(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】プレス穿孔機、および、継目無管の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21C 23/00 20060101AFI20231012BHJP
B21C 23/08 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
B21C23/00 A
B21C23/08 A
(21)【出願番号】P 2019174692
(22)【出願日】2019-09-25
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】山根 康嗣
(72)【発明者】
【氏名】下田 一宗
(72)【発明者】
【氏名】井上 祐二
(72)【発明者】
【氏名】下岡 秀輔
(72)【発明者】
【氏名】千葉 大祐
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-125313(JP,A)
【文献】特開昭58-044913(JP,A)
【文献】特開平07-043229(JP,A)
【文献】特開昭63-084721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 23/00 - 35/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空部材成形用の金属素材に、芯金の先端に取り付けられたプラグを押し込んで前記素材を中空ビレットに成形するプレス穿孔機であって、
前記芯金の軸方向における圧縮応力の円周位置における偏差を検出する偏差検出部を備え、
前記偏差検出部は、前記偏差を判定する判定部を備え、
前記判定部は、
前記偏差が所定の第1しきい値を超えた時に、前記プラグによる穿孔動作を停止させ、
前記偏差が前記第1しきい値より小さい所定の第2しきい値より大きく且つ前記第1しきい値以下であるときに、前記中空ビレットの寸法精度異常を報知する、プレス穿孔機。
【請求項2】
前記偏差検出部は、前記圧縮応力を検出する素子を含み、
前記素子は、前記芯金の根元側部分において前記芯金の円周方向に離隔して複数配置されている、請求項1に記載のプレス穿孔機。
【請求項3】
前記判定部は、各前記素子で検出された前記圧縮応力の検出値を時系列に沿って記憶し、同一時刻における各前記素子での検出値の差分の最大値を前記偏差として用いる、請求項2に記載のプレス穿孔機。
【請求項4】
前記判定部は、前記素材に対する前記プラグの押し込み動作時において前記偏差が前記第2しきい値を超えることが、複数の前記素材に対して連続して起こったとき、連続して異常が生じていることを報知する、請求項1~請求項3の何れか1項に記載のプレス穿孔機。
【請求項5】
金属素材に、芯金の先端に取り付けられたプラグを押し込んで前記素材を中空ビレットに成形する際に、前記芯金の軸方向における圧縮応力の円周位置における偏差を検出し、
前記偏差が、所定の第2しきい値より大きく且つ所定の第1しきい値以下であるときには、前記中空ビレットの肉厚であって、円周方向の複数の位置における肉厚を測定し、
前記円周方向の複数の位置における前記肉厚の偏差が所定の規定範囲内であるときには、前記中空ビレット
に押出成形を施すことで継目無管を形成し、
前記肉厚の偏差が前記規定範囲外であるときには、前記中空ビレットに切削加工を施した後に前記押出成形を施すことで前記継目無管を形成する、継目無管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス穿孔機、継目無管の製造方法、および、継目無管の偏肉検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、継目無管の製造方法として、ユジーン・セジュルネ製管法が知られている(例えば、特許文献1参照)。ユジーン・セジュルネ製管法では、一般に、押広げ穿孔工程および押出成形工程が実施される。
【0003】
具体的には、押広げ穿孔工程では、円筒状または円柱状のビレットを加熱した後、このビレットをコンテナに装入し、軸状の芯金の先端にプラグが取り付けられた当該プラグをビレットに挿入して、円筒状または円柱状のビレットに所定の内径を有する円筒状の中空ビレットを得る。押出成形工程では、押広げ穿孔工程で得た中空ビレットを加熱した後、この中空ビレットをコンテナに装入し、ステムで中空ビレットを押して、中空ビレットをダイスとマンドレルとの隙間から押出すことで、所望の形状の継目無管(押出管)を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ビレットに対して上方からプラグを押し込むことによって穿孔することでビレットから中空ビレットを成形する場合には、
図1に示すように、得られた中空ビレット100において、1次偏肉が生じることがある。中空ビレット100において1次偏肉が生じている状態とは、中空ビレット100の周方向の肉厚分布において、極大部100aおよび極小部100bがそれぞれ1箇所ずつ存在する状態のことをいう。中空ビレットにおいて1次偏肉が生じた場合には、その中空ビレットから得られる継目無管(押出管)においても1次偏肉が生じるおそれがある。すなわち、継目無管の品質が低下するおそれがある。しかしながら、ビレットへの穿孔時に1次偏肉を検出することは行われてない。
【0006】
そこで、本発明の目的の一つは、継目無管等の製品の品質低下を抑制することのできる、プレス穿孔機、継目無管の製造方法、および、継目無管の偏肉検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記を要旨とする。
【0008】
(1)中空部材成形用の金属素材に、芯金の先端に取り付けられたプラグを押し込んで前記素材を中空ビレットに成形するプレス穿孔機であって、
前記芯金の軸方向における圧縮応力の円周位置における偏差を検出する偏差検出部を備えている、プレス穿孔機。
【0009】
(2)前記偏差検出部は、前記圧縮応力を検出する素子を含み、
前記素子は、前記芯金の根元側部分において前記芯金の円周方向に離隔して複数配置されている、前記(1)に記載のプレス穿孔機。
【0010】
(3)前記偏差検出部は、前記偏差を判定する判定部をさらに備え、
前記判定部は、各前記素子で検出された前記圧縮応力の検出値を時系列に沿って記憶し、同一時刻における各前記素子での検出値の差分の最大値を前記偏差として用いる、前記(2)に記載のプレス穿孔機。
【0011】
(4)前記偏差検出部は、前記偏差を判定する判定部をさらに備え、
前記判定部は、前記偏差が所定のしきい値を超えたときに異常判定を行う、前記(1)~(3)の何れか1項に記載のプレス穿孔機。
【0012】
(5)前記しきい値は、複数設定されており、
前記判定部は、複数の前記しきい値に対する前記偏差に応じた異常判定を行う、前記(4)に記載のプレス穿孔機。
【0013】
(6)前記しきい値としての所定の第1しきい値が規定されており、
前記判定部は、前記偏差が前記第1しきい値を超えた時に、前記プラグによる穿孔動作を停止させる、前記(5)に記載のプレス穿孔機。
【0014】
(7)前記しきい値として、前記第1しきい値より小さい所定の第2しきい値が規定されており、
前記判定部は、前記偏差が、前記第2しきい値より大きく前記第1しきい値以下であるときに、前記中空ビレットの寸法精度異常を報知する、前記(6)に記載のプレス穿孔機。
【0015】
(8)前記判定部は、前記素材に対する前記プラグの押し込み動作時において前記偏差が前記所定のしきい値を超えることが、複数の前記素材に対して連続して起こったとき、連続して異常が生じていることを報知する、前記(4)~前記(7)の何れか1項に記載のプレス穿孔機。
【0016】
(9)金属素材に、芯金の先端に取り付けられたプラグを押し込んで前記素材を中空ビレットに成形する際に、前記芯金の軸方向における圧縮応力の円周位置における偏差を検出し、
前記中空ビレットに押出成形を行うことで継目無管を形成する、継目無管の製造方法。
【0017】
(10)前記偏差が、所定の第2しきい値より大きく所定の第1しきい値以下であるときには、前記中空ビレットの肉厚であって、円周方向の複数の位置における肉厚を測定し、
前記円周方向の複数の位置における前記肉厚の偏差が所定の規定範囲内であるときには、前記中空ビレットに前記押出成形を施し、
前記肉厚の偏差が前記規定範囲外であるときには、前記中空ビレットに切削加工を施した後に前記押出成形を施す、前記(9)に記載の継目無管の製造方法。
【0018】
(11)継目無管用の金属素材に、芯金の先端に取り付けられたプラグを押し込んで前記素材を中空ビレットに成形する際に、前記芯金の軸方向における圧縮応力の円周位置における偏差を検出する、継目無管の偏肉検出方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、継目無管等の製品の品質低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、中空ビレットに生じる1次偏肉を示す図である。
【
図2】
図2(A)は、ビレットの穿孔に用いられる芯金およびプラグの模式図であり、芯金が撓んでいる状態を示している。
図2(B)は、芯金根元部近傍における、芯金の円周方向の各部における軸方向の圧縮応力の最大値と最小値との差(偏差)と、中空ビレットの偏肉率との関係を示す模式的なグラフである。
【
図3】
図3は、押広げ穿孔工程に用いられるプレス穿孔機と、穿孔途中のビレットと、中空ビレットの模式的な縦断面図である。
【
図4】
図4は、下孔が形成されたビレットと、このビレットに押広げ穿孔工程が施される場合における、時間と各ひずみゲージの圧縮応力との関係を示す概念的なグラフである。
【
図6】
図6(A)は、偏差が所定の第2しきい値より大きく且つ所定の第1しきい値以下である場合における、時間と各ひずみゲージのうち最大の圧縮応力と最小の圧縮応力との関係を示す概念的なグラフである。
図6(B)は、偏差が所定の第1しきい値を超えている場合における、時間と各ひずみゲージのうち最大の圧縮応力と最小の圧縮応力との関係を示す概念的なグラフである。
【
図7】
図7(A)は、偏差が第2しきい値より大きく第1しきい値以下である場合における肉厚測定の様子を示す模式図である。
図7(B)は、肉厚の偏差が許容範囲外であるときの中空ビレットの内面切削を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係るプレス穿孔機、継目無管の製造方法、および、継目無管の偏肉検出方法について説明する。
【0022】
<本発明を想到するに至った経緯>
ユジーン・セルジュネ製管法では、前述したように、押広げ穿孔工程および押出成形工程が実施される。この押広げ穿孔工程では、円筒状または円柱状の加熱されたビレットが、軸状の芯金の先端に取り付けられたプラグを通されることで、円筒状の中空ビレットとなる。押広げ穿孔工程においては、芯金に取り付けられたプラグがビレット内に高い荷重で押し込まれる。このため、ビレットの向きに対して芯金およびプラグの向きが傾いていると、中空ビレットの1次偏肉が悪化し、継目無管の1次偏肉も悪化する。本願発明者は、このプラグの傾きに着目して鋭意研究を行った。その結果、以下の知見を得るに至った。
【0023】
図2(A)は、ビレット51の穿孔に用いられる芯金4およびプラグ5の模式図であり、芯金が撓んでいる状態を示している。
図2(B)は、芯金根元部4b近傍における、芯金4の円周方向Cの各部における軸方向の圧縮応力σの最大値σmaxと最小値σminとの差(偏差Δσ)と、中空ビレット52の偏肉率との関係を示す模式的なグラフである。ここで、偏肉率とは、中空ビレット52における、{(肉厚最大値-肉厚最小値)/肉厚平均値}×100(%)である。なお、分母の肉厚平均値=(肉厚最大値+肉厚最小値)/2である。また、芯金先端部4aの撓み量とは、芯金4の軸方向から見た、芯金根元部4bの中心に対する芯金先端部4aの中心のビレット半径方向における最大偏心量をいう。
【0024】
図2(B)のグラフは、穿孔実験によって得られた結果である。
図2(B)のグラフからは、圧縮応力σの偏差σmax-σmin(すなわち偏差Δσ)が大きいと、偏肉率が大きくなることが分かる。これは、圧縮応力σの高い箇所に曲げ圧縮応力が作用し、圧縮応力σの低い箇所に曲げ引張応力が作用して、芯金4が撓むことにより、プラグ5が傾いた状態で穿孔されるためである。つまり、芯金4に撓みが生じているときには、芯金根元部4bにおいて、撓みによって最も縮んでいる箇所での圧縮応力σと、芯金根元部4bの他の箇所での圧縮応力σに偏差Δσが生じる。以上のことから、芯金4の円周方向における各部の軸方向の圧縮応力σに偏差Δσが生じていると、芯金4が撓んでいることが分かり、その結果、中空ビレット52の偏肉率の悪化も分かることとなる。本願発明者は、上記の知見を基に、本発明を想到した。
【0025】
<実施形態の説明>
実施形態に係る継目無管の製造方法は、押広げ穿孔工程および押出成形工程を備える。
図3は、押広げ穿孔工程を説明するための図である。
【0026】
図3は、押広げ穿孔工程に用いられるプレス穿孔機1と、穿孔途中のビレット51と、中空ビレット52の模式的な縦断面図である。
図3を参照して、本実施形態のプレス穿孔機1は、竪プレス穿孔機であり、ビレット51の上方から、芯金4の先端部4aに取り付けられたプラグ5をビレット51に通して、ビレット51を押広げ穿孔し、これにより、ビレット51を中空ビレット52に成形する。ビレット51は、「中空部材成形用の金属素材」の一例である。なお、本実施形態では、プレス穿孔機1が竪プレス穿孔機である形態を例に説明するけれども、この通りでなくてもよい。プラグがビレットを水平方向に貫く構成の横プレス穿孔機に本発明が適用されてもよい。
【0027】
ビレット51は、鋼等の金属のブルームを分塊圧延するか、または、高速鍛造することで形成された鉄塊の外面を切削するとともに、場合によっては鉄塊に貫通孔を切削によって形成することで完成する。ビレット51は、予め1200℃程度に加熱された状態で、プレス穿孔機1において中空ビレット52に成形される。
【0028】
プレス穿孔機1は、円筒状のコンテナ2と、コンテナ2の下端部に設けられた円筒状のダイス3と、コンテナ2に挿入される芯金4と、芯金4の先端部4a(下端部)に取り付けられたプラグ5と、芯金4を上下に移動させる駆動部6と、駆動部6と芯金4との間の荷重を検出するロードセル7と、芯金4に取り付けられたひずみゲージ11を含む偏差検出部10と、を有している。
【0029】
なお、コンテナ2、ダイス3、芯金4およびプラグ5としては、従来の継目無管の製造方法(ユジーン・セジュルネ製管法)で利用されているコンテナ、ダイス、芯金およびプラグを用いることができるので、簡単な説明にとどめ、詳細な説明は省略する。
【0030】
芯金4は、上下に延びる軸状部材である。プラグ5は、円錐形状に形成されており、当該プラグ5の先鋭部分がダイス3側を向いている。芯金4およびプラグ5は、金属製である。駆動部6は、電動モータまたは液圧シリンダ等のアクチュエータを含んでおり、芯金4の根元部4bに取り付けられている。駆動部6は、芯金4およびプラグ5を芯金4の軸方向(上下方向)に移動させる。
【0031】
ロードセル7は、駆動部6から芯金4に作用する荷重を検出する。ロードセル7で検出された荷重値は、偏差検出部10の後述する判定部12へ出力される。
【0032】
偏差検出部10は、芯金4の軸方向における圧縮応力σの円周位置における偏差Δσを検出するために設けられている。偏差検出部10は、複数のひずみゲージ11と、各ひずみゲージ11と電気的に接続された判定部12と、報知部13と、を有している。
【0033】
ひずみゲージ11は、圧縮応力σを検出する素子として設けられている。ひずみゲージ11は、芯金4の根元側部分に配置されている。「芯金4の根元側部分」とは、芯金4全長の根元部4b側10%以内の部分、好ましくは、芯金4全長の根元部4b側5%以内の部分のことである。根元部4bは、芯金4と駆動部6との境界である。本実施形態では、ひずみゲージ11は、芯金4の根元部4bに設けられている。ひずみゲージ11は、円周方向Cに離隔して複数配置されている。本実施形態では、ひずみゲージ11は、円周方向Cに90°ピッチの等ピッチに4つ配置されている。なお、ひずみゲージ11は、少なくとも2つ設けられていればよい。また、ひずみゲージ11は、円周方向Cに180°のピッチで一対配置されたものを少なくとも有していることが好ましい。各ひずみゲージ11は、芯金4に取り付けられている箇所における、芯金4の軸方向のひずみを検出する。各ひずみゲージ11は、芯金4の軸方向のひずみ量に応じた電気信号を出力する。
【0034】
判定部12は、ひずみゲージ11から出力された電気信号を処理し、処理結果に応じた信号を出力する。判定部12は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、および、RAM(Random Access Memory)等を含むコンピュータであってもよいし、PLC(Programmable Logic Controller)であってもよい。判定部12は、各ひずみゲージ11からの出力信号を処理することで、各ひずみゲージ11が取り付けられている箇所における芯金4の圧縮応力σを算出する。判定部12は、各ひずみゲージ11で検出された圧縮応力σの検出値を時系列に沿って記憶している。そして、判定部12は、同一時刻における各ひずみゲージ11での圧縮応力σの検出値の差分の最大値、即ち、σmax-σminを偏差Δσとして用いる。
【0035】
また、判定部12は、駆動部6および報知部13のそれぞれと電気的に接続されている。判定部12は、駆動部6の動作を停止する停止信号を駆動部6へ出力することが可能に構成されている。報知部13は、例えば、複数色のランプを含んでいる。判定部12は、例えば、駆動部6を停止することに併せて赤色のランプを報知部13で点灯させることが可能である。また、判定部12は、後述する寸法精度異常報知のときに、報知部13に黄色のランプを点灯させることが可能である。なお、報知部13は、ランプを含む構成に限らず、液晶モニター等の表示装置であってもよい。
【0036】
駆動部6からの荷重を芯金4およびプラグ5に伝えてプラグ5をビレット51へ押し当て、プラグ5をビレット51に貫通させる間、すなわち、押広げ穿孔工程が行われている間、判定部12は、各ひずみゲージ11a~11dで検出された圧縮応力σを用いて、円周方向Cにおける芯金4の圧縮応力σの偏差Δσを算出する。
【0037】
ここで、押広げ穿孔工程の開始から完了までの時間における、各ひずみゲージ11が設置されている箇所(以下、測定箇所という)の圧縮応力σの一例が、
図4に示されている。
図4は、下孔51aが形成されたビレット51と、このビレット51に押広げ穿孔工程が施される場合における、時間tと各ひずみゲージ11(11a~11d)の圧縮応力σとの関係を示す概念的なグラフである。
図4では、後述する異常判定がされないときの、圧縮応力σの偏差Δσが低い状態を示している。なお、ビレット51に予め下孔51aが形成されていない場合も、予め下孔51aが形成されている場合と同様の傾向を示すので、下孔51aの有無にかかわらず本明細書での説明は成立する。
【0038】
図4を参照しながら説明すると、ビレット51には、円周方向Cにおいて温度分布に僅かな差が生じている。そこで、ビレット51のうち高温側の部分である円周方向Cの0°と90°の位置にそれぞれひずみゲージ11a,11bを取り付けるとともに、低温側の部分である円周方向Cの180°と270°の位置にそれぞれひずみゲージ11c,11dを取り付けた例を示している。すなわち、0°の位置と180°の位置に対向配置された一対のひずみゲージ11a,11cと、90°の位置と270°の位置に対向配置された一対のひずみゲージ11b,11dと、が設けられている。
【0039】
図4に示す例では、押広げ穿孔工程の開始から約0.5秒経過後に、プラグ5がビレット51と接触を開始する。そして、約0.75秒~1.5秒の間、プラグ5がビレット51の下孔51aを押し広げていることが分かる。偏差Δσの検出方法としては、以下の構成を例示できる。
【0040】
具体的には、判定部12は、押広げ穿孔工程の開始から完了までの間、各ひずみゲージ11a~11dが設置されている測定箇所における芯金4の圧縮応力σを所定のサンプリング周期で検出する。そして、各サンプリング時間における、各ひずみゲージの圧縮応力の最大値と最小値との差を各サンプリング時間における偏差Δσとして算出する。
【0041】
<押広げ穿孔工程での動作の一例>
次に、押広げ穿孔工程におけるビレット51から中空ビレット52への成形工程の動作一例について説明する。
図3を参照して、押広げ穿孔工程においては、芯金4に取り付けられたプラグ5が、予め下孔51aが形成されているか、または、下孔51aが形成されていないビレット51を貫通する。これにより貫通孔52aを有する中空ビレット52が完成する。この押広げ穿孔工程では、各ひずみゲージ11a~11dからの信号が、判定部12へ出力される。そして、判定部12は、各ひずみゲージ11a~11dで検出された信号を処理することで各ひずみゲージ11a~11d(測定箇所)における圧縮応力σを算出する。この圧縮応力σの最大値と最小値との偏差Δσが、所定の第1しきい値Δσ1未満である場合、すなわち、
図4に示す偏差Δσの場合、判定部12は、中空ビレット52の成形に対する警告を行わない。このとき、中空ビレット52は、プレス穿孔機1から取り出された後、図示しない誘導加熱コイルによって誘導加熱された後、
図5に示す横プレス穿孔機21によって押出成形されることで、継目無管53となる。
【0042】
図5は、押出成形工程を示す模式図である。
図5に示すように、横プレス穿孔機21は、中空ビレット52をコンテナ22内に収容し、その中空ビレット52の貫通孔52aにマンドレル23を挿入した状態でダミーブロック24を介してステム25により中空ビレット52を押出して中空部材としての継目無管53を得る。このとき、コンテナ22にはダイスタンド26が設置され、ダイスタンド26に支持されたダイ27の内部にはマンドレル23の先端部が挿入されている。ダイ27とマンドレル23との間に環状隙間が形成されており、その隙間からステム25を押す方向に中空ビレット52が管状に押し出されることで、中空ビレット52が継目無管53となる。
【0043】
一方で、
図3に示す押広げ穿孔工程の最中に、偏差Δσが許容値を超える場合がある。押広げ穿孔工程の開始から完了までの時間における、偏差Δσの一例が、
図6(A)および
図6(B)に示されている。
図6(A)は、偏差Δσが所定の第2しきい値Δσ2より大きく且つ所定の第1しきい値Δσ1以下である場合における、時間tと各ひずみゲージ11a~11dのうち最大の圧縮応力σmaxと最小の圧縮応力σminとの関係を示す概念的なグラフである。
図6(B)は、偏差Δσが所定の第1しきい値Δσ1を超えている場合における、時間tと各ひずみゲージ11a~11dのうち最大の圧縮応力σmaxと最小の圧縮応力σminとの関係を示す概念的なグラフである。
【0044】
図3および
図6(A)を参照して、押広げ穿孔工程において、ビレット51の円周方向Cの各部に比較的小さな温度差がある(小さな偏熱がある)場合や、芯金4およびプラグ5の中心軸線がビレット51の中心軸線に対して僅かに傾斜している場合がある。この場合、芯金4は、押広げ穿孔工程の最中に、ビレット51を穿孔しているプラグ5から円周方向Cに不均一な荷重を受けて僅かに傾く。これにより、各ひずみゲージ11a~11dのうち圧縮応力σが最大σmaxと最小σminとの差としての偏差Δσが、所定の第2しきい値Δσ2より大きく且つ所定の第1しきい値Δσ1以下(Δσ2<Δσ≦Δσ1)となる。なお、第2しきい値Δσ2は、継目無管53の寸法精度(品質)が悪く、当該継目無管53が不良品となる程度に大きな偏差Δσとなるときの値である。第2しきい値Δσ2の具体的な値は、継目無管53の材質および寸法等に応じて適宜設定される。このように、偏差Δσが所定の第2しきい値Δσ2を超えた場合には、判定部12は、異常判定を行う。
【0045】
上述したように、偏差ΔσがΔσ2<Δσ≦Δσ1であるとき、判定部12は、ビレット51を中空ビレット52に成形する動作の最中、または、この動作の完了後に、中空ビレット52の寸法精度異常を報知する。この報知は、例えば、判定部12が報知部13の黄色のランプを点灯させることで、行われる。
【0046】
この場合、寸法精度異常を報知された中空ビレット52は、所定の温度まで自然冷却もしくは水冷させられる。そして、冷却された中空ビレット52は、
図7(A)に示すように、ノギスまたはマイクロメーター等の計測器31で、円周方向Cの複数箇所における肉厚を測定される。そして、この測定の結果、肉厚の偏差が所定の規定範囲内であるときには、前述した誘導加熱によって中空ビレット52が再加熱され、その後中空ビレット52に横プレス穿孔機21にて押出成形を施すことで、継目無管53が成形される。なお、上記の規定範囲は、継目無管53の材質、肉厚、外径等に応じて適宜設定される。一方、中空ビレット52についての上述の寸法測定の結果、肉厚の偏差が規定範囲外であるとき、
図7(B)に示すように、中空ビレット52の例えば内周面に切削工具32を用いて切削加工を施すことで、中空ビレット52の肉厚の偏差を許容範囲内に収めるようにする。切削加工された中空ビレット52は、前述した誘導加熱によって再加熱され、その後押出成形を施されることで、継目無管53となる。このような構成であれば、偏差Δσがある程度大きな中空ビレット52であっても、継目無管53の不良の原因とならない素材として中空ビレット52を用いることができる。
【0047】
一方で、
図3および
図6(B)を参照して、押広げ穿孔工程において、ビレット51の円周方向Cの各部に比較的大きな温度差がある(大きな偏熱がある)場合や、芯金4およびプラグ5の中心軸線がビレット51の中心軸線に対して比較的大きく傾斜している場合がある。この場合、芯金4は、押広げ穿孔工程の最中に、ビレット51を穿孔しているプラグ5から円周方向Cに不均一な荷重を受けて大きく傾く。これにより、偏差Δσが、所定の第1しきい値Δσ1を超える。なお、第1しきい値Δσ1は、芯金4が折損する(折れ曲がりを生じる)レベルの値である。第1しきい値Δσ1の具体的な値は、継目無管53の材質および寸法等に応じて適宜設定される。
【0048】
偏差ΔσがΔσ1より大きいとき、判定部12は、プラグ5による穿孔動作を停止させる。具体的には、判定部12が駆動部6に停止信号を出力することで、芯金4およびプラグ5の動作を即時停止する。このとき、判定部12は、報知部13の赤色のランプを点灯させる、なお、判定部12は、偏差ΔσがΔσ1<Δσで且つロードセル7で検出された荷重が所定のしきい値を超えたときに、プラグ5による穿孔動作を停止させてもよい。
【0049】
なお、押広げ穿孔工程において偏差Δσが第2しきい値Δσ2を超えることが、すなわち、判定部12による異常判定が、連続して所定本(例えば、数十本)のビレット51に対してなされた場合には、その旨の異常が、判定部12によって報知される。すなわち、判定部12は、ビレット51に対するプラグ5の押し込み動作時のそれぞれにおいて偏差Δσが第2しきい値Δσ2を超えることが、複数のビレット51に対して連続して起こったとき、連続して異常が生じていることを報知する。この場合、判定部12は、例えば報知部13の黄色のランプを点滅させることで、異常を報知する。この異常が報知された場合、作業員が、該当するビレット51をプレス穿孔機1から取り出し、このビレット51を調査するともに、プレス穿孔機1をメンテナンスする。これにより、継目無管53の歩留まり悪化ならびに寸法不良を抑制できるとともに、芯金4の折損を抑制できる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によると、ビレット51に、芯金4の先端に取り付けられたプラグ5を押し込んでビレット51を中空ビレットに成形する際に、芯金4の軸方向における圧縮応力σの円周位置における偏差Δσを検出する。芯金4の圧縮応力σの偏差Δσは、継目無管53の素材である中空ビレット52の偏肉率と相関することから、偏差Δσを監視することにより、中空ビレット52の偏肉率を監視できる。これにより、偏差Δσが第2しきい値Δσ2を超えた場合等、中空ビレット52の偏肉が大きく、継目無管53が不良品となるおそれが高い場合をより正確に検出できる。その結果、寸法精度の低い中空ビレット52が継目無管53に成形されることを抑制できる。よって、より寸法精度の高い継目無管53を製造することができる。
【0051】
また、本実施形態によると、ひずみゲージ11は、芯金4の根元側部分において円周方向Cに離隔して複数配置されている。この構成によると、円周方向Cにおける圧縮応力σの偏差Δσをより正確に検出することができる。特に、円周方向Cに180°のピッチでひずみゲージ11を一対配置することで、円周方向Cにおける圧縮応力の偏差Δσをより正確に検出できる。さらに、円周方向Cにおけるビレット51の温度が最も高い箇所および最も低い箇所の少なくとも一方にひずみゲージ11を設置することで、円周方向Cにおける圧縮応力σの偏差Δσをより正確に検出できる。
【0052】
また、本実施形態によると、判定部12は、圧縮応力σの検出値を時系列に沿って記憶し、同一時刻における各ひずみゲージ11での検出値の差分の最大値を偏差Δσとして用いる。この構成によると、判定部12は、圧縮応力σの偏差Δσの度合いを、リアルタイムで判定できるとともに、押広げ穿孔工程の後でも判定できる。
【0053】
また、本実施形態によると、判定部12は、偏差Δσが第2しきい値Δσ2を超えたときに異常判定を行う。より具体的には、判定部12は、複数のしきい値Δσ1,Δσ2に対する偏差Δσの高低に応じた異常判定を行う。この構成によると、偏差Δσが第2しきい値Δσ2を超えて且つ第1しきい値以下であるときに、継目無管53の不良品の原因となる偏肉が中空ビレット52に生じていることを検出できる。また、偏差Δσが第1しきい値Δσ1を超えているときに、芯金4が折損するような芯金4の曲げ変形が生じていることを検出できる。
【0054】
以上、本発明の一例について説明したけれども、この通りでなくてもよい。本発明は、特許請求の範囲に記載の範囲内において種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、プレス穿孔機、継目無管の製造方法、および、継目無管の偏肉検出方法に利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 プレス穿孔機
4 芯金
4a 先端部
5 プラグ
10 偏差検出部
11 ひずみゲージ(素子)
12 判定部
51 ビレット(金属素材)
52 中空ビレット
53 継目無管(中空部材)
C 芯金の円周方向
σ 圧縮応力
Δσ 偏差
Δσ1 第1しきい値(しきい値)
Δσ2 第2しきい値(しきい値)