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▶ ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】ハロゲン化カルボン酸無水物の調製方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/56 20060101AFI20231011BHJP
   C07C 53/18 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C07C51/56
C07C53/18
【請求項の数】 1
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020126705
(22)【出願日】2020-07-27
(62)【分割の表示】P 2016517737の分割
【原出願日】2014-08-05
(65)【公開番号】P2020200331
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2020-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ルドルフ, ワーナー
(72)【発明者】
【氏名】ファイスト, ハインツ リュディ
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02628253(US,A)
【文献】米国特許第03678081(US,A)
【文献】特許第7134592(JP,C1)
【文献】Journal of the American Chemical Society,1957年,79,P.2451-2454
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/
C07C 53/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリフルオロ酢酸無水物の調製方法であって、
トリフルオロ酢酸、発煙硫酸と反応させる工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本出願の全内容があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、欧州特許出願第13170868.7号に対する優先権を主張するものであって、ハロゲン化カルボン酸無水物の調製方法、より詳細にはハロゲン化カルボン酸を硫酸、発煙硫酸及び/又は二硫酸と反応させることによるハロゲン化カルボン酸無水物の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリフルオロ酢酸のようなハロゲン化カルボン酸無水物は、医薬品および農薬産業における様々な製品の製造のための貴重な試薬である。
【0003】
トリフルオロ酢酸と無水リン酸との反応によりトリフルオロ酢酸無水物を調製することは公知である。(Hudlicky,Chemistry of Organic Fluorine Compounds,1976,p.726)。そこに記載された方法は、無水リン酸が固体であり、かつ反応物質及び/又は生成物とアマルガムを形成する傾向があるので工業生産に不利である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、今や、本発明は、ハロゲン化カルボン酸無水物の製造のための改善された方法を可能にする。本発明の目的は、生成物の改善された収率及び/又は純度を可能にするハロゲン化カルボン酸無水物の製造のための方法を提供することである。さらに、本発明の目的は、より経済的及び/若しくはより環境に優しい廃棄物、並びに/又は不要な副生成物プロファイルを有する方法、例えば、廃棄物及び/又は副生成物が、その方法の生成物からより容易に分離され、及び/又はより毒性が少なく及び/又は環境に対してより害の少ない方法を提供することである。さらに、本発明の目的は、例えば、より低い純度の反応物質を用いるように、より安価及び/若しくはより容易に入手できる反応物質、並びに/又は試薬から出発する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
これらの及び他の目的は、本発明の方法により達成される。
【0006】
したがって、本発明の第1の実施態様は、一般構造(I):HalR2C(O)-O-C(O)CR2Hal(式中、Halは、F、Cl及びBrからなる群から選択され;Rは、H、F、Cl、Br、アルキル及びアリールからなる群から独立して選択される)の化合物の調製のための方法であって、一般構造(II):HalR2C(O)-OH(式中、HalおよびRは、上記のとおり定義される)の化合物を、硫酸、発煙硫酸及び/又は二硫酸と反応させる工程を含む方法である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
「硫酸(sulfuric acid)」という用語は、純粋な硫酸、H2SO4、及びその水溶液を意味することが意図される。好ましくは、本発明により用いられる硫酸は、70wt%以上の濃度、より好ましくは90wt%以上の濃度を有し、最も好ましくは、濃硫酸が用いられ、これは、約98wt%の濃度を有する。
【0008】
「発煙硫酸(oleum)」という用語は、H2SO4とSO3の混合物を意味することが意図される。発煙硫酸の濃度は、wt%SO3(X%発煙硫酸と呼ばれる)又はwt%H2SO4のいずれかで表される。例えば、65%発煙硫酸は、114.6wt%H2SO4を指す。発煙硫酸中のSO3の百分率も、遊離SO3と称される。したがって、65%発煙硫酸は、65wt%の遊離SO3を含有する。
【0009】
「二硫酸(dissulfuric acid)」という用語は、H2S2O7を意味することが意図される。
【0010】
「アルキル(alkyl)」という用語は、特にC1―C6アルキルなどの、飽和炭化水素系基の任意選択的に置換された鎖を意味することが意図される。一例として、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t-ブチル、ペンチル、イソペンチル及びヘキシルが挙げられてもよい。
【0011】
「アリール(aryl)」という用語は、特にC6―C10芳香族核、特にフェニル又はナフチルなどの芳香族核に由来する任意選択的に置換された基を意味することが意図される。
【0012】
好ましい実施態様において、Halはフッ素である。より好ましくは、一般構造(I)の化合物は、トリフルオロ酢酸無水物であり、及び一般構造(II)の化合物は、トリフルオロ酢酸である。
【0013】
本発明の別の実施態様は、酢酸、酢酸塩又はそれらの混合物を、硫酸、発煙硫酸及び/又は二硫酸と反応させて、酢酸無水物を形成することである。酢酸塩の有用な例には、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸リチウム、酢酸マグネシウム、又はそれらの任意の混合物が含まれる。酢酸塩及び/又は酢酸は、無溶媒形態で、又は溶媒中の溶液として、好ましくは水溶液として用いられ得る。
【0014】
別の好ましい実施態様では、一般構造(II)の化合物は、発煙硫酸、好ましくは5から95wt%までの遊離SO3、より好ましくは25から80wt%までの遊離SO3、最も好ましくは50から70wt%までの遊離SO3、特には65wt%遊離SO3を含有する発煙硫酸と反応させる。
【0015】
別の好ましい実施態様において、ハロゲン化カルボン酸は、反応の化学量論に対してモル過剰で存在する。ハロゲン化カルボン酸の総量は、好ましくは化学量論の1.05から2倍、より好ましくは化学量論の1.05から1.10倍である。
【0016】
好適には、反応は、高温で行なわれ、ここで、反応混合物の内部温度は、生成物の沸点以上である。好ましくは、反応は、50から150℃、好ましくは70から115℃の、反応混合物中の温度で行われる。反応混合物の温度は、反応容器における内部温度を指す。
【0017】
別の好ましい実施態様では、生成物は、蒸留により反応混合物から除去され、より好ましくは、蒸留は、充填カラムを用いて行なわれる。充填カラムは、例えば、ラシヒリングにより、好適に充填される。また好ましくは、蒸留は、生成物が反応混合物から除去される速度を制御するために還流凝縮器を用いて行なわれる。
【0018】
別の好ましい実施態様では、反応は、少なくとも部分的にセラミックライニング及び/又はガラスライニングされている反応容器で行なわれる。好適には、セラミックライニングを有する連続撹拌ファウドラー容器が用いられ得る。また好ましくは、反応は、ニッケル及び/又はモリブデンを含有する合金から少なくとも部分的に作られている反応容器で行なわれる。好適な合金の例には、ハステロイB、ハステロイB-2、又はハステロイB-3が含まれる。
【0019】
本発明による方法のさらなる利点は、高純度のハロゲン化カルボン酸無水物が、より低い純度の反応物質、すなわち、ハロゲン化カルボン酸が使用される場合でさえも、高収率で生成され得ることである。例えば、前の反応からの未反応ハロゲン化カルボン酸及び汚染物質を含有するテーリング留分(tailing fraction)は、本発明の方法に使用され得る。したがって、再生利用ハロゲン化カルボン酸は、本発明の方法に用いられ得る。したがって、好ましい実施態様では、反応に使用されるハロゲン化カルボン酸は、98%以下の純度、より好ましくは95%未満の純度、さらにより好ましくは90%未満の純度を有する。あるいは、反応に使用されるハロゲン化カルボン酸は、50%から98%まで、より好ましくは50%から95%まで、さらにより好ましくは50%から90%までの純度を有する。別の好ましい実施態様では、この方法に用いられるハロゲン化カルボン酸は、前の反応工程からの少なくとも1種の生成物、少なくとも1種の試薬、少なくとも1種の溶媒及び/又は少なくとも1種の副生成物も含有する混合物中に含まれる。
【0020】
参照により本明細書に組み込まれる特許、特許出願、及び刊行物のいずれかの開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0021】
本発明はここで、それを限定することを意図することなく、実施例でさらに説明される。
【実施例
【0022】
トリフルオロ酢酸無水物の生成
10mmのガラス製ラシヒリングで充填された2.5mの充填カラム及び凝縮器を備えた、115lのセラミックライニングファウドラー撹拌容器に、70.5kgのトリフルオロ酢酸、続いて、19.1lの65%発煙硫酸、すなわち、65wt%遊離SO3を有する発煙硫酸を充填した。その後、ファウドラー容器を油浴により130℃の温度に加熱した。生成物を7.4kg/時の速度で蒸留により除去し、PEライニング金属ドラム中に向けて送出した。蒸留の間、反応混合物の温度は、78℃から96℃に徐々に変化した。トリフルオロ酢酸無水物の収量は、64.9kg(99%)であった。生成物の純度は、>99.9 %であった。さらに、他の特定されない副生成物と並んで、トリフルオロ酢酸無水物及びトリフロオロ酢酸を含有した7.8kgのテーリング留分を得た。この第2の留分は、その後のバッチの反応混合物に供することができる。