(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】新規ニコチン結合抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/16 20060101AFI20231011BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231011BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20231011BHJP
A61P 25/34 20060101ALI20231011BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20231011BHJP
【FI】
C07K16/16 ZNA
A61K39/395 N
A61K47/60
A61P25/34
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2020509479
(86)(22)【出願日】2018-08-14
(86)【国際出願番号】 US2018046621
(87)【国際公開番号】W WO2019036419
(87)【国際公開日】2019-02-21
【審査請求日】2021-08-13
(32)【優先日】2017-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520052020
【氏名又は名称】ブリンク・バイオメディカル・エス・ア・エス
(73)【特許権者】
【識別番号】519279096
【氏名又は名称】アンティドートゥ・セラピューティクス・インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】520052031
【氏名又は名称】ヘネピン・ヘルスケア・リサーチ・インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カルニク,マシュー・ダブリュ
(72)【発明者】
【氏名】ティステッド,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ベルトラミネリ,ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】ファロ,ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】ビエソバ,ズザナ
(72)【発明者】
【氏名】フラー,スティーブ
(72)【発明者】
【氏名】レセージ,マーク・ジー
(72)【発明者】
【氏名】ペンテル,ポール
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-504893(JP,A)
【文献】DRUG METABOLISM AND DISPOSITION,2005年,Vol.33, No.7, pp.1056-1061
【文献】THE JOURNAL OF PHARMACOLOGY AND EXPERIMENTAL THERAPEUTICS,2006年,Vol.317, No.2, pp.660-666
【文献】nature biotechnology,2009年,Vol.27, No.8, pp.767-771,ONLINE METHODS, SUPPLEMENTARY FIGURES
【文献】ファルマシア,2016年,Vol.52, No.4, pp.322-326
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00-16/46
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.配列番号1の重鎖配列
の3つのCDR及び配列番号2の軽鎖配列
の3つのCDR;
b.配列番号3の重鎖配列
の3つのCDR及び配列番号4の軽鎖配列
の3つのCDR;
c.配列番号5の重鎖配列
の3つのCDR及び配列番号6の軽鎖配列
の3つのCDR;又は
e.配列番号9の重鎖配列
の3つのCDR及び配列番号10の軽鎖配列
の3つのCDR;
から選択される重鎖配列及び軽鎖配列の相補性決定領域(CDR)を含む、ニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片。
【請求項2】
a.配列番号1の重鎖配列及び配列番号2の軽鎖配列;
b.配列番号3の重鎖配列及び配列番号4の軽鎖配列;
c.配列番号5の重鎖配列及び配列番号6の軽鎖配列;若しくは
e.配列番号9の重鎖配列及び配列番号10の軽鎖配列;
から選択される重鎖配列及び軽鎖配列又は上記に少なくとも95%若しくは少なくとも98%配列同一性を有する重鎖配列及び軽鎖配列の可変領域
を含む、請求項1に記載のニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片。
【請求項3】
a.配列番号1の重鎖配列及び配列番号2の軽鎖配列;
b.配列番号3の重鎖配列及び配列番号4の軽鎖配列;
c.配列番号5の重鎖配列及び配列番号6の軽鎖配列;
e.配列番号9の重鎖配列及び配列番号10の軽鎖配列;
k.配列番号21の重鎖配列及び配列番号22の軽鎖配列;
l.配列番号23の重鎖配列及び配列番号24の軽鎖配列;
m.配列番号25の重鎖配列及び配列番号26の軽鎖配列;若しくは
n.配列番号27の重鎖配列及び配列番号28の軽鎖配列;
の重鎖配列及び軽鎖配列又は上記に少なくとも95%若しくは少なくとも98%配列同一性を有する重鎖配列及び軽鎖配列を含む、請求項1又は2に記載のニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片。
【請求項4】
(a)配列番号27の重鎖配列の可変領域及び配列番号28の軽鎖配列の可変領域、又は
(b)配列番号27又は配列番号1の重鎖配列に少なくとも95%又は少なくとも98%の配列同一性を有する重鎖配列、及び配列番号28又は配列番号2の軽鎖配列に少なくとも95%又は少なくとも98%の配列同一性を有する軽鎖配列
を含む、請求項1に記載のニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片。
【請求項5】
(a)配列番号1の重鎖配列及び配列番号2の軽鎖配列、又は
(b)配列番号27の重鎖配列及び配列番号28の軽鎖配列
を含む、請求項1に記載のニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片。
【請求項6】
配列番号27の2つの重鎖及び配列番号28の2つの軽鎖を含む、請求項1に記載のニコチン結合抗体。
【請求項7】
IgG4である、請求項1~6のいずれか一項に記載のニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片。
【請求項8】
228Pを含む、請求項1~7のいずれか一項記載のニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片。
【請求項9】
長時間作用型変異体である、請求項1~8のいずれか一項に記載のニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片。
【請求項10】
PEG化されている、請求項9に記載のニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片と、薬学的に許容される担体とを含み、任意選択的に注射又は注入用に製剤化された医薬組成物。
【請求項12】
ヒト対象におけるニコチン嗜癖の処置又は禁煙の促進のための、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
ニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片が、ニコチン離脱の少なくとも1つの症状を低減、改善又は除去するのに効果的である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
哺乳動物対象におけるニコチン過剰摂取又はニコチン中毒の治療のための、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項15】
哺乳動物対象がヒトであり、任意選択的にヒトがヒトの子供である、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
脳に局在するニコチンレベルを減少するのに効果的な量が投与される、請求項11~15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
静脈、皮下、筋肉内、腹腔内、経口、経鼻、経肺、眼内、経膣、又は経直腸からなる群から選択される投与ルートにより投与される、請求項11~16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、35U.S.C§119(e)に基づき、2017年8月15日に出願された米国仮出願第62/545,696号の優先権を主張し、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、一般に、抗体治療の分野、特にニコチンに結合する抗体に関する。開示されたニコチン結合抗体は、禁煙を支援する方法、ならびにニコチン中毒及びニコチン過剰摂取を含むニコチン毒性を治療する方法において使用され得る。
【背景技術】
【0003】
以下の考察は、単に読者が本開示を理解するのを助けるために提供されており、それに対する先行技術を記載又は構成することは認められていない。
【0004】
ニコチンは、タバコ植物の葉に自然に大量に生じる、苦味のある副交感神経刺激アルカロイド化合物である。ニコチンは、ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)アゴニストであり、刺激剤として生理学的に機能する。ニコチンは嗜癖性及び毒性の両方があり、その摂取及び吸入は心、血管疾患、先天性欠損症、及び中毒に関連している。
【0005】
喫煙は、主にニコチン嗜癖に起因する世界的な医療問題である。世界保健機関(WHO)は、今日、世界中で13億人の喫煙者がおり、毎年約500万人のタバコ関連死があると推定している。現在の喫煙パターンが続くと、喫煙により、2020年までに毎年約1000万人の死亡が生じるであろう。米国疾病管理センター(CDC)によると、タバコの使用は、米国で唯一の主要な予防可能な死因であり、毎年約438,000人が死亡している。加えて、喫煙により、健康に関連した年間の経済的費用が約1,570億ドル生じていると推定されている。CDCは、米国の4,500万人の成人喫煙者のうち、70%が禁煙を希望しているが、禁煙を試みる人のうち、1年後に禁煙を継続しているのは5%未満であると推定している。
【0006】
タバコ又は他のタバコ製品に含まれるニコチンへの嗜癖により、個人が喫煙又はタバコ製品の使用をやめることは困難である。ニコチンは、体内に吸入又は摂取されるとすぐに血流に入り、続いて血液脳関門を通過することによって脳に到達する小分子である。脳内に入ると、ニコチンはニコチン性受容体に結合し、その結果、ドーパミン等の興奮剤が放出され、報酬システムが活性化され、喫煙者に積極的で快い強化経験がもたらされ、これが嗜癖につながる。
【0007】
過剰のニコチンの摂取又は吸入から生じるニコチン中毒も、もう1つのニコチン関連の健康問題である。ニコチンのLD50は、ラットで50mg/kg、マウスで3mg/kgである。30~60mg(0.5~1.0mg/kg)の低用量でも、成人のヒトにとって致命的である場合があり、一方、子供は1本のタバコの摂取後に健康を損なう可能性があり、それ以上の摂取は子供を深刻な病気にする可能性がある。一方、ヒト成人では、致命的な用量は500mg(1.0~7.1mg/kg)以上の高用量となり得る。いずれの場合も、ニコチンガムもしくはパッチを誤って噛んだり、又は電子タバコの「電子液体」を摂取したりした子供には、通常、急性ニコチン中毒が起こる。まれに、子供がタバコを摂取した後に健康を損なうことも知られている。米国だけで毎月数百件の急性ニコチン中毒が報告されている。
【0008】
ニコチン中毒の症状には、腹部けいれん、動揺、落ち着きのなさ、又は興奮、口内の熱感、頭痛、嘔吐、筋肉のけいれん、失神、急速な呼吸及び心拍数、脱力感、ならびにひきつけ及び発作、昏睡、及び潜在的に死亡等のより深刻な合併症が含まれ得る。人の最終的な見通しは、問題のニコチンの量と処置を受ける速さによって異なる。人が医療援助を受けるのが速いほど、回復の可能性は高くなる。
【0009】
典型的には、ニコチン中毒の初期治療は、胃腸吸収を低減することを試みるための活性炭の投与を含み得るが、さらなる治療は、ニコチン中毒から生じる症状に対処し得る。
【0010】
したがって、禁煙を助け、ニコチン中毒を治療するための効果的な薬剤、組成物、及び方法の必要性が残されている。
【発明の概要】
【0011】
本明細書には、ニコチンに結合する抗体、抗体を含む組成物、ならびに禁煙を支援し、ニコチン中毒及びニコチン過剰摂取を含むニコチン毒性を治療するためにそれらを使用する方法が記載される。
【0012】
一態様では、本開示は、相補性決定領域(CDR)、可変領域、又は配列番号1の重鎖配列及び配列番号2の軽鎖配列;配列番号3の重鎖配列及び配列番号4の軽鎖配列;配列番号5の重鎖配列及び配列番号6の軽鎖配列;配列番号7の重鎖配列及び配列番号8の軽鎖配列;配列番号9の重鎖配列及び配列番号10の軽鎖配列;配列番号11の重鎖配列及び配列番号12の軽鎖配列;配列番号13の重鎖配列及び配列番号14の軽鎖配列;配列番号15の重鎖配列及び配列番号16の軽鎖配列;配列番号17の重鎖配列及び配列番号18の軽鎖配列;配列番号19の重鎖配列及び配列番号20の軽鎖配列;配列番号21の重鎖配列及び配列番号22の軽鎖配列;配列番号23の重鎖配列及び配列番号24の軽鎖配列;配列番号25の重鎖配列及び配列番号26の軽鎖配列;配列番号27の重鎖配列及び配列番号28の軽鎖配列;配列番号29の重鎖配列及び配列番号30の軽鎖配列;配列番号31の重鎖配列及び配列番号32の軽鎖配列;配列番号33の重鎖配列及び配列番号34の軽鎖配列;配列番号35の重鎖配列及び配列番号36の軽鎖配列;配列番号37の重鎖配列及び配列番号38の軽鎖配列;及び配列番号39の重鎖配列及び配列番号40の軽鎖配列から選択される配列の完全重鎖及び軽鎖を含むニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片を提供する
【0013】
いくつかの実施形態では、抗体又は断片は、IgG4であってもよく、又はIgG4から誘導されてもよく、いくつかの実施形態では、抗体又は断片は、そのFcドメインにS228P置換を含んでもよい。
【0014】
いくつかの実施形態では、抗体又は断片は、ポリエチレングリコールにコンジュゲートされた抗体又は断片等の長時間作用型変異体であってもよい(「PEG」、すなわち抗体又は断片はPEG化されている)。
【0015】
いくつかの実施形態では、抗体又は断片は、約100nM未満のS-(-)-ニコチンに対するKDを有する。例えば、いくつかの実施形態では、S-(-)-ニコチンに対するKDは、約60nM未満、約30nM未満、約10nM未満、又は約5nM未満であってもよい。
【0016】
いくつかの実施形態では、抗体又は断片は、コチニン又は他の非ニコチン分子と実質的に交差反応しない。例えば、いくつかの実施形態では、抗体又は断片は、コチニン、ニコチンアミド、B-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド及びノルニコチンから選択される1つ又は複数のニコチン関連化合物と実質的に交差反応しない。いくつかの実施形態では、抗体又は断片は、ブプロピオン、バレニクリン、及びシトシンから選択される1つ又は複数の禁煙薬と実質的に交差反応しない。いくつかの実施形態では、抗体又は断片は、塩化アセチルコリン、3-ヒドロキシチラミン(ドーパミン)、セロトニン、及びノルエピネフリンから選択される1つ又は複数の神経伝達物質と実質的に交差反応しない。
【0017】
別の態様では、本開示は、上記又は本明細書に開示される実施形態のいずれか1つによるニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、注射又は注入用に製剤化することができる。
【0018】
別の態様では、本開示は、ニコチン嗜癖を治療する、又は禁煙を促進する方法であって、治療有効量の上記又は本明細書に開示された実施形態のいずれか1つによるニコチン結合抗体もしくはそのニコチン結合断片、又はそれを含む医薬組成物を、それを必要とする哺乳動物対照に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、治療有効量は、ニコチンの血漿レベルを低減する、及び/又は脳に局在するニコチンのレベルを低減するのに有効である。いくつかの実施形態では、対象は、ヒトである。いくつかの実施形態では、ニコチン嗜癖は、タバコ製品及び電子タバコから選択されるニコチン製品の消費と関連している。いくつかの実施形態では、ニコチン離脱の少なくとも1つの症状が低減、改善、又は排除される。
【0019】
いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体又はニコチン結合断片は、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、経口、経鼻、経肺、眼内、経膣、又は経直腸からなる群から選択される投与経路で投与される。
【0020】
別の態様では、本開示は、ニコチン嗜癖の治療又は禁煙の促進のための医薬の製造における、上記又は本明細書に開示された実施形態のいずれか1つによるニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片の使用を提供する。
【0021】
別の態様では、本開示は、ニコチン嗜癖の治療又は禁煙の促進に使用するための、上記又は本明細書に開示された実施形態のいずれか1つによるニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片を提供する。
【0022】
別の態様では、本開示は、ニコチン過剰摂取又はニコチン中毒を治療する方法であって、治療有効量の上記又は帆明細書に開示された実施形態のいずれか1つによるニコチン結合抗体もしくはそのニコチン結合断片、又はそれを含む医薬組成物を、それを必要とする哺乳動物対象に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、治療有効量は、ニコチンの血漿レベルを低減する、及び/又は脳に局在するニコチンのレベルを低減するのに有効である。いくつかの実施形態では、対象は、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、及びヒトからなる群から選択される哺乳動物である。例えば、いくつかの実施形態では、対象は、ヒトの子供である。
【0023】
いくつかの実施形態では、抗体又はニコチン結合断片は、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、経口、経鼻、経肺、眼内、経膣、又は経直腸からなる群から選択される投与経路で投与される。
【0024】
いくつかの実施形態では、ニコチン中毒又は毒性を治療する方法は、活性炭等のニコチン過剰摂取又はニコチン中毒を治療するための第2の化合物の投与をさらに含んでもよい。
【0025】
別の態様では、本開示は、ニコチン過剰摂取又はニコチン中毒の治療のための医薬の製造における、上記又は本明細書に開示された実施形態のいずれか1つによるニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片の使用を提供する。
【0026】
別の態様では、本開示は、ニコチン過剰摂取又はニコチン中毒の治療に使用するための、上記又は本明細書に開示された実施形態のいずれか1つによるニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片を提供する。
【0027】
前述の一般的な記載及び以下の詳細な記載は、例示的かつ説明的なものであり、本発明のさらなる説明を提供することを企図している。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1A】ラットにおけるニコチン薬物動態研究の結果を示す図である。
図1Aは、開示された抗体で前処理されたラットにおけるニコチンの血清濃度を、抗体で処理されなかった対照ラットの血清レベルのパーセントとして示している。
図1Bは、開示された抗体で前処理されたラットの脳内のニコチンの濃度を、抗体で処理されなかった対照ラットの脳レベルのパーセントとして示している。
【
図1B】ラットにおけるニコチン薬物動態研究の結果を示す図である。
図1Aは、開示された抗体で前処理されたラットにおけるニコチンの血清濃度を、抗体で処理されなかった対照ラットの血清レベルのパーセントとして示している。
図1Bは、開示された抗体で前処理されたラットの脳内のニコチンの濃度を、抗体で処理されなかった対照ラットの脳レベルのパーセントとして示している。
【
図2A】ラットにおける例示的なニコチン結合抗体の用量反応試験の結果を示す図である。
図2Aは、10、20、又は40mg/kgの用量で開示された抗体で前処理されたラットのニコチンの血清濃度(ng/ml)を示す。
図2Bは、同じ用量で開示された抗体で前処理されたラットの脳内のニコチン濃度(ng/g)を示す。
【
図2B】ラットにおける例示的なニコチン結合抗体の用量反応試験の結果を示す図である。
図2Aは、10、20、又は40mg/kgの用量で開示された抗体で前処理されたラットのニコチンの血清濃度(ng/ml)を示す。
図2Bは、同じ用量で開示された抗体で前処理されたラットの脳内のニコチン濃度(ng/g)を示す。
【
図3A】ラットにおける例示的なニコチン結合抗体の用量反応試験の結果を示す図である。
図3Aは、ニコチンの血清濃度を、抗体で処理されなかった対照ラットにおける血清レベルのパーセントとして示している。
図3Bは、脳内のニコチン濃度を、抗体で処理されなかった対照ラットにおける脳レベルのパーセントとして示している。
【
図3B】ラットにおける例示的なニコチン結合抗体の用量反応試験の結果を示す図である。
図3Aは、ニコチンの血清濃度を、抗体で処理されなかった対照ラットにおける血清レベルのパーセントとして示している。
図3Bは、脳内のニコチン濃度を、抗体で処理されなかった対照ラットにおける脳レベルのパーセントとして示している。
【
図4A】開示されたニコチン結合抗体による前処理後のヘビースモーカーを模擬したニコチンの複数回投薬の影響を示す図である。8D1-IgG4で前処理すると、ラットは5回のニコチン投薬後の血清ニコチンレベルの増加(
図4A)、及び脳ニコチンレベルの減少(
図4B)を示した。
【
図4B】開示されたニコチン結合抗体による前処理後のヘビースモーカーを模擬したニコチンの複数回投薬の影響を示す図である。8D1-IgG4で前処理すると、ラットは5回のニコチン投薬後の血清ニコチンレベルの増加(
図4A)、及び脳ニコチンレベルの減少(
図4B)を示した。
【
図5】開示されたニコチン結合抗体による処理がラットにおけるニコチン自己投与を低減することを示す図である。ラットを8D1-IgG4で処理した場合、前の最後の3セッション(ベースライン)での自己投与注入の平均(±SEM)回数は、各単位ニコチン用量での抗体処理中の注入回数よりも有意に多かった。
【
図6】20mg/kgの用量で投与した場合のラットにおける8D1-IgG4の単回投薬の薬物動態を示す図である。
【
図7】ラットにおける8D1-IgG4の長期間にわたる反復投与の薬物動態を示す図である。ラットに4週間、週に1回40mg/kgの用量を投与した。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書には、ニコチン結合抗体、抗体を含む組成物、及びニコチン嗜癖の治療及びニコチン中止(例えば禁煙)の促進、ならびにニコチン中毒及びニコチン過剰摂取を含むニコチン毒性の治療を含む、それらを使用する方法が記載される。
【0030】
I.定義
本発明の明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つ(a)」、「1つ(an)」及び「その(the)」は、互換的に使用され、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、複数形も含み、ならびに各意味に該当することを企図している。また、本明細書で使用される場合、「及び/又は」は、列挙される項目のうちの1つ以上のありとあらゆる可能な組み合せ、及び代替的(「又は」)に解釈される場合には、組み合せの欠如を指し、それらを包含する。
【0031】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、当業者に理解され、使用される文脈に応じてある程度変化するであろう。当業者に明確ではない用語が使用されている場合、使用される文脈を考慮して、「約」は、特定の用語のプラス又はマイナス10%までを意味する。
【0032】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」及び「治療レベル」という語句は、そのような治療を必要とする対象において薬物が投与される特定の薬理効果を提供する対象における薬物投薬量又は血漿濃度を意味し、すなわち、ニコチン中毒もしくはニコチン過剰摂取の症状又は影響を低減、改善、もしくは排除する、ならびに/又はニコチン嗜癖を治療及び/もしくは禁煙を促進する。そのような投薬量が当業者によって治療有効量であると見なされるとしても、治療有効量は、本明細書に記載される状態の治療において常に有効であるとは限らないことが強調される。便宜上、例示的な投薬量、薬物送達量、治療有効量、及び治療レベルが以下に提供される。当業者は、特定の対象及び/又は状態を治療するために必要とされる標準的な実践に従ってそのような量を調節することができる。治療有効量は、投与経路及び剤形、対象の年齢及び体重、ならびに/又は、ニコチン摂取量及び/もしくは治療時の対象の血漿ニコチンレベル及び/もしくは治療時に脳内に局在するニコチン量を含む、対象の状態に基づいて変化し得る。
【0033】
ニコチン毒性に関して本明細書で使用される場合、「治療(処置)」もしくは「治療(処置)すること」という用語は、ニコチンの1つ以上の症状もしくは効果を低減、改善、もしくは排除すること、及び/又は対象の血漿ニコチンレベルを低減すること、及び/又は対象の特定の組織(例えば、脳/中枢神経系、心臓及び血管系等)に局在するニコチンの量を低減することを指す。
【0034】
代替として、ニコチン嗜癖又は禁煙に関して本明細書で使用される場合、「治療(処置)」又は「治療(処置)すること」という用語は、ニコチン離脱の1つ以上の症状もしくは効果を低減、改善、もしくは排除すること;対象によって消費される1日のタバコの数もしくは1日のニコチンの量を低減すること;ならびに/又は対象の血漿ニコチンレベルを低減すること、及び/もしくは対象の特定の組織(例えば、脳/中枢神経系、心臓及び血管系等)に局在するニコチンの量を低減することのうちの1つ以上を指す。
【0035】
「個体」、「対象」、及び「患者」という用語は、本明細書において互換的に使用され、任意の個々の哺乳動物対象、例えば、ウシ、イヌ、ネコ、ウマ、又はヒトを指す。
【0036】
本明細書で使用される場合、「子供」は、0歳~約18歳のヒト対象を指す。たとえ対象が18歳を超えて治療を続けていたとしても、子供は約18歳になる前に一連の治療を始める対象であり得る。
【0037】
II.ニコチン、嗜癖及び毒性
ニコチンは、タバコ及びナス科の他のメンバーを含む、数種類の植物によって作られる窒素含有化学物質である。ヒト、哺乳動物、その他のほとんどの種類の動物はニコチンに曝露されると、心拍数、心筋の酸素消費量、及び一回拍出量が増加する。ニコチンの消費は、注意力の高まり、多幸感、及びリラックスしているという感覚にも関連している。しかしながら、ニコチンは嗜癖性が高い。
【0038】
脳内のニコチン性アセチルコリン受容体に結合することによって、ニコチンは、その精神活性作用を引き出し、様々な脳構造におけるいくつかの神経伝達物質のレベルを上昇させる。ニコチンは、骨格筋よりも脳内のニコチン受容体に対して高い親和性を示すが、有毒量では収縮及び呼吸麻痺を引き起こす可能性がある。ニコチンの選択性は、これらの受容体サブタイプの特定のアミノ酸の違いによるものと考えられている。ニコチンの構造は以下の式Iに示される。
【化1】
【0039】
ニコチンを定期的に摂取し、その後突然やめた人々には、欲求、空虚感、不安感、鬱病、苛立ち、過敏性、及び不注意を含み得る、禁断症状が起こる。全米心臓協会は、ニコチン(タバコの喫煙による)は、中止するのが最も困難な物質のうちの1つであり、少なくともヘロインと同じくらい困難であると述べている。
【0040】
本明細書に記載の方法は、それを必要とする哺乳動物対象におけるニコチン嗜癖の治療及び/あるいは禁煙(又は他のタバコもしくはニコチン製品の使用停止)の促進に有用であり、ニコチンに結合してニコチン性アセチルコリン受容体との相互作用を防ぐニコチン結合抗体を使用する。
【0041】
ニコチン中毒又はニコチン過剰摂取は、個人が刻みタバコ、タバコ、ニコチンガム、パッチ、もしくは電子タバコの「電子液体」(例えば、電子タバコ及び他の気化装置で使用されるニコチン含有液体)を消費した場合に生じ得る。実際、最近の研究は、電子タバコへの曝露によるニコチン中毒の発生率が、2012年1月~2015年4月の間に1492.9%増加したことを示した(Kamboj et al.PEDIATRICS 137(6):e20160041(2016))。曝露はタバコの煙の吸入(直接的又は間接的のいずれか)を通して起こる可能性があるが、ニコチン中毒又はニコチン過剰摂取は、より一般的には、対象(典型的には子供)が、例えばニコチンガムを噛むかもしくは摂取し、タバコもしくは他のタバコ葉製品を摂取し、ニコチンパッチを摂取し、又は電子液体を摂取することによって、ニコチンを摂取するときに生じる。加えて、ニコチンは皮膚から吸収される可能性があるため、ニコチン中毒は、毒性レベルのニコチンが皮膚と直接接触することによって生じる可能性がある。
【0042】
ニコチン中毒は、神経学的症状(痙攣、昏睡、鬱病、錯乱、失神、頭痛)、心血管症状(急速な心拍、高血圧)、呼吸器症状(呼吸困難、急速な呼吸)、消化器症状(唾液分泌の増加、腹部痙攣、嘔吐)、及び筋骨格症状(筋痙攣、脱力感)、ならびに死をもたらす可能性がある。
【0043】
ニコチン中毒及びニコチンの過剰摂取を含むニコチン毒性を治療するための本明細書に記載の方法は、ニコチンに結合する抗体を使用し、それによりニコチンを隔離して、ニコチンが同族受容体に結合する、又は血液脳関門を通過するのを防止する。いくつかの実施形態では、そのような抗体を含む医薬組成物が、ニコチンの血漿レベルを低減する、及び/又は脳に局在するニコチンのレベルを低減するのに有効な量等の治療有効量で投与される。
【0044】
III.ニコチン結合抗体
いくつかの実施形態では、開示された方法は、治療有効量のニコチン結合抗体、そのニコチン結合断片、ニコチンに結合できる関連コンストラクト、又はそれを含む医薬組成物を、それを必要とする哺乳動物対象に投与することを含む。便宜上、これらの薬剤は、本明細書では集合的に「ニコチン結合抗体」と呼ばれる。
【0045】
抗ニコチン抗体は、主に禁煙を促進する目的で以前に開発された。例えば、WO2002/058635;WO2000/032239;WO2003/082329;米国特許出願公開第2006/111271号;米国特許第8,344,111号;米国特許第8,232,072号;米国特許第6,232,082号;米国特許第7,547,712号;米国特許第7,446,205号;及びCarrera et al.,“Investigations using immunization to attenuate the psychoactive effects of nicotine,”Bioorg Med Chem 12(3):563-70(2004)を参照されたい。これらの特許、特許出願、及び非特許文献は、抗ニコチン抗体及びニコチン結合抗体断片を含む関連コンストラクトに関連する範囲において、参照により本明細書に組み込まれる。しかしながら、本明細書に開示された抗体は新規であり、禁煙を促進するためだけでなく、ニコチン毒性を治療するためにも使用され得る。
【0046】
ニコチンは小さなハプテン性分子であり、典型的には、免疫原性タンパク質等の免疫原性担体に結合して、免疫応答を惹起し、ニコチン結合抗体の産生を誘導する。抗体を作製するための一般的な技術を使用することができる。例えば、Kohler and Milstein,Eur.J.Immunol.,5:511-519(1976);Harlow and Lane (eds.),ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL,CSH Press(1988);C.A.Janeway et al.(eds.),IMMUNOBIOLOGY,5th Ed.,Garland Publishing,New York,NY (2001)を参照されたい。
【0047】
本明細書に記載の方法において有用な抗ニコチン抗体は、in vitro源(例えば、ハイブリドーマ又は組換え的に抗体を産生する細胞株)及びin vivo源(例えば、げっ歯類、ウサギ、ヒト等)を含む任意の手段により得ることができる。ヒト、部分的ヒト化、完全ヒト化、及びキメラ抗体は、1つ又は複数の内因性免疫グロブリン遺伝子が1つ又は複数のヒト免疫グロブリン遺伝子で置き換えられたトランスジェニック動物(例えばマウス)を使用する等、当技術分野で知られている方法によって作製することができる。内因性抗体遺伝子がヒト抗体遺伝子で効果的に置換されたトランスジェニックマウスの例には、HUMAB-MOUSE(商標)、Kirin TC MOUSE(商標)、及びKM-MOUSE(商標)が含まれるが、これらに限定されない(例えば、Lonberg,Nat.Biotechnol.,23(9):1117-25(2005)、及びLonberg,Handb.Exp.Pharmacol.,181:69-97(2008)を参照されたい)。
【0048】
本明細書に開示された方法で使用されるニコチン結合抗体は、一般的にモノクローナル及び/又は組換え体である。モノクローナル抗体(mAb)は、当技術分野で知られている方法、例えば抗体産生細胞を不死化細胞と融合してハイブリドーマを得ることによって、ならびに/又は、コンビナトリアル抗体ライブラリー技術を使用して免疫化動物の骨髄、B細胞、及び/もしくは脾臓細胞から抽出されたmRNAからmAbを生成することによって、ならびに/又は、ニコチン抗原で免疫化された対象からの血清からモノクローナル抗体を単離することによって得ることができる。組換え抗体は、当技術分野で知られている方法によって、例えば、ファージディスプレイ技術、酵母表面ディスプレイ技術(Chao et al.,Nat.Protoc.,1(2):755-68(2006))、哺乳動物細胞表面ディスプレイ技術(Beerli et al.,PNAS,105(38):14336-41(2008))、及び/又は抗体ポリペプチドの発現もしくは共発現を使用して得ることができる。抗体を作製するための他の技術は当技術分野で知られており、本明細書に記載の方法において使用される抗体を取得するために使用され得る。
【0049】
典型的には、抗体は、重(H)鎖ポリペプチドの2つの同一コピー及び軽(L)鎖ポリペプチドの2つのコピーの4つのポリペプチドで構成される。典型的には、各重鎖は、1つのN末端可変(VH)領域、ならびに3つのC末端定常(CH1、CH2及びCH3)領域を含み、各軽鎖は、1つのN末端可変(VL)領域及び1つのC末端定常(CL)領域を含む。軽鎖及び重鎖の各ペアの可変領域は、抗体の抗原結合部位を形成する。
【0050】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」及び「ニコチン結合断片」という用語は、ニコチンに結合する能力を示すニコチン結合抗体の1つ又は複数の部分を指す。結合断片の例には、(i)Fab断片(VL、VH、CL及びCH1ドメインからなる一価断片);(ii)F(ab’)2断片(ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFab断片を含む二価断片);(iii)Fd断片(VH及びCH1ドメインを含む);(iv)Fv断片(抗体の単一アームのVL及びVHドメインを含む)、(v)dAb断片(VHドメインを含む);(vi)分離された相補性決定領域(CDR)、例えばVHCDR3が含まれる。他の例には、一本鎖Fv(scFv)コンストラクトが含まれる。例えば、Bird et al.,Science,242:423-26(1988);Huston et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:5879-83(1988)を参照されたい。他の例には、(i)免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドに融合したニコチン結合ドメインポリペプチド(例えば、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、又はリンカーペプチドを介して軽鎖可変領域に融合した重鎖可変領域)、(ii)ヒンジ領域に融合した免疫グロブリン重鎖CH2定常領域、及び(iii)CH2定常領域に融合した免疫グロブリン重鎖CH3定常領域が含まれ、ヒンジ領域は、二量化を防止するために、1つ又は複数のシステイン残基を、例えばセリン残基で置き換えることにより修飾されてもよい。例えば、米国特許出願第2003/0118592号、米国特許出願第2003/0133939号を参照されたい。
【0051】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたニコチン結合抗体は、ヒトIgG1抗体又はヒトIgG4抗体である。いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体は、哺乳動物、ヒト、ヒト化、又はキメラである。
【0052】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたニコチン結合抗体は、治療状況において抗体をより適切にする1つ又は複数の突然変異を含む。
【0053】
例示的な新規IgG1ニコチン結合抗体の重鎖及び軽鎖配列は、以下の表1に開示されている。例示的な新規IgG4ニコチン結合抗体の重鎖及び軽鎖配列は、以下の表2に開示されている。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【0054】
表1及び2に開示された新規抗体の1つ又は複数と同じCDR配列及び/又は同じフレームワーク領域配列及び/又は同じ可変領域配列を含むニコチン結合抗体及びそのニコチン結合断片も、本開示に包含される。これに関して、表1及び2に開示された新規ニコチン結合抗体は、それぞれIgG1及びIgG4抗体であるが、本開示の範囲内の他のニコチン結合抗体は、IgG2、IgG3、IgA1、IgA2、IgE、IgH、又は、IgM等であってもよい。
【0055】
ヒト免疫グロブリンIgG4抗体は、ここでのようにエフェクター機能の低下が望ましい場合、抗体ベースの治療に適している。しかしながら、IgG4抗体は、Fabアーム交換(FAE)として知られるプロセスを生じ得る動的分子である。例えば、Labrijn et al.,Therapeutic IgG4 antibodies engage in Fab-arm exchange with endogenous human IgG4 in vivo,NATURE BIOTECH 27(8):767-71(2009)を参照されたい。これにより、機能的に一価である特異性不明の二重特異性抗体(bsAb)が得られ、したがって治療効果が低下する可能性がある。FAEは、抗体のヒンジ領域にS228P突然変異を導入することで防ぐことができる。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたニコチン結合抗体は、S228P置換を含む。表2に開示されている新規抗体は、そのようなS228P置換を含む。他の実施形態では、本明細書に開示されたニコチン結合抗体は、S228P置換を含まない。
【0056】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されたニコチン結合抗体は、前述のS228P置換を超える1つ又は複数の追加又は代替の置換、挿入、又は欠失を含む。例えば、いくつかの実施形態では、本開示のニコチン結合抗体は、少なくとも約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又は約100%の、それぞれ表1及び表2に開示された重鎖及び軽鎖配列の1つ又は複数との同一性を有する重鎖及び軽鎖を含む。いくつかの実施形態では、本開示のニコチン結合抗体は、少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の、それぞれ表1及び表2に開示された重鎖及び軽鎖配列の1つ又は複数との同一性を有する重鎖及び軽鎖を有する。
【0057】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示された抗体は、ニコチンに高親和性で結合する。以下の表3に示されるように、表1及び表2の新規抗体は、ナノモル範囲内のK
Dで遊離S-ニコチンに結合し得る。以下に報告されるK
D値は、表面プラズモン共鳴バイオセンサーによって決定された。平衡透析等、結合親和性を決定する他の方法も使用され得る。
【表3】
【0058】
したがって、いくつかの実施形態では、本明細書で開示されたニコチン結合抗体又はその断片は、100nM未満のKDを有する。例えば、いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体又はその断片は、約1.5×10-7M未満、約1.0×10-7M未満、約0.5×10-7M未満、約9.5×10-8M未満、約9.0×10-8M未満、約8.5×10-8M未満、約8.0×10-8M未満、約7.5×10-8M未満、約7.0×10-8M未満、約6.5×10-8M未満、約6.0×10-8M未満、約5.5×10-8M未満、約5.0×10-8M未満、約4.5×10-8M未満、約4.0×10-8M未満、約3.5×10-8M未満、約3.0×10-8M未満、約2.5×10-8M未満、約2.0×10-8M未満、約1.5×約-8M未満、約1.0×約-8M未満、約0.5×10-8M未満、約9.5×10-9M未満、約9.0×10-9M未満、約8.5×10-9M未満、約8.0×10-9M未満、約7.5×10-9M未満、約7.0×10-9M未満、約6.5×10-9M未満、約6.0×10-9M未満、約5.5×10-9M未満、約5.0×10-9M未満、約4.5×10-9M未満、約4.0×10-9M未満、約3.5×10-9M未満、約3.0×10-9M未満、約2.5×約-9M未満、約2.0×10-9M未満、約1.5×10-9M未満、約1.0×10-9M未満、約0.5×10-9M未満、約9.5×10-10M未満、約9.0×10-10M未満、約8.5×10-10M未満、又は約8.0×10-10M未満のニコチンに対するKDを有する。いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体又はその断片は、1.5×10-7M未満、1.0×10-7M未満、0.5×10-7M未満、9.5×10-8M未満、9.0×10-8M未満、8.5×10-8M未満、8.0×10-8M未満、7.5×10-8M未満、7.0×10-8M未満、6.5×10-8M未満、6.0×10-8M未満、5.5×10-8M未満、5.0×10-8M未満、4.5×10-8M未満、4.0×10-8M未満、3.5×10-8M未満、3.0×10-8M未満、2.5×10-8M未満、2.0×10-8M未満、1.5×10-8M未満、1.0×10-8M未満、0.5×10-8M未満、9.5×10-9M未満、9.0×10-9M未満、8.5×10-9M未満、8.0×10-9M未満、7.5×10-9M未満、7.0×10-9M未満、6.5×10-9M未満、6.0×10-9M未満、5.5×10-9M未満、5.0×10-9M未満、4.5×10-9M未満、4.0×10-9M未満、3.5×10-9M未満、3.0×10-9M未満、2.5×10-9M未満、2.0×10-9M未満、1.5×10-9M未満、1.0×10-9M未満、0.5×10-9M未満、9.5×10-10M未満、9.0×10-10M未満、8.5×10-10M未満、又は8.0×10-10M未満のニコチンに対するKDを有する。
【0059】
いくつかの実施形態では、開示されたニコチン結合抗体又はその断片は、100nM~0.01nMの間、90nM~0.05nMの間、80nM~0.1nMの間、70nM~0.5nMの間、70nM~1.0nMの間、60nM~30nMの間、又はその間の任意の値のニコチンに対するKDを有する。例えば、いくつかの実施形態では、開示されたニコチン結合抗体又はその断片は、100nM未満、60nM未満、30nM未満、10nM未満、5nM未満、又は1nM未満のニコチンに対するKDを有する。
【0060】
ニコチンには、S-(-)-ニコチン及びR-(+)-ニコチンの2つの鏡像異性体があり、S-鏡像異性体が最も生理学的に活性であることが知られている。いくつかの実施形態において、開示されたニコチン結合抗体は、一方のエナンチオマーに対して他方よりも選択性を示す。例えば、いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体は、R-(+)-ニコチンに結合するよりも高い親和性でS-(-)-ニコチンに選択的に結合するが、いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体は、S-(-)-ニコチンに結合することができ、R-(+)-ニコチンに実質的に結合しない。例えば、8D1-IgG4及び12F5-IgG4は、S-(-)-ニコチンに優先的に結合する。この点に関して、8D1-IgG4は、92nMのR-(+)-ニコチンに対するKDを有し、12F5-IgG4は、1.2μMのR-(+)-ニコチンに対するKDを有する。これらの開示された抗体は、米国特許第8,344,111号及びTars et al.,J.Mol.Bio.,415:118-127(2012)に開示されているNic12 mAb等の以前に説明されたニコチン結合抗体について以前に報告されたものよりも高いS-(-)-ニコチンに対する結合親和性及び選択性を示す。
【0061】
代替として、いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体は、S-(-)-ニコチンに結合するよりも高い親和性でR-(+)-ニコチンに選択的に結合することができ、一方、いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体は、R-(+)-ニコチンに結合することができ、S-(-)-ニコチンに実質的に結合しない。
【0062】
いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体は、同等の親和性でニコチンの両方の鏡像異性体に結合し得る。
【0063】
いくつかの実施形態では、開示されたニコチン結合抗体は、ニコチン(一方又は両方の鏡像異性体)に対して強い結合親和性を、また治療されている対象に存在し得る他の分子に対して比較的弱い結合親和性を有し、これは、ニコチン、ニコチンの代謝産物もしくは副産物(例えばコチニン)に化学的及び/もしくは構造的に関連する分子、ニコチン受容体のリガンドである、もしくはニコチン受容体に結合する分子、禁煙を支援するため(例えばブプロピオン、バレニクリン、及び/もしくはシチシン)、ならびに/又はニコチン嗜癖及び/もしくはニコチン毒性を治療するために使用される薬物(例えば小分子薬物)、ならびに/又は神経伝達物質を含む対象の血液中に存在し得る他の内因性もしくは外因性分子、ならびに対象の状態を診断もしくは治療するために、又は通常の生理学を維持もしくは支援するために投与され得る他の分子を含む。換言すれば、いくつかの実施形態では、開示されたニコチン結合抗体は、ニコチンではない分子、すなわち「標的外化合物」と交差反応しない。
【0064】
いくつかの例示的な分子に対する開示された抗体の交差反応性のパーセント(mAbに対する交差反応性%(IC
50,ニコチン/IC
50,化合物×100%))を以下の表4に示す。これらのうち、コチニン、ニコチンアミド、B-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド及びノルニコチンはニコチン関連分子であり、ブプロピオン、バレニクリン及びシチシンは禁煙薬であり、塩化アセチルコリン、3-ヒドロキシチラミン(ドーパミン)、セロトニン及びノルエピネフリンは神経伝達物質である。0.1%未満、0.05%未満、0.01%未満、又は0.005%未満、又は0.001%未満、又は0.0005%未満、又は0.0001%未満の交差反応性は、実質的に交差反応しないと見なされる。
【表4】
【0065】
コチニンはニコチンの主要なヒト代謝産物であり、ニコチンよりも半減期が長く、したがって喫煙者及びニコチンベースの製品を消費する他の個人では、ニコチンと比較して高濃度で蓄積することがよくあるため、コチニンよりもニコチンの結合親和性が特に有利である。実際、これは、コチニンが誰かが喫煙者であるかどうかを判断するためのテストに使用される理由である。ニコチンベースの製品(例えば、タバコ、電子タバコ、無煙タバコ等)を消費する個人に見られる高レベルの循環コチニンを考えると、コチニンに対する実質的な結合親和性も示すニコチン結合抗体は、抗体はニコチンと同様にコチニンにも結合し、ニコチンに結合する(及びそれを隔離する)効力が制限されるため、ニコチン中毒の治療又は禁煙の促進への効果がより低い。したがって、本明細書に開示された特定の抗体の結合選択性は、臨床応用におけるそれらの効力を裏付ける重要な有利な特性である。
【0066】
ブプロピオン、バレニクリン、及び/又はシチシンに対するニコチンの結合親和性も、これらの薬物が禁煙に一般的に使用されるため有利である。本明細書に開示されている特定の抗体の結合選択性、及びブプロピオン、バレニクリン及びシチシンに対する結合親和性の欠如は、抗体がこれらの薬物に結合しないため、ブプロピオン、バレニクリン及び/又はシステインと組み合わせて使用できることを示している。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に開示された方法は、ブプロピオン、バレニクリン及び/又はシチシンに対する結合親和性を示さない本明細書に開示された抗体(表4に示される抗体のいずれか等)を、禁煙薬(ブプロピオン、バレニクリン、及び/又はシチシン等)と共に併用療法で投与すること含み、抗体及び薬物は、実質的に同時に、又は任意の順序で逐次的に投与されてもよい。そのような実施形態は、禁煙を促進する、喫煙をやめる(もしくは他のニコチン製品の使用をやめる)、喫煙(もしくは他のニコチン製品の使用)の節制を維持する、又はニコチン製品の消費を減らす方法において特に有利となり得る。
【0067】
表4に示されるデータは、開示された抗体が神経伝達物質に結合しないことも示している。この種の結合選択性は、開示された抗体が正常な脳生理学/薬理学を妨害する可能性が低いことを示すため、有利である。
【0068】
いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体又は断片は、in vivo(投与後)でのその半減期を延長するために修飾された長時間作用型変異体である。抗体等のペプチドの循環半減期を延長するための様々な技術が当該技術分野において知られている。例えば、いくつかの実施形態では、抗体は、「YTE」(M252Y/S254T/T256E)(例えばDall’Acqua et al.,J Biol Chem.,281:23514-24(2006)を参照されたい)、又はXencorの「Xtend」Fcドメイン変異(US2014/0056879A1)等のFcRn媒介リサイクリングが強化されたFc領域に突然変異を有する。他の実施形態では、抗体又はその断片は、ポリエチレングリコール(PEG;すなわち、抗体がPEG化されている)又は半減期を延長する同様のポリマーにコンジュゲートされている。いくつかの実施形態では、抗体は、アルブミン結合ペプチド、アルブミン結合タンパク質ドメイン、ヒト血清アルブミン、又は不活性ポリペプチドに融合される。ペプチドの循環半減期を増加させるために使用されてきた例示的な不活性ポリペプチドとしては、XTEN(登録商標)(組換えPEG又は「rPEG」としても知られる)、ホモアミノ酸ポリマー(HAP、HAP化)、プロリン-アラニンセリンポリマー(PAS、PAS化)、又はエラスチン様ペプチド(ELP、ELP化)が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で使用される場合、「に融合される」とは、直接の又はリンカーを介した遺伝子融合を含み、別段特定されない限り、複数のドメインを含む単一のポリペプチドをもたらす。
【0069】
ニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片は、以下により詳細に議論されるように、意図された投与経路による標的対象への投与に適した医薬組成物に製剤化され得る。
【0070】
IV.医薬組成物
本明細書に記載の方法での使用に適した医薬組成物は、開示されたニコチン結合抗体又はその断片、及び薬学的に許容される担体又は希釈剤を含むことができる。
【0071】
組成物は、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、経口、経鼻、経肺、眼内、経膣、又は経直腸投与用に製剤化され得る。いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体は、溶液、懸濁液、エマルジョン、リポソーム製剤等の静脈内、皮下、腹腔内、又は筋肉内投与用に製剤化される。当該分野で知られている技術を使用して、即時放出組成物、持続放出組成物、遅延放出性組成物等に製剤化され得る。
【0072】
様々な剤形のための薬学的に許容される担体が、当該技術分野において知られている。例えば、固形製剤用の賦形剤、潤滑剤、結合剤、及び崩壊剤が知られており、液体製剤用の溶媒、可溶化剤、懸濁剤、等張化剤、緩衝剤、及び無痛化剤が知られている。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、1つ以上の防腐剤、酸化防止剤、着色剤、甘味料/着香料、吸着剤、湿潤剤等の1つ以上の追加の成分を含む。
【0073】
いくつかの実施形態では、開示されたニコチン結合抗体又はその断片は、注射又は注入による投与用に製剤化することができる。いくつかの実施形態では、ニコチン中毒は嘔吐を誘発する可能性があり、したがってその特定の適応症に対する経口投与の有効性が制限されるため、非経口経路による投与用にニコチン結合抗体又はその断片が製剤化される。
【0074】
V.ニコチン中毒の治療方法
上記のように、いくつかの態様では、本明細書に記載されるニコチン過剰投与又はニコチン中毒を治療する方法は、本明細書に開示されるニコチン結合抗体もしくはそのニコチン結合断片、又はそれを含む医薬組成物を、それを必要とする哺乳動物対象に投与することを含む。いくつかの実施形態では、本方法は、毒性量のニコチンを摂取又は消費した対象にニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片を投与することを含む。いくつかの実施形態では、本方法は、ニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断、及び活性炭等のニコチン中毒の治療に有用な別の化合物の両方を投与することを含んでもよい。そのような実施形態では、抗体又は断片及び第2の化合物(例えば活性炭)は、同じ又は異なる組成物から、順次又は同時に投与されてもよい。したがって、治療は、ニコチン中毒の症状及び/又は効果に対処するために活性炭及び/又は他の支持療法を施すことを含み得る。
【0075】
いくつかの実施形態では、治療有効量のニコチン結合抗体又はその断片は、ニコチンの血漿レベルを低減する、及び/又は脳に局在するニコチンのレベルを低減する、及び/又はニコチン中毒又は過剰摂取の1つもしくは複数の症状もしくは影響を低減、改善、もしくは排除するのに有効である。投与される具体的な量は、対象の年齢及び/もしくは体重、摂取されたと考えられるニコチンの量、ならびに/又は治療時の対象の血漿中のニコチンレベル、及び/もしくは治療時の対象の脳内ニコチンレベルのうちの1つ以上に依存し得る。
【0076】
いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体は、約50~約1000mg/kg、約150mg/kg~約850mg/kg、約250mg/kg~約750mg/kg、約350mg/kg~約650mg/kg、又は約450mg/kg~約550mg/kgの用量で投与される。いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体は、50~1000mg/kg、150mg/kg~850mg/kg、250mg/kg~750mg/kg、350mg/kg~650mg、又は450mg/kg~550mg/kgの用量で投与される。いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体は、約50mg/kg、約100mg/kg、約150mg/kg、約200mg/kg、約250mg/kg、約300mg/kg、約350mg/kg、約400mg/kg、約450mg/kg、約500mg/kg、約550mg/kg、約600mg/kg、約650mg/kg、約700mg/kg、約750mg/kg、約800mg/kg、約850mg/kg、約900mg/kg、約950mg/kg、又は約1000mg/kgの用量で投与される。いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体は、50mg/kg、100mg/kg、150mg/kg、200mg/kg、250mg/kg、300mg/kg、350mg/kg、400mg/kg、450mg/kg、500mg/kg、550mg/kg、600mg/kg、650mg/kg、700mg/kg、750mg/kg、800mg/kg、850mg/kg、900mg/kg、950mg/kg、又は1000mg/kgの用量で投与される。いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体は、約3000mg、約3500mg、約4000mg、約4500mg、約5000mg、約5500mg、約6000、約6500mg、約7000mg、約7500mg、約8000mg、約8500mg、約9000mg、約9500mg、約10000mg、約10500mg、約11000mg、約11500mg、又は約12000mgの用量で投与される。いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体は、3000mg、3500mg、4000mg、4500mg、5000mg、5500mg、6000、6500mg、7000mg、7500mg、8000mg、8500mg、9000mg、9500mg、10000mg、10500mg、11000mg、11500mg、又は12000mgの用量で投与される。いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体は、最大約10gの用量で投与される。抗体断片等の他の抗体関連コンストラクトが使用される場合、それらは異なる分子量及び/又は結合親和性に合わせて調整された同等の用量で使用され得る。例えば、断片の用量は、対応する全長抗体と同等のCmax及び/又はAUCパラメータを達成するように、又は同等量のニコチンの結合を達成するように選択され得る。
【0077】
いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体は、ニコチンに対する抗体のモル比に基づく用量として投与される。例えば、いくつかの実施形態では、抗体:ニコチンの比は10:1、9:1、8:1、7:1、6:1、5:1、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、又は1:10である。開示されたニコチン結合抗体は、抗体あたり2つのニコチン結合部位を有するが、開示されたニコチン結合抗体のFabは1つのニコチン結合部位のみを有し得る。したがって、用量は、分子あたりのニコチン結合部位の数に基づいて調整され得る。例えば、全長抗体のMWが150KD、FabのMWが50KDであると仮定した場合、ニコチン結合部位の数を調整した「等モル用量」は、Fabに対して全長抗体で50%高い用量に相当する(mg/kgで)。これらの量は、薬物動態プロファイルが全長抗体とFabの間で実質的に同じであるという仮定に基づいており、そうでない場合、当業者は、薬物動態プロファイルが異なる場合には必要に応じて量を調整することができる。
【0078】
いくつかの実施形態では、本方法は、ニコチン結合抗体もしくはそのニコチン結合断片を含む医薬組成物の単回用量、又はニコチン結合抗体もしくはそのニコチン結合断片及び別の化合物を含む医薬組成物の単回用量を投与することを含む。他の実施形態では、本方法は、ニコチン中毒又はニコチン過剰摂取の症状又は影響が低減、改善、又は排除されるまで、医薬組成物の反復用量を投与することを含む。例えば、ニコチン中毒又は過剰摂取の対象は、発作、昏睡、息切れ、及び心拍数の増加を含むがこれらに限定されないニコチン中毒に関連する徴候及び症状の存在及び/又は重症度について評価され、本明細書に記載の1種又は複数種の医薬組成物で、治療後に兆候/症状の1つ又は複数が低減、改善、又は排除されるまで治療され得る。いくつかの実施形態では、対象の血漿又は脳のニコチンレベルを監視するために試料が採取される。いくつかの実施形態では、兆候/症状/効果が持続する場合、及び/又はニコチン血漿もしくは脳レベルが上昇したままである場合、追加用量の医薬組成物で治療が反復され、ニコチン中毒もしくはニコチン過剰摂取の1つもしくは複数の症状もしくは効果が低減、改善、もしくは排除されるまで、ならびに/又は血漿レベル及び/もしくは脳レベルが低減されるまで継続(反復)され得る。
【0079】
いくつかの実施形態では、ニコチン中毒又は過剰摂取の対象を治療することは、対象の血液の体外解毒を含んでもよい。例えば、開示されたニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片は、対象の血液が循環し得る親和性カラムに付着させることができる。このプロセスは、対照の血液から循環ニコチンを除去することができる。
【0080】
VI.禁煙を支援する方法
上記のように、本明細書に記載の抗体は、それを必要とする哺乳動物対象におけるニコチン嗜癖の治療及び/又は禁煙(もしくは他のタバコ製品の使用の中止)の促進に有用である。いくつかの実施形態では、対象は、ニコチン嗜癖である、あるいは喫煙をやめる(もしくは他のニコチン製品の使用をやめる)ことを望む、又は喫煙もしくは他のニコチン製品の消費の節制を維持することを望むヒト対象である。
【0081】
以下の実施例のセクションに開示されるように、いくつかの実施形態では、開示されたニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片は、ニコチンの効果を減衰させ、予測される治療用量で禁断症状を誘発せず、禁煙及び節制の維持を支援することが前臨床研究において実証されている。早期のニコチン離脱の否定的な感情的結果は、禁煙を試みる間のタバコ喫煙の再発及び強迫的なニコチン使用の維持への重要な寄与因子として認識されているため、この結果は注目に値する。さらに、ニコチンによる他の環境報酬刺激の報酬値の強化は、ニコチン依存の維持に重要であると考えられている。したがって、強い離脱効果を誘発することなくニコチン誘発性の報酬増強を遮断することは、禁煙プロセス内での再発防止及び節制の維持に重要な役割を果たし得る推定抗喫煙薬としてのニコチン結合抗体及びそのニコチン結合断片の望ましい特性である。
【0082】
さらに、開示されたニコチン結合抗体及びそのニコチン結合断片のリガンド結合アプローチは、バレニクリン及びブプロピオン等の非ニコチン薬物療法の薬力学的メカニズムを補完するものである。理論に束縛されないが、開示された抗体及び断片のメカニズムは、喫煙者が禁煙してから脱落又は再発した場合、ニコチンの強化効果の減衰が通常の喫煙の再開を防ぐのに役立つ可能性がある。さらに、臨床試験では、この仮定された再発予防メカニズムと一致して、プラセボと比較して高抗体群では対象ごとに多数の禁煙の試みが行われた。
【0083】
本方法は、概して、治療有効量の本明細書に記載されるニコチン結合抗体もしくはそのニコチン結合断片(又はそれらを含む医薬組成物)を対象に投与することを伴う。しかしながら、いくつかの実施形態では、本方法は、in vivoで抗体を発現するコンストラクト中にニコチン結合抗体をコードする核酸を投与することを含む。例えば、そのような実施形態では、核酸は、アデノ随伴ウイルス(AAV)遺伝子導入ベクター等の好適なベクター中に提供され得る。そのような方法での使用に好適な他の例示的なベクターは、当該技術分野において知られている。例えば、Lukashev and Zamyatnin,Biochem.,81(7):700-8(2016)を参照されたい。例示的なベクターは、1つ以上のエンハンサー(例えば、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー)、プロモーター(例えば、ニワトリβ-アクチンプロモーター)、及び/又は発現カセットの特性を増強する他の要素を含み得る。好適なベクターを作製する方法及びインビボで発現ベクターを使用する一般的な方法は当該技術分野において知られている。例えば、(Hicks et al.,Sci.Transl.Med.,4(140):140ra87 (2012)を参照されたい)を参照されたい。
【0084】
いくつかの実施形態では、ニコチン嗜癖又は禁煙の促進のための治療を必要とする対象は、喫煙タバコ、噛みタバコ、電子タバコ、及び/又は他のニコチン送達デバイス等のニコチン製品を消費するヒト対象である。そのような対象は、ニコチンに身体的に嗜癖する、及び/又はニコチン製品を消費することに心理的に嗜癖していても、又はしていなくてもよい。禁煙治療を必要とする典型的な対象は、タバコ又は他のニコチン製品を毎日使用し、例えば、1日に少なくとも1本又はそれより多くのタバコを喫煙し、例えば1日当たり少なくとも約5本、少なくとも約10本、少なくとも約15本、少なくとも約20本又はそれより多くのタバコを喫煙し、これは10本未満、10~20本、20~30本、30~40本、もしくは40本以上(又は他のタバコ製品もしくはニコチン製品の同等の使用)を含む。
【0085】
いくつかの実施形態では、治療有効量のニコチン結合抗体は、血漿ニコチンレベルを低減するため、脳内に局在するニコチンレベルを低減するため、又はその両方に有効な量である。
【0086】
ニコチンは、血液脳関門を通過した後、その重要な効果のうちの多くを発揮する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される方法及び使用は、ニコチンが血液脳関門を通過するのを低減又は防止する。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に記載のニコチン結合抗体の投与は、対象の血流中を循環するニコチンに結合又はそれを隔離し、それによってニコチンが血液脳関門を通過するのを低減又は防止する。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に記載される方法は、脳に由来するニコチンの生理学的及び心理的効果を低減又は防止する。対象はこれらの効果の減少又は中止を経験するので、彼/彼女はニコチン製品を消費したいという欲求を失うであろう。追加的又は代替的に、本開示のニコチン結合抗体は、末梢神経系を刺激するニコチンの能力に影響を及ぼすことによって効果を発揮し得る。
【0087】
投与されるニコチン結合抗体又はそのニコチン結合断片の具体的な量は、対象の年齢及び/もしくは体重、定期的に消費される(例えば、喫煙される、噛まれる、もしくは吸入される)ニコチンの量、ならびに/又は治療時の対象の脳もしくは血漿中のニコチンレベルのうちの1つ又は複数に依存し得る。例えば、いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体は、約50~約1000mg/kg、約150mg/kg~約850mg/kg、約250mg/kg~約750mg/kg、約350mg/kg~約650mg/kg、又は約450mg/kg~約550mg/kgの用量で投与される。いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体は、50~1000mg/kg、150mg/kg~850mg/kg、250mg/kg~750mg/kg、350mg/kg~650mg/kg、又は450mg/kg~550mg/kgの用量で投与される。いくつかの態様では、ニコチン結合抗体は、約50mg/kg、約100mg/kg、約150mg/kg、約200mg/kg、約250mg/kg、約300mg/kg、約350mg/kg、約400mg/kg、約450mg/kg、約500mg/kg、約550mg/kg、約600、約650mg/kg、約700mg/kg、約750mg/kg、約800mg/kg、約850mg/kg、約900mg/kg、約950mg/kg、又は約1000mg/kgの用量で投与される。いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体は、50mg/kg、100mg/kg、150mg/kg、200mg/kg、250mg/kg、300mg/kg、350mg/kg、400mg/kg、450mg/kg、500mg/kg、550mg/kg、600、650mg/kg、700mg/kg、750mg/kg、800mg/kg、850mg/kg、900mg/kg、950mg/kg、又は1000mg/kgの用量で投与される。いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体は、約3000mg、約3500mg、約4000mg、約4500mg、約5000mg、約5500mg、約6000、約6500mg、約7000mg、約7500mg、約8000mg、約8500mg、約9000mg、約9500mg、約10000mg、約10500mg、約11000mg、約11500mg、又は約12000mgの用量で投与される。いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体は、3000mg、3500mg、4000mg、4500mg、5000mg、5500mg、6000、6500mg、7000mg、7500mg、8000mg、8500mg、9000mg、9500mg、10000mg、10500mg、11000mg、11500mg、又は12000mgの用量で投与される。いくつかの実施形態では、ニコチン結合抗体は、最大約10gの用量で投与される。抗体断片等の他の抗体関連コンストラクトが使用される場合、それらは異なる分子量及び/又は結合親和性に合わせて調整された同等の用量で使用され得る。例えば、断片の用量は、対応する全長抗体と同等のCmax及び/又はAUCパラメータを達成するように、又は同等量のニコチンの結合を達成するように選択され得る。
【0088】
いくつかの実施形態では、本方法は、単回用量のニコチン結合抗体もしくはそのニコチン結合断片(又はそれを含む組成物)を投与することを含む。いくつかの実施形態では、本方法は、ニコチン嗜癖の症状もしくは効果が低減、改善、又は排除されるまで、又は対象が喫煙もしくは別様にニコチンの摂取を中止するまでの所定の期間等、反復用量を投与することを含む。いくつかの実施形態では、徴候/症状/効果が持続する場合、又は対象がニコチン欲求を続けているか、もしくはそれらを新たに経験している場合は、追加の用量の変異体(複数可)を用いて治療を繰り返す。
【0089】
いくつかの実施形態では、本方法は、ニコチン結合抗体もしくはそのニコチン結合断片(又はそれを含む組成物)を1日3回以上、1日2回、又は1日1回投与することを含む。いくつかの実施形態では、本方法は、ニコチン結合抗体もしくはそのニコチン結合断片(又はそれを含む組成物)を、隔日に1回、週に3回、週に2回、週に1回、隔週に1回、3週毎に1回、月に1回、又はそれ未満頻繁に投与することを含む。そのような実施形態では、ニコチン分解酵素変異体は、上記のような長時間作用型ニコチン結合抗体であってもよい。
【0090】
いくつかの実施形態では、治療は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、もしくは21日間以上、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、もしくは18週以上、又は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、もしくは12か月以上、又は1、2、もしくは3年以上、あるいは対象がニコチン欲求もしくは他のニコチン離脱症状を経験しなくなるまで、又は喫煙もしくは他のタバコ製品の使用を中止するまで、継続し得る。
【0091】
上記のように、いくつかの実施形態では、本明細書に開示された方法は、禁煙薬(それぞれ、ブプロピオン、バレニクリン、及び/又はシチシン等)との併用療法において、禁煙薬(ブプロピオン、バレニクリン及び/又はシチシン等)に対する結合親和性を示さない本明細書に開示された抗体を投与することを含み、抗体及び薬物は、実質的に同時に又は任意の順序で逐次的に投与されてもよい。そのような実施形態は、禁煙を促進する、喫煙をやめる(もしくは他のニコチン製品の使用をやめる)、喫煙(もしくは他のニコチン製品の使用)の節制を維持する、又はニコチン製品の消費を減らす方法において特に有利となり得る。当業者であれば、本開示が目的を実行し、言及された目的及び利点、ならびにそれに固有のものを得るために上手く適合されていることを容易に認識するであろう。その中の改変及び他の用途は当業者には思い浮かぶであろう。これらの改変は本開示の趣旨の範囲内に包含される。
【0092】
以下の実施例は、本発明を説明するものである。しかしながら、本発明はこれらの実施例に記載される特定の条件又は詳細に限定されないことが理解されるべきである。ここで参照されるすべての印刷された出版物は、参照により明確に組み込まれる。
【実施例】
【0093】
実施例1-抗ニコチン抗体による小児患者の治療
この実施例は、ニコチン中毒又はニコチン過剰摂取の治療に抗ニコチン抗体を使用する方法を示す。
【0094】
ニコチンを摂取したことがある、又はその疑いがあることが知られている子供に、ニコチン結合抗体を含む治療有効量の医薬組成物を、静脈内、筋肉内、又は皮下注射によって投与する。子供は、発作、昏睡、息切れ、及び心拍数の上昇を含むがこれらに限定されない、ニコチン中毒に関連する徴候及び症状の存在及び/又は重症度について評価され、子供は、1つ以上の徴候/症状が低減、改善、又は排除されるまで治療される。任意選択的に、徴候/症状が持続する場合、及び/又はニコチンの血漿レベルが上昇したままである場合は、別の用量の医薬組成物を投与する。
【0095】
実施例2-ニコチン嗜癖の治療及び/又は禁煙の促進
この実施例は、本明細書に記載される変異体を使用して、ヒト成人におけるニコチン嗜癖を治療する方法及び/又は禁煙を促進する方法を例示する。
【0096】
定期的にタバコを喫煙するが禁煙したい成人対象に、ニコチン結合抗体(例えば、表1及び2に開示された抗体、又はその長時間作用型)を含む治療有効量の医薬組成物を、静脈内、筋肉内、又は皮下注射によって投与する。対象は、血漿中を循環するニコチンレベル、ならびに頭痛、過敏性、不安、及び不眠等のニコチン離脱に関連する徴候及び症状の存在及び/又は重症度、ならびに所与の日に喫煙したタバコの数について評価される。血漿中を循環するニコチンレベルが標的(低減)レベルに到達するまで、及び/又はニコチン離脱の1つ以上の徴候/症状が低減、改善、もしくは排除されるまで、及び/又は対象がニコチン製品の消費レベルを低減するまで(例えば、1日当たりのタバコの喫煙量を減らす)、及び/又は対象がニコチン製品の消費を中止する(例えば喫煙をやめる)まで、対象を抗体の反復投与により治療する。
【0097】
例3-in vivo動態試験
ラットにおいて単回用量ニコチン薬物動態試験を行った(N=8)。ラットを、20mg/kgの5G4 IgG4、7A8 IgG4、12F5 IgG4、又は8D1 IgG4で前処理し、次いで0.03mg/kgのニコチンを静脈内投与した。ニコチン用量は、10秒未満で投与した(タバコを喫煙するのにおよそ10分を要する)。3分後、動物を屠殺し、血液及び脳のニコチンの量を定量化した。
【0098】
図1A及び1Bは、それぞれ抗体で前処理されていない対照ラットの血中濃度及び脳内濃度をパーセントで示している。各抗体は、抗体で前処理されていない対照動物と比較して、脳内のニコチンレベルを低減した。例えば、8D1 IgG4抗体は、脳に局在するニコチンのレベルを80%減少させた。
【0099】
例4-in vivo用量反応試験
ラットにおいて単回用量ニコチン用量反応試験を行った(N=8)。ラットのニコチン代謝は代謝産物の速度及び範囲が一般的に人間に類似しているため、ラットを使用した。ラットを10、20、又は40mg/kgの12F5 IgG4又は8D1 IgG4で前処理した。その後、0.03mg/kgのニコチンを10秒未満で静脈内投与した。3分後、動物を屠殺し、血清及び脳のニコチンの量を定量化した。
【0100】
図2A及び2Bは、それぞれ血清及び脳の濃度を示している。両方の抗体が脳内のニコチンレベルを低減したが、8D1 IgG4抗体の40mg/kg用量は、脳に局在するニコチンの量を95%超減少させた。
図3A及び3Bは同じデータを示すが、抗体で前処理されていない対照ラットのレベルのパーセンテージとして示している。
【0101】
ニコチンの0.03mg/kg用量は、2本のタバコ(mg/kg基準)に相当し、1本のタバコを吸う5~10分とは対照的に、急速ボーラス(10秒)として投与した。ELISAを使用して抗体の血清レベルを測定し、血清抗体レベルが5μg/mL未満のラット(投与が不完全なため)を分析から除外した。除外された動物の平均血清抗体レベルは0.73μg/mLであったが、分析に含まれたラットの平均血清抗体レベルは302μg/mLであった。21ng/mLのニコチンの対照血清レベルと比較して、10、20、及び40mg/kgの8D1-IgG4の単回用量は、それぞれ対照レベルの11、17及び22倍に対応する226、351、及び470ng/mLの血清ニコチンレベルをもたらした(多重比較のためのボンフェローニ補正を使用した一元配置分散分析(one-way ANOVA)によるp=0.0057)。139ng/gのニコチンの対照脳レベルと比較して、10、20、及び40mg/kgの8D1-IgG4の単回用量は、それぞれ対照レベルの49%、16%及び3%のに対応する68、22、及び4ng/gの脳ニコチンレベルをもたらした(p=0.0045)。
【0102】
例5-加速安定性試験
例示的なニコチン結合抗体の相対的安定性を決定するために、抗体8D1-IgG4及び12F5 IgG4をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で約10mg/mlの濃度で製剤化し、40℃又は5℃でインキュベートした。サイズ排除クロマトグラフィー及び機能アッセイ(ニコチンコンジュゲートへの直接結合)による分析のために、2週間後及び4週間後に試料を採取した。安定性試験の結果を、以下の表5に示す。
【表5】
【0103】
全体として、ニコチン結合抗体の安定性は許容範囲であり、試験された両方の抗体で4週目に同量のモノマー損失が見られた。機能的(ELISA)アッセイは、2週間の保存後、ニコチンコンジュゲートへの同一の機能的結合を示した。
【0104】
実施例6-急性多量喫煙のin vivo試験
8D1-IgG4の影響を試験するために、急性多量喫煙の模擬シナリオで、8D1-IgG4又は対照IgGで前処理したラット(N=10;雄5匹及び雌5匹)に、10分間隔で一連の5回のニコチン静注を行った(
図4)。総血清ニコチンは、ニコチンの累積投薬量の関数として、8D1-IgG4用量依存的に増加した(
図4A)。5回目のニコチン投薬後、脳ニコチンレベルは、対照IgGと比較して、80mg/kgの8D1-IgG4用量レベルで90%超、40mg/kg用量レベルでより穏やかな51%だけ低減した(
図4B)。5回目のニコチン投薬後のニコチンの平均対照血清レベル60ng/mLと比較して、40及び80mg/kgの8D1-IgG4の単回用量は、それぞれ対照レベルの19及び33倍に対応する1130及び1987ng/mL(遊離ニコチン<2%、以下を参照)の総血清ニコチンレベルをもたらした(ボンフェローニ補正を使用した一元配置分散分析(one-way ANOVA)によるp<0.0001)。5回目のニコチン投与後のニコチンの平均対照脳レベル298ng/gと比較して、40及び80mg/kgの8D1-IgG4の単回用量は、それぞれ対照レベルの49%及び8%に対応する146及び23ng/gの脳レベルをもたらした(ボンフェローニ補正を使用した一元配置分散分析(one-way ANOVA)によるp=0.0006)。これらのデータは、8D1-IgG4が極めて多量の喫煙(40分間で10本のタバコ)を模擬するニコチン投薬速度で十分に維持されることを示している。
【0105】
実施例7-ニコチン自己投与に関するin vivo試験
8D1-IgG4が自己投与を低減することができるかどうかを評価するために、まずラットを、2時間のセッション中に固定比(FR)3スケジュールの下で0.03mg/kgの単回ニコチン用量を使用して、ニコチン自己投与(NSA)用に訓練した。安定したNSAが確立された後、単回用量を0.015mg/kgに低減したが、この結果、血清ニコチン濃度はヒトにおける喫煙により類似したものとなる。NSAがこの単回用量で安定した後、セッションの30分前に、ラットに160mg/kgの8D1-IgG4(N=7)又は160mg/kgのGammagard(対照mAb、N=7)を週2回静脈内注入し、ラットを10回連続セッションで0.015mg/kgの用量でNSAを継続させた。次に、mAb処理を継続しながら、さらに10回連続セッションでニコチンの単回用量を0.0075mg/kgに低減した。
図5は、各ニコチン単回用量でのmAb処理前(ベースライン)及びmAb処理中の最後の3セッション中の注入の平均(±SEM)数を示す。8D1-IgG4が与えられたラットは、それぞれのベースライン及び対照ラットと比較して、両方の単回用量でNSAの有意な減少を示した。これらの所見は、8D1-IgG4がニコチンの強化効果を低減することを示している。8D1-IgG4の用量は高かったが、人には禁煙の意志があるため、ヒトにおける禁煙の有効量ははるかに低くなる可能性が高い。参考として、禁煙に関する臨床試験において、バレニクリンの効力は、ラットでの前臨床ニコチン自己投与試験よりも顕著に高かった。Rollema,H.et al.,Neuropharmacology,52:985-994(2007).。
【0106】
実施例8-in vivo薬物動態試験
ラット(N=6)において4週間毎週投薬された8D1-IgG4の単回投薬(20mg/kg;
図6)及び反復投薬(40mg/kg;
図7)後のラットにおいて、8D1-IgG4の薬物動態を試験した。静脈内投薬後の様々な時点で、残留mAb濃度を測定した。使用したELISA検出アッセイは、ニコチンコンジュゲート3’Am-S-(-)Nic-ポリグルタミン酸への結合に依存し、したがって、血清中のS-(-)-ニコチンと結合する機能的mAbレベルを反映している。8D1-IgG4濃度の非コンパートメント分析により推定されるパラメータには、それぞれ、131時間の排出相半減期、0.10mL/分/kgのクリアランス、及び定常状態V
D=79.2mL/kgが含まれる。mAbの齧歯類PKアッセイは、ヒトのPKを常に予測するわけではないが、誘導選択プロセスで「in vivo適合性」の尺度として使用されることがよくある。8D1-IgG4には見られないが、異常に速い抗体クリアランスは、望ましくない非特異的相互作用の兆候である可能性があるため、これらのアッセイは高い非特異的素因PKを有する抗体を識別するために使用される。この試験の最後に、ラットに0.03mg/kgのニコチンを静脈内投薬し、3分後に屠殺し、試料を分析して、限外濾過の前後で未結合ニコチンの量を評価した。すべての試料が、2%未満の未結合ニコチンを有していた(データは示さず)。
【0107】
実施例9-in vivo毒性試験
高用量の8D1-IgG4の毒性を評価するために、ニコチンの同時投与あり、及びなしで、8D1-IgG4の非GLP 4週間反復高用量毒性試験をラットにおいて行い、有意な毒性シグナルが観察されたかどうかを評価した。群あたり16匹のラット(雄8匹及び雌8匹)の以下の4つの群を試験した:ビヒクル対照、8D1-IgG4のみ、ニコチンのみ、及び8D1-IgG4プラスニコチン。後者は、ニコチン:抗体複合体の安全性を評価するためのものである。8D1-IgG4を、200mg/kgで週1回静脈内投薬した。ニコチンは、注入ポンプを介して皮下空間に連続的に投薬した(1mg/kg/日、28日間)。
【0108】
毒性の評価は、28日間の試験期間中の死亡率、臨床所見、及び体重に基づいて行われ、試験終了時に臓器重量、肉眼解剖学的病理学、血液学、血清臨床化学、及び凝固が実施された。選択された組織(心臓、肝臓、肺、腎臓、脾臓、骨格筋、脳、結腸、胃、卵巣、及び精巣)の組織病理学は検討中である。組織をホルマリンで直ちに固定し、パラフィン包埋、H&Eでの染色、獣医病理学者によるレビューのために処理した。
【0109】
8D1-IgG4は忍容性が高く、治療群に明確な病理は認められなかった。すべての動物に全用量を投与し、どの動物でも死亡は誘発されなかった。毎日の臨床観察では、どの群でも摂食や毛づくろいの観察可能な行動の変化又は修正は見られなかった。体重は試験期間中週に2回モニタリングされ、処置群間に有意差は見られなかった。試験の終わりに、動物を剖検し、主要な臓器(肝臓、肺、脾臓、心臓、腎臓、精巣又は卵巣)を分離し、秤量した。肉眼での病理学的所見は認められず、臓器重量の統計的に有意な変化は見られなかった。血液を採取し、血液パラメータの任意の変化を判定するために全血球計算を行った。時折、動物は正常範囲外の値(リンパ球やヘモグロビンのわずかな減少等)を示したが、どの群でも有意な変化又は傾向は見られなかった。ニコチンを投与された動物のいくつかには、わずかな多発性色素沈着症を示す傾向があった。23の異なる検体の血清臨床化学及び血漿凝固では、処置群間で顕著な変化は見られなかった。
【配列表】