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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】水素発生分離装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/56 20060101AFI20231012BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20231012BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
C01B3/56 Z
B01D53/22
C01B3/04 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019168898
(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公開番号】P2021046332
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】500039072
【氏名又は名称】永井 一弘
(73)【特許権者】
【識別番号】000231556
【氏名又は名称】日本精線株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】307044286
【氏名又は名称】加藤電気炉材製造有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】水野 峻介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 克吉
(72)【発明者】
【氏名】永井 一弘
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-198720(JP,A)
【文献】国際公開第2019/032591(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0056841(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111115572(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111137853(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00-3/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアガスと酸素含有ガスの混合気体を原料として水素ガスを発生と分離させる水素発生分離装置において、
前記水素発生分離装置は、ハウジング容器と、
その容器内に、系外から供給される当該混合気体を流通させるための筒状の第一流路と、
当該筒状流路内同心に充填されたアンモニア分解触媒と、
当該筒状流路の内周側に同心に配置された断熱部材と、
アンモニア分解生成ガスを冷却するために当該第一流路の外周側に配置された冷却用配管と、
当該筒状流路の末端に分解処理後のガス流体を一時的に貯留するための貯留空間と、
アンモニア分解生成ガスから水素ガスを分離するために当該断熱部材の内周側に同心に配置された水素分離部材と、
当該水素分離部材の内周側に同心に配置され、貯留空間にあるアンモニア分解生成ガスを流通させるための筒状の内管により形成される第二流路と、
当該内管の隔壁と当該水素分離部材との間に形成される第三流路、
を備え、
水素分離部材により分離された水素ガスを断熱部材と水素分離部材との間に形成された第四流路により外部に流通させ、
かつ、水素ガス分離後の排ガスを第三流路により外部に流通させる、
ことを特徴とする水素分離モジュールを内蔵した水素発生分離装置。
【請求項2】
前記アンモニア分解触媒は、その作動温度領域が200℃~500℃であり、水素ガスを発生させることが可能な触媒であることを特徴とする請求項1の水素発生分離装置。
【請求項3】
排ガス排出管における排ガスの温度が400~500℃に維持されるべく冷媒を通すために冷却用配管を設けた請求項1に記載の水素発生分離装置。
【請求項4】
第一流路内の体積(V1)、第二流路内の体積(V2)、第三流路の体積(V3)及び貯留空間12の体積(Vt)は、それぞれV1<Vt≦V2≦V3の関係にあることを特徴とする請求項1に記載の水素発生分離装置。
【請求項5】
前記水素分離部材は、水素透過分離機能を持つ水素透過膜と、その一方の外表面を包み耐圧支持する金属製の緩衝シート及び金属多孔板との積層構造品で構成され、他方の外表面に微細気孔を有する酸素除去剤配合の金属製またはセラミックス製の緩衝シートで構成されたものである請求項1に記載の水素発生分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素発生装置に関し、アンモニアガスを水素供給源としてアンモニアを触媒分解する機能を有し、アンモニア分解で生じた高温分解ガスを利用して水素分離膜を分離作動温度まで加熱し、該加熱された水素分離膜により分解ガス中の水素ガスを透過分離する機能を有する水素分離モジュール及び水素発生分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、これまでの火力発電や原子力発電に代わる次世代型のクリーンエネルギーとして重要視され、例えば水の電気分解による方法以外に、例えばメタン、プロパンガス、都市ガスなどの各種原料ガスから水蒸気改質によって水素ガスを分離抽出する方法、更には有機ハイドライドによる触媒技術を用いる方法など、さまざまな技術開発が取組みされている。
【0003】
特に、前記水蒸気改質によって水素ガスを分離抽出する方法では、水素ガスのみを極めて高い純度で且つ効率よく生成できる利点があり、例えばパラジウム合金やパラジウム-銅合金など水素ガスを選択的に透過分離できる金属薄膜材料が水素分離モジュールや水素製造装置に用いられている。
【0004】
例えば、円筒形状のハウジング容器の内部にほぼ同軸に組み込まれた水素分離部材を備え、また該分離膜部材は、その上流側と下流側を実質的に隔離して内部に処理室を形成するように、天面に蓋部材を設けたカップ形状のものが採用されている。
【0005】
そして、原料用の被処理ガス流体は、系外から導入させる導入口から前記処理室に導入され、前記水素分離部材での透過分離によって該被処理流体中に含まれる水素ガスのみを生成し、得られた水素ガスはその流出口から次工程に送られる一方、前記処理室内に残留する残留ガスや未反応のまま残った前記被処理流体は、別途これを回収する回収口から取り出されるように構成されている。
【0006】
ところで、このような水素分離技術では、その原料ガス流体から容易に水素ガスを分離抽出できるが、その反応は、予め該原料ガスを例えば400~500℃ 程度の所定の反応温度に加熱することが必要である。加熱方法としては、例えばその前段階で別途加熱した上でインライン方式により供給する方法の他、例えば円筒状に構成したモジュールの全体を包むようにその外周側に配した外部ヒーターを設けることにより行われている。( 例えば、特許文献1 ~ 3 )
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2 0 1 5 - 1 7 1 7 0 5 号公報
【文献】特開2 0 0 5 - 4 4 7 0 9 号公報
【文献】特開2 0 0 4 - 7 5 4 4 2 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これら各先行技術は、いずれも導入する原料ガスは、透過分離する分離膜材料に対して良好な供給状態が得られ難く、滞留や部分的な供給ムラを生じやすく、所定の分離膜材料の全体を通じて均一かつ効率的な供給が得られない他、その加熱処理についても、別途の加熱手段を設けたり、そのモジュールを包むように外側に加熱器具を配した外部加熱方式で行われるため、必要以上に大型の加熱手段を要するとともに、エネルギー効率的にも熱損失が高くなり、結果的に分離膜モジュール自体の大型化を招くなど、ガス流通特性や加熱特性の面で改善が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、水素供給源としてアンモニアガスを利用して、これに空気のような酸素含有ガスを混合することでアンモニア原料ガスを生成し、該アンモニア原料ガスに対し、アンモニア分解触媒を適用して該原料ガス中のアンモニアを分解させ、当分解反応により発生させた水素ガスの一部を酸化させ、該酸化時に発生した熱により加熱されたアンモニア分解後の高温ガス(アンモニア分解生成ガス)を用いて水素分離膜を加熱する方式を採用することで、新たな外部熱源を用いて水素分離膜を加熱する必要なく、熱損失の低減ならびに分離膜モジュール自体の大型化を抑制し、均一かつ効率的なアンモニア原料ガスの供給を行うことが可能であり、使用性に優れた水素分離モジュール及び水素発生装置の提供を目的とする。
【0010】
すなわち、本願発明の請求項1に係る発明は、ハウジング容器と、その容器内に系外から供給されるアンモニア原料ガスを流通させるための筒状の第一流路と、該第一流路内にて同心に充填されたアンモニア分解触媒と、該第一流路の内周側に同心に配置された断熱部材と、該第一流路の外周側にらせん状に配置された冷却用配管と、該筒状流路の末端に分解処理後のガス流体を一時的に貯留するための貯留空間と、アンモニア分解生成ガスから水素ガスを分離するために該断熱部材の内周側に同心に配置された水素分離部材と、該水素分離部材の内周側に同心に配置され、貯留空間にあるアンモニア分解生成ガスを流通させるための筒状の内管により形成される第二流路と、該内管の隔壁と該水素分離部材との間に形成される第三流路を備え、水素分離部材により分離された水素ガスを断熱部材と水素分離部材との間に形成された第四流路により外部に流通させ、かつ水素ガス分離後の排ガスを第三流路により外部に流通させることを特徴とする水素分離モジュールを内蔵した水素発生分離装置である。
【0011】
請求項2に係る発明は、前記アンモニア分解触媒において、その作動温度領域が200℃~500℃であり、水素ガスを発生させることが可能な触媒であること、請求項3に係る発明は、排ガス排出管における排ガスの温度が400~500℃に維持されるべく冷却用配管を設けること、請求項4に係る発明は、第一流路内の体積(V1)、第二流路内の体積(V2)、第三流路の体積(V3)及び貯留空間12の体積(Vt)は、それぞれV1<Vt≦V2≦V3の関係にあることを特徴とする水素分離モジュールを内蔵した水素発生分離装置である。
【0012】
請求項5に係る発明は、水素分離部材において、水素透過分離機能を有する水素透過膜と、その一方の外表面を包み耐圧支持する金属製の緩衝シート及び金属多孔板との積層構造品で構成され、他方の外表面に微細気孔を有する酸素除去剤配合の金属製またはセラミックス製の緩衝シートで構成されたものであることを特徴とする水素分離モジュールを内蔵した水素発生分離装置である。
【発明の効果】
【0013】
本願発明は、ハウジング容器の隔壁内面に沿ってアンモニア分解触媒と第一流路を設け、第一流路部分でハウジング容器の隔壁外面に冷却用配管をらせん状に設け、第一流路よりも大きな体積を有する貯留空間を設け、該貯留空間と同等またはより大きな体積を有する第二流路を設け、さらに第二流路と同等またはより大きな体積を有する第三流路を設けることで、アンモニア分解生成ガスを冷却し、水素分離膜の作動温度領域内で水素分離膜を加熱させる利点を有する。
【0014】
すなわち、この構成によって導入するアンモニア原料ガスは、第一流路内に配置されたアンモニア分解触媒により分解され、発生した500~700℃のアンモニア分解生成ガスは外面に冷却用配管が設けられている第一流路を通って冷却されながら貯留空間に貯留され、その後貯留空間、第二流路、第三流路を通って疑似的に断熱膨張することでアンモニア分解生成ガスを水素分離膜の作動温度領域400~500℃まで冷却し、水素分離部材へ滞留なく送給するものである。
【0015】
また、本願請求項5の発明により水素分離膜の酸化劣化が抑制され、効率良く水素を生成することができる。
【0016】
以上より、アンモニア分解生成ガスが装置内を流通する間での熱損失を抑制することで、水素分離膜を加熱するための新たな外部熱源や大型水素分離膜モジュールを必要としない、省エネ化を図った水素生成を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る水素発生分離装置の概略構成図。
図2】断熱部材の断面図。
図3】水素分離部材の断面図。
図4図1におけるA-A線断面図。
図5図1におけるB-B線断面図。
図6図1におけるC-C線断面図。
図7図1におけるD-D線断面図。
図8】水素発生分離装置における第一流路から第四流路及び滞留空間の区域図。
図9】水素発生分離装置におけるアンモニア分解原料ガス供給制御方法に関する図。
図10】別形態に係る水素発生分離装置の概略構成図。
図11】本発明に係る水素発生分離装置のVOC分解装置への適用例。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の最良の一実施形態である水素発生分離装置について、図1乃至図11に基づいて説明する。ここで、図1は本実施形態の水素発生分離装置の概略構成を示す構成図であり、図2は水素分離モジュールの断熱部材の断面図であり、図3は水素分離部材の断面図であり、図4図1におけるA-A線断面図であり、図5図1におけるB-B線断面図であり、図6図1におけるC-C線断面図であり、図7図1におけるD-D線断面図であり、図8図1における第一流路から第四流路及び貯留空間の区域を表した図であり、図9は水素発生分離装置におけるアンモニア原料ガス供給制御方法に関する図であり、図10図1とは別形態の水素発生分離装置の全体の断面図であり、図11はVOC分解装置に対する本発明の適用例である。
【0019】
本実施形態の水素発生分離装置1は、図1に示す通り、熱伝導性を有するハウジング容器2と、 その容器内に系外から供給されるアンモニア原料ガスを流通させるための筒状の第一流路11と、該第一流路11内に同心に充填されたアンモニア分解触媒4であるRuO2/γ-Al2O3触媒(酸化アルミニウム担持酸化ルテニウム触媒)と、該第一流路11の内周側に同心に配置された断熱部材9と、アンモニア分解生成ガスを冷却するため該第一流路11の外周側に同心に配置された冷却用配管6と、該第一流路11の末端に分解処理後のガス流体(アンモニア分解生成ガス)を一時的に貯留するための貯留空間12と、アンモニア分解生成ガスから水素ガスを分離するため該断熱部材9の内周側に同心に配置された水素分離部材10と、該水素分離部材10の内周側に同心に配置され、貯留空間12にあるアンモニア分解後のガスを流通させるための内管8より形成される第二流路13と、内管8の隔壁と水素分離部材10との間に該水素分離部材10にアンモニア分解生成ガスを曝すべく設けられる第三流路14と、水素分離部材により分離された水素ガスを外部に流通させるために断熱部材9と水素分離部材10との間に形成された第四流路15を具備・構成している。
【0020】
すなわち、本実施形態の水素発生分離装置1は、図1に示すように、その外周部に冷却用配管6が設けられたハウジング容器2内に、アンモニアガス導入管3、内管8、断熱部材9、水素分離部材10、水素ガス排出管16、水素分離後の排ガス集積管17及び排ガス排出管18により構成された水素分離モジュール7が収納された構造を有する。
【0021】
図2は、水素分離モジュール7における断熱部材9のアンモニアガス導入管3側(上流側)から排ガス排出管18側(下流側)方向の断面図である。水素分離モジュール7における断熱部材9は、水素分離モジュールの構造材22、該構造材22から連続してなる断熱材固定用爪23及び断熱材シート24により、該構造材22に張られた断熱材シート24を断熱材固定用爪22で固定した構造を有する。なお、水素分離モジュールの構造材22の材質は、700℃の高温において変形しない耐熱性材料であればよく、例えば鉄、ステンレス、銅等の金属やセラミックスなどが好ましい。また、断熱材も700℃の高温に耐えられる材質の物であればよく、例えばロックウールやセラミックスなどが好ましい。なお、断熱部材9の厚さは、薄すぎるとアンモニア分解で生じた水素の酸化反応に伴う生成熱により水素分離モジュール7の内部が所定温度以上に加熱され、厚すぎると装置のコンパクト化が図れないため、5~15mm程度が好ましい。
【0022】
図3は、水素分離モジュール7における水素分離部材10のアンモニアガス導入管3側(上流側)から排ガス排出管18側(下流側)方向の断面図である。水素分離部材10は、アンモニア分解生成ガス(X) に含まれる水素ガスを選択的に透過する機能を有する特定の金属材料で構成された薄膜状の水素分離膜が用いられる。ここで透過機能を持つ水素分離膜としては、例えばパラジウム金属、バナジウム金属等の他、それら金属の合金材料であるパラジウム- 銅合金、パラジウム-銀合金、バナジウム-ニッケル合金、更にジルコニウムーニッケルアモルファス合金 などによる薄膜材料が適用可能である。
【0023】
水素分離膜の膜厚は、例えば5~50μmの膜厚さのものが特性的に好ましいがこれに限定されるものではない。また、水素分離部材10の大きさや形状は、その使用目的や処理能力により考慮され、例えば断面円形の筒体品では、直径10~300mm、長さ50~1000mm を持つように成形される。
【0024】
該薄膜状の水素分離膜を用いる場合、特開2017-192930にて開示されているように、アンモニア分解生成ガス(X)はその内周側から一定の負荷圧を加えた加圧状態で供給される為、図3に示すように水素分離膜の外周側にパンチングプレート(穴開き多孔板)25 と緩衝シート26から成る被包部材27を単層または複数層被覆し、その負荷圧に耐え得るような構造を有する。なお、緩衝シート26は、例えばステンレス鋼、ニッケル金属、ニッケル合金等の耐食性金属繊維材料からなる不織布焼結シートや、これら耐食性金属の粉末を混合・成形したシートが用いられる。
【0025】
但し、該水素分離膜は、酸素存在下では酸化され、これに伴い水素透過能が劣化するため、これを抑制するべく上記の水素分離部材10のうち酸素や水蒸気を含むアンモニア分解生成ガスが接触する内周側に酸素除去剤配合緩衝シート29を被覆する。なお、酸素除去剤配合緩衝シート29としては、例えば上述のステンレス鋼、ニッケル金属、ニッケル合金等の耐食性金属繊維材料と鉄等の酸素除去可能な腐食性金属繊維材料との複合材からなる不織布焼結シートや、これら耐食性金属と腐食性金属の粉末を混合・成形したシートを単層または複数層を成形したものが用いられる。これにより、一定の柔軟性や弾力性とともに加工性や溶接性等を備えると共に脱酸素機能を発揮させることが可能である。
【0026】
また、上記の水素分離膜28の外周側緩衝シート26及び内周側の酸素除去剤配合緩衝シート29においては、これら緩衝シート層と水素分離膜との界面に、例えば該緩衝シートと同機能の金属製のスクリーンメッシュ等を配置して多層構造の複合積層材料とし、該複合積層材料を水素分離部材10として適用することも可能である。当スクリーンメッシュにより、両緩衝シート26、29を構成するフィラメントが水素分離膜28に固着することを防止し、分離透過した水素の流路を確保することが可能である。
【0027】
パンチングプレート25は、例えば特開2008-246430号公報が開示するように、ほぼ等間隔に打ち抜きされた小孔を持つ金属多孔板が採用される。
【0028】
水素分離部材10の形態が、水素分離膜28の外周側及び内周側において、上述のような複合積層材料や金属粉末混合成型シートが用いられ、かつアンモニア分解生成ガス(X)をその内周側から外周側方向へ供給する形態のものである場合、該アンモニア分解生成ガス(X)の供給圧力によって水素分離膜28を外方に押し広げることができ、水素分離膜28に仮にシワや緩みが見られるものでも常に所定張力で張設されるとともに、その供給圧は被包部材27によって十分な耐圧性で保護されることから、破損などが防止できる。その為、水素分離膜28、パンチングプレート25及び緩衝シート26等の被包部材27及び酸素除去剤配合緩衝シート29は、各々を単に重ね合わせた積層状態で使用できる他、例えばその全体又は一部同士を予め結合した一体品として用いることも可能である。
【0029】
水素分離部材10は、 その両端縁部を水素分離モジュール7内のアンモニア分解生成ガス流入側で第三流路14の始点に位置する保持部材21Aと排ガス排出側で第三流路14の終点に位置する保持部材21Bに各々リークなく固着される。
【0030】
水素発生分離装置1によるアンモニア原料ガスの分解処理の様子をアンモニア分解触媒4として前記RuO2/γ-Al2O3触媒を用いたケースで図1を用いて説明する。アンモニアガス導入管3を通じて水素発生分離装置1に導入されたアンモニア原料ガスは、図1に示すように第一流路11に充填されているアンモニア分解触媒4(RuO2/γ-Al2O3触媒)によりアンモニア分解され、この分解反応にて発生した水素ガスの一部を酸化させて水を生じさせた際の生成熱によりアンモニア分解生成ガスは500~700℃に加熱され、該分解ガスは第一流路11内を通り貯留空間12に移動し、その後水素分離モジュール7の内管8内の第二流路13を通って該モジュール7の隔壁に衝突後、内管8の隔壁と水素分離部材10との間に形成される第三流路14に導入され、該分解ガス中に存在する水素ガスは水素分離部材10を透過して断熱部材9と水素分離部材10との間に形成される第四流路15に移動し、その後水素ガスは集められ水素ガス排出管16を通って排出される。また水素ガスが分離された後の排ガスは、第三流路14から移動して排ガス集積管17により集められ排ガス排出管18を通って排出される。
【0031】
前記のRuO2/γ-Al2O3触媒は特許第6566662に記載のアンモニア分解触媒であるが、アンモニア分解触媒はこの他にFe、Co、Ni、Mo、Ru等の遷移金属系の金属単体、合金、窒化物、炭化物、酸化物、複合酸化物及びLa、Ce、Nd等の希土類系の金属単体、酸化物を用いることができる。
【0032】
また、前記アンモニア分解触媒は、コージェライトなどのセラミックスで成形したハニカム担体に担持して用いることができる。
【0033】
水素発生分離装置1において、アンモニアガス導入管3から排ガス排出管18の方向における断面図(冷却用配管6は省略)を図4~7に示す。図4は、図1におけるA-A線断面図であり、ハウジング容器2内に水素分離モジュール7を配置したときの断面図である。ハウジング容器2の隔壁と水素分離モジュール7の断熱部材9との間に生じた空間を第一流路11とし、該第一流路11に前記のハニカム担体に担持したアンモニア分解触媒4を配し、水素分離モジュール7内においては、断熱部材9とこれよりも内側に配置した水素分離部材10の間に生じた空間を第四流路15とし、水素分離部材10とこれよりも内側に配置した内管8の間に生じた空間を第三流路14とし、内管8の空間を第二流路13とする。
【0034】
図5は、図1におけるB-B線断面図であり、図4のA-A線断面図の位置よりも排ガス排出管18寄りの位置におけるハウジング容器2と水素分離モジュール7との位置関係を表した図である。ハウジング容器2の隔壁と水素分離モジュール7の断熱部材9との間に生じた空間を第一流路11とし、以下は図4と同様、水素分離モジュール7内においては、断熱部材9とこれよりも内側に配置した水素分離部材10の間に生じた空間を第四流路15とし、水素分離部材10とこれよりも内側に配置した内管8の間に生じた空間を第三流路14とし、内管8の空間を第二流路13とする。
【0035】
図6図7は、それぞれ図1におけるC-C線断面図及びD-D線断面図であり、ハウジング容器2と水素分離モジュール7と水素分離後の排ガス集積管部17と排ガス排出管18の位置関係を表した図である。図6に示す排ガス集積管部17は、第三流路14を通り抜けてきた水素分離後の排ガスを排ガス排出管18に導くための導管である。なお、該排ガス集積管部17は、複数の排ガス集積管が直接排ガス排出管18に接続していてもよく、また複数の排ガス集積管が排ガス排出管18の手前で図7に示すようにすべての排ガス集積管を覆うような形状の排ガス溜めを設けることでもよい。
【0036】
さらに、図1にある水素発生分離装置1は、図8に示すように、第一流路11内でアンモニア分解触媒4の下流側端部から貯留空間12の手前までの空間の体積をV1とし、内管8の内部空間(第二流路)の体積をV2とし、水素分離部材10とその内側にある内管8の隔壁との間に生じた空間(第三流路)の体積をV3とし、ハウジング容器2の下流側端部と水素分離モジュール7の下流側端部との間の空間で排ガス集積管部17の部分を差し引いた空間(貯留空間12)の体積をVtとすると、V1<Vt≦V2≦V3の関係にあることを特徴とする水素発生分離装置である。このような体積関係にて流路及び貯留空間を構成することで生じる疑似的な断熱膨張効果により、アンモニア分解により生じた分解ガスの温度を体積膨張させることで低下させることが可能である。
【0037】
水素発生分離装置1におけるアンモニア分解生成ガスの冷却方法については、前項の方法の他に、冷却用配管6に冷媒を流して冷却する方式を採ることも可能である。例えば、冷媒としては水やオイルを用いる方法がある。
【0038】
また、アンモニア分解生成ガスの温度制御方法としては、アンモニア原料ガスにおけるアンモニアガスと酸素(空気)の混合比率及び当混合ガスの流量を調整する方法を採ることも可能である。これは、水素分離部材10におけるアンモニア分解生成ガスの温度を、水素分離膜28の作動温度である400~500℃内に調整する必要があるため、図1に示すようにハウジング容器2の隔壁外周側においてアンモニア分解触媒4の下流側に備えた温度センサー(1)19と排ガス排出管20の内周部に備えた温度センサー(2)20によりアンモニア分解生成ガス生成時の温度と水素分離後の排ガスが排出されるときの温度を測定し、該温度データを図9に示す制御部35に送信し、該データに基づき排ガスの温度が400~500℃の温度範囲内に収まるようにガス混合・供給装置36によりアンモニア原料ガスにおけるアンモニアガスと酸素(空気)の混合比率及び当原料ガスの流量を調整して、水素発生分離装置1に燃料供給する方法である。
【0039】
本実施形態の水素発生分離装置1の冷却方式は、基本的に図1に示すように冷却用配管6に冷媒を流して冷却する方式であるが、図10に示すように、ハウジング容器2の外側に冷却用配管6の代わりに放熱板37を設けて空冷方式を採ることも可能である。
【0040】
なお、空冷式の水素発生分離装置1は、外気に熱を放散することからヒーターとしての利用も可能である。例えば、図11に示すように、VOC触媒分解装置38において複数の水素発生分離装置1を重ねた多段式水素発生分離装置39をアンモニアヒーター部40に設置することで、分解処理対象であるVOC(揮発性有機化合物)をVOC分解触媒41で分解する際、該触媒41をVOCで分解作動温度まで加熱するためのVOC加熱ヒーターとして適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 水素発生分離装置
2 ハウジング容器
3 アンモニアガス導入管
4 アンモニア分解触媒
5 アンモニア分解触媒固定治具
6 冷却用配管
7 水素分離モジュール
8 内管
9 断熱部材
10 水素分離部材
11 第一流路
12 貯留空間
13 第二流路
14 第三流路
15 第四流路
16 水素ガス排出管
17 排ガス集積管部
18 排ガス排出管
19 温度センサー(1)
20 温度センサー(2)
21A、21B 保持部材
22 水素分離モジュールの構造材
23 固定用爪
24 断熱材シート
25 パンチングプレート
26 緩衝シート
27 被包部材
28 水素分離膜
29 酸素除去剤配合緩衝シート
30 第一流路の体積V1
31 滞留空間の体積Vt
32 第二流路の体積V2
33 第三流路の体積V3
34 第四流路の体積V4
35 制御部
36 ガス混合・供給装置
37 放熱板
38 VOC分解装置
39 多段式水素発生分離装置
40 アンモニアヒーター部
41 VOC分解触媒
42 触媒分解処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11