(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】建具
(51)【国際特許分類】
E06B 5/16 20060101AFI20231011BHJP
E06B 3/46 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
E06B5/16
E06B3/46
(21)【出願番号】P 2020059394
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】390005267
【氏名又は名称】YKK AP株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八重樫 涼
(72)【発明者】
【氏名】小林 靖幸
(72)【発明者】
【氏名】長 晃司
(72)【発明者】
【氏名】松村 心互
【審査官】野尻 悠平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-060071(JP,A)
【文献】特開2015-169024(JP,A)
【文献】特開2018-071237(JP,A)
【文献】特開2018-138736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 5/16
E06B 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライド式の扉体と、
前記扉体が閉じた時に前記扉体の戸先部を収容する縦溝部を備える戸先側縦枠と、
を有する建具であって、
前記縦溝部は、
前記扉体の戸先側見込み面に対向する縦枠見込み面と、
前記縦枠見込み面の室外側に形成されて前記扉体のスライド方向に突出する第1溝側面と、
前記縦枠見込み面の室内側に形成されて前記扉体のスライド方向に突出する第2溝側面と、
を備え、
前記縦溝部における前記扉体の室外側面の第1延長面と室内側面の第2延長面との間を除く箇所で、かつ前記第1延長面と前記第1溝側面との間には、第1熱膨張性部材が設けられ、
前記縦溝部における前記第1延長面と前記第2延長面との間を除く箇所で、かつ前記第2延長面と前記第2溝側面との間には、第2熱膨張性部材が設けられ、
前記第1熱膨張性部材の一面は、前記扉体が閉じたときに前記第1溝側面と前記室
外側面との間に形成される第1隙間を指向し、
前記第2熱膨張性部材の一面は、前記扉体が閉じたときに前記第2溝側面と前記室内側面との間に形成される第2隙間を指向することを特徴とする建具。
【請求項2】
前記第1溝側面から閉じた前記扉体の前記室外側面の方向に突出して前記第1隙間を塞ぐ第1タイト材と、
前記第2溝側面から閉じた前記扉体の前記室
内側面の方向に突出して前記第2隙間を塞ぐ第2タイト材と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の建具。
【請求項3】
前記第1熱膨張性部材の一面は前記扉体の前記室外側面を斜めに指向し、
前記第2熱膨張性部材の一面は前記扉体の前記室内側面を斜めに指向することを特徴とする請求項1または2に記載の建具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライド式の扉体と、該扉体が閉じた時に該扉体の戸先部を収容する縦溝部を備える戸先側縦枠とを有する建具に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、引戸式の建具について防火性能の向上が求められている。引戸式の建具はスライド式の扉体を有する。引戸式の建具の防火性能を向上させるために、特許文献1では扉体を閉じた時に該扉体の戸先部を収容する縦溝部の全面に熱膨張性部材を設けることが提案されている。この建具では、火災時に熱膨張性部材の作用により扉体の戸先と縦枠との隙間を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の建具では、縦溝部の全面に熱膨張性部材を設けられていることから、火災時に熱膨張性部材の膨張によって扉体の戸先側見込み面を押し出してしまい遮炎性が低下する懸念がある。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、防火性能を向上させることのできる建具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様にかかる建具は、スライド式の扉体と、前記扉体が閉じた時に前記扉体の戸先部を収容する縦溝部を備える戸先側縦枠と、を有する建具であって、前記縦溝部は、前記扉体の戸先側見込み面に対向する縦枠見込み面と、前記縦枠見込み面の室外側に形成されて前記扉体のスライド方向に突出する第1溝側面と、前記縦枠見込み面の室内側に形成されて前記扉体のスライド方向に突出する第2溝側面と、を備え、前記縦溝部における前記扉体の室外側面の第1延長面と室内側面の第2延長面との間を除く箇所で、かつ前記第1延長面と前記第1溝側面との間には、第1熱膨張性部材が設けられ、前記縦溝部における前記第1延長面と前記第2延長面との間を除く箇所で、かつ前記第2延長面と前記第2溝側面との間には、第2熱膨張性部材が設けられ、前記第1熱膨張性部材の一面は、前記扉体が閉じたときに前記第1溝側面と前記室外側面との間に形成される第1隙間を指向し、前記第2熱膨張性部材の一面は、前記扉体が閉じたときに前記第2溝側面と前記室内側面との間に形成される第2隙間を指向することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明にかかる建具では、第1熱膨張性部材は、扉体の室外側面の第1延長面と第1溝側面との間に設けられ、第2熱膨張性部材は、扉体の室内側面の第2延長面と第2溝側面との間に設けられている。また、第1熱膨張性部材および記第2熱膨張性部材は第1延長面と第2延長面との間を除く箇所に設けられている。そして、第1熱膨張性部材の一面は、扉体が閉じたときに第1溝側面と室外側面との間に形成される第1隙間を指向し、第2熱膨張性部材の一面は、扉体が閉じたときに第2溝側面と室内側面との間に形成される第2隙間を指向している。したがって、膨張した第1熱膨張性部材および第2熱膨張性部材はほぼ全量が第1隙間および第2隙間から膨出し、扉体を押し出すことがない。また、扉体の見込み方向の両面で遮炎作用があり、防火性能を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る建具を室外側から見た正面図である。
【
図2】
図1におけるII~II線視による縦断面図である。
【
図3】枠体の戸先側縦枠および扉体の戸先側縦端部の横断面図である。
【
図4】
図1におけるIV~IV線視による横断面図である。
【
図5】熱膨張性部材の膨張した状態における枠体の戸先側縦枠および扉体の戸先側縦端部の横断面図である。
【
図6】熱膨張性部材の膨張した状態における建具を示す模式図であり、(a)は扉体が室外側に反った状態の模式縦断面面であり、(b)は扉体が室内側に反った状態の模式断縦面図であり、(c)は扉体の戸先側縦端部が戸尻側に沿った状態の模式正面図である。
【
図7】変形例にかかる建具における、枠体の戸先側縦枠および扉体の戸先側縦端部の横断面図である。
【
図8】熱膨張性部材の膨張した状態における変形例にかかる建具の枠体の戸先側縦枠および扉体の戸先側縦端部の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明にかかる建具の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る建具10を室外側から見た正面図である。
図1に示すように、建具10は片引戸式であり、枠体12と、扉体14とを有する。建具10は、扉体14が
図1の左右方向にスライドすることにより、壁に設けられた矩形開口を開閉する。
図1における左半分の仮想線16で示す領域は、壁の一部であってもよいし、嵌め殺しのパネルであってもよい。また、仮想線16で示す領域は扉体14と対をなす扉体であってもよい。つまり建具10は引き違い戸であってもよい。この場合の引き違い戸は3枚以上の構成でもよい。
【0011】
枠体12は、上枠12a、下枠12b、戸先側縦枠12c、および戸尻側縦枠12dを有する。上枠12aの略右半分、下枠12b、戸先側縦枠12c、および戸尻側縦枠12dは矩形枠を形成し、壁に設けられた矩形開口を囲う。上枠12aの左半分は、戸尻側縦枠12dの位置より左側に突出しており、その突出長さは扉体14の横幅にほぼ等しい。なお、本実施形態の下枠12bは戸先側縦枠12cと戸尻側縦枠12dとの間を接続しており、戸尻側縦枠12dよりも左側には突出していないが、上枠12aと同様に左側に突出していてもよい。扉体14には戸先側縦端部14cの近傍にハンドル18が設けられている。ハンドル18は、扉体14の室内側および室外側に設けられている。
【0012】
本出願において、見込み方向とは建具10の室内外方向、(図中に矢印Zで示す。
図1では紙面の垂直方向)をいう。見込み面とは見込み方向に沿って延在する面をいう。見付け方向とは見込み方向に直交する方向であり、上下方向に長尺な戸先側縦枠12c等の場合はその長手方向に直交する左右方向(図中に矢印Xで示す方向)をいい、左右方向に長尺な上枠12a等の場合はその長手方向に直交する上下方向(図中に矢印Yで示す方向)をいう。見付け面とは見付け方向に沿った面をいう。
【0013】
図2は、
図1におけるII~II線視による縦断面図である。
図3は、枠体12の戸先側縦枠12cおよび扉体14の戸先側縦端部14cの横断面図である。
図4は、
図1におけるIV~IV線視による横断面図である。
【0014】
まず、扉体14について
図2~
図4を参照しながら説明する。
扉体14の上端部14aには下向きに開口したコ字状の骨材14aaと、該骨材14aaの内側に設けられるコ字状の補強材14abとが設けられている。扉体14の下端部14bには、骨材14baと、ガイド材14bbとが設けられている。ガイド材14bbには、下向きに開口してガイド溝14bcを形成するコ字状の部分が形成されている。骨材14baとガイド材14bbの間には隙間が確保されている。
【0015】
扉体14の戸先側縦端部14cには、戸尻方向に開口したコ字状の骨材14caと、該骨材14caの室外側面を覆うフレーム14cbと、室内側面を覆うフレーム14ccと、戸先側端部を形成するエッジ材14cdとが設けられている。フレーム14cb、フレーム14ccは、例えば樹脂材である。エッジ材14cdは、例えばアルミニウム等の金属材料の押し出し型材である。
【0016】
エッジ材14cdには戸尻方向に突出する複数の突出片14ceが設けられており、該突出片14ceによりエッジ材14cdと骨材14caとの間には隙間14cfが確保されている。隙間14cfの内部でエッジ材14cdの面には、室外側の端部近傍に熱膨張性部材14cgが設けられ、室内側の端部近傍に熱膨張性部材14chが設けられている。熱膨張性部材14cg,14chは、戸先側縦端部14cの長尺方向に沿ってその全長に配設されている。建具10が高温状態となった場合、熱膨張性部材14cg,14chが膨張して隙間14cfに充填される。熱膨張性部材14cg,14chは、後述する熱膨張性部材50,52,14df,14dgと同様の構造である。
【0017】
扉体14の戸尻側縦端部14dには戸先方向に開口したコ字状の骨材14daと、該骨材14daの内側に設けられるコ字状の補強材14dbとが設けられている。また、戸尻側縦端部14dには、戸尻方向を覆うとともに室内側にやや突出する枠材14dcが設けられている。骨材14da、補強材14dbおよび枠材14dcはネジで固定されている。枠材14dcの室内側端部には戸先方向に突出した煙返し14ddが形成されている。煙返し14ddには補強材14deが設けられている。枠材14dcにおける煙返し14ddと対向する面には熱膨張性部材14dfが室内方向を指向して配設されている。この対向面と煙返し14ddとの間には、熱膨張性部材14dgが戸先方向を指向して配設されている。戸尻側縦端部14dと戸尻側縦枠12dとは、召し合わせの位置にある。
【0018】
扉体14には、四周を骨材で囲まれた領域に断熱材14eが設けられている。骨材は、例えばアルミニウム等の金属材料の押し出し型材である。扉体14の室外側面14fおよび室内側面14gには表面材が設けられており、フラッシュ構造となっている。扉体14はフラッシュ構造以外でもよい。
【0019】
次に、枠体12について
図2~
図4を参照しながら説明する。
枠体12の上枠12aは、第1枠材12aa、第2枠材12ab、第3枠材12ac、第4枠材12adおよび第5枠材12aeによって構成されている。上枠12aには下方に開口する空間部12agが形成されている。空間部12agの下部には扉体14の上端部14aが入り込んでいる。
【0020】
空間部12agには断面略L字のレール20が設けられている。レール20は上枠12aの長尺方向ほぼ全長にわたって延在している。レール20の先端部のガイド突起は回転自在の吊ローラ22をガイドする。扉体14は、上端部14aが吊ローラ22に対して連結部材24によって連結されている。吊ローラ22および連結部材24は上端部14aの長尺方向に沿って複数設けられている。空間部12agの下端で室内側面からは上端部14aに向かってタイト材28が突出している。タイト材28および後述するタイト材38,56,58は気密材である。空間部12agの下端で室外側面からは、上端部14aに向かってブラシ30が突出している。
【0021】
枠体12の下枠12bは、第1枠材12baおよび第2枠材12bbによって構成されている。第1枠材12baは下枠12bの下端を構成しており、扉体14よりも下方に位置している。第2枠材12bbは扉体14の下端部14bよりも室内側に位置している。第2枠材12bbの上部には靴ずり32が嵌め込まれている。第1枠材12baにおける扉体14の下方部分には回転自在のガイドローラ34が設けられている。ガイドローラ34はガイド溝14bcに嵌まり込み、下端部14bのガイドを行う。扉体14は、吊ローラ22およびガイドローラ34によってX方向(
図2の紙面垂直方向)に沿ってスライド可能となっている。ガイドローラ34が設けられる支柱は、扉体14の全開時に戸先側縦端部14cが位置する近傍に1つ設けられる(
図1参照)。第2枠材12bbの室外側面からは、下端部14bに向かってタイト材38が突出している。
【0022】
戸先側縦枠12cは、第1枠材12ca、第2枠材12cbおよび第3枠材12ccによって構成されている。第1枠材12ca、第2枠材12cbは、例えばアルミニウム等の金属材料の押し出し型材である。第3枠材12ccは例えば樹脂材である。第1枠材12caは戸先側縦枠12cの戸先側端を構成しており、扉体14よりも戸先側に位置している。第2枠材12cbは扉体14の戸先側縦端部14cよりも室内側に位置している。第3枠材12ccは、第1枠材12caと第2枠材12cbとによって挟持されている。
【0023】
第1枠材12caは、室外側プレート46aと、室内側プレート46bと、その中間の仕切プレート46cと、戸先側プレート46dと、戸尻側プレート46eとによって構成されている。第1枠材12caは仕切プレート46cによって2つの区画に区分されて、適度な強度が確保されている。室外側プレート46aは、戸尻側プレート46eとの接続部よりもやや戸尻側に突出している。この部分を突出部46aaと呼ぶ。室内側プレート46bは、戸先側プレート46dとの接続部よりもやや戸先側に突出している。
【0024】
戸先側縦枠12cは、扉体14が閉じた時に該扉体14の戸先部(具体的には戸先側縦端部14cの一部または全部)を収容する縦溝部48を備える。縦溝部48は、扉体14の戸先側見込み面14hに対向する縦枠見込み面(第1取付面、第2取付面)48aと、該縦枠見込み面48aから扉体14のスライド方向に突出する第1溝側面48bおよび第2溝側面48cを備える。
【0025】
第1溝側面48bは突出部46aaの室内側の面であり、縦枠見込み面48aの室外側に形成される。第2溝側面48cは、第2枠材12cbおよび第3枠材12ccの各室外側面であり、縦枠見込み面48aの室内側に形成される。第1溝側面48bおよび第2溝側面48cは、縦枠見込み面48aからの突出幅が等しくなっている。
【0026】
縦溝部48には第1熱膨張性部材50および第2熱膨張性部材52が設けられている。第1熱膨張性部材50および第2熱膨張性部材52は薄板形状である。第1熱膨張性部材50は、縦枠見込み面48aにおける扉体14の室外側面14fの第1延長面14fxと第1溝側面48bとの間の見込み方向ほぼ全幅に設けられている。第1熱膨張性部材50における縦枠見込み面48aに取り付けられる面と逆側の表面(一面)50aは、扉体14が閉じたときに第1溝側面48bと室外側面14fとの間に形成される第1隙間53を指向する。
【0027】
第2熱膨張性部材52は、縦枠見込み面48aにおける扉体14の室内側面14gの第2延長面14gxと第2溝側面48cとの間の見込み方向ほぼ全幅に設けられている。第2熱膨張性部材52における縦枠見込み面48aに取り付けられる面と逆側の表面(一面)52aは、扉体14が閉じたときに第2溝側面48cと室外側面14gとの間に形成される第2隙間54を指向する。なお、第1熱膨張性部材50および第2熱膨張性部材52は、第1延長面14fxと第2延長面14gxとの間を除く箇所に設けられる。
【0028】
第1熱膨張性部材50および第2熱膨張性部材52は、熱により膨張する不燃性または難燃性の耐火部材である。この種の熱膨張性部材50,52としては、例えば熱膨張性を有した黒鉛含有の発泡材を適用することができる。本実施の形態では、幅方向の寸法に対して板厚の薄い断面形状を有した長尺状の熱膨張性部材50,52が縦枠見込み面48aにおいて長尺方向全長にわたる部分に配設してある。図には明示していないが、それぞれの熱膨張性部材50,52は、両面テープや接着剤によって接着してあり、縦枠見込み面48aから不用意に脱落することはない。
【0029】
縦溝部48の第1溝側面48bには、閉じた扉体14の室外側面14fの方向に突出する第1タイト材56が設けられている。第1タイト材56は第1隙間53を塞いで第1熱膨張性部材50を覆っている。第1溝側面48bの先端にはC字状の収納部46fが形成されている。第1タイト材56はその基部が収納部46fに収納および固定されている。収納部46fは突出部46aaの先端から見付け方向にやや突出している。第1熱膨張性部材50は、室外側の略半分が収納部46fと対向している。
【0030】
縦溝部48の第2溝側面48cには、閉じた扉体14の室内側面14gの方向に突出する第2タイト材58が設けられている。第2タイト材58は第2隙間54を塞いで第2熱膨張性部材52を覆っている。第2タイト材58は長さの異なる2本(
図3では符号58a,58bで示す)から構成されている。第2溝側面48cの先端にはC字状の収納部46gが形成されている。第2タイト材58はその基部が収納部46gに収納および固定されている。収納部46gは第2溝側面48cに沿って形成されている。
【0031】
第1熱膨張性部材50は第1タイト材56に覆われ、第2熱膨張性部材52は第2タイト材58によって覆われることから、意匠上好適であるとともに不用意に触れることが防止される。また、仮に第1タイト材56および第2タイト材58が無い場合でも、第1熱膨張性部材50および第2熱膨張性部材52は、室外側面14fの第1延長面14fxと室内側面14gの第2延長面14gxとの間には設けられてなく、それぞれ適度に細く目立たない。第1熱膨張性部材50および第2熱膨張性部材52は、縦溝部48の両隅に設けられていることから、仮に第1タイト材56および第2タイト材58が無い場合でも、不用意に触れにくい。
【0032】
枠体12の戸尻側縦枠12dは枠材12daを備える。枠材12daの室外側端部には戸尻方向に突出した煙返し12dbが形成されている。一対の煙返し12dbと煙返し14ddは対向配置されている。
【0033】
次に、このように構成される建具10の作用について説明する。
図5は、熱膨張性部材50,52が膨張した状態における枠体12の戸先側縦枠12cおよび扉体14の戸先側縦端部14cの横断面図である。
【0034】
建具10が高温に晒された場合には、第1タイト材56および第2タイト材58は消失または熔融し、熱膨張性部材50,52が膨張することになる。
図5では、第1熱膨張性部材50が膨張した状態を符号50xで示し、第2熱膨張性部材の膨張した状態を符号52で示す。熱膨張性部材50,52は縦枠見込み面48aに設けられていて、表面50a,52aが隙間53,54を指向していることから矢印Aで示すように、膨張の方向は室外側面14fおよび室内側面14gとほぼ平行で、戸尻側を指向する方向になる。
【0035】
また、縦溝部48には第1溝側面48bが設けられていることから、第1熱膨張性部材50は室外側に膨出することがない。縦溝部48には第2溝側面48cが設けられていることから、第2熱膨張性部材52は室内側に膨出することがない。したがって、膨張した熱膨張性部材50x,52xはほぼ全量が室外側面14fおよび室内側面14gに沿って広がり、矢印A方向に十分に膨出することから、扉体14の室外側と室内側とは遮蔽される。これにより、例えば、室外側の火炎が縦溝部48を経て室内側に至る事態を防止することができるようになる。
【0036】
また、第1熱膨張性部材50は、縦枠見込み面48aにおける第1延長面14fxと第2延長面14gxとの間を除く箇所で、扉体14の室外側面14fの第1延長面14fxと第1溝側面48bとの間に設けられていることから、膨張した第1熱膨張性部材50xは戸先側見込み面14hにはほとんど当接することがない。同様に、第2熱膨張性部材52は、縦枠見込み面48aにおける第1延長面14fxと第2延長面14gxとの間を除く箇所で、扉体14の室内側面14gの第2延長面14gxと第2溝側面48cとの間に設けられていることから、膨張した第2熱膨張性部材52xは戸先側見込み面14hにはほとんど当接することがない。したがって、膨張した熱膨張性部材50x,52xは扉体14を押し出すことがなく、しかも扉体14の見込み方向の両面で遮炎作用があり、防火性能を一層向上させることができる。さらに、扉体14は戸尻方向に押し出されることがないため、煙返し12dbと煙返し14dd(
図4参照)との召し合わせのかかりが浅くならず、召し合わせ部分の遮炎性が低下することがない。
【0037】
さらにまた、第1熱膨張性部材50は、室外側の略半分が収納部46fに対向しており、該収納部46fはガイドのような作用を奏する。つまり、膨張した第1熱膨張性部材50xは、収納部46fで絞られて該収納部46fと室外側面14fとの隙間から膨出することになり、膨出の方向がやや室内側に案内されて確実に室外側面14fに当接することができる。したがって、防火性能を一層向上させることができる。
【0038】
図6は、熱膨張性部材50,52が膨張した状態における建具10を示す図であり、(a)は扉体14が室外側に反った状態の模式縦断面図であり、(b)は扉体14が室内側に反った状態の模式縦断面図であり、(c)は扉体14の戸先側縦端部14cが戸尻側に沿った状態の模式正面図である。
【0039】
図6(a)に示すように、高温状態となった扉体14は室外側に反ることが考えられる。このとき、室内側では膨張した第2熱膨張性部材52xと扉体14の室内側面14gとの間には隙間が生じうる。しかし、室外側では室外側面14fが膨張した第1熱膨張性部材50xを押し込むことになるために隙間が生じることはなく、防火性能が維持される。
【0040】
図6(b)に示すように、高温状態となった扉体14は室内側に反ることが考えられる。このとき、室外側では膨張した第1熱膨張性部材50xと扉体14の室外側面14fとの間には隙間が生じうる。しかし、室内側では室内側面14gが膨張した第2熱膨張性部材52xを押し込むことになるために隙間が生じることはなく、防火性能が維持される。
【0041】
図6(c)に示すように、高温状態となった扉体14は戸先側縦端部14cが戸尻側に反ることが考えられる。このとき、戸先側縦端部14cと戸先側縦枠12cとの間に隙間が生じたとしても、膨張した熱膨張性部材50x,52xは戸尻側を指向する方向に十分に膨出することからこの隙間を覆うことができ、防火性能が維持される。このように、第1熱膨張性部材50および第2熱膨張性部材52の両方設けることにより扉体14の室内側および室外側からの遮炎作用があり、防火性能を一層向上させることができる。
【0042】
次に、変形例にかかる建具10Aについて説明する。建具10Aについて上記の建具10と同様の要素については同符号を付してその詳細な説明を省略する。
図7は、建具10Aにおける枠体12の戸先側縦枠12cおよび扉体14の戸先側縦端部14cの横断面図である。
【0043】
図7に示すように、戸先側縦枠12cの縦枠見込み面48aにおける室外側面14fの第1延長面14fxと第1溝側面48bとの間には、第1傾斜板60が設けられている。第1傾斜板60は戸先側縦枠12cの長尺方向全長にわたる部分に配設してある。第1傾斜板60の第1取付面60aには第1熱膨張性部材50が取り付けられている。第1熱膨張性部材50は、第1取付面60aに対面する面と逆側の面が隙間53を指向し、さらに扉体14の室外側面14fを斜めに指向する。つまり、第1取付面60aの法線B1が室外側面14fを斜めに指向している。
【0044】
戸先側縦枠12cの縦枠見込み面48aにおける室内側面14gの第2延長面14gxと第2溝側面48cとの間には、第2傾斜板62が設けられている。第2傾斜板62は戸先側縦枠12cの長尺方向全長にわたる部分に配設してある。第2傾斜板62の第2取付面62aには第2熱膨張性部材52が取り付けられている。第2熱膨張性部材52は、第2取付面62aに対面する面と逆側の面が隙間54を指向し、さらに扉体14の室内側面14gを斜めに指向する。つまり、第2取付面60aの法線B2が室内側面14gを斜めに指向している。
【0045】
各法線B1,B2が面14f,14gに対して適度な角度で指向するように、傾斜板60,62の各裏面と縦枠見込み面48aとのなす角度は45度以下となっている。したがって取付面60a,62aは、
図7の平面上でX方向の縦枠見付け面48b,48cよりはZ方向の縦枠見込み面48aに近い角度に設定されている。傾斜板60,62は、例えばアルミニウム等の金属板である。傾斜板60,62は戸先側縦枠12cに固定されているが、戸先側縦枠12cの一部として構成されていてもよい。
【0046】
図8は、熱膨張性部材50,52が膨張した状態における建具10Aの枠体12の戸先側縦枠12cおよび扉体14の戸先側縦端部14cの横断面図である。
図8に示すように、第1取付面60aは法線B1が扉体14の室外側面14fを斜めに指向していることから、膨張した第1熱膨張性部材50xは法線B1に沿って膨張し、扉体14の室外側面14fに確実に当接する。第2取付面62aは法線B2が扉体14の室内側面14gを斜めに指向していることから、膨張した第2熱膨張性部材52xは法線B2に沿って膨張し、扉体14の室内側面14gに確実に当接する。これにより、膨張した熱膨張性部材50x,52xは扉体14に対して密着しやすくなり防火性能が一層向上する。
【0047】
なお、上記の熱膨張性部材14cg,14ch、50,52は塗付式であってもよい。塗付式の熱膨張性部材は流動性を有した状態でノズル等から所定箇所に塗付可能であり、その後に硬化するものを適用可能である。熱膨張性部材が流動性を有する状態から硬化するのは、経時的、または硬化剤を混合させて硬化反応を促進させる等の化学的な処理による。
【0048】
このような塗付式の熱膨張性部材は、流動性の熱膨張性部材が建具に塗布されて硬化させるものであるため、建具の表面にネジや突起等の突出物が設けられている場合であっても、また入隅状に構成されている部分に対しても。隙間を生じさせることなく熱膨張性部材を設けることができる。従って、経年によっても熱膨張性部材がはがれて脱落する事態を招来するおそれがなく、防火性の向上を図ることができる。
【0049】
本発明の一態様にかかる建具は、スライド式の扉体と、前記扉体が閉じた時に前記扉体の戸先部を収容する縦溝部を備える戸先側縦枠と、を有する建具であって、前記縦溝部は、前記扉体の戸先側見込み面に対向する縦枠見込み面と、前記縦枠見込み面の室外側に形成されて前記扉体のスライド方向に突出する第1溝側面と、前記縦枠見込み面の室内側に形成されて前記扉体のスライド方向に突出する第2溝側面と、を備え、前記縦溝部における前記扉体の室外側面の第1延長面と室内側面の第2延長面との間を除く箇所で、かつ前記第1延長面と前記第1溝側面との間には、第1熱膨張性部材が設けられ、前記縦溝部における前記第1延長面と前記第2延長面との間を除く箇所で、かつ前記第2延長面と前記第2溝側面との間には、第2熱膨張性部材が設けられ、前記第1熱膨張性部材の一面は、前記扉体が閉じたときに前記第1溝側面と前記室外側面との間に形成される第1隙間を指向し、前記第2熱膨張性部材の一面は、前記扉体が閉じたときに前記第2溝側面と前記室内側面との間に形成される第2隙間を指向することを特徴とする。
このような建具によれば膨張した熱膨張性部材は扉体を押し出すことがない。また、扉体の見込み方向の両面で遮炎作用があり、防火性能を一層向上させることができる。
【0050】
本発明の一態様にかかる建具は、前記第1溝側面から閉じた前記扉体の前記室外側面の方向に突出して前記第1隙間を塞ぐ第1タイト材と、前記第2溝側面から閉じた前記扉体の前記室外側面の方向に突出して前記第2隙間を塞ぐ第2タイト材と、を備えることを特徴とする。
このようなタイト材は熱膨張性部材を覆うことから、意匠上好適であるとともに熱膨張性部材が不用意に触れられることが防止される。
【0051】
本発明の一態様にかかる建具は、前記第1熱膨張性部材の一面は前記扉体の前記室外側面を斜めに指向し、前記第2熱膨張性部材の一面は前記扉体の前記室内側面を斜めに指向することを特徴とする。
膨張性部材は扉体の面を斜めに指向していることから、膨張した熱膨張性部材もこの方向に膨張して扉体の面に確実に当接する。これにより、膨張した熱膨張性部材は扉体に対して密着しやすくなり防火性能が一層向上する。
【0052】
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【符号の説明】
【0053】
10,10A 建具、12 枠体、12a 上枠、12b 下枠、12c 戸先側縦枠、12d 戸尻側縦枠、14 扉体、14a 上端部、14b 下端部、14c 戸先側縦端部、14d 戸尻側縦端部、14f 室外側面、14fx 第1延長面、14gx 第2延長面、14g 室内側面、14h 戸先側見込み面、46f,46g 収納部、48 縦溝部、48a 縦枠見込み面、48b 第1溝側面、48c 第2溝側面、50 第1熱膨張性部材、50a,52a 表面(一面)、52 第2熱膨張性部材、50x,52x 膨張した熱膨張性部材、53 第1隙間、54 第2隙間、56 第1タイト材、58 第2タイト材、60 第1傾斜板、60a 第1取付面、62 第2傾斜板、62a 第2取付面