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特許7364665深紅、近赤外線及び可視範囲における低減された反射を有する光学デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】深紅、近赤外線及び可視範囲における低減された反射を有する光学デバイス
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/115 20150101AFI20231011BHJP
   G02B 1/02 20060101ALI20231011BHJP
   G02B 27/02 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
G02B1/115
G02B1/02
G02B27/02 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021513920
(86)(22)【出願日】2019-09-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 EP2019074697
(87)【国際公開番号】W WO2020058186
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-06-27
(31)【優先権主張番号】18306224.9
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518007555
【氏名又は名称】エシロール・アンテルナシオナル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フランシスコ・デ・アイグアビベス
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-68096(JP,A)
【文献】国際公開第2018/070379(WO,A1)
【文献】特開2015-148643(JP,A)
【文献】特表2017-537366(JP,A)
【文献】特開2012-255984(JP,A)
【文献】特開平4-366801(JP,A)
【文献】国際公開第2013/122253(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/191254(WO,A1)
【文献】特開昭63-81404(JP,A)
【文献】特開昭62-36601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/00- 1/18
G02B 3/00- 3/14
G02C 1/00-13/00
A61B 3/00- 3/18
G02B27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科用レンズ並びに深紅及び近赤外領域で発光する光源を含む光学デバイスであって、前記眼科用レンズは、前面干渉コーティングでコーティングされた前面及び背面干渉コーティングでコーティングされた背面を有し、
前記背面干渉コーティングの平均反射率は、45°以下の入射角において、700nmから、900nm以下の所定の最大波長までの範囲の波長について2.5%以下であり、
前記前面干渉コーティングの平均反射率は、前記光源が前記眼科用レンズの前記前面に向けられている場合、45°以下の入射角において、700nmから前記所定の最大波長までの範囲の波長について2.5%以下であることを特徴とする光学デバイス。
【請求項2】
前記前面及び背面干渉コーティングの視感反射率Rvは、45°以下の入射角において、380nm~780nmの範囲の波長について、可視範囲で2.5%未満であることを特徴とする請求項に記載の光学デバイス。
【請求項3】
前記光源が前記眼科用レンズの前記前面に向けられている場合、(i)前記背面干渉コーティング又は(ii)前記前面干渉コーティングは少なくとも4つの層を含み、各層は、全ての隣接する層の屈折率よりも低いか、又は全ての隣接する層の屈折率よりも高いかのいずれかである屈折率を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の光学デバイス。
【請求項4】
前記眼科用レンズは基材を含み、前記光源が前記眼科用レンズの前記前面に向けられている場合、(i)前記背面干渉コーティング又は(ii)前記前面干渉コーティングは、前記基材から離れる方向に沿って、少なくとも、
1.6~2.4の範囲の屈折率を有する1つの層と、
1.6未満の屈折率を有する1つの層と、
1.6~2.4の範囲の屈折率を有する1つの層と、
1.6未満の屈折率を有する1つの層
を含むことを特徴とする請求項に記載の光学デバイス。
【請求項5】
前記眼科用レンズは基材を含み、前記光源が前記眼科用レンズの前記前面に向けられている場合、(i)前記背面干渉コーティング又は(ii)前記前面干渉コーティングは、前記基材から離れる方向に沿って、少なくとも、
10~25nmの範囲の物理的厚さを有する1つの層と、
20~35nmの範囲の物理的厚さを有する1つの層と、
140~180nmの範囲の物理的厚さを有する1つの層と、
90~120nmの範囲の物理的厚さを有する1つの層
を含むこととを特徴とする請求項又はに記載の光学デバイス。
【請求項6】
前記光源が前記眼科用レンズの前記前面に向けられている場合、(i)前記背面干渉コーティング又は(ii)前記前面干渉コーティングの物理的厚さは、500nm以下であることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の光学デバイス。
【請求項7】
前記1.6~2.4の範囲の屈折率を有する1つの層はジルコニア(ZrO)製であり、前記1.6未満の屈折率を有する1つの層は二酸化ケイ素(SiO)製であることを特徴とする、請求項に記載の光学デバイス。
【請求項8】
前記眼科用レンズは矯正レンズであることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の光学デバイス。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の光学デバイスを含む拡張現実デバイス。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の光学デバイスを含む仮想現実デバイス。
【請求項11】
請求項1~のいずれか一項に記載の光学デバイスを含む眼追跡デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科用レンズ並びに深紅及び近赤外(NIR)領域、すなわち700nm~2500nmの範囲の波長で発光する光源を含み、且つ深紅、NIR及び可視範囲における大幅に低減された反射を有する光学デバイスに関する。光学デバイスは、例えば、拡張現実デバイス、仮想現実デバイス又は眼追跡デバイスに含まれ得る。
【背景技術】
【0002】
NIR範囲は、一般に、眼追跡の目的で眼を照らす光に使用され、これは、NIR光がユーザに見えないのと同時に、瞳孔のコントラストが非常に良好になるためであり、それにより視線方向若しくは眼運動の測定又は瞳孔のサイズ及び位置、角膜表面、水晶体表面、まぶた上の眼反射などに関連する任意の他の測定において高精度且つ高信頼性を得ることが可能である。
【0003】
そのような測定は、眼科用レンズに加えて、深紅及びNIR光源並びにビデオカメラを含む特定の眼鏡を通して行うことができる。
【0004】
しかしながら、深紅及びNIR光源が、そのような機器を着用しているユーザの眼に向けて光を送ると、眼科用レンズの面上で複数の反射が生じる。そのような多重反射は、カメラの検出器に対してノイズを生成するため、瞳孔を適切に位置特定することができなくなる。
【0005】
したがって、眼科用レンズ上での深紅及びNIR光の反射を制限する必要がある。
【0006】
特許文献1は、NIR光を使用した眼追跡デバイスを開示しており、ここでは、一部の光学面のNIR反射率は、35°及び75°の入射角について低減される。
【0007】
それにもかかわらず、より低い入射角での性能は、未知であり、層の数、使用される材料、それらの屈折率又はそれらの厚さなど、低減されたNIR反射率を有する光学面の特性は、開示されていない。
【0008】
更に、考慮される前面光学面の反射率は、光学面に対するNIR光源の方向、すなわちNIR光源が前面光学面に向けられているか又は背面光学面に向けられているかによって異なるべきである。上記で引用した文献もこの問題に対処していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願公開第2015/138451号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、先行技術の上述の欠点を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そのために、本発明は、眼科用レンズ並びに深紅及び近赤外領域で発光する光源を含む光学デバイスであって、眼科用レンズは、前面干渉コーティングでコーティングされた前面及び背面干渉コーティングでコーティングされた背面を有し、光学デバイスは、
背面干渉コーティングの平均反射率が、45°以下の入射角において、700nmから、2500nm以下の所定の最大波長までの範囲の波長について2.5%以下であること、及び
前面干渉コーティングの平均反射率が、
光源が眼科用レンズの前面に向けられている場合、45°以下の入射角において、700nmから所定の最大波長までの範囲の波長について2.5%以下、又は
光源が眼科用レンズの背面に向けられている場合、45°以下の入射角において、700nmから所定の最大波長までの範囲の波長について25%以上
のいずれかであることを特徴とする光学デバイスを提供する。
【0012】
したがって、本発明による光学デバイスは、深紅及びNIR光源が眼科用レンズの前面に向けられている場合、45°以下の入射角において、一方では眼科用レンズの背面上に、且つ他方では眼科用レンズの前面上に深紅及びNIR範囲の高効率の反射防止コーティングを含む一方、深紅及びNIR光源が眼科用レンズの背面に向けられている場合、眼科用レンズの前面に強い反射コーティングを含む。
【0013】
本発明は、拡張現実デバイス、仮想現実デバイス及び眼追跡デバイスであって、これらのデバイスのそれぞれは、そのような光学デバイスを含む、拡張現実デバイス、仮想現実デバイス及び眼追跡デバイスも提供する。
【0014】
本明細書で提供される記載及びその利点をより詳細に理解するために、添付の図面及び詳細な説明に関連してここで以下の簡単な説明を参照し、ここで、同様の参照番号は、同様の部品を表す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】特定の実施形態における、本発明による光学デバイスを含む拡張現実デバイス又は仮想現実デバイスの概略図である。
図2】特定の実施形態における、本発明による光学デバイスを含む眼追跡デバイスの概略図である。
図3】本出願の実施例1で準備したレンズの背面の反射率(R%)の変動を380nm~900nmの範囲で光波長λの関数として15°及び35°の入射角で示すグラフのセットである。
図4】本出願の実施例2で準備したレンズの前面の反射率(R%)の変動を380nm~900nmの範囲で光波長λの関数として15°及び35°の入射角で示すグラフのセットである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の説明では、図面は、必ずしも縮尺通りではなく、特定の特徴は、明瞭さ及び簡潔さのために又は情報提供の目的のために、一般化された又は概略的な形式で示され得る。加えて、様々な実施形態の作成及び使用が以下で詳細に論じられるが、本明細書に記載されるように、多様な状況で具体化され得る多くの発明の概念が提供されることを理解されたい。本明細書で論じられる実施形態は、単に代表的なものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。当業者には、プロセスに関連して定義される全ての技術的特徴が個別に又は組み合わせてデバイスに置き換えられ得、逆にデバイスに関連する全ての技術的機能が個別に又は組み合わせてプロセスに置き換えられ得ることも明らかであろう。
【0017】
用語「含む(comprise)」(並びに「含む(comprises)」及び「含んでいる」などのその文法的変形形態)、「有する(have)」(並びに「有する(has)」及び「有している」などのその文法的変形形態)、「含有する(contain)」(並びに「含有する(contains)」及び「含有している」などのその文法的変形形態)並びに「包含する(include)」(並びに「包含する(includes)」及び「包含している」などのその文法的変形形態)は、オープンエンドの連結動詞である。これらは、述べられる特徴、整数、工程若しくは構成要素又はこれらの群の存在を規定するために使用されるが、1つ以上の他の特徴、整数、工程若しくは構成要素又はこれらの群の存在又は追加を排除するものではない。結果として、1つ以上の工程又は要素を「含む」、「有する」、「含有する」又は「包含する」方法又は方法内の工程は、それらの1つ以上の工程又は要素を有するが、それらの1つ以上の工程又は要素のみを有することに限定されない。
【0018】
別段の指示がない限り、本明細書で使用される成分の量、範囲、反応条件などを指す全ての数字又は表現は、全ての場合において用語「約」によって修飾されているものとして理解される。
【0019】
また、別段の指示がない限り、本発明による「X~Y」又は「XとYとの間」の値の間隔の表示は、X及びYの値を含むことを意味する。
【0020】
本出願において、光学デバイスがその表面上に1つ以上のコーティングを含む場合、「デバイス上に層又はコーティングを設ける」という表現は、層又はコーティングがデバイスの外側コーティングの外部(露出)表面上に設けられること、すなわち基材から最も離れたコーティングを意味することが意図されている。
【0021】
基材の「上」にあるか又は基材の「上方」に設けられているとされるコーティングは、(i)基材の上に配置されているコーティングとして、(ii)基材と必ずしも接触していない、すなわち基材と対象のコーティングとの間に1つ以上の中間コーティングが配置され得るコーティングとして、及び(iii)必ずしも基材を完全に覆っていないコーティングとして定義される。
【0022】
好ましい実施形態では、基材上のコーティング又は基材の上方に設けられたコーティングは、その基材と直接接触している。
【0023】
本明細書で使用される場合、基材の背面(又は内部)の表面は、デバイスを使用するとき、着用者の眼から最も近い表面を意味するように意図されている。これは、一般的には凹面である。逆に、基材の前面は、デバイスを使用するとき、着用者の眼から最も遠く離れている表面である。これは、一般的に凸面である。
【0024】
加えて、「入射角(記号θ)」は、眼用レンズ表面に入射する光線と、入射地点の表面に対する垂線とによって形成される角度である。光線は、例えば、国際表色法CIE L*a*b*で定義されている標準光源D65などの照明光源である。一般に、入射角は、0°(垂直入射)~90°(かすめ入射)で変化する。入射角の通常の範囲は、0°~75°である。
【0025】
国際表色系CIE L*a*b*における本発明の光学デバイスの表色係数は、標準光源D65及び観察者(角度10°)を考慮して、380nm~780nmで計算される。観察者は、国際表色系CIE L*a*b*で定義されている「標準観察者」である。
【0026】
一般的に言えば、記載された構成に応じて「反射防止コーティング」又は「反射コーティング」と呼ばれる、本発明による光学デバイスの干渉コーティングは、任意の基材上、好ましくは有機レンズ基材、例えば熱可塑性又は熱硬化性プラスチック材料上に設けられ得る。熱可塑性プラスチックは、例えば、ポリアミド;ポリイミド;ポリスルホン;ポリカーボネート及びそのコポリマー;ポリ(エチレンテレフタレート)及びポリメチルメタクリレート(PMMA)から選択することができる。
【0027】
熱硬化性材料は、例えば、エチレン/ノルボルネン又はエチレン/シクロペンタジエンコポリマーなどのシクロオレフィンコポリマー;ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)(CR 39(登録商標))のホモポリマーなどの直鎖又は分岐の脂肪族又は芳香族のポリオールのアリルカーボネートのホモポリマー及びコポリマー;ビスフェノールAから誘導することができる(メタ)アクリル酸及びそのエステルのホモポリマー及びコポリマー;チオ(メタ)アクリル酸及びそのエステルのポリマー及びコポリマー、ビスフェノールA又はフタル酸とスチレンなどのアリル芳香族とから誘導することができるアリルエステルのポリマー及びコポリマー、ウレタン及びチオウレタンのポリマー及びコポリマー、エポキシのポリマー及びコポリマー並びにスルフィド、ジスルフィド及びエピスルフィドのポリマー及びコポリマー並びにこれらの組み合わせから選択することができる。
【0028】
本明細書で使用される場合、(コ)ポリマーは、コポリマー又はポリマーを意味することが意図されている。本明細書で使用される場合、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートを意味することが意図されている。本明細書で使用される場合、ポリカーボネート(PC)は、ホモポリカーボネート又はコポリカーボネート及びブロックコポリカーボネートのいずれかを意味することが意図されている。
【0029】
ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)のホモポリマー(CR 39(登録商標))、1.54~1.58の屈折率を有するアリル及び(メタ)アクリルコポリマー、チオウレタンのポリマー及びコポリマー、ポリカーボネートが好ましい。
【0030】
基材は、本発明の反射防止又は反射コーティングを設ける前に1つ以上の機能性コーティングでコーティングされ得る。光学において従来使用されているこれらの機能性コーティングは、限定するものではないが、耐衝撃性プライマー層、耐摩耗性コーティング及び/又は耐擦り傷性コーティング、偏光コーティング、フォトクロミックコーティング又は着色コーティングであり得る。以下では、基材と、裸の基材又はそのようなコーティングされた基材のいずれかを意味する。
【0031】
反射防止又は反射コーティングを設ける前に、前記基材の表面は、通常、反射防止又は反射コーティングの接着を強化するために物理的又は化学的な表面活性化処理にかけられる。そのような前処理は、一般的に真空下で行われる。これは、例えば、イオンビーム(「イオン前洗浄」若しくは「IPC」)又は電子ビームを用いたエネルギー種及び/又は反応性種による衝撃、コロナ放電処理、イオン剥離処理、紫外線処理又は通常酸素若しくはアルゴンプラズマを一般的に使用する真空下でのプラズマ媒介処理であり得る。また、これは、酸若しくは塩基による処理及び/又は溶媒ベースの処理(水、過酸化水素若しくは任意の有機溶媒)であり得る。
【0032】
本発明による光学デバイスは、眼科用レンズと、深紅及び近赤外領域、すなわち700nm~2500nmの範囲の波長で発光する光源とを含む。
【0033】
光源は、例えば、発光ダイオード(LED)であり得る。
【0034】
その光源から発光された光を検出するために、深紅及びNIRフィルタなしに、NIR波長に感応する例えばCCD(電荷結合デバイス)タイプ又はCMOS(相補型金属酸化膜半導体)タイプのビデオカメラを使用することが可能である。変形形態として、カメラの代わりに、単一の深紅及びNIRセンサのアレイ、PSD(位置感応検出器)センサ又は他の適切なセンサを使用することができる。
【0035】
図1は、本発明による光学デバイスを含む拡張現実デバイス又は仮想現実デバイスにおける配置の非限定的な例を示す。
【0036】
光学デバイスは、一方ではユーザの眼14と、他方では光学素子12との間に配置された眼科用レンズ10を含む。光学素子12は、例えば、光を結合するための結合手段と、ユーザの眼14に向かって光を出力結合するための出力結合手段とを有する導波路であり得、その結果、ユーザは、仮想画像を知覚することができる。
【0037】
光学素子12を通過し、眼科用レンズ10を通過する水平矢印11は、環境から到来する光を表す。
【0038】
深紅及びNIR眼追跡器も拡張現実デバイス又は仮想現実デバイスに含まれる。深紅及びNIR眼追跡器は、深紅及びNIRカメラ16と、少なくとも1つの深紅及びNIR光源18とを含み、その光源18は、本発明による光学デバイスに含まれる。
【0039】
図1に示す特定の実施形態では、光源18は、光学素子12と眼科用レンズ10との間に配置される一方、カメラ16は、光学素子12の前に配置される。
【0040】
変形形態として、カメラ16及び光源18は、光学素子12の前に配置することができる。
【0041】
別の変形形態として、光学素子12は、仮想画像を提供するため及び光照明を提供するための両方で使用することができる。次いで、眼14によって反射された光は、光学素子12に戻り、深紅及びNIR光センサにリダイレクトされ得る。
【0042】
眼科用レンズ10は、ユーザに光学機能を提供することができる。
【0043】
それは、例えば、近視、遠視、乱視及び/又は老眼を治療するための矯正レンズ、すなわち屈折異常のユーザのための球面、円柱及び/又は追加タイプの屈折力レンズであり得る。レンズ10は、一定の屈折力を有し得るため、単焦点レンズが提供するのと同じように屈折力を提供するか、又は可変屈折力を有する累進レンズであり得る。
【0044】
それは、基材上、コーティング上又はフィルム上に統合され得るフィルタも含むことができる。例えば、フィルタは、一部の偏光をカットして、その偏光を仮想画像の偏光に対応して保持するように設計され得る。このようにして、仮想画像の強度を維持しながら、環境からの寄生光が低減されるため、仮想画像のコントラストを増大させることができる。レンズは、例えば、鋳造型上に置かれるTAC‐PVA‐TAC(トリアセチルセルロース‐ポリ(ビニルアルコール)‐トリアセチルセルロース)フィルムなどの偏光フィルムを含み得る。それは、例えば、光学素子12に対応する波長についてより高い透過率を維持しながら、仮想画像波長と異なる波長について低減された透過率を有する特定のフィルタであり得る。
【0045】
レンズ10は、少なくともその面の1つの上、好ましくはその前面及びその背面の両方上に深紅及びNIR反射防止コーティングを含む。
【0046】
反射防止コーティングは、深紅及びNIR範囲での反射が低減されるように設計され、その結果、カメラ16は、レンズ10上の反射から到来する光をほとんど受け取らない。
【0047】
図2は、本発明による光学デバイスを含む眼追跡デバイスにおける配置の非限定的な例を示す。
【0048】
この実施形態では、光学デバイスは、フレーム20を有する眼鏡機器として実装することができ、仮想画像表示なしに眼追跡に使用することができる。
【0049】
それは、例えば、運転時の疲労の検出、まばたきの検出又は眼の健康状態監視に使用することができる。
【0050】
この実施形態では、図1の実施形態とは反対に、深紅及びNIR光源18は、レンズ10の背面に向けられており、その結果、レンズ10は、その背面のみに反射防止コーティングを有することができる一方、レンズ10の前面は、深紅及びNIR光反射コーティングを有する。変形形態として、反射コーティングは、例えば、MOF(多層光学フィルタ)など、レンズ10内に埋め込まれた反射素子によって置き換えられ得る。
【0051】
図2に示すように、眼鏡機器は、ユーザのこめかみ又はフレーム20上に配置され得る特定の深紅及びNIR光源18を有する。眼鏡機器は、光源18の近くに配置されたカメラ16も有する。
【0052】
光源18によって発光された光は、眼を照らすために、眼14の前面によって少なくとも部分的に反射される。
【0053】
深紅及びNIR光は、眼14によって拡散及び反射され、レンズ10の反射前面に向かって、次いでカメラ16に向かって伝搬して戻る。
【0054】
図1の実施形態と同様に、レンズ10の背面は、深紅及びNIR光反射防止コーティングを有し、その結果、光が眼14からレンズ10に向かって伝搬して戻るとき、カメラ16に向かって反射が全く又はほとんど起こらない。加えて、太陽又は環境などの深紅及びNIR外部光源から到来する反射による影響が低減される。
【0055】
本発明によれば、図1及び図2にそれぞれ示される両方の実施形態では、眼科用レンズ10は、前面干渉コーティングでコーティングされた前面及び背面干渉コーティングでコーティングされた背面を有する。
【0056】
背面干渉コーティングの平均反射率は、45°以下の入射角において、700nmから、2500nm以下の所定の最大波長までの範囲の波長について2.5%以下である。
【0057】
特定の実施形態では、深紅及びNIR光の入射角が低い、すなわち垂直入射からそれほど遠くない場合、典型的には、光源が眼科用レンズの前面に向けられている場合、背面干渉コーティングの平均反射率は、35°以下の入射角において、700nmから、2500nm以下の所定の最大波長までの範囲の波長について2.5%以下である。これにより、眼科用レンズ及び光源の形状によって定義される入射角について、深紅及びNIR光の反射を最小限に抑えることが可能になる。
【0058】
別の実施形態では、深紅及びNIR光の入射角が高い場合、典型的には光源が眼科用レンズの背面に向けられている場合、背面干渉コーティングの平均反射率は、35°(含まれる)~45°(含まれる)に含まれる入射角において、700nmから、2500nm以下の所定の最大波長までの範囲の波長について2.5%以下である。これにより、眼科用レンズ及び着用者の頭部の側部に配置された光源の形状によって定義される入射角について、深紅及びNIR光の反射を最小限に抑えることが可能になる。
【0059】
したがって、これは、反射防止コーティングであり、深紅及びNIR範囲での反射を大幅に低減し、その結果、カメラ16は、レンズ10での反射から到来する光をほとんど受け取らない。
【0060】
これにより、存在するノイズ光が制限されることになるため、眼14の特徴の高品質な測定が保証される。例えば、これにより、眼の位置及び虹彩又は瞳孔のサイズの正確且つ信頼性の高い測定値を取得することが可能になる。図1の実施形態では、次いで、眼の位置を使用して、例えばその位置に従って仮想画像の内容を修正することができる。眼の位置は、電子システムを駆動するためのMMIインターフェース(マルチメディアインターフェース)の一部として使用することもできる。
【0061】
上述の所定の最大波長は、2500nm、好ましくは1400nm、より好ましくは980nm、更により好ましくは900nmである。非限定的な例として、眼追跡の対象範囲は、780nm~900nmである。
【0062】
深紅及びNIR領域、すなわち700nm~2500nmの範囲の波長(R NIR2500と表記)での背面干渉コーティングの平均反射率は、以下の式で定義される。
【数1】
ここで、R(λ)は、所与の波長λにおける反射率を表す。
【0063】
より一般的な方法では、深紅及びNIR領域、すなわち700nmから所定の波長Anmまでの範囲の波長(R NIRAと表記)での背面干渉コーティングの平均反射率は、以下の式で定義される。
【数2】
【0064】
本発明によれば、前面干渉コーティングの平均反射率R NIRは、深紅及びNIR光源が眼科用レンズの前面又は背面のいずれに向けられているかによって異なる。
【0065】
すなわち、深紅及びNIR光源は、例えば、図1に示すように、拡張現実デバイス又は仮想現実デバイスの構成では眼科用レンズの前面に向けられているが、例えば、図2に示すように、眼追跡デバイスの構成では眼科用レンズの背面に向けられている。
【0066】
光源が眼科用レンズの前面に向けられている場合、前面干渉コーティングのR NIRは、45°以下の入射角において、700nmから上記の所定の最大波長までの範囲の波長について2.5%以下である。
【0067】
光源が眼科用レンズの背面に向けられている場合、前面干渉コーティングのR NIRは、45°以下の入射角において、700nmから上記の所定の最大波長までの範囲の波長について25%以上である。
【0068】
加えて、特定の実施形態では、前面及び背面干渉コーティングの視感反射率Rvは、45°以下の入射角において、可視範囲で、すなわち380nm~780nmの範囲の波長について2.5%未満、好ましくは1%未満、より好ましくは0.75%未満である。
【0069】
視感反射率Rvは、ISO 13666:1998規格で定義されている通りであり、すなわち、これは、可視スペクトル全体(すなわち380nm~780nm)にわたる入射光束に対する材料によって反射された光束の比率である。
【0070】
したがって、レンズの着用者の背後から到来する光と、レンズの前面及び背面上で反射する光との両方について、可視反射が制限される。
【0071】
これは、レンズの背面からの反射を制限することによって視覚的快適さを向上させ、観察者が知覚する反射を低減することで美観を改善させるため、特に有利である。
【0072】
特定の実施形態では、背面干渉コーティングは、少なくとも4つの層を含み、各層は、全ての隣接する層の屈折率よりも低いか、又は全ての隣接する層の屈折率よりも高いかのいずれかである屈折率を有する。換言すれば、低屈折率材料と高屈折率材料とが交互に並んだ層が積み重ねられている。
【0073】
その実施形態では、深紅及びNIR光源が眼科用レンズの前面に向けられている場合、前面干渉コーティングは、少なくとも4つの層も含み、各層は、全ての隣接する層の屈折率よりも低いか、又は全ての隣接する層の屈折率よりも高いかのいずれかである屈折率を有する。
【0074】
その実施形態では、非限定的な例として、レンズは、透明であるか又は部分的に可視光を吸収し、且つ透明であるか又は部分的に深紅及びNIR光を吸収し得る基材を含む。基材から離れる方向に沿って、干渉コーティングは、少なくとも、
1.6~2.4の範囲の屈折率を有する1つの層と、
1.6未満の屈折率を有する1つの層と、
1.6~2.4の範囲の屈折率を有する1つの層と、
1.6未満の屈折率を有する1つの層
を含む。
【0075】
その実施形態では、1.6~2.4の範囲の屈折率を有する層は、例えば、ジルコニア(ZrO)で作製され得、及び1.6未満の屈折率を有する層は、例えば、二酸化ケイ素(SiO)で作製され得る。
【0076】
その実施形態では、非限定的な例として、基材から離れる方向に沿って、レンズは、少なくとも、
10~25nmの範囲の物理的厚さを有する1つの層と、
20~35nmの範囲の物理的厚さを有する1つの層と、
140~180nmの範囲の物理的厚さを有する1つの層と、
90~120nmの範囲の物理的厚さを有する1つの層
を含む。
【0077】
その実施形態では、非限定的な例として、背面干渉コーティングの物理的厚さ又は前面干渉コーティングの物理的厚さは、(常に深紅及びNIR光源が眼科用レンズの前面に向けられている場合に)500nm以下、好ましくは320nm以下であり、典型的には260~320nmの範囲である。
【0078】
特定の実施形態では、深紅及びNIR光源が眼科用レンズの背面に向けられている場合、前面干渉コーティングは、少なくとも6つの層を含む。基材から離れる方向に沿って、前面干渉コーティングは、少なくとも、
1.6~2.2の範囲の屈折率を有する1つの層と、
2.2以上の屈折率を有する1つの層と、
1.6以下の屈折率を有する1つの層と、
2.2以上の屈折率を有する1つの層と、
1.6~2.2の範囲の屈折率を有する1つの任意選択の層と、
1.6以下の屈折率を有する1つの層
を含む。
【0079】
その実施形態では、1.6~2.2の範囲の屈折率を有する層は、例えば、ジルコニア(ZrO)で作製され得、1.6未満の屈折率を有する層は、例えば、二酸化ケイ素(SiO)で作製され得、及び2.2を超える屈折率を有する層は、例えば、二酸化チタン(TiO)で作製され得る。
【0080】
その実施形態では、非限定的な例として、基材から離れる方向に沿って、レンズは、少なくとも、
31~54nmの範囲の物理的厚さを有する1つの層と、
74~98nmの範囲の物理的厚さを有する1つの層と、
165~190nmの範囲の物理的厚さを有する1つの層と、
87~98nmの範囲の物理的厚さを有する1つの層と、
0~10nmの範囲の物理的厚さを有する1つの任意選択の層と、
64~85nmの範囲の物理的厚さを有する1つの層
を含む。
【0081】
別段の規定がない限り、本出願で言及される屈折率は、550nmの波長において25℃で表される。
【0082】
特定の実施形態では、眼科用レンズ10は、その耐摩耗性を高めるためにハードコーティングを含み得る。そのような実施形態では、基材の屈折率は、屈折率間の不一致から生じるフリンジを低減するために、有利には、ハードコーティングの屈折率と同様である。フリンジは、特に、波長帯域幅が狭いNIR光を使用する場合である高コヒーレンス光を使用する場合、強度の変動をもたらすため、眼の特徴測定のための画質も実際に低下させ得る。
【0083】
以下の実施例は、非限定的な様式で本発明を例示する。
【0084】
[実施例]
1.一般的な手順
この例で使用されている眼科用レンズは、屈折率が1.59の厚さ3μmのハードコートでコーティングされている、屈折率が1.60のレンズ基材(MITSUIのMR-8(登録商標)レンズ)を含む。
【0085】
本発明による反射防止コーティングは、レンズの背面上に設けられる。
【0086】
加えて、深紅及びNIR光源がレンズの前面に向けられる用途について、本発明による反射防止コーティングもレンズの前面に設けられる。
【0087】
他方では、深紅及びNIR光源がレンズの背面に向けられる用途について、本発明による反射コーティングは、レンズの前面に設けられる。
【0088】
反射防止及び反射コーティングの層は、真空下での蒸発(蒸発源:電子銃)により、基材を加熱することなく堆積された。
【0089】
蒸着フレームは、酸化物を蒸発させるための電子銃(ESV14(8kV))が取り付けられており、且つアルゴンイオン(IPC)を使用して基材の表面を準備するための予備段階のためのイオン銃(Commonwealth Mark II)を備えたLeybold 1104装置である。
【0090】
層の厚さは、水晶振動子マイクロバランスによって制御した。スペクトル測定は、URAアクセサリ(Universal Reflectance Accessory)を備えた可変入射分光光度計Perkin‐Elmer Lambda 850で行った。
【0091】
2.試験手順
本発明による光学デバイスに含まれる眼科用レンズを作製するための方法は、可能な場合、その背面又は前面が従来の耐摩耗性及び耐引っかき性コーティングでコーティングされた基材を真空堆積チャンバに導入するステップと、高真空が得られるまでポンピングするステップと、アルゴンイオンビームによって基材の表面を活性化し、イオン照射をオフにし、その後、連続的な蒸発と最後に換気ステップとにより、反射防止コーティング及び反射コーティングの様々な層を形成するステップとを含む。
【0092】
3.結果
レンズの背面上に実施例1の干渉コーティングを用いて得られた眼科用レンズの構造的特徴及び光学的性能を以下に詳述する。
【0093】
15°及び35°の入射角での380nm~900nmの反射グラフを図3に示す。
【0094】
光学値は、背面のそれらの値である。
【0095】
反射光の彩度(C*)及び色相角(h*)は、15°及び35°の入射角、標準光源D65並びに標準観察者(角度10°)について提供される。
【0096】
Rvは、380nm~780nmで計算された視感反射率である。
【0097】
【表1】
【0098】
図1の実施形態の実現において、実施例1と同じ干渉コーティングが眼科用レンズの前面上に設けられている。実施例1では、700nm~900nmの範囲の波長についてのレンズの背面及び前面の両方上の平均反射率は、2.5%以下、更に1%未満である。そのような特性により、ノイズ反射が回避される。
【0099】
図2の実施形態の実現において、背面上のものと異なるハードコートを用いた、1.479の屈折率、3μmの厚さを有する、実施例2で以下に詳述する別の干渉コーティングが、眼科用レンズの前面上に設けられている。
【0100】
【表2】
【0101】
実施例2では、700nm~900nmの範囲の波長についてのレンズの背面上の平均反射率は、2.5%以下、更に1%未満であり、700nm~900nmの範囲の波長についてのレンズの前面上の平均反射率は、25%を超える。そのような特性を用いて、レンズの背面に向けられた光は、レンズの前面のみによって反射され、背面上での低反射によりノイズ反射を回避する。
【0102】
代表的なプロセス及び物品が本明細書で詳細に記載されているが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲によって説明及び定義されているものの範囲から逸脱することなく、様々な置換形態及び修正形態がなされ得ることを認識するであろう。
図1
図2
図3
図4