(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】電池セルケース
(51)【国際特許分類】
H01M 50/129 20210101AFI20231012BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20231012BHJP
H01M 50/121 20210101ALI20231012BHJP
H01M 50/15 20210101ALI20231012BHJP
H01M 50/167 20210101ALI20231012BHJP
H01M 50/169 20210101ALI20231012BHJP
H01M 50/176 20210101ALI20231012BHJP
H01M 50/184 20210101ALI20231012BHJP
H01M 50/191 20210101ALI20231012BHJP
H01M 50/193 20210101ALI20231012BHJP
H01M 50/197 20210101ALI20231012BHJP
H01M 50/342 20210101ALI20231012BHJP
H01M 50/636 20210101ALI20231012BHJP
【FI】
H01M50/129
H01M50/119
H01M50/121
H01M50/15
H01M50/167
H01M50/169
H01M50/176
H01M50/184 A
H01M50/191
H01M50/193
H01M50/197
H01M50/342 101
H01M50/636
(21)【出願番号】P 2019182794
(22)【出願日】2019-10-03
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 武寛
(72)【発明者】
【氏名】小林 亜暢
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-246068(JP,A)
【文献】特開2017-191703(JP,A)
【文献】特開2001-345081(JP,A)
【文献】特開2001-243980(JP,A)
【文献】特開2001-243953(JP,A)
【文献】特開2012-174451(JP,A)
【文献】国際公開第2013/133039(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/116 - 129
H01M 50/147 - 198
H01M 50/342
H01M 50/627 - 664
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器本体と容器蓋とを巻き締めまたは溶接により接合した電池セルケースであって、
前記容器本体および前記容器蓋は、それぞれ、樹脂をラミネートした鋼板からなり、
前記容器本体の内面および前記容器蓋の内外面の樹脂は、ポリオレフィン系樹脂を主成分としたフィルムからなり、
前記容器蓋は、電解液の注液や予備充放電により発生したガス放出のための開口部を有し、
開口部シールは、樹脂をラミネートした金属箔からなり、
前記開口部シールの前記容器蓋と接する面の樹脂は、ポリオレフィン系樹脂を主成分としたフィルムからなり、
前記開口部シールのフィルムと前記容器蓋のフィルムとの樹脂融着層を介して、前記開口部シールが前記容器蓋に固定され、前記開口部が密閉されること
、および
前記開口部の面積が0.19mm
2
以上、25mm
2
以下であり、前記開口部の端部から前記樹脂融着層の端部までの最短距離が5mm以上であることを特徴とする、電池セルケース。
【請求項2】
前記容器本体および前記容器蓋の少なくともいずれか一方または両方の鋼板が、Cr、Si、Zrの少なくとも1つを含む処理を施された表面処理鋼板であることを特徴とする、請求項1に記載の電池セルケース。
【請求項3】
前記開口部シールの樹脂を除いた金属箔の厚みが10μm以上、50μm以下であることを特徴とする、請求項1
または請求項2に記載の電池セルケース。
【請求項4】
前記樹脂融着層の厚さが5μm以上、60μm以下であることを特徴とする、請求項1~
3のいずれか1項に記載の電池セルケース。
【請求項5】
前記容器蓋が、前記開口部のほかに、正極端子用および負極端子用の端子穴を有することを特徴とする、請求項1~
4のいずれか1項に記載の電池セルケース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器本体と容器蓋から構成される電池セルケースに関するものであり、特に、容器本体と容器蓋がそれぞれ樹脂をラミネートした鋼板から構成され、且つ、電解液の注液や予備充放電により発生したガス放出のための開口部が、樹脂をラミネートした金属箔から構成される開口部シールによって封止される、電池セルケースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン電池のような非水電解液を電解液とする電池の内、大型のものには、角型の容器が用いられることが多い。一般に、角型の容器は蓋と容器から構成され、その材質は主にステンレスかアルミであり、蓋と容器はレーザー溶接で組み付けられる。しかし、素材が高価であること、およびレーザー溶接は時間がかかるため生産性が低いことから、より安価な素材への置き換え、より生産性が高い蓋の組み付け方法の適用が期待されている。
【0003】
これに対して、樹脂をラミネートしたアルミ箔を用いて、アルミ使用量を減らして容器材料の安価化すること、および樹脂の熱融着により短時間で密閉化することを達成できているものもある。しかしながら、そのような樹脂をラミネートしたアルミ箔から構成された容器は、剛性が低い。そのため、充放電等で電池が膨張した際に、密閉箇所が剥離を起こすおそれがあり、密閉性に不安があること、外部からの突き刺し等に弱いことなどから、用途が限定される。
【0004】
一方で、クロムめっき鋼板にポリエチレンまたはポリプロピレンを主体としたフィルムをラミネートしたラミネート鋼板は、安価な容器材料として、食品や薬品などの容器に広く用いられている。そのようなラミネート鋼板による容器は、内容物に合わせたフィルムを選択することで、様々な内容物の劣化を抑えて長期間保存することができ、また、容器蓋を巻締めにより短時間で容器本体に組み付けることができ、更に高い強度も有することができる。さらに、より高い密閉性を必要とする場合は、溶接によって容器蓋を容器本体へ組み付けることも可能である。しかし、これまで電池用容器の材料としては、特殊な場合を除いて、広く用いられることはなかった。それは、開口部の封止性によると考えられる。
【0005】
大型電池では、電池を組み上げたのちに電解液を開口部から注液し、電解液を電池容器内部に浸透させた後に予備充放電を行う。その際に発生したガスを容器外に放出させた後、開口部を封止することが多い。封止は溶接で行うことが多いが、ラミネート鋼板は樹脂をラミネートしており、ラミネート鋼板の穴を溶接で塞ぐのは困難である。そのため、ラミネート鋼板は、これまで電池用容器の材料としては、広く用いられることはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-258501号公報
【文献】特開2012-018866号公報
【文献】特開2012-094374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、2つのラミネート鋼板を貼り合わせて形成される電池セルケースの製造方法を開示しており、当該方法は、2つのラミネート鋼板を準備して、融着面同士を重ね合わせる工程と、融着部の周囲を曲げながら融着部に熱を加えて融着部同士をヒートシールする工程とを含む。この方法によれば、融着した融着部間を曲げによって剥がしてしまうことがないので、2つのラミネート鋼板同士の融着性を向上することができる、と教示されている。ただし、特許文献1は、電解液を注液するための開口部については、記載も示唆もしていない。
【0008】
特許文献2は、ラミネート鋼板同士のヒートシール強度を向上することを目指した電池セルケースの製造方法及び電池セルケースを開示している。当該ケースは、絞り部を備える一対のラミネート鋼板のフランジ部を重ね合わせて形成したものであり、それぞれのフランジ部はリブがあり、それらのリブが係合して、ヒートシールされることにより、ヒートシール強度が向上することが、教示されている。ただし、特許文献2は、電解液を注液するための開口部については、記載も示唆もしていない。
【0009】
特許文献3は、ラミネート鋼板からなる電池の外装材(容器)、およびその外装材製造方法を開示している。当該外装材では、外装材内部からタブ(正電極及び負電極の引出端子)を引き出せるように、タブの断面形状に適合する段差加工部を外装材(ラミネート鋼板)に予め形成している。これにより、外装材とタブとの間に隙間が生じることを回避でき、より確実に電池ケースの密封性を確保できる、と教示している。ただし、特許文献3は、電解液を注液するための開口部については、記載も示唆もしていない。
【0010】
このように、ラミネート鋼板を用いた電池セルケースについて、様々な検討がなされている。しかしながら、実際的な電池製造工程では、電解液を注入し、予備充放電の際に発生したガスを排出するための、開口部が必須であるところ、その封止性については十分な検討がなされていなかった。
【0011】
そこで、本発明は、新規な構成により、ラミネート鋼板からなる容器蓋の開口部をラミネート金属箔からなる開口部シールにより密封することができる、電池セルケースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明により、以下の態様が提供される。
【0013】
[1]
容器本体と容器蓋とを巻き締めまたは溶接により接合した電池セルケースであって、
前記容器本体および前記容器蓋は、それぞれ、樹脂をラミネートした鋼板からなり、
前記容器本体の内面および前記容器蓋の内外面の樹脂は、ポリオレフィン系樹脂を主成分としたフィルムからなり、
前記容器蓋は、電解液の注液や予備充放電により発生したガス放出のための開口部を有し、
開口部シールは、樹脂をラミネートした金属箔からなり、
前記開口部シールの前記容器蓋と接する面の樹脂は、ポリオレフィン系樹脂を主成分としたフィルムからなり、
前記開口部シールのフィルムと前記容器蓋のフィルムとの樹脂融着層を介して、前記開口部シールが前記容器蓋に固定され、前記開口部が密閉されること、および
前記開口部の面積が0.19mm
2
以上、25mm
2
以下であり、前記開口部の端部から前記樹脂融着層の端部までの最短距離が5mm以上であることを特徴とする、電池セルケース。
[2]
前記容器本体および前記容器蓋の少なくともいずれか一方または両方の鋼板が、Cr、Si、Zrの少なくとも1つを含む処理を施された表面処理鋼板であることを特徴とする、[1]に記載の電池セルケース。
[3]
前記開口部シールの樹脂を除いた金属箔の厚みが10μm以上、50μm以下であることを特徴とする、[1]または[2]に記載の電池セルケース。
[4]
前記樹脂融着層の厚さか5μm以上、60μm以下であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1項に記載の電池セルケース。
[5]
前記容器蓋が、前記開口部のほかに、正極端子用および負極端子用の端子穴を有することを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1項に記載の電池セルケース。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ラミネート鋼板からなる容器蓋の開口部をラミネート金属箔からなる開口部シールにより密封することができる、電池セルケースが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一態様である、電池セルケースの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に、本発明の一態様である、電池セルケースの模式図を示す。電池セルケースは、容器本体と容器蓋とを溶接または巻き締め(かしめ)により接合して構成される。材料の無駄を省くために、容器本体と容器蓋の端部どうしを接合することが好ましい。
【0017】
前記容器本体および前記容器蓋は、それぞれ、樹脂をラミネートした鋼板から構成される。
【0018】
樹脂をラミネートした鋼板の基材となる鋼板は、めっき性や、溶接性、樹脂ラミネートとの密着性に問題を与えない範囲で、適宜選択してもよい。電池の電解液や使用環境等に応じて、適当な耐食性が得られるように、鋼板の種類を選択してもよい。鋼板の厚みにより、耐食性や容器強度を確保することもできるので、コストパフォーマンスのよい鋼板を採用してもよい。鋼板として、ステンレス鋼のほか、純鉄、炭素鋼、低合金鋼、銅、ニッケル、ジルコニウム、バナジウム、アルミニウム、アルミ鉄合金、亜鉛銅合金等を採用してもよい。鋼板の厚みは、適宜選択可能であり、例えば、鋼板の厚みを、0.05mm以上、好ましくは0.1mm以上、1.2mm以下、好ましくは1.0mm以下としてもよい。薄すぎると、電池セルケースとしての十分な強度が得られないおそれがあり、厚すぎると加工性が低下し、またコストが上昇するためである。
【0019】
鋼板は、めっき鋼板であってもよい。めっきの種類は、樹脂との密着性に影響を与えない範囲で、電池の電解液や使用環境等に応じた適当な耐食性が得られるように、めっきの種類を選択してもよい。例えば、めっきは、Al、Cr、Ni、Sn、Zn、Zrの中から、1種または複数の種類の元素を含むものであってもよい。これらの元素をふくむめっきは、常法によって得ることが可能である。複数元素を含むめっきにおいて、めっき元素は合金層、層状、一部粒状一部層状のうち一種または複数の状態でめっきされていても構わない。樹脂との密着性、耐食性、入手容易性の観点等から、めっきとして、酸化クロム層と金属クロム層を有するティンフリースティールや、ニッケル層、あるいはニッケル層とニッケル-鉄合金層を有するようなニッケルめっきや、またはスズ層、あるいはスズ層とスズ-鉄合金層を有するようなスズめっきであってもよい。
めっき量は、電池の電解液や使用環境等に応じて、適当な耐食性が得られるように、適宜選択してもよく、5mg/m2から5g/m2の範囲であってもよい。5mg/m2以下だとめっきが全体に付着できず、樹脂との密着性や耐電解液性が低下しやすいことがある。5g/m2以上だと加工時にめっきにクラックが入り、ピール強度などが低下する原因となることがある。
なお、めっきはめっき浴の種類がいくつかありうるが、めっき浴によらず性能が発現する。まためっき方法も電気めっき以外に、溶射や蒸着、溶融めっきであっても構わない。
【0020】
樹脂ラミネートの鋼板への密着性、加工密着性、耐食性等の特性をさらに向上するために、鋼板に公知の化成処理がされていてもよい。この場合の化成処理については特に限定されず、公知の処理が適用でき、シリカ系化成処理、クロメート系化成処理等であってもよい。例えば、シランカップリング剤を用いてもよく、無機化成処理皮膜層の場合には、シリカ微粒子、バナジウム化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物、リン酸化合物、クロム酸化合物などから選ばれる1種または2種以上が例示される。
【0021】
シランカップリング剤としては、特に限定されず、ラミネートされる樹脂との密着性を考慮して、適当なシランカップリング剤を選択してもよく、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルエトキシシラン、N-〔2-(ビニルベンジルアミノ)エチル〕-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカブトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。前記シランカップリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
シリカ微粒子としては、液相シリカ、気相シリカの2種類が存在するが、これらのいずれかを用いてもかまわない。バナジウム化合物としては、バナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム等を例示することが出来るが、これらに限定されるものではない。
【0023】
チタン化合物としては、Tiアルコキシド、あるいは塩基性Ti炭酸塩、Tiふっ化物、Ti含有有機キレート、Ti含有カップリング剤(Tiアルコキシドにエポキシ基、ビニル基、アミノ基、メタクリロキシ基などの有機官能基が結合した化合物)等を例示することが出来るが、これらに限定されるものではない。
【0024】
ジルコニウム化合物としては、Zrアルコキシド、あるいは塩基性Zr炭酸塩、Zrふっ化物、Zr含有有機キレート等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
リン酸化合物としては、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
Cr処理の場合、電解クロメート、樹脂クロメート等各種クロメート処理や、その他のクロメートフリー化成処理を施しても良い。なお鋼板が既にクロム含有表面処理の施されているティンフリースティールである場合、各種クロメート処理を施した金属面と同等に樹脂の鋼板への密着性、加工密着性、耐電解液性が良好である。
【0027】
化成処理皮膜層の付着量は、最外層の下層の化成処理皮膜層、すなわち、おもて面に用いられる化成処理皮膜層については、良好な密着性、耐食性を確保するために、20mg/m2以上1000mg/m2以下としてもよい。付着量が過度に少ないと、鋼板表面に化成処理皮膜が十分に存在しておらず、樹脂との密着性が十分でない場合がある。一方、付着量が過度に多いと、化成処理皮膜自体が凝集破壊してしまう可能性がある上、コストが高くなる。
【0028】
化成処理の前に、下地処理としてスケール除去処理をしてもよい。スケール除去処理法として、酸洗、サンドブラスト処理、グリッドブラスト処理等が挙げられる。酸洗、サンドブラスト処理後、クロメート処理又はクロメートフリー処理、ストライクめっき処理、エポキシプライマー処理を併用した下地処理が、ラミネート樹脂と鋼板との化学的な密着力を強化する観点から好ましい。
【0029】
化成処理層には、前記に加えて各種防錆剤や、顔料、無機化合物、有機化合物を含有させることも可能である。
【0030】
化成処理層の形成方法は特に限定されず、塗布、焼付け等の公知の方法が限定なく適用できる。
【0031】
特に、容器本体および容器蓋の少なくともいずれか一方または両方の鋼板が、Cr、Si、Zrの少なくとも1つを含む処理を施された表面処理鋼板であってもよい。これらの処理を施された鋼板は、ポリオレフィン系の樹脂との密着性が優れており、好ましい。
【0032】
樹脂ラミネートされた鋼板は、基材となる鋼板を樹脂をラミネートしたものである。容器本体の内面および容器蓋の内外面の樹脂が、ポリオレフィン系樹脂を主成分とするフィルムから構成される。ポリオレフィン系樹脂は、融着(ヒートシール)用樹脂としても好適であり、また、耐電解液性を有するので電池セルケースの内面樹脂を兼ねることもできる。
【0033】
ポリオレフィン系樹脂とは、下記(式1)の繰り返し単位を有する樹脂である。当該樹脂を主成分とするとは、(式1)の繰り返し単位を有する樹脂が、50質量%以上を構成することである。
-CR1H-CR2R3- (式1)
(式1中、R1、R2は各々独立に炭素数1~12のアルキル基または水素を示し、R3は炭素数1~12のアルキル基、アリール基又は水素を示す)
ポリオレフィン系樹脂は、上述の構成単位の単独重合体でも、2種類以上の共重合体であってもよい。繰り返し単位は、5個以上化学的に結合していることが好ましい。5個未満では高分子効果(例えば、柔軟性、伸張性など)が発揮し難いことがある。
【0034】
上記繰り返し単位を例示すると、エチレン、プロペン(プロピレン)、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等の末端オレフィンを付加重合した時に現われる繰り返し単位、イソブテンを付加したときの繰り返し単位等の脂肪族オレフィンや、スチレンモノマーの他に、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o- エチルスチレン、m- エチルスチレン、o-エチルスチレン、o-t-ブチルスチレン、m-t- ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン等のアルキル化スチレン、モノクロロスチレン等のハロゲン化スチレン、末端メチルスチレン等のスチレン系モノマー付加重合体単位等の芳香族オレフィン等が挙げられる。
【0035】
このような繰り返し単位の単独重合体を例示すると、末端オレフィンの単独重合体である低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、架橋型ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリへキセン、ポリオクテニレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン等が挙げられる。また、上記繰り返し単位の共重合体を例示すると、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-ヘキサジエン共重合体、エチレン-プロピレン-5-エチリデン-2-ノルボーネン共重合体等の脂肪族ポリオレフィンや、スチレン系共重合体等の芳香族ポリオレフィン等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、上記の繰り返し単位を満足していればよい。また、ブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。また、これらの樹脂は単独もしくは2種類以上混合して使用してもよい。
【0036】
また、本発明に使用するポリオレフィンは、上記のオレフィン単位が主成分であればよく、上記の単位の置換体であるビニルモノマー、極性ビニルモノマー、ジエンモノマーがモノマー単位もしくは樹脂単位で共重合されていてもよい。共重合組成としては、上記オレフィン単位に対して50質量%以下、好ましくは30質量%以下である。50質量%超では腐食原因物質に対するバリア性等のオレフィン系樹脂としての特性が低下することがある。
【0037】
上記極性ビニルモノマーの例としては、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸誘導体、アクリロニトリル、無水マレイン酸、無水マレイン酸のイミド誘導体、塩化ビニル等が挙げられる。
【0038】
取扱性、腐食原因物質のバリア性から最も好ましいのは、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、架橋型ポリエチレン、ポリプロピレン又はこれらの2種類以上の混合物である。
【0039】
本発明で使用する樹脂として、ポリエチレンまたはポリプロピレンを主成分とするフィルムは、コスト、流通、融着の容易性等の観点で、さらに好適である。
【0040】
ここでポリオレフィン系樹脂を主成分とする樹脂とは、ポリオレフィン系樹脂を50質量%以上含有する樹脂をいい、ポリオレフィン系樹脂の純粋樹脂の他に、合計が50質量%未満の割合で、ポリオレフィン系樹脂以外の樹脂などを含有することができる。また、めっき鋼板との密着性を向上させるために酸変性ポリオレフィンとしたものでも良い。ブロック共重合体でも、ランダム共重合体でも、また、重合するポリオレフィン系樹脂以外の樹脂が1種類でも2種類以上でも、主成分となるポリオレフィン系樹脂が50質量%以上となっていれば良い。より好ましくはポリオレフィン系樹脂が70質量%以上、90質量%以上のものから、ポリオレフィン系樹脂そのものまでである。好ましくは、重合されるものは、ポリオレフィン系樹脂単独の時よりも分解温度を低下させるものの方が好ましい。
【0041】
容器蓋は、電解液の注液や予備充放電により発生したガス放出のための開口部を有する。電池、特に大型電池では、電池を組み上げたのちに電解液を開口部から注液し、電解液を電池容器内部に浸透させた後に予備充放電を行うことが、製造工程が簡易となり好ましい。開口部は小さすぎると、注液が困難となることがある。開口部が大きすぎると、開口部を封止するための融着樹脂層(ヒートシール)が広いものになり、周囲長が長くなる。すなわち、外部からの水蒸気を透過し得る樹脂断面積が大きくなり、融着樹脂層(ヒートシール)を介して外部から水蒸気等が電池内部へ侵入しやすくなり、電池の劣化を生じる可能性が高まる。そのため、開口部の面積が0.19mm2以上、25mm2以下であってもよい。開口部が円形である場合、開口部の直径が0.5mm以上、5mm以下であってもよい。
【0042】
なお、容器蓋は、上述の開口部(注液口)のほかに、正極端子用および負極端子用の端子穴を有してもよい。これらにより、電池内部の正極および負極との電気的接続を得て、電池外部で電池エネルギーの利用が可能となる。
【0043】
容器蓋の開口部は、開口部シールによって密閉(封止)される。
図2は、開口部が開口部シールによって封止される前後を模式的に表した図である。
【0044】
開口部シールは、樹脂をラミネートした金属箔から構成されている。基材となる金属箔は、樹脂の密着性に問題を与えない範囲で、適宜選択してもよく、例えば、アルミニウム箔、ステンレス箔等を採用してもよい。また、金属箔は、密着性や耐食性等の性能を向上させるために、前述した樹脂をラミネートした鋼板と同様の、めっき処理、化成処理をされたものであってもよい。
【0045】
金属箔(樹脂を含まない)の厚さは、10μm以上、50μm以下であってもよい。薄すぎるとピンホールや破れが生じるおそれ、十分な融着強度が得られず電池内部の内圧変化に耐えられないおそれがある。厚すぎると樹脂ラミネートを熱融着する際に伝熱性が低下し融着(ヒートシール)の不良が生じるおそれや、融着に必要な熱が大きくなり電池内部が加熱され悪影響を受けるおそれがある。
【0046】
樹脂をラミネートした金属箔は、基材となる金属箔に樹脂をラミネートしたものである。開口部シールの容器蓋と接する面の樹脂は、ポリオレフィン系樹脂を主成分としたフィルムから構成される。このポリオレフィン系樹脂を主成分としたフィルムとして、上述した、樹脂をラミネートした鋼板に用いた、ポリオレフィン系樹脂を主成分としたフィルムを用いることができる。
なお、開口部シールの容器蓋と接しない面は、樹脂をラミネートしなくてもよいが、金属箔を保護する観点から、樹脂ラミネートをすることが好ましい。この樹脂をラミネートして、上述のポリオレフィン系樹脂を主成分としたフィルムを用いてもよく、あるいはさらに耐候性等で優れるとされるポリエチレンテレフタレート(PET)を主成分としたフィルムを用いてもよい。
【0047】
図2に示されるように、開口部シールの樹脂は、容器蓋を構成する樹脂ラミネートされた鋼板の外面の樹脂と、融着(ヒートシール)して、樹脂融着層を形成する。この樹脂融着層を介して、開口部シールが容器蓋に固定され、開口部が密閉(封止)される。開口部シールの上面からアイロンプレス等で熱をかけながら押圧することで、開口部シールの樹脂、およびそれと接する容器蓋の樹脂が融点以上の温度となり、両者を融着し、樹脂融着層を形成することができる。融着による封止は、従来の溶接による封止に比べて、作業負荷が大幅に低く好ましい。
【0048】
開口部の端部から樹脂融着層の端部までの距離(
図2の「融着幅」を参照)は、開口部を封止できるものであればよく、特に限定されるものではない。ただし、融着幅が短すぎると、融着樹脂層(ヒートシール)を介して外部から水蒸気等が電池内部へ侵入しやすくなり、電池の劣化を生じる可能性が高まる。そのため、融着幅の下限を、例えば最短で3mm以上、より好ましくは5mm以上であってもよい。また、融着幅が長すぎると、融着樹脂層(ヒートシール)の周囲長が長くなり、すなわち、外部からの水蒸気を透過し得る樹脂断面積が大きくなり、融着樹脂層(ヒートシール)を介して外部から水蒸気等が電池内部へ侵入しやすくなり、電池の劣化を生じる可能性が高まる。そのため、融着幅の上限を15mm以下、好ましくは12mm以下としてもよい。
【0049】
樹脂融着層の厚さ(
図2の「融着厚さ」を参照)は、開口部を封止できるものであればよく、特に限定されるものではない。ただし、薄すぎると、十分な融着強度がえられず、剥離しやすくなるおそれがあり、例えば5μm以上、より好ましくは8μm以上としてもよい。また、厚すぎると、融着層を介した水蒸気の拡散パスが広くなり、電池内部の水蒸気量が増加し、電池を劣化させるおそれがあるので、例えば60μm以下、より好ましくは36μm以下であってもよい。
【0050】
本発明の一態様では、適当な長さの融着幅と、適当な厚さの融着厚さと、適当な長さの開口部直径を組み合わせて、密閉性を高めてもよい。一例として、融着幅/(融着厚さ×開口部直径)が0.04以上であってもよい。この密着性に関する指標は、概して大きいほど密閉性が高まると考えられ、好ましくは0.06以上、さらに好ましくは0.1以上としてもよい。この密着性に関する指標の上限は特に規定されず、融着幅、融着厚さ、開口部直径の範囲に応じて、6以下としてもよく、1以下、または0.5以下としてもよい。
【0051】
図1の模式図に例示されるように、電池セルケースは、容器本体と容器蓋とを溶接または巻き締め(かしめ)により接合して構成される。材料の無駄を省くために、容器本体と容器蓋の端部どうしを接合することが好ましい。容器本体および容器蓋は、それぞれ、樹脂ラミネートされた鋼板から構成されているので、樹脂どうしを融着(ヒートシール)して、容器の密閉性を高めることができる。樹脂をラミネートした鋼板どうしを溶接する際には、溶接不良を生じないように、樹脂を除去または蒸発させた上で、鋼板どうしを溶接してもよく、本発明者らが別途出願している特願2019-107770号の明細書に記載の手法を用いることができる。
【0052】
電池セルケースの形状、大きさは、用途等に応じて適宜選択することができる。電池セルケースが角型の形状、円筒形の形状等であってもよい。なお、角型は円筒型と比べ、放熱性に優れるため大型化しやすく経済性に優れ、積載性も良いとされており、好ましい。大型の電池セルケースとは、特に規格等で定められたものではないが、少なくとも一辺が120mm以上さらに148mm以上のものとしてもよい。
【実施例】
【0053】
本発明について、以下の実施例を用いて説明する。ただし、本発明は、この実施例に限定して解釈されるべきものではない。
【0054】
表1に示す条件で、容器本体および容器蓋を用意し、それらをくみ上げて電池セルケースを作製した。容器蓋は注液口として開口部を有しており、開口部(注液口)からの注液性を評価した。その後、開口部シールによって開口部(注液口)を封止し、完成した電池セルケースについて、封止部の剥離強度、密閉性についても評価を行なった。評価結果をあわせて表1に示す。
【0055】
(注液性)
容器蓋の開口部から、注射針を使って、電解液を電池セルケース内へ注入した。評点は以下のとおりである。電解液として、1M-LiPF6 EC/DEC(1/1)を用いた。
◎:外径が0.8mmの注射針で注入ができたもの
○:外径が0.4mmの注射針で注入ができたもの
△:外径が0.4mmの注射針で注入ができなかったもの
外径0.8mm、外径0.4mmの注射針の場合、いずれも、注液は可能であり、特に外径0.8mmの場合、注液が短時間で完了できるので、◎とした。
【0056】
(剥離強度)
電解液(1M-LiPF6 EC/DEC)を電池セルケース内に注液した後、注液口(容器蓋の開口部)を開口部シールを融着により封止(密閉)した。雰囲気温度85℃、相対湿度85%の環境で、封止した電池セルケールを蓋を下に向け保持した。保持開始から100日経過後に、封止部、すなわち開口部シールの樹脂ラミネートと、容器蓋の樹脂ラミネートとの樹脂融着層において、融着の剥離の有無を確認し、剥離が確認された場合、その剥離の生じた範囲(幅)を測定した。評点は以下のとおりである。
◎:最大の剥離幅が0.1mm以下
○:最大の剥離幅が0.1mm超、0.2mm以下
△:最大の剥離幅が0.2mm超、0.5mm以下
▼:最大の剥離幅が0.5mm超
【0057】
(密閉性)
剥離強度の評価の後、開口部シールを注液口(開口部)から取り外して、電池セルケース内部の電解液を回収し、化学分析により、電解液中のふっ酸濃度を測定した。フッ酸は、電池セルケース内に侵入した水分によって生成し、侵入した水分量が多いほどふっ酸濃度が高まると考えられ、以下の評点とした。
◎:ふっ酸濃度が10ppm以下
○:ふっ酸濃度が10ppm超、15ppm以下
△:ふっ酸濃度が15ppm超、20ppm以下
▼:ふっ酸濃度が20ppm超
【0058】
No.14は、開口部シールの樹脂ラミネート(封止材)が100μmと厚すぎて、開口部シールによって開口部を封止することができなかった。その他の例では、ラミネート鋼板からなる容器蓋の開口部を、ラミネート金属箔からなる開口部シールにより密封することができ、電池セルケースが得られた。
【0059】
【0060】
【0061】