(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】飛翔体
(51)【国際特許分類】
F42B 10/22 20060101AFI20231011BHJP
F42B 10/26 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
F42B10/22
F42B10/26
(21)【出願番号】P 2020057449
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】阿曽 良之
(72)【発明者】
【氏名】松山 孝男
(72)【発明者】
【氏名】三浦 啓晶
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 一美
(72)【発明者】
【氏名】松尾 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】笠原 弘貴
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特表昭60-502113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F42B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
錐体形状を有する胴体と、
前記錐体形状の先端と底面との間の前記胴体の側面の所定の位置から前記底面へ向けて延在する複数の溝と、備
え、
前記複数の溝のうちの隣接する2つの溝に挟まれた前記胴体の領域には、前記錐体形状の外周方向の時計回り方向側の側面及び反時計回り方向側の側面のいずれかに、前記領域の幅が小さくなるように形成された切り欠き部が設けられる、
飛翔体。
【請求項2】
前記錐体形状の中心軸に垂直な断面において、前記複数の溝は、前記錐体形状の周方向に等間隔に設けられる、
請求項1に記載の飛翔体。
【請求項3】
前記複数の溝のそれぞれは、前記所定の位置から前記底面へ向けて、前記錐体形状の
外周方向に捩れるように設けられる、
請求項1又は2に記載の飛翔体。
【請求項4】
前記錐体形状の中心軸に垂直な断面において、前記複数の溝のそれぞれが設けられた部分の前記胴体の側面は、曲線である、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の飛翔体。
【請求項5】
前記複数の溝のそれぞれは、前記錐体形状の底面から前記所定の位置へ抜けるスプーンカット形状の溝として設けられる、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の飛翔体。
【請求項6】
前記切り欠き部は、前記錐体形状の先端の側から前記底面へ向かうにつれて前記領域の幅が狭くなるように設けられる、
請求項
1乃至5のいずれか一項に記載の飛翔体。
【請求項7】
前記錐体形状の中心軸に垂直な断面において、前記切り欠き部が設けられた部分の前記領域の側面は、曲線である、
請求項
6に記載の飛翔体。
【請求項8】
前記切り欠き部は、前記錐体形状の底面から先端の側へ抜けるスプーンカット形状の切り欠き部として設けられる、
請求項
7に記載の飛翔体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛翔体に関し、例えば超音速、特に、例えば極超音速で飛翔する飛翔体に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中を超音速で飛翔する飛翔体においては、飛翔体の翼の前縁が空気との衝突によって加熱されると共に衝撃波が発生し、翼に作用する抗力(空気抵抗)が大きくなることが知られている。
【0003】
こうした飛翔体の一例として、胴体の上下、すなわち対向する位置に2枚の主翼が設けられ、ロール手段として4枚の尾翼が設けられた飛翔体が提案されている(特許文献1)。この飛翔体では、尾翼によって主翼をロールさせて、所望の方向に飛翔体を旋回させることができる。本構成では、主翼を2枚に削減できるので、4枚の主翼を有する飛翔体と比べて空気抵抗を小さくすることができる。
【0004】
一般に、飛翔体が超音速で飛翔すると飛翔体の先端から衝撃波が発生するが、この衝撃波は飛翔速度が大きくなるにつれて胴体に近づいてゆく。そのため、飛翔速度によっては衝撃波が翼に到達し、翼の前縁を加熱することなる。こうした翼に対する衝撃波の影響を避けるため、翼の前縁から突き出した棒状体を設けた飛翔体が提案されている(特許文献2)。本構成では、翼の前縁から突き出した棒状体を設けて、棒状体の先端で衝撃波を発生させることで、翼の前縁を衝撃波から保護している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-273999号公報
【文献】特開2015-224827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、飛翔体を極超音速で飛翔させる場合には、翼にかかる抗力はより大きくなり、抗力に耐えうる強度を有した翼を設けなければならない。しかし、翼の強度を向上させようとするとその厚みが増加してしまい、より抗力が大きくなる事態を招いてしまう。特許文献1にかかる飛翔体では主翼の数は削減できるものの、こうした各翼の強度に起因する問題を解決することはできない。
【0007】
また、特許文献2にかかる飛翔体では、翼に対する衝撃波の影響は軽減できるものの、薄い翼に棒状体を取り付けているために翼の構造が複雑化し、翼の強度が低下するおそれが有る。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、翼を設けることなく安定に飛翔することができる飛翔体を提供することを目的とする。
【0009】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様である飛翔体は、錐体形状を有する胴体と、前記錐体形状の先端と底面との間の前記胴体の側面の所定の位置から前記底面へ向けて延在する複数の溝と、を有するものである。これにより、胴体のうちで隣接する2本の溝に挟まれた部分のそれぞれが安定翼の代わり飛翔体の飛翔を安定させることができる。
【0011】
本発明の第2の態様である飛翔体は、上記の飛翔体であって、前記錐体形状の中心軸に垂直な断面において、前記複数の溝は、前記錐体形状の外周方向に等間隔に設けられるものである。これにより、胴体のうちで隣接する2本の溝に挟まれた部分のそれぞれが安定翼の代わり飛翔体の飛翔を安定させることができる。
【0012】
本発明の第3の態様である飛翔体は、上記の飛翔体であって、前記複数の溝のそれぞれは、前記所定の位置から前記底面へ向けて、前記錐体形状の外周方向に捩れるように設けられるものである。これにより、飛翔体を中心軸まわりに回転させて、飛翔体の飛翔をより安定させることができる。
【0013】
本発明の第4の態様である飛翔体は、上記の飛翔体であって、前記錐体形状の中心軸に垂直な断面において、前記複数の溝のそれぞれが設けられた部分の前記胴体の側面は、曲線であるものである。これにより、飛翔体の回りの空気を円滑に流すことができる。
【0014】
本発明の第5の態様である飛翔体は、上記の飛翔体であって、前記複数の溝のそれぞれは、前記錐体形状の底面から前記所定の位置へ抜けるスプーンカット形状の溝として設けられるものである。これにより、飛翔体の回りの空気を円滑に流すことができる。
【0015】
本発明の第6の態様である飛翔体は、上記の飛翔体であって、前記複数の溝のうちの隣接する2つの溝に挟まれた前記胴体の領域には、前記錐体形状の外周方向の時計回り方向側の側面及び反時計回り方向側の側面のいずれかに、前記領域の幅が小さくなるように形成された切り欠き部が設けられるものである。これにより、飛翔体を中心軸まわりに回転させて、飛翔体の飛翔をより安定させることができる。
【0016】
本発明の第7の態様である飛翔体は、上記の飛翔体であって、前記切り欠き部は、前記錐体形状の先端の側から底面へ向かうにつれて前記領域の幅が狭くなるように設けられるものである。これにより、切り欠き部の回りの空気を円滑に流しつつ、飛翔体を中心軸まわりに回転させて、飛翔体の飛翔をより安定させることができる。
【0017】
本発明の第8の態様である飛翔体は、上記の飛翔体であって、前記錐体形状の中心軸に垂直な断面において、前記切り欠き部が設けられた部分の前記領域の側面は、曲線であるものである。これにより、切り欠き部の回りの空気を円滑に流しつつ、飛翔体を中心軸まわりに回転させて、飛翔体の飛翔をより安定させることができる。
【0018】
本発明の第9の態様である飛翔体は、上記の飛翔体であって、前記切り欠き部は、前記錐体形状の底面から先端の側へ抜けるスプーンカット形状の切り欠き部として設けられるものである。これにより、切り欠き部の回りの空気を円滑に流しつつ、飛翔体を中心軸まわりに回転させて、飛翔体の飛翔をより安定させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、翼を設けることなく安定に飛翔することができる飛翔体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施の形態1にかかる飛翔体の構成を模式的に示す図である。
【
図2】先端から底面へ向かう方向(-Z方向)に沿って見た場合の
図1のII-II線における飛翔体のX-Y断面構成を示す図である。
【
図3】実施の形態2にかかる飛翔体の構成を模式的に示す図である。
【
図4】先端から底面へ向かう方向(-Z方向)に沿って見た場合の
図3のIV-IV線における飛翔体のX-Y断面構成を示す図である。
【
図5】実施の形態3にかかる飛翔体の構成を模式的に示す図である。
【
図6】先端から底面へ向かう方向(-Z方向)に沿って見た場合の
図5のVI-VI線における飛翔体のX-Y断面構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜簡略化されている。また、同一の要素には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0022】
実施の形態1
実施の形態1にかかる飛翔体について説明する。
図1は、実施の形態1にかかる飛翔体100の構成を模式的に示す図である。
図1に示すように、飛翔体100は、鋭い円錐形状の胴体1を有している。以下、図では右手系直交座標を用い、
図1に示すように、胴体1の中心軸を円錐形状の底面1Bから先端1Aへ向かう方向をZ方向とし、Z方向に垂直な面内で互いに直交する2方向をX方向(水平方向)及びY方向(鉛直方向)とする。
【0023】
なお、
図1と以下の
図3及び5の斜視図については、斜め後方下側から飛翔体を見上げた場合について表示しており、図面の明確化のため、底面BSが見えている直方体Cの辺上にX、Y、Zの3方向を表示している。具体的には、
図1、3及び5においては、X方向は概ね紙面の右下奥から左上手前へ向かう方向であり、Y方向は紙面の下から上へ向かう方向であり、Z方向は概ね紙面の右上手前から左下奥へ向かう方向である。
【0024】
胴体1は、先端1Aと底面1Bとを有する滑らかな円錐形状を有している。但し、胴体1は、先端から底面へ向けて断面積が増加する錐体形状であれば、如何なる錐体形状としてもよい。
【0025】
胴体1の側面1Cには、先端1Aと底面1Bとの間の先端部2Aから底面1Bへ向かって延在する、波型形状の断面を有する4本の溝2が設けられている。本構成では、溝2は、胴体1の底面1Bから先端部2Aへ抜けるように胴体1の側面1Cをスプーンカットした溝として形成されている。
【0026】
図2に、先端1Aから底面1Bへ向かう方向(-Z方向)に沿って見た場合の
図1のII-II線における飛翔体100のX-Y断面構成を示す。
図2に示すように、4本の溝2は、胴体1のX-Y断面の外周方向に90°の等間隔で設けられている。
【0027】
以下、X-Y断面において時計回り方向及び反時計回り方向という場合には、胴体1を前方(Z+側)から後方(Z-側)へ向けて見たときの胴体1の円錐形状の外周方向を指すものとする。
【0028】
溝2は、X-Y断面において、溝2の底部中央を基準として、胴体1を前方(Z+側)から後方(Z-側)へ向けて見たときの時計回り方向の側の部分と反時計回り方向の側の部分とが同じ形状の曲線を呈するように形成される。換言すれば、溝2は、X-Y断面において、胴体1の中心軸と溝2の底部中央とを通る線に対して対称な形状となるよう形成される。
【0029】
次いで、飛翔体100における溝2の作用について説明する。
図1及び2に示すように、溝2は、胴体1の側面1Cよりも胴体1の中心軸に近い位置に設けられている。そのため、先端1Aで衝撃波10が生じた場合でも、溝2は衝撃波10と接触することはない。また、隣接する2つの溝2に挟まれた領域3は、安定翼と同様に作用し、飛翔体100の飛翔を安定させることができる。
【0030】
これにより、本構成によれば、胴体から突き出した翼を設けずとも、胴体1に溝2を設けることで、飛翔体100の飛翔を安定化することが可能である。
【0031】
また、安定翼と同様の作用を有する領域3は、胴体1の一部であるので、胴体から突き出し、かつ、胴体と機械的に接合されている翼と比較して、抗力に対して大きな耐久力を有している。よって、本実施の形態にかかる飛翔体100は、翼を有する一般的な飛翔体と比べて、機械的強度の観点からも有利である。
【0032】
実施の形態2
次いで、実施の形態2にかかる飛翔体について説明する。
図3は、実施の形態2にかかる飛翔体200の構成を模式的に示す図である。飛翔体200は、飛翔体100の4本の溝2に換えて、4本の溝4を設けている。
【0033】
飛翔体100の溝2は、胴体1の前方(Z+側)から後方(Z-側)に直線上に延在する溝であった。これに対し、飛翔体200の溝4は、胴体1の前方(Z+側)の先端部4Aから後方(Z-側)に向かうにつれて、円錐形状の外周の時計回り方向に捩れた溝として形成されている。
【0034】
図4に、先端1Aから底面1Bへ向かう方向(-Z方向)に沿って見た場合の
図3のIV-IV線における飛翔体200のX-Y断面構成を示す。
図4に示すように、4本の溝4は、溝2と同様に、胴体1の円周方向に90°の等間隔で設けられている。溝4は捩れて形成されているため、空気の流れは溝4の時計回り方向の側の側面4Bに衝突して、胴体1には反時計回り方向のトルクFが生じる。このトルクFにより、飛翔体100は、飛翔中に反時計回りに回転(ロール)する。
【0035】
これにより、飛翔体200を構成する材料の非均質性や飛翔体の内容物の非対称性などによって飛翔体200の重心位置が中心軸(又は飛翔軸)からずれている場合でも、飛翔体200を回転(ロール)させることで、ジャイロ効果により、飛翔体200の飛翔軸からのずれを抑制することができる。なお、ここでいう飛翔軸とは、飛翔体が飛翔する理想的方向であり、上記のZ方向である。
【0036】
以上、本構成によれば、製造誤差などによって飛翔体200の重心位置が偏っている場合でも、飛翔体を中心軸回りに回転させることで、ジャイロ効果によって飛翔体の飛翔を安定化することができる。
【0037】
実施の形態3
次いで、実施の形態3にかかる飛翔体について説明する。
図5は、実施の形態3にかかる飛翔体300の構成を模式的に示す図である。
図6に、先端1Aから底面1Bへ向かう方向(-Z方向)に沿って見た場合の
図5のVI-VI線における飛翔体300のX-Y断面構成を示す。
【0038】
飛翔体300は、飛翔体100の変形例であり、溝2の時計回り方向の側面、換言すれば、領域3の反時計回り方向の側面に、前方(Z+側)から底面1B(Z-側)へ向けて領域3の幅Wが連続的に狭くなるように、切り欠き部5が設けられている。切り欠き部5は、例えば、胴体1の底面1Bから前方(Z+方向)へ向けて形成したスプーンカットや、領域3の側面に所定の勾配を設ける構成とすることで実現できる。
【0039】
次いで、切り欠き部5の作用について説明する。切り欠き部5を設けたことで、領域3の切り欠き部5の側面3Aでの空気の流れは、領域3の反対側の側面3Bの空気の流れよりも速くなる。このため、領域3の切り欠き部5の側面3Aの圧力は反対側の側面3Bの圧力よりも低くなり、その結果、領域3には反時計回り方向のトルクFが作用することとなる。このトルクFにより、飛翔体300は、飛翔中に反時計回りに回転(ロール)する。
【0040】
これにより、本構成によれば、実施の形態2にかかる飛翔体200と同様に、製造誤差などによって飛翔体300の重心位置が偏っている場合でも、飛翔体を中心軸回りに回転させることで、ジャイロ効果によって飛翔体の飛翔を安定化することができる。
【0041】
その他の実施の形態
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上述の実施の形態では、溝が4本設けられる構成について説明したが、胴体1のX-Y断面の外周方向に等間隔で設けられる限り、2本、3本又は5本以上の任意の複数本の溝を設けてもよい。
【0042】
実施の形態2においては、全ての溝が時計回り方向に捩れた溝として形成されるものとして説明したが、全ての溝を反時計回り方向に捩れた溝として形成して、飛翔体を時計回り方向に回転(ロール)させる構成としてもよい。
【0043】
実施の形態3では、2本の溝に挟まれた領域の反時計回り方向の側面に切り欠き部が設けられるものとして説明したが、2本の溝に挟まれた領域の時計回り方向の側面に切り欠き部を設けて、飛翔体を時計回り方向に回転(ロール)させる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 胴体
1A 先端
1B 底面
1C 側面
2、4 溝
2A、4A 先端部
3 領域
3A、3B、4B 側面
5 切り欠き部
10 衝撃波
100、200、300 飛翔体