IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フェストアルピーネ シュタール ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

特許7364598電磁鋼帯または電磁鋼板、該電磁鋼帯または電磁鋼板の製造方法、およびそれから構成される金属薄板積層体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】電磁鋼帯または電磁鋼板、該電磁鋼帯または電磁鋼板の製造方法、およびそれから構成される金属薄板積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/092 20060101AFI20231011BHJP
   B32B 27/26 20060101ALI20231011BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20231011BHJP
   C08G 59/50 20060101ALI20231011BHJP
   C08G 59/56 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B32B15/092
B32B27/26
B32B27/38
C08G59/50
C08G59/56
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020564632
(86)(22)【出願日】2019-05-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2019063010
(87)【国際公開番号】W WO2019219983
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】18173378.3
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511136935
【氏名又は名称】フェストアルピーネ シュタール ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】voestalpine Stahl GmbH
【住所又は居所原語表記】voestalpine-Strasse 3, A-4020 Linz, Austria
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ロナルト フルーフ
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー ケッパート
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-518591(JP,A)
【文献】特開平11-162723(JP,A)
【文献】特開2000-336487(JP,A)
【文献】特開2000-173816(JP,A)
【文献】特開2017-025158(JP,A)
【文献】特開2008-266541(JP,A)
【文献】特開2001-122947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00- 7/26
C23C 22/00-22/86
C08G 59/00-59/72
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
C09J 1/00- 5/10
C09J 9/00-201/10
H01F 1/12-1/38;1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁鋼帯または電磁鋼板であって、その平坦面のうちの一方の上に設けられた、エポキシ樹脂またはエポキシ樹脂混合物少なくとも1つの硬化剤、および残部としての水を有する少なくとも1つの熱硬化性水性溶融接着ワニス層を有する電磁鋼帯または電磁鋼板において、前記熱硬化性水性溶融接着ワニス層が、さらに前記エポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物と結合する予備架橋剤を有し、前記予備架橋剤が、3つのアミノ基を有する有機アミン、すなわち有機トリアミン、または該有機アミンの混合物であり、
前記熱硬化性水性溶融接着ワニス層における予備架橋剤およびエポキシ樹脂またはエポキシ樹脂混合物の重量%が、以下の関係:
予備架橋剤の重量%=[エポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物の重量%/エポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物の平均M]×[予備架橋剤の平均M/(X×予備架橋剤分子の平均アミノ基数)]
[式中、Xは、1.6~28.9の数を表し、Mは、モル質量を表す]
を満たし、
前記エポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物が、ビスフェノールAベースを有し、
前記熱硬化性水性溶融接着ワニス層が、1500~2000g/molの平均モル質量を有するエポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物35~55重量%、予備架橋剤としての350~550g/molの平均モル質量を有するトリアミン0.1~2重量%、およびシアナミドベースの潜在性硬化剤を2~10重量%有することを特徴とする、電磁鋼帯または電磁鋼板。
【請求項2】
Xは、2.1~19.4の数を表す、請求項1記載の電磁鋼帯または電磁鋼板。
【請求項3】
Xは、2.9~7.2の数を表す、請求項1記載の電磁鋼帯または電磁鋼板。
【請求項4】
前記予備架橋剤の前記3つのアミノ基が、それぞれ第一級アミノ基であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の電磁鋼帯または電磁鋼板。
【請求項5】
前記予備架橋剤が、ポリエーテルトリアミンであることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の電磁鋼帯または電磁鋼板。
【請求項6】
前記予備架橋剤が、ポリオキシプロピレントリアミンであることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の電磁鋼帯または電磁鋼板。
【請求項7】
前記ポリエーテルトリアミンの1つのアミノ基が、末端エーテル基の第二級炭素原子に結合していることを特徴とする、請求項5または6記載の電磁鋼帯または電磁鋼板。
【請求項8】
前記ポリエーテルトリアミンのすべてのアミノ基が、末端エーテル基の第二級炭素原子に結合していることを特徴とする、請求項5または6記載の電磁鋼帯または電磁鋼板。
【請求項9】
熱硬化性水性溶融接着ワニス層が、シアナミドベースの常温潜在性硬化剤を有することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の電磁鋼帯または電磁鋼板。
【請求項10】
熱硬化性水性溶融接着ワニス層が、ジシアンジアミドからなる常温潜在性硬化剤を有することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の電磁鋼帯または電磁鋼板。
【請求項11】
前記熱硬化性水性溶融接着ワニス層が、
1500~2000g/molの平均モル質量を有するエポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物40~50重量%、および/または
予備架橋剤としての350~550g/molの平均モル質量を有するトリアミン0.2~1.0重量%
を有することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の電磁鋼帯または電磁鋼板。
【請求項12】
前記熱硬化性水性溶融接着ワニス層が、
ジシアンジアミドを3~8重量%有することを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項記載の電磁鋼帯または電磁鋼板。
【請求項13】
前記熱硬化性水性溶融接着ワニス層が、補助溶媒を有することを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項記載の電磁鋼帯または電磁鋼板。
【請求項14】
前記熱硬化性水性溶融接着ワニス層が、補助溶媒を4~20重量%有することを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項記載の電磁鋼帯または電磁鋼板。
【請求項15】
前記熱硬化性水性溶融接着ワニス層が、補助溶媒として1-メトキシプロパノールを有することを特徴とする、請求項14記載の電磁鋼帯または電磁鋼板。
【請求項16】
前記電磁鋼帯または電磁鋼板の熱硬化性溶融接着ワニス層が乾燥している、請求項1から15までのいずれか1項記載の電磁鋼帯または電磁鋼板。
【請求項17】
乾燥した熱硬化性溶融接着ワニス層が、
1500~2000g/molの平均モル質量を有するエポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物75~92.8重量
硬化剤4~24.8重量%
予備架橋剤としての350~550g/molの平均モル質量を有するトリアミン0.2~4重量
を有することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の電磁鋼帯または電磁鋼板。
【請求項18】
前記乾燥した熱硬化性溶融接着ワニス層が、
1500~2000g/molの平均モル質量を有するエポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物80~90重量%、および/または
ジシアナミド7~12重量%、および/または
予備架橋剤としての350~550g/molの平均モル質量を有するトリアミン0.4~2重量%
を有することを特徴とする、請求項17記載の電磁鋼帯または電磁鋼板。
【請求項19】
熱硬化性水性溶融接着ワニスの、電磁鋼帯または電磁鋼板の少なくとも1つの平坦面への塗布によって、請求項1から18までのいずれか1項記載の電磁鋼帯または電磁鋼板を製造する方法。
【請求項20】
熱硬化性水性溶融接着ワニスの、電磁鋼帯または電磁鋼板の少なくとも1つの平坦面へのローラ塗布または吹付けによって、請求項1から18までのいずれか1項記載の電磁鋼帯または電磁鋼板を製造する方法。
【請求項21】
溶融接着ワニス層の乾燥、
電磁鋼帯または電磁鋼板からの板金部品の切断、
前記板金部品の積み重ねによる、金属薄板積層体の形成、
前記金属薄板積層体の、前記溶融接着ワニス層の熱活性化による、接着
を含む、請求項19または20記載の、電磁鋼帯または電磁鋼板を用いた金属薄板積層体の製造方法。
【請求項22】
180~280℃の帯温度における溶融接着ワニス層の乾燥、および/または
前記金属薄板積層体の、100~250℃における前記溶融接着ワニス層の熱活性化による、接着
を含む、請求項21記載の、電磁鋼帯または電磁鋼板を用いた金属薄板積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁鋼帯または電磁鋼板であって、その平坦面のうちの一方の上に設けられた少なくとも1つの熱硬化性水性溶融接着ワニス層を有する電磁鋼帯または電磁鋼板、該電磁鋼帯または電磁鋼板の製造方法、およびそれから構成される金属薄板積層体に関する。
【0002】
従来技術
従来技術から、電磁鋼帯または電磁鋼板の表面を接着材料でコーティングし、それから切断した板金部品を材料結合により接着させて金属薄板積層体を形成するための多数の方法が公知である。例えば、電磁鋼帯ないしは電磁鋼板を、熱硬化性溶融接着ワニス、つまり焼付ワニスとも呼ばれる、溶融接着材料を含む反応性接着材料系でコーティングする(国際公開第2014/089593号)。乾燥後、つまり熱硬化性溶融接着ワニス層から溶媒を除去した後に、そのようにコーティングされた電磁鋼帯ないしは電磁鋼板から切断した板金部品を互いに積み重ね、いわゆる焼付プロセスによりまず接着させ、次いで硬化させる、つまり、圧力、温度および時間のパラメータにより互いに材料結合により結合させて積層体を形成する。卓越した磁気特性を有する高硬度の金属薄板積層体を得るためには、溶融接着ワニスの接着性ないしは接着状態を、詳細には電磁鋼帯または電磁鋼板に塗布する前から乾燥まで、ないしは最終硬化まで、つまり焼付プロセスまで、できるだけ一定に調整するないしは安定に維持することが重要である。プロセス工学的に問題があると判明したのは、特に材料結合による結合である。なぜなら、その際、焼付プロセスの間の焼付ワニスの流出を防止することが非常に重要であるためである。
【0003】
発明の説明
したがって、本発明は、冒頭で述べた従来技術を起点に、その平坦面のうちの一方の上に設けられた、焼付プロセスの間に高まった溶融粘度を有する少なくとも1つの熱硬化性水性溶融接着ワニス層を有する電磁鋼帯または電磁鋼板を提供することを課題とした。
【0004】
本発明は、電磁鋼帯または電磁鋼板に関して課されたこの課題を、請求項1の特徴をもとに解決する。
【0005】
熱硬化性水性溶融接着ワニス層が、さらに、エポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物と、特に室温ですでに結合する、3つのアミノ基を有する有機アミン、すなわち有機トリアミンまたはそれらの有機アミンの混合物である予備架橋剤を有する場合に、溶融接着ワニス層の特別な状態を調整することができる。有機トリアミンとは、ちょうど3つのアミノ基を有する有機化合物であると理解される。このことは特に、有機アミン、すなわち3つの第一級アミノ基を有する有機トリアミンにも当てはまる。そのような有機アミンを利用した、つまり、アミノ基と、エポキシ樹脂の様々なエポキシ樹脂分子の反応性エポキシ基との、第二級アミンおよび/または第三級アミンへの反応を利用した予備架橋により、熱硬化性水性溶融接着ワニス層において比較的かさ高い化合物が得られる。本発明によるこの予備架橋は、3つのアミノ基を有する有機アミンを利用して、つまり有機トリアミンを利用して、熱硬化性溶融接着ワニス層の溶融粘度が上昇するように、それゆえ、材料結合による結合の間に例えば板金部品と結合して金属薄板積層体が形成される焼付プロセスの進行中に溶融接着ワニスが流出することのないように、調整することができる。しかしながら、溶融接着ワニス層の接着性ないしは電磁鋼帯または電磁鋼板上でのその接着強度は、損なわれない。また、水性溶融接着ワニスの分散液の安定性も、室温での保存中ないしはさらなる取扱いの際、つまり電磁鋼帯または電磁鋼板への塗布、ないしは塗布された溶融接着ワニス層の、後続の乾燥などの際に保証されたままであり得る。
【0006】
予備架橋剤としては、有機トリアミンが特に適切であり得る。なぜなら、そのような有機トリアミンは、十分な架橋度を有する比較的安定な予備架橋を形成するためである。
【0007】
有機トリアミンは、その水溶性および比較的低い毒性、それゆえ簡単な取扱性の点でも傑出している。さらに有機トリアミンは、特に低い臭気負荷(Geruchsbelastung)を示す。
【0008】
エポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物と予備架橋剤との量比の調整の簡便化は、予備架橋剤の3つのアミノ基がそれぞれ第一級アミノ基である場合に達成され得る。つまりそれにより、予備架橋剤のアミノ基の反応性がほぼ一様であることを前提とすることができるため、電磁鋼帯または電磁鋼板上でのその望ましい特性に向けた溶融接着ワニス層の状態の調整が容易になる。
【0009】
その上、水性熱硬化性溶融接着ワニス層における予備架橋剤およびエポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物の重量%が以下の関係を満たす場合に、特に有利になり得る:
予備架橋剤の重量%=[エポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物の重量%/エポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物の平均M]×[予備架橋剤の平均M/(X×予備架橋剤分子の平均アミノ基数)]
[式中、Xは、1.6~28.9、特に2.1~19.4、特に2.9~7.2の数を表し、Mは、モル質量を表す]。
【0010】
予備架橋剤の第一級アミノ基の少なくとも大多数は、それぞれ、様々なエポキシ樹脂分子と結合して第二級アミンないしは多くの場合は第三級アミンとなることを前提とすることができる。そのようなポリマー形成によってモル質量の増加が生じる。水性溶融接着ワニスのゲル化を生じさせないようにするための広範囲にわたる十分な予備架橋度を達成するためには、アミノ基とエポキシ基との本発明によるこうした比率が理想的である。それゆえ、室温での分散液の安定性はおびやかされない。特に、室温での長期の保存安定性を意味するこの効果を、驚くべき高い程度で達成することができ、それはまた、溶融接着ワニス層を塗布する際ないしは電磁鋼帯または電磁鋼板上での後続の乾燥の際の取扱いが非常に容易であることを意味することができ、有利な特性、例えば電磁鋼帯または電磁鋼板上での溶融接着ワニス層の初期乾燥速度の増加を、非常に優れた弾性を伴う高い硬度と共に得ることができる。
【0011】
特に本発明は、特にこのようにコーティングされた電磁鋼帯または電磁鋼板のさらなる使用に関しても傑出し得る。電磁鋼帯または電磁鋼板上の溶融接着ワニスの溶融粘度は、予備架橋剤により同様に有利に影響を受けやすく、つまり上昇可能であるため、材料結合により結合させるべきコーティングされた電磁鋼帯または電磁鋼板ないしはそれらから製造された板金部品の焼付プロセスにおける流出の危険が低下し得る。それは、水性熱硬化性溶融接着ワニス層における予備架橋剤およびエポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物の重量%の本発明による関係を利用して、しかも驚くべきやり方で達成される。なぜならば、安定性および分散液に関して、ないしは例えば溶融接着ワニス層を塗布する際の溶融接着ワニスの取扱いに関して、不利な影響を甘受しなくてすむためである。したがって、このようにして、特に卓越した磁気特性を有する高硬度の金属薄板積層体を得ることが可能である。
【0012】
十分な架橋度を有する比較的安定な予備架橋に関しては、特にポリエーテルトリアミン、好ましくはポリオキシプロピレントリアミンが、廉価であるのみならず乾燥および硬化した溶融接着ワニス層の優れた弾性の点でも傑出し得る予備架橋剤として適切である。予備架橋剤としてのポリエーテルトリアミン、好ましくはポリオキシプロピレントリアミンは、その水溶性および比較的低い毒性、それゆえ簡単な取扱い性の点でも傑出している。さらに、ポリエーテルトリアミンは、特に低い臭気負荷を示す。
【0013】
ポリエーテルトリアミンの1つのアミノ基が末端エーテル基の第二級炭素原子に結合していると、アミノ基を担持する炭素に対する立体障害が達成され得るため、反応性および架橋度、それゆえ予備架橋剤とエポキシ樹脂とからなる化合物の体積を有利に調整することができる。このことはさらに、ポリエーテルトリアミンのすべてのアミノ基が末端エーテル基の第二級炭素原子に結合している場合にも当てはまる。
【0014】
エポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物が、ビスフェノールAベースを有する場合に、特に廉価の溶融接着ワニス層を得ることができる。
【0015】
熱硬化性溶融接着ワニス層が、シアナミドベースの、特にジシアンジアミドからなる常温潜在性硬化剤を有する場合に、その熱硬化性溶融接着ワニス層の容易な製造ないしはさらなる取扱いが達成され得る。
【0016】
前記の利点は、特に、熱硬化性水性溶融接着ワニス層が、
1500~2000g/molの平均モル質量を有するエポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物35~55重量%、特に40~50重量%、および
予備架橋剤としての、350~550g/molの平均モル質量を有するトリアミン0.1~2重量%、特に0.2~1.0重量%
を有する場合に達成され得る。
【0017】
さらに、熱硬化性水性溶融接着ワニス層が、シアナミドベースの潜在性硬化剤、特にジシアンジアミドを2~10重量%、特に3~8重量%有する場合に有利になり得る。
【0018】
好ましくは、熱硬化性水性溶融接着ワニス層は、残部としての水、および補助溶媒、好ましくは補助溶媒としての1-メトキシプロパノールを特に4~20重量%有することができる。
【0019】
前記の利点は、特に、熱硬化性水性溶融接着ワニス層が、
1500~2000g/molの平均モル質量を有するエポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物35~55重量%、特に40~50重量%、および
予備架橋剤としての350~550g/molの平均モル質量を有するトリアミン0.1~2重量%、特に0.2~1.0重量%、
シアナミドベースの潜在性硬化剤、特にジシアンジアミド2~10重量%、特に3~8重量%、および
残部としての水、および補助溶媒、好ましくは補助溶媒としての1-メトキシプロパノールを特に4~20重量%有する場合に達成され得る。
【0020】
その熱硬化性溶融接着ワニス層が乾燥している電磁鋼帯または電磁鋼板が特に傑出し得る。このことは、接着強度ないしは耐ローラ剥離性(Rollschaelwiderstand)の上昇により示される。
【0021】
前記の利点に関しては、以下:
1500~2000g/molの平均モル質量を有するエポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物75~92.8重量%、特に80~90重量%、
硬化剤、特にジシアナミド4~24.8重量%、特に7~12重量%、
予備架橋剤としての350~550g/molの平均モル質量を有するトリアミン0.2~4重量%、特に0.4~2重量%
を有する乾燥した熱硬化性溶融接着ワニス層が特に傑出し得る。
【0022】
さらに本発明は、電磁鋼帯または電磁鋼板から構成される金属薄板積層体を製造するための、容易に実施可能であり、かつ材料結合による結合の間の溶融接着ワニスの流出を懸念する必要のない特に確実な接着を可能にする方法を提供することを課題とした。
【0023】
本発明は、請求項13の特徴をもとに、方法に関するこの課題を解決する。
【0024】
プロセス工学的に容易に、熱硬化性水性溶融接着ワニスの、電磁鋼帯または電磁鋼板の少なくとも1つの平坦面への塗布、特にローラ塗布または吹付けによって、本発明によりコーティングされた電磁鋼帯または電磁鋼板の製造を行うことができる。
【0025】
そのためには、本発明によりコーティングされた電磁鋼帯または電磁鋼板の溶融接着ワニス層を、特に180~280℃の帯温度において乾燥させ、板金部品を電磁鋼帯または電磁鋼板から切断し、該板金部品を積み重ねて金属薄板積層体を形成し、該金属薄板積層体を、特に好ましくは100℃~250℃における溶融接着ワニス層の熱活性化により接着させる。
【0026】
本発明による予備架橋をもとに、熱硬化性溶融接着ワニス層の接着強度および接着性を損ねないだけでなく、その望ましくない流出が防止されるように溶融粘度が高まることも判明した。加熱プロセス中、つまり加熱段階の間も、制御された最終架橋ないしは制御された硬化が達成され得る。
【0027】
前記の方法から得られた金属薄板積層体は、簡便かつ確実な製造ゆえに廉価であるのみならず、特に高い強度および卓越した磁気特性の点でも傑出している。
【0028】
特に、請求項1から12までのいずれか1項記載の電磁鋼帯または電磁鋼板から構成され、その熱硬化性溶融接着ワニス層が請求項13または14に記載の方法のいずれか1つによって乾燥または硬化している金属薄板積層体が傑出し得る。
【0029】
発明を実施するための方法
以下に、一変形実施形態をもとに本発明を例示的に記載する。
【0030】
実施例1:
本発明により改善された、最適な予備架橋を達成するための関係によって、特に溶融接着ワニス層の保存安定性、取扱い性、および流出防止性(Ausfliesssicherheit)の特に有利なバランスが可能となり得る。Xの値が大きいほど、エポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物に対する予備架橋剤の量が少なくなる。Xの値が小さすぎる、それゆえ相対的に予備架橋剤の重量%が大きすぎると、溶融接着ワニスが使用前にすでにゲル化することがあり、それにより溶融接着ワニスの塗布がすでに困難になるであろう危険性ゆえ、より不都合な保存安定性をもたらしかねない。Xの値が大きすぎる、それゆえ相対的に予備架橋剤の重量%が小さすぎると、特に予備架橋度が過度に低くなり、溶融接着ワニスが過度に低粘度になり、それゆえもはや流出安定性でなくなることにつながりかねない。
【0031】
好ましい実施例1では、溶融接着ワニス層100グラムが、以下:
2000g/molの平均モル質量を有するエポキシ樹脂50グラム、
潜在性硬化剤としてのジシアンジアミド5.0グラム、
予備架橋剤としての440g/molの平均モル質量を有するトリアミン、つまり末端エーテル基の第二級炭素原子に結合している3つの第一級アミノ基を有する以下の構造式
【化1】
のポリオキシプロピレントリアミン1.0グラム、
補助溶媒としての1-メトキシプロパノール10グラム、および
残部としての水
を有する熱硬化性水性溶融接着ワニス層で電磁鋼帯または電磁鋼板がコーティングされている。
【0032】
さらなる添加剤および/または助剤が考えられる。
【0033】
その上、熱硬化性溶融接着ワニス層における予備架橋剤およびエポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物の重量%は、関係:
予備架橋剤の重量%=[エポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物の重量%/エポキシ樹脂またはエポキシ樹脂の混合物の平均M]×[予備架橋剤の平均M/(X×予備架橋剤分子の平均アミノ基数)]
[式中、Mは、モル質量を表す。Xについては、実施例1では、値3.67が得られ、この値も同様に、特に好ましく特許請求される範囲2.9~7.2内にある]を満たす。
【0034】
鋼帯の通常の層厚は、液状塗料に関しては4μm~16μmの厚さを有し、乾燥状態ではその厚さはおよそ2μm~8μmである。ここで、帯面1mあたりおよそ10gが、乾燥状態での5μmの層厚に相当する(つまり、およそ10μmの液状塗料厚)。
【0035】
この組成により、溶融接着ワニス層の特別な状態を調整することができる。つまり、トリアミンの第一級アミノ基が、少なくとも室温において、エポキシ樹脂の反応性エポキシ基と反応して第二級アミンおよび第三級アミンとなる。それゆえ、比較的かさ高い化合物が熱硬化性水性溶融接着ワニス層において生じる、ないしはそれがモル質量増加をもたらす。
【0036】
その上、アミノ基とエポキシ基との本発明による比率は、水性溶融接着ワニスのゲル化を生じさせないようにするための広範囲にわたる十分な架橋度を達成するために理想的である。そのような溶融接着ワニスは、室温において高い保存安定性を有し、その際、電磁鋼帯または電磁鋼板上での接着性ないしは接着強度に関する特性は損なわれない。例えば、それにより6ヵ月の保存性が問題なく可能になり得る。したがって、それにより水性熱硬化性溶融接着ワニスの容易な取扱い性が得られる。
【0037】
実施例1の予備架橋剤は、さらなる有利な特性、つまりアミノ基を担持する炭素に対する立体障害を示す。これは、ポリエーテルトリアミンのアミノ基が末端エーテル基の第二級炭素原子に結合していることにより生じる。これがアミノ基の反応性に影響を及ぼす。特に、予備架橋剤の第二級アミノ基、つまりエポキシ樹脂分子と結合しているアミノ基が、第2のエポキシ樹脂分子と反応して第三級アミノ基を形成する傾向が低下する。つまり、このように、予備架橋度を特に容易に調整できるだけでなく、溶融接着ワニス層が比較的保存安定性でもある。この溶融接着ワニス層は、室温において6ヵ月の期間を超えても存在する。
【0038】
驚くべきことに、本発明による溶融接着ワニス層の、電磁鋼帯または電磁鋼板上での特に優れた接着強度が達成されることも判明した。
【0039】
電磁鋼帯または電磁鋼板上の本発明による溶融接着ワニス層を、220℃の帯温度において乾燥させ、それゆえ、水および補助溶媒、つまり1-メトキシプロパノールを溶融接着ワニス層から取り除く。この工程後、実施例1の乾燥した熱硬化性溶融接着ワニス層が形成される。
【0040】
予備架橋剤のアミノ基が、それぞれ、エポキシ樹脂の様々なエポキシ樹脂分子の少なくとも1つのエポキシ基と反応することを前提とすることができる。
【0041】
本発明によると、電磁鋼帯または電磁鋼板上での溶融接着ワニス層の初期乾燥速度の上昇が認められる。その上、乾燥したその熱硬化性溶融接着ワニス層は、非常に優れた弾性を伴う高い硬度の点で傑出している。改善された粘性は特に非常に重要であり、乾燥した熱硬化性溶融接着ワニス層の、電磁鋼帯または電磁鋼板上での傑出した接着強度と組み合わせて、耐ローラ剥離性に関して決定的な改善をもたらす。
【0042】
耐ローラ剥離性の改善を証明するために、3つの試料の比較結果を示す。
【0043】
試料1:従来技術
試料1の熱硬化性溶融接着ワニス層の組成は、従来の市販入手可能な焼付ワニスに相当する。
【0044】
試料2:従来技術
試料2の熱硬化性溶融接着ワニス層の組成は、本発明による実施例1(試料3)の組成に相当するものの、予備架橋剤が添加されていない。
【0045】
試料3:実施例1
熱硬化性溶融接着ワニス層の組成は、本発明による実施例1の組成に相当する。これを、5μmの層厚で、ケイ素合金(Si約3%)電磁鋼帯上にローラ塗布し、220℃の帯温度(PMT-Peak Metal Temperature)で乾燥させた。
【0046】
耐ローラ剥離性の測定には、EN 1464規格に準拠する方法を使用した。試料3については、表1によれば、耐ローラ剥離性の明らかな上昇が認められる。
【0047】
【表1】
【0048】
本発明による特別な利点は、乾燥させた熱硬化性溶融接着ワニス層の、硬化時の溶融粘度の調整性にある。これは特に、熱硬化性溶融接着ワニス層における予備架橋剤およびエポキシ樹脂の重量%の本発明による関係に起因する特殊な予備架橋をもとに達成される。それにより、材料結合により結合させるべき、溶融接着ワニスでコーティングされた電磁鋼帯または電磁鋼板ないしはそれらから製造された板金部品の焼付プロセスにおける溶融接着ワニスの流出の危険が低下し得る。
【0049】
このことは、安定性および分散液に関して、ないしは例えば溶融接着ワニス層を塗布する際の溶融接着ワニスの取扱いに関して、不利な影響なく達成される。これは、驚くべきことである。なぜならば、特に常温潜在性であるとはいえ、さらなる硬化剤にもかかわらず、室温において樹脂と結合する予備架橋剤を利用して、なおも室温での高い保存安定性が保証されたままであり、かつさらなる使用に関して、熱硬化性溶融接着ワニス層の、電磁鋼帯または電磁鋼板上での乾燥による不利な作用も生じないためである。
【0050】
予備架橋剤の重量%を本発明による限度に対してわずかに高めただけで、熱硬化性水性溶融接着ワニスの保存安定性が激しく悪化するだけでなく、電磁鋼帯または電磁鋼板上の乾燥した熱硬化性溶融接着ワニス層の溶融粘度が、その接着力が容認できないほど悪化するようなレベルに高まる。