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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】パイプの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 19/08 20060101AFI20231011BHJP
【FI】
B21D19/08 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021157220
(22)【出願日】2021-09-27
(65)【公開番号】P2023047995
(43)【公開日】2023-04-06
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】391002498
【氏名又は名称】フタバ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】若山 実久人
(72)【発明者】
【氏名】泉川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】平出 敦也
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-285552(JP,A)
【文献】米国特許第03866457(US,A)
【文献】特開2000-351021(JP,A)
【文献】特開2017-170510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプの側壁の一部に当該パイプの外側に向かって突出した部位であるスプールを設ける前記パイプの製造方法であって、
少なくとも2つ以上の部材で構成された第1金型により前記パイプの前記側壁を挟み込み、かつ、少なくとも2つ以上の部材で構成された第2金型により前記パイプの前記側壁を挟み込むクランプ工程と、
前記パイプの長さ方向に沿って前記第1金型側に向かって第3金型により前記パイプの端部を押圧しつつ、前記第1金型と前記第2金型とを接近させることによって、前記第1金型と前記第2金型との間に前記スプールを成形する成形工程と、
前記第1金型及び前記第2金型によって前記スプールが挟み込まれた状態で、前記第2金型と前記第3金型とが離れるように、前記第3金型を前記長さ方向に沿って前記パイプから引き離す引き離し工程と、
前記第1金型を構成する少なくとも一部の部材及び前記第2金型を構成する少なくとも一部の部材が前記パイプの前記側壁から離れるように、前記パイプの挟み込みを解除するアンクランプ工程と、
前記成形工程の前に、前記スプールの予備形状を成形する予備成形工程と、
を備え
前記予備成形工程は、前記パイプを拡管する拡管加工と、前記拡管加工の後に前記パイプを縮管する縮管加工と、を含む、パイプの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のパイプの製造方法であって、
前記第1金型と前記第2金型とは、反発力発生手段を介して接続されており、
前記成形工程及び前記引き離し工程では、前記第2金型は前記パイプを挟み込む方向に押圧されており、
前記アンクランプ工程では、前記第2金型が前記パイプを挟み込む方向に押圧されなくなると、前記反発力発生手段によって前記第1金型と前記第2金型とが離れる、パイプの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のパイプの製造方法であって、
前記反発力発生手段は、弾性部材である、パイプの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項までのいずれか1項に記載のパイプの製造方法であって、
前記長さ方向は、水平方向に沿った方向であり、
前記第1金型は、前記パイプを上方から囲う第1上型と、前記パイプを下方から囲う第1下型と、で構成され、
前記第2金型は、前記パイプを上方から囲う第2上型と、前記パイプを下方から囲う第2下型と、で構成され、
前記第3金型は、前記水平方向に沿った方向に移動する、パイプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、パイプの製造方法及びパイプの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パイプの側壁の一部を外周面から突出するように湾曲させることで、外周面を周回するスプールを成形する技術が知られている。スプールは、パイプと他の部材とを接続するために用いられる。
【0003】
特許文献1には、上型と、下型と、上型及び下型の間でパイプを包み込むようにパイプに向かってスライドする受け型と、を備える金型を用いて、スプールが設けられたパイプを製造する製造方法が開示されている。この金型を用いた製造方法では、まずパイプが下型にセットされ、次に受け型によってパイプが挟み込まれ、次に上型が下降してパイプの先端が下に押し込まれる。これにより、パイプが外側に膨らみ、上型と受け型との間にスプールが成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-112675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した金型を用いた製造方法では、スプール成形後に上型がパイプから引き抜かれる。この際に、上型とパイプとの間に生じ得る摩擦によって、上型の引き抜き方向にパイプを引っ張るせん断力が生じやすい。その結果、当該せん断力によって、スプールの頂点の内側部分に割れが生じやすいという問題があった。
【0006】
本開示の一局面は、パイプに成形されたスプールの割れを生じにくくする技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、パイプの側壁の一部に当該パイプの外側に向かって突出した部位であるスプールを設けるパイプの製造方法であって、クランプ工程と、成形工程と、引き離し工程と、アンクランプ工程と、を備える。クランプ工程では、少なくとも2つ以上の部材で構成された第1金型によりパイプの側壁を挟み込み、かつ、少なくとも2つ以上の部材で構成された第2金型によりパイプの側壁を挟み込む。成形工程では、パイプの長さ方向に沿って第1金型側に向かって第3金型によりパイプの端部を押圧しつつ、第1金型と第2金型とを接近させることによって、第1金型と第2金型との間にスプールを成形する。引き離し工程では、第1金型及び第2金型によってスプールが挟み込まれた状態で、第2金型と第3金型とが離れるように、第3金型をパイプの長さ方向に沿ってパイプから引き離す。アンクランプ工程では、第1金型を構成する少なくとも一部の部材及び第2金型を構成する少なくとも一部の部材がパイプの側壁から離れるように、パイプの挟み込みを解除する。
【0008】
このような構成では、スプール成形後の引き離し工程において、第3金型がパイプの長さ方向に沿ってパイプから引き離されるとき、スプールが第1金型及び第2金型によって挟み込まれた状態が維持される。このため、第3金型とパイプとの間に生じ得る摩擦によって、第3金型の移動方向にパイプを引っ張るせん断力が生じた場合にも、スプールは当該せん断力による影響を受けにくい。換言すると、引き離し工程において、スプールが広がる方向へのせん断力がパイプに生じた場合にも、第2金型によってスプールの動きが抑制される。したがって、パイプに成形されたスプールの割れを生じにくくすることができる。
【0009】
本開示の一態様では、第1金型と第2金型とは、反発力発生手段を介して接続されていてもよい。成形工程及び引き離し工程では、第2金型はパイプを挟み込む方向に押圧されていてもよい。アンクランプ工程では、第2金型がパイプを挟み込む方向に押圧されなくなると、反発力発生手段によって第1金型と第2金型とが離れてもよい。このような構成によれば、第1金型と第2金型とが反発力発生手段を介して一体の構成であるため、スプールが設けられるパイプの製造装置が大きくなりすぎることを抑制し、当該製造装置の保管及び管理を容易にすることができる。
【0010】
本開示の一態様では、反発力発生手段は、弾性部材であってもよい。このような構成によれば、弾性部材の弾性力によって、一体に成形された第1金型と第2金型との間の距離を容易に縮めたり、広げたりすることができる。
【0011】
本開示の一態様は、成形工程の前に、スプールの予備形状を成形する予備成形工程を更に備えてもよい。予備成形工程は、パイプを拡管する拡管加工と、拡管加工の後にパイプを縮管する縮管加工と、を含んでもよい。このような構成によれば、予備成形工程によってスプールの予備形状が成形されるため、成形工程において成形されるスプールの形状及び高さを安定させることができる。また、スプールの予備形状の成形により、成形工程におけるスプールの成形時の各金型に加わる付加を軽減することができる。更に、スプールの予備形状の成形により、スプールの成形後のスプリングバック量を軽減することができる。また、スプールの予備形状の成形が拡管加工及び縮管加工によって行われるため、例えば転造加工やプレス加工でスプールの予備形状を成形する場合と比較して、スプールの成形時の板厚の減少を抑制することができる。
【0012】
本開示の一態様では、パイプの長さ方向は、水平方向に沿った方向であってもよい。第1金型は、パイプを上方から囲う第1上型と、パイプを下方から囲う第1下型と、で構成されてもよい。第2金型は、パイプを上方から囲う第2上型と、パイプを下方から囲う第2下型と、で構成されてもよい。第3金型は、水平方向に沿った方向に移動してもよい。このような構成では、略水平方向に延びるようにパイプが配置された状態で、上下方向からそれぞれ第1金型及び第2金型によってパイプが挟み込まれ、第3金型が水平方向に沿った方向に移動してスプールが成形される。このため、略鉛直方向に延びるようにパイプが配置された状態で、第3金型が鉛直方向に沿った方向に移動する場合と比較して、パイプを広い範囲で第1金型及び第2金型によって挟み込まなくても、パイプが倒れにくい。したがって、長いパイプにスプールを成形する場合に、製造装置の大型化を抑制することができる。
【0013】
本開示の一態様は、パイプの側壁の一部に当該パイプの外側に向かって突出した部位であるスプールを設けるパイプの製造装置であって、第1金型と、第2金型と、第3金型と、を備える。第1金型及び第2金型は、パイプを周方向に囲うように構成され、パイプの長さ方向に沿って所定の間隔を空けて配置可能である。第3金型は、スプールの成形時には第2金型を基準として第1金型とは反対側に配置される第3金型であって、パイプの前記反対側の端部を第1金型側に向けて押圧する第1押圧部と、第2金型を第1金型に向けて押圧する第2押圧部と、を備える。第1金型及び第2金型を所定の間隔を空けて配置し、第3金型によりパイプの前記反対側の端部と第2金型とを押圧することで第1金型と第2金型との間にスプールを成形した後に、第3金型を第1金型から離れる方向にパイプの長さ方向に移動させることとは独立して、第2金型がパイプの側壁から離れるように移動可能に構成されている。
このような構成では、スプールを成形した後に、第2金型が、第3金型とは独立して、パイプの側壁から離れるように移動する。これにより、第3金型が移動した場合にも、第2金型の位置は固定された状態を維持可能である。このため、スプールと第3金型との間に配置される第2金型によって、スプールは、第3金型の移動に伴い発生し得るパイプを引っ張るせん断力による影響を受けにくい。したがって、パイプに成形されたスプールの割れを生じにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】スプールが設けられたパイプを示す模式的な断面図である。
図2】スプールの成形時の第1金型、第2金型、第3金型及びスプールが設けられたパイプを示す模式的な断面図である。
図3図3Aは配置工程におけるパイプを囲む第1金型、第2金型及び第3金型の初期状態の位置を示す模式的な断面図、図3Bはクランプ工程におけるパイプの挟みこみ状態を示す模式的な断面図、図3Cは成形工程におけるスプールの成形時の状態を示す模式的な断面図である。
図4図4Aは引き抜き工程における第3金型の引き抜きの状態を示す模式的な断面図、図4Bはアンクランプ工程におけるパイプの挟みこみ解除の状態を示す模式的な断面図、図4Cはアンクランプ工程におけるパイプの挟みこみ解除後の第2金型の移動を示す模式的な断面図、図4Dはスプールの成形後に初期状態へ戻った第1金型、第2金型及び第3金型を示す模式的な断面図である。
図5図5Aは予備成形工程における拡管加工後のパイプの状態を示す模式的な側面図、図5Bは予備成形工程における縮管加工後のスプールの予備形状が成形されたパイプの状態を示す模式的な側面図、図5Cは予備成形工程においてパイプに成形されたスプールの予備形状を基にスプールが成形されたパイプの状態を示す模式的な側面図である。
図6】本実施形態の製造方法においてパイプに成形されたスプールの成形後の断面の状態を示す図である。
図7】比較例の製造方法においてパイプに成形されたスプールの成形後の断面の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
[1.スプールが設けられたパイプの構成]
図1に示すパイプ1は、例えば、車両に搭載され、車両の燃料の流路として用いられる。パイプ1は、円筒状に形成された管である。パイプ1は、中心軸Aに沿って略直線状に長い管である。図1では、図示の便宜上、パイプの第1端部側の第1開口部の図示は省略するが、第1端部側とは反対側の第2端部11側の開口である第2開口部111は図示する。パイプ1は、鉄、ステンレス、ハイテン鋼などの金属により形成された金属管である。パイプ1は、当該パイプ1の内部と外部とを隔てる壁状の部位である側壁12によって構成される。側壁12の外側の面はパイプ1の外周面13を形成し、側壁12の内側の面は内周面14を形成する。パイプ1は、拡管部15と、テーパ部16と、本体部17と、スプール2と、を備える。
【0016】
拡管部15は、パイプ1における径を拡大させるための拡管加工が施された部分である。拡管部15は、パイプ1の第2端部11に設けられる。
【0017】
本体部17は、パイプ1における拡管加工がなされていない部分である。
テーパ部16は、本体部17と拡管部15とを繋ぐ部分であり、第1端部側から第2端部11側に向かうに従い拡径するテーパ状に形成されている。
【0018】
スプール2は、パイプ1の第2開口部111の付近に設けられる。本実施形態では、スプール2は、拡管部15に形成されている。なお、スプール2は、パイプ1における拡管部15以外の他の部分に形成されていてもよい。スプール2は、パイプ1の側壁12の一部に設けられる部位であって、当該パイプ1の外側に向かって突出した部位である。スプール2は、パイプ1の側壁12の一部を当該パイプ1の外側に向かって突出させることで成形される。スプール2は、パイプ1を他の部材、例えば車両に搭載されるクイックコネクタの接続口に接続するために用いられる。スプール2は、第1部分20と、第2部分21と、頂部22と、を有する。第1部分20及び第2部分21は、側壁12におけるパイプの外側にそれぞれ真っ直ぐ突出した部分であり、中心軸Aに沿って第2端部11側から順に、第1部分20、第2部分21の順に位置する。第1部分20及び第2部分21は、互いに略平行に並んだ状態で当接する。頂部22は、第1部分20及び第2部分21の外側部分の端部を湾曲するように繋ぐスプール2の先端部分である。
【0019】
[2.スプールが設けられるパイプの製造装置の構成]
次に、図2を用いて、スプール2が設けられるパイプ1の製造装置3について説明する。図2は、製造装置3によるスプール2の成形時の状態を示す。図2に示すように、製造装置3は、第1金型4と、第2金型5と、第3金型6と、反発力発生手段7と、を備える。
【0020】
第1金型4及び第2金型5は、パイプ1を周方向に囲うように配置される。第3金型6は、スプール2の成形時に第2金型5を基準として第1金型4とは反対側に配置される。具体的には、第3金型6は、パイプ1の第2開口部111側を覆うように配置される。
【0021】
第1金型4及び第2金型5は、反発力発生手段7を介して接続されている。なお、反発力発生手段7は、第1金型4と第2金型5とを離す方向への反発力を有する。このため、後述する図3Aに示す製造装置3の初期位置では、パイプ1の中心軸Aに沿った方向、すなわちパイプ1の長さ方向に沿って所定の間隔を空けて、第1金型4と第2金型5とが位置する。
【0022】
反発力発生手段7として、本実施形態では、スプリング等の弾性部材が用いられる。反発力発生手段7は、第1金型4の後述する第1上型4aの第2金型5側の端部に一端が接続され、第2金型5の後述する第2上型5aの第1金型4側の端部に他端が接続される。また、反発力発生手段7は、第1金型4の後述する第1下型4bの第2金型5側の端部に一端が接続され、第2金型5の後述する第2下型5bの第1金型4側の端部に他端が接続される。
【0023】
第1金型4は、パイプ1を上方から囲う第1上型4aと、パイプ1を下方から囲う第1下型4bと、で構成される。第1上型4aは、第1内周面41と、第1当接面42と、切欠き43と、を有する。なお、第1下型4bは、第1上型4aと同様の形状を有するため、第1下型4bの説明は省略する。
【0024】
第1内周面41は、スプール2の成形時に、パイプ1の外周面13と当接する面である。第1内周面41は、円筒状のパイプ1を覆うように湾曲した形状を有する。第1内周面41は、パイプ1の外周面13におけるスプール2の成形位置よりもパイプ1の第1端部側の領域を覆う。
【0025】
第1当接面42は、第2金型5側の端部に設けられる面であって、スプール2の成形時に、後述する第2金型5の第2当接面52と当接する面である。
切欠き43は、第1上型4aの第2金型5側の端部における、第1当接面42と第1内周面41とを繋ぐ面上に設けられる。切欠き43は、スプール2の成形時に第1金型4と第2金型5との間に生じる溝45を形成する。当該溝45にパイプ1の側壁12の一部が入り込むことによってスプール2が成形される。
【0026】
第2金型5は、パイプ1を上方から囲う第2上型5aと、パイプ1を下方から囲う第2下型5bと、で構成される。第2上型5aは、第2内周面51と、第2当接面52と、第2押圧面53と、を有する。なお、第2下型5bは、第2上型5aと同様の形状を有するため、第2下型5bの説明は省略する。
【0027】
第2内周面51は、スプール2の成形時に、パイプ1の外周面13と当接する面である。第2内周面51は、円筒状のパイプ1を覆うように湾曲した形状を有する。第2内周面51は、パイプ1の外周面13におけるスプール2の成形位置よりもパイプの第2端部11側の領域を覆う。
【0028】
第2当接面52は、第1金型4側の端部に設けられる面であって、スプール2の成形時に、第1金型4の第1当接面42と当接する面である。
第2押圧面53は、第3金型6側の端部に設けられる面であって、スプール2の成形時に、後述する第3金型6の第2押圧部64の第3当接面642と当接し、第2押圧部64によって押圧される面である。
【0029】
第3金型6は、基部61と、挿入部62と、第1押圧部63と、第2押圧部64と、を有する。
基部61からは、挿入部62及び第2押圧部64が突出するように設けられる。
【0030】
挿入部62は、基部61の略中心から突出した略円柱状の部位であり、スプール2の成形時には、第2開口部111からパイプ1の内部に挿入され、パイプ1の中心軸Aに沿って延びた状態となる。スプール2の成形時に、本実施形態では、パイプ1の内部に挿入された挿入部62とパイプ1の側壁12との間には隙間を有する。なお、挿入部62とパイプ1の側壁12との間には隙間を有しなくてもよい。挿入部62の端部は、本実施形態では、パイプ1の第2開口部111に挿入しやすくするために、当該端部に向かうに従い縮径するテーパ状に形成されている。なお、挿入部62の端部は、テーパ状に形成されていなくてもよい。
【0031】
第2押圧部64は、基部61の挿入部62よりも外側において突出した円環状の部分である。第2押圧部64は、挿入部62に対して隙間を空けた状態で、挿入部62を周方向に囲むように設けられる。第2押圧部64は、スプール2の成形時に、パイプ1の中心軸Aに沿って延びるように配置される。第2押圧部64と挿入部62とも間の隙間には、パイプ1の側壁12が配置される。第2押圧部64は、第3内周面641と、第3当接面642と、を有する。
【0032】
第3内周面641は、スプール2の成形時に、パイプ1の外周面13と当接する面である。第3内周面641は、円筒状のパイプ1を覆うように湾曲した形状を有する。第3内周面641は、パイプ1の外周面13における第2金型5の第2内周面51が覆う領域よりもパイプの第2端部11側の領域を覆う。
【0033】
第3当接面642は、第2金型5側の端部に設けられる面であって、スプール2の成形時に、第2金型5の第2押圧面53と当接する面である。
第1押圧部63は、基部61における挿入部62と第2押圧部64との間の隙間の奥に位置する部位である。スプール2の成形時には、第2押圧部64と挿入部62との間に配置されたパイプ1の側壁12における第2端部11は、第1押圧部63により押圧される。換言すると、スプール2の成形時には、パイプ1の第2開口部111を囲む縁部は、第1押圧部63により押圧される。
【0034】
[3.スプールが設けられるパイプの製造方法]
次に、スプール2が設けられるパイプ1の製造方法について説明する。スプール2が設けられるパイプ1の製造工程については、配置工程と、クランプ工程と、成形工程と、引き抜き工程と、アンクランプ工程と、が含まれる。
【0035】
<配置工程>
まず、拡管部15、テーパ部16及び図示を省略する本体部17が成形されており、スプール2が成形されていない状態のパイプ1は、水平方向に沿って延びるように配置される。そして、当該パイプ1を囲むように、第1金型4、第2金型5及び第3金型6が図3Aに示すように配置される。このように第1金型4、第2金型5及び第3金型6が配置された状態を、製造装置3の初期位置とする。なお、この製造装置3の初期位置において、第1金型4の第1下型4b及び第2金型5の第2下型5bは、押圧力が働いていない状態でパイプ1と当接している。
【0036】
<クランプ工程>
次に、図3Bに示すように、第1金型4の第1上型4a及び第1下型4bによりパイプ1の側壁12を上下方向から挟み込む。このとき、第1上型4a及び第1下型4bのそれぞれの第1内周面41が、パイプ1の外周面13におけるスプール2が成形される成形位置よりもパイプ1の第1端部側の領域を覆う。また、第2金型5の第2上型5a及び第2下型5bによりパイプ1の側壁12を上下方向から挟み込む。このとき、第2上型5a及び第2下型5bのそれぞれの第2内周面51が、パイプ1の外周面13におけるスプール2が成形される成形位置よりもパイプ1の第2端部11側の領域を覆う。クランプ工程では、第1上型4aと第2上型5aとの間、及び、第1下型4bと第2下型5bとの間には、反発力発生手段7によって所定の間隔が空いている。なお、第1金型4及び第2金型5によって同時にパイプ1を挟み込んでもよい。また、第1金型4及び第2金型5は、同時でなく、どちらかによって先にパイプ1を挟み込んでもよい。
【0037】
このクランプ工程によって、パイプ1が、第1金型4の第1上型4a及び第1下型4bと、第2金型5の第2上型5a及び第2下型5bと、によってパイプ1を挟み込む方向に押圧される。
【0038】
<成形工程>
次に、図2及び図3Cに示すように、パイプ1の中心軸Aに沿って第1金型4側に向かって第3金型6によりパイプ1の第2端部11を押圧しつつ、第1金型4と第2金型5とを接近させることによって、第1金型4と第2金型5との間にスプール2を成形する。
【0039】
具体的には、まず、第3金型6の挿入部62と第2押圧部64との間に、パイプ1の第2端部11を含む部分が挿入される。このとき、第2押圧部64の第3内周面641がパイプ1の側壁12の外周面13と当接しつつ、パイプ1の内部に挿入された挿入部62とパイプ1の側壁12との間には隙間を有する。
【0040】
そして、第2押圧部64と挿入部62との間に配置されたパイプ1の第2端部11を第3金型6の第1押圧部63により押圧しつつ、第3金型6の第3当接面642と第2金型5の第2押圧面53とが当接した状態で、第3金型6を水平方向に移動させる。このとき、第2金型5は、第3金型6と共に水平方向に移動する。パイプ1の第2端部11の第1押圧部63による押圧は、第2金型5の第2当接面52と第1金型4の第1当接面42とが当接するまで行われる。
【0041】
そして、反発力発生手段7のスプリングが縮むことによって、第2金型5が第1金型4に接近し、第2金型5の第2当接面52が第1金型4の第1当接面42に当接する。このとき、第1金型4の切欠き43によって、第1金型4と第2金型5との間に溝45が生じる。一方、パイプ1の外周面13におけるスプール2の成形位置以外の部分は、第1金型4の第1内周面41、第2金型5の第2内周面51、及び、第3金型6の第2押圧部64の第3内周面641により覆われている。このため、パイプ1の側壁12における溝45に隣接する部分は、当該溝45に入り込むことによって突出し、当該突出した部分がスプール2を成形する。
【0042】
<引き抜き工程>
次に、図4Aに示すように、第1金型4及び第2金型5によってスプール2が挟み込まれた状態で、第2金型5と第3金型6とが離れるように、第3金型6をパイプ1の中心軸Aに沿ってパイプ1から引き離す。
【0043】
具体的には、第3金型6をパイプ1の中心軸Aに沿って第1金型4から離れるように水平方向に移動させ、第3金型6の第2押圧部64と挿入部62との間からパイプ1の第2端部11を引き抜きつつ、挿入部62をパイプ1の内部から引き抜く。このとき、第1金型4の第1上型4a及び第1下型4b、及び、第2金型5の第2上型5a及び第2下型5bはパイプ1を挟み込む方向に押圧されているため、第1金型4及び第2金型5によってスプール2が挟み込まれた状態が維持される。
【0044】
<アンクランプ工程>
次に、図4Bに示すように、第3金型6を第1金型4から離れる方向に移動させることとは独立して、第1金型4及び第2金型5がパイプ1の側壁12から離れるように移動して、パイプ1の挟みこみを解除する。本実施形態では、第1金型4の第1上型4a及び第2金型5の第2上型5aがパイプ1の側壁12から離れるように移動することで、パイプ1の挟み込みが解除される。なお、第1金型4の第1下型4b及び第2金型5の第2下型5bがパイプ1の側壁12から離れるように移動してもよい。また、第1金型4の第1上型4aと第1下型4bとの両方、及び、第2金型5の第2上型5aと第2下型5bとの両方がパイプ1の側壁12から離れるように移動してもよい。
【0045】
具体的には、第1金型4の第1上型4a及び第2金型5の第2上型5aは、スプール2が延びる方向、すなわちパイプ1の側壁12に対して略垂直な方向に移動する。換言すると、第1金型4の第1上型4a及び第2金型5の第2上型5aは、第3金型6が水平方向に移動する一方で、鉛直方向に移動する。なお、第1金型4及び第2金型5によって同時にパイプ1の挟み込みを解除してもよい。また、第1金型4及び第2金型5は、同時でなく、どちらかによって先にパイプ1の挟み込みを解除してもよい。
【0046】
このアンクランプ工程によって、第1金型4の第1上型4a及び第1下型4bと、第2金型5の第2上型5a及び第2下型5bと、がパイプ1を挟み込む方向に押圧されなくなる。これにより、図4Cに示すように、反発力発生手段7の縮んだスプリングが延びることによって、第1上型4aから第2上型5aが離れる方向に移動し、第1下型4bから第2下型5bが離れる方向に移動し、第1金型4と第2金型5とが所定の間隔を空けて配置される。
【0047】
その後、図4Dに示すように、製造装置3の初期位置に戻るように、第1金型4、第2金型5及び第3金型6が配置され、スプール2が設けられるパイプ1の製造方法が終了する。
【0048】
スプール2が設けられるパイプ1の製造工程には、スプール2の予備形状を成形する予備成形工程が含まれてもよい。なお、予備成形工程は、上述した成形工程の前、例えば、クランプ工程と成形工程との間で実行されてもよい。また、予備成形工程が実行された後のパイプ1を用いて、上述した配置工程からアンクランプ工程までの工程が実行されてもよい。
【0049】
<予備成形工程>
(拡管加工)
まず、図5Aに示すように、拡管部15、テーパ部16及び本体部17が成形されており、スプール2が成形されていない状態のパイプ1の第2端部11側に、拡管部15よりも更に径の大きい予備拡管部18を成形する。
【0050】
(縮管加工)
次に、図5Bに示すように、予備拡管部18におけるパイプ1の第2端部11側を縮管した縮管部19を成形することで、縮管部19と拡管部15との間にスプール2の予備形状である予備スプール20を成形する。
【0051】
その後は、上述した成形工程を得て、図5Cに示すように、予備スプール20を基にスプール2を成形する。
【0052】
[4.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(4a)本実施形態では、スプール2の成形後の引き抜き工程において、第3金型6が水平方向に沿ってパイプ1から引き抜かれるとき、スプール2が第1金型4及び第2金型5によって挟み込まれた状態が維持される。このため、第3金型6とパイプ1との間に生じ得る摩擦によって、第3金型6の移動方向にパイプ1を引っ張るせん断力が生じた場合にも、スプール2は当該せん断力による影響を受けにくい。換言すると、引き抜き工程において、スプール2が広がる方向へのせん断力がパイプ1に生じた場合にも、パイプ1を挟み込んだ第2金型5によってスプール2の動きが抑制される。したがって、本実施形態の製造方法では、パイプ1に成形されたスプール2の割れを生じにくくすることができるため、例えば図6に示すスプール2の成形後の断面のように、スプール2の頂部22の内側部分に割れは見られにくい。
【0053】
一方、本実施形態の製造装置とは異なり、例えば、第2金型5を有しない構成において第1金型4と第3金型6との間にスプール2aが成形される比較例の製造方法では、第3金型6が水平方向に沿ってパイプ1から引き抜かれるとき、スプール2aは金型によって挟み込まれた状態にない。このため、第3金型6とパイプ1との間に生じ得る摩擦によって、第3金型6の移動方向にパイプ1を引っ張るせん断力が生じた場合、スプール2aは当該せん断力による影響を受けやすい。換言すると、第3金型6の移動方向にパイプ1を引っ張るせん断力が生じた場合、スプール2aには広がる方向へ力が働く。したがって、比較例の製造方法では、パイプ1に成形されたスプール2aの割れが生じやすいため、例えば図7に示すスプール2aの成形後の断面のように、スプール2aの頂部22aの内側部分に亀裂Cが見られやすい。
【0054】
(4b)本実施形態では、スプール2の成形時に、パイプ1の内部に挿入された第3金型6の挿入部62とパイプ1の側壁12との間には隙間を有する。このため、第3金型6がパイプ1から引き抜かれるとき、パイプ1の内部に挿入された第3金型6の挿入部62とパイプ1の側壁12との間に隙間を有しない構成と比較して、第3金型6とパイプ1との間に生じ得る摩擦が小さくなりやすい。したがって、パイプ1に成形されたスプール2の割れをより生じにくくすることができる。
【0055】
(4c)本実施形態では、第1金型4と第2金型5とが反発力発生手段7を介して一体の構成である。このため、スプール2が設けられるパイプ1の製造装置3が大きくなりすぎることを抑制し、当該製造装置3の保管及び管理を容易にすることができる。
【0056】
(4d)本実施形態では、反発力発生手段7としてスプリング等の弾性部材が用いられる。このため、弾性部材の弾性力によって、所定の間隔を空けて一体に成形された第1金型4と第2金型5との間の距離を容易に縮めたり、広げたりすることができる。
【0057】
(4e)本実施形態では、予備成形工程によってスプール2の予備形状である予備スプール20が成形される。このため、成形工程において成形されるスプール2の形状及び高さを安定させることができる。また、予備スプール20の成形により、成形工程におけるスプール2の成形時の各金型に加わる付加を軽減することができる。更に、予備スプール20の成形により、スプール2の成形後のスプリングバック量を軽減することができる。また、予備スプール20の成形が拡管加工及び縮管加工によって行われるため、例えば転造加工やプレス加工で予備スプール20を成形する場合と比較して、スプール2の成形時の板厚の減少を抑制することができる。
【0058】
(4f)本実施形態では、水平方向に延びるようにパイプ1が配置された状態で、第1金型4の第1上型4a及び第1下型4bと、第2金型5の第2上型5a及び第2下型5bによってパイプ1が上下方向から挟み込まれ、第3金型6が水平方向に移動してスプール2が成形される。このため、長いパイプ1にスプール2を成形する場合に、鉛直方向に延びるようにパイプ1が配置された状態で、第3金型6が鉛直方向に移動する場合と比較して、パイプ1を広い範囲で第1金型4及び第2金型5によって挟み込まなくてもパイプが倒れにくい。したがって、長いパイプ1にスプール2を成形する場合に、製造装置3の大型化を抑制することができる。
【0059】
なお、引き抜き工程が引き離し工程に相当する。
[5.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0060】
(5a)上記実施形態では、第1金型4と第2金型5とが反発力発生手段7を介して接続されている構成を例示したが、例えば、第1金型4と第2金型5とは接続されていなくてもよい。
【0061】
(5b)上記実施形態では、第1金型4に形成される切欠き43によって、第1金型4と第2金型5との間にスプール2を成形するための溝45が形成される構成を例示した。しかし、例えば、第1金型と第2金型との間に溝を形成するような切欠きが第2金型に設けられていてもよい。また、例えば、第1金型及び第2金型のいずれにも切欠きが形成されない構成において、第1金型と第2金型との間にスプールが形成されてもよい。つまり、スプールの成形時に、第1金型の第2金型側の端面と第2金型の第1金型側の端面とが、それぞれスプールに当接することでスプールが成形される構成であってもよい。
【0062】
(5c)上記実施形態では、反発力発生手段7としてスプリング等の弾性部材が用いられる構成を例示したが、反発力発生手段の構成はこれに限定されるものではない。例えば、反発力発生手段の第1金型4から第2金型5が離れる機構は、シリンダーや磁石等を用いることで実現されてもよい。
【0063】
(5d)第3金型6の挿入部62と第2押圧部64とは、一体でなく、別体であってもよい。また、第3金型は、上記実施形態の第3金型6のようにパイプ1を内側と外側との両方から挟み込む構成でなくても、外側からのみ挟み込む構成であってもよい。つまり、第3金型は、挿入部のようなパイプ1の内部に挿入される構成を有しない構成であってもよい。
【0064】
(5e)上記実施形態では、スプール2が設けられるパイプ1の製造工程に予備成形工程が含まれる構成を例示したが、例えば、スプール2が設けられるパイプ1の製造工程に予備成形工程が含まれなくてもよい。
【0065】
(5f)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0066】
1…パイプ、2,2a…スプール、3…製造装置、4…第1金型、4a…第1上型、4b…第1下型、5…第2金型、5a…第2上型、5b…第2下型、6…第3金型、7…反発力発生手段、11…第2端部、12…側壁、13…外周面、14…内周面、15…拡管部、16…テーパ部、17…本体部、18…予備拡管部、19…縮管部、20…予備スプール、22,22a…頂部、41…第1内周面、42…第1当接面、43…切欠き、45…溝、51…第2内周面、52…第2当接面、53…第2押圧面、61…基部、62…挿入部、63…第1押圧部、64…第2押圧部、111…第2開口部、641…第3内周面、642…第3当接面、A…中心軸、C…亀裂。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7