(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】観察容器、及び、試料作製方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/36 20060101AFI20231011BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
G01N1/36
G01N1/28 J
(21)【出願番号】P 2020091643
(22)【出願日】2020-05-26
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】322004393
【氏名又は名称】株式会社エビデント
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100182936
【氏名又は名称】矢野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】島田 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】篠原 千尋
(72)【発明者】
【氏名】小江 克典
(72)【発明者】
【氏名】西脇 大介
(72)【発明者】
【氏名】杉山 崇
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-169553(JP,U)
【文献】特開2019-000083(JP,A)
【文献】特表2017-516109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/36
G01N 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象物を保持する保持部と、
少なくとも一部が透明な曲面からなり、前記保持部を位置決めする収容部と、を備え、
前記保持部は、前記収容部によって第1の位置に位置決めされた第1の状態で、前記観察対象物を前記曲面から前記曲面の曲率中心に向かって離間した設定位置に保持する
ことを特徴とする観察容器。
【請求項2】
請求項1に記載の観察容器において、
前記保持部は、前記第1の状態で、前記観察対象物を包埋したゲル又は固体を吊り下げることによって、前記観察対象物を前記設定位置に保持する
ことを特徴とする観察容器。
【請求項3】
請求項2に記載の観察容器において、
前記保持部は、前記観察対象物を含む媒質溶液のハンギングドロップを形成するハンギングドロップ形成部を含み、
前記ハンギングドロップは、液面に沿って働く重力の分力によって前記保持部に対して所定の相対位置に移動した前記観察対象物を含み、
前記ゲル又は前記固体は、前記ハンギングドロップがゲル化又は固体化することで形成される
ことを特徴とする観察容器。
【請求項4】
請求項2に記載の観察容器において、
前記ゲル又は前記固体は、前記収容部に収容された媒質溶液であって、前記曲面に沿って働く重力の分力によって前記保持部に対して所定の相対位置に移動した前記観察対象物を含む媒質溶液が、ゲル化又は固体化することで形成され、
前記保持部は、前記収容部内で摺動することによって、前記ゲル又は前記固体を前記曲面から剥離する剥離部を兼ねる
ことを特徴とする観察容器。
【請求項5】
請求項4に記載の観察容器において、
前記収容部は、
前記保持部を前記第1の位置に位置決めする第1の係止部と、
前記保持部を第2の位置に位置決めする第2の係止部と、を含み、
前記保持部は、前記収容部によって前記第2の位置に位置決めされた第2の状態で、前記ゲル又は前記固体に包埋された前記観察対象物を前記曲面上に保持する
ことを特徴とする観察容器。
【請求項6】
請求項1に記載の観察容器において、
前記保持部は、
前記観察対象物を保持する凹部を含み、
前記凹部を鉛直上方に向けた状態で前記曲面上に配置若しくは形成される
ことを特徴とする観察容器。
【請求項7】
請求項6に記載の観察容器において、
前記保持部は、シリコーンゴムである
ことを特徴とする観察容器。
【請求項8】
請求項6に記載の観察容器において、
前記保持部は、前記収容部に配置された吸水性ポリマーが吸水して膨張することによって形成される
ことを特徴とする観察容器。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の観察容器において、
前記収容部は、少なくとも一部が透明な平面からなり、
前記設定位置は、前記平面の法線上に位置する
ことを特徴とする観察容器。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の観察容器において、
前記曲面は、三次元曲面である
ことを特徴とする観察容器。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の観察容器において、
前記曲面は、球面である
ことを特徴とする観察容器。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の観察容器において、
前記曲面は、所定の曲率を有する
ことを特徴とする観察容器。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載の観察容器において、
前記曲面から前記設定位置に保持された前記観察対象物までの距離をd、前記曲面の曲率半径をRとするとき、以下の条件式
R/2<d<R ・・・・(1)
を満たすことを特徴とする観察容器。
【請求項14】
請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載の観察容器において、
一次元又は二次元に配列された複数の要素を含み、
前記複数の要素の各々は、前記収容部と前記保持部とを含む
ことを特徴とする観察容器。
【請求項15】
観察対象物を保持する保持部と、少なくとも一部が透明な曲面からなる収容部と、を含む観察容器を用いた試料作製方法であって、
前記収容部によって前記保持部を第1の位置に位置決めし、
前記保持部が前記第1の位置に位置決めされた第1の状態で、前記観察対象物を前記曲面から前記曲面の曲率中心に向かって離間した設定位置に保持する
ことを特徴とする試料作製方法。
【請求項16】
請求項15に記載の試料作製方法において、さらに、
前記保持部によって前記観察対象物を含む媒質溶液のハンギングドロップを形成し、
前記ハンギングドロップをゲル化又は固体化することによって前記観察対象物が包埋されたゲル又は固体を形成し、
前記第1の状態で前記観察対象物を前記設定位置に保持することは、前記観察対象物を包埋した前記ゲル又は前記固体を吊り下げることを含む
ことを特徴とする試料作製方法。
【請求項17】
請求項15に記載の試料作製方法において、さらに、
前記収容部に注がれた前記観察対象物を含む媒質溶液で前記曲面を覆い、
前記媒質溶液をゲル化又は固化することによって前記観察対象物が包埋されたゲル又は固体を形成し、
前記ゲル又は前記固体を前記曲面から剥離し、
前記第1の状態で前記観察対象物を前記設定位置に保持することは、前記観察対象物を包埋した前記ゲル又は前記固体を吊り下げることを含む
ことを特徴とする試料作製方法。
【請求項18】
請求項15に記載の試料作製方法において、さらに、
前記収容部に注がれた前記観察対象物を含む媒質溶液で前記第1の位置に位置決めされた前記保持部の凹部を覆い、
前記保持部を前記第1の位置に位置決めすることは、前記凹部を鉛直上方に向けた状態で前記保持部を前記曲面上に配置若しくは形成することを含み、
前記第1の状態で前記観察対象物を前記設定位置に保持することは、前記観察対象物を前記凹部に保持することを含む
ことを特徴とする試料作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、観察容器、試料作製方法、及び、観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、多数の細胞からなり、3次元的に培養したスフェロイドやオルガノイドのような細胞凝集塊を使った研究が注目されている。近年では、スフェロイドやオルガノイドを顕微鏡で撮影し、取得した顕微鏡画像データに対して画像解析技術を用いて創薬のためにスクリーニングを行い、薬効を評価するといったことも行われている。
【0003】
創薬スクリーニングの対象となる上記のような観察対象物は、100μmから500μm程度の大きさを有している。このため、観察対象物内部での散乱を抑制するための透明化処理を施した上で、深部撮影やZシリーズ撮影(Zスタック撮影ともいう。)を行うことで顕微鏡画像データを取得するのが一般的である。
【0004】
また、創薬スクリーニングでは、大量の観察対象物を効率よくスクリーニングすることが求められるため、ディスク型共焦点倒立顕微鏡のような高速撮影が可能な顕微鏡が利用される。深部観察に適したライトシート顕微鏡が利用されることもある(特許文献1参照)。いずれの場合も、高い分解能を実現し且つ発生した観察光を効率よく集光して露光時間を短縮するため、高い開口数を有する液浸対物レンズの利用が欠かせない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、観察対象物の深部を撮影する場合、媒質間の屈折率ミスマッチに起因する球面収差の影響が大きくなる。対物レンズの開口数が高いほどその影響はより顕著になるため、液浸対物レンズを用いた観察においては、この課題に対して何らかの対処が望まれている。なお、透明化処理が施されている場合を想定すると、容器内の媒質の屈折率はほぼ均一と見做すことができる。このため、容器の厚さが均一であれば、浸液と容器内の媒質(観察対象物を含む)との間の屈折率差が及ぼす影響が、屈折率ミスマッチに起因する球面収差において支配的である。
【0007】
透明化された観察対象物の屈折率は、一般的な透明化溶液の屈折率と同様に、水の屈折率(1.33)よりもかなり高い。このため、屈折率ミスマッチを抑制するといった観点から見ると、浸液は、水よりもオイル(例えば、屈折率1.52)やシリコーンオイル(例えば、屈折率1.40)であることが望ましい。
【0008】
一方、浸液にオイルやシリコーンオイルを用いることには、運用面での課題がある。創薬スクリーニングの対象となる観察対象物の数は非常に多く、人手による浸液の供給は大きな負担となる。このため、自動供給装置が用いられるのが一般的であるが、浸液がオイル等の場合には、その高い粘性によって気泡が生じやすく、浸液の供給を自動化することが難しい。また、オイルが付着した容器の洗浄に手間がかかるといった課題もある。
【0009】
このような理由から、現在の創薬スクリーニングでは、収差性能よりも運用面で優位性を重視して、水浸対物レンズが利用されているのが実情である。以上のような実情を踏まえ、本発明の一側面に係る目的は、浸液と観察対象物の屈折率差が大きい場合であっても光学性能の劣化を抑制可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る観察容器は、観察対象物を保持する保持部と、少なくとも一部が透明な曲面からなり、前記保持部を位置決めする収容部と、を備え、前記保持部は、前記収容部によって第1の位置に位置決めされた第1の状態で、前記観察対象物を前記曲面から前記曲面の曲率中心に向かって離間した設定位置に保持する。
【0011】
本発明の一態様に係る試料作製方法は、観察対象物を保持する保持部と、少なくとも一部が透明な曲面からなる収容部と、を含む観察容器を用いた試料作製方法であって、前記収容部によって前記保持部を第1の位置に位置決めし、前記保持部が前記第1の位置に位置決めされた第1の状態で、前記観察対象物を前記曲面から前記曲面の曲率中心に向かって離間した設定位置に保持する。
【発明の効果】
【0013】
上記の態様によれば、浸液と観察対象物の屈折率差が大きい場合であっても光学性能の劣化を抑制可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態に係る観察容器1の構成を示した図である。
【
図2】収容部10の形状を説明するための図である。
【
図3】第1の実施形態に係る試料作製方法を説明するフローチャートである。
【
図4】第1の実施形態に係るハンギングドロップ形成工程を説明するための図である。
【
図5】第1の実施形態に係るゲル化工程を説明するための図である。
【
図6】第1の実施形態に係る固定化・蛍光染色工程を説明するための図である。
【
図7】第1の実施形態に係る透明化工程を説明するための図である。
【
図8】第1の実施形態に係る観察容器1を用いた観察方法を説明するための図である。
【
図9】観察容器1における収差抑制効果について説明するための図である。
【
図10】第2の実施形態に係る観察容器2の構成を示した図である。
【
図11】第2の実施形態に係る試料作製方法を説明するフローチャートである。
【
図12】第2の実施形態に係る曲面を媒質溶液で覆う工程を説明するための図である。
【
図13】第2の実施形態に係るゲル化工程を説明するための図である。
【
図14】第2の実施形態に係る剥離工程を説明するための図である。
【
図15】第2の実施形態に係る位置決め・保持工程から透明化工程を説明するための図である。
【
図16】第2の実施形態に係る観察容器2を用いた観察方法を説明するための図である。
【
図17】第3の実施形態に係る観察容器3の構成を示した図である。
【
図18】第3の実施形態に係る試料作製方法を説明するフローチャートである。
【
図19】第3の実施形態に係る位置決め工程から保持工程までを説明するための図である。
【
図20】第3の実施形態に係る透明化工程を説明するための図である。
【
図21】第3の実施形態に係る観察容器3を用いた観察方法を説明するための図である。
【
図22】第4の実施形態に係る観察容器4を用いた観察方法を説明するための図である。
【
図23】第5の実施形態に係る観察容器5の構成を示した図である。
【
図24】収容部80の形状を説明するための図である。
【
図25】第5の実施形態に係る観察容器5を用いた観察方法を説明するための図である。
【
図26】第6の実施形態に係る観察容器6を用いた観察方法を説明するための図である。
【
図27】第7の実施形態に係る観察容器7を用いた観察方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、3次元的な構造を有する生体試料の観察に用いられる観察容器と試料作製方法について説明する。なお、本明細書において、観察とは、目視観察に限らず、デジタルカメラによる撮影を含むものとする。また、観察対象物としての生体試料は、特に限定しないが、例えば、スフェロイドやオルガノイドのような細胞凝集塊である。以降では、観察対象物が細胞凝集塊である場合を例にして、各実施形態を説明する。
【0016】
[第1の実施形態]
図1は、本実施形態に係る観察容器1の構成を示した図である。
図2は、収容部10の形状を説明するための図である。観察容器1は、
図1に示すように、観察対象物を内部に収容する収容部10と、観察対象物を保持する保持部20と、を含んでいる。以下、
図1及び
図2を参照しながら観察容器1の構成について詳細に説明する。
【0017】
収容部10は、
図1に示すように、保持部20を位置決めする。また、収容部10は、少なくとも一部が透明な曲面11からなり、試験管に類似した形状を有している。より詳細には、収容部10は、一端が開放され且つ他端が曲面11で塞がれた円筒形を有している。収容部10は、開口を鉛直上方に向け、曲面11を鉛直下方に向けた状態で使用される。曲面11で構成する収容部10の底部は、実質的に均一な厚さを有している。
【0018】
収容部10全体が透明であってもよく、曲面11のみが透明であってもよい。また、曲面11の一部のみが透明であってよい。収容部10は、観察時に対物レンズへ入射する光が通過する領域が透明であればよく、従って、少なくとも光が通過する曲面11の一部が透明であればよい。
【0019】
図2(a)は、収容部10を円筒形状の軸方向に沿って切断したときの断面図であり、収容部10を横から見たときの形状を示している。また、
図2(b)は、収容部10を上から見た平面図である。曲面11は、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、所定の曲率(1/R)を有する球面である。なお、曲面11が有する曲率は、一定であることが望ましいが、必ずしも曲面11の全領域において一定でなくてもよい。また、曲面11は、三次元曲面であることが望ましいが、球面には限らない。なお、曲率の正負は、曲面11の全領域において同じであることが望ましく、曲面11は、少なくとも曲率中心が収容部10内に位置するような形状であることが望ましく、従って、収容部10の内側に凹面を向けた形状であることが望ましい。
【0020】
保持部20は、開口21から分注される媒質溶液のハンギングドロップを形成するハンギングドロップ形成部22を含んでいる。ハンギングドロップ形成部22を収容部10の上端開口から収容部10の内部に挿入し、保持部20に形成された切り欠き部分が収容部10の開口端に係合するように調整することで、
図1に示すように、保持部20の位置が確定し、保持部20が収容部10によって所定の位置(以降、第1の位置と記す。)に位置決めされる。また、以降では、保持部20が収容部10によって第1の位置に位置決めされた状態を第1の状態と記す。なお、収容部10に収容される観察対象物である細胞凝集塊は、保持部20が形成したハンギングドロップ内に閉じ込められた状態で、観察される。
【0021】
ハンギングドロップ形成部22には、媒質溶液を通す管路が形成されている。ハンギングドロップ形成部22は、開口21側から見ると、漏斗のような形状を有している。開口21から最も管路の径が絞り込まれた最絞部23に至るまでの間の管路は、管路の径が徐々に絞り込まれるテーパー形状を有し、より詳細には、凡そ円錐形状を有している。また、最絞部23から開口21とは反対側の開口に至るまでの間の管路は、最絞部23を通過した媒質溶液が徐々に空気と接する表面積を増やすように、逆テーパー形状を有している。より詳細には、凡そ円錐形状であってもよく、表面積の増加をさらに緩やかにするために三次元曲面で構成されてもよい。
【0022】
図3は、本実施形態に係る試料作製方法を説明するフローチャートである。
図4は、本実施形態に係るハンギングドロップ形成工程を説明するための図である。
図5は、本実施形態に係るゲル化工程を説明するための図である。
図6は、本実施形態に係る固定化・蛍光染色工程を説明するための図である。
図7は、本実施形態に係る透明化工程を説明するための図である。以下、
図3から
図7を参照しながら、観察容器1を用いた試料作製方法について説明する。
【0023】
まず、ハンギングドロップDを形成する(ステップS1)。ここでは、
図4に示すように、細胞凝集塊CAを含む媒質溶液を、ピペット30によって開口21から保持部20に分注する。これにより、ハンギングドロップ形成部22によって媒質溶液のハンギングドロップDが形成される。なお、分注される媒質溶液は、例えば、アクリルアミド溶液、アガロース溶液などである。これらの溶液は、一定温度以下まで冷やすことでゲル化する。
【0024】
ステップS1で媒質溶液とともに分注された細胞凝集塊CAは、媒質溶液よりも高い比重を有する。このため、ステップS1では、細胞凝集塊CAは、
図4に示すように、ハンギングドロップDの液面に沿って働く重力の分力によって、自動的に保持部20に対して所定の相対位置へ、より具体的には、ハンギングドロップDの最下点へ移動する。即ち、ステップS1で形成されたハンギングドロップDは、液面に沿って働く重力の分力によって保持部20に対して所定の相対位置に移動した細胞凝集塊CAを含んでいる。
【0025】
ハンギングドロップDが形成され、細胞凝集塊CAが最下点に落ちつくと、ハンギングドロップDをゲル化する(ステップS2)。ここでは、ハンギングドロップDを構成する媒質溶液がアクリルアミド溶液やアガロース溶液であれば、ハンギングドロップDをゲル化温度以下に冷やす。これにより、
図5に示すように、ハンギングドロップD(より厳密には媒質溶液)がゲル化し、細胞凝集塊CAを包埋したゲルD1が得られる。ゲルD1は、媒質溶液がゲル化することで形成された細胞凝集塊CAを包埋したゲルである。
【0026】
次に、細胞凝集塊CAの固定化及び蛍光染色を行う(ステップS3)。ここでは、
図6に示すように、容器40に入れられた専用の溶液41にゲルD1を浸すことで、ゲルD1内の細胞凝集塊CAを固定化し、蛍光色素で染色する。また、ステップS3では、細胞凝集塊CAの洗浄が行われてもよい。なお、細胞凝集塊CAの蛍光染色は、必ずしもゲル化工程の後に行われる必要はなく、例えば、予め蛍光染色されたスフェロイドなどを含む媒質溶液でハンギングドロップを形成し、その後、ハンギングドロップをゲル化してもよい。
【0027】
その後、保持部20を位置決めし、細胞凝集塊CAを設定位置に保持する(ステップS4)。ここでは、
図7に示すように、保持部20が透明化溶液12で満たされた収容部10に載置されることで、保持部20と収容部10が係合する。これにより、収容部10は、保持部20を第1の位置に位置決めし、保持部20は、第1の位置に位置決めされた第1の状態で、細胞凝集塊CAを、収容部10の曲面11から曲面11の曲率中心に向かって離間した設定位置に保持する。より詳細には、保持部20は、細胞凝集塊CAを包埋したゲルであるゲルD1を、収容部10の収容空間内において吊り下げることで、細胞凝集塊CAを設定位置に保持する。なお、設定位置は、曲面11の曲率中心またはその近傍である。収容部10と保持部20は、保持部20が収容部10によって位置決めされた第1の状態で曲面11の曲率中心近傍にハンギングドロップの最下点が位置するように、予め設計されている。
【0028】
最後に、透明化溶液12がゲルD1に浸透し、これにより細胞凝集塊CAが透明化される(ステップS5)。ここでは、
図7に示すように、ゲルD1及び細胞凝集塊CAが、透明化溶液12の働きによって、透明化溶液12の屈折率とほぼ同じ屈折率を有するゲルD2及び細胞凝集塊CA2に変化する。これにより、収容部10内において媒質(透明化溶液12、ゲルD2、細胞凝集塊CA2)の屈折率がほぼ均一な試料が完成する。
【0029】
以上はハンギングドロップをゲル化する方法で説明したが、例えば、ハンギングドロップを構成する媒質溶液として紫外線硬化型の樹脂溶液を用い、ハンギングドロップに紫外線を照射することでハンギングドロップを固体化してもよい。この場合も細胞凝集塊を媒質溶液に含めることで、細胞凝集塊を包埋したハンギングドロップが得られる。この場合、ハンギングドロップは、媒質溶液を固体化することで形成された固体である。なお、固体化したハンギングドロップを溶液に浸漬しても、ゲル化したハンギングドロップの場合とは異なり、その溶液はハンギングドロップ内に浸み込まない。このため、紫外線硬化型の樹脂溶液を使用してハンギングドロップを形成する場合には、予め、細胞凝集塊に対して蛍光染色などの処理を施しておくことが望ましい。
【0030】
図8は、本実施形態に係る観察容器1を用いた観察方法を説明するための図である。
図9は、観察容器1における収差抑制効果について説明するための図である。
図3に示す手順で作製された試料を用いて細胞凝集塊CA2を観察する場合、倒立顕微鏡が用いられる。具体的な観察手順は、まず、
図3に示す手順で試料を作製することで、上述した設定位置に観察対象物である細胞凝集塊CA2を保持する。その後に、収容部10と倒立顕微鏡の対物レンズOBの間を浸液IMで満たす。最後に、
図8に示すように、対物レンズOBと観察容器1との間を浸液IMで満たした状態で、設定位置に保持された細胞凝集塊CA2からの光を、曲面11を経由して対物レンズOBに取り込む。これにより、曲面11を経由して細胞凝集塊CA2が観察される。
【0031】
観察時において、曲面11から曲率中心に向かって離間した設定位置にある細胞凝集塊CA2からの光線は、透明化した媒質と浸液IMとの間の収容部10(曲面11)を経由して対物レンズOBに取り込まれるが、その際、観察容器1では、収容部10(曲面11)への光線の入射角を小さく抑えることが可能である。これは、収容部10を曲面11で構成し、且つ、曲面11から細胞凝集塊CA2を離間させているためである。特に、細胞凝集塊CA2が保持されている設定位置が曲面11の曲率中心又はその近傍である場合には、入射角を特に小さく抑えることが可能となる。この点について
図9を参照しながら、説明する。
【0032】
図9(a)は、平面F上に細胞凝集塊CA2が配置された例が示されている。
図9(b)には、曲面C上に細胞凝集塊CA2が配置された例が示されている。
図9(c)には、曲面Cから曲率中心に向かって曲率半径よりも小さな距離だけ離間した位置に細胞凝集塊CA2が配置された例が示されている。
図9(d)には、曲面Cから曲率中心に向かって曲率半径だけ離間した位置に細胞凝集塊CA2が配置された例が示されている。
【0033】
図9(a)から
図9(d)を参照すると、対物レンズの光軸方向に進行する光線A1については、いずれもの場合も、境界面(平面F、曲面C)へ入射角0°で入射している。従って、光線A1は、
図9(a)から
図9(d)の何れの場合も屈折しない。一方で、光軸に対して傾いた方向に進行する光線A2については、境界面(平面F、曲面C)への入射角がそれぞれ異なっている。具体的には、
図9(a)から
図9(d)に状態が変化するのに従って入射角が減少するため、
図9(d)から
図9(a)の順に小さな入射角を有する(入射角θ1>θ2>θ3>0°)。
【0034】
光線を小さな入射角で収容部10に入射させることで収容部10での屈折角を小さく抑えることができる。その結果、収容部10を挟んで配置されている媒質(浸液IMと透明化溶液)間の屈折率ミスマッチに起因する球面収差を抑制することが可能であり、屈折率ミスマッチに起因する観察装置(倒立顕微鏡)の光学性能の劣化を抑制することができる。従って、本実施形態に係る観察容器1及び試料作製方法によれば、観察装置の性能を十分に発揮することが可能であり、高い解像度の画像を取得することが可能となる。また、球面収差を抑制することができるため、球面収差に敏感な高い開口数を有する対物レンズを使用して効率よく光を集めることが可能であり、短時間で画像を得ることができる。
【0035】
また、細胞凝集塊のような大きな観察対象物を観察する場合、観察対象物内での散乱を抑制するために透明化処理が行われるが、現在市場に広く流通している透明化溶液の屈折率は、水の屈折率(1.33)よりも高い。さらに、透明化溶液の種類によって屈折率が異なっている。例えば、透明化溶液SCALEVIEW-S4の屈折率は1.47であり、透明化溶液CUBICの屈折率は1.52である。このため、用途等に応じて使用される透明化溶液の屈折率に液浸の屈折率を合わせることで屈折率ミスマッチを解消する、といった対処を実践することは容易ではない。しかしながら、本実施形態によれば、屈折率ミスマッチに起因する球面収差を小さく抑えることができるため、浸液IMを自由に選択することができる。
【0036】
特に、本実施形態によれば、上記の理由により、浸液IMに水を用いることが可能であり、水浸対物レンズを用いて高い解像度の画像を短時間で取得することができる。粘性が比較的低い水を浸液に用いることで、観察容器1と対物レンズOBの間に浸液IMを供給する際に、気泡が発生しにくいため、自動供給装置による浸液IMの自動供給を行うことができる。また、浸液IMにオイルを用いた場合と比較すると、水は蒸発するので残留せず、洗浄が不要であるというメリットがある。
【0037】
従って、本実施形態に係る観察容器1及び試料作製方法は、作業の自動化に好適であり、創薬スクリーニングのような大量の試料を検査する用途に利用することで、高いスループットを実現することができる。
【0038】
なお、本実施形態のステップS1では、予め培養された細胞凝集塊CAを媒質溶液とともに分注することでハンギングドロップを形成する例を示したが、細胞凝集塊CAはハンギングドロップ内で形成されてもよい。例えば、細胞を播種した培養液を保持部20に分注することでハンギングドロップを形成し、ハンギングドロップの最下点に集まった細胞をハンギングドロップ内で培養することで、細胞凝集塊CAを形成してもよい。その後、培養液を吸引し、代わりに、媒質溶液を分注することで、ハンギングドロップの成分を培養液から媒質溶液へ入れ替える。この場合も、ステップS2以降については、本実施形態と同様の手順で試料を作製することができる。
【0039】
また、本実施形態のステップS3では、容器40を用いて細胞凝集塊CAの固定化等を行う例を示したが、ステップS3の処理は、収容部10を用いて行われてもよい。例えば、収容部10に入れた溶液41にゲルD1を浸すことで、ゲルD1内の細胞凝集塊CAを固定化し、蛍光色素で染色してもよい。また、
図3に示す各工程の順番は、
図3に示す順番に限られない。例えば、上述したように、ゲル化前に蛍光染色を行ってもよい。
【0040】
なお、以上では、細胞凝集塊CAを、曲面から前記曲面の曲率中心に向かって離間した設定位置、望ましくは、曲面11の曲率中心又はその近傍である設定位置に位置決めすることが望ましいことを説明したが、より具体的には、曲面11から設定位置に保持された細胞凝集塊CAまでの距離をdとし、曲面11の曲率半径をRとするとき、以下の条件式(1)を満たすことが望ましい。
R/2<d<R ・・・・(1)
【0041】
距離dが曲率半径Rと等しい場合には、100μmから500μm程度の厚さを有する細胞凝集塊CAの最下部に曲率中心が位置することになる。このため、細胞凝集塊CAの最下部と最上部を撮影するときで光学性能の違いが大きくなりすぎてしまうことがある。従って、距離dは曲率半径R未満であることが望ましい。また、距離dが曲率半径Rの半分以下の場合には、細胞凝集塊CA中の物点からの光線束を構成する光線が曲面11へ入射する入射角が大きすぎ、十分に屈折角を小さくすることができないことがある。従って、距離dは曲率半径Rの半分よりも長いことが望ましい。条件式(1)を満たすことで、細胞凝集塊CA内の位置によって光学性能が大きく異なってしまう事態を回避することができる。
【0042】
[第2の実施形態]
図10は、本実施形態に係る観察容器2の構成を示した図である。観察容器2は、
図10に示すように、観察対象物を内部に収容する収容部50と、観察対象物を保持部60と、を含んでいる。なお、保持部60は、観察対象物を包埋したゲルを吊り下げることで観察対象物を設定位置に保持するものであり、この点は、第1の実施形態に係る収容部10と同様である。以下、
図10を参照しながら観察容器2の構成について詳細に説明する。
【0043】
収容部50は、少なくとも一部が透明な曲面51を備える点は、収容部10と同様である。なお、曲面51は、収容部50の底面を構成する三次元曲面であり、例えば、球面である。また、収容部50は、観察時に対物レンズへ入射する光が通過する領域が透明であればよく、従って、少なくとも曲面51の一部が透明であればよい。この点についても、収容部10と同様である。
【0044】
収容部50は、2つの係止部(係止部52、係止部53)を備える点が収容部10とは異なっている。係止部52は、保持部60を第1の位置に位置決めする第1の係止部であり、係止部53は、保持部60を第1の位置とは異なる第2の位置に位置決めする第2の係止部である。
【0045】
さらに、収容部50は、ゲルを形成するための型としても機能する。このため、収容部50は、後述する剥離工程においてゲルが剥離しやすいように、収容部50の内部空間が底部に向かって径が小さくなるテーパー形状を有しており、この点においても、収容部10とは異なっている。
【0046】
保持部60は、収容部50を型として利用して曲面51上に形成されたゲルを曲面51から剥離する剥離部としても機能する。保持部60は、収容部50の内径に凡そ一致した外径を有する嵌合部62を備えている。嵌合部62は、Oリング70が収容部50の係止部と係合することで、Oリング70をして収容部50によって支持される。その結果として、保持部60は、収容部50によって位置決めされる。なお、Oリング70は、嵌合部62に形成された溝に嵌め込まれた状態で接着されている。
【0047】
保持部60は、さらに、嵌合部62から突出したアーム部63と把持部64を備えている。把持部64は、保持部60が収容部50によって位置決めされた状態で、収容部50の上部開口から外側に向かって突出するように、嵌合部62から延びている。一方、アーム部63は、保持部60が収容部50によって位置決めされた状態で、曲面51に向かって突出するように、嵌合部62から延びている。なお、開口61は、把持部64に形成されている。嵌合部62とアーム部63と把持部64には、開口61から延びる管路が貫通している。
【0048】
アーム部63の下端開口の付近には、管路の径方向に突出したフランジが形成されている。アーム部63に形成されたフランジは、後述するように、細胞凝集塊を包埋したゲルを持ち上げる役割を担っている。アーム部63の途中にも開口が設けられていて、開口61から注がれた液体は、アーム部63の下端の開口が塞がれている場合には、アーム部63の途中に設けられた開口から外部へ排出される。
【0049】
把持部64にも、管路の径方向に突出したフランジが形成されている。把持部64に形成されたフランジは、後述するように、保持部60を摺動するときに機械又は人間によって把持される。
【0050】
図11は、本実施形態に係る試料作製方法を説明するフローチャートである。
図12は、本実施形態に係る曲面を媒質溶液で覆う工程を説明するための図である。
図13は、本実施形態に係るゲル化工程を説明するための図である。
図14は、本実施形態に係る剥離工程を説明するための図である。
図15は、本実施形態に係る位置決め・保持工程から透明化工程を説明するための図である。以下、
図11から
図15を参照しながら、観察容器2を用いた試料作製方法について説明する。
【0051】
まず、保持部60を経由して収容部50に注がれた、細胞凝集塊CAを含む媒質溶液で曲面51を覆う(ステップS11)。ここでは、
図12に示すように、Oリング70を係止部53に係合することで保持部60が収容部50によって第2の位置に位置決めされている状態(第2の状態と記す。)で、細胞凝集塊CAを含む媒質溶液MSを、ピペット30によって開口61から保持部60に分注する。その結果、保持部60を貫通する管路を通って媒質溶液MSが収容部50に注がれ、収容部50に収容される。これにより、曲面51が媒質溶液MSで覆われる。なお、分注される媒質溶液MSは、第1の実施形態と同様であり、例えば、アクリルアミド溶液、アガロース溶液などである。
【0052】
ステップS11で媒質溶液MSとともに分注された細胞凝集塊CAは、媒質溶液MSよりも高い比重を有する。このため、ステップS11では、
図12に示すように、細胞凝集塊CAは収容部50の曲面51に沿って働く重力の分力によって、自動的に保持部60に対して所定の相対位置へ、より具体的には、曲面51の最下点へ移動する。
【0053】
細胞凝集塊CAが最下点に落ちつくと、媒質溶液MSをゲル化する(ステップS12)。ここでは、媒質溶液MSがアクリルアミド溶液やアガロース溶液であれば、媒質溶液MSをゲル化温度以下に冷やす。これにより、
図13に示すように、媒質溶液MSがゲル化したゲルMS1が得られ、保持部60は、収容部50によって第2の位置に位置決めされた第2の状態で、ゲルMS1に包埋された細胞凝集塊CAを曲面51上に保持する。ゲルMS1は、媒質溶液MSがゲル化することで形成された細胞凝集塊CAを包埋したゲルである。
【0054】
次に、細胞凝集塊CAの固定化及び蛍光染色を行う(ステップS13)。ここでは、機械又は人間が把持部64を把持し持ち上げることで、保持部60が収容部50内で摺動する。ステップS13では、ゲルMS1は流動性を失っている。このため、保持部60の移動に伴って、ゲルMS1はアーム部63によって持ち上げられる。これにより、保持部60は、
図14に示すように、曲面51からゲルMS1を剥離させ、収容部50から取り外される。即ち、保持部60は、収容部50内で摺動することによって、ゲルMS1を曲面51から剥離する剥離部を兼ねている。その後、収容部50から取り外された保持部60に吊り下げられているゲルMS1を、予め用意されている溶液に浸すことでゲルMS1内の細胞凝集塊CAを固定化し、蛍光色素で染色する。また、ステップS13では、細胞凝集塊CAの洗浄が行われてもよい。
【0055】
その後、保持部60を第1の位置に位置決めし、細胞凝集塊CAを設定位置に保持する(ステップS14)。ここでは、保持部60を再び収容部50に挿入することで、
図15に示すように、Oリング70が係止部52に係合する。これにより、収容部50は、保持部60を第1の位置に位置決めし、保持部60は、第1の位置に位置決めされた第1の状態で、細胞凝集塊CAを曲面51から曲面51の曲率中心に向かって離間した設定位置に保持する。より詳細には、保持部60は、細胞凝集塊CAを包埋したゲルであるゲルMS1を、収容部50の収容空間内において吊り下げることで、細胞凝集塊CAを設定位置に保持する。
【0056】
なお、設定位置は、曲面51の曲率中心またはその近傍である。収容部50と保持部60は、保持部60が収容部50によって位置決めされた第1の状態で曲面51の曲率中心近傍にゲルMS1の最下点が位置するように、予め設計されている。
【0057】
最後に、ゲルMS1内の細胞凝集塊CAが透明化される(ステップS15)。ここでは、
図15に示すように、透明化溶液54を、ピペット30によって開口61から保持部60に分注する。透明化溶液54は、アーム部63下端からゲルMS1内に浸透するとともに、アーム部63の途中に設けられた開口から溢れ出して収容部50に注がれる。その結果、ゲルMS1には、その周囲からも透明化溶液54が浸透する。これにより、細胞凝集塊CAが透明化され、ゲルMS2及び細胞凝集塊CA2に変化する。以上により、収容部50内において媒質(透明化溶液54、ゲルMS2、細胞凝集塊CA2)の屈折率がほぼ均一な試料が完成する。
【0058】
図16は、本実施形態に係る観察容器2を用いた観察方法を説明するための図である。
図11に示す手順で作製された試料を用いて細胞凝集塊CA2を観察する場合、倒立顕微鏡が用いられる。具体的な観察手順は、第1の実施形態と同様である。
図16に示すように、対物レンズOBと観察容器2との間を浸液IMで満たした状態で、設定位置に保持された細胞凝集塊CA2からの光を、曲面51を経由して対物レンズOBに取り込むことで、曲面51を経由して細胞凝集塊CA2を観察する。
【0059】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様の理由により、観察時に、細胞凝集塊CA2から収容部50(曲面51)への光線の入射角を小さく抑えることが可能であり、それによって、収容部50での屈折角を小さく抑えることができる。その結果、収容部50を挟んで配置されている媒質(浸液IMと透明化溶液)の間の屈折率ミスマッチに起因する球面収差を抑制することが可能であり、屈折率ミスマッチに起因する観察装置(倒立顕微鏡)の光学性能の劣化を抑制することができる。従って、本実施形態に係る観察容器2及び試料作製方法によっても、第1の実施形態に係る観察容器1及び試料作製方法と同様に、観察装置の性能を十分に発揮することが可能であり、高い解像度の画像を取得することが可能となる。また、球面収差を抑制することができるため、球面収差に敏感な高い開口数を有する対物レンズを使用して効率よく光を集めることが可能であり、短時間で画像を得ることができる。
【0060】
また、屈折率ミスマッチに起因する球面収差を小さく抑えることができるため、浸液IMを自由に選択することができる点も、第1の実施形態と同様である。本実施形態に係る観察容器2及び試料作製方法も、作業の自動化に好適であり、創薬スクリーニングのような大量の試料を検査する用途に利用することで、高いスループットを実現することができる。
【0061】
また、本実施形態では、固定化や蛍光染色に用いる溶液を廃液する必要がない場合であれば、保持部60を収容部50から取り外すことなく、一連の手順を効率良く実施することができる。つまり、ゲルを剥離した後に直ちに第1の位置に保持部60を位置決めしてもよく、第1の状態で固定化や蛍光染色に用いる溶液を注入することで固定化や蛍光染色を行ってもよい。さらに、その後、透明化溶液を追加することで透過化工程を実施してもよい。
【0062】
なお、本実施形態のステップS11では、保持部60が収容部50によって第2の位置に位置決めされている状態で媒質溶液を分注したが、媒質溶液は、収容部50から保持部60から取り外した状態で行われてもよい。その場合、ステップS12までに保持部60を収容部50に挿入することで、保持部60が収容部50によって第2の位置に位置決めされればよい。
【0063】
また、本実施形態のステップS14では、収容部50に透明化溶液54が満たされていない状態で収容部50が保持部60を位置決めし、その後、透明化溶液54を分注する例を示したが、収容部50に透明化溶液54が満たされている状態で収容部50が保持部60を位置決めしてもよい。
【0064】
本実施形態では、媒質溶液をゲル化する方法で説明したが、媒質溶液として紫外線硬化型の樹脂溶液を用い、媒質溶液に紫外線を照射することで媒質溶液を固体化してもよい点は、第1の実施形態と同様である。媒質溶液を固体化することにより形成される固体は溶液に浸漬しても、ゲルの場合とは異なり、その溶液は固体内に浸み込まない。このため、紫外線硬化型の樹脂溶液を使用する場合には、予め、細胞凝集塊に対して蛍光染色などの処理を施しておくことが望ましい。
【0065】
[第3の実施形態]
図17は、本実施形態に係る観察容器3の構成を示した図である。観察容器3は、
図17に示すように、保持部20を有さず、その代わりに、観察時に吸水性ポリマーPが用いられる点が、観察容器1とは異なっている。吸水性ポリマーPは、凹部を有し、凹部を上に向けた状態で収容部10内に投入され、曲面11上に配置される。吸水性ポリマーPは、後述するように吸水によって膨張し、その結果、曲面11上に透明な層を形成することで、保持部として機能する。即ち、観察容器3の保持部は、収容部10に配置された吸水性ポリマーが吸水して膨張することによって形成される。
【0066】
図18は、本実施形態に係る試料作製方法を説明するフローチャートである。
図19は、本実施形態に係る位置決め工程を説明するための図である。
図20は、本実施形態に係る透明化工程を説明するための図である。以下、
図18から
図20を参照しながら、観察容器3を用いた試料作製方法について説明する。
【0067】
まず、収容部10内の吸水性ポリマーPが吸水して膨張する(ステップS21)。ここでは、培養液13を、ピペット30を用いて収容部10に分注する。これにより、培養液13を吸水した吸水性ポリマーPが膨張し、中央に凹部を有する保持部P1が、凹部を鉛直上方に向けた状態で曲面11上に形成される。保持部P1は、吸水性ポリマーPとおよそ相似形であるが、重力の作用によって曲面11に隙間なく接触するように変形している。ステップS21では、収容部10に対する保持部P1の位置が確定する。このため、この工程は、保持部P1が収容部10によって第1の位置に位置決めされる工程と見做すことができる。
【0068】
次に、収容部10に観察対象物を含む媒質溶液で保持部P1の凹部を覆い(ステップS22)、観察対象物を凹部に保持する(ステップS23)。なお、媒質溶液は、例えば、培養液13であり、観察対象物は、培養液13中に播種された細胞である。ここでは、吸水性ポリマーPが吸水できる量を超える培養液13を収容部10に分注し、保持部P1上を培養液13で満たす。このとき、培養液13に細胞を播種することで、培養液13より比重が大きい細胞が保持部P1の凹部に集まる。この状態で細胞を培養することで、
図19に示すように、凹部に細胞凝集塊CAが形成され、凹部に細胞凝集塊CAが保持される。
【0069】
なお、凹部の底面は、曲面11の曲率中心またはその近傍である。収容部10と保持部P1は、保持部P1が収容部10によって位置決めされた第1の状態で曲面11の曲率中心近傍に凹部の底面が位置するように、予め設計されている。即ち、凹部の底面は上述した第1の実施形態及び第2の実施形態における設定位置に相当する。
【0070】
最後に、細胞凝集塊CAの固定化、蛍光染色、及び透明化を行う(ステップS24)。ここでは、まず、培養液13を抜き取って、その後、
図20に示すように、固定化、蛍光染色、及び透明化に用いられる溶液14をピペット30によって収容部10に分注する。これにより、溶液14が保持部P1に浸透する。さらに、細胞凝集塊CAが固定化され、蛍光色素で染色されるとともに、細胞凝集塊CAが透明化される。以上により、収容部10内において媒質(溶液14が浸透した保持部P2、溶液14、細胞凝集塊CA2)の屈折率がほぼ均一な試料が完成する。
【0071】
図21は、本実施形態に係る観察容器3を用いた観察方法を説明するための図である。
図18に示す手順で作製された試料を用いて細胞凝集塊CA2を観察する場合、倒立顕微鏡が用いられる。具体的な観察手順は、第1の実施形態及び第2の実施形態と同様である。
図21に示すように、対物レンズOBと観察容器3との間を浸液IMで満たした状態で、設定位置(凹部)に保持された細胞凝集塊CA2からの光を、曲面11を経由して対物レンズOBに取り込むことで、曲面11を経由して細胞凝集塊CA2を観察する。
【0072】
本実施形態においても、第1及び第2の実施形態と同様の理由により、屈折率ミスマッチに起因する観察装置(倒立顕微鏡)の光学性能の劣化を抑制することができる。従って、本実施形態に係る観察容器3及び試料作製方法によっても、観察装置の性能を十分に発揮することが可能であり、高い解像度の画像を短時間で取得することが可能となる。また、屈折率ミスマッチに起因する球面収差を小さく抑えることができるため、浸液IMを自由に選択することができる点も、第1及び第2の実施形態と同様である。従って、本実施形態に係る観察容器3及び試料作製方法も、作業の自動化に好適であり、創薬スクリーニングのような大量の試料を検査する用途に利用することで、高いスループットを実現することができる。
【0073】
[第4の実施形態]
図22は、本実施形態に係る観察容器4を用いた観察方法を説明するための図である。観察容器4は、吸水性ポリマーPが膨張した保持部P2の代わりに、観察対象物を保持する凹部が形成されたシリコーンゴムSLを含んでいる点が、観察容器3とは異なっている。シリコーンゴムSLは、
図22に示すように、凹部を鉛直上方に向けた状態で曲面11上に配置される。なお、シリコーンゴムSLの屈折率は、約1.41であり、同等の屈折率を有する透明化溶液が存在する。このため、溶液14にシリコーンゴムSLと同様の屈折率を有する溶液を用いることで、シリコーンゴムSLと溶液14の間での屈折を回避することができる。
【0074】
本実施形態に係る観察容器4及び試料作製方法によっても、第3の実施形態に係る観察容器3及び試料作製方法と同様の効果を得ることができる。
【0075】
[第5の実施形態]
図23は、本実施形態に係る観察容器5の構成を示した図である。
図24は、収容部80の形状を説明するための図である。
図23に示す観察容器5は、収容部10の代わりに収容部80を含む点が、観察容器1とは異なる。観察容器5は、その他の点については、観察容器1と同様である。
【0076】
収容部80は、少なくとも一部が透明な曲面(曲面81)からなる点は、観察容器1の収容部10と同様である。収容部80は、
図23及び
図24に示すように、少なくとも一部が透明な平面(平面82)からなる点が、収容部10とは異なっている。なお、
図24は、
図23に示す線SSにおける断面図である。
【0077】
曲面81と平面82はいずれもほぼ均一な厚さを有する。また、平面82は、観察容器5を使用するときに鉛直方向と平行な平面である。また、平面82は、平面82に対して直交する方向から入射するライトシートを保持部20によって保持された細胞凝集塊CA2に照射することができる位置に、形成されている。さらに、平面82は、平面82と平行で且つ設定位置を含む面が曲面81と交わるように、形成されている。
【0078】
図23に示す観察容器5を用いた場合であっても、観察容器1を用いた場合と同様の手順(
図3に示す手順)によって、媒質(透明化溶液12、細胞凝集塊CA2)の屈折率がほぼ均一な試料を作製することができる。
【0079】
図25は、本実施形態に係る観察容器5を用いた観察方法を説明するための図である。観察容器5を用いて細胞凝集塊CA2を観察する場合、ライトシート顕微鏡が用いられる。具体的には、
図25に示すように、ライトシート顕微鏡の観察用の対物レンズOBと観察容器5の曲面81との間を浸液IMで満たした状態で、照明用の対物レンズOB1から平面82を経由して細胞凝集塊CA2にライトシートを照射する。そして、細胞凝集塊CA2から発生した蛍光を、曲面81を経由して対物レンズOBが取り込むことで、細胞凝集塊CA2を観察する。なお、観察用の対物レンズOBの光軸AXは、鉛直方向に向けられていて、照明用の対物レンズOB1の光軸AX1に直交している。
【0080】
本実施形態においても、第1から第4の実施形態と同様の理由により、屈折率ミスマッチに起因する観察装置(倒立顕微鏡)の光学性能の劣化を抑制することができる。従って、本実施形態に係る観察容器5及び試料作製方法によっても、観察装置の性能を十分に発揮することが可能であり、高い解像度の画像を取得することが可能となる。また、球面収差を抑制することができるため、球面収差に敏感な高い開口数を有する対物レンズを使用して効率よく光を集めることが可能であり、短時間で画像を得ることができる。また、屈折率ミスマッチに起因する球面収差を小さく抑えることができるため、浸液IMを自由に選択することができる点も、第1から第4の実施形態と同様である。従って、本実施形態に係る観察容器5及び試料作製方法も、作業の自動化に好適であり、創薬スクリーニングのような大量の試料を検査する用途に利用することで、高いスループットを実現することができる。
【0081】
また、本実施形態では、収容部80に平面82が形成されている。平面82からライトシートを入射させることで、ライトシートを構成する光線の集光位置であって照明光の進行方向の集光位置が幅方向で異なるのを避けることができる。このため、収容部80を経由して細胞凝集塊CA2を照明することによる照明性能の劣化を抑制することができる。
【0082】
[第6の実施形態]
図26は、本実施形態に係る観察容器6を用いた観察方法を説明するための図である。
図26に示す観察容器6は、収容部80の代わりに収容部90を含む点が、観察容器5とは異なる。観察容器6は、その他の点については、観察容器5と同様である。
【0083】
収容部90は、少なくとも一部が透明な曲面(曲面91)からなり、且つ、少なくとも一部が透明な平面(平面92)からなる点は、観察容器5の収容部80と同様である。収容部80では、水平方向からライトシートの入射を想定して平面82が形成されているのに対して、収容部90では、
図26に示すように、斜め下からのライトシートの入射を想定して、平面92が鉛直方向に対して傾斜するように形成されている点が、収容部80とは異なっている。ただし、平面92が平面92と平行で且つ設定位置を含む面が曲面91と交わるように形成されている点については、収容部80と同様である。
【0084】
観察容器6を用いて細胞凝集塊CA2を観察する場合、第5の実施形態と同様に、ライトシート顕微鏡が用いられる。具体的には、
図26に示すように、照明用の対物レンズOB1から平面92を経由して細胞凝集塊CA2にライトシートを照射する。そして、細胞凝集塊CA2から発生した蛍光を、曲面91を経由して対物レンズOBが取り込むことで、細胞凝集塊CA2を観察する。平面92の向きに合わせて対物レンズOB1の光軸AX1の向きと対物レンズOBの光軸AXの向きが調整されている点を除き、第5の実施形態と同様である。具体的には、例えば、光軸AX1は水平方向と30°の角度を成し、光軸AXは水平方向と60°の角度を成している。
【0085】
本実施形態に係る観察容器6及び試料作製方法によっても、第5の実施形態に係る観察容器5及び試料作製方法と同様の効果を得ることができる。
【0086】
[第7の実施形態]
図27は、本実施形態に係る観察容器7を用いた観察方法を説明するための図である。
図27に示す観察容器7は、マルチウェルプレートであり、それぞれが第6の実施形態に係る観察容器6に相当する複数の要素(要素E1、要素E2、要素E3、・・・)を含む点が、観察容器6とは異なる。即ち、各要素は、それぞれ、保持部20と収容部90を含んでいる。観察容器7は、その他の点については、観察容器6と同様である。なお、複数の要素は、一次元または二次元に配列されている。
【0087】
観察容器7を用いて細胞凝集塊CA2を観察する場合、第6の実施形態と同様に、ライトシート顕微鏡が用いられる。ライトシート顕微鏡の観察用の対物レンズOBには、
図27に示すように、浸液ホルダ100が装着されている。図示しない給水装置によって浸液ホルダ100に浸液IMである水が供給されることで、浸液ホルダ100に水が蓄えられる。これにより、観察用の対物レンズOBと観察容器7の曲面91との間も水で満たされる。また、浸液ホルダ100には、窓101が設けられている。窓101は、平面92と略平行な透明な平板からなる。照明用の対物レンズOB1から出射した光は、窓101及び平面92を経由して観察容器7内に入射してライトシートを形成し、細胞凝集塊CA2に照射される。細胞凝集塊CA2から発生した蛍光を、曲面91を経由して対物レンズOBが取り込むことで、細胞凝集塊CA2を観察することができる。
【0088】
本実施形態に係る観察容器7及び試料作製方法によっても、第6の実施形態に係る観察容器6及び試料作製方法と同様の効果を得ることができる。また、一般に、ライトシート顕微鏡でマルチウェルプレートを用いる場合、ウェルが整列している水平方向からライトシートを入射させることは困難である。しかしながら、水平方向に対して傾斜した方向からライトシートを入射させると、第5の実施形態に係る観察容器5のように水平方向からのライトシートの入射を想定して設計された観察容器では、ライトシートが観察容器で屈折してしまう。これに対して、本実施形態に係る観察容器7では、マルチウェルプレートを構成する各要素が予め斜め下方からのライトシートの入射を想定して設計されている。このため、ライトシートは屈折することなく、平面92を経由してライトシートの幅方向で照明光の進行方向の集光位置が異なることなく照明できるので、良好な観察を行うことができる。従って、マルチウェルプレートである観察容器7を図示しない搬送装置で搬送し、観察容器7の各要素を順番に光軸(光軸AX、光軸AX1)上に配置して、ライトシート顕微鏡を用いて観察対象物を観察することができる。これにより、大量の観察対象物を効率よく観察することができる。
【0089】
上述した実施形態は、発明の理解を容易にするための具体例を示したものであり、本発明の実施形態はこれらに限定されるものではない。観察容器、試料作製方法、及び、観察方法は、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲において、さまざまな変形、変更が可能である。
【0090】
上述した実施形態では、少なくとも一部に平面を含むライトシート顕微鏡用の観察容器が、ハンギングドロップを形成する保持部20を含む例を示したが、保持部の構成は、これらの例に限らない。少なくとも一部に平面を含むライトシート顕微鏡用の観察容器は、観察容器2のように、収容部を型として利用し、剥離部として機能する保持部を含んでもよく、上記の平面が型の一部を構成してもよい。
【符号の説明】
【0091】
1、2、3、4、5、6、7・・・観察容器、10、50、80、90・・・収容部、11、51、81、91・・・曲面、20、60、P1・・・保持部、22・・・ハンギングドロップ形成部、52、53・・・係止部、62・・・係合部、63・・・アーム部、64・・・把持部、70・・・Oリング、82、92・・・平面、100・・・浸液ホルダ、101・・・窓、CA、CA2・・・細胞凝集塊、D・・・ハンギングドロップ、D1、D2、MS1、MS2・・・ゲル、E1、E2、E3・・・要素、IM・・・浸液、P・・・吸水性ポリマー、OB、OB1・・・対物レンズ、SL・・・シリコーンゴム