(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】溶融塩の循環装置及び循環方法
(51)【国際特許分類】
F28F 23/02 20060101AFI20231011BHJP
【FI】
F28F23/02
(21)【出願番号】P 2023115166
(22)【出願日】2023-07-13
(62)【分割の表示】P 2023521820の分割
【原出願日】2023-04-10
【審査請求日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2023005670
(32)【優先日】2023-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500561931
【氏名又は名称】JFEプロジェクトワン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】小山 斎
(72)【発明者】
【氏名】戸高 哲也
(72)【発明者】
【氏名】本間 陽子
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-092086(JP,A)
【文献】特開2010-204017(JP,A)
【文献】特開2009-262136(JP,A)
【文献】実開平6-040673(JP,U)
【文献】特開2014-025874(JP,A)
【文献】中国実用新案第205279441(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜硝酸ナトリウム、硝酸ナトリウム及び硝酸カリウムの少なくとも1種からなる溶融塩を貯留するタンクと、該タンク内の前記溶融塩を加熱する加熱器と、該タンクから前記溶融塩を送出するポンプと、前記タンクから送出された前記溶融塩を循環させて前記タンクに帰還させる循環経路と、前記タンク内に水を供給する水供給源とを備え、
運転停止時に、前記ポンプの駆動を維持しつつ、前記溶融塩の温度が予め設定された閾値まで低下した際に前記水供給源から前記タンク内に水を供給する機能を有することを特徴とする溶融塩の循環装置。
【請求項2】
前記タンク内に不活性ガス又はスチームからなる空気遮断用ガスを供給するガス供給源を備えることを特徴とする請求項1に記載の溶融塩の循環装置。
【請求項3】
前記ポンプの停止時に前記循環経路内の前記溶融塩が前記タンクに戻るように前記循環経路の配管が前記タンク側に向かって傾斜していることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶融塩の循環装置。
【請求項4】
亜硝酸ナトリウム、硝酸ナトリウム及び硝酸カリウムの少なくとも1種からなる溶融塩を貯留するタンクと、該タンク内の前記溶融塩を加熱する加熱器と、該タンクから前記溶融塩を排出するポンプと、前記タンクから排出された前記溶融塩を循環させて前記タンクに帰還させる循環経路と、前記タンク内に水を供給する水供給源とを備える循環装置を用いた溶融塩の循環方法であって、
前記水供給源から供給された水で前記溶融塩を水希釈することで該溶融塩の凝固点を低下させ、該水希釈された前記溶融塩を前記加熱器により加熱することで前記溶融塩の液体状態を保持し、前記ポンプの駆動により前記循環経路を介して前記溶融塩を循環させる一方で、
運転停止時に、前記ポンプの駆動を維持しつつ、前記溶融塩の温度が予め設定された閾値まで低下した際に前記水供給源から前記タンク内に水を供給することを特徴とする溶融塩の循環方法。
【請求項5】
前記循環装置において、前記タンク内に不活性ガス又はスチームからなる空気遮断用ガスを供給するガス供給源を備え、
前記ポンプの駆動時に前記ガス供給源から前記タンク内に前記空気遮断用ガスを供給することを特徴とする請求項4に記載の溶融塩の循環方法。
【請求項6】
前記循環装置において、前記ポンプの停止時に前記循環経路内の前記溶融塩が前記タンクに戻るように前記循環経路の配管が前記タンク側に向かって傾斜しており、
前記ポンプの停止時に前記溶融塩を前記タンク内に回収することを特徴とする請求項4又は5に記載の溶融塩の循環方法。
【請求項7】
前記溶融塩における酸化ナトリウムの濃度を定期的に測定し、その濃度が予め設定された閾値に到達した際に前記溶融塩に硝酸を加えることを特徴とする請求項4又は5に記載の溶融塩の循環方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱媒体として溶融塩を循環するための装置及び方法に関し、更に詳しくは、溶融塩の凝固点を下げて溶融塩の取り扱いを容易にすると共に、運転停止時に溶融塩を液体状態で保持するための加熱エネルギーを低減することを可能にした溶融塩の循環装置及び循環方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融塩は陽イオンと陰イオンからなる塩で通常は凝固しているが、一定以上の温度になると融解して溶融状態になる物質である。溶融塩の中には相変化を伴わずに蓄熱や放熱を行う顕熱型の熱媒体として、熱交換器や反応器等を加温するために用いられるHTS(Heat Transfer Salt)と呼ばれる物質がある。HTSとしては、亜硝酸ナトリウム(NaNO2)、硝酸ナトリウム(NaNO3)及び硝酸カリウム(KNO3)の混合物が例示される(例えば、特許文献1参照)。この混合物は硝酸カリウムの結晶の英語名に由来してナイター(Niter)とも呼ばれる。
【0003】
HTSのような溶融塩を熱媒体として用いる場合、溶融塩の循環装置は、溶融塩を貯留するタンクと、該タンク内の溶融塩を加熱する加熱器と、該タンクから溶融塩を送出するポンプと、タンクから送出された溶融塩を循環させてタンクに帰還させる循環経路とから構成されるのが一般的である。
【0004】
しかしながら、例えば、40重量%の亜硝酸ナトリウムと、7重量%の硝酸ナトリウムと、53重量%の硝酸カリウムとを含む溶融塩の凝固点は約142℃であるため、溶融塩を取り扱う際には、タンク内の溶融塩を凝固点(約142℃)以上に加熱して液体状態に保持する必要がある。そのため、運転停止時であっても溶融塩を液体状態で保持するための加熱エネルギーが大きいという欠点がある。
【0005】
また、高い凝固点を有する溶融塩は取り扱いが困難である。つまり、溶融塩は固化した状態において陶器のような硬さを有するので、溶融塩が配管内で固化して配管閉塞などを起こした場合は設備の全面取替が余儀なくされる。そのため、配管閉塞が生じないように溶融塩を常に高温状態に維持することが必要である。また、運転開始時に溶融塩の循環装置を構成する機器や配管内に少量の水が存在する状態で機器や配管内に高温の溶融塩が流れ込むと、瞬時にして水が蒸発し、水蒸気爆発が生じる可能性があるので、そのような状況を回避するための細心の注意が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、溶融塩の凝固点を下げて溶融塩の取り扱いを容易にすると共に、運転停止時に溶融塩を液体状態で保持するための加熱エネルギーを低減することを可能にした溶融塩の循環装置及び循環方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の溶融塩の循環装置は、亜硝酸ナトリウム、硝酸ナトリウム及び硝酸カリウムの少なくとも1種からなる溶融塩を貯留するタンクと、該タンク内の前記溶融塩を加熱する加熱器と、該タンクから前記溶融塩を送出するポンプと、前記タンクから送出された前記溶融塩を循環させて前記タンクに帰還させる循環経路と、前記タンク内に水を供給する水供給源とを備え、
運転停止時に、前記ポンプの駆動を維持しつつ、前記溶融塩の温度が予め設定された閾値まで低下した際に前記水供給源から前記タンク内に水を供給する機能を有することを特徴とするものである。
【0009】
また、上記目的を達成するための本発明の溶融塩の循環方法は、亜硝酸ナトリウム、硝酸ナトリウム及び硝酸カリウムの少なくとも1種からなる溶融塩を貯留するタンクと、該タンク内の前記溶融塩を加熱する加熱器と、該タンクから前記溶融塩を排出するポンプと、前記タンクから排出された前記溶融塩を循環させて前記タンクに帰還させる循環経路と、前記タンク内に水を供給する水供給源とを備える循環装置を用いた溶融塩の循環方法であって、
前記水供給源から供給された水で前記溶融塩を水希釈することで該溶融塩の凝固点を低下させ、該水希釈された前記溶融塩を前記加熱器により加熱することで前記溶融塩の液体状態を保持し、前記ポンプの駆動により前記循環経路を介して前記溶融塩を循環させる一方で、
運転停止時に、前記ポンプの駆動を維持しつつ、前記溶融塩の温度が予め設定された閾値まで低下した際に前記水供給源から前記タンク内に水を供給することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、亜硝酸ナトリウム(NaNO2)、硝酸ナトリウム(NaNO3)及び硝酸カリウム(KNO3)の少なくとも1種からなる溶融塩(HTS)を貯留するタンクと、該タンク内の溶融塩を加熱する加熱器と、該タンクから溶融塩を送出するポンプと、タンクから送出された溶融塩を循環させてタンクに帰還させる循環経路と、タンク内に水を供給する水供給源とを備える循環装置を構成し、水供給源から水を供給することで溶融塩を水希釈し、該溶融塩の凝固点を低下させることができる。そのため、運転停止時には該希釈された溶融塩を液体状態で保持するための加熱エネルギーを低減することができる。また、運転開始時及び運転停止時における溶融塩の温度を低下させているので、溶融塩の取り扱いが容易になる。つまり、溶融塩の循環を比較的低い温度から開始することができるので、溶融塩の循環装置を構成する機器や配管内に少量の水が存在する状態で機器や配管内に溶融塩が流れ込んでも、水蒸気爆発が生じることはない。また、凝固点を低下させた溶融塩は配管内で固化し難くなるため、配管閉塞を防止することができる。
【0011】
上記循環装置において、タンク内に不活性ガス又はスチームからなる空気遮断用ガスを供給するガス供給源を備え、ポンプの駆動時にガス供給源からタンク内に空気遮断用ガスを供給することが好ましい。溶融塩(HTS)は化学的に安定しているが、高温で長期間にわたって使用されるとNaNO2が熱分解してNaNO3やNa2Oを生成し、Na2Oが空気中の炭酸ガス(CO2)と反応するとNa2CO3を生成する。Na2CO3は溶融塩と共融混合物を作り、その凝固点は300℃を超える。また、溶融塩は高温で空気中の酸素と接触するとNaNO2が酸化反応を起こしてNaNO3を生成する。そして、NaNO3の濃度が上がると溶融塩の凝固点が上昇し、配管閉塞が生じ易くなる。しかしながら、上述のようにポンプの駆動時にガス供給源からタンク内に空気遮断用ガスを供給することにより、溶融塩と酸素や炭酸ガスとの接触を遮断し、溶融塩の凝固点の上昇を抑制することができる。
【0012】
上記循環装置において、ポンプの停止時に循環経路内の溶融塩がタンクに戻るように循環経路の配管がタンク側に向かって傾斜しており、ポンプの停止時に溶融塩をタンク内に回収することが好ましい。これにより、配管閉塞をより確実に防止することができる。
【0013】
本発明の溶融塩の循環方法において、運転停止時に、ポンプの駆動を維持しつつ、溶融塩の温度が予め設定された閾値まで低下した際に水供給源からタンク内に水を供給することが好ましい。運転開始時に溶融塩に混合されていた水分は加熱により気化して外部に放出されるので、運転停止時にはタンク内に水を供給する必要があるが、そのような水は溶融塩の温度が予め設定された閾値まで低下してから徐々にタンク内に供給する。これにより、次回の運転開始時のために溶融塩の凝固点を低下させることができる。
【0014】
本発明の溶融塩の循環方法において、溶融塩における酸化ナトリウム(Na2O)の濃度を定期的に測定し、その濃度が予め設定された閾値に到達した際に溶融塩に硝酸を加えることが好ましい。硝酸による中和を行うことにより、酸化ナトリウムが硝酸ナトリウム(NaNO3)に変換されてアルカリ度が下がり、系内の鋼材腐食を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は本発明の実施形態に係る溶融塩の循環装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係る溶融塩の循環装置を示すものである。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る溶融塩の循環装置は、溶融塩Sを貯留するタンク1と、該タンク1内の溶融塩Sを加熱する加熱器2,3と、該タンク1から溶融塩Sを送出するポンプ4と、タンク1内に水を供給する水供給源5と、タンク1内に空気遮断用ガスを供給するガス供給源6と、タンクの上部に配設されたサイクロン分離器7と、タンク1から送出された溶融塩Sを循環させてタンク1に帰還させる循環経路10とを備えている。
【0018】
タンク1は、循環させるべき溶融塩Sと希釈用の水との総量を貯留可能な容積を有すると共に、その一部に他の部分よりも深い深底部1aを備えている。タンク1の深底部1aの周囲には加熱器2が配設されている。この加熱器2は深底部1a内の溶融塩Sを溶融もしくは加熱する。また、タンク1の内部には加熱器3が配設されている。この加熱器3はタンク1内の溶融塩Sを溶融もしくは加熱する。加熱器2,3はいずれもスチームを利用したものであるが、その熱源は特に限定されるものではない。
【0019】
ポンプ4は、タンク1の深底部1aの位置に配設されており、タンク1内の溶融塩Sを循環経路10に送出する。図示の例において、ポンプ4はタンク1内に設置される浸漬式のポンプであるが、外置き式のポンプであっても良い。水供給源5は、タンク1に接続されており、タンク1内に純水を循環装置停止時に供給するように構成されている。ガス供給源6は、タンク1に接続されており、タンク1内に空気遮断用ガスを供給するように構成されている。空気遮断用ガスとして、窒素ガスに代表される不活性ガス又はスチームが使用される。サイクロン分離器7は、タンク1内に充満する気体とその気体中に含まれる溶融塩とを分離し、気体のみを外部に放出する装置である。サイクロン分離器7は、運転開始時及び運転停止時に発生するスチームと溶融塩Sとを分離する目的で設置される。このようなサイクロン分離器7は排出口に雨水が侵入しないような構造とする。
【0020】
図1において、循環経路10は、冷却器11と、加熱器12と、加熱対象機器13と、ブレークタンク14とを含んでいる。より具体的には、ポンプ4の吐出口は配管21を介して冷却器11の流入口に接続され、冷却器11の吐出口は配管22を介して加熱器12の流入口に接続され、加熱器12の吐出口は配管23を介して加熱対象機器13の流入口に接続され、加熱対象機器13の吐出口は配管24を介してブレークタンク14の流入口に接続され、ブレークタンク14の液体用の吐出口は配管25を介してタンク1に接続され、ブレークタンク14の気体用の吐出口は配管26を介してタンク1に接続されている。但し、循環経路10における冷却器11、加熱器12、加熱対象機器13、ブレークタンク14の配置順序はこれに限定されるものではない。
【0021】
冷却器11は、ユーザーの加熱対象機器13が発熱反応を伴う場合に溶融塩Sを冷却する必要があるため、その冷却を担持する。冷却器11の代表例として、エアフィンクーラーやスチームジェネレータなどが例示される。図示の例は、エアフィンクーラーである。スチームジェネレータは熱回収の目的で設置され、スペースの削減を考慮すると竪型を選定することが好ましい。冷却器11は、必ずしも設置する必要はない。
【0022】
加熱器12としては、加熱炉と電気ヒーターの2種類がある。2種類の使い分けは、加熱対象機器13で消費される熱量によって異なるが、基本的には、吸熱反応では大きな熱量が必要となるため「加熱炉」を選定し、発熱反応では昇温に必要な熱量があれば十分であるため「電気ヒーター」を選定することができる。図示の例では、電気ヒーターからなる加熱器12が循環経路10に組み込まれているが、このような加熱器12をタンク1内に設置することも可能である。
【0023】
加熱対象機器13としては、熱交換器や反応炉などがある。ブレークタンク14は、サイフォンブレーク及び気液分離の目的で設置されている。即ち、加熱対象機器13を通過した溶融塩Sを気体と液体に分離し、配管25,26を介してそれぞれをタンク1に還流させる。ブレークタンク14は、循環経路10内で最も高い位置に配設される。図示の例では、ブレークタンク14が加熱対象機器13の下流側に設置されているが、ブレークタンク14を加熱対象機器13の上流側に設置し、ブレークタンク14を介して各ユーザーの加熱対象機器13に溶融塩Sを供給するシステム構成を採用することも可能である。
【0024】
本発明で使用される溶融塩S(HTS)は、亜硝酸ナトリウム(NaNO2)、硝酸ナトリウム(NaNO3)及び硝酸カリウム(KNO3)の少なくとも1種から構成される。例えば、亜硝酸ナトリウム(NaNO2)と硝酸ナトリウム(NaNO3)と硝酸カリウム(KNO3)との3種混合物、硝酸ナトリウム(NaNO3)と硝酸カリウム(KNO3)との2種混合物、硝酸ナトリウム(NaNO3)の単体、硝酸カリウム(KNO3)の単体などが挙げられる。より具体的には、40重量%の亜硝酸ナトリウム(NaNO2)と7重量%の硝酸ナトリウム(NaNO3)と53重量%の硝酸カリウム(KNO3)とを含む3種混合物、50重量%の硝酸ナトリウム(NaNO3)と50重量%の硝酸カリウム(KNO3)とを含む2種混合物、75重量%の硝酸ナトリウム(NaNO3)と25重量%の硝酸カリウム(KNO3)とを含む2種混合物などが例示される。
【0025】
溶融塩Sに添加される水の量は、好ましくは、溶融塩Sの重量の6重量%~50重量%、より好ましくは、15重量%~25重量%とする。例えば、40重量%の亜硝酸ナトリウムと7重量%の硝酸ナトリウムと53重量%の硝酸カリウムとを含む溶融塩Sの凝固点は約142℃であるが、これに対して希釈水を15重量%加えると凝固点は70℃以下に低下する。希釈水の添加量を増やすほど凝固点が低くなる傾向があり、運転停止時に溶融塩Sを液状状態で保持するための加熱エネルギーが小さくなるという利点があるが、その分だけ溶融塩Sを貯留するためのタンク1の容量を大きくする必要がある。そのため、溶融塩Sに添加される水の量は、タンク1を加熱するために必要とされる加熱エネルギーとタンク1の容量との関係から任意に選択することができる。
【0026】
次に、上述した溶融塩の循環装置の使用方法について説明する。先ず、水供給源5からタンク1内に水を供給し、その水を加温して温水とする。そして、温水に溶融塩Sを投入しながら溶融塩Sを溶解する。このような作業は簡単に実施することができる。これにより、溶融塩Sの凝固点が低下する。運転開始時には、水希釈された溶融塩Sを加熱器2,3により加熱することで溶融塩Sの液体状態を保持し、ポンプ4の駆動により循環経路10を介して溶融塩Sを循環させる。溶融塩Sは、必要に応じて冷却器11により冷却され、必要に応じて加熱器12により更に加熱された後、熱交換機や反応炉からなる加熱対象機器13に供給される。加熱対象機器13を通過した溶融塩Sはブレークタンク14を介してタンク1に戻る。溶融塩Sは、例えば300℃~550℃の範囲に設定された使用温度まで昇温されるが、そのような使用温度まで十分な時間を掛けて徐々に昇温される。希釈水は、溶融塩Sの昇温時に約140℃~約260℃の間で蒸発し、通常運転状態では溶融塩Sに希釈水は含まれない。
【0027】
上述した循環方法によれば、亜硝酸ナトリウム(NaNO2)、硝酸ナトリウム(NaNO3)及び硝酸カリウム(KNO3)の少なくとも1種からなる溶融塩Sを貯留するタンク1と、該タンク1内の溶融塩Sを加熱する加熱器2,3と、該タンク1から溶融塩Sを送出するポンプ4と、タンク1から送出された溶融塩Sを循環させてタンク1に帰還させる循環経路10と、タンク1内に水を供給する水供給源5とを備える循環装置を構成し、水供給源5から供給された水で溶融塩Sを水希釈することで該溶融塩Sの凝固点を低下させ、該水希釈された溶融塩Sを加熱器2,3により加熱することで溶融塩Sの液体状態を保持し、ポンプ4の駆動により循環経路10を介して溶融塩Sを循環させることにより、低い凝固点を有する溶融塩Sを運転停止時に液体状態で保持するための加熱エネルギーを低減することができる。
【0028】
また、運転開始時及び運転停止時における溶融塩Sの温度を下げることが可能となるので、溶融塩Sの取り扱いが容易になる。つまり、溶融塩Sの循環を比較的低い温度(例えば、約70℃)から開始することができるので、溶融塩Sの循環装置を構成する冷却器11、加熱器12、加熱対象機器13、ブレークタンク14などの機器や配管21~25内に少量の水が存在する状態で機器や配管内に溶融塩Sが流れ込んでも、水蒸気爆発が生じることはない。また、凝固点を低下させた溶融塩Sは配管21~25内で固化し難くなるため、配管21~25の閉塞を防止することができる。
【0029】
上述の循環装置において、タンク1内に不活性ガス又はスチームからなる空気遮断用ガスを供給するガス供給源6を備える場合、ポンプ4の駆動時にガス供給源6からタンク1内に空気遮断用ガスを供給することができる。溶融塩(HTS)は化学的に安定しているが、高温で長期間にわたって使用されるとNaNO2が熱分解してNaNO3やNa2Oを生成する。特に、450℃以上では下記(1)の熱分解が生じ、600℃以上では下記(2)の熱分解が生じる。
5NaNO2→3NaNO3+Na2O+N2 ・・・(1)
3NaNO2→NaNO3+Na2O+2NO ・・・(2)
【0030】
熱分解の過程で生成したNa2Oは、空気中の炭酸ガス(CO2)と反応してNa2CO3を生成する。Na2CO3は溶融塩と共融混合物を作り、その凝固点は300℃を超える。また、溶融塩Sは高温で空気中の酸素と接触するとNaNO2が酸化反応を起こしてNaNO3を生成する。そして、NaNO3の濃度が上がると溶融塩Sの凝固点が上昇し、配管閉塞が生じ易くなる。これに対して、上述のようにポンプ4の駆動時にガス供給源6からタンク1内に空気遮断用ガスを常時供給することにより、溶融塩Sと酸素や炭酸ガスとの接触を遮断し、溶融塩Sの凝固点の上昇を抑制することができる。
【0031】
上述の循環装置において、ポンプ4の停止時に循環経路10内の溶融塩Sがタンク1に戻るように循環経路10の配管21~25はタンク1側に向かって傾斜していることが好ましい。傾斜の度合いは、1/200~1/100の範囲内にあると良い。この場合、ポンプ4の停止時に溶融塩Sが自重によってタンク1内に回収される。これにより、配管21~25の閉塞をより確実に防止することができる。但し、設備の構造上、配管21~25の少なくとも一部に滞留部分(例えば、水平部分)が形成されることが避けられない場合、その滞留部分にスチームトレースや電気ヒーターを設置し、滞留部分を加温することで、滞留部分における溶融塩Sの溶解を促進することも可能である。
【0032】
上述の循環装置において、溶融塩Sを450℃以下で使用する場合には、タンク1及び配管21~25等の構成材料に炭素鋼を使用し、溶融塩Sを450℃以上で使用する場合には、タンク1及び配管21~25等の構成材料にクロム・モリブデン鋼を使用することが望ましい。溶融塩Sの分解反応の開始温度は約450℃であるが、機器や配管内部に鉄錆や有機物の付着がある場合、溶融塩Sの分解反応が300℃程度から始まる。そして、分解反応で生成したNa2Oは鋼材に腐食作用を及ぼす。そのため、使用温度に応じてタンク1及び配管21~25等の耐腐食性を高めることは有意義である。構成材料には、炭素鋼、クロム・モリブデン鋼以外にステンレス鋼も使用することができる。
【0033】
上述した循環方法において、運転停止時には、加熱器12による加熱を停止する一方で、ポンプ1の駆動を維持しつつ、溶融塩Sの温度が予め設定された閾値まで低下した際に水供給源5からタンク1内に水を供給する。運転開始時に溶融塩Sに混合されていた水分は加熱により気化して外部に放出されるので、運転停止時にはタンク1内に水を供給する必要がある。そのような水は溶融塩Sの温度が予め設定された閾値(例えば、250℃)まで低下してから徐々にタンク1内に供給する。希釈水の供給停止は、例えば、液面位置に基づいて決定することができる。これにより、次回の運転開始時のために溶融塩Sの凝固点を低下させることができる。
【0034】
上述した循環方法において、溶融塩Sにおける酸化ナトリウム(Na2O)の濃度を定期的(例えば、1年に1回程度)に測定し、その濃度が予め設定された閾値に到達した際に溶融塩Sに硝酸を加えると良い。硝酸による中和を行うことにより、酸化ナトリウムが硝酸ナトリウム(NaNO3)に変換されてアルカリ度が下がり、系内の鋼材腐食を軽減することができる。
【実施例】
【0035】
以下の実施例1及び比較例1に基づいて溶融塩の循環を行った。
【0036】
[実施例1]
溶融塩を貯留するタンクと、該タンク内の溶融塩を加熱する加熱器と、該タンクから溶融塩を排出するポンプと、タンクから排出された溶融塩を循環させてタンクに帰還させる循環経路と、タンク内に水を供給する水供給源とを備える循環装置(
図1参照)を用い、水供給源から供給された水で溶融塩を水希釈することで該溶融塩の凝固点を低下させ、該水希釈された溶融塩を加熱器により加熱することで溶融塩の液体状態を保持し、ポンプの駆動により循環経路を介して溶融塩を循環させた。循環経路には、溶融塩を加温するために加熱器と、加熱対象機器としての熱交換機と、ブレークタンクとを設けた。溶融塩としては、40重量%の亜硝酸ナトリウム(NaNO
2)と7重量%の硝酸ナトリウム(NaNO
3)と53重量%の硝酸カリウム(KNO
3)とを含む3種混合物(凝固点=142℃)を使用し、15重量%の水で希釈した。水希釈された溶融塩の凝固点は約70℃であった。
【0037】
[比較例1]
溶融塩を貯留するタンクと、該タンク内の溶融塩を加熱する加熱器と、該タンクから溶融塩を排出するポンプと、タンクから排出された溶融塩を循環させてタンクに帰還させる循環経路とを備える循環装置を用い、溶融塩を加熱器により加熱することで溶融塩の液体状態を保持し、ポンプの駆動により循環経路を介して溶融塩を循環させた。循環経路には、溶融塩を加温するために加熱器と、加熱対象機器としての熱交換機と、ブレークタンクとを設けた。溶融塩としては、40重量%の亜硝酸ナトリウム(NaNO2)と7重量%の硝酸ナトリウム(NaNO3)と53重量%の硝酸カリウム(KNO3)とを含む3種混合物(凝固点=142℃)を使用した。
【0038】
その結果、比較例1では、運転停止時に溶融塩を液体状態で保持するために溶融塩を142℃以上に加熱することが必要であるのに対して、実施例1では、溶融塩を水希釈することで該溶融塩の凝固点を低下させているので、運転停止時に溶融塩を液体状態で保持するための加熱温度を大幅に低減し、その結果、加熱エネルギーを大幅に削減することができた。また、実施例1では、溶融塩の循環を比較的低い温度から開始することができるので、運転開始時に水蒸気爆発が生じる危険性が全くなかった。更に、実施例1では、凝固点を低下させた溶融塩が配管内で固化し難くなるため、配管閉塞を生じる危険性も全くなかった。
【符号の説明】
【0039】
1 タンク
2,3 加熱器
4 ポンプ
5 水供給源
6 ガス供給源
7 サイクロン分離器
10 循環経路
11 冷却器
12 加熱器
13 加熱対象機器
14 ブレークタンク
21~26 配管
S 溶融塩
【要約】 (修正有)
【課題】運転停止時に溶融塩を液体状態で保持するための加熱エネルギーを低減することを可能にした溶融塩の循環装置及び循環方法を提供する。
【解決手段】亜硝酸ナトリウム、硝酸ナトリウム及び硝酸カリウムの少なくとも1種からなる溶融塩Sを貯留するタンク1と、溶融塩Sを加熱する加熱器2,3と、タンクから溶融塩Sを排出するポンプと、排出された溶融塩を循環させてタンクに帰還させる循環経路10と、タンク内に水を供給する水供給源5とを備える循環装置を用い、水供給源5から供給された水で溶融塩を水希釈することで溶融塩の凝固点を低下させ、水希釈された溶融塩を加熱器により加熱することで溶融塩の液体状態を保持し、ポンプの駆動により循環経路を介して溶融塩を循環させる一方で、運転停止時に、ポンプの駆動を維持しつつ、溶融塩Sの温度が予め設定された閾値まで低下した際に水供給源からタンク内に水を供給する。
【選択図】
図1