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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】モータマウント用筒型防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 1/387 20060101AFI20231011BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20231011BHJP
   B60K 5/12 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
F16F1/387 C
F16F15/08 K
B60K5/12 G
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021502379
(86)(22)【出願日】2020-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2020008129
(87)【国際公開番号】W WO2020175640
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2019037000
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】阿部 淳司
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-068619(JP,A)
【文献】特開2011-195058(JP,A)
【文献】特開平07-156663(JP,A)
【文献】実開平03-117137(JP,U)
【文献】特開2008-267443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/00- 6/00
F16F 15/00-15/36
B60K 1/00- 6/12
B60K 7/00- 8/00
B60K 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体で連結されており、自動車の駆動用電気モータと支持部材との間に装着されるモータマウント用筒型防振装置において、
前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との軸直角方向の対向面が周方向の全周に亘って連続して前記本体ゴム弾性体で連結されていると共に、
該本体ゴム弾性体の軸方向の端面には、該インナ軸部材と該アウタ筒部材との対向面間の中間部分において軸方向の外方に突出して周方向に延びる弾性突起が該本体ゴム弾性体と一体成形されており、
該弾性突起における一次共振点が、該本体ゴム弾性体のサージングによる絶対ばね定数のピークを低周波側へ外れているモータマウント用筒型防振装置。
【請求項2】
インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体で連結されており、自動車の駆動用電気モータと支持部材との間に装着されるモータマウント用筒型防振装置において、
前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との軸直角方向の対向面が周方向の全周に亘って連続して前記本体ゴム弾性体で連結されていると共に、
該本体ゴム弾性体の軸方向の端面には、該インナ軸部材と該アウタ筒部材との対向面間の中間部分において軸方向の外方に突出して周方向に延びる弾性突起が該本体ゴム弾性体と一体成形されている一方、
電池式電気自動車の駆動用電気モータを防振支持するものであり、
前記本体ゴム弾性体はサージングによる絶対ばね定数のピークを500~1000Hzの周波数域に有しており、
前記弾性突起における二次共振点が、該本体ゴム弾性体のサージングによる絶対ばね定数のピークよりも低い周波数域に設定されており、
該本体ゴム弾性体のサージングによる絶対ばね定数のピークが、該弾性突起を設けたことにより、該本体ゴム弾性体と位相差をもった該弾性突起の弾性変形作用に基づいて低減されているモータマウント用筒型防振装置。
【請求項3】
前記本体ゴム弾性体におけるサージングによる絶対ばね定数のピークが、前記弾性突起における隣り合う二次共振点と三次共振点の間に位置している請求項1又は2に記載のモータマウント用筒型防振装置。
【請求項4】
前記弾性突起が、前記本体ゴム弾性体の周方向で全周に亘って連続して設けられた環状弾性突起とされている請求項1~3の何れか一項に記載のモータマウント用筒型防振装置。
【請求項5】
前記本体ゴム弾性体が、前記インナ軸部材側から前記アウタ筒部材側に向かって次第に軸方向寸法が小さくされて該本体ゴム弾性体の軸方向両端面がテーパ状傾斜面とされており、該本体ゴム弾性体の該テーパ状傾斜面から前記弾性突起が突出している請求項1~4の何れか一項に記載のモータマウント用筒型防振装置。
【請求項6】
前記本体ゴム弾性体の表面からの前記弾性突起の突出高さが、該本体ゴム弾性体の軸方向長さよりも小さい請求項1~の何れか一項に記載のモータマウント用筒型防振装置。
【請求項7】
前記本体ゴム弾性体の軸直角方向において、前記弾性突起の厚さ寸法が該本体ゴム弾性体の厚さ寸法の1/3以下である請求項1~の何れか一項に記載のモータマウント用筒型防振装置。
【請求項8】
前記本体ゴム弾性体の軸直角方向における前記弾性突起の厚さ寸法が、該弾性突起の基端側から先端側に向かって小さくなっている請求項1~の何れか一項に記載のモータマウント用筒型防振装置。
【請求項9】
前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との間に及ぼされる防振対象振動の主たる入力方向が軸直角方向の一方向とされており、
前記弾性突起が、該防振対象振動の主たる入力方向に対して直交する軸直角方向の両側において少なくとも存在して、それぞれ周方向に延びている請求項1~の何れか一項に記載のモータマウント用筒型防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車の駆動用電気モータを支持するモータマウントに用いられる筒型防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する関心の高まり等を背景として、駆動源として内燃機関に代えて電動モータを採用した環境対応自動車が提案されている。
【0003】
ところで、ほとんどの環境対応自動車では、特開平7-156663号公報(特許文献1)に示されているように、従来の内燃機関エンジンを含むパワーユニットを、電動モータを含む駆動ユニットに変更しただけの構造で検討されている。それ故、駆動ユニットである駆動用電気モータを車両ボデー側の支持部材へ防振支持せしめるマウント装置は、従来の内燃機関エンジンを含むパワーユニットのマウント装置と略同じ構造が採用されている。
【0004】
しかしながら、内燃機関と電気モータでは、その構造だけでなく、出力特性等も大きく異なっており、駆動用電気モータに適切な防振性能を発揮し得るマウント装置は未だ実現されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-156663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
具体的には、例えば、低回転域で大きなトルクを生じる電気モータと高回転域でトルクが増大する内燃機関エンジンでは、トルク反力を受ける防振装置への要求特性が異なる。また、アイドリング振動が問題になる内燃機関とアイドリングのない電気モータでは、要求される低周波振動の防振性能が大きく異なる。更に、一般的に出力クランク軸の二回転で一回発生する爆発による回転力が及ぼされる内燃機関エンジンと、磁石やコイルによる磁極数に応じて出力軸の一回転毎に数回~数十回の回転力が出力軸に及ぼされる電気モータでは、出力のトルク変動に起因する振動周波数域が異なり、高くても100Hz程度の高周波エンジン振動の防振性能の要求に止まる内燃機関に対して、電気モータ用の防振装置では一般的に1000Hz程度までのトルク変動による防振性能が要求される。加えて、内燃機関を駆動源とする自動車では、防振装置へ及ぼされる駆動反力が、車両の発進時や加速時に生じるのに対して、電気モータを駆動源とする自動車では、回生ブレーキの使用により、車両の制動時にも大きな駆動反力が及ぼされることとなり、防振装置に要求される静的なばね特性や支持ばね剛性にも違いがある。
【0007】
本発明の解決課題は、駆動用電気モータを備えた車両に用いられるモータマウントとして、上述の如き観点から防振特性又は支持特性を改善することで、従来の駆動用内燃機関の防振マウントよりも優れた防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0009】
第一の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体で連結されており、自動車の駆動用電気モータと支持部材との間に装着されるモータマウント用筒型防振装置において、前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との軸直角方向の対向面が周方向の全周に亘って連続して前記本体ゴム弾性体で連結されていると共に、該本体ゴム弾性体の軸方向の端面には、該インナ軸部材と該アウタ筒部材との対向面間の中間部分において軸方向の外方に突出して周方向に延びる弾性突起が該本体ゴム弾性体と一体成形されており、該弾性突起における一次共振点が、該本体ゴム弾性体のサージングによる絶対ばね定数のピークを低周波側へ外れているものである。
【0010】
本態様では、周方向の全周で連続した略環状乃至は筒状の本体ゴム弾性体から軸方向に突出する弾性突起を設けたことで、モータマウント用に好適な防振装置が実現可能になる。例えば、インナ軸部材とアウタ筒部材との軸直角方向の対向面間を、周方向の全周に亘って連続して本体ゴム弾性体で弾性連結せしめたことで、駆動トルクと回生ブレーキによって殆どの車両走行条件下で及ぼされる軸直角方向の比較的大きな外力に対して有効な支持ばね剛性を設定することが容易となる。
【0011】
ここにおいて、周方向の全周で連続した本体ゴム弾性体で支持ばね剛性を確保する構成については、動的な入力振動に対する防振性能の低下が懸念される。しかし、従来の内燃機関用防振装置ではアイドリング振動への対応で低周波数域の低動ばね特性が要求されていたが、電気自動車の駆動用電気モータにはそもそもアイドリング振動がないことから、モータマウント用の防振装置では、低周波数域における防振性能が殆ど問題にならない。
【0012】
しかも、高周波数域においては、本体ゴム弾性体から軸方向に突出する弾性突起を設けたことで、本体ゴム弾性体の高動ばね化を抑えることが可能になる。それ故、中乃至高周波の広い周波数領域、特に従来の内燃機関用防振装置では問題にならなかった程の高周波数域にまで亘って著しい高動ばね化を避けて、良好な防振性能を実現することが可能になる。
【0013】
また、本態様では、弾性突起が、本体ゴム弾性体の周方向に延びて湾曲した形状とされていることから、本体ゴム弾性体の自由表面積を大きく損なうことなく、弾性突起のボリュームの確保や、弾性突起そのものの変形剛性の確保にも、有利となる。その結果、例えば本体ゴム弾性体の著しい高動ばね化の回避が一層高周波数域においても容易に実現可能になると共に、本体ゴム弾性体の支持ばね剛性の確保にも少なからず寄与し得る。
【0014】
第二の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体で連結されており、自動車の駆動用電気モータと支持部材との間に装着されるモータマウント用筒型防振装置において、前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との軸直角方向の対向面が周方向の全周に亘って連続して前記本体ゴム弾性体で連結されていると共に、該本体ゴム弾性体の軸方向の端面には、該インナ軸部材と該アウタ筒部材との対向面間の中間部分において軸方向の外方に突出して周方向に延びる弾性突起が該本体ゴム弾性体と一体成形されている一方、電池式電気自動車の駆動用電気モータを防振支持するものであり、前記本体ゴム弾性体はサージングによる絶対ばね定数のピークを500~1000Hzの周波数域に有しており、前記弾性突起における二次共振点が、該本体ゴム弾性体のサージングによる絶対ばね定数のピークよりも低い周波数域に設定されており、該本体ゴム弾性体のサージングによる絶対ばね定数のピークが、該弾性突起を設けたことにより、該本体ゴム弾性体と位相差をもった該弾性突起の弾性変形作用に基づいて低減されているものである。
【0015】
本態様のモータマウント用筒型防振装置では、本体ゴム弾性体のサージングに起因する高動ばね化のピークを、一般的な環境対応自動車で問題になりやすい500~1000Hzの周波数領域において低減することができて、電気自動車のモータマウントとして良好な性能が実現可能となる。
また、第三の態様は、前記第一又は第二の態様に係るモータマウント用筒型防振装置において、前記本体ゴム弾性体におけるサージングによる絶対ばね定数のピークが、前記弾性突起における隣り合う二次共振点と三次共振点の間に位置しているものである。
【0016】
の態様は、前記第一~第三の何れか一つの態様に係るモータマウント用筒型防振装置において、前記弾性突起が、前記本体ゴム弾性体の周方向で全周に亘って連続して設けられた環状弾性突起とされているものである。
【0017】
本態様のモータマウント用筒型防振装置では、弾性突起を全周に亘って延びる環状弾性突起としたことで、弾性突起のボリュームを全体として容易に確保することが可能になると共に、弾性突起による上述の如き技術的効果の更なる向上も図られ得る。
【0018】
の態様は、前記第一~第の何れか一つの態様に係るモータマウント用筒型防振装置において、前記本体ゴム弾性体が、前記インナ軸部材側から前記アウタ筒部材側に向かって次第に軸方向寸法が小さくされて該本体ゴム弾性体の軸方向両端面がテーパ状傾斜面とされており、該本体ゴム弾性体の該テーパ状傾斜面から前記弾性突起が突出しているものである。
【0019】
本態様のモータマウント用筒型防振装置では、本体ゴム弾性体における弾性突起の突設面がテーパ状傾斜面とされていることから、本体ゴム弾性体の径寸法を大きくせずとも、弾性突起の本体ゴム弾性体への連結面積を大きく設定することが可能になる。その結果、弾性突起によって及ぼされる本体ゴム弾性体のばね特性への作用の向上が図られ得る。
【0020】
の態様は、前記第一~第の何れか一つの態様に係るモータマウント用筒型防振装置において、前記本体ゴム弾性体の表面からの前記弾性突起の突出高さが、該本体ゴム弾性体の軸方向長さよりも小さいものである。
【0021】
本態様のモータマウント用筒型防振装置では、弾性突起の軸方向への突出高さが大きくなり過ぎることに起因して生ずるおそれのある悪影響が軽減乃至は回避される。例えば、弾性突起の他部材への干渉や装着スペースの問題、或いは弾性突起の高次の共振などに伴う本体ゴム弾性体の防振特性への悪影響の懸念などを軽減乃至は解消することも可能になる。
【0022】
の態様は、前記第一~第の何れか一つの態様に係るモータマウント用筒型防振装置であって、前記本体ゴム弾性体の軸直角方向において、前記弾性突起の厚さ寸法が該本体ゴム弾性体の厚さ寸法の1/3以下であるものである。
【0023】
本態様のモータマウント用筒型防振装置では、弾性突起の厚さが大きくなり過ぎることに起因して生ずるおそれのある悪影響、例えば本体ゴム弾性体の自由表面の減少や、弾性突起による本体ゴム弾性体の過度の拘束作用などに伴う防振特性への悪影響などを軽減乃至は解消することも可能になる。
【0024】
の態様は、前記第一~第の何れかの態様に係るモータマウント用筒型防振装置において、前記本体ゴム弾性体の軸直角方向における前記弾性突起の厚さ寸法が、該弾性突起の基端側から先端側に向かって小さくなっているものである。
【0025】
本態様のモータマウント用筒型防振装置では、弾性突起の突出方向に脱型時の抜きテーパを設定することができて製造も容易になると共に、例えば弾性突起のボリュームを確保しつつ弾性突起の低周波域での共振現象を回避することで、本体ゴム弾性体における低~中周波数域の防振性能への悪影響などを避けるようなチューニングも容易となる。
【0026】
の態様は、前記第一~第の何れかの態様に係るモータマウント用筒型防振装置において、前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との間に及ぼされる防振対象振動の主たる入力方向が軸直角方向の一方向とされており、前記弾性突起が、該防振対象振動の主たる入力方向に対して直交する軸直角方向の両側において少なくとも存在して、それぞれ周方向に延びているものである。
【0027】
本態様のモータマウント用筒型防振装置では、防振対象振動の主たる入力方向における弾性突起について、圧縮/引張的な変形態様を生ぜしめることができて、それにより、弾性突起の位相差が好適に発生し、本体ゴム弾性体の固有振動数へのチューニングが容易となる。それ故、モータマウントで問題となりやすい500~1000Hzの高周波領域における筒型防振装置(本体ゴム弾性体)のサージングに起因する絶対ばね定数の著しい増大に対して、本体ゴム弾性体と位相差をもって加振される弾性突起によって発揮されると考えられる後述の如き抑制効果の更なる向上も図られ得る。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、電気自動車の駆動用電気モータを支持するモータマウント用の筒型防振装置として、従来の駆動用内燃機関の防振マウントよりも優れた防振装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の第一の実施形態としてのモータマウント用筒型防振装置を示す斜視図
図2図1に示されたモータマウント用筒型防振装置の縦断面斜視図
図3図1に示されたモータマウント用筒型防振装置の縦断面図
図4図1に示されたモータマウント用筒型防振装置の一実施例について位相および絶対ばね定数の周波数特性のシミュレーション結果を示すグラフ
図5】第二の実施形態としてのモータマウント用筒型防振装置を示す斜視図
図6図5に示されたモータマウント用筒型防振装置の一実施例について位相および絶対ばね定数の周波数特性のシミュレーション結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0031】
先ず、図1~3には、本発明の一実施形態として電池式電気自動車のモータマウント用筒型防振装置10が示されている。本実施形態のモータマウント用筒型防振装置10は、例えば電池式電気自動車の駆動用電気モータと車両ボデーとを弾性的に連結して、駆動用電気モータを車両ボデーに対して防振支持せしめる。なお、以下の説明において、軸方向とは、モータマウント用筒型防振装置10の中心軸方向となる、図3中の左右方向をいう。
【0032】
より詳細には、モータマウント用筒型防振装置10は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14とが本体ゴム弾性体16で連結された構造を有している。
【0033】
インナ軸部材12は、軸方向に延びるロッド状の部材とされており、本実施形態では、ストレートに延びる略円筒形状とされている。インナ軸部材12は、金属や繊維補強された合成樹脂等で形成された高剛性の部材とされている。
【0034】
アウタ筒部材14は、インナ軸部材12よりも大径で、軸方向に延びる筒状の部材とされており、本実施形態では、ストレートに延びる略円筒形状とされている。アウタ筒部材14は、インナ軸部材12と同様に、金属や繊維補強された合成樹脂等で形成された高剛性の部材とされている。
【0035】
そして、インナ軸部材12がアウタ筒部材14に対して略同一中心軸上で挿入されて、インナ軸部材12とアウタ筒部材14とが本体ゴム弾性体16によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、略円筒形状を有するゴム弾性体であって、内周面がインナ軸部材12の外周面に固着されていると共に、外周面がアウタ筒部材14の内周面に固着されている。本実施形態では、本体ゴム弾性体16が、インナ軸部材12とアウタ筒部材14とを備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0036】
尤も、本体ゴム弾性体16のインナ軸部材12やアウタ筒部材14に対する加硫接着は必須でなく、例えば後固着であっても良いし、固定用のスリーブ等を介して本体ゴム弾性体16がインナ軸部材12やアウタ筒部材14に取り付けられていても良く、非接着の圧入などによって本体ゴム弾性体16がインナ軸部材12やアウタ筒部材14に取り付けられていても良い。また、インナ軸部材12は中実のロッドやボルト態様であっても良いし、アウタ筒部材14は、本体ゴム弾性体16が装着される円形の装着孔を備えた異形状のブラケットやサブフレーム等の車両構成部材などであっても良い。
【0037】
本体ゴム弾性体16は、周方向の全周に亘って連続する略円形乃至は円環のブロック形状とされている。即ち、インナ軸部材12とアウタ筒部材14との軸直角方向の対向面間には、周方向の全周に亘って連続して本体ゴム弾性体16が介在されており、インナ軸部材12とアウタ筒部材14との軸直角方向の対向面が本体ゴム弾性体16によって連結されている。特に本実施形態の本体ゴム弾性体16にあっては、周方向において部分的に設けられて軸方向で貫通するすぐり孔も有していない。
【0038】
また、本実施形態においてインナ軸部材12とアウタ筒部材14との径方向対向面間には、本体ゴム弾性体16の軸方向両側面上でそれぞれ軸方向外方に向かって開口する環状の凹所18,18が形成されている。即ち、本体ゴム弾性体16の軸方向寸法が、インナ軸部材12側からアウタ筒部材14側に向かって次第に小さくなっており、本体ゴム弾性体16の外周側の軸方向寸法はアウタ筒部材14の軸方向寸法よりも小さくされている。そして、本体ゴム弾性体16の軸方向両側(図3中の左右方向両側)の端面が、内周から外周に向かって次第に軸方向内方に向かって傾斜するテーパ状傾斜面20,20とされていることで、テーパ状傾斜面20,20を底面として軸方向外方に開口する環状の凹所18,18が形成されている。
【0039】
なお、本実施形態では、本体ゴム弾性体16における内周端の軸方向寸法がインナ軸部材12より僅かに短くされている一方、本体ゴム弾性体16における外周端の軸方向寸法はアウタ筒部材14よりも短くされている。尤も、本体ゴム弾性体16の外周端には、アウタ筒部材14の内周面に加硫接着するための薄肉の筒状ゴム部が一体成形されている。これにより、インナ軸部材12とアウタ筒部材14との間に入力される外力は、本体ゴム弾性体16の実質的に全体に及ぼされるようになっている。
【0040】
さらに、本体ゴム弾性体16の軸方向両側の面であるテーパ状傾斜面20,20には、軸方向外方(図3中の左右方向両側)に突出する弾性突起26,26が設けられている。これらの弾性突起26,26は、所定厚さの板状に突出した断面形状をもって周方向に延びる湾曲形状とされており、本体ゴム弾性体16と一体成形されている。
【0041】
なお、弾性突起26の具体的な形状や大きさ、周方向の長さなどは限定されるものでなく、突出方向も軸方向に対して傾斜していても良いが、本実施形態では、一定の断面形状で周方向の全周に亘って連続して延びる略円筒形状乃至は円環形状を有する環状弾性突起26とされている。また、軸方向両側の弾性突起26,26は、互いに同一の形状と大きさで形成されている。
【0042】
本実施形態の環状弾性突起26は、軸方向に略ストレートに延びており、特に本実施形態では、環状弾性突起26の突出先端が、アウタ筒部材14から軸方向外方に突出し、且つインナ軸部材12の軸方向外方端にまでは至らない軸方向位置とされている。
【0043】
また、環状弾性突起26は、突出基端が本体ゴム弾性体16に対してテーパ状傾斜面20に一体的に設けられることで連続状態で支持されていると共に、突出先端が自由端とされて、片持ち梁のような構造をもって本体ゴム弾性体16から突出している。
【0044】
環状弾性突起26の厚さ寸法(W)は、本体ゴム弾性体16の径方向寸法よりも小さくされており、本体ゴム弾性体16の軸方向端面(テーパ状傾斜面)20の径方向の中間部分から、環状の凹所18内からインナ軸部材12とアウタ筒部材14との径方向対向面間を軸方向に延びるように突設されている。
【0045】
特に本実施形態では、本体ゴム弾性体16の軸方向端面における径方向の略中央から環状弾性突起26が突設されている。なお、図2,3において、環状弾性突起26,26の基端面となる本体ゴム弾性体16のテーパ状傾斜面20,20を二点鎖線で示す。図示されているように、環状弾性突起26の基端部における本体ゴム弾性体16との接続部分には、滑らかにつなぐ隅部肉付け(フィレットアール)が付されている。
【0046】
上述の如き構造とされた本実施形態のモータマウント用筒型防振装置10は、例えば図3に示されるように、適宜にブラケット等を介して、駆動用電気モータと車両ボデー等の支持部材との間に装着されて、駆動用電気モータを支持部材に対して防振支持せしめる。具体例では、インナ軸部材12が固定ボルト28によって車両ボデー側の支持部材30に固定的に取り付けられると共に、アウタ筒部材14が駆動用電気モータ32(又は、駆動用電気モータ32側の部材)に設けられた装着孔へ圧入等されることで固定的に取り付けられる。これにより、モータマウント用筒型防振装置10は、電池式電気自動車の駆動用電気モータ32を、車両ボデーに対して防振支持せしめる。なお、車両装着状態におけるモータマウント用筒型防振装置10の向きは何等限定されるものではないが、例えば車両前後方向がモータマウント用筒型防振装置10の軸方向と平行又は傾斜して略水平方向に延びるように取り付けられる。
【0047】
そして、このようなモータマウント用筒型防振装置10には、装着状態下において、駆動用電気モータ32の静的な分担支持荷重の他、駆動用電気モータ32の駆動反力、回生ブレーキの作用反力、駆動用電気モータ32の駆動トルク振動や回生ブレーキ反力振動等による振動が、インナ軸部材12とアウタ筒部材14との間で軸直角方向に入力されることとなる。
【0048】
ここにおいて、かかるモータマウント用筒型防振装置10では、軸方向に貫通するスリット孔などが設けられておらず、インナ軸部材12とアウタ筒部材14との軸直角方向の対向面間を周方向の全周に亘って連続して弾性連結する本体ゴム弾性体16を採用したことにより、軸直角方向の支持ばね剛性を有利に確保することができる。
【0049】
特に、モータマウント用防振装置では、従来の内燃機関用防振装置に要求されるアイドリング振動に対応する低周波数域の低動ばね特性が要求されないことから、軸方向に貫通するスリット孔を採用しないことによるデメリットが小さく抑えられる。しかも、駆動トルクと回生ブレーキの作動反力によって、内燃機関用防振装置よりもモータマウント用防振装置で頻繁に及ぼされる軸直角方向の比較的大きな略静的な外力に対して、スリット孔を備えない本体ゴム弾性体により有効な支持ばね剛性を設定することが可能になる。
【0050】
さらに、動的ばね特性に関して、モータマウント用防振装置では、従来の内燃機関用防振装置で防振対象とされる振動周波数よりも高周波数域にまで至る領域において低動ばね特性による防振性能が要求されることとなり、特に振動エネルギーの大きい高周波数域の防振性能が問題になりやすい。このような防振性能の要求に関して、本実施形態のモータマウント用筒型防振装置10では、本体ゴム弾性体16から軸方向に突出する環状弾性突起26,26を採用したことにより、本体ゴム弾性体16の高動ばね化を抑えることが可能になる。そして、中乃至高周波の広い周波数領域、特に従来の内燃機関用防振装置では問題にならなかった程の高周波数域にまで亘って著しい高動ばね化を避けて、良好な防振性能を実現することが可能になる。
【0051】
なお、本発明者が多くの実験やシミュレーションを行って解析したところ、環状弾性突起26,26によって達成される本体ゴム弾性体16の中~高周波数域での高動ばね化を抑制乃至は回避し得ることによる防振性能の向上効果が確認されており、後述するシミュレーション結果からも明らかである。尤も、環状弾性突起26,26による機序は単純なものではない。例えば、以下の如き作用の少なくとも一つ、或いは複数が相加的又は相乗的に作用しているものと考えることもできる。
(i)環状弾性突起26,26の弾性変形が、一体成形された連続体である本体ゴム弾性体16に対して、本体ゴム弾性体16の弾性変形と所定の位相差をもって及ぼされることで、本体ゴム弾性体16の変形量乃至は入力に対して相殺的な低減効果が発揮されること
(ii)周方向に延びる円弧板状や円筒形状などとされることで有利に発揮される環状弾性突起26,26の弾性的な剛性が、本体ゴム弾性体16の弾性特性に寄与して防振対象の周波数域でのサージングによる高動ばね化を抑制乃至は回避する作用が発揮されること
(iii)入力される振動エネルギーが、環状弾性突起26,26の振動によって消費されることで、本体ゴム弾性体16の振動のエネルギーの低下が図られること
(iv)周方向に連続した本体ゴム弾性体16では、軸直角方向の振動入力に際しての弾性変形態様が周方向の各部位で圧縮/引張/剪断と異なることに伴って、本体ゴム弾性体16の軸方向両端面も振動入力時に歪(いびつ)な変形を繰り返すこととなり、かかる歪な変形量が最も大きくなる径方向の中間部分に位置して且つ周方向に延びて環状弾性突起26,26が形成されていることから、上述の(i)~(iii)の如き作用が一層効率的に発揮されること
【0052】
因みに、図4に一つのシミュレーション結果が例示されている。即ち、図4(a)に示された寸法条件を有する実施例として、本実施形態のモータマウント用筒型防振装置10を特定し、インナ軸部材12に対して径方向一方向の加振入力を及ぼした場合において、A(環状弾性突起26の先端),B(環状弾性突起26の付根),C(本体ゴム弾性体16の中央表面)とにおける入力振動に対する位相(度)の周波数変化を図4(b)に示すと共に、本体ゴム弾性体16の絶対ばね定数の周波数特性を図4(c)に示す。また、比較例として、環状弾性突起26を備えない本体ゴム弾性体16からなるモータマウント用筒型防振装置についても、同じ条件下でのシミュレーション結果を、図4(b),(c)中に参考のために併せ示す。
【0053】
図4(c)から、環状弾性突起26を備えない比較例では、500~1000Hzの間である略730Hz付近に本体ゴム弾性体16のサージングによる絶対ばね定数のピークが認められるのに対して、環状弾性突起26を設けた実施例では、かかるサージングによる絶対ばね定数のピークが抑えられていることがわかる。
【0054】
そして、図4(b)に示された位相から、環状弾性突起26の一次共振点を略340Hzにおいて確認できる。なお、共振点は、減衰の程度に拘わらず加振に対する位相が90度又は-90度となる周波数として把握できる。
【0055】
このことから、環状弾性突起26による本体ゴム弾性体16の絶対ばね定数のピーク抑制効果が、周知の動的吸振器(ダイナミックダンパ)の作用によるものでないことがわかる。即ち、動的吸振器では、制振対象とされる主振動系である本体ゴム弾性体16のサージング周波数(略730Hz)に略一致するように、副振動系である環状弾性突起26の一次共振周波数がチューニングされることによって成立するものだからである。
【0056】
しかも、環状弾性突起26の二次以上の多次の共振点として、図4(b)から、略660Hz(二次共振点)、略830Hz(三次共振点)が認められるが、何れも、本体ゴム弾性体16のサージング周波数(略730Hz)から離れている。特に、本体ゴム弾性体16のサージング周波数は、環状弾性突起26において隣り合う二つの共振点の間の略中央に位置しており、隣り合う何れの共振点からも1/4d以上、好適には1/3d以上、離れている。なお、dは、本体ゴム弾性体16のサージング周波数を挟んで隣り合う共振点の離間周波数であり、図4(b)では、d=略830Hz-略660Hz=略170Hzとなる。
【0057】
また、図4(b)から、環状弾性突起26の二次共振点(略660Hz)は、本体ゴム弾性体(16)のサージング周波数(一次共振点である略730Hz)に対して、低周波側とされている。そして、本体ゴム弾性体16のサージングによって絶対ばね定数が上昇し始める周波数域に、環状弾性突起26の二次共振点が設定されている。
【0058】
そして、図4(b)に比較例として示されているように、本体ゴム弾性体16の位相が、0度から、サージング周波数(略730Hz)での-90度に近づく際、環状弾性突起26の位相は、二次共振点における+90度から0度に近づくように変化することとなる。しかし、両者(比較例として示された本体ゴム弾性体単品での位相と、実施例に示された環状弾性突起26の先端の位相)の間における差(位相差)は、略90度以上の大きさを保っており、特に本体ゴム弾性体16のサージング周波数(略730Hz)での位相差は略110度となっている。
【0059】
それ故、両者の位相は、周期の略1/2に亘って逆位相とされることとなり、特に位相差が略110度に達する本体ゴム弾性体16のサージング周波数の前後領域では周期の過半分において、環状弾性突起26が、本体ゴム弾性体16に対して逆位相で加振変位することとなる。その結果、環状弾性突起26は、本体ゴム弾性体16のサージングに対して有効な抵抗力となり、その結果、図4(b)の実施例グラフにおいてC(本体)の振動状態が略0度の位相角を維持していることが示されているように、本体ゴム弾性体16のサージングによる位相角の変化が、環状弾性突起26の作用で抑えられる。そして、本体ゴム弾性体16のサージング自体が回避されることによって、図4(c)に示されるように、当該サージングに起因する絶対ばね定数の増大に対して抑制作用が発揮されるものと考えられる。
【0060】
しかも、環状弾性突起26は、片持ち梁の如き形態を有しており、加振点が本体ゴム弾性体16と一体化された基端側であることから、環状弾性突起26の先端での上述の周波数での位相は、基端側よりもある程度遅れていると推定することもできる。そうすると、環状弾性突起26が本体ゴム弾性体16に対して相殺的な制振作用を及ぼす環状弾性突起26の基端側では、図4(b)の実施例グラフに表された位相角よりもある程度プラス側となることから、本体ゴム弾性体16のサージング領域における本体ゴム弾性体16(環状弾性突起を有しない比較例)と環状弾性突起26との間の位相差は、90度よりも更に一層大きくなり、その結果、環状弾性突起26による本体ゴム弾性体16のサージングに対する相殺的な制振作用が一層効果的に発揮され得ると考えることもできる。
【0061】
さらに、本体ゴム弾性体16に対してサージングの抑制効果を発揮する環状弾性突起26は、略共振状態にあって振動倍率も大きいことから、本体ゴム弾性体16のサージングに対してより効果的な抵抗力となり得る。
【0062】
加えて、本体ゴム弾性体16に対してサージングの抑制効果を発揮する環状弾性突起26の共振状態は、二次以上の多次の共振点(本実施例では二次共振点)とされていることから、環状弾性突起26の共振点をチューニングするに際して比較的大きなマス要素の質量mを確保することが容易となる。即ち、モータマウント用筒型防振装置10で問題となる本体ゴム弾性体16のサージング周波数が比較的に高周波数域であり、それに対応するために環状弾性突起26の共振点チューニングに際して、突出基端部断面積を過度に大きくしてバネ要素kを大きくしたり突出基端部断面積を過度に小さくしてマス要素の質量mを制限することで環状弾性突起26の一次共振点を高周波域に設定する必要もない。それ故、環状弾性突起26において、全体的な大型化を回避しつつマス要素の質量mを確保することで、上述の如き本体ゴム弾性体16の変位に対して逆位相として抑制する作用力を一層効率的に得ることが可能になる。
【0063】
特に本実施形態の環状弾性突起26は、周方向に連続した環状体とされていることから、例えば円形や矩形などの断面形状をもった棒状突起からなる弾性突起を設けた場合に比して、比較的に小さな断面積でも環状弾性突起26のバネ要素k(ばね定数)を大きく設定することが可能になる。蓋し、棒状突起では振動に際して剪断変形が支配的になるのに対して、周方向に延びる円弧形状や円環形状などの弾性突起では、振動に際して断面係数も大きくされて圧縮/引張成分も有効に発生するからである。特に、周方向に延びる環状弾性突起26において、インナ軸部材12とアウタ筒部材14との間に及ぼされる防振対象振動の主たる入力方向とされる軸直角方向に対して直交する軸直角方向両側に位置する部分では、振動入力に際して環状弾性突起26の変形に圧縮/引張成分が大きくなることから、少なくともかかる部位を周方向に延びるように弾性突起を設けることが望ましい。
【0064】
なお、上述の如き考察に関連して、環状弾性突起26における略340Hzの一次共振の周波数域前後では、図4(c)に示されているように僅かな絶対ばね定数の増大が認められるものの、そもそも本体ゴム弾性体16のサージング周波数から外れていることから、防振性能への問題となる悪影響は認められない。
【0065】
また、環状弾性突起26における略660Hz前後の二次共振の周波数域のうち、当該共振点を越えた周波数域では、上述の如き本体ゴム弾性体16のサージング状態下での位相差により、本体ゴム弾性体16と相殺的に絶対ばね定数の増大が抑えられる。一方、当該共振点に至るまでの周波数域では、環状弾性突起26の共振作用に起因して絶対ばね定数の増大が認められるが、図4(c)に示される比較例としての本体ゴム弾性体16のサージングに起因する絶対ばね定数の増大に比して、大きな問題とならない。
【0066】
更にまた、環状弾性突起26における三次以上の共振周波数では、そもそも本体ゴム弾性体16が、サージング周波数を越えることで、本体ゴム弾性体16自体のサージングが問題とならずに動ばね定数が増大することがない。それ故、本体ゴム弾性体16のサージング周波数より高い周波数域において、環状弾性突起26における多次の共振が問題となることもない。
【0067】
また、図4(b)に示されているように、本体ゴム弾性体16のサージング周波数(略730Hzの共振点)を越えると、環状弾性突起26との位相差が90度を下回って急に小さくなり、それに伴って、図4(c)に示されるように絶対ばね定数の増大も認められる。しかし、上述のように、本体ゴム弾性体16のサージング周波数を越えた周波数域では、本体ゴム弾性体16自体のサージングが問題とならないから、問題となる程に著しい動ばね定数の増大も認められない。
【0068】
なお、環状弾性突起26の具体的な大きさや形状などは限定されるものでないが、上述の如き作用などを考慮すると、例えば以下の如き具体的な態様が好適に採用され得る。
【0069】
先ず、環状弾性突起26の突出高さT(図3参照)は、本体ゴム弾性体16の軸方向長さL(図3参照)よりも小さくすることが望ましく、例えば0.1L≦T≦Lの範囲内で好適に設定され得る。これにより、環状弾性突起26の作用の実効の確保や他部材への干渉の回避などが実現されると共に、例えば環状弾性突起26そのものの多次の共振などによる本体ゴム弾性体16の弾性特性への悪影響を軽減乃至は回避することも容易となる。
【0070】
なお、環状弾性突起26の突出高さTは、環状弾性突起26の実質的な長さであり、弾性突起としての有効長として把握することもできる。図3では、環状弾性突起26の突出高さTとして、略平均となる、径方向の略中央の突出高さを示している。また、本体ゴム弾性体16の軸方向長さLは、本体ゴム弾性体16における実質的な軸方向長さであり、弾性体としての有効長として把握することもできる。図3では、本体ゴム弾性体16の軸方向長さLとして、略平均となる、径方向の略中央の軸方向長さを示している。
【0071】
尤も、環状弾性突起26の変形に伴う他部材への緩衝や打ち当りなどを考慮すると、環状弾性突起26の軸方向の突出先端位置は、インナ軸部材12の軸方向先端位置よりも軸方向内方であることが望ましく、本体ゴム弾性体16の軸方向先端位置よりも軸方向内方であることがより望ましい。
【0072】
また、環状弾性突起26の厚さ寸法W(図3参照)は、本体ゴム弾性体16の厚さ寸法R(図3参照)よりも小さく設定されることとなり、例えば0.1R≦W≦0.8Rの範囲内で好適に設定され得る。これにより、環状弾性突起26の剛性やボリューム等が確保されて作用の実効が図られると共に、本体ゴム弾性体16を過度に拘束すること等による悪影響を軽減乃至は回避することも容易となる。
【0073】
なお、環状弾性突起26は、本体ゴム弾性体16の厚さ方向(軸直角方向)の中心(中央)に設ける必要はなく、本体ゴム弾性体16の厚さ方向の両端縁を除く中間部分であれば何れの位置であっても良く、厚さ方向の一方の側へ偏倚して設けても良い。尤も、本体ゴム弾性体16のサージング(一次共振)による高動ばね化を効率的に抑制する作用の観点からは、本体ゴム弾性体16の変形変位が大きくなりやすい、本体ゴム弾性体16の厚さ方向の略中央に環状弾性突起26を設けることが望ましい。
【0074】
また、本実施形態では、環状弾性突起26の厚さ寸法Wが突出基端から突出先端に向かって次第に小さくなるように、脱型用の抜きテーパに相当する程度に僅かに変化している。図3では、環状弾性突起26の厚さ寸法Wとして、突出基端の隅部肉付部分を除いた実質的な厚さ寸法であって、略平均となる突出方向中央部分の厚さ寸法を示している。
【0075】
更に、環状弾性突起26のゴムボリュームV1 は、本体ゴム弾性体16のゴムボリュームV2 よりも小さく設定されることが望ましく、例えば0.001V2 ≦V1 ≦0.5V2 の範囲内で好適に設定され得る。これにより、環状弾性突起26の質量等が確保されて作用の実効が図られると共に、環状弾性突起26を設けることによる本体ゴム弾性体16への悪影響を軽減乃至は回避することも容易となる。
【0076】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上述の実施形態や解決手段の欄における具体的乃至は限定的な記載によって制限的に解釈されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良などを加えた態様で実施可能である。
【0077】
例えば、本体ゴム弾性体は、周方向の全周に亘って連続する中実形状とされていればよく、要求される防振特性等に応じて、軸方向両端面に開口する有底の肉抜穴が設けられる等して、軸方向寸法が周方向で部分的に異ならされてもよい。
【0078】
また、本体ゴム弾性体の軸方向両側の弾性突起は、形状や大きさ等が相互に異なっていてもよい。また、弾性突起は、軸方向に対して傾斜していたり、屈曲や湾曲していてもよいし、突出方向において厚さ寸法などが変化する態様や、周方向において突出高さや厚さ寸法などの形状が変化する態様も採用可能である。また、弾性突起は、例えば本体ゴム弾性体の周方向で部分的に一つ又は複数の弾性突起が設けられてもよい。弾性突起が周方向で部分的に設けられる場合には、弾性突起の周方向の総長が、例えば1/3周以上とされることが好適であり、1/2周以上とされることがより好適である。なお、弾性突起が、周方向で全周に亘って、又は部分的に設けられる場合には、弾性突起全体の形状は、前記実施形態の如き円環形状の他、楕円や長円、半円、多角形状等の非円環形状であってもよい。
【0079】
因みに、図5に、前記第一の実施形態とは別態様の弾性突起40を設けた、本発明の第二の実施形態としてのモータマウント用筒型防振装置42を示す。なお、第一の実施形態と同様な構造とされた部材及び部位については、第一の実施形態と同一の符合を図5中に付しておく。
【0080】
本実施形態のモータマウント用筒型防振装置42では、第一の実施形態と同様に、本体ゴム弾性体16の軸方向両端面に弾性突起40が一体形成されている。かかる弾性突起40は、本体ゴム弾性体16の径方向の略中央部分から軸方向外方に向かって突出しており、インナ軸部材12の中心軸と略同じ中心回りで周方向に延びている。
【0081】
ここにおいて、第一の実施形態では、周方向に連続して環状に延びる環状弾性突起26が採用されていたが、本実施形態の弾性突起40は、周方向で部分的に形成されている。具体的には、本体ゴム弾性体16の中心軸を挟んだ径方向一方向で対向位置するように設けられた一対の円弧壁状の弾性突起40a,40aによって弾性突起40が構成されている。
【0082】
本実施形態の弾性突起40も、第一の実施形態の環状弾性突起26と同様に、基端部分において本体ゴム弾性体16と一体的に設けられていると共に、先端部分において自由端とされている。そして、弾性突起40には、基端部分において、本体ゴム弾性体16からの振動が加振力として入力されるようになっており、全体として略片持ち梁のような態様で弾性変形して加振変形が生ぜしめられるようになっている。
【0083】
従って、本実施形態のモータマウント用筒型防振装置42であっても、第一の実施形態と同様に、弾性突起40の共振周波数を、本体ゴム弾性体16単体のサージング特性を考慮してチューニングすることにより、本体ゴム弾性体16と弾性突起40との位相差に基づく相殺的なサージング抑制作用などにより、本体ゴム弾性体16のサージングに起因する絶対ばね定数のピークを抑えることができる。
【0084】
なお、本体ゴム弾性体16は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14との間において周方向の全周に亘って連続して設けられていることから、何れの軸直角方向の入力振動に際しても、周方向の何れの部位も弾性変形せしめられることとなり、サージング現象も全体として発生するものと考えられる。それ故、弾性突起は、本体ゴム弾性体16において、周方向の任意の位置に任意の大きさ等をもって設けることが可能であり、入力振動に対する相対的な位置や大きさ、形状などによって、弾性突起の共振周波数などをチューニングすることができる。
【0085】
因みに、本実施形態では、一対の弾性突起40a,40aの対向する径方向に対して直交する方向となる図5中のX方向において、インナ軸部材12とアウタ筒部材14との間に加振力が及ぼされた場合の絶対ばね特性の周波数特性を、シミュレーションによって測定した結果を図6に示す。なお、弾性突起を有しない本体ゴム弾性体を備えた筒型防振装置についても同様なシミュレーションを行って、得られた特性を図6中に比較例として併せ示す。また、本実施形態でも、第一の実施形態と同様に、一対の弾性突起40a,40aの一次共振周波数を、本体ゴム弾性体のサージング周波数f0に対して、f0×3/4以下となる低い周波数域、より好適にはf0×2/3以下となる充分に低い周波数域に設定されている。また、一対の弾性突起40a,40aの二次共振周波数を、本体ゴム弾性体のサージング周波数より低周波数側に設定すると共に、一対の弾性突起40a,40aの三次共振周波数を、本体ゴム弾性体のサージング周波数より高周波数側に設定している。
【0086】
その結果、図6から判るように、本実施形態のモータマウント用筒型防振装置42においても、第一の実施形態と同様に、本体ゴム弾性体16と弾性突起40との位相差に基づく相殺的なサージング抑制作用などによるものと考えられる、本体ゴム弾性体16のサージングに起因する絶対ばね定数のピークの抑制効果が発揮されることが認められる。尤も、第一及び第二の実施形態で示したシミュレーション結果は、作用効果を確認的に示す例示であって、弾性突起に関して最適なチューニングを行ったものでない。それ故、弾性突起の大きさや形状、或いはばね要素やマス要素について更にチューニングを煮詰めることで、より優れた絶対ばね定数の周波数特性が実現可能であることが理解されるべきである。
【0087】
更にまた、弾性突起が複数設けられる場合には、互いに同じ形状や大きさ等である必要はなく、また、径方向で異なる位置に設けられていても良い。なお、弾性突起が周方向で独立して複数設けられる場合には、主たる振動入力方向及び/又はそれに直交する軸直角方向で対向位置するように設けられることが望ましい。
【0088】
尤も、前記実施形態では、本体ゴム弾性体16の軸方向両側に弾性突起26,26、40,40が設けられていたが、本体ゴム弾性体16の軸方向一方の側にだけ弾性突起を設けるようにしても良い。本発明者は、本体ゴム弾性体16の軸方向一方の側にだけ、第一の実施形態と同様な環状弾性突起26を設けた態様についても、第一の実施形態と同様にシミュレーションを行った。その結果、本体ゴム弾性体16のサージングによる絶対ばね定数の増大に対して、軸方向両側に弾性突起を設けた第一の実施形態に比して効果の程度は小さいものの、略同様な抑制効果が発揮され得ることを確認している。
【0089】
さらに、前記実施形態では、本体ゴム弾性体16の軸方向両端面(テーパ状傾斜面20,20)に、それぞれ一つの環状弾性突起26,26が設けられていたが、例えば本体ゴム弾性体の軸方向両端面のそれぞれにおいて、軸直角方向の異なる位置に円環形状及び/又は非円環形状の弾性突起が複数設けられてもよい。
【0090】
また、前記実施形態のモータマウント用筒型防振装置10が適用される電池式電気自動車としては、電気モータを主たる駆動源として備える電気自動車のなかで、電気モータを駆動するための電力を備える電池を備えたものであり、例えば二次電池式電気自動車や燃料電池式電気自動車、発電機(レンジエクステンダー)を備えた電気自動車、ソーラーカーを含み、特に駆動源としての内燃機関を電気モータと一体的に防振支持せしめる態様で設けていない電気自動車を対象とするものである。尤も、本発明のモータマウント用筒型防振装置が適用される電気自動車は電池式である必要はなく、駆動用の電気モータを備えていればよい。
【0091】
なお、前記実施形態では、インナ軸部材12が車両ボデー側の支持部材30に固定されると共に、アウタ筒部材14が駆動用電気モータ32(又は駆動用電気モータ32側の部材)に固定されていたが、駆動用電気モータの配置態様や支持態様が限定されるものではなく、本発明は、例えばサスペンション機構を介して支持される車軸側に駆動用電気モータが装着される電気自動車におけるモータマウント等にも適用可能である。
また、本発明はもともと以下に記載の発明を含むものであり、その構成および作用効果に関して、付記しておく。
(i) インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体で連結されており、自動車の駆動用電気モータと支持部材との間に装着されるモータマウント用筒型防振装置において、前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との軸直角方向の対向面が周方向の全周に亘って連続して前記本体ゴム弾性体で連結されていると共に、該本体ゴム弾性体の軸方向の端面には、該インナ軸部材と該アウタ筒部材との対向面間の中間部分において軸方向の外方に突出して周方向に延びる弾性突起が該本体ゴム弾性体と一体成形されているモータマウント用筒型防振装置、
(ii) 前記弾性突起が、前記本体ゴム弾性体の周方向で全周に亘って連続して設けられた環状弾性突起とされている(i)に記載のモータマウント用筒型防振装置、
(iii) 前記本体ゴム弾性体が、前記インナ軸部材側から前記アウタ筒部材側に向かって次第に軸方向寸法が小さくされて該本体ゴム弾性体の軸方向両端面がテーパ状傾斜面とされており、該本体ゴム弾性体の該テーパ状傾斜面から前記弾性突起が突出している(i)又は(ii)に記載のモータマウント用筒型防振装置、
(iv) 前記本体ゴム弾性体の表面からの前記弾性突起の突出高さが、該本体ゴム弾性体の軸方向長さよりも小さい(i)~(iii)の何れか一項に記載のモータマウント用筒型防振装置、
(v) 前記本体ゴム弾性体の軸直角方向において、前記弾性突起の厚さ寸法が該本体ゴム弾性体の厚さ寸法の1/3以下である(i)~(iv)の何れか一項に記載のモータマウント用筒型防振装置、
(vi) 前記本体ゴム弾性体の軸直角方向における前記弾性突起の厚さ寸法が、該弾性突起の基端側から先端側に向かって小さくなっている(v)に記載のモータマウント用筒型防振装置、
(vii) 前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との間に及ぼされる防振対象振動の主たる入力方向が軸直角方向の一方向とされており、前記弾性突起が、該防振対象振動の主たる入力方向に対して直交する軸直角方向の両側において少なくとも存在して、それぞれ周方向に延びている(i)~(vi)の何れか一項に記載のモータマウント用筒型防振装置、
(viii) 電池式電気自動車の駆動用電気モータを防振支持するものであり、 前記本体ゴム弾性体はサージングによる絶対ばね定数のピークを500~1000Hzの周波数域に有しており、前記弾性突起における二次共振点が、該本体ゴム弾性体のサージングによる絶対ばね定数のピークよりも低い周波数域に設定されており、該本体ゴム弾性体のサージングによる絶対ばね定数のピークが、該弾性突起を設けたことにより、該本体ゴム弾性体と位相差をもった該弾性突起の弾性変形作用に基づいて低減されている(i)~(vii)の何れか一項に記載のモータマウント用筒型防振装置、
に関する発明を含む。
上記(i)に記載の発明では、周方向の全周で連続した略環状乃至は筒状の本体ゴム弾性体から軸方向に突出する弾性突起を設けたことで、モータマウント用に好適な防振装置が実現可能になる。例えば、インナ軸部材とアウタ筒部材との軸直角方向の対向面間を、周方向の全周に亘って連続して本体ゴム弾性体で弾性連結せしめたことで、駆動トルクと回生ブレーキによって殆どの車両走行条件下で及ぼされる軸直角方向の比較的大きな外力に対して有効な支持ばね剛性を設定することが容易となる。ここにおいて、周方向の全周で連続した本体ゴム弾性体で支持ばね剛性を確保する構成については、動的な入力振動に対する防振性能の低下が懸念される。しかし、従来の内燃機関用防振装置ではアイドリング振動への対応で低周波数域の低動ばね特性が要求されていたが、電気自動車の駆動用電気モータにはそもそもアイドリング振動がないことから、モータマウント用の防振装置では、低周波数域における防振性能が殆ど問題にならない。しかも、高周波数域においては、本体ゴム弾性体から軸方向に突出する弾性突起を設けたことで、本体ゴム弾性体の高動ばね化を抑えることが可能になる。それ故、中乃至高周波の広い周波数領域、特に従来の内燃機関用防振装置では問題にならなかった程の高周波数域にまで亘って著しい高動ばね化を避けて、良好な防振性能を実現することが可能になる。また、本態様では、弾性突起が、本体ゴム弾性体の周方向に延びて湾曲した形状とされていることから、本体ゴム弾性体の自由表面積を大きく損なうことなく、弾性突起のボリュームの確保や、弾性突起そのものの変形剛性の確保にも、有利となる。その結果、例えば本体ゴム弾性体の著しい高動ばね化の回避が一層高周波数域においても容易に実現可能になると共に、本体ゴム弾性体の支持ばね剛性の確保にも少なからず寄与し得る。
上記(ii)に記載の発明では、弾性突起を全周に亘って延びる環状弾性突起としたことで、弾性突起のボリュームを全体として容易に確保することが可能になると共に、弾性突起による上述の如き技術的効果の更なる向上も図られ得る。
上記(iii)に記載の発明では、本体ゴム弾性体における弾性突起の突設面がテーパ状傾斜面とされていることから、本体ゴム弾性体の径寸法を大きくせずとも、弾性突起の本体ゴム弾性体への連結面積を大きく設定することが可能になる。その結果、弾性突起によって及ぼされる本体ゴム弾性体のばね特性への作用の向上が図られ得る。
上記(iv)に記載の発明では、弾性突起の軸方向への突出高さが大きくなり過ぎることに起因して生ずるおそれのある悪影響が軽減乃至は回避される。例えば、弾性突起の他部材への干渉や装着スペースの問題、或いは弾性突起の高次の共振などに伴う本体ゴム弾性体の防振特性への悪影響の懸念などを軽減乃至は解消することも可能になる。
上記(v)に記載の発明では、弾性突起の厚さが大きくなり過ぎることに起因して生ずるおそれのある悪影響、例えば本体ゴム弾性体の自由表面の減少や、弾性突起による本体ゴム弾性体の過度の拘束作用などに伴う防振特性への悪影響などを軽減乃至は解消することも可能になる。
上記(vi)に記載の発明では、弾性突起の突出方向に脱型時の抜きテーパを設定することができて製造も容易になると共に、例えば弾性突起のボリュームを確保しつつ弾性突起の低周波域での共振現象を回避することで、本体ゴム弾性体における低~中周波数域の防振性能への悪影響などを避けるようなチューニングも容易となる。
上記(vii)に記載の発明では、防振対象振動の主たる入力方向における弾性突起について、圧縮/引張的な変形態様を生ぜしめることができて、それにより、弾性突起の位相差が好適に発生し、本体ゴム弾性体の固有振動数へのチューニングが容易となる。それ故、モータマウントで問題となりやすい500~1000Hzの高周波領域における筒型防振装置(本体ゴム弾性体)のサージングに起因する絶対ばね定数の著しい増大に対して、本体ゴム弾性体と位相差をもって加振される弾性突起によって発揮されると考えられる後述の如き抑制効果の更なる向上も図られ得る。
上記(viii)に記載の発明では、本体ゴム弾性体のサージングに起因する高動ばね化のピークを、一般的な環境対応自動車で問題になりやすい500~1000Hzの周波数領域において低減することができて、電気自動車のモータマウントとして良好な性能が実現可能となる。
【符号の説明】
【0092】
10:モータマウント用筒型防振装置、12:インナ軸部材、14:アウタ筒部材、16:本体ゴム弾性体、20:テーパ状傾斜面、26:環状弾性突起(弾性突起)、28:固定ボルト、30:支持部材、32:駆動用電気モータ、40:弾性突起、42:モータマウント用筒型防振装置
図1
図2
図3
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図5
図6