(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】多弁尖の弁の電気紡績ステントレス製作のための二重構成要素マンドレル
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20231011BHJP
【FI】
A61F2/24
(21)【出願番号】P 2021180470
(22)【出願日】2021-11-04
(62)【分割の表示】P 2017545557の分割
【原出願日】2016-02-26
【審査請求日】2021-12-06
(32)【優先日】2015-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504279968
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ピッツバーグ - オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴィナイ バワー
(72)【発明者】
【氏名】ヨン ジェ チュン
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ ダモーレ
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム アール.ワグナー
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-505320(JP,A)
【文献】特開2006-158494(JP,A)
【文献】特表2012-501219(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0131965(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0207250(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁構造を作成する方法であって、
マンドレルと、該マンドレルに取り付けられた電着ターゲットとを、該マンドレルの回転軸の周りで回転させるステップであって、該ターゲットは、少なくとも1つの導電性の表面部分と少なくとも1つの非導電性の表面部分とを含む外面を備えるステップと、
弁構造を形成するために、生分解性の生体適合性ポリマー組成物のポリマーマトリックスを、回転する電着ターゲットの外面の前記少なくとも1つの導電性の表面部分および前記少なくとも1つの非導電性の表
面部分に電着させるステップと、
を含
み、
前記ポリマーマトリックスは、弁構造の1つ以上の異方性部分を生成するために、前記電着ターゲットの外面上の1つ以上の位置に方向的にバイアスをかけて堆積されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの導電性の表面部分が金属を含み、前記少なくとも1つの非導電性の表面部分が絶縁性ポリマー材料を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリマーマトリックスを電着させるステップは、堆積したポリマーマトリックスの少なくとも50%が前記ターゲットに対して周方向にバイアスされ、堆積したポリマーマトリックスの50%未満が前記ターゲットの遠位端に向かって長手方向にバイアスされるように、前記ポリマーマトリックスを堆積させることを含むことを特徴とする請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマーマトリックスの周方向にバイアスされた部分が前記ターゲットの凹状部分に堆積され、前記ポリマーマトリックスの長手方向にバイアスされた部分が前記ターゲットの前記凹状部分の間に位置する前記ターゲットの
隆起付近に堆積されることを特徴とする請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
前記ターゲットの前記凹状部分は、正常又は病理学的なヒト又は動物の僧帽弁、三尖弁、大動脈弁又は肺動脈弁の尖頭の形状及び大きさを有することを特徴とする請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記ターゲットに堆積される前記マトリックスは、ポリ(エステルウレタン)尿素(PEUU)、ポリ(エーテルエステルウレタン)尿素(PEEUU)、ポリ(エステルカーボネート)ウレタン尿素(PECUU)、ポリ(カーボネート)ウレタン尿素(PCUU)、α-ヒドロキシ酸由来のポリマー、ポリラクチド、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(L-ラクチド-コ-カプロラクトン、ポリグリコリック酸、ポリ(dl-ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(1-ラクチド-コ-dl-ラクチド)、ラクトンモノマーを備えるポリマー、ポリカプロラクトン、カーボネート結合を備えるポリマー、ポリカーボネート、ポリグリコネート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(グリコリド-コ-トリメチレンカーボネート)、ポリ(グリコリド-コ-トリメチレンカーボネート-コ-ジオキサノン)、ポリウレタン、ポリカーボネートウレタン、ポリエステルウレタン、エステル結合を備えるポリマー、ポリアルカノエート、ポリヒドロキシブチラート、ポリヒドロキシバレレート、ポリジオキサノン、ポリガラクチン、天然ポリマー、キトサン、コラーゲン、エラスチン、アルギン酸塩、セルロース、ヒアルロン酸、及びゼラチンの少なくとも1つを含む合成ポリマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記電着ターゲットは、
前記マンドレルの回転軸の周りに配置された支持部分と、
前記支持部分に接続された前記ターゲットの少なくとも1つの導電性の表面部分を形成する導電性本体であって、前記導電性本体は、複数の長手方向に延びる隆起部と、前記複数の隆起部の間の凹状部分とを含む導電性本体と、
前記ターゲットの少なくとも1つの非導電性の表面部分を形成する前記複数の隆起部の少なくとも一部を覆う非導電性カバーであって、前記導電性本体の前記凹状部分が覆われていないカバーと、を備えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記導電性本体が、(i)前記支持部分から長手方向に延びる前記複数の隆起部と、(ii)前記隆起部間の前記凹状部分とからなる導電性インサートを含み、非導電性カバーが、前記支持部分の少なくとも一部および前記複数の隆起部の少なくとも一部を覆う非導電性の層を備えることを特徴とする請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記非導電性カバーは、前記非導電性の層の少なくとも一部と、前記導電性インサートの前記複数の隆起部の少なくとも一部とを覆って絶縁する絶縁シースを備えることを特徴とする請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記導電性本体は、前記支持部分に取り付けられ、前記回転軸に沿って前記支持部分から長手方向に延びる少なくとも1つの弁尖部分を備え、前記少なくとも1つの弁尖部分は、
回転軸から半径方向に延びる3つの導電性隆起部によって画定され、隆起部ピークを有する3つの凹状の導電性部分と、
前記3つの導電性隆起部の一部を含む、前記支持部分に隣接し、前記支持部分から延びる第1の部分と、
前記3つの導電性隆起部の一部を含む前記支持部分と反対側の前記第1の部分から長手方向に延びる第2の部分と、
を備え、
前記第1の部分の導電性隆起部の部分の半径が、前記支持部分から前記第2の部分まで10%以下に減少し、前記第2の部分の導電性隆起部の部分の半径が少なくとも50%減少していることを特徴とする請求項
7に記載の方法。
【請求項11】
前記非導電性カバーは、前記第1の部分の隆起部分の隆起部ピークの少なくとも一部を覆って前記支持部分から延びる非導電性の層を備えることを特徴とする請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記導電性本体が、前記支持部分に取り付けられ、前記回転軸に沿って前記支持部分から長手方向に延びる少なくとも1つの弁尖部分を有しており、
前記少なくとも1つの弁尖部分が、
前記回転軸から半径方向に延びる2つの導電性隆起部によって画定され、隆起部を有する2つの凹状の導電性部分と、前記支持部分に隣接し、前記支持部分から延びる第1の部分と、を備えており
前記非導電性カバーは、前記支持部分から前記少なくとも1つの弁尖部分の前記隆起部ピークの少なくとも一部を覆って延びる非導電性の層を備えていることを特徴とする請求項
7に記載の方法。
【請求項13】
前記電着ターゲットから弁構造を除去するステップと、別々の遠位端を有する弁尖を形成するべく、前記弁構造をトリミングするステップと、をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記弁構造に細胞を播種することと、前記細胞が前記弁構造の少なくとも一部を被覆及び/又は浸潤するように、前記弁構造上で前記細胞を選択肢として培養することをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~
14のいずれか1項に記載の方法で得られたポリマー繊維のマトリックスから形成された人工弁
の製造方法であって、
前記人工弁は、
開口部を画定し、長手方向の軸を有する管状支持部分と、及び
該支持部分から長手方向に延在する少なくとも2つの弁尖であって、各弁尖が、凹状の中央部分と、該凹状の中央部分に関する周縁部分と、該支持部分に接続された近位端と、該支持部分に対して長手方向に遠位の遠位端とを有し、隣接する弁尖の周辺部分が、該支持部分で部分的に接合され、隣接する弁尖間に接合面を形成する、弁尖と、
を備えることを特徴とする人工弁
の製造方法。
【請求項16】
前記少なくとも2つの弁尖は、500kPaから500000kPaの範囲の曲げ係数、0から100の範囲の機械的歪み、及び/又は0から5000kPaの範囲の応力を有することを特徴とする請求項
15に記載の人工弁
の製造方法。
【請求項17】
前記人工弁の前記管状支持部分は、周方向に整列したポリマー繊維からなり、前記少なくとも2つの凹状の弁尖の凹状の中央部分は、異方性または等方性パターンのポリマー繊維からなることを特徴とする請求項
15に記載の人工弁
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2015年2月27日に出願された米国特許仮出願第62 / 126,040号の優先権を主張している。
【0002】
本開示は、概して、例えば、人工心臓弁及びその他の生体構造体の作成に有用なマンドレル構造及びポリマー電着法に向けられている。
【背景技術】
【0003】
先天性の弁欠損は、小児心臓病患者にとって依然として負担である。毎年8/1000人の幼児が先天性心不全で生まれ、約1,000,000人のアメリカ人に影響を与えている。弁修復/置換処置は、耐久性が限られている可能性があり、永続的な抗血栓形成療法(例えば、Coumadin、Pradaxa、Xareltoなど)を要する。最も重要なことには、心臓弁の修復又は置換のための現在の材料(ウシ心膜、熱分解チタンなど)は、成長又は再構築できないことによって制限されている。
【0004】
組織工学的弁は、身体的成長を受け、血栓形成性を低下させ、生理学的条件下で適切な接合レベルを有する生体構造を作製することによってこれらの欠点を克服する可能性を提供する。しかしながら、組織工学的弁は、望ましい分解特性及び生体力学的特性を有する生体適合性の足場(scaffold)材料の利用可能性によって依然として制限されている。組織工学の文献で入手可能な過去のインビボ研究の大部分は、種子/非種子の不織布(例えば、ポリグリコール酸(PGA):ポリ-L-乳酸(PLLA)ブレンド)の足場(scaffold)を含んでいたこれらの人工器官は、インビボでの経時的組織収縮、進行性石灰化、及び弁逆流を含むいくつかの制限によって影響を受けた。不定形の構造体、材料繊維構造に対する不在又は限定された制御はこれらの制限に対する最も重要な原因の1つである。
【0005】
特許文献1(国際公開第2011/150328)に提示されているようなエレクトロスピニング(電気紡績)された弁尖製造は、制御された異方性を有する弁の弁尖を製造する機会を提供している。しかしながら、平らな又は円筒形のターゲット上への従来の繊維の堆積は、天然の弁のコラーゲンのマイクロ構造を模倣している曲線状の繊維分布を得ること、天然の生体構造を模倣している凹形状の弁尖を静止時に作製すること、及び完全に組み立てられたマルチ弁尖のステントレス弁を製作することを許さない。同様に、複雑な形状への繊維の堆積は、弁尖の曲げ剛性(面外の力学)の制御、又は弁尖の機械的異方性(平面力学)に対する完全な制御を許さない。
【0006】
特許文献2(国際公開第2010/041944号)には、エレクトロスピン弁の製造方法が記載されている。しかしながら、記載された方法及び装置は、有用な人工弁の形成に必要とされるパラメータである、異方性、繊維方向、剛性及び厚さのような弁尖の物理的パラメータに対する優れた制御を備える統一された弁プラス導管構造の製造を許さない。
【0007】
様々な材料のエレクトロスピニングは、例えば、特許文献2(国際公開第2010/041944号)及び特許文献1(国際公開第2011/150328)、及び特許文献3(米国特許出願公開第2008/0268019号)及び特許文献4(米国特許出願公開第2008/0109070号)に記載されている。最も一般的な意味では、エレクトロスピニングのような電着は、電気的に帯電されたノズルから、反対の電荷を有するターゲットへのポリマー繊維の堆積であり、電場がターゲットへの繊維の形成と流動を生じさせる。ターゲットは、マンドレルと呼ばれる回転物体、又は回転しない表面であってもよい。回転運動を含む標準的な2次元又は3次元のステージ、ロボット、モータなどを使用するノズル及び/又はターゲットの動きは、ノズル及びターゲットの相対運動を生成させる。回転するマンドレルのターゲットのようなターゲットへ、ポリマー組成物の制御された電着を行うことは、重大な技術的制約をもたらす。当該ターゲット、例えば、マンドレルが、凹状部分(回転軸に向かって延びる窪み)を含むとき、ポリマーを供給しているノズルに対するマンドレルの回転及び長手方向の動きは、凹状部分面内における厚さ、密度、異方性及び繊維品質にわたる適切な制御を妨げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2011/150328
【文献】国際公開第2010/041944号
【文献】米国特許出願公開第2008/0268019号
【文献】米国特許出願公開第2008/0109070号
【文献】米国特許出願公開第2002/02390号
【文献】米国特許第4,902,508号
【文献】米国特許第4,956,178号
【文献】米国特許第5,281,422号
【文献】米国特許第5,352,463号
【文献】米国特許第5,372,821号
【文献】米国特許第5,554,389号
【文献】米国特許第5,573,784号
【文献】米国特許第5,645,860号
【文献】米国特許第5,771,969号
【文献】米国特許第5,753,267号
【文献】米国特許第5,762,966号
【文献】米国特許第5,866,414号
【文献】米国特許第6,890,562号
【文献】米国特許第6,890,563号
【文献】米国特許第6,890,564号
【文献】米国特許第6,893,666号
【文献】米国特許出願公開第2008/0260831号
【文献】米国特許第5,216,115号
【文献】米国特許公開第2011/0082545号
【非特許文献】
【0009】
【文献】"Biaxial Mechanical Evaluation of Planar Biological Materials" by M. Sacks in Journal of elasticity and the physical science of solids, 07-2000, Vol. 61, Issues 1-3, pp 199-246.
【文献】"In vitro hydrodynamics, cusp-bending deformation, and root distensibility for different types of aortic valve- sparing operations: Remodeling, sinus prosthesis, and reimplantation" by A. Erasmi et al. in The Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery Volume 130, Issue 4, October 2005, pp. 1044-1049
【文献】Stankus et al, Hybrid nanofibrous scaffolds from electrospinning of a synthetic biodegradable elastomer and urinary bladder matrix, J Biomater. Sci. Polym. Ed. (2008) 19(5):635-652.
【文献】Tailoring the degradation kinetics of poly(ester carbonate urethane)urea thermoplastic elastomers for tissue engineering scaffolds Biomaterials, Biomaterials 31 (2010) 4249- 4258
【文献】Design, synthesis, and preliminary characterization of tyrosine-containing polyarylates: new biomaterials for medical applications, J Biomater Sci Polym Ed. 1994;5(6):497- 510
【文献】A library of L-tyrosine-derived biodegradable polyarylates for potential biomaterial applications, part I: synthesis, characterization and accelerated hydrolytic degradation J Biomater Sci Polym Ed. 2009;20(7-8):935-55
【文献】Bourke、SLらのPolymers derived from the amino acid L-tyrosine: polycarbonates, polyarylates and copolymers with poly(ethylene glycol) Adv Drug Deliv Rev. 2003 Apr 25; 55(4):447-66
【文献】Xu C.Y., et al, Aligned biodegradable nano fibrous structure: a potential for blood vessel engineering, Biomaterials 2004 (25) 877-86.
【文献】Lee C.H., et al., Nanofiber alignment and direction of mechanical strain affect the ECM production of human ACL fibroblast, Biomaterials 2005 (26) 1261 - 1270.
【文献】"Characterization of the complete fiber network topology of planar fibrous tissues and scaffolds" Biomaterials 31 (20), 5345-5354 (2010).
【文献】"Biaxial Mechanical Evaluation of Planar Biological Materials" by M. Sacks in Journal of elasticity and the physical science of solids, 07-2000, Vol. 61, Issues 1-3, pp 199-246.
【文献】Mirnajafi A et. al., The flexural rigidity of the aortic valve leaflet in the commissural region. Journal of Biomechanics Volume 39, Issue 16, 2006, Pages 2966-2973
【文献】Journal of biomechanics 46(16)、2787-2794
【文献】"In vitro hydrodynamics, cusp-bending deformation, and root distensibility for different types of aortic valve-sparing operations: Remodeling, sinus prosthesis, and reimplantation" by A. Erasmi et al. in The Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery Volume 130, Issue 4, 2005年10月、1044-1049頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本明細書で提供される装置及び方法は、ターゲットの窪んだ部分への電着の優れた制御を可能にする、収集マンドレル設計のような電着ターゲットを導入することによってこれらの制限を克服する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
いくつかの態様では、装置は、円筒形表面及び凹状表面を備えているマンドレルを含んでいる。導電性及び非導電性又は非導電性の絶縁体材料をターゲット上にパターニングすることによって、ポリマーの堆積が同様にパターン化され得る。したがって、本明細書では、絶縁及び非絶縁表面を備える電着ターゲット、加えて、そのターゲットを使用して電着された物体を作成する方法が提供される。
【0012】
本明細書に記載された装置では、可変の形状(僧帽弁、大動脈弁、肺弁、三尖弁、又は病理学的奇形)及び可変の寸法である完全多弁尖、ステントレス弁補綴物を製作するのに、収集マンドレルが使用される。いくつかの態様では、本明細書に記載される設計は、(a)マンドレルの接線速度を変化させることによって、弁尖の機械的異方性(平面力学)を制御すること;(b)マンドレルの線速度を変化させることによって、弁尖の曲げ剛性(面外の力学)を制御すること;(c)弁尖の微小繊維方向を制御する(例えば、湾曲繊維、整列の主方向は腹部領域内で周方向であり、そして接合面領域に向かって軸方向に変化する)こと;(d)形状、厚さ及び大きさがヒト又は動物の健康又は病理学的な弁の生体構造を複製するように変えられる、生来の生体構造を模倣している凹状の弁尖を構築する可能性、及び(e)弁導管なしで、完全に組み立てられた多弁尖のステントレス弁を構築する可能性を提供する。
【0013】
本明細書に記載のエレクトロスピニングマンドレルでは、材料の堆積は、非導電性(例えば、絶縁性)材料を利用することによって、所望の領域にのみ集中される。以下の実施例では、使用された材料はアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)であり、そして導電性堆積物はアルミニウム(利用された材料:アルミニウム6061-T651)で作られている。特許文献2(PCT公開番号WO 2010/041944 A1)の実施形態のような以前の実施形態は、ポリマー注入に近接して放射状に材料が過剰に蓄積することによって影響を受ける。対照的に、本明細書で提供される装置及び方法は、弁尖の腹部領域に堆積物を集中させることによって、ステントレス弁の製造を可能にする。製造された弁尖の厚さの値は、40~300ミクロンの範囲である。
【0014】
いくつかの態様では、本明細書に記載の装置及び方法は、(a)非金属の構成要素(シールド又は絶縁体)及び金属のターゲットから作成された二重構成要素設計;(b)マンドレルの接線速度を変化させることによって、弁尖の機械的異方性(平面力学)を制御すること;(c)マンドレルの線速度を変化させることによって弁尖の曲げ剛性(面外の力学)を制御すること;(d)弁尖の微小繊維方向を制御する(例えば、湾曲繊維、整列の主方向は腹部領域内で周方向であり、そして接合面領域に向かって軸方向に変化する)こと;(e)本来の生体構造、形状及び寸法を模倣している凹状の弁尖を構築する能力が、ヒト又は動物の健康又は病理学的な弁の生体構造を複製するために変えられること;及び(f)弁導管なしで、完全に組み立てられた多弁尖のステントレス弁を構築する能力を提供する。
【0015】
いくつかの態様では、本明細書で提供される装置は、電着ターゲットを含む。ターゲットは、表面を含み、表面は、導電性及び非導電性部分のパターンを含み、ターゲットは回転軸を有するマンドレルに取り付けられ、スピンドルはターゲットの導電性部分に電気的に接続される。マンドレルは使用時に回転される。別の態様では、ターゲットは、マンドレルの回転軸の周りに配置された支持部、当該支持部から長手方向に延在する複数の隆起部及び隆起部間の複数の凹状部分を含む導電性インサート、及び当該支持部の少なくとも一部と当該隆起部の少なくとも一部の上の非導電性の層を備えている。
【0016】
いくつかの態様では、インサートは2つの凹状部分を含み、当該2つの凹状部分はマンドレルの回転軸の周りで対称又は非対称である。別の態様では、インサートの凹状部分は、正常又は病理学的なヒト又は動物の僧帽弁、三尖弁、大動脈弁又は肺動脈弁の尖頭(弁尖)の形状及び大きさなどの正常又は病理学的弁の弁尖の形状を有している。いくつかの態様では、三尖弁を作成するために3つの弁尖部分が使用される。別の態様では、2小尖頭弁(bicuspid valve)を作成するために2つの弁尖部分が使用される。
【0017】
いくつかの態様では、ポリマー繊維のマトリックスから形成された人工弁は、開口を画定し長手方向軸を有する管状(筒状を意味するが、円形、楕円形、又は長手方向軸に垂直な断面において任意の閉鎖形状を有することができる)の支持部分、及び当該支持部分から長手方向に延びる少なくとも2つの凹状の弁尖部を備え、各弁尖は、凹状の中央部分、当該凹状の中央部分の周りの周辺部、当該支持部分に連結された近位端、及び当該支持部分に長手方向に遠位の遠位端を備え、隣接する弁尖の周辺部分は、隣接する弁尖の間の接合面を形成する支持部分で及びそれに隣接して部分的に接合されている。
【0018】
いくつかの態様では、弁構造体を作製する方法は、生分解性で生体適合性のあるポリマー組成物のマトリックスを電着ターゲット上に電着することを含んでいる。
【0019】
組み立てられたマンドレル構造では、マンドレル、環状領域、及び隆起部が絶縁体ABSによって覆われている。マンドレルは、3つの部分、すなわち、絶縁体から作成されたシールド、導電性ターゲット、及び取り外し可能な軸方向の部品からなる。ポリ(エステルウレタン)尿素(PEUU)などのポリマーは、環状部分の絶縁カバーといくらかの重なりを伴って、ターゲットの導電性部分の周囲に電着される。マンドレルは、チャック内に配置され、そして回転され、長手方向に動かされる。いくつかの態様では、当該マンドレルが回転され、そして電着ノズルはマンドレルの周りに回転されない間に、ポリマーノズル及びマンドレルの空間的位置及び相対的配向が、手動で制御されるか、又は標準的なロボットやステージを用いてコンピュータによって制御されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本開示のこれら及び他の特徴及び特性のみならず、構造体の関連要素の動作及び機能の方法並びに部品の組み合わせ及び製造の経済性が、添付の図面を参照しての以下の説明及び添付の請求項を考慮することにより、より明らかになるであろう。これらの図面の全ては、本明細書の一部を形成し、同様の参照符号は様々な図の対応する部分を示している。しかしながら、図面は例示及び説明の目的のためのみのものであり、本発明の限界の定義を意図したものではないことが、明白に理解されるべきである。
【0021】
【
図1A】
図1Aは、本発明の一態様による、完全に組み立てられたマンドレルの二重構成要素、3つの弁尖バージョンの概略図である。
【
図1B】
図1Bは、
図1Aの二重構成要素マンドレルの分解図であり、左から右へ、非導電性のプラスチックシールド、主要収集ターゲット、導電性シャフト及び軸方向支持体を有している。
【
図1D】
図1Dは、
図1Aのマンドレルの3つの弁尖の心臓弁形状を有する導電性インサートの斜視図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明の1つの態様による、完全に組み立てられたマンドレルの二重構成要素、2弁尖バージョンの側面概略図である。
【
図2H】
図2Hは、本質的に
図2Fに示されるようなマンドレルに製造された人工僧帽弁の写真である。
【
図2I】
図21は、本質的に
図2Fに示されるようなマンドレルに製造された人工僧帽弁の写真である。
【
図2J】
図2Jは、縫合リングを含んでいる、
図2Eによるマンドレルに製造された人工三尖弁の写真である。
【
図3】
図3は、
図1Aのマンドレルで作られた工学的三尖弁の斜視概略図である。
【
図4B】
図4Bは、弁が閉位置にあるときの、
図2Aのマンドレルを用いて作製された工学的二尖弁の概略図である。
【
図4C】
図4Cは、弁が閉位置にあるときの、
図2Aのマンドレルを用いて作製された工学的二尖弁の概略図である。
【
図4D】
図4Dは、弁が開位置にあるときの、
図2Aのマンドレルで作られた工学的二尖弁の概略図である。
【
図4E】
図4Eは、弁が開位置にあるときの、
図2Aのマンドレルで作られた工学的二尖弁の概略図である。
【
図5】
図5の(A)乃至(D)は、マイクロ繊維の堆積プロセスを示している。
図5(A)は、ポリマー繊維の堆積前の二重構成要素マンドレルの写真画像である。
図5(B)は、3時間のポリマー繊維の堆積後、主要収集ターゲットへの選択的繊維の堆積を示す二重構成要素マンドレルの写真画像である。
図5(C)は、静止時に弁尖が接合してPBS(リン酸緩衝生理食塩水)に浸漬されている弁を示す、マンドレルから取り出された三弁尖の弁の上面図の写真画像である。
図5(D)は、マンドレルの位置及びその2つの運動様式、すなわち、マンドレルの回転速度ω、マンドレルの線速度υのみならず電圧発生器及び噴射器/ポンプ装置を示している三弁尖の心臓製作のためのエレクトロスピニング製造構成の概略図である。
【
図6A】
図6Aは、マンドレルから取り外された3弁尖の弁の側面の写真画像である。
【
図6B】
図6Bは、静止時に凹形状を示す切開された弁尖の写真画像である。このプロセスは、本明細書に記載された二重構成要素マンドレルの幾何学的形状によって規定される生理学的曲率を有する弁尖を生成する。
【
図7A】
図7Aは、堆積時間(各データ点についての独立した製造)に関係して本明細書に記載の二重構成要素マンドレルを用いて作成される工学的心臓弁の厚さ、及び天然のブタの三尖弁の対応するデータ点を示すグラフであり、データは、平均±標準誤差(mean±st.e)として呈示され、弁尖の厚さ対堆積時間を監視することによって、構築物の厚さに関するプロセスの拡張性を示している。
【
図7B】
図7Bは、弁尖領域にわたる天然のブタの三尖弁の厚さ分布の厚さマップを示す。厚さマップの比較(天然対人工)は、全表面にわたる同等の弁尖の厚さの値を示している。
【
図7C】
図7Cは、製作の3時間後の弁尖領域にわたる工学的な三尖弁の厚さ分布の厚さマップを示す。厚さマップの比較(天然対人工)は、全表面にわたる同等の弁尖の厚さの値を示している。
【
図8】
図8の(A)~(I)は、マンドレルの接線速度VI、V2、V3(異方性の制御)及びラスター用の速度RO、R1及びR2(曲げ係数の制御)を変化させて研究された9つの構成について、工学的な弁の代表的な写真画像を提供し、平面及び平面外機構における弁の弁尖を制御する異なる製造構成について、本明細書に記載のマンドレルの設計を採用することの実現可能性を示しており、マンドレルの設計は、弁の用途の関心作動領域(マンドレルの接線速度が0.3から3m/s、ラスター用の線速度が0から2.5cm/s)をカバーする9つの構成で検査された。
【
図9A】
図9Aは、マンドレルの接線速度(ω、異方性の制御)及びラスター速度(υ、曲げ係数の制御)、n = 3平均±標準誤差(n = 3 mean ± st.e)を変化させることによって得られた9つの構成について、等応力モードでの二軸引張試験で試験された工学的弁の面内機械的応答を示すグラフである。
【
図9B】
図9Bは、長手方向と円周方向との間の機械的歪み比として定義される異方性比(AR)が異方性のメトリック(計量基準)として利用されたのを示すグラフであり、AR対回転速度が、
図9Aにおいての結果を要約し、
図9Aにおける弁の構成並びに天然のブタの三尖弁の値を示している。天然の機構(~1.5m / s)を有する三尖弁を製作するのに必要な適切なマンドレルの速度は、ARの線形補間によって、0.3、1.5、3(m / s)において同定されている。
【
図9C】
図9Cは、非特許文献1("Biaxial Mechanical Evaluation of Planar Biological Materials" by M. Sacks in Journal of elasticity and the physical science of solids, 07-2000, Vol. 61, Issues 1-3, pp 199-246.)に以前に記載されたカスタムメード化された生物学的組織二軸試験装置及びプロトコルでもって生成されたデータを用いて、ブタの天然三尖弁のARを複製した工学的三尖弁の二軸応答(弁の半径方向=マンドレルの長手方向、弁の弁尖の周方向=マンドレルの周方向)を示すグラフである。試験は準静的条件下で、室温で行われ、試料は試験中にPBSに連続的に浸漬され、プレコンディショニングフリーフロート状態が基準形態として利用された後、400kPaのピークを有する等軸二軸プロトコルが採用された。
【
図10】
図10は、異なる値のマンドレルの接線速度(0.3、1.5、3(m / s))及びラスター速度(0、0.25、2.5[cm / s])、n = 3平均±標準誤差について弁尖の曲げ係数を示すグラフである。
【
図11A】
図11Aは、コラーゲンの2次高調波発生を獲得することによって同定されたコラーゲン繊維ネットワークを示す天然ブタの三尖弁微小構造の多光子顕微鏡画像を提供している。500μm×500μm×100μmの容積が、5つの異なる弁で、及び接合面(左上のTL及び右上のTR)、腹部領域(中央のC)及び2つ(中弁尖の左MLと中弁尖の右MR)の間の移行帯を含む弁の弁尖内の5つの異なる箇所で、分析された。整列の主な方向(n = 5の独立した弁尖)もまた、白い矢印で示されている。接合面から腹部領域への繊維の回転に注目すること。
【
図11B】
図11Bは、
図11Aと同じイメージング及びデジタル分析技術を用いて、工学的弁尖の多光子顕微鏡画像を提供している。
【
図12】
図12の(A)~(F)は、工学的な弁の弁尖の接合面及び縫合保持の生体外試験を示す写真画像を提供している。電気紡績(エレクトロスピニング)された弁が生体外で天然のブタ心臓の三尖弁位置に移植され、右心室が徐々に生理食塩水で満たされ、圧力値がMillar圧力トランスデューサ(mikro-Cath(商標)、Millar 社、Houston TX)により監視され、同時に、健常な天然ブタの弁(A、B、C)及びΔρ> 30 mmHgで適切な弁尖の接合及び適切な縫合保持を示している工学的な弁(D、E、F)について、接合している(coapting)弁尖の画像が取得された。
【
図13】
図13(A)及び(B)は、(A)最新の市販人工弁のダイナミクス(n = 5 Carpentier-Edwards(登録商標)Duraflex(商標))及び(B)工学的弁のダイナミクス(n = 3)のインビトロ試験における弁機能のグラフ表示を提供している。弁を横切る拍動流は、70ビート/分の一定周波数で動作する、市販の心室補助装置である胸部経皮VADシステムによって生成された。2つのカメラが連続的に弁の動きを検出し、圧力と流量がセンサによって記録された。オリフィス面積を検出するために、専用のMatlabコード(Mathworks(登録商標)社、Natick MA)を用いてデジタル画像処理が行われた。
図13(A)及び
図13(B)は、収縮期の間、それぞれ、Carpentier-Edwards(登録商標)及び工学的弁について、検出されたオリフィス面積(白)を示している。
図13(C)は、
図13(A)及び13(B)のCarpentier-Edwardsのバイオ人工弁及び工学的弁、それぞれ、の曲げ変形指数(BDI)の棒グラフ表示である。曲げ剛性のために広く採用されているメトリック(計量基準)であるBDI(非特許文献2("In vitro hydrodynamics, cusp-bending deformation, and root distensibility for different types of aortic valve- sparing operations: Remodeling, sinus prosthesis, and reimplantation" by A. Erasmi et al. in The Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery Volume 130, Issue 4, October 2005, pp. 1044-1049)参照)が、心臓拡張期の中央点で計算された。
図13(D)は、Carpentier-Edwardsのバイオ人工弁及び
図13(A)及び13(B)の工学的弁の幾何学的オリフィス面積比較(GEO)の棒グラフ表示であり、GEOは、ピーク収縮期において、(A)、(B)に示される画像処理から計算された。
図13(E)は、Carpentier-Edwardsのバイオ人工弁及び
図13(A)及び13(B)の工学的弁の最大収縮期圧の棒グラフ表示である。
図13(F)は、バイオ人工弁及び
図13(A)及び13(B)の工学的弁の平均収縮期圧の棒グラフ表示である。
図13(G)は、収縮期及び拡張期を含む完全なサイクル中のCarpentier-Edwardsのバイオ人工弁及び
図13(A)及び13(B)の工学的弁にわたる、平均圧力降下の棒グラフ表示である。
図13(H)は、収縮期及び拡張期を含む完全なサイクル中のCarpentier-Edwardsのバイオ人工弁及び
図13(A)及び13(B)の工学的弁にわたる、平均流量の棒グラフ表示である。
【
図14】
図14は、(A)40%グリセロール溶液を用いて血液粘度を模倣している、生理的な流れ条件下での弁機能評価のための流れデュプリケータ、(B)白い矢印が工学的弁を指している、工学的弁保持装置、及び(C)当該流れデュプリケータの概略図の写真表現を示し、ここで、1)はデスクトップコンピュータ、2乃至4)は圧力及び流れ信号取得システムを表し、5)は予圧力センサ、6)は流量計、7)はキャパシター、8)は圧力センサ、9)はフランジ付きの弁ホルダ、10)は側部カメラ、11)は胸部経皮VADシステム(Thoratec Corporation、Pleasanton、CA)、12)は正面カメラ、13)はVADコントローラである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本出願で特定される様々な範囲における数値の使用は、特に明記しない限り、記載されている範囲内の最小値及び最大値の両方に「約」という単語が付けられているかのように、近似値として記載されている。このようにして、記載された範囲の上下のわずかな変動を用いて、範囲内の値と実質的に同じ結果を達成することができる。また、他に示されない限りこれらの範囲の開示は、最小値と最大値の間のあらゆる値を含む連続的な範囲として意図されている。
【0023】
本明細書で使用される場合、用語「備えている(comprising)」、「備える(comprise)」又は「備えられている(comprised)」及びそれらの変形は、制限がされないことを意味する。用語「a」及び「an」は、1つ又は複数を指すことが意図されている。
【0024】
本明細書で使用される「ターゲット」という用語は、高分子材料が電着されるべき帯電物体の表面上の点、又はそれに隣接する表面上の点を意味し、そのため、ターゲットの表面上の全ての点又は対象物上の隣接する点において絶縁物が存在しない場合、電着が、電着の間にその点での電荷の存在によって影響される。そのようなものとして、ターゲットは、電気絶縁体がない場合、帯電した物体の表面のその部分における電荷が電着に影響を及ぼさない、帯電物体の表面の部分を含まない。
【0025】
本明細書中で使用される場合、創傷又は欠損の「治療」又は「治療する」とは、前駆細胞の誘引、創傷の治癒、欠損の矯正などを含む、所望の臨床的/医学的評価項目を達成する目的で、いずれかの適切な投薬計画、処置及び/又は組成物、デバイス又は構造物の投与法による患者への投与を意味している。
【0026】
本明細書中で使用される場合、用語「患者」又は「対象」は、ヒトに限定されないが、ヒトを含む動物界のメンバーを指し、そして「動物」はヒトを含むがこれに限定されないすべての哺乳動物をいう。
【0027】
生分解性ポリマー組成物は、ポリマー及びその分解生成物が、実質的に非発癌性で実質的に非免疫原性である許容可能な許容範囲内で細胞又は生物に対して実質的に非毒性であり、生物学的系において、例えば、実質的な毒性作用を伴わない生物(患者)である。生物系内の分解メカニズムの非限定的な例には、化学反応、加水分解反応、及び酵素的切断が含まれる。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「ポリマー組成物」は、1つ以上のポリマーを含む組成物である。クラスとして、「ポリマー」には、ホモポリマー、ヘテロポリマー-コ-ポリマー、ブロックポリマー、ブロックコポリマーが含まれるがこれらに限定されず、天然及び合成の両方が可能である。ホモポリマーは、1つのタイプのビルディングブロック又はモノマーを含み、一方、コポリマーは2種類以上のモノマーを含む。「(コ)ポリマー」という用語及び同様の用語は、ホモポリマー又はコポリマーのいずれかを指す。
【0029】
ポリマーは、そのモノマーがポリマー中に組み込まれている場合、記載されたモノマーを「備え」又は「それから由来している」。したがって、ポリマーが備える組み込まれたモノマーは、少なくとも、ポリマーの足場(scaffold)に取り込まれたとき、特定の基が失われ、及び/又は変性されるという点で、ポリマーに取り込まれる前のモノマーと同じではない。ポリマーは、その結合がポリマー中に存在する場合、特定のタイプの結合を備えていると言われる。
【0030】
本明細書に記載されているように、「繊維」は、細長い細身の糸状及び/又はフィラメント状の構造体である。「マトリックス」は、規則的に(例えば、織られた又は不織のメッシュで)又はランダムに配置された(典型的には、エレクトロスピニング(電気紡績)によって製造された繊維のマットが典型的である)要素の任意の2次元又は3次元配列であり、等方性又は異方性であってもよい。
【0031】
本明細書で使用される場合、用語「ポリマー」は、合成ポリマー成分及び生物学的ポリマー成分の両方を指す。「生物学的ポリマー」は、本明細書に記載の特定の細胞外マトリックス由来(ECM由来)の組成物の場合のように、哺乳動物又は脊椎動物の組織などの生物源から得ることができるポリマーである。生物学的ポリマーは、追加の処理工程によって修正され得る。ポリマーは、一般に、例えば、限定するものではないが、モノポリマー、コポリマー、ポリマーブレンド、ブロックポリマー、ブロックコポリマー、架橋ポリマー、非架橋ポリマー、直鎖状、分枝状、櫛状、星型、及び/又はデンドライト状のポリマー(類)を含み、ここで、ポリマーは、例えば、限定するものではないが、ヒドロゲル、多孔質メッシュ、繊維、織メッシュ、又はエレクトロスピニングによって形成された不織メッシュとしてのような不織メッシュの任意の有用な形態に形成され得る。
【0032】
「生分解性」又は「生腐食性」によって、一旦移植されそして体液及び組織に接触した状態に置かれたポリマーは、典型的には、及びしばしば好ましくは、時間、日、週又は月の期間にわたって、体液及び/又は組織との化学反応を介して部分的又は完全に分解することが意味されている。かかる化学反応の非限定的な例は、酸/塩基反応、加水分解反応、及び酵素的切断を含んでいる。ポリマーマトリックスの生分解速度は、有用な時間にわたってマトリックスが分解するように、操作され、最適化され、又は他の方法で調整されてもよい。典型的には、1つ又は複数のポリマーは、組織の機械的調整を最適化するために、ある時間にわたってその場で分解するように選択される。例えば、腹壁修復の場合、マトリックスが少なくとも1週間、好ましくはより長くにわたって溶解することが望ましい。より重要なことには、マトリックスは、少なくとも2~8週間又はそれ以上の期間のように、組織の再構築が起こるまで、その支持能力を保持しなければならない。
【0033】
本明細書に記載の弁構造は、任意の生体適合性材料から作成される。以下のいくつかの実施例では、弁構造は、連鎖延長剤としてプトレシン及び記載された2段階溶媒合成法を用いて合成されたウレタン、特にポリ(エステル-ウレタン)尿素(PEUU)から作成されている。弁構造は、エレクトロスピニング(電気紡績)によってPEUUを用いて製造された。PEUUの特徴には、制御可能な生分解性及び細胞接着性と組み合わされた高弾性及び機械的強度が含まれる。ポリマー組成物は、腹壁修復及び血管移植において、心臓部品として、多くのインビボシナリオでの使用を見出している。代替的な化学的性質は、ポリウレタンが付加された非血栓性化学成分を含み、非分解性ポリウレタンをその場で改造されない永久構造として使用することを許容する。追加の生分解性ポリマー組成物は当該技術分野において公知であり、記載されたPEUUと共に使用するか、又はその代わりに使用するのに適した強度及び弾性を示す。
【0034】
弁構造は、生分解性エラストマーポリマー成分及び/又は細胞外マトリックス(ECM)ゲルなどの生体高分子成分を選択肢として備えている。
【0035】
一態様では、弁構造は、合成ポリマー組成物から作成される。別の態様では、ポリマー組成物は、特許文献5(米国特許出願公開第2002/02390号)に記載されているように、合成ポリマーとECMゲルとを組み合わせている。ECMゲル成分は、(コロニー形成、増殖、浸潤、細胞生存率、分化、組織修復のうちの1つ以上を含むがこれらに限定されない)細胞増殖を促進するのに有用であるが、患者における構造的組織の修復足場として使用するには、不十分な強度を有する。合成ポリマー及びECMゲルが混合される場合、適切な引張強さ及び弾性を示しながら、優れた細胞浸潤を示すECMゲルに対する生分解性エラストマーポリマーの任意の比が使用されてもよく、例えば、ポリマー対ゲルの有用な比は、それらの間の増分を含んで70%-85%対15%-30%である。これは、エレクトロスピニング(電気紡績)によって、生分解性エラストマーポリマー及びECMゲルを共堆積させることによって達成することができる。例えば、合成生分解性エラストマーポリマーをエレクトロスピニングし、ECMゲルを噴霧、例えば、エレクトロスプレーする。
【0036】
最も広義には、1つの非限定的な実施例によってECMゲルを生成するために、ECM由来の足場(scaffold)材料、例えば、脱細胞化された又は失活された組織が、共有され、可溶化されてヒドロゲルを形成する。一実施例では、可溶化されたヒドロゲルは透析されない。可溶化は、エンドプロテアーゼトリプシン、キモトリプシン、ペプシン、パパイン及びエラスターゼなどの適切な分解酵素による消化によって達成され得る。特定の非限定的な実施例において、このようなゲルを作製する方法は、(i)細胞外マトリックスを粉砕すること、(ii)インタクトな、透析されていない及び/又は非架橋の細胞外マトリックスを、例えば約2.0のpHでの酸性溶液(例えば、0.01N HCl)内で消化溶液を生成すべく可溶化すること、(iii)中和された消化溶液を生成するために、消化溶液のpHを7.2~7.8に上昇させること、及び(iv)約25℃より高い温度でこの溶液をゲル化することを含んでいる。
【0037】
「ECM材料」は、細胞外基質含有組織から作成された材料であり、脱細胞化又は失活組織を含んでいる。ECM材料は、本明細書に記載の方法、組成物及びデバイスによるゲルを生成するために用いられてもよい(一般的には、特許文献6(米国特許第4,902,508号)、特許文献7(米国特許第4,956,178号)、特許文献8(米国特許第5,281,422号)、特許文献9(米国特許第5,352,463号)、特許文献10(米国特許第5,372,821号)、特許文献11(米国特許第5,554,389号)、特許文献12(米国特許第5,573,784号)、特許文献13(米国特許第5,645,860号)、特許文献14(米国特許第5,771,969号)、特許文献15(米国特許第5,753,267号)、特許文献16(米国特許第5,762,966号)、特許文献17(米国特許第5,866,414号)、特許文献18(米国特許第6,890,562号)、特許文献19(米国特許第6,890,563号)、特許文献20(米国特許第6,890,564号)、及び特許文献21(米国特許第6,893,666号)を見よ)。
【0038】
特定の実施例では、ECM物質は、限定されないが、ヒト、サル、ブタ、ウシ及びヒツジを含む哺乳類から、例えば脊椎動物の組織から、そしてこれに限定されずに作成された脱細胞化組織である。ECM材料は、限定されないが、膀胱、腸、肝臓、食道及び真皮を含む任意の器官又は組織から作成することができる。一実施例では、ECM材料は、膀胱組織から単離された脱細胞化組織である。ECM材料は、組織の基底膜部分を含んでも含まなくてもよい。特定の実施例において、ECM材料は、基底膜の少なくとも一部を含む。特定の実施例では、ECM材料は、例えば、ウシ心膜又はブタ弁の弁尖のような、ブタ、ウシ、ウマ、サル、又はヒトから得られる心膜又は弁の弁尖から作成される。
【0039】
一実施例として、摘出されたブタ膀胱から脱細胞化組織を単離して、膀胱マトリックス(UBM)を作成する。過剰な結合組織及び残留尿は、膀胱から除去される。漿膜、筋層外膜、粘膜下被膜及び筋層粘膜の大部分は、機械的摩耗によって、又は酵素処置、水和、及び摩耗の組み合わせによって除去することができる。これらの組織の機械的除去は、外層(特に、管腔外平滑筋層)及び外皮粘膜の内腔部分(上皮層)でさえも除去するべく、長手方向の拭き取り運動を用いた摩耗によって達成することができる。これらの組織の機械的除去は、例えば、Adson-Brownの鉗子及びMetzenbaumのハサミで腸間膜組織を除去し、そしてメスのハンドル又は湿ったガーゼで包まれた他の硬い物体での長手方向の拭き動作を用いて、筋層膜及び粘膜下組織を拭き取ることによって達成される。筋層粘膜の上皮細胞はまた、脱上皮化溶液、例えば、限定されないが高張食塩水中に組織を浸すことによっても解離することができる。得られたUBMは、筋層粘膜の基底膜及び隣接する固有層を含んでいる。
【0040】
別の実施例において、上皮細胞は、最初に、高張食塩水などの脱上皮化溶液中に、及び限定されないが、1.0 N生理食塩水中に、10分~4時間の範囲の期間、組織を最初に浸すことによって、最初に剥離される。高張食塩水への暴露は、下層の基底膜から上皮細胞を効果的に除去する。最初の剥離手順の後に残っている組織は、上皮基底膜及び上皮基底膜の管腔外の組織層を含んでいる。次いで、この組織をさらに処理して、管腔内組織の大部分が除去されるが、上皮基底膜は除去されない。外漿膜、外膜、平滑筋組織、粘膜下被膜及び筋層粘膜の大部分は、機械的摩耗によって、又は酵素処理、水和及び摩耗の組み合わせによって、残りの脱上皮組織から除去される。
【0041】
1つの実施例において、脱細胞化組織は、漿膜及び筋層の両方を含む外層を、メスのハンドル及び湿ったガーゼによる長手方向の拭き動作を用いて除去するべく、ブタの膀胱組織を摩耗することによって作成される。組織セグメントの外転に続いて、同じ拭き取り動作を用いて、内膜粘膜の内腔部分が下層組織から剥離される。粘膜下層の穿孔を防ぐために注意が払われるこれらの組織が除去された後、得られたECM材料は、主に粘膜下組織からなっている。
【0042】
ECM材料は、任意の有用な方法によって脱細胞化、滅菌及び/又は乾燥される。ECM材料は、内因性組織増殖を誘導する能力を失うことなく、いくつかの標準的方法のいずれかによって滅菌することができる。例えば、材料は、プロピレンオキシド又はエチレンオキシド処理、γ線照射処理(0.05から4mRad)、ガスプラズマ滅菌、過酢酸滅菌、又は電子ビーム処理によって滅菌することができる。材料はまた、タンパク質材料の架橋を引き起こすグルタルアルデヒドによる処理によって滅菌することもできるが、この処理は、材料を徐々に再吸収するか又は全く再吸収しないように物質を実質的に変化させ、より密接に類似した異なるタイプの宿主リモデリングを引き起こす造影的リモデリングではなく、瘢痕組織の形成又はカプセル化が含まれる。タンパク質材料の架橋はまた、カルボジイミド又はデヒドロサーマル又は光酸化法を用いて誘導することもできる。より典型的には、0.1%(v / v)過酢酸(σ)、4%(v / v)エタノール及び96%(v / v)滅菌水に、2時間浸漬することによってECMが消毒される。次いで、脱細胞化された組織は、PBS(pH = 7.4)で15分間2回洗浄され、そして脱イオン水で15分間2回洗浄される。
【0043】
小腸粘膜下組織すなわちSIS(small intestinal submucosa)に由来する市販のECM材料は、限定されないが、Surgisis(登録商標)、Surgisis-ES(登録商標)、Stratasis(登録商標)及びStratasis-ES(登録商標)(Cook Urological社; Indianapolis、Indiana)及GraftPatch(登録商標)(Organogenesis社;Canton、 Massachusetts)を含む。別の実施例では、ECM材料は真皮に由来している。市販の調製品は、限定されないが、Pelvicol(登録商標)(欧州では、Permacol(登録商標)として販売されている架橋ブタ皮膚コラーゲン、Bard社のMedical Division、Covington, GA)、Repliform(登録商標)(Microvasive社; Boston, Massachusetts)、及びAlloderm(登録商標)(LifeCell社、Branchburg、New Jersey)を含む。別の実施例では、ECMは膀胱に由来する。市販の作成物には、UBM(Acell 社、Jessup、Maryland)が含まれるが、これに限定されない。
【0044】
1つの非限定的な実施例において、脱細胞化組織は凍結乾燥され、粉砕され、次いで酸性分解酵素で可溶化される。特定の局面において、脱細胞化組織は、酸分解酵素での消化の前に、透析されず及び/又は架橋され(架橋方法に供され)ない。酸性分解酵素は、限定されないが、ペプシン又はトリプシンであり得、そして一例では、ペプシンである。脱細胞化された組織は、典型的には、例えば、0.01M HCl溶液(pH~2)中で、pH1.5と3の間の分解酵素に適した又は最適な酸性のpHで可溶化される。この溶液は、典型的には、組織の種類に応じて、混合(かき回す、攪拌、混ぜる、ブレンドする、回転させる、傾ける等)によって12から48時間で可溶化される。脱細胞化された組織が可溶化されると、pHは7.2~7.8に上昇し、一実施例によれば、pHは7.4に上昇する。NaOHを含む、ヒドロキシルイオンを含有する塩基のような塩基が、溶液のpHを上昇させるために、用いられ得る。同様に、生理学的pH及びイオン性条件のような、溶液を目標のpHにするため、又はゲルのpH及びイオン強度を目標レベルに維持するのを助けるために、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含むがこれに限定されない、等張緩衝液などの緩衝液が使用されてもよい。ゲル化は30℃以上の温度で、そして温度が生理的温度(37℃)に近づくにつれさらに急速に進むが、中和された消化溶液は、37℃に近い温度、典型的には、25℃以上の任意の温度でゲル化されている。この方法は典型的には、ゲル化前の透析工程を含まず、比較可能なコラーゲン又は透析されたECM作成物よりも典型的には37℃でゆっくりとゲル化するより完全なECM様マトリックスを生じる。
【0045】
ECMゲルは、例えば、液体又はヒドロゲルとして噴霧されることができ、本明細書に記載のように、他のポリマーと組み合わされてもよい。ECMゲルは、その温度が上昇されるとヒドロゲルを形成し、溶液が噴霧される温度より上又は下のLCST(下限臨界溶液温度)を有する可能性があり、したがってECMゲルが噴霧される温度より高い、等しい、又はそれより低い温度でゲル転移が起こることを意味する逆ゲリング(reverse-gelling)である。例えば、ヒドロゲルが室温(すなわち、約20~25℃)以下で噴霧され、ECM材料のLCSTが噴霧温度よりも高いが、例えば、37℃未満である場合、材料は噴霧され得、温めたときに後でゲル化するであろう。例えば、その技術的開示内容が、参照により本明細書に組み込まれている特許文献22(米国特許出願公開第2008/0260831号)を参照のこと。また、非特許文献3(Stankus et al, Hybrid nanofibrous scaffolds from electrospinning of a synthetic biodegradable elastomer and urinary bladder matrix, J Biomater. Sci. Polym. Ed. (2008) 19(5):635-652.)も参照されたい。非特許文献3(Stankusの論文)では、PEUUが可溶化されたUBM ECMと混合され、電気紡績された。
【0046】
一般に、本明細書に記載される解剖学的人工構造体に適したポリマー成分は、生体適合性であり生分解性であり得る任意のポリマーである。特定の非限定的な実施例において、生分解性ポリマーは、以下のモノマー;グリコリド、ラクチド、カプロラクトン、ジオキサノン及びトリメチレンカーボネートのうちの1つ以上を備えるがこれらに限定されない、ホモポリマー、コポリマー及び/又はポリマーブレンドを備え得る。他の非限定的な実施例において、ポリマーは、例えばこれに限定されないが、足場の分解速度及び/又は足場からの治療剤の放出速度(該当する場合)を制御するのに有用である不安定な化学的部分を備え、その非限定的な例は、エステル、無水物、ポリ酸無水物、又はアミドを含む。あるいは、ポリマーは、いったん現場に配置されると、化学反応を受け易いビルディングブロックとして、ポリペプチド又は生体高分子を含むことができる。1つの非限定的な実施例では、ポリマー組成物は、酵素不安定性をポリマーに付与し、アミノ酸配列のアラニン-アラニン-リシンを含むポリペプチドを備えている。別の非限定的な実施例において、ポリマー組成物は、ECMに由来する生体高分子成分を備え得る。例えば、以下でさらに詳細に説明するように、ポリマー組成物は、その場に存在するコラゲナーゼがコラーゲンを分解することができるように、生体高分子コラーゲンを備えてもよい。本明細書で使用されるポリマーは、変形力を加えると形状が変化し、変形力が除去されたときに元の形状に実質的に戻ることを意味する、エラストマーであってもよい。
【0047】
別の非限定的な実施例において、合成高分子成分は、加水分解的、化学的、生化学的、及び/又はタンパク質分解的に不安定なグループを備え、限定されない例として、エステル部分、アミド部分、無水物部分、特異的ペプチド配列、及び一般的ペプチド配列を含んでいる。
【0048】
生物分解性ポリ(エステルウレタン)尿素(PEUU)、ポリ(エーテルエステルウレタン)尿素(PEEUU)、ポリ(エステルカーボネート)ウレタン尿素(PECUU)及びポリ(カーボネート)ウレタン尿素(PCUU)を含む、多数の生体適合性であり生分解性であるエラストマー(コ)ポリマーが知られ、細胞成長マトリックスの作成に有用であるとして確立されている。一般に、有用な(コ)ポリマーは、ポリラクチド、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(L-ラクチド-コ-カプロラクトン)、ポリグリコール酸、ポリ(ジ-ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(1-ラクチド-コ-dl-ラクチド)を含むアルファハイドロキシ酸から誘導されたモノマー;ポリヒドロキシブチラート、ポリヒドロキシバレレート、ポリジオキサノン及びポリガラクチンを含むエステルから誘導されたモノマー;ポリカプロラクトンを含むラクトンに由来するモノマー;ポリカーボネート、ポリグリコネート、ポリ(グリコリド-コ-トリメチレンカーボネート)、ポリ(グリコリド-コ-トリメチレンカーボネート-コ-ジオキサノン)を含むカーボネートから誘導されたモノマー;ポリウレタン、ポリ(エステルウレタン)尿素エラストマーを含むウレタン結合を介して結合されたモノマーを備えている。
【0049】
特定の態様では、本明細書に記載の構造を作製するために使用されるポリマーはまた、患者の体内で分解する場合に治療剤を放出する。例えば、ポリマーの個々のビルディングブロックは、ビルディングブロック自体が分解プロセスを通じてその場で放出されるときに、治療上の利益を提供するように選択され得る。一実施例では、ポリマービルディングブロックの1つは、細胞増殖及び細胞分化を引き起こす物質として関与するプトレシンである。
【0050】
生分解性ポリマーは、ホモポリマー、コポリマー、及び/又はポリマーブレンドであってもよいがこれらに限定されない。特定の実施例によれば、ポリマーは、限定されないが、グリコリド、ラクチド、カプロラクトン、ジオキサノン及びトリメチレンカーボネートの1つ以上のモノマーを備えている。特定の実施例によれば、ポリマーは、α-ヒドロキシ酸、ポリラクチド、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(L-ラクチド-コ-カプロラクトン)、ポリグリコリック酸、ポリ(dl-ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(1-ラクチド-コ-dl-ラクチド)由来のポリマー、ラクトンモノマー、ポリカプロラクトンを備えるポリマー、カーボネート結合、ポリカーボネート、ポリグリコネート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(グリコリド-コ-トリメチレンカーボネート)、ポリ(グリコリド-コ-トリメチレンカーボネート-コ-ジオキサノン)を備えるポリマー、ウレタン結合、ポリウレタン、ポリ(エステルウレタン)尿素、ポリ(エーテルエステルウレタン)尿素エラストマー、ポリ(カーボネートウレタン)尿素、ポリカーボネートウレタン、ポリエステルウレタンを含むポリマー、エステル結合、ポリアルカノエート、ポリヒドロキシブチラート、ポリヒドロキシバレレート(polyhydroxyvalerate)、ポリジオキサノン、ポリガラクチン、天然ポリマー、キトサン、コラーゲン、エラスチン、アルギン酸塩、セルロース、ヒアルロン酸及びゼラチンを含むポリマーの1つ以上が挙げられる。一実施例では、ポリマー組成物は、約25重量%~約75重量%であるコラーゲンを有するポリ(エステルウレタン)尿素を含んでいる。ポリマー組成物はまた、エラスチン-コラーゲン又はそれらの混合物を備えてもよく、例えば、限定ではなく、一実施例によるのと約同量である約25重量%~約75重量%のコラーゲンとエラスチンとの混合物を含んでいる。1つの非限定的な実施例において、ポリマーはポリカプロラクトンである。別の実施例では、ポリマーはポリカプロラクトンジオールからなる。さらに別の実施例では、ポリマーは、ポリカプロラクトン、ポリ(エチレングリコール)及びポリカプロラクトンブロックを備えるトリブロックコポリマーである。
【0051】
別の非限定的な実施例において、ポリマー組成物は、ECMに由来する生体高分子成分を含む。例えば、ポリマー組成物は、生体高分子コラーゲンを含んでいてもよく、その結果、その場に存在するコラゲナーゼはコラーゲンを分解することができる。一実施例として、ポリマー組成物はコラーゲン及びエラスチンの一方又は両方を含み得る。コラーゲンは、一般的なECM成分であり、典型的には、多くの合成生分解性ポリマーよりも速くインビボで分解される。従って、ポリマー組成物中のコラーゲン含量の操作は、インビボでの生物侵食速度を改変する方法として使用することができる。コラーゲンは、ポリマー組成物中に、限定されないが、約2重量%~約95重量%の範囲、例えば、約25重量%~約75重量%の範囲であり、その間の全ての範囲及び点を含み、約75重量%及び約42.3重量%を含む約40重量%~約75重量%を含む任意の有用な範囲で存在してもよい。エラストチンが、弾性を高めるために、ポリマー組成物に組み込まれてもよい。エラスチンは、ポリマー組成物中に、限定されないが、約2重量%~約50重量%を含み、それらの間の全ての範囲及び点を含み、約40重量%及び約42.3重量%からを含み、全ての整数及びそれらの間の全ての点及びそれらの等価物を含む任意の有用な範囲で存在してもよい。1つの非限定的な実施例において、コラーゲン及びエラスチンは、ポリマー組成物中にほぼ等しい量で存在する。別の実施例では、ポリマー組成物中のコラーゲン及びエラスチン含量の合計は、約2重量%~約95重量%の範囲、例えば約25重量%~約75重量%であり、その間の全ての範囲及び点を含み、約75重量%及び約42.3重量%を含む約40重量%~約75重量%を含む全ての有用な範囲である。
【0052】
1つの非限定的な実施例において、ポリマー組成物は、生分解性ポリ(エステルウレタン)尿素エラストマー(PEUU)を備えている。PEUUは、ジオールをジイソシアネートと反応させてプレポリマーを形成し、次いでプレポリマーをジアミンと反応させることによって製造することができる。このようなPEUUの非限定的な例は、ポリカプロラクトンジオール(Mw 2000)及び1,4-ジイソシアナトブタンから、プトレシンなどのジアミン鎖延長剤を使用して製造されたエラストマーポリマーである。1つの非限定的な例、又はPEUUポリマーを作成する方法は、二段階重合プロセスであり、これにより、ポリカプロラクトンジオール(Mw 2000)、1,4-ジイソシアナトブタン及びジアミンが、2:1:1のモル比で組み合わされる。プレポリマーを形成するための第一段階では、DMSO(ジメチルスルホキシド)中の1,4-ジイソシアナトブタンの15重量%溶液が、DMSO中のポリカプロラクトンジオールの25重量%溶液と連続的に撹拌される。次いで、オクタン酸第一スズが加えられ、混合物は75℃で3時間の反応が許容される。第2工程では、プレポリマーが、鎖を伸長させ、ポリマーを形成するべくジアミンと反応させられる。一実施例では、ジアミンはプトレシンであり、撹拌しながら滴下され、室温で18時間反応が許容される。一実施例では、ジアミンはリジンエチルエステルであり、トリエチルアミンを含むDMSOに溶解され、プレポリマー溶液に添加されて、75℃で18時間反応が許容される。二段階重合プロセスの後、ポリマー溶液は蒸留水中に沈殿される。次に、湿ったポリマーは、未反応モノマーを除去すべく、イソプロパノールに3日間浸漬される。最後に、ポリマーは、真空下、50℃で24時間乾燥される。
【0053】
別の非限定的な実施例において、ポリマー組成物は、ポリ(エーテルエステルウレタン)尿素エラストマー(PEEUU)を備えている。例えば、限定するものではないが、PEEUUは、ポリカプロラクトン-b-ポリエチレングリコール-b-ポリカプロラクトントリブロックコポリマーを、1,4-ジイソシアナトブタン及びプトレシンと反応させることによって製造することができる。1つの非限定的な実施例において、PEEUUは、1,4-ジイソシアナトブタン:トリブロックコポリマー:プトレシンの2:1:1反応物化学量論を使用する2段階反応によって得られる。1つの非限定的な例によれば、トリブロックポリマーは、ポリ(エチレングリコール)及びε-カプロラクトンを第一錫オクトエート(stannous octoate)と、窒素環境下、120℃で24時間反応させることによって作成することができる。次いで、トリブロックコポリマーは、エチルエーテル及びヘキサンで洗浄され、次いで50℃の真空オーブン中で乾燥される。プレポリマーを形成するための第1段階では、DMSO中の1,4-ジイソシアナトブタンの15重量%溶液が、DMSO中のトリブロックコポリマーの25重量%溶液と連続的に撹拌される。次いで、オクタン酸第一スズ(stannous octoate)が加えられ、そして混合物は75℃で3時間反応が許容される。第2の工程では、撹拌しながらプトレシンがプレポリマー溶液に滴下して加えられ、室温で18時間反応が許容される。次いで、PEEUUポリマー溶液は蒸留水で沈殿される。 湿ったポリマーは、未反応モノマーを除去すべく、イソプロパノールに3日間浸漬され、
50℃で24時間真空乾燥される。
【0054】
別の非限定的な実施例において、ポリマー組成物は、例えば、Hong et alの非特許文献4( Tailoring the degradation kinetics of poly(ester carbonate urethane)urea thermoplastic elastomers for tissue engineering scaffolds Biomaterials, Biomaterials 31 (2010) 4249- 4258)に記載されているポリ(エステルカーボネート)ウレタン尿素(PECUU)又はポリ(カーボネート)ウレタン尿素(PCUU)を備えている。ポリ(エステルカーボネートウレタン)尿素(PECUU)は、例えば、ポリカプロラクトン(PCL)及びポリ(1,6-ヘキサメチレンカーボネート)(PHC)のブレンドされた軟質セグメント及び1,4-ジイソシアナトブタンの硬質セグメント(BDI)を使用して、プトレシンによる鎖伸長を伴って合成される。異なる物理的特性を達成するために、異なるモル比のPCL及びPHCが使用されてもよい。プトレシンは、二段階溶媒合成法によって鎖伸長剤として使用される。一実施例において、(PCL + PHC):BDI:プトレシンのモル比は、1:2:1と画定されている。PCLとPHCの可変モル比(例えば、100/0(PEUUを生じる)、75/25、50/50、25/75及び0/100(PCUUを生じる))がアルゴン保護した3つ口フラスコのDMSOに完全に溶解され、次いでBDIがSn(Oct)2の4滴に続いて溶液に加えられる。フラスコは、70℃の油浴に入れられる。3時間後、プレポリマー溶液が室温で冷却され、そして次に、プトレシン/ DMSO溶液が撹拌された溶液に滴下される。最終ポリマー溶液濃度は、約4%(w / v)になるように制御される。次いで、フラスコが油浴に入れられ、70℃で一晩保持される。ポリマーは、過剰量の冷たい脱イオン水中に沈殿され、次いで60℃で3日間真空乾燥される。上記で画定された異なるPCL / PHCモル比から合成されたポリウレタン尿素は、PEUU、PECUU 75/25、PECUU 50/50、PECUU 25/75及びPCUUとそれぞれ称される。実際には、この方法を用いた最終製品の収率は約95%である。
【0055】
ジアミン及びジオールは、本明細書に記載の(コ)ポリマー組成物を作成するための有用なビルディングブロックである。上記のようなジアミンは、構造「H2N-R-NH2」を有し、「R」は脂肪族又は芳香族炭化水素又は芳香族及び脂肪族領域を含む炭化水素である。炭化水素は直鎖又は分枝鎖であってもよい。有用なジアミンの例は、プトレシン(R =ブチレン)及びカダベリン(R =ペンチレン)である。有用なジオールには、ポリカプロラクトン(例えば、Mw 1000-5000)、種々の寸法のポリカプロラクトン-b-ポリエチレングリコール-b-ポリカプロラクトントリブロックコポリマーを含むポリカプロラクトン-PEGコポリマーなどのマルチブロックコポリマーが含まれる。有用なジオールのための他の構築ブロックは、グリコリド(例えば、ポリグリコリック酸(PGA))、ラクチド、ジオキサノン及びトリメチレンカーボネートを含むが、これらに限定されない。ジイソシアネートは、一般構造OCN-R-NCOを有し、「R」は脂肪族又は芳香族炭化水素又は芳香族及び脂肪族領域を含む炭化水素である。炭化水素は直鎖又は分枝鎖であってもよい。
【0056】
さらなる例において、ポリマー組成物は、ポリエチレンテレフタレート(PET、例えば、DACRON(登録商標))を含み得る。注目すべきことに、PETは上記のコポリマーよりも生分解性が低く、より剛性が高い。PET足場構造は、本明細書に記載のPEUU及び他のポリマー組成物に関して本明細書に記載された方法で本質的に作製される。ポリマー濃度及び注入速度は、以下の実施例で使用されるように、PET組成物の異なる性質、例えば限定なく、PETについては、12mL / h注入速度のHFIP中20%w / vに適合するように変更することができる。
【0057】
他の実施例において、ポリマー組成物は、ポリアリレートチロシン(TPA)を備える。PETと同様に、TPAは、上記のポリウレタンコポリマーよりも生分解性が低く、また、より剛性である。TPAの足場構造体は、PEUU及び他のポリマー組成物に関して本明細書に記載されている方法で本質的に作られる。ポリマー濃度及び注入速度は、例えば、限定なく、20mL /hの注入速度でHFIP中12%w / vのTPAについてのTPA組成物の異なる性質に対応するように変更されてもよい。チロシンポリアリレートは、一般に、脂肪酸及びチロシン由来のジフェノールから作成される。有用な脂肪酸の非限定的な例には、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、及びジカルボン酸塩化物又は無水物が含まれる。チロシン由来のジフェノールの非限定的な例には、アルキルが、例えば、エチル、ヘキシル及びオクチルの1つであるデスアミノチロシル-チロシンアルキルエステル(DTE)が含まれる。一例として、ポリ(DTE-コ-27.5DTコハク酸エステル)が使用される。TPA及びTPAの製造方法は、例えば、有用なTPAを開示し、その技術的開示内容が参照により本明細書に組み込まれている特許文献23(米国特許第5,216,115号)及び特許文献24(米国特許公開第2011/0082545号)に記載されている。TPA組成物及びこれらの組成物を製造及び使用する方法を開示するさらなる参考文献は、Fiordeliso、Jらの非特許文献5(Design, synthesis, and preliminary characterization of tyrosine-containing polyarylates: new biomaterials for medical applications, J Biomater Sci Polym Ed. 1994;5(6):497- 510)、Huang、Xらの非特許文献6(A library of L-tyrosine-derived biodegradable polyarylates for potential biomaterial applications, part I: synthesis, characterization and accelerated hydrolytic degradation J Biomater Sci Polym Ed. 2009;20(7-8):935-55)及びBourke、SLらの非特許文献7(Polymers derived from the amino acid L-tyrosine: polycarbonates, polyarylates and copolymers with poly(ethylene glycol) Adv Drug Deliv Rev. 2003 Apr 25; 55(4):447-66)を含んでいる。
【0058】
別の実施例では、少なくとも1つの治療剤が、本明細書に記載された足場(scaffold)又は組成物に、それが患者に移植される前に、又は他の方法で患者に投与される前に加えられる。一般に、治療剤は、構造体にコーティングされ、埋め込まれ、吸い込まれ、吸収され、又はそうでなければ、付着され、又は構造体に組み込まれるか、組み入れられ、又は患者に治療上の利益をもたらすであろう薬剤に組み入れられる、全ての物質を含む。そのような治療剤の非限定的な例としては、抗菌剤、成長因子、皮膚軟化剤、レチノイド、及び局所ステロイドが挙げられる。各治療剤は、単独で、又は他の治療剤と組み合わせて使用することができる。例えば、限定するものではないが、神経栄養作用因子を備える構造体又は神経栄養作用因子を発現する細胞は、脊椎のような中枢神経系の重要な領域に近い創傷に適用され得る。あるいは、治療剤は、ポリマーが処理されている間に、ポリマーとブレンドされてもよい。例えば、治療剤は、溶媒(例えば、DMSO)に溶解され、処理中にポリマーブレンドに添加されてもよい。別の実施例では、治療剤は、担体ポリマー(例えば、ポリ乳酸-グリコール酸微粒子)と混合され、続いてエラストマーポリマーと処理される。治療剤を担体ポリマー又はエラストマーポリマー自体と混合することによって、治療剤の放出速度が、ポリマー分解速度によって制御され得る。
【0059】
特定の非限定的な実施例において、治療剤は、任意に組換え技術を用いて作成され得る、神経栄養因子又は血管形成因子などの成長因子である。増殖因子の非限定的な例には、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、酸性繊維芽細胞増殖因子(aFGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、ヒト血管内皮増殖因子-165(hVEGF165)、血管内皮増殖因子A(VEGF-A)、血管内皮増殖因子B(VEGF-B)、肝細胞増殖因子(HGF)、インスリン様成長因子1及び2(IGF-1及びIGF-2)、血小板由来増殖因子(PDGF)、間質由来因子1α(SDF-1α)、神経成長因子(NGF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、ニューロトロフィン-3、ニューロトロフィン-4、ニューロトロフィン-5、プレオトロフィンタンパク質(神経突起伸長促進因子1)、ミッドカインタンパク質(神経突起伸長促進因子2)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、腫瘍脈管形成因子(TAF)、コルチコトロピン放出因子(CRF)、トランスフォーミング成長因子α及びβ(TGF-α及びTGF-β)、インターロイキン-8(IL-8)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インターロイキン、及びインターフェロンが含まれる。神経栄養因子及び血管新生因子を含む様々な成長因子の市販製剤は、R&D Systems社、Minneapolis、Minnesota; Biovision社、Mountain View、California; ProSpec-Tany TechnoGene 社、Rehovot、Israel;及びCell Sciences(登録商標)社、Canton、Massachusettsから入手可能である。
【0060】
特定の非限定的な実施例において、治療剤は、限定されるものではないが、イソニアジド、エタンブトール、ピラジナミド、ストレプトマイシン、クロファジミン、リファブチン、フルオロキノロン、オフロキサシン、スパルフロキサシン、リファンピン、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ダプソン、テトラサイクリン、エリスロマイシンアントラキノン、パロモマイシン、ジクロザリル、アシクロビル、トリフルオロウリジン、フォスカネット、ペニシリン、ゲンタマイシン、ガンシクロビル、イアトロナゾール、ミコナゾール、Zn-ピリチオン、及び、塩化物、臭化物、ヨウ化物及び過ヨウ素酸塩などの銀塩のような抗菌薬剤である。
【0061】
特定の非限定的な実施例において、治療剤は、限定なく、サリチル酸、インドメタシン、インドメタシン三水和物ナトリウム、サリチルアミド、ナプロキセンコルヒチン、フェノプロフェン、スリンダク、ジフルニサル、ジクロフェナク、インドプロフェン、ナトリウムサリチルアミドなどの非ステロイド性抗炎症剤;抗炎症性サイトカイン;抗炎症性タンパク質;ステロイド性抗炎症剤;又はヘパリンのような抗凝固剤;ニトロ-オレイン酸又はニトロ-共役リノール酸のようなニトロ-脂肪酸である。創傷治癒及び/又は組織再生を促進する可能性がある他の薬剤もまた含まれ得る。
【0062】
本明細書に記載の構造体は、好ましくは、生分解性のエラストマーポリマーのエレクトロスピニング、及びECMゲル及び/又は適切な場合には血液製剤又は他の液体の噴霧、例えば、エレクトロスプレーによる同時堆積によって作製される。他の化合物又は成分が、吸収、吸着、混合などの任意の方法によって、本明細書に記載されるような構造体に組み込まれてもよい。
【0063】
堆積された生分解性のエラストマーポリマーは、典型的には多孔質である。本明細書で使用される場合、用語「気孔率」は、ポリマー組成物内の全ての細孔の容積とポリマー組成物全体の容積との間の比を指す。例えば、85%の気孔率を有するポリマー組成物は、孔を含有するその容積の85%及びポリマーを含有するその容積の15%を有するであろう。特定の非限定的な実施例において、構造体の気孔率は、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、又は90%、又はそれらの間の増分である。別の非限定的な実施例では、構造体の平均細孔寸法は0.1~300ミクロン、0.1~100ミクロン、1~25ミクロンであり、それらの間の増分を含む。限定ではなく例として、細菌及び他の病原体に対する障壁として作用する構造体は、0.5ミクロン未満又は0.2ミクロン未満の平均孔径を有し得る。一実施例では、本明細書に記載の構造体は、エレクトロスピニング(電気紡績)によって製造される。したがって、エレクトロスピニング溶液のポリマー濃度を変化させることによって、又はノズルからターゲットまでのスピニング(紡績)距離を変化させることによって、気孔寸法又は気孔率を調節することが、しばしば、有利である。例えば、限定するものではないが、平均細孔寸法は、エレクトロスピニング(電気紡績)に使用される懸濁液内のポリマー成分の量を増加させることによって、増加させることができ、その結果、より大きな繊維径及びより大きな細孔寸法となる。別の非限定的な実施例では、ノズルからターゲットまでの紡績距離を増加させることによって平均細孔寸法を増加させることができ、その結果、繊維とより緩やかなマトリックスとの間の接着性を低下させる。ECMゲルが、エレクトロスピニング(電気紡績)中に共に堆積される場合、堆積されたポリマー中の細孔の多く(すなわち、細孔又は隙間の大きな割合)がECMゲルで満たされる。
【0064】
特定の態様において、エレクトロスピニングは、生分解性のエラストマーポリマー及び場合によりECMゲル及び/又は哺乳動物血液製剤、培地緩衝溶液、培地、薬物製品などの他の液体を堆積させるために使用される。最も簡単な意味では、エレクトロスピニング(電気紡績)は、電位によって引き起こされるポリマー繊維などの液体組成物のターゲット表面への堆積によって引き起こされる。エレクトロスピニング法は、組織工学の分野において周知であり、本質的に下記のようにして行われる。エレクトロスピニングは、天然の細胞外マトリックス(ECM)のスケール及び繊維性に類似した構造体の作製を可能にする。ECMは、繊維、細孔、及びサブミクロン及びナノメートル寸法スケールでの他の表面特徴部から構成されている。このような特徴部は、移動及び配向などの合成物質との細胞相互作用に直接に影響を及ぼす。エレクトロスピニング(電気紡績)はまた、配向された繊維の製造が、固有の異方性を有する構造体、又は構造体の異なる部分で様々な異方性を有する構造体をもたらすことを可能にする。これらの整列された構造体は、細胞の成長、形態学及びECMの産出に影響し得る。例えば、Xu その他は、ポリ(L-ラクチド-コ-ε-カプロラクトン)繊維との平滑筋細胞(SMC)の整列を見出した。非特許文献8(Xu C.Y., et al, Aligned biodegradable nano fibrous structure: a potential for blood vessel engineering, Biomaterials 2004 (25) 877-86.)を参照のこと。Lee その他は、整列された非生分解性ポリウレタンを機械的刺激に提案し、そして整列された足場上で培養された細胞が、ランダムに組織化された足場上のそれらよりも多くのECMを産出したことを示した。非特許文献4Z2( Lee C.H., et al., Nanofiber alignment and direction of mechanical strain affect the ECM production of human ACL fibroblast, Biomaterials 2005 (26) 1261 - 1270.)を参照のこと。
【0065】
エレクトロスピニングのプロセスは、ニードル又はピペット先端及び計量ポンプのような小さなオリフィスが備えられたリザーバ内に、ポリマー含有流体(例えば、ポリマー溶液、ポリマー懸濁液又はポリマー溶融物)を入れることを含んでいる。高電圧源の一方の電極はまた、他方の電極が、ターゲット(典型的にはコレクタスクリーン又は回転マンドレル)と電気的に接続されて配置されつつ、ポリマー含有流体又はオリフィスと電気的に接続されて配置される。エレクトロスピニングの間、ポリマー含有流体は、溶液又はオリフィスへの高電圧(例えば、約3から15kV)の印加によって荷電され、その後、安定した流れを提供する計量ポンプによって小さなオリフィスを通して押し出される。オリフィスにおけるポリマー含有流体は、通常、表面張力のために半球形状を有するが、高電圧の印加が、オリフィスでの半球形状のポリマー含有流体がテイラー円錐(Taylor cone)として知られている円錐形状を形成すべく、拡張させる。ポリマー含有流体及び/又はオリフィスに十分に高い電圧が印加されると、荷電されたポリマー含有流体の反発静電力が表面張力を克服し、帯電した流体のジェットがテイラー円錐の先端から放出され、典型的には、-2~-10kVの間にバイアスされているターゲットに向けて加速される。選択肢として、ポリマー含有流体の荷電されたジェットの軌道を導くべく、印加バイアス(例えば、1~10kV)を有する集束リングが使用されてもよい。荷電された流体のジェットがバイアスされたターゲットに向かって移動するとき、複雑な鞭打ち運動及び曲げ運動を経験する。流体がポリマー溶液又は懸濁液である場合、溶媒は、典型的には、飛行中に蒸発し、バイアスされたターゲット上にポリマー繊維を残す。流体がポリマー溶融物である場合、溶融ポリマーは、飛行中に冷却されて凝固し、バイアスされたターゲット上に、ポリマー繊維として収集される。ポリマー繊維がバイアスされたターゲット上に蓄積すると、不織の多孔質メッシュがバイアスされたターゲット上に形成される。ある条件下、例えば、十分な粘度を欠く溶液及び/又はある公差でエレクトロスピニングされた溶液の場合、繊維は形成されないが、噴霧が形成され、繊維の代わりに離散液滴がターゲット上に堆積される。これは、エレクトロスプレーである。
【0066】
エレクトロスピニングされた構造体、例えば、エラストマーの足場(scaffold)の特性は、エレクトロスピニング(電気紡績)条件を変化させることによって調整することができる。例えば、バイアスされたターゲットがオリフィスに比較的接近している場合、結果として生じるエレクトロスピニングされたメッシュは、繊維の一部の領域が「ビード様」の外観を有するように、不均一に厚い繊維を含む傾向がある。しかしながら、バイアスされたターゲットがオリフィスからさらに離れて移動されると、不織メッシュの繊維は、より均一な厚さになる傾向がある。さらに、バイアスされたターゲットは、オリフィスに対して移動することができる。特定の非限定的な実施例では、バイアスされたターゲットは、不織メッシュの繊維が互いに実質的に平行であるように、規則的な周期的なやり方で前後に移動されるこの場合には、得られる不織メッシュが、繊維に垂直な方向と比較して、繊維に平行な方向の歪みに対してより高い抵抗性を有することができる。他の非限定的な実施例では、バイアスされたターゲットが、オリフィスに対してランダムに動かされ、その結果、不織メッシュの平面における歪に対する抵抗は等方性である。ターゲットはまた、回転マンドレル上でエレクトロスピニングされてもよい。この場合、不織メッシュの特性は回転速度を変えることによって変えることができる。エレクトロスピニング(電気紡績)構造体の特性はまた、エレクトロスピニングシステムに印加される電圧の大きさを変えることによって変化させることができる。1つの非限定的な実施例において、エレクトロスピニング装置は、12kVにバイアスされたオリフィス、-7kVにバイアスされたターゲット、及び3kVにバイアスされた集束リングを含んでいる。さらに、有用なオリフィス直径は、0.047インチ(0.12 cm)(I.D.)であり、有用な目標距離は約23cmである。変化させることができる他のエレクトロスピニング条件には、例えば、限定なく、ポリマー溶液の供給速度、溶液濃度、ポリマー分子量、インジェクタ‐マンドレル間隙の距離、並びにCNN制御システムを介してのインジェクタ - マンドレルの相対軌道が含まれる。
【0067】
さらに詳細には、回転マンドレルに関して、少なくとも一部が異方性であるマトリックス又は物品である異方性マトリックスが、マンドレル上にエレクトロスピニング(電気紡績)によって、繊維の堆積をランダムな等方性配向から離れる方向にバイアスすることによって作成され、特定の配向における繊維配向の非ランダムなバイアスに帰する、例えば、周方向のバイアスでもって(堆積された繊維の少なくとも一部分が周方向に非ランダムに配向され、異方性を生じる)、又は長手方向のバイアスでもって(堆積された繊維の少なくとも一部分が、長手方向に非ランダムに配向され、異方性を生じる)。繊維バイアスは、ターゲットとポリマー源(例えば、リザーバのオリフィス、ニードル、ピペット先端など)との相対的な移動によって、電着された物品に導入され得る。例えば、マンドレルのターゲットは、異なる程度の周方向バイアスを生成するために、異なる速度で回転されてもよい。マンドレルのターゲット及び/又はポリマー源は、様々な程度の長手方向バイアスを発生させるべくエレクトロスピニング(電気紡績)しながら、異なる速度(サイクル)及び振幅で長手方向に移動、例えば、往復運動されてもよい。例えば、
図10Bに示されるように、図示されたシステムでは、1.5m / sの回転速度が、天然の異方性に一致する異方性比(AR、より剛性の高い軸の機械的歪みによって除された最も柔軟な軸間の比として定義される機械的異方性の共通のメトリック(計量基準))を発生させる。マンドレルの回転速度、及びマンドレルの長手方向の動き、及び/又はポリマー源は、当業者によりコンピュータによって容易に制御され得る。
【0068】
繊維配向の1つの尺度は、繊維配向指数( orientation index)と呼ばれる。配向指数は、D'Amoreらの非特許文献10("Characterization of the complete fiber network topology of planar fibrous tissues and scaffolds" Biomaterials 31 (20), 5345-5354 (2010))に定義されている。配向指数は、cos 2(θ)(COS OI)の全ての繊維セグメントにわたる平均から得ることができ、ここで、θは、繊維セグメントと想定される整列の方向との間の角度を表す。 本明細書に記載されるマトリックスの異方性部分は、0.5~0.8の範囲の配向指数を有する。
【0069】
特定の実施例では、2つ以上のノズルを用いてエレクトロスピニング(電気紡績)が行われ、各ノズルは異なるポリマー溶液の供給源である。ノズルは、得られる不織ポリマーメッシュの物理的及び化学的特性を調整するために、異なるバイアス又は同じバイアスでバイアスされてもよい。さらに、多くの異なるターゲットを使用することができる。平らで板状のターゲットに加えて、ターゲットとして、マンドレル又は回転ディスクを使用することが考えられる。
【0070】
エレクトロスピニングがポリマー懸濁液を使用して行われる場合、懸濁液中のポリマー成分の濃度はまた、エラストマー足場の物理的特性を改変するために、変化されてもよい。例えば、ポリマー成分が比較的低い濃度で存在する場合、エレクトロスピニングされた不織メッシュの得られる繊維は、ポリマー成分が比較的高濃度で存在する場合よりも小さい直径を有する。理論によって制限されることを望むものではないが、より低い濃度の溶液はより低い粘度を有し、オリフィスを通るより速い流れをもたらして、より薄い繊維を生成すると考えられる。当業者は、所望の特性の繊維を得るために、ポリマー濃度を調節することができる。ポリマー成分の濃度の有用な範囲は、1wt%~25wt%、4wt%~20wt%、及び10wt%~15wt%であり、それらの間の増分を含めてすべての範囲である。
【0071】
1つの非限定的な実施例では、構造体は、ECMゲル及び/又は他の液体をエレクトロスプレーするとともに、合成ポリマー成分及び生物学的ポリマー成分を備えるポリマー懸濁液を共エレクトロスピニングすることによって製造される。別の非限定的な実施例において、構造体のポリマー成分は、1つのノズルからの合成ポリマー成分と、別のノズルからの生物学的ポリマー成分を備えるポリマー懸濁液とを備えるポリマー懸濁液を、エレクトロスピニング(電気紡績)することによって製造される。ポリマー懸濁液に適用されるべき高電圧の有用な範囲の非限定的な例は、0.5~30kV、5~25kV、及び10~15kVである。
【0072】
存在する場合、構造体のECMゲル成分は、ポリマーのエレクトロスピニングと同時に噴霧(例えば、圧力噴霧)されるか又はエレクトロスプレーされる。同様に、湿式エレクトロスピニング(電気紡績)層の液体成分は、ポリマー成分と同時に噴霧又はエレクトロスプレーされる。
【0073】
人工心臓弁は、一般に2つの部分を含んでいる。第1の支持部分は、環状(リングを形成するが、必ずしも円又は円筒のような特定の幾何学的形状を画定する必要はない)であり、例えば、縫合及び固定用の構造体、並びに人工弁を通る血流のための開口部を提供する、心臓弁の取り付け点として提供されている。第2の部分は、弁尖が開口を通る第1の方向への血流を可能にする開構成と、弁尖が開口を通る第1の方向とは反対の第2の方向に移動する血流を制限する閉構成との間で、支持部分に対して移動可能な2つ以上の可撓性弁尖を備えている。弁尖は、隣接する弁尖と、接合面を形成するために支持部分に直接隣接するそれらの縁の部分で接合され、弁が開いているときに、血液が弁を通って流れるのを可能にするために、支持部分の遠位部分では接合されていない。弁が閉鎖されているとき、弁尖は凹状であり、凹状部分が支持部分の開口の中心軸に向かって延び、弁尖はシールを形成するべく、隣接する弁尖に接触又は接合していることを意味する。別段の指示がない限り、本明細書に記載のマンドレル及び心臓弁構造体に関して、凹状とは、回転、長手方向、又は中心の軸に向かって湾曲又は延在していることを意味し、凸状とは、回転、長手方向、又は中心の軸から離れて外方に湾曲又は延在していることを意味する。
【0074】
図1Aから
図1Fは、本明細書に記載のような三尖弁人工器官の作成に有用なマンドレルの一例の、異なる見方を示している。
図1Aを参照すると、エレクトロスピニング(電気紡績)により三尖弁人工器官の作成に有用なマンドレル10が提供されている。
図1Aにおいて、マンドレル10は、非導電性及び導電性の表面を有し、そして
図1Bの分解図に示されるように、非導電性シース20、導電性インサート30、インサート30に電気的に接続される導電性ロッド40、及びロッド40に電気的に接続される取り外し可能な軸方向部材50を備えている。回転軸が、
図1Bに点線で示されている。マンドレル10の要素は、マンドレルの回転軸の周りに配置される。
図1Bは、マンドレル10の分解図であり、マンドレル10の個々の要素を示している。マンドレル10は、回転軸すなわち長手方向軸を有し、そして半径方向又は半径は、回転軸上の任意の点に対して垂直である。マンドレル10の半径は、回転軸から垂直に測定される。長手方向は、長手方向軸に平行な方向である。マンドレルの円周は、長手方向軸を中心として長手方向軸に垂直な円の境界であり、そして円周方向は円周に沿った方向である。
【0075】
図1Bから
図1Fを参照するに、非導電性シース20は、シャフト部分21、半径を有する円筒形部分22、及び円筒形部分22から長手方向に延びる長手方向突出部23を含んでいる。長手方向突出部23は、円筒形部分22への取り付け部からそれらの先端部24まで円周方向幅において先細になっている。長手方向突出部23は、それらの半径が円筒部22への取り付け部から先端部まで減少するように内向きにバイアスされ(inwardly-biased)ている。内向きのバイアスによる半径の減少は、円筒形部分の半径の10%を超えない(すなわち、先端部24の半径は、円筒形部分の半径の少なくとも90%、例えば、91%92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%である)。1つの代替的な実施形態では、長手方向突出部23は、内側にバイアスされていない。長手方向突出部23が円筒形部分22から先端部24まで延在するときの半径の輪郭は、湾曲しているか円弧状であるように示されているが、直線状であってもよい。インサート30の円筒状部分の穴(不図示)と嵌合して、インサート30をシース20内に方向付ける隆起部25が示されている。隆起部25は図示されているが、シース20内でのインサート30の配向を可能にし、そして本明細書に記載されるようなマンドレル10の機能を妨げない限り、任意の有用な形状又は構成を有することができる。マンドレル10の回転軸周りの質量の分布は、好ましくは、対称的、又は実質的に対称的、すなわち、釣り合わされている。インサート30は、金属のような導電性材料から製造される。インサート30は、
図1Aに示されるように、シース20内に嵌合する。インサート30は、円筒形部分31、第1の部分32、及び第1の部分32から円筒形部分31の反対側に長手方向に延びる第2の部分33を備えている。第1の部分32及び第2の部分33は、それらがシース20の長手方向突出部23の内側表面と接触するように、円筒形部分31から長手方向に延び、そして長手方向突出部23の内側半径よりわずかに小さい半径を有する隆起部34を備え、結果として、インサート30がシース20内に挿入されたとき、シース20の長手方向突出部23は、インサート30の第1の部分32において、インサート30の隆起部34を少なくとも部分的に覆い且つ絶縁する。第1の部分32の隆起部34は、10%を超えない、例えば、インサート30の円筒形部分31の半径の1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10%以下で減少する半径を有する凹状の弧状輪郭を有している。すなわち、インサート30の円筒部31及び隆起部34の半径は、内側の半径の90%から100%、95%から100%、又は99%から100%の間の増分を含み、シース20の円筒状部分22の表面に形成されている。一例では、隆起部34は、円筒形部分31の半径よりも小さい半径を有している。隆起部34は、ピーク35を有し、そしてインサート30の第2の部分33において、隆起部34は、円形又は放物線状の輪郭のような凹状の弓状の輪郭37を有する第1の部分32からインサート30の先端部36まで減少する半径を有している。長手方向突出部23及び隆起部34の「輪郭」とは、例えば、まずインサート30の円筒状部分31から第2部分33への、及び次に、第1部分32から先端部35への隆起部34についてのそれらの特徴部の半径の長手方向における変化を意味する。代わりに、第2部分33の隆起部34は直線的な輪郭を有する。インサート30の第1及び第2の部分32及び33はまた、隆起部34の間に湾曲した凹状領域38を含んでいる。インサート30の同じ隆起部34の両側の隣接する凹状領域38の表面は、インサート30の第2の部分33の少なくとも一部においてほぼ平行である。「ほぼ平行」とは、表面が必ずしも完全に平行ではなく、人工心臓弁を製造するためのポリマー組成物の電着のターゲットとして使用される場合、閉じた位置で互いに接触するコプラチン化(coaptating)弁尖を生成することを意味する。凹状領域(concave)及び図示された弁尖について描写された形状は、「弁尖形状」とも呼ばれこれは、凹状領域の幾何学的形状が、二尖又は三尖の心臓弁の弁尖の形状を模倣していることを意味している。
【0076】
図2Aから2Dは、本明細書に記載されるような三尖弁人工器官の作成に有用なマンドレルの一例の異なる図を示している。
図2Aから
図2Cを参照するに、マンドレル110が提供されている。マンドレル110は、
図1Bのマンドレル10に対して示されるような回転軸を本質的に有し、そして補綴用二尖弁を形成するために使用される点を除いて、
図1Aのマンドレルと同様の構造を含み、非導電性の絶縁性シース120、導電性インサート130、インサート130に電気的に接続される導電性ロッド140、及びロッド140に電気的に接続される導電性の取外し可能な軸方向部品150を含んでいる。
【0077】
図2Bから2Dを参照するに、非導電性シース120は、シャフト部分121、半径を有する円筒形部分122、及び円筒形部分122から長手方向に延びる長手方向突出部123を含んでいる。円筒状部分122への取り付け部から先端部124まで円周方向の幅が狭くなるように先細りになっており、
図1A-1Fのマンドレル10とは異なり、長手方向の突出部123は、内向きにバイアスされていない。しかしながら、別の態様(図示されていないが、本質的に
図1A~1Fのマンドレル10に示されている)では、長手方向の突出部123は、それらの半径が円筒部122への取り付け部から先端部まで減少するように、内向きにバイアスされている。内向きのバイアスによる半径の減少は、円筒形部分の半径の10%以下である(すなわち、先端部124の半径は、円筒形部分の半径の少なくとも90%、例えば91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%である)。内向きにバイアスされるとき、長手方向突出部123が円筒形部分122から先端部124まで延びるにつれての半径の輪郭は、湾曲される、弧状、又は直線状であり得る。シース120をインサート130と整列させるために、インサート130の円筒形部分における穴に嵌り合う突出部は示されていないが、
図1Cに関して説明された通りである。マンドレル110の回転軸の周りの質量の分布は、好ましくは、対称的又は実質的に対称的、すなわち、釣り合わされている。インサート130は、金属のような導電性材料から製造される。インサート130は、
図2Aに示されるように、シース120内に嵌合する。インサート130は、円筒形部分131、及び円筒形部分131から長手方向に延びる第1の部分132を備えている。第1の部分132は、それらがシース120の長手方向突出部123の内側表面と接触するように、円筒形部分131から長手方向に延び、そして長手方向突出部123の内側半径よりわずかに小さい半径を有する隆起部134を備え、結果として、インサート130がシース120内に挿入されたとき、シース120の長手方向突出部123は、インサート130の第1の部分132においてインサート130の隆起部134を少なくとも部分的に覆って且つ絶縁する。第1の部分132の隆起部134は、円筒形部分131と同じ半径を有する直線として描かれているが、
図1Aのマンドレル10と同様に、代わりに内側にバイアスされ、そして10%を超えない、例えば、インサート130の円筒形部分131の半径の1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10%以下の減少する半径を有する凹状の弧状輪郭を有していてもよい。すなわち、インサート130の円筒部131及び隆起部134の半径は、内側の半径の90%から100%、95%から100%、又は99%から100%の間の増分を含み、シース120の円筒状部分122の表面に形成されている。一例では、隆起部134は、円筒形部分131の半径よりも小さい半径を有している。上述のように、長手方向突出部123及び隆起部134の「輪郭」は、例えば、隆起部134が円筒部131から長手方向に延びるとき、これらの特徴部の半径の長手方向における変化を意味する。インサート130の第1の部分132はまた、隆起部134の間に湾曲した凹状領域138を含んでいる。インサート130の同じ隆起部134の両側の隣接する凹状領域138の表面は、人工心臓弁を製造するためのポリマー組成物の電着のターゲットとして使用される場合、ターゲットが閉じた位置で互いに接触する接合弁尖を生成するように、円筒部分に対して末端側でほぼ平行である。上記のように、凹状領域及び描出された弁尖について描写された形状は、「弁尖形状」とも呼ばれ、凹状領域の幾何学的形状は、二尖又は三尖の心臓弁の弁尖の形状を模擬している。
【0078】
一態様では、電着ターゲットの第1部分は、円筒部分と実質的に同じ半径を有している。一態様では、電着ターゲットは、回転軸の周りに対称的に間隔を置いて配置された隆起部を含んでいる。
【0079】
図2Eから
図2Gは、本明細書に記載のマンドレルの代替の態様を示す。
図2Eは、シース120と、円筒形部分の周りに半径方向に延在する縫合リング125とを有する(明確化のために特定の参照番号は省略されている)、本質的に
図1Aに示されるような、マンドレル111を示している。マンドレル上に作成される結果としてのポリマーマトリックス弁構造体に追加の材料を提供するために、本明細書に記載の任意のマンドレル設計において、半径方向に延在する縫合リングを含めることができる。半径方向に延在する縫合リングは、長手方向軸線に垂直に延びるように示されているが、長手方向軸線に対して垂直に延びる必要はない。
図2Fは、二尖弁の作成のための
図2Aのマンドレルの変形例を示している。マンドレル112は、本質的に
図2Aに示される(明確化のために特定の参照番号は省略されている)ように、非導電性シース120及びインサート130を含むが、インサート130の第1の部分は半径方向に湾曲されており、そしてシース120は、インサートの遠位縁部123'の上を含み、第1の部分の周囲に亘って延びている長手方向の突出部123を含んでいる。
図2Gは、
図1Aと実質的に同じ構造体を示し(明確にするために特定の参照符号は省略されている)、寸法がより小さいが非導電性シース120、及び第2の部分の隆起部123'を含み、インサートの隆起部全体を覆う長手方向突出部123を含んでいる。
図2H及び
図21は、
図2Fによるマンドレル上に製造された二尖弁の底面及び上面を示している。
図2Jは、縫合リングを含む、
図2Eのマンドレル上に製造された三尖弁の写真である。
【0080】
図1A~
図1F及び
図2A~
図2Gに示されたマンドレル構造は単なる例示である。マンドレルは、任意の有用な形状及び構成を有することができ、例えば、マンドレルは、
図1A~
図1F及び
図2A~
図2Gに示されている組立体により生成されるパターンに対して、同じパターン又は同様のパターンを生成すべく、その一部に堆積された非導電性コーティングを有した単一の導電性材料から製造されてもよい。
【0081】
人工心臓弁は、本明細書で説明するように、マンドレル上へのポリマー繊維の電着によって作成される。得られた構造体はマンドレルから取り外され、そして、開口部が弁尖の間に形成されること、及び適切に接合している弁尖を生成するために接合面(commissure)が所望の長さになるのを保証すべく、必要に応じて切り取られる(trimmed)。エレクトロスピニング(電気紡績)によって製造されるマトリックスは、優先的に、100μm~400μmの厚さを有している。円筒形部分の直径は生来の心臓弁の直径であり、当業者が理解できるように、マンドレルの円筒形部分の半径を変えることによって変化させられる。同様に、ARは、0~500kPa及び0~40%ひずみのそれぞれ1スパンの応力及びひずみ値に対応するブタ及びヒトの弁AR = 1~3について、測定又は推定されるARの全範囲をカバーするように変更することができる。最後に、天然組織の曲げ弾性係数の範囲(1000~20000)kPaも、ラスター(マンドレルの直線運動)用の速度を変化させることにより、カバーすることができる。
【0082】
別の態様において、人工三尖弁210が
図3に示されている。弁210は、長手方向軸222を画定する支持部分220と、弁210を貫通する開口225と、支持部分220の遠位端234から長手方向に延在する3つの凹状の弁尖230とを備え、各弁尖230は、凹状の腹部すなわち中央領域235と隣接する弁尖230を接合している接合面236を備えている。中央領域235及び接合面236の繊維マトリックスは、中央領域235及び接合面236において異なる繊維配向を有する異方性であり、中央領域235における繊維配向は接合面236におけるよりも周方向である。
【0083】
別の態様では、
図4Aから
図4Eに示される二尖弁340が提供されている。弁340は、繊維のマトリックスから形成され、長手方向軸342及び開口を画定する支持部分341と、支持部分341から長手方向に延在する2つの凹状の弁尖343とを備え、各弁尖部分は、中央領域345及び弁尖を接合する接合面346を備えている。
図4B及び
図4Dは、それぞれ、閉位置及び開位置における長手方向軸に沿う二尖弁340の上面図を提供している。
図4C及び
図4Eは、対応する
図4B及び4DにおけるXに沿っての弁340を示している。
図4B及び
図4Cは、閉鎖構成の弁340を示し、
図4D及び
図4Eは、血液が矢印の方向に流れる開放構成の弁を示している。二尖弁の弁尖は、一方の弁尖が他方の弁尖よりも大きい状態で、半径方向に湾曲した輪郭を有していることに留意すべきである。
【0084】
本明細書に記載される弁構造の任意の態様において、円筒状部分の特定は、弁尖のための潜在的な支持構造(例えば、支持部分)の1つの可能な幾何形状の単なる図示及び例示である。実際には、代替の実施形態では、支持構造体は、弁尖の機能を支え、弁を所定の位置に固定することができる限り、例えば、少なくとも部分的に縫合リングとして機能するか、又は移植中に構造体を正しく縫合するために取り付けられた縫合リングを提供する、及び/又は追加の支持体又は配置構造体への取り付けのために有用な形状を取り得るが、円筒形状が、ここでの目的のための最も単純で最も適切な形状と考えられてもよい。
図3及び
図4A~4Eに示されている弁の弁尖部分は、可撓性で及び凹状であり、閉じた構成又は位置にあるとき、血液の逆流を防ぐべく、人工弁の円筒形部分又は支持部分の遠位に隣接する弁尖に接触(接合)している。開いた構成のときには、弁尖は、(例えば、円筒状の)支持構造の開口を拡張し、装置を通る血流を可能にする。注目すべきは、任意の弁構造及び対応するマンドレルのターゲット形状について、弁尖は、天然の僧帽弁及び三尖弁と同様に、寸法が対称的である必要はないことである。いずれにせよ、マンドレルのターゲット形状は、インサートの凹状弁尖形状に関して、僧帽弁、三尖弁、大動脈弁、又は肺動脈弁の弁尖形状のような弁尖形状と呼ぶことができ、又はヒト又は哺乳動物のような生物の弁の弁尖又は尖頭(cusps)の天然又は損傷/病理学的形状を指す、病理学的僧帽弁、三尖弁、大動脈弁又は肺動脈弁の弁尖形状であり得る。病理学的形状は、弁構造における欠陥を研究する、研究において有用である。表1は、心臓弁のための例示的な直径、したがって、エレクトロスピニング(電気紡績)のためのマンドレルのターゲット直径を提供している。表1の値は、40kgを超えるヒト、ブタ及び他の動物に適している。ミニブタ、ヒツジ及びヤギのような40kg未満の動物の場合、直径は、例えば、30%小さくなければならない。ウサギ及びラットのようなより小さな動物でさえ、その値は、例えば、90%、より小さくなければならない。
【0085】
【0086】
本明細書に記載のマンドレル構造上にポリマー繊維を電着することにより、人工心臓弁構造体の全部又は一部に異方性を付与することができるが、繊維の主な整列方向は同じ工学的弁内で変えることができる。対照的に、回転するマンドレル又は平坦な表面のような従来の堆積ターゲットは、同一構造物内で整列しないか又は一定の整列方向を有する材料を生成するであろう。この態様は、天然の弁の弁尖は、弁尖内の繊維整列の一定レベル(AR)によって特徴づけられるが、しかしまた、同じ弁尖内で変化する主な整列方向によっても特徴付けられるので、特に重要である。例えば、生来の弁尖の腹部領域は周方向に配向されているが、接合面領域はほぼ長手方向に配向されている。凹状の面上への正確な繊維の堆積は、腹部領域から接合面への足場繊維の整列の主な方向を回転させて同じ効果を再現することを可能にする。したがって、本明細書に記載のマンドレル及びマンドレルを使用する方法は、デバイスの厚さ、デバイスの寸法、デバイスの形状、異方性、曲げの弾性係数の正確な制御をもたらし、直線又は等方性の整列とは対照的に,曲線の繊維を可能にする。
【0087】
別の態様では、繊維は、心臓弁の少なくとも一部、例えば弁尖の凹状部分すなわち腹部に少なくとも部分的に付着されて周方向に整列されている。さらに別の態様では、繊維は、非指向性又は等方性のパターンで、例えば、弁尖の腹部と接合面との間の部分において、弁の少なくとも一部に整列されている。
【0088】
人工心臓弁は、1つ以上の生分解性の生体適合性ポリマー組成物の電着によって製造される。有用なポリマー組成物の例は、ポリ(エステルウレタン)尿素(PEUU)、ポリ(エーテルエステルウレタン)尿素(PEEUU)、ポリ(エステルカーボネート)ウレタン尿素(PECUU)、ポリ(カーボネート)ウレタン尿素(PCUU)、α-ヒドロキシ酸由来のポリマー、ポリラクチド、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(L-ラクチド-コ-カプロラクトン、ポリグリコリック酸、ポリ(dl-ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(1-ラクチド-コ-dl-ラクチド)、ラクトンモノマーを備えるポリマー、ポリカプロラクトン、カーボネート結合を備えるポリマー、ポリカーボネート、ポリグリコネート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(グリコリド-コ-トリメチレンカーボネート)、ポリ(グリコリド-コ-トリメチレンカーボネート-コ-ジオキサノン)、ポリウレタン、ポリカーボネートウレタン、ポリエステルウレタン、エステル結合を備えるポリマー、ポリアルカノエート、ポリヒドロキシブチラート、ポリヒドロキシバレレート、ポリジオキサノン、ポリガラクチン、天然ポリマー、キトサン、コラーゲン、エラスチン、アルギン酸塩、セルロース、ヒアルロン酸、及びゼラチンの1つ以上を含んでいる。
【0089】
さらに別の態様では、本明細書に記載の電着ターゲット、例えば、マンドレル上に生分解性の生体適合性ポリマー組成物を電着することを備える方法の製品と共に、人工心臓弁構造体を作製する方法が提供されている。その方法の別の態様において、ポリマー組成物は、合成ポリマーを備えている。その方法の別の態様において、合成ポリマーはポリ(エステルウレタン)尿素(PEUU)、ポリ(エーテルエステルウレタン)尿素(PEEUU)、ポリ(エステルカーボネート)ウレタン尿素(PECUU)、ポリ(カーボネート)ウレタン尿素(PCUU)、α-ヒドロキシ酸由来のポリマー、ポリラクチド、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(L-ラクチド-コ-カプロラクトン、ポリグリコリック酸、ポリ(dl-ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(1-ラクチド-コ-dl-ラクチド)、ラクトンモノマーを備えるポリマー、ポリカプロラクトン、カーボネート結合を備えるポリマー、ポリカーボネート、ポリグリコネート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(グリコリド-コ-トリメチレンカーボネート)、ポリ(グリコリド-コ-トリメチレンカーボネート-コ-ジオキサノン)、ポリウレタン、ポリカーボネートウレタン、ポリエステルウレタン、エステル結合を備えるポリマー、ポリアルカノエート、ポリヒドロキシブチラート、ポリヒドロキシバレレート、ポリジオキサノン、ポリガラクチン、天然ポリマー、キトサン、コラーゲン、エラスチン、アルギン酸塩、セルロース、ヒアルロン酸、及びゼラチンの1つ以上から成る群から選ばれる。その方法の別の態様において、合成ポリマーは、PEUU、PEEUU、PECUU又はPCUUである。その方法の別の態様では、電着されたポリマー組成物の異方性が構造体の少なくとも一部分に配向され、それによって構造体においての異方性部分を生成させている。その方法の別の態様では、例えば、電着されたポリマーの50%を超える繊維が、少なくとも2つの弁尖部分の凹状中央部分すなわち腹部内で円周方向に配向され、及び/又は、例えば、電着されたポリマーの50%を超える繊維が、少なくとも2つの凹状の弁尖部分の間の接合面で、又はそれに直に隣接する箇所で長手方向に配向されている。その方法の別の態様では、電着ターゲットの形状及び大きさは、ヒト又は動物の健康又は病理学的生体構造(例えば、弁の生体構造)を複製するために天然の生体構造、形状及び寸法を模倣している。電着された弁構造体は電着ターゲットから除去され、必要に応じて、接合された弁尖部分が分離され、弁尖部分の少なくとも一部を接合する接合面が残される。弁構造体は、水、生理食塩水又はPBSなどの適切な溶液中ですすぎ又は水和されてもよい。弁構造体には、必要に応じて細胞が播種され、必要に応じて、細胞が弁構造体の少なくとも一部を被覆及び/又は浸潤するように、弁構造体上に細胞を培養させる。別の態様では、本方法は、ECMゲル、薬物、水、生理食塩水、PBS、細胞培養培地、細胞、生物学的製剤、塩、緩衝液、サイトカイン、増殖因子、又はそれらの組み合わせである第2のポリマーを、電着ターゲットに、電着させる、噴霧する又は他の方法で添加する又は組み込むことをさらに備えている。
【0090】
使用時には、本明細書に記載されている弁人工器官は、天然の弁、例えば弁輪(a valve annulus)の部位に患者に埋め込まれる。心臓弁の場合、装置は心臓弁輪における適所に縫着され、場合によっては、例えば、人工弁上の尖頭(cusps)を介して、心房弁(atrio-ventricular valves)の乳頭筋(papillary muscles)又は心室動脈弁(ventriculo-arterial valves)の接合面に接続される。当技術分野で広く知られているようなステント又は類似のフレーム構造のようなフレームに縫着されて接続され、次いで、天然の弁輪に配置されて移植される。ニチノール又はポリマーのような形状記憶金属から製造される適切なフレームが、例えばこれに限定されずに、広く知られており、適切なフレーム構成が決定され得る。
【0091】
[実施例]
[実施例1]
本明細書に記載されたマンドレル設計の3つの弁尖バージョンが、本質的に
図1A~1Fに示され、三尖弁を準備する際のその使用が
図5(A)~5(D)に示されている。
図5(A)は、ポリマー繊維の堆積前の二重構成要素マンドレルの写真画像である。
図5(B)に示されるように、この場合はPEUUであるポリマーは、導電性ターゲット上にポリマー繊維を選択的に堆積させながら、ターゲットの導電性部分の周りに3時間電着される。この製造のための処理条件は、ポリマー電圧11kV、第2の流れ(PBS)電圧8kV、マンドレル電圧-5kV、ポリマー流速1.5ml / hr、第2の流速1.2ml / hr、ポリマー - マンドレル間隙15.5cm、第2の流れ-マンドレル間隙4.5cm、PEUU溶媒重量/体積12%、湿度40%未満、ラスター速度0cm / s、マンドレル速度372rpmであった。
図5(D)に示されるように、マンドレルは、チャック内に配置され、回転され、長手方向に動かされる。典型的な実施例では、マンドレルは回転され、そして電着ノズルはマンドレルの周りに回転されず、ポリマーノズルとマンドレルとの空間的位置及び相対的配向は、手動で、又はより典型的には標準的なロボットとステージを用いるコンピュータによって制御され得る。得られた三尖弁が
図5(C)に示されている。二重構成要素設計(シールド+ターゲット)は、繊維の堆積を凹状のゾーンのみに集中させることを目的としていている。部品の形状と寸法は、患者の生体構造に基づいて変化させることができる。同様の概念は、凹状領域の繊維の堆積を要求する非生物医学的用途にも適用可能である。
【0092】
[実施例2]
図2A~
図2D及び
図2Fに本質的に示すように、本明細書に記載されたマンドレル設計の2弁尖(2小尖頭(bicuspid))バージョン、及び実施例1に本質的に記載されるような繊維の堆積を伴う2小尖頭弁を作成する際のその使用、及び補綴の2小尖頭弁が、
図4A乃至
図4Eに示されている。ポリマー繊維、例えばPEUUは、実施例1に記載されるように本質的に堆積される。同様に、異方性及び弾性率の制御は、マンドレルの速度及びラスター速度をそれぞれ変えることによって達成される。
【0093】
[実施例3]
実施例3は、実施例1に記載されているような、二重構成要素マンドレルを用いて作成された三尖弁について、静止時の弁尖接合(leaflet coaptation)の定性的試験を提供する。三尖弁は3つの弁尖の設計を有するマンドレルから取り出され(
図5(A))、そして当該弁がPBSに浸漬される。実施例1に記載されたように作成された弁構築物の定性的検査は、当該弁構築物が液体に浸漬されたとき、静止時の弁尖接合(leaflet coaptation)を示した(
図5(B))これとは対照的に、規則的な形状のエレクトロスピニング(電気紡績)によって得られる従来の弁の弁尖は、平坦又は円筒形である。平坦又は円筒形状のマンドレルの特定の場合には、弁尖の凹みの欠如と異なる弁尖を構造的に接続する必要性が、静止時の適切な接合を可能にしない。
【0094】
[実施例4]
実施例4は、実施例1に記載された二重構成要素マンドレルを用いて作成された三尖弁の三次元形状のさらなる測定及び分析を提供する。
図6A及び
図6Bに示されている、実施例1に記載されたように作成された三尖弁の写真は、本明細書に記載されたこれらの弁を作製するために、弁及び方法が、それらを作成するのに用いられるマンドレルの形状により指示されている生理学的湾曲を有する三尖弁を如何に製造するかを示している。
【0095】
[実施例5]
実施例5は、本明細書に記載の二重構成要素マンドレルと天然のブタ三尖弁を用いて作成された弁尖弁の厚さを比較するデータを提供する。本実施例はまた、堆積時間によってどのように厚さが直線的に影響されるかを示している。材料加工変数は、実施例1で使用したものと同じであった。関心のある特定の厚さは、堆積時間に基づいて達成することができる。
図7Aは、工学的な心臓弁及び天然のブタ三尖弁(n = 3(3時間)、n = 4(4時間)、n = 4(天然のブタ三尖弁))についての厚さ対堆積時間のグラフを示している。工学的な心臓弁は、関心のある特定の厚さが堆積時間に基づいて達成され得ることを実証する、例えば、天然の弁尖に匹敵する人工の弁尖の厚さを得るために所定の製造時間を設定することができる独立した製作によって作製された。
図7B及び7Cは、製造の3時間後の弁尖領域上の、天然のブタ三尖弁及び工学的な三尖弁の厚さ分布をそれぞれ示している。厚さマップの比較(天然対人工)は、全表面にわたる同等の弁尖の厚さの値を示している。
【0096】
[実施例6]
実施例6は、本明細書に記載される二重構成要素マンドレルを使用して作成された弁の弁尖機構に関連するデータを提供している。弁の弁尖の面内及び面外の機構に対する制御を証明するために、本明細書に記載されたマンドレル設計が、弁適用のために関心のある作動範囲(マンドレルの接線速度:0.3~3m /s、ラスター用(長手方向)線速度:0~2.5cm / s)をカバーする9つの異なる条件について試験された(
図8参照)。PEUUがこれらの実験のために用いられた。
図8(A乃至I)に示された結果は、マンドレルの速度が機械的異方性を直接的に制御すること(VI、V2、V3についてマンドレルの長手方向に応答して差が増加する)を示していている。対照的に、ラスター速度は異方性のレベルに有意に影響しなかった(R0、R1、R2について円周方向と長手方向との間に有意差はない)。弁構成物の代表的な画像は、異なる製造構成に対して提示されたマンドレル設計を採用し得る可能性を実証した。
【0097】
[実施例7]
実施例7は、マンドレルの接線速度及びラスター速度を変化させた場合の天然のブタ三尖弁と比較して、本明細書に記載の二重構成要素マンドレルを用いて作成した弁膜弁(leaflet valves)の機械的応答に関する試験結果を提供する。これらの製作のための処理条件は、ポリマー電圧11kV、第2の流れ(PBS)電圧8kV、マンドレル電圧-5kV、ポリマー流速1.5ml / hr、第2の流速1.2ml / hr、ポリマー - マンドレルの間隙15.5cm、第2の流れ - マンドレルの間隙4.5cm、PEUU溶媒重量/体積比%、湿度40%未満、ラスター速度は0、0.16及び2.5cm / sであり、一方、マンドレルの接線速度は0.3、1.5、3m / sであった。
図9Aは、マンドレルの接線速度(ω、異方性の制御)及びラスター速度(υ、曲げ係数の制御)、n = 3平均±標準誤差(n = 3 mean ± st.e)を変化させることによって得られた9つの構成について、等応力モードでの二軸引張試験で試験された工学的弁の面内機械的応答を示すグラフである。
図9Bは、長手方向と円周方向との間の機械的歪み比が異方性のメトリック(計量基準)として利用されたときに規定される異方性比(AR)を示すグラフであり、AR対回転速度は、
図9Aにおける弁構成についてのARのみならず天然のブタ三尖弁の値を示す
図9Aの結果を要約している。天然の機構(約1.5m / s)を有する三尖弁を製造するのに必要な適切なマンドレル速度は、0.3、1.5、及び3(m / s)におけるARの線形補間によって同定されている。
図9Cは、非特許文献11("Biaxial Mechanical Evaluation of Planar Biological Materials" by M. Sacks in Journal of elasticity and the physical science of solids, 07-2000, Vol. 61, Issues 1-3, pp 199-246.)に以前に記載されたカスタム化された生物学的組織二軸試験装置及びプロトコルで生成されたデータを用いて、ブタ天然三尖弁のARを複製した工学的三尖弁の二軸応答(弁の半径方向=マンドレルの長手方向、弁の弁尖の周方向=マンドレルの周方向)の二軸応答を示すグラフを示している。試験は、準静的条件下の室温で行われ、試験中に試料がPBSに連続的に浸漬され、プレコンディショニングフリーフロート状態が参照形態として利用された後、400kPaのピークを有する等軸二軸プロトコルが採用された。
【0098】
[実施例8]
実施例8は、マンドレルの接線速度及びラスター速度を変化させた場合の本来のブタ三尖弁と比較した、本明細書に記載の二重構成要素マンドレルを用いて作成した弁膜弁(leaflet valves)の機械的応答に関するさらなる試験結果を提供する。具体的には、ラスター速度と弾性率(面外挙動)との関係を調べた。材料加工変数は、実施例7で利用されたものと同じであった。
図10は、異なる値のマンドレル接線速度(0.3、1.5、3(m / s))及びラスター用の速度(0、0.25、2.5 [cm / s])n = 3平均±標準誤差についての弁尖曲げ係数を示すグラフである。ブタの三尖弁の値(n = 5平均±標準誤差)との比較は、天然の弁の曲げ係数を再現するためのマンドレル設計の能力を示している。
弾性係数は、マンドレル速度の変化に対してほとんど影響を受けていないが(
図10)、ラスター速度は曲げ剛性を決定し、ステントレス複合形状の曲げ剛性の生理学的に関連する値を達成する、この新しい設計の能力を示している。データは、以前に開発され、非特許文献12(Mirnajafi A et. al., The flexural rigidity of the aortic valve leaflet in the commissural region. Journal of Biomechanics Volume 39, Issue 16, 2006, Pages 2966-2973)で検証されたカスタムメイドの生物学的組織曲げ装置を用いて作成された。試験は、室温で、準静的条件下で実施され、試験中に試料はPBSに連続的に浸漬され、曲率範囲は±0.12であり、モーメント - 曲率特性についてはユーロ - ベルヌー理論(Eulero-Bernoulli theory)を採用した。2軸試験と曲げ剛性評価を組み合わせることにより、方法/試作品の能力が、面内及び面外に設計された工学的弁機構における分離及び制御の能力を示した。
【0099】
[実施例9]
工学的な弁の弁尖の微細構造及び天然のブタ三尖弁との比較が、
図11A及び11Bに示されている。材料加工変数は、実施例1で使用したものと同じであった。
図11Aは、コラーゲン第2高調波発生を獲得することによって同定されたコラーゲン繊維ネットワークを示す天然ブタ三尖弁マイクロ構造の多光子顕微鏡画像である。500μm×500μm×100μmの容積が、5つの異なる弁、及び接合面(左上TL及び右上TR)、腹部領域(中心C)及び2つの場所(中弁尖の左MLと中弁尖の右MR)の間の移行帯を含む、弁の弁尖内の5つの異なる位置において分析された。コラーゲン繊維の形状は、非特許文献13( Journal of biomechanics 46(16)、2787-2794)において、A Tsamisらによる「上行胸部大動脈瘤媒体の長手方向径方向及び円周方向放射面における繊維マイクロアーキテクチャ」で利用されているデジタル画像解析によって同定された。分析方法は、繊維角度分布θの平均及び配向指数(ΟI)との繊維整合のレベルによる繊維配向の主な角度を定量化する。この広く採用されているメトリック(計量基準)(例えば、非特許文献13(Biomaterials 31(20)、5345-5354)においてA D'Amore、その他による"Characterization of the complete fiber network topology of planar fibrous tissues and scaffolds"「平面状繊維組織及び足場の完全な繊維ネットワークトポロジーの特徴付け」参照)は、ランダムに配向された一組の繊維については0.5であり、一組の平行繊維については1に等しい。天然組織の値を表2に報告する。整列の主な方向(n = 5の独立した弁尖)も白い矢印で示されている。繊維の回転は、接合面から腹部領域までである。
図11Bは、
図11Aと同じイメージング及びデジタル分析技術を使用した工学的な弁尖の多光子顕微鏡画像である。
図11A及び11Bは、同じイメージング及びデジタル分析技術を使用している。弁尖は生理学的レベルの繊維整列を報告しただけでなく(表2:ΟI = 0.57~0.62)、整列の主な角度も天然の弁の弁尖に匹敵する傾向を示した。この結果は、主整列の方向が同じ構造内で同じままである従来のエレクトロスピニング電極(例えば、平坦なマット又は回転ドラム)では達成できない。
【0100】
【0101】
[実施例10]
この実施例は、工学的な弁の弁尖接合及び縫合保持の生体外試験の結果を示す(
図12(A)乃至
図12(F)参照)。材料加工変数は実施例1で使用したものと同じであった。エレクトロスピニングされた弁が生体外で天然のブタ心臓の三尖弁位置に移植され、右心室が徐々に生理食塩水で満たされ、圧力値がMillar圧力トランスデューサ(mikro-Cath(登録商標)、Millar 社、Houston、 TX)で監視され、同時に、Δρ> 30 mmHgで適切な弁尖接合且つ適切な縫合保持を示している健常な天然のブタの弁(A、B、C)及び工学的な弁(D、E、F)について、接合している弁尖の画像が取得された。
【0102】
[実施例11]
図13は、(A)の最先端の市販の人工弁のダイナミクス(n = 5、Carpentier-Edwards(登録商標) Duraflex (登録商標))及び(B)の工学的弁のダイナミクス(n = 3)のインビトロ試験における弁機能のグラフ表示を提供している。弁を横切る拍動流が、70ビート/分の一定周波数で動作する市販の心室補助装置であるThoratec経皮VADシステムによって生成された。2つのカメラが連続的に弁の動きを検出し、圧力と流量はセンサによって記録された。オリフィス面積を検出するために、専用のMatlabコード(Mathworks(登録商標)社、Natick MA)を用いて、デジタル画像処理が行われた。
図13(A)及び
図13(B)は、収縮期の間、それぞれ、カーペンティエ・エドワーズ(Carpentier-Edwards)及び工学的弁について検出されたオリフィス面積(白)を示している。
図13(C)は、カーペンティエ・エドワーズのバイオ人工弁及び
図13(A)、13(B)の工学的な弁のそれぞれの曲げ変形指数(BDI)の棒グラフ表示であり、曲げ剛性のために広く採用されているメトリックであるBDI(非特許文献14("In vitro hydrodynamics, cusp-bending deformation, and root distensibility for different types of aortic valve-sparing operations: Remodeling, sinus prosthesis, and reimplantation" by A. Erasmi et al. in The Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery Volume 130, Issue 4, 2005年10月、1044-1049頁) 参照)が、拡張期の中央点で計算された。
図13(D)は、Carpentier-Edwardsのバイオ人工弁及び
図13(A)、13(B)の工学的弁の幾何学的オリフィス面積比較(GEO)の棒グラフ表示であり、GEOは、(A)、(B)に示されたピーク収縮期における画像処理から計算された。
図13(E)は、Carpentier-Edwardsのバイオ人工弁及び
図13(A)及び13(B)の工学的な弁の最大収縮期圧力の棒グラフ表示である。
図13(F)は、Carpentier-Edwardsのバイオ人工弁及び
図13(A)及び13(B)の工学的な弁の平均収縮期圧力の棒グラフ表示である。
図13(G)は、収縮期及び拡張期を含む完全なサイクルの間の、Carpentier-Edwardsのバイオ人工弁及び
図13(A)及び13(B)の工学的な弁の平均圧力降下の棒グラフ表示である。
図13(H)は、収縮期及び拡張期を含む完全なサイクル中のCarpentier-Edwardsのバイオ人工弁及び
図13(A)及び13(B)の工学的な弁の平均流量の棒グラフ表示である。
図13(C)乃至(H)に提示された比較のいずれも統計的に有意な差異を示さず、工学的な弁が市販の生体人工弁と同等の動的機能特性を有することを示した。この優れた動的性能は、本明細書で論じる弁機構及び生体構造を制御する能力によって決定された。
【0103】
[実施例12]
図14は、生理的な流れ条件下での弁機能評価のために、40%グリセロール溶液が血液粘度を模倣すべく用いられたフローデュプリケータ、(B)工学的な弁の保持装置であって、白い矢印が工学的な弁を指している工学的な弁の保持装置、及び(C)フローデュプリケータの概略図の写真表現を示しここでで、1)は、デスクトップコンピュータ、
2)乃至4)は、圧力及び流れ信号取得システム、5)は、予圧力センサ、6)は、流量計、7)は、キャパシター、8)は、圧力センサ、9)は、フランジ付きの弁ホルダ、10)は、サイドカメラ、11)は、Thoratec経皮VADシステム(Thoratec社、Pleasanton、CA)、12)は、正面カメラ、13)は、VADコントローラである。
【0104】
本発明は、以下の条項の主題をさらに含む。
【0105】
(条項1)
導電性及び非導電性の表面部分のパターンを備える表面を有する電着ターゲットであって、当該ターゲットは回転軸を有するマンドレルに取り付けられ、そして、当該ターゲットの導電性の部分に電気的に接続されたスピンドルを備えることを特徴とする電着ターゲット。
【0106】
(条項2)
当該マンドレルは、当該導電性の部分の少なくとも一部分を絶縁する非導電性のシースを備えることを特徴とする条項1に記載の電着ターゲット。
【0107】
(条項3)
当該ターゲットは、当該マンドレルの回転軸の周りに配置された支持部分、当該支持部分から長手方向に延在する複数の隆起部と当該隆起部間の複数の凹状部分とを備える導電性インサート、及び、当該支持部分の少なくとも一部分と当該隆起部の少なくとも一部分との上の非導電性の層を備えることを特徴とする条項2に記載の電着ターゲット。
【0108】
(条項4)
当該インサートは、2つの凹状部分を備え、当該2つの凹状部分は、当該マンドレルの回転軸の周りに対称又は非対称であることを特徴とする条項3に記載の電着ターゲット。
【0109】
(条項5)
当該凹状部分における当該回転軸に垂直な当該ターゲットの断面は、「U」字形であるあることを特徴とする条項4に記載の電着ターゲット。
【0110】
(条項6)
当該非導電性の層は、複数の凹状部分の周囲に連続していることを特徴とする条項3乃至5のいずれか一項に記載の電着ターゲット。
【0111】
(条項7)
当該凹状部分は、正常又は病理学的なヒト又は動物の僧帽弁、三尖弁、大動脈弁又は肺動脈弁の尖頭(弁尖)の形状及び大きさのような弁尖頭(valvecusp)、例えば、正常又は病理学的な弁尖の形状を有していることを特徴とする条項3乃至6のいずれか一項に記載の電着ターゲット。
【0112】
(条項8)
当該ターゲットは、
a. 非導電性の表面と、当該マンドレルの回転軸の周りに配置された半径とを有する支持部分、及び
b. 当該支持部分に取り付けられ、当該支持部分から当該回転軸に沿って長手方向に延在する弁尖部分であって、当該弁尖部分は、当該回転軸から半径方向に延びピークを有する3つの導電性隆起部によって画定された3つの凹状の導電性部分を備え、当該弁尖部分は、当該支持部分に隣接しそれから延在する第1の部分と、当該第1の部分から当該支持部分と逆に長手方向に延在する選択肢の第2の部分を備え、当該第1の部分の当該隆起部の半径は、当該支持部分から当該第2の部分まで10%未満減少し、そして存在する場合、当該第2の部分の当該隆起部の半径は、少なくとも50%、場合により、第2の部分において、少なくとも60%、70%、75%、80%、90%、95%、又は99%減少し、当該隆起部は、当該第1の部分の当該隆起部のピークの少なくとも一部分の上に当該支持部分から延在する非導電性の層をさらに備える
ことを特徴とする条項1乃至7のいずれか一項に記載の電着ターゲット。
【0113】
(条項9)
当該ターゲットは、
a. 非導電性の表面と、当該マンドレルの回転軸の周りに配置された半径とを有する支持部分、及び
b. 当該支持部分に取り付けられ、当該支持部分から当該回転軸に沿って長手方向に延在する弁尖部分であって、当該弁尖部分は、当該回転軸から半径方向に延びピークを有する2つの導電性隆起部によって画定された2つの凹状の導電性部分を備え、当該弁尖部分は、当該支持部分に隣接しそれから延在する第1の部分を備え、当該第1部分の隆起部の半径は、当該支持部分から当該第1部分の遠位端まで10%未満減少し、当該隆起部は、当該第1の部分の当該隆起部のピークの少なくとも一部分の上に当該支持部分から延在する非導電性の層をさらに備える
ことを特徴とする条項1乃至8のいずれか一項に記載の電着ターゲット。
【0114】
(条項10)
当該非導電性の層は、当該凹状の導電性の部分の周囲の周りに連続していることを特徴とする条項8又は9のいずれかに記載の電着ターゲット。
【0115】
(条項11)
当該隆起部の円周方向の幅は、当該円筒状部分からの長手方向の距離において減少していることを特徴とする条項8又は9のいずれかに記載の電着ターゲット。
【0116】
(条項12)
当該第1の部分は、当該円筒状部分と実質的に同じ半径を有していることを特徴とする条項8又は9のいずれかに記載の電着ターゲット。
【0117】
(条項13)
絶縁シースと、円筒状部分を有し、そして、導電性の隆起部、当該隆起部のピーク、及び当該隆起部によって画定された凹状の導電性部分を備える取り外し可能な導電性のインサートと、を備え、
当該絶縁シースは、当該インサートの非導電性部分の少なくとも一部分と当該導電性のインサートの隆起部の当該隆起ピークの少なくとも一部分とを覆い且つ絶縁することを特徴とする条項1乃至12のいずれか一項に記載の電着ターゲット。
【0118】
(条項14)
当該支持部分は円筒形であることを特徴とする条項1乃至13のいずれか一項に記載の電着ターゲット。
【0119】
(条項15)
当該支持部の少なくとも一部分の周りに半径方向に延在するフランジをさらに備えることを特徴とする条項1乃至14のいずれか一項に記載の電着ターゲット。
【0120】
(条項16)
ポリマー繊維のマトリックスから形成された人工弁であって、
a.開口部を画定し、長手方向軸を有する管状(円筒形を意味するものではなく、円形、楕円形、又は長手方向軸に垂直な断面において任意の閉鎖形状を有することができる)支持部分、及び
b. 当該支持部分から長手方向に延在する少なくとも2つの凹状の弁尖であって、
各弁尖は、凹状の中央部分と、凹状の中央部分の周りの周縁部分と、当該支持部分に接続された近位端と、当該支持部分に対して長手方向に遠位の遠位端とを備える弁尖、を備え
隣接する弁尖の周辺部分は、当該支持部分で且つ隣接して接合され、隣接する弁尖の間に接合面を形成していることを特徴とする人工弁。
【0121】
(条項17)
当該弁尖は、500kPaから500000kPaの範囲の曲げ係数、0から100の範囲の機械的歪み、及び/又は0から5000kPaの範囲の応力を有することを特徴とする条項16に記載の人工弁。
【0122】
(条項18)
当該マトリックスは、0.5から0.8の範囲の配向指数を有する異方性部分を備えていることを特徴とする条項16に記載の弁。
【0123】
(条項19)
当該接合面及び/又は周辺部分でのマトリックスは、長手方向にバイアスされているマトリックスの繊維で異方性であり、及び/又は凹状の中央部分のマトリックスは、円周方向にバイアスされているマトリックスの繊維で異方性であることを特徴とする条項16乃至18のいずれか一項に記載の弁。
【0124】
(条項20)
選択肢として非対称である2つの尖頭を有することを特徴とする請求項16乃至18のいずれか一項に記載の弁。
【0125】
(条項21)
選択肢として非対称である3つの尖頭を有することを特徴とする請求項16乃至18のいずれか一項に記載の弁。
【0126】
(条項22)
僧帽弁尖頭として形成された2つの尖頭を有するか、又は三尖弁尖頭として形成された3つの尖頭を有することを特徴とする条項16乃至18のいずれか一項に記載の弁。
【0127】
(条項23)
当該マトリックスが、エレクトロスピニング(電気紡績)によって形成されていることを特徴とする条項16乃至22のいずれか一項に記載の弁。
【0128】
(条項24)
当該マトリックスは、ポリ(エステルウレタン)尿素(PEUU)、ポリ(エーテルエステルウレタン)尿素(PEEUU)、ポリ(エステルカーボネート)ウレタン尿素(PECUU)、ポリ(カーボネート)ウレタン尿素(PCUU)、α-ヒドロキシ酸由来のポリマー、ポリラクチド、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(L-ラクチド-コ-カプロラクトン、ポリグリコリック酸、ポリ(dl-ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(1-ラクチド-コ-dl-ラクチド)、ラクトンモノマーを備えるポリマー、ポリカプロラクトン、カーボネート結合を備えるポリマー、ポリカーボネート、ポリグリコネート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(グリコリド-コ-トリメチレンカーボネート)、ポリ(グリコリド-コ-トリメチレンカーボネート-コ-ジオキサノン)、ポリウレタン、ポリカーボネートウレタン、ポリエステルウレタン、エステル結合を備えるポリマー、ポリアルカノエート、ポリヒドロキシブチラート、ポリヒドロキシバレレート、ポリジオキサノン、ポリガラクチン、天然ポリマー、キトサン、コラーゲン、エラスチン、アルギン酸塩、セルロース、ヒアルロン酸、及びゼラチンの1つ以上からなる群から選択されるポリマー組成物を備えることを特徴とする条項16乃至23のいずれか一項に記載の人工弁装置。
【0129】
(条項25)
条項1乃至9のいずれか一項に記載の電着ターゲット上に、生分解性の生体適合性ポリマー組成物のマトリックスを電着させることを含むことを特徴とする弁構造を作製する方法。
【0130】
(条項26)
当該ポリマー組成物は、合成ポリマーを備えることを特徴とする条項25に記載の方法。
【0131】
(条項27)
当該合成ポリマーは、ポリ(エステルウレタン)尿素(PEUU)、ポリ(エーテルエステルウレタン)尿素(PEEUU)、ポリ(エステルカーボネート)ウレタン尿素(PECUU)、ポリ(カーボネート)ウレタン尿素(PCUU)、α-ヒドロキシ酸由来のポリマー、ポリラクチド、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(L-ラクチド-コ-カプロラクトン、ポリグリコリック酸、ポリ(dl-ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(1-ラクチド-コ-dl-ラクチド)、ラクトンモノマーを備えるポリマー、ポリカプロラクトン、カーボネート結合を備えるポリマー、ポリカーボネート、ポリグリコネート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(グリコリド-コ-トリメチレンカーボネート)、ポリ(グリコリド-コ-トリメチレンカーボネート-コ-ジオキサノン)、ポリウレタン、ポリカーボネートウレタン、ポリエステルウレタン、エステル結合を備えるポリマー、ポリアルカノエート、ポリヒドロキシブチラート、ポリヒドロキシバレレート、ポリジオキサノン、ポリガラクチン、天然ポリマー、キトサン、コラーゲン、エラスチン、アルギン酸塩、セルロース、ヒアルロン酸、及びゼラチンの1つ以上からなる群から選択されることを特徴とする条項26に記載の方法。
【0132】
(条項28)
当該合成ポリマーは、PEUU、PEEUU、PECUU又はPCUUであることを特徴とする条項25に記載の方法。
【0133】
(条項29)
当該ポリマーのマトリックスは、1つ以上の異方性部分を生成するために、当該ターゲット上の1つ以上の位置に方向的にバイアスされて堆積されることを特徴とする条項25乃至28のいずれか一項に記載の方法。
【0134】
(条項30)
電着されたポリマーの方向の50%より多くが凹状部分の中央部分内で周方向にバイアスされ、電着されたポリマーの方向の50%より多くが弁尖部分の接合面又はその付近で長手方向にバイアスされることを特徴とする条項29に記載の方法。
【0135】
(条項31)
当該電着ターゲットの凹状部分の形状及び大きさは、ヒト又は動物の弁の尖頭形状及び大きさに模擬していることを特徴とする条項25乃至30のいずれか一項に記載の方法。
【0136】
(条項32)
当該凹状部分は、正常又は病理学的なヒト又は動物の僧帽弁、三尖弁、大動脈弁又は肺動脈弁の尖頭(弁尖)の形状及び大きさを有していることを特徴とする条項31に記載の方法。
【0137】
(条項33)
当該電着ターゲットから当該弁構造体を除去し、するステップと、当該弁尖の遠位端部を分離するべく、当該弁構造体をトリミングすることをさらに含むことを特徴とする条項25乃至32のいずれか一項に記載の方法。
【0138】
(条項34)
当該弁構造体に細胞を播種し、当該細胞が当該弁構造体の少なくとも一部分を被覆及び/又は浸潤するように、当該弁構造体上で当該細胞を選択肢として培養することをさらに含むことを特徴とする条項25乃至33のいずれか一項に記載の方法。
【0139】
(条項35)
ECMゲル、薬物、水、生理食塩水、PBS、細胞培養培地、細胞、生物学的製剤、塩、緩衝液、サイトカイン、増殖因子、又はこれらの組み合わせの第2のポリマー組成物を当該電着ターゲットに、電着、噴霧、又は他の方法で添加又は組み込むことをさらに含むことを特徴とする条項25乃至34のいずれか一項に記載の方法。
【0140】
(条項36)
患者の心臓弁を修復又は置換する方法であって、条項16乃至24に記載の弁人工器官を患者に移植することを含むことを特徴とする方法。
【0141】
(条項37)
当該弁人工器官は、心臓弁人工器官であることを特徴とする条項36に記載の方法。
【0142】
(条項38)
当該移植することは、経皮経路によって行われることを特徴とする条項36又は37に記載の方法。
【0143】
(条項39)
当該移植することは、本来の心臓弁のステントレス交換であることを特徴とする条請36乃至38のいずれか一項に記載の方法。
【0144】
(条項40)
当該心臓弁人工器官は、患者の心臓弁輪の1つ以上に縫着され、及び選択肢として、房室弁用の乳頭筋又は心室動脈弁用の接合面のうちの1つ以上に縫着されることを特徴とする条項39に記載の方法。
【0145】
(条項41)
当該弁は、移植する前に構造化フレームに取り付けられ、そして当該弁を含む当該構造化フレームが、患者の弁輪に取り付け、例えば、縫着されることを特徴とする条項36又は37に記載の方法。
【0146】
(条項42)
条項36乃至41のいずれかに記載の方法において、条項16乃至24のいずれか一項に記載の人工弁を使用すること。