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特許7364823カーボンブラック及びカーボンブラックの製造方法、並びに、それを配合したゴム組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】カーボンブラック及びカーボンブラックの製造方法、並びに、それを配合したゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/48 20060101AFI20231011BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20231011BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C09C1/48
C08L21/00
C08K3/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023518765
(86)(22)【出願日】2022-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2022040457
【審査請求日】2023-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2022008121
(32)【優先日】2022-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】榊原 明弘
(72)【発明者】
【氏名】日恵野 敦
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-130424(JP,A)
【文献】特開2007-277339(JP,A)
【文献】特開2017-145359(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0642205(KR,B1)
【文献】特表平07-504457(JP,A)
【文献】特表平08-511574(JP,A)
【文献】特開2010-144010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C1/48
C09D17/00
C08L21/00
C08K3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素吸着比表面積(N2SA)が、20(m2/g)以上、50(m2/g)未満であり、
DBP吸収量が、120ml/100g以上、150ml/100g未満であり、
表面自由エネルギー極性成分であるγab Dellaが、20mJ/m2以上、40mJ/m2以下であり、
強酸性基濃度が、0.2μmol/m2以上、0.6μmol/m2以下であり、
前記強酸性基がカルボキシル基であり、
表面自由エネルギー分散成分であるγd0が、80mJ/m 以上、100mJ/m 未満である、
カーボンブラック。
【請求項2】
筒状であり、上流側から順に燃焼室、拡径部、反応室、およびクエンチ部を有する反応炉を準備する工程であって、ここで、前記燃焼室は、一定の大きさの断面積を有する工程と、
前記燃焼室に、カーボンブラックの原料となる燃料と、300~400℃の酸素含有ガスとを導入し、前記燃料を燃焼させる工程と、
前記燃焼した燃料を、拡径部を介して反応室に送り、カーボンブラック微粒子を生成させる工程と、
前記反応室の後端部に冷媒を供給し、前記クエンチ部において前記カーボンブラック微粒子の生成反応を停止させる工程と、
前記クエンチ部に、酸化剤ガスを導入する工程と、
前記クエンチ部から、前記カーボンブラック微粒子を回収する工程と、
を有する、
請求項に記載のカーボンブラックの製造方法。
【請求項3】
ゴム成分100重量部に対して請求項に記載のカーボンブラックを10~170重量部含むことを特徴とするゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラック、並びに、それを配合したゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは、様々な用途に使用されている。例えば、カーボンブラックは、ゴム部材を補強するためのフィラーとして使用される場合がある。ゴム部材には、電気絶縁性確保のため、高抵抗であることが求められる場合がある。そのようなゴム部材に補強のために添加されるカーボンブラックに対しては、ゴム部材の抵抗を損なわないことが求められる。
【0003】
上記に関連して、特許文献1(特開平8-127731号公報)には、窒素吸着比表面積N2SAが50m2/g以下であり、水素含有量とN2SAとが特定の関係式を満足することを特徴とする、絶縁性に優れたカーボンブラックが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-127731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、環境問題(CO2削減)から自動車の電動化が促進されつつあり軽量化により電費を向上させる為、ボディの一部にアルミなどの軽金属が用いられる傾向にある。その為、ゴムに電流が流れると従来の鉄材とアルミとの異種金属間の電位差電流による電池回路が形成され金属・ゴムの電蝕問題が大きくなり、タイヤを除く自動車用ゴム部品の絶縁化が益々求められている。しかしながら、従来までの技術ではカーボンブラックを大粒子径化などにより高抵抗化すると補強性が低下する問題があった。そこで、本発明の目的は、ゴム部材に添加した場合、一定以上の補強性を維持しながら従来よりも絶縁性に優れた新たなカーボンブラック、並びにそれを配合したゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、以下の手段により、上記課題が解決できることを見出した。
[1]窒素吸着比表面積(N2SA)が、20(m2/g)以上、50(m2/g)未満であり、DBP吸収量が、120ml/100g以上、150ml/100g未満であり、表面自由エネルギー極性成分であるγab Dellaが、20mJ/m2以上、40mJ/m2以下であり、強酸性基濃度が、0.2μmol/m2以上、0.6μmol/m2以下である、カーボンブラック。
[2]表面自由エネルギー分散成分であるγd0が、80mJ/m2以上、100mJ/m2未満である、[1]に記載のカーボンブラック。
[3]ゴム部材用添加剤である、[1]又は[2]に記載のカーボンブラック。
[4]筒状であり、上流側から順に燃焼室、拡径部、反応室、およびクエンチ部を有する反応炉を準備する工程であって、ここで、前記燃焼室は、一定の大きさの断面積を有する工程と、前記燃焼室に、カーボンブラックの原料となる燃料と、300~400℃の酸素含有ガスとを導入し、前記燃料を燃焼させる工程と、前記燃焼した燃料を、拡径部を介して反応室に送り、カーボンブラック微粒子を生成させる工程と、前記反応室の後端部に冷媒を供給し、前記クエンチ部において前記カーボンブラック微粒子の生成反応を停止させる工程と、前記クエンチ部に、酸化剤ガスを導入する工程と、前記クエンチ部から、前記カーボンブラック微粒子を回収する工程と、を有する、[1]乃至[3]のいずれか一項に記載のカーボンブラックの製造方法。
[5]ゴム成分100重量部に対して[1]乃至[3]のいずれか一項に記載のカーボンブラックを10~170重量部含むことを特徴とするゴム組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、一定以上の補強性維持下、絶縁性に優れた新たなカーボンブラック、並びに、それを配合したゴム組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、カーボンブラックの製造に使用される反応炉の一例を示す概略図である。
図2図2は、引張強さと体積抵抗率logVR(1V)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態に係るカーボンブラックは、ゴム部材の機械的特性を改善するために、ゴム部材にフィラーとして添加される。
【0010】
本実施形態に係るカーボンブラックは、20(m2/g)以上、50(m2/g)未満の窒素吸着比表面積(N2SA)と、120ml/100g以上、150ml/100g未満のDBP吸収量と、20mJ/m2以上、40mJ/m2以下のγab Dellaと、0.2μmol/m2以上、0.6μmol/m2以下の強酸性基濃度を有している。
上記のような構成を有していることによって、ゴム部材に配合した場合に、一定の機械的特性を維持しながら、高抵抗化することができる。
【0011】
以下に、カーボンブラックの各パラメータについて詳述する。
【0012】
(A)N2SA:20m2/g以上、50m2/g未満
2SAは、カーボンブラックの比表面積を、カーボンブラック単位質量当たりの窒素分子の吸着量(m2/g)で表した値である。N2SAは、JIS K6217-7:2013「ゴム用カーボンブラックの基本性能の試験方法」に記載の方法によって、求めることができる(参考ASTM D6556-16)。
2SAが20m2/g以上であることにより、カーボンブラックをゴム部材に添加した場合に、機械的特性を良好に改善することができる。すなわち、高い補強性を得ることができる。また、N2SAが50m2/g未満であることにより、高い電気抵抗を獲得することができる。
【0013】
(B)DBP吸収量:120ml/100g以上、150ml/100g未満
DBP吸収量は、カーボンブラックのストラクチャーを、カーボンブラック100gに対するDBP(ジブチルフタレート)の吸収量(ml/100g)で表した値である。
DPB吸収量は、JIS K6217-1997「ゴム用カーボンブラックの基本性能の試験方法」に従って求めることができる。
DBP吸収量が120ml/100g以上であることにより、高い補強性を得ることができる。一方、DBP吸収量が150ml/100g未満であることにより、高い電気抵抗を獲得することができる。
【0014】
(C)γab Della:20mJ/m2以上、40mJ/m2以下
「γab Della」(以下、単にγabと記載することもある)とは、表面自由エネルギーの極性成分を表す。γab Dellaは、後述の実施例に記載の方法により、測定することができる。
「γab Della」は、酸塩基官能基による表面活性の程度を反映したパラメータである。「γab Della」が20mJ/m2以上であれば、カーボンブラックの表面活性の程度を十分に高くすることができ、ゴム部材とカーボンブラックとの相互作用性が向上しカーボンブラック表面に非導電のゲル層が形成され、その結果、高い電気抵抗が得られる。また、ゴム部材の機械的特性も改善されやすくなる。
また、「γab Della」が40mJ/m2以下であれば、過度の表面活性の向上によるカーボンブラック凝集が抑制され、カーボンブラックをゴム部材中に分散させやすくなる。
【0015】
(D)強酸性基濃度:0.2μmol/m2以上、0.6μmol/m2以下
強酸性基濃度は、カーボンブラック粒子表面の強酸性官能基量を反映したパラメータである。強酸性基濃度は、後述の実施例に記載の方法により、測定することができる。
強酸性基濃度が0.2μmol/m2以上であれば、カーボンブラック表面の強酸性基量がある程度多くなる。非導電のカルボキシル基などの強酸性基量が多いと表面非導電層が厚くなりカーボンブラック粒子(導電層)同士の距離が長くなる為、カーボンブラック粒子間を電子が流れにくくなり、カーボンブラック配合ゴムの導電性が小さくなる。その結果、高い電気抵抗を得ることができる。
また、強酸性基量が多いとカーボンブラックが凝集し易くゴム中での分散が悪くなるが、強酸性基濃度が0.6μmol/m2以下であれば高い分散性を得ることができる。
【0016】
(E)γd0:80mJ/m2以上、100mJ/m2未満
好ましくは、カーボンブラックは、80mJ/m2以上、100mJ/m2未満のγd0を有する。「γd0」とは、表面自由エネルギーの分散成分を表す。γd0は、後述する実施例に記載の方法により、求めることができる。
既述のγabが20mJ/m2以上である一方で、γd0がある程度小さい(100mJ/m2未満)ことによって、カーボンブラック粒子の凝集性を小さくすることができる。その結果、カーボンブラックをゴム部材中に分散させやすくなる。その結果、高い電気抵抗を得ることができる。
一方、γd0が80mJ/m2以上であれば、高い分散性を維持しながらゴムとカーボンブラックの相互作用により一定以上の高い補強性を得ることができる。
【0017】
(F)ゴム組成物
本実施形態に係るカーボンブラックは、既述のように、ゴム部材(ゴム組成物)を補強するためのフィラーとして使用される。
ここで、ゴム部材に含まれるゴム成分としては、特に限定されるものでなく、例えば、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム等の汎用ゴム、またはアクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴムなどの特殊ゴム、及びそれらの混合物を挙げることができる。
【0018】
ゴム組成物の硬度(Hs)は、例えば30~90、好ましくは40~80である。
【0019】
カーボンブラックは、ゴム成分100質量部に対して、例えば10~170質量部、好ましくは20~160質量部の量で配合されることが好ましい。
【0020】
ゴム組成物の用途は、特に限定されるものではないが、自動車その他の一般産業向け各種ゴム部品(ウェザーストリップ、ホース、ベルト、防振・制振ゴム、ブーツ、シール・パッキング材)などが好ましい。
より好ましくは、ゴム部材は従来から電蝕問題があったエンジン車の水系ホースや電気自動車用部材であることが好ましい。自動車では、高性能化が進み、高温、高圧等の過酷な環境下でゴム部材が使用される場面が増えてきている。また、自動車のユニットのコンパクト化によるゴム部品の小型化、また、自動車ユニットの軽量化によるゴム部材の薄肉化も進んでいる。その結果、従来のカーボンブラックでは、ゴム部材に必要とされる補強性を満足に付与し難くなってきている。加えて、電気自動車に使用されるゴム部材(タイヤを除く)には、電蝕防止の為、高い電気抵抗性が求められる。本実施形態に係るカーボンブラックを用いれば、このような電気自動車用のゴム部材に対する要求を満たしやすい点から、好適である。
【0021】
(G)カーボンブラックの製造方法
上述した特性を有するカーボンブラックは、特定の製造方法を採用することにより、得ることができる。以下に、本実施形態に係るカーボンブラックの製造方法について説明する。
【0022】
図1は、本実施形態に係る製造方法に使用される反応炉の一例を示す概略図である。この反応炉は、筒状であり、炉頭側(上流側)から順に、燃焼室1、拡径部2、反応室3、クエンチ部4、および煙道5を有している。燃焼室1、拡径部2、反応室3、クエンチ部4は、好ましくは、円筒状である。
ここで、この反応炉は、ストレート型である。具体的には、燃焼室1の断面積が、上流側から下流側に向かって一定である。燃焼室1が円筒状である場合には、径が一定であるともいえる。一方、反応室3の断面積は、燃焼室1のそれよりも大きい。拡径部2は、燃焼室1と反応室3との間に設けられており、断面積が下流側に向かって徐々に大きくなっている部分である。
【0023】
また、燃焼室1には、燃焼空気導入口6、原料油ノズル7及び、原料油ノズル7の外側に円筒状の水冷筒8(円筒中空部に原料油ノズルを装着する二重管構造)が設けられており、これらを介して、酸素含有ガス(例えば空気)及び原料油(FCC残渣油、エチレンボトム油、クレオソート油、水素、一酸化炭素、天然ガス、石油ガス等)が供給されるように構成されている。すなわち、燃焼室1においては、原料油が酸素含有ガスにより燃焼し高温燃焼ガスが生成すると共に、原料油の熱分解が起こり微小な油滴が生成する。生成した油滴は拡径部2~反応室3にかけて炭化しカーボンブラックの微小な核が生成する。生成した核に分解した有機ガスが付着・炭化する事により粒成長し、更に粒成長の過程で粒同士が衝突、炭化する事によりストラクチャーを形成し、その結果、カーボンブラック微粒子が生成する。
【0024】
反応室3の下流側端部には、クエンチ用ノズル9が設けられている。クエンチ用ノズル9からは、水等の冷媒が供給される。冷媒が供給されることにより、反応室3の下流側に設けられたクエンチ部4において、カーボンブラック微粒子の生成反応が終了させられる。その後、酸化剤導入ノズル10にて所定量の酸化剤を導入する。カーボンブラック微粒子は、煙道5を介して回収される。回収されたカーボンブラック微粒子に対しては、必要に応じて、造粒処理等が行われる。これにより、本実施形態に係るカーボンブラックが得られる。
【0025】
ここで、本実施形態では、既述の物性を有するカーボンブラックを得るために、燃焼室1に導入される酸素含有ガスの温度、およびクエンチ部4の構成が工夫されている。
【0026】
具体的には、燃焼室1に導入される酸素含有ガスとして、比較的低温のガスが使用される。より具体的には、酸素含有ガスの温度は、300~400℃であり、好ましくは350~400℃である。なお、酸素含有ガスとしては、好ましくは、酸素ガス(酸素そのもの)又は空気が使用される。酸素含有ガスの温度が低いほど強酸性基濃度が高くなり、γabは高くγd0は低くなる傾向となる。
更に、クエンチ部4には、酸化剤導入ノズル10が接続されている。酸化剤導入ノズル10からは、酸化剤が導入される。酸化剤としては、酸素を含有するガス(酸素そのもの、および、空気など)が使用される。酸化剤の導入量は、反応炉内のトータルの燃焼空気量に対して、空気換算で、2~5vol%となるような量である。酸化剤の導入量が多いほど強酸性基濃度は高くなり、γabは高くなり、γd0は低くなる傾向となる。
【0027】
上述のように、ストレート型の反応炉を使用し、燃焼室1に供給される酸素含有ガス温度を比較的低温とし、かつ、クエンチ用ノズル9の下流、すなわちクエンチ部4に特定量の酸化ガスを供給することによって、既述の物性(N2SA、DBP吸収量、γab Della、強酸性基濃度、およびγd0)を有するカーボンブラックを得ることができる。
【0028】
なお、その他の製造条件は特に限定されないが、例えば、燃焼室1に導入される酸素含有ガスの供給量や、燃焼室1に導入される原料油の量、原料油導入から反応停止(原料油ノズル7~クエンチ用ノズル9)までの反応時間なども、得られるカーボンブラックの特性に影響を与える。従って、必要に応じて、これらのパラメータをコントロールすることによって、得られる特性を制御することもできる。
具体的には、燃焼室1に導入される酸素含有ガスの供給量は、例えば1500~2500(Nm3/H)、より好ましくは1700~2200(Nm3/H)である。
また、燃焼室1に導入される原料油の量は、例えば600~1000(Kg/Hr)、好ましくは700~900(Kg/Hr)である。
酸素含有ガス量が少なく原料油量が多いほど、N2SAが低くDBP吸収量が高くなる傾向にあり、強酸性基濃度は高くなり、γabは高くなり、γd0は低くなる傾向にある。また、反応時間が短いほど、強酸性基濃度は高くなり、γabは高くなり、γd0は高くなる傾向にある。なお、DBP吸収量については高くなり過ぎた場合、DBP抑制剤(ナトリウム、カリウムなどのアルカリ塩)添加により所望のDBP吸収量に調整する事ができる。
【実施例
【0029】
以下、本発明をより詳細に説明するため、実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されて解釈されるべきものではない。
【0030】
(実施例1~7、比較例1~8)
図1に示した構成を有する反応炉を用意した。そして、表1及び表2に示すように、異なる条件で反応炉を運転し、物性の異なる実施例1~7及び比較例1~8に係るカーボンブラックを得た。
【0031】
具体的には、燃焼室1に、酸素含有ガスとして空気(燃焼空気)を導入した。空気の導入量及び温度は、それぞれ、表1及び2における「燃焼空気量」及び「燃焼空気温度」に記載の値とした。また、燃焼室に、原料油として、クレオソート油を導入した。燃料の導入量は、表1及び2における「原料油量」に記載の通りとした。
【0032】
更に、クエンチ用ノズル9から、冷媒として工業用水を供給した。また、酸化剤導入ノズル10を介して、クエンチ部4に酸素を酸化ガスとして導入した。酸化ガスの導入量は、表1及び2に記載の通りとした。
【0033】
煙道5を介してカーボンブラック微粒子を回収した。回収したブラックカーボン微粒子をカーボンブラック用に一般的に用いられるペレタイザーにて水と1:1の割合で混合し1mmサイズの球状ペレットとし、ロータリーキルン状の二重円筒型乾燥機にて乾燥し、目的のカーボンブラックを得た。
【0034】
(評価方法)
得られたカーボンブラックについて、N2SA、DBP吸収量、強酸性基濃度、γab Della、およびγd0を測定した。以下に、各パラメータの測定方法について説明する。
【0035】
(N2SA)
JIS K6217-7:2013「ゴム用カーボンブラックの基本性能の試験方法」に記載の方法によって、N2SAを測定した。
【0036】
(DBP吸収量)
JIS K6217-1997「ゴム用カーボンブラックの基本性能の試験方法」に従って、DBP吸収量を測定した。
【0037】
(強酸性基濃度)
カーボンブラック試料5gを精秤して粉砕し、0.1mol/Lの炭酸水素ナトリウム溶液50mLを加え、室温で4時間振とうし、カーボンブラック表面の強酸性官能基を中和した。その後、中和に使用されなかった残りの炭酸水素ナトリウムの量を知る為、カーボンブラックを遠心分離にて濾過した上澄み液20mLを0.025mol/Lの硫酸で滴定するとともに、空試験(上記反応に使用しない原液の0.1mol/Lの炭酸水素ナトリウム20mLを0.025mol/Lの硫酸で滴定)を並行して行い、両者の差と窒素吸着比表面積(N2SA)から、求められる単位比表面積当たりの全酸性官能基量(μmol/m2)を、強酸性基濃度として求めた。
【0038】
(γd0)
カーボンブラックの表面自由エネルギーγd0は、内径2mm、長さ300mmのシラン処理済みガラス管にカーボンブラックを約40mg充填した測定用カラムを用いて、以下の条件下で測定し、解析ソフトのSEA Analysisの解析結果を基に算出した。
測定装置:Surface Measurement Systems社製 iGC-SE A
検出器:FID(Flame Ionization Detector,水素炎イオン型検出器)
インジェクション温度:60℃
カラム内温度:100℃
カラム内相対湿度:0%
検出器温度:220℃
キャリアーガス:窒素ガス10sccm
プルーブ:C7(n-ヘプタン)、C8(n-オクタン)
【0039】
メタンによるデッドボリュームを差し引いて各プルーブにおけるカーボンブラックの真の保持容積を算出した。保持容積は、溶出ピークの重心の値とした。プルーブ分子の炭素数を1個増やすことによる自由エネルギーの増加分、即ちメチル基(CH2基)1モル当たりの吸着エネルギーの変化量(ΔG(CH2))は下記式(1)で表される。ただし、下記式(1)において、VN(n+1)はVN(n)より炭素数が1つ多い直鎖状アルカンの真の保持容積、Rは気体定数(8.314J・mol-1・K-1)、Tは測定温度(K)である。
【0040】
【数1】
【0041】
また、Fowkesによって提案された幾何平均式を用いると、メチル基(CH2基)1モル当たりの吸着エネルギーの変化量(ΔG(CH2))は、下記式(2)で表わされる。ただし、下記式(2)において、NAはアボガドロ数(6.022×1023mol-1)、a(CH2)はCH2基1個当たりの100℃における接触面積(約0.07×10-182)、γd (CH2)は100℃におけるCH2基の表面自由エネルギーの分散力成分(約31.54mJ・mol-1)、γd Xは吸着層の表面自由エネルギーの分散力成分である。
【0042】
【数2】
【0043】
ここで、式(1)と式(2)よりγd Xは式(3)のように表される。
【0044】
【数3】
【0045】
上記条件下、各プルーブを表面被覆率が0.1、0.08、0.06、0.04、0.02、0.01、0.007、0.005、0.0035となるように注入したときの各γd Xを測定した。ここで、表面被覆率とはカーボンブラックの比表面積に対してプルーブが表面を被覆している割合である。γd Xと表面被覆率の関係に対して表面被覆率を0.007から0.0035の範囲を三次の多項式によりゼロに外挿した際の表面自由エネルギーをγd0とした。
【0046】
(γab Della)
カーボンブラックの表面自由エネルギー極性成分であるγab Dellaは、プルーブに酸性溶媒のクロロホルムと塩基性溶媒の酢酸エチルを追加した以外、γd0と同じ条件で測定した。
【0047】
測定装置:Surface Measurement Systems社製 iGC-SEA
検出器:FID(Flame Ionization Detector,水素炎イオン型検出器)
インジェクション温度:60℃
カラム内温度:100℃
カラム内相対湿度:0%
検出器温度:220℃
キャリアーガス:窒素ガス10sccm
プルーブ:C7(n-ヘプタン)、C8(n-オクタン)、クロロホルム、酢酸エチル
【0048】
カーボンブラックの酸成分の表面自由エネルギーをγs +、カーボンブラックの塩基成分の表面自由エネルギーをγs 、酸性溶媒の表面自由エネルギーをγl +、塩基性溶媒の表面自由エネルギーをγl 、とすると、酸-塩基相互作用に起因したカーボンブラックの吸着エネルギーの変化量ΔGspは式(4)で表される。
【0049】
【数4】
【0050】
式(4)を簡略化すると、表面自由エネルギーγabは、式(5)で表される。
【0051】
【数5】
【0052】
また、ΔGspは、全吸着エネルギーの変化量ΔGから分散成分の吸着エネルギーΔGdの変化量を差し引いた値に等しいことから、式(6)で表される。
【0053】
【数6】
【0054】
VN,abは、酸性・塩基性溶媒を用いた時の保持容量、VN,refは直鎖状アルカンの保持容量である。これら式(4)、(5)、(6)を用いて表面自由エネルギー極性成分であるγabが得られる。なお、γl +とγl は、Della Volpe方式の値を用いた。さらに、γab Dellaは、γd0と同様な方法により表面被覆率をゼロに外挿した値とした。
【0055】
(ゴム組成物の調製)
続いて、EPDM(エチレンプロピレンジエン)ゴム100質量部に対して、カーボンブラック(変量)、パラフィン系オイル(70質量部)、炭酸カルシウム(40質量部)、酸化亜鉛(5質量部)、ステアリン酸(1質量部)、促進剤:川口化学工業(株)製アクセルBZ(1質量部)、促進剤:川口化学工業(株)製アクセルCZ(1質量部)、促進剤川口化学工業(株)製アクセルTMT(0.5質量部)及び硫黄(1質量部)を添加し、ゴム組成物を調製した。なお、カーボンブラックの添加量は、得られるゴム組成物の硬度(Hs)が概ね58.0程度になるような量とした。具体的には、ゴム100質量部に対して、表1及び表2において「phr」として示される量で、カーボンブラックを添加した。
【0056】
得られたゴム組成物について、硬度(Hs)、引張強さ(TB)、及び体積抵抗率VR(Ω・cm)を測定した。各パラメータは、以下の条件に従って測定した。
【0057】
(硬度Hs)
JIS K6253-3-2012(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-硬さの求め方)に従って、タイプAデュロメータを使用し、硬度Hsを測定した。
【0058】
(引張強さTB)
JIS K6251-2017(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方)に従って、切断時の引張強さTB(MPa)を測定した。
【0059】
(体積抵抗率)
JIS K6271-1:2015(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-電気抵抗率の求め方)に従って、体積抵抗率VR(Ω・cm)を測定した。測定したVRの対数(LogVR)のそれぞれを表1及び表2中に示す。
具体的には、以下の条件で、VRを求めた。
測定方法: 二重リング電極法
ガード電極: 外径 80mm、内径 70mm
主電極: 50mm
試料外寸法: 100mm×100mm
サンプル厚さ: 2mm
印加電圧: 1V
検知電流範囲: 200pA~20mA
【0060】
(検討)
結果を表1、表2、および図2に示す。表1、2は主要な製造条件と得られたカーボンブラックの主要特性を示した。また、図2は、EPDMゴムに配合した際の加硫ゴムの引張強さとlogVR(1V)との関係を示すグラフである。
【0061】
実施例1~7に係るカーボンブラックは、酸素含有ガスの温度(燃焼空気温度)が300~400℃であり、燃焼空気量が1500~2500(Nm3/H)であり、原料油量が600~1000(Kg/Hr)であり、クエンチ部4において酸化剤を空気換算で、2~5vol%導入したものであり、N2SAが20(m2/g)以上、50(m2/g)未満であり、DBP吸収量が、120ml/100g以上、150ml/100g未満であり、γab Dellaが、20mJ/m2以上、40mJ/m2以下であり、強酸性基濃度が、0.2μmol/m2以上、0.6μmol/m2以下であり、γd0が、80mJ/m2以上、100mJ/m2未満の様々な異なる特性を有するカーボンブラックである。
一方、比較例1~8に係るカーボンブラックは、燃焼空気温度、及びクエンチ部4における酸化剤の導入の有無のいずれかの条件が、実施例1~7について上述した条件から外れるものであり、N2SA、DBP吸収量、γab Della、および強酸性基濃度のいずれかが、上記の範囲からは外れるものである。
そして、表1、表2、および図2に示されるように、実施例1~7に係るカーボンブラックは、比較例1~8に比べて、一定引張り強さ当たり、大幅に高い電気抵抗値を有していた。
【0062】
【表1】
【表2】
【符号の説明】
【0063】
1 燃焼室
2 拡径部
3 反応室
4 クエンチ部
5 煙道
6 燃焼空気導入口
7 原料油ノズル
8 水冷筒
9 クエンチ用ノズル
10 酸化剤導入ノズル
【要約】
本開示は、ゴム部材に添加した場合、一定以上の補強性を維持しながら従来よりも絶縁性に優れた新たなカーボンブラック、並びにそれを配合したゴム組成物を提供する。
窒素吸着比表面積(N2SA)が、20(m2/g)以上、50(m2/g)未満であり、DBP吸収量が、120ml/100g以上、150ml/100g未満であり、表面自由エネルギー極性成分であるγab Dellaが、20mJ/m2以上、40mJ/m2以下であり、強酸性基濃度が、0.2μmol/m2以上、0.6μmol/m2以下である、カーボンブラック。
図1
図2