(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】めっき材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 5/12 20060101AFI20231011BHJP
C25D 5/02 20060101ALI20231011BHJP
C25D 5/50 20060101ALI20231011BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20231011BHJP
H01R 13/03 20060101ALN20231011BHJP
【FI】
C25D5/12
C25D5/02 B
C25D5/50
C25D7/00 H
H01R13/03 D
(21)【出願番号】P 2022133860
(22)【出願日】2022-08-25
(62)【分割の表示】P 2019065248の分割
【原出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】平井 悠太郎
(72)【発明者】
【氏名】荒井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】足達 俊祐
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-078287(JP,A)
【文献】特開2014-022082(JP,A)
【文献】特開2015-187303(JP,A)
【文献】特開2015-206094(JP,A)
【文献】特開2015-219975(JP,A)
【文献】特開2016-166396(JP,A)
【文献】国際公開第2015/092979(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/12 - 7/12
H01R 13/00 - 13/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または銅合金からなる基材の表面にニッケルめっき層が形成され、このニッケルめっき層の表面の一部に銀めっき層が形成されているとともに、ニッケルめっき
層の銀めっき層が形成されている面の他の部分の一部にリフロー錫めっき層が形成され、銀めっき層の表面の接触抵抗が、荷重100gfで測定したときに1mΩ以下であることを特徴とする、めっき材。
【請求項2】
前記ニッケルめっき層の表面に形成されている前記銀めっき層と前記リフロー錫めっき層が離間していることを特徴とする、請求項1に記載のめっき材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の銀めっき材を材料として用いたことを特徴とする、接点または端子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき材およびその製造方法に関し、特に、車載用や民生用の電気配線に使用されるコネクタ、スイッチ、リレーなどの接点や端子部品の材料として使用されるめっき材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コネクタやスイッチなどの接点や端子部品などの材料として、銅または銅合金やステンレス鋼などの比較的安価で耐食性や機械的特性などに優れた基材に、電気特性や半田付け性などの必要な特性に応じて、錫、銀、金などのめっきを施しためっき材が使用されている。これらのめっきと基材との間の密着性を向上させるために、これらのめっきと基材との間にニッケルからなる下地層を形成しためっき材も使用されている。
【0003】
銅または銅合金やステンレス鋼などの基材に錫めっきを施した錫めっき材は、安価であるが、高温環境下における耐食性に劣っている。また、これらの基材に金めっきを施した金めっき材は、耐食性に優れ、信頼性が高いが、コストが高くなる。一方、これらの基材に銀めっきを施した銀めっき材は、金めっき材と比べて安価であり、錫めっき材と比べて耐食性に優れている。
【0004】
そのため、コネクタなどの端子部品の材料として、雄端子と雌端子が嵌合する部分(嵌合部)に金や銀めっきが施され、電線などを加締める部分(加締め部)に安価で変形し易い光沢錫めっきや無光沢錫めっきが施されためっき材が使用される場合がある。
【0005】
また、一般に、錫めっきは、電気めっきによって行われており、錫めっき皮膜の内部応力を緩和してウイスカの発生を抑制するために、電気めっきの後にリフロー処理(加熱により錫めっきを溶融した後に凝固させる処理)が行われている。このように錫めっき後にリフロー処理を行うと、錫の一部が素材や下地成分に拡散して化合物層を形成し、この化合物層上に錫または錫合金層が形成される。
【0006】
特に、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる電線などを加締める部分に錫めっきが施されためっき材では、抵抗値が高くなるので、抵抗値の上昇を抑制するために錫めっきを施した後でリフロー処理を施す必要がある。
【0007】
このようなめっき材として、銅または銅合金からなる板状金属部材の一方の面に電解めっきによりニッケルの下地めっき層を形成し、この下地めっき層上に電解めっきにより銀めっき層を形成し、板状金属部材の他方の面に下地なしで直接電解めっきにより錫めっき層を形成した後、酸素濃度が200ppm以下の低酸素濃度雰囲気中で400~800℃に加熱するリフロー処理を行って錫めっき層を溶融させることにより板状金属部材と錫めっき層の間に錫-銅の金属間化合物を形成することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また、少なくとも一部にリフロー錫めっき層が形成され、このリフロー錫めっき層との界面に反応層が形成された金属基材から、リフロー錫めっき層と反応層の少なくとも一部を完全に剥離させ、リフロー錫めっき層と反応層を完全に剥離させた領域の少なくとも一部にニッケルめっき処理を施してニッケルめっき層を形成し、このニッケルめっき層の少なくとも一部に錫めっき処理を施すことが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2002-134361号公報(段落番号0033)
【文献】国際公開WO2015/092979号公報(段落番号0011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
コネクタなどの端子部品の材料として使用するめっき材が、嵌合部に(耐酸化性に優れた)金めっきが施され、加締め部に錫めっきが施された後にリフロー処理を施されためっき材である場合には、リフロー処理による加熱後も接触抵抗がほとんど上昇しない。しかし、コネクタなどの端子部品の材料として使用するめっき材が、嵌合部に(金めっきと比べて安価な)銀めっきが施され、加締め部に錫めっきが施された後にリフロー処理を施されためっき材である場合には、リフロー処理による加熱後に銀めっき皮膜の接触抵抗が上昇したり、銀めっき皮膜の表面が変色するという問題がある。
【0011】
特許文献1の方法では、低酸素濃度雰囲気中で加熱するための設備が必要になり、製造コストが高くなる。また、低酸素濃度雰囲気中でリフロー処理を行っても、銀めっき層と錫めっき層が共存する状態で高温で加熱するため、銀めっき層の接触抵抗が上昇したり、銀めっき層の表面が変色するおそれがある。
【0012】
特許文献2の方法では、リフロー錫めっき層と反応層の少なくとも一部を完全に剥離させる工程が必要になり、製造コストが高くなる。また、薬液で溶解させて剥離する際に必要以上にリフロー錫めっき層や反応層が剥離されるおそれがある。
【0013】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、表面の一部に銀めっき皮膜が形成されるとともに他の一部に錫めっき皮膜が形成されためっき材をリフロー処理した後に銀めっき皮膜の接触抵抗の上昇や表面の変色を防止することができる、安価なめっき材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、銅または銅合金からなる基材の表面にニッケルめっき皮膜を形成し、このニッケルめっき皮膜の表面の一部に銀めっき皮膜を形成するとともに、ニッケルめっき皮膜の表面の他の部分の一部に錫めっき皮膜を形成することにより、基材上のニッケルめっき皮膜の表面に銀めっき皮膜と錫めっき皮膜が形成されためっき材を作製した後、このめっき材の表面に赤外線を照射して加熱することにより、錫めっき皮膜をリフロー処理して、錫めっき皮膜をリフロー錫めっき層にすれば、錫めっき皮膜をリフロー処理した後に銀めっき皮膜の接触抵抗の上昇や表面の変色を防止することができる、めっき材を低コストで製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明によるめっき材の製造方法は、銅または銅合金からなる基材の表面にニッケルめっき皮膜を形成し、このニッケルめっき皮膜の表面の一部に銀めっき皮膜を形成するとともに、ニッケルめっき皮膜の表面の他の部分の一部に錫めっき皮膜を形成することにより、基材上のニッケルめっき皮膜の表面に銀めっき皮膜と錫めっき皮膜が形成されためっき材を作製した後、このめっき材の表面に赤外線を照射して加熱することにより、錫めっき皮膜をリフロー処理して、錫めっき皮膜をリフロー錫めっき層にすることを特徴とする。
【0016】
このめっき材の製造方法において、赤外線の照射の前に、ニッケルめっき皮膜の表面に銀めっき皮膜と錫めっき皮膜が形成されためっき材を、錫めっき皮膜が溶融しないように予備加熱するのが好ましい。また、赤外線の照射が、赤外線ランプにより行われるのが好ましい。さらに、ニッケルめっき皮膜の表面の一部と、ニッケルめっき皮膜の表面の他の部分の一部が離間しているのが好ましい。
【0017】
また、上記のめっき材の製造方法において、銀めっき皮膜を形成した後に錫めっき皮膜を形成するのが好ましい。この場合、ニッケルめっき皮膜を形成した後、銀めっき皮膜を形成する前に、ニッケルめっき皮膜の表面の一部以外の部分をマスク部材によって覆うのが好ましい。また、銀めっき皮膜を形成した後、錫めっき皮膜を形成する前に、ニッケルめっき皮膜の他の表面の一部以外の部分と銀めっき皮膜の表面をマスク部材によって覆うのが好ましい。
【0018】
また、本発明によるめっき材は、銅または銅合金からなる基材の表面にニッケルめっき層が形成され、このニッケルめっき層の表面の一部に銀めっき層が形成されているとともに、ニッケルめっき皮膜の表面の他の部分の一部にリフロー錫めっき層が形成され、銀めっき層の表面の接触抵抗が1mΩ以下であることを特徴とする。
【0019】
このめっき材において、ニッケルめっき層の表面に形成されている銀めっき層と錫めっき層が離間しているのが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、表面の一部に銀めっき皮膜が形成されるとともに他の一部に錫めっき皮膜が形成されためっき材をリフロー処理した後に銀めっき皮膜の接触抵抗の上昇や表面の変色を低コストで防止することができる、安価なめっき材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】本発明によるめっき材の製造方法の実施の形態において基材を用意する工程を説明する平面図である。
【
図1B】本発明によるめっき材の製造方法の実施の形態においてニッケルめっき皮膜を形成する工程を説明する平面図である。
【
図1C】本発明によるめっき材の製造方法の実施の形態においてニッケルめっき皮膜の一部にマスキングテープを貼る工程を説明する平面図である。
【
図1D】本発明によるめっき材の製造方法の実施の形態においてニッケルめっき皮膜のマスキングテープが貼られていない部分に銀めっき皮膜を形成する工程を説明する平面図である。
【
図1E】本発明によるめっき材の製造方法の実施の形態において銀めっき皮膜を形成した後にマスキングテープを剥離する工程を説明する平面図である。
【
図1F】本発明によるめっき材の製造方法の実施の形態においてマスキングテープを剥離した後に銀めっき皮膜の全面とニッケルめっき皮膜の一部にマスキングテープを貼る工程を説明する平面図である。
【
図1G】本発明によるめっき材の製造方法の実施の形態においてニッケルめっき皮膜のマスキングテープが貼られていない部分に錫めっき皮膜を形成する工程を説明する平面図である。
【
図1H】本発明によるめっき材の製造方法の実施の形態において錫めっき皮膜を形成した後にマスキングテープを剥離する工程を説明する平面図である。
【
図1J】本発明によるめっき材の製造方法の実施の形態においてマスキングテープを剥離した後に錫めっき皮膜のリフロー処理を行う工程を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明によるめっき材の製造方法の実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
本発明によるめっき材の製造方法の実施の形態では、
図1Aおよび
図2Aに示すように、銅または銅合金からなる基材10を用意する。この基材10として、無酸素銅やタフピッチ銅などの純銅系の基材や、黄銅、りん青銅、Cu-Ni-Si系合金、Cu-Fe-P系合金、Cu-Ni-Sn-P系合金などの銅合金からなる基材を使用することができる。また、基材10の形状は、短冊状の個片でもよいが、生産性の面から(リール・トゥ・リール方式の連続めっきラインによってめっき材を製造することができる)条材であるのが好ましい。
【0024】
次に、
図1Bおよび
図2Bに示すように、基材10の表面(圧延面)の略全面に下地めっき皮膜としてニッケルめっき皮膜12を形成する。このニッケルめっき皮膜の形成は、電気めっきまたは無電解めっきのいずれでもよいが、生産性やコスト面から電気めっきによって行うのが好ましい。
【0025】
次に、
図1Cおよび
図2Cに示すように、ニッケルめっき皮膜12の表面の一部以外の部分にマスク部材14を配置(例えば、マスキングテープを貼り付けるか、レジストマスクを形成)してその部分を覆った後、
図1Dおよび
図2Dに示すように、ニッケルめっき皮膜12の表面の一部(マスク部材14を配置していない領域(
図1Cおよび
図1Dにおいて斜線で示す領域以外の領域))に銀めっき皮膜16を形成し、その後、
図1Eおよび
図2Eに示すように、マスク部材14を除去(例えば、マスキングテープまたはレジストマスクを剥離)する。この銀めっき皮膜16の形成は、電気めっきによって行うのが好ましい。
【0026】
次に、
図1Fおよび
図2Fに示すように、ニッケルめっき皮膜12の表面の他の部分の一部以外の部分と銀めっき皮膜16の表面(の全面)にマスク部材18を配置(例えば、マスキングテープを貼り付けるか、レジストマスクを形成)してその部分を覆った後、
図1Gおよび
図2Gに示すように、ニッケルめっき皮膜12の表面の他の部分の一部(マスク部材18を配置していない領域(
図1Fおよび
図1Gにおいて斜線で示す領域以外の領域))に錫めっき皮膜20を形成し、その後、
図1Hおよび
図2Hに示すように、マスク部材18を除去(例えば、マスキングテープまたはレジストマスクを剥離)する。この錫めっき皮膜20の形成は、電気めっきによって行うのが好ましい。
【0027】
このようにして基材10の略全面に形成されたニッケルめっき皮膜12の表面に銀めっき皮膜16と(この銀めっき皮膜16から離間して)錫めっき皮膜20が形成されためっき材を作製した後、セラミックスパネルヒーターなどを用いた炉を使用して、錫めっき皮膜20が溶融しない条件で予備加熱した後、
図1Jおよび
図2Jに示すように、そのめっき材の表面に(赤外線ランプなどにより)大気中で赤外線を照射して加熱することにより、錫めっき皮膜20を溶融した後に冷却(リフロー処理)して、錫めっき皮膜20をリフロー錫めっき層22にする。
【0028】
なお、赤外線による加熱は輻射であり、銀は赤外線を吸収し難く、その吸収率は、例えば、波長1μmで0.01程度であるのに対して、錫は赤外線を吸収し易く、その吸収率は、例えば、波長1μmで0.25程度である。そのため、基材10の略全面に形成されたニッケルめっき皮膜12の表面に銀めっき皮膜16と錫めっき皮膜20が形成されためっき材に、赤外線ランプなどにより赤外線を照射して加熱すると、銀めっき皮膜16は輻射によりほとんど加熱されず、錫めっき皮膜20が選択的に加熱されることにより、錫めっき皮膜20が溶融した後に冷却(リフロー処理)されて、錫めっき皮膜20がリフロー錫めっき層22になると考えられる。このようにしてリフロー錫めっき層22を形成すると、加熱による銀めっき皮膜の昇温が抑制されるため、銀めっき皮膜の変色が抑制され、接触抵抗の上昇も抑制されると考えられる。また、赤外線による加熱の前に、錫めっき皮膜が溶融しない程度に予備加熱しておけば、赤外線による加熱の時間を短縮することができる。
【0029】
基材10が条材である場合には、リール・トゥ・リール方式の連続めっきラインによって、連続的にめっきするのが好ましい。また、マスク部材18としてマスキングテープを使用する場合には、連続めっきラインにおいて、マスキングテープも連続テープ貼り装置によって連続的に貼り付けるのが好ましい。
【0030】
上述しためっき材の製造方法の実施の形態により、以下のような本発明によるめっき材の実施の形態を製造することができる。
【0031】
本発明によるめっき材の実施の形態は、銅または銅合金からなる基材10の表面の略全面にニッケルめっき層12が形成され、このニッケルめっき層12の表面の一部に銀めっき層16が形成されているとともに、(この銀めっき層16から離間して)ニッケルめっき皮膜12の表面の他の部分の一部にリフロー錫めっき層22が形成され、銀めっき層16の表面の接触抵抗が1mΩ以下である。
【実施例】
【0032】
以下、本発明によるめっき材およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0033】
[実施例]
まず、基材(被めっき材)として厚さ0.2mmで幅25mmのCu-Ni-Sn系合金(DOWAメタル株式会社製のNB109-EH材)からなる条材を用意し、この条材をその幅方向が鉛直方向になるように(連続的にめっきを施す)リール・トゥ・リール方式の連続めっきラインに設置した。
【0034】
この連続めっきラインにおいて、被めっき材の前処理として、被めっき材とSUS板をアルカリ脱脂液に入れ、被めっき材を陰極とし、SUS板を陽極として、電圧5Vで30秒間電解脱脂を行い、水洗した後、3%硫酸中で15秒間酸洗を行った。
【0035】
次に、連続めっきラインにおいて、540g/Lのスルファミン酸ニッケル四水和物と25g/Lの塩化ニッケルと35g/Lのホウ酸を含む水溶液からなる無光沢ニッケルめっき液中において、前処理を行った被めっき材を陰極とし、チタン製のアノードケースに収容されたニッケルのチップを陽極として、液温50℃において電流密度9A/dm2で30秒間電気めっき(無光沢ニッケルめっき)を行って、被めっき材の両面の略全面に下地めっき皮膜として無光沢ニッケルめっき皮膜を形成した。この無光沢ニッケルめっき皮膜の幅方向略中央部の厚さを蛍光X線膜厚計(株式会社日立ハイテクサイエンス製のSFT-110A)により測定したところ、0.5μmであった。
【0036】
次に、連続めっきラインにおいて、基材(被めっき材)の両面の幅方向下端部から幅13mmの部分と幅方向上端部から幅4mmの部分にマスキングテープを貼り付けた。
【0037】
次に、連続めっきラインにおいて、3g/Lのシアン化銀カリウムと90g/Lのシアン化カリウムを含む水溶液からなる銀ストライクめっき液中において、下地めっき皮膜を形成した基材を陰極とし、ステンレス(SUS)板を陽極として、室温(25℃)、電流密度2A/dm2で10秒間電気めっきを行うことにより、下地めっき皮膜を形成した基材上のマスキングテープが貼られていない領域(帯状の露出面)に銀ストライクめっき皮膜を形成した後、水洗して銀ストライクめっき液を十分に洗い流した。
【0038】
次に、連続めっきラインにおいて、175g/Lのシアン化銀カリウム(KAg(CN)2)と95g/Lのシアン化カリウム(KCN)と102mg/Lのセレノシアン酸カリウム(KSeCN)を含む水溶液からなる銀めっき液中において、銀ストライクめっき皮膜を形成した基材を陰極とし、チタン製のアノードケースに収容された銀粒子を陽極として、液温18℃、電流密度8A/dm2で21秒間電気めっき(銀めっき)を行って、基材上(の銀ストライクめっき皮膜上)に銀めっき皮膜を形成し、水洗して銀めっき液を十分に洗い流した。この銀めっき皮膜の幅方向略中央部の厚さを蛍光X線膜厚計(株式会社日立ハイテクサイエンス製のSFT-110A)により測定したところ、1.0μmであった。
【0039】
次に、連続めっきラインにおいて、基材上の下地めっき皮膜からマスキングテープを剥がした後、基材の幅方向上端部から幅15mmの部分(銀めっき皮膜の全面と下地めっき皮膜の一部を覆う帯状部分)にマスキングテープを貼り付けた。
【0040】
次に、連続めっきラインにおいて、(金属錫塩として)アルカノールスルホン酸錫(ユケン工業株式会社製のメタスSM-2)250mL/Lと(遊離酸として)アルカノールスルホン酸(ユケン工業株式会社製のメタスAM)75mL/Lとを含む錫めっき液中において、銀めっき皮膜を形成した基材を陰極とし、チタン製のアノードケースに収容された錫のボールを陽極として、液温25℃、電流密度12A/dm2として14秒間電気めっき(錫めっき)を行って、基材上のマスキングテープが貼られていない領域(基材上の下地めっき皮膜の露出面(被めっき材の幅方向下端部から幅10mmの領域))に厚さ1μmの錫めっき皮膜を形成した後、マスキングテープを剥がした。
【0041】
次に、錫めっき皮膜を形成した基材を、セラミックスパネルヒーターを用いた炉内に入れ、この炉内で予備加熱(この予備加熱では錫めっき皮膜は溶融していない)した後、平板面状放射型赤外線ランプ(アドバンス理工株式会社製のPs110VP、単層200V、2kW)に対向させて、出力67%で15秒間加熱することによりリフロー処理を行った。このリフロー処理により、錫めっき層が溶融した後に凝固し、リフロー錫めっき層が形成されていることが確認された。
【0042】
このようにして作製しためっき材について、リフロー処理の前後で銀めっき層の表面の接触抵抗を電気接点シミュレータ(株式会社山崎精機研究所製のCRS-1)により荷重100gfで測定したところ、リフロー処理前では0.72mΩ、リフロー処理後では0.64mΩであり、接触抵抗の上昇はなかった。また、銀めっき層の外観を目視で観察したところ、リフロー処理前後で変色は確認されなかった。
【0043】
[比較例]
錫めっき皮膜を形成した基材を、予備加熱した後に平板面状放射型赤外線ランプで加熱する代わりに、ホットプレート(アズワン株式会社製のHIGH TEMP HOTPLATE(型式HTH-500N))上に配置し、大気中において450℃で加熱した以外は、実施例と同様の方法により、めっき材を作製した。
【0044】
このようにして作製しためっき材について、実施例と同様の方法により、リフロー処理の前後で銀めっき層の表面の接触抵抗を測定したところ、リフロー処理前では0.75mΩ、リフロー処理後では2.49mΩであり、接触抵抗が大幅に上昇していた。また、銀めっき層の外観を目視で観察したところ、リフロー処理前後で変色が確認された。
【符号の説明】
【0045】
10 基材
12 下地めっき皮膜(ニッケルめっき皮膜)
14 マスク部材
16 銀めっき皮膜
18 マスク部材
20 錫めっき皮膜
22 リフロー錫めっき層