面
60 境界部
70 曲面部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13