(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】水硬性硬化体添加用集束繊維、それを含むプレミックスセメント組成物及び水硬性硬化体、並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 16/06 20060101AFI20231012BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20231012BHJP
D06M 13/256 20060101ALI20231012BHJP
D06M 13/292 20060101ALI20231012BHJP
D06M 101/20 20060101ALN20231012BHJP
【FI】
C04B16/06 Z
C04B16/06 A
C04B28/02
C04B16/06 D
C04B16/06 C
D06M13/256
D06M13/292
D06M101:20
(21)【出願番号】P 2020010405
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2022-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2019011192
(32)【優先日】2019-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519354108
【氏名又は名称】大和紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 駿介
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-217486(JP,A)
【文献】国際公開第2015/186545(WO,A1)
【文献】特開平7-309650(JP,A)
【文献】特開平7-2554(JP,A)
【文献】特開2014-1485(JP,A)
【文献】特開2001-234476(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133763(WO,A1)
【文献】特開昭52-49239(JP,A)
【文献】特開2019-119790(JP,A)
【文献】特開2018-111632(JP,A)
【文献】特開2019-135337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
D06M 13/256
D06M 13/292
D06M 101/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の単繊維が集束剤で集束された集束繊維であって、
前記集束繊維には、繊維質量に対して1.0質量%以上の集束剤が付着されており、
前記集束剤はスルホサクシネート塩を含むことを特徴とする水硬性硬化体添加用集束繊維。
【請求項2】
前記スルホサクシネート塩は、プローブタック試験における引張最大応力が、100gf/cm
2以上である請求項1に記載の水硬性硬化体添加用集束繊維。
【請求項3】
前記スルホサクシネート塩は、動的粘弾性測定における貯蔵剪断弾性率が0.04MPa以上4.0MPa以下、損失正接tanδが0.05以上5.0以下である請求項1又は2に記載の水硬性硬化体添加用集束繊維。
【請求項4】
前記スルホサクシネート塩は、動的粘弾性測定における動的粘性率が8kPa・s以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の水硬性硬化体添加用集束繊維。
【請求項5】
前記スルホサクシネート塩が、ジアルキルスルホサクシネート塩である請求項1~4のいずれか1項に記載の水硬性硬化体添加用集束繊維。
【請求項6】
前記ジアルキルスルホサクシネート塩において、アルキル基の炭素数が4以上22以下である請求項5に記載の水硬性硬化体添加用集束繊維。
【請求項7】
前記集束繊維には、繊維質量に対してスルホサクシネート塩が0.2質量%以上15.0質量%以下付着されている請求項1~6のいずれか1項に記載の水硬性硬化体添加用集束繊維。
【請求項8】
前記集束剤は、さらにノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩及びポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩からなる群から選ばれる1種以上のリン系界面活性剤を含む請求項1~7のいずれか1項に記載の水硬性硬化体添加用集束繊維。
【請求項9】
前記スルホサクシネート塩及び前記リン系界面活性剤の合計付着量は、前記集束繊維の繊維質量に対して1.0質量%以上である請求項8に記載の水硬性硬化体添加用集束繊維。
【請求項10】
前記スルホサクシネート塩と前記リン系界面活性剤の質量比が、10/90以上90/10以下である請求項8又は9に記載の水硬性硬化体添加用集束繊維。
【請求項11】
前記リン系界面活性剤がノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩であり、アルキル基の炭素数が8以上18以下である請求項8~10のいずれか1項に記載の水硬性硬化体添加用集束繊維。
【請求項12】
前記集束繊維は、ポリオレフィン系繊維であり、繊維断面の形状が多葉状である請求項1~11のいずれか1項に記載の水硬性硬化体添加用集束繊維。
【請求項13】
セメント、及び請求項1~12のいずれか1項に記載の水硬性硬化体添加用集束繊維を含むことを特徴とするプレミックスセメント組成物。
【請求項14】
セメント、及び請求項1~12のいずれか1項に記載の水硬性硬化体添加用集束繊維を含むことを特徴とする水硬性硬化体。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか1項に記載の水硬性硬化体添加用集束繊維の製造方法であって、
単繊維が複数本束ねられたトウに、スルホサクシネート塩を含む集束剤の処理液を付与する工程、
前記トウを乾燥して、集束剤の付着量が繊維質量に対して1.0質量%以上になるように調整して複数本の単繊維を集束させる工程を含む、水硬性硬化体添加用集束繊維の製造方法。
【請求項16】
前記スルホサクシネート塩は、プローブタック試験における引張最大応力が、100gf/cm
2以上である請求項15に記載の水硬性硬化体添加用集束繊維の製造方法。
【請求項17】
前記スルホサクシネート塩は、動的粘弾性測定における貯蔵剪断弾性率が0.04MPa以上4.0MPa以下、損失正接tanδが0.05以上5.0以下である請求項15又は16に記載の水硬性硬化体添加用集束繊維の製造方法。
【請求項18】
前記スルホサクシネート塩は、動的粘弾性測定における動的粘性率が8kPa・s以上である請求項15~17のいずれか1項に記載の水硬性硬化体添加用集束繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント、モルタル等の水硬性材料に添加することができ、特にプレミックスセメント組成物に好適に用いることができる水硬性硬化体添加用集束繊維、それを含むプレミックスセメント組成物及び水硬性硬化体、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石綿に替わるセメント補強用繊維、特にモルタル用の補強繊維としては、種々の無機繊維及び合成繊維の使用が提案されているが、単繊維のような細く柔らかいものではセメント材料と混合の際に骨材にまとわりついて十分な補強効果が得にくいため、太い単繊維を使用することで、セメント材料と混合時に骨材にまとわりつかないような工夫がなされている。しかしながら、太い繊維を使用するとコテ塗り性が悪くなることから、近年においては細い繊維を接合集束していわゆる集束繊維となし、モルタル用セメント及び細骨材と混合したのち水を加えて攪拌したとき集束繊維が分繊され、それによってモルタル(セメント硬化体)を補強する集束繊維が使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、単繊維を水溶性集束剤で収束させたセメント補強用集束繊維が記載されている。特許文献2には、平行な繊維集合物の繊維間を非水溶性糊剤で接着集束させたセメント補強用集束繊維が記載されている。特許文献3には、炭素数8~18のノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩が付着された短カット繊維が接合集束されているセメント補強用集束繊維が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-309650号公報
【文献】特開平8-12391号公報
【文献】特開平7-2554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載のセメント補強用集束繊維は、スラリー中の分散性が十分ではなく、更に改良することが求められている。特許文献3に記載のセメント補強用集束繊維は、セメント材料と乾式混合した際の集束性が劣り、更に改良することが求められている。
【0006】
本発明は、上記従来の問題を解決するため、セメント等の水硬性材料と乾式混合した際の集束性が向上し、かつスラリー中の分散性が良好である水硬性硬化体添加用集束繊維、それを含むプレミックスセメント組成物及び水硬性硬化体、並びにその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数本の単繊維が集束剤で集束された集束繊維であって、前記集束繊維には、繊維質量に対して1.0質量%以上の集束剤が付着されており、前記集束剤はスルホサクシネート塩を含むことを特徴とする水硬性硬化体添加用集束繊維に関する。
【0008】
本発明は、また、セメント、及び前記の水硬性硬化体添加用集束繊維を含むことを特徴とするプレミックスセメント組成物に関する。
【0009】
本発明は、また、セメント、及び前記の水硬性硬化体添加用集束繊維を含むことを特徴とする水硬性硬化体に関する。
【0010】
本発明は、また、前記の水硬性硬化体添加用集束繊維の製造方法であって、単繊維が複数本束ねられたトウに、スルホサクシネート塩を含む集束剤の処理液を付与する工程、前記トウを乾燥して、集束剤の付着量が繊維質量に対して1.0質量%以上になるように調整して複数本の単繊維を集束させる工程を含む、水硬性硬化体添加用集束繊維の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セメント等の水硬性材料と乾式混合した際の集束性が向上し、かつスラリー中の分散性が良好である水硬性硬化体添加用集束繊維、及びそれを含むプレミックスセメント組成物並びに水硬性硬化体を提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、セメント等の水硬性材料と乾式混合した際の集束性が向上し、スラリー中の分散性が良好な水硬性硬化体添加用集束繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の1以上の実施形態の集束繊維を構成する単繊維の繊維断面の模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の1以上の実施形態の集束繊維を構成する単繊維の凸部の各寸法を説明する模式図である。
【
図3】
図3は、実施例1の集束繊維の断面を観察した走査型電子顕微鏡写真(100倍)である。
【
図4】
図4は、実施例4の集束繊維の断面を観察した走査型電子顕微鏡写真(100倍)である。
【
図5】
図5は、溶剤抽出用ステンレスカラムの形状を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、上記従来の問題を解決するため、鋭意検討した結果、複数本の単繊維が集束剤で集束された水硬性硬化体添加用集束繊維において、スルホサクシネート塩を含む集束剤を用い、該集束剤を繊維質量に対して1.0質量%以上になるように集束繊維に付着させることで、セメント等の水硬性材料と乾式混合した際の集束繊維の集束性が向上するとともに、スラリー中の集束繊維の分散性が良好になることを見出した。
【0014】
前記集束繊維において、単繊維同士が少なくとも部分的にスルホサクシネート塩を含む集束剤で接着されている。集束剤がスルホサクシネート塩を含み、前記スルホサクシネート塩が乾燥状態で半固形状となる特性を有することが好ましく、このような集束繊維は乾燥状態での集束性が高く、乾式混合にてプレミックスセメント組成物を作製した場合でも集束性を保持していると推定される。また、集束剤がスルホサクシネート塩を含み、前記スルホサクシネート塩が優れた浸透性を持ち、好ましくは乾燥状態で半固形状となる特性を有するものであることから、集束繊維の水中分散性が高く、それゆえ、スラリー中の集束繊維の分散性も良好であると推定される。乾燥状態での集束性が高い上、水中分散性が高いことから、集束繊維は、プレミックスセメント組成物に好適に用いることができる。
【0015】
前記スルホサクシネート塩は、乾燥状態及び乾式混合時の集束性をより高めるとともに、水中分散性及びスラリー中の分散性をより良好にする観点から、ジアルキルスルホサクシネート塩、及び(ポリオキシアルキレン)アルキルスルホサクシネート塩からなる群から選ばれる一種以上であることが好ましく、ジアルキルスルホサクシネート塩であることがより好ましい。
【0016】
前記(ポリオキシアルキレン)アルキルスルホサクシネート塩としては、アルキルスルホサクシネート塩又はポリオキシアルキレン鎖を付加したアルキルスルホサクシネート塩が挙げられる。前記アルキルスルホサクシネート塩としては、例えばアルキルスルホコハク酸二ナトリウム、アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム等が挙げられる。前記ポリオキシアルキレンアルキルスルホサクシネート塩としては、ポリオキシアルキレン鎖がポリオキシエチレン鎖の場合、例えばポリオキシエチレンスルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、スルホコハク酸ポリオキシエチレンラウロイル・エタノールアミド二ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム等が挙げられる。
【0017】
前記ジアルキルスルホサクシネート塩は、α位にスルホン酸塩基を有するコハク酸のジアルキルエステルをいう。前記ジアルキルスルホサクシネート塩において、集束繊維の乾燥状態及び乾式混合時の集束性をより高めるとともに、水中分散性及びスラリー中の分散性をより良好にする観点から、アルキル基の炭素数が4以上22以下であることが好ましく、アルキル基の炭素数が5以上20以下であることがより好ましく、アルキル基の炭素数が6以上18以下であることがさらに好ましく、アルキル基の炭素数7以上16以下であることが特に好ましい。アルキル基としては、直鎖及び分岐のいずれでもよく、2個のアルキル基は同一であってもよく、異なっていてもよい。スルホン酸塩としては、ナトリウム塩及びカリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アンモニア塩、アミン塩などが挙げられる。中でも、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。
【0018】
前記ジアルキルスルホサクシネート塩としては、具体的には、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム塩、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩、ジラウリルスルホコハク酸ナトリウム塩、ジトリデシルスルホコハク酸ナトリウム塩、ジミリスチルスルホコハク酸ナトリウム塩、ジステアリルスルホコハク酸ナトリウム塩等が挙げられる。これらのジアルキルスルホサクシネート塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。乾燥状態及び乾式混合時の集束性をより高めるとともに、水中分散性及びスラリー中の分散性をより良好にする観点から、前記ジアルキルスルホサクシネート塩はジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩であることが好ましい。
【0019】
本発明の集束繊維においては、集束状態の持続力が高い集束剤を付着することが好適であり、前記スルホサクシネート塩における貯蔵剪断弾性率G’は、0.04MPa以上4.0MPa以下が好ましく、0.07MPa以上2.0MPa以下がより好ましく、0.1MPa以上1.0MPa以下が特に好ましい。貯蔵剪断弾性率G’が小さすぎると、製造時やセメントとプレミックスした際に繊維束から単繊維が離解しやすくなり集束状態の持続力が低下する恐れがある。一方、貯蔵剪断弾性率G’が大きすぎると、製造工程で持ち込み水分を乾燥する際に繊維に付着された集束剤成分が亀裂を生じ、繊維の集束状態を維持できなくなる恐れがある。
【0020】
本発明の集束繊維においては、集束状態の持続力が高い集束剤を付着することが好適であり、前記スルホサクシネート塩は、動的粘弾性測定における損失剪断弾性率と貯蔵剪断弾性率の比である損失正接tanδが0.05以上5.0以下であることが好ましく、0.1以上2.0以下であることがより好ましく、0.3以上1.0以下であることが特に好ましい。損失正接tanδが小さすぎると、スルホサクシネート塩が変形に対して追従しにくくなり、繊維とスルホサクシネート塩との界面が剥離しやすくなる。一方、損失正接tanδが大きすぎると、製造時や保管時にスルホサクシネート塩が自重で流動してしまい、繊維から離脱してしまう恐れがある。特に、損失正接tanδが0.3以上1.0以下であれば、スルホサクシネート塩は適度な弾性及び粘性を有することから、乾燥状態での集束性が高くなる。なお、損失正接は、動的粘弾性測定により、振動数1Hz/degの条件で、G’(貯蔵剪断弾性率(Pa))およびG”(損失剪断弾性率(Pa))を求め、下記式のようにtanδ(損失正接(振動吸収計数))を算出した。
tanδ(損失正接(振動吸収計数))=G”/G’
【0021】
本発明の集束繊維においては、集束状態の持続力が高い集束剤を付着することが適しており、前記スルホサクシネート塩における動的粘性率η’は、8kPa・s以上が好ましく、15kPa・s以上がより好ましく、20kPa・s以上が特に好ましい。動的粘性率η’が小さすぎると、製造時やセメントとプレミックスした際に単繊維が繊維束から離解しやすくなり、集束状態の持続力が低下する恐れがある。また、損失正接が1以上の値をとるときに粘性率が小さいとスルホサクシネート塩が自重で流動してしまい、繊維から離脱しやすくなる恐れがある。
【0022】
本発明の集束繊維においては、単繊維同士を引き離す力に対して抵抗力となる粘着力が高い集束剤を付着することが好適であり、前記スルホサクシネート塩は、プローブタック試験により測定される引張最大応力100gf/cm2以上であることが好ましく、400gf/cm2以上であることがより好ましい。また、繊維を繊維束から単離するまでのエネルギーが高い方が集束性を維持するのに好適であり、前記スルホサクシネート塩は、破壊エネルギーが10gf・mm/cm2以上であることが好ましく、300gf・mm/cm2以上であることがより好ましい。
【0023】
集束繊維の乾燥状態及び乾式混合時の集束性をより高めるとともに、水中分散性及びスラリー中の分散性をより良好にする観点から、前記集束繊維には、スルホサクシネート塩が繊維質量に対して0.2質量%以上15.0質量%以下付着されていることが好ましく、0.3質量%以上10.0質量%以下付着されていることがより好ましく、0.35質量%以上5.0質量%以下付着されていることがさらに好ましく、0.4質量%以上3.0質量%以下付着されていることが特に好ましい。
【0024】
前記集束剤は、前記スルホサクシネート塩以外に他の成分を含んでもよい。他の成分としては、本発明の効果を阻害しない範囲内で、例えば、水溶性糊剤、非水溶性糊剤、界面活性剤などを用いることができる。水溶性糊剤としては、例えば、コーンスターチ、タピオカ、植物性小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、植物性ガム類、アルファ澱粉、澱粉誘導体の酢酸澱粉、燐酸澱粉、酵素性澱粉、カチオン化澱粉、焙焼澱粉、カルボキシメチルスターチ、カルボキシエチルスターチ、ヒドロキシエチルスターチ、陽性澱粉、シアノエチル化澱粉及びジアルデヒドデンプン等の澱粉類、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、フノリ、カゼイン、アルギン酸ソーダ、ポリビニルアルコール、並びにポリアクリル酸等を挙げることができる。また、非水溶性糊剤としては、例えば、酢酸ビニル系、酢酸ビニル-エチレン系、プロピレン系などを挙げることができる。界面活性剤としては、例えば、アルキルホスフェートアルカリ金属塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩、炭素数8以上22以下の高級脂肪酸金属塩、高級アルコール硫酸エステル金属塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸金属塩、アルキルベンゼンナフタレンスルホン酸金属塩、パラフィンスルホン酸金属塩、アルキルアミン塩、アルキルアンモニウム塩などを挙げることができる。
【0025】
前記界面活性剤としては、アルキルホスフェートアルカリ金属塩が好ましい。前記アルキルホスフェートアルカリ金属塩は、セメントスラリー中に存在するカルシウムイオンとイオン結合を形成して、繊維の親水性及び繊維とセメント組成物の親和性を向上させることができる。なかでもノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩は、スルホサクシネート塩の集束性を損なうことなく、スラリー中で繊維表面に持続的なセメントに対する親和性を与えるので分散性を持続することができ、好ましい。前記ノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩は、モノアルキルエステル及びジアルキルエステルの何れでもよい。前記ノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩において、アルキル基の炭素数は、8以上18以下であることが好ましく、10以上18以下であることがより好ましい。前記ノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩としては、例えば、ナトリウム塩及びカリウム塩等が挙げられ、カリウム塩が好ましい。前記ノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩としては、例えば、オクチルホスフェートカリウム塩、オクチルホスフェートナトリウム塩、デシルホスフェートカリウム塩、デシルホスフェートナトリウム塩、ラウリルホスフェートカリウム塩、ラウリルホスフェートナトリウム塩、トリデシルホスフェートカリウム塩、トリデシルホスフェートナトリウム塩、ミリスチルホスフェートカリウム塩、ミリスチルホスフェートナトリウム塩、セチルホスフェートカリウム塩、セチルホスフェートナトリウム塩、ステアリルホスフェートカリウム塩及びステアリルホスフェートナトリウム塩などが挙げられる。
【0026】
また、スラリー中で繊維表面に持続的なセメントに対する親和性を与えて分散性を持続する界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩も好ましい。前記ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩は、下記化学式(1)で示される化合物及び下記化学式(2)で示される化合物からなる群から選ばれる一種以上の化合物であることが好ましい。
【化1】
但し、化学式(1)中、Rは炭素数2以上20以下のアルキル基、Aはアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を表し、nは1以上20以下である。
【化2】
但し、化学式(2)中、R
1及びR
2は炭素数2以上20以下のアルキル基、Aはアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を表し、n及びmはそれぞれ1以上20以下である。
【0027】
上記化学式(1)又は上記化学式(2)において、Aのアルカリ土類金属としては、Li,Na,K,Rbなどが好ましい。なかでも、カリウム(K)が好ましい。ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩としては、下記化学式(3)又は下記化学式(4)に示される化合物がより好ましい。
【化3】
但し、化学式(3)中、Rは炭素数2以上20以下のアルキル基を表し、nは1以上20以下である。
【化4】
但し、化学式(4)中、R
1及びR
2は炭素数2以上20以下のアルキル基を表し、n及びmはそれぞれ1以上20以下である。
【0028】
前記他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。乾燥状態及び乾式混合時の集束性をより高めるとともに、水中分散性及びスラリー中の分散性をより良好にする観点から、他の成分は、ノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩及びポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩からなる群から選ばれる一種以上のリン系界面活性剤であることが好ましい。
【0029】
前記集束繊維には、繊維質量に対して集束剤が1.0質量%以上付着されていればよく、特に限定されないが、乾燥状態及び乾式混合時の集束性をより高めるとともに、水中分散性及びスラリー中の分散性をより良好にする観点から、繊維質量に対する、集束剤の付着量、具体的にはスルホサクシネート塩、並びにノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩及びポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩からなる群から選ばれる一種以上のリン系界面活性剤の合計付着量は1.0質量%以上であることが好ましく、1.2質量%以上であることがより好ましく、1.4質量%以上であることがさらに好ましい。また、集束繊維へ付着させる際の工程性を良好にする観点から、繊維質量に対する、集束剤の付着量、具体的にはスルホサクシネート塩、並びにノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩及びポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩からなる群から選ばれる一種以上のリン系界面活性剤の合計付着量は15.0質量%以下であることが好ましく、10.0質量%以下であることがより好ましく、8.0質量%以下であることがさらに好ましく、5.0質量%以下であることが特に好ましく、3.0質量%以下であることが最も好ましい。前記集束繊維には、特に限定されないが、目的等に応じて、スルホサクシネート塩並びにノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩及びポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩からなる群から選ばれる一種以上のリン系界面活性剤以外の他の集束剤成分が繊維質量に対して0.2質量%以上3.0質量%以下付着されてもよい。
【0030】
前記スルホサクシネート塩並びにノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩及びポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩からなる群から選ばれる一種以上のリン系界面活性剤の合計質量を100質量%とした場合、スルホサクシネート塩が10質量%以上90質量%以下であり、ノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩及びポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩からなる群から選ばれる一種以上のリン系界面活性剤が10質量%以上90質量%以下であってもよく;スルホサクシネート塩が20質量%以上80質量%以下であり、ノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩及びポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩からなる群から選ばれる一種以上のリン系界面活性剤が20質量%以上80質量%以下であってもよく;スルホサクシネート塩が25質量%以上75質量%以下であり、ノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩及びポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩からなる群から選ばれる一種以上のリン系界面活性剤が25質量%以上75質量%以下であってもよい。
【0031】
乾燥状態及び乾式混合時の集束性をより高めるとともに、水中分散性及びスラリー中の分散性をより良好にする観点から、繊維質量に対する、集束剤の付着量、スルホサクシネート塩及びノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩の合計付着量は1.0質量%以上であることが好ましく、1.2質量%以上であることがより好ましく、1.4質量%以上であることがさらに好ましい。また、集束繊維へ付着させる際の工程性を良好にする観点から、繊維質量に対する、集束剤の付着量、具体的にはスルホサクシネート塩及びノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩の合計付着量は15.0質量%以下であることが好ましく、10.0質量%以下であることがより好ましく、8.0質量%以下であることがさらに好ましく、5.0質量%以下であることが特に好ましく、3.0質量%以下であることが最も好ましい。前記集束繊維には、特に限定されないが、目的等に応じて、スルホサクシネート塩及びノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩以外の他の集束剤成分が繊維質量に対して0.2質量%以上3.0質量%以下付着されてもよい。
【0032】
前記スルホサクシネート塩と前記ノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩の合計質量を100質量%とした場合、スルホサクシネート塩が10質量%以上90質量%以下であり、ノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩が10質量%以上90質量%以下であってもよく;スルホサクシネート塩が20質量%以上80質量%以下であり、ノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩が20質量%以上80質量%以下であってもよく;スルホサクシネート塩が25質量%以上75質量%以下であり、ノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩が25質量%以上75質量%以下であってもよい。
【0033】
乾燥状態及び乾式混合時の集束性をより高めるとともに、水中分散性及びスラリー中の分散性をより良好にする観点から、繊維質量に対する、集束剤の付着量、具体的にはスルホサクシネート塩及びポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩の合計付着量は1.0質量%以上であることが好ましく、1.2質量%以上であることがより好ましく、1.4質量%以上であることがさらに好ましい。また、集束繊維へ付着させる際の工程性を良好にする観点から、繊維質量に対する、集束剤の付着量、具体的にはスルホサクシネート塩及びポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩の合計付着量は15.0質量%以下であることが好ましく、10.0質量%以下であることがより好ましく、8.0質量%以下であることがさらに好ましく、5.0質量%以下であることが特に好ましく、3.0質量%以下であることが最も好ましい。前記集束繊維には、特に限定されないが、目的等に応じて、スルホサクシネート塩及びポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩以外の他の集束剤成分が繊維質量に対して0.2質量%以上3.0質量%以下付着されてもよい。
【0034】
前記スルホサクシネート塩と前記ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩の合計質量を100質量%とした場合、スルホサクシネート塩が10質量%以上90質量%以下であり、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩が10質量%以上90質量%以下であってもよく;スルホサクシネート塩が20質量%以上80質量%以下であり、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩が20質量%以上80質量%以下であってもよく;スルホサクシネート塩が25質量%以上75質量%以下であり、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩が25質量%以上75質量%以下であってもよい。
【0035】
前記水硬性硬化体添加用集束繊維は、特に限定されないが、セメント補強用繊維として用いるものを適宜用いて構成することができる。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ4-メチルペンテン-1等のポリオレフィン繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維などを適宜用いることができる。耐アルカリ性に優れたポリオレフィン繊維を好ましく使用することができる。
【0036】
前記ポリプロピレンとしては、特に限定されないが、立体規則性の点で高強度繊維が得られるということから、アイソタクチックペンタッド分率(IPF:モル%)が、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは94%以上のポリプロピレンを用いることができる。なおIPFは、n-ヘプタン不溶分成分について「マクロモレキュラーズ」(Macromoleculer,Vol.6,925(1973)及びMacromoleculer,Vol.8,687(1975))に準じて測定するとよい。
【0037】
前記ポリプロピレンとしては、特に限定されないが、Q値(Mw/Mn)が6未満であることが、高い延伸性を有するので、高強度の繊維が得られ、好ましい。より好ましいQ値は、5未満であり、さらに好ましくは4以下である。
【0038】
前記集束繊維を構成する単繊維は複合繊維であってよい。具体的には、芯鞘型複合繊維、偏心芯鞘型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維、分割型複合繊維及び海島型複合繊維のいずれであってもよい。例えば、芯鞘型複合繊維の場合、外形が多葉状であり、芯成分は円形または異形のいずれであってもよい。芯成分が異形の場合、外形と略相似形であることが好ましい。いずれの成分も、例えば鞘成分と芯成分のいずれも、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましく、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、またはポリプロピレンとポリメチルペンテンの混合物であることがより好ましい。
【0039】
前記集束繊維において、単繊維の断面形状は、円状、楕円状、多葉状、星形、偏平形等いずれであってもよく、特に限定されないが、セメント補強効果が高い観点から、多葉状であることが好ましい。さらに、多葉状の断面は繊維間に隙間が生じやすいが、乾式混合時は集束成分であるスルホサクシネート塩により集束性を維持することができ、スラリー混合時は繊維間の繊維側面に水分を抱え込みやすく、水浸透性が良くなることで、スルホサクシネート塩の固着が外れて分散性が良くなると推定される。具体的には、前記集束繊維を構成する単繊維の断面形状は、3個以上16個以下の凸部を有し、好ましくは3個以上8個以下の凸部を有し、特に好ましくは3個以上5個以下の凸部を有する。上記多葉状としては、例えば、3個の凸部を有する三葉、4個の凸部を有する四葉、8個の凸部を有する八葉などが挙げられる。凸部の数が上記範囲を満たす多葉状の断面を有する繊維を用いることにより、セメント粒子、粗骨材及び細骨材と接触する面積が増加し、セメント補強効果が高まる。また、多葉状の断面形状は、凸部が繊維の中心付近から放射状に形成されていることが好ましい。凸部が放射状に形成されることで、セメント粒子が隣り合う凸部間に入り込み易くなり、セメント粒子間の架橋が強化され、セメント補強効果が高まる。凸部が放射状に形成されている多葉状の断面形状としては、例えば、
図1Aに示されている四葉状、
図1Bに示されている八葉状などが挙げられる。なお、繊維断面には、繊維の長手方向に垂直な面となるように切断した繊維断面と、繊維の長手方向に平行な面になるように切断した繊維断面の二種類がある。本発明においては、特に記載がなければ繊維断面とは、当該繊維の長手方向に対し、垂直な面となるように切断した切断面を指し、断面形状とは当該繊維の長手方向に対し、垂直な面となるように切断した切断面の形状を指す。
【0040】
前記繊維断面に存在する少なくとも一つの凸部において、先端部分は略曲線状であり、繊維の中心に向かう根元部分の幅が先端部分の最大幅に比べて小さくなっていることが好ましい。より好ましくは、繊維断面に存在する全ての凸部において、先端部分は略曲線状であり、繊維の中心に向かう根元部分の幅が先端部分の最大幅に比べて小さくなっている。かかる形状を有することにより、根元から変形し易く、セメント硬化体に含まれるセメント粒子が隣り合う凸部間の凹部に入り込み易くなる。前記凸部の先端部分の最大幅は、
図2に示しているように、凸部の2つの根元を結ぶ線の中点uから凸部の先端(頂点t)までを結ぶ線を引き、その線から凸部の外形に向けて垂線を引いたときの最大長さDをいい、繊維断面における凸部の根元部分の幅は、
図2に示しているように、凸部の2つの根元を結ぶ線の長さWをいう。前記凸部において、先端部分の最大幅Dと、根元部分の幅Wとの比(D/W)は、好ましくは1.1以上4.0以下であり、より好ましくは1.3以上3.0以下であり、特に好ましくは1.4以上2.4以下であり、最も好ましくは1.5以上2.0以下である。D/Wが上記範囲を満たすと、凸部の根元部分の幅Wに比べて凸部の先端部分の最大幅が一定の割合で大きくなることにより、セメント硬化体内部において、セメント粒子や粒子径の小さい骨材の間に食い込んだ繊維の凸部が引き抜けにくくなることで、繊維の架橋が強化される。前記凸部の先端部分の最大幅及び凸部の根元部分の幅は、繊維束の繊維断面を電子顕微鏡などで拡大して、任意の繊維5本の値を平均して求めることができる。
【0041】
前記凸部における先端部分の最大幅Dは、3μm以上45μm以下であることが好ましい。より好ましくは5μm以上35μm以下であり、さらに好ましくは6μm以上30μm以下であり、特に好ましくは7μm以上28μm以下である。上記範囲内にあると、隣り合う凸部間に形成される凹部にセメント粒子や粒子径の小さな骨材が入り込みやすく、セメント硬化体において、添加した繊維が引き抜けにくくなり、優れた係止効果(アンカー効果)を発揮しやすい。
【0042】
前記凸部における根元部分の幅Wは、1.5μm以上32μm以下であることが好ましい。より好ましくは2μm以上26μm以下であり、さらに好ましくは2.5μm以上23μm以下であり、特に好ましくは3.5μm以上18μm以下である。凸部の根元部分の幅Wが前記範囲内にあると、隣り合う凸部間に形成される凹部にセメント粒子や粒子径の小さい骨材が入り込みやすくなり、繊維が引き抜けにくくなる。また、根元部分の幅Wが前記範囲内にあると、スラリー作製時に、混合により発生する剪断力によって、一部の凸部が、根元付近から剥離、フィブリル化、または分離し易くなる傾向にあり、分散性が向上しやすい。
【0043】
前記繊維断面における凸部の長さは、
図2に示されているように、凸部の2つの根元を結ぶ線の中点uから凸部の先端(頂点t)までを結ぶ線の長さLで示される。前記集束繊維を構成する単繊維において、繊維断面で見たときの最大の差し渡し長さSに対する凸部の長さLの比L/Sが0.3以上0.48以下であることが好ましく、より好ましくは、0.35以上0.45以下であり、特に好ましくは0.38以上0.42以下である。上記範囲を満たす多葉状断面の繊維を用いることにより、セメント粒子、粗骨材及び細骨材と接触する面積が増加するだけでなく、隣り合う凸部間に形成される凹部が深くなるため、繊維による架橋効果、特に繊維とセメント粒子との接触面積の増加による架橋強化が促進される。
【0044】
前記集束繊維を構成する単繊維において、前記凸部の長さLは、2μm以上70μm以下であることが好ましく、より好ましくは4μm以上60μm以下であり、さらに好ましくは6μm以上50μm以下であり、最も好ましくは8μm以上40μm以下である。凸部の長さLが2μm以上であると、凸部が根元から変形しやすくなる。凸部の長さLが70μm以下であると、隣り合う凸部間に形成される凹部が変形した凸部によって閉塞することがなく、凹部へセメント粒子等が入り込みやすく、繊維が引き抜けにくくなる。前記凸部の長さLは、繊維束の繊維断面を電子顕微鏡などで拡大して、任意の繊維5本の値を平均して求めることができる。
【0045】
前記凸部の長さLと、前記凸部の根元部分の幅Wとの比(L/W)は1.0以上5.0以下であることが好ましく、より好ましくは1.2以上4.5以下であり、さらに好ましくは1.5以上4.0以下であり、特に好ましくは1.7以上3.8以下であり、最も好ましくは1.8以上3.5以下である。L/Wが前記範囲を満たすと、隣り合う凸部間に形成される凹部を閉塞することなく、凸部がその根元から変形しやすくなることで、セメント硬化体において繊維がセメント粒子などにしっかりと係止され、繊維が引き抜けにくくなることで、繊維の架橋が強化される。
【0046】
前記集束繊維を構成する単繊維において、繊維断面に存在する凸部は、繊維の長さ方向(繊維側面)に対して、連続、不連続のいずれであってもよいが、製造工程性を考慮すると、凸部は繊維側面において連続して存在していることが好ましい。
【0047】
前記集束繊維は、JIS L 1015に従って測定される強度(単繊維強度)が2cN/dtex以上であることが好ましく、3cN/dtex以上であることがより好ましい。なお、好ましい上限は、20cN/dtex以下である。かかる範囲であると、セメント硬化体の曲げ強度が向上する。また、セメント等の水硬性材料との攪拌時にファイバーボール(繊維塊)が形成されにくい。
【0048】
前記集束繊維は、JIS L 1015に従って測定される単繊維伸度(破断伸度)が15%以上160%以下であることが好ましく、20%以上120%以下であることがより好ましい。かかる範囲であると、セメント硬化体の衝撃強度が向上する。また、セメント硬化体にクラックが発生しにくい。
【0049】
前記集束繊維を構成する単繊維の繊度は、特に限定はないが、0.5dtex以上30dtex以下であることが好ましく、より好ましくは0.8dtex以上20dtex以下であり、さらに好ましくは1.0dtex以上6dtex以下である。繊度が上述した範囲内であると、集束剤で集束しやすく、スラリー中での分散性も良好になる。
【0050】
前記集束繊維において、特に限定されないが、乾燥状態及び乾式混合時の集束性をより高める観点から、単繊維の本数は、10本以上であることが好ましく、20本以上であることがより好ましい。また、前記集束繊維において、特に限定されないが、水中分散性及びスラリー中の分散性をより高める観点から、単繊維の本数は、4500本以下であることが好ましく、3000本以下であることがより好ましい。
【0051】
前記集束繊維は、総繊度が20dtex以上10000dtex以下であり、好ましくは40dtex以上6000dtex以下である。総繊度を上記範囲にすることで、保管や輸送時に繊維集束体同士が絡まって、ダマになったり、ファイバーボールになったりすることがない。
【0052】
前記集束繊維は、特に限定されないが、例えば、単繊維が複数本束ねられたトウにスルホサクシネート塩を含む集束剤の処理液を付与した後に乾燥することで、集束剤の付着量が繊維質量に対して1.0質量%以上になるように調整して単繊維を集束剤で集束させて作製することができる。
【0053】
前記トウは、例えば、熱可塑性樹脂を紡糸して得ることができる。例えば、まず、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂を1種または2種以上用いて、断面形状が所定の形状になるような単一型または複合型ノズルを用いて、樹脂が溶融する温度、例えば、ポリプロピレンであれば紡糸温度200℃以上350℃以下で溶融紡糸し、引取速度100m/min以上1500m/min以下で引き取り、紡糸フィラメントを得ることができる。また、上記において、必要に応じ、前記熱可塑性樹脂、好ましくは鞘成分となる熱可塑性樹脂に無機物粒子等を混合する。
【0054】
次いで、紡糸フィラメントは、必要に応じて延伸される。延伸温度は熱可塑性樹脂の種類によって適宜設定される。例えば、熱可塑性樹脂がポリプロピレンである場合、延伸温度は80℃以上160℃以下、延伸倍率1.5倍以上8倍以下の条件で延伸することが好ましい。より好ましい延伸温度は、110℃以上155℃以下である。より好ましい延伸倍率は、3倍以上6倍以下である。延伸方法は、特に限定されず、高温の熱水などの高温の液体で加熱しながら延伸を行う湿式延伸、高温の気体中又は高温の金属ロールなどで加熱しながら延伸を行う乾式延伸、100℃以上の水蒸気を常圧若しくは加圧状態にして繊維を加熱しながら延伸を行う水蒸気延伸などの公知の方法で延伸処理を行うことができる。延伸工程は、1段階延伸、または複数の段階に分けて行う、いわゆる多段延伸処理のいずれで行ってもよい。得られた延伸フィラメント(マルチフィラメント)をそのままトウとして用いてもよく、必要に応じて、複数の延伸フィラメントを束ねてトウとして用いてもよい。
【0055】
前記集束剤の処理液としては、集束剤としてスルホサクシネート塩を含むものであればよく、特に限定されないが、例えば、集束剤としてスルホサクシネート塩のみを含む水溶液であってもよく、集束剤としてスルホサクシネート塩並びにノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩及びポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩からなる群からえらばれる一種以上のリン系界面活性剤を含む水溶液であってもよく、集束剤としてスルホサクシネート塩及びノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩を含む水溶液であってもよく、集束剤としてスルホサクシネート塩及びポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩を含む水溶液であってもよい。
【0056】
前記スルホサクシネート塩と前記リン系界面活性剤の混合比率は、質量比(スルホサクシネート塩/リン系界面活性剤)で、10/90以上90/10以下であってもよく、15/85以上85/15以下であってもよく、20/80以上80/20以下であってもよく、25/75以上75/25以下であってもよい。
【0057】
前記スルホサクシネート塩と前記ノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩の混合比率は、質量比(スルホサクシネート塩/ノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩)で、10/90以上90/10以下であってもよく、15/85以上85/15以下であってもよく、20/80以上80/20以下であってもよく、25/75以上75/25以下であってもよい。
【0058】
前記スルホサクシネート塩と前記ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩の混合比率は、質量比(スルホサクシネート塩/ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩)で、10/90以上90/10以下であってもよく、15/85以上85/15以下であってもよく、20/80以上80/20以下であってもよく、25/75以上75/25以下であってもよい。
【0059】
なお、前記集束剤の処理液は、目的等に応じて、集束剤としてスルホサクシネート塩並びにノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩及び/又はポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩に加えて上述した他の集束剤成分を含む水溶液であってもよい。
【0060】
前記集束剤の処理液の付与方法は、特に限定されないが、例えば、浸漬法、噴霧法、コーティング法等のいずれの方法であってもよい。集束剤の処理液を付与した後、特に浸漬法で集束剤の処理液を付与した後、必要に応じて、マングルロールで絞ることができる。
【0061】
前記乾燥は、集束剤の付着量が繊維質量に対して1.0質量%以上になるように調整できればよく、特に限定されない。例えば、60℃以上140℃以下の温度で5分以上120分以下行うことができる。
【0062】
乾燥工程後に、必要に応じて、集束繊維を、所定の繊維長にカットする。例えば、前記集束繊維の繊維長は2mm以上50mm以下であってもよく、3mm以上30mm以下であってもよく、5mm以上20mm以下であってもよい。繊維長が前記の範囲であれば、セメント等の水硬性材料に混和し撹拌する時の混和性がよい。
【0063】
前記集束繊維は、セメントと乾式混合してプレミックスセメント組成物として用いることができる。前記プレミックスセメント組成物は、モルタル用の場合、セメント、細骨材、及び前記集束繊維を含んでも良い。前記プレミックスセメント組成物は、コンクリート用の場合、セメント、細骨材、粗骨材、及び前記集束繊維を含んでも良い。前記プレミックスセメント組成物には、必要に応じて混和剤を始めとする機能剤を添加してもよい。前記セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメントなど、各種セメントを使用することができる。前記細骨材としては珪砂、川砂、海砂、浜砂等を用いることができ、前記粗骨材として砕石などを用いることができる。前記混和剤としては、AE剤、AE減水剤、高機能AE減水剤、流動化剤、硬化促進剤、防錆剤、凝結遅延剤、急結剤、収縮低減剤などが挙げられる。これらの混和剤から目的や用途によって適宜選択して使用することができる。
【0064】
前記プレミックスセメント組成物は、特に限定されないが、例えば、プレミックスセメント組成物の全質量を100質量%とした場合、前記集束繊維を0.05質量%以上6.0質量%以下含んでもよく、0.3質量%以上3.0質量%以下含んでもよい。
【0065】
前記プレミックスセメント組成物に、適量の水を加えて十分に混練してスラリーを得た後、硬化させることで、モルタルやコンクリート等のセメント硬化体(水硬性硬化体)を得ることができる。前記プレミックスセメント組成物において、集束繊維の集束性及び水浸透性が高いことから、前記スラリーにおいて、繊維ダマが形成されず、集束繊維がばらけており、分散性が高くなる。前記水硬性硬化体において、例えば、コンクリート、モルタル、及びセメントペーストのような水和反応により硬化する水硬性材料中に、前記集束繊維が添加されて繊維がばらけて分散しているので、単繊維やばらけた繊維による補強効果が高い。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0067】
実施例で用いた測定方法及び評価方法を説明する。
【0068】
(動的粘弾性測定)
動的粘弾性は動的粘弾性測定装置(ユービーエム社製Rheosol-G3000)を用い、室温(20±2℃)の室内にて、140℃で5時間乾燥させた質量約1gのスルホサクシネート塩を直径20mmのパラレルプレート(材質:SUS)に挟んで厚みを1mm(ただし、ポリオキシエチレンアルキル(C12-14)スルホコハク酸二ナトリウム塩の場合は、変形しにくかったため、2mmの厚さとした。)に調整した試料を用いて、振動数1Hz/degの条件にて測定し、G’(貯蔵剪断弾性率(Pa))、G”(損失剪断弾性率(Pa))、及びη’(動的粘性率(kPa・s))を求め、下記式のようにtanδ(損失正接(振動吸収計数))を算出した。
tanδ(損失正接(振動吸収計数))=G”/G‘
【0069】
(粘着力測定(プローブタック試験))
室温(20±2℃)の室内にて、プローブ式粘着力測定器(ユービーエム社製タックテスターTA500)を使用し、サンプル台上に140℃で5時間乾燥させたスルホサクシネート塩を置いて平らにした状態でスルホサクシネート塩が約5mmの厚さとなるように試料を調整し、先端の直径が5mmのプローブをスルホサクシネート塩の試料に0.1mm/secの速さで押し付けて、200gf/cm2の荷重がかかったところで約20秒間保持した後、0.1mm/secの速さでプローブを上昇させたときの引張応力を測定し、引張最大応力とした。破壊エネルギーはプローブの引張応力が1gf/cm2以下になるまでの伸び量を試験終了点とし、それまでの引張応力を伸びで積分して算出した。
【0070】
(繊度、強伸度)
JIS L 1015に準じて測定した。
【0071】
(付着水分率)
試料を約2~2.5gとした以外は、JIS L 1015に準じて測定した。
【0072】
(集束剤の付着量)
集束繊維を手でほぐした後4g計量して試料とした。該試料を油剤抽出用ステンレスカラムに入れ、メタノール10mLを加えた。2分後に抽出容器の中をエアシリンダーで10分間ピストンすることで抽出液を絞り出し、出口から流出する抽出液をステンレス皿に受けた。抽出液を受ける前のステンレス皿の質量W0であった。その後、抽出液を含むステンレス皿を150℃のヒーターで加熱し、メタノール成分を蒸発させた後、室温(23℃)で2分間冷却した。その後、メタノール成分を蒸発した後のステンレス皿の質量(W1)を計測し、増加した分の質量(W1-W0)を繊維質量で割り返した値を算出し、2回測定算出した平均値を、繊維質量に対する集束剤の付着量(質量%)とした。油剤抽出用ステンレスカラムとしては、
図5に示す形状を有するステンレスカラムを用いており、該カラムの全長は133.3mm、外径は21.5mm、内径は15.9mm、先端の円錐部(出口部)の長さは13.0mm、出口の穴径は1.6mmであった。
【0073】
(集束剤(ポリオキシエチレンアルキル(C12-14)スルホコハク酸二ナトリウム塩を含む集束剤)の付着量)
集束繊維を手でほぐした後4g計量して試料とした。該試料を油剤抽出用ステンレスカラムに入れ、沸騰水10mLを加えた。2分後に抽出容器の中をエアシリンダーで約3分間ピストンすることで抽出液を絞り出し、出口から流出する抽出液を質量W0のステンレス皿に受けた。その後、綿を一度取り出してほぐし、再度ステンレスカラムに入れて沸騰水を約5ml加え、2分後にエアシリンダーで10分間ピストンさせた。その後、抽出液を含むステンレス皿を約150℃のヒーターで加熱し、水分を蒸発させた後、室温(23℃)で2分間冷却した。水分蒸発後のステンレス皿の質量(W1)を計測し、増加した分の質量(W1-W0)を繊維質量で割り返した値を算出し、繊維質量に対する集束剤の付着量(質量%)とした。
【0074】
(集束繊維の水中分散性)
水槽(幅57cm×厚み18cm×水面高さ43cm)に水を張り、繊維長が6mmになるように切断した集束繊維を上から投入し、撹拌翼を4000rpmで1分間回転させた後、水中分散性を目視で確認し、下記の基準で評価した。
A:水中に分散し、浮き種がほとんど生じない。
B:水中に分散するが、浮き種があり、その単繊維がバラバラになっている。
C:水中に分散するが、浮き種があり、その中の一部に束になっている物がいる。
D:水中に分散した繊維の中に一部束になっている物がいる。
E:水中に分散せず、束のままである。
【0075】
(集束繊維の集束性評価1)
集束繊維の集束性を、見た目に基づいて、下記の基準で評価した。
A:複数本の単繊維が集束されて1本になっている。
B:複数本の単繊維のほとんどが集束されている。
C:複数本の単繊維の半分以上が集束されている。
D:複数本の単繊維の一部が集束されている。
E:単繊維がバラバラになっている。
【0076】
(集束繊維の集束性評価2)
集束繊維の集束性は、固さに基づいて、下記の基準で評価した。
A:糊付けが効いてぱりっとしていて、集束繊維を指で軽く擦り合わせてもそれ以上ばらけない。
B:糊付けが効いてぱりっとしているが、集束繊維を指で軽く擦り合わせると一部がばらける。
C:糊付けが効いてぱりっとしているが、集束繊維を指で軽く擦り合わせると半分以上がばらける。
D:糊付けが弱くしなっており、集束繊維を指で軽く擦り合わせると一部がばらける。E:糊付けが弱くしなっており、集束繊維を指で軽く擦り合わせると半分以上がばらける。
【0077】
(プレミックスセメント組成物における集束繊維の集束性)
プレミックス組成物における集束繊維の集束性は、ドライミックス試験で評価した。具体的には、セメント(普通ポルトランドセメント)333g及び細骨材(川砂)1000gを容量10Lのオムニミキサーに入れて250rpmで1分間撹拌した後、そこへ繊維長が6mmの集束繊維を1.33g(セメント及び細骨材の合計質量に対して0.1質量%)投入し、250rpmで10秒間撹拌した。得られたプレミックスセメント組成物をカメラで撮影して観察し、下記の基準で集束繊維の集束性を評価した。
A:全ての繊維が束の状態を保っている。
B:半分以上の繊維が束状のままであるが、一部が単繊維にばらけている。
C:一部の繊維が束状であり、半分(50%)程度は単繊維にばらけている。
D:一部の繊維が束状であり、75%程度は単繊維にばらけている。
E:殆どの繊維が単繊維にばらけている。
【0078】
(モルタル状態における集束繊維の分散性)
プレミックスセメント組成物における集束繊維の集束性評価時と同様にして得られたプレミックスセメント組成物300gに対して水を60g加えて(W/C=80%、S/C=300%)、オムニミキサーを用いて250rpmで30秒間練り混ぜを行い、4×16cmの型枠に打設し、大気中、室温(23℃)で24時間放置した後に、成形体をハンマーでたたき割って断面を観察し、下記の基準で分散性を評価した。なお、W/Cはセメント/水の質量比であり、S/Cは細骨材/セメントの質量である。
A:繊維ダマにならず、集束繊維がばらけて分散している。
B:繊維ダマが存在する。
【0079】
(実施例1)
<トウの作製>
ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製、商品名SA01A)を用意した。この樹脂を四葉型のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度を275℃として溶融押出して、単繊維繊度7.6dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。次いで、該紡糸フィラメントを、140℃で、3.00倍に乾式延伸し、単繊維繊度2.57dtexのポリプロピレン繊維を得た。得られたポリプロピレン繊維は、繊維断面形状が4つの凸部を有する四葉状であり、その凸部は先端部分が略曲線状であり、繊維の中心に向かう根元部分の幅が先端部分の最大幅に比べて小さくなっていた。繊維断面で見たときの最大の差し渡し長さSは31.1μm、凸部の長さLは12.6μm、凸部の先端部分における最大幅Dは10.7μm、根元部分の幅Wは5.6μm、L/Sは0.40、D/Wは1.90、L/Wは2.24であった。
<集束剤の付与>
上記で得られたポリプロピレン繊維(総繊度22800dtexのトウ)を、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩(貯蔵剪断弾性率G’:0.38Mpa、損失正接tanδ:0.52、動的粘性率η’:31kPa・s、引張最大応力:700gf/cm2、破壊エネルギー:954gf・mm/cm2)を含む水溶液(集束剤の処理液)に浸漬した後、マングルロールで絞り、80℃で5時間乾燥することで、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩を2.5質量%付着させて、ポリプロピレン単繊維が集束した集束繊維を得た。
【0080】
(実施例2)
集束剤の処理液として、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩及びラウリルホスフェートカリウム塩を含み、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩/ラウリルホスフェートカリウム塩の質量比が76.9/23.1である水溶液を用い、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩及びラウリルホスフェートカリウム塩の合計付着量が2.69質量%になるようにした以外は、実施例1と同様にして、ポリプロピレン単繊維が集束した集束繊維を得た。
【0081】
(実施例3)
集束剤の処理液として、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩及びラウリルホスフェートカリウム塩を含み、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩:ラウリルホスフェートカリウム塩の質量比が23.1/76.9である水溶液を用い、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩及びラウリルホスフェートカリウム塩の合計付着量が2.39質量%になるようにした以外は、実施例1と同様にして、ポリプロピレン単繊維が集束した集束繊維を得た。
【0082】
(実施例4)
<トウの作製>
ポリプロピレン樹脂(融点:168℃、MFR(測定温度230℃、荷重2.16kgf):8.9g/10min)を用意した。この樹脂を円形ノズル孔を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度を335℃として溶融押出して、単繊維繊度15.0dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。次いで、該紡糸フィラメントを150℃で、3.82倍に乾式延伸し、単繊維繊度4.70dtexのポリプロピレン繊維を得た。
<集束剤の付与>
上記で得られたポリプロピレン繊維(総繊度2430000dtexのトウ)を、実施例3と同じ集束剤の処理液を用いて、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩及びラウリルホスフェートカリウム塩の合計付着量が1.87質量%になるようにした以外は、実施例3と同様にして、ポリプロピレン単繊維が集束した集束繊維を得た。
【0083】
(実施例5)
延伸倍率を3.20倍として単繊維繊度が2.35dtexのポリプロピレン系繊維のトウを作製したこと、及び、集束剤の処理液として、ポリオキシエチレンアルキル(C12-14)スルホコハク酸二ナトリウム塩(貯蔵剪断弾性率G’:1.7MPa、損失正接tanδ:0.20、動的粘性率η’:56kPa・s、引張最大応力:255gf/cm2、破壊エネルギー:18gf・mm/cm2)を含む水溶液を用い、ポリオキシエチレンアルキル(C12-14)スルホコハク酸二ナトリウム塩の付着量が2.44質量%になるようにした以外は、実施例1と同様にして、ポリプロピレン単繊維が集束した集束繊維を得た。
【0084】
(実施例6)
延伸倍率を3.20倍として単繊維繊度が2.35dtexのポリプロピレン系繊維のトウを作製したこと、及び、集束剤の処理液として、ポリオキシエチレンアルキル(C12-14)スルホコハク酸二ナトリウム塩及びラウリルホスフェートカリウム塩を含み、ポリオキシエチレンアルキル(12-14)スルホコハク酸二ナトリウム塩:ラウリルホスフェートカリウム塩の質量比が23.1/76.9である水溶液を用い、ポリオキシエチレンアルキル(12-14)スルホコハク酸二ナトリウム塩及びラウリルホスフェートカリウム塩の合計付着量が1.98質量%になるようにした以外は、実施例1と同様にして、ポリプロピレン単繊維が集束した集束繊維を得た。
【0085】
(実施例7)
延伸倍率を3.40倍として単繊維繊度が2.17dtexのポリプロピレン系繊維のトウを作製したこと、及び、集束剤の処理液として、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩及びオキシエチレン基(POE)を5mol含み、炭素鎖長が12であるポリオキシエチレンラウリルリン酸カリウムを含み、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩/ポリオキシエチレンラウリルリン酸カリウムの質量比が23.1/76.9である水溶液を用い、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩及びポリオキシエチレンラウリルリン酸カリウムの合計付着量が2.47質量%になるようにした以外は、実施例1と同様にして、ポリプロピレン単繊維が集束した集束繊維を得た。
【0086】
(実施例8)
延伸倍率を3.40倍として単繊維繊度が2.28dtexのポリプロピレン系繊維のトウを作製したこと、及び、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩及びラウリルホスフェートカリウム塩の合計付着量が6.80質量%になるようにした以外は、実施例3と同様にして、ポリプロピレン単繊維が集束した集束繊維を得た。
【0087】
(実施例9)
延伸倍率を3.40倍として単繊維繊度が2.28dtexのポリプロピレン系繊維のトウを作製したこと、及び、ポリオキシエチレンアルキル(C12-14)スルホコハク酸二ナトリウム塩の付着量が7.73質量%になるようにした以外は、実施例5と同様にして、ポリプロピレン単繊維が集束した集束繊維を得た。
【0088】
(実施例10)
延伸倍率を3.40倍として単繊維繊度が2.28dtexのポリプロピレン系繊維のトウを作製したこと、及び、ポリオキシエチレンアルキル(C12-14)スルホコハク酸二ナトリウム塩及びラウリルホスフェートカリウム塩の合計付着量が5.87質量%になるようにした以外は、実施例6と同様にして、ポリプロピレン単繊維が集束した集束繊維を得た。
【0089】
(実施例11)
延伸倍率を3.40倍として単繊維繊度が2.28dtexのポリプロピレン系繊維のトウを作製したこと、及びジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩及びポリオキシエチレンラウリルリン酸カリウムの合計付着量が9.33質量%になるようにした以外は、実施例7と同様にして、ポリプロピレン単繊維が集束した集束繊維を得た。
【0090】
(比較例1)
処理液として、ラウリルホスフェートカリウム塩を含む水溶液を用い、ラウリルホスフェートカリウム塩の付着量が2.84質量%になるようにした以外は、実施例1と同様にして、ポリプロピレン単繊維が集束した集束繊維を得た。
【0091】
(比較例2)
<トウの作製>
ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製、商品名SA01A)を用意した。この樹脂を四葉型のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度を275℃として溶融押出して、単繊維繊度7.6dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。次いで、該紡糸フィラメントを、140℃で、3.35倍に乾式延伸し、単繊維繊度2.65dtexのポリプロピレン繊維を得た。
<集束剤の付与>
集束剤の処理液として、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩を含む水溶液を用い、付着量が0.84質量%になるようにした以外は、実施例1と同様にして、ポリプロピレン単繊維が集束した集束繊維を得た。
【0092】
(比較例3)
延伸倍率を3.23倍として単繊維繊度が2.26dtexのポリプロピレン系繊維のトウを作製したこと、及び集束剤の処理液として、オキシエチレン基(POE)を5mol含み、炭素鎖長が12であるポリオキシエチレンラウリルリン酸カリウムを含む水溶液を用い、ポリオキシエチレンラウリルリン酸カリウムの付着量が3.29質量%になるようにした以外は、実施例1と同様にして、ポリプロピレン単繊維が集束した集束繊維を得た。
【0093】
実施例1及び4の集束繊維の断面を走査型電子顕微鏡(HITACHI社製、型番「SU3500」)で観察し、その結果をそれぞれ
図3及び4に示した。実施例1の集束繊維の断面を観察した
図3(100倍)の走査型電子顕微鏡写真から、四葉状の断面において、繊維が集束しており、単繊維間に隙間があることがわかる。このことから、四葉断面の繊維は、スラリー混合時に繊維間の繊維側面に水分を抱え込みやすく、分散性が良くなると推定される。図示はないが、実施例2、3、5~11の集束繊維の断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、同様に、繊維は集束しており、単繊維間に隙間があることがわかる。同様に、実施例4の集束繊維の側面を観察した
図4(100倍)の走査型電子顕微鏡写真から、円形断面において、繊維が集束しており、単繊維間にはほとんど隙間がないことがわかる。
【0094】
実施例及び比較例で得られた集束繊維の水中分散性及び集束性を上述したとおりに評価し、その結果を下記表1に示した。また、実施例及び比較例で得られた集束繊維のプレミックスセメント組成物における集束性及びモルタル状態における分散性を上述したとおりに評価し、その結果を下記表1に示した。また、実施例及び比較例で得られた集束繊維の含水率を上述したとおりに測定し、その結果を下記表1に示した。また、実施例及び比較例において、集束剤を付与する前のポリプロピレン繊維の強伸度を上述したとおりに測定し、その結果を下記表1に示した。
【0095】
【0096】
上記表1から分かるように、スルホサクシネート塩を含む集束剤が1.0質量%以上付着されている実施例1~11の集束繊維は、スルホサクシネート塩が付着されていない比較例1、3及び集束剤の付着量が1.0質量%未満である比較例2の集束繊維に比べて、集束性が向上していた。なかでも、実施例1~3の集束繊維は、実施例5、6の集束繊維に比べて、より集束性が良好であることから、集束剤として特にジアルキルスルホサクシネート塩が好ましいことがわかる。実施例3の集束繊維は、実施例7の集束繊維に比べて、集束性が良いことから、セメント組成物に対する親和性を付与する界面活性剤としてはアルキルホスフェートアルカリ金属塩がより優れることがわかる。実施例8~11の集束繊維は、実施例1及び実施例5~7の集束剤付着量を増加させたものであり、実施例1及び実施例5~7の集束繊維に比べていずれも集束性が向上し、モルタル状態における分散性も良好であった。また、スルホサクシネート塩を含む集束剤が1.0質量%以上付着されている実施例1~3の四葉断面の集束繊維は、スルホサクシネート塩が付着されていない比較例1の集束繊維に比べてプレミックスセメント組成物における集束性が高く、集束剤の付着量が1.0質量%未満である比較例2と比べてモルタル状態での分散性に優れていた。実施例4の円形断面の集束繊維は、実施例1~3と比較して、プレミックスセメント組成物における集束性は最も優れているが、モルタル状態における分散性は劣っていた。このことから、四葉断面は葉(凸部)と葉(凸部)の間に隙間を有するために分散性が優れ、一方で、円形断面は隙間が少ないために単繊維同士が密着し集束性に優れると推定される。